しかしながら、上記した排水逆流防止装置によれば、排水管を閉塞する浮子は、逆止弁として機能するものであって、定置装置により排水管の開口下方に常時位置することから、排水桝へ流入する排液に常時曝され続けてしまう。このため、逆止弁である浮子には、排水に含まれる異物が付着しやすく、かかる付着物により排水管を閉塞した際の密閉性が低下するという問題点が危惧される。
また、上記した逆流止装置では、逆流の勢いが激しくなると、装置内に充満した逆流水が溢水できずに、装置内の水圧が上昇して、この水圧でブイが排水管に嵌り込んでしまう虞がある。このため、逆流が収まった後にブイに浮力が作用しなくなっても、ブイが下降されず、排水管内を自然流下する排水の流れを阻害するという問題点が危惧される。
また仮に、逆流止装置内の水圧が上昇した場合にブイが排水管に嵌り込まなくとも、激しい逆流の勢いで当該逆流止装置の天蓋が水圧で押し上げられてしまうと、逆流止装置から大量の排水が当該逆流止装置の設置場所である建築物の敷地内に溢れ出てしまうため、結局、建築物の敷地を冠水させてしまうという問題点が危惧される。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、逆止弁による流入口の密閉性の低下を抑制して、洪水時などの非常時における配管内の逆流を防止でき、更に、設置空間内の許容量を超える余剰液を放流させることができる逆流防止装置を提供することを目的としている。
この目的を達成するために請求項1記載の逆流防止装置は、配管内での逆流を防止するものであり、配管の中間部に設けられ排液の流路を内部に有する設置空間と、その設置空間内に排液が貯留する場合にその貯留液から浮力を受けてその設置空間内で浮上される浮き部材と、その設置空間内の流路下流側に設けられ排液を配管下流側へ排出させる排出口と、その排出口に対して前記設置空間内の流路上流側に設けられて排液をその設置空間内へ流入させる流入口と、その流入口を閉塞可能に形成され前記設置空間内に配設される逆止弁と、その逆止弁により前記流入口が閉塞される逆止位置とその逆止位置より上方であって前記逆止弁が前記流入口から離間される待機位置との間でその逆止弁を揺動可能に支持し、前記浮き部材が浮上する場合にその浮き部材によって前記待機位置から前記逆止位置へ向けて押動される支持部材と、その支持部材により前記待機位置で保持される前記逆止弁によって閉塞されるように前記設置空間内に設けられ、且つ、その逆止弁が前記逆止位置にある場合に前記設置空間内から貯留液の余剰分を放流管へ放流させる放流口とを備えている。
この請求項1記載の逆流防止装置によれば、流入口が開放されている通常時に、配管の上流側から流れてくる排液は、流入口から設置空間内へ流入し、その内部にある排液の流路を通過して排出口から配管の下流側へと排出される。また、このとき、放流口は待機位置にある逆止弁によって閉塞されている。
一方、洪水時などの非常時において、排出口から設置空間内へと排液が逆流すると、その逆流した排液は、設置空間内に貯留して貯留液の液位を上昇させる。設置空間内での液位上昇に伴って、浮き部材が貯留液から浮力を受けて上方へ向けて浮上されると、この浮き部材によって支持部材が待機位置から逆止位置へ向けて押動され、この支持部材によって逆止弁が待機位置から逆止位置へ向けて徐々に動かされる。
それから設置空間内への逆流によって更に貯留液の液位が上昇して、浮き部材が更に上方へ浮上されると、支持部材が更に動かされて、最終的には、逆止弁が逆止位置に到達して流入口が閉塞される。この逆止弁による流入口の閉塞によって、設置空間から流入口への排液の逆流が防止される。また、このとき、逆止弁は放流口から離間されているので、流入口とは逆に放流口の方は開放される。
このため、設置空間へ逆流した貯留液が増加してその液位が上昇すると、設置空間内にある貯留液の余剰分が放流口から放流管の方へ放流される。これによって、設置空間内における水圧上昇が一定範囲内に抑えられる。その後、設置空間への排液の逆流が治まり、排出口から設置空間内の貯留液が排出され、貯留液の液位が低下すると、逆止弁は支持部材を介して逆止位置から待機位置へ揺動され、流入口は再び開放される一方で、放流口は再び閉塞される。
請求項2記載の逆流防止装置は、請求項1記載の逆流防止装置において、前記逆止位置側から前記待機位置側へ向けて前記支持部材を付勢する付勢部材を備えている。
この請求項2記載の逆流防止装置によれば、請求項1記載の逆流防止装置と同様に作用する上、洪水時などの非常時において、排出口から排液が逆流して設置空間内の液位が上昇すると、排液の浮力を受けて浮上する浮き部材によって、支持部材が付勢部材の付勢力に抗しながら待機位置から逆止位置へ向けて押動される。一方、排液の逆流が治まり、設置空間内の液位が低下して浮き部材が下降すると、付勢部材によって支持部材が逆止位置から待機位置側へ向けて付勢されて、流入口が再び開放されると共に、放流口が逆止弁により再び閉塞される。しかも、このとき待機位置にある支持部材は付勢部材によって引き続き付勢され続け、逆止弁による放流口の密閉度を向上できる。
請求項3記載の逆流防止装置は、請求項1又は2に記載の逆流防止装置において、前記浮き部材は、その浮き部材の略重心を通ってその浮き部材の昇降方向に略直線状に通じるガイド穴と、そのガイド穴の内周部に遊挿された状態で前記設置空間内に垂設されて前記浮き部材の昇降移動を案内するガイド部材とを備えている。
請求項4記載の逆流防止装置は、請求項1から3のいずれかに記載の逆流防止装置において、前記設置空間内の排液の流路は、その設置空間の底面に形成されており、前記流入口から前記排出口へ向けて下降傾斜されており、前記逆止弁および浮き部材は、その逆止弁が待機位置にある場合、前記設置空間内の排液の流路から外れた位置に位置決めされている。
この請求項4記載の逆流防止装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の逆流防止装置と同様に作用する上、配管の上流側から流入口へ流入した排液は、流入口から排出口へと下降傾斜される流路に沿って流下され、排出口から設置空間外となる配管の下流側へ排出される。ここで、逆止弁および浮き部材は逆止弁が待機位置にある場合に排液流路から外れた位置に位置決めされるので、流入口から排出口へ向かう排液の流れは逆止弁および浮き部材を避けるように排液流路を流下させられる。
請求項5記載の逆流防止装置は、請求項1から4のいずれかに記載の逆流防止装置において、前記設置空間は、前記流入口の上縁部より上側に貯留液を貯留可能な空間である貯留室を備えている。
請求項1記載の逆流防止装置によれば、例えば、下水道管などの排水処理設備へ排液を排出する配管の中間部に設置空間を設けて、その配管の上流側を流入口に連結し、その下流側を排出口に連結した場合に、逆止弁によって、排液が配管を通じて下水道管などの排水処理設備から設置空間より上流側へ逆流することを防止できるという効果がある。よって、例えば、洪水時に下水道管などの排水処理設備からの逆流によって生じる屋内の浸水も防止できるという効果がある。
また、設置空間に逆流する排液もなく浮き部材に浮力が作用しない場合に、かかる逆止弁は、支持部材によって流入口から上方に離間した待機位置にて支持されるので、流入口から排出口へ向かう排液の流れに直接に曝されることが抑制され、逆止弁の汚損を抑制できるという効果がある。従って、排液に混入する異物が逆止弁に付着することを防止できるので、かかる付着物によって逆止弁の密閉度が低下することを抑制でき、より確実に流入口への逆流を防止できるという効果がある。
また、設置空間内にある貯留液のうち設置空間の許容量を超えた余剰分は放流口から放流管の方へ放流される。したがって、例えば、この放流管の下流側端部を公共の排水溝などへ連通させておけば、設置空間から溢れた貯留液で建築物の敷地が冠水することを抑制できるという効果もある。しかも、放流口から放流管へと排液の余剰分を放流させることで、設置空間内の水圧上昇を一定範囲内に抑えることができるので、過剰な水圧によって逆止弁が流入口に嵌り込むことも防止できるという効果がある。
また、流入口が開放されている通常時において、放流管に繋がる放流口は逆止弁によって閉塞されているので、設置空間を流れる排液などの臭気が放流管を通じて大気中へ漏れ出ることを防止できるという効果がある。しかも、放流口の開閉は、流入口を開閉させる1つの逆止弁によって行われるので、放流口を開閉させる弁体を別途設ける必要がないという効果がある。
更に、逆止弁による流入口及び放流口の開閉は、支持部材を介して浮き部材の上下に連動して行われるので、逆流を検出する電気的なセンサーなどを別途設ける必要もないという効果がある。
請求項2記載の逆流防止装置によれば、請求項1記載の逆流防止装置の奏する効果に加え、設置空間内の液位が低下して浮き部材が下降する場合に、付勢部材の付勢力によって逆止弁を逆止位置から待機位置へ自動的に復帰させることができることに加えて、同じ付勢部材の付勢力によって逆止弁による放流口の密閉度も向上できるという効果がある。
請求項3記載の逆流防止装置、請求項1又は2に記載の逆流防止装置の奏する効果に加え、浮き部材が浮力を受けて設置空間内で上昇又は下降すると、ガイド穴に遊挿されたガイド部材を介して浮き部材の上下動が案内されると共に、かかる貯留液面の揺れに伴う浮き部材の横揺れを抑制することができるという効果がある。従って、浮き部材が横揺れすることで、浮き部材により押動される支持部材が揺れ動いて、その結果、逆止弁による流入口の密閉性が低下するような事態を回避することができるという効果がある。
請求項4記載の逆流防止装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の逆流防止装置の奏する効果に加え、逆止弁および浮き部材は、逆止弁が待機位置にある場合に排液の流路から外れた位置に位置決めされるので、設置空間内の排液の流路を通じて流入口から排出口へ流下する排液の流れに直接に曝されることが抑制され、逆止弁に加えて浮き部材の汚損も抑制できるという効果がある。
従って、流入口から流入した排液に混入する異物が浮き部材に付着したり、或いは、排液に混入する異物が浮き部材に絡み付いたりすることも防止でき、支持部材の稼動障害の発生を抑制できるという効果がある。しかも、設置空間から流れ出ようとする排液の流れが逆止弁や浮き部材によって邪魔されることもなく、設置空間内での排液の滞留も回避できるという効果もある。
請求項5記載の逆流防止装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の逆流防止装置の奏する効果に加え、逆止弁により流入口が閉塞された後、排出口から設置空間内へ排液が更に逆流し続けると、その排液は、逆止弁により閉塞された流入口の上縁部より上側に設けられる貯留室に貯留される。この結果、逆止弁は、設置空間内の貯留液中に沈没されるので、この沈没に伴う水圧によって流入口に強く押しつけられ、流入口の閉塞時の密閉性を向上できるという効果がある。
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の逆流防止装置の一実施例である逆流防止設備1の内部構造を示す縦断面図である。なお、以下の説明で参照する図面において図示する太線の矢印は排液の流れ方向を示している。
図1に示すように、逆流防止設備1には、略縦長円柱状の空間である縦穴2が設けられる。縦穴2は、その内部に逆流した排液を貯留可能に形成され、その内周面には縦穴2の一部をなす縦穴壁材2aが周設されている。この縦穴2の上端部は開放されており、この開放された縦穴2の上端部は、かかる開放を閉塞するための天蓋3が着脱可能に形成されている。この天蓋3は、縦穴2の上端開口部の周縁部にボルト(図示せず)などの締結具によって締着されており、また、かかる縦穴2の縦穴壁材2aの壁面(図1左側)には、縦穴2内へ排液を流入させる流入口4が設けられている。
流入口4は縦穴壁材2aの壁面に貫通形成される略円形の開口であり、その流入口4の上縁部(流入口4の内周最上面)より上側であって天蓋3との間部分には、縦穴2内に逆流する排液を貯留可能な空間である貯留室2bが設けられている。また、流入口4は、後述する排水管32a(図5参照)に接続される流入管5と連通されている。
流入管5は、流入口4と略同一内径でかつ同心状の中空管状体であり、流入口4の開口縁から縦穴2の外側(図1左側)へ向けて延設されている。また、流入管5は、その流入管5と接続される排水管32aの勾配と略等しい傾斜角度で、縦穴壁材2aとの付け根から外側上方(図1左上側)へ傾斜されている。また、縦穴壁材2aの壁面(図1右側)には、縦穴2外へ排液を排出させる排出口6が設けられている。
排出口6は、流入口4の開口位置と対向する壁面における流入口4より低い位置に貫通形成される略円形の開口であって、後述される排水管32b(図5参照)に接続される排出管7と連通されている。
排出管7は、排出口6と略同一内径でかつ同心状の中空管状体であり、排出口6の開口縁から縦穴2の外側(図1右側)へ向けて延設されている。また、排出管7は、その排出管7と接続される排水管32bの勾配と略等しい傾斜角度で、縦穴壁材2aの付け根から外側下方(図1右下側)へ傾斜されている。更に、流入口4と排出口6との間には、その流入口4から排出口6へ向けて下降傾斜する斜面である縦穴底面8が形成されている。
縦穴底面8は、縦穴2の内部底面を成すものであり、上記した流入管5及び排出管7の傾斜角度と略等しい角度で傾斜されている。また、縦穴底面8は、縦穴2及び流入口4の連結部にて流入口4の内周最下面4aと連続面を形成し、且つ、縦穴2及び排出口6との連結部にて排出口6の内周最下面6aと連続面を形成している。このため、流入口4から縦穴2へ流入する排液が流入口4と縦穴底面8との境界部分で滞ることを防止でき、更に、縦穴2から排出口6へ排出される排液が、縦穴底面8と排出口6との境界部分で滞ることを防止できる。
なお、流入口4と縦穴底面8との境界部分および縦穴底面8と排出口6との境界部分での排液の滞留を防止する手段としては、必ずしも縦穴底面8と流入口4の内周最下面4a及び排出口6の内周最下面6aとを連続面に形成するものだけに限定されるのではなく、例えば、縦穴底面8を、流入口4の内周最下面4aより低く、且つ、排出口6の内周最下面6aより高くしても良い。
逆止弁9は、流入口4及び後述する放流口12を開閉するための弁体であり、図1に示す位置(待機位置)にあっては流入口4から離間して縦穴底面8の傾斜方向略中央の空中に支持されている。この逆止弁9は、流入口4及び放流口12の開口形状に合致して閉塞するように略球形状に形成されている。
また、逆止弁9の外周面全体には、弾性的に圧縮変形可能で所定の厚みを有する略シート状の密閉部材9aが敷設されており、かかる密閉部材9aにより逆止弁9全体が被包されている。この密閉部材9aを介在させることによって、逆止弁9を流入口4又は放流口12の周縁部に密着させることができ、流入口4及び放流口12の密閉性を向上させることができる。そして、この逆止弁9は、長尺棒状の揺動アーム10の長手方向一端側(下端側)に取着されて縦穴2内に吊下されている。
揺動アーム10は、上記の通り逆止弁9を支持するものであり、その長手方向他端側(上端側)に揺動軸11が貫通して設けられている。この揺動軸11によって、揺動アーム10は縦穴2内で揺動可能に軸支されている。揺動アーム10によれば、逆止弁9は、流入口4から離間した位置である待機位置(図1及び図2に示す位置)と、流入口4を閉塞させる位置である逆止位置(図6参照)との間で揺動可能に支持される。また、逆止弁9が図1に示すように待機位置にある場合、当該逆止弁9は、流入口4から排出口6へ排液が流下する縦穴底面8よりも上方で支持されるので、排液に直接曝されることがない。しかも、待機位置にある逆止弁9は、流入口4から離間して放流口12を閉塞している。
放流口12は、貯留室2b内の貯留液の余剰分を縦穴2の外部へ放流するための略円形の開口であって、上記した縦穴底面8の傾斜方向略中央の空中に設けられている。この放流口12は、縦穴2の貯留室2b内へ延出される放流管13の先端部に開設されており、この放流管13の内周部と連通されている。
放流管13は、放流口12の開口端部から、縦穴壁材2aの下流側壁面(図1右側)へ上昇傾斜するように延出されており、縦穴壁材2aを貫通して縦穴2の外部へと延設されている。また、放流管13の放流口12の上方には、後述するフロート19の昇降動作を、上記した揺動アーム10の揺動動作に変換するためのリンク機構を構成する中間リンク14、作動リンク15、揺動軸16、スライドバー17及び復元バネ18が配設されている。
図2は、図1の部分的拡大図である。図2に示すように、中間リンク14は、揺動アーム10の略半分程の長さの長尺棒状に形成されており、その長手方向一端側(図1左上側)が揺動アーム10の略中点位置に揺動可能に連結されている。また、中間リンク14は、揺動アーム10との連結部から排出口6側(図1右下側)へ向けて下降傾斜されており、その長手方向他端側(図1右下側)がフロート19の上面まで延出されている。この中間リンク14の長手方向他端側には作動リンク15の長手方向一端側(図1左下側)が揺動可能に連結されている。
作動リンク15は、その長さが中間リンク14と略等しい長尺棒状に形成されており、この中間リンク14との連結部から天蓋3側(図1右上側)へ向けて上昇傾斜されている。この作動リンク15は、その長手方向他端側(図1右上側)に揺動軸16が貫通して設けられており、この揺動軸16によって縦穴2内に揺動可能に軸支され且つ吊下されている。なお、この揺動軸16の高さ位置は上記した揺動軸11と略等しくされている。
また、作動リンク15は、中間リンク14と側面視略く字形に屈曲する姿勢で連結されており、この連結部の内角θが略180°未満の範囲で拡縮可能に形成されている。そして、作動リンク15における中間リンク14との連結部にはフロート19の上面に摺動可能に載上されるスライドバー17が一体的に形成されている。
スライドバー17は、フロート19の昇降動作を中間リンク14及び作動リンク15に対して伝達するためのものである。スライドバー17は、その軸方向が揺動軸11,16と同様に縦穴2の横断方向(図1の紙面に対する略垂直方向)に向けられており、フロート19の上面に摺動可能に載上されている。
復元バネ18は、中間リンク14における揺動アーム10側端部と作動リンク15における揺動軸16側端部との間に張架されており、例えば、コイル状の引張りバネで形成されている。復元バネ18は、その弾性復元力によって、揺動アーム10を逆止位置側から待機位置側へ向けて(図1の反時計方向へ向けて)付勢するためのものである。また、この復元バネ18の弾性復元力は中間リンク14及び作動リンク15に対しても作用するが、この場合にあっては両リンク14,15間の内角θを縮小する方向に作用するものである。
フロート19は、縦穴2内の貯留液からの浮力を受ける側面視略台形状の浮き部材であって、縦穴2内に貯留した排液からの浮力を受けて浮上(上昇)することで、そのフロート19の上面に載上されるスライドバー17を押動するためのものでもある。そして、フロート19は、その上面が略水平とされる一方、その下面が縦穴底面8と略同一角度の傾斜面とされている。また、このフロート19には、その上下方向(昇降方向)に略直線状に貫通するガイド穴19aが穿設されており、このガイド穴19aはフロート19の略重心位置を通るように設けられている。
ガイドポール20は、フロート19の昇降移動を案内するためのものであり、ガイド穴19aの内周部に遊挿されている。このガイドポール20は、ガイド穴19aよりも内径が若干大きい略円柱棒状に形成されており、縦穴底面8に垂設されている。また、ガイドポール20は、その垂直方向長さがフロート19の高さより短いため、フロート19の上面からガイドポール20の上端は突出されず、フロート19の上面で摺動するスライドバー17とガイドポール20との接触が防止されている。
図3及び図4は、逆流防止設備1の内部構造を示す平面図であって、後述する図6のIII−III線における横断面図でもある。なお、説明の便宜上、図3では、復元バネ18の図示を省略しており、図4では、復元バネ18に加えて逆止弁9、揺動アーム10、中間リンク14、作動リンク15及びスライドバー17の図示を省略している。
図3及び図4に示すように、縦穴2は平面視略円形状に形成されており、縦穴壁材2aの互いに対向する壁面に流入口4及び排出口6が設けられている。縦穴2の内径は流入口4及び排出口6の内径より大きく形成されており、縦穴底面8の略中央部分に流入口4から排出口6へと略直線帯状に延びる領域(図3及び図4中の2本の2点鎖線の間部分)に排液流路21が確保されている。
この排液流路21は、フロート19が縦穴底面8に載置され流入口4が開放状態にある場合に、その流入口4から縦穴2へ流入した排液を排出口6へ向けて流下させるための経路である。この排液流路21の横断方向(図3及び図4上下方向)両側にはその排液流路21を両側から挟み込むようにフロート19が1つずつ配設されており、この一対のフロート19,19間に排液流路21が設けられている。よって、一対のフロート19,19が通常時に流入口4から排出口6へと縦穴2内を流下する排液に直接曝されることが低減される。
各フロート19,19は対向面部が連結棒19bを介して連結されており、この連結棒19bは、図1に示す状態において逆止弁9、揺動アーム10、放流管13及び中間リンク14を避けるようにしてフロート19の上部に設けられている。また、図3及び図4に示すように、各フロート19,19には、その略重心位置に上記したガイド穴19a,19aがそれぞれ形成されており、その内周部にガイドポール20,20がそれぞれ遊挿されている。また、一対のフロート19,19の対向面間には、上記した逆止弁9、揺動アーム10、放流口12及び放流管13の設けられる空間も設けられている。
更に、上記した揺動軸11,16及びスライドバー17は、その軸方向が排液流路21の横断方向(図3及び図4上下方向)に向けられており、揺動軸11,16の軸方向両端はいずれも縦穴2の縦穴壁材2aに固定されている。スライドバー17は、作動リンク15と略T字形に連設されており、その幅方向(図3上下方向)両端部が一対のフロート19,19の上面に載上されている。
図5は、逆流防止設備1の施工例を示す図である。図5に示すように、建築物30の屋内には、台所、洗面所、風呂場及びトイレなどの水回りから生じる生活排水などの排液を排出するための屋内排水口31が床面に設けられ、かかる屋内排水口31には排水管32が接続されている。この排水管32は、排液の流下を促すために地中に埋設される場合に上流側から下流側へ下降傾斜するように所定の傾斜角度で勾配が付けられている。
逆流防止設備1の縦穴2は、排水管32の中間部、具体的には上流側の排水管32aと下流側の排水管32bとの間に設けられている。ここで、排水管32aの下流側の端部には逆流防止設備1の流入管5が接続されており、更に、かかる排水管32aは、逆流防止設備1よりも上流側の位置で雨水管33とも接続されている。このため、生活排水などの排液と共に雨水も逆流防止設備1へ流入される。
逆流防止設備1の排出管7には、排水管32bの上流側の端部が接続されており、この排水管32bの下流側の端部は下水道管34と接続されている。この結果、逆流防止設備1へ流入した排液や雨水は、排水管32bを経て下水道管34へ排出され、かかる下水道管34を管路として有する排水処理設備へ移送される。なお、地表面の雨水は排水溝35を通じて河川や下水道管34へ排水される。
逆流防止設備1の放流管13は、縦穴2の外部へ導出されて地上に設置される水封式トラップ36に接続されている。水封式トラップ36の内部には封水36aが貯留されており、この封水36a中へは放流管13の端部が沈水されている。また、封水36a中には水封式トラップ36から溢れ出るオーバーフロー液を排出するためのオーバーフロー管37の一端部が沈水され、このオーバーフロー管37の他端部は排水溝35へと連通されている。
よって、放流口12へ流入した排液は、放流管13を通じて水封式トラップ36内へ流入し、この水封式トラップ36内に充満すると、オーバーフロー管37を通じて排水溝35へ放流される。したがって、縦穴2の貯留室2bの許容量を超える余剰液が天蓋3を押し退けて建築物30の敷地内に大量に溢れ出ることを防止でき、これによってかかる敷地が冠水することを抑制できる。しかも、縦穴2内の水圧上昇を一定範囲内に抑えることができるので、過剰な水圧によって逆止弁9が流入口4に嵌り込むことも防止できる。
更に万が一、縦穴2内における排液の臭気が放流管13へ漏れ出たとしても、かかる臭気がオーバーフロー管37を通じて大気中へ漏れ出ることを、封水36aによって抑制できる。なお、水封式トラップ36は、その内部へ封水36aを補給するための給水口が当該トラップ36の上部に開閉可能に設けられている。また、オーバーフロー管37の排水溝35側の開口端には金網が覆設されており、害獣や害虫がオーバーフロー管37内へ侵入することが防止されている。
次に、図1から図6を参照して、上記のように構成された逆流防止設備1の動作について説明する。なお、図6は、逆止弁9が逆止位置にある場合における逆流防止設備1の内部構造を示す縦断面図であり、これに対して、図1は、逆止弁9が待機位置にある逆流防止設備1の縦断面図である。
上記した図5に示すように逆流防止設備1が施工されると、通常、建築物30内で生じた生活排水などの排液は屋内排水口31から、そして雨水は雨水管33から、それぞれ排水管32aへ流入し、流入管5を通じて逆流防止設備1へ流入される。この流入管5へ流入した排液や雨水は、図1に示した流入口4から縦穴底面8に沿って排出口6へ向かう排液流路21(図3及び図4参照)を流れ、排出口6から排出管7へ排出され、図5に示した排水管32bを通じて下水道管34へ排出される。
一方、一旦洪水が発生するなどして、建築物30の屋外の水位や下水道管34内の排液の液位が上昇すると、下水道管34内を流れる排液の逆流が生じ、この逆流する排液が排水管32b及び排出管7を通じて排出口6から縦穴2内へ逆流する。この逆流によって、縦穴2内に排液が貯留され、かかる貯留液の液位が上昇して、貯留液が縦穴底面8上にあるフロート19,19に達して、その後、貯留液の液位が更に上昇すると、かかる貯留液による浮力によって、フロート19,19がガイドポール20,20により案内されながら浮上し始める。
そして、このフロート19,19の浮上によって、スライドバー17はフロート19,19の上面により上方へ押動される。この押動によって作動リンク15は揺動軸16を中心として揺動アーム10に対する接近方向(図1の時計方向)へ回転され、この回転に伴ってスライドバー17はフロート19,19の上面を縦穴2下流側(図1右側)から上流側(図1左側)へ向けて摺動される。すると、中間リンク14は作動リンク15によって縦穴2上流側(図1左側)へ向け押動され、この中間リンク14を介して揺動アーム10は縦穴2上流側(図1左側)へ押動される。
この押動によって、揺動アーム10は揺動軸11を中心として流入口4に対する接近方向(図1の時計方向)へ回転され、逆止弁9が待機位置(図1に示す位置)から逆止位置(図6に示す位置)側へ向けて移動される。また、この逆止弁9の移動によって、かかる逆止弁9は放流口12から離間されるので、放流口12が開放される。更に、フロート19,19の浮上に伴って上記した中間リンク14及び作動リンク15の内角θは拡大され、これを受けて復元バネ18が弾性的に引張り変形される。
そして、縦穴2内の液位が更に上昇してフロート19,19が更に浮上されると、図6に示すように逆止弁9が逆止位置に至り、流入口4は逆止弁9によって閉塞されて、縦穴2の流入口4より上流側に位置する排水管32a及び屋内排水口31へ向かう排液の逆流が防止される。この後、更に、縦穴2内の液位が流入口4や逆止弁9の位置よりも上昇して、縦穴2の貯留室2b内に排液が貯留されると、かかる排液中に逆止弁9が沈没するため、排液の水圧が逆止弁9を流入口4内へ押し込む方向に作用して、逆止弁9が流入口4の周縁部に圧接されて、流入口4の密閉性が更に向上される。
また、貯留室2b内に貯留される排液が増加して貯留室2bの許容量を超えると、その余剰液は、放流口12から放流管13へと圧送され、水封式トラップ36を経由してオーバーフロー管37を通じて排水溝35へと放流される。この結果、貯留室2b内の過剰な水圧上昇を抑制できるので、逆止弁9が流入口4に嵌り込んだり、天蓋3が吹き飛ばされて地表面を排液で冠水させるような事態を回避することができる。
その後、屋外の水位や下水道管34内の液位が下降して、下水道管34から逆流防止設備1へと向かう排液の逆流が治まると、縦穴2内に貯留されていた排液も排出口6から排出管7及び排水管32bを通じて徐々に排出される。この排出に伴って縦穴2内の貯留液の液位が下降してフロート19,19作用する浮力が弱まると、復元バネ18の弾性復元力によって揺動アーム10、中間リンク14、作動リンク15及びスライドバー17が付勢されて、これらが上記とは逆の動作を行って、逆止弁9が逆止位置(図6に示す位置)から待機位置側(図1に示す位置)へ向けて移動される。
この移動に伴って、流入口4は開放されるので、屋内排水口31及び排水管32からの排液が縦穴2内へ流入可能な状態となる。そして、縦穴2内の貯留液の液位がフロート19,19よりも下方に低下すると、フロート19,19が縦穴底面8に当接され、逆止弁9は待機位置(図1に示す位置)に到達する。すると、この逆止弁9によって放流口12は閉塞されて、逆流防止設備1が図1に示す元の通常状態に復帰するのである。
また、待機位置にある逆止弁9は、揺動アーム10に作用する復元バネ18の弾性復元力によって放流口12内への押し込み方向へ付勢される。従って、逆止弁9が放流口12の周縁部に圧接されて、放流口12の密閉性が向上される。この結果、流入口4が開放状態にある場合に、縦穴2を流れる排液の臭気が放流口12から放流管13へ漏れ出ることを防止できる。
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、本実施例では、逆止弁9の形状を略球形状に限定して説明したが、かかる逆止弁の形状は必ずしもこれに限定されるものではなく、流入口及び放流口の双方を閉塞可能な形状であれば、他の形状を採用しても良い。
また、本実施例では、縦穴底面8自体における流入口4から排出口6へ向かって略直線帯状に延びる領域をもって排液流路21と説明したが、排液流路21の形態は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、流入口4から排出口6に連通する略凹面状の溝を縦穴底面8に凹設し、この凹設された溝を排液流路として排液を流下させるようにしても良い。
また、本実施例では、上記の如く復元バネ18を張架させることで揺動アーム10に対して逆止弁9を待機位置へ引き戻す付勢力を付与した。しかしながら、かかる揺動アーム10に対して付勢力を付与する構造は必ずしもこれに限定されるものではなく、揺動アームを図1の反時計方向へ回転させる付勢力を付与することができれば、復元バネの種類や配設場所について適宜変更しても良い。
例えば、復元バネの種類は引張りバネのみならず、例えば、捻りバネ、板バネ、圧縮バネなどでも良く、また、復元バネの配設場所は揺動アームと中間リンクとの間、又は、作動リンクと縦穴壁材との間などであっても良い。
また、本実施例では、施工現場で逆流防止設備1を組み立て施工する場合について説明したが、本発明の実施形態は必ずしもこれに限定されるものではなく、上記した逆流防止設備を1つのユニットとして構成して製造するようにしても良い。