上述した特許文献の第4の実施の形態には以下のような構成が記載されている。燃焼室内全体に均質な混合気を形成する燃料供給手段として、吸気通路に設けた燃料噴射弁(吸気ポート噴射用燃料噴射弁)による排気行程もしくは排気行程ないし吸気行程での燃料噴射により燃焼室全体にストイキよりも比較的リーン(希薄)な均質混合気を形成し、筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁を用いて、圧縮行程で燃焼室内に燃料を噴射供給し、点火栓周りにストイキよりも比較的リッチな(燃料濃度の高い)混合気を層状に形成して、燃焼させる。そして、触媒活性化のための成層ストイキ燃焼においては、具体的には、1燃焼サイクルあたりの吸入空気量で略完全燃焼させることができるトータル燃料量(略ストイキ(理論空燃比)を達成するのに必要な燃料重量)のうち、たとえば略50%ないし略90%の燃料重量を、吸気ポート噴射用燃料噴射弁で吸気通路内に(排気行程もしくは排気行程ないし吸気行程で)噴射供給し、これにより吸気行程中に燃焼室内全体にストイキよりも比較的リーン(希薄)な均質混合気を形成するとともに、残りの略50%ないし略10%の燃料重量を、筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁で燃焼室内に圧縮行程中に噴射供給し、点火栓周りにストイキよりも比較的リッチな(燃料濃度の高い)混合気を層状に形成して燃焼させることが記載されている。すなわち、触媒暖機時においては、筒内燃料噴射弁と吸気通路燃料噴射弁との燃料分担比率は、少なくとも吸気通路燃料噴射弁の方が大きい。
しかしながら、このような筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁(筒内噴射用インジェクタ)と、吸気通路へ燃料を噴射する燃料噴射弁(吸気通路噴射用インジェクタ)とを備えた内燃機関における、排気触媒の早期暖機を実現するためには、このような分担比率が最適なものではない。すなわち、触媒暖機のために最も重要な要因である点火時期について、このような分担比率では十分な遅角を実現できない。
このような触媒暖機においては、通常の運転条件とは異なる条件(たとえば、点火時期の遅角)で内燃機関が制御される。このように急速に触媒を暖機するときには、たとえば点火時期の遅角によるトルクダウンを回避するために燃料量が増量されることがある。繰り返してこのような急速触媒暖機運転を行なうと燃焼状態が通常の状態と異なり、点火プラグにカーボンが付着して着火性が低下したり、ドライバビリティが悪化したりする。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを備えた内燃機関の始動時における排気浄化触媒の急速暖機を良好に実施して、始動時に運転状態を悪化させることがない、内燃機関の制御装置を提供することである。
第1の発明に係る内燃機関の制御装置は、筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段と点火装置とを備えた内燃機関を制御する。この内燃機関の排気系には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の触媒が設けられる。この制御装置は、触媒の暖機要求を検知するための検知手段と、燃料噴射が第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段とで分担されている場合において、暖機要求が検知されたときに、第1の燃料噴射手段の分担の割合を第2の燃料噴射手段の分担の割合と同等以上にするように燃料噴射手段を制御するとともに、点火時期を遅角するように点火装置を制御するための制御手段と、内燃機関の始動を検知するための手段と、始動の状態が予め定められた条件を満足すると、暖機要求に対応する制御を制限するための制限手段とを含む。
第1の発明によると、第1の燃料噴射手段(たとえば筒内噴射用インジェクタ)の分担の割合を第2の燃料噴射手段(たとえば吸気通路噴射用インジェクタ)の分担の割合と同等またはそれより多くなるようにして(たとえば65%を筒内噴射用インジェクタで分担)、筒内噴射用インジェクタを用いて圧縮行程で燃料を噴射する。このようにすると、吸気通路噴射用インジェクタによる均質混合気(全体として空燃比がリーンな混合気)と、筒内噴射用インジェクタによる成層混合気(点火プラグ周りの空燃比がリッチな混合気)とを燃焼室内に形成させることができる。このとき、特に、筒内噴射用インジェクタの比率の方が同等か高いので、点火プラグ周りの混合気の空燃比をよりリッチにできる。さらに、その成層混合気の周りは均質な混合気であるので、火炎の伝播が良好な状態にできる。すなわち、燃料噴霧状態において、点火プラグ周りの空燃比がリッチな混合気層と、均質混合気層との境目においても、燃料の拡散によって空燃比が希薄になる領域が部分的に発生しなくなり、このような領域がないので火炎が伝播しやすく、未燃燃料(HC)が発生しにくい。このような状態においては、点火時期を大きく遅角させることができ、排気温度を容易に上昇させることができる。これは、点火プラグ周りの混合気層の空燃比がストイキよりもリッチな空燃比としているので、主燃焼(点火プラグによる火花点火による着火とその後の火炎伝播による燃焼)の際に不完全燃焼物(CO)が生成され、主燃焼後もこのCOが燃焼室内に残存する。この空燃比がリッチ混合気層の周囲にある、空燃比がリーンな均質混合層には、この主燃焼後も酸素が残存する。この残存COと残存酸素とが主燃焼以降の筒内ガス流動によって混合して再燃焼することにより、排気温度が上昇すると考えられる。排気温度の上昇により、始動開始から触媒が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を抑制しながら、触媒を急速に暖機して、触媒を早期に活性化することができる。触媒の温度が冷えている内燃機関の始動時において、このような暖機運転が行なわれることになるのであるが、このような暖機運転が行なわれる場合に、遅角によるエンジントルク不足を回避するために燃料量が増量されること等により、ドライバビリティが悪化する。そのため、始動の状態が予め定められた条件(たとえば、予め定められた時間内に所定回数以上始動されたという条件)を満足すると、暖機要求に対応する制御を制限する。このようにすると、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。その結果、筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを備えた内燃機関の始動時における排気浄化触媒の急速暖機を良好に実施して、始動時に運転状態を悪化させることがない、内燃機関の制御装置を提供することができる。
第2の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、制御手段は、分担の割合および点火時期を制御するための手段に加えて、燃料噴射手段による噴射時期を制御するための手段をさらに含む。
第2の発明によると、圧縮行程において筒内噴射用インジェクタから噴射された燃料は、点火プラグ周りに空燃比が比較的リッチ(たとえば15.5程度)な混合気を形成できる。そのため、点火時期を大幅に遅角させることができ、排気温度を上昇させて、触媒を急速に暖機して、触媒を早期に活性化することができる。
第3の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、制御手段は、分担の割合および点火時期を制御するための手段に加えて、燃料噴射手段による噴射時期を制御するための手段および内燃機関に供給される燃料噴射量を制御するための手段の少なくともいずれかの手段をさらに含む。
第3の発明によると、暖機要求に対応して点火時期を遅角させるときに発生する内燃機関のトルクダウンを、燃料噴射量を増量することにより、発生させないようにすることができる。
第4の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、制御手段は、分担の割合および点火時期を制御するための手段に加えて、燃料噴射手段による噴射時期を制御するための手段、内燃機関に供給される燃料噴射量を制御するための手段および内燃機関に供給される空気量を制御するための手段の少なくともいずれかの手段をさらに含む。
第4の発明によると、暖機要求に対応して点火時期が遅角させるときに発生する内燃機関のトルクダウンを、供給空気量を増量することにより、発生させないようにすることができる。
第5の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、制限手段は、制御手段による制御を禁止することにより、制御手段による制御を制限するための手段を含む。
第5の発明によると、暖機運転が行なわれる場合に、遅角によるエンジントルク不足を回避するために燃料量が増量されること等により、ドライバビリティが悪化する。そのため、始動の状態が予め定められた条件(たとえば、予め定められた時間内に所定回数以上始動されたという条件)を満足すると、暖機要求に対応する制御を禁止することにより制限する。このようにすると、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第6の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、条件は、予め定められた時間内に、予め定められた回数以上の始動が行なわれたという条件である。
第6の発明によると、予め定められた時間内に、多くの始動が行なわれたときには、暖機要求に対応する運転により、内燃機関の運転状態の変動の度合いが大きい。このため、このような場合には、暖機要求に対応する制御を制限して、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第7の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、制限手段は、制御手段による制御時間を短縮することにより、制御手段による制御を制限するための手段を含む。
第7の発明によると、たとえば、予め定められた時間内に、多くの始動が行なわれたときには、暖機要求に対応する運転により、内燃機関の運転状態の変動の度合いが大きい。このため、このような場合には、暖機要求に対応する制御を、このような制御が行なわれる制御時間を短縮して実行することにより制限して、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第8の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第7の発明の構成に加えて、条件は、予め定められた時間内に、予め定められた回数以上の始動が行なわれたという条件である。制限手段は、始動の回数に応じて短縮時間を決定して、制御時間を短縮するための手段を含む。
第8の発明によると、たとえば、予め定められた時間内に、多くの始動が行なわれたときには、その始動回数が多くなるほど、暖機要求に対応する運転により、内燃機関の運転状態の変動の度合いが大きい。このため、このような場合には、その始動回数が多いほど暖機要求に対応する制御が行なわれる制御時間がより短くなるように実行することにより制限して、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第9の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第4の発明の構成に加えて、制限手段は、分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれかを変化させることにより、制御手段による制御を制限するための手段を含む。
第9の発明によると、分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれかを変化させて、急速な触媒の暖機を行なうことができる。
第10の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第9の発明の構成に加えて、条件は、予め定められた時間内に、予め定められた回数以上の始動が行なわれたという条件である。制限手段は、始動の回数に応じて変化させる対象を決定して、分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれかを変化させるための手段を含む。
第10の発明によると、たとえば、予め定められた時間内に、多くの始動が行なわれたときには、その始動回数が多くなるほど、暖機要求に対応する運転により、内燃機関の運転状態の変動の度合いが大きい。このため、このような場合には、その始動回数に応じて、暖機要求に対応する制御が行なわれる制御対象である、分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれかを通常運転時の状態に戻すことにより制限して、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第11の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第9の発明の構成に加えて、条件は、予め定められた時間内に、予め定められた回数以上の始動が行なわれたという条件である。制限手段は、始動の回数に応じて変化させる量を決定して、分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれかを変化させるための手段を含む。
第11の発明によると、たとえば、予め定められた時間内に、多くの始動が行なわれたときには、その始動回数が多くなるほど、暖機要求に対応する運転により、内燃機関の運転状態が変動の度合いが大きい。このため、このような場合には、その始動回数に応じて、暖機要求に対応する制御が行なわれる制御対象(分担の割合、点火時期、噴射時期、燃料噴射量および空気量の少なくともいずれか)の制御量を通常状態に戻す量(変化させる量)だけ通常運転時の状態に戻すことにより制限して、暖機運転に起因する運転状態の悪化を回避できる。
第12の発明に係る内燃機関の制御装置においては、第1〜11のいずれかの発明の構成に加えて、第1の燃料噴射手段は、筒内噴射用インジェクタであって、第2の燃料噴射手段は、吸気通路用インジェクタである。
第12の発明によると、第1の燃料噴射手段である筒内噴射用インジェクタと第2の燃料噴射手段である吸気通路噴射用インジェクタとを別個に設けて噴射燃料を分担する内燃機関において、内燃機関の始動時における排気浄化触媒の急速暖機を良好に実施して、始動時に運転状態を悪化させることがない、内燃機関の制御装置を提供することができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
<第1の実施の形態>
図1に、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置であるエンジンECU(Electronic Control Unit)で制御されるエンジンシステムの概略構成図を示す。なお、図1には、エンジンとして直列4気筒ガソリンエンジンを示すが、本発明はこのようなエンジンに限定されるものではない。
図1に示すように、エンジン10は、4つの気筒112を備え、各気筒112はそれぞれ対応するインテークマニホールド20を介して共通のサージタンク30に接続されている。サージタンク30は、吸気ダクト40を介してエアクリーナ50に接続され、吸気ダクト40内にはエアフローメータ42が配置されるとともに、電動モータ60によって駆動されるスロットルバルブ70が配置されている。このスロットルバルブ70は、アクセルペダル100とは独立してエンジンECU300の出力信号に基づいてその開度が制御される。一方、各気筒112は共通のエキゾーストマニホールド80に連結され、このエキゾーストマニホールド80は三元触媒コンバータ90に連結されている。
各気筒112に対しては、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ110と、吸気ポートまたは/および吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ120とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ110、120はエンジンECU300の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。また、各気筒内噴射用インジェクタ110は共通の燃料分配管130に接続されており、この燃料分配管130は燃料分配管130に向けて流通可能な逆止弁140を介して、機関駆動式の高圧燃料ポンプ150に接続されている。なお、本実施の形態においては、2つのインジェクタが別個に設けられた内燃機関について説明するが、本発明はこのような内燃機関に限定されない。たとえば、筒内噴射機能と吸気通路噴射機能とを併せ持つような1個のインジェクタを有する内燃機関であってもよい。
図1に示すように、高圧燃料ポンプ150の吐出側は電磁スピル弁152を介して高圧燃料ポンプ150の吸入側に連結されており、この電磁スピル弁152の開度が小さいときほど、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130内に供給される燃料量が増大され、電磁スピル弁152が全開にされると、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130への燃料供給が停止されるように構成されている。なお、電磁スピル弁152はエンジンECU300の出力信号に基づいて制御される。
一方、各吸気通路噴射用インジェクタ120は、共通する低圧側の燃料分配管160に接続されており、燃料分配管160および高圧燃料ポンプ150は共通の燃料圧レギュレータ170を介して、電動モータ駆動式の低圧燃料ポンプ180に接続されている。さらに、低圧燃料ポンプ180は燃料フィルタ190を介して燃料タンク200に接続されている。燃料圧レギュレータ170は低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の一部を燃料タンク200に戻すように構成されており、したがって吸気通路噴射用インジェクタ120に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ150に供給されている燃料圧が上記設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。
エンジンECU300は、デジタルコンピュータから構成され、双方向性バス310を介して相互に接続されたROM(Read Only Memory)320、RAM(Random Access Memory)330、CPU(Central Processing Unit)340、入力ポート350および出力ポート360を備えている。
エアフローメータ42は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、このエアフローメータ42の出力電圧はA/D変換器370を介して入力ポート350に入力される。エンジン10には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ380が取付けられ、この水温センサ380の出力電圧は、A/D変換器390を介して入力ポート350に入力される。
燃料分配管130には燃料分配管130内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ400が取付けられ、この燃料圧センサ400の出力電圧は、A/D変換器410を介して入力ポート350に入力される。三元触媒コンバータ90上流のエキゾーストマニホールド80には、排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ420が取付けられ、この空燃比センサ420の出力電圧は、A/D変換器430を介して入力ポート350に入力される。
本実施の形態に係るエンジンシステムにおける空燃比センサ420は、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。なお、空燃比センサ420としては、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出するO2センサを用いてもよい。
アクセルペダル100は、アクセルペダル100の踏込み量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサ440に接続され、アクセル開度センサ440の出力電圧は、A/D変換器450を介して入力ポート350に入力される。また、入力ポート350には、機関回転数を表わす出力パルスを発生する回転数センサ460が接続されている。エンジンECU300のROM320には、上述のアクセル開度センサ440および回転数センサ460により得られる機関負荷率および機関回転数に基づき、運転状態に対応させて設定されている燃料噴射量の値や機関冷却水温に基づく補正値などが予めマップ化されて記憶されている。
なお、三元触媒コンバータ90は、理論空燃比(A/F(空気重量/燃料重量)=14.7)近傍において排気中のCO、HCの酸化とNOxの還元を行なって排気を浄化することができる三元触媒である。この三元触媒コンバータ90における触媒(プラチナ、ロジウム、パラジウム等)は、ある程度の温度(高温)にならないと、活性化せず、浄化機能が作用しない。
本実施の形態に係る制御装置においては、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とを備えたエンジン10の始動後において、三元触媒コンバータ90を早期に昇温して触媒を活性化させて、排気浄化をエンジン10の始動直後できるだけ早く作用させるにあたり、このような早期昇温処理を制限するものである。三元触媒コンバータ90が活性化したか否かは、三元触媒コンバータ90の排気下流側に、排気中の特定成分(たとえば、酸素)濃度を検知して、、判断することができる。たとえば、三元触媒コンバータ90の下流側に設けた酸素センサが活性化しているか否かを判断する。具体的には、三元触媒コンバータ90が活性化しているか否かを、下流側の酸素センサの検知値号の変化に基づいて判断することになる。これは、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられる酸素センサが活性化したのは、三元触媒コンバータ90の活性化の出口側排気温度の上昇(酸化反応)によるものであるとして、三元触媒コンバータ90が活性化したと判断するものである。
また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等を検知して三元触媒コンバータ90の温度を推定し、その結果に基づいて三元触媒コンバータ90の活性化を判断することができる。さらには、直接的に三元触媒コンバータ90の温度(出口温度)を検知することによっても三元触媒コンバータ90の活性化を判断することができる。
このエンジン10は、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで燃料を分担して噴射する。エンジンECU300のROM320に記憶される、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率(以下、直噴比率、DI比率、DI比率r(または単にr)とも記載する。)を表わすマップについて説明する。このようなマップは、たとえば、エンジン回転数を横軸にして、負荷率を縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率が直噴比率(DI比率r)として百分率で示されている。
エンジン回転数と負荷率とにより定まる運転領域ごとに、直噴比率(DI比率r)が設定されている。「直噴100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からのみ燃料噴射が行なわれる領域(r=1.0、r=100%)であることを意味し、「直噴0〜20%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射が、全噴射量の0〜20%である領域(r=0〜0.2)であることを意味している。たとえば、「直噴40%」とは、筒内噴射用インジェクタ110から全噴射量の40%が噴射され、吸気通路噴射用インジェクタ120から全噴射量の60%が噴射されることを示す。なお、このようなマップの詳細については後述する。
図2を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるエンジンECU300で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、エンジンECU300は、始動カウンタCを初期化(C=0)する。
S110にて、エンジンECU300は、エンジン10が始動されたか否かを判断する。このとき、他のECUからエンジンECU300に入力されるエンジン始動要求信号や、エンジンECU300自体により処理された結果に基づいて判断される。エンジン10が始動されると(S110にてYES)、処理はS120へ移される。もしそうでないと(S110にてNO)、この処理は終了する。
S120にて、エンジンECU300は、急速触媒暖機が必要であるか否かを判断する。このとき、上述したように、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられた酸素センサの検知値号の変化に基づいて三元触媒コンバータ90が活性化していないと、急速触媒暖機は必要であると判断される。また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等から急速触媒暖機が必要であるか否かを判断するようにしてもよい。触媒急速暖機が必要であると(S120にてYES)、処理はS130へ移される。もしそうでないと(S120にてNO)、処理はS180へ移される。
S130にて、エンジンECU300は、始動カウンタCに1を加算する。
S140にて、エンジンECU300は、エンジン10が始動されてから予め定められた時間が経過したか否かを判断する。予め定められた時間が経過していると(S140にてYES)、処理はS160へ移される。もしそうでないと(S140にてNO)、処理はS150へ移される。この予め定められた時間は、始動カウンタCで監視する時間である。この時間内に所定回数(しきい値C(1))よりも多く始動されると、急速触媒暖機運転が禁止される。
S150にて、エンジンECU300は、始動カウンタCの値がしきい値C(1)よりも大きいか否かを判断する。始動カウンタCの値がしきい値C(1)よりも大きいと(S150にてYES)、処理はS170へ移される。もしそうでないと(S150にてNO)、処理はS160へ移される。
S160にて、エンジンECU300は、急速触媒暖機処理を実行する。このとき、たとえば、図3に示すように、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により制御される。なお、この図3におけるDI比率の値は一例であって、50%以上(筒内噴射用インジェクタ110の分担の割合を吸気通路噴射用インジェクタ120の分担の割合と同等以上)であればよい。また、燃料量減量については、一例として、排気における空燃比が15.5程度のリーンな状態にすればよい。このように減量することにより、未燃HCを減少させることにもなる。なお、エンジン10の始動直後は増量補正(エンジン10の始動時にトルクが要求されることに対応するための増量補正や壁面付着に対応するための増量補正)されるが、始動時を経過して始動時のトルクが要求されなくなったり、壁面付着燃料が飽和したりするため、燃料量が減量される。このように、筒内噴射用インジェクタ110からの圧縮行程における燃料噴射量を減量しても、着火に必要な燃料量だけが点火プラグ付近に存在し、リーン限界が高くなるので失火しない。そして、触媒暖機に寄与する後燃え用の燃料(吸気通路噴射用インジェクタ120から供給される分)が(増量補正によって)要求量だけ供給されている。この後燃え燃料があるので、触媒暖機を達成することができる。
S170にて、エンジンECU300は、急速触媒暖機を禁止する。その後、処理は、S180へ移される。
S180にて、エンジンECU300は、エンジン10に対して通常の運転処理を実行する。このとき、一時的に急速触媒暖機用に設定されていた、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により通常運転用に戻される。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるエンジンECU300により制御されるエンジン10の動作について説明する。なお、以下の説明においては、急速触媒暖機を必要とする場合のエンジン10の始動時の動作について説明する。
始動カウンタCが初期化されて(S100)、エンジン10が始動して(S110にてYES)、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられた酸素センサの検知値号の変化に基づいて三元触媒コンバータ90が活性化していないと、急速触媒暖機は必要であると判断される(S120にてYES)。このような場合、図3に示すような値になるように、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により制御される。
このように制御されたエンジンにおいては、筒内噴射用インジェクタ110の分担の割合を吸気通路噴射用インジェクタ120の分担の割合と同等またはそれより多い65%程度になるようにして、筒内噴射用インジェクタ110から圧縮行程で燃料を筒内に噴射する。吸気通路噴射用インジェクタ120から吸気行程で燃料を吸気管内に噴射する。このとき、吸気通路噴射用インジェクタ120による全体として空燃比がリーンで均質状態の混合気と、筒内噴射用インジェクタ110による点火プラグ周りの空燃比がリッチな成層状態の混合気とが燃焼室内で形成される。点火プラグでの点火時期を大きく遅角(たとえば、ATDC15゜)しても、筒内噴射用インジェクタ110の比率の方が同等か高いので、点火プラグ周りの混合気の空燃比をよりリッチであり、さらに、その点火プラグ周りの混合気の周りは、吸気通路噴射用インジェクタ120により形成された均質な混合気であるので、火炎の伝播を良好にできる。このように火炎が伝播しやすく、未燃燃料(HC)が発生しにくい。点火時期を大きく遅角させることにより、排気温度は上昇する。さらに、このように点火時期を大きく遅角することによりエンジン10の出力(トルク)が低下するが、燃料量を減量して未燃HCを減少させたり、吸入空気量を増量してトルクダウンを回避させたりしている。排気温度の上昇により、始動開始から触媒が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を抑制しながら、触媒を急速に暖機して、触媒を急速に活性化できる。
このような急速触媒暖機処理が、継続している場合であっても、一旦終了した場合であっても、予め定められた時間が経過するまでに(S140にてNO)、エンジン10の始動が繰り返し行なわれて、始動カウンタCがしきい値C(1)を越えてしまうと(S150にてYES)、このような急速触媒暖機処理が禁止されて(S170)、一時的に急速触媒暖機用に設定されていた、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により通常運転用に戻される。
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンECUを搭載した車両において、エンジンを始動したときに、排気浄化触媒の急速暖機が必要な場合には、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射分担率が吸気通路噴射用インジェクタの燃料噴射分担率と同等かそれ以上になるように設定される。このようにすると、吸気通路噴射用インジェクタによる全体として空燃比がリーンで均質状態の混合気と、筒内噴射用インジェクタによる点火プラグ周りの空燃比がリッチな成層状態の混合気とを燃焼室内に形成させることができる。このとき、点火プラグ周りの混合気の空燃比をよりリッチにできる。その点火プラグの周りの混合気は均質(弱成層)であるので、火炎が伝播しやすく、未燃燃料(HC)が発生しにくい。このような状態において、点火時期を大きく遅角させることにより排気温度を上昇させることができ排気浄化触媒を従来技術よりも急速に暖機することができる。
このような場合において、エンジンの始動が繰り返されると、急速暖機が繰り返し行なわれるが、これによりエンジンおよび車両の運転状態が変動(悪化)するので、このような場合(短い時間の間に多くの始動回数を検知した場合)には、急速暖機が繰り返し行なわれないように、急速暖機を禁止してしまい、エンジンおよび車両の運転状態の悪化を回避することができる。
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態に係る内燃機関の制御装置であるエンジンECUで制御されるエンジンシステムについて説明する。なお、本実施の形態に係るエンジンシステムの概略構成図は、前述の第1の実施の形態に係るエンジンシステムと概略構成図(図1)と同じである。したがって、それについての詳細な説明はここでは繰り返さない。
本実施の形態に係るエンジンシステムのエンジンECUは、前述の第1の実施の形態に係るエンジンシステムのエンジンECUとは異なるプログラムを実行する。以下、この点について説明する。
図4を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるエンジンECU300で実行されるプログラムの制御構造について説明する。なお、図4に示すフローチャートで前述の図2のフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付している。その処理の内容も同じである。したがってそれらの処理についての説明はここでは繰り返さない。
S200にて、エンジンECU300は、始動カウンタCの値がしきい値C(2)よりも大きいか否かを判断する。始動カウンタCの値がしきい値C(2)よりも大きいと(S200にてYES)、処理はS210へ移される。もしそうでないと(S200にてNO)、処理はS160へ移される。
S210にて、エンジンECU300は、始動カウンタCの値に基づいて、急速触媒暖機制限処理を実行する。具体的には、始動カウンタCの値がしきい値C(2)を越えて、大きいほど、急速触媒処理を実行している制御時間をより短くなるようにして、急速暖機制御を制限する。また、始動カウンタCの値に対応させて、急速触媒処理を実行するときに変化させるパラメータである、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rの中のいずれか1つまたは複数のパラメータを特定する。特定されたパラメータは、通常運転の値に戻して、急速暖機制御を制限する。たとえば、具体的には、始動カウンタCの値がしきい値C(2)を越えて大きくなるにしたがって、運転状態に及ぼす影響が小さいパラメータを特定するようにしたり、影響が大きいパラメータを特定するようにしたりする。さらに、始動カウンタCの値に対応させて、急速触媒処理を実行するときに変化させるパラメータである、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rの制御目標値を抑制するようにすることもできる。具体的には、始動カウンタCの値がしきい値C(2)を越えて大きくなるにしたがって、点火時期を大きく遅角している状態から徐々に進角側に変更することである。
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンシステムによると、エンジンの始動回数に応じて、急速触媒暖機を制限するので、運転状態の変動を最小限に抑制しながら、急速な触媒の暖機を行なうことができる。
<この制御装置が適用されるに適したエンジン(その1)>
以下、本実施の形態に係る制御装置が適用されるに適したエンジン(その1)について説明する。
図5および図6を参照して、エンジン10の運転状態に対応させた情報である、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率(以下、DI比率rまたは単にrと記載する。)を表わすマップについて説明する。これらのマップは、エンジンECU300のROM320に記憶される。図5は、エンジン10の温間用マップであって、図6は、エンジン10の冷間用マップである。
図5および図6に示すように、これらのマップは、エンジン10の回転数を横軸にして、負荷率を縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率がDI比率rとして百分率で示されている。
図5および図6に示すように、エンジン10の回転数と負荷率とに定まる運転領域ごとに、DI比率rが設定されている。「DI比率r=100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味し、「DI比率r=0%」とは、吸気通路噴射用インジェクタ120からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味する。「DI比率r≠0%」、「DI比率r≠100%」および「0%<DI比率r<100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで燃料噴射が分担して行なわれる領域であることを意味する。なお、概略的には、筒内噴射用インジェクタ110は、出力性能の上昇に寄与し、吸気通路噴射用インジェクタ120は、混合気の均一性に寄与する。このような特性の異なる2種類のインジェクタを、エンジン10の回転数と負荷率とで使い分けることにより、エンジン10が通常運転状態(たとえば、アイドル時の触媒暖機時が、通常運転状態以外の非通常運転状態の一例であるといえる)である場合には、均質燃焼のみが行なわれるようにしている。
さらに、これらの図5および図6に示すように、温間時のマップと冷間時のマップとに分けて、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120のDI分担率rを規定した。エンジン10の温度が異なると、筒内噴射用インジェクタ110および吸気通路噴射用インジェクタ120の制御領域が異なるように設定されたマップを用いて、エンジン10の温度を検知して、エンジン10の温度が予め定められた温度しきい値以上であると図5の温間時のマップを選択して、そうではないと図6に示す冷間時のマップを選択する。それぞれ選択されたマップに基づいて、エンジン10の回転数と負荷率とに基づいて、筒内噴射用インジェクタ110および/または吸気通路噴射用インジェクタ120を制御する。
図5および図6に設定されるエンジン10の回転数と負荷率について説明する。図5のNE(1)は2500〜2700rpmに設定され、KL(1)は30〜50%、KL(2)は60〜90%に設定されている。また、図6のNE(3)は2900〜3100rpmに設定されている。すなわち、NE(1)<NE(3)である。その他、図5のNE(2)や、図6のKL(3)、KL(4)も適宜設定されている。
図5および図6を比較すると、図5に示す温間用マップのNE(1)よりも図6に示す冷間用マップのNE(3)の方が高い。これは、エンジン10の温度が低いほど、吸気通路噴射用インジェクタ120の制御領域が高いエンジン回転数の領域まで拡大されるということを示す。すなわち、エンジン10が冷えている状態であるので、(たとえ、筒内噴射用インジェクタ110から燃料を噴射しなくても)筒内噴射用インジェクタ110の噴口にデポジットが堆積しにくい。このため、吸気通路噴射用インジェクタ120を使って燃料を噴射する領域を拡大するように設定され、均質性を向上させることができる。
図5および図6を比較すると、エンジン10の回転数が、温間用マップにおいてはNE(1)以上の領域において、冷間用マップにおいてはNE(3)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。また、負荷率が、温間用マップにおいてはKL(2)以上の領域において、冷間用マップにおいてはKL(4)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。これは、予め定められた高エンジン回転数領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されること、予め定められた高エンジン負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されるということを示す。すなわち、高回転領域や高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ110のみで燃料を噴射しても、エンジン10の回転数や負荷が高く吸気量が多いので筒内噴射用インジェクタ110のみでも混合気を均質化しやすいためである。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
図5に示す温間マップでは、負荷率KL(1)以下では、筒内噴射用インジェクタ110のみが用いられる。これは、エンジン10の温度が高いときであって、予め定められた低負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されるということを示す。これは、温間時においてはエンジン10が暖まった状態であるので、筒内噴射用インジェクタ110の噴口にデポジットが堆積しやすい。しかしながら、筒内噴射用インジェクタ110を使って燃料を噴射することにより噴口温度を低下させることができるので、デポジットの堆積を回避することも考えられ、また、筒内噴射用インジェクタの最小燃料噴射量を確保して、筒内噴射用インジェクタ110を閉塞させないことも考えられ、このために、筒内噴射用インジェクタ110を用いた領域としている。
図5および図6を比較すると、図6の冷間用マップにのみ「DI比率r=0%」の領域が存在する。これは、エンジン10の温度が低いときであって、予め定められた低負荷領域(KL(3)以下)では吸気通路噴射用インジェクタ120のみが使用されるということを示す。これはエンジン10が冷えていてエンジン10の負荷が低く吸気量も低いため燃料が霧化しにくい。このような領域においては筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射では良好な燃焼が困難であるため、また、特に低負荷および低回転数の領域では筒内噴射用インジェクタ110を用いた高出力を必要としないため、筒内噴射用インジェクタ110を用いないで、吸気通路噴射用インジェクタ120のみを用いる。
また、通常運転時以外の場合、エンジン10がアイドル時の触媒暖機時の場合(非通常運転状態であるとき)、成層燃焼を行なうように筒内噴射用インジェクタ110が制御される。このような触媒暖機運転中にのみ成層燃焼させることで、触媒暖機を促進させ、排気エミッションの向上を図る。
<この制御装置が適用されるに適したエンジン(その2)>
以下、本実施の形態に係る制御装置が適用されるに適したエンジン(その2)について説明する。なお、以下のエンジン(その2)の説明において、エンジン(その1)と同じ説明については、ここでは繰り返さない。
図7および図8を参照して、エンジン10の運転状態に対応させた情報である、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率を表わすマップについて説明する。これらのマップは、エンジンECU300のROM320に記憶される。図7は、エンジン10の温間用マップであって、図8は、エンジン10の冷間用マップである。
図7および図8を比較すると、以下の点で図5および図6と異なる。エンジン10の回転数が、温間用マップにおいてはNE(1)以上の領域において、冷間用マップにおいてはNE(3)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。また、負荷率が、温間用マップにおいては低回転数領域を除くKL(2)以上の領域において、冷間用マップにおいては低回転数領域を除くKL(4)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。これは、予め定められた高エンジン回転数領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されること、予め定められた高エンジン負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用される領域が多いことを示す。しかしながら、低回転数領域の高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料により形成される混合気のミキシングが良好ではなく、燃焼室内の混合気が不均質で燃焼が不安定になる傾向を有する。このため、このような問題が発生しない高回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタの噴射比率を増大させるようにしている。また、このような問題が発生する高負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を減少させるようにしている。これらのDI比率rの変化を図7および図8に十字の矢印で示す。このようにすると、燃焼が不安定であることに起因するエンジンの出力トルクの変動を抑制することができる。なお、これらのことは、予め定められた低回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を減少させることや、予め定められた低負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を増大させることと、略等価であることを確認的に記載する。また、このような領域(図7および図8で十字の矢印が記載された領域)以外の領域であって筒内噴射用インジェクタ110のみで燃料を噴射している領域(高回転側、低負荷側)においては、筒内噴射用インジェクタ110のみでも混合気を均質化しやすい。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
なお、図5〜図8を用いて説明したこのエンジン10においては、均質燃焼は筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを吸気行程とすることにより、成層燃焼は筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程とすることにより実現できる。すなわち、筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程とすることで、点火プラグ周りにリッチ混合気が偏在させることにより燃焼室全体としてはリーンな混合気に着火する成層燃焼を実現することができる。また、筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを吸気行程としても点火プラグ周りにリッチ混合気を偏在させることができれば、吸気行程噴射であっても成層燃焼を実現できる。
また、ここでいう成層燃焼には、成層燃焼と以下に示す弱成層燃焼の双方を含むものである。弱成層燃焼とは、吸気通路噴射用インジェクタ120を吸気行程で燃料噴射して燃焼室全体にリーンで均質な混合気を生成して、さらに筒内噴射用インジェクタ110を圧縮行程で燃料噴射して点火プラグ周りにリッチな混合気を生成して、燃焼状態の向上を図るものである。このような弱成層燃焼は触媒暖機時に好ましい。これは、以下の理由による。すなわち、触媒暖機時には高温の燃焼ガスを触媒に到達させるために点火時期を大幅に遅角させ、かつ良好な燃焼状態(アイドル状態)を維持する必要がある。また、ある程度の燃料量を供給する必要がある。これを成層燃焼で行なおうとしても燃料量が少ないという問題があり、これを均質燃焼で行なおうとしても良好な燃焼を維持するために遅角量が成層燃焼に比べて小さいという問題がある。このような観点から、上述した弱成層燃焼を触媒暖機時に用いることが好ましいが、成層燃焼および弱成層燃焼のいずれであっても構わない。
また、図5〜図8を用いて説明したエンジンにおいては、筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射のタイミングは、以下のような理由により、圧縮行程で行なうことが好ましい。ただし、上述したエンジン10は、基本的な大部分の領域には(触媒暖機時にのみに行なわれる、吸気通路噴射用インジェクタ120を吸気行程噴射させ、筒内噴射用インジェクタ110を圧縮行程噴射させる弱成層燃焼領域以外を基本的な領域という)、筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射のタイミングは、吸気行程である。しかしながら、以下に示す理由があるので、燃焼安定化を目的として一時的に筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程噴射とするようにしてもよい。
筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射時期を圧縮工程中とすることで、筒内温度がより高い時期において、燃料噴射により混合気が冷却される。冷却効果が高まるので、対ノック性を改善することができる。さらに、筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射時期を圧縮工程中とすると、燃料噴射から点火時期までの時間が短いことから噴霧による気流の強化を実現でき、燃焼速度を上昇させることができる。これらの対ノック性の向上と燃焼速度の上昇とから、燃焼変動を回避して、燃焼安定性を向上させることができる。
さらに、エンジン10の温度によらず(すなわち、温間時および冷間時のいずれの場合であっても)、オフアイドル時(アイドルスイッチがオフの場合、アクセルペダルが踏まれている場合)には、図5または図7に示す温間マップを用いるようにしてもよい(冷間温間を問わず、低負荷領域において筒内噴射用インジェクタ110を用いる)。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 エンジン、20 インテークマニホールド、30 サージタンク、40 吸気ダクト、42 エアフローメータ、50 エアクリーナ、60 電動モータ、70 スロットルバルブ、80 エキゾーストマニホールド、90 三元触媒コンバータ、100 アクセルペダル、110 筒内噴射用インジェクタ、112 気筒、120 吸気通路噴射用インジェクタ、130 燃料分配管、140 逆止弁、150 高圧燃料ポンプ、152 電磁スピル弁、160 燃料分配管(低圧側)、170 燃料圧レギュレータ、180 低圧燃料ポンプ、190 燃料フィルタ、200 燃料タンク、300 エンジンECU、310 双方向性バス、320 ROM、330 RAM、340 CPU、350 入力ポート、360 出力ポート、370,390,410,430,450 A/D変換器、380 水温センサ、400 燃料圧センサ、420 空燃比センサ、440 アクセル開度センサ、460 回転数センサ。