以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰り返さない。
図1に、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置であるエンジンECU(Electronic Control Unit)で制御されるエンジンシステムの概略構成図を示す。なお、図1に
は、エンジンとして直列4気筒ガソリンエンジンを示すが、本発明はこのようなエンジンに限定されるものではない。
図1に示すように、エンジン10は、4つの気筒112を備え、各気筒112はそれぞれ対応するインテークマニホールド20を介して共通のサージタンク30に接続されている。サージタンク30は、吸気ダクト40を介してエアクリーナ50に接続され、吸気ダクト40内にはエアフローメータ42が配置されるとともに、電動モータ60によって駆動されるスロットルバルブ70が配置されている。このスロットルバルブ70は、アクセルペダル100とは独立してエンジンECU300の出力信号に基づいてその開度が制御される。一方、各気筒112は共通のエキゾーストマニホールド80に連結され、このエキゾーストマニホールド80は三元触媒コンバータ90に連結されている。
各気筒112に対しては、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ110と、吸気ポートまたは/および吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ120とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ110、120はエンジンECU300の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。また、各気筒内噴射用インジェクタ110は共通の燃料分配管130に接続されており、この燃料分配管130は燃料分配管130に向けて流通可能な逆止弁140を介して、機関駆動式の高圧燃料ポンプ150に接続されている。なお、本実施の形態においては、2つのインジェクタが別個に設けられた内燃機関について説明するが、本発明はこのような内燃機関に限定されない。たとえば、筒内噴射機能と吸気通路噴射機能とを併せ持つような1個のインジェクタを有する内燃機関であってもよい。
図1に示すように、高圧燃料ポンプ150の吐出側は電磁スピル弁152を介して高圧燃料ポンプ150の吸入側に連結されており、この電磁スピル弁152の開度が小さいときほど、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130内に供給される燃料量が増大され、電磁スピル弁152が全開にされると、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130への燃料供給が停止されるように構成されている。なお、電磁スピル弁152はエンジンECU300の出力信号に基づいて制御される。
一方、各吸気通路噴射用インジェクタ120は、共通する低圧側の燃料分配管160に接続されており、燃料分配管160および高圧燃料ポンプ150は共通の燃料圧レギュレータ170を介して、電動モータ駆動式の低圧燃料ポンプ180に接続されている。さらに、低圧燃料ポンプ180は燃料フィルタ190を介して燃料タンク200に接続されている。燃料圧レギュレータ170は低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の一部を燃料タンク200に戻すように構成されており、したがって吸気通路噴射用インジェクタ120に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ150に供給されている燃料圧が上記設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。
エンジンECU300は、デジタルコンピュータから構成され、双方向性バス310を介して相互に接続されたROM(Read Only Memory)320、RAM(Random Access Memory)330、CPU(Central Processing Unit)340、入力ポート350および出力ポート360を備えている。
エアフローメータ42は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、このエアフローメータ42の出力電圧はA/D変換器370を介して入力ポート350に入力される。エンジン10には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ380が取付けられ、この水温センサ380の出力電圧は、A/D変換器390を介して入力ポート350に入力される。
燃料分配管130には燃料分配管130内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ400が取付けられ、この燃料圧センサ400の出力電圧は、A/D変換器410を介して入力ポート350に入力される。三元触媒コンバータ90上流のエキゾーストマニホールド80には、排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ420が取付けられ、この空燃比センサ420の出力電圧は、A/D変換器430を介して入力ポート350に入力される。
本実施の形態に係るエンジンシステムにおける空燃比センサ420は、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。なお、空燃比センサ420としては、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出するO2センサを用いてもよい。
アクセルペダル100は、アクセルペダル100の踏込み量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサ440に接続され、アクセル開度センサ440の出力電圧は、A/D変換器450を介して入力ポート350に入力される。また、入力ポート350には、機関回転数を表わす出力パルスを発生する回転数センサ460が接続されている。エンジンECU300のROM320には、上述のアクセル開度センサ440および回転数センサ460により得られる機関負荷率および機関回転数に基づき、運転状態に対応させて設定されている燃料噴射量の値や機関冷却水温に基づく補正値などが予めマップ化されて記憶されている。
エンジンECU300は、所定プログラムの実行により各センサからの信号に基づいて、エンジンシステムの全体動作を制御するための各種制御信号を生成する。これらの制御信号は、出力ポート360および駆動回路470を介して、エンジンシステムを構成する機器・回路群へ送出される。
また、図1に例示するエンジン10は、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで燃料を分担して噴射する。エンジンECU300のROM320に記憶される、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率(以下、直噴比率、DI比率、DI比率r(または単にr)とも記載する。)を表わすマップについて説明する。このようなマップは、たとえば、エンジン回転数を横軸にして、負荷率を縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率が直噴比率(DI比率r)として百分率で示されている。
エンジン回転数と負荷率とにより定まる運転領域ごとに、直噴比率(DI比率r)が設定されている。「直噴100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からのみ燃料噴射が行なわれる領域(r=1.0、r=100%)であることを意味し、「直噴0〜20%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射が、全噴射量の0〜20%である領域(r=0〜0.2)であることを意味している。たとえば、「直噴40%」とは、筒内噴射用インジェクタ110から全噴射量の40%が噴射され、吸気通路噴射用インジェクタ120から全噴射量の60%が噴射されることを示す。
概略的には、筒内噴射用インジェクタ110が出力性能の上昇に寄与し、吸気通路噴射用インジェクタ120は、混合気の均一性向上に寄与する。このような特性の異なる2種類のインジェクタを内燃機関の回転数および負荷率で使い分けることにより、内燃機関の通常運転状態(たとえば、アイドル時の触媒暖機時が通常運転状態以外の非運転状態の一例であると言える)場合には、主に均質燃焼運転が行なわれるようにしている。なお、DI比率の好ましい設定(マップ構成例)については後ほど詳細に説明する。
なお、三元触媒コンバータ90は、理論空燃比(A/F(空気重量/燃料重量)=14.7)近傍において排気中のCO、HCの酸化とNOxの還元を行なって排気を浄化することができる三元触媒である。この三元触媒コンバータ90における触媒(プラチナ、ロジウム、パラジウム等)は、ある程度の温度(高温)にならないと、活性化せず、浄化機能が作用しない。
本実施の形態に係る制御装置においては、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とを備えたエンジン10の始動後において、三元触媒コンバータ90を早期に昇温して触媒を活性化させて、排気浄化をエンジン10の始動直後できるだけ早く作用させるための急速触媒暖機運転を行なうものである。
なお、三元触媒コンバータ90が活性化したか否かは、三元触媒コンバータ90の排気下流側に、排気中の特定成分(たとえば、酸素)濃度を検知して、判断することができる。たとえば、三元触媒コンバータ90の下流側に設けた酸素センサが活性化しているか否かを判断する。具体的には、三元触媒コンバータ90が活性化しているか否かを、下流側の酸素センサの検知値号の変化に基づいて判断することになる。これは、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられる酸素センサが活性化したのは、三元触媒コンバータ90の活性化の出口側排気温度の上昇(酸化反応)によるものであるとして、三元触媒コンバータ90が活性化したと判断するものである。
また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等を検知して三元触媒コンバータ90の温度を推定し、その結果に基づいて三元触媒コンバータ90の活性化を判断することができる。さらには、直接的に三元触媒コンバータ90の温度(出口温度)を検知することによっても三元触媒コンバータ90の活性化を判断することができる。
次に図2を用いて、本発明の実施の形態に係る制御装置であるエンジンECU300で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
図2を参照して、ステップS(以下、ステップをSと略す。)100にて、エンジンECU300は、エンジン10がアイドル運転(無負荷運転)であるかどうかを判断する。このとき、S100の判断は、スロットルバルブ70の開度(スロットル開度)、アクセル開度センサ440の出力や、図示しないシフト選択レバーの操作によって選択されたシフトポジション等に基づいて実行される。代表的には、スロットル開度=0であり、かつ、中立ポジション(代表的には、“P(パーキング)”,“N(ニュートラル)”ポジション)選択時に、アイドル運転が行なわれる。
アイドル時には(S100にてYES)、処理はS110へ移される。一方、非アイドル時には(S100にてNO)、この処理は終了される。
S110にて、エンジンECU300は、急速触媒暖機必要条件の成立を判定することにより、急速触媒暖機が必要な状況であるか否かを判断する。このとき、上述したように、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられた酸素センサの検知値号の変化に基づいて三元触媒コンバータ90が活性化していないと、急速触媒暖機は必要であると判断される。また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等から急速触媒暖機が必要であるか否かを判断するようにしてもよい。
触媒急速暖機が必要であると(S110にてYES)、処理はS120へ移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理は後述するS170へ移される。
S120にて、エンジンECU300は、今回のアイドル運転がエンジン始動後、初回のものであるか否かを判定する。たとえば、エンジン始動時に“オン”され、非アイドル運転とされたときに“オフ”されて、以降エンジン停止まで“オフ”を維持されるような初回アイドルフラグを設けることにより、S120による判断は実行される。
このような初回アイドルフラグが“オン”されている初回アイドル時(S120にてYES)には、エンジンECU300は、S130により、移行ディレイ期間TdをTd=T1に設定する。
これに対して、初回アイドルフラグが“オフ”されている初回アイドル以降のアイドル時(S120にてNO)には、エンジンECU300は、S140により、移行ディレイ期間TdをTd=T2(T2>T1)に設定する。なお、移行ディレイ期間Tdは、タイマー(図示せず)によって計時される経過時間、あるいは燃料噴射回数または点火回数(経過サイクル数)等として決定できる。
S110による急速触媒暖機必要条件の成立から、S130またはS140により設定された移行ディレイ期間Tdが経過すると、エンジンECU300は、S150にて、急速触媒暖機処理を実行する。このとき、たとえば、図3に示すように、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により制御される。
なお、図3におけるDI比率の値は一例であるが、50%以上(筒内噴射用インジェクタ110の分担の割合を吸気通路噴射用インジェクタ120の分担の割合と同等以上)であることが好ましい。また、燃料量減量については、一例として、排気における空燃比が15.5程度のリーンな状態にすればよい。このように減量することにより、未燃HCを減少させることにもなる。なお、エンジン10の始動直後は増量補正(エンジン10の始動時にトルクが要求されることに対応するための増量補正や壁面付着に対応するための増量補正)されるが、始動時を経過して始動時のトルクが要求されなくなったり、壁面付着燃料が飽和したりするため、燃料量が相対的に減量される。
このような増量補正は、増量係数kの設定により制御される。すなわち、k=1.0のときに、急速触媒暖機での燃料噴射量は、上述のリーンな状態の所定空燃比(15.5程度)に従った量となり、k>1.0のときには、このような基準となる所定空燃比に対応した量よりも燃料噴射量が増量される。
上記のように、筒内噴射用インジェクタ110からの圧縮行程における燃料噴射量を減量(空燃比リーン化)しても、着火に必要な燃料量だけが点火プラグ付近に存在し、リーン限界が高くなるので失火しない。そして、触媒暖機に寄与する後燃え用の燃料(吸気通路噴射用インジェクタ120から供給される分)が(増量補正によって)要求量だけ供給されている。この後燃え燃料があるので、触媒暖機を達成することができる。
S160にて、エンジンECU300は、急速触媒暖機終了条件の成立を判定することにより、急速触媒暖機を終了するか否かを判断する。このとき、上述したように、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられた酸素センサの検知値号の変化に基づいて三元触媒コンバータ90が活性化していると、急速触媒暖機は終了すると判断される。また、エンジン冷却水の水温もしくはエンジンオイルの油温等から急速触媒暖機を終了するか否かを判断するようにしてもよい。さらに、エンジン冷却水の水温が始動時より予め定められた値以上上昇した否かに基づいて、急速触媒暖機を終了するか否かを判断するようにしてもよい。さらに、吸入空気量の積算値に基づいて、エンジン10が予め定められた時間以上運転していか否かを判断することにより、急速触媒暖機を終了するか否かを判断するようにしてもよい。
触媒急速暖機を終了すると判断されると(S160にてYES)、処理はS170へ移される。もしそうでないと(S160にてNO)、処理はS150へ戻される。
S170にて、エンジンECU300は、エンジン10に対して通常の運転処理を実行する。このとき、一時的に急速触媒暖機用に設定されていた、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により通常運転用に戻される。
なお、急速触媒暖機は、アイドル運転時に限定して実行される。このため、フローチャート中には図示しないが、急速触媒暖機運転中に運転者のアクセル操作やシフトポジション操作により非アイドル運転となった場合には、急速触媒暖機は強制的に終了されて、処理はS170へ移される。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるエンジンECU300により制御されるエンジン10の動作について説明する。なお、以下の説明においては、急速触媒暖機を必要とする場合のエンジン10のアイドル運転時の動作について説明する。
エンジン10のアイドル時(S100にてYES)、三元触媒コンバータ90の下流側に設けられた酸素センサの検知値号の変化に基づいて三元触媒コンバータ90が活性化していないと、急速触媒暖機は必要であると判断される(S110にてYES)。このような場合、図3に示すような急速触媒暖機に適した設定となるように、点火時期、筒内噴射用インジェクタ110の噴射時期、燃料噴射量、供給空気量、DI比率rが、エンジンECU300により制御される(S150)。
このように制御されたエンジンにおいては、筒内噴射用インジェクタ110の分担の割合を吸気通路噴射用インジェクタ120の分担の割合と同等またはそれより多い65%程度になるようにして、筒内噴射用インジェクタ110から圧縮行程で燃料を筒内に噴射する。吸気通路噴射用インジェクタ120から吸気行程で燃料を吸気管内に噴射することが好ましい。このとき、吸気通路噴射用インジェクタ120による全体として空燃比がリーンで均質状態の混合気と、筒内噴射用インジェクタ110による点火プラグ周りの空燃比がリッチな成層状態の混合気とが燃焼室内で形成される(このような燃焼状態は、「弱成層燃焼状態」とも称される)。点火プラグでの点火時期を大きく遅角(たとえば、ATDC15゜)しても、筒内噴射用インジェクタ110の比率の方が同等か高いので、点火プラグ周りの混合気の空燃比をよりリッチであり、さらに、その点火プラグ周りの混合気の周りは、吸気通路噴射用インジェクタ120により形成された均質な混合気であるので、火炎の伝播を良好にできる。このように火炎が伝播しやすく、未燃燃料(HC)が発生しにくい。点火時期を大きく遅角させることにより、排気温度は上昇する。さらに、このように点火時期を大きく遅角することによりエンジン10の出力(トルク)が低下するが、燃料量を減量して未燃HCを減少させたり、吸入空気量を増量してトルクダウンを回避させたりしている。排気温度の上昇により、始動開始から触媒が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を抑制しながら、触媒を急速に暖機して、触媒を急速に活性化できる。
このような急速触媒暖機に適したエンジン制御(図3)への移行時における、本発明の実施の形態によるディレイ期間の設定について図4を用いて説明する。
図4を参照して、アイドル運転時(S100のYES時)にオンされるアイドル回転数制御(ISC)のオン・オフに示されるように、エンジン始動後、時刻t0〜t1の期間において初回のアイドル運転が行なわれる。たとえば、時刻t1において、シフトポジション選択が中立ポジション(“P”,“N”等)から、走行ポジション(“D”,“R”等)へ切換えられるのに応じて、アイドル運転は一旦終了される。その後、時刻t2に中立ポジションが再び選択されるのに応じて、初回以降のアイドル運転が実行される。初回アイドルフラグは、エンジン始動から初回のアイドル運転が終了される時刻t1までオンされる一方で、時刻t1以降ではオフに維持される。
なお、図4の例では、時刻t0〜t1のアイドル運転では急速触媒暖機は終了しておらず(図2のS160がNO)、時刻t2からのアイドル運転においても急速触媒暖機が要求されている(図2のS110がYES)ものとする。また、時刻t1でのアイドル運転終了は、シフトポジション選択の切換えのみならず、中立ポジションが選択されたままの状態でスロットル開度が増加しても引き起こされる。
初回のアイドル運転開始時(時刻t0近傍)では、エンジン回転数が急激に上昇している。このような期間中には、ディレイ期間を短くして、点火時期遅角化等の急速触媒暖機に適したエンジン制御(図3)への移行を行なってもエンジン回転数の低下につながる可能性が低い。
一方で、初回以降のアイドル運転開始時(時刻t2近傍)では、エンジン回転数の変化が比較的緩やかである。このため、急速触媒暖機に適したエンジン制御(図3)への移行までのディレイ期間をある程度確保しなければエンジン回転数の低下が発生する可能性がある。エンジン回転数の低下は、エンジンストールや運転者への違和感を発生させる可能性がある。
このため、本発明の実施の形態による急速触媒暖機制御では、初回以降のアイドル運転開始時(時刻t2近傍)では、急速触媒暖機開始までの移行ディレイ期間についてエンジン回転数の低下を防止できるように設定する(Td=Td2)一方で、初回のアイドル運転開始時(時刻t0近傍)には、移行ディレイ期間を短く設定する(Td=Td1,Td1<Td2)。
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンECUを搭載した車両では、排気浄化触媒の急速暖機が必要なアイドル運転時において、エンジン回転数低下の懸念の低い初回のアイドル運転開始時には、排気エミッション改善のため触媒を早期に活性化させるように、ディレイ期間を短く設定して早期に急速触媒暖機を開始するとともに、初回以降のアイドル運転開始時には、エンジン運転が安定化されるように急速触媒暖機を再開できる。これにより、運転状況に応じて触媒暖機を適切に開始できる。
また、急速触媒暖機における増量制御についても、初回以降のアイドル運転開始時(時刻t2近傍)における増量係数(k=k2)は、初回のアイドル運転開始時(時刻t0近傍)における増量係数(k=k1)よりも小さく設定される。これは、初回以降のアイドル運転時には、初回アイドル運転時よりもインジェクタ110,120からの噴射燃料のうちの壁面に付着する燃料が少なくなる点を考慮したものである。このように、急速触媒暖機における燃料噴射量についても、初回のアイドル運転開始時と、初回以降のアイドル運転開始時とで異なる設定とすることにより、燃費およびエミッションを向上させて触媒暖機をより適切に実行できる。
特に、増量係数を筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで独立に設定することにより、それぞれのインジェクタでの壁面付着特性の違いを反映して、より適切な触媒暖機が可能となる。
なお、急速触媒暖機処理における好ましいDI比率設定に従って、筒内噴射用インジェクタによる燃料噴射分担率が吸気通路噴射用インジェクタの燃料噴射分担率と同等かそれ以上になるように設定される。このようにすると、吸気通路噴射用インジェクタによる全体として空燃比がリーンで均質状態の混合気と、筒内噴射用インジェクタによる点火プラグ周りの空燃比がリッチな成層状態の混合気とを燃焼室内に形成させることができる。このとき、点火プラグ周りの混合気の空燃比をよりリッチにできる。その点火プラグの周りの混合気は均質(弱成層)であるので、火炎が伝播しやすく、未燃燃料(HC)が発生しにくい。このような状態において、点火時期を大きく遅角させることにより排気温度を上昇させることができ排気浄化触媒を従来技術よりも急速に暖機することができる。
<この制御装置が適用されるに適したエンジン(その1)>
以下、本実施の形態に係る制御装置が適用されるに適したエンジン(その1)について説明する。
図5および図6を参照して、エンジン10の運転状態に対応させた情報である、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率(以下、DI比率rまたは単にrと記載する。)を表わすマップについて説明する。これらのマップは、エンジンECU300のROM320に記憶される。図5は、エンジン10の温間用マップであって、図6は、エンジン10の冷間用マップである。
図5および図6に示すように、これらのマップは、エンジン10の回転数を横軸にして、負荷率を縦軸にして、筒内噴射用インジェクタ110の分担比率がDI比率rとして百分率で示されている。
図5および図6に示すように、エンジン10の回転数と負荷率とに定まる運転領域ごとに、DI比率rが設定されている。「DI比率r=100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味し、「DI比率r=0%」とは、吸気通路噴射用インジェクタ120からのみ燃料噴射が行なわれる領域であることを意味する。「DI比率r≠0%」、「DI比率r≠100%」および「0%<DI比率r<100%」とは、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120とで燃料噴射が分担して行なわれる領域であることを意味する。なお、概略的には、筒内噴射用インジェクタ110は、出力性能の上昇に寄与し、吸気通路噴射用インジェクタ120は、混合気の均一性に寄与する。このような特性の異なる2種類のインジェクタを、エンジン10の回転数と負荷率とで使い分けることにより、エンジン10が通常運転状態(たとえば、アイドル時の触媒暖機時が、通常運転状態以外の非通常運転状態の一例であるといえる)である場合には、均質燃焼のみが行なわれるようにしている。
さらに、これらの図5および図6に示すように、温間時のマップと冷間時のマップとに分けて、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120のDI分担率rを規定した。エンジン10の温度が異なると、筒内噴射用インジェクタ110および吸気通路噴射用インジェクタ120の制御領域が異なるように設定されたマップを用いて、エンジン10の温度を検知して、エンジン10の温度が予め定められた温度しきい値以上であると図5の温間時のマップを選択して、そうではないと図6に示す冷間時のマップを選択する。それぞれ選択されたマップに基づいて、エンジン10の回転数と負荷率とに基づいて、筒内噴射用インジェクタ110および/または吸気通路噴射用インジェクタ120を制御する。
図5および図6に設定されるエンジン10の回転数と負荷率について説明する。図5のNE(1)は2500〜2700rpmに設定され、KL(1)は30〜50%、KL(2)は60〜90%に設定されている。また、図6のNE(3)は2900〜3100rpmに設定されている。すなわち、NE(1)<NE(3)である。その他、図5のNE(2)や、図6のKL(3)、KL(4)も適宜設定されている。
図5および図6を比較すると、図5に示す温間用マップのNE(1)よりも図6に示す冷間用マップのNE(3)の方が高い。これは、エンジン10の温度が低いほど、吸気通路噴射用インジェクタ120の制御領域が高いエンジン回転数の領域まで拡大されるということを示す。すなわち、エンジン10が冷えている状態であるので、(たとえ、筒内噴射用インジェクタ110から燃料を噴射しなくても)筒内噴射用インジェクタ110の噴口にデポジットが堆積しにくい。このため、吸気通路噴射用インジェクタ120を使って燃料を噴射する領域を拡大するように設定され、均質性を向上させることができる。
図5および図6を比較すると、エンジン10の回転数が、温間用マップにおいてはNE(1)以上の領域において、冷間用マップにおいてはNE(3)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。また、負荷率が、温間用マップにおいてはKL(2)以上の領域において、冷間用マップにおいてはKL(4)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。これは、予め定められた高エンジン回転数領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されること、予め定められた高エンジン負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されるということを示す。すなわち、高回転領域や高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ110のみで燃料を噴射しても、エンジン10の回転数や負荷が高く吸気量が多いので筒内噴射用インジェクタ110のみでも混合気を均質化しやすいためである。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
図5に示す温間マップでは、負荷率KL(1)以下では、筒内噴射用インジェクタ110のみが用いられる。これは、エンジン10の温度が高いときであって、予め定められた低負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されるということを示す。これは、温間時においてはエンジン10が暖まった状態であるので、筒内噴射用インジェクタ110の噴口にデポジットが堆積しやすい。しかしながら、筒内噴射用インジェクタ110を使って燃料を噴射することにより噴口温度を低下させることができるので、デポジットの堆積を回避することも考えられ、また、筒内噴射用インジェクタの最小燃料噴射量を確保して、筒内噴射用インジェクタ110を閉塞させないことも考えられ、このために、筒内噴射用インジェクタ110を用いた領域としている。
図5および図6を比較すると、図6の冷間用マップにのみ「DI比率r=0%」の領域が存在する。これは、エンジン10の温度が低いときであって、予め定められた低負荷領域(KL(3)以下)では吸気通路噴射用インジェクタ120のみが使用されるということを示す。これはエンジン10が冷えていてエンジン10の負荷が低く吸気量も低いため燃料が霧化しにくい。このような領域においては筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射では良好な燃焼が困難であるため、また、特に低負荷および低回転数の領域では筒内噴射用インジェクタ110を用いた高出力を必要としないため、筒内噴射用インジェクタ110を用いないで、吸気通路噴射用インジェクタ120のみを用いる。
また、通常運転時以外の場合、エンジン10がアイドル時の触媒暖機時の場合(非通常運転状態であるとき)、上述のように、成層燃焼を行なうように筒内噴射用インジェクタ110が制御される。このような触媒暖機運転中にのみ成層燃焼させることで、触媒暖機を促進させ、排気エミッションの向上を図る。
<この制御装置が適用されるに適したエンジン(その2)>
以下、本実施の形態に係る制御装置が適用されるに適したエンジン(その2)について説明する。なお、以下のエンジン(その2)の説明において、エンジン(その1)と同じ説明については、ここでは繰り返さない。
図7および図8を参照して、エンジン10の運転状態に対応させた情報である、筒内噴射用インジェクタ110と吸気通路噴射用インジェクタ120との噴き分け比率を表わすマップについて説明する。これらのマップは、エンジンECU300のROM320に記憶される。図7は、エンジン10の温間用マップであって、図8は、エンジン10の冷間用マップである。
図7および図8は、以下の点で図5および図6と異なる。エンジン10の回転数が、温間用マップにおいてはNE(1)以上の領域において、冷間用マップにおいてはNE(3)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。また、負荷率が、温間用マップにおいては低回転数領域を除くKL(2)以上の領域において、冷間用マップにおいては低回転数領域を除くKL(4)以上の領域において、「DI比率r=100%」である。これは、予め定められた高エンジン回転数領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用されること、予め定められた高エンジン負荷領域では筒内噴射用インジェクタ110のみが使用される領域が多いことを示す。しかしながら、低回転数領域の高負荷領域においては、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料により形成される混合気のミキシングが良好ではなく、燃焼室内の混合気が不均質で燃焼が不安定になる傾向を有する。このため、このような問題が発生しない高回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタの噴射比率を増大させるようにしている。また、このような問題が発生する高負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を減少させるようにしている。これらのDI比率rの変化を図7および図8に十字の矢印で示す。このようにすると、燃焼が不安定であることに起因するエンジンの出力トルクの変動を抑制することができる。なお、これらのことは、予め定められた低回転数領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を減少させることや、予め定められた低負荷領域へ移行するに伴い筒内噴射用インジェクタ110の噴射比率を増大させることと、略等価であることを確認的に記載する。また、このような領域(図7および図8で十字の矢印が記載された領域)以外の領域であって筒内噴射用インジェクタ110のみで燃料を噴射している領域(高回転側、低負荷側)においては、筒内噴射用インジェクタ110のみでも混合気を均質化しやすい。このようにすると、筒内噴射用インジェクタ110から噴射された燃料は燃焼室内で気化潜熱を伴い(燃焼室から熱を奪い)気化される。これにより、圧縮端での混合気の温度が下がる。これにより対ノッキング性能が向上する。また、燃焼室の温度が下がるので、吸入効率が向上し高出力が見込める。
なお、図5〜図8を用いて説明したこのエンジン10においては、均質燃焼は筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを吸気行程とすることにより、成層燃焼は筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程とすることにより実現できる。すなわち、筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程とすることで、点火プラグ周りにリッチ混合気が偏在させることにより燃焼室全体としてはリーンな混合気に着火する成層燃焼を実現することができる。また、筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを吸気行程としても点火プラグ周りにリッチ混合気を偏在させることができれば、吸気行程噴射であっても成層燃焼を実現できる。
また、ここでいう成層燃焼には、成層燃焼と以下に示す弱成層燃焼の双方を含むものである。弱成層燃焼とは、吸気通路噴射用インジェクタ120を吸気行程で燃料噴射して燃焼室全体にリーンで均質な混合気を生成して、さらに筒内噴射用インジェクタ110を圧縮行程で燃料噴射して点火プラグ周りにリッチな混合気を生成して、燃焼状態の向上を図るものである。このような弱成層燃焼は触媒暖機時に好ましい。これは、以下の理由による。すなわち、触媒暖機時には高温の燃焼ガスを触媒に到達させるために点火時期を大幅に遅角させ、かつ良好な燃焼状態(アイドル状態)を維持する必要がある。また、ある程度の燃料量を供給する必要がある。これを成層燃焼で行なおうとしても燃料量が少ないという問題があり、これを均質燃焼で行なおうとしても良好な燃焼を維持するために遅角量が成層燃焼に比べて小さいという問題がある。このような観点から、上述した弱成層燃焼を触媒暖機時に用いることが好ましいが、成層燃焼および弱成層燃焼のいずれであっても構わない。
また、図5〜図8を用いて説明したエンジンにおいては、筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射のタイミングは、以下のような理由により、圧縮行程で行なうことが好ましい。ただし、上述したエンジン10は、基本的な大部分の領域には(触媒暖機時にのみに行なわれる、吸気通路噴射用インジェクタ120を吸気行程噴射させ、筒内噴射用インジェクタ110を圧縮行程噴射させる弱成層燃焼領域以外を基本的な領域という)、筒内噴射用インジェクタ110による燃料噴射のタイミングは、吸気行程である。しかしながら、以下に示す理由があるので、燃焼安定化を目的として一時的に筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射タイミングを圧縮行程噴射とするようにしてもよい。
筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射時期を圧縮工程中とすることで、筒内温度がより高い時期において、燃料噴射により混合気が冷却される。冷却効果が高まるので、対ノック性を改善することができる。さらに、筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射時期を圧縮工程中とすると、燃料噴射から点火時期までの時間が短いことから噴霧による気流の強化を実現でき、燃焼速度を上昇させることができる。これらの対ノック性の向上と燃焼速度の上昇とから、燃焼変動を回避して、燃焼安定性を向上させることができる。
さらに、エンジン10の温度によらず(すなわち、温間時および冷間時のいずれの場合であっても)、オフアイドル時(アイドルスイッチがオフの場合、アクセルペダルが踏まれている場合)には、図5または図7に示す温間マップを用いるようにしてもよい(冷間温間を問わず、低負荷領域において筒内噴射用インジェクタ110を用いる)。
なお、本実施の実施の形態では、筒内噴射用インジェクタおよび吸気通路噴射用インジェクタの両方を備えるエンジンにおける急速触媒暖機について例示したが、本発明の適用は、このようなエンジンに限定されるものではない。すなわち、点火時期遅角を伴う急速触媒暖機を行なうエンジンに対して共通に本願発明を適用可能である。代表的には、筒内噴射用インジェクタのみを備えたエンジンについても、本願発明に従う急速触媒暖機を行なって、触媒暖機時におけるエンジン運転を種々の環境下で安定化することができる。 今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 エンジン、20 インテークマニホールド、30 サージタンク、40 吸気ダクト、42 エアフローメータ、50 エアクリーナ、60 電動モータ、70 スロットルバルブ、80 エキゾーストマニホールド、90 三元触媒コンバータ、100 アクセルペダル、110 気筒内噴射用インジェクタ、112 気筒、120 吸気通路噴射用インジェクタ、130,160 燃料分配管、140 逆止弁、150 高圧燃料ポンプ、152 電磁スピル弁、160 燃料分配管、170 燃料圧レギュレータ、180 低圧燃料ポンプ、190 燃料フィルタ、200 燃料タンク、300 エンジンECU、380 水温センサ、400 燃料圧センサ、420 空燃比センサ、440 アクセル開度センサ、460 回転数センサ、k 増量係数、r DI比率、Td 移行ディレイ期間。