以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る回転式圧縮機(20)は、室内の冷房や暖房を行う空気調和装置(10)に適用されている。
〈空気調和装置の全体構成〉
図1に示すように、空気調和装置(10)は、冷媒が循環することで冷凍サイクルを行う冷媒回路(11)を備えている。冷媒回路(11)には、上記回転式圧縮機(20)、室外熱交換器(14)、室内熱交換器(15)、第1膨張弁(16)、第2膨張弁(17)、四方切換弁(12)、三方切換弁(13)、気液分離器(18)、及びアキュームレータ(19)が接続されている。
回転式圧縮機(20)の吐出側は、吐出管(23)を通じて四方切換弁(12)の第1ポート(P1)に接続されている。また、回転式圧縮機(20)の吸入側は、吸入管(22)を介してアキュームレータ(19)の底部に接続されている。また、アキュームレータ(19)の頂部は、四方切換弁(12)の第4ポート(P4)に接続されている。また、室外熱交換器(14)は、その一端が四方切換弁(12)の第2ポート(P2)に、その他端が第2膨張弁(17)を介して気液分離器(18)の底部に接続されている。一方、室内熱交換器(15)は、その一端が四方切換弁(12)の第3ポート(P3)に、その他端が第1膨張弁(16)を介して気液分離器(18)の底部に接続されている。
四方切換弁(12)は、第1ポート(P1)と第2ポート(P2)とが連通し且つ第3ポート(P3)と第4ポート(P4)とが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)とが連通し且つ第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。
また、冷媒回路(11)には、インジェクション管(24)が設けられている。インジェクション管(24)は、その一端が気液分離器(18)の頂部に接続され、その他端が回転式圧縮機(20)に接続されている。このインジェクション管(24)には、開閉自在な電磁弁(31)が設けられている。電磁弁(31)を開状態にすると、気液分離器(18)内の中間圧冷媒がインジェクション管(24)によって回転式圧縮機(20)に導入される。
また、冷媒回路(11)には、バイパス管(28)と油分離器(30)とが設けられている。バイパス管(28)は、その一端が回転式圧縮機(20)に接続され、その他端が吸入管(22)に接続されている。油分離器(30)は、回転式圧縮機(20)の吐出管(23)に接続されている。油分離器(30)は、密閉状の容器で構成され、その内部には回転式圧縮機(20)の吐出冷媒が流入する。油分離器(30)内では、回転式圧縮機(20)の各摺動部を潤滑するための油が吐出冷媒中から分離される。分離された油は、油分離器(30)の底部に貯留される。
また、冷媒回路(11)には、油戻し管(29a)と冷却熱交換器(32)と三方切換弁(13)と導入管(29b)とが設けられている。油戻し管(29a)は、その流入端が油分離器(30)の底部に接続し、その流出端が三方切換弁(13)に接続している。冷却熱交換器(32)は、油戻し管(29a)に設けられている。冷却熱交換器(32)は、油戻し管(29a)を流れる油を冷却する冷却手段を構成している。導入管(29b)は、その流入端が三方切換弁(13)に接続し、その流出端が回転式圧縮機(20)に接続されている。三方切換弁(13)は、残りのポートが回転式圧縮機(20)の吸入管(22)に接続している。三方切換弁(13)は、油戻し管(29a)と導入管(29b)とを連通する状態(図1に実線で示す状態)と、導入管(29b)と回転式圧縮機(20)の吸入管(22)とを連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成されている。三方切換弁(13)が図1の実線の状態となると、油戻し管(29a)と導入管(29b)とによって、回転式圧縮機(20)へ油を導入するための油導入通路(29)が構成される。
〈回転式圧縮機の構成〉
次に、本発明に係る回転式圧縮機の構成について説明する。
図2に示すように、回転式圧縮機(20)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(21)を備えている。ケーシング(21)の上部には、上記吐出管(23)が貫通して接続されている。ケーシング(21)の胴部には、上記吸入管(22)、バイパス管(28)、及び導入管(29b)が貫通して接続されている。ケーシング(20)の内部には、その上側寄りに電動機(25)が配置され、その下側寄りに圧縮機構(40)が配置されている。また、ケーシング(21)の内部空間は、圧縮機構(40)から吐出された冷媒で満たされている。つまり、この回転式圧縮機(20)は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機で構成されている。
上記電動機(25)は、ステータ(26)とロータ(27)とで構成されている。ステータ(26)は、ケーシング(21)の内周面に固定されている。ロータ(27)は、ステータ(26)の内側に配置されている。ロータ(27)の中央部には、上下方向に延びる駆動軸(33)の主軸部(34)が連結されている。
駆動軸(33)は、電動機(25)が通電されることで、所定の回転軸(X)を軸心として回転駆動される。駆動軸(33)には、下側から順に第1偏心軸部(35)と第2偏心軸部(36)とが形成されている。第1偏心軸部(35)及び第2偏心軸部(36)は、主軸部(34)よりも大径で、且つ主軸部(34)の回転軸(X)に対して偏心して形成されている。第1偏心軸部(35)と第2偏心軸部(36)とでは、回転軸(X)に対する偏心方向が逆になっている。また、第1偏心軸部(35)の高さは、第2偏心軸部(36)よりも高くなっている。
上記ケーシング(21)内の底部には、潤滑油の油溜め部(21a)が形成されている。この油溜め部(21a)には、駆動軸(33)の下端部が浸積されている。駆動軸(33)の下端部には、遠心式の油ポンプ(33a)が設けられている。駆動軸(33)が回転すると、油溜め部(21a)の潤滑油は、油ポンプ(33a)によって上方に汲み上げられる。この潤滑油は、駆動軸(33)に形成される油通路(53)を介して、詳細は後述する圧縮機構(40)の各摺動部等へ供給される。
上記圧縮機構(40)は、低段側圧縮機構(40a)と高段側圧縮機構(40b)とによって構成されている。つまり、この回転式圧縮機は、2つの圧縮機構を備え、冷媒を2段階に圧縮する、いわゆる二段圧縮型の圧縮機で構成されている。
圧縮機構(40)では、上方から順に、フロントヘッド(44)、高段側シリンダ(41b)、ミドルプレート(46)、低段側シリンダ(41a)、及びリアヘッド(45)が配設され、これらがケーシング(21)固定される固定部材を構成している。フロントヘッド(44)、ミドルプレート(46)、及びリアヘッド(45)には、上記駆動軸(33)が貫通している。また、フロントヘッド(44)及びリアヘッド(45)は、ケーシング(21)の内壁に固定されており、駆動軸(33)を回転自在に支持している。また、リアヘッド(45)は、上述の油溜め部(21a)に浸積している。
低段側シリンダ(41a)及び高段側シリンダ(41b)は、筒状に形成されている。低段側シリンダ(41a)の内部には低段側シリンダ室(42a)が、高段側シリンダ(41b)の内部には高段側シリンダ室(42b)がそれぞれ形成されている。つまり、低段側シリンダ室(42a)は、その下側の開放端がリアヘッド(45)に閉塞され、その上側の開放端がミドルプレート(46)に閉塞されている。そして、リアヘッド(45)、ミドルプレート(46)、及び低段側シリンダ(41a)の間に、上記低段側シリンダ室(42a)が形成されている。一方、高段側シリンダ室(42b)は、その下側の開放端がミドルプレート(46)に閉塞され、その上側の開放面がフロントヘッド(44)に閉塞されている。そして、フロントヘッド(44)、ミドルプレート(46)、及び高段側シリンダ(41b)の間に、上記高段側シリンダ室(42b)が形成されている。
また、低段側シリンダ室(42a)には、筒状の低段側ピストン(47a)が設けられている。低段側ピストン(47a)には、上記第1偏心軸部(35)が内嵌している。一方、高段側シリンダ室(42b)には、筒状の高段側ピストン(47b)が設けられている。高段側ピストン(47b)には、上記第2偏心軸部(36)が内嵌している。低段側ピストン(47a)及び高段側ピストン(47b)は、可動部材を構成している。以上のようにして、この圧縮機構(40)では、リアヘッド(45)からミドルプレート(46)に亘って低段側圧縮機構(40a)が設けられ、ミドルプレート(46)からフロントヘッド(44)に亘って高段側圧縮機構(40b)が設けられている。
低段側圧縮機構(40a)及び高段側圧縮機構(40b)は、各ピストン(47a,47b)が各シリンダ室(41a,41b)をそれぞれ揺動するように公転する、いわゆる揺動ピストン型(スイング型)のロータリ圧縮機構で構成されている。低段側圧縮機構(40a)と高段側圧縮機構(40b)とは、基本的な構成は同様となっている。一方、低段側圧縮機構(40a)の低段側シリンダ室(42a)の容積は、高段側圧縮機構(40b)の高段側シリンダ室(42b)の容積よりも大きくなっている。
図3に示すように、低段側圧縮機構(40a)には、ブレード(38)と一対のブッシュ(39,39)が設けられている。上記ブレード(38)は、低段側ピストン(47a)と一体に形成されている。ブレード(38)は、低段側ピストン(47a)の外周面から径方向外側に伸長している。このブレード(38)は、低段側シリンダ室(42a)を低圧側の低圧室(42a-Lp)と高圧側の高圧室(42a-Hp)とに区画している。一対のブッシュ(39,39)は、低段側シリンダ(41a)に形成されるブッシュ孔(56)に嵌合している。各ブッシュ(39,39)は、それぞれ略半円柱状に形成されている。両ブッシュ(39,39)は、その平坦な面同士が互いに向かい合っている。そして、両ブッシュ(39,39)は、その平坦面の間で上記ブレード(38)を進退自在に保持している。また、各ブッシュ(39,39)は、その円弧状の外周面がブッシュ孔(56)の内周面と摺接している。そして、各ブッシュ(39,39)は、ブッシュ孔(56)の軸心を支点としてブッシュ孔(56)に揺動自在に保持されている。以上のような構成のブレード(38)及びブッシュ(39)は、低段側ピストン(47a)の自転を規制するための自転制限機構を構成している。
低段側圧縮機構(40a)には、低段側吸入通路(48a)及び低段側吐出通路(49a)が形成されている。低段側吸入通路(48a)は、低段側シリンダ(41a)に形成されている。低段側吸入通路(48a)の流入端には、上記吸入管(22)が接続されている。低段側吸入通路(48a)の流出端は、低段側シリンダ室(42a)の低圧室(42a-Lp)に開口している。つまり、低段側吸入通路(48a)の流出端は、低段側シリンダ室(42a)の吸入口を構成している。低段側吸入通路(48a)からは、低段側シリンダ室(42a)へ低圧のガス冷媒が供給される。上記低段側吐出通路(49a)は、ミドルプレート(46)に形成されている。低段側吐出通路(49a)の流入端は、低段側シリンダ室(42a)の高圧室(42a-Hp)に開口している。つまり、低段側吐出通路(49a)の流入端は、低段側シリンダ室(42a)の吐出口を構成している。また、低段側吐出通路(49a)の流出端には、ミドルプレート(46)の内部に形成された中間圧空間(50)に開口している(図2参照)。更に、低段側吐出通路(49a)の流出開口部には、図示しない吐出弁が設けられている。中間圧空間(50)は、低段側圧縮機構(40a)からの吐出冷媒で満たされており、中間圧雰囲気となっている。中間圧空間(50)は、上記インジェクション管(24)と連通している。
高段側圧縮機構(40b)には、上記低段側圧縮機構(40a)と同様にして、ブレード及びブッシュが設けられている(図示省略)。また、高段側圧縮機構(40b)には、高段側吸入通路(48b)と高段側吐出通路(49b)が形成されている。高段側吸入通路(48b)の流入端は、上記中間圧空間(50)と連通している。高段側吸入通路(48b)の流出端は、高段側シリンダ室(42b)の低圧室に開口している。上記高段側吐出通路(49b)は、フロントヘッド(44)に形成されている。高段側吐出通路(49b)の流入端は、高段側シリンダ室(42b)の高圧室に開口している。高段側吐出通路(49b)の流出端は、ケーシング(21)の内部に開口している。また、高段側吐出通路(49b)の流出開口部には、図示しない吐出弁が設けられている。更に、フロントヘッド(44)の上部には、高段側吐出通路(49b)の流出開口部近傍の騒音を低減するためのマフラ(58)が設けられている(図2参照)。
図4(A)及び図4(B)に示すように、上述した低段側圧縮機構(40a)のリアヘッド(45)には、バイパス孔(62)及び弁体収容部(61)が設けられている。
バイパス孔(62)は、バイパス通路(66)の流入端を構成している。バイパス孔(62)は、その上端が低段側シリンダ室(42a)の下側の内壁面に開口している。また、図3に示すように、バイパス孔(62)は、駆動軸(33)の回転軸(X)とブッシュ孔(56)の軸心を結ぶ直線を基準線とした場合に、この基準線から回転軸(X)を中心として図3の時計回りに約90度を成す直線上に位置している。このバイパス孔(62)は、その径方向外側寄りの一部がリアヘッド(45)に跨るように配置されている。また、バイパス孔(62)は、上記第1偏心軸部(35)よりも径方向外側に位置している。つまり、バイパス孔(62)は、回転軸(X)を中心に偏心回転する第1偏心軸部(35)の外周面の軌跡よりも径方向外側に位置している。従って、低段側圧縮機構(40a)では、第1編心軸部(35)の外周面に供給される潤滑油がバイパス孔(62)に直接入り込んでしまうことがない。
弁体収容部(61)は、リアヘッド(45)の下端から上端近傍に亘って形成されている。弁体収容部(61)の内部には、上記バイパス孔(62)と同軸の円柱状の空間が形成されている。弁体収容部(61)は、その上端がバイパス孔(62)に臨んでおり、その下端が蓋部材(63)によって封止されている。
弁体収容部(61)の内部には、弁体(64)が上下方向に変位自在に内嵌している。弁体(64)は、弁体収容部(61)の上側から下側に向かって2段階に外径が拡大するような円柱状に形成されている。つまり、弁体(64)は、上段側の小径部(64a)と中段側の中径部(64b)と下段側の大径部(64c)とを有している。これら小径部(64a)、中径部(64b)、及び大径部(64c)は同軸となっている。
弁体(64)の大径部(64c)は、その外径が弁体収容部(61)の内径とほぼ同じである。つまり、弁体(64)の大径部(64c)は、弁体収容部(61)の内周面に摺接している。そして、弁体収容部(61)の内部空間は、弁体(64)の大径部(64c)によって、その上側の上部空間(61a)とその下側の下部空間(61b)とに区画されている。
弁体(64)の小径部(64a)は、その外径がバイパス孔(62)の内径とほぼ同じである。つまり、弁体(64)の小径部(64a)は、バイパス孔(62)に係合してバイパス孔(62)を封止可能に構成されている。また、小径部(64a)の先端は、平坦であり且つリアヘッド(45)の上面と平行となるよう形成されている。また、小径部(64a)の高さは、バイパス孔(62)の深さと一致するか、あるいはバイパス孔(62)の深さよりも短くなっている。
弁体(64)の中径部(64b)は、その外径が弁体収容部(61)の内径よりも小さくなっている。つまり、弁体(64)の中径部(64b)と弁体収容部(61)の内周面との間には、筒状の空間が形成されている。この筒状の空間には、中径部(64b)の周囲を覆うようにしてバネ部材(65)が設けられている。このバネ部材(65)は、上部空間(61a)において、一端が大径部(64c)と当接し、他端が弁体収容部(61)の天井面と当接するように配置されている。バネ部材(65)が自然長となる状態においては、小径部(64a)がバイパス孔(62)を開放する位置まで弁体(64)が押し下げられる。
弁体収容部(61)では、その上部空間(61a)に上記バイパス管(28)が接続されている。つまり、低段側シリンダ室(42a)は、バイパス孔(62)及び上部空間(61a)を介してバイパス管(28)と連通している。これらバイパス孔(62)、上部空間(61a)、及びバイパス管(28)がバイパス通路(66)を構成している。一方、下部空間(61b)には、上記導入管(29b)が接続している。下部空間(61b)には、上記三方切換弁(13)の設定に応じて、低圧冷媒又は高圧の油が導入管(29b)より導入される。即ち、下部空間(61b)は、三方切換弁(13)の切換えに応じて、低圧雰囲気と高圧雰囲気とのいずれか一方になる。
具体的には、三方切換弁(13)を図1に実線で示す状態に設定すると、油分離器(30)で分離された高圧の油が、導入管(29b)を介して下部空間(61b)に導入される。すると、高圧の油がバネ部材(65)の付勢力に抗して弁体(64)を上方に変位させる。その結果、図4(A)に示すように、弁体(64)の小径部(64a)がバイパス孔(62)に係合し、バイパス通路(66)が閉じた状態になる。また、三方切換弁(13)を図1に破線で示す状態に設定すると、吸入管(22)を流通する低圧冷媒が導入管(29b)を介して下部空間(61b)に導入される。すると、弁体(64)は、バネ部材(65)の付勢力によって下側に変位する。その結果、図4(B)に示すように、弁体(64)の小径部(64a)がバイパス孔(62)から引き出され、バイパス通路(66)が開いた状態になる。なお、これらの弁体(64)の開閉動作の詳細は、後述するものとする。
−空気調和装置の運転動作−
本実施形態に係る空気調和装置(10)の運転動作について説明する。空気調和装置(10)は、冷房運転と暖房運転とが可能に構成されている。
〈冷房運転〉
冷房運転時には、四方切換弁(12)が図1に実線で示す状態に設定される。この状態で回転式圧縮機(20)の電動機(25)に通電すると、回転式圧縮機(20)の運転が開始し、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
回転式圧縮機(20)で圧縮された冷媒は、吐出管(23)から吐出されて油分離器(30)及び四方切換弁(12)を通り、室外熱交換器(14)へ送られて室外空気へ放熱する。室外熱交換器(14)で放熱した高圧冷媒は、第2膨張弁(17)で減圧されて中間圧冷媒となり気液分離器(18)に流入する。気液分離器(18)に流入した中間圧冷媒は、中間圧ガス冷媒と中間圧液冷媒とに分離される。そのうち気液分離器(18)の底部から流出した中間圧液冷媒は、第1膨張弁(16)で減圧されて低圧液冷媒となり室内熱交換器(15)へ流入する。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(15)から流出した低圧冷媒は、四方切換弁(12)とアキュームレータ(19)を順に通過して回転式圧縮機(20)へ吸入される。回転式圧縮機(20)に吸入された冷媒は、低段側圧縮機構(40a)、高段側圧縮機構(40b)の順で圧縮される。
また、この冷房運転において、電磁弁(31)を開状態に設定すると、気液分離器(18)内の中間圧ガス冷媒がインジェクション管(24)によって回転式圧縮機(20)の中間圧空間(50)へ導入される。中間圧空間(50)へ導入された冷媒は、低段側圧縮機構(40a)から吐出された冷媒と共に高段側圧縮機構(40b)で圧縮される。このように、インジェクション管(24)から高段側圧縮機構(40b)の吸入側へ中間圧冷媒を送るようにすると、高段側圧縮機構(40b)の吸入冷媒のエンタルピが低下し、いわゆるエコノマイザ効果により空気調和装置(10)の運転効率が向上する。
〈暖房運転〉
暖房運転時には、四方切換弁(12)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で回転式圧縮機(20)の電動機(25)に通電すると、冷媒回路(11)で冷媒が循環して蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
回転式圧縮機(20)で圧縮された冷媒は、吐出管(23)から吐出されて油分離器(30)及び四方切換弁(12)を通り、室内熱交換器(15)へ流入する。室内熱交換器(15)では、流入した冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(15)で放熱した冷媒は、第1膨張弁(16)で減圧されて中間圧冷媒となり気液分離器(18)に流入する。気液分離器に流入した中間圧冷媒は、中間圧ガス冷媒と中間圧液冷媒とに分離される。そのうち気液分離器(18)の底部から流出した中間圧液冷媒は、第2膨張弁(17)で減圧されて低圧液冷媒となる。第2膨張弁(17)で減圧された低圧液冷媒は、室外熱交換器(14)へ送られ、室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(14)から流出した低圧冷媒は、四方切換弁(12)とアキュームレータ(19)を順に通過して回転式圧縮機(20)へ吸入される。回転式圧縮機(20)に吸入された冷媒は、低段側圧縮機構(40a)、高段側圧縮機構(40b)の順で圧縮される。
また、この暖房運転においても、電磁弁(31)を開状態に設定すると、気液分離器(18)内の中間圧のガス冷媒が中間圧空間(50)へ導入される。中間圧空間(50)へ導入された冷媒は、低段側圧縮機構(40a)から吐出された冷媒と共に高段側圧縮機構(40b)で圧縮される。このように、インジェクション管(24)から高段側圧縮機構(40b)の吸入側へ中間圧冷媒を送るようにすると、高段側圧縮機構(40b)の吸入冷媒のエンタルピが低下し、いわゆるエコノマイザ効果により空気調和装置(10)の運転効率が向上する。
−回転式圧縮機の動作−
次に、回転式圧縮機(20)の動作について説明する。この回転式圧縮機(20)は、電動機(25)に通電すると、その電動機(25)で発生する動力によって駆動軸(33)が回転する。その結果、第1及び第2偏心軸部(35,36)は、回転軸(X)に対して所定の偏心量で偏心回転する。その結果、各偏心軸部(35,36)が内嵌する各ピストン(47a,47b)は、各シリンダ(41a,41b)内を偏心回転する。その結果、低段側圧縮機構(40a)及び高段側圧縮機構(40b)では、以下のような圧縮動作が行われる。なお、低段側圧縮機構(40a)と高段側圧縮機構(40b)とでは、基本的には同様の圧縮動作が行われるので、以下には低段側圧縮機構(40a)の圧縮動作について詳細に説明する。この回転式圧縮機(20)では、上記三方切換弁(13)の設定、即ち上述したバイパス通路(66)の開閉状態に応じて以下の第1圧縮動作と第2圧縮動作とが切換可能となっている。
〈第1圧縮動作〉
第1圧縮動作は、バイパス通路(66)を閉状態としながら回転式圧縮機(20)を運転するものである。具体的には、第1圧縮動作では、三方切換弁(13)が図1の実線で示す状態に設定される。その結果、油分離器(30)の底部に溜まった油は、高圧冷媒に押し出されるようにして、油戻し管(29a)へ流入する。油戻し管(29a)を流れる高温の油は、冷却熱交換器(32)を流通する際に、比較的低温まで冷却される。冷却後の油は、三方切換弁(13)及び導入管(29b)を通過し、弁体収容部(61)における弁体(64)の背面側の下部空間(61b)に導入される。弁体(64)の背面側に高圧の油が導入されると、弁体収容部(61)では、弁体(64)が上方に押し上げられ、バイパス孔(62)を閉鎖する位置まで変位する(図4(A)参照)。
図5(A)に示す位置の低段側ピストン(47a)の偏心回転角度を0度として低段側圧縮機構(40a)の圧縮動作を説明する。駆動軸(33)の回転に伴い図5(A)の位置の低段側ピストン(47a)が時計回りに偏心回転すると、低段側ピストン(47a)と低段側シリンダ(41a)の当接位置が時計回りに変位する。この当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過すると、低段側シリンダ室(42a)内に低圧室(42a-Lp)が形成される(図5(B)参照)。低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が大きくなるに連れて、低段側吸入通路(48a)から低圧室(42a-Lp)へ冷媒が吸入されていく(図5(B)〜図5(H)参照)。低圧室(42a-Lp)には、低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が360度(即ち、0度)になるまで冷媒が吸入される。
その後、図5(A)の状態から、低段側ピストン(47a)が僅かに回転すると、低段側ピストン(47a)と低段側シリンダ(41a)の当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過する。低段側圧縮機構(40a)では、この当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過した時点で、低圧室(42a-Lp)における冷媒の閉じ込みが完了する。そして、この状態から駆動軸(33)が更に公転すると、低圧室(42a-Lp)は高圧室(42a-Hp)となって冷媒の圧縮を開始する。低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が大きくなるに連れて、高圧室(42a-Hp)の容積が縮小して冷媒が圧縮される。そして、高圧室(42a-Hp)内の冷媒の圧力が中間圧空間(50)の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開状態になり冷媒が低段側吐出通路(49a)から中間圧空間(50)へ吐出される。冷媒の吐出は、低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が360度になるまで続く。
以上のような低段側圧縮機構(40a)の第1圧縮動作においては、上述のように、弁体(64)の背面側に高圧の油が導入され、弁体(64)が閉鎖位置に保持されている。ここで、閉鎖位置の弁体(64)の外周面と、弁体収容部(61)の間には僅かな隙間が形成される。従来のものでは、弁体(64)の背面側に高圧冷媒を導入していたため、このように隙間が形成されると、高圧冷媒が隙間を通じて低圧室(42a-Lp)に漏れ込んでしまうことがあった。その結果、高圧からの冷媒の漏れ込みに加え、低圧室(42a-Lp)内の冷媒が加熱され、このような圧縮動作における容積効率(圧縮効率)が低下してしまうという問題があった。
一方、本実施形態では、上述の如く、弁体(64)の背面側に高圧の油を導入している。このため、閉鎖位置の弁体(64)の周りの隙間に油が入り込み、この隙間が油によってシールされる。従って、下部空間(61b)内の油がバイパス孔(62)を通じて、低圧室(42a-Lp)へ漏れてしまうことが回避される。また、この油は、冷却熱交換器(32)によって比較的低温にまで冷却されている。このため、この油が弁体(64)の周りの隙間より、低圧室(42a-Lp)に漏れてしまっても、低圧室(42a-Lp)内の冷媒が加熱されてしまうことが抑制される。また、このように油が低圧室(42a-Lp)に冷媒が漏れてしまったとしても、従来のように冷媒が漏れ込む場合と比べて、その量は少量となる。
一方、高段側圧縮機構(40b)では、高段側ピストン(47b)の偏心回転に伴って、中間圧空間(50)内の冷媒が高段側吐出通路(49b)を介して高段側シリンダ室(42b)内に吸入される。そして、高段側シリンダ室(42b)内の冷媒の圧力がケーシング(21)内の空間の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開状態になり、冷媒が高段側吐出通路(49b)からケーシング(21)内の空間へ吐出される。この冷媒は、吐出管(23)から冷媒回路(11)へ吐出され、上述した冷凍サイクルに利用される。
〈第2圧縮動作〉
第2圧縮動作は、バイパス通路(66)を開状態としながら回転式圧縮機(20)を運転するものである。具体的には、第2圧縮動作では、三方切換弁(13)が図1の破線で示す状態に設定される。その結果、上述のように弁体収容部(61)では、バネ部材(65)によって弁体(64)が下方に押し下げられる(図4(B)参照)。このため、第2圧縮動作では、バイパス孔(62)が開放された状態となる。以上のようにして、バイパス通路(66)が開放されると、低段側シリンダ室(42a)は、バイパス通路(66)を介して低段側圧縮機構(40a)の吸入側(吸入管(22))と連通した状態となる。
偏心回転角度が0度の状態の低段側ピストン(47a)が、僅かに回転すると、低段側ピストン(47a)と低段側シリンダ(41a)の当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過する。その結果、上記第1圧縮動作と同様に、低段側シリンダ室(42a)内に低圧室(42a-Lp)が形成され、低段側吸入通路(48a)から該低圧室(42a-Lp)へ冷媒が吸入される。そして、低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が再び0度となり、その状態からさらに偏心回転して、低段側ピストン(47a)と低段側シリンダ(41a)の当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過すると、その時点で、低圧室(42a-Lp)における冷媒の吸入が完了すると共に、低圧室(42a-Lp)が高圧室(42a-Hp)となる。
ここで、第2圧縮動作では、バイパス通路(66)は開状態となっている。このため、低段側ピストン(47a)が更に偏心回転しても、高圧室(42a-Hp)では冷媒の圧縮が行われず、高圧室(42a-Hp)内の冷媒はバイパス孔(62)からバイパス通路(66)を介して吸入管(22)へ排出される。この冷媒の排出動作は、低段側ピストン(47a)がバイパス孔(62)を塞ぐ状態(偏心回転角度が約90度)になるまで続く。そして、低段側ピストン(47a)がバイパス孔(62)を塞いだ時点で、冷媒の排出が終了すると同時に、高圧室(42a-Hp)における冷媒の閉じ込みが完了する。この状態から駆動軸(33)がさらに回転すると、高圧室(42a-Hp)における冷媒の圧縮が開始され、高圧室(42a-Hp)内の冷媒の圧力が中間圧空間(50)の冷媒の圧力を上回ると、吐出弁が開状態になり冷媒が低段側吐出通路(49a)から中間圧空間(50)へ吐出される。冷媒の吐出は、低段側ピストン(47a)の偏心回転角度が360度に達するまで続く。高段側圧縮機構(40b)における冷媒の圧縮動作は、上記第1圧縮動作と同様である。
以上のように、上述の第1圧縮動作では、低段側ピストン(47a)と低段側シリンダ(41a)の当接位置が低段側吸入通路(48a)の開口部を通過した時点で低段側圧縮機構(40a)における冷媒の閉じ込みが完了する。一方、第2圧縮動作では、低段側ピストン(47a)がバイパス孔(62)を塞いだ時点で低段側圧縮機構(40a)における冷媒の閉じ込みが完了する。
このように、この回転式圧縮機(20)では、バイパス通路(66)を開閉することで、低段側圧縮機構(40a)の閉じ込み容積(実質的な吸入容積)を変化させることができる。これにより、低段側圧縮機構(40a)の吸入容積Vlに対する高段側圧縮機構(40b)の吸入容積Vhの比(吸入容積比=Vh/Vl)が変化する。即ち、低段側圧縮機構(40a)の低段側ピストン(47a)と、高段側圧縮機構(40b)の高段側ピストン(47b)とは、同じ駆動軸(33)に連結されているので、駆動軸(33)の回転速度を変化させるだけでは、両圧縮機構(40a,40b)の吸入容積比(Vh/Vl)を変化させることができない。しかしながら、本実施形態の回転式圧縮機(20)では、上述した第1圧縮動作と第2圧縮動作とを切り変えて行うことで、低段側圧縮機構(40a)の吸入容積、ひいては上記吸入容積比(Vh/Vl)を適宜変更することができる。その結果、この回転式圧縮機(20)では、運転条件に応じた最適な吸入容積比での運転が可能となる。
具体的には、例えば冷媒回路(11)の高低差圧が比較的小さい運転条件になると、低段側圧縮機構(40a)で冷媒の圧縮行程のほとんどが行われることになる。このような場合には、高段側圧縮機構(40b)では冷媒がほとんど圧縮されないので、低段側圧縮機構(40a)の圧縮トルクの変動幅が、高段側圧縮機構(40b)の圧縮トルクの変動幅に対して相対的に大きくなり、振動や騒音が発生してしまうことある。また、このように冷媒回路(11)の高低差圧が比較的小さい運転条件において、低段側圧縮機構(40a)で圧縮行程のほとんどが行われると、低段側圧縮機構(40a)の吐出冷媒の圧力(即ち、中間圧力)が比較的高くなってしまう。このような場合には、上記インジェクション管(24)から高段側圧縮機構(40b)の吸入側へ送られる中間圧冷媒の量が減少し、上述したようなエコノマイザ効果を充分得ることができないこともある。
このため、本実施形態の回転式圧縮機(20)は、このように冷媒回路(11)の高低差圧が比較的小さい運転条件になると、上記第1圧縮動作から第2圧縮動作へ運転が切り換えられる。その結果、低段側圧縮機構(40a)の吸込容積Vlが減少し、上記吸入容積比(Vh/Vl)が大きくなるので、冷媒は各圧縮機構(40a,40b)でバランス良く圧縮されることになる。このため、上述のような各圧縮機構(40a,40b)の圧縮トルクの変動幅が平均化され、振動や騒音の低減が図られる。また、このようにすると、低段側圧縮機構(40a)の吐出冷媒の圧力が低下するので、その分だけインジェクション管(24)から高段側圧縮機構(40b)の吸入側へ送られる中間圧冷媒の量が多くなる。従って、比較的高低差圧が小さい運転条件においても、所望のエコノマイザ効果が得られ、空気調和装置(10)の運転効率が向上する。
−実施形態の効果−
上記実施形態では、上記第1圧縮動作時において、油導入通路(29)から弁体収容部(61)における弁体(64)の背面側に油を導入し、弁体(64)をバイパス孔(62)の閉鎖位置まで変位させるようにしている。このため、例えば特許文献1のように、弁体(64)周りの隙間を通じて高圧冷媒が圧縮室内に漏れ込んでしまうことが回避され、低段側圧縮機構(40a)の容積効率の低下を防止できる。ここで、弁体(64)と弁体収容部(61)との隙間は油によってシールされるので、この油が圧縮室内に多量に入り込んでしまうことも制限される。また、仮に弁体(64)周りの隙間から圧縮室内へ油が漏れ込んでしまっても、この油を可動部材(47a,47b)の潤滑に利用できる。
また、上記実施形態では、回転式圧縮機(20)の吐出冷媒中から油分離器(30)で分離した油を弁体(64)の背面側に導入するようにしている。この油は、回転式圧縮機(20)の吐出冷媒の圧力を利用して搬送されるものであるから、ポンプ等の特別な油搬送手段を別途設ける必要もない。また、油分離器(30)の分離後の油は、比較的高温となるが、上記実施形態では、この油を冷却熱交換器(32)で冷却してから、弁体(64)の背面側に導入している。このため、この油が弁体(64)周りの隙間から圧縮室内へ漏れてしまっても、吸入冷媒が昇温されてしまうことを抑制できる。また、このように油を冷却すると、油の粘度が高くなるので、弁体(64)周りの隙間のシール性能が向上する。その結果、この隙間における油の漏れを一層確実に回避することができる。
−実施形態の変形例−
上記実施形態の油導入通路(29)を以下のように構成しても良い。
〈変形例1〉
図6及び図7に示すように、変形例1では、油導入通路(29)の流入端が、回転式圧縮機(20)の油溜め部(29)に接続されている。具体的には、油導入通路(29)の油戻し管(29a)は、その流入端が、回転式圧縮機(20)のケーシング(21)の底部側寄りの部位を貫通し、油溜め部(21a)に臨んでいる。一方、油戻し管(29a)の流出端は、上記実施形態と同様、三方切換弁(13)に接続されている。これ以外の構成は、上記実施形態と同様である。
この変形例1の第1圧縮動作時において、三方切換弁(13)が図6の実線に示す状態になると、油溜め部(21a)内の高温の油は、ケーシング(21)内の高圧冷媒に押し出されるようにして、油戻し管(29a)へ流入する。油戻し管(29a)を流れる高温の油は、冷却熱交換器(32)を流通する際に、比較的低温まで冷却される。冷却後の油は、三方切換弁(13)及び導入管(29b)を通過し、弁体収容部(61)における弁体(64)の背面側の下部空間(61b)に導入される。弁体(64)の背面側に高圧の油が導入されると、弁体収容部(61)では、弁体(64)が上方に押し上げられ、図7に示すように、バイパス孔(62)を閉鎖する位置まで変位する。
以上のように、この変形例1においても、バイパス孔(62)を閉鎖する弁体(64)周りの隙間が油によってシールされるので、この油が圧縮室内へ漏れ込んでしまうことが回避される。また、油の搬送源として、ケーシング(21)内の高圧冷媒の圧力を利用しているため、ポンプ等を別途設ける必要がない。また、この変形例1においても、油溜め部(21a)内の油は比較的高温となるが、この油を冷却熱交換器(32)で冷却してから弁体(64)の背面側に導入している。このため、この油が弁体(64)周りの隙間から圧縮室内へ漏れてしまっても、吸入冷媒が昇温されてしまうことを抑制できる。
〈変形例2〉
図8に示すように、変形例2の油導入通路(29)は、弁体収容部(61)の下部空間(61b)とケーシング(21)内の油溜め部(21a)とを直接繋いでいる。そして、変形例2では、上記実施形態1の三方切換弁(13)や冷却熱交換器(32)が省略された構成となっている。具体的には、上記油導入通路(29)は、弁体収容部(61)を封止する蓋部材(63)を上下に貫通している。そして、油導入通路(29)は、その下端が油溜め部(21a)に臨んでおり、その上端が下部空間(61b)に臨んでいる。従って、この変形例2では、油溜め部(21a)内の油が常時、弁体収容部(61)の下部空間(61b)に導入された状態となっている。
この変形例2では、空気調和装置(10)の運転条件の変化に伴う冷媒回路(11)の高低差圧に応じて、第1圧縮動作と第2圧縮動作とが自動的に切り換えられるようになっている。具体的には、例えば冷媒回路(11)の高低差圧が比較的大きい運転条件では、ケーシング(21)内の高圧冷媒の圧力も比較的大きくなる。このような場合には、弁体(64)の背面に作用する油の圧力が上昇するので、弁体(64)はバネ部材(65)の付勢力に抗して上方に変位し、バイパス孔(62)を閉鎖する(図8参照)。その結果、上述した第1圧縮動作が行われる。
一方、冷媒回路(11)の高低差圧が比較的小さい運転条件では、ケーシング(21)内の高圧冷媒の圧力も比較的小さくなる。このような場合には、弁体(64)の背面に作用する油の圧力も低下するので、弁体(64)はバネ部材(65)によって下方に押し付けられ、バイパス孔(62)を開放する。その結果、上述した第2圧縮動作が行われる。このため、このように高低差圧が比較的小さい運転条件においては、低段側圧縮機構(40a)の吸入容積Vlが小さくなり、吸入容積比(Vh/Vl)が自動的に大きくなる。その結果、上述したように、各圧縮機構(40a,40b)の圧縮トルクの変動幅が平均化されて振動や騒音の低減が図られると共に、インジェクション管(24)から高段側圧縮機構(40b)の吸入側へ送られる中間圧冷媒の量が多くなり、上記エコノマイザ効果が向上する。
この変形例2においても、上記第1圧縮動作において、バイパス孔(62)を閉鎖する弁体(64)周りの隙間が油によってシールされるので、この油が圧縮室内へ漏れ込んでしまうことが回避される。
《その他の実施形態》
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
図9に示すように、上記実施形態と同様にして、高段側圧縮機構(40b)側にバイパス通路(66)、弁体収容部(61)、及び弁体(64)を設けるようにしても良い。なお、この例では、フロントヘッド(44)にバイパス通路(66)が形成される一方、バイパス通路(66)の流出端が中間圧空間(50)に繋がっている。この例においては、バイパス通路(66)が開放されると、高段側シリンダ室(42b)内の冷媒の一部が中間圧空間(50)、つまり高段側圧縮機構(40b)の吸入側に戻される構成となっている。この例においても、高段側圧縮機構(40b)側の弁体(64)の背面に油導入通路(29)を介して油を導入させることで、弁体(64)を閉鎖位置に変位させると同時に弁体(64)周りの隙間を油でシールすることができる。
また、実施形態では、低段側圧縮機構と高段側圧縮機構とを有する2段圧縮機が対象となっているが、これに限られるものではない。例えば、1つの圧縮機構を有する単段の圧縮機に本発明を採用することもできる。また、圧縮機構は、固定部材と、固定部材との間に圧縮室を形成して偏心回転する可動部材とを備えたものであれば、如何なる構成のものであっても良い。具体的には、この圧縮機構として、ローリングピストン型のロータリ圧縮機構や、スクロール圧縮機構を採用しても良い。また、環状のシリンダ室を有するシリンダと、シリンダ室に設けられる環状のピストンとが相対的に偏心回転することで、複数の圧縮室を同時に拡縮する圧縮機構に本発明を採用するようにしても良い。
また、バイパス通路(66)のバイパス孔(62)は、各シリンダ室(42a,42b)に臨む内壁面であれば、如何なる面に形成しても良い。具体的には、バイパス孔(62)をミドルプレート(46)の上端面や下端面に開口させても良いし、各シリンダ(41a,41b)の内周面に開口させても良い。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。