しかしながら、上記特許文献2に開示されたロータリバルブは、膨張機の軸と共に回転する部材である。そして、この特許文献2の膨張機において、膨張比を調節するには、回転するロータリバルブを軸方向へ移動させる必要がある。このため、膨張比を可変とするための構成が複雑化し、膨張機の構成も複雑化してしまうおそれがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、容積型膨張機の膨張比を簡素な構成で可変とすることにある。
第1の発明は、偏心運動する可動部材(75,105)と、該可動部材(75,105)と共に流体室(72,110)を形成する固定部材(60,71,100)と、上記可動部材(75,105)に係合するクランク軸(35)とを備え、上記流体室(72,110)へ導入した流体の膨張によって上記クランク軸(35)が駆動される容積型膨張機(50)を対象としている。そして、上記固定部材(60,71,100)の流体室(72,110)に臨む面に開口して該流体室(72,110)へ向けて流体を流通させる導入通路(61)と、上記導入通路(61)の開口面積を変更することによって膨張比を可変にする可変機構(90)とを備えるものである。
第1の発明では、可動部材(75,105)の偏心運動に伴って流体室(72,110)の容積が変化する。流体室(72,110)内で流体が膨張すると、それによって可動部材(75,105)が移動し、可動部材(75,105)に係合したクランク軸(35)が駆動される。流体室(72,110)を形成する固定部材(60,71,100)には、導入通路(61)が形成される。流体室(72,110)へ向かう高圧流体は、この導入通路(61)を通って流体室(72,110)へ導入される。導入通路(61)の開口面積は、可変機構(90)によって変更可能となっている。つまり、この可変機構(90)は、固定部材(60,71,100)に形成された導入通路(61)の開口面積を変更する。導入通路(61)の開口面積を変更すると、高圧流体の導入が終了した時点の流体室(72,110)の容積、即ち流体室(72,110)内で流体の膨張が開始される時点での流体室(72,110)の容積が変化する。つまり、可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積を変更すると、それに伴って流体室(72,110)へ導入される流体の容積が変化し、更には容積型膨張機(50)における膨張比が変化する。
第2の発明は、上記第1の発明において、可変機構(90)は、上記固定部材(60,71,100)の流体室(72,110)に臨む面における導入通路(61)の開口形状と略同一形状の貫通孔(92)が形成されていて、該貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分を通って流体が流体室(72,110)へ導入されるように配置される変更用部材(91)と、上記貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積が変化するように記変更用部材(91)を移動させるための駆動用部材(94,95)とを備えるものである。
第2の発明では、変更用部材(91)と駆動用部材(94,95)とが可変機構(90)に設けられる。貫通孔(92)が導入通路(61)と部分的に重複するように変更用部材(91)の位置を設定すると、導入通路(61)の一部が変更用部材(91)によって塞がれた状態となる。流体室(72,110)へ向かう高圧流体は、導入通路(61)のうち変更用部材(91)によって塞がれていない部分を通って流体室(72,110)へ導入される。一方、貫通孔(92)が導入通路(61)と完全に重なり合うように変更用部材(91)の位置を設定すると、導入通路(61)の全体が流体室(72,110)に開口した状態となる。つまり、導入通路(61)の開口面積が最大となる。流体室(72,110)へ向かう高圧流体は、開口面積が最大となった導入通路(61)を通って流体室(72,110)へ導入される。
第3の発明は、上記第2の発明において、上記変更用部材(91)は、円板状に形成されて中心軸周りに回転自在となっており、上記貫通孔(92)は、上記変更用部材(91)をその厚み方向へ貫通するように形成され、上記駆動用部材(94,95)は、上記変更用部材(91)を回転移動させるように構成されるものである。
第3の発明において、変更用部材(91)をその中心軸周りに回転させると、それに伴って貫通孔(92)の位置が変化する。貫通孔(92)の位置が変化すると、それに伴って貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積が変化し、その結果、導入通路(61)の開口面積が変化する。このように、この発明の可変機構(90)は、駆動用部材(94,95)が可変用部材を回転移動させることによって、導入通路(61)の開口面積を変化させている。
第4の発明は、上記第1,第2又は第3の発明において、上記可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積を最小値に設定した状態では上記クランク軸(35)が1回転する間に亘って流体室(72,110)への流体の導入が継続するように構成されると共に、上記可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積を拡大するにつれて膨張比が小さくなるように構成されるものである。
第4の発明では、可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積を最小値に設定した状態、即ち高圧流体の導入が終了した時点での流体室(72,110)の容積が最小となる状態でも、クランク軸(35)が1回転する間に亘って流体室(72,110)へ高圧流体が流入し続ける。また、この発明では、可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積を拡大してゆくにつれて、高圧流体の導入が終了した時点での流体室(72,110)の容積が増大してゆき、その結果、容積型膨張機(50)における膨張比が小さくなってゆく。
第5の発明は、上記第1,第2又は第3の発明において、円筒状のピストン(75,85)と、内部に上記ピストン(75,85)が配置されるシリンダ(71,81)と、該シリンダ(71,81)の端部を閉塞するための閉塞部材(60,…)と、上記シリンダ(71,81)の内周面と上記ピストン(75,85)の外周面の間に形成された流体室(72,82)を高圧側の高圧室(73,83)と低圧側の低圧室(74,84)に仕切るためのブレード(76,86)とが設けられたロータリ機構部(70,80)を複数備え、上記各ロータリ機構部(70,80)のピストン(75,85)が上記クランク軸(35)に係合していて可動部材を構成し、上記各ロータリ機構部(70,80)のシリンダ(71,81)及び閉塞部材(60,…)が固定部材を構成する一方、上記複数のロータリ機構部(70,80)は、それぞれの押しのけ容積が互いに相違していて押しのけ容積の小さいものから順に直列接続され、上記複数のロータリ機構部(70,80)のうち互いに接続された2つでは、前段側のロータリ機構部(70)の低圧室(74)と後段側のロータリ機構部(80)の高圧室(83)とが互いに連通して1つの膨張室(57)を形成しているものである。
第5の発明において、高圧流体は、最初に押しのけ容積が最小のロータリ機構部(70)へ導入される。具体的には、このロータリ機構部(70)における流体室(72)の高圧側、即ち高圧室(73)へ高圧流体が導入される。高圧流体は、この流体室(72)の容積が最大となるまで流入し続ける。この発明では、押しのけ容積が最小のロータリ機構部(70)に形成された高圧室(73)に導入通路(61)が開口しており、この導入通路(61)の開口面積を可変機構(90)が変更する。高圧流体の導入が終了した流体室(72)は、低圧側の低圧室(74)となって押しのけ容積の大きな後段側のロータリ機構部(80)の高圧室(83)と連通する。この低圧室(74)内の流体は、後段側のロータリ機構部(80)の高圧室(83)へ流入しながら膨張してゆく。つまり、この発明では、前段側のロータリ機構部(70)の低圧室(74)と後段側のロータリ機構部(80)の高圧室(83)とで構成された膨張室(57)の内部で流体が膨張する。膨張室(57)内で流体が膨張すると、ピストン(75,85)が移動し、このピストン(75,85)に係合したクランク軸(35)が回転する。
第6の発明は、上記第5の発明において、上記導入通路(61)は、押しのけ容積が最小のロータリ機構部(70)に設けられた閉塞部材(60)に形成されるものである。
第6の発明では、押しのけ容積が最小のロータリ機構部(70)において、その閉塞部材(60)に導入通路(61)が形成される。この導入通路(61)は、閉塞部材(60)のうち流体室(72)に臨む面に開口している。
第7の発明は、上記第6の発明において、上記閉塞部材(60)の流体室(72)に臨む面における導入通路(61)の開口形状は、シリンダ(71)の内周面に沿って延びる円弧状となっているものである。
第7の発明では、閉塞部材(60)の流体室(72)に臨む面において、導入通路(61)の開口部分の形状がシリンダ(71)の内周面に沿った円弧状となっている。流体室(72)へ向かう高圧流体は、この円弧状に開口した導入通路(61)を通って流体室(72)へ流入する。
第8の発明は、上記第1,第2又は第3の発明において、可動スクロール(105)を可動部材として、固定スクロール(100)を固定部材としてそれぞれ備え、固定スクロール(100)の固定側ラップ(102)と可動スクロール(105)の可動側ラップ(107)とが互いに噛み合うことによって流体室(110)が形成されたスクロール型の流体機械を構成しているものである。
第8の発明では、固定スクロール(100)の固定側ラップ(102)と可動スクロールの可動側ラップ(107)が互いに噛み合わされ、固定スクロール(100)と可動スクロールに囲まれた流体室(72,110)が形成される。この流体室(72,110)へは、可動スクロールが360°公転する間、即ちクランク軸(35)が1回転する間に亘って高圧流体が導入され続ける。そして、流体室(72,110)内で流体が膨張すると、可動スクロールが移動し、可動スクロールに係合したクランク軸(35)が回転する。
本発明では、容積型膨張機(50)の運転中も移動しない固定部材(60,71,100)に導入通路(61)が形成されており、この導入通路(61)の開口面積を可変機構(90)によって変更することで、容積型膨張機(50)における膨張比を可変としている。このため、本発明において、膨張比を変更する際に従来のように高速で回転する部材を移動させる必要はない。従って、本発明によれば、従来よりも簡素な構成の可変機構(90)によって膨張比を可変とすることができる。
特に、上記第2,第3の発明によれば、貫通孔(92)が形成された変更用部材(91)を移動させるだけで膨張比を変更でき、容積型膨張機(50)の構成の複雑化を抑制しつつ膨張比を可変とすることができる。
上記第4の発明では、可変機構(90)によって導入通路(61)の開口面積がどのような値に設定された場合でも、クランク軸(35)が1回転する間に亘って流体室(72,110)へ高圧流体が導入し続ける。ここで、クランク軸(35)が1回転する前に流体室(72,110)への流体の導入を停止させる場合には、流体室(72,110)へ向かう流体の流速がある程度速い状態で流体の流れを遮断しなければならず、それに伴って流体の圧力が急峻に変化するおそれがあった。これに対し、この発明では、クランク軸(35)が1回転する間に亘って流体室(72,110)へ高圧流体が導入し続けるため、容積型膨張機(50)の運転中は概ね常に流体室(72,110)へ流体を導入し続けることができ、流体の急峻な圧力変動を抑制することができる。
また、上記第5,第8の発明においても、流体室(72,110)への高圧流体の導入は、少なくともクランク軸(35)が1回転する間に亘って継続される。従って、これらの発明によっても、上記第4の発明と同様に、流体の急峻な圧力変動を抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、本発明に係る容積型膨張機である膨張機構(50)を備えた空調機(10)である。
〈空調機の全体構成〉
図1に示すように、本実施形態の空調機(10)は、冷媒回路(11)を備えている。この冷媒回路(11)には、圧縮・膨張ユニット(20)と、室外熱交換器(14)と、室内熱交換器(15)と、第1四路切換弁(12)と、第2四路切換弁(13)とが接続されている。また、この冷媒回路(11)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。
上記圧縮・膨張ユニット(20)は、縦長円筒形の密閉容器状に形成されたケーシング(21)を備えている。このケーシング(21)内には、圧縮機構(40)と、膨張機構(50)と、電動機(26)とが収納されている。この膨張機構(50)は、本発明に係る容積型膨張機である。ケーシング(21)内では、圧縮機構(40)と電動機(26)と膨張機構(50)とが下から上へ向かって順に配置されている。圧縮・膨張ユニット(20)の詳細については後述する。
上記冷媒回路(11)において、圧縮機構(40)は、その吐出側が第1四路切換弁(12)の第1のポートに、その吸入側が第1四路切換弁(12)の第4のポートにそれぞれ接続されている。一方、膨張機構(50)は、その流出側が第2四路切換弁(13)の第1のポートに、その流入側が第2四路切換弁(13)の第4のポートにそれぞれ接続されている。
また、上記冷媒回路(11)において、室外熱交換器(14)は、その一端が第2四路切換弁(13)の第2のポートに、その他端が第1四路切換弁(12)の第3のポートにそれぞれ接続されている。一方、室内熱交換器(15)は、その一端が第1四路切換弁(12)の第2のポートに、その他端が第2四路切換弁(13)の第3のポートにそれぞれ接続されている。
上記第1四路切換弁(12)と第2四路切換弁(13)は、それぞれ、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。
〈圧縮・膨張ユニットの構成〉
図2に示すように、圧縮・膨張ユニット(20)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(21)を備えている。このケーシング(21)の内部には、下から上へ向かって順に、圧縮機構(40)と、電動機(26)と、膨張機構(50)とが配置されている。また、ケーシング(21)には、その胴部を貫通するように吸入管(22)と吐出管(23)と導入管(24)と導出管(25)とが設けられている。吸入管(22)は圧縮機構(40)に、導入管(24)及び導出管(25)は膨張機構(50)にそれぞれ接続されている。一方、吐出管(23)は、ケーシング(21)内における電動機(26)と膨張機構(50)の間の空間に開口している。
圧縮機構(40)は、揺動ピストン型のロータリ圧縮機を構成している。この圧縮機構(40)は、シリンダ(41,42)とピストン(47)を2つずつ備えている。圧縮機構(40)では、下から上へ向かって順に、リアヘッド(45)と、第1シリンダ(41)と、中間プレート(46)と、第2シリンダ(42)と、フロントヘッド(44)とが積み重ねられた状態となっている。
また、圧縮機構(40)には、第1クランク軸(31)が設けられている。第1クランク軸(31)の下部は、リアヘッド(45)、第1シリンダ(41)、中間プレート(46)、第2シリンダ(42)、及びフロントヘッド(44)を貫通している。この第1クランク軸(31)の下部には、2つの圧縮側偏心部(32,33)が形成されている。これら圧縮側偏心部(32,33)は、その軸心が第1クランク軸(31)の軸心に対して偏心している。下側の第1圧縮側偏心部(32)と上側の第2圧縮側偏心部(33)とでは、第1クランク軸(31)の軸心に対する偏心方向が180°ずれている。第1圧縮側偏心部(32)は第1シリンダ(41)内に、第2圧縮側偏心部(33)は第2シリンダ(42)内に、それぞれ配置されている。また、第1クランク軸(31)には、その上端面を掘り下げて形成された係合穴(34)が設けられている。この係合穴(34)は、第1クランク軸(31)の軸心に沿って下方へ延びる六角形断面の穴である。
第1及び第2シリンダ(41,42)の内部には、円筒状のピストン(47)が1つずつ配置されている。第1シリンダ(41)内では、第1圧縮側偏心部(32)がピストン(47)を貫通している。第2シリンダ(42)内では、第2圧縮側偏心部(33)がピストン(47)を貫通している。ピストン(47,47)の外周面とシリンダ(41,42)の内周面との間に圧縮室(43)が形成される。また、図示しないが、ピストン(47)の側面には平板状のブレードが突設されており、このブレードは揺動ブッシュを介してシリンダ(41,42)に支持されている。
第1及び第2シリンダ(41,42)には、それぞれ吸入ポート(48)が1つずつ形成されている。各吸入ポート(48)は、シリンダ(41,42)を半径方向に貫通し、その終端がシリンダ(41,42)の内周面に開口している。これら各吸入ポート(48)には、吸入管(22)が1本ずつ挿入されている。
フロントヘッド(44)及びリアヘッド(45)には、それぞれ吐出ポートが1つずつ形成されている。フロントヘッド(44)の吐出ポートは、第2シリンダ(42)内の圧縮室(43)をケーシング(21)の内部空間と連通させる。リアヘッド(45)の吐出ポートは、第1シリンダ(41)内の圧縮室(43)をケーシング(21)の内部空間と連通させる。また、各吐出ポートは、その終端にリード弁からなる吐出弁が設けられており、この吐出弁によって開閉される。尚、図2において、吐出ポート及び吐出弁の図示は省略する。
圧縮機構(40)は、リング状のマウンティングプレート(49)を介してケーシング(21)に固定されている。具体的には、マウンティングプレート(49)が溶接によってケーシング(21)に固定されており、このマウンティングプレート(49)に圧縮機構(40)のフロントヘッド(44)が図外のボルトによって固定されている。
上記電動機(26)は、ケーシング(21)の長手方向の中央部に配置されている。この電動機(26)は、ステータ(27)とロータ(28)とにより構成されている。ステータ(27)は、上記ケーシング(21)に固定されている。ロータ(28)は、ステータ(27)の内側に配置されており、第1クランク軸(31)の上部に取り付けられている。
図3にも示すように、上記膨張機構(50)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式膨張機であって、本発明の容積型膨張機を構成している。膨張機構(50)には、対になったシリンダ(71,81)及びピストン(75,85)が二組設けられている。この膨張機構(50)には、フロントヘッド(51)、下側プレート(60)、中間プレート(53)、及びリアヘッド(52)も設けられている。この膨張機構(50)では、各シリンダ(71,81)、フロントヘッド(51)、下側プレート(60)、中間プレート(53)、及びリアヘッド(52)が固定部材を構成し、各ピストン(75,85)が可動部材を構成している。また、この膨張機構(50)には、膨張比を可変とするための可変機構(90)が設けられている。
上記膨張機構(50)では、下から上へ向かって順に、フロントヘッド(51)と、下側プレート(60)と、第1シリンダ(71)と、中間プレート(53)と、第2シリンダ(81)と、リアヘッド(52)とが積み重ねられた状態となっている。この状態において、第1シリンダ(71)は、その下端面が下側プレート(60)により閉塞され、その上端面が中間プレート(53)により閉塞されている。一方、第2シリンダ(81)は、その下端面が中間プレート(53)により閉塞され、その上端面がリアヘッド(52)により閉塞されている。つまり、この膨張機構(50)では、下側プレート(60)と中間プレート(53)とリアヘッド(52)とが、閉塞部材を構成している。
各シリンダ(71,81)は、概ねリング形状の厚板状に形成されている。第2シリンダ(81)の内径は、第1シリンダ(71)の内径よりも大きくなっている。また、第2シリンダ(81)の厚み(高さ)は、第1シリンダ(71)の厚み(高さ)よりも厚くなっている。
この膨張機構(50)には、第2クランク軸(35)が設けられている。第2クランク軸(35)の上部は、フロントヘッド(51)、下側プレート(60)、第1シリンダ(71)、中間プレート(53)、第2シリンダ(81)、及びリアヘッド(52)を貫通している。この第2クランク軸(35)の下部には、2つの膨張側偏心部(36,37)が形成されている。これら膨張側偏心部(36,37)は、その軸心が第2クランク軸(35)の軸心に対して偏心している。下側の第1膨張側偏心部(36)と上側の第2膨張側偏心部(37)とでは、第2クランク軸(35)の軸心に対する偏心方向が一致している。ただし、第2膨張側偏心部(37)の偏心量は、第1膨張側偏心部(36)の偏心量よりも大きくなっている。第1膨張側偏心部(36)は第1シリンダ(71)内に、第2膨張側偏心部(37)は第2シリンダ(81)内に、それぞれ配置されている。
また、第2クランク軸(35)には、その下端面に係合突起(38)が突設されている。この係合突起(38)は、第2クランク軸(35)の下端面から下方へ延びる六角柱状の突起である。係合突起(38)の断面形状は、第1クランク軸(31)の係合穴(34)の断面形状に対応した六角形となっている。第1クランク軸(31)と第2クランク軸(35)は、第2クランク軸(35)の係合突起(38)を第1クランク軸(31)の係合穴(34)へ挿入することによって連結され、1本のシャフト(30)を構成している。
図4にも示すように、第1シリンダ(71)内には第1ピストン(75)が、第2シリンダ(81)内には第2ピストン(85)がそれぞれ設けられている。第1及び第2ピストン(75,85)は、何れも円環状あるいは円筒状に形成されている。第1ピストン(75)の内径は第1膨張側偏心部(36)の外径と、第2ピストン(85)の内径は第2膨張側偏心部(37)の外径とそれぞれ概ね等しくなっている。そして、第1ピストン(75)には第1膨張側偏心部(36)が、第2ピストン(85)には第2膨張側偏心部(37)がそれぞれ貫通している。
上記第1ピストン(75)は、その外周面が第1シリンダ(71)の内周面に、下端面が下側プレート(60)に、上端面が中間プレート(53)にそれぞれ摺接している。第1シリンダ(71)内には、その内周面と第1ピストン(75)の外周面との間に第1流体室(72)が形成される。一方、上記第2ピストン(85)は、その外周面が第2シリンダ(81)の内周面に、下端面が中間プレート(53)に、上端面がリアヘッド(52)にそれぞれ摺接している。第2シリンダ(81)内には、その内周面と第2ピストン(85)の外周面との間に第2流体室(82)が形成される。
上記第1及び第2ピストン(75,85)のそれぞれには、ブレード(76,86)が1つずつ一体に設けられている。ブレード(76,86)は、ピストン(75,85)の半径方向へ延びる板状に形成されており、ピストン(75,85)の外周面から外側へ突出している。
上記各シリンダ(71,81)には、一対のブッシュ(77,87)が一組ずつ設けられている。各ブッシュ(77,87)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となるように形成された小片である。一対のブッシュ(77,87)は、ブレード(76,86)を挟み込んだ状態で設置されている。各ブッシュ(77,87)は、その内側面がブレード(76,86)と、その外側面がシリンダ(71,81)と摺動する。そして、ピストン(75,85)と一体のブレード(76,86)は、ブッシュ(77,87)を介してシリンダ(71,81)に支持され、シリンダ(71,81)に対して回動自在で且つ進退自在となっている。
第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)は、第1ブレード(76)によって仕切られており、図4における第1ブレード(76)の左側が高圧側の第1高圧室(73)となり、その右側が低圧側の第1低圧室(74)となっている。第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)は、第2ブレード(86)によって仕切られており、図4における第2ブレード(86)の左側が高圧側の第2高圧室(83)となり、その右側が低圧側の第2低圧室(84)となっている。
上記第1シリンダ(71)と第2シリンダ(81)とは、それぞれの周方向におけるブッシュ(77,87)の位置が一致する姿勢で配置されている。言い換えると、第2シリンダ(81)の第1シリンダ(71)に対する配置角度が0°となっている。上述のように、第1膨張側偏心部(36)と第2膨張側偏心部(37)とは、第2クランク軸(35)の軸心に対して同じ方向へ偏心している。従って、第1ブレード(76)が第1シリンダ(71)の外側へ最も退いた状態になるのと同時に、第2ブレード(86)が第2シリンダ(81)の外側へ最も退いた状態になる。
上記中間プレート(53)には、連通路(54)が設けられている。この連通路(54)は、中間プレート(53)を貫通するように形成されている。中間プレート(53)における第1シリンダ(71)側の面では、図4における第1ブレード(76)の右側の箇所に連通路(54)の一端が開口している。中間プレート(53)における第2シリンダ(81)側の面では、第2ブレード(86)の左側の箇所に連通路(54)の他端が開口している。つまり、この連通路(54)は、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)とを連通させている。そして、連通路(54)を介して互いに連通した第1低圧室(74)と第2高圧室(83)が、1つの膨張室(57)を形成している。
上記第2シリンダ(81)には、導出ポート(56)が形成されている。導出ポート(56)は、第2シリンダ(81)の内周面のうち、図4におけるブッシュ(87)のやや右側の箇所に開口し、第2低圧室(84)と連通可能となっている。また、この導出ポート(56)には、導出管(25)が挿入されている。
上記フロントヘッド(51)には、導入ポート(55)が形成されている。導入ポート(55)は、フロントヘッド(51)の外周面から半径方向へ延びると共に、その終端部が上方へ屈曲してフロントヘッド(51)の上面に開口している。この導入ポート(55)には、導入管(24)が挿入されている。
上記下側プレート(60)は、円形の盆を伏せたような形状となっている。上述したように、下側プレート(60)は、フロントヘッド(51)と第1シリンダ(71)の間に挟み込まれている。下側プレート(60)がフロントヘッド(51)の上面に載置されることによって、下側プレート(60)の内側面とフロントヘッド(51)の上面とで囲まれた導入空間(63)が形成される。この導入空間(63)は、フロントヘッド(51)の上面に開口した導入ポート(55)と連通している。
図5に示すように、下側プレート(60)には、第2クランク軸(35)を挿通するための挿通孔(62)が形成されている。また、下側プレート(60)には、導入通路(61)が形成されている。この導入通路(61)は、下側プレート(60)を厚み方向へ貫通し、下側プレート(60)の上面(即ち、第1流体室(72)に臨む面)に開口している。また、導入通路(61)は、挿通孔(62)と同心の半円弧状に開口している。この半円弧状の導入通路(61)は、その外側の半径が第1シリンダ(71)の内周面の半径と略同一になっており、第1シリンダ(71)の内周面に沿って延びている(図4を参照)。また、導入通路(61)の半径方向の幅は、第1ピストン(75)の半径方向の厚みよりもやや狭くなっている。
上述したように、上記膨張機構(50)には、膨張比を可変とするための可変機構(90)が設けられている。この可変機構(90)は、回転板(91)と、駆動ロッド(94)と、駆動モータ(95)とを備えている。回転板(91)は、変更用部材を構成している。一方、駆動ロッド(94)と駆動モータ(95)は、駆動用部材を構成している。
図3及び図6に示すように、回転板(91)は、傘歯車状に形成されている。具体的に、この回転板(91)は、やや厚肉の円板状に形成されている。この回転板(91)では、その外周部の下面側が傾斜面となっており、この傾斜面に歯車の歯が刻まれている。回転板(91)の上面は、平坦面となっている。回転板(91)の中心には、第2クランク軸(35)を挿通するための挿通孔(93)が形成されている。また、回転板(91)には、貫通孔(92)が形成されている。この貫通孔(92)は、回転板(91)を厚み方向へ貫通している。貫通孔(92)の形状は、下側プレート(60)の導入通路(61)と同じ半円弧状となっている。つまり、貫通孔(92)は、挿通孔(93)と同心の半円弧状となっており、その外側の半径が第1シリンダ(71)の内周面の半径と略同一になっている。また、貫通孔(92)は、半径方向の幅も導入通路(61)の半径方向の幅と等しくなっている。
上記回転板(91)は、下側プレート(60)の内側に形成された導入空間(63)内に配置されている。この回転板(91)は、その上面が下側プレート(60)の下面に密着した状態で設置され、第2クランク軸(35)を回転軸として回転自在となっている。図3及び図7に示すように、回転板(91)の貫通孔(92)と下側プレート(60)の導入通路(61)とは、互いに重なり合っている。そして、回転板(91)が回転すると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積、即ち下側プレート(60)における導入通路(61)の開口面積が変化する。
上記駆動ロッド(94)は、その先端部に小径の傘歯車が形成されており、この傘歯車が回転板(91)の歯車と係合している。また、駆動ロッド(94)は、ケーシング(21)の半径方向の外側へ延びており、その基端がケーシング(21)の外部に位置している。駆動ロッド(94)の基端には、駆動モータ(95)が連結されている。この駆動モータ(95)へ通電すると、駆動ロッド(94)が回転し、それに伴って回転板(91)が回転する。
以上のように構成された上記膨張機構(50)では、第1シリンダ(71)と、第1ブッシュ(77)と、第1シリンダ(71)の両端を閉塞する下側プレート(60)及び中間プレート(53)と、第1ピストン(75)と、第1ブレード(76)とが第1ロータリ機構部(70)を構成している。また、第2シリンダ(81)と、第2ブッシュ(87)と、第2シリンダ(81)の両端を閉塞する中間プレート(53)及びリアヘッド(52)と、第2ピストン(85)と、第2ブレード(86)とが第2ロータリ機構部(80)を構成している。
膨張機構(50)は、リング状のマウンティングプレート(58)を介してケーシング(21)に固定されている。具体的には、マウンティングプレート(58)が溶接によってケーシング(21)に固定されており、このマウンティングプレート(58)に膨張機構(50)のフロントヘッド(51)が図外のボルトによって固定されている。
−運転動作−
上記空調機(10)の動作について説明する。ここでは、空調機(10)の冷房運転時及び暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(50)の動作について説明する。
〈冷房運転〉
冷房運転時には、第1四路切換弁(12)及び第2四路切換弁(13)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(20)の電動機(26)に通電すると、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
圧縮機構(40)で圧縮された冷媒は、吐出管(23)を通って圧縮・膨張ユニット(20)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、室外熱交換器(14)へ送られて室外空気へ放熱する。室外熱交換器(14)で放熱した高圧冷媒は、流入管を通って膨張機構(50)へ流入する。膨張機構(50)では、高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒から動力が回収される。膨張後の低圧冷媒は、流出管を通って室内熱交換器(15)へ送られる。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(15)から出た低圧ガス冷媒は、吸入管(22)を通って圧縮機構(40)へ吸入される。圧縮機構(40)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
〈暖房運転〉
暖房運転時には、第1四路切換弁(12)及び第2四路切換弁(13)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(20)の電動機(26)に通電すると、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
圧縮機構(40)で圧縮された冷媒は、吐出管(23)を通って圧縮・膨張ユニット(20)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、室内熱交換器(15)へ送られる。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(15)で放熱した冷媒は、流入管を通って膨張機構(50)へ流入する。膨張機構(50)では、高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒から動力が回収される。膨張後の低圧冷媒は、流出管を通って室外熱交換器(14)へ送られ、室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(14)から出た低圧ガス冷媒は、吸入管(22)を通っての圧縮機構(40)へ吸入される。圧縮機構(40)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
〈膨張機構部の動作〉
膨張機構(50)の動作について、図8を参照しながら説明する。ここでは、下側プレート(60)の導入通路(61)と回転板(91)の貫通孔(92)とが部分的に重複しており、両者の重複部分が中心角120°程度の円弧状となっている場合、即ち導入通路(61)の2/3程度が開口している場合を例に説明する。
先ず、第1ロータリ機構部(70)の第1高圧室(73)へ超臨界状態の高圧冷媒が流入する過程について説明する。第2クランク軸(35)が回転角0°の状態から僅かに回転すると、下側プレート(60)の導入通路(61)及び回転板(91)の貫通孔(92)を介して第1高圧室(73)が導入空間(63)に連通する。第1高圧室(73)へは、流入ポート(55)から導入空間(63)へ流入した高圧冷媒が、導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分を通って流入し始める。その後、第2クランク軸(35)の回転角が60°,120°,180°,240°,300°と次第に大きくなり、それにつれて第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入してゆく。第1高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、第2クランク軸(35)の回転角が360°に達した時点で終了する。
ここで、導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分の面積が最小に設定されている場合であれば、第2クランク軸(35)の回転角が360°を超えると、第1低圧室(74)が導入ポート(55)や導入空間(63)から遮断された状態となり、第1低圧室(74)内で冷媒が膨張し始める。ところが、導入通路(61)の約2/3が開口している状態では、第2クランク軸(35)の回転角が360°を超えても、第1低圧室(74)は導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分を介して導入空間(63)に連通する。そして、この状態では、第2クランク軸(35)が更に120°回転してその回転角が480°に達するまで、第1低圧室(74)へ高圧冷媒が流入し続けることになる。
次に、膨張機構(50)において冷媒が膨張する過程について説明する。上述したように、第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)に対する高圧冷媒の導入は、第2クランク軸(35)の回転角が480°に達するまで継続する。第2クランク軸(35)の回転角が480°に達した時点では、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)が連通路(54)を介して連通した状態となっている。
第2クランク軸(35)が回転角480°の状態から僅かに回転すると、第1低圧室(74)が導入開口から遮断され、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)と連通路(54)とによって閉空間の膨張室(57)が形成される。その後、第2クランク軸(35)の回転角が540°,600°,660°と次第に大きくなると、それにつれて第1低圧室(74)の容積が次第に減少すると同時に第2高圧室(83)の容積が次第に増加し、結果として膨張室(57)の容積が次第に増加してゆく。この膨張室(57)の容積増加は、第2クランク軸(35)の回転角が720°に達するまで続く。そして、膨張室(57)の容積が増加する過程で膨張室(57)内の冷媒が膨張し、この冷媒の膨張によって第2クランク軸(35)が回転駆動される。このように、第1低圧室(74)内の冷媒は、連通路(54)を通って第2高圧室(83)へ膨張しながら流入してゆく。
続いて、第2ロータリ機構部(80)の第2低圧室(84)から冷媒が流出してゆく過程について説明する。第2低圧室(84)は、第2クランク軸(35)の回転角が720°の時点から導出ポート(56)に連通し始める。つまり、第2低圧室(84)から導出ポート(56)へと冷媒が流出し始める。その後、第2クランク軸(35)の回転角が780°,840°,900°,960°,1020°と次第に大きくなってゆき、その回転角が1080°に達するまでの間に亘って、第2低圧室(84)から膨張後の低圧冷媒が流出してゆく。
〈可変機構の動作〉
可変機構(90)の回転板(91)を回転させると、回転板(91)の貫通孔(92)と下側プレート(60)の導入通路(61)との重複部分の面積、即ち下側プレート(60)における導入通路(61)の開口面積が変化する(図7を参照)。
例えば、回転板(91)を同図における右回りへ回転させると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分が伸長され、導入通路(61)の開口面積が拡大する。導入通路(61)の開口面積は、貫通孔(92)と導入通路(61)が完全に重なり合った状態において最大となる。この状態では、第1シリンダ(71)の内周面のうち図4における右半分に沿って導入通路(61)が開口した状態となり、第2クランク軸(35)の回転角が360°を過ぎて540°に達するまで第1流体室(72)へ高圧冷媒が流入し続ける(図8を参照)。逆に、回転板(91)を同図における左回りへ回転させると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分が短縮され、導入通路(61)の開口面積が縮小する。導入通路(61)の開口面積を最小に設定した状態では、第2クランク軸(35)の回転角が360°に達した時点で第1流体室(72)に対する高圧冷媒の導入が終了する(図8を参照)。
上記膨張機構(50)では、導入通路(61)の開口面積が大きくなるにつれて、第1流体室(72)への高圧冷媒の導入が終了する時点における第2クランク軸(35)の回転角が大きくなってゆく。また、例えば図8に示すような導入通路(61)の約2/3が開口した状態において、第2クランク軸(35)の回転角が0°から120°へ至るまでの間は、第1高圧室(73)と第1低圧室(74)の両方へ高圧冷媒が導入されることになる。このため、第1流体室(72)への高圧冷媒の導入終了時点における第2クランク軸(35)の回転角が大きくなるほど、第2クランク軸(35)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する高圧冷媒の体積が大きくなり、また、導入通路(61)から遮断された時点における膨張室(57)の容積も大きくなる。
上記膨張機構(50)において、膨張室(57)が導入通路(61)から遮断された時点は、膨張室(57)内での冷媒の膨張が開始される時点と同じである。一方、この膨張機構(50)において、冷媒の膨張が終了した時点における膨張室(57)の容積は第2高圧室(83)の最大容積と同じであり、この第2高圧室(83)の最大容積は導入通路(61)の開口面積を変更しても変化しない。この膨張機構(50)における膨張比は、膨張が終了した時点での膨張室(57)の容積を膨張が開始される時点での膨張室(57)の容積で除して得られる値である。従って、この膨張機構(50)では、可変機構(90)によって設定される導入通路(61)の開口面積が大きくなるほど、膨張機構(50)での膨張比が小さくなる。
ここで、上記冷媒回路(11)は閉回路であるため、単位時間当たりに圧縮機構(40)を通過する冷媒の質量と膨張機構(50)を通過する冷媒の質量が常に一致していなければならない。ところが、上記圧縮・膨張ユニット(20)において、圧縮機構(40)と膨張機構(50)は、第1クランク軸(31)と第2クランク軸(35)からなる1本のシャフト(30)で連結されており、両者の回転速度は、常に同じになる。このため、第1クランク軸(31)が1回転する間に圧縮機構(40)が吸入する冷媒の体積と、第2クランク軸(35)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する冷媒の体積との何れもが固定されていると、圧縮機構(40)側と膨張機構(50)側での冷媒流量をバランスさせることができなくなり、適切な条件で冷凍サイクルを行えないおそれがある。
これに対し、上記膨張機構(50)では、可変機構(90)によって導入通路(61)の開口面積を変更することによって、第2クランク軸(35)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する高圧冷媒の体積を調節することができる。具体的に、膨張機構(50)を通過する冷媒の質量流量が圧縮機構(40)を通過する冷媒の質量流量に比べて過少となる状態では、可変機構(90)によって導入通路(61)の開口面積を拡大し、第2クランク軸(35)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する高圧冷媒の体積を増大させる。逆に、膨張機構(50)を通過する冷媒の質量流量が圧縮機構(40)を通過する冷媒の質量流量に比べて過多となる状態では、可変機構(90)によって導入通路(61)の開口面積を縮小し、第2クランク軸(35)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する高圧冷媒の体積を減少させる。従って、膨張機構(50)の回転速度と圧縮機構(40)の回転速度を個別に設定できない上記圧縮・膨張ユニット(20)においても、圧縮機構(40)側と膨張機構(50)側での冷媒流量をバランスさせて適切な条件での冷凍サイクルを行うことが可能となる。
−実施形態1の効果−
本実施形態では、膨張機構(50)の運転中も移動しない下側プレート(60)に導入通路(61)を形成し、この導入通路(61)の開口面積を、第2クランク軸(35)と同軸に設けられた回転板(91)を回転させることによって調節している。従って、本実施形態によれば、従来のように高速で回転する部材を移動させる必要が無く、極めて簡素な構成の可変機構(90)によって膨張機構(50)の膨張比を可変とすることができる。
また本実施形態の膨張機構(50)では、可変機構(90)が導入通路(61)の開口面積をどのような値に設定した場合でも、第2クランク軸(35)が1回転する間は第1流体室(72)へ高圧冷媒が導入し続ける。従って、本実施形態によれば、膨張機構(50)の運転中は概ね常に第1流体室(72)へ高圧冷媒を導入し続けることができ、導入ポート(55)や導入管(24)内における冷媒の急峻な圧力変動を抑制することができる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、上記実施形態1において、可変機構(90)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の膨張機構(50)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図9に示すように、本実施形態の可変機構(90)は、第1シリンダ(71)に形成された導入通路(61)と、この導入通路(61)内に配置された複数の電磁石(96)と、同じく導入通路(61)内に配置された複数の可動片(97)とによって構成されている。つまり、本実施形態の膨張機構(50)では、下側プレート(60)が省略されており、導入通路(61)が第1シリンダ(71)に形成されている。
上記導入通路(61)は、第1シリンダ(71)の下面をその内周に沿って掘り下げることによって形成されている。第1シリンダ(71)において、この導入通路(61)は、図10における第1シリンダ(71)の内周面の左半分に亘って開口している。なお、本実施形態の膨張機構(50)において、フロントヘッド(51)の上面に開口する導入ポート(55)の終端は、第1シリンダ(71)に形成された導入通路(61)に連通している。
上記電磁石(96)は、可動片(97)と同数だけ設けられており、導入通路(61)の外周面に沿って配置されている。一方、上記可動片(97)は、断面がL字状に形成されたやや細長い小片である。この可動片(97)の内周面は、その曲率半径が第1シリンダ(71)の内周面の半径と一致している。導入通路(61)内において、複数の可動片(97)は、導入通路(61)の伸長方向に沿って一列に並べられている。各可動片(97)の長さは、第1シリンダ(71)の内周面のうち導入通路(61)が開口する部分の長さを可動片(97)の個数で除した値となっている。各可動片(97)は、磁石によって構成されており、第1シリンダ(71)の半径方向へ往復動自在となっている。
本実施形態の可変機構(90)において、所定方向の電流を電磁石(96)に流すと、可動片(97)が電磁石(96)に引き寄せられて電磁石(96)に当接する。また、これとは逆向きの電流を電磁石(96)に流すと、可動片(97)が電磁石(96)と反発しあって第1シリンダ(71)の内周面側へ押し付けられる。そして、この可変機構(90)は、電磁石(96)側へ引き寄せる可動片(97)の個数を変更することによって、第1シリンダ(71)の内周面における導入通路(61)の開口面積を変化させる。
−実施形態2の変形例−
本実施形態の可変機構(90)では、各可動片(97)の背面にスプリングを1つずつ設け、このスプリングによって可動片(97)を第1シリンダ(71)の内周面側へ押圧するようにしてもよい。この場合、各可動片(97)は、鉄などの磁性材料で構成される。本変形例の可変機構(90)において、電磁石(96)へ通電すると、可動片(97)が電磁石(96)へ引き寄せられ、スプリングの押圧力に打ち勝って電磁石(96)側へ移動する。また、電磁石(96)への通電を停止すると、可動片(97)がスプリングの押圧力によって第1シリンダ(71)の内周面側へ押し付けられる。そして、本変形例の可変機構(90)も、電磁石(96)側へ引き寄せる可動片(97)の個数を変更することによって、第1シリンダ(71)の内周面における導入通路(61)の開口面積を変化させる。
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態は、上記実施形態1において膨張機構(50)の構成を変更したものである。具体的には、膨張機構(50)をスクロール型流体機械で構成したものである。ここでは、本実施形態の膨張機構(50)について説明する。
図11に示すように、本実施形態の膨張機構(50)は、固定スクロール(100)と可動スクロール(105)とを備えている。
上記可動スクロール(105)は、平板状の可動側鏡板部(106)と、この可動側鏡板部(106)の上面に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(107)とを備えている。この可動スクロール(105)は、シャフト(30)に係合して偏心回転する部材であって、可動部材を構成している。また、この可動スクロール(105)は、図外のオルダムリングによってその自転が禁止されており、シャフト(30)の軸心周りに公転運動を行う。
上記固定スクロール(100)は、平板状の固定側鏡板部(101)と、この固定側鏡板部(101)の下面に立設された渦巻き壁状の固定側ラップ(102)とを備えている。この固定スクロール(100)は、直接に又は他の部材を介してケーシング(21)に固定されており、固定部材を構成している。固定スクロール(100)は可動スクロール(105)と噛み合わされており、固定側ラップ(102)と可動側ラップ(107)が噛み合うことで三日月型の流体室(110)が複数形成される。
図12に示すように、上記固定側鏡板部(101)には、導入通路(61)が形成されている。この導入通路(61)は、長方形状に形成された開口であって、固定側鏡板部(101)をその厚み方向へ貫通している。また、固定側鏡板部(101)では、固定側鏡板部(101)をその厚み方向に貫通する導出ポート(56)が、固定側ラップ(102)の巻き終わり端の近傍に形成されている。
本実施形態の可変機構(90)も、上記実施形態1の可変機構と同様に、回転板(91)と駆動ロッド(94)と駆動モータ(95)とを備えている。ただし、本実施形態の可変機構(90)では、回転板(91)の構成が上記実施形態1と異なっている。
図13に示すように、本実施形態の回転板(91)は、上記実施形態1と同様の傘歯車状に形成されている。この回転板(91)には、その中心部に貫通孔(92)が形成されている。この貫通孔(92)は、回転板(91)を厚み方向へ貫通する長方形の開口であり、その2本の対角線の交点が回転板(91)の中心と一致するように形成されている。また、この貫通孔(92)の形状は、固定スクロール(100)に形成された導入通路(61)と全く同じ長方形となっている。この回転板(91)は、傘歯車の歯が上を向く姿勢で固定スクロール(100)の上に載置されている。この状態で、平坦面である回転板(91)の下面は、固定側鏡板の上面と密着している。また、回転板(91)は、貫通孔(92)の対角線の交点が導入通路(61)の対角線の交点と重なるように配置されている。
図14に示すように、回転板(91)に形成された歯車の歯には、上記実施形態1の場合と同様に、駆動ロッド(94)の先端に形成された傘歯車が係合している。駆動ロッド(94)を駆動モータ(95)で回転させると、回転板(91)は、その中心軸周りに回転する。回転板(91)が回転すると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積、即ち導入通路(61)の開口面積が変化する。例えば、貫通孔(92)の長辺と導入通路(61)の長辺が重なり合う状態では、貫通孔(92)と導入通路(61)が完全に重なり合い、導入通路(61)の開口面積が最大となる。一方、貫通孔(92)の長辺と導入通路(61)の長辺が直交する状態では、貫通孔(92)と導入通路(61)がそれぞれの長手方向の中央部だけで重なり合い、導入通路(61)の開口面積が最小となる。
−運転動作−
膨張機構(50)の動作について、図11を参照しながら説明する。ここでは、固定スクロール(100)の導入通路(61)と回転板(91)の貫通孔(92)とが部分的に重複しており、両者の長手方向のなす角が50°前後となっていて両者の重複部分が菱形となっている場合を例に説明する。
先ず、流体室(110)内へ高圧流体が流入する過程について説明する。シャフト(30)の回転角が0°の状態において、固定側ラップ(102)及び可動側ラップ(107)の巻き始め部分によって囲まれた1つの流体室(110)は、導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分を介して導入管(24)に連通した状態となっている。この流体室(110)の容積は、シャフト(30)の回転角が60°,120°,180°,240°,300°と次第に大きくなるにつれて拡大し、導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分を通って流体室(110)内へ高圧冷媒が流入してゆく。
シャフト(30)の回転角が360°に達すると、この流体室(110)は、固定側ラップ(102)の内側面と可動側ラップ(107)の外側面に挟まれたA室(111)と、固定側ラップ(102)の外側面と可動側ラップ(107)の内側面に挟まれたB室(112)とに仕切られる。導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分の面積が最小に設定されている場合であれば、シャフト(30)の回転角が360°に達した時点で、A室(111)及びB室(112)が導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分から遮断された状態となる。ところが、図11に示す状態では導入通路(61)と貫通孔(92)の重複部分が菱形となっており、シャフト(30)の回転角が360°を超えた後も、A室(111)及びB室(112)へ高圧冷媒が流入し続ける。A室(111)及びB室(112)への高圧冷媒の導入は、シャフト(30)の回転角が400°から480°へ至る途中で終了する。
その後、シャフト(30)が回転するにつれてA室(111)及びB室(112)の容積が拡大し、A室(111)及びB室(112)において冷媒が膨張する。A室(111)内での冷媒の膨張は、シャフト(30)の回転角が約1020°に達するまで継続する。その時点からシャフト(30)が更に回転すると、A室(111)が導出ポート(56)と連通状態になり、A室(111)内の冷媒が導出ポート(56)へ送り出されてゆく。一方、B室(112)内での冷媒の膨張は、シャフト(30)の回転角が約840°に達するまで継続する。その時点からシャフト(30)が更に回転すると、B室(112)が導出ポート(56)と連通状態になり、B室(112)内の冷媒が導出ポート(56)へ送り出されてゆく。
可変機構(90)の回転板(91)を回転させると、回転板(91)の貫通孔(92)と固定スクロール(100)の導入通路(61)との重複部分の面積、即ち固定側鏡板部(101)における導入通路(61)の開口面積が変化する(図14を参照)。例えば、回転板(91)を同図における左回りへ回転させると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積、即ち導入通路(61)の開口面積が拡大する。逆に、回転板(91)を同図における右回りへ回転させると、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分の面積、即ち導入通路(61)の開口面積が縮小する。
上記膨張機構(50)では、導入通路(61)の開口面積が大きくなるにつれて、流体室(110)への高圧冷媒の導入が終了する時点におけるシャフト(30)の回転角が大きくなってゆく。そして、流体室(110)への高圧冷媒の導入終了時点におけるシャフト(30)の回転角が大きくなるほど、シャフト(30)が1回転する間に膨張機構(50)へ流入する高圧冷媒の体積が大きくなり、また、貫通孔(92)と導入通路(61)の重複部分から遮断された時点におけるA室(111)及びB室(112)の容積も大きくなる。従って、この膨張機構(50)では、可変機構(90)によって設定される導入通路(61)の開口面積が大きくなるほど、膨張機構(50)での膨張比が小さくなる。
《その他の実施形態》
上記実施形態1及び2では、膨張機構(50)の各ロータリ機構部(70,80)を揺動ピストン型のロータリ式流体機械によって構成しているが、これに代えて、ローリングピストン型のロータリ式流体機械によって各ロータリ機構部(70,80)を構成してもよい。この場合、各ロータリ機構部(70,80)では、ブレード(76,86)がピストン(75,85)と別体に形成される。また、各ロータリ機構部(70,80)では、ブッシュ(77,87)が省略される。そして、ブレード(76,86)は、その先端をピストン(75,85)の外周面に押し付けられた状態で、ピストン(75,85)の動きに追従してシリンダ(71,81)の半径方向へ往復動する。
なお、以上の各実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。