前記従来技術によれば、始動から暖機運転終了までの間に、オイル蓄熱容器内の高温のオイルが可動部材に供給されるので、暖機前のオイルパン内の低温のオイルが供給されるよりも、確かに暖機運転の促進が図られている。しかしながら、前記従来技術によっても、特に寒冷環境下での冷間始動(冷間始動とは、前回の運転停止時からオイルパン内のオイルが室温以下まで冷却される程度の充分な時間が経過した後の始動をいう:以下同じ)時における暖機性能に改良の余地があった。
すなわち、オイル蓄熱容器から供給されたオイルは、可動部材にて膜状となるため、当該オイル膜よりも低温で且つ熱容量が圧倒的に大きい可動部材によって急速に冷却される。よって、オイル蓄熱容器から供給されたオイルが実際に可動部材にて潤滑作用を奏する際には、当該オイルはすでに低温(高粘度)になっており、フリクションの低減効果が減殺されていた。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い暖機性能を有するとともに、始動時から暖機運転終了後の平常運転時に至るまでフリクションが効果的に低減された、エンジンその他の潤滑機構付き機械を提供することにある。
(1)本発明の対象となる潤滑機構付き機械は、可動部材を備えた本体部と、その本体部と連結されたオイルパンと、オイルをオイルパンから前記可動部材に向けて送出する潤滑オイル供給ポンプと、前記オイルを断熱的に貯留する蓄熱オイル容器と、その蓄熱オイル容器と前記オイルパンとを接続するオイル輸送路と、そのオイル輸送路に設けられたオイル輸送手段と、を備えている。本体部のケーシングの内側の空間内には、可動部材が内蔵されている。オイルパンは、前記ケーシングの内側の空間と連通するように前記本体部と液密的に連結されていて、前記可動部材の潤滑のためのオイルを内側の空間内に貯留可能に構成されている。そのオイルパン内には、当該オイルパンから前記可動部材に向かうオイル供給流路の入口を構成する吸込口が配置されている。潤滑オイル供給ポンプは、前記オイル供給流路に設けられていて、前記オイルパンに貯留されたオイルを前記吸込口から吸い込んで前記可動部材に向けて送出し得るように構成されている。オイル輸送手段は、前記蓄熱オイル容器内に貯留されたオイルを前記オイルパンへ輸送し得るように構成されている。
そして、上述の目的を達成するため、本発明の特徴は、前記構成を有する潤滑機構付き機械が、さらに、暖機運転終了前にて前記可動部材及び/又は当該可動部材を支持する支持部材の一部がオイル内に浸漬される高さまで前記オイルパン内のオイルレベルが上昇するように前記オイル輸送手段を制御する制御手段と、暖機運転終了後にて(前記オイルパン内のオイルレベルが前記可動部材よりも下になるまで)前記オイルパン内のオイルレベルを前記高さから低下させるオイルレベル低下手段と、を備えたことにある。
前記構成においては、暖機運転終了前の所定期間(例えば、冷間始動時から、所定時間経過まで又はオイルの温度が所定温度以上になるまで:終期は暖機運転終了時に限定されない)内に、オイル輸送手段が蓄熱オイル容器からオイルパンへオイルを輸送するように、オイル輸送手段が制御手段により制御される。この蓄熱オイル容器から輸送されたオイルによって、オイルパン内のオイルレベルが上昇し、可動部材及び/又は当該可動部材を支持する支持部材(以下、「可動部材等」と称する。)の一部がオイル内に浸漬される。前記所定期間経過後(少なくとも暖機運転終了後)は、オイルレベル低下手段によってオイルパン内のオイルレベルが低下される。これにより、前記所定期間内において可動部材の一部がオイル内に浸漬されていた場合であっても、前記所定期間経過後は、当該可動部材の一部が油面よりも上側に露出する。
上述の構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、暖機運転終了前の前記所定期間、蓄熱オイル容器内に貯留されていた(高温の)オイル内に可動部材等(例えばクランクシャフトやクランク軸受)の一部が浸漬されることで、可動部材が効果的に暖められて暖機性が向上し、フリクション低減効果及び燃費が向上する。そして、当該所定期間経過後には、当該可動部材がオイルの上側に確実に露出されることで、可動部材とオイルパン内に貯留されているオイルとの間のフリクションロスの発生が回避される。
(1’)なお、本発明は、オイルパン内のオイルを前記蓄熱オイル容器に供給する蓄熱容器充填手段をさらに備え、暖機運転終了後にて前記蓄熱容器充填手段を制御するように前記制御手段が構成されていることが好ましい。これにより、暖機運転終了後のオイルパン内の高温のオイルが前記蓄熱オイル容器内に充填れることで、次回の始動時に当該高温のオイルを利用して暖機運転を促進することが可能になる。
(2)本発明の他の特徴は、前記構成(1),(1’)の潤滑機構付き機械における前記オイル輸送路が、前記オイルパンの上部に接続されたことにある。
かかる構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、冷間始動前から(当該機械の停止中に冷却された低温の)オイルを貯留しているオイルパンの上部から、蓄熱オイル容器内に貯留されていた(高温の)オイルが当該オイルパン内に供給される。これにより、可動部材等が浸漬されるオイルパン内の油面近くのオイルの温度をより高くすることが可能になり、フリクション低減効果がさらに向上する。
(3)本発明の他の特徴は、前記構成(1)〜(2)の潤滑機構付き機械が、前記オイルパンの底部からオイルを当該オイルパンの外部に排出するオイル排出路と、そのオイル排出路を介して前記オイルパンから排出されたオイルを貯留する排出オイル貯留部と、前記オイル排出路に設けられ、暖機運転終了前にて前記オイルパンの底部から前記排出オイル貯留部へオイルを排出させるオイル排出手段と、を備えたことにある。
かかる構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、前記所定期間において、オイルパン内に冷間始動前から貯留されている(当該機械の停止中に冷却された低温の)オイルのうちの最も温度の低い底部のオイルが当該オイルパンの外部の排出オイル貯留部に排出される一方、蓄熱オイル容器内に貯留されていた(高温の)オイルがオイルパン内に輸送される。これにより、可動部材等が浸漬されるオイルパン内のオイルの温度をより高くすることが可能になり、より効果的なフリクション低減が達成される。
(4)本発明の他の特徴は、前記構成(3)の潤滑機構付き機械が、以下の構成を備えたことにある。本潤滑機構付き機械は、前記排出オイル貯留部を構成するとともに前記蓄熱オイル容器を構成する蓄熱タンクと、前記オイル排出手段(蓄熱容器充填手段)を構成するとともに前記オイル輸送手段を構成するオイル輸送ポンプと、を備えている。前記オイル輸送路は、前記オイル排出路と、前記蓄熱タンクからオイルパン内にオイルを導入するオイル導入路とを備えている。そして、本潤滑機構付き機械は、前記オイル輸送ポンプが駆動されることにより前記オイル排出路を介して前記オイルパンから排出されたオイルが前記蓄熱タンク内に流入することで、当該蓄熱タンクの内部に貯留されているオイルが前記オイル導入路に押し出されて当該オイル導入路を介して前記オイルパン内に導入されるように構成されている。すなわち、当該蓄熱タンクは、前記蓄熱オイル容器と前記排出オイル貯留部とを兼ねるように構成され、当該オイル輸送ポンプは、前記オイル輸送手段と前記オイル排出手段(蓄熱容器充填手段)とを兼ねるように構成されている。
前記構成においては、前記所定期間にて制御手段によりオイル輸送ポンプの作動が制御されることで、オイル排出路を介してオイルパンから蓄熱タンクにオイルが送出される。このオイルが蓄熱タンク内に流入することで、当該蓄熱タンクの内部に貯留されているオイルがオイル導入路に押し出される。この押し出されたオイルは、当該オイル導入路を介してオイルパン内に導入される。
かかる構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、暖機性の向上、フリクション低減、及び燃費の向上が簡略な構成で達成され得る。
(4’)なお、本発明において、以下の構成を有することが好ましい。前記蓄熱タンクは、鉛直方向に沿った長手方向を有するように構成されている。当該蓄熱タンクの底部には、前記オイル排出路及び前記オイル導入路との接続部を備えている。この接続部には、オイル入口管とオイル出口管とが装着されている。オイル入口管は、前記オイル排出路と接続されている。オイル出口管は、前記オイル導入路と接続されている。当該蓄熱タンクの内部における前記オイル入口管の開口であるオイル入口は、当該蓄熱タンクの底部に配置されている。当該蓄熱タンクの内部における前記オイル出口管の開口であるオイル出口は、当該蓄熱タンクの上部に配置されている。オイル入口とオイル出口との間には、整流板が配置されている。この整流板は、前記長手方向と平行な法線を有する平面からなる表面を有する平板状の部材であり、蓄熱タンクの内部に配置されている。この整流板には、第1の貫通孔と第2の貫通孔が形成されている。前記オイル出口管は、前記第1の貫通孔を貫通するように配置されていて、前記オイル入口管は前記整流板の下方に配置されている。第2の貫通孔は、低温で粘度の高いオイルの通過が困難である一方、暖機運転終了後のオイルの温度に相当する高温のオイルの通過が容易な程度の小径(例えば直径1〜1.5mm程度の円形)の孔からなり、当該整流板に複数(多数)形成されている。
かかる構成によれば、オイルパンからオイル排出路を介して蓄熱タンクに流入する(低温の)オイルは、当該蓄熱タンクの底部のオイル入口から当該蓄熱タンク内に供給される。もっとも、その上方には整流板が配置されていて、この整流板に形成された第2の貫通孔は小径で低温のオイルの通過が困難である。よって、オイルパンから供給された(低温の)オイルと、始動前から貯留されていた(高温の)オイルとが蓄熱タンク内で混ざることで、当該始動前から貯留されていたオイルの温度が低下することが防止される。また、オイル出口は蓄熱タンクの上部に配置されているので、より温度の高いオイルが蓄熱タンクからオイル出口管及びオイル導入路を介してオイルパン内に供給され得る。
なお、オイル出口からオイル出口管に流入した(高温の)オイルと、蓄熱タンクの底部に貯留されている(オイルパンから供給された低温の)オイルとの間で熱交換が生じて当該オイル出口管内のオイルが冷却されないようにするために、オイル出口管は断熱性に優れた材質(例えば、合成樹脂やセラミックス)から構成されていることが好ましい。
また、第1の貫通孔には、前記オイル出口管が摺動可能に貫通されていて、前記整流板が常温におけるオイルと同等の比重を有する材質から構成されていることがさらに好ましい。
かかる構成によれば、始動時にオイルパン内に貯留されていた低温のオイルが蓄熱タンクの底部から当該蓄熱タンク内に供給された場合、当該オイルは、温度が低く密度が高い上、整流板に形成された第2の貫通孔を通過することが困難であるので、整流板の下側に留まる。よって、当該オイルの流入により、整流板が上方に押し上げられ、蓄熱タンク内の上部に貯留されていた高温のオイルがオイル出口管及びオイル導入路を介してオイルパンに向けて流出する。これにより、始動時にオイルパンから供給された低温のオイルと、始動前から貯留されていた高温のオイルとが蓄熱タンク内で混ざることが効果的に防止され得る。また、暖機運転終了後にて充分高温になったオイルが、オイル輸送ポンプによってオイルパンから蓄熱タンクに供給された場合、当該オイルは粘度及び密度が低いため、整流板に形成された第2の貫通孔を通過して整流板よりも上方にて蓄熱タンク内に貯留され得る。このとき、整流板は、その下面がオイル入口管のオイル入口と当接するか近接する位置まで下降する。
(5)本発明の他の特徴は、前記構成(3)〜(4’)の潤滑機構付き機械が、さらに以下の構成を備えたことにある。前記オイルパンは、オイルを内側の空間内に貯留可能なオイルパンカバーと、そのオイルパンカバーの内側の空間を第1室とその第1室と隣接する第2室とに分割するオイルパンセパレーターと、を備えた、所謂2槽式オイルパン構造を有している。ここで、第1室は、前記ケーシングの内側の空間と連通するとともに前記吸込口が底部に配置された空間であって、当該ケーシング内に配置された可動部材等にて潤滑作用を奏したオイル(当該可動部材等において発生した摩擦熱等の熱を当該可動部材等から吸収することで温度が上昇したオイル)を回収し得るようになっている。オイルパンセパレーターは、オイルパンカバーの内側の空間を前記第1室と前記第2室とに分割するように、当該空間内に配置されている。このオイルパンセパレーターには、前記第1室と前記第2室との間でオイルが交流可能なオイル通路が形成されている。このオイル通路には開閉弁が設けられていて、当該開閉弁は、少なくとも暖機運転終了後にて開弁していることで前記オイルレベル低下手段として機能するようになっている。前記オイル輸送路は、前記蓄熱オイル容器から前記第1室にオイルを導入するように構成されている。前記オイル排出路は、前記第2室からオイルを排出するように構成されている。
前記構成においては、前記所定期間にて、第2室の底部からオイルが排出オイル貯留部へ排出されることで第2室内のオイルレベルが低下する。また、蓄熱オイル容器内のオイルがオイル輸送路を介して第1室に導入される。このとき、開閉弁は閉弁していて、オイル通路は当該開閉弁により遮断されている。よって、当該第1室内のオイルレベルが上昇し、可動部材等の一部が第1室内のオイルに浸漬される。また、第1室の底部のオイルが、吸込口から吸い出されてオイルポンプに送られ、オイルポンプから可動部材等に供給され、当該可動部材等にて潤滑作用を奏するとともに熱を吸収した後、第1室の上部に還流する。
前記所定期間経過後には、開閉弁が開弁されることで、第1室内のオイルが、オイル通路を介して、オイルレベルが低下した第2室に向けて流出する。これにより、第1室内のオイルレベルが低下して、前記所定期間にて第1室内のオイルに浸漬されていた可動部材が当該第1室内の油面よりも上方にて露出する。
これにより、暖機運転中に本体部とオイルパンとの間で循環するオイルの量が制限されることで暖機性が向上した所謂2槽式オイルパンを備えた機械において、可動部材等の一部が第1室の上部のオイルに浸漬されて暖められることで、暖機性がさらに向上する。
(5’)ここで、本発明においては、前記オイル通路の他に、暖機運転の進行状況に応じて第1室と第2室との間のオイルの交流状態が変更され得るオイル循環通路が前記第1室の底部に形成されていて、前記オイル通路が前記第1室の上部に形成されていることが好ましい。このオイル循環通路は、具体的には、暖機運転中にて第1室と第2室とのオイルの交流が制限され、暖機運転終了後には前記制限が解除されるように構成されている。
これにより、前記所定期間経過後に比較的高温な第1室上部のオイルを第2室に流出させることで、オイルパンの外側カバーを構成するオイルパンカバーを介して当該オイルが外気により冷却される。よって、当該機械のオーバーヒートが防止し得る程度の、オイル循環による当該機械の冷却性能が確保され得る。また、比較的高温な前記オイルが第2室を介して蓄熱オイル容器内に貯留され得ることで、次回の冷間始動時の暖機性等がさらに向上し得る。
(6)本発明の他の特徴は、前記構成(5)の潤滑機構付き機械における前記オイルパンセパレーターの上部に、前記第1室と前記第2室とを常時連通させることで当該第1室内のオイルレベルの上限を規定するためのオイルレベル調整孔が形成されていることにある。
かかる構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、第1室の油面付近で可動部材の駆動によってオイルの飛沫が生じることによる不具合(例えば、当該飛沫がブローバイガスに混じってエンジンの燃焼室に導入されること)を抑制することができる。
(7)本発明の他の特徴は、前記構成(5),(6)の潤滑機構付き機械における前記第2室が、前記第1室の外側に形成されていることにある。
前記構成においては、前記所定期間にて、第2室の底部からオイルが排出オイル貯留部へ排出されることで第2室内のオイルレベルが低下する。これにより、第1室の外側に、オイルが空気に置換された状態の第2室による空気層(断熱層)が形成される。また、蓄熱オイル容器内のオイルが第1室に供給される。このとき、開閉弁は閉弁していて、オイル通路は当該開閉弁により遮断されている。よって、当該第1室内のオイルレベルが上昇し、可動部材等の一部が第1室内のオイルに浸漬される。そして、第1室の底部のオイルが、吸込口から吸い出されてオイルポンプに送られ、オイルポンプから可動部材等に供給され、当該可動部材等にて潤滑作用を奏するとともに熱を吸収した後、第1室の上部に還流する。
これにより、所謂2槽式オイルパンを備えた機械において、第1室の断熱性が向上することで暖機性がさらに向上する。
(8)本発明の他の特徴は、前記構成(7)の潤滑機構付き機械における前記第2室が、前記第1室の側方及び下方を囲むように形成されていることにある。
すなわち、前記オイルパンセパレーターは、前記ケーシングに向けて開口していて前記第1室を形成する凹部を備えていて、この凹部の底面を構成する前記オイルパンセパレーターの底板と、前記第2室の底面を構成する前記オイルパンカバーの底板との間には、前記第2室を構成する間隙が設けられている。また、前記オイルパンセパレーターの底板とともに前記凹部を構成する前記オイルパンセパレーターの側板が、当該底板の端部から上方に延びるように設けられている。さらに、前記オイルパンカバーの底板の端部から上方に延びるように、前記オイルパンカバーの側板が設けられている。そして、当該オイルパンカバーの側板が、前記オイルパンセパレーターの側板を所定の間隙を隔てて囲むことで、前記オイルパンセパレーターの側板と、前記オイルパンカバーの側板との間に、前記第2室を構成する空間が形成されている。
これにより、所謂2槽式オイルパンを備えた機械において、第1室の断熱性が向上することで暖機性がさらに向上する。
(9)本発明の他の特徴は、前記構成(1)〜(8)の潤滑機構付き機械における本体部が、前記可動部材としてのクランクシャフトと、そのクランクシャフトを回転可能に支持する前記支持部材としてのクランク軸受と、を備え、そのクランク軸受には、下方に延びるように形成された受熱板が形成されていることにある。
かかる構成によれば、前記所定期間にて、オイルパン内の油面付近のオイルの熱が受熱板を介して効果的にクランク軸受やクランクシャフトに伝達されることで、暖機性がさらに向上する。また、クランクシャフト等の可動部材がオイル内に浸漬される程度をより少なくしてケーシング内部でのオイル飛沫の発生量を抑えつつ、当該可動部材への伝熱性を確保することができる。
(10)本発明の他の特徴は、前記構成(9)の潤滑機構付き機械が、下記構成のオイル収集板を備えたことにある。このオイル収集板は、前記クランクシャフトと対向するように配置されていて、暖機運転終了後にて当該クランクシャフトから滴下して来たオイルを収集可能に形成されている。そして、そのオイル収集板の前記クランク軸受と対向する位置には、前記受熱板の少なくとも下端部を囲む溝部が形成されている。
具体的には、本装置は、例えば、本体部の内側の空間内に、前記可動部材としてのピストンが、前記クランクシャフトの長手方向に沿って複数配置されている。そして、本装置は、前記構成(5)〜(8)の2槽式オイルパンを備えていて、前記オイル収集板は、前記オイルパンセパレーターの前記側板から前記方向に沿って延びるように且つ前記クランク軸受と近接するように形成されている。
前記構成においては、前記所定期間にて、蓄熱オイル容器からオイル収集板の上側にオイルが供給され、このオイルは、当該オイル収集板に形成された溝部内に貯留される。これにより、受熱板の少なくとも下端部は、当該溝部内に貯留されたオイルに浸漬される。
上述の構成を備えた本発明の潤滑機構付き機械によれば、溝部と受熱板との間に形成された空間内に、蓄熱オイル容器からのオイルを供給することで、少量のオイルで受熱板の浸漬・加温を行うことができ、蓄熱オイル容器の容量を少なくすることができる。これにより、蓄熱オイル容器を小型化することができる。
本発明によれば、暖機運転終了前の所定期間にて、蓄熱オイル容器からオイルパン内にオイルを導入してオイルパン内のオイルレベルを上昇させることで、可動部材等の一部が比較的高温なオイル内に浸漬される。一方、前記所定期間経過後は、オイルパン内のオイルレベルを低下させることで、可動部材がオイルの上側に確実に露出する。これにより、高い暖機性能を有するとともに、始動時から暖機運転終了後の平常運転時に至るまでフリクションが効果的に低減された潤滑機構付き機械を提供することが可能になる。
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において取り敢えず出願人が最良と考えている実施形態)について図面を参照しつつ説明する。
<エンジンの概略構成>
図1及び図2は、本発明の実施形態である4気筒のエンジン10の概略構成を示している。図1はエンジン10の始動前の状態を示し、図2は冷間始動における暖機運転中の状態を示すものとする。このエンジン10は、本体部20と、その本体部20の下端部に接続されたオイルパン30と、当該エンジン10の内部の潤滑のためのオイルを当該エンジン10内で循環させるための潤滑系統40とを備えている。
本体部20は、シリンダブロック20aとシリンダヘッド20bとを備えている。シリンダブロック20aは、シリンダヘッド20bとともに、本体部20のケーシングを構成していて、当該シリンダブロック20aの内側の空間内には、ピストン21やクランクシャフト22等の複数の可動部材が配置されている。クランクシャフト22は、シリンダブロック20aの下端に固定されたクランク軸受23によって回転可能に支持されている。このエンジン10は4気筒であるため、5個のクランク軸受23が、気筒配列方向(クランクシャフト22の長手方向)に沿って配列されている。クランク軸受23の下部には、当該クランク軸受23から下方に延びるように受熱板23aが形成されている。
オイルパン30は、その内側の空間内に、本体部20内の可動部材の潤滑のためのオイルを貯留可能に構成されている。また、オイルパン30は、可動部材にて潤滑に供された後に重力の作用で流れ落ちてきたオイルを収容し得るように構成されている。
潤滑系統40は、オイルパン30の内側に貯留されているオイルを当該オイルパン30内から吸い出して前記各可動部材へ供給し得るように構成されている。
電気制御装置(ECU)70は、CPUと、ROMと、RAMと、インターフェースとから構成されたマイクロコンピュータであり、これらは互いにバスにより電気的に接続されている。インターフェースは、エンジン10に装着されている各種のセンサ(後述のオイルレベルセンサ62,64等)、電動ポンプ(後述のオイル輸送ポンプ47等)、電動バルブ等と電気的に接続されていて、CPUに当該センサからの信号を供給するとともに、当該CPUからの出力である制御信号を電動ポンプ等に伝達し得るようになっている。CPUは、ROMに格納されたルーチン(プログラム)を読み出し、上述のセンサから受け取った信号等に基づいて、必要に応じてRAMにデータを一時的に格納しつつ前記ルーチンを実行し、この実行結果に基づいて前記制御信号を出力して電動ポンプや電動バルブ等の各部の作動を制御し得るようになっている。
<オイルパン>
オイルパン30は、内側の空間内にオイルを貯留可能なバスタブ状の部材であるオイルパンカバー31と、そのオイルパンカバー31の上方に重ねられるように配置されたバスタブ状の部材であるオイルパンセパレーター32とを備えている。
オイルパンカバー31は、オイルパン30の外側カバーを構成する部材であって、鋼板をプレス加工することによって一体成形されている。オイルパンカバー31の底部に位置する底板31aの端部から、急角度で斜め上方に延びるように、側板31bが形成されている。この底板31a及び側板31bによって形成された空間が、気筒配列方向における一端側(図中左側:エンジン10と機械的に接続される不図示のパワートレイン機構から遠い側)に偏るように、底板31a及び側板31bが配置されている。側板31bの、気筒配列方向における前記一端側とは異なる他端側(図中右側:前記パワートレイン機構に近接する側)の上端部から、気筒配列方向に沿って緩やかな傾斜で斜め上方に延びるように、プラトー部31cが形成されている。そのプラトー部31cの端部から急角度で立つように、パワートレイン対向壁31dが形成されている。当該オイルパンカバー31の周縁部(側板31b及びパワートレイン対向壁31dの周縁部)から外側に略水平に延びるように、フランジ部31fが形成されている。
オイルパンセパレーター32は、オイルパンカバー31の内側の空間を2つの区画に分割するための部材であって、熱伝導性の低い合成樹脂を射出成形することにより一体成型されている。オイルパンセパレーター32の底部に位置する底板32aの端部から、急角度で斜め上方に延びるように、側板32bが形成されている。この底板32a及び側板32bによって形成された空間が、気筒配列方向における前記一端側(図中左側)に偏るように、底板32a及び側板32bが配置されている。側板32bの、気筒配列方向における前記他端側(図中右側)の上端部から、気筒配列方向に沿って緩やかな傾斜で斜め上方に延びるように、オイル収集板32cが形成されている。このオイル収集板32cは、クランクシャフト22及びクランク軸受23と可及的に近い(クランクシャフト22やクランク軸受23と近接する一方、クランクシャフト22の回転やオイルパン30の振動等によってクランクシャフト22やクランク軸受23と当該オイル収集板32cとが接触することがないような)位置にて当該クランクシャフト22及びクランク軸受23と対向するように配置されている。オイル収集板32cの端部から急角度で立つように、パワートレイン対向壁32dが形成されている。当該オイルパンセパレーター32の周縁部(側板32b及びパワートレイン対向壁32dの周縁部)から外側に略水平に延びるように、フランジ部32fが形成されている。
オイルパンセパレーター32の内側の空間は、シリンダブロック20aの内側の空間と連通していて、オイル収集板32cは、暖機運転終了後にてクランクシャフト22やクランク軸受23から滴下して来たオイルを収集可能に配置されている。また、オイルパンセパレーター32の内側の空間であって、底板32a及び側板32bで囲まれた空間の底部には、後述するオイルストレーナー41の吸込口41aが配置されている。すなわち、オイルパンセパレーター32の内側の空間によって第1室30aが形成されている。
オイルパンセパレーター32の底板32aは、所定の間隙を隔ててオイルパンカバー31の底板31aの上方に配置されている。また、オイルパンカバー31の側板31bは、所定の間隙を隔ててオイルパンセパレーター32の側板32bを囲むように配置されている。すなわち、オイルパンカバー31の内側且つオイルパンセパレーター32の外側の空間によって、第2室30bが構成されていて、当該第2室30bは、第1室30aの側方及び下方を囲むように、第1室30aの外側に形成されている。
オイルパンセパレーター32の上部(側板32bの上部、及び/又はパワートレイン対向壁32dの上部)には、第1室30aの上部と第2室30bの上部とを常時連通させるようにオイルレベル調整孔32hが形成されている。このオイルレベル調整孔32hは、第1室30a内のオイルレベルの上限を規定し得るように形成されている。
オイルパンカバー31のフランジ部31fと、オイルパンセパレーター32のフランジ部32fとが重ね合わされ、オイルパンカバー31のフランジ部31fをシリンダブロック20aの下端部とガスケットを挟んで対向させつつ、ボルト等により両フランジ部31f,32fをシリンダブロック20aの下端部に共締めすることで、オイルパン30はシリンダブロック20aと液密的に連結されている。
<<オイル収集板>>
図3は、図1及び図2におけるA−A断面図である。エンジンの幅方向(前記気筒配列方向及びエンジンの高さ方向と直交する方向)におけるオイル収集板32cの略中央部には、前記受熱板23aの下端部を囲むように溝部32c1が形成されている。この溝部32c1は、本実施形態においては、図1及び図2に示されているように、オイル収集板32cのほぼ全長にわたって形成されている。なお、オイルパンカバー31のプラトー部31cには、前記溝部32c1の断面形状に倣った断面形状の溝部31c1が形成されていて、下方に突出したオイル収集板32cの溝部32c1がプラトー部31cと所定の間隙を隔てて配置されるようになっている。
<<サーモスタット弁装置>>
再び図1及び図2を参照すると、オイルパンセパレーター32の側板32bの底部には、暖機運転終了後において第1室30aと第2室30bとの間でオイルを交流させることでオイルパン30内のオイルの循環を促進するための第1サーモスタット弁装置33が、当該側板32bを貫通するように設けられている。第1サーモスタット弁装置33が設置されている高さは、後述するオイルレベルH1よりも若干高く、オイルストレーナー41と略同じ高さに設定されている。この第1サーモスタット弁装置33は、自動車のエンジンの冷却水循環系に用いられている周知のサーモスタット弁と同様の構成を内部に備えている。この第1サーモスタット弁装置33は、感温部を備えていて、当該感温部が第1室30a内に位置するように当該第1サーモスタット弁装置33が配置されている。
第1サーモスタット弁装置33は、前記感温部の近傍における第1室30a内のオイルの温度に応じて、当該第1サーモスタット弁装置33の内部を介しての第1室30aと第2室30bとのオイルの交流状態が変更され得るように構成されている。すなわち、当該第1サーモスタット弁装置33は、前記温度が所定の第1開弁温度以上となった場合に、当該第1サーモスタット弁装置33の内部にオイル流路(オイル循環流路)が開通し、このオイル循環流路を介して第1室30aと第2室30bとのオイルの交流が可能となるように構成されている。また、当該第1サーモスタット弁装置33は、前記温度が前記開弁温度よりも低い場合に、前記オイル流路が遮断されるように構成されている。前記第1開弁温度は、本エンジン10における暖機運転終了時点における第1室30a内のオイルの温度に相当する温度に設定されている。
オイルパンセパレーター32の側板32bの上部には、少なくとも暖機運転終了後にて第1室30a内のオイルレベルがクランクシャフト22よりも下になるように当該第1室30a内のオイルレベルを低下させるオイルレベル低下手段(開閉弁)としての第2サーモスタット弁装置34が、当該側板32bを貫通するように設けられている。第2サーモスタット弁装置34が設置されている高さは、第1サーモスタット弁装置33よりも高く、且つ後述するオイルレベルH2よりも若干低く設定されている。第2サーモスタット弁装置34は、開弁温度が前記第1開弁温度よりも低い第2開弁温度である以外は、第1サーモスタット弁装置33と同一の構成を有している。以下、第2サーモスタット弁装置34の詳細な構成を、図4を用いて説明する。
図4は、第2サーモスタット弁装置34を拡大した側断面図であり、(a)は低温時における閉弁状態を示し、(b)は高温時における開弁状態を示している。
第2サーモスタット弁装置34は、ワックス34aが封入された金属製の弁体34bを備えている。この弁体34bは、中心に貫通孔を有する略円板状の弁34b1と、内部にワックス34aが封入された空洞部を有する略円柱形状の本体部34b2と、弁34b1及び本体部34b2を接続する略円筒形状の接続部34b3とから構成されている。この接続部34b3により構成された円筒の内側にはロッド34cが配置されている。このロッド34cは、その一端が、ワックス34aが封入された前記空洞部内に露出し、他端が弁34b1の中心の前記貫通孔から弁体34bの外部に露出するように配置されている。これらのワックス34a、弁体34b、及びロッド34cによって、オイルの温度に応じて形状が変化し得る感温変形部が構成されている。かかる感温変形部における感温部を構成するワックス34a及びこのワックス34aが封入されている本体部34b2は、金属製の略円筒状の部材である筐体34dによって囲まれていて、当該本体部34b2及び筐体34dが第1室30a側に位置するように、第2サーモスタット弁装置34が配置されている。また、弁34b1の前記貫通孔にはシール部材34eが挿入されていて、弁体34b内に封入されているワックス34aが当該弁体34bの外部に漏出しないようにシールされている。
筐体34dには貫通孔としての第1室側開口部34d1が形成されていて、当該筐体34dの内側の空間と外側の空間(第1室30a)とが第1室側開口部34d1によって連通するようになっている。筐体34dの一端には、貫通孔34d2が形成されている。この貫通孔34d2を介して、ワックス34aが封入された弁体34bの本体部34b2が第1室30aに露出するようになっている。また、この貫通孔34d2の内側を当該弁体34bの本体部34b2が移動(摺動)可能になっている。
筐体34dの他端には、円板状のフランジ部34fが外側に延びるように形成されていて、このフランジ部34fとオイルパンセパレーター32の側板32bとが重ね合わされてボルト35aとナット35bとが締結されることにより、第2サーモスタット弁装置34が当該側板32bに固定されるようになっている。
フランジ部34fの内側には、第2室30b側に露出した板状部材からなる第2室側カバー34gが接続されている。この第2室側カバー34gには、貫通孔である第2室側開口部34g1が形成されている。また、第2室側カバー34gには上述のロッド34cにおける前記他端が固着されている。そして、当該第2室側カバー34gと弁34b1とが当接した場合に、筐体34dの内側の空間と第2室側カバー34gの内側の空間との連通が当該弁34b1によって遮断され得るように、当該第2室側カバー34g(及び弁34b1)の形状が設定されている。
筐体34dの内側の空間には、弁体34bの周囲を囲むように配置されたコイルスプリング34hが配置されている。このコイルスプリング34hは、その一端側が弁34b1に当接し、他端側が筐体34dにおける前記一端側に当接するように配置されている。
かかる構成を有する第2サーモスタット弁装置34は、弁体34bの本体部34b2と接触している第1室30a内のオイルの温度が所定の第2開弁温度よりも低温である場合、図4(a)に示されているように、第2室側カバー34gと弁34b1とが当接することで第1室30aと第2室30bとの連通が遮断されるようになっている。また、前記温度が前記第2開弁温度以上である場合、図4(b)に示されているように、ワックス34aが溶融されて当該ワックス34aの体積が膨張し、ワックス34aの封入されている空洞部内からロッド34cの前記一端が押し出されることによって弁体34bがコイルスプリング34hの押圧力に抗して第1室30a側に押し出され、これにより第2室側カバー34gと弁34b1との間に隙間が生じ、当該隙間を介して第1室側開口部34d1と第2室側開口部34g1との間で筐体34dの内部(第2サーモスタット弁装置34の内部)を通るオイル通路が形成されるようになっている。
上述の通り、前記第1サーモスタット弁装置33は、暖機運転終了時に開弁するように構成されていて、その第1開弁温度は、第2開弁温度よりも高い温度に設定されている。すなわち、第2サーモスタット弁装置34における第2開弁温度は、暖機運転終了前に当該第2サーモスタット弁装置34が開弁するように設定されている。
<潤滑系統の詳細な構成>
再び図1及び図2を参照すると、第1室30a内のオイルを吸入する吸込口41aを底部に備えたオイルストレーナー41が、オイルパンセパレーター32の底板32aから所定の間隙を隔てて配置されている。
シリンダブロック20aには、周知のロータリーポンプからなるメカニカルオイルポンプ42(潤滑オイル供給ポンプ)が配置されていて、そのローター42aは、クランクシャフト22と共に回転するように当該クランクシャフト22と機械的に直結されている。オイルストレーナー41とメカニカルオイルポンプ42とは、金属製の管であるストレーナー流路43を介して接続されている。また、メカニカルオイルポンプ42から前記稼動部材に向かうように、オイル送出路44が形成されている。
すなわち、オイルストレーナー41、ストレーナー流路43、及びオイル送出路44によって、オイルパン30から前記可動部材に向かうオイル供給流路の上流側の一部が構成されていて、オイルストレーナー41の吸込口41aによって当該オイル供給流路の入口が構成されている。そして、メカニカルオイルポンプ42の作動によって、オイルパン30(第1室30a)に貯留されたオイルが、吸込口41aから前記オイル供給流路に吸い込まれ、当該オイル供給流路を介して前記可動部材に向けて送出されるようになっている。
<<蓄熱タンク>>
シリンダブロック20aの外部には、オイルを断熱的に貯留可能なオイル容器である蓄熱タンク45が配置されている。蓄熱タンク45の本体をなすタンク本体45aは、鉛直方向に沿った長手方向を有する筒状部材からなり、そのタンク本体45aの底部に形成された底部開口45a1には封止栓45bが液密的に挿入されている。その封止栓45bを貫通するように、管状部材であるオイル入口管45c及びオイル出口管45dが配置されている。
タンク本体45aの内側の空間内にて開口しているオイル入口管45cの上端(オイル入口45c1)は、タンク本体45aの内側の空間における底部に位置している。タンク本体45aの内側の空間内にて開口しているオイル出口管45dの上端(オイル出口45d1)は、タンク本体45aの内側の空間における上端近傍に位置している。
タンク本体45aの内側の空間内には、整流板45fが配置されている。整流板45fは、常温(25℃程度)におけるオイルと同等の比重を有する材質からなり、タンク本体45aの前記長手方向と平行な法線を有する平面からなる表面を有する平板状の部材である。この整流板45fには、第1の貫通孔45f1と第2の貫通孔45f2とが形成されている。第1の貫通孔45f1には、オイル出口管45dが摺動可能に貫通されている。第1の貫通孔45f1の内縁とオイル出口管45dの外周との隙間は、オイルの通過が困難な略0.05〜0.1mm程度に設定されている。第2の貫通孔45f2は、低温で粘度の高いオイルの通過が困難である一方、暖機運転終了後のオイルの温度に相当する高温のオイルの通過が容易な程度の小径(例えば直径1〜1.5mm程度の円形)の孔からなり、当該整流板45fに多数形成されている。そして、整流板45fの外縁とタンク本体45aの内面との間には、オイルの通過が困難な略0.05〜0.1mm程度の隙間が形成されている。すなわち、整流板45fは、タンク本体45a内を前記長手方向に沿って移動可能に配置されている。また、オイル入口45c1は、常時、整流板45fの下方に位置するようになっている。
蓄熱タンク45のオイル入口管45cには、当該蓄熱タンク45とオイルパン30とを接続するオイル輸送路を構成するオイル排出路46の一端が接続されていて、当該オイル排出路46の他端はオイルパンカバー31の側板31bの底部(すなわち第2室30bの底部)に接続されている。オイル排出路46にはオイル輸送ポンプ47が設けられていて、当該オイル輸送ポンプ47は、第2室30bの底部のオイルを当該第2室30bからオイルパン30の外部に排出して蓄熱タンク45の底部に貯留させるように配置されている。すなわち、オイル排出路46によって、第2室30bの底部からオイルをオイルパン30の外部に排出するオイル流路が構成され、蓄熱タンク45によって、オイル排出路46を介してオイルパン30から排出されたオイルを貯留する排出オイル貯留部が構成されている。
蓄熱タンク45のオイル出口管45dには、当該蓄熱タンク45とオイルパン30とを接続するオイル輸送路を構成するオイル導入路48の一端が接続されている。このオイル導入路48の他端側は、オイルパンカバー31のパワートレイン対向壁31dを貫通してオイルパンセパレーター32のパワートレイン対向壁32d(すなわち第1室30aの上部)に接続されている。すなわち、オイル導入路48は、蓄熱タンク45の上部にて開口しているオイル出口45d1からオイル出口管45dに吸い込まれた蓄熱タンク45の上部のオイルを第1室30aの上部に導入し得るように構成されている。
本実施形態においては、オイル輸送ポンプ47の作動によって、第2室30bの底部からオイルが排出されるとともに、蓄熱タンク45からオイルが第1室30aの上部に導入されるようになっている。具体的には、オイル輸送ポンプ47が駆動されてオイル排出路46を介して第2室30bから排出されたオイルが蓄熱タンク45の下部に流入することで、図2に示されているように整流板45fが上方に押し上げられ、この整流板45fの上昇によって、蓄熱タンク45の内部に貯留されているオイルがオイル導入路48に押し出されて当該オイル導入路48を介して第1室30aの上部に導入されるようになっている。すなわち、オイル輸送ポンプ47によって、蓄熱タンク45内に貯留されたオイルをオイルパン30へ輸送するオイル輸送手段が構成されている。
<制御系>
オイルパンセパレーター32の上部には、オイルレベルセンサ62が装着されている。このオイルレベルセンサ62は、その検知部が第1室30a内に露出するように設置されている。オイルレベルセンサ62が設置される位置は、オイルレベル調整孔32hの下端の高さと同じ高さに設定されている。オイルパンカバー31の側板31bの底部には、オイルレベルセンサ64が装着されている。このオイルレベルセンサ64は、その検知部が第2室30b内に露出するように設置されている。オイルレベルセンサ64が設置される位置は、オイル排出路46の開口上端よりわずかに高い位置に設定されている。なお、オイルレベルセンサ64が設置されている高さに相当するオイルレベルH1は、第1サーモスタット弁装置33よりも低い位置に設定されている。また、オイルレベルセンサ62が設置されている高さに相当するオイルレベルH3は、オイルパン30に定格容量のオイルが貯留されている場合(図示しないオイルレベルゲージの表示が「F」となる場合)の通常運転時のオイルレベルH2よりも高く、且つ受熱板23aの全体がオイルに浸漬されると同時にクランクシャフト22の下端(カウンタウエイト)のごく一部がオイルに浸漬され得るような高さに設定されている。
オイルレベルセンサ62,64、及びオイル輸送ポンプ47は、電気制御装置70と電気的に接続されている。この電気制御装置70は、始動時にて、第2室30b内のオイルレベルがH1以下になるか第1室30a内のオイルレベルがH3に達するかのいずれか一方の条件が満たされるまでオイル輸送ポンプ47を駆動することで、低温の第2室30bの底部のオイルを蓄熱タンク45の底部に向けて排出しつつ、前回の運転時に蓄熱タンク45に貯留され断熱状態で保持された高温のオイルを当該蓄熱タンク45の上部から第1室30a内に導入するようになっている。また、電気制御装置70は、暖機運転終了後にて、オイル輸送ポンプ47を駆動することで、暖機運転終了後の高温のオイルを蓄熱タンク45内に供給し得るようになっている。
<実施形態の構成による作用・効果>
以下、上述の構成を備えたエンジン10が冷間始動される際の動作を、各図面を参照しつつ説明する。
始動前は、図1に示されているように、オイルパン30内には低温のオイルCが貯留されていて、第1室30a及び第2室30bにおけるオイルレベルはH2となっている。また、蓄熱タンク45の内側の空間内には、高温のオイルHが貯留されている。この高温のオイルHは、前回の運転時における暖機運転終了後にオイルパン30から蓄熱タンク45内に導入された後、今回の始動前のエンジン停止中にて断熱状態で保持されたオイルである。
エンジン10が始動されると、暖機運転が開始される。このとき、電気制御装置70によってオイル輸送ポンプ47が駆動され、低温の第2室30bの底部のオイルが蓄熱タンク45に向けて排出される。これにより、オイル入口45c1を介して蓄熱タンク45の内側の空間における底部に低温のオイルCが流入する。このように蓄熱タンク45の内側の空間における底部に流入した低温のオイルCは、整流板45fに形成された第2の貫通孔45f2を通過できない。また、当該オイルCは、整流板45fの外縁とタンク本体45aの内面との間の隙間や、第1の貫通孔45f1の内縁とオイル出口管45dの外周との隙間を通過できない。さらに、整流板45fを構成する材質は、常温におけるオイルの比重と同等の比重を有しているので、整流板45fよりも(極)低温におけるオイルの比重の方が高い。したがって、図2に示されているように、当該オイルCによって整流板45fが上方に押し上げられ、この整流板45fの上昇によって、蓄熱タンク45の内部に貯留されている高温のオイルHがオイル出口管45dを介してオイル導入路48に押し出され、当該オイルHがオイル導入路48を介して第1室30aの上部に導入される。
ここで、暖機運転中においては、第1室30a内のオイルの温度は低温であって、第1サーモスタット弁装置33及び第2サーモスタット弁装置34は閉弁状態となっている。よって、第2室30b内のオイルレベルが低下して第1室30a内のオイルレベルが上昇しても、第1室30a内のオイルレベルがH3に達するまでは、第1サーモスタット弁装置33及び第2サーモスタット弁装置の内部を通ってオイルが第1室30aから第2室30bに流出することはない。オイルレベルセンサ62によって第1室30a内のオイルレベルがH3まで達したことが検知されると、電気制御装置70によってオイルポンプ47の駆動が停止される。もっとも、第1室30a内のオイルレベルがH3まで達する前に、第2室30b内のオイルレベルがH1以下になった場合には、電気制御装置70によってオイルポンプ47の駆動が停止される。これにより、オイル排出路46及び蓄熱タンク45内に空気が吸入されることが防止される。
また、暖機運転中においては、メカニカルオイルポンプ42の作動により、第1室30a内のオイルがオイルストレーナー41の吸込口41aから吸い出される一方、各可動部材からオイルが第1室30aに還流して来る。よって、第1室30a内のオイルレベルは、エンジン10の運転状態(回転数等)に応じて若干上下し得る。よって、第1室30a内のオイルレベルがH3より所定量だけ低くなったことがオイルレベルセンサ62により検知されると、電気制御装置70によってオイル輸送ポンプ47が駆動され、第1室30a内のオイルレベルがH3に達するまで蓄熱タンク45から高温のオイルHが第1室30aに供給される。また、第1室30a内のオイルレベルがちょうどH3である場合に、各可動部材から第1室30aにオイルが還流して来ると、オイルレベル調整孔32hを介して第1室30aから第2室30bにオイルが溢れ出る。
このようにして、本実施形態の構成によれば、エンジン始動から所定期間内において、第1室30a内のオイルレベルがH3近辺に維持される。これにより、クランクシャフト22の下端部やクランク軸受23の受熱板23aが高温のオイルHに浸漬される。したがって、特に寒冷環境下の冷間始動時にて、当該クランクシャフト22やクランク軸受23が迅速に加温され、暖機性が向上する。
特に、本実施形態においては、クランク軸受23の下端部から下方に延びるように受熱板23aが形成されている。この受熱板23aによって高温のオイルHからの熱が効率的に吸収されることで、クランク軸受23及びクランクシャフト22が、当該受熱板23aからの伝熱によって効果的に加温され得る。
また、本実施形態においては、クランクシャフト22及びクランク軸受23と近接しつつ対向するように配置されたオイル収集板32cに溝部32c1が形成されていて、この溝部32c1によって受熱板23aの下端部が収容されている。そして、溝部32c1と受熱板23aとの間に形成された空間内に、蓄熱タンク45から高温のオイルHが供給される。かかる構成によれば、より少量のオイルHで受熱板23aの浸漬・加温を行うことができる。よって、蓄熱タンク45の容量を少なくすることができ、当該蓄熱タンク45を小型化することができる。また、より少量のオイルCの排出量で第1室30a内のオイルレベルを所定の高さH3に到達させることができるので、始動直前におけるオイルパン30(第2室30b)内のオイルの貯留量が少ない場合であってもエンジン10の暖機性の向上効果が達成され得る。
さらに、図2に示されているように、第2室30bから低温のオイルCが排出され、第1室30aの外側には空気層が形成される。これにより、第1室30aの断熱性が向上し、暖機運転がさらに促進される。
上述の通り、本実施形態の構成によれば、エンジン10の暖機性がさらに向上し、これにより、暖機運転中におけるフリクションがより低減され、燃費が向上する。
また、本実施形態の構成によれば、上述の通り、第1室30aのオイルレベルがH3近辺に維持されることで、受熱板23aの全体がオイルに浸漬されると同時に、クランクシャフト22の下端のごく一部がオイルに浸漬される。これにより、第1室30aの油面付近でクランクシャフト22の回転によってオイルの飛沫が生じることによる不具合(例えば、当該飛沫がブローバイガスに混じってエンジン10の燃焼室に導入されること)を抑制することができる。
暖機運転終了前にて第1室30a内のオイルの温度が前記第2開弁温度に達すると、図4(b)に示されているように、第2サーモスタット弁装置34が開弁する。すなわち、ワックス34aが溶融されて当該ワックス34aの体積が膨張し、ワックス34aの封入されている空洞部内からロッド34cの前記一端が押し出される。これにより、弁体34bがコイルスプリング34hの押圧力に抗して第1室30a側に押し出され、第2室側カバー34gと弁34b1との間に隙間が生じる。そして、当該隙間を介して第1室側開口部34d1と第2室側開口部34g1との間で筐体34dの内部(第2サーモスタット弁装置34の内部)を通るオイル通路が形成される。
上述のように第2サーモスタット弁装置34が開弁すると、第1室30aと第2室30bとのオイルレベルの差によって、第1室30aの上部の比較的高温のオイルが第2室30bへ流出し、第1室30a及び第2室30b内のオイルレベルはほぼH2近辺となる。その後、第1室30a内のオイルの温度が前記第1開弁温度に達して、第1サーモスタット弁装置33が開弁状態となることで、暖機運転が終了する。
上述の通り、本実施形態によれば、暖機運転終了前に開弁する第2サーモスタット弁装置34によって、暖機運転終了後における第1室30a内のオイルレベルが確実にH2以下に下げられる。これにより、暖機運転終了後にてクランクシャフト22の全体がオイルの上側に確実に露出されることで、当該クランクシャフト22と第1室30a内に貯留されているオイルとの間のフリクションロスの発生が回避される。また、エンジン10又は当該エンジン10を備えた自動車その他のエンジン付き機械が傾斜したり、当該エンジン10等に急な加速度が加えられたりして第1室30a内の油面が乱れた場合であっても、当該油面とクランクシャフト22とが接触することによるオイル飛沫の発生、及び当該オイル飛沫のエンジン燃焼室内へのブローバイガスによる導入が確実に抑制され得る。
暖機運転が終了すると、電気制御装置70によって、オイル輸送ポンプ47が所定時間経過毎に間欠的に所定時間駆動される。これにより、暖機運転終了後の高温のオイルが蓄熱タンク45内に補充される。この場合、蓄熱タンク45内のオイルが、整流板45に形成された第2の貫通孔45f2を通過し得るような低粘度になる程度に高温になっており、オイルの比重も低下して整流板45fを構成する材質よりも低くなる。よって、蓄熱タンク45内が高温のオイルによって満たされた場合、整流板45fは当該蓄熱タンク45の底部まで下降し、エンジン停止後しばらく経過すると整流板45fはオイル入口45c1に当接する位置まで下降する。
特に、本実施形態の蓄熱タンク45においては、オイルパン30との間のオイル輸送路を構成するオイル排出路46及びオイル導入路48との接続部(底部開口45a1及び封止栓45b)が、タンク本体45aの鉛直方向における底部に設けられていて、当該タンク本体45aの鉛直方向における上方には開口が形成されていない。よって、当該蓄熱タンク45内に貯留されているオイルの温度が、より高温な状態にて長期間保持され得る。したがって、次回の冷間始動時における暖機性がさらに向上する。
<変形例の示唆>
なお、上述の各実施形態及び各実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の実施形態や実施例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において種々の変形を施すことができることは当然である。以下、変形例について幾つか例示するが、変形例とて下記のものに限定されるものではないことはいうまでもない。
(i)本発明は、前記実施形態のようなエンジンの他、例えば、自動変速機等、オイルパンを備えた潤滑装置が適用された各種の装置にも適用可能である。
(ii)第1サーモスタット弁装置33及び第2サーモスタット弁装置34に代えて、電磁弁や油圧作動弁等、外部からの電気信号や流体圧力によって開度を制御可能な構造の弁装置が用いられてもよい。
(iii)前記実施形態において、第2サーモスタット弁装置34を省略して、第1サーモスタット弁装置33のみの構成としてもよい。すなわち、第1サーモスタット弁装置33を、暖機運転終了後の第1室30aと第2室30bとの間のオイルの交流(エンジン10内のオイルの循環)に供されるオイル循環流路として機能させる他、本発明における開閉弁としても機能させるように構成してもよい。
(iv)オイルレベルH3は、エンジン10又は当該エンジン10を備えた自動車その他のエンジン付き機械が平地にて略水平に載置されている場合に、クランクシャフト22を常時露出しつつ受熱板23aを浸漬するような高さに設定されていてもよい。これにより、暖機運転中の前記所定期間内におけるオイル飛沫の発生、及び当該オイル飛沫のエンジン燃焼室への導入が抑制され得る。
(v)始動時における第2室の底部から排出されたオイルを貯留するための排出オイル貯留タンクを、蓄熱タンクとは別に設けてもよい。この場合、第2室と排出オイル貯留タンクとを接続するオイル排出路、及び蓄熱タンクと第1室とを接続するオイル導入路のそれぞれに、電気制御装置によって制御された電動式ポンプが設けられる。
(vi)蓄熱タンクにはヒーターが内蔵されていてもよい。
(vii)蓄熱タンクはオイルパンの内部に設けられていてもよい。
10…エンジン、20…本体部、20a…シリンダブロック、21…ピストン、22…クランクシャフト、23…クランク軸受、23a…受熱板、30…オイルパン、30a…第1室、30b…第2室、31…オイルパンカバー、32…オイルパンセパレーター、32c…オイル収集板、32c1…溝部、32h…オイルレベル調整孔、33…第1サーモスタット弁装置、34…第2サーモスタット弁装置、40…潤滑系統、41…オイルストレーナー、41a…吸込口、42…メカニカルオイルポンプ、43…ストレーナー流路、44…オイル送出路、45…蓄熱タンク、46…オイル排出路、47…オイル輸送ポンプ、48…オイル導入路、70…電気制御装置(ECU)