本発明は、電磁式アクチュエータの作動によってばね上部とばね下部とを接近離間させる力を制御可能に発生させる装置を設けた車両用サスペンションシステムに関する。
近年では、下記特許文献に記載されているような車両用サスペンションシステム、具体的に言えば、電磁式アクチュエータの作動に依拠してばね上部とばね下部とを接近離間させる力(以下、「接近離間力」という場合がある)を制御可能に発生させる接近離間力発生装置を、サスペンションスプリングおよびショックアブソーバ(以下、「アブソーバ」という場合がある)と並列的に設けたシステムが検討され始めている。このシステムでは、上記接近離間力を車体のロールを抑制するロール抑制力として作用させることで、車体のロールを抑制可能とされている。
特開2002−218778号公報
特開2002−211224号公報
特開2006−82751号公報
上記特許文献に記載の車両用サスペンションシステムの備える接近離間力発生装置は、例えば、車体のロールを抑制するように制御されており、車体姿勢の安定についての一役を担っている。ところが、このような接近離間力発生装置を備えたシステムは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのシステムの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用サスペンションシステムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、サスペンションスプリングと、液圧式のアブソーバと、モータ力に依拠して自身の動作位置に応じて接近離間力を制御可能に変化させるアクチュエータを備える接近離間力発生装置とが、互いに並列的に配設されたシステムであって、接近離間力を車体の振動を抑制するための減衰力として作用させる振動減衰制御において、ばね上部とばね下部との相対速度とばね上絶対速度との一方に応じて決定される目標動作位置を、その目標動作位置の変化速度が設定変化速度を超えないように変更可能に構成される。詳しく言えば、目標動作位置は、ばね上部とばね下部との相対速度とばね上絶対速度との一方の変化速度であるその一方の加速度に基づいて決定され、その加速度が設定加速度を超えた場合に、目標動作位置を、その設定加速度に基づいて決定される動作位置に変更するように構成される。
自身の動作位置に応じて接近離間力を変化させるアクチュエータを備える接近離間力発生装置においては、アクチュエータの動作位置が目標動作位置に変化するようにアクチュエータの作動を制御することで、接近離間力が制御されている。この接近離間力を車体の振動を抑制するための減衰力として作用させる際に、アクチュエータの目標動作位置の変化速度がアクチュエータの制御可能な動作速度を越えてしまうと、アクチュエータの動作位置が目標動作位置に対して追従することができずに、振動減衰制御を適切に実行できない虞がある。具体的にいえば、例えば、接近離間力が発生させられる方向と振動減衰制御時において必要とされる減衰力が発生させられるべき方向とが反対の方向となる虞がある。つまり、振動を減衰する方向とは反対の方向に、接近離間力が発生させられる虞がある。本発明の車両用サスペンションシステムによれば、目標動作位置の変化速度を制限することが可能となり、例えば、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの動作を追従させることが可能となり、アクチュエータの動作位置が目標動作位置に対して追従することができずに生じる弊害を解消することが可能となる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項と(2)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(3)項が請求項2に、(5)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、(8)項が請求項6に、それぞれ相当する。
(1)ばね上部とばね下部との間に配設されたサスペンションスプリングと、
そのサスペンションスプリングと並列的に配設された液圧式のショックアブソーバと、
前記サスペンションスプリングと並列的に配設されてばね上部とばね下部とを接近・離間させる方向の力である接近離間力を発生させる装置であって、電磁モータを有し、その電磁モータが発生させる力であるモータ力に依拠して、自身の動作位置に応じて接近離間力を変化させるアクチュエータを備える接近離間力発生装置と、
前記アクチュエータの動作位置が目標となる目標動作位置になるように前記電磁モータの作動を制御することで、前記接近離間力発生装置が発生させる接近離間力を制御し、その接近離間力を車体の振動を抑制するための減衰力として作用させる振動減衰制御を実行可能な制御装置と
を備える車両用サスペンションシステムであって、
前記制御装置が、
ばね上部とばね下部との相対速度とばね上部の速度との一方に応じて目標動作位置を決定する目標動作位置決定部と、
目標動作位置の変化速度が、設定変化速度を超えないように前記目標動作位置決定部によって決定された目標動作位置を変更する目標動作位置変更部とを備える車両用サスペンションシステム。
アクチュエータの動作位置に応じて接近離間力を変化させる接近離間力発生装置においては、アクチュエータの動作位置が目標動作位置に変化するようにアクチュエータの作動を制御することで、接近離間力が制御されている。その接近離間力を車体の振動を充分に減衰させるために必要な減衰力(以下、「必要減衰力」という場合がある)として作用させる際には、アクチュエータの動作位置を、ばね上振動、若しくは、ばね上部とばね下部との相対振動を対象とした場合の減衰対象の上下方向の速度(以下、「減衰対象速度」という場合がある)に応じて決定される目標動作位置に変化させる必要がある。その減衰対象速度の変化速度は比較的高いため、ロール抑制制御時における目標動作位置の変化速度に比較して、振動減衰制御時における目標動作位置の変化速度は比較的高くなり、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動が追従できない虞がある。また、必要減衰力が発生させられるべき方向(以下、「必要減衰力方向」という場合がある)は周期的に反転する。このため、アクチュエータの動作位置が目標動作位置に変化しきれずに必要減衰力方向が反転すると、接近離間力が発生させられる方向(以下、「接近離間力方向」という場合がある)と必要減衰力方向とが反対の方向となる虞がある。つまり、振動を減衰する方向とは反対の方向に、接近離間力が発生させられる虞がある。
以上のことに鑑み、本項の態様においては、目標動作位置の変化速度が高くならないように、減衰対象速度に応じて決定される目標動作位置を変更している。したがって、本項の態様によれば、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動を追従させることが可能となり、例えば、接近離間力が振動を減衰する方向とは反対の方向に発生させられるような事態を回避することが可能となる。
本項に記載の「目標動作位置の変化速度」は、例えば、上記減衰対象速度の変化に対して目標動作位置が変化する速さであり、言い換えれば、振動減衰制御時における単位時間あたりに目標動作位置を変化させる距離である。また、本項に記載の「設定変化速度」は、どのような値に設定されてもよいが、高すぎる速度に設定されると、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動が追従し得ない虞があり、一方、低すぎる速度に設定されると、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動が追従しても、接近離間力が必要減衰力よりかなり小さくなる虞がある。設定変化速度が、アクチュエータを制御可能に作動させ得る速度に基づいて設定されれば、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動が追従し、かつ、必要減衰力に対して不足する力をできるだけ小さくすることができる。このことから、本項に記載の「設定変化速度」は、アクチュエータを制御可能に作動させ得る速度に基づいて設定されることが望ましい。
本項に記載の「振動減衰制御」は、例えば、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づく減衰制御、つまり、ばね上絶対速度に基づく振動減衰制御であってもよく、また、ばね上部とばね下部との相対速度に基づく振動減衰制御であってもよい。また、本項にいう「ばね上部」は、例えば、サスペンションスプリングによって支持される車体の部分を広く意味し、「ばね下部」は、例えば、サスペンションアーム等、車輪軸とともに上下動する車両の構成要素を広く意味する。「サスペンションスプリング」は、それの具体的な構成が特に限定されるものではなく、例えば、コイルスプリング,エアスプリング等種々の構造のものを広く採用することが可能である。また、接近離間力発生装置が動力源として備える「電磁モータ」は、回転モータであってもよく、リニアモータであってもよい。
(2)前記目標動作位置決定部が、前記ばね上部とばね下部との相対速度とばね上部の速度との一方の変化速度であるその一方の加速度に基づいて目標動作位置を決定するものとされ、
前記目標動作位置変更部が、前記加速度が設定加速度を超えた場合に、前記目標動作位置決定部によって決定された目標動作位置を、その設定加速度に基づいて決定される目標動作位置に変更するものである(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
アクチュエータの目標動作位置は、上記減衰対象速度に応じて決定されることから、減衰対象速度に依存している。このため、目標動作位置の変化速度は、減衰対象速度の変化速度、つまり、減衰対象の上下方向の加速度(以下、「減衰対象加速度」という場合がある)に依存している。このため、振動減衰制御時において、通常は、アクチュエータの目標動作位置を減衰対象加速度に基づいて決定し、減衰対象加速度が設定加速度を超える場合には、その設定加速度に基づいて目標動作位置を決定すれば、アクチュエータの目標動作位置の変化速度を抑制することができるのである。したがって、本項の態様によれば、簡易な制御手法、具体的にいえば、減衰対象加速度が設定加速度を超える場合にはその設定加速度に基づいて目標動作位置を決定し、減衰対象加速度が設定加速度以下の場合には振動対象加速度に基づいて目標動作位置を決定するといった簡易な制御手法によって、例えば、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動を追従させることができるのである。
本項に記載の「設定加速度」は、減衰対象加速度が目標動作位置の変化速度に依存しているのと同様に、前項に記載の「設定変化速度」に依存している。したがって、本項の態様において、振動減衰制御時に目標動作位置の変化速度が設定変化速度を超えないようすることができるのである。
(3)前記アクチュエータの目標動作位置が中立位置に近づく過程における設定加速度が、前記アクチュエータの目標動作位置が前記中立位置から離れる過程における設定加速度より高く設定された(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の「中立位置」とは、接近離間力発生装置が接近離間力を発生させない状態におけるアクチュエータの動作位置を意味しており、具体的にいえば、例えば、車両が平坦路に静止、あるいは、平坦路を直進しているような状態におけるアクチュエータの動作位置である。つまり、アクチュエータの動作位置が中立位置から離れる過程において、接近離間力は増加し、アクチュエータの動作位置が中立位置に近づく過程において、接近離間力は減少するのである。また、アクチュエータの動作位置を目標動作位置に変化させる制御を、フィードバック制御の手法に従う制御、具体的にいえば、例えば、PI制御,PID制御等に従って実行するような場合には、後に詳しく述べるように、接近離間力を減少させる過程において、接近離間力を増加させる過程より、アクチュエータを動作させ難いのである。このことから、アクチュエータの目標動作位置が中立位置に近づく過程における上記設定変化速度を、アクチュエータの目標動作位置が中立位置から離れる過程における設定変化速度より高く設定することが望ましい。したがって、本項の態様によれば、例えば、必要減衰力方向に拘わらず、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動を追従させることが可能となる。
(4)前記ばね上部とばね下部との相対速度とばね上部の速度との一方が、ばね上部の速度であって、
前記振動減衰制御が、前記接近離間力をばね上振動に対する減衰力として作用させる制御である(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の振動減衰制御は、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた制御であり、接近離間力発生装置は、アクチュエータの作動の制御により、ばね上部とばね下部との相対速度に依存しない減衰力を発生させられることから、接近離間力発生装置によれば、容易に、スカイフックダンパ理論に基づく振動減衰制御を実行することができる。
(5)前記ショックアブソーバが、
ばね上部とばね下部との上下方向における接近・離間動作に対する抵抗力であって、その動作の速度に応じた大きさの力を発生させるものであり、その力を発生させるための自身の能力を示すとともにその力の大きさの基準となる減衰係数を変更する減衰係数変更機構を備え、
前記制御装置が、
前記減衰係数変更機構を制御することで前記ショックアブソーバの減衰係数をも制御するものであって、
前記ばね上部とばね下部との相対速度とばね上部の速度との一方に応じて必要とされる減衰力と前記接近離間力とが異なる場合に、それらの差である不足減衰力を補うように前記ショックアブソーバの減衰係数を制御する減衰力補助減衰係数制御部を備える(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
振動減衰制御時において、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動を追従させるべく、上述のように目標動作位置の変化速度を制限すると、接近離間力が必要減衰力に対して不足することがある。本項の態様においては、接近離間力が必要減衰力に対して不足する場合に、アブソーバが発生させる力(以下、「アブソーバ力」という場合がある)を、必要減衰力に対して不足する力である不足減衰力として作用させることが可能である。したがって、本項の態様によれば、目標動作位置の変化に対してアクチュエータの作動を追従させるべく、目標動作位置の変化速度を制限しても、例えば、必要減衰力を発生させることが可能となる。なお、本項に記載の「減衰係数変更機構」は、アブソーバの減衰係数を連続的に変更可能なものであってもよく、離散的に設定された複数の値の間で変更可能なものであってもよい。
(6)前記制御装置が、
前記不足減衰力を補うように前記ショックアブソーバの減衰係数の制御を行っていない場合に、前記ショックアブソーバの減衰係数を可及的に小さくする減衰係数減少制御部を備える(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
接近離間力が必要減衰力に対して不足するような場合には、前項に記載の態様のように、アブソーバ力を不足減衰力として作用させることは有益である。ところが、接近離間力発生装置が必要減衰力を発生させている場合には、ばね上部とばね下部との少なくとも一方の振動に対して実際に生じる力は、アブソーバ力によって、必要減衰力より大きくなったり小さくなったりする。また、接近離間力が必要減衰力に対して不足するような場合であっても、アブソーバ力が必要減衰力の妨げとなる場合がある。したがって、本項の態様によれば、例えば、アブソーバ力を不足減衰力として作用させる必要がない場合,アブソーバ力を不足減衰力として作用させることができない場合等に、振動減衰制御の妨げとならないようにアブソーバ力を小さくすることが可能となる。
(7)前記ばね上部とばね下部との相対速度とばね上部の速度との一方が、ばね上部の速度であって、
前記振動減衰制御が、前記接近離間力をばね上振動に対する減衰力として作用させる制御であり、
前記減衰力補助減衰係数制御部が、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間すること、若しくは、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近することを条件として、前記不足減衰力を補うように前記ショックアブソーバの減衰係数を制御するものである(5)項または(6)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(8)前記制御装置が、
前記不足減衰力を補うように前記ショックアブソーバの減衰係数の制御を行っていない場合に、前記ショックアブソーバの減衰係数を可及的に小さくする減衰係数減少制御部を備え、
その減衰係数減少制御部が、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近すること、若しくは、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間することを条件として、前記ショックアブソーバの減衰係数を可及的に小さくするものである(7)項に記載の車両用サスペンションシステム。
振動減衰制御がスカイフックダンパ理論に基づく制御である場合において、ばね上部の上下方向における動作方向によって必要減衰力方向が定まり、ばね上部とばね下部との上下方向における接近・離間動作の方向によってアブソーバがアブソーバ力を発生させる方向(以下、「アブソーバ力方向」という場合がある)が定まる。ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合、および、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合には、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが異なり、一方、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合、および、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合には、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じとなる。必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じであれば、アブソーバ力は必要減衰力の助けとなることから、接近離間力が必要減衰力に対して不足する場合に、アブソーバ力を不足減衰力として作用させることが望ましい。一方、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが異なれば、アブソーバ力は必要減衰力の助けとはならないことから、接近離間力が必要減衰力に対して不足していてもアブソーバ力を小さくすることが望ましい。
以上のことに鑑み、前者の項の態様においては、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じことを条件として、アブソーバの減衰係数を制御して、アブソーバ力を不足減衰力として作用させている。一方、後者の項の態様においては、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが異なることを条件として、アブソーバの減衰係数を小さくして、アブソーバ力が小さくなるようにされている。したがって、上記2つの項に記載の態様によれば、例えば、スカイフックダンパ理論に基づく振動減衰制御を適切に実行することが可能となる。
(9)前記制御装置が、前記接近離間力を、車体のロールを抑制するロール抑制力とピッチを抑制するピッチ抑制力との少なくとも一方として作用させる車体姿勢制御を実行可能とされた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、接近離間力発生装置の別の機能に関する限定を加えた態様である。別の見方をすれば、接近離間力発生装置の本来の機能についての限定を加えた態様と考えることもできる。接近離間力発生装置による接近離間力を、ロール抑制力,ピッチ抑制力等の車体姿勢制御力として利用すれば、その接近離間力をアクティブに制御することにより、アクティブな車体姿勢制御が可能となる。なお、車体姿勢制御と振動減衰制御とを同時に実行させる状況となった場合には、姿勢制御力としての接近離間力に加えて、減衰力としての接近離間力が、接近離間力発生装置によって発生させられることになる。
(10)前記接近離間力発生装置が、一端部がばね上部とばね下部との一方に連結される弾性体を備え、
前記アクチュエータが、その弾性体の他端部とばね上部とばね下部との他方との間に配設されてその他方と前記弾性体とを連結するとともに、モータ力に依拠して自身が発生させる力を前記弾性体に作用させることで、自身の動作位置に応じて前記弾性体の変形量を変化させるとともに、その力を前記弾性体を介して前記接近離間力としてばね上部とばね下部とに作用させるものである(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、接近離間力発生装置の構造を具体的に限定した態様である。本項に記載の「接近離間力発生装置」は、アクチュエータ力を弾性体に作用させるとともに、アクチュエータの動作位置に応じて弾性体の変形量を変化させる構造のものとされており、その弾性体は、変形量に応じた何らかの弾性力を発揮するものであればよく、例えば、コイルばね,トーションばね等、種々の構造の弾性体を採用することができる。
(11)前記弾性体が、ばね上部に回転可能に保持されたシャフト部と、そのシャフト部の一端部からそのシャフト部と交差して延びるとともに先端部がばね下部に連結されたアーム部とを有し、
前記アクチュエータが、車体に固定されるとともに、自身が発生させる力によって前記シャフト部をそれの軸線まわりに回転させるものである(10)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、接近離間力発生装置の構造をさらに具体的に限定した態様である。本項の態様における「弾性体」は、シャフト部とアーム部との少なくとも一方が、弾性体としての機能を有していればよい。例えば、シャフト部が捩られることでそれがばねとしての機能を有するようにしてもよく、アーム部が撓むことでそれがばねとしての機能を有するようにしてもよい。なお、上記弾性体は、シャフト部とアーム部とが別部材とされてそれらが結合されたものであってもよく、それらが一体化して成形されたものであってもよい。
(12)前記アクチュエータに外部から作用する力である外部入力に抗してそのアクチュエータを作動させるのに必要なモータ力に対するその外部入力の比率を、前記アクチュエータの正効率と、外部入力によっても前記アクチュエータが動作させられないために必要となるモータ力のその外部入力に対する比率を、前記アクチュエータの逆効率と、それら正効率と逆効率との積を、正逆効率積と、それぞれ定義した場合において、
前記アクチュエータが、1/2以下の正逆効率積を有する構造とされた(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項にいう「正逆効率積」は、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比と考えることができ、正逆効率積が小さいほど、外部入力に対して動かされ難いアクチュエータとなる。したがって、正逆効率積が比較的小さなアクチュエータを採用すれば、例えば、車体のロール,ピッチ等を抑制する際に、外部入力の作用下、車体と車輪との距離をある距離に維持させるような場合において、比較的小さな電力によって、その距離を維持することが可能なる。したがって、本項の態様のシステムによれば、省電力の観点において優れたシステムが実現され得る。
(13)前記アクチュエータが、前記電磁モータの動作を減速する減速機を有してその減速機によって減速された動作が自身の動作となる構造とされ、その減速機の減速比が1/100以下とされた(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、比較的減速比が大きい(電磁モータの動作量に対するアクチュエータの動作量が小さいことを意味する)アクチュエータを採用する態様である。減速比が大きい減速機を採用する場合、一般に、上述した正逆効率積の値は小さくなると考えることができる。その観点からすれば、本項の態様は、正逆効率積の比較的小さなアクチュエータを採用する態様の一種と考えることができる。減速機の減速比を大きくすれば、電磁モータの小型化が可能となる。
(14)前記ショックアブソーバが、ばね上部とばね下部との上下方向における接近・離間動作に対する抵抗力であって、その動作の速度に応じた大きさの力を発生させるものであり、
前記ショックアブソーバがその力を発生させるための自身の能力を示すとともにその力の大きさの基準となる減衰係数が、1000〜2000N・sec/mである(1)項ないし(13)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、アブソーバの減衰係数を具体的に限定した態様であり、本項の態様において、アブソーバの減衰係数を比較的低めに設定している。アブソーバの減衰係数とばね下部からばね上部への振動の伝達性とは関係があり、大まかに言えば、アブソーバの減衰係数が低いほど、高周波域の振動の伝達性は低くなる傾向にある。したがって、本項の態様によれば、例えば、比較的高周波域の振動のばね下部からばね上部への伝達を抑制することが可能となる。アブソーバと併設される接近離間力発生装置が、アクチュエータの作動を制御することによって接近離間力を変化させる構造とされていることから、アクチュエータの作動の追従性等の問題から、高周波域の振動に対処し難い傾向にあり、特に、前述の正逆効率積が小さいアクチュエータを採用する場合に、その傾向が強くなる。したがって、このような構造の接近離間力発生装置が設けられたシステムにおいて、高周波域の振動には本項に記載のアブソーバが対処することが可能であることから、本項の態様は好適な態様である。
本項に記載の「ショックアブソーバ」が、例えば、上記減衰係数変更機構を備え、減衰係数を変更可能なものである場合には、減衰係数がどのような値に変更されても、その値が1000〜2000N・sec/mの範囲内になればよい。また、本項に記載の「1000〜2000N・sec/m」は、アブソーバ力を、アブソーバのストローク動作に対して作用させる場合の値ではなく、車体と車輪との接近・離間動作に対して、車輪の上下方向に車体と車輪とに直接作用させたと仮定した場合の値である。
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
≪車両用サスペンションシステムの構成≫
図1に、実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本システム10は、前後左右4つの車輪12に対応して設けられた4つのサスペンション装置20と、それらサスペンション装置20の制御を担う制御装置とを含んで構成されている。転舵輪である前輪のサスペンション装置20と非転舵輪である後輪のサスペンション装置20とは、車輪を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪のサスペンション装置20を代表して説明する。
図2,3に示すように、サスペンション装置20は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置20は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム30,第2アッパアーム32,第1ロアアーム34,第2ロアアーム36,トーコントロールアーム38を備えている。5本のアーム30,32,34,36,38のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持するアクスルキャリア40に回動可能に連結されている。それら5本のアーム30,32,34,36,38により、アクスルキャリア40は、車体に対して略一定の軌跡を描くような上下動が可能とされている。
サスペンション装置20は、サスペンションスプリングとしてのコイルスプリング50と液圧式のショックアブソーバ(以下、「アブソーバ」と略す場合がある)52とを備えており、それらは、それぞれ、ばね上部の一構成部分であるボディ側に設けられたマウント部54と、ばね下部の一構成部分である第2ロアアーム36との間に、互いに並列的に配設されている。
アブソーバ52は、図4に示すように、第2ロアアーム36に連結されて作動液を収容する概して筒状のハウジング60と、そのハウジング60にそれの内部において液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン62と、そのピストン62に下端部が連結されて上端部がハウジング60の上方から延び出すピストンロッド64とを含んで構成されている。ピストンロッド64は、ハウジング60の上部に設けられた蓋部66を貫通しており、シール68を介してその蓋部66と摺接している。また、ハウジング60の内部は、ピストン62によって、それの上方に存在する上室70と、それの下方に存在する下室72とに区画されている。
さらに、アブソーバ52は、電磁モータ74を備えており、その電磁モータ74は、モータケース76に固定して収容されている。そのモータケース76は、それの外周部において、緩衝ゴムを介してマウント部54に連結されており、ピストンロッド64が、それの上端部において、モータケース76に固定的に連結されている。そのような構造によって、ピストンロッド64がマウント部54に対して固定されているのである。そのピストンロッド64は、中空状とされており、それの内部を貫通する貫通穴77を有している。その貫通穴77には、後に詳しく説明するように、調整ロッド78が、軸線方向に移動可能に挿入されており、調整ロッド78は、それの上端部において、電磁モータ74に連結されている。詳しく言えば、電磁モータ74の下方には、電磁モータ74の回転を軸線方向への移動に変換する動作変換機構79が設けられており、その動作変換機構79に調整ロッド78の上端部が連結されている。このような構造により、電磁モータ74が作動させられると、調整ロッド78が軸線方向に移動するようにされている。
ハウジング60は、図5に示すように、外筒80と内筒82とを含んで構成され、それらの間にバッファ室84が形成されている。ピストン62は、その内筒82内に液密かつ摺動可能に嵌め入れられている。そのピストン62には、軸線方向に貫通して上室70と下室72とを接続させる複数の接続通路86(図5には2つ図示されている)が設けられている。ピストン62の下面には、弾性材製の円形をなす弁板88が、その下面に接するようにして配設されており、その弁板88によって接続通路86の下室72側の開口が塞がれる構造となっている。また、ピストン62には、上記接続通路86とはピストン62の半径方向において異なる位置に複数の接続通路90(図5には2つ図示されている)が設けられている。ピストン62の上面には、弾性材製の円形をなす弁板92が、その上面に接するようにして配設されており、その弁板92によって接続通路90の上室70側の開口が塞がれる構造となっている。この接続通路90は、接続通路86より外周側であって弁板88から外れた位置に設けられており、常時、下室72に連通させられている。また、弁板92には開口94が設けられていることで、接続通路86の上室70側の開口は、塞がれておらず、接続通路86は、常時、上室70に連通させられている。さらに、下室72とバッファ室84とは連通させられており、下室72とバッファ室84との間には、ピストン62と同様の接続通路,弁板が設けられたベースバルブ体96が設けられている。
ピストンロッド64の内部の貫通穴77は、大径部98と、大径部98の下方に延びる小径部100とを有しており、その貫通穴77の大径部98と小径部100との境界部分には、段差面102が形成されている。その段差面102の上方には、上室70と通路77とを接続させる接続通路104が設けられている。この接続通路104と貫通穴77とによって、上室70と下室72とは連通させられている。また、貫通穴77の大径部98には、上記調整ロッド78が、ピストンロッド64の上端部から挿入されている。その調整ロッド78の下端部は、円錐状に形成された円錐部106とされており、その円錐部106の先端部が通路77の小径部100に進入可能とされており、円錐部106と通路77の段差面102との間には、クリアランス108が形成されている。ちなみに、調整ロッド78の外径は、通路77の小径部100の内径より大きくされている。なお、貫通穴77内の接続通路104より上方において、貫通穴77の内周面と調整ロッド78の外周面との間にはシール109が設けられており、作動液が貫通穴77上方には流出しないようにされている。
上記のような構造により、例えば、ばね上部とばね下部とが離間し、ピストン62が上方に移動させられる場合、つまり、アブソーバ52が伸ばされる場合には、上室70内の作動液の一部が接続通路86および貫通穴77のクリアランス108を通って下室72へ流れるとともに、バッファ室84の作動液の一部がベースバルブ体96の接続通路を通って下室72に流入する。その際、作動液が弁板88を撓ませて下室72内へ流入することと、作動液がベースバルブ体96の弁板を撓ませて下室72内へ流入することと、作動液が貫通穴77内のクリアランス108を通過することとによって、ピストン62の上方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によってその移動に対する減衰力が発生させられる。また、逆に、ばね上部とばね下部とが接近し、ピストン62がハウジング60内を下方に移動させられる場合、つまり、アブソーバ52が縮められる場合には、下室72内の作動液の一部が、接続通路90および貫通穴77のクリアランス108を通って下室72から上室70へ流れるとともに、ベースバルブ体96の接続通路を通ってバッファ室84に流出することになる。その際、作動液が弁板92を撓ませて上室70内に流入することと、作動液がベースバルブ体96の弁板を撓ませて上室70内へ流入することと、作動液が貫通穴77内のクリアランス108を通過することとによって、ピストン62の下方への移動に抵抗力が付与され、その抵抗力によってその移動に対する減衰力が発生させられる。つまり、アブソーバ52は、ばね上部とばね下部との上下方向における接近離間動作に対して、減衰力を発生させる構造とされている。
また、調整ロッド78は、上述のように、電磁モータ74の作動によって軸線方向に移動可能とされており、貫通穴77のクリアランス108の大きさ(断面積)を変化させることが可能となっている。作動液がそのクリアランス108を通過する際には、上述のように、ピストン62の上下方向への動作に対する抵抗力が付与されるが、その抵抗力の大きさは、クリアランス108の大きさに応じて変化する。したがって、アブソーバ52は、電磁モータ74の作動により調整ロッド78を軸線方向に移動させて、そのクリアランス108を変更することで、ばね上部とばね下部との接近・離間動作に対する減衰特性、言い換えれば、いわゆる減衰係数を変更することが可能な構造とされている。より詳しく言えば、電磁モータ74が、それの回転角度がアブソーバ52の有すべき減衰係数に応じた回転角度となるように制御され、アブソーバ52の減衰係数が変更される。本アブソーバ52は、上記構成とされたことで、電磁モータ74,貫通穴77,調整ロッド78,接続通路104等で構成される減衰係数変更機構を備えるものとされているのである。
ハウジング60には、その外周部に環状の下部リテーナ110が設けられ、マウント部54の下面側には、防振ゴム112を介して、環状の上部リテーナ114が付設されている。コイルスプリング50は、それら下部リテーナ110と上部リテーナ114とによって、それらに挟まれる状態で支持されている。なお、ピストンロッド64の上室70に収容される部分の外周部には、環状部材116が固定的に設けられており、その環状部材116の上面に、環状の緩衝ゴム118が貼着されている。また、モータケース76の下面には、筒状の緩衝ゴム119が附着されている。車体と車輪とが離間する方向(以下、「リバウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、環状部材116が緩衝ゴム118を介してハウジング60の蓋部66の下面に当接し、逆に、車体と車輪とが接近する方向(以下、「バウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、蓋部66の上面が緩衝ゴム119を介してモータケース76の下面に当接するようになっている。つまり、アブソーバ52は、車体と車輪との接近・離間に対するストッパ、いわゆるバウンドストッパ、および、リバウンドストッパを有しているのである。
また、サスペンション装置20は、車体と車輪との距離(以下、「車体車輪間距離」という場合がある)を調整可能な車体車輪間距離調整装置(以下、「調整装置」という場合がある)120を備えており、その調整装置120はそれぞれ、概してL字形状をなすL字形バー122と、そのバー122を回転させるアクチュエータ126とを備えている。L字形バー122は、図2,3に示すように、概ね車幅方向に延びるシャフト部130と、シャフト部130と連続するとともにそれと交差して概ね車両後方に延びるアーム部132とに区分することができる。L字形バー122のシャフト部130は、アーム部132に近い箇所において、車体に固定された保持具134によって車体の下部に回転可能に保持されている。アクチュエータ126は、それの一端部に設けられた取付部材136によって車体下部の車幅方向における中央付近に固定されており、シャフト部130の端部(車幅方向における中央側の端部)がそのアクチュエータ126に接続されている。一方、アーム部132の端部(シャフト部130とは反対側の端部)は、リンクロッド137を介して、第2ロアアーム36に連結されている。詳しく言えば、第2ロアアーム36には、リンクロッド連結部138が設けられ、リンクロッド137の一端部は、そのリンクロッド連結部138に、他端部はL字形バー122のアーム部132の端部に、それぞれ遥動可能に連結されている。
調整装置120の備えるアクチュエータ126は、図6に示すように、駆動源としての電磁モータ140と、その電磁モータ140の回転を減速して伝達する減速機142とを含んで構成されている。これら電磁モータ140と減速機142とは、アクチュエータ126の外殻部材であるハウジング144内に設けられており、そのハウジング144は、それの一端部に固定された上述の取付部材136によって、車体に固定的に取り付けられている。L字形バー122は、それのシャフト部130がハウジング144の他端部から延び入るように、配設されている。L字形バー122のシャフト部130は、それのハウジング144内に存在する部分において、後に詳しく説明するように、減速機142と接続されている。さらに、シャフト部130は、それの軸方向の中間部において、ブシュ型軸受146を介してハウジング144に回転可能に保持されている。
電磁モータ140は、ハウジング144の周壁の内面に沿って一円周上に固定して配置された複数のコイル148と、ハウジング144に回転可能に保持された中空状のモータ軸150と、コイル148と向きあうようにしてモータ軸150の外周に固定して配設された永久磁石152とを含んで構成されている。電磁モータ140は、コイル148がステータとして機能し、永久磁石152がロータとして機能するモータであり、3相のDCブラシレスモータとされている。なお、ハウジング144内に、モータ軸150の回転角度、すなわち、電磁モータ140の回転角度を検出するためのモータ回転角センサ154が設けられている。モータ回転角センサ154は、エンコーダを主体とするものであり、アクチュエータ126の制御、つまり、調整装置120の制御に利用される。
減速機142は、波動発生器(ウェーブジェネレータ)156,フレキシブルギヤ(フレクスプライン)158およびリングギヤ(サーキュラスプライン)160を備え、ハーモニックギヤ機構(「ハーモニックドライブ(登録商標)機構」,「ストレインウェーブギヤリング機構」等と呼ばれることもある)として構成されている。波動発生器156は、楕円状カムと、それの外周に嵌められたボールベアリングとを含んで構成されるものであり、モータ軸150の一端部に固定されている。フレキシブルギヤ158は、周壁部が弾性変形可能なカップ形状をなすものとされており、周壁部の開口側の外周に複数の歯(本減速機142では、400歯)が形成されている。このフレキシブルギヤ158は、先に説明したL字形バー122のシャフト部130に接続され、それによって支持されている。詳しく言えば、L字形バー122のシャフト部130は、モータ軸150を貫通しており、それから延び出す部分の外周面において、フレキシブルギヤ158の底部を貫通する状態でその底部とスプライン嵌合によって相対回転不能に接続されているのである。リングギヤ160は、概してリング状をなして内周に複数の歯(本減速機142においては、402歯)が形成されたものであり、ハウジング144に固定されている。フレキシブルギヤ158は、その周壁部が波動発生器156に外嵌して楕円状に弾性変形させられ、楕円の長軸方向に位置する2箇所においてリングギヤ160と噛合し、他の箇所では噛合しない状態とされている。
このような構造により、波動発生器156が1回転(360度)すると、つまり、電磁モータ140のモータ軸150が1回転すると、フレキシブルギヤ158とリングギヤ160とが、2歯分だけ相対回転させられる。つまり、減速機142の減速比は、1/200とされている。1/200という減速比は、比較的大きな減速比であり(電磁モータ140の回転速度に対してアクチユエータ26の回転速度が比較的小さいことを意味する)、この減速比の大きさに依存して、本アクチュエータ126では、電磁モータ140の小型化が図られているのである。また、その減速比に依存して、外部入力等によっては動作させられ難いものなっている。
以上の構成から、電磁モータ140が駆動させられると、そのモータ140が発生させるモータ力によって、L字形バー122が回転させられて、そのL字形バー122のシャフト部130が捩じられることになる。この捩りにより生じる捩り反力が、アーム部132,リンクロッド137,リンクロッド連結部138を介し、第2ロアアーム36に伝達され、第2ロアアーム36の先端部を車体に対して押し下げたり、引き上げたりする力、言い換えれば、車体と車輪とを上下に接近離間させる方向の力である接近離間力として作用する。つまり、アクチュエータ126が発生させる力であるアクチュエータ力が、弾性体として機能するL字形バー122を介して、接近離間力として作用することになる。このことから、調整装置120は、接近離間力を発生する接近離間力発生装置としての機能を有していると考えることができ、その接近離間力を調整することで、車体と車輪との距離を調整することが可能となっている。
アブソーバ52は、上述のように、自身が発生させる減衰力の大きさを変更可能とされている。詳しく言えば、発生させる減衰力の大きさの基準となる減衰係数、つまり、自身の減衰力発生能力を示す値を変更することが可能とされている。その一方で、調整装置120は、ばね上部とばね下部とを上下方向に接近・離間させる力である接近離間力を発生させ、その接近離間力の大きさを変更可能とされている。詳しく言えば、アクチュエータ126が、モータ力に依拠するアクチュエータ力によって、弾性体としてのL字形バー122を変形させつつ、つまり、L字形バー122のシャフト部130を捩りつつ、そのアクチュエータ力を、L字形バー122を介して、ばね上部とばね下部とに接近離間力として作用させているのである。L字形バー122の変形量、つまり、シャフト部130の捩り変形量は、アクチュエータ126の回転位置(動作位置のことである)に対応したものとなっており、また、アクチュエータ力に対応するものとなっている。接近離間力は、L字形バー122の変形による弾性力に相当するものであることから、アクチュエータ126の回転位置に対応し、アクチュエータ力に対応するものとなる。したがって、アクチュエータ126の回転位置とアクチュエータ力とのいずれか一方を変化させることで、接近離間力を変化させることが可能とされているのである。本サスペンションシステム10では、アクチュエータ126の回転位置を直接の制御対象とした制御を実行することで、接近離間力が制御される。つまり、アクチュエータ126の回転位置を目標となる目標回転位置に変化させるようにアクチュエータ126の作動を制御することで、調整装置120が必要とされる接近離間力を発生させるのである。ちなみに、アクチュエータ126の回転位置は、車両が平坦路に静止している状態を基準状態としてその基準状態でのアクチュエータ30の回転位置を中立位置とした場合において、その中立位置からの回転量、つまり、動作量を意味している。
サスペンション装置20の構成は、概念的には、図7のように示すことができる。図から解るように、マウント部54を含むばね上部としての車体の一部と、第2ロアアーム36等を含んで構成されるばね下部との間に、コイルスプリング50,アブソーバ52および調整装置120が、互いに並列的に配置されている。また、調整装置120を構成する弾性体としてのL字形バー122およびアクチュエータ126は、ばね上部とばね下部との間に直列的に配置されている。言い換えれば、L字形バー122は、コイルスプリング50およびアブソーバ52と並列的に配置され、L字形バー122と車体の一部54との間には、それらを連結するアクチュエータ126が配設されているのである。
本システムでは、図1に示すように、4つの調整装置120についての制御を実行する調整装置電子制御ユニット(調整装置ECU)170と、4つのアブソーバ52についての制御を実行するアブソーバ電子制御ユニット(アブソーバECU)172とが設けられている。これら2つのECU170,172を含んで、本サスペンションシステム10の制御装置が構成されている。
調整装置ECU170は、各調整装置120の備える各アクチュエータ126の作動を制御する制御装置であり、各アクチュエータ126が有する電磁モータ140に対応する駆動回路としての4つのインバータ174と、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とする調整装置コントローラ176とを備えている。一方、アブソーバECU172は、アブソーバ52の備える電磁モータ74の作動を制御する制御装置であり、駆動回路としての4つのモータ駆動回路178と、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とするアブソーバコントローラ180とを備えている(図14参照)。インバータ174の各々およびモータ駆動回路178の各々は、コンバータ182を介してバッテリ184に接続されており、インバータ174の各々は、対応する調整装置120の電磁モータ140に接続され、モータ駆動回路178の各々は、対応するアブソーバ52の電磁モータ74に接続されている。
調整装置120のアクチュエータ126が有する電磁モータ140に関して言えば、その電磁モータ140は定電圧駆動され、電磁モータ140への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ174がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
調整装置コントローラ176には、上記モータ回転角センサ154とともに、操舵量としてのステアリング操作部材の操作量であるステアリングホイールの操作角を検出するためのステアリングセンサ190,車体に実際に発生している横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ192,車体に発生している前後加速度を検出する前後加速度センサ194,車体のマウント部54に設けられてばね上縦加速度を検出するばね上縦加速度センサ196が接続されている。調整装置コントローラ176には、さらに、ブレーキシステムの制御装置であるブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という場合がある)200が接続されている。ブレーキECU200には、4つの車輪のそれぞれに対して設けられてそれぞれの回転速度を検出するための車輪速センサ202が接続され、ブレーキECU200は、それら車輪速センサ202の検出値に基づいて、車両の走行速度(以下、「車速」という場合がある)を推定する機能を有している。調整装置コントローラ176は、必要に応じ、ブレーキECU200から車速を取得するようにされている。さらに、調整装置コントローラ176は、各インバータ174にも接続され、それらを制御することで、各調整装置120の電磁モータ140を制御する。なお、調整装置コントローラ176のコンピュータが備えるROMには、後に説明する各調整装置120の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。
一方、アブソーバコントローラ180には、上記ばね上縦加速度センサ196,車体車輪距離を検出するストロークセンサ204が接続されている。さらに、アブソーバコントローラ180は、各モータ駆動回路178にも接続され、それらを制御することで、各アブソーバ52を制御する。なお、アブソーバコントローラ180のコンピュータが備えるROMには、後に説明する各アブソーバ52の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。ちなみに、調整装置コントローラ176とアブソーバコントローラ180とは、互いに接続されて通信可能とされており、必要に応じて、当該サスペンションシステムの制御に関する情報,指令等が通信される。
≪調整装置のアクチュエータの正効率および逆効率≫
ここで、調整装置120が有するアクチュエータ126の効率(以下、「アクチュエータ効率」という場合がある)について考察する。アクチュエータ効率には、正効率,逆効率との2種が存在する。アクチュエータ逆効率(以下、単に「逆効率」という場合がある)ηNは、ある外部入力によっても電磁モータ140が回転させられない最小のモータ力の、その外部入力に対する比率と定義されるものであり、また、アクチュエータ正効率(以下、単に「正効率」という場合がある)ηPは、ある外部入力に抗してL字形バー122のシャフト部130を回転させるのに必要な最小のモータ力に対するその外部入力の比率と定義されるものである。つまり、アクチュエータ力(アクチュエータトルクと考えてもよい)をFaと、電磁モータ140が発生させる力であるモータ力(モータトルクと考えてもよい)をFmとすれば、正効率ηP,逆効率ηNは、下式のように表現できる。
正効率ηP=FaP/FmP
逆効率ηN=FmN/FaN
本アクチュエータ126のモータ力−アクチュエータ力特性は、図8に示すようであり、本アクチュエータ126の正効率ηP,逆効率ηNは、それぞれ、図に示す正効率特性線の傾き、逆効率特性線の傾きの逆数に相当するものとなる。図から解るように、同じ大きさのアクチュエータFaを発生させる場合であっても、正効率特性下において必要な電磁モータ140のモータ力FmPと、逆効率特性下において必要なモータ力FmNとでは、その値が比較的大きく異なっている(FmP>FmN)。
ここで、正効率ηPと逆効率ηNとの積を正逆効率積ηP・ηNと定義すれば、正逆効率積ηP・ηNは、ある大きさの外部入力に抗してアクチュエータを動作させるのに必要なモータ力と、その外部入力によってもアクチュエータが動作させられないために必要なモータ力との比と考えることができる。そして、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、正効率特性下において必要な電磁モータのモータ力FmPに対して、逆効率特性下において必要なモータ力FmNが小さくなる。簡単に言えば、正逆効率積ηP・ηNが小さい程、動かされ難いアクチュエータであるといえるのである。
本アクチュエータ126は、図8から解るように、正逆効率積ηP・ηNが比較的小さく、具体的な数値で言えば、正逆効率積ηP・ηNが1/3となっており、外部入力によっては比較的動作させられ難いアクチュエータとなっている。このことは、例えば、外部入力の作用下で回転位置を維持させる場合等において、外部入力に抗してアクチュエータ126を回転させる場合に比較して、電磁モータ140が発生させるべき力を大きく低減することを可能としている。モータ力は、電磁モータへの供給電力に比例すると考えることができるため、正逆効率積ηP・ηNが小さい本アクチュエータ126では、電力消費が大きく削減されることになる。
具体的にいえば、車両の旋回時において、例えば、アクチュエータ126を制御して車体のロールを抑制するような場合には、後に説明するように、旋回初期には、ロールモーメントに抗してアクチュエータ126を動作させ、一方、旋回中期には、ロールモーメントの作用下でアクチュエータ126の回転位置を維持させることになる。つまり、本アクチュエータ126では、車体のロールの抑制時における電磁モータ140の電力消費が抑制されることになる。また、車両の加速,減速時における車体のピッチを抑制する場合においても、同様に、ピッチモーメントの作用下でアクチュエータ126の回転位置を維持させる状況がある。このことから、車体のピッチの抑制時における電磁モータ140の電力消費もが抑制されることになる。
≪車両用サスペンションシステムの制御≫
i)調整装置の制御
a)ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の概要
本システム10では、上記アクチュエータ126を備えた各調整装置120が発生させる接近離間力を独立して制御することによって、車体のロールを抑制する制御(以下、「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行可能とされている。
本システム10では、車両の旋回時において、旋回内輪側の調整装置120によってバウンド方向の接近離間力を、旋回外輪側の調整装置120によってリバウンド方向の接近離間力を、それぞれ、車両の旋回に起因するロールモーメントの大きさに応じて発生させることで、車両の旋回に起因する車体のロールが抑制されるのである。また、車両の加速時において、前輪側の調整装置120によってバウンド方向の接近離間力を、後輪側の調整装置20によってリバウンド方向の接近離間力を、それぞれ、車両の加速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発生させることで、車両の加速に起因する車体のスクワットが抑制される。さらに、車両の減速時において、前輪側の調整装置120によってリバウンド方向の接近離間力を、後輪側の調整装置120によってバウンド方向の接近離間力を、それぞれ、車両の減速に起因するピッチモーメントの大きさに応じて発揮させることで、車両の減速に起因する車体のノーズダイブが抑制されるのである。なお、ロール抑制制御およびピッチ抑制制御は、車体の姿勢を制御することから、車体姿勢制御の一種と考えることができる。
b)振動減衰制御の概要
車体の振動を減衰する際には、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づく振動減衰制御、つまり、接近離間力をばね上絶対速度に応じた減衰力として作用させる制御を実行可能であり、また、接近離間力をばね上部とばね下部との相対速度に応じた減衰力として作用させる制御を実行可能である。本システム10においては、車体の振動を適切に減衰するべく、いわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた振動減衰制御が実行される。つまり、接近離間力をばね上振動を充分に減衰するために必要な減衰力(以下、「必要減衰力」という場合がある)として作用させる制御が実行されるのである。詳しくいえば、ばね上絶対速度に応じた大きさの減衰力を発生させるべく、アクチュエータ126の回転位置を、ばね上絶対速度に基づいて決定される目標回転位置に変化させるようにアクチュエータ126の作動を制御するのである。
ただし、ばね上絶対速度の変化速度は高いことから、上記車体姿勢制御における目標回転位置の変化速度に比較して、振動減衰制御時における目標回転位置の変化速度は比較的高くなる。このため、振動減衰制御時において、アクチュエータ126の作動が、目標回転位置の変化に対して追従できない虞がある。また、ばね上絶対速度Vuは、単純なモデルにおいて、図9(a)に示すように、周期的に変化することから、必要減衰力が発生させられるべき方向(以下、「必要減衰力方向」という場合がある)が周期的に反転する。このため、アクチュエータの回転位置が目標回転位置に変化しきれずに必要減衰力方向が反転すると、接近離間力が発生させられる方向(以下、「接近離間力方向」という場合がある)と必要減衰力方向とが反対の方向となる虞がある。
図を用いて説明すれば、ばね上絶対速度Vuに基づいて決定されるアクチュエータ126の目標回転位置θ* Aは、図9(b)に示すように、周期的に変化する(実線)。ところが、アクチュエータ126の制御可能な回転角速度ωMAXが、例えば、図に示すようにθA0/t0であるような場合には、アクチュエータの実際の回転位置θA(点線)は目標回転位置θ* A(実線)にすぐには到達できない。このため、実際の回転位置θA(点線)と目標回転位置θ* A(実線)とが、中立位置(θA=0)を挟んで反対の位置となる場合がある(図9(b)斜線)。このような場合には、振動を減衰する方向とは反対の方向に、接近離間力が発生させられることになる。
したがって、アクチュエータの実際の回転位置θAが目標回転位置θ* Aに対して遅れないように、目標回転位置θ* Aの変化に対してアクチュエータの作動を追従させるべく、目標回転位置θ* Aの変化速度が、アクチュエータ126の制御可能な回転角速度ωMAXに基づいて設定される設定変化速度を超えないようにすることが望ましい。また、アクチュエータの目標回転位置θ* Aは、ばね上絶対速度Vuに応じて決定されることから、ばね上絶対速度Vuに依存している。このため、目標回転位置θ* Aの変化速度は、ばね上絶対速度Vuの変化速度、つまり、ばね上縦加速度Guに依存している。したがって、通常は、アクチュエータ126の目標回転位置θ* Aをばね上縦加速度Guに基づいて決定し、ばね上縦加速度Guが設定加速度GuMAXを超えるような場合には、その設定加速度GuMAXに基づいて目標回転位置θ* Aを決定すれば、アクチュエータ126の目標回転位置θ* Aの変化速度を抑制することができるのである。
詳しくいえば、目標回転位置θ* Aとばね上絶対速度Vuとの関係は次式に示すようになり、
θ* A=KA・CS・Vu (KA:ゲイン,CS:スカイフック理論に基づく減衰係数)
上記式を微分演算することで、次式が導かれる。
θ* A’=KA・CS・Gu (θ* A’:目標回転位置の変化速度)
目標回転位置θ* Aの変化に対してアクチュエータの作動を追従させるには、目標回転位置θ* Aの変化速度θ* A’が、アクチュエータ126の上記回転角速度ωMAXを超えないことが必要であるため、変化速度θ* A’の上限を回転角速度ωMAXとする。この際のばね上縦加速度Guが設定加速度GuMAXであり、設定加速度GuMAXは次式のように示すことができる。
GuMAX=ωMAX/(KA・CS)
そこで、本システム10において、ばね上部の実際の縦加速度である実ばね上縦加速度Gurがその設定加速度GuMAXを超える場合には、設定加速度GuMAXの積分値である制御ばね上絶対速度Vu*に応じて、目標回転位置θ* Aが決定され、実ばね上縦加速度Gurがその設定加速度GuMAX以下の場合には、実ばね上縦加速度Gurの積分値である実ばね上絶対速度Vurに応じて、目標回転位置θ* Aが決定される。
図10に、実ばね上縦加速度Gur(図10(a)点線),実ばね上縦加速度に上限値としての設定加速度GuMAXを設けた制御ばね上縦加速度Gu*(図10(a)実線),実ばね上縦加速度Gurの積分値である実ばね上絶対速度Vurに応じて決定される目標回転位置θ* A(図10(b)点線),制御ばね上縦加速度Gu*の積分値である制御ばね上絶対速度Vu*に応じて決定される目標回転位置θ* A(図10(b)実線)の変化の様子を、時間tの経過を横軸にとったチャートにて、模式的に示す。この図から解るように、実ばね上縦加速度Gurに基づいて決定される目標回転位置θ* A(図10(b)点線)の変化速度は、アクチュエータ126の制御可能な回転角速度ωMAX(図10(b)一点鎖線の傾き)を超えてしまうが、制御ばね上縦加速度Gu*に基づいて決定される目標回転位置θ* A(図10(b)実線)の変化速度は、上記回転角速度ωMAXを超えることはないのである。つまり、実ばね上縦加速度Gurが設定加速度GuMAXを超える場合に、設定加速度GuMAXに基づき目標回転位置θ* Aを決定すれば、目標回転位置θ* Aの変化に対してアクチュエータの作動を追従させることが可能となるのである。
ただし、上述のように、振動減衰制御において目標回転位置θ* Aを決定すれば、比較的低周波域の振動に対して、アブソーバ126の作動を追従させることが可能であるが、比較的高周波域の振動に対しては、アブソーバ126の作動を追従させることが困難となっている。そこで、本システム10が備えるアブソーバ52は、高周波域の振動減衰に好適なアブソーバとされており、このアブソーバ52の作用によって、比較的高周波数域の振動の車体への伝達が抑制されることになる。つまり、本システム10では、上述のような制御によって、アクチュエータ126の作動が追従可能な比較的低周波数域、つまり、ばね上共振周波数を含む低周波域の振動には、主に調整装置120によって対処し、ばね下共振周波数を含む高周波域の振動にはアブソーバ52によって対処するようにされている。したがって、アブソーバ52の減衰係数は、上記機能を担保するために低目に設定されている。具体的に言えば、変更可能な減衰係数のうちで最小の減衰係数Cminが1000N・sec/mと、最大の減衰係数CMAXが2000N・sec/m(車輪の動作に対してその車輪に直接作用させたと仮定した値)とされており、調整装置120を有していないサスペンションシステムにおけるショックアブソーバ、つまり、コンベンショナルなショックアブソーバに設定されている値である3000〜5000N・sec/mの半分以下に設定されている。
c)ロール抑制制御とピッチ抑制制御と振動減衰制御との総合制御の詳細
本システム10では、上記3つの制御が総合された制御が実行されている。この総合制御では、各調整装置120において、ばね上絶対速度,車体が受けるロールモーメント,ピッチモーメント等に基づいて、適切な接近離間力を発揮させるべく、電磁モータ140のモータ回転角が制御されている。電磁モータ140のモータ回転角は、アクチュエータの回転位置に対応しているからである。詳しく言えば、ばね上絶対速度,車体が受けるロールモーメント,ピッチモーメント等に基づいて、目標となるモータ回転角である目標モータ回転角が決定され、実際のモータ回転角がその目標モータ回転角となるように電磁モータ140が制御される。ちなみに、接近離間力の方向および大きさは、発生させるべきモータ力の方向および大きさすなわち電磁モータ140への供給電力と対応関係にあり、実際の電磁モータ140の制御は、供給電力が適切なものとなるように実行される。なお、電磁モータ140は、発電機として機能し、電力を発電する場合があり、その発電された電力もモータ力に影響を及ぼす。このことから、電磁モータ140への供給電力とは、厳密にいえば、電磁モータ140のコイル148への通電電力のことを意味している。
本システム10においては、上述の目標モータ回転角は、ロール抑制制御,ピッチ抑制制御,振動減衰制御の各制御ごとの目標モータ回転角成分が合計されて決定される。各制御ごとの成分は、それぞれ、
ロール抑制目標モータ回転角成分(ロール抑制成分)θ* R
ピッチ抑制目標モータ回転角成分(ピッチ抑制成分)θ* P
振動減衰目標モータ回転角成分(振動減衰成分)θ* S
である。
ロール抑制成分θ* Rは、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KB・Gyc+KC・Gyr (KB,KC:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制成分θ* Rが決定される。調整装置ECU170の調整装置コントローラ176内には、制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制成分θ* Rのマップデータが格納されており、ロール抑制成分θ* Rが決定にあたっては、そのマップデータが参照される。
ピッチ抑制回転角成分θ* Pは、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度に基づいて決定される。詳しく言えば、実測された実前後加速度Gzgに基づいて、ピッチ抑制回転角成分θ* Pが、次式に従って決定される。
θ* P=KE・Gzg (KE:ゲイン)
振動減衰成分θ* Sは、車体のマウント部54に設けられたばね上縦加速度センサ196によって検出される実ばね上縦加速度Gurに基づき、実ばね上絶対速度Vurが計算され、次式に従って演算される。
θ* S=KS・CS・Vur (KS:ゲイン)
ただし、上述のように、実ばね上縦加速度Gurが設定加速度GuMAXを超える場合には、上記制御ばね上縦加速度Gu*に基づき、制御ばね上絶対速度Vu*が計算され、上記式に従って演算された振動減衰成分θ* Sが、次式に従って演算される振動減衰成分θ* Sに変更される。
θ* S=KS・CS・Vu*
以上のように、ロール抑制成分θ* R,ピッチ抑制成分θ* P,振動減衰成分θ* Sがそれぞれ決定されると、目標モータ回転角θ*が、次式に従って決定される。
θ*=θ* R+θ* P+θ* S
そして、実際のモータ回転角である実モータ回転角θが上記目標モータ回転角回転角θ*になるように、電磁モータ140が制御される。この電磁モータ140の制御において、電磁モータ140に供給される電力は、実モータ回転角θの目標モータ回転角θ*に対する偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θ*−θ)に基づいて決定される。詳しく言えば、供給電流モータ回転角偏差Δθに基づくフィードバック制御の手法に従って決定される。具体的には、まず、電磁モータ140が備えるモータ回転角センサ154の検出値に基づいて、上記モータ回転角偏差Δθが認定され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、目標供給電流i*が決定される。
i*=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
この式は、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項を、KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインを意味する。また、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。なお、モータ回転角偏差Δθは、それの符号が、実モータ回転角θが目標モータ回転角θ*に近づくべき方向、すなわち電磁モータ140の動作方向を表し、それの絶対値が、動作させるべき量を表すものとなっている。
上記目標供給電流i*を決定するための式は、2つの項からなり、それら2つの項は、それぞれが、目標供給電力の成分と考えることができる。第1項の成分は、モータ回転角偏差Δθに応じた成分(以下、「比例項電流成分」という場合がある)ihであり、第2項の成分は、その偏差Δθの積分に応じた成分(以下、「積分項電流成分」という場合がある)iSである。アクチュエータ126は、L字形バー122の弾性反力といった外部入力を受けながら動作するものであり、PI制御の理論からすれば、積分項電流成分iSは、外部入力によっては電磁モータ140が回転させられないようにするための電流成分、つまり、外部入力の作用下においてアクチュエータ126の回転位置を維持するためのモータ力に関する成分と考えることができる。また、比例項電流成分ihは、外部入力の作用下において、アクチュエータ126を適切に動作させるための電流成分であり、つまり、外部入力に抗ってアクチュエータ126を動作させるためのモータ力に関する成分と考えることができる。
ここで、先のアクチュエータ効率を考えれば、概して言えば、上記積分項電流成分iSは、モータ回転角θを維持するための電流成分であればよいため、逆効率ηNに従う大きさのモータ力を発生させる電流成分であればよいことなる。したがって、目標供給電流i*を決定するための上記式における第2項のゲインである積分ゲインKIは、積分項成分iSが逆効率特性に沿った値となるように設定されている。例えば、車両が典型的な一旋回動作を行う場合のロール抑制について考えてみれば、図11に示すように、調整装置20が発生させるべきロール抑制力、つまり、接近離間力は変化し、電磁モータ140の目標モータ回転角θ*は変化する。この例では、実モータ回転旋回初期[a],旋回中期[b]および旋回後期[c]を通じて、モータ回転角が目標モータ回転角θ*を維持することができるように、積分項電流成分iSが、逆効率ηNに従って決定される。
それに対して、上記比例項電流成分ihは、外部入力の作用下において、目標モータ回転角θ*に対する実モータ回転角θのずれをなくすための成分であり、上記式における第1項のゲインである比例ゲインKPは、モータ回転角偏差Δθに応じた適切な積分項電流成分iSの増減補正が行われるような値に設定されている。特に、旋回初期[a]では、外部入力に抗してアクチユエータ126を動作させなければならないため、正効率特性に従ったモータ力以上のモータ力を発生させるような大きさの電流が電磁モータ140に供給される必要がある。そのことに鑑み、比例ゲインKPは、モータ回転角偏差Δθがあまり大きくならない状態において正効率特性に従ったモータ力を発生可能な値に設定されている。
ロール抑制制御を例にとって説明したが、比例ゲインKP,積分ゲインKIが適切に設定された上記式に従って目標供給電流i*を決定することにより、ピッチ抑制制御あるいはそれらが複合された制御においても、同様に、アクチュエータ126の正効率ηP,逆効率ηNが考慮されることなる。したがって、アクチュエータ126の正効率ηP,逆効率ηNを考慮した目標供給電流i*の決定により、モータ回転角θが同じ角度に維持される状態および減少させられる状態、言い換えれば、モータ力、すなわち、アクチュエータ力,接近離間力が同じ大きさに維持される状態および減少させられる状態において、電磁モータ140の電力消費は、効果的に低減されることになるのである。なお、上記目標供給電流i*は、それの符号により電磁モータ140のモータ力の発生方向をも表すものとなっており、電磁モータ140の駆動制御にあたっては、目標供給電流i*に基づいて、電磁モータ140を駆動するためのデューティ比およびモータ力発生方向が決定される。そして、それらデューティ比およびモータ力発生方向についての指令がインバータ174に発令され、インバータ174によって、その指令に基づいた電磁モータ140の駆動制御がなされる。
また、目標モータ回転角θ*が中立位置(θ=0)から離れる過程、言い換えれば、接近離間力が増加する過程において、比例項電流成分ihの符号と積分項電流成分iSの符号とは同じであり、一方、目標モータ回転角θ*が中立位置に近づく過程、言い換えれば、接近離間力が減少する過程において、比例項電流成分ihの符号と積分項電流成分iSの符号とは異なっている。目標モータ回転角θ*が中立位置から離れる過程において、比例項電流成分ihは接近離間力を増加させるための成分であり、積分項電流成分iSは接近離間力の増加を促進するための成分である。一方、目標モータ回転角θ*が中立位置に近づく過程において、比例項電流成分ihは接近離間力を減少させるための成分であり、積分項電流成分iSは、接近離間力の減少を抑制するための成分である。つまり、本アクチュエータ126は、目標モータ回転角θ*が中立位置に近づく過程において、目標モータ回転角θ*が中立位置から離れる過程より、動作させ難いのである。このため、上述のように、振動減衰成分θ* Sの変化に対してアクチュエータの作動を追従させるべく、振動減衰成分θ* Sの変化速度を制限する際に、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程における振動減衰成分θ* Sの変化速度は、振動減衰成分θ* Sが中立位置から離れる過程における振動減衰成分θ* Sの変化速度より高いことが望ましいのである。
本システム10において、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程のアクチュエータ126の回転角速度ωMAXNは、振動減衰成分θ* Sが中立位置から離れる過程のアクチュエータ126の回転角速度ωMAXSより高いものとされている。このため、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程と振動減衰成分θ* Sが中立位置から離れる過程とでは、上記設定加速度GuMAXは異なる。具体的にいえば、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程における設定加速度GuMAXNは、
GuMAXN=ωMAXN/(KA・CS)
とされ、振動減衰成分θ* Sが中立位置から離れる過程における設定加速度GuMAXSは、
GuMAXS=ωMAXS/(KA・CS)
とされている(GuMAXN>GuMAXS)。
なお、本実施例においては、PI制御則に従い目標供給電流i*が決定されたが、PDI制御則に従い目標供給電流i*を決定することも可能である。この場合、例えば、次式
i*=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)+KD・Δθ’
によって、目標供給電流i*を決定すればよい。ここで、KDは微分ゲインであり、第3項は、微分項成分を意味する。
ii)アブソーバの制御
本システム10においては、前述のように、目標回転位置の変化に対してアクチュエータ126の作動を追従させるべく、図10(b)に示すように、アクチュエータの目標回転位置、つまり、振動減衰成分θ* Sを調整している。このため、接近離間力が、必要減衰力に対して不足する場合がある。詳しくいえば、実ばね上絶対速度Vurに基づく目標回転位置θ* A(図10(b)点線)に応じた必要減衰力と、制御ばね上絶対速度Vu*に基づく目標回転位置θ* A(図10(b)実線)に応じた接近離間力との差に相当する力(図10(b)斜線)が不足する場合がある。そこで、本システム10においては、接近離間力が必要減衰力に対して不足する場合には、アブソーバ52が発生させるアブソーバ力を利用して、アブソーバ52と調整装置120とで必要減衰力を発生させる。詳しくいえば、必要減衰力FHと振動減衰制御における接近離間力FSとの差に相当する力である不足減衰力を、アブソーバ52が発生させることができるように、アブソーバ52の減衰係数を制御するのである。
具体的にいえば、実ばね上縦加速度Gurに基づいて実ばね上絶対速度Vurが演算され、その演算された実ばね上絶対速度Vurに基づいて、必要減衰力FHが、次式に従って決定され、
FH=Vur・CS
振動減衰成分θ* Sに基づいて、振動減衰制御における接近離間力FSが、次式に従って決定される。
FS=θ* S・KF (KF=1/KS:ゲイン)
アブソーバ52は、ばね上部とばね下部との相対速度Vsに応じた力を発生させることが可能である。そのアブソーバ52が、必要減衰力FHと振動減衰制御における接近離間力FSとの差に相当する不足減衰力を発生できるように、アブソーバ52の目標となる減衰係数C*が次式に従って決定される。
C*=(FH−FS)/Vs
ただし、アブソーバ力は、ばね上部とばね下部との相対動作に対する抵抗力であることから、アブソーバ力を発生させる方向(以下、「アブソーバ力方向」という場合がある)を任意に変更することができないため、アブソーバ力方向が必要減衰力方向と同じとなったり、異なったりする。必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じ場合には、アブソーバ力は必要減衰力の助けとなることから、アブソーバ52は上記不足減衰力を発生させることができる。一方、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが異なる場合には、アブソーバ力は必要減衰力の妨げとなることから、アブソーバ力はできる限り小さいことが望ましい。
また、アブソーバ力方向は、ばね上部とばね下部とが離間するような場合には、バウンド方向となり、ばね上部とばね下部とが接近するような場合には、リバウンド方向となる。一方、必要減衰力方向は、ばね上部が上方に移動するような場合には、バウンド方向となり、ばね上部が下方に移動するような場合には、リバウンド方向となる。また、本システム10においては、ばね上部が上方に移動している場合には、ばね上絶対速度Vuは+、ばね上部が下方に移動している場合には、ばね上絶対速度Vuは−としており、ばね上部とばね下部とが離間する場合には、ばね上部とばね下部との相対速度Vsは+、ばね上部とばね下部とが接近する場合には、相対速度Vsは−としている。
上記のことから、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とがともにバウンド方向の場合には、ばね上絶対速度Vuは+、かつ、相対速度Vsは+となり、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する。また、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とがともにリバウンド方向の場合には、ばね上絶対速度Vuは−、かつ、相対速度Vsは−となり、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する。したがって、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合、および、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合には、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じとなり、ばね上絶対速度Vuの符号と相対速度Vsの符号とが同じとなる。一方、必要減衰力方向がバウンド方向、かつアブソーバ力方向がリバウンド方向の場合には、ばね上絶対速度Vuは+、かつ、相対速度Vsは−となり、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する。また、必要減衰力方向がリバウンド方向、かつアブソーバ力方向がバウンド方向の場合には、ばね上絶対速度Vuは−、かつ、相対速度Vsは+となり、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する。したがって、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合、および、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合には、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが異なり、ばね上絶対速度Vuの符号と相対速度Vsの符号とが異なる。
したがって、本システム10では、必要減衰力と振動減衰制御における接近離間力とが異なる際に、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合、および、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合、つまり、ばね上絶対速度Vuの符号と相対速度Vsの符号とが同じとなる場合には、アブソーバ52が不足減衰力を発生させるべく、アブソーバ52の目標減衰係数C*は上記式に従って決定され、一方、ばね上部が下方に移動しつつばね上部とばね下部とが離間する場合、および、ばね上部が上方に移動しつつばね上部とばね下部とが接近する場合、つまり、ばね上絶対速度Vuの符号と相対速度Vsの符号とが異なる場合には、アブソーバ力をできる限り小さくするべく、アブソーバ52の目標減衰係数C*は最小減衰係数Cminとされる。
なお、調整装置120が必要減衰力を発生させている場合に、アブソーバ力が生じると、ばね上振動に対して実際に生じる力は、必要減衰力より大きくなったり、小さくなったりする。このため、そのような場合には、アブソーバ力はできる限り小さいことが望ましい。そこで、必要減衰力と振動減衰制御における接近離間力とが同じ場合には、アブソーバ力をできる限り小さくするべく、アブソーバ52の目標減衰係数C*は最小減衰係数Cminとされる。
≪制御プログラム≫
本システム10において、調整装置120の発生させる接近離間力の制御は、図12にフローチャートを示す調整装置制御プログラムが調整装置コントローラ176によって実行されることで行われる。一方、アブソーバ52の減衰係数の制御は、図13にフローチャートを示すアブソーバ制御プログラムがアブソーバコントローラ180によって実行されることで行われる。それら2つのプログラムは、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいて繰り返し実行されており、並行して実行されている。以下に、それぞれの制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。なお、調整装置制御プログラムは、4つの調整装置120の各アクチュエータ126ごとに実行され、また、アブソーバ制御プログラムは、4つのアブソーバ52ごとに実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ126に対しての制御処理、1つのアブソーバ52に対しての制御処理について説明する。
i)調整装置制御プログラム
本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、上述の制御横加速度に基づいて、ロール抑制制御のためのロール抑制成分θ* Rが決定され、S2において、前後加速度に基づいて、ピッチ抑制制御のためのピッチ抑制成分θ* Pが決定される。次に、S3において、ばね上縦加速度センサ196に基づいて、実ばね上縦加速度Gurが検出され、S4において、実ばね上縦加速度Gurに基づいて、実ばね上絶対速度Vurが演算される。続いて、S5において、演算された実ばね上絶対速度Vurに基づいて、振動減衰制御のための振動減衰成分θ* Sが決定される。
続いて、S6において、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程にあるか、中立位置から離れる過程にあるかを判定する。具体的には、実ばね上縦加速度Gurの符号と実ばね上絶対速度Vurの符号とが同じか否かが判断される。それぞれの符号が同じと判断された場合には、振動減衰成分θ* Sが中立位置から離れる過程にあると判定され、S7において、実ばね上縦加速度Gurの絶対値が設定加速度GMAXSより大きいか否かが判定される。実ばね上縦加速度Gurの絶対値が設定加速度GMAXSより大きいと判定されると、S8において、制御ばね上縦加速度G*が設定加速度GMAXSとされる。また、S6において、実ばね上縦加速度Gurの符号と実ばね上絶対速度Vurの符号とが異なると判断された場合には、振動減衰成分θ* Sが中立位置に近づく過程にあると判定され、S9において、実ばね上縦加速度Gurの絶対値が設定加速度GMAXNより大きいか否かが判定される。実ばね上縦加速度Gurの絶対値が設定加速度GMAXNより大きいと判定されると、S10において、制御ばね上縦加速度G*が設定加速度GMAXNとされる。
続いて、S11において、制御ばね上縦加速度G*に基づいて、制御ばね上絶対速度Vu*が演算され、S12において、先に決定された振動減衰成分θ* Sが、制御ばね上絶対速度Vu*に基づいて決定される振動減衰成分θ* Sに変更される。次に、S13において、ロール抑制成分θ* Rとピッチ抑制成分θ* Pと振動減衰成分θ* Sとが合計されることによって、目標モータ回転角θ*が決定され、S14において、目標モータ回転角θ*に基づき、前述のPI制御則に従う式に従って、目標供給電流i*が決定される。そして、S15において、決定された目標供給電流i*に基づく制御信号がインバータ174に送信された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
ii)アブソーバ制御プログラム
本プログラムに従う処理では、まず、S21において、縦加速度センサ196に基づいて、実ばね上縦加速度Gurが検出され、S22において、実ばね上縦加速度Gurに基づいて、実ばね上絶対速度Vurが演算され、S23において、実ばね上絶対速度Vurに基づいて、必要減衰力FHが決定される。次に、S24において、上記調整装置制御プログラムにおいて決定された振動減衰成分θ* Sに基づいて、振動減衰制御における接近離間力FSが決定される。振動減衰成分θ* Sに関する情報は、アブソーバコントローラ180が調整装置コントローラ176から必要に応じて取得する。
続いて、S25において、必要減衰力FHと振動減衰制御における接近離間力FSとが同じか否かが判定される。必要減衰力FHと振動減衰制御における接近離間力FSとが異なると判定されると、S26において、ストロークセンサ204に基づいて、車体車輪間距離Xが検出され、S27において、車体車輪間距離Xに基づいて、ばね上部とばね下部との相対速度Vsが演算される。
次に、S28において、必要減衰力方向とアブソーバ力方向とが同じか否かが判定される。具体的には、相対速度Vsの符号と実ばね上絶対速度Vurの符号とが同じか否かが判定される。それぞれの速度の符号が同じと判定された場合には、S29において、アブソーバ52が上記不足減衰力を発生できるように、アブソーバ52の目標減衰係数C*が決定される。続いて、S30において、その決定されたアブソーバ52の目標減衰係数C*が最大減衰係数CMAXより大きいか否かが判定され、大きいと判定された場合には、S31において、アブソーバ52の目標減衰係数C*が最大減衰係数CMAXに変更される。また、S25において、必要減衰力FHと振動減衰制御における接近離間力FSとが同じと判定された場合、若しくは、S28において、相対速度Vsの符号と実ばね上絶対速度Vurの符号とが異なると判定された場合には、S32において、アブソーバ52の目標減衰係数C*が最小減衰係数Cminとされる。そして、アブソーバ52の目標減衰係数C*が決定されると、S33において、決定された目標減衰係数C*に基づく制御信号がモータ駆動回路178に送信された後、本プログラムの1回の実行が終了する。
≪コントローラの機能構成≫
上記調整装置制御プログラムを実行する調整装置コントローラ176は、それの実行処理に鑑みれば、図14に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、調整装置コントローラ176は、S1,S2の処理を実行する機能部、つまり、ロール抑制制御およびピッチ抑制制御を実行するためのアクチュエータ126の目標動作位置を決定する機能部として、車体姿勢制御目標動作位置決定部210を、S3〜S5の処理を実行する機能部、つまり、振動減衰制御を実行するためのアクチュエータ126の目標動作位置を決定する機能部として、振動減衰制御目標動作位置決定部212を、S7〜S12の処理を実行する機能部、つまり、振動減衰制御を実行するためのアクチュエータ126の目標動作位置を変更する機能部として、振動減衰制御目標動作位置変更部214を、それぞれ有している。
また、上記アブソーバ制御プログラム実行するアブソーバコントローラ180も、それの実行処理に鑑みれば、図14に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、アブソーバコントローラ180は、S29,30の処理を実行する機能部、つまり、アブソーバ52が不足減衰力を発生させるべく、アブソーバ52の減衰係数を制御する機能部として、減衰力補助減衰係数制御部216を、32の処理を実行する機能部、つまり、アブソーバ力を小さくするべく、アブソーバ52の減衰係数を小さくする機能部として、減衰係数減少制御部218を、それぞれ有している。
≪振動減衰制御の変形例≫
本システム10において、振動減衰制御はいわゆるスカイフックダンパ理論に基づく制御が実行されているが、接近離間力をばね上部とばね下部との相対速度に応じた減衰力として作用させる振動減衰制御を実行してもよい。具体的にいえば、ストロークセンサ204によって検出される車体車輪間距離Xに基づき、ばね上部とばね下部との実際の相対加速度Gsrが計算される。そして、その実相対加速度Gsrが設定加速度GsMAX以下の場合には、実相対加速度Gsrに基づき、実相対速度Vsrが計算され、振動減衰成分θ* Sが、次式に従って演算される。
θ* S=KG・CG・Vsr (KG:ゲイン,CG:減衰係数)
また、実相対加速度Gsrが設定加速度GsMAXを超える場合には、実相対加速度Gsrに上限値としての設定加速度GsMAXを設けた制御相対加速度Gs*に基づき、制御相対速度Vs*が計算され、上記式に従って演算された振動減衰成分θ* Sが、次式に従って演算される振動減衰成分θ* Sに変更される。
θ* S=KG・CG・Vs*
なお、設定加速度GsMAXは、次式に従って決定される。
GsMAX=ωMAX/(KH・CG) (KH:ゲイン)
請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
図1の車両用サスペンションシステムの備えるサスペンション装置を車両後方からの視点において示す模式図である。
図1の車両用サスペンションシステムの備えるサスペンション装置を車両上方からの視点において示す模式図である。
サスペンション装置の備えるアブソーバを示す概略断面図である。
図4のアブソーバの概略断面図の拡大図である。
サスペンション装置の備える調整装置を構成するアクチュエータを示す概略断面図である。
サスペンション装置を概念的に示す図である。
実施例のアクチュエータの正効率および逆効率を概念的に示すグラフである。
(a)実ばね上絶対速度と(b)その実ばね上絶対速度に応じて決定されるアクチュエータの目標回転位置との時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
(a)実ばね上縦加速度と制御ばね上縦加速度と(b)実ばね上縦加速度に基づいて決定されるアクチュエータの目標回転位置と制御ばね上縦加速度に基づいて決定されるアクチュエータの目標回転位置との時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
車両の典型的な一旋回動作中におけるロール抑制力,目標モータ回転角,実モータ回転角,比例項電流成分,積分項電流成分,目標供給電流の時間経過に対する変化を概略的に示すチャートである。
調整装置制御プログラムを示すフローチャートである。
アブソーバ制御プログラムを示すフローチャートである。
サスペンションシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 36:第2ロアアーム(ばね下部) 50:コイルスプリング(サスペンションスプリング) 52:ショックアブソーバ 54:マウント部(ばね上部) 74:電磁モータ(減衰係数変更機構) 77:貫通穴(減衰係数変更機構) 78:調整ロッド(減衰係数変更機構) 79:動作変換機構(減衰係数変更機構) 120:車体車輪間距離調整装置(接近離間力発生装置) 122:L字形バー(弾性体) 126:アクチュエータ 130:シャフト部 132:アーム部 140:電磁モータ 142:減速機 170:調整装置電子制御ユニット(制御装置) 172:アブソーバ電子制御ユニット(制御装置) 212:振動減衰制御目標動作位置決定部(目標動作位置決定部) 214:振動減衰制御目標動作位置変更部(目標動作位置変更部) 216:減衰力補助減衰係数制御部 218:減衰係数減少制御部