本発明は、車両用ステアリングシステムに関し、詳しくは、車両衝突時における運転者のステアリング操作部材への二次衝突に対処するための機構に特徴を有するステアリングシステムに関する。
一般的な車両用ステアリングシステムは、車両衝突に依拠するステアリング操作部材(例えば、ステアリングホイール等)への運転者の二次衝突に対処するために、各種の機構を備えている。多くのステアリングシステムでは、それらの機構の1つとして、ステアリングコラム(以下、単に「コラム」という場合がある)を、車体の一部(例えば、インストゥルメントパネルのリインフォースメント)に、それからの離脱を許容する状態で支持させるコラム支持機構を備え、また、別の機構として、離脱したコラムの移動に伴うエネルギ吸収荷重を発生させて衝撃のエネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収機構を備える。この衝撃エネルギ吸収機構に関して、下記特許文献に記載された技術が存在する。効果的な衝撃緩和の観点からすれば、衝撃エネルギ吸収機構による衝撃エネルギの吸収量は二次衝突の衝撃の大きさに対応するものであることが望ましく、そのことを考慮して、下記特許文献に記載された技術では、衝撃エネルギ吸収荷重を変更可能とされている。
特開2002−79944号公報
特開2003−276544号公報
衝撃エネルギ吸収機構による衝撃エネルギの吸収は、車体の一部からコラムが離脱した後に行われるが、車体の一部からのコラムの離脱に関する機能も効果的な衝撃緩和に対して大きく影響する。例えば、コラムが離脱するために要する荷重は、エネルギ吸収荷重として機能し得ることから、離脱に要する荷重も二次衝突の衝撃の大きさに対応するものであることが望ましい。特許文献1に記載された技術のように、二次衝突する前に、強制的にコラムを離脱させて車両前方へ退避移動させること(以下、「引込」という場合がある)で、離脱に要する荷重を0にまで低減することも望ましい技術の1つである。つまり、衝撃エネルギ吸収機構のエネルギ吸収荷重を変更することと、コラムの離脱に要する荷重を調節することとの両者を行うことにより、より効果的な衝撃緩和が可能となるのである。上記特許文献1に記載の技術ではその両者が行われており、効果的な衝撃緩和という点で、一歩進んだステアリングシステムが実現されている。
ところが、上記特許文献1に記載の技術では、エネルギ吸収荷重を変更させる機構と、コラムを引き込ませる機構との両者が、互いに異なる駆動源によって駆動されるものとされており、それら2つの機構を作動させる際に、2つの駆動源を個々に作動させなければならない。つまり、2つの駆動源を有することにより、上記特許文献1に記載の技術は、ステアリングシステムの構造が複雑なものとなっており、実用性という観点において、改善の余地を残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアリングシステムを提供することを課題とする。
本発明のステアリングシステムは、上記課題を解決するために、コラム支持機構と係合して配設される第1部材をアクチュエータによって変位させることで、その第1部材によってコラム支持機構において設定されるコラムの車体の一部からの離脱に要する荷重を低減させるとともに、第1部材に連携させられた第2部材によって衝撃エネルギ吸収機構が発生させるエネルギ吸収荷重の発生を禁止する装置を備えたことを特徴とする。
本発明のステアリングシステムは、コラムの車体の一部からの離脱に要する荷重を低減させることと、エネルギ吸収荷重の発生を禁止することとの両者を行う装置を含んで構成されることから、効果的な衝撃緩和が可能なシステムである。また、それらの両者が1つのアクチュエータによって駆動されることから、システムの構造が比較的単純であり、それらの点において実用性の高いステアリングシステムとなる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項ないし(5)項の各々が、請求項1ないし請求項5の各々に相当する。
(1)ステアリング操作部材を車両後方側の端部において操作可能に保持するステアリングコラムと、
前記ステアリング操作部材に加わる衝撃に起因して自身に作用する荷重が離脱荷重を超える場合における離脱を許容しつつ前記ステアリングコラムを車体の一部に支持させるコラム支持機構と、
前記ステアリングコラムと車体の一部との一方に配設されるとともにそれらの他方に設けられた係止部に係止される被係止部を有してその被係止部が前記係止部に係止される状態において離脱した前記ステアリングコラムの車両前方方向への移動に伴って変形させられる変形部材を備え、その変形部材の変形に要する荷重をエネルギ吸収荷重として発生させて前記ステアリング操作部材に加わる衝撃のエネルギを吸収する衝撃エネルギ吸収機構と、
(a)前記コラム支持機構と係合するとともに変位可能に配設された第1部材と、(b)前記係止部との相対変位が許容された状態でその係止部による前記変形部材の前記被係止部の係止を阻止する位置に配設され、前記ステアリングコラムの離脱の際に、前記被係止部と当接して前記係止部と相対変位させられることで、前記係止部による前記被係止部の係止を実現させる第2部材と、(c)前記第1部材を変位させるアクチュエータとを備え、そのアクチュエータによって前記第1部材を変位させることで、その第1部材と前記コラム支持機構との係合状態を変更して前記離脱荷重を低減させるとともに、前記第1部材を前記第2部材に係合させてその第2部材と前記係止部との相対変位を禁止することで前記係止部による前記変形部材の前記被係止部の係止を阻止して前記エネルギ吸収荷重の発生を禁止する離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置と
を含んで構成された車両用ステアリングシステム。
本項に記載のステアリングシステムは、簡単に言えば、上記コラム支持機構と上記衝撃エネルギ吸収機構との両者を備え、コラム支持機構と係合して配設される第1部材をアクチュエータによって変位させることで、その第1部材によって離脱荷重を低減させるとともに、第1部材に連携させられる第2部材によってエネルギ吸収荷重の発生を禁止するように構成されたステアリングシステムである。本項の態様のシステムは、離脱荷重を低減することと、エネルギ吸収荷重の発生を禁止することと両者を行う装置を含んで構成されることから、効果的な衝撃緩和が可能となる。また、それらの両者が1つの駆動源によって駆動されることから、システムの構造を比較的単純化することが可能となる。したがって、それらの利点を有することから、本項の態様のステアリングシステムは実用性の高いステアリングシステムとなる。
本項の態様における「ステアリング操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)」は、ステアリングホイールがその代表的なものであるが、ステアリングホイールに限定されるものではなく、いわゆるハンドルと呼ぶことのできる種々の形状のものを採用することが可能である。本項における「ステアリングコラム」も、操作部材を操作可能に保持するとともに車体の一部に支持されるものであればよく、その形状,構造が限定されるものではない。具体的には、車両後方側の端部に操作部材が固定して取り付けられたステアリングシャフト(以下、単に「シャフト」という場合がある)と、そのシャフトを回転可能に保持するステアリングチューブ(以下、単に「チューブ」という場合がある)とを含んで構成されるものを採用することが可能である。
本項の態様における「コラム支持機構」は、通常のステアリング操作に支障をきたさないように、コラムを、車体の一部、例えば、インストゥルメントパネル(以下、「インパネ」という場合がある)のリインフォースメント(以下、「インパネR/F」という場合がある)に設けられたブラケット等を車体における支持部等に支持させるものとされることが望ましい。具体的には、例えば、コラムに設けられたブラケットと、そのブラケットと上記支持部とを連結,締結等する部材とを含むような構成のものとすることができる。
上記「コラム支持機構」は、車体の一部からのコラムの離脱を許容するものであるが、コラムの全体の離脱を許容するものに限定されない。例えば、互いに嵌め合わされた2つのチューブ部材を有する構造等によってコラムが収縮等可能なものとされている場合等には、車両後方側に位置する部分のみの離脱を許容するような構成のものであってもよい。つまり、本項の記載における「コラムの離脱」とは、コラムの一部の離脱をも含む概念であり、同様に、本明細書における「コラムの移動」とは、コラムの一部分の移動をも含む概念である。
また、コラム支持機構は、操作部材に加わる衝撃、例えば、二次衝突の衝撃に依拠してコラムを離脱可能とするものであり、その衝撃に起因して自身に作用する荷重が設定された荷重である離脱荷重を超えた場合にコラムの離脱を許容する機構である。本項にいう「自身に作用する荷重」とは、コラム支持機構が受ける荷重であり、ひいては、コラムが受ける荷重、つまり、コラムを離脱させようとする荷重である。また、本項にいう「離脱荷重」とは、上記衝撃に対してコラムの支持可能な限界の荷重であって、言い換えれば、コラムを離脱させるのに要する荷重である。
本項に記載の「衝撃エネルギ吸収機構(以下、「EA機構」という場合がある)」は、離脱したコラムの移動に伴なう変形部材の変形に要する力を、エネルギ吸収荷重(以下、「EA荷重」という場合がある)として発生させ、そのEA荷重を利用して衝撃のエネルギを吸収する機構である。「変形部材」は、被係止部がコラムと車体の一部との一方に設けられた係止部に係止される状態におけるコラムの車両前方方向の移動に伴って、コラムと車体の一部との他方に設けられた変形強要部によって変形させられるようなものとすることができ、いわゆる衝撃エネルギ吸収プレートと呼ばれるような部材を採用することが可能である。なお、本項にいう「車両前方方向」は、厳密な意味における真直ぐに車両前方に向かう方向を意味するのではなく、その方向に対してある程度の傾きを持った方向ををも含む概念である。具体的に言えば、コラムは傾斜して配置される場合が多く、その場合においてコラムがそれの軸線方向に沿って移動するようにされているときには、その軸線の延びる方向も、車両前方方向に含まれるのである。また、本項に記載の態様は、衝撃エネルギ吸収機構を2以上備える態様を排除するものではない。例えば、先に述べたコラムが収縮可能なものとされている場合、その収縮に起因する摩擦力がEA荷重とされる構造の衝撃エネルギ吸収機構を、本項に記載の衝撃エネルギ吸収機構とは別に備える態様とすることが可能である。
前述したように、コラム支持機構は、操舵操作の安定性に鑑みて、コラムを車体の一部にしっかりと支持させるものとすることが望ましく、その離脱荷重は比較的大きな荷重とすることが望ましい。その比較的大きな離脱荷重は、二次衝突の衝撃エネルギが大きい場合、二次衝突の衝撃エネルギを効率的に吸収可能な荷重となる。しかし、二次衝突の衝撃エネルギが小さい場合には、運転者が受ける衝撃をできるだけ小さくするため、離脱荷重を低減させることが望まれる。また、衝撃エネルギ吸収機構においても、同様に、EA荷重を二次衝突の衝撃エネルギの大きさに応じて変更することが望まれる。そこで、本項の態様のシステムでは、上記「離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置」を備えさせ、車両衝突時に、離脱荷重を低減させるとともに、EA荷重の発生を禁止することを可能としている。
本項に記載の「離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置(以下、「荷重低減・発生禁止装置」という場合がある)」は、簡単に言えば、アクチュエータによる第1部材の変位に依拠して、離脱荷重低減とEA荷重発生の禁止との両者を行う装置である。本項における「第1部材」は、形状や構造が特に限定されるものではない。また、コラム支持機構との係合態様に関しても、特に限定されず、コラム支持機構を構成する部材等と嵌め合わされる態様、それらによって締結される態様等、種々の態様とすることが可能である。第1部材は変位させられることによってコラム支持機構との係合状態が変更させれらるものであり、本項にいう「係合状態の変更」の態様には、係合した状態からその係合を解除する状態に変更する態様、コラム支持機構との相対位置を変更する態様、係合の強さを変更する態様等、種々の態様が含まれる。なお、本項にいう「第1部材の変位」とは、第1部材全体の変位を意味するだけではなく、第1部材の一部の変位をも含む概念である。また、本項における第1部材は、後に説明するように、上記変位の際に変形を伴うようなものであってもよい。
荷重低減・発生禁止装置の一機能である「離脱荷重の低減」は、設定されている離脱荷重の大きさを小さくすることをいい、その離脱荷重を0とすることも含まれる。なお、荷重低減・発生禁止装置は、離脱荷重を低減させる際、強制的にコラムを車両前方へ移動させて離脱荷重を0とするように構成することも可能であるが、EAストローク(衝撃エネルギを吸収可能な状態でコラムが移動する距離)をできるだけ大きくする等の観点からすれば、実質的にコラムを移動させることなく離脱荷重を低減させるように構成することが望ましい。
荷重低減・発生禁止装置のもう1つの機能である「EA荷重発生の禁止」の構造は、変位させられた第1部材と係合させられた第2部材によって、変形部材の被係止部が係止部に係止されない状態とするものである。本項における「第2部材」は、通常状態において、係止部による変形部材の被係止部の係止を阻止する位置に配設されており、第1部材の変位に依拠して、係止部に対する変位が許容された状態から変位が禁止された状態に変更される。つまり、第2部材は、係止部による変形部材の被係止部の係止を実現する状態から、その係止を阻止する状態へ切り換えるものとなっている。なお、先に述べた別のEA機構を備えるシステムの場合、その別のEA機構によって発生させられるEA荷重が残るように構成することで、システム全体のEA荷重を0ではない荷重値に低減することが可能となる。
荷重低減・発生禁止装置が備えるところの第1部材を変位させる「アクチュエータ」は、その具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、電動モータを含んで構成されたもの、電磁式ソレノイドを含んで構成されたもの、高圧気体,高圧液体等を利用したシリンダ装置等、種々の構成のものを採用することができる。また、本項に記載のシステムは、荷重低減・発生禁止装置、詳しくは、アクチュエータを制御する制御装置を備えるように構成することが可能である。この制御装置は、例えば、コンピュータ等を主体とするように構成し、衝突時の車両速度,シートベルトの着用の有無等、二次衝突の衝撃の大きさを推認可能な何らかの状態を検出するためのセンサからの信号に基づいて、アクチュエータを作動するように構成することが可能である。
(2)前記第1部材が、前記アクチュエータによる変位に伴って変形させられる変形部を有して、前記離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置が、前記アクチュエータによって前記第1部材を変位させることで、前記変形部を前記第2部材に係合させてその第2部材と前記係止部との相対変位を禁止するように構成された(1)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、第1部材の構造を限定した態様である。具体的には、例えば、変形を強要する手段を設けて、その手段によって第1部材を変位に伴って変形させて第2部材に係合させるように構成された態様や、また、第1部材を、一方の端部側を固定し他端部側を一方の端部側に向かう方向に変位させて、その中間部を変形させることで、その変形した部分を第2部材に係合させるよう構成された態様が含まれる。なお、第1部材の比較的小さな変位によって変形部が変形させられるような場合には、コンパクトな構造の離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置が実現する。
(3)前記係止部が、前記ステアリングコラムの離脱に伴って前記変形部材の被係止部を掛け止める凹所を有し、
前記第2部材が、その凹所に被さる位置に配設され、前記ステアリングコラムの離脱の際に、前記被係止部と当接して前記凹所に被さらない位置に変位させられることで前記被係止部が前記係止部に掛け止められることを実現し、前記離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置が、前記第1部材を変位させることで、第2部材によって前記被係止部を前記係止部に掛け止められない位置に変位させるように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、前記衝撃エネルギ吸収機構の構造、詳しくは、係止部による変形部材の被係止部の係止構造を具体的な構造に限定した態様である。具体的には、例えば、第2部材に単なるプレートのようなものを採用し、その第2部材を係止部に設けられた凹所を塞ぐ位置に配設し、第1部材を変位させることで第2部材の凹所を開く変位を禁止するように構成された態様とすることが可能である。そのような態様によれば、簡便な構造によって、EA荷重の発生を禁止することが可能となる。
(4)前記ステアリングコラムが、車体の一部に締結される被締結部を備え、前記コラム支持機構が、車体の一部と前記被締結部とを締結する締結手段を有し、その締結手段による締結力に起因して生じて車体の一部と前記被締結部との相対移動に抗する摩擦力に基づいて前記離脱荷重が定まる構造とされ、
前記第1部材が、車体の一部と前記被締結部とに挟持された状態で配設され、前記離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置が、前記第1部材の変位によってその第1部材の挟持される部分を減少させることで前記離脱荷重を低減させるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載の態様は、簡単に言えば、例えば、コラム支持機構が摩擦力によってコラムを固定支持させる構造のものとされ、荷重低減・発生禁止機構が、第1部材を変位させることで摩擦力を低減させるように構成された態様である。本項の態様によれば、容易に離脱荷重を変更することが可能である。本項にいう「挟持される部分の減少」とは、例えば、挟持される部分の面積を小さくすることを意味し、その面積を0とするように、言い換えれば、第1部材が全く挟持されない状態とすることも含まれる。より平たく言えば、本項の態様は、荷重低減・発生禁止装置が、例えば、コラムの被締結部と車体の一部との間に介装された第1部材を、完全にあるいはそれの一部分が挟まれた状態で残るように抜き出すような態様と考えることができる。また、本項に記載の態様においては、コラム支持機構を前記第1部材の他に弾性部材が圧縮変形状態で挟持させられた構造とし、荷重低減・発生禁止機構を、第1部材を抜き出すことで弾性部材の圧縮変形量を減少させ、それによって摩擦力を減少させて離脱荷重を低減するように構成することも可能である。
なお、本項に記載の態様ではないが、採用し得る態様として、A)締結手段としてボルト・ナットのようなものを採用する場合において、荷重低減・発生禁止装置を、第1部材の変位が締結手段自体に作用するようにし、その変位によって締結力を緩めることで離脱荷重を低減させるような態様、B)コラム支持機構がコラムの離脱の際に破断部材が破断される構造のものとされ、荷重低減・発生禁止装置が、第1部材を変位させることで破断部材を破断させて離脱荷重を低減させるような態様等の、種々の態様を挙げることができる。
(5)前記アクチュエータが、シリンダと、そのシリンダ内部に充満する高圧気体の圧力によってそのシリンダと相対移動するピストンと、前記シリンダ内部に収容されて高圧気体を発生させる固体薬剤とを備えて、前記シリンダと前記ピストンとの相対移動によって前記第1部材を変位させるものである(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用ステアリングシステム。
本項に記載のアクチュエータには、高圧気体によって作動するシリンダ装置のようなものが含まれる。そのようなシリンダ装置を備えた荷重低減・発生禁止装置は、構造が比較的単純であり、また、迅速な動作を行い得るものとなる。さらに、本項に記載の態様には、例えば、いわゆる火薬を燃焼させることにより高圧気体を発生させるような態様が含まれる。固体薬剤を高圧気体の発生源とすれば、アクチュエータを小型化することが可能である。また、本項の態様によれば、アクチュエータとは別体となる駆動源を必要としないことから、システム全体の構成の簡素化,単純化が図れることになる。
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
図1に、本実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、ステアリングコラム10を主体として構成されるものであり、そのコラム10は、インパネR/F12に設けられた1対のコラム取付ブラケット(以下、「取付ブラケット」と略す場合がある)14において、車体の一部に固定支持される。コラム10は、支持された状態では、図に示すように、車両前方側が下方に位置するように傾斜した姿勢で配置されることになる。コラム10は、主として、コラム本体20と、コラム本体20の軸線方向における中間部に設けられたブレークアウェイブラケット(以下、「B.A.BKT」と略す場合がある)22と、前方部に設けられた前方ブラケット24とを含んで構成されており、後に詳しく説明するが、B.A.BKT22と前方ブラケット24との各々が、取付ブラケット14に取付られることで、コラム10は、2箇所において支持されるのである。
コラム10は、後方に位置する部分がインパネ30から車両後方に突出する状態で支持されて、その突出する後端部に、ステアリング操作部材であるステアリングホイール32が取り付けられており、コラム10はステアリングホイール32を操作可能に保持するものとなっている。コラム10のインパネ30から突出する部分は、コラムカバー36によって覆われ、また、下部は、インパネロアカバー38によってカバーされている。コラム10の前端部は、図示を省略するインタミディエイトシャフトを介し、車室外に存在する転舵装置に接続される。
図2に、コラム10の側面図を、図3に平面図を、図4に側面断面図を、図5に、B.A.BKT22の部分の斜視図を、それぞれ示す。図2から図4において、右側の端部が車両後方側(ステアリングホイール32側)、左側が車両前方側である。図1に示したように、コラム10は、傾斜した状態で車両に取付けられるため、実際は、図2〜図4における右側の端部は車両後方斜め上方に位置し、左側の端部は車両前方斜め下方に位置する。本実施例では、説明を簡略化するため、特に断りのない限り、それら図における右側を「車両後方側」あるいは単に「後方側」と、左側を「車両前方側」あるいは単に「前方側」と呼び、右側に向かう方向を「車両後方」あるいは単に「後方」、左側に向かう方向を「車両前方」あるいは「前方」と呼んで、説明を行う。
コラム本体20は、シャフト部と、そのシャフト部を挿通させた状態で支持するチューブ部とを含んで構成されている。シャフト部は、車両後方側に位置させられる後部シャフト50と車両前方側に位置させられる前部シャフト52とを含んで構成されている。後部シャフト50はパイプ状に、前部シャフト52はロッド状に形成され、後部シャフト50の前方部に前部シャフト52の後方部が挿入されている。後部シャフト50の前部内周面,前部シャフト52の後部外周面には、それぞれ互いに噛合するスプラインが形成され、後部シャフト50と前部シャフト52は、軸方向に相対移動が可能かつ相対回転が不能な状態で接続されている。また、チューブ部は、車両後方側に位置させられる後部チューブ54と、車両前方側に位置させられる前部チューブ56とを含んで構成されている。後部チューブ54および前部チューブ56は、ともにパイプ状のものであり、後部チューブ54の前方部に前部チューブ56の後方部が挿入されている。後部チューブ54の前方部内面には、パイプ状をなすライナ58が設けられており、このライナ58を介することによって、前部チューブ56は後部チューブ54にがたつきなく挿入される。前部チューブ56の外周面と接触するライナ58の内周面は減摩処理が施されており、後部チューブ54と前部チューブ56との軸方向の相対移動を容易ならしめている。また、後部チューブ54の後端部および前部チューブ56の前端部には、それぞれラジアルベアリング60,62が設けられ、後部チューブ54および前部チューブ56は、それぞれ、ラジアルベアリング60,62を介して、後部シャフト50および前部シャフト52の各々を、それらの中間部において回転可能に支持している。このような構造とされていることで、コラム本体20は、伸縮可能とされているのである。
コラム本体20は、後部チューブ54,前部チューブ56のそれぞれにおいて、車体の一部に取り付けられる。前部チューブ56の前方端部には、先に説明した前方ブラケット24が固定的に設けられており、この前方ブラケット24には、軸挿通穴66が設けられている。インパネR/F12に設けられた1対の取付ブラケット14の各々には、軸穴68が穿設された軸受部材70がそれぞれ固定されており、前方ブラケット24の軸挿通穴66とそれら軸受部材70の軸穴68とに、支持軸72が挿通されることで、コラム本体20は、その支持軸を中心に揺動可能に支持される(図1参照)。一方、後部チューブ54は、B.A.BKT22に保持され、そのB.A.BKT22が1対の取付ブラケット14に取り付けられて支持される。詳しく言えば、後部チューブ54には、被保持部材80が固定的に設けられており、この被保持部材80が、B.A.BKT22の構成部分であるチャンネル形状(コの字形状)をなす保持部材82によって保持されるとともに、B.A.BKT22のもう1つの構成部材である被支持プレート84が1対の取付ブラケット14に組み付けられることで、後部チューブ54が支持される。B.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造は、後に詳しく説明するため、ここでの説明はひとまず留保する。ちなみに、B.A.BKT22は、取り付けられた状態において、運転者のステアリングホイール32への二次衝突の衝撃の作用により、その取付状態が解除されて、車両前方方向、詳しくは、コラム10の軸線方向に離脱するものとされている。
コラム10は、チルト機構90およびテレスコピック機構92を有しており、詳しくは、B.A.BKT22によるコラム本体20を保持する構造が、チルト機構90,テレスコピック機構92を構成するものとされている。B.A.BKT22の保持部材82およびコラム本体20に固定された被保持部材80は、ぞれぞれが、互いに交差する長穴94,96を有しており、それらの長穴94,96に軸部材98が挿入されている。それにより、コラム本体20は、保持部材82に設けられた長穴94の分だけ前記支持軸を中心として揺動可能とされ、また、被保持部材80に設けられた長穴96の分だけ、伸縮可能とされているのである。図2および図3には、チルト機構90およびテレスコピック機構92のロックレバー100が示されており、このロックレバー100を押し上げることにより(図2における実線の位置)、被保持部材80が保持部材82によって強く挟持され、コラム本体20の揺動位置,伸縮位置が固定されるようになっている。位置の調整は、ロックレバー100を押し下げる(図2における2点鎖線の位置)ことによって、固定を解除して行われる。なお、図1〜図4には、チルト機構90によってコラム本体20の車両後方端部が最も上方に位置させられ、テレスコピック機構92により、コラム本体20の車両後方側の部分が最も前方に位置させられた状態が示されている。
運転者が二次衝突する等によって、ステアリングホイール32に衝撃が加わった場合、B.A.BKT22がインパネR/F12に設けられた取付ブラケット14から離脱し、それによって、コラム10の車両後方部分、詳しくは、後部シャフト50,後部チューブ54を含んで構成されるコラム本体20の後方部分およびB.A.BKT22(以下、「コラム移動部」という場合がある)が、車体の一部から、コラム10の軸線方向である離脱方向(図1の白抜矢印の方向)に離脱する。コラム10の離脱する部分は、コラム本体20の収縮を伴って、離脱方向と略同じ方向である移動方向(図1〜図4の太い矢印の方向)に移動する。なお、コラム移動部の移動範囲の終点は、前部シャフト52の上端が後部シャフト50の内径が小さくなっている内面の部分に当接することによって規定される。
本ステアリングシステムは、取付ブラケット14から離脱したコラム移動部の移動に伴って、二次衝突の衝撃のエネルギを吸収する2つの衝撃エネルギ吸収機構を備えている。2つの衝撃エネルギ吸収機構は、いずれも、コラム移動部の移動に伴って、その移動を阻止する方向の抗力、すなわちエネルギ吸収荷重(EA荷重)を発生させる構造とされており、そのEA荷重の存在下でのコラム移動部の移動を許容することで、衝撃エネルギを吸収するものとされている。図5には、2つの衝撃エネルギ吸収機構の1つである第1EA機構110の要部の斜視が示されている。この図を補足するものとして、図6に、図5における第1EA機構110の要部が示されている部分の断面を拡大して示す。
第1EA機構は、変形部材としての衝撃エネルギ吸収プレート(EAプレート)112と、そのEAプレート112の変形を強要するガイドブロック114とを含んで構成されている。EAプレート112は、エネルギ吸収荷重を発生させる衝撃エネルギ吸収部材として機能するものであり、B.A.BKT22の車幅方向の略中央の部位に装着されている。ガイドブロック114は、樹脂製の部材であり、B.A.BKT22の車幅方向の略中央の前端部に固定されている。
EAプレート112は、帯状の金属材料からなり、概ねU字状に曲げられて形成されている。EAプレート112は、湾曲部120の内側に、ガイドブロック114の前方側に形成された湾曲面が接する状態とされ、湾曲部120に繋がる上側プレート部122は、B.A.BKT22を構成する被支持プレート84の上面に支持される状態で、車両の前後方向に延在しており、また、湾曲部120に繋がる下側プレート部124は、B.A.BKT22を構成する保持部材82の上板部の下方において、それに略平行な状態で車両の前後方向に延在している。B.A.BKT22には、角穴126が設けられ、この角穴126の両側の各々には、コの字状に屈曲して形成された1対の保持片128が、EAプレート112を挟んで互いに向かい合うように立設されており、この保持片128によって、EAプレート112が位置決めされるとともに、EAプレート112の適正な変形が担保される。
また、上側プレート部122の後端部は、上方に略直角に曲げ起こされるとともに概してT字状に形成されたT字部130とされている。後に詳しく説明するが、コラム10がインパネR/F12に設けられた1対の取付ブラケット14に支持された状態において、T字部130は、コラム移動部が離脱した際に、取付ブラケット14の各々に両端部が固定された係止バー132の凹所134と係合し、その係止バー132によって掛け止められるようになっている。つまり、T字部130,係止バー132が、それぞれ、被係止部,係止部として機能するものとなっている。
運転者の二次衝突によって、離脱したコラム移動部がコラム軸線方向前方(図6の太い矢印の方向)に移動する場合、EAプレート112は、係止バー132によってT字部130が係止された状態で、湾曲部120がガイドブロック114によって前方に押されることになる。それに伴って、湾曲部120の形状を概ね維持したまま、湾曲部120のEAプレート112における位置が遷り動くように変形する。この変形に要する力つまり変形抵抗が第1EA荷重とされ、コラム移動部がこの第1EA荷重の存在下で移動することにより、二次衝突の衝撃エネルギが吸収されるのである。
もう1つの衝撃エネルギ吸収機構である第2EA機構150は、チューブ部の伸縮部に設けられている。詳しく言えば、前部チューブ56の外周面には、後部チューブ54の前方端部より前方に、軸線方向に延びる3つの凸条152が形成されている。3つの凸条152は、周方向において3等配の位置に形成されており、それぞれが、後部チューブ54の内周面より僅かに突出する高さに形成されている。そのため、離脱したコラム移動部が移動する際、後部チューブ54の前方端部がそれら3つの凸条152を押し潰しながら、コラム本体20が収縮することになる。この3つの凸条152の変形に要する力が、第2EA荷重として機能し、コラム移動部は、その第2EA荷重の存在下で移動し、衝撃エネルギが吸収されるのである。
次に、先の説明において留保しているところのB.A.BKT22の取付ブラケット14に対する取付構造について、図7〜図9をも参照しつつ説明する。図7は、コラム10が取付ブラケット14に取り付けられた状態を示す車両後方側からの斜視(一方の取付ブラケット14は省略されている)を、図8は、その状態における平面を、図9は、取付構造を分解した斜視を、それぞれ示している。
B.A.BKT22の被支持プレート84には、車幅方向の両端部の各々に、孔とスロットが複合したスロット孔160が設けられている。被支持プレート84が、被締結部として機能し、それと取付ブラケット14の下鍔部162とが、スロット孔160(詳しくは、それの前端部に形成された孔部161),取付孔164を利用して、締結手段としてのボルト166およびナット168によって締結されることにより、B.A.BKT22が取付ブラケット14に取付られている。
取付ブラケット14の下鍔部162の下面と、被支持プレート84の上面との間には、樹脂によって形成された樹脂スペーサ172が介装される。樹脂スペーサ172は、上面側の四隅の各々に突起176が設けられており、また、下面側にはボルト挿通孔178の周囲から下方に延びだすような円環状のボス180が設けられている。また、被支持プレート84の下面側からフランジ付カラー182が嵌められて、ボルト166およびナット168によって締結されるのであるが、この2箇所の取付構造の間には、第1プレート184が渡されている。詳しく言えば、第1プレート184は、車幅方向の両方向に延び出す延設部186が形成されており、その延設部186の各々が、樹脂スペーサ172の四隅に設けられた突起332のうち車両前方側の2つの突起176と被支持プレート84とに挟持された状態で2箇所の取付構造の間に渡されている。ちなみに、樹脂スペーサ172の突起176は、車両前方側の2つのものが、後方側の2つのものに比較して、第1プレート184の延設部186の厚みだけ薄いものとされている。つまり、ボルト166およびナット168は、取付ブラケット14の下鍔部162,第1プレート184,樹脂スペーサ172,被支持プレート84,フランジ付のカラー182を挟持する状態で締結している。なお、樹脂スペーサ172のボス180の外径は、被支持プレート84のスロット孔160の孔部161の内径より僅かに小さく、内径は、フランジ付カラー182の外径より僅かに大きくされている。また、フランジ付のカラー182の先端部は下鍔部162の下面に当接し、締め代が制限されている。
ボルト166およびナット168によって締結された状態において、樹脂スペーサ172の各突起176は押し縮められるように弾性変形させられており、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162は、その弾性力に依拠する締結力によって締結された状態となっており、その締結力によって生じる摩擦力によって、被支持プレート84と取付ブラケット14の下鍔部162との相対移動が制限されているのである。ちなみに、被支持プレート84に設けられたスロット孔160のスロット部190は、車両前後方向に延びて車両後方側に開口しており、その幅は、フランジ付のカラー182の外径より大きくされ、かつ、樹脂スペーサ172のボス180の外径よりも小さくされている。そのため、車両前方方向であって、かつ、被支持プレート84の上面および取付ブラケット14の下鍔部162の下面に平行な方向(コラムの軸線方向である)に、上記摩擦力を超える荷重が、被支持プレート84に作用した場合に、被支持プレート84の取付ブラケット14に対する移動が許容されることになる。なお、その移動の際に樹脂スペーサ172のボス180の破断を伴うが、その破断に要する力は無視できるほど小さいものとされている。
このような構造から、本実施例のステアリングシステムでは、上記取付構造を構成する構成要素である取付ブラケット14の下鍔部162,被支持プレート84,樹脂スペーサ172,第1プレート184,フランジ付のカラー182,ボルト166およびナット168等を含んで、コラム10を車体の一部に支持させるコラム支持機構200が構成されている。また、そのコラム支持機構200においては、上記摩擦力に基づいて離脱荷重が定まる構造となっており、コラム支持機構200は、その離脱荷重を上回る荷重が作用する場合に、コラム軸線方向へのコラム10(詳しくはコラム移動部)の離脱が許容されるのである。
先に述べた第1プレート184は、前記延設部186を有するプレート本体部210と、車体の一部に固定される車両前方側の端部である固定部212と、それらプレート本体部210と固定部212との間のU字状に曲げられた1対の曲折部214とから構成されている。第1プレート184は、固定部212において、その固定部212と係止バー132との間に単なるプレートである第2プレート216を挟む状態で、係止バー132の下面に1対のボルト218およびナット220により固定されている。その第2プレート216は、車両前後方向に延びる1対の長孔222が設けられて、その長孔222の各々をボルト218が挿通する状態で緩やかに挟まれており、比較的小さな力が作用した場合に車両前方側への変位が可能とされている。第2プレート216は、通常、EAプレート112のT字部130の車両前方側において、係止バー132に設けられた凹所134に被さるように位置しており、コラム移動部が離脱した場合には、コラム移動部の移動に伴って、EAプレート112のT字部130が当接することになる。しかし、第2プレート216は、先に述べたように車両前方側への変位が可能とされているため、第2プレート216も車両前方側に変位させられる。つまり、第2プレート216が変位させられることで、T字部130は、係止バー132の凹所134と係合し、その係止バー132によって掛け止められて、第1EA機構110が第1EA荷重を発生させる状態となるのである(図10参照)。なお、ボルト218およびナット220は、その第2プレート216の車両前方側への変位を阻害しない程度の締結力によって、係止バー132,第1プレート184,第2プレート216を締結している。
取付ブラケット14の各々の下鍔部162の車両後方側の端部の上面には、その各々に両端部の各々が固定された状態で支持バー230が渡されている。この支持バー230の下面には、固定部材232によって、シリンダ装置234が、車両前後方向に延びる姿勢で固定されている。そのシリンダ装置234は、シリンダ236と、シリンダ236と相対移動可能に設けられたピストン238と、一端部がピストン238に固定されて他端部がシリンダ236より車両前方側に突出するピストンロッド240と、ピストンロッド240の他端部に固定的に取り付けられたプランジャヘッド242とを含んで構成されている。ピストン238は、シリンダ236内部の車両前方側の端部との間に比較的狭い空間を挟んで位置させられ、その空間には、固体薬剤である火薬244が充填されている。プランジャヘッド242の車両前方側の端部である先端部は、第1プレート184の車幅方向の中央の車両後方側に当接させられている。
上記シリンダ装置234は、図示を省略するスパーク電極によって火薬244が着火させられることによって作動する。着火によって火薬244は高圧気体を発生させ、その圧力によってピストン238が車両前方側に向かって移動する。ピストン238の移動により、プランジャヘッド242は、第1プレート184を押してそれを車両前方側に変位させる。その際、第1プレート184は、車両前方側の端部である固定部212が固定されているため、プレート本体部210のみが車両前方側に変位するのであり、プレート本体部210の比較的小さな変位に伴って曲折部214が上方に突出するように変形させられるのである(図11参照)。ちなみに、プレート本体部210は、シリンダ装置234に押された場合に変形しないように、車両前後方向に延びる4本のリブ250が設けられている。上記第1プレート184のプレート本体部210の変位に伴って、プレート本体部210を構成する延設部186の各々が樹脂スペーサ172と被支持プレート84との間から抜き出されて、それらに挟持されない状態となる。つまり、取付ブラケット14の下鍔部162と被支持プレート84とが車両後方側の2つの突起176だけによって締結される状態となり、それらを締結する力が減少し、両者の相対移動を制限する摩擦力も減少することになるのである。上記コラム支持機構200を構成する取付構造においては、このようにして、離脱荷重を低減することが可能とされている。なお、シリンダ234の内部に充満させられている高圧気体は、シリンダ234に設けられたガス抜き穴252から、シリンダ224の外部へ放出される。
また、第1プレート184は、上述したように曲折部214の変形によって上方に突出させられる。その突出した曲折部214は、第2プレート216に設けられた1対の係合孔254に係合させられ、第2プレート216の変位を禁止することになるのである。その状態においては、コラム移動部が離脱して車両前方側に移動しても、T字部130は、第2プレート216に当接して、コラム移動部の移動に伴って後方側に押し倒されるように傾斜させられ、係止バー132の下を通過することになる(図11参照)。そのため、その状態では、EAプレート112はコラム移動部の移動に伴う第1EA荷重を発生させず、第1EA機構110による衝撃エネルギの吸収が行われないことになるのである。なお、本実施例のステアリングシステムでは、第2EA機構150によって発生させられる第2EA荷重が残るように構成されており、システム全体のEA荷重を0ではない荷重値に低減するものとなっている。
以上のような構造から、本実施例のステアリングシステムは、シリンダ装置234による第1プレート184の変位に依拠して、離脱荷重低減とEA荷重発生の禁止との両者を行う離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置260(以下、「荷重低減・発生禁止装置260」と略す場合がある)を備えたものとされている。また、第1プレート184,第2プレート216は、それぞれ、前述の第1部材,第2部材として機能するものとなっており、第1プレート184は、シリンダ装置234による変位に伴って変形させられる変形部としての曲折部214を有するものとされている。さらに、シリンダ装置234は、その荷重低減・発生禁止装置260を駆動するアクチュエータであり、荷重低減・発生禁止装置260の単一の駆動源として機能するものとなっている。なお、本実施例は、第1プレート184とコラム支持機構200との係合状態が、第1プレート184が挟持された状態からそれが挟持されていない状態に変更されるように構成されている。
本実施例のステアリングシステムでは、荷重低減・発生禁止装置260は、制御装置であるステアリング電子制御ユニット(ECU)300によって作動させられる(図1参照)。ECU300は、CPU,ROM,RAM,バス,I/O(入出力インタフェース)等を含んで構成されるコンピュータを主体とするものであり、そのコンピュータのI/Oには、車両に設けられた各種センサが接続されている。ECU300は、それらからの各種情報を入手可能とされており、それら入手した情報に基づいて設定された条件を充足しているか否かを判断し、その設定された条件を充足する場合に荷重低減・発生禁止装置260を作動させる。センサは、具体的にいえば、車両の衝突を検知する車両衝突センサ(C.S)302、運転者のシートベルトの着用の有無を検知するシートベルトセンサ(Sb.S)304、車両の走行速度を検出する車速センサ(Sp.S)306等である。
車両衝突時に運転者がステアリングホイール32に二次衝突する際の衝撃の大きさは、運転者のシートベルトの着用の有無によって異なる。運転者がシートベルトを着用している場合は、シートベルトによって運転者の有する運動エネルギがある程度吸収されるため、二次衝突の際の衝撃、つまりステアリングホイール32に加わる衝撃は比較的小さいものとなる。逆に、シートベルトを着用していない場合は、その衝撃は比較的大きいものとなる。運転者に与える衝撃を比較的小さいものとするためには、ステアリングホイール32に加わる衝撃が小さい場合に、大きい場合に比較して、離脱荷重,EA荷重ともに低減させることが望ましい。そのような理由から、本実施例のステアリングシステムでは、ECU300は、車両衝突センサ302が衝突を検知しかつシートベルトセンサ304がシートベルトの着用を検知した場合に、シリンダ装置224に充填された火薬234に着火電流を供給し、荷重低減・発生禁止装置260を作動させるような制御を行うものとされている。しかし、運転者がシートベルトを着用している場合であっても、例えば、車両が高速道路等において高速で走行している状態で衝突した場合には、シートベルトだけでは衝撃エネルギを十分に吸収できず、二次衝突の衝撃エネルギは大きなものとなる。そこで、本実施例のステアリングシステムでは、車速センサ306によって衝突時の車両の走行速度を検出し、高速で走行している場合には、大きな離脱荷重および大きなEA荷重を利用するため、荷重低減・発生禁止装置260を作動させないようにされている。
図12に、本実施例において運転者が操作部材に二次衝突した場合の離脱荷重およびEA荷重発生の様子を、概念的に示す。なお、図における横軸は、運転者の車両前方への移動距離(二次衝突後はコラムの移動距離と同じとなる)であり、縦軸はコラムに作用する荷重の大きさを表している。運転者が二次衝突した場合、その直後において、コラム移動部がコラム支持機構200によって離脱を許容されるが、その際に要する荷重として、離脱荷重が発生する(図に示す離脱荷重域A)。その離脱荷重の発生に続き、離脱したコラムが車両前方に移動するのに伴って、2つの衝撃エネルギ吸収機構110,150によるEA荷重が発生させられる(図に示すEA荷重域B)。先に述べたように、本実施例においては、それら離脱荷重とEA荷重の発生状態を、図における実線で示す通常状態、つまり、二次衝突の衝撃が大きい場合に対応可能な状態から、荷重低減・発生禁止装置260を作動させることで、離脱荷重を低減させるとともに第1EA機構110の第1EA荷重の発生を禁止して、図における二点鎖線で示す二次衝突の衝撃が小さい状態に変更するのである。なお、この2つの荷重に抗ってコラムが車両前方へ移動して衝撃エネルギが吸収されるため、斜線で示す面積は、衝撃エネルギ吸収量の減少量となる。
本発明の実施例であるステアリングシステムの全体構成を示す図である。
本発明の実施例であるステアリングシステムを構成するステアリングコラムの側面図である。
図2に示すステアリングコラムの平面図である。
図2に示すステアリングコラムの側面断面図である。
図2に示すステアリングコラムのブレークアウェイブラケットの部分を示す斜視図である。
図5における第1EA機構の要部を拡大して示す図である。
ステアリングコラムが取付ブラケットに取り付けられた状態を車両後方側から示す斜視図である。
ステアリングコラムが取付ブラケットに取り付けられた状態を示す平面図である。
ステアリングコラムの取付構造を分解した状態を示す斜視図である。
図7における離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置を示す側面断面図である。
図7における離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置を作動させた状態を示す側面断面図である。
運転者が操作部材に二次衝突した場合の離脱荷重およびEA荷重発生の様子を示す概念図である。
符号の説明
10:ステアリングコラム 12:インパネリインフォースメント 14:コラム取付ブラケット(車体の一部) 20:コラム本体 22:ブレイクアウェイブラケット 32:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 84:被支持プレート(被締結部)90:チルト機構 92:テレスコピック機構 110:第1EA機構(衝撃エネルギ吸収機構) 112:衝撃エネルギ吸収プレート(変形部材) 130:T字部(被係止部) 132:係止バー(係止部) 134:凹所 150:第2EA機構(衝撃エネルギ吸収機構) 166:ボルト(締結手段) 168:ナット(締結手段) 172:樹脂スペーサ 184:第1プレート(第1部材) 200:コラム支持機構 216:第2プレート(第2部材) 234:シリンダ装置(アクチュエータ) 236:シリンダ 238:ピストン 244:火薬(固体薬剤) 260:離脱荷重低減・エネルギ吸収荷重発生禁止装置 300:ステアリング電子制御ユニット