以下、本発明の有機シリコン系膜の形成方法、及び半導体装置のそれぞれについて、図面を適宜参照して詳述する。
<有機シリコン系膜の形成方法>
本発明の有機シリコン系膜の形成方法(以下、「本発明の方法」と略記する。)は、上述したように、原料ガスとして少なくとも1種の有機シリコン化合物を用いた化学的気相堆積法により有機シリコン系膜を成膜する方法であり、上記の有機シリコン化合物として、少なくともケイ素、水素、炭素、及び窒素を構成元素として含有していると共に、ケイ素原子と窒素原子とが互いに結合していない化合物を用いる。
実際に有機シリコン系膜を成膜するにあたっては、必要に応じて、所望の添加ガスが用いられる。また、原料ガスをリアクターに供給するためのキャリアガスもしくは希釈ガスが併用される。以下、原料ガス、添加ガス、及びキャリアガスもしくは希釈ガスについて順次説明し、その後に図面を参照して成膜方法の例を具体的に説明する。
(1)原料ガス;
本発明の方法で原料ガスとして使用する有機シリコン化合物は、上述のように、少なくともケイ素、水素、炭素、及び窒素を構成元素として含有していると共に、ケイ素原子と窒素原子とが互いに結合していない化合物である。この有機シリコン化合物としては、ケイ素、水素、炭素、及び窒素の計4種類の元素のみによって構成されているものが好ましいが、他にアルニミウム、ハフニウム、ジルコニウム等の元素を構成元素として含んでいる化合物であってもよい。このような有機シリコン化合物のうち、構成元素がケイ素、水素、炭素、及び窒素の計4種類の元素のみであるものでは、ケイ素原子に炭素原子が結合し、この炭素原子に窒素原子が結合することになる。
上記の有機シリコン化合物の一例としては、例えば、下式(IA)又は下式(IB)
で表され、かつ式(IA)中の基R
1 〜R
4 のうちの少なくとも1つ、又は式(IB)中の基R
11〜R
14のうちの少なくとも1つが、下式(i-1)〜(i-10)
で表される基のいずれかである化合物が挙げられる。
また、上記の有機シリコン化合物の他の例としては、例えば、下式(IIA)、下式(IIB)、又は下式(IIC)
で表され、かつ式(IIA)中の基R
27、式(IIB)中の基R
37、又は式(IIC)中の基R
47が、下式(ii-1)〜(ii-6)
で表される基のいずれかである化合物が挙げられる。
上記の式(IA)で表される有機シリコン化合物は、基R1 〜R4 のうちの少なくとも1つが式(i-1)〜(i-10) で表される基のいずれかであればよいが、原料の気化容易性及びその安定性という観点と、得られる膜の組成制御性という観点の双方を考慮した場合には、基R1 〜R4 のうちの2個が式(i-1)〜(i-10) で表される基のいずれかであることが好ましい。式(i-1)〜(i-10) で表される基以外の基の数が多くなると、有機シリコン化合物の気化容易性が低下して、原料ガスの再液化等が起こり易くなる。式(IA)で表される有機シリコン化合物が式(i-1)〜(i-10) で表される基以外の基を有する場合、当該基は、分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等であることが好ましい。ペンチル基(−C5H11基) 等のように炭素が直鎖状に連なった分子量の大きい基は、連続的な気化が困難であり、プラズマによる原料構造の分解も進み易いため、式(i-1)〜(i-10) で表される基以外の基としては好ましくない。得られる有機シリコン系膜の組成制御が容易になるという観点、及び原料の反応性に起因した成膜速度を向上させるという観点から、式(i-1)〜(i-10) で表される基以外の基の少なくとも1つは、炭素原子同士の二重結合、炭素原子同士の三重結合、炭素原子と窒素原子との二重結合、炭素原子と窒素原子との三重結合、及び窒素原子同士の二重結合等の不飽和結合を有する基であることが好ましい。全く同様のことが、上記の式(IB)で表される有機シリコン化合物における基R11〜R14についてもいえる。
一方、上記の式(IIA)で表される有機シリコン化合物は、基R27が式(ii-1)〜(ii-6)で表される基のいずれかであればよく、基R21〜R26については分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等の中から適宜選択可能である。得られる有機シリコン系膜の組成制御が容易になるという観点、及び原料の反応性に起因した成膜速度を向上させるという観点から、基R21〜R26の少なくとも1つは、炭素原子同士の二重結合、炭素原子同士の三重結合、炭素原子と窒素原子との二重結合、炭素原子と窒素原子との三重結合、及び窒素原子同士の二重結合等の不飽和結合を有する基であることが好ましい。全く同様のことが、上記の式(IIB)で表される有機シリコン化合物における基R31〜R36、及び、上記の式(IIC)で表される有機シリコン化合物における基R41〜R46についてもいえる。
不飽和結合を有する基が有機シリコン化合物に含まれていると、このような有機シリコン化合物を原料ガスとして用いて化学的気相堆積法により有機シリコン系膜を成膜する際に、低エネルギーで解離するπ結合が反応部位として働くことになる。π結合以外の結合が切断されることなく付加重合反応が主体となって有機シリコン系膜が形成されるので、有機シリコン化合物の反応性が向上し、未結合手が膜内に導入されることが抑制される。また、π結合以外の結合の切断が抑えられるので、膜組成の制御が容易になる。その結果として、膜質が良好で、リーク電流が少ない有機シリコン系膜を得易くなる。
例えば、式(IA)で表される有機シリコン化合物のうち、基R
1 及び基R
3 が共に式(i-1) で表される基であり、基R
2 及び基R
4 が共にビニル基(−CH=CH
2) である化合物、すなわち、下式(Ia)
で表される化合物を原料ガスとして用いたプラズマCVD法により有機シリコン系膜を成膜すると、ビニル基中の不飽和結合(炭素原子同士の二重結合)がプラズマ励起され、かつ熱エネルギーを受けて、下式(CR1)
に示すような水素脱離反応が引き起こされる。成膜条件を適宜選定することにより、比誘電率が3.5程度で、室温におけるリーク電流が1MV/cmの電界下で10
−10A/cm
2程度の有機シリコン系膜(有機SiCN膜)を容易に得ることができる(以下、特に説明しない限り、リーク電流の測定は同一条件下で行っている。)。また、この有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比を、原料ガスでの原子数比をほぼ維持したSi:C:N=1:6:2程度とすることができる。なお、上記の式(CR1)中の記号「*」は、未結合の反応手を示す。後掲の式(CR2)、式(III−P)、式(CR3)、及び式(CR4)それぞれで使用している記号「*」も同じ意味である。
勿論、炭素原子同士の不飽和結合以外の不飽和結合を有する基、例えば炭素原子と窒素原子との二重結合、炭素原子と窒素原子との三重結合、又は窒素原子同士の二重結合等の不飽和結合を有する基を備えた有機シリコン化合物を原料ガスとして用いても、膜質が良好で、リーク電流が少ない有機シリコン系膜を得易くなる。
炭素原子と窒素原子との二重結合、又は炭素原子と窒素原子との三重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物の例としては、例えば下式(IIIA) 又は下式(IIIB)
で表され、かつ式(IIIA) 中の基R
51〜R
54のうちの少なくとも1つ、又は式(IIIB) 中の基R
61〜R
64のうちの少なくとも1つが、下式(iii-1)〜(iii-12)
で表される基のいずれかである化合物が挙げられる。
また、炭素原子と窒素原子との二重結合、又は炭素原子と窒素原子との三重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物の他の例としては、例えば下式(IVA)、下式(IVB)、又は下式(IVC)
で表され、かつ式(IVA)中の基R
77、式(IVB)中の基R
87、又は式(IVC)中の基R
97が、下式(iv-1)
で表される基である化合物が挙げられる。
上記の式(IIIA) で表される有機シリコン化合物は、基R51〜R54のうちの少なくとも1つが式(iii-1)〜(iii-12) で表される基のいずれかであればよいが、前述した式(IA)又は式(IB)で表される有機シリコン化合物における理由と同様の理由から、基R51〜R54のうちの2個が式(iii-1)〜(iii-12) で表される基のいずれかであることが好ましい。また、式(IIIA) で表される有機シリコン化合物が式(iii-1)〜(iii-12) で表される基以外の基を有する場合、当該基は、分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等であることが好ましい。全く同様のことが、式(IIIB) で表される有機シリコン化合物における基R61〜R64についてもいえる。
一方、上記の式(IVA)で表される有機シリコン化合物は、基R77が式(iv-1)で表される基であればよく、基R71〜R76については、分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等の中から適宜選択可能である。全く同様のことが、上記の式(IVB)で表される有機シリコン化合物における基R81〜R86、及び、上記の式(IVC)で表される有機シリコン化合物における基R91〜R96についてもいえる。
炭素原子と窒素原子との二重結合、又は炭素原子と窒素原子との三重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物を原料ガスとして用いて化学的気相堆積法により有機シリコン系膜を成膜する際には、成膜条件を適宜選定することにより、σ結合よりも低エネルギーで解離するπ結合を反応部位として利用することができる。すなわち、炭素原子と窒素原子との二重結合(C=N結合)でのπ結合や炭素原子と窒素原子との三重結合(C≡N結合)でのπ結合の解離エネルギーの方が、σ結合での解離エネルギーよりも低いので、C−C結合を切断することなく付加重合反応を主体として有機シリコン系膜を成膜することができる。σ結合の切断が抑えられるので、膜組成の制御が容易になる。また、有機シリコン化合物の反応性が向上して、未結合手が膜内に導入されることが抑制される。その結果として、膜質が良好で、リーク電流が少ない有機シリコン系膜を得易くなる。
例えば、式(IIIA) で表される有機シリコン化合物のうち、基R
51〜R
54の全てが式(iii-1) で表される基である化合物、すなわち、下式(IIIa)
で表される化合物を原料ガスとして用いたプラズマCVD法により有機シリコン系膜を成膜すると、式(iii-1) で表される基中の不飽和結合(炭素原子と窒素原子との二重結合)がプラズマ励起され、かつ熱エネルギーを受けて、下式(CR2)
に示すような反応が引き起こされる。実際には、式(CR2)で表されるような反応がプラズマ中、あるいは基板表面(被成膜部材の表面)で連続して生じ、反応基同士が重合反応を起こして、有機シリコン系膜(有機SiCN膜)が得られる。下式(III-P) に示すような、3次元型のネットワーク構造からなる高分子膜を形成することが可能となる。
このときの成膜条件を適宜選定することにより、比誘電率が3.5程度で、リーク電流が10
−9A/cm
2 程度の有機シリコン系膜(有機SiCN膜)を容易に得ることができる。また、この有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比を、原料ガスでの原子数比をほぼ維持したSi:C:N=1:4:4程度とすることができる。
また、前述の式(IIIB) で表される有機シリコン化合物のうち、基R
63が式(iii-2) で表される基であり、基R
61、基R
62、及び基R
64がいずれもメチル基(−CH
3)であり、式中のnが2である化合物、すなわち、下式(IIIb)
で表される化合物を原料ガスとして用いたプラズマCVD法により有機シリコン系膜を成膜すると、式(iii-2) で表される基中の不飽和結合(炭素原子と窒素原子との二重結合)がプラズマ励起され、かつ熱エネルギーを受けて、下式(CR3)
に示すような反応が引き起こされる。実際には、式(CR3)で表されるような反応がプラズマ中、あるいは基板表面(被成膜部材の表面)で連続して生じ、反応基同士が重合反応を起こして、有機シリコン系膜(有機SiCN膜)が得られる。このときの成膜条件を適宜選定することにより、比誘電率が3.0程度で、リーク電流が2×10
−9A/cm
2 程度の有機シリコン系膜(有機SiCN膜)を容易に得ることができる。また、この有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比を、原料ガスでの原子数比をほぼ維持したSi:C:N=2:8:2程度とすることができる。
一方、窒素原子同士の二重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物の例としては、例えば下式(VA)又は下式(VB)
で表され、かつ式(VA)中の基R
101〜R
104のうちの少なくとも1つ、又は式(VB)中の基R
111〜R
114のうちの少なくとも1つが、下式(v-1)〜(v-6)
で表される基のいずれかである化合物が挙げられる。
また、窒素原子同士の二重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物の他の例としては、下式(VIA)、下式(VIB)、又は下式(VIC)
で表され、かつ式(VIA)中の基R
127、式(VIB)中の基R
137、又は式(VIC)中の基R
147が、下式(vi-1)〜(vi-5)
で表される基のいずれかである化合物が挙げられる。
上記の式(VA)で表される有機シリコン化合物は、基R101〜R104のうちの少なくとも1つが式(v-1)〜(v-6)で表される基のいずれかであればよいが、前述した式(IA)又は式(IB)で表される有機シリコン化合物における理由と同様の理由から、基R101〜R104のうちの2個が式(v-1)〜(v-6) で表される基のいずれかであることが好ましい。また、式(VA)で表される有機シリコン化合物が式(v-1)〜(v-6) で表される基以外の基を有する場合、当該基は、分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等であることが好ましい。全く同様のことが、上記の式(VB)で表される有機シリコン化合物における基R111〜R114についてもいえる。
また、上記の式(VIA)で表される有機シリコン化合物は、基R127 が式(vi-1)〜(vi-5)で表される基のいずれかであればよく、基R121〜R126 については、分子量を増加させることのない水素原子(H)や、炭素数が4以下のアルキル基等の中から適宜選択可能である。全く同様のことが、上記の式(VIB)で表される有機シリコン化合物における基R131〜R136 、及び、上記の式(IVC)で表される有機シリコン化合物における基R141〜R146 についてもいえる。
窒素原子同士の二重結合を有する基を備えた有機シリコン化合物を原料ガスとして用いて化学的気相堆積法により有機シリコン系膜を成膜する際にも、成膜条件を適宜選定することにより、σ結合よりも低エネルギーで解離するπ結合を反応部位として利用することができる。すなわち、π結合以外の結合を切断することなく付加重合反応を主体として有機シリコン系膜を成膜することができる。π結合以外の結合の切断が抑えられるので、膜組成の制御が容易になる。また、有機シリコン化合物の反応性が向上して、未結合手が膜内に導入されることが抑制される。その結果として、膜質が良好で、リーク電流が少ない有機シリコン系膜を得易くなる。
例えば、式(VIC)で表される有機シリコン化合物のうち、基R
147 が式(vi-1)で表される基であり、基R
141〜R
146がいずれもメチル基(−CH
3) であり、式中のnが1である化合物、すなわち、下式(VIa)
で表される化合物を原料ガスとして用いたプラズマCVD法により有機シリコン系膜を成膜すると、式(iii-1) で表される基中の不飽和結合(炭素原子と窒素原子との二重結合)がプラズマ励起され、かつ熱エネルギーを受けて、下式(CR4)
に示すような反応が引き起こされる。実際には、式(CR4)で表されるような反応がプラズマ中、あるいは基板表面(被成膜部材の表面)で連続して生じ、反応基同士が重合反応を起こして、有機シリコン系膜(有機SiCN膜)が得られる。このときの成膜条件を適宜選定することにより、比誘電率が3程度で、リーク電流が2×10
−9A/cm
2 程度の有機シリコン系膜(有機SiCN膜)を容易に得ることができる。また、この有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と及び窒素原子(N)との原子数比を、原料ガスでの原子数比をほぼ維持したSi:C:N=2:6:2程度とすることができる。
本発明の方法で使用する有機シリコン化合物は、酸素原子(O)を構成元素として含んでいるものであってもよいが、得られる有機シリコン系膜での酸素原子の原子数比が大きくなると、特に銅配線上に成膜したときに銅配線の酸化を促して抵抗上昇等の問題が生じ易くなるので、原料ガスとして使用する有機シリコン化合物は、酸素原子(O)を構成元素として含んでいないものであることが好ましい。
原料ガスとして使用する有機シリコン化合物は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。このとき、幾何異性体や光学異性体によっては分子構造は限定されない。2種以上の有機シリコン化合物を併用することにより、得られる有機シリコン系膜の組成を制御し易くなる。また、得られる有機シリコン系膜の比誘電率や、当該有機シリコン系膜でのリーク電流の値を制御することも容易になる。
得られる有機シリコン系膜の物性は、当該有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比に応じて変化するので、その用途に応じて原料ガスの組成や、使用する原料ガスの種類数等を適宜選定することが好ましい。有機シリコン系膜での上記原子数比と物性との関係については、成膜方法を説明した後に改めて説明する。
(2)添加ガス;
本発明の方法においては、必要に応じて、所望の添加ガスを用いることができる。このような添加ガスの具体例としては、例えば水素化ケイ素ガス、水素ガス、炭化水素ガス、有機アルミニウム化合物のガス等が挙げられる。
例えば、銅などの金属層上に有機シリコン系膜を成膜する際にモノシラン系ガスやジシラン系ガス、あるいはモノシラン系ガスとジシラン系ガスとの混合ガス等の水素化ケイ素ガス、を用いると、金属層の表面をシリサイド化させることができ、結果として、有機シリコン系膜と金属層との密着性を向上させることができる。上記の水素化ケイ素ガスは、原料ガスと一緒にリアクターに供給してもよいし、原料ガスの共有に先立ってリアクターに供給してもよい。この用途での水素化ケイ素ガスの供給量は、リアクターでの電極間の容積が700cm3 程度であるときには、原料ガスの流量に対してその流量が0.1〜4程度となる範囲内で適宜選定可能である。
また、不飽和結合を有する基を備えた有機シリコン化合物を原料ガスとして用いる場合に上記の水素化ケイ素ガス又は水素ガスを原料ガスと一緒に用いると、成膜速度を増大させることができる。この成膜速度の増大は、解離した水素イオン(プロトン)が求電子試薬として働いて、有機シリコン化合物中の不飽和結合の反応性が向上するためであると考えられる。この用途での水素化ケイ素ガスの供給量又は水素ガスの供給量(リアクターへの供給量)は、リアクターでの電極間の容積が700cm3 程度であるときには、いずれのガスについても原料ガスの流量に対してその流量が0.1〜4程度程度の範囲内で適宜選定可能である。
例えばプラズマCVD法によって有機シリコン系膜を形成するにあたって、添加ガスとしてアルカンガス、アルケンガス、アルキンガス等の炭化水素ガスを用いると、成膜中のプラズマが安定するといった効果が得られ、プラズマの不安定性に起因した下地層へのプラズマダメージを抑制することができるようになる。このとき、炭化水素ガスは、原料ガスと一緒にリアクターに供給することが好ましい。また、使用する炭化水素ガスは、炭素数が1〜3程度の炭化水素のガスであることが好ましい。リアクターへの炭化水素ガスの供給量は、リアクターでの電極間の容積が700cm3 程度であるときには、原料ガスの流量に対してその流量が0.1〜4程度となる範囲内で適宜選定可能である。
添加ガスとして有機アルミニウム化合物のガスを用いると、アルミニウムを含有した有機シリコン系膜を得ることができる。有機シリコン系膜にアルミニウムを含有させることにより、金属層との密着性を高めることができる。
上記の有機アルミニウム化合物の具体例としては、アルミニウムエチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、及びアルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。使用する有機アルミニウム化合物は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。また、リアクターへの有機アルミニウム化合物のガスの供給量は、リアクターでの電極間の容積が700cm3 程度であるときには、原料ガスの流量に対してその流量が0.1〜4程度となる範囲内で適宜選定可能である。
(3)キャリアガスもしくは希釈ガス;
キャリアガスもしくは希釈ガスとしては、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス等、原料ガスとして用いる有機シリコン化合物に対して不活性なガスを用いることが好ましい。リアクターへのキャリアガスもしくは希釈ガスの供給量は、リアクターでの電極間の容積が700cm3 程度であるときには、原料ガスの流量に対してその流量が3〜100程度となる範囲内で適宜選定可能である。
(4)成膜方法(有機シリコン系膜の形成方法);
本発明の方法による有機シリコン系膜の形成は、プラズマCVD法、熱CVD法、プラズマ重合法等の化学的気相堆積法により行われる。本発明の方法は上述した原料ガスを用いる点に最大の特徴を有するものであり、成膜装置としては、化学的気相堆積法に基づく種々の成膜装置を用いることができる。以下、本発明の方法によって有機シリコン系膜を形成(成膜)する際に使用することができる成膜装置の例について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の方法に基づいて有機シリコン系膜を形成(成膜)する際に使用することができるプラズマCVD装置の一例を示す概略図である。同図に示すプラズマCVD装置50は、原料ガスとして使用する有機シリコン化合物、及び添加ガスそれぞれの沸点が低く、これらを気体状態で貯蔵し易い場合に好適に用いることができるものであり、リアクター10、ガス供給部20、真空ポンプ30、及び高周波電源40を備えている。ガス供給部20はガス供給管22によりリアクター10と接続されており、真空ポンプ30は、バルブ32及び冷却トラップ34が途中に配置されたガス排出管36によりリアクター10に接続されている。そして、高周波電源40はマッチングボックス42が途中に配置された高周波ケーブル44によりリアクター10に接続されている。
リアクター10内には、半導体基板等の被成膜部材1を保持し、加熱する基板加熱部3と、ガス供給管22の一端が接続されてガスの噴出部として機能するシャワーヘッド5とが互いに対向した状態で配置されている。基板加熱部3にはアース線7が接続され、シャワーヘッド5には高周波ケーブル44が接続されている。したがって、ガス供給部20からガス供給管22を介してシャワーヘッド5に原料ガス等を供給すると共に、高周波電源40で作り出された高周波電力を高周波ケーブル44の途中に配置されたマッチングンボックス42により所定の周波数にしてシャワーヘッド5に供給することにより、基板加熱部3とシャワーヘッド5との間の空間のガスをプラズマ化させることができる。
ガス供給部20は、使用する原料ガスの種類数に応じた数の原料ガス供給タンク、使用する添加ガスの種類数に応じた数の添加ガス供給タンク、及びキャリアガス用もしくは希釈ガス用のガス供給タンク(以下、「キャリアガス供給タンク」という。)を備えており、さらに、各タンクから供給されたガスを混合する混合器19を備えている。ガス供給管22の一端は混合器19に接続されている。図1には、1つの原料ガス供給タンク11、1つの添加ガス供給タンク13、及び1つのキャリアガス供給タンク15が示されている。原料ガス供給タンク11は配管12により混合器19と接続されており、添加ガス供給タンク13は配管14により混合器19と接続されており、キャリアガス供給タンク15は配管16により混合器19に接続されている。各配管12、14、16の途中には、それぞれ、2つのバルブ18a、18bと当該バルブ18a、18b間に配置された気体流量制御器18cとを備えた気体流量制御部18が設けられている。
なお、ガス供給管22には、途中に流量制御器24とバルブ26とが配置されたクリーニングガス供給管28が接続されており、ガス排出管36におけるバルブ32と冷却トラップ34との間からは廃液配管38が分岐している。ガス供給部20内の配管12、14、16それぞれの周囲、及びガス供給管22の周囲には、各ガスが移送過程で液化するのを防止するためにヒータ(図示せず。)を設け、これらの配管12、14、16又はガス供給管22を加温することが好ましい。同様に、リアクター10の周囲にもヒータ(図示せず。)を設けて、当該リアクター10を加温することが好ましい。
プラズマCVD装置50によって有機シリコン系膜を形成方法するにあたっては、まず、基板加熱部3上に半導体基板等の被成膜部材5を配置し、バルブ32を開にした状態で真空ポンプ30を動作させてリアクター10内の初期真空度を例えば数mTorr(数dPa)程度にまでする。リアクター10から排出されたガス中の水分は、冷却トラップ34により除去される。次いで、ガス供給部20から原料ガス(気体の有機シリコン化合物)及び添加ガスをキャリアガスもしくは希釈ガスと一緒にリアクター10に供給すると共に、高周波電源40及びマッチングボックス42を動作させて所定周波数の高周波電力をリアクター10に供給する。
このとき、個々のガスは、対応する流量制御部18によりその流量を制御され、混合器19で所定の組成の混合ガスとなってリアクター10に供給される。原料ガスに対する添加ガス、及びキャリアガスもしくは希釈ガスそれぞれの割合(供給量)については既に説明したので、ここではその説明を省略する。リアクター10での原料ガスの分圧は0.02〜2Torr程度(2.66〜266Pa程度)の範囲内で適宜選定することが好ましい。また、添加ガスの分圧は、その種類に応じて、0.02〜2Torr(2.66〜266Pa程度)程度の範囲内で適宜選定することが好ましい。そして、成膜時のリアクター10の雰囲気圧は、真空ポンプ30の動作を制御して、2〜6Torr程度(266〜800Pa程度)の範囲内に設定することが好ましい。成膜時における被成膜部材1の表面温度は、基板加熱部3により当該非成膜部材1を加熱して、100〜400℃の範囲内で適宜設定することが好ましい。既に説明したように、使用する添加ガスの種類によっては、原料ガスの供給に先立ってリアクター10に供給される。
このような条件の下に成膜を行うと、原料ガスである有機シリコン化合物の分子がプラズマによって励起され、活性化された状態で被成膜部材1の表面へ到達し、ここで有機シリコン系膜(有機SiCN膜)を形成する。有機シリコン化合物が不飽和結合を有する基を備えていた場合には、プラズマにより励起されて活性化した有機シリコン化合物の分子が被成膜部材1の表面へ到達して基板加熱部3から更に熱エネルギーを受けとるので、上記の基にある不飽和結合が開いて分子間で熱重合反応が進行し、有機シリコン系膜(有機SiCN膜)が成長する。
なお、リアクター10のクリーニングには、三フッ化窒素(NF3) 、六フッ化硫黄(SF6) 、テトラフルオロメタン(CF4) 、ヘキサフルオロエタン(C2F6)等のガスを用いることができ、これらのガスは、必要に応じて酸素ガス、オゾンガス等との混合ガスとして用いてもよい。クリーニングガスは、クリーニングガス供給管28を介してリアクター10へ供給される。成膜時と同様に、シャワーヘッド5と基板加熱部3との間に高周波電力を印加し、プラズマを誘起させることでリアクター10のクリーニングを行う。リモートプラズマ等を用いて予めプラズマ状態としたクリーニングガスを用いることも有効である。
図2は、原料ガスとして使用する有機シリコン化合物の沸点が低く、人為的に加熱しないときには当該有機シリコン化合物が液体状態となる場合に好適に用いることができるガス供給部の要部の一例を示す概略図である。図示のガス供給部130は、液体の有機シリコン化合物をキャリアガスもしくは希釈ガスと混合してから気化させる2つの気化制御ユニットVU1、VU2と、各気化制御ユニットVU1、VU2からキャリアガスもしくは希釈ガスと気化した有機シリコン化合物との混合ガスの供給を受けてこれらを混合する混合器126とを備えている。
個々の気化制御ユニットVU1、VU2は、それぞれ、液体の有機シリコン化合物100を収容する原料タンク102と、圧送ガス供給管104を介して原料タンク102内に圧送ガスを供給する圧送ガス供給装置106と、原料タンク102内に一端が挿入された原料化合物移送管108と、原料化合物移送管108の途中に設けられた液体流量制御部110と、原料化合物移送管108の他端側に配置された気化部112とを有している。上記の液体流量制御部110は、2つのバルブ110a、110bと当該バルブ110a、110b間に配置された液体流量制御器110cとを備えており、上記の気化部112は、原料化合物移送管108の上記他端側に設けられたバルブ112aと、原料化合物移送管108の上記他端に接続された気化器112bとを備えている。
さらに、各気化制御ユニットVU1、VU2は、キャリアガス用もしくは希釈ガス用のガス供給タンク114(以下、「キャリアガス供給タンク114」という。)と、キャリアガス供給タンク114内のキャリアガスもしくは希釈ガスを液体流量制御部110と気化部120との間において原料化合物移送管108に供給する配管116とを備えている。配管116の途中には、2つのバルブ118a、118bと当該バルブ118a、118b間に配置された気体流量制御器118cとを備えた気体流量制御部118が設けられている。
圧送ガス供給装置106から圧送ガス供給管104を介して原料タンク102内に圧送ガスを供給すると、原料タンク102の内圧が高まり、当該原料タンク102内の液体の有機シリコン化合物100が原料化合物移送管108を介して気化部112へ向けて移送され、途中でキャリアガスもしくは希釈ガスと合流して気化部112に達する。気化部112に達した液体の有機シリコン化合物100は、気化部112の導入部での圧力減少と、ヒータ(図示せず。)による加熱とによって気化する。
気化制御ユニットVU1で生じたガスは、気化部112に接続されているガス排出管120へ送られ、気化制御ユニットVU2で生じたガスは、気化部112に接続されているガス排出管122へ送られる。そして、ガス排出管120へ送られたガスとガス排出管122へ送られたガスとは、共に配管124を介して混合器126へ達し、ここで混合されて、原料ガスとキャリアガスもしくは希釈ガスとの混合ガスとなる。混合器126で調製された混合ガスは、ガス供給132を介してリアクターに供給される。
なお、ガス排出管120の途中にはバルブ120aが設けられ、ガス排出管122の途中にはバルブ122aが設けられ、配管124の途中にはバルブ124aが設けられている。また、ガス供給管132からは、途中にバルブ128aを有するベントライン128が分岐しており、ガス供給管132におけるベントライン128の分岐点よりもリアクター側にはバルブ128aが設けられている。各気化器112での気化を円滑に行ううえからは、液体流量制御部110におけるバルブ110cよりも下流側の原料化合物移送管108の周囲にヒータを設け、当該原料化合物移送管108を加温することが好ましい。同様に、各ガスが液化するのを防止するために、各ガス排出管120、122、混合器126、及びガス供給管132それぞれの周囲にもヒータを設けて、これらを加温することが好ましい。
原料ガスとして使用しようとする有機シリコン化合物を気化させること自体が困難な場合には、当該有機シリコン化合物を有機溶剤に溶解させることで原料分圧を低減させ、この溶液を気化部112へ供給して気化させることもできる。
図3は、原料ガスとして使用しようとする有機シリコン化合物の沸点が低く、人為的に加熱しないときには当該有機シリコン化合物が液体状態となる一方で、添加ガスとして使用する物質の沸点が低く、これを気体状態で貯蔵し易い場合に好適に用いることができるガス供給部の要部の一例を示す概略図である。
図示のガス供給部150は、添加ガス用のガス供給タンク140、ガス供給タンク140と混合器126とを繋ぐ配管142、及び配管142の途中に設けられた気体流量制御部144とを更に備えているという点を除き、図2に示したガス供給部130と同様の構成を有している。図3に示した構成部材のうちで既に図2を参照して説明した構成部材については、図2で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。なお、気体流量制御部144は、2つのバルブ144a、144bと当該バルブ144a、144b間に配置された液体流量制御器144cとを備えている。
このガス供給部150では、気化制御ユニットVU1で生じたガス(キャリアガスもしくは希釈ガスと気化した有機シリコン化合物との混合ガス)と、気化制御ユニットVU2で生じたガス(キャリアガスもしくは希釈ガスと気化した有機シリコン化合物との混合ガス)と、ガス供給タンク140から供給された添加ガスとが、混合器126で混合された後にリアクターに供給される。気化した有機シリコン化合物と添加ガスとが混合器126の手前で混合されるようにガス供給部を構成することも可能であるが、これらのガスが図示のように混合器126にて混合されるようにガス供給部を構成した方が好ましい。
前述した原料ガスを用いて上述のようにして形成することができる有機シリコン系膜(有機SiCN膜)は、膜内にシラザン結合を有していないので、加水分解反応によって膜が吸水することが抑制される。そのため、リーク電流を抑えることができ、結果として膜の耐熱性や絶縁耐性の劣化も防止される。また、その比誘電率は3〜4程度と低い。このように比誘電率が低いと共にリーク電流が少ない有機シリコン系膜は、例えば、ダマシン配線を形成するにあたって設けられる絶縁性バリア膜や、エッチング法により層間絶縁膜にスルーホールを形成する際のエッチストップ膜、あるいは、層間絶縁膜を機械的に保護するハードマスク膜等として好適に用いることができる。
原料ガスについての説明の中で触れたように、本発明の方法によって得られる有機シリコン系膜の物性は、当該有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比に応じて変化する。例えば、ドライエッチングに対するエッチングレートは、本発明による有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比をSi:C:N=X:Y:Zとしたときの値(Y+Z)/Xに応じて変化する。
図4は、上記の値(Y+Z)/X(ただし、同図においては「(C+N)/Si」と表記している。)と上記のエッチングレートとの関係を示すグラフである。絶縁性バリア膜上に多孔質の水素化シリコン酸炭化膜(SiOCH膜;原子数比はSi:O:C=1:1:1)からなる層間絶縁膜を形成し、この層間絶縁膜にドライエッチング法(エッチングガス;オクタフルオロシクロブタン(C4F8)ガスとアルゴン(Ar)ガスとの混合ガス)でスルーホールを形成する際には、層間絶縁膜と絶縁性バリア膜とのエッチング選択比(エッチングレート比)を10以上確保することが望まれるわけであるが、図4から明らかなように、本発明による有機シリコン系膜では、上記の値(Y+Z)/Xが3を超えるように当該有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比を選定することにより、十分な大きさのエッチング選択比を確保することができる。なお、有機シリコン系膜でのケイ素原子(Si)と炭素原子(C)と窒素原子(N)との原子数比は、例えば、EELS(Electron Energy-Loss Spectroscopy)や、EDX(Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy)等の方法によって元素分析することにより、確認することができる。有機シリコン系膜が金属層上に形成されている場合、これら有機シリコン系膜と金属層とは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)による像のコントラストに基づいて区別することができる。
<半導体装置>
本発明の半導体装置は、前述したように、半導体基板又は半導体層に形成された少なくとも1つの回路素子と、当該少なくとも1つの回路素子に電気的に接続された配線とを有し、この配線の少なくとも一部の領域の周囲に電気絶縁膜が設けられている半導体装置である。そして、前記の電気絶縁膜が、少なくともケイ素、水素、炭素、及び窒素を構成元素として含有していると共に、ケイ素原子と窒素原子とが互いに結合していない有機シリコン系膜であることを特徴としている。上記の有機シリコン系膜は、上述した本発明の方法によって形成(成膜)することができる。
図5は、本発明の半導体装置の一例を概略的に示す断面図である。同図に示す半導体装置220は、多数の回路素子(図示せず。)が形成されている半導体基板201と、上記多数の回路素子を覆う第1層間絶縁膜(パッシベーション膜)203とを有し、第1層間絶縁膜203上には、第1エッチストップ膜205、第1ダマシン配線207、第2層間絶縁膜209、第2エッチストップ膜211、第2ダマシン配線213、及び第3層間絶縁膜215がこの順番で形成されている。
第1層間絶縁膜203は、例えばシリコン酸化物等によって形成され、第1エッチストップ膜205は、例えばシリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン炭化物、シリコン炭窒化物、シリコン酸炭化物(SiOC)、水素化シリコン酸炭化物(SiOCH)等の無機物や、ポリアリルエーテル等の有機物、あるいは上記の無機物の少なくとも1つと有機物とを含んだ有機−無機複合物によって形成される。これら第1層間絶縁膜203及び第1エッチストップ膜205は、その材料に応じて、物理的気相堆積(PVD)法、CVD法、スピンコート法等の方法により形成することができる。第1層間絶縁膜203の材料は、第1ダマシン配線207の形状や、ビアホール形成時の加工性等を考慮して適宜選定することが好ましい。
第1ダマシン配線207は、導電性バリアメタル膜207aと、導電層207bと、絶縁性バリア膜207cとによって構成されており、導電性バリアメタル膜207aは導電層207bの側面及び底面を覆っている。また、絶縁性バリア膜207cは導電層207bの上面を覆っている。
上記の導電性バリアメタル膜207aは、例えばスパッタ法やCVD(原子堆積法を含む。)等によってタンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、炭窒化タングステン(WCN)等の高融点金属もしくはその化合物を堆積させることにより形成された単層膜又は積層膜からなり、特に、窒化タンタル(TaN)膜上にタンタル(Ta)膜が積層された積層膜であることが好ましい。また、導電層207bは、例えばスパッタ法やCVD法によって銅(Cu)を堆積させることにより、あるいは、スパッタ法やCVD法により薄く堆積させた銅(Cu)を電極として用いた電解めっき法等によって銅(Cu)を堆積させることにより、形成することができる。銅(Cu)以外の成分として、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、チタン(Ti)、タングステン(W)、銀(Ag)、ジルコニウム(Zn)、インジウム(In)、又はマグネシウム(Mg)等を含有させることも有効である。また、銅以外の導電性材料、例えばタングステン(W)やコバルトタングステンリン(CoWP)等により、銅(Cu)層と絶縁性バリア膜207cとの間に密着層を形成してもよい。上記の絶縁性バリア膜207cは、前述した本発明の方法により形成された有機シリコン系膜からなる。絶縁性バリア膜207cの膜厚は5〜50nm程度の範囲内で適宜選定可能である。本発明の方法により形成された有機シリコン系膜を下層配線の絶縁性バリア膜として利用する場合には、その膜を10〜30nm程度の範囲内で適宜選定することが特に好ましい。
第2層間絶縁膜209は、例えばシリコン酸化物、シリコン炭化物、及びシリコン炭窒化物等の無機物や、ハイドロゲンシルセスキオキサン(Hydrogen Silsesquioxane) 、メチルシルセスキオキサン(Methyl Silsesquioxane)、及び樹脂等の有機物、あるいは、上記の有機物に無機物を含有させた有機−無機複合材料等からなる単層膜又は積層膜であり、その材料に応じて、物理的気相堆積(PVD)法、CVD法、スピンコート法等の方法により形成することができる。第2層間絶縁膜209においては、必要に応じて、膜厚方向の組成や密度を適宜変化させることができる。
第2エッチストップ膜211は上述した第1エッチストップ膜205と同様にして形成することができる。また、第2ダマシン配線213は、第1ダマシン配線207と同様に導電性バリアメタル膜213a、導電層213b、及び絶縁性バリア膜213cによって構成されており、これら導電性バリアメタル膜213a、導電層213b、及び絶縁性バリア膜213cは、それぞれ、第1ダマシン配線207における導電性バリアメタル膜207a、導電層207b、又は絶縁性バリア膜207cと同様にして形成することができる。そして、第3層間絶縁膜215は第2層間絶縁膜209同様にして形成することができる。図5には、第2ダマシン配線213を構成するビアコンタクト部213vが現れている。このビアコンタクト部213vは、第2ダマシン配線213と第1ダマシン配線207とを電気的に接続するものであり第2層間絶縁膜213、及び第1ダマシン配線207の絶縁性バリア膜207を貫通する貫通孔内に形成されている。ダマシン配線溝の加工形状が十分に制御される場合には、各エッチストップ膜205、211は削除してもよい。
なお、「ダマシン配線」とは、層間絶縁膜に形成した溝に導電性材料を埋め込み、溝の外にまで形成された導電性材料層を例えば化学的機械的研磨(CMP)等の方法によって除去することで形成される埋め込み配線をさし、その上面は、通常、平坦面となっている。例えば銅(Cu)によりダマシン配線を形成する場合には、銅層の側面及び底面を導電性バリアメタルで覆い、銅(Cu)層の上面を絶縁性バリア膜で覆う配線構造が一般に採用される。
上述した構造を有する半導体装置220では、第1ダマシン配線207における絶縁性バリア膜207c、及び第2ダマシン配線213における絶縁性バリア膜213cが、それぞれ、前述した本発明の方法により形成された有機シリコン系膜からなる。既に説明したように、本発明の方法によれば、比誘電率が低いと共にリーク電流が少ない有機シリコン系膜を容易に形成することができる。したがって、半導体装置220では、配線間容量が小さく、かつ配線からのリーク電流が少ないものを得易い。また、第1ダマシン配線207及び第2ダマシン配線213それぞれのエレクトロマイグレーション耐性、あるいは、配線応力に起因する配線抵抗の変化や断線に対する耐性(ストレス誘起ボイド耐性)を高めることも容易になる。さらには、半導体装置220の経時的絶縁破壊に対する耐性(TDDB耐性;Time Dependent Dielectric Breakdown 耐性)を高めることも容易になる。
図6は、本発明の半導体装置の他の例を概略的に示す断面図である。同図に示す半導体装置370は、多数の回路素子(図示せず。)が形成されている半導体基板310と、上記多数の回路素子を覆う第1層間絶縁膜(パッシベーション膜)320とを有しており、第1層間絶縁膜320上には、第1エッチストップ膜322、第1ダマシン配線部330、第2ダマシン配線部335、第3ダマシン配線部340、第4ダマシン配線部345、及び第5ダマシン配線部350がこの順番で積層されている。隣り合うダマシン配線部同士の間には層間絶縁膜360が配置されており、個々の層間絶縁膜360の上面にはハードマスク膜362が形成されている。
図6においては、半導体基板310に形成されている多数の回路素子のうち、1つの相補的MOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor;以下、「CMOS」と略記する。) トランジスタ305が現れている。このCMOSトランジスタ305は、半導体基板310に形成された2つのソース領域302s、304s、及び2つのドレイン領域302d、304dを有しており、さらに、ソース領域302sとドレイン領域302dとの平面視上の間においてゲート絶縁膜302iを介して半導体基板310上に形成されたゲート電極302g、及び、ソース領域304sとドレイン領域304dとの平面視上の間においてゲート絶縁膜304iを介して半導体基板310上に形成されたゲート電極305gを有している。ソース領域302sの外側、ドレイン領域302dとソース領域304sとの間、及びドレイン領域304dの外側には、例えばシリコン酸化物からなる素子分離膜307が形成されている。
第1層間絶縁膜320は、図5に示した半導体装置220における第1層間絶縁膜203と同様にして形成される。この第1層間絶縁膜320には、半導体基板310に形成されている回路素子と第1ダマシン配線部325とを電気的に接続するためのコンタクトプラグ315が所定数形成されている。第1層間絶縁膜320上に設けられている第1絶縁性バリア膜322は、図5に示した半導体装置220における絶縁性バリア膜207c、213cと同様にして形成することができる。
各ダマシン配線部330、335、340、345、350は、それぞれ、所定数のダマシン配線によって構成されている。個々のダマシン配線は、導電性バリアメタル膜と、導電層と、絶縁性バリア膜とによって構成されており、導電性バリアメタル膜は導電層の側面及び底面を覆っている。また、絶縁性バリア膜は導電層の上面を覆っている。図6においては、各ダマシン配線部330、335、340、345、350における導電性バリアメタル膜には、対応するダマシン配線部に付した参照符号に「a」を更に付加した参照符号を付してあり、導電層には「b」を更に付加した参照符号を付してあり、絶縁性バリア膜には「c」を更に付加した参照符号を付してある。これらの導電性バリアメタル膜、導電層、及び絶縁性バリア膜は、図5に示した半導体装置220における導電性バリアメタル膜207a、213a、導電層207b、213b、又は絶縁性バリア膜207c、213cと同様にして形成することができる。
個々の層間絶縁膜360は、例えば図5に示した半導体装置220における第1層間絶縁膜203、第2層間絶縁膜209、又は第3層間絶縁膜215と同様にして形成することができる。各層間絶縁膜360上にはハードマスク膜362が形成されているので、例えば有機物によって形成された機械的強度が比較的小さい膜であっても、その上に所望形状のダマシン配線部を形成することが容易である。各ハードマスク膜362は、例えば、前述した本発明の方法により成膜される有機シリコン系膜、シリコン酸化膜、SiOCH膜等によって形成することができる。
上述した構造を有する半導体装置370では、各ダマシン配線における絶縁性バリア膜が、それぞれ、前述した本発明の方法により形成された有機シリコン系膜からなるので、図5に示した半導体装置220と同様に、配線間容量が小さく、かつ配線からのリーク電流が少ないものを得易い。また、各ダマシン配線それぞれのエレクトロマイグレーション耐性や、ストレス誘起ボイド耐性を高めることも容易になる。さらには、半導体装置370のTDDB耐性を高めることも容易になる。
なお、本発明の半導体装置は、上述した構造を有する半導体装置に限定されるものではない。種々の変更、修飾、組合せ等が可能である。例えば、本発明の半導体装置は、半導体基板上に多数の回路素子が形成されたものであってもよし、SOI(Silicon on Insulator)基板やアクティブマトリックス駆動タイプの液晶表示パネルの基板におけるように、半導体層上に多数の回路素子が形成されたものであってもよい。具体的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory) 、フラッシュメモリ、FRAM(Ferro Electric Random Access Memory) 、MRAM(Magnetic Random Access Memory) 、抵抗変化型メモリ等のようなメモリ回路を有する半導体装置や、マイクロプロセッサ等の論理回路を有する半導体装置、あるいはこれらの半導体装置が複数搭載された混載型半導体装置、もしくはこれらの半導体装置が複数積層されたSIP(Silicon in package)等であってもよいし、上述した液晶表示パネルの基板のようなアクティブマトリックス駆動タイプの表示装置におけるパネル基板等であってもよい。また、本発明の技術的思想は、少なくとも一部に埋め込み型配線構造を有する光回路装置、量子回路装置、マイクロマシン等にも適用することができる。