このように、容積型膨張機は固有の膨張比を有している。一方、上記膨張機が用いられる蒸気圧縮式冷凍サイクルでは、冷却対象の温度変化や放熱(加熱)対象の温度変化により該冷凍サイクルの高圧圧力と低圧圧力が変化するので、その圧力比も変動し、それに伴って膨張機の吸入冷媒と排出冷媒の密度もそれぞれ変動する。したがって、この場合は、冷凍サイクルが上記膨張機とは異なる膨張比で運転されることになり、その結果、運転効率が低下してしまう。
例えば、蒸気圧縮式冷凍サイクルの圧力比が小さくなる条件、言い換えると膨張比が小さくなる条件では、同じ回転数において圧縮機から吐出される冷媒量は増加する。しかし、膨張機では、膨張比に関わらず、同じ回転数の場合はほぼ同じ量の冷媒が流れる。そのため、実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなる条件では、圧縮機からの冷媒量に比べて膨張機に流せる冷媒量が少なくなる。
これに対し、上記特許文献2の装置では、膨張機と並列にバイパス通路が設けられており、このバイパス通路には流量制御弁が設けられている。したがって、この装置では、膨張比が小さくなる条件において、冷媒の一部をバイパス通路に流すことで、冷凍サイクルの圧縮行程側と膨張行程側とで冷媒流量を合わせることが可能である。しかし、このようにすると、膨張機を通らない冷媒が膨張仕事をしないために、膨張機による回収動力が減ってしまい、運転効率が低下することになる。
また、設計膨張比よりも低膨張比の条件では、膨張室内で過膨張が発生し、これにより効率が低下する問題もある。そこで、この点について説明する。
一般に、膨張機は、設計膨張比で運転動作が行われているときに最大限の動力回収効率が得られるように構成されている。図12は、高圧圧力が超臨界圧力となる二酸化炭素冷媒の場合の理想的な運転条件での膨張室の容積変化と圧力変化との関係を示すグラフである。図示するように、非圧縮性流体に近い特性の高圧流体はa点からb点までの間に膨張室内に供給され、b点から膨張を開始する。b点を過ぎると高圧流体の供給が停止するため、圧力が一旦c点まで急激に下がり、その後は膨張しながらd点まで緩やかに圧力が低下する。そして、d点で膨張室のシリンダ容積が最大になった後、排出側になって容積が縮小するとe点まで排出される。その後はa点に戻り、次のサイクルの吸入過程が開始される。この図の状態では、d点の圧力は冷凍サイクルの低圧圧力と一致している。
一方、上記膨張機を空調機に用いている場合には、上述したように、冷房運転と暖房運転の切り換えや外気温度の変化などの運転条件の変動により、冷凍サイクルの実際の膨張比が該サイクルの設計膨張比ないし膨張機の固有膨張比を外れることがある。特に、冷凍サイクルの実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなると、膨張室の内圧が冷凍サイクルの低圧圧力よりも低くなり、膨張機の内部で過膨張が発生する状態になってしまうことがある。
図13はこのときの膨張室の容積変化と圧力変化との関係を示すグラフであり、冷凍サイクルの低圧圧力が図12の例よりも上昇した状態を示している。この場合、流体はa点からb点までの間でシリンダ内に供給された後、膨張機の固有膨張比に従ってd点まで圧力が低下する。一方、冷凍サイクルの低圧圧力はd点よりも高いd’点になっている。したがって、膨張過程の完了後、排出過程において冷媒がd点からd’点まで昇圧され、さらにe’点まで排出されて、次のサイクルの吸入過程が開始されることになる。
このような状況において、膨張機内では冷媒の排出のために動力の内部消費が行われることになる。つまり、過膨張発生時には、回収動力は図13で示す(面積I)−(面積II)分しか得られないことになり、図12の運転条件と比べて回収動力が大幅に減少してしまう。
本発明は、このような問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、膨張比が小さくなる条件でも膨張機での動力回収を行えるようにするとともに、過膨張を解消できるようにして、運転効率が低下するのを防止することである。
本発明は、膨張室(62)への流体流入側から分岐して該膨張室(62)の吸入/膨張過程位置に連通する連絡通路(72)を設け、この連絡通路(72)から膨張室(62)へ、流入側の高圧流体を導入できるようにしたものである。
具体的に、第1の発明は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路(20)を備え、蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張機構を行う膨張機構として、膨張室(62)に供給された高圧流体が膨張することにより動力が発生する膨張機構を有する容積型膨張機(60)を備えた冷凍装置を前提としている。そして、この冷凍装置は、上記膨張機(60)が、上記膨張室(62)の流体流入側から分岐して該膨張室(62)の吸入/膨張過程の初期の位置に1箇所のみで連通する連絡通路(72)を備え、該連絡通路(72)に流通制御機構(73,75,76)が設けられていることを特徴としている。
また、第2の発明は、前提とする構成が第1の発明と同じ冷凍装置において、上記膨張機(60)が、上記膨張室(62)の流体流入側から分岐して、該膨張室(62)の吸入/膨張過程位置であって膨張機構の動作中に常に流体流出側から隔てられる位置に連通する連絡通路(72)を備え、該連絡通路(72)に流通制御機構(73,75,76)が設けられていることを特徴としている。
この第1,第2の発明では、例えば冷凍サイクルの膨張比と膨張機の固有膨張比とが一致しているときには、流通制御機構(73,75,76)を開かず、連絡通路(72)を閉じた状態とする。このときは、設計膨張比で運転が行われるため、膨張機での動力回収が効率よく行われる。
一方、運転条件の変化に伴って実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなると、流通制御機構(73,75,76)を開いて運転を行う。この場合、冷媒は、流量調整を行いながら膨張機を流れる状態となる。したがって、回転数を変えなくてもすべての冷媒を膨張機に流すことが可能になり、従来は膨張機をバイパスしていた冷媒が膨張機で膨張仕事を行うため、動力の回収効率が向上する。
特に、蒸気圧縮式冷凍サイクルでは、上述したように運転条件によって高圧圧力や低圧圧力が変動し、それによって実際の膨張比も変化する。したがって、膨張比が小さくなる条件で、従来の膨張機を用いていたのでは冷媒のバイパスにより動力回収効率が低下するのに対して、この発明では冷凍サイクルの効率低下を効果的に抑えられる。
また、これらの発明では、膨張室(62)で過膨張が生じる状態において、流通制御機構(73,75,76)を開くことにより過膨張の状態も解消できる。つまり、過膨張が生じるときは、膨張室(62)内の圧力が流体流出側よりも低くなっているが、流体流入側から膨張室(62)へ高圧流体を補助的に導入することで、膨張室(62)の圧力を流体流出側の圧力まで高めることができる。したがって、この発明では、図13の面積IIに示した動力消費が行われなくなり、図14や図15に示すように、冷媒が膨張過程においてd’点まで徐々に膨張する運転状態になる。このことにより、過膨張時に動力回収効率が低下するのも防止できる。
特に、現在一般によく使用されている冷媒(例えばR410A)について、暖房時に膨張比が約4、冷房時に約3となる例を想定すると、暖房時に適正な膨張比を選定した場合は冷房時には過膨張が生じる。また、実際の運転時で冷房負荷の小さいときなどは、さらに過膨張が発生しやすくなる。これに対して、この発明では、流入側の流体を連絡通路(72)から膨張室(62)へ補助的に導入することにより、過膨張の状態を効果的に解消することができる。
また、第3の発明は、第1または第2の発明の冷凍装置において、流通制御機構(73,75,76)が、開度調整可能なインジェクション弁(73)により構成されていることを特徴としている。
この第3の発明では、冷凍サイクルの膨張比と膨張機の固有膨張比とが一致しているときにはインジェクション弁(73)を閉鎖して運転を行う。一方、蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張比が小さくなる条件において、従来であれば冷媒に膨張機をバイパスさせる場合でも、インジェクション弁(73)の開度を調整して冷媒を流量調整し、その冷媒を膨張機に導入することが可能となる。これにより、膨張機で冷媒の膨張仕事が行われる。また、膨張室(62)で過膨張が生じる状態においても、インジェクション弁(73)を開くことにより高圧側の流体を膨張室(62)に導入し、その圧力を上昇させることができるので、過膨張の状態を解消できる。
また、第4の発明は、第1または第2の発明の冷凍装置において、流通制御機構(73,75,76)が、開閉可能な電磁弁(75)により構成されていることを特徴としている。
この第4の発明では、電磁弁の開閉するタイミングを制御することにより、冷媒の流量を調整しながら膨張室(62)に導入することができる。したがって、従来は冷媒に膨張機をバイパスさせていた条件でも冷媒が膨張仕事を行い、動力の回収効率が向上する。
また、過膨張に対しては、以下のような制御を行う。つまり、膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力と流体流出側の圧力とが一致しているか差圧が小さいときは、過膨張は生じていないと考えられるので、電磁弁(75)を閉鎖した状態で運転を行う。一方、運転状態の変化に伴って膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力と流体流出側の圧力との差圧が一定以上に大きくなったときには、膨張室(62)で過膨張が生じる状態になっていると考えられるので、電磁弁(75)を開いた状態で運転を行う。このためには、例えば膨張室(62)の圧力と流体流出側の圧力とをそれぞれ検出しておけばよい。こうすれば、過膨張が発生する条件では、高圧流体の一部を膨張室(62)に供給して膨張室(62)の圧力を流体流出側の圧力まで上昇させられるため、過膨張の状態を解消できる。
また、第5の発明は、第1または第2の発明の冷凍装置において、流通制御機構(73,75,76)が、膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力が流体流出側の圧力に対して所定値よりも低下すると開口する差圧弁(76)により構成されていることを特徴としている。
この第5の発明は、圧縮機の流量に対して膨張機の流量が不足しているときには、通常、過膨張が発生していることから、この過膨張時に膨張室(62)に連絡通路(72)から冷媒を導入するようにして、圧縮機と膨張機の流量を簡易的に近づけるようにしたものである。
この構成において、過膨張が生じていないときは、膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力と流体流出側の圧力とが一致しているか差圧が小さいため、差圧弁(76)が閉鎖した状態で運転が行われる。一方、運転状態の変化に伴って過膨張が生じる状態になったとき、膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力と流体流出側の圧力との差圧が一定以上に大きくなるので、差圧弁(76)が開口する。そうすると高圧流体の一部が膨張室(62)に供給されるので、膨張室(62)の圧力が流体流出側の圧力まで上昇し、過膨張の状態が解消される。なお、差圧が小さくなるか、なくなると、差圧弁(76)は閉鎖され、連絡通路(72)から膨張室(62)への高圧流体の導入は停止する。
また、この発明では、膨張室(62)の圧力が流体流出側の圧力に近づいたとき(同じになる前)に差圧弁(76)が開くようにすると、膨張機が高速で運転されていても、差圧弁(76)の開閉のタイミングが遅れて効果不十分になるのを防止できる。
また、第6の発明は、第1から第5の何れか1の発明の冷凍装置において、膨張機構(60)が、高圧圧力が超臨界圧となる蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張行程を行うように構成されていることを特徴としている。
冷媒にCO2 などを用いて行う超臨界サイクルでは、例えば膨張比が暖房時に約3、冷房時に約2となり、冷房時の動力損失が、現在一般に使用されている冷媒を用いた冷凍サイクルよりも大きくなる。これに対して、流入側の流体を連絡通路(72)から膨張室(62)に補助的に導入すると、動力損失を効果的に低減できる。
また、第7の発明は、第1から第6の何れか1の発明の冷凍装置において、膨張機構(60)が回転式の膨張機構であり、流体の膨張により回転動力を回収するように構成されていることを特徴としている。回転式の膨張機構(60)としては、揺動ピストン式、ローリングピストン式、あるいはスクロール式などの膨張機構(60)を採用することができる。
また、第8の発明は、第7の発明の冷凍装置において、ケーシング(31)内に上記容積型膨張機(60)と電動機(40)と圧縮機(50)とを備えた流体機械を有し、上記圧縮機(50)が上記容積型膨張機(60)及び電動機(40)により駆動されて流体を圧縮するように構成されていることを特徴としている。
この発明では、冷凍装置に圧縮機(50)と膨張機(60)が一体になった流体機械を用いる場合に、圧縮機(50)と膨張機(60)が一般に同じ回転数で回転するため、低膨張比の条件で動力回収の効率が低下しやすいのに対して、冷媒を膨張機(60)に導入することにより、動力回収効率を特に効果的に高められる。
第1,第2の発明によれば、流体流入側から該膨張室(62)内に流体を補助的に導入することができるため、従来は高圧流体(冷媒)が膨張機構(60)をバイパスする状態としていた低膨張比の条件で、膨張機構(60)に流体を導入できる。これにより、高圧流体に膨張仕事を常に行わせることが可能となり、動力回収効率が向上する。
また、過膨張が発生する条件のときに膨張機構(60)に冷媒を導入すると、過膨張を解消できる。したがって、図13の面積IIで表される動力損失をなくし、図14,図15に示すように確実に動力回収をすることができる。このように、過膨張が発生する運転条件において、動力回収効率を高めることも可能となる。
また、この発明によれば、蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張行程を行うのに上記膨張機(60)を用いるようにしている。したがって、蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいては運転条件が変化しやすく、低膨張比のときに膨張機(60)において動力回収の効率が低下しやすいのに対して、その効率低下を効果的に防止できる。
また、第3の発明によれば、連絡通路(72)にインジェクション弁(73)を設けることにより、蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張比が小さくなり、従来であれば冷媒を膨張機(60)に流さずにバイパスさせる場合に、冷媒を膨張機(60)に流すことが可能となるので、確実に動力回収の効率を高められる。また、過膨張も確実に防止できる。
また、第4の発明によれば、連絡通路(72)に電磁弁(75)を設けているため、低膨張比条件で該電磁弁(75)を開閉し、膨張室(62)に冷媒を導入することにより、動力回収効率が低下するのを防止できる。また、膨張室(62)内の圧力が流体流出側よりも下がったときに該電磁弁(75)を開くことにより、過膨張の状態も確実に解消できる。
また、第5の発明によれば、連絡通路(72)に差圧弁(76)を設け、膨張室(62)内の圧力が流体流出側よりも下がったときに該差圧弁(76)が開くことを利用して膨張室(62)へ高圧流体を導入するようにしているため、簡易的に低膨張比条件で動力回収効率を高められる。また、第3,第4の発明と同様に過膨張の状態を確実に解消することもできる。
また、第6の発明によれば、上記膨張機(60)を超臨界サイクルに用いるようにしているため、該超臨界サイクルにおける動力損失が特に大きいのに対して、該損失をより効果的に抑えることが可能となる。
また、第7の発明によれば、揺動ピストン式、ローリングピストン式、あるいはスクロール式などで代表される回転式の膨張機構(60)を備えた膨張機において、過膨張を抑えることにより、回転動力の回収効率を高めることができる。
また、第8の発明によれば、ケーシング(31)内に容積型膨張機(60)と電動機(40)と圧縮機(50)とを備えた流体機械で、膨張機(60)の回収動力を電動機(40)とともに圧縮機(50)の駆動動力に用いる場合に、膨張機(60)による動力回収効率を高められるので、電動機(40)による圧縮機(50)への駆動入力を抑え、効率的な運転をすることが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〈発明の実施形態1〉
この実施形態1は、流体機械を用いた空調機(冷凍装置)(10)に関するものである。
《空調機の全体構成》
図1に示すように、上記空調機(10)は、いわゆるセパレート型のものであって、室外機(11)と室内機(13)とを備えている。室外機(11)には、室外ファン(12)、室外熱交換器(23)、第1四路切換弁(21)、第2四路切換弁(22)、及び圧縮・膨張ユニット(30)が収納されている。室内機(13)には、室内ファン(14)及び室内熱交換器(24)が収納されている。そして、室外機(11)は屋外に設置され、室内機(13)は屋内に設置されている。また、室外機(11)と室内機(13)とは、一対の連絡配管(15,16)で接続されている。尚、圧縮・膨張ユニット(30)の詳細は後述する。
上記空調機(10)には、冷媒回路(20)が設けられている。この冷媒回路(20)は、圧縮・膨張ユニット(30)や室内熱交換器(24)などが接続された閉回路である。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。
上記室外熱交換器(23)と室内熱交換器(24)とは、何れもクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器で構成されている。室外熱交換器(23)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室外空気と熱交換する。室内熱交換器(24)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室内空気と熱交換する。
上記第1四路切換弁(21)は、4つのポートを備えている。この第1四路切換弁(21)は、その第1のポートが圧縮・膨張ユニット(30)の吐出ポート(35)と配管接続され、第2のポートが連絡配管(15)を介して室内熱交換器(24)の一端と配管接続され、第3のポートが室外熱交換器(23)の一端と配管接続され、第4のポートが圧縮・膨張ユニット(30)の吸入ポート(34)と配管接続されている。そして、第1四路切換弁(21)は、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
上記第2四路切換弁(22)は、4つのポートを備えている。この第2四路切換弁(22)は、その第1のポートが圧縮・膨張ユニット(30)の流出ポート(37)と配管接続され、第2のポートが室外熱交換器(23)の他端と配管接続され、第3のポートが連絡配管(16)を介して室内熱交換器(24)の他端と配管接続され、第4のポートが圧縮・膨張ユニット(30)の流入ポート(36)と配管接続されている。そして、第2四路切換弁(22)は、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
《圧縮・膨張ユニットの構成》
図2に示すように、圧縮・膨張ユニット(30)は、本発明の流体機械を構成している。この圧縮・膨張ユニット(30)では、横長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)の内部に、圧縮機構部(50)、膨張機構部(60)、及び電動機(40)が収納されている。また、このケーシング(31)内では、図2における左から右に向かって、圧縮機構部(50)、電動機(40)、膨張機構部(60)の順で配置されている。尚、図2を参照しながらの説明で用いる「右」「左」は、それぞれ同図における「右」「左」を意味する。
上記電動機(40)は、ケーシング(31)の長手方向の中央部に配置されている。この電動機(40)は、ステータ(41)とロータ(42)とにより構成されている。ステータ(41)は、上記ケーシング(31)に固定されている。ロータ(42)は、ステータ(41)の内側に配置されている。また、ロータ(42)には、該ロータ(42)と同軸にシャフト(45)の主軸部(48)が貫通している。
上記シャフト(45)は、その右端側に大径偏心部(46)が形成され、その左端側に小径偏心部(47)が形成されている。大径偏心部(46)は、主軸部(48)よりも大径に形成され、主軸部(48)の軸心から所定量だけ偏心している。一方、小径偏心部(47)は、主軸部(48)よりも小径に形成され、主軸部(48)の軸心から所定量だけ偏心している。そして、このシャフト(45)は、回転軸を構成している。
上記シャフト(45)には、図示しないが、油ポンプが連結されている。また、上記ケーシング(31)の底部には、潤滑油が貯留されている。この潤滑油は、油ポンプによって汲み上げられ、圧縮機構部(50)や膨張機構部(60)へ供給されて潤滑に利用される。
上記圧縮機構部(50)は、いわゆるスクロール圧縮機を構成している。この圧縮機構部(50)は、固定スクロール(51)と、可動スクロール(54)と、フレーム(57)とを備えている。また、圧縮機構部(50)には、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが設けられている。
上記固定スクロール(51)では、鏡板(52)に渦巻き状の固定側ラップ(53)が突設されている。この固定スクロール(51)の鏡板(52)は、ケーシング(31)に固定されている。一方、上記可動スクロール(54)では、板状の鏡板(55)に渦巻き状の可動側ラップ(56)が突設されている。固定スクロール(51)と可動スクロール(54)とは、互いに対向する姿勢で配置されている。そして、固定側ラップ(53)と可動側ラップ(56)が噛み合うことにより、圧縮室(59)が区画される。
上記吸入ポート(34)は、その一端が固定側ラップ(53)及び可動側ラップ(56)の外周側に接続されている。一方、上記吐出ポート(35)は、固定スクロール(51)の鏡板(52)の中央部に接続され、その一端が圧縮室(59)に開口している。
上記可動スクロール(54)の鏡板(55)は、その右側面の中央部に突出部分が形成されており、この突出部分にシャフト(45)の小径偏心部(47)が挿入されている。また、上記可動スクロール(54)は、オルダムリング(58)を介してフレーム(57)に支持されている。このオルダムリング(58)は、可動スクロール(54)の自転を規制するためのものである。そして、可動スクロール(54)は、自転することなく、所定の旋回半径で公転する。この可動スクロール(54)の旋回半径は、小径偏心部(47)の偏心量と同じである。
上記膨張機構部(60)は、いわゆる揺動ピストン型の膨張機構であって、本発明における容積型膨張機を構成している。この膨張機構部(60)は、シリンダ(61)と、フロントヘッド(63)と、リアヘッド(64)と、ピストン(65)とを備えている。また、膨張機構部(60)には、流入ポート(36)と流出ポート(37)とが設けられている。
上記シリンダ(61)は、その左側端面がフロントヘッド(63)により閉塞され、その右側端面がリアヘッド(64)により閉塞されている。つまり、フロントヘッド(63)とリアヘッド(64)は、それぞれが閉塞部材を構成している。
上記ピストン(65)は、両端がフロントヘッド(63)とリアヘッド(64)で閉塞されたシリンダ(61)の内部に収納されている。そして、図4に示すように、シリンダ(61)内に膨張室(62)が形成されるとともに、ピストン(65)の外周面がシリンダ(61)の内周面に実質的に摺接するようになっている。
図4(a)に示すように、上記ピストン(65)は、円環状あるいは円筒状に形成されている。ピストン(65)の内径は、大径偏心部(46)の外径と概ね等しくなっている。そして、シャフト(45)の大径偏心部(46)がピストン(65)を貫通するように設けられ、ピストン(65)の内周面と大径偏心部(46)の外周面がほぼ全面に亘って摺接する。
また、上記ピストン(65)には、ブレード(66)が一体に設けられている。このブレード(66)は、板状に形成されており、ピストン(65)の外周面から外側へ突出している。シリンダ(61)の内周面とピストン(65)の外周面に挟まれた膨張室(62)は、このブレード(66)によって高圧側(吸入/膨張側)と低圧側(排出側)とに仕切られる。
上記シリンダ(61)には、一対のブッシュ(67)が設けられている。各ブッシュ(67)は、それぞれが半月状に形成されている。このブッシュ(67)は、ブレード(66)を挟み込んだ状態で設置され、ブレード(66)と摺動する。また、ブッシュ(67)は、ブレード(66)を挟んだ状態でシリンダ(61)に対して回動自在となっている。
図4に示すように、上記流入ポート(36)は、フロントヘッド(63)に形成されており、導入通路を構成している。流入ポート(36)の終端は、フロントヘッド(63)の内側面において、流入ポート(36)が直接に膨張室(62)と連通することのない位置に開口している。具体的に、流入ポート(36)の終端は、フロントヘッド(63)の内側面のうち大径偏心部(46)の端面と摺接する部分において、同図(a)における主軸部(48)の軸心のやや左上の位置に開口している。
フロントヘッド(63)には、溝状通路(69)も形成されている。図4(b)に示すように、この溝状通路(69)は、フロントヘッド(63)をその内側面側から掘り下げることにより、フロントヘッド(63)の内側面に開口する凹溝状に形成されている。
フロントヘッド(63)の内側面における溝状通路(69)の開口部分は、図4(a)において上下に細長い長方形状となっている。溝状通路(69)は、同図(a)における主軸部(48)の軸心よりも左側に位置している。また、この溝状通路(69)は、同図(a)における上端がシリンダ(61)の内周面よりも僅かに内側に位置すると共に、同図(a)における下端がフロントヘッド(63)の内側面のうち大径偏心部(46)の端面と摺接する部分に位置している。そして、この溝状通路(69)は、膨張室(62)と連通可能になっている。
シャフト(45)の大径偏心部(46)には、連通路(70)が形成されている。図4(b)に示すように、この連通路(70)は、大径偏心部(46)をその端面側から掘り下げることにより、フロントヘッド(63)に向き合った大径偏心部(46)の端面に開口する凹溝状に形成されている。
また、図4(a)に示すように、連通路(70)は、大径偏心部(46)の外周に沿って延びる円弧状に形成されている。更に、連通路(70)におけるその周長方向の中央は、主軸部(48)の軸心と大径偏心部(46)の軸心を結んだ線上であって、大径偏心部(46)の軸心に対して主軸部(48)の軸心とは反対側に位置している。そして、シャフト(45)が回転すると、それに伴って大径偏心部(46)の連通路(70)も移動し、この連通路(70)を介して流入ポート(36)と溝状通路(69)が間欠的に連通する。
図4(a)に示すように、上記流出ポート(37)は、シリンダ(61)に形成されている。この流出ポート(37)の始端は、膨張室(62)に臨むシリンダ(61)の内周面に開口している。また、流出ポート(37)の始端は、同図(a)におけるブレード(66)の右側近傍に開口している。
そして、本発明の特徴として、上記膨張機構部(60)には、膨張室(62)の流体流入側である流入ポート(36)から分岐して該膨張室(62)の吸入/膨張過程位置に連通する連絡通路として、連絡管(72)が設けられている。この連絡管(72)には、該連絡管(72)を流れる冷媒の流通/停止の切り換えや流量調整を行う流通制御機構(73)が設けられている。
上記連絡管(72)は、図4(a)におけるブレード(66)の左側近傍に接続されている。具体的には、上記連絡管(72)は、シャフト(45)の回転中心を基準としてブッシュ(67)の回動中心のある位置を0°とすると、図4(a)において反時計回り方向へ約20°〜30°の位置において、シリンダ(61)に接続されている。また、上記開閉機構(73)は、開度調整可能な電動弁(インジェクション弁)により構成されている。この電動弁(73)の開度を調整すると、上記連絡管(72)を流れる冷媒の流量を調整することが可能である。また、該電動弁(73)を閉鎖すると、連絡管(72)に冷媒を流さない状態にすることができる。
本実施形態1の空調機(10)には、一般に冷媒回路(20)に設けられる高圧圧力センサ(74a)及び低圧圧力センサ(74b)に加えて、膨張室(62)の圧力を検出する過膨張圧力センサ(74c)が設けられている。また、この空調機(10)の制御手段(74)は、これらのセンサ(74a,74b,74c)により検出される圧力に基づいて、上記電動弁(73)を制御できるようになっている。
−運転動作−
上記空調機(10)の動作について説明する。ここでは、空調機(10)の冷房運転時及び暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構部(60)の動作について説明する。
《冷房運転》
冷房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(30)の電動機(40)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
圧縮機構部(50)で圧縮された冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。室外熱交換器(23)では、流入した冷媒が室外ファン(12)により送られる室外空気と熱交換する。この熱交換により、冷媒が室外空気に対して放熱する。
室外熱交換器(23)で放熱した冷媒は、第2四路切換弁(22)を通過し、流入ポート(36)を通って圧縮・膨張ユニット(30)の膨張機構部(60)へ流入する。膨張機構部(60)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(45)の回転動力に変換される。膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(37)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通過して室内熱交換器(24)へ送られる。
室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内ファン(14)により送られる室内空気と熱交換する。この熱交換により、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(24)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通過し、吸入ポート(34)を通って圧縮・膨張ユニット(30)の圧縮機構部(50)へ吸入される。圧縮機構部(50)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
《暖房運転》
暖房運転時には、第1四路切換弁(21)及び第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮・膨張ユニット(30)の電動機(40)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
圧縮機構部(50)で圧縮された冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この吐出冷媒は、第1四路切換弁(21)を通過して室内熱交換器(24)へ送られる。室内熱交換器(24)では、流入した冷媒が室内空気と熱交換する。この熱交換により、冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。
室内熱交換器(24)で放熱した冷媒は、第2四路切換弁(22)を通過し、流入ポート(36)を通って圧縮・膨張ユニット(30)の膨張機構部(60)へ流入する。膨張機構部(60)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(45)の回転動力に変換される。膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(37)を通って圧縮・膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通過して室外熱交換器(23)へ送られる。
室外熱交換器(23)では、流入した冷媒が室外空気と熱交換を行い、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通過し、吸入ポート(34)を通って圧縮・膨張ユニット(30)の圧縮機構部(50)へ吸入される。圧縮機構部(50)は、吸入した冷媒を圧縮して吐出する。
《膨張機構部の動作》
膨張機構部(60)の動作について、図3〜図11を参照しながら説明する。尚、図3は、大径偏心部(46)の中心軸に対して垂直な膨張機構部(60)の断面をシャフト(45)の回転角度45°毎に示したものである。また、図4〜図11の各図において、(a)は図3における回転角度毎に膨張機構部(60)の断面を拡大図示したものであり、(b)は大径偏心部(46)の中心軸に沿った膨張機構部(60)の断面を模式的に示したものである。尚、図4〜図11の各図において、(b)では主軸部(48)の断面の図示を省略している。
膨張室(62)へ高圧冷媒を導入すると、シャフト(45)が図3〜図11の各図における反時計方向へ回転する。
シャフト(45)の回転角度が0°の時点では、図3,図4に示すように、流入ポート(36)の終端が大径偏心部(46)の端面で覆われている。つまり、流入ポート(36)は、大径偏心部(46)によって塞がれた状態となっている。大径偏心部(46)の連通路(70)は、溝状通路(69)のみに連通している。溝状通路(69)は、ピストン(65)と大径偏心部(46)の端面によって覆われており、膨張室(62)に連通しない状態となっている。膨張室(62)は、流出ポート(37)に連通することにより、その全体が低圧側となっている。この時点において、膨張室(62)は流入ポート(36)から遮断された状態となっており、高圧冷媒は膨張室(62)へ流入しない。
シャフト(45)の回転角度が45°の時点では、図3,図5に示すように、流入ポート(36)が大径偏心部(46)の連通路(70)に連通した状態となる。この連通路(70)は、溝状通路(69)にも連通している。溝状通路(69)は、図3や図5(a)における上端部分がピストン(65)の端面から外れた状態となり、膨張室(62)の高圧側と連通する。この時点において、膨張室(62)が連通路(70)及び溝状通路(69)を介して流入ポート(36)に連通された状態となっており、高圧冷媒が膨張室(62)の高圧側へ流入する。つまり、膨張室(62)への高圧冷媒の導入は、シャフト(45)の回転角度が0°から45°に至るまでの間に開始される。
シャフト(45)の回転角度が90°の時点では、図3,図6に示すように、依然、膨張室(62)が連通路(70)及び溝状通路(69)を介して流入ポート(36)に連通された状態となっている。このため、シャフト(45)の回転角度が45°から90°に至るまでの間は、膨張室(62)の高圧側へ高圧冷媒が流入し続ける。
シャフト(45)の回転角度が135°の時点では、図3,図7に示すように、大径偏心部(46)の連通路(70)が溝状通路(69)及び流入ポート(36)の両方から外れた状態となる。この時点において、膨張室(62)は流入ポート(36)から遮断された状態となっており、高圧冷媒は膨張室(62)へ流入しない。したがって、膨張室(62)への高圧冷媒の導入は、シャフト(45)の回転角度が90°から135°に至るまでの間に終了する。
膨張室(62)への高圧冷媒の導入が終了した後は、膨張室(62)の高圧側が閉空間となり、そこへ流入した冷媒が膨張する。つまり、図3や図8〜図11の各図に示すように、シャフト(45)が回転して膨張室(62)における高圧側の容積が増大してゆく。また、その間、流出ポート(37)に連通する膨張室(62)の低圧側からは、膨張後の低圧冷媒が流出ポート(37)を通じて排出され続ける。
膨張室(62)における冷媒の膨張は、シャフト(45)の回転角度が315°から360°に至るまでの間において、ピストン(65)におけるシリンダ(61)との接触部分が流出ポート(37)に達するまで続く。そして、ピストン(65)におけるシリンダ(61)との接触部分が流出ポート(37)を横切ると、膨張室(62)が流出ポート(37)と連通され、膨張した冷媒の排出が開始される。
ここで、冷凍サイクルの理想的な動作が行われていて、膨張室(62)において過膨張が発生していない場合は、電動弁(73)を閉鎖した状態とする。このときは、膨張室(62)の容積変化と圧力変化との関係は、図12のグラフに示す状態となる。つまり、高圧流体はa点からb点までの間に膨張室(62)内に供給された後、b点から膨張が開始する。膨張室(62)は高圧流体の導入が停止すると圧力が一旦c点へ急激に下がり、その後の膨張によりd点まで緩やかに圧力が低下していく。そして、該膨張室(62)で排出過程が行われた後、a点に戻って次の吸入過程が開始される。このとき、吸入冷媒と排出冷媒の密度比は設計膨張比であり、動力回収効率のよい運転が行われる。
一方、上記冷媒回路(20)では、冷房運転と暖房運転の切り換え、あるいは外気温度の変化などにより、高圧圧力や低圧圧力が設計圧力を外れることがある。このような場合、上記制御手段(74)は、上記センサ(74a,74b,74c)により検出される圧力に基づいて以下のような運転制御を行う。
例えば、運転条件の変化により低圧圧力が上昇するなどして、実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなることがある。このような条件では、一般に、同じ回転数での圧縮機構部(50)からの吐出冷媒量が増加する一方、膨張機構部(60)では、同じ回転数ではほぼ同じ冷媒量が流れるため、圧縮機構部(50)からの冷媒量に比べて膨張機構部(60)の冷媒量が少なくなる。本実施形態では、このようなとき、電動弁(73)の開度を調整すると、該電動弁(73)で必要な量の冷媒を常に膨張機構部(60)に導入できるので、圧縮機構部(50)と膨張機構部(60)の流量が同じになるように調整することができる。こうすることにより、従来は膨張機構部(60)をバイパスして膨張仕事を行わない冷媒により効率が低下していたのに対し、運転効率を改善できる。
電動弁(73)の開度調整を行う運転の状態を図15に示している。この場合、冷媒はa点からb’点への吸入過程を終えた後、d’点まで徐々に膨張する。冷媒はさらにe’点まで排出され、その後膨張室(62)では次の吸入過程が開始される。この運転状態ではa点、b’点、d’点、及びe’点で囲まれた面積Iにおいて膨張仕事が行われるので、効率のよい運転を行うことができる。
また、この実施形態1では、低圧圧力が上昇して実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなり、膨張室(62)が流出ポート(37)より低い圧力になる条件でも、過膨張を防止することができる。つまり、膨張室(62)で過膨張が生じる条件になると、電動弁(73)を所定開度に開き、高圧冷媒の一部を連絡管(72)から膨張室(62)内に導入する。これにより、膨張室(62)の圧力を冷凍サイクルの低圧圧力まで上昇させ、過膨張を解消することができる。したがって、上記電動弁(73)を設けない場合は、図13において過膨張の領域を示す面積IIにおいて動力が消費され、膨張機構部(60)の動力回収効率が大幅に低下するのに対して、図15に示すように図13の面積IIに示した動力消費が行われなくなる。したがって、面積IIの分の回収効率低下を防止できる。
−実施形態1の効果−
以上説明したように、この実施形態1によれば、膨張室(62)の流体流入側である流入ポート(37)から分岐して該膨張室(62)の吸入/膨張過程内の位置へ連通する連絡管(72)を設け、膨張比の小さい運転条件において電動弁(73)の開度を調整し、圧縮機(50)の流量と膨張機(60)の流量を同じにできるようにしている。このことにより、従来は冷媒に膨張機(60)をバイパスさせていたような条件でも膨張機(60)での動力回収を行うことが可能となり、効率のよい運転を行うことができる。
また、この実施形態1では、過膨張が発生する条件では電動弁(73)を開いて連絡管(72)を開通できるので、膨張室(62)の圧力を上昇させることにより過膨張の状態を解消できる。したがって、過膨張の発生する条件で冷媒を排出させるのに動力を消費することがなくなり、膨張機構部(60)による動力回収効率が向上する。そして、動力回収効率が向上するため、圧縮機構部(50)への無駄な入力を抑え、効率のよい運転を行うことが可能となる。
また、上記構成では、連絡管(72)を膨張室(62)に、上記吸入/膨張過程内の位置のうち、特に該過程の初期の位置(シャフト(45)の回転角度で約20°〜30°の位置)において接続しているので、高圧冷媒を膨張室(62)へ導入することが必要な運転条件において、吸入/膨張過程中の該膨張室(62)に高圧冷媒の一部をほとんど常時導入することができる。
また、この実施形態1では、冷媒である二酸化炭素(CO2)を超臨界状態まで圧縮して行う蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて、例えば暖房運転を基準とする設計をした場合に冷房運転を行うと過膨張が生じやすいのに対して、その過膨張の発生を効果的に防止できる。
〈発明の実施形態2〉
本発明の実施形態2は、実施形態1の流体機械に関して、図16に示すように、膨張機構部(60)の連絡管(72)に、電動弁(73)でなく開閉可能な電磁弁(75)を設けた例である。また、上記制御手段(74)は、実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなる条件で上記電磁弁(75)を所定のタイミングで開閉するとともに、過膨張の発生する条件でも該電磁弁(75)を開く運転制御を行うように構成されている。
この実施形態2において、その他の部分は実施形態1と同様に構成されている。
本実施形態2においては、膨張比の小さい運転条件においては電磁弁(75)を所定のタイミングで開閉することにより、圧縮機(50)の流量と膨張機(60)の流量をほとんど同じにすることができる。そして、従来は冷媒に膨張機(60)をバイパスさせていたような条件でも膨張機(60)での動力回収を行うことが可能となり、効率のよい運転を行うことができる。
また、本実施形態2においては、過膨張が発生したときには、連絡管(72)の電磁弁(75)を開くことにより、膨張室(62)の冷媒の圧力を上昇させて過膨張の状態を解消できる。過膨張の解消は、実施形態1と同様に図14にしたがって行われる。この場合も、過膨張の冷媒を排出させるのに動力を消費しないため、膨張機構部(60)による動力回収効率が向上する。また、動力回収効率が向上するため、圧縮機構部(50)への無駄な入力を抑え、効率のよい運転を行うことも可能である。
〈発明の実施形態3〉
本発明の実施形態3は、図17に示すように、連絡管(72)に設ける流通制御機構として、実施形態1の電動弁(73)や実施形態2の電磁弁(75)に代えて差圧弁(76)を用いたものである。この差圧弁(76)は、膨張室(62)の膨張過程中間位置における流体の圧力と流体流出側の圧力とに所定の差圧が生じたときに動作をするものであり、これらの圧力が該差圧弁(76)に直接に作用する。
上記差圧弁(76)は、図18に示すように、上記連絡管(72)の経路中に固定された弁ケース(81)と、弁ケース(81)内に可動に設けられた弁体(82)と、弁体(82)を一方向に付勢するコイルバネ(83)とから構成されている。弁ケース(81)は、上記弁体(82)をスライド可能に保持する収納凹部(81a)が形成された中空の部材であり、該収納凹部(81a)に連通する4つのポートを備えている。上記弁体(82)は、上記連絡管(72)を閉鎖する閉鎖位置と、該連絡管(72)を開放する開放位置とに変位可能であり、上記コイルバネ(83)によって開放位置(図18(b))から閉鎖位置(図18(a))へ付勢されている。
上記連絡管(72)は、上記弁ケース(81)における弁体(82)の移動方向と交差する向きで上記弁ケース(81)に固定されている。弁体(82)は、弁ケース(81)の収納凹部(81a)に嵌合し、上記閉鎖位置と開放位置とにスライド可能に形成されている。また、弁体(82)は、開放位置で上記連絡管(72)を開口し、
閉鎖位置で該連絡管(72)を閉鎖する連通孔(82a)を有している。
上記弁ケース(81)には、膨張室(62)の膨張過程中間位置に連通する第1連通管(85)と、流体流出側である流出ポート(37)に連通する第2連通管(86)とが接続されている。第1連通管(85)は、コイルバネ(83)と反対側の端部、つまり弁体(82)の開放位置側の端部において、上記弁ケース(81)に接続され、膨張室(62)からの圧力P1を弁体(82)に与える。また、第2連通管(86)は、コイルバネ(83)側の端部、つまり弁体(82)の閉鎖位置側の端部において、上記弁ケース(81)に接続され、流体流出側からの圧力P2を弁体(82)に与える。このことにより、膨張室(62)の圧力が流体流出側の圧力よりも所定値以上に低下して、両圧力P1,P2の間に所定の差圧が生じたときには、上記差圧弁(76)が動作する。
この実施形態3においては、空調機(10)が設計圧力で運転されているときは、膨張機構部(60)の流出ポート(37)と膨張室(62)との間に実質的に差圧は発生せず、差圧弁(76)は閉じた状態となっている。そして、膨張室(62)の容積変化に伴う冷媒の圧力変化と、冷凍サイクルにおける実際の冷媒圧力とが一致し、運転が図12に示す理想的な状態で行われて、効率のよい動力回収が行われる。
一方、運転条件が変動して膨張室(62)で過膨張が発生する状態になると、膨張室(62)内の圧力P1が流出ポート(37)の圧力P2よりも下がり、差圧弁(76)が開口する。したがって、流入側の冷媒の一部が膨張室(62)内に補助的に導入されて該膨張室(62)の圧力が上昇し、過膨張の状態が解消される。したがって、この場合にも実施形態1,2と同様に動力回収効率が向上するため、圧縮機構部(60)への無駄な入力を減らし、効率のよい運転を行うことが可能となる。
また、差圧弁(76)が開口しているときは過膨張の状態であり、このときは概ね膨張機(60)の流量が圧縮機(50)の流量よりも少なくなっている。したがって、このときに冷媒を膨張室(62)に導入すると、簡易的に膨張機(60)の流量を圧縮機(50)の流量に近づけることができるため、膨張機(60)をバイパスする冷媒による効率低下の問題も解消できる。
なお、膨張機(60)が高速回転するときは、差圧弁(76)の開閉のタイミングが遅れて十分な効果が得られないことが考えられるため、膨張室(62)内の圧力が冷媒流出側の圧力に近づいたときに差圧弁(76)を開くようにバネ力を設定してもよい。
〈発明の実施形態4〉
本発明の実施形態4は、上記実施形態1において膨張機構部(60)の構成を変更したものである。具体的には、上記実施形態1の膨張機構部(60)が揺動ピストン型に構成されているのに対し、本実施形態の膨張機構部(60)は、ローリングピストン型に構成されている。ここでは、本実施形態の膨張機構部(60)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図19に示すように、本実施形態において、ブレード(66)は、ピストン(65)と別体に形成されている。つまり、本実施形態のピストン(65)は、単純な円環状あるいは円筒状に形成されている。また、本実施形態のシリンダ(61)には、ブレード溝(68)が形成されている。
上記ブレード(66)は、シリンダ(61)のブレード溝(68)に、進退自在な状態で設けられている。また、ブレード(66)は、図外のバネによって付勢され、その先端(図17における下端)がピストン(65)の外周面に押し付けられている。図20に順次示すように、シリンダ(61)内でピストン(65)が移動しても、このブレード(66)は、ブレード溝(68)に沿って同図の上下に移動し、その先端がピストン(65)と接した状態に保たれる。そして、ブレード(66)の先端をピストン(65)の周側面に押し付けることで、膨張室(62)が高圧側と低圧側に仕切られる。
この実施形態4においても、流入ポート(36)と膨張室(62)の吸入/膨張過程内の位置とが連絡管(72)により接続され、連絡管(72)には電動弁(73)が設けられている。したがって、低膨張比条件で流入ポート(36)側の冷媒の一部を補助的に膨張室(62)内に導入できるので、上記各実施形態と同様に動力回収効率を高められるとともに、過膨張を解消することも可能となる。
〈発明のその他の実施の形態〉
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態1〜3では、膨張機構部(60)のフロントヘッド(63)側に流入ポート(36)を形成した例について説明したが、流入ポート(36)はリアヘッド(64)側に設けてもよい。また、これらの実施形態では、高圧冷媒を膨張室(62)に導入するために、シャフト(45)に設けた大径偏心部(46)の端面の連通路(70)と、フロントヘッド(63)の内面に設けた溝状通路(69)とを介して、流入ポート(36)と膨張室(62)とを連通させるようにしているが、このような構成も適宜変更してもよい。
また、上記各実施形態では揺動ピストン型の膨張機構とローリングピストン型の膨張機構を備えた空調機に本発明を適用した例について説明したが、本発明はスクロール型の膨張機構を備えた空調機に適用することも可能である。
また、上記各実施形態では、膨張機構部(60)と圧縮機構部(50)と電動機(40)とを1つのケーシング(31)内に備えた圧縮・膨張ユニット(30)について説明したが、本発明は、圧縮機と別体に形成した膨張機に適用してもよい。
要するに、本発明では、空調機などの冷凍装置において、膨張機構(60)の流体流入側から分岐して膨張室(62)の吸入/膨張過程位置に連通する連絡通路(72)を設け、この連絡通路(72)を所定の条件において開くことが可能な構成にしている限り、その他の構成は適宜変更してもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。