ところが、上記のような提案は、何れも平ベルト伝動装置の内包する問題を解決できるものではない。すなわち、上記第1の提案例のようにプーリにクラウンを形成する場合、平ベルトの走行安定性(蛇行や片寄りの防止)を重要視してクラウンの曲率半径を小さくすれば、ベルトの幅中央に応力が集中し、ベルト幅全体を伝動に有効に利用することができず、心線の早期疲労及び伝動能力の低下を招く。
また、平プーリに上記第2の提案例の如き溝加工をすると、該平プーリの製造コストが高くなることは避けられず、しかも、そうして溝加工をしただけでは、平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することはできない。
そのような平ベルト伝動に付随する問題に加えて、上記従来例の補機駆動装置(特許文献1のもの)では、従動側の低速回転用プーリと補機駆動軸との間に減速用ギヤなどが設けられており、このギヤの潤滑のためのオイルも必要になることから、重量及びコストが増大するという問題があり、さらに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスの問題も残されている。
本発明は斯かる諸点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、平ベルトを用いた可変速伝動装置において、その平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することができるようにするとともに、減速用のギヤなどを廃して潤滑のためのオイルを不要とし、重量、コスト及び駆動ロスのさらなる低減を図ることにある。
上記の目的を達成するために、本発明では、まず、平ベルトに張力を付与するためのテンションプーリとして、詳細は以下に述べるが、プーリの本体上で平ベルトの片寄りが生じたときに、そのベルトの張力によってプーリ本体にかかる軸荷重位置のずれを利用してプーリ本体を変位させ、これによりベルトの走行位置を中心寄りに修正することのできる自動調心プーリを採用した。
その上で、本発明では、原動側及び従動側の少なくとも1つのプーリを、互いに直径の異なる複数の摩擦面を有するものとし、上記のように平ベルトの蛇行・片寄り走行を防止する自動調心プーリの機能を利用して、この自動調心プーリをプーリ軸方向に移動させることにより、これに追従させて平ベルトを幅方向に移動させて、上記直径の異なる摩擦面のいずれかに巻き掛けるようにした。
具体的に、請求項1の発明は、複数のプーリに摩擦伝動ベルトを巻き掛けてなるベルト伝動装置であって、
上記摩擦伝動ベルトが平ベルトであり、該平ベルトの巻き掛けられる原動側及び従動側の少なくとも1つのプーリには、互いに直径の異なる複数の摩擦面が形成され、
さらに、上記平ベルトの巻き掛けられるプーリ本体と、該プーリ本体をプーリ軸回りに回転自在に且つ所定の枢軸回りに揺動自在に支持する支持機構と、を備えたテンションプーリが配設されており、
上記テンションプーリの枢軸が、プーリ軸方向に沿って見て、軸荷重の方向に対しプーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒し、
上記テンションプーリの支持機構は、プーリ本体を上記枢軸とともに、プーリ軸方向に上記原動側乃至従動側プーリの複数の摩擦面に対応する範囲に亘って往復移動可能に構成されていることを特徴とする。
上記の構成により、まず、平ベルトが原動側及び従動側プーリに巻き掛けられていて、テンションプーリのプーリ本体がプーリ軸方向について停止した状態にあるときには、平ベルトがプーリ本体上で片寄って、軸荷重が枢軸の位置からプーリ本体の幅方向にずれて作用するようになると、その軸荷重によってプーリ本体に枢軸を中心とする回転モーメントが作用し、プーリ本体が枢軸回りに回転変位(揺動)する。
ここで、詳しくは後述するが、上記枢軸は、プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対し上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒しており、その傾倒角が90度であるときは、上記プーリ本体は上記平ベルトの片寄ってきた側とは反対側が高くなるように傾斜する一方、上記傾倒角が0度を超え90度未満であるときは、上記プーリ本体は傾斜するだけでなく、平ベルトの片寄ってきた側がベルト走行方向の前側になった斜交い状態になる。
そのようにプーリ本体が傾斜乃至斜交い状態になることによって、プーリ本体から平ベルトにはその片寄りを戻すように力が働き、この戻し力と、伝動装置の特性によってベルトに作用する片寄り力とがつり合う位置で、平ベルトが走行するようになる。このように、上記テンションプーリは、平ベルトの走行位置を自動的に中心寄りに調整する自動調心機能を有するもの(以下、自動調心プーリともいう)であり、これを使用することで、従来の提案例(特許文献2、3)のように心線の早期疲労、伝動能力の低下や製造コストの上昇を招くことなく、平ベルトの蛇行や片寄りを確実に防止することができる。
そのような自動調心プーリは、上述の如くプーリ本体がプーリ軸方向(ベルト幅方向)に停止した状態では、平ベルトをその幅方向に略一定の位置で走行させることになるが、上記プーリ本体及び枢軸をプーリ軸方向に移動させれば、平ベルトがプーリ本体上でその幅方向に相対的に片寄ることになるので、軸荷重が枢軸の位置からプーリ本体幅方向の片側にずれて作用するようになる。この軸荷重によって、上述したように、プーリ本体は枢軸回りに回転変位し、プーリ本体から平ベルトに当該片寄りを戻す力が働く。
このことから、上記自動調心プーリのプーリ本体を、その支持機構によって上記枢軸とともにプーリ軸方向に移動させると、このプーリ本体上で平ベルトに戻し力が働き続けることになり、これにより当該平ベルトがプーリ本体の移動に追従してプーリ軸方向に移動するようになる。このようにして平ベルトの走行位置をベルト幅方向に変更して、上記原動側乃至従動側プーリのいずれかの摩擦面に巻き掛けることによって、原動側プーリに対する従動側プーリの回転数比を変更することができる。
したがって、上述のベルト伝動装置によれば、原動側及び従動側プーリ間にテンションプーリとして上記自動調心プーリを設けたことで、その停止状態では平ベルトに対し安定した張力を与えながら、該平ベルトの蛇行や片寄り走行を確実に防止することができ、その伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。また、上記自動調心プーリのプーリ本体をプーリ軸方向に移動させ、これに追従して平ベルトを幅方向に移動させることにより、当該平ベルトの巻き掛けられる原動側乃至従動側プーリの摩擦面を変更して、変速比を変えることができる。
そのように原動側乃至従動側プーリに直径の異なる複数の摩擦面を設けて、平ベルトを巻き掛ける摩擦面を変更することで、原動側から従動側へ伝達される回転数を可変とすることができるので、減速用のギヤやその潤滑のためのオイルなどが不要になり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
ここで、上記自動調心プーリの作用について詳しく説明すると、プーリ本体の揺動中心である枢軸の傾倒角が90度である場合、即ち枢軸が軸荷重の方向と直交している場合、プーリ本体は、平ベルトの片寄ってきた側が軸荷重の方向に移動するように回転変位(揺動)する。すなわち、軸荷重の方向で高低をみれば、平ベルトが片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜して、言わば、プーリ本体の外周面がクラウンと同様に傾斜した状態となる。これにより、平ベルトには上記片寄り方向とは反対の方向の戻し力が働くようになる。
一方、上記傾倒角が90度未満である場合、平ベルトに片寄りが生じたときのプーリ本体の回転変位には、上記軸荷重の方向の成分だけでなく、軸荷重方向に直交する前後方向(上記平ベルトが上記プーリ本体に接触して走行している方向)の成分が加わる。つまり、プーリ本体は軸荷重方向に傾斜するだけでなく、ベルトの片寄ってきた側がベルト走行方向の前側に移動して、当該ベルトに対し斜交いになって接触した状態になり、このことによってもベルトにはプーリ本体から上記片寄りを戻す方向の力が与えられる。
結局、上記プーリ本体が軸部材を介して上記枢軸の周りに揺動自在に支持されていることにより、その枢軸の傾倒角が0度を越え且つ90度未満である場合は、プーリ本体の幅方向にベルトが片寄ったときに、このプーリ本体が軸荷重の方向に高低差を生ずるように傾斜することによる戻し力と、プーリ本体がベルトに対して斜交いになることによる戻し力との双方が働き、この両戻し力の合力と、ベルト伝動装置の特性によってベルトに作用する片寄り力とがつり合う位置でベルトが走行することになる。
上記傾斜による戻し力と上記斜交いによる戻し力とでは、後者の方が片寄り防止効果が高いので、その斜交いによる戻し力を有効に利用するために好ましいのは、上記傾倒角を0度を超え45度以下とすることである。一方、上記傾倒角が0度近くになると、上述の枢軸を中心とする回転モーメントが発生し難くなるので、さらに好ましいのは、上記傾倒角を5度以上45度以下、或いは10度以上30度以下とすることである。
そうして傾倒角を、0度を超え90度未満とすることによって、平ベルトの蛇行や片寄り走行を効果的に防止し得るということは、平ベルトの移動も効果的に行い得るということである。
上記支持機構についてより具体的には、例えば、上記プーリ本体に一体に設けられて、該プーリ本体を上記プーリ軸周りに回転自在に支持する筒状の軸部材と、上記筒状の軸部材に内挿されかつ、上記プーリ軸と同軸に延びる支持ロッドと、上記プーリ本体の幅の中央付近に配置されて上記枢軸を構成するピンと、上記軸部材と支持ロッドとの間に介設されて該軸部材を上記ピン周りに揺動自在に支持しかつ、上記ピンとともに上記支持ロッドに沿って往復動する中間部材と、上記中間部材を往復動させるための動力を発生する動力源と、を含む構成とすることができる。
この構成によると、動力源が発生させた動力によって中間部材を支持ロッドに沿って移動させると、その中間部材とともにピン及び軸部材が、上記プーリ軸方向に移動をする。これに伴いプーリ本体上で平ベルトがその幅方向に相対的に片寄り、プーリ本体は上記ピン回りに回転変位して、プーリ本体から平ベルトに当該片寄りを戻す力が働くようになる。そうして、平ベルトはプーリ本体の移動に追従してプーリ軸方向に移動をする。
尚、上記動力源としては、バキュームアクチュエータ、モータ、リニアモータ、ソレノイド、油圧シリンダ等、種々の動力源を採用可能である。
上記の如き構成のベルト伝動装置において、原動側及び従動側プーリのうち、互いに直径の異なる複数の摩擦面を有するものは例えば従動側プーリのみとすることができるが、こうすると、平ベルトの巻き掛けられる摩擦面を変更したときに、その摩擦面に対する平ベルトの巻き付き長さ(周方向の長さ)が変化して、その分、ベルトの弛み量が変化することになる。そこで、好ましいのは、上記テンションプーリ(自動調心プーリ)のプーリ本体をその支持機構とともに平ベルトに対し接離方向に移動可能に保持するアームと、該アームをテンションプーリが平ベルトを押圧するように移動付勢する付勢手段と、を設けて、上記ベルトの弛み量の変化をアームの移動によって自動的に吸収するようにすることである(請求項2の発明)。
或いは、上記ベルトの弛み量の変化が小さくなるように、上記原動側及び従動側プーリの両方に、それぞれ、互いに直径の異なる2つの摩擦面を形成し、上記原動側プーリの相対的に大径の摩擦面と上記従動側プーリの相対的に小径の摩擦面とを互いに対応するプーリ軸方向位置に位置づけ、また、原動側プーリの相対的に小径の摩擦面と従動側プーリの相対的に大径の摩擦面とを互いに対応するプーリ軸方向位置に位置づけるようにしてもよい(請求項3の発明)。
その場合に、特に好ましいのは、上記原動側及び従動側プーリの大径の摩擦面同士を略同径とし、且つ、両プーリの小径の摩擦面同士も略同径とすることである(請求項4の発明)。
次に、本発明では、原動側乃至従動側プーリの互いに直径の異なる複数の摩擦面にそれぞれ平ベルトを巻き掛けるとともに、これらの各平ベルトにそれぞれ張力を付与するテンションプーリとして上述の自動調心プーリを採用する。そして、それら各自動調心プーリのプーリ本体を各平ベルトに対し接離方向に移動させて、いずれか1つの平ベルトにのみ選択的に張力を付与することによって、原動側から従動側へのプーリ回転数比を変更するようにした。
すなわち、請求項5の発明は、複数のプーリに摩擦伝動ベルトを巻き掛けてなるベルト伝動装置であって、
上記摩擦伝動ベルトが複数の平ベルトからなり、それら複数の平ベルトが巻き掛けられる原動側及び従動側の少なくとも1つのプーリには、該各平ベルトがそれぞれ巻き掛けられる互いに直径の異なる複数の摩擦面が形成され、
さらに、上記各平ベルトがそれぞれ巻き掛けられるプーリ本体と、該各プーリ本体をプーリ軸回りに回転自在に且つ所定の枢軸回りに揺動自在に支持する支持機構と、を備えた複数のテンションプーリが配設されており、
上記各テンションプーリの枢軸が、プーリ軸方向に沿って見て、軸荷重の方向に対しプーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒し、
上記各テンションプーリの支持機構は、プーリ本体が平ベルトを押圧する状態と押圧しない状態とに切り替わるように、当該プーリ本体を平ベルトに対し接離方向に移動可能に構成されていることを特徴とする。
上記の構成により、まず、原動側及び従動側プーリに巻き掛けられた複数の平ベルトに対しそれぞれ張力を付与するように、テンションプーリとして上述した自動調心プーリが配設されているので、上記請求項1の発明と同じく、平ベルトの心線の早期疲労、伝動能力の低下や製造コストの上昇を招くことなく、その蛇行や片寄りを確実に防止することができる。
また、上記各自動調心プーリのプーリ本体は、それぞれ平ベルトに対し接離方向に移動して、該平ベルトを押圧する状態と押圧しない状態とに切り替えられるようになっており、そのうちのいずれか1つのみにより平ベルトを押圧して、張力を付与するようにすれば、この平ベルトの巻き掛けられている摩擦面の直径に応じて原動側から従動側へのプーリ回転数比が決まることになる。
したがって、この請求項5に係るベルト伝動装置も上記請求項1のものと同様に、自動調心プーリにより平ベルトに対して安定した張力を与えながら、該平ベルトの蛇行や片寄り走行を確実に防止することができ、さらに、張力を付与する平ベルトを変更することで変速比を変更できるので、減速用のギヤや潤滑オイルなどが不要になり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
以上のように、本発明に係るベルト伝動装置によると、テンションプーリのプーリ本体をプーリ軸回りに回転自在に支持するとともに、軸荷重の方向に対して所定方向に傾倒した枢軸の周りに揺動自在に支持するようにしたから、平ベルトがプーリ本体上で幅方向に片寄ったときに、このプーリ本体を少なくとも軸荷重の方向において傾斜させて、平ベルトの蛇行や片寄り走行を速やかに且つ確実に解消することができる。
特に請求項1〜4の発明では、上記テンションプーリのプーリ本体を上記枢軸とともに上記プーリ軸方向に往復移動可能にしたから、平ベルトに働く戻し力によって該平ベルトをプーリ本体の移動に追従してベルト幅方向に移動させることができ、この平ベルトを原動側乃至従動側プーリの複数の摩擦面間で掛け替えることによって、変速比を変えることができる。
また、請求項5の発明では、上記原動側乃至従動側プーリの複数の摩擦面にそれぞれ平ベルトを巻き掛けておいて、この各平ベルト毎のテンションプーリのプーリ本体を当該平ベルトに対し接離方向に移動可能にしたから、いずれか1つの平ベルトのみに選択的に張力を付与することができ、これにより変速比を変えることができる。
そして、上記各発明では、そのように平ベルトの巻き掛けられるプーリの複数の摩擦面を互いに直径の異なるものとすることで、減速用のギヤや潤滑オイルなどが不要になり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るベルト伝動装置の基本構成を示し、同図において1は原動側プーリ、2は従動側プーリであり、この両プーリ1,2間に平ベルト3からなる摩擦伝動ベルトが巻き掛けられるとともに、この平ベルト3に背面から張力を付与するようにして、テンションプーリ4が配設されている。そして、上記原動側プーリ1が図の反時計回りに回転することにより、平ベルト3も図の反時計回りに走行して、従動側プーリ2を回転させる。
尚、図示のベルト伝動装置の構成は、説明の便宜のために簡略化した最も基本的なものであって、あくまで一例に過ぎず、如何なる意味においても本発明の構成を限定するものではない。本発明に係るベルト伝動装置は、これを自動車や農機、或いは各種の産業機械、家電製品、その他の機器に利用することが可能であり、その場合に必要に応じて種々のレイアウトを採用することができる。
上記原動側プーリ1は、図2,3に示すように、外周に上記平ベルト3の幅のおおよそ3倍の幅の摩擦面が形成された平プーリであって、図示省略の原動機の出力軸である原動軸1aに嵌め込まれて、この原動軸1aと一体に回転するようになっている。その原動側プーリ1よりも先端側の原動軸1aには、上記テンションプーリ4を回動可能に保持するアーム16のピボット端部がベアリングを介して取り付けられており、このアーム16が上記テンションプーリ4を平ベルト3に対し接離方向に移動可能に保持している。
また、図示は省略するが、上記テンションプーリ4が平ベルト3を押圧するように、上記アーム16の先端側を図の下方に向かって回動付勢する付勢手段が設けられている。この付勢手段としては、例えばバネ部材や液圧乃至空気圧シリンダなどを用いることができるが、この実施形態のようなレイアウトであればテンションプーリ4やアーム16の自重によってそれらが下方に付勢されるようにすることもできる。さらに、アーム16の回動に減衰を付与するようにするのが好ましい。以下、上記アーム16を付勢アーム16と呼ぶ。
一方、上記従動側プーリ2は、上記原動軸1aに対し平行に配置された従動軸2aの先端に嵌め込まれて、この従動軸2aと一体に回転するようになっている。この従動側プーリ2は、全体としては上記原動側プーリ1と略同じ幅を有するものであるが、その外周面には従動軸2aの軸方向両端側に分かれて、互いに直径の異なる断面円形状の2つの摩擦面2b,2cが形成されている。
上記2つの摩擦面2b,2cのうち、相対的に小さな方の摩擦面2b(以下、小径摩擦面という)の直径は、この実施形態では上記原動側プーリ1の摩擦面よりも小さくされ、一方、相対的に大きな方の摩擦面2c(以下、大径摩擦面という)の直径は、この実施形態では上記原動側プーリ1の摩擦面と同じとされている。また、それら2つの摩擦面2b,2cの中間には、両者間を滑らかに繋ぐように直径が小径摩擦面2bから大径摩擦面2cに向かって徐々に増大するテーパ面2dが形成されている。
そして、図2に示すように平ベルト3が従動側プーリ2の小径摩擦面2bに巻き掛けられた状態では、その平ベルト3によって原動軸1aの回転が増速されて従動軸2aに伝達される相対的に高速比の状態になり、一方、図3に示すように平ベルト3が従動側プーリ2の大径摩擦面2cに巻き掛けられた状態では、原動軸1aの回転はそのままの回転数で従動軸2aに伝達される相対的に低速比の状態になる。
そうして平ベルト3の巻き掛けられる従動側プーリ2の摩擦面2b,2cを互いに直径の異なるものとして、その2つの摩擦面2b,2cの間で平ベルト3を掛け替えるだけで、原動側から従動側への伝達回転数を変更できるので、減速用のギヤやその潤滑のためのオイルなどは不要であり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくなる。
−テンションプーリの構造−
この実施形態では、本発明の特徴部分として、上記テンションプーリ4を、平ベルト3の片寄りに伴い揺動して、該平ベルト3の走行位置を中心寄りに自動調整する自動調心プーリとしている。すなわち、図4,5に詳細を示すように、テンションプーリ4は、平ベルト3の巻き掛けられるプーリ本体5と、このプーリ本体5をプーリ軸C1周りに回転自在に且つ枢軸C2周りに揺動自在に支持する支持機構10と、を備えている(C1,C2は図4にのみ示す)。
上記支持機構10は、プーリ本体5をベアリング12によって支持する筒状の軸部材11と、支持ロッド13と、枢軸C2を構成するピン17と、上記プーリ本体5をピン17とともに上記プーリ軸C1方向に往復移動させる移動機構6と、備えて構成されている。その移動機構6は、中間部材14と、ベローズ型のバキュームアクチュエータ7とを備えており、上記プーリ本体5を、上記従動側プーリ2の2つの摩擦面2b,2cに対応するプーリ軸C1方向の範囲に亘って往復移動させるようになっている。
上記支持ロッド13は、上記付勢アーム16に取り付けられる取付部13aと、該取付部13aの一端に続いて設けられた支持部13bとからなる。上記取付部13aは、付勢アーム16の先端に形成された貫通孔に挿通されて、ナットにより締結されている。また、上記支持部13bは、上記中間部材14に内挿されている。
上記支持部13bには、上記取付部13aとは逆側の端(以下、取付部13aとは逆側の端を支持部13bの先端と呼び、取付部13a側の端を支持部13bの基端と呼ぶ)の面に開口する挿入孔91と、径方向に相対向して、それぞれ軸方向に延びる2つの長穴92と、が形成されている。上記挿入孔91の開口近傍にはねじ溝が形成されており、後述する植込みボルト93がねじ込まれることによって、上記開口が閉塞されるようになっている。
上記中間部材14は、半割状の2つの部材からなり、その横断面中心に中心孔を有する、全体として断面円形状の筒状の部材である。この中間部材14は、上記筒状の軸部材11に内挿されているとともに、その基端側と先端側とにそれぞれ嵌め込まれた摺動リング21,21を介して上記支持ロッド13の支持部13bに外挿されている。そして、この中間部材14は、上記支持部13bによってその軸方向に往復動可能に支持されている。
また、上記中間部材14の先端には拡径部が形成されていて、この拡径部がバキュームアクチュエータ7の可動プレート72に固定されている。このため、詳しくは後述するが、上記中間部材14は、上記バキュームアクチュエータ7を駆動源として上記支持部13bの軸方向に往復移動するようになっている。
さらに、上記中間部材14における直径方向に対応する部位はD字状にカットされており、このDカットによって、図4,6に示すように、互いに平行になった平坦な摺動面14c,14cが形成されている。そうして、この各摺動面14cから中間部材14の中心孔に向かって径方向に延びる貫通孔が形成されていて、この貫通孔内には摺動筒18が嵌め込まれている。
上記軸部材11の内周面には、それぞれ断面D字状を有する2つの摺動部材19が、直径方向に相対向して取り付けられている。この摺動部材19によって、上記軸部材11の内面には、上記中間部材14の摺動面14c,14cが摺動自在に接触する平坦な摺動面11a,11aが相対向するように形成されている。また、この摺動面11a,11aの両側縁を結ぶ両サイドの円弧面が、上記軸部材11の内周面によって形成されている。さらに、上記軸部材11及び摺動部材19には、上記プーリ本体5の幅の中央付近に上記ピン17が嵌め入れられる支持孔が形成されている。
上記支持機構10のピン17は、上記支持ロッド13の長穴92を通って、上記支持部13bを径方向に貫通して配設されており、その両端部はそれぞれ、上記中間部材14の貫通孔に嵌め込まれた摺動筒18を通って、上記軸部材11及び摺動部材19に設けられた支持孔内に嵌め入れられている。このピン17は、プーリ本体5の回転方向については、軸荷重方向Lに対しプーリ本体5の回転方向前側に所定の傾倒角αで傾倒して配置されている(図4参照)とともに、プーリ本体5の幅方向については、その中央付近に配置されている(図5参照)。
そうして、中間部材14の両サイドの円弧面と軸部材11の筒孔の両サイドの円弧面との間に、ピン17によって構成される枢軸C2周りに軸部材11がプーリ本体5とともに揺動することを許容する隙間15,15が形成されている。
上記ピン17は、上記中間部材14が支持部13bに沿って往復移動するに伴い、上記長穴92内を軸方向に移動し、これにより、上記ピン17に係合した上記軸部材11及びプーリ本体5が、支持部13bに沿って往復移動するようになっている。
上記支持部13bの挿入孔91内には圧縮ばね94が配設されており、その状態で植込みボルト93が上記挿入孔91にねじ込まれている。上記植込みボルト93とピン17との間に配設された上記圧縮ばね94は、上記ピン17を支持部13bの基端側に付勢している。
上記バキュームアクチュエータ7は、支持ロッド13に外挿されて、その軸方向に相対する2つサイドプレート71,72と、この両サイドプレート71,72の外周縁間に全周に亘って掛け渡されて、両者間に作用室を区画形成するベローズ73と、を備えて構成されている。
上記2つのサイドプレート71,72の内の一方は、上記支持部13bの先端部に固定された固定プレート71であり、他方は、固定プレート71よりも基端側で上記支持部13bに移動可能に支持された可動プレート72である。これら2つのサイドプレート71,72の内周面と支持ロッド13の外周面との間には、Oリングが介設されており、これによって、上記バキュームアクチュエータ7内の気密性を確保している。
上記固定プレート71には、チューブ74を介して図示省略の真空ポンプに接続される接続口75が設けられていて、この接続口75及びチューブ74内の通路によりバキュームアクチュエータ7内の作用室が真空ポンプのポンプ室に連通されるようになっている。一方、上記可動プレート72には、上記中間部材14の拡径部が固定されている。
そして、図2に示すように上記バキュームアクチュエータ7内の作用室が常圧の状態から、この作用室を上記真空ポンプの運転により負圧にすると、上記可動プレート72が、上記圧縮ばね94の付勢力に抗して固定プレート71側に移動し、それに伴い中間部材14が支持ロッド13の先端側に移動して、上記ピン17、軸部材11、及びプーリ本体5が一体となって支持ロッド13の先端側(図の左側)に移動する(図3参照)。
その反対に、上記図3に示すようにバキュームアクチュエータ7内の作用室が負圧の状態から、この作用室を例えば大気開放して常圧にすると、上記圧縮ばね94の付勢力により上記ピン17、軸部材11、及びプーリ本体5が一体となって支持ロッド13の基端側に移動し、それに伴い、上記中間部材14及び可動プレート72が支持ロッド13の基端側(図の右側)に移動する(図2参照)。
斯くして、上記プーリ本体5及びピン17は、プーリ軸C1方向に往復移動されて、上記従動側プーリ2の小径摩擦面2bの位置に対応した高速比位置(図2)と、該従動側プーリ2の大径摩擦面2cの位置に対応した低速比位置(図3)との2つの位置のいずれかに、その位置が変更される。
−蛇行・片寄り走行の防止−
図1,2又は図3に示す使用形態、つまり、テンションプーリ4のプーリ本体5を高速比位置又は低速比位置のいずれかに位置付けた状態において、それぞれ、図7に示すように、プーリ本体5の幅の中央付近に掛かっていた平ベルト3が鎖線で示す如くプーリ本体5の中央からその片側へ寄ると、軸荷重はピン17の位置からプーリ本体5の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、軸部材11にはピン17を中心とする回転モーメントが働き、この軸部材11がプーリ本体5と共にピン17の回りに回転変位(揺動)する。
すなわち、図6に中間部材14、ピン17及び軸部材11のみを模式的に示すように、上記の如く平ベルト3が片寄って軸荷重Lの位置がずれたときでも、仮にその軸荷重の方向がピン17と平行であれば(L0のとき)、このピン17周りの回転モーメントは発生しないが、この実施形態のように軸荷重Lの方向がピン17の方向に対して角度αだけ傾いていれば、その分力L1によってピン17周りの回転モーメントが発生し、軸部材11は回転変位するのである。上記角度αは、軸荷重Lの方向を基準とするピン17の傾倒角αに相当する。
そして、この実施形態では、図4の如くプーリ軸C1の方向に沿って見て、プーリ本体5の揺動枢軸C2(ピン17)が、軸荷重Lの方向に対しプーリ本体5の回転方向(ベルト走行方向A)前側に傾倒しているから、当該プーリ本体5は、上記傾倒したピン17周りに回転変位することにより、図8(図4のVIII矢視図)に示すように、平ベルト3が片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように軸荷重Lの方向において傾斜すると同時に、図7(平面図)に示すように、平ベルト3が片寄ってきた側がベルト走行方向Aの前側になるようにこの平ベルト3に対して斜交い状態になる。尚、図4,7,8ではプーリ本体5が回転変位した状態を鎖線で示している。
そうして、平ベルト3には、プーリ本体5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、プーリ本体5が傾斜することによる戻し力とが働き、これにより平ベルト3の当該片寄りが防止される。すなわち、プーリ本体5をプーリ軸C1方向について停止させた状態では、平ベルト3は、プーリ本体5が斜交いになり且つ傾斜することによる戻し力と、当該ベルト伝動装置の特性によって平ベルト3に作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになり、仮に平ベルト3が大きく片寄ることがあっても、この平ベルト3は上記戻し力と片寄り力とがつり合う位置に戻される。
尚、この実施形態では、中間部材14及び軸部材11の摺動面14c,11aが軸荷重によって接触し、この両摺動面14c,11a間に適度の摺動抵抗が働くため、平ベルト3がプーリ本体5の中央付近を走行しているときに、プーリ本体5が平ベルト3の走行振動等によって微小揺動することが避けられるとともに、平ベルト3に片寄りを生じたときに、プーリ本体5が過敏に反応して回転変位し、それによって、プーリ本体5が左右に小刻みに揺動するハンチングを生ずることが防止される。
上述したように、テンションプーリ4を自動調心プーリとしたことで、平ベルト3に対して安定した張力を与えることができるとともに、その蛇行や片寄り走行を確実に防止することができ、その伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。
−変速動作−
次に、例えば図2に示すようにプーリ本体5が高速比位置にあり、平ベルト3が従動側プーリ2の小径摩擦面2bに巻き掛けられた状態(高変速比状態)から、上記バキュームアクチュエータ7の作動によって上記プーリ本体5を支持ロッド13の先端側(図2の左側)に移動させると、平ベルト3はプーリ本体5上で支持ロッド13の基端側に相対的に片寄ることになり、軸荷重Lが枢軸C2の位置からプーリ本体5幅方向の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。その軸荷重Lによって、上述したように、プーリ本体5は枢軸C2回りに回転変位し、プーリ本体5から平ベルト3には当該片寄りを戻す力、つまり、支持ロッド13の先端側(図2の左側)に向かう力が働く。
そのため、上記プーリ本体5を支持ロッド13の先端側へ移動させると、上記平ベルト3には支持ロッド13の先端側に向かう力が働き続けることになり、平ベルト3はプーリ本体5の移動に追従して支持ロッド13の先端側に移動する。これにより平ベルト3は、原動側プーリ1外周の摩擦面上を原動軸1aの基端側に向かって移動するとともに、従動側プーリ2においては小径摩擦面2bからこれに連続するテーパ面2dに移動し、図3に示すように上記プーリ本体5が低速比位置に到達すれば、大径摩擦面2cに巻き掛けられるようになる。そして、原動側プーリ1の回転がそのままの回転数で従動側プーリ2に伝達される低速比状態になる。
逆に、上記図3に示すようにプーリ本体5が低速比位置にあって、平ベルト3が大径摩擦面2cに巻き掛けられている低速比の状態から、上記のようにプーリ本体5を支持ロッド13の基端側(同図の右側)に移動させると、そのプーリ本体5の移動に追従して平ベルト3も移動し、図2に示すように上記プーリ本体5が高速比位置に到達すれば、平ベルト3は、従動側プーリ2の小径摩擦面2bに巻き掛けられることになる。こうして、原動側プーリ1の回転が増速されて従動側プーリ2に伝達される高速比状態になる。
また、上記のように平ベルト3の巻き掛けられる従動側プーリ2の摩擦面が変化するときには、その2つの摩擦面2b,2cに対する平ベルト3の巻き付き長さ(周方向の長さ)が変化するので、その分、該平ベルト3の弛み量が変化することになる。これに対し、この実施形態では、平ベルト3の緩み側スパン(図1の上側のベルトスパン)を押圧するテンションプーリ4のプーリ本体5がその支持機構10とともに、付勢アーム16により平ベルト3に対し接離方向に移動可能に保持されているので、この付勢アーム16の回動によって上記平ベルト3の弛み量の変化が自動的に吸収されることになる。
したがって、上記した実施形態1に係るベルト伝動装置によると、平ベルト3に張力を付与するテンションプーリ4を自動調心プーリとしたことで、そのプーリ本体5をプーリ軸C1方向に停止させた状態では、平ベルト3に対し安定した張力を与えながら、該平ベルト3の蛇行や片寄り走行を確実に防止することができ、その伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。しかも、従来からのベルトの蛇行防止の提案(例えば特許文献2、3のもの)のように心線の早期疲労、伝動能力の低下や製造コストの上昇を招くことがない。
一方、上記テンションプーリ4のプーリ本体5をプーリ軸C1方向に移動させれば、これに追従して平ベルト3を幅方向に移動させて、従動側プーリ2の大小、2つの摩擦面2b,2cの間で掛け替えることができ、これにより、原動側のプーリ回転をそのまま従動側に伝達する低速比状態と、プーリ回転を増速して伝達する高速比状態とに切り替えることが、つまり、原動側から従動側に伝達する回転数を変更することができる。
そのように従動側プーリ2に直径の異なる2つの摩擦面2b,2cを設けて、平ベルト3を掛け替えることにより原動側から従動側への変速比を可変とすることができるので、減速用のギヤやその潤滑のためのオイルなどが不要になり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
また、上記の如くテンションプーリ4の自動調心機能によって、平ベルト3の蛇行や片寄り走行を防止できるとともに、その平ベルト3の走行位置をベルト幅方向に変更して、異なる摩擦面2b,2cに掛け替えることができるため、上記テンションプーリ4のプーリ本体5は勿論、原動側及び従動側プーリ1,2にもフランジを設ける必要はなく、従ってフランジ接触によるベルト寿命低下の虞れもない。
但し、上記原動側及び従動側のプーリ1,2には、通常、走行する平ベルト3が接触しない程度の間隔を空けてフランジを設けてもよい。これは、テンションプーリ4のの回転を停止した状態でそのプーリ本体5をプーリ軸方向に移動させた際に、平ベルト3が脱落することを防止するために有効である。
また、上述の実施形態においてはテンションプーリ4のプーリ本体5の外周面にクラウンを付けていないが、ここに緩やかなクラウンを付けるようにしてもよい。クラウンが緩やかであれば、平ベルト3に大きな負荷がかかることは避けられるからである。
また、上述の実施形態においては、平ベルト3の緩み側スパンにのみテンションプーリ4を配設しているが、これに限らず、例えば図9に示すように平ベルト3の張り側スパンにもテンションプーリ8を配設して、このテンションプーリ8を上記テンションプーリ4と連係して移動するようにバネ部材9などにより連結することができる。
こうすれば、変速時に上記の如く平ベルト3の従動側プーリ2に対する巻き付き長さが変化するとき、そのことによる張り側スパンの張力の変化をテンションプーリ8の移動によって緩和することができるので、上記実施形態1のように平ベルト3の弛みをその緩み側でのみ吸収するのに比べて、より効果的に張力変動を緩和することができる。
(実施形態2)
図10〜12は、本発明の実施形態2に係るベルト伝動装置の基本構成を示す。この実施形態2のものは、前記実施形態1のように従動側プーリ2にのみ直径の異なる2つの摩擦面2b,2cを設けるのではなく、原動側プーリ1にも同様に直径の異なる2つの摩擦面1b,1cとテーパ面1dとを設けたものである。この点を除いて、実施形態2のベルト伝動装置の構成は前記実施形態1のものと同じなので、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
そして、この実施形態2では、上記原動側プーリ1の大径摩擦面1bの直径を従動側プーリ2の大径摩擦面2bと略同じにし、且つ、上記原動側プーリ1の小径摩擦面1cの直径を従動側プーリ2の小径摩擦面2cと略同じにしている。また、図11,12に示すように、上記原動側プーリ1の大径摩擦面1bと上記従動側プーリ2の小径摩擦面2bとがプーリ軸方向について略同じ位置にあり、また、原動側プーリ1の小径摩擦面1cと従動側プーリ2の大径摩擦面2cともプーリ軸方向について略同じ位置にある。
したがって、この実施形態2のベルト伝動装置によると、自動調心プーリであるテンションプーリ4によって、そのプーリ本体5をプーリ軸C1方向に停止させた状態では、上記実施形態1と同様に、平ベルト3に対し安定的に張力を与えて、心線の早期疲労、伝動能力の低下や製造コストの上昇を招くことなく、平ベルト3の蛇行や片寄り走行を確実に防止することができる。しかも、上記テンションプーリ4や原動側及び従動側プーリ1,2にフランジを設ける必要がなく、フランジ接触によるベルト寿命低下の虞れもない。
また、上記テンションプーリ4のプーリ本体5をプーリ軸C1方向に移動させることにより、平ベルト3を幅方向に移動させて、原動側プーリ1の2つの摩擦面1b,1c間、及び従動側プーリ2の2つの摩擦面2b,2c間で掛け替えることができる。すなわち、図11に示すようにテンションプーリ4のプーリ本体5を高速比位置として、平ベルト3が原動側プーリ1の大径摩擦面1bと従動側プーリ2の小径摩擦面2bとに巻き掛かって走行するようにすれば、プーリ回転が増速されて従動側に伝達される高速比状態になる。
一方、図12に示すようにテンションプーリ4のプーリ本体5を低速比位置とすれば、平ベルト3は原動側プーリ1の小径摩擦面1cと従動側プーリ2の大径摩擦面2cとに巻き掛かって走行するようになり、このときには原動側プーリ1の回転が減速されて従動側プーリ2に伝達される低速比状態になる。
そのようにして変速比を変えることができるので、上記実施形態1と同様に減速用ギヤや潤滑オイルなどが不要になり、重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
加えて、この実施形態2のベルト伝動装置では、上記原動側及び従動側プーリ1,2の大径摩擦面1b,2a同士が略同径であり、且つ、両プーリ1,2の小径摩擦面1c,2c同士も略同径であるから、上記高速比状態と低速比状態とで平ベルト3の弛み量が殆ど変化せず、そのため、変速時の平ベルト3の張力変動が上記実施形態1に比べて格段に小さいという利点がある。
そのため、この実施形態2のベルト伝動装置は、原動側及び従動側プーリ1,2の直径が比較的大きくて、変速比の変化に対し相対的にベルト弛み量の変化が大きくなるものに適している。また、上記のように原動側プーリ1の大径及び小径摩擦面1b,1cと従動側プーリ2の小径及び大径摩擦面2b,2cとをそれぞれ対応させるようにすれば、上記実施形態1に比べて平ベルト3の弛み量の変化は小さくなるので、必ずしも上記のように互いの大小の摩擦面直径を同じにしなくてもよい。
尚、上述した実施形態1、2のベルト伝動装置においては、いずれも、テンションプーリ4のプーリ本体5を移動させるための駆動源としてバキュームアクチュエータ7を使用しているが、駆動源はこれに限らず、モータ、リニアモータ、ソレノイド、油圧シリンダ等、種々のデバイスを利用可能である。そして、駆動源をステッピングモータ等によって構成すれば、平ベルト3を2以上の走行位置で走行させるようにすることもでき、こうすれば3段階以上の変速が可能になる。
(実施形態3)
図13,14は、本発明の実施形態3に係るベルト伝動装置の基本構成を示す。この実施形態3のものは、前記実施形態1、2のように1本の平ベルト3を幅方向に移動させて、原動側乃至従動側プーリ1,2の複数の摩擦面間で掛け替えるようにしたものではなく、その複数の(図の例では3つの)摩擦面に予めそれぞれ平ベルト3,3,…を巻き掛けておき、そのうちのいずれか1本の平ベルト3に選択的に張力を付与することにより、原動側から従動側へ伝達されるプーリ回転数比を決めるようにしたものである。
その点を除けば、実施形態3のベルト伝動装置の基本構成は前記実施形態1、2のものと概ね同じなので、対応する部材には便宜上、同じ符号を付してその説明は省略する。
そして、図示のベルト伝動装置では、一例として、原動側及び従動側のプーリ1,2のそれぞれに互いに直径の異なる3つの摩擦面を形成している。すなわち、原動側プーリ1には、大径摩擦面1b及び小径摩擦面1cに加えて、それらの中間の直径を有する中径摩擦面1eが形成され、また、従動側プーリ2にも小径及び大径の摩擦面2b、2cに加えて、それらの中間の中径摩擦面2eが形成されている。そして、上記原動側及び従動側プーリ1,2の大、中、小の各摩擦面同士はそれぞれ略同径とされている。
また、図14に示すように、原動側プーリ1の大径摩擦面1b、小径摩擦面1c及び中継摩擦面1eは、各々従動側プーリ2の小径摩擦面2b、大径摩擦面2c及び中径摩擦面2eとプーリ軸方向について略同じ位置にあり、それぞれに平ベルト3,3,…が巻き掛けられている。そして、その各平ベルト3の緩み側スパンに張力を付与するように、上記実施形態1,2と同じく自動調心プーリからなる複数の(図の例では3つの)テンションプーリ4,4,…が配設されている。
上記テンションプーリ4の構造は基本的には上記実施形態1、2のものと同じであり、プーリ本体5上で平ベルト3の片寄りが生じたときに、軸荷重位置のずれを利用して、プーリ本体5を傾斜乃至斜交い状態になるように変位させるようにしたものであるが、この実施形態3ではプーリ本体5をプーリ軸C1方向に往復移動させる必要はないので、支持機構10からは上記移動機構6が省略されている。
すなわち、上記テンションプーリ4は、その一例を図15に示すように、プーリ本体5をプーリ軸周りに回転自在に且つ枢軸周りに揺動自在に支持する支持機構として、当該プーリ本体5をベアリング12によって支持する筒状の軸部材11と、この軸部材11に先端側13aが内挿された支持ロッド13と、枢軸を構成するピン17とを備えている。
また、図示は省略するが、上記支持ロッド13の他端側13bは、可動部材を介して、ベルト伝動装置の固定部に取り付けられており、その可動部材の作動によって、上記プーリ本体5、軸部材11、支持ロッド13、ピン17などが平ベルト3に対し接離方向(図13の上下方向)に移動可能になっている。
そうしてプーリ本体5などを平ベルト3に対し接離方向に移動させることで、上記テンションプーリ4,4,…は、それぞれ、プーリ本体5により平ベルト3を押圧して張力を付与する状態と、それを押圧しない状態とに切り替えることができ、いずれか1つの平ベルト3にのみ選択的に張力を付与することができる。尚、上記可動部材の移動には駆動源として、実施形態1、2のようなバキュームアクチュエータを利用することができるし、それ以外にもモータ、リニアモータ、ソレノイド、油圧シリンダ等、種々のデバイスを利用することができる。
したがって、この実施形態3のベルト伝動装置によると、原動側及び従動側プーリ1,2に巻き掛けた複数の平ベルト3,3,…のうちのいずれか1つに選択的に張力を付与することによって、この選択された平ベルト3の巻き掛けられている原動側及び従動側プーリ1,2の摩擦面直径の比率でプーリ回転を伝達することができるから、上記平ベルト3の選択によって変速比を変更することができる。
そのため、上記実施形態1、2のものと同様に、減速用のギヤや潤滑オイルなどが不要になり、ベルト伝動装置の重量及びコストを低減できるとともに、ギヤの噛み合いによる駆動ロスもなくすことができる。
また、上記のように選択した平ベルト3に張力を付与するテンションプーリ4が自動調心プーリであるから、上記実施形態1、2のものと同様に、平ベルト3に対して安定した張力を与えながら、その心線の早期疲労、伝動能力の低下や製造コストの上昇を招くことなく、蛇行や片寄りを確実に防止することができる。