従来のロータリーベーン式舵取機は、例えば図27〜図29に示すように、ハウジング1と、その内部に収納されるローター2とを有している。ローター2は、下部軸部2aがハウジング1の底部に設けたボス部1aで支持され、上部軸部2bがハウジング1の上部開口に配置した環状のトップカバー3で支持されている。ボス部1aと下部軸部2aとの間にはラジアル軸受4aとスラスト軸受4bとを装入し、トップカバー3と上部軸部2bとの間にはラジアル軸受4cを装入しており、ローター2は、半径方向と軸方向とに荷重のかかった状態で、船体に固定されたハウジング1の内部で回動自在に保持されている。
ローター2は、舵軸(図示省略)を装入する内部貫通孔2cを有し、外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーン2dを突設している。ハウジング1は、内周面の周方向に沿った等間隔の位置に、上記ベーン2dと同数のセグメント1bを突設している。
ローター2の各ベーン2dは、上端面に形成した上部横スリット2e内に、トップカバー3の下面に摺接する上部横シール2fを保持し、下端面に形成した下部横スリット2g内に、ハウジング1の内底面に摺接する下部横シール2hを保持し、半径方向の先端の縁部に形成した縦スリット2i内に、ハウジング1の内周面に摺接する縦シール2jを保持している。また、ハウジング1のセグメント1bは、半径方向の先端の縁部に形成した縦スリット1c内に、ローター2の外周面に摺接する縦シール1dを保持している。尚、上記各シール2f,2h,2j,1dはそれぞれ弾性材料によって形成されている。
ローター2は、ハウジング1内において、上部および下部横シール2f、2hがそれぞれトップカバー3の裏面およびハウジング1の内底面に摺接し、縦シール2iがハウジング1の内周面に摺接し、セグメント1bの縦シール1dがローター2の外周面に摺接する状態で回転し、これにより、ベーン2dとセグメント1bとの間には作動油室5a、5b、5c、5dが形成される。
トップカバー3は、ローター2の上部端面2kに対向する部位に形成した上部リングスリット3a内に、一体構造の環状の上部リングシール3bを保持している。また、ハウジング1は、ローター2の下部端面21に対向する部位に形成した下部リングスリット1e内に、一体構造の環状の下部リングシール1fを保持している。上部および下部リングシール3b,1fはそれぞれ弾性材料より形成されており、上部リングシール3bのリングシール面3cがローター2の上部端面2kと接触し、下部リングシール1fのリングシール面1gがローター2の下部端面21と接触して、それぞれシーリング作用を行っている。
上記上部および下部リングシール3b,1fによって、各作動油室5a〜5dの圧油が、ローター2の上部端面2kとトップカバー3との間の微小な間隙およびローター2の下部端面21とハウシング1の内底面との間の微小な間隙を通って、隣接する作動油室5a〜5dおよび大気に通ずるローター軸部2a,2bへ漏洩(又は漏出)するのを防いでいる。
また、上部リングシール3bのリングシール外周縁部3dがベーン2dの上部横シール2fの内周側上端縁2nとセグメント1bの縦シール1dの内周側上端縁1hとにそれぞれ接触するとともに、下部リングシール1fの外周縁部1iがベーン2dの下部横シール2hの内周側下端縁2oとセグメント1bの縦シール1dの内周側下端縁1jとにそれぞれ接触し、これによって、ベーン2dの上部および下部横シール2f,2hの上下の各内周端縁部2n,2oとセグメント1bの縦シール1dの上下の各内周端縁部1h、1jを通って作動油が高圧側の作動油室(5a,5c又は5b,5d)から隣接する低圧側の作動油室(5b,5d又は5a,5c)に漏洩するのを防いでいる。
尚、ローター2には、上部リングシール3bの位置よりも内側の上部端面2kと下部リングシール1fの位置よりも内側の下部端面2lとを連通するバランス孔2mが設けられている。もし万一、上部および下部リングシール3b、1fから圧油が漏洩した場合、この漏洩油によってローター2の上部端面2kと下部端面2lとに作用する圧力がバランス孔2mを介して上下方向にバランスするようになっている。これにより、軸方向の差圧による不均等な力がローター2に発生するのを防いでいる。
ローター2の回転軸心に対して対極の位置にある作動油室5a,5c同士、および作動油室5b,5d同士はそれぞれ連通しており、例えば、作動油室5aに油圧ポンプから圧油が供給されると、対極の位置にある作動油室5cにも同時に圧油が供給される一方、残りの作動油室5b,5dからは同時に油が排出されて油圧ポンプ側に戻される。これにより、圧油によるローター2の回転が成立する。
各作動油室5a〜5dの油密を確保するために、ベーン2dの上部および下部横シール2f,2hと縦シール2jとセグメント1bの縦シール1dと上部および下部のリングシール3b,1fとは、接触摺動するシール面の反対側の各背面にそれぞれ、高圧側となっている作動油室(5a,5c又は5b,5d)から導いた圧油をかけて、シール面を相手面に押し付けている。
すなわち、図30は横シール2f,2hと縦シール1d,2jとの断面形状を示し、図31はリングシール3b、1fの断面形状を示す。図30,図31に示すように、上記各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bは、いずれも接触摺動する各シール面1g,1k,2p,2q,2r,3cの反対側の背面1m,1n,2s,2t,2u,3eに作動油室5a〜5dから導いた圧油を作用させることによって、各シール面1g,1k,2p,2q,2r,3cを相手側の摺動面に押し付けてシーリング性を与えるものである。
また、上記各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bはそれぞれ背面1m,1n,2s,2t,2u,3e側にスカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fを有している。そして、上記圧油は、同時に、各々のスカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fにも作用して、スカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fを各々のスリット1c,1e,2e,2g,2i,3aの両側面に押し付ける。これにより、圧油が各スリット1c,1e,2e,2g,2i,3aと各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bとの間の間隙を通って低圧側に漏洩するのを防いでいる。
また、作動油室5a〜5dから各シール背面1m,1n,2s,2t,2u,3eに導かれた作動油が、その圧力を各スカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fの内側に作用させるよりも早く、上記スリット1c,1e,2e,2g,2i,3aとシール1d,1f,2f,2h,2j,3bとの間の間隙に入り込んでスカート1o,1p,2v,2w,2x,3fの作用を妨げてしまうことを防ぐため、各々のスカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fをそれぞれのスリット1c,1e,2e,2g,2i,3aに装入する際、スカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fに弾性変形を与えることにより、スカート部1o,1p,2v,2w,2x,3fの外側がスリット1c,1e,2e,2g,2i,3aの両側面に初期押し付けされている。
また、上記ベーン2dの上部および下部横シール2f,2hと縦シール2jとの連接部は図32〜図35に示すような構成になっている。尚、各図32〜図35は上部横シール2fと縦シール2jの上側との連接部を示したものであり、下部横シール2hと縦シール2jの下側との連接部はこれと対称に構成されている。横シール2fは、縦シール2jとの連接部において、スカート部2vが欠けており、この欠けた部分に縦シール2jの上端部がはめ込まれる。これにより、上部および下部横シール2f,2hと縦シール2jとをそれぞれスリット2e,2g,2i内に装着した状態において、上部および下部横シール2f,2hの背面2s,2tの空間と縦シール2jの背面2uの空間とが連通し、縦シール2jの背面2uに導かれた作動油が上部および下部横シール2f、2hの背面2s,2tにも作用するようになっている。
而して、上部および下部横シール2f、2hと縦シール2jとのそれぞれの端面と相手面との間を通って高圧作動油が低圧側に漏洩するのを防ぐために、これら各シール2f,2h,2jをそれぞれのスリット2e,2g,2i内に装着するに際して、各シール2f,2h,2jに若干の長手方向の弾性圧縮を与えるようになっており、この弾性圧縮の反発力により、各シール2f,2h,2jの各端面に接触面圧を生じさせるようになっている。さらに、上部および下部横シール2f,2hのスカート部2v,2wの端面と縦シール2jのスカート部2xとの間のそれぞれの接触面を通っての高圧作動油の漏洩を防ぐために、これらの接触面にも各スリット2e,2g,2i内への装着の際に、弾性圧縮による接触面圧を生じさせるようになっている。
また、シール面2r,1kの直線長さが一般に長くなるベーン2dの縦シール2jおよびセグメント1bの縦シール1dについては、作動油室5a〜5dからそれぞれの背面2u,1mに導かれる作動油の圧力が低いか或いはゼロであっても、各シール面2r,1kにシール面圧が与えられるように、ベーン2dの縦シール2jの背面2uと縦スリット2iとの間の空間、および、セグメント1bの縦シール1dの背面1mと縦スリット1cとの間の空間には、それぞれ下記のような役割をする波板ばね(図示省略)が自由状態で介在されている。
すなわち、舵を中立状態にして船が直進航行している間、実際には外乱により船の針路がずれるのを矯正するために絶えず舵を小舵角にて作動させているが、この時は発生する油圧が低く、従って、上記縦シール2j,1dの背面2u,1mを押す十分な力を与えられない。上記波板ばねは、十分な油圧が発生していなくてもシール面2r,1kに必要最小限の面圧を与えるためのものである。
また、上記従来の上部および下部リングシール1f、3bの構造では、図31に示すように、外周縁部1i,3dに作用する油圧によってリングシール1f,3bが半径方向に押されてリングシール1f,3bの外周側面とスリット1e,3aとの間に漏洩を許すような間隙が生じることに対する積極的な対抗手段を講じていないため、高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から導いた作動油をリングシール1f,3bの背面1n,3eにのみ作用させる代わりに、先ず内周側面に導いて、それをさらに背面1n,3eにも導くようにして、シール面1g,3cにおけるシーリングとともに外周面におけるシーリングも併せて行わせるようにしたものが公開されている(例えば下記特許文献1参照)。
これら、圧油を作動油室5a〜5dから各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bの背面1m,1n,2s,2t,2u,3eに導く手段は次のようなものである。
先ず、各ベーン2dの縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hの各背面2s,2t,2uに高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から圧油を導く手段としては、ベーン2dが回転体であるがゆえに、図36に示すように、各ベーン2dに、隣接する両作動油室5a,5d同士および隣接する両作動油室5b,5c同士をそれぞれ連通する油室連通孔2yを設け、それぞれの油室連通孔2yに圧力バルブ6を装着し、そして、ベーン2dには、圧力バルブ6の出口孔6cから縦シール2jの背面2uに通じる作用孔2zを設けるとともに、上部および下部横シール2f,2hの各背面2s,2tがそれぞれ縦シール2jとの連接部を通じて縦シール2jの背面2uに連通している。従って、縦シール2jの背面2uに作用する油圧は同時に上部および下部横シール2f、2hの各背面2s,2tにも作用する。
上記圧力バルブ6は、図36に示すように、バルブ本体6aの両入口6bにそれぞれ弁座6dを螺合し、二つの弁座6dの間に二個のボール弁体6eを遊動せしめ、両ボール弁体6eの間にスプリング6fを介在せしめ、ボール弁体6eが弁座6dから開いた状態で圧力バルブ入口6bに通じるように出口孔6cを設け、バルブ本体6aの一端の外径部にねじ部6gを切り、他端の外径部にOリング6hを設けるように構成されている。上記油室連通孔2yの一端部にタップをたてて、これに上記バルブ本体6aのねじ部6gを螺合することにより、圧力バルブ6を油室連通孔2y内に装着している。
これにより、例えば作動油室5aが高圧側、作動油室5dが低圧側となった場合、高圧側の作動油室5aの油圧が圧力バルブ6の一方のボール弁体6eを開くとともに、他方のボール弁体6eを弁座6dに押し付けて逆止作用を行うことにより、高圧側の作動油室5aが低圧側の作動油室5dに連通するのを防ぎ、そして、高圧側の圧油が作用孔2zを通って縦シール2jの背面2uに作用する。逆に作動油室5dが高圧側、作動油室5aが低圧側となった場合は、逆の動作により、作動油室5dの圧油が縦シール2jの背面2uに作用する。
次に、セグメント1bの縦シール1dについては、背面1mに油圧をかける代わりに、作動油室5a〜5dの高圧油を直接シーリングリップ部に導いてシーリング作用を行わせるようにしたものが公開されている(例えば下記特許文献1参照)。この場合、高圧側となる作動油室から圧力油をセグメント1bの縦シール1dの背面1mに導く手段を講じる必要はない。
しかしながら上記セグメント1bの縦シール1dが旧来の構造である場合は、図37に示すように、高圧側となる作動油室(5a〜5dのいずれか)から上記縦シール1dの背面1mに圧油を導いている。すなわち、上記ローター2のベーン2dの場合と同様に、セグメント1bに、隣接する両作動油室5a,5bおよび隣接する両作動油室5c,5dをそれぞれ連通する油室連通孔を設け、油室連通孔内に圧力バルブ6を装備する。
但し、セグメント1bの組立構造上、それが困難な場合は、例えば、セグメント1bを挟んで隣接する二つの作動油室5a,5b(又は5c,5d)からそれぞれトップカバー3を通って油路を取り出し、そのそれぞれに逆止弁を設け、両逆止弁の出口を一つの油路にまとめ、その油路を、上記縦シール1dの背面1mに連通するようにトップカバー3に穿孔した孔に、接続するようにしている(図示省略)。
次に、図27に示すように、上部および下部リングシール3b,1fについては、セグメント1bの縦シール1dの背面1mの上端部から上部リングシール3bの背面3eに通じる油路3gがトップカバー3に穿孔され、また、上記縦シール1dの背面1mの下端部から下部リングシール1fの背面1nに通じる油路1qがハウジング1の底部に穿孔されており、これによって、高圧側となる作動油室5a〜5dからの圧油を上部および下部リングシール3b,1fの各背面3e,1nに作用させている。
尚、下記特許文献1においては、請求項3,4および請求項6,7の場合、セグメントの縦シールには高圧側となる作動油室からの圧油を導入しないため、上部および下部リングシールに高圧側となる作動油室からの圧油を導入する手段として、例えば、同請求項5において、ベーンに設けた圧力バルブの出口を、ローターを上下に貫通するバランス孔に接続し、バランス孔の上下の開口をそれぞれ上部および下部リングシールの内周側面に通じるようにしている。
舵取機を組立てる場合、上記各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bを装着するのに、従来、次の方法がとられている。
すなわち、図27に示すように、ハウジング1の内底部の下部リングスリット1eに下部リングシール1fを装入し、下部横シール2hをベーン2dの下部横スリット2g内に装入し、この状態で、ローター2をハウジング1内に組み付ける。この組立状態において、ベーン2dの縦シール2jを縦スリット2i内に上方から圧入するとともに、縦シール2jの背面2uと縦スリット2iとの間の隙間に上方から波板ばね(図示省略)を圧入する。その後、ベーン2dの上部横シール2fを上部横スリット2e内に装入する。同様に、セグメント1bについても、縦シール1dを縦スリット1c内に上方から圧入するとともに、縦シール1dの背面1mと縦スリット1cとの間の隙間に上方から波板ばね(図示省略)を圧入する。そして、上部リングシール3bをトップカバー3の上部リングスリット3a内に装入し、このトップカバー3をハウジング1に組み付ける。
上記のようにして組立てられたロータリーベーン式舵取機の作動油室5a〜5dに作動油を与えるために、図38に示すような油圧回路が設けられている。図38において、左側に示した回路は制御油圧ポンプ9gを設ける場合であり、また、右側に示した回路は制御油圧ポンプ9gを設けない場合である。油圧回路には、主要構成要素として、一方向一定吐出量の油圧ポンプ9aと、方向切換弁9bと、方向切換弁9bを制御する電磁弁9cと、パイロット逆止弁9dと、流量調整弁9eと、油タンク9fとが備えられている。
方向切換弁9bは、油圧ポンプ9aからの吐出油の供給先を作動油室5a,5cと作動油室5b,5dとのいずれかに切り換える通路切換を行うとともに、作動油室5a〜5dに作動油を供給しない場合、中立位置に切り換えられて油圧ポンプ9aからの吐出油をそのまま油タンク9fに戻す機能を有している。また、上記パイロット逆止弁9dは、油圧ポンプ9aから作動油室5a,5cあるいは作動油室5b,5dへの作動油の供給を行わない時、作動油を各作動油室5a〜5d内に閉じ込めて、舵を固定するものである。また、上記流量調整弁9eは、パイロット逆止弁9dの作動が衝撃的にならないように流量を調整するものである。
また、方向切換弁9bを作動させるために必要な制御油圧は、図38の左側に示すように、油圧ポンプ9aに同軸に設けた制御油圧ポンプ9gから制御油圧ライン9iを通って供給されるか、或いは、図38の右側に示すように、油圧ポンプ9aの吐出油圧を方向切換弁9bの制御油圧として利用するかのいずれかの方法がとられている。後者の場合、舵取機が無負荷あるいは低負荷の状態、或いは、方向切換弁9bが中立位置にあって、油圧ポンプ9aの吐出油が油タンク9fにそのまま戻されている状態であっても、油圧ポンプ9aの吐出油圧が所定の値以上に保たれるように、方向切換弁9bから油タンク9fへの戻りラインに圧力調整弁9hを設け、圧力調整弁9hの入口における油圧ラインを、圧力調整弁9hによって一定圧力に規定される規定油圧ライン9jとしている。
また、舵に異常に大きい衝撃荷重が作用した時、その衝撃荷重が舵取機に損傷を与えることを防止するために、図38,図39に示すように、トップカバー3に、作動油室5a,5cに連通する一方の油路3hと、作動油室5b,5dに連通する他方の油路3iとが貫通して設けられている。トップカバー3の上面には、上記油路3h,3iにそれぞれ連通する流出入孔8a,8bを有する防衝弁ブロック8が取り付けられている。防衝弁ブロック8には、一方の流出入孔8aを流入側として他方の流出入孔8bに流出させる一方の防衝弁8cと、他方の流出入孔8bを流入側として一方の流出入孔8aに流出させる他方の防衝弁8dとが内装されている。
舵に異常に大きい衝撃荷重が作用して、例えば作動油室5a,5cの側の油圧が異常に上昇した場合、油路3hおよび流出入口8aを通って一方の防衝弁8cが作動し、作動油室5a,5c内の油が流出入孔8bおよび油路3iを通って作動油室5b,5dの側に逃げ、衝撃荷重が緩和される。逆に、作動油室5b,5dの側に異常な油圧が発生した場合、同様にして他方の防衝弁8dが開いて、作動油室5b,5d内の油が作動油室5a,5cの側へ逃げる。
特開2003−161371
上記の従来形式では、ベーン2dは運動体であるために、高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から圧油をベーン2dの各シール2f,2h,2jの各背面2s,2t,2uに導く手段として、図36に示すように圧力バルブ6を用いざるを得なかった。しかし、高圧の作動油がボール弁体6eを弁座6dに押し付けて逆止作用を行わせる際、その作用が圧力バルブ6のバルブ本体6aに衝撃を与え、それが繰り返されることによって、圧力バルブ6を油室連通孔2y内に螺合しているねじ部6gに緩みが生じ、遂には圧力バルブ6が油室連通孔2yから作動油室5a〜5d内に脱落して、舵取機が作動不能に陥るという問題があった。また、上記圧力バルブ6の脱落が作動油室5a〜5d内であるため、舵取機を分解して開放してみないと脱落を確認できないという問題があった。
さらに、圧油が一旦圧力バルブ6を通って作用孔2zおよび縦シール2jの背面2uに導入されると、ボール弁体6eと縦シール2jの両スカート部2xとによって密閉された空間が形成され、この空間の容積が小さいことから、各作動油室5a〜5d内の作動油の油圧が低下した後も、上記空間に蓄圧された圧油が縦シール2jのシール面2rを背面2uから不必要に強く押し続け、これにより、シール面2rの磨耗を促進し易いという問題があった。
また、高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から圧油を各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bの各背面1m,1n,2s,2u,3eに導入することによって、各シール面1g,1k,2p,2q,2r,3cを相手側の面に押し付けてシーリング性を与えているが、舵取機が無負荷あるいは低負荷である場合、作動油室に十分な油圧が発生していないため、各シール面1g,1k,2p,2q,2r,3cに発生する押付力が不足し、十分なシーリング性が得られず、作動油室5a〜5d内の作動油が漏洩し易くなるといった問題がある。従って、舵が命令された所定の角度位置を保つことができず、いわゆるクリーピング現象を生じて舵が流れることになる。すると、追従装置により舵取機は舵が流れた分を修正するように作動する。このようにして、舵を所定の位置に保つために、舵取機は絶えず修正作動を繰り返さねばならず、これは、作動の面からも、磨耗の面からも好ましくなかった。
尚、この問題を軽減するために、シーリングの直線長さが長くて影響を受ける度合いが大きいベーン2dの縦シール2jとセグメント1bの縦シール1dに対して、各縦シール2j,1dの各背面1m,2uとスリット1c,2iとの間の空間にそれぞれ波板ばね(図示省略)を装入して、作動油室5a〜5dに十分な油圧が発生していなくても、上記波板ばねの反発力によって各シール面1k,2rに初期面圧を与えられるようにしている。しかしながら、ハウジング1内にローター2を装着した後、縦シール1d,2jを縦スリット1c,2i内に上方から装入する時に、上記縦シール1d,2jと合わせて上記波板ばねを圧入しなければならないため、波板ばねのばね力をある程度犠牲にして波板ばねの圧入を可能にしなければならず、また、波板ばねを装入した後は、各シール面1k,2rの磨耗によって波板ばねのばね力が減少し、従って、シール面1k,2rに十分な初期面圧を与えられないという問題があった。
また、シーリングの直線長さが短く、波板ばねを設けていないベーン2dの上部および下部横シール2f,2hと、リング状であるために背面に波板ばねを設けることが困難な上部および下部リングシール1f,3bとについては、作動油室5a〜5dに十分な油圧が発生していない時に、シーリング性が落ちるという問題が残されていた。
さらに、装着した後の波板ばねは自由状態であるため、波板ばねを正確な位置に保つことは困難であり、舵取機の作動中に波板ばねの位置が変動して各シール面1k,2rの接触が不均等になり、シーリング性能のばらつきや各シール面1k,2rの偏磨耗をもたらすといった問題があった。
以上の問題は、船の航行中のほとんどの期間を占める小舵角での舵の作動の間、舵取機のシーリング性能の低下に起因するクリーピング作用のために舵取機の作動頻度を増加させ、従って、舵の作動が不安定になるばかりでなく、舵取機の磨耗を速めることを意味する。
また、図30に示すように、ベーン2dの縦シール2jと上部および下部横シール2f、2hとセグメント1bの縦シール1dとについては、各背面2u,2s,2t,1mに高圧の作動油を作用させて各シール面2r,2p,2q,1kをそれぞれ相手面(ハウジング1の内周面、トップカバー3の裏面、ハウジング1の内底面、ローター2の外周面)に押し付けて摺動する運動形態となるため、例えばローター2が一方向Fに回転する場合、シール面2r,2p,2q,1kにおける一方の端縁辺イが油に対するスクレーパーの作用を行い、その後を他方の端縁辺ロが摺動することになる。従って、シール面2r,2p,2q,1kの他方の端縁辺ロは潤滑のない状態での摺動となって、磨耗を促進するという問題があった。
次に、舵取機を組立てる際、ベーン2dの縦シール2jとセグメント1bの縦シール1dに対しては、ハウジング1内にローター2を装着した後、各縦シール1d,2jをそれぞれの縦スリット1c,2i内に上方から装入する。この際、各スカート部1o,2xに弾性変形を与えながら押し込んでいく必要があるが、各縦シール1d,2jの長さが長いため、各スリット1c,2iとの間の摩擦力がかなり大きなものになる。このため、各縦シール1d,2jの装入そのものが困難な作業になるばかりでなく、各スリット1c,2iへの装入中、各縦シール1d,2j全体が変形を余儀なくされ、均一な挿着ができなくなることが多いという問題があった。かかる各縦シール1d,2jの変形はシーリング性能を低下させるのみならず、縦シール1d,2jの偏磨耗を生ぜしめるという問題があった。
さらに、ベーン2dについては、上記のような縦シール2jの変形は、縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとの連接部に隙間を生じさせたり、適正な連接を妨げたりして、上記隙間からの作動油の漏洩を増大させるという問題がある。また、上記連接部に不規則な磨耗を生じさせるという問題もあり、さらに、縦シール2jを挿着した後には、縦シール2jの下端面と下部横シール2hとの連接状態が全く見えず、正しい連接状態になっているかどうかを目視で確認することができないという問題があった。
また、各シール1d,2f,2j,2hの状態を点検したり或いは各シール1d,2f,2j,2hを交換するためには、ベーン2dの上部横シール2fについては、トップカバー3を取り外すだけで容易にそれが可能であるが、ベーン2dの縦シール2jとセグメント1bの縦シール1dについては、それぞれのスリット1c、2i内への装着時の上述した困難性の裏返しとして、スリット1c,2iから抜き出すのに非常に苦労するのみならず、そのために縦シール2j,1dを傷つけてしまうことがあるという問題があった。
さらに、これを避けるための他の方法として、ローター2と舵軸との結合を解除した後、ローター2をハウジング1から抜き出すことによってベーン2dの縦シール2jとセグメント1bの縦シール1dとをそれぞれスリット1c,2iから取り出す方法があるが、これは非常に大掛かりな作業になるという問題があった。また、ベーン2dの下部横シール2hについては、同様にして、ローター2をハウジング1から抜き出してから下部横シール2hを取り出すしか方法がなく、非常に大掛かりな作業になるという問題があった。
さらに、先に図32〜図35に基づいて背景技術の項で説明したように、ベーン2dの上部および下部横シール2f,2hと縦シール2jをそれぞれ長手方向に若干の弾性圧縮を与えて各スリット2e,2g,2i内に装着する際、各横シール2f,2hの長手方向の弾性圧縮が各横シール2f,2hのスカート部2v、2wの切欠き部端面と縦シール2jのスカート部2xとの連接関係に及ぼす影響を解析することは極めて複雑であって、予めの算定が困難であり、このため、上部および下部横シール2f,2hのスカート部2v、2wの切欠き部端面と縦シール2jのスカート部2xとを適切な接触面圧をもって連接させることは、各シール2f,2h,2jが弾性材料であることによる許容製作誤差の大きいこととも相まって、極めて難しいという問題があった。上記連接部に間隙を生じたり或いは連接部における接触面圧が過小になると、連接部を通って高圧作動油が低圧側に漏洩するという問題があった。反対に、上記連接部の接触面圧が強くなり過ぎると、上部および下部横シール2f,2hの上下部横スリット2e,2g内への装着が困難になるばかりでなく、過大な接触力が上部および下部横シール2f,2hの端面の接触面圧に影響を及ぼし、さらに、縦シール2jのシール面2rにおいて上下端部の面圧に影響を及ぼすという問題があった。
また、縦シール2jと下部横シール2hとの連接部については、下部横シール2hは、ローター2のハウジング1内への組み付けのとき既に下部横スリット2g内に装着されていることから、ローター2の組み付け後、縦シール2jを縦スリット2i内に上方から押し込んで挿着していくときに、縦シール2jと下部横シール2hとの連接部は全く目視できない状態での作業となる。したがって、縦シール2jの下端部において、縦シール2jのスカート部2xと下部横シール2hのスカート部2wの切欠き部端面との連接を適正なものにすることは非常に困難であり、甚だしいときは、縦シール2jのスカート部2xの下端面が下部横シール2hのスカート部2wの上に乗り上げた状態でトップカバー3の装着による各シール1d,2f,2j,2hの圧縮が行われても、上記のように目視ができないため、縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとの連接部が相互に異常に弾性変形された状態になることがあり、これは、高圧作動油の低圧側への漏洩を大きくするばかりでなく、シールの異常磨耗を引き起こすという問題があった。
本発明は、下記(1)〜(4)に記載されたようなロータリーベーン式舵取機におけるシール構造を提供することを目的とする。
(1)脱落の可能性がある圧力バルブをベーンに設ける必要がないようにするとともに、各シールの背面に作動油室からの圧油を導く手段を一元化して簡素化する。
(2)上記一元化によって、作動油室に油圧が発生していないときでも、全てのシールに対して背面に一定値以上の油圧をかけられるようにして、確実にシーリング作用を行えるようにする。
(3)シールの背面に高圧作動油を作用させることによってシール面に高い接触面圧を与えてもシール面に潤滑を確保して磨耗を低減できるようにする。
(4)ベーンの縦シールと横シールとの連接部における問題をなくし、さらに、ベーンの縦シールと下部横シールおよびセグメントの縦シールの挿着・取外しを容易にするとともに、異常変形を生じさせることのない適正な装着を可能にする。
上記課題を解決するために、本第1発明は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置する環状のトップカバーとを有し、ローターの外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを配置し、ハウジングの内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを配置し、ベーンとセグメントによって前記油室用空間を複数の作動油室に区画し、上記複数の作動油室は、供給された圧油によってローターを左右一方向へ回転させる第1グループの作動油室と左右他方向へ回転させる第2グループの作動油室との2つのグループから成り、ローターの各ベーンに、トップカバーの裏面およびハウジングの内周面と内底面にそれぞれ対向するように、その半径方向先端縁部と上下両端面とに縦および横スリットを形成し、縦スリットに、ハウジングの内周面に摺接する縦シールを挿入し、上部横スリットに、トップカバーの裏面に摺接する上部横シールを挿入し、下部横スリットに、ハウジングの内底面に摺接する下部横シールを挿入し、前記各シールを弾性材料で形成し、縦シールの背面を上部および下部横シールの背面に連通し、摺動面に接触面圧を与えるように縦シールの背面に圧油を作用させ、
第1グループの作動油室に連通する一方の流出入孔と、第2グループの作動油室に連通する他方の流出入孔と、一方の流出入孔から流入した圧油を他方の流出入孔へ流出する一方の防衝弁と、他方の流出入孔から流入した圧油を一方の流出入孔へ流出する他方の防衝弁とを備えた防衝弁ブロックが配置されたロータリーベーン式舵取機におけるシール構造であって、
上記一方の流出入孔から分岐した一方の分岐油路に一方の逆止弁の入口が接続され、他方の流出入孔から分岐した他方の分岐油路に他方の逆止弁の入口が接続され、両逆止弁の出口を連通する連通油路が防衝弁ブロックに設けられ、上記防衝弁ブロックの連通油路とローターの上部端面に設けた円環状の上部リング溝とを連通する給油通路が防衝弁ブロックとトップカバーとにわたり設けられ、上部リング溝とベーンの縦スリットの底面とを連通するシーリング油孔がローターからベーンを通って設けられているものである。
これによると、舵に異常に大きな衝撃荷重が作用して、例えば第1グループの作動油室の油圧が異常に上昇した場合、第1グループの作動油室の圧油が一方の流出入孔から流入し、一方の防衝弁が作動して上記圧油を他方の流出入孔へ流出する。これにより、上記圧油は他方の流出入孔から排出されて第2グループの作動油室へ逃げるため、衝撃荷重が緩和される。尚、第2グループの作動油室の油圧が異常に上昇した場合も同様に、第2グループの作動油室の圧油が第1グループの作動油室へ逃げるため、衝撃荷重が緩和される。
また、一方の逆止弁の入口は一方の分岐油路を介して第1グループの作動油室と常時連通し、他方の逆止弁の入口は他方の分岐油路を介して第2グループの作動油室と常時連通している。例えば第1グループの作動油室の油圧が第2グループの作動油室の油圧よりも高圧である場合、第1グループの作動油室の圧油は、一方の逆止弁を開いて連通油路に通じ、他方の逆止弁によって低圧側である第2グループの作動油室に流入することを阻止されて、連通油路から給油通路を経て上部リング溝に供給され、上部リング溝からシーリング油孔を通って縦スリットの底面へ導入され、さらに、縦シールの背面を上部および下部横シールの背面に連通しているため、縦シールの背面側から上部および下部横シールの背面側にも導入される。これにより、圧力の高い圧油が縦シールの背面と上部および下部横シールの背面とに作用し、縦シールと上部および下部横シールとによって確実なシーリング作用が発揮される。尚、反対に、第2グループの作動油室の油圧が第1グループの作動油室の油圧よりも高圧である場合は、同様に、第2グループの作動油室の圧油が縦スリットの底面へ導入される。
また、縦シールと上部および下部横シールとにシーリング作用を行わせるために必要とされる圧油は全て一元的に防衝弁ブロックを介して高圧側の作動油室から供給されることになり、したがって、従来のような脱落の可能性がある圧力バルブをベーンに設ける必要は無く、圧力バルブの脱落の問題が解消され、さらに、圧油を導く手段を一元化して簡素化することができる。
本第2発明は、作動油室に作動油を供給する油圧回路に、作動油供給先を第1グループの作動油室と第2グループの作動油室とのいずれかに切り換える方向切換弁と、この方向切換弁の切り換えを制御する制御油圧を制御油圧ラインから方向切換弁へ供給する制御油圧ポンプとが設けられ、防衝弁ブロックに、パイロット油流入口と、パイロット油逆止弁と、パイロット油流入口とパイロット油逆止弁の入口側とに連通するパイロット油路と、パイロット油逆止弁の出口側と連通油路とに連通するパイロット油連通油路とが設けられ、上記防衝弁ブロックのパイロット油流入口を上記制御油圧ラインに連通したものである。
これによると、第1および第2のグループの各作動油室に、シーリング作用に必要な十分な油圧が発生しておらず、この油圧が制御油圧ラインの油圧よりも低いときは、制御油圧ラインからパイロット油流入口を経てパイロット油路に供給されている油圧が、パイロット油逆止弁を押し開き、パイロット油連通油路を通って連通油路へ供給され、連通油路から給油通路を経て上部リング溝に供給され、上部リング溝からシーリング油孔を通って縦スリットの底面へ導入され、さらに、縦シールの背面側から上部および下部横シールの背面側にも導入され、ベーンの縦シールと上部および下部横シールとにシーリング作用を行わせるとともに、一方および他方の逆止弁に逆止作用を与えて、上記油圧が各作動油室に漏洩するのを防ぐ。
また、各作動油室に発生する油圧が制御油圧ラインの油圧よりも高くなれば、作動油室の油圧が、第1発明と同様にして縦スリットの底面へ導入され、縦シールと上部および下部横シールとにシーリング作用を行わせる。
従って、舵取機が無負荷あるいは低負荷であって、シーリングのために必要な油圧が作動油室に発生していないときでも、最低限、上記制御油圧ラインの油圧がベーンの縦シールと上部および下部横シールとに作用することになるため、常時、必要最低限の一定値以上の油圧によってシーリング作用が行われることになり、いかなる状態であっても確実なシーリング作用が行われることになる。従って、船の航行中のほとんどの期間を占める小舵角での舵の作動の間、すなわち、舵取機が低負荷あるいは無負荷状態での作動の間でも、舵取機のシーリング性能が確実に保たれることになり、シーリング性能の低下に起因する舵取機のクリーピングが防止され、それによる舵取機の作動頻度の増加が避けられる。従って、舵の作動が安定するばかりでなく、舵取機の磨耗も減少する。
さらに、従来のように、上記縦シールの背面に波板ばねを圧入する必要がなくなり、波板ばね使用に伴う従来の諸問題が解消され、シーリング機能の低下や劣化が避けられるとともに、シーリング性能の均一化や縦シールのシール面の偏磨耗防止が可能となる。
本第3発明は、作動油室に作動油を供給する油圧回路に、油圧ポンプから吐出された作動油の供給先を第1グループの作動油室と第2グループの作動油室とのいずれかに切り換える方向切換弁と、この方向切換弁から油タンクへの戻り油ラインとが設けられ、上記戻り油ラインに圧力調整弁を設けて、方向切換弁の切り換えを制御する制御油圧を上記油圧ポンプの吐出口側から方向切換弁へ供給するように構成し、上記方向切換弁と圧力調整弁との間のラインが一定の油圧以上に規定される規定油圧ラインとして形成され、防衝弁ブロックに、パイロット油流入口と、パイロット油逆止弁と、パイロット油流入口とパイロット油逆止弁の入口側とに連通するパイロット油路と、パイロット油逆止弁の出口側と連通油路とに連通するパイロット油連通油路とが設けられ、上記防衝弁ブロックのパイロット油流入口が上記規定油圧ライン又は油圧ポンプの吐出側のラインに連通しているものである。
これによると、第1および第2のグループの各作動油室に、シーリング作用に必要な十分な油圧が発生しておらず、この油圧が規定油圧ライン(又は油圧ポンプの吐出側のライン)の油圧よりも低いときは、規定油圧ライン(又は油圧ポンプの吐出側のライン)からパイロット油流入口を経てパイロット油路に供給されている油圧が、パイロット油逆止弁を押し開き、パイロット油連通油路を通って連通油路へ供給され、連通油路から給油通路を経て上部リング溝に供給され、上部リング溝からシーリング油孔を通って縦スリットの底面へ導入され、さらに、縦シールの背面側から上部および下部横シールの背面側にも導入され、ベーンの縦シールと上部および下部横シールとにシーリング作用を行わせるとともに、一方および他方の逆止弁に逆止作用を与えて、上記油圧が各作動油室に漏洩するのを防ぐ。
また、各作動油室に発生する油圧が規定油圧ラインの油圧よりも高くなれば、作動油室の油圧が、第1発明と同様にして縦スリットの底面へ導入され、縦シールと上部および下部横シールとにシーリング作用を行わせる。
従って、舵取機が無負荷あるいは低負荷であって、シーリングのために必要な油圧が作動油室に発生していないときでも、最低限、上記規定油圧ライン(又は油圧ポンプの吐出側のライン)の油圧がベーンの縦シールと上部および下部横シールとに作用することになるため、常時、必要最低限の一定値以上の油圧によってシーリング作用が行われることになり、いかなる状態であっても確実なシーリング作用が行われることになる。
これにより、船の航行中のほとんどの期間を占める小舵角での舵の作動の間、シーリング性能の低下に起因するクリーピングが防止され、舵取機の作動頻度の増加が避けられるため、舵の作動が安定するばかりでなく、舵取機の摩耗が減少する。
本第4発明は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置する環状のトップカバーとを有し、ローターの外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを配置し、ハウジングの内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを配置し、ベーンとセグメントによって前記油室用空間を複数の作動油室に区画し、ローターの各ベーンに、トップカバーの裏面およびハウジングの内周面と内底面にそれぞれ対向するように、その半径方向先端縁部と上下両端面とに縦および横スリットを形成し、
縦スリットに、ハウジングの内周面に摺接する縦シールを挿入し、上部横スリットに、トップカバーの裏面に摺接する上部横シールを挿入し、下部横スリットに、ハウジングの内底面に摺接する下部横シールを挿入し、上記各シールを弾性材料で形成したロータリーベーン式舵取機におけるシール構造であって、
上記縦スリットは、底面と、ローターの周方向において相対向する一対の側面とから成り、上記ベーンは、ベーン本体と、ベーン本体に着脱自在なシール抑えとに分割され、ベーン本体に縦スリットの底面と一側面とが形成され、シール抑えに縦スリットの他側面が形成され、シール抑えをベーン本体から取り外した状態では、縦スリットの他側方が開放されるものである。
これによると、ローターをハウジングに組み付けるときは、シール抑えをベーン本体から取り外した状態で、ベーン本体の下部横スリット内に下部横シールを挿着し、この状態で、ローターをハウジングに内装する。シール抑えをベーン本体から取り外した状態では、縦スリットの他側方が開放されており、縦スリットの底面と一側面とが作動油室の空間内に露出するため、この作動油室の空間を利用して、縦シールを縦スリットの開放された他側方から横移動させてベーン本体の縦スリットに挿入し、その後、シール抑えをベーン本体に装着する。このとき、縦シールのスカート部は弾性圧縮されて正規の挿着状態となる。その後、上部横シールを上方から上部横スリット内に挿着する。
これにより、目視で確認しながら縦シールを容易かつ正確にベーンに装着することができ、縦シールに不均等な歪みが生じるのを防止することができ、縦シールの下端部が下部横シールと適切に連接しているかどうかを目視で確認することができる。
また、シール抑えをベーン本体から取り外した状態で、ローターをハウジングに内装した後、下部横シールを周方向に撓ませて下部横スリット内に挿着することもできるため、先に下部横スリット内に下部横シールを挿着した状態でローターをハウジング内に組み付ける場合に考えられる、作業中の下部横シールの自然脱落の心配がなくなる。
本第5発明は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置する環状のトップカバーとを有し、ローターの外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを配置し、ハウジングの内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを配置し、ベーンとセグメントによって前記油室用空間を複数の作動油室に区画し、ローターの各ベーンに、トップカバーの裏面およびハウジングの内周面と内底面にそれぞれ対向するように、その半径方向先端縁部と上下両端面とに縦および横スリットを形成し、縦スリットに、ハウジングの内周面に摺接する縦シールを挿入し、上部横スリットに、トップカバーの裏面に摺接する上部横シールを挿入し、下部横スリットに、ハウジングの内底面に摺接する下部横シールを挿入し、上記各シールを弾性材料より形成したロータリーベーン式舵取機におけるシール構造であって、
縦シールは、基部と、基部の背面の両側部から縦スリットの奥側へ向かって突出するとともに周方向において相対向する一対のスカート部とを有し、上部および下部横シールはそれぞれ、基部と、シール面の反対側の背面に形成された凹窩と、この凹窩の周囲を取り囲む堤部とを有し、上記上部および下部横シールの凹窩は縦シールのスカート部の深さとほぼ同じ深さを有し、縦シールの上下両端面と上部および下部横シールとを連接した状態で、縦シールの両スカート部間の空間と上部および下部横シールの各凹窩とが連通し、縦シールの両スカート部の先端部と、上部および下部横シールの周方向において相対向する一対の堤部の先端部とは、それぞれ装着前の自由状態において基部の側面よりも僅かに周方向外側へ突出し、上記縦シールの上端面が上部横シールの半径方向外端側の背面に当接し、縦シールの下端面が下部横シールの半径方向外端側の背面に当接し、上記互いに当接する縦シールの上下両端面と上下両横シールの半径方向外端側の背面とがそれぞれ平坦に形成され、上記縦シールの両スカート部間の空間に圧油が供給されるものである。
これによると、縦シールの両スカート部間の空間と上部および下部横シールの各凹窩とが連通しているため、縦シールの両スカート部間の空間に供給された圧油はさらに縦シールの背面側から上部および下部横シールの各凹窩内へ供給される。これにより、縦シールの背面と上部および下部横シールの各背面とに油圧が作用するため、縦シールおよび横シールの各シール面の接触面圧が確保される。
また、縦シールの上下両端面と上部および下部横シールとは、平坦な面同士の当接によって、連接される。このため、縦シールと各横シールとの間のそれぞれの弾性圧縮の差および熱膨張の差によって、上記連接部の接触面圧、および、各横シールの外側端面とハウジングの内周面との間の接触面圧、および、各横シールの内側端面と各横スリットの内周側の側端面との間の接触面圧が不適正に影響を受けることはなくなる。また、目視できない状態での作業であるにもかかわらず、縦シールと下部横シールとの連接は自然に適正なものになる。また、トップカバーを組付ける際にシールを弾性圧縮するに当って、縦シールと上部および下部横シールとの連接部における異常な変形の発生を防止することができる。
これらのことにより、縦シールと上部および下部横シールとの連接部から高圧作動油が低圧側に漏洩することが避けられ、また、連接部の異常な変形による各シールの異常な磨耗も避けられる。
本第6発明は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置する環状のトップカバーとを有し、ローターの外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを配置し、ハウジングの内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを配置し、ベーンとセグメントによって前記油室用空間を複数の作動油室に区画したロータリーベーン式舵取機におけるシール構造であって、
ベーンの上面に、ローターの周方向において相対向する一対の上部左右横スリットを形成し、ベーンの下面に、上記周方向において相対向する一対の下部左右横スリットを形成し、ベーンの半径方向先端面に、上記周方向において相対向する一対の左右縦スリットを形成し、上記左右縦スリットの上下両端部を上部左右横スリットと下部左右横スリットとに連通し、上記上部左右横スリットにそれぞれ、トップカバーの裏面に摺接する上部左右横シールを挿入し、下部左右横スリットにそれぞれ、ハウジングの内底面に摺接する下部左右横シールを挿入し、左右縦スリットにそれぞれ、ハウジングの内周面に摺接する左右縦シールを挿入し、上記各シールは弾性材料より形成され、左右縦シールの各水平断面は、左右縦シール間を通る半径方向の直線に対して、線対称の関係を保つように配置され、左右縦シールはそれぞれ、上記直線寄りの位置に配置された基部と、基部から周方向に沿って上記直線とは反対方向へ突出する第一リップおよび第二リップとを有し、上記第一リップの先端部は、組込状態においてハウジング1の内周面に摺接し、組込んでいない自由状態において基部の半径方向の外側先端面よりも半径方向外側へ突出し、第一リップの先端部と左右縦スリットの外側側面との間に隙間が形成され、上記第二リップは第一リップよりも半径方向における内側に形成され、第二リップの先端部は、組込状態において左右縦スリットの外側側面に当接し、組込んでいない自由状態において基部の半径方向の内側先端面よりも半径方向内側へ突出し、上部および下部の左右横シールはそれぞれ、基部と、背面に形成された凹窩と、この凹窩の周囲を取り囲む堤部とを有し、上部および下部左右横シールの周方向において相対向する一対の堤部の先端部は、それぞれ組込んでいない自由状態において、基部の周方向で相対向する一対の側面よりも僅かに周方向外側へ突出し、上記互いに当接する左右縦シールの上下両端面と上部および下部左右横シールの半径方向外端側の背面とがそれぞれ平坦に形成され、左右縦シールの上下両端面と上部および下部左右横シールとを連接した状態で、上部および下部左右横シールの各凹窩が左右縦シールの第一リップと第二リップとの間に形成された空隙に連通するものである。
これによると、例えば、左右縦シールのうち、右縦シール側に面した作動油室が高圧状態になった場合、上記作動油室内の高圧の圧油は、右縦シールの第一リップの先端部と右縦スリットの外側側面との隙間を通って、第一リップと第二リップとの間の空隙に侵入する。この時の上記空隙に作用する油圧によって、第一リップがハウジングの内周面に押し付けられるとともに、第二リップが右縦スリットの底面に押し付けられ、上記作動油室内の高圧作動油が右縦シールおよび右縦スリットの底面を伝って隣接する低圧状態の作動油室に漏洩することが防がれる。
また、右縦シールの上記空隙に侵入した高圧作動油は、同時に、空隙から上部および下部右横シールのそれぞれの凹窩にも侵入するため、上部および下部右横シールの各シール面を相手面であるトップカバーの裏面およびハウジングの内底面にそれぞれ押し付けるとともに、周方向において相対向する一対の堤部を上部および下部右横スリットのそれぞれの各側面に押し付ける。これにより、高圧作動油が上部および下部右横シールから低圧状態の作動油室へ漏洩することが防がれる。
また、左縦シール側に面した作動油室が高圧状態になった場合も同様であり、作動油室内の高圧作動油が左縦シールおよび左縦スリットの底面を伝って隣接する低圧状態の作動油室に漏洩することが防がれ、さらに、高圧作動油が上部および下部左横シールから低圧状態の作動油室へ漏洩することが防がれる。
これにより、左右縦シールの背面に高圧作動油室からの圧油を別の油路を通して導く必要はなくなり、また、ベーンを横断して圧力バルブを設ける必要もなく、さらに、各シールに対して、高圧作動油の作用のもとに作動する時間が半減するので、各シールの寿命が理論的に2倍になるという効果が生まれる。
さらに、左右縦シールの上下両端面と上部および下部左右横シールとは、平坦な面同士の当接によって、連接する。このため、左右縦シールと上部および下部左右横シールとにそれぞれ初期弾性圧縮を与えて装着する際、特に、目視できない状態での作業となる下部左右横シールと左右縦シールとの連接において、この連接部の異常な変形や接触面圧への不適正な影響を避けることができ、従って、作動油の漏洩やシールの異常な磨耗が避けられる。
本第7発明は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置する環状のトップカバーとを有し、ローターの外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを配置し、ハウジングの内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを配置し、ベーンとセグメントによって上記油室用空間を複数の作動油室に区画したロータリーベーン式舵取機におけるシール構造であって、
ベーンの先端面の下隅部に、円弧状に湾曲した曲成部が形成され、ハウジングの内周面の下隅部に、上記ベーンの曲成部に対向する円弧状の曲成部が形成され、ベーンの上端面に上部横スリットが形成され、この上部横スリット内に、トップカバーの裏面に摺接する上部横シールが挿入され、ベーンの先端面から上記曲成部を経てローターの下端の半径方向端面に至る曲成スリットがベーンに形成され、この曲成スリットに、ハウジングの内周面と内底面とに摺接する曲成シールが挿入され、上記各シールは弾性材料で形成され、
曲成シールは、基部と、ハウジングの内周面および内底面に摺接するシール面と、シール面の反対側に形成された背面の両側部から曲成スリットの奥側へ向かって突出するとともに周方向において相対向する一対のスカート部とを有し、上記スカート部の先端部は装着前の自由状態において上記基部の側面よりも僅かに周方向外側へ突出しており、
上記曲成スリットは、底面と、ローターの周方向において相対向する一対の側面とから成り、上記ベーンは、ベーン本体と、ベーン本体に着脱自在なシール抑えとに分割され、ベーン本体に曲成スリットの底面と一側面とが形成され、シール抑えに曲成スリットの他側面が形成され、シール抑えをベーン本体から取り外した状態では、曲成スリットの他側方が開放されるものである。
これによると、従来の縦シールと下部横シールとの連接が無くなるので、それに伴う上記した従来の諸問題が解決される。さらに、ローターをハウジングに組み付けるときは、シール抑えをベーン本体から取り外した状態で、ローターをハウジングに内装する。シール抑えをベーン本体から取り外した状態では、曲成スリットの他側方が開放されており、曲成スリットの底面と一側面とが作動油室の空間内に露出するため、この作動油室の空間を利用して、曲成シールを曲成スリットの開放された他側方からベーン本体の曲成スリットに挿入し、その後、シール抑えをベーン本体に装着する。このとき、曲成シールのスカート部は弾性圧縮されて正規の挿着状態となる。その後、上部横シールを上方から上部横スリット内に挿着する。
これにより、目視で確認しながら曲成シールを容易かつ正確にベーンに装着することができる。また、ローターを舵軸との結合を外して吊り上げなくてもベーンのシールの開放点検ができる。
本第8発明は、シールのシール面の周方向における中央部に、油溝が長手方向にわたり形成され、上記油溝の底部と背面側の両スカート部間の空間又は上記油溝の底部と背面側の凹窩に連通する微細油孔がシールの基部に形成されているものである。
これによると、作動油室からシールの背面側の両スカート部間の空間又は背面側の凹窩に導入された作動油のうち、微量の作動油が微細油孔を通って油溝に供給される。
例えば、シールを縦シールとした場合、ローターが左右一方向に回転して、縦シールのシール面がハウジングの内周面に対して一方向に摺動する際、シール面の一方側の端縁辺が油に対してスクレーパーの作用を行って、シール面とハウジングの内周面との間の作動油による潤滑を破壊するが、上記油溝に作動油が満たされているため、後続のシール面の油溝よりも他方側の部分が潤滑のない状態で摺動することは避けられ、シール面の油溝よりも他方側の部分の潤滑が確保される。従って、従来において問題であった、スクレーパー作用による潤滑のない状態での摺動およびそれによる磨耗の促進を防ぐことができる。また、シールを曲成シール又は上部横シール或いは下部横シールとした場合も同様な作用効果が得られる。
以下、本発明の第1の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
尚、先に図27〜図39において説明した従来のものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付して説明を省略する。
複数の作動油室5a〜5dは、対極に配置されてローター2を左右一方向へ回転させる第1グループの作動油室5a,5cと、対極に配置されてローター2を左右他方向へ回転させる第2グループの作動油室5b,5dとの2つのグループから成る。また、ベーン2dの縦シール2jの上下両端部において、縦シール2jの背面2uは上部および下部横シール2f,2hの背面2s,2tにそれぞれ連通している。
先ず、回転体であるローター2のベーン2dの各シール2f,2h,2jに対して背面2s,2t,2uに圧油を導く手段について説明する。
図1に示すようにトップカバー3の上面に防衝弁ブロック10が設けられ、図4〜図6に示すように、この防衝弁ブロック10には一方の流出入孔10aと他方の流出入孔10bとが形成され、一方の流出入孔10aはトップカバー3に形成された一方の油路3hに連通しており、他方の流出入孔10bはトップカバー3に形成された他方の油路3iに連通している。尚、上記一方の油路3hは第1グループの作動油室5a,5cに連通し、他方の油路3iは第2グループの作動油室5b,5dに連通している。
また、防衝弁ブロック10内には防衝弁8c,8dが装着され、これら防衝弁8c,8dは図39に示した従来のものと同じ構成を有している。
上記一方の流出入孔10aは一方の防衝弁8cの流入側および他方の防衝弁8dの流出側に連通し、他方の流出入孔10bは他方の防衝弁8dの流入側および一方の防衝弁8cの流出側に連通する。
これにより、舵に異常に大きい衝撃荷重が作用して、例えば作動油室5a,5cに異常に高い油圧が発生すれば、その油圧は、作動油室5a,5cから一方の油路3hと一方の流出入孔10aとを通って一方の防衝弁8cを作動せしめ、一方の防衝弁8cから他方の流出入孔10bへ流出し、他方の油路3iを通って、低圧側である作動油室5b,5dに逃げる。これにより、舵取機にかかる衝撃荷重が緩和される。逆に、作動油室5b,5dの側に異常に高い油圧が発生すれば、その油圧は、作動油室5b,5dから他方の油路3iと他方の流出入孔10bとを通って他方の防衝弁8dを作動せしめ、他方の防衝弁8dから一方の流出入孔10aへ流出し、一方の油路3hを通って、低圧側である作動油室5a,5cに逃げる。これにより、舵取機にかかる衝撃荷重が緩和される。
また、上記防衝弁ブロック10の一方の流出入孔10aに一方の分岐油路10cを設け、この分岐油路10cの終端部から立上油路10eを設けて、その端部に一方の逆止弁10gの入口を接続している。また、他方の流出入孔10bに他方の分岐油路10dを設け、この分岐油路10dの終端部から立上油路10fを設けて、その端部に他方の逆止弁10hの入口を接続している。また、防衝弁ブロック10内において、一方の逆止弁10gの出口と他方の逆止弁10hの出口とを連通油路10iで連通し、さらに、上記連通油路10iと防衝弁ブロック10の下面に形成された圧油抽出口10kとをブロック側給油通路10jで連通している。
図1,図2に示すように、ローター2の上部端面2kに円環状の上部リング溝11aを設け、この上部リング溝11aと防衝弁ブロック10の圧油抽出口10kとを連通するように、トップカバー3にカバー側給油通路12aを穿孔する。これにより、上記連通油路10iと上部リング溝11aとはブロック側およびカバー側給油通路10j,12aと圧油抽出口10kとを介して連通している。また、上記上部リング溝11aは、ローター2のバランス孔2mの上端部に連通するとともに、トップカバー3に設けられた上部リングスリット3aの内周側端縁部にも連通する。
また、図1,図3に示すように、ローター2の下部端面21に円環状の下部リング溝11cを設け、この下部リング溝11cは、ローター2のバランス孔2mの下端部に連通するとともに、ハウジング1の内底面に設けられた下部リングスリット1eの内周側端縁部にも連通する。
また、図1に示すように、ローター2とベーン2dとにはシーリング油孔11bが形成されている。上記シーリング油孔11bの上端開口は上記上部リング溝11aに連通し、下端開口はベーン2dの縦スリット2iの底面に連通している(図13参照)。
以下、上記した構成における作用を説明する。
図4〜図6に示すように、防衝弁ブロック10の一方の逆止弁10gは一方の分岐油路10cと立上油路10eとを介して第1グループの両作動油室5a,5cと常時連通し、また、他方の逆止弁10hは他方の分岐油路10dと立上油路10fとを介して第2グループの両作動油室5b,5dと常時連通している。
このため、第1グループの両作動油室5a,5cと第2グループの両作動油室5b,5dとのうち、いずれか高い油圧の側のグループの作動油室、例えば作動油室5a,5cの圧油が、一方の逆止弁10gを開いて連通油路10iに通じ、他方の逆止弁10hによって低圧側の作動油室5b,5dに流入することを阻止されて、ブロック側給油通路10jから圧油抽出口10kに至り、図1,図2に示すように、防衝弁ブロック10の圧油抽出口10kを経てトップカバー3のカバー側給油通路12aを通り、ローター2の上部リング溝11aに供給され、上部リング溝11aからシーリング油孔11b(図1,図13参照)を通って各ベーン2dの縦スリット2iの底面へ導入され、縦シール2jの背面2uに作用する。
さらに、上記縦シール2jの背面2uは上部および下部横シール2f,2hの背面2s,2tにそれぞれ連通しているため、縦シール背面2uに導入された圧油は、上部および下部横シール2f,2hの背面2s,2tにも導入されて作用し、縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとの各シール面2r,2p,2qにシーリング作用を行わせる。これにより、上記縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとによって確実なシーリング作用が発揮される。
尚、反対に、第2グループの両作動油室5b,5dの油圧が第1グループの両作動油室5a,5cの油圧よりも高圧である場合は、同様に、第2グループの両作動油室5b,5dの油圧が各ベーン2dの縦スリット2iの底面へ導入される。
また、図2に示すように、上部リング溝11aは上部リングスリット3aの内周側端縁部に連通しているため、例えば特開2003−161371「ロータリーベーン式舵取機のシール構造」の請求項3および請求項4に示されるリングシール構造の場合、上記上部リング溝11a内の圧油は、上部リングシール3bの内周側側面に作用して、上部リングシール3bを外周方向に押し、これにより、高圧の作動油室(5a,5c又は5b,5d)内の作動油が上部リングシール3bの外周側面から漏洩するのを確実に防ぐことができる。同時に、上記圧油は上部リングシール3bの背面3eにも作用して、そのシール面3cをローター2の上部端面2kに押し付けるため、高圧の作動油室(5a,5c又は5b,5d)内の作動油が上部リングシール3bのシール面3cから漏洩するのを確実に防ぐことができる。
さらに、上記圧油は、図3に示すように、ローター2の上部リング溝11aからバランス孔2mを通って下部リング溝11cに供給され、下部リング溝11cから下部リングスリット1eの内周側端縁部に連通するため、上記上部リングシール3bと同様に、高圧の作動油室(5a,5c又は5b,5d)内の作動油が下部リングシール1fの外周側面とシール面1gとから漏洩するのを確実に防ぐことができる。
尚、セグメント1bの縦シール1dが、特開2003−161371「ロータリーベーン式舵取機のシール構造」の請求項6および請求項7に示される構成である場合は、縦シール1dの背面に高圧の作動油室から導いた圧油を作用させる必要はないが、従来のものと同じ構成のセグメント1bの縦シール1dの場合は、図2の仮想線で示すように、トップカバー3の裏面において、上部リングスリット3aの底面と各セグメント1bの縦シール1dの上端とを連通するように油孔3jを穿孔する。
これにより、防衝弁ブロック10を介して高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から抽出された圧油は、セグメント1bの縦シール1dの背面1mにも作用するため、縦シール1dのシール面1kにシーリング作用を行わせる。
以上のように、各シール1d,1f,2f,2h,2j,3bのシーリング作用を行わせるために必要とされる圧油は、全て一元的に防衝弁ブロック10を介して高圧側となる作動油室(5a,5c又は5b,5d)から抽出されて供給されることになり、したがって、図36,図37に示した従来のベーン2dに(場合によってはセグメント1bにも)横断して設ける必要があった圧力バルブ6を無くすことができ、圧力バルブ6の脱落の問題が解消される。また、シーリング作用を行わせるために必要とされる圧油を導く手段が一元化されるため簡素化される。
次に、本発明の第2の実施の形態を図7〜図10に基づいて説明する。
図7〜図9は、ローター2のベーン2dのシール2f,2h,2jに対して背面に圧油を導く手段である防衝弁ブロック13を示す。
上記防衝弁ブロック13には、先の第1の実施の形態におけるものと同じ流出入孔10a,10b、防衝弁8c,8d、分岐油路10c,10d、立上油路10e,10f、逆止弁10g,10h、連通油路10i、ブロック側給油通路10jおよび圧油抽出口10kを設けており、さらに、これに加えて、パイロット油導入手段を設けている。
上記パイロット油導入手段は、パイロット油流入口13aとパイロット油逆止弁13bとパイロット油路13cとパイロット油連通油路13dとで構成されている。すなわち、上記パイロット油流入口13aは防衝弁ブロック13の一方の側面に設けられ、パイロット油逆止弁13bは防衝弁ブロック13の他方の側面に設けられている。上記パイロット油路13cはパイロット油流入口13aからパイロット油逆止弁13bの入口(流入)側に至るように設けられている。上記パイロット油連通油路13dはパイロット油逆止弁13bの出口(流出)側と上記連通油路10iの他端部とに連通して設けられている。
図10の左側回路に示すように、各作動油室5a〜5dへ作動油を供給する油圧回路には、油圧ポンプ9aから吐出された作動油の供給先を第1グループの作動油室5a,5cと第2グループの作動油室5b,5dとのいずれかに切り換える方向切換弁9bと、この方向切換弁9bの切り換えを制御する制御油圧を制御油圧ライン9iから方向切換弁9bへ供給する制御油圧ポンプ9gとが設けられている。上記パイロット油流入口13aは、制御油圧ポンプ9gから方向切換弁9bに至る上記制御油圧ライン9iに連通されている。
以下、上記した構成における作用を説明する。
図7〜図9および図10の左側回路に示すように、防衝弁ブロック13の両逆止弁10g,10hは、先の第1の実施の形態において説明したように、それぞれ第1グループの作動油室5a、5cおよび第2グループの作動油室5b、5dと常時連通している。また、パイロット油逆止弁13bは、図10の左側回路に示すように、制御油圧ライン9iに常時連通している。
例えば、第1グループの作動油室5a,5cの油圧が、第2グループの作動油室5b,5dの油圧よりも高く、かつ、制御油圧ライン9iの油圧よりも高い場合、上記作動油室5a,5cの油圧は、一方の逆止弁10gを押し開くとともに、他方の逆止弁10hに逆止作用を与えて、この油圧が低圧側の作動油室5b、5dに漏洩するのを防ぎ、また、連通油路10iの他端部からパイロット油連通油路13dを通ってパイロット油逆止弁13bに逆止作用を与え、この油圧が制御油圧ライン9iに漏洩するのを防ぐ。
そして、一方の逆止弁10gを出た圧油は、先に述べた第1の実施の形態と同様に、ベーン2dの縦シール2jの背面2uに作用するとともに、上部および下部横シール2f,2hの背面2s,2tにも作用して、縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとの各シール面2r,2p,2qにシーリング作用を行わせる。さらに、上記油圧は上部および下部リングシール3b,1fにも連通して、上部および下部リングシール3b,1fにシーリング作用を行わせる。
また、反対に、第2グループの作動油室5b,5dの油圧が、第1グループの作動油室5a,5cの油圧よりも高く、かつ制御油圧ライン9iの油圧よりも高い場合、上記第2グループの作動油室5b,5dの油圧は、他方の逆止弁10hを押し開いて、各シール2j,2f,2h,3b,1fに連通してそれぞれシーリング作用を行わせるとともに、一方の逆止弁10gとパイロット油逆止弁13bとに逆止作用を与えて、この油圧が、低圧側の作動油室5a,5cに漏洩するのを防ぐとともに、制御油圧ライン9iに漏洩するのを防ぐ。
また、各作動油室5a、5b、5c、5dに、シーリング作用に必要な十分な油圧が発生しておらず、この油圧が上記制御油圧ライン9iの油圧よりも低いときは、制御油圧ライン9iからパイロット油流入口13aを経てパイロット油路13cに供給されている油圧が、パイロット油逆止弁13bを押し開き、パイロット油連通油路13dを通って連通油路10iへ供給され、先の実施の形態1と同様にブロック側およびカバー側給油通路10j,12aから各シール2j,2f,2h,3b,1fに連通してそれぞれシーリング作用を行わせるとともに、両逆止弁10g,10hに逆止作用を与えて、この油圧が各作動油室5a,5b,5c,5dに漏洩するのを防ぐ。
さらに、先の第1の実施の形態の図2の仮想線で示した油孔3jを穿孔することにより、縦シール1dにもシーリング作用を行わせることができる。
従って、舵取機が無負荷あるいは低負荷であって、シーリングのために必要な油圧が作動油室5a,5b,5c,5dに発生していないときでも、最低限、上記制御油圧ライン9iの油圧が各シール2j,2f,2h,3b,1f,1dに作用することになるため、常時、必要最低限の一定値以上の油圧によってシーリング作用が行われることになり、いかなる状態であっても確実なシーリング作用が行われることになる。従って、船の航行中のほとんどの期間を占める小舵角での舵の作動の間、すなわち、舵取機が低負荷あるいは無負荷状態での作動の間でも、舵取機のシーリング性能が確実に保たれることになり、シーリング性能の低下に起因する舵取機のクリーピングが防止され、それによる舵取機の作動頻度の増加が避けられる。従って、舵の作動が安定するばかりでなく、舵取機の磨耗も減少する。
さらに、従来のように、ベーン2dの縦シール2jの背面2uおよびセグメント1bの縦シール1dの背面1mにそれぞれ波板ばねを圧入する必要がなくなり、波板ばね使用に伴う従来の諸問題が解消され、シーリング性能の均一化や各シール面1k,2rの偏磨耗防止が可能となる。
上記第2の実施の形態では、図10の左側回路に示すように油圧回路に制御油圧ポンプ9gを設けたが、次に説明する第3の実施の形態では、図10の右側回路に示すように、油圧回路に制御油圧ポンプ9gを設けていない。すなわち、油圧回路には、方向切換弁9bと、油圧ポンプ9aから吐出された作動油が方向切換弁9bを経て油タンク9fへ戻される戻り油ラインとが設けられている。上記戻り油ラインには圧力調整弁9hが設けられ、方向切換弁9bの切り換えを制御する制御油圧が油圧ポンプ9aの吐出口側から方向切換弁9bへ供給されるように油圧回路が構成されている。上記方向切換弁9bと圧力調整弁9hとの間のラインは、一定の油圧以上に規定される規定油圧ライン9jとして形成される。上記パイロット油流入口13aは規定油圧ライン9jに連通されている。
以下、上記構成における作用を説明する。
パイロット油逆止弁13bは、図10の右側回路に示すように、規定油圧ライン9jに常時連通している。
例えば、第1グループの作動油室5a,5cの油圧が、第2グループの作動油室5b,5dの油圧よりも高く、かつ、規定油圧ライン9jの油圧よりも高い場合、上記作動油室5a,5cの油圧は、一方の逆止弁10gを押し開くとともに、他方の逆止弁10hに逆止作用を与えて、この油圧が低圧側の作動油室5b、5dに漏洩するのを防ぎ、また、連通油路10iの他端部からパイロット油連通油路13dを通ってパイロット油逆止弁13bに逆止作用を与え、この油圧が規定油圧ライン9jに漏洩するのを防ぐ。
また、反対に、第2グループの作動油室5b,5dの油圧が、第1グループの作動油室5a,5cの油圧よりも高く、かつ規定油圧ライン9jの油圧よりも高い場合、上記第2グループの作動油室5b,5dの油圧は、他方の逆止弁10hを押し開くとともに、一方の逆止弁10gに逆止作用を与えて、この油圧が低圧側の作動油室5a,5cに漏洩するのを防ぎ、また、連通油路10iの他端部からパイロット油連通油路13dを通ってパイロット油逆止弁13bに逆止作用を与え、この油圧が規定油圧ライン9jに漏洩するのを防ぐ。
また、各作動油室5a、5b、5c、5dに、シーリング作用に必要な十分な油圧が発生しておらず、この油圧が上記規定油圧ライン9jの油圧よりも低いときは、規定油圧ライン9jからパイロット油流入口13aを経てパイロット油路13cに供給されている油圧が、パイロット油逆止弁13bを押し開き、パイロット油連通油路13dを通って連通油路10iへ供給され、先の実施の形態1と同様にブロック側およびカバー側給油通路10j,12aから各シール2j,2f,2h,3b,1fに連通してそれぞれシーリング作用を行わせるとともに、両逆止弁10g,10hに逆止作用を与えて、この油圧が各作動油室5a,5b,5c,5dに漏洩するのを防ぐ。
さらに、先の第1の実施の形態の図2の仮想線で示した油孔3jを穿孔することにより、セグメント1bの縦シール1dにもシーリング作用を行わせることができる。
従って、舵取機が無負荷あるいは低負荷であって、シーリングのために必要な油圧が作動油室5a,5b,5c,5dに発生していないときでも、最低限、上記規定油圧ライン9jの油圧が各シール2j,2f,2h,3b,1f,1dに作用することになるため、常時、必要最低限の一定値以上の油圧によってシーリング作用が行われることになり、いかなる状態であっても確実なシーリング作用が行われることになる。
尚、上記第3の実施の形態では、図10の右側回路に示すように、制御油圧ポンプ9gを設けない場合、防衝弁ブロック13のパイロット油流入口13aを上記規定油圧ライン9jに連通させているが、上記パイロット油流入口13aに連通させる油圧系統として、上記規定油圧ライン9jの代わりに、油圧ポンプ9aの吐出側のラインに連通させることもできる。
この場合、方向切換弁9bが油圧ポンプ9aからの吐出油をいずれかの作動油室(5a,5c又は5b,5d)へ送る切換位置にあるときは、パイロット油流入口13aには作動油室内の油圧に油圧系統の抵抗を加えた油圧が作用し、また、方向切換弁9bが中立位置にあるとき、すなわち油圧ポンプ9aからの吐出油が作動油室5a〜5dに送られていないときは、パイロット油流入口13aには圧力調整弁9hによって規定される油圧ポンプ9aの吐出油圧が作用する。これにより、本発明の目的を同様に達成することができる。
次に、本発明における第4の実施の形態を図11,図12に基づいて説明する。尚、先に図1において説明したものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付して説明を省略する。
縦スリット2iは、底面S1と、ローター2の周方向において相対向する一対の側面S2,S3とで構成されている。
ベーン14はベーン本体14aとシール抑え14bとに分割されている。上記ベーン本体14aには、上部横スリット2eと、下部横スリット2gと、縦スリット2iの底面S1および一側面S2とが形成されている。また、上記シール抑え14bの半径方向の先端部には、上記縦スリット2iの一側面S2に対向する他側面S3が形成され、シール抑え14bの上部には、上部横スリット2eの他側面の半径方向の先端部が形成され、シール抑え14bの下部には、下部横スリット2gの他側面の半径方向の先端部が形成されている。
上記シール抑え14bは、複数のボルト14cによってベーン本体14aの他側部に着脱自在に取付けられている。尚、図12の実線で示すように、シール抑え14bをベーン本体14aから取り外した状態では、縦スリット2iの他側方が開放され、ベーン本体14aの他側方から、縦スリット2iの底面S1と一側面S2とが作動油室5a〜5dに完全に露出した状態となる。また、図12の仮想線で示すように、シール抑え14bをベーン本体14aに取付けた状態では、ベーン14に、相対向する一対の側面S2,S3と底面S1とから成る縦スリット2iが形成される。
以下、上記した構成における作用を説明する。
図1において、ローター2をハウジング1に組み付けるときは、シール抑え14bをベーン本体14aから取り外した状態で、ベーン本体14aの下部横スリット2g内に下部横シール2hを挿着し、この状態で、ローター2をハウジング1に内装する。シール抑え14bをベーン本体14aから取り外した状態では、縦スリット2iの他側方が開放されており、縦スリット2iの底面S1と一側面S2とが作動油室5a〜5dの空間内に露出するため、この作動油室5a〜5dの空間を利用して、縦シール2jを縦スリット2iの開放された他側方から横方向へ移動させてベーン本体14aの縦スリット2iに挿入し、然る後に、シール抑え14bをベーン本体14aにボルト14cで装着する。このとき、縦シール2jは、そのスカート部2xがシール抑え14bによって弾性圧縮されて、正規の挿着状態となる。然る後に、上部横シール2fを上方から上部横スリット2e内に挿着する。
これにより、目視で確認しながら縦シール2jを容易かつ正確にベーン14に装着することができ、縦シール2jに不均等な歪みが生じるのを防止することができ、縦シール2jの下端部が下部横シール2hと適切に連接しているかどうかを目視で確認することができる。したがって、従来のように、縦シール2jを、そのスカート部2xに弾性圧縮を与えながら、縦スリット2iの上方から縦スリット2i内に押し入れていくときの、摩擦による挿入作業の困難さが解消されるばかりでなく、弾性圧縮を伴いつつ押し入れていくことに起因する縦シール2jの不均等な歪み、および、それに伴う諸問題も解消され、さらに、縦シール2jの下端部が下部横シール2hと適切に連接しているかどうか目視で確認できないという問題も解消される。
また、開放する時は、逆の手順により、シール抑え14bをベーン本体14aから取り外した後、縦シール2jを作動油室5a〜5dの空間に周方向より取り出す。これにより、従来のように縦シール2jのスカート部2xと縦スリット2iとの摩擦抵抗によって縦シール2jを上方へ引き抜くことが困難であるといった問題やこれに起因して縦シール2jに損傷を与える可能性があるといった問題が解消される。
尚、上記実施の形態では、先に下部横シール2hを下部横スリット2g内に挿着した後、ローター2をハウジング1に内装しているが、シール抑え14bをベーン本体14aから取り外した状態では、下部横スリット2gの半径方向先端部が作動油室5a〜5dの空間に露出するから、この露出部を利用して、ローター2をハウジング1に内装した後、縦シール2jを挿着するときに下部横シール2hも、周方向に撓ませて下部横スリット2g内に挿着することが可能である。これにより、先に下部横スリット2g内に下部横シール2hを挿着した状態でローター2をハウジング1内に組み付ける場合に考えられる、作業中の下部横シール2hの自然脱落の心配がなくなる。また、下部横シール2hの開放・点検に当って、従来のようにローター2と舵軸との結合を外してローター2を引き上げて下部横シール2hを取り外さなければならず、非常に大掛かりな作業になるという問題も解消される。
尚、上記ベーン14の縦シール2jの装着に関する上記実施の形態は、セグメント1bの縦シール1dの装着に関しても適用できる。その構成および作用は、ベーン14に対する上記実施の形態の場合と同様であるので、説明を省略する。
次に、本発明における第5の実施の形態を図13〜図15に基づいて説明する。尚、先に図1において説明したものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付して説明を省略する。
図1および図13,図14に示すように、ベーン2dの縦シール15cの上端面15dが上部横シール15aの半径方向外端側の底面15e(すなわち背面)に平坦面において当接し、縦シール15cの下端面15fが下部横シール15bの半径方向外端側の上面15g(すなわち背面)に平坦面において当接する。
縦シール15cの横断面形状は、図30に示すものと同様であり、基部15hと、基部15hの背面(内端面)の両側部から縦スリット2iの奥側へ向かって突出するとともに周方向において相対向する一対のスカート部15iとから構成されており、縦方向の全長にわたって一様な断面形状をなしている。
図14に示すように、上部横シール15aの底面15jには、凹窩15kと、この凹窩15kの周囲を取り囲む各堤部15m,15n,15oとが設けられている。これら凹窩15kと各堤部15m,15n,15oとその上方に形成された基部15pとによって上部横シール15aが構成されている。
凹窩15kの深さは縦シール15cのスカート部15iの深さとほぼ同じである。また、ローター2の周方向において相対向する一対の堤部15mと半径方向内端側の堤部15nとは、それぞれ、縦シール15cのスカート部15iの断面厚さとほぼ同じ厚さを有している。また、半径方向外端側の堤部15oは、平坦に形成され、縦シール15cの基部15hの断面における半径方向厚さとほぼ同じ厚さを有する。また、上部横シール15aの両堤部15mの先端部は、縦シール15cのスカート部15iの場合と同様に、上部横スリット2eに装着する前の自由状態において、基部15pの側面よりも僅かに周方向外側に突出している。
上部横シール15aを縦シール15cと連接させた状態においては、かくて、縦シール15cの両スカート部15i間の空間と上部横シール15aの凹窩15kとが連通した状態となる。なお、上部および下部横シール15a,15bと縦シール15cとの各長手方向の長さについては、挿着後、作動初期の低温状態においても各端面と相手面との間の油密を保つことができるようにするために、自由状態から挿着するとき若干量の弾性圧縮がなされるように自由長さを定めている。
また、下部横シール15bについては、上部横シール15aと全く同じ構成を上下逆転させたものであり、上部横シール15aに対するものと同じ符号にダッシュを付して、説明は省略する。
以下、上記した構成における作用を説明する。
ローター2をハウジング1に組み付けるときは、先ず、下部横シール15bの両堤部15m´の先端部を互いに接近する方向へ押し縮めることによって、下部横シール15bをベーン2dの下部横スリット2g内に挿着する。
そして、ローター2をハウジング1内に挿着した後、縦シール15cの両スカート部15iの先端を互いに接近する方向へ押し縮めながら、縦シール15cをベーン2dの縦スリット2iの頂部開口から挿入する。
最後に、上部横シール15aの両堤部15mの先端部を互いに接近する方向へ押し縮めるとともに上部横シール15aの長手方向にも僅かな弾性圧縮を与えることによって、上部横シール15aを上部横スリット2e内に挿着する。
この状態において、縦シール15cの装着前の自由長さが装着後の長さより若干長い分だけ、上部横シール15aの半径方向先端部が盛り上がっている。この盛り上がりは、トップカバー3をハウジング1に組み付けることにより圧縮され、これにより、縦シール15cの上下両端面15d,15fと上部および下部横シール15a,15bとのそれぞれの連接面に適当な初期接触面圧が発生し、これら連接面における油密が確保される。
この状態で、作動油室5a〜5dからの或いは油圧系統からの圧油が、ローターシーリング油孔11bを通って、縦シール15cの両スカート部15i間の空間に導かれると、上記油圧は、縦シール15cのシール面を相手面であるハウジング1の内周面に押し付けて作動油室5a〜5dの油密を保つとともに、両スカート部15iを縦スリット2iの両側面に押し付けて、この部分からの作動油の低圧側への漏洩を防ぐ。
さらに、上記圧油は、縦シール15cの両スカート部15i間の空間と上部および下部横シール15a,15bの凹窩15k,15k´との連通により、縦シール15cから上部および下部横シール15a,15bの各凹窩15k,15k´に作用して、上部および下部横シール15a,15bの各シール面を相手面であるトップカバー3の裏面およびハウジング1の内底面にそれぞれ押し付けるとともに、各堤部15m,15m´,15n,15n´を上部および下部横スリット2e,2gのそれぞれの各側面に押し付けて、この部分からの高圧作動油の低圧側への漏洩を防ぐ。
上記した構成と作用においては、従来のようにベーン2dを横断して圧力バルブを設ける必要はない。さらに、縦シール15cの上端面15dは上部横シール15aの堤部15oの底面15eに当接するとともに、縦シール15cの下端面15fは下部横シール15bの堤部15o´の上面15gに当接するため、縦シール15cの上下両端面15d,15fと上部および下部横シール15a,15bとは、平坦な面同士の当接によって、連接される。したがって、縦シール15cと横シール15a,15bとの間のそれぞれの弾性圧縮の差および熱膨張の差によって、上記連接部の接触面圧、および、各横シール15a,15bの外側端面とハウジング1の内周面との間の接触面圧、および、各横シール15a,15bの内側端面と横スリット2e,2gの内周側の側端面との間の接触面圧が不適正に影響を受けることはなくなる。また、目視できない状態での作業であるにもかかわらず、縦シール15cと下部横シール15bとの連接は自然に適正なものになる。
また、従来においては、トップカバー3を装着して、各シール2f,2h,2jが弾性圧縮された時、目視できないことによって、縦シール2jと上部および下部横シール2f,2hとの連接部に異常な変形が発生する恐れがあったが、上記実施の形態によって、このような連接部における異常な変形の発生を防止することができる。
従って、これらのことにより、縦シール15cと上部および下部横シール15a,15bとの間の連接部から高圧作動油が低圧側に漏洩することが避けられ、また、連接部の異常な変形による各シール15a,15b,15cの異常な磨耗も避けられる。
尚、図15に示すように、上部および下部横シール15a,15bの堤部15m,15m´において、堤部15n,15n´および堤部15o,15o´とのそれぞれの境界部に、凹窩15k,15k´の底面まで達する切れ目15qを設けてもよい。
これによると、上記切れ目15qを設けたため、堤部15m,15m´と堤部15n,15n´とは個別に内外方向へ変形可能となる。したがって、圧油が凹窩15k,15k´内に作用すると、堤部15m,15m´および堤部15n,15n´は、上下両横スリット2e,2gの側面へ均一に押し付けられ、この部分における圧油の低圧側への漏洩をより確実に防止することができる。
次に、本発明における第6の実施の形態を図16〜図21に基づいて説明する。尚、先に図1において説明したものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付して説明を省略する。
ベーン2dの上面には、ローター2の周方向において相対向する一対の上部左右横スリット16a,17aがトップカバー3の裏面に対向して形成されている。また、ベーン2dの下面には、周方向において相対向する一対の下部左右横スリット16b,17bがハウジング1の内底面に対向して形成されている。さらに、ベーン2dの半径方向先端面には、周方向において相対向する一対の左右縦スリット16c,17cがハウジング1の内周面に対向して形成されている。尚、上記左右縦スリット16c,17cの上端部は上部左右横スリット16a,17aの半径方向外端部と連通し、左右縦スリット16c,17cの下端部は下部左右横スリット16b,17bの半径方向外端部と連通している。
上部左右横スリット16a,17a内には、それぞれ弾性材料よりなる上部左右横シール16d,17dが保持されている。上部左右横シール16d,17dの各シール面16e,17eはトップカバー3の裏面に摺接するとともに、各半径方向外端面16f,17fはハウジング1の内周面に摺接し、各半径方向内端面16g,17gの各縁部は上部リングシール3bの外周下縁部に摺接する。
下部左右横スリット16b,17b内には、それぞれ弾性材料よりなる下部左右横シール16h,17hが保持されている。下部左右横シール16h,17hの各シール面16i,17iはハウジング1の内底面に摺接するとともに、各半径方向外端面16j,17jはハウジング1の内周面に摺接し、各半径方向内端面16k,17kの各縁部は下部リングシール1fの外周上縁部に摺接する。
弾性材料よりなる左縦シール16lが、左縦スリット16c内に挟装され、上部左横シール16dの半径方向外端部と下部左横シール16hの半径方向外端部との間に配置されている。また、弾性材料よりなる右縦シール17lが、右縦スリット17c内に挟装され、上部右横シール17dの半径方向外端部と下部右横シール17hの半径方向外端部との間に配置されている。尚、左横シール16d,16hと左縦シール16lの上下両端部との接触、および、右横シール17d,17hと右縦シール17lの上下両端部との接触は、いずれも平坦面同士の接触である。
図17に示すように、左右縦シール16l,17lの各水平断面は、左右縦シール16l,17l間を通る半径方向の直線L1に対して、線対称の関係を保つように配置されている。図17に示すように、左右縦シール16l、17lはそれぞれ、上記直線L1寄りの位置に配置された基部16m,17mと、基部16m,17mからローター2の周方向に沿って上記直線L1とは反対の方向へ突出する第一リップ16n,17nおよび第二リップ16o,17oとを有している。
上記第一リップ16n,17nの先端部P1は、組込状態においてハウジング1の内周面に摺接し(図17参照)、左右縦スリット16c,17cから脱抜した自由状態において基部16m,17mの半径方向の外側先端面よりも半径方向の外側へ突出している(図18参照)。また、第一リップ16n,17nの先端部P1と左右縦スリット16c,17cの外側側面との間にはそれぞれ、若干の隙間D1が形成されている。
上記第二リップ16o,17oは第一リップ16n,17nよりも半径方向における内側に形成されている。第二リップ16o,17oの先端部P2は、組込状態において左右縦スリット16c,17cの外側側面に当接し、左右縦スリット16c,17cから脱抜した自由状態において基部16m,17mの半径方向の内側先端面よりも半径方向の内側へ若干突出している(図18参照)。尚、上記左右縦シール16l,17lによって、ハウジング1の内周面と基部16m,17mと第一リップ16n,17nとに囲まれた油溝16p,17pが形成される。
上部左右横シール16d,17dと下部左右横シール16h,17hとは、上下対称に配置されるが、構成はすべて全く同じである。
すなわち、上部左右横シール16d,17dは、それぞれ、基部16w,17wを有するとともに、底面16q,17q(すなわち背面)に、凹窩16s,17sと、この凹窩16s,17sの周囲を取り囲むように形成された堤部16u,17uとを有している。
同様に、下部左右横シール16h,17hは、それぞれ、基部16x,17xを有するとともに、上面16r,17r(すなわち背面)に、凹窩16t,17tと、この凹窩16t,17tの周囲を取り囲むように形成された堤部16v,17vとを有している。
尚、堤部16u,17u,16v,17vは、各横シール16d,17d,16h,17hを各横スリット16a,17a,16b,17bから脱抜した自由状態において、基部16w,17w,16x,17xよりも僅かに周方向外側に突出している。
図16,図17に示すように、各横シール16d,17d,16h,17hを縦シール16l,17lとそれぞれ連接させた状態において、凹窩16s,17s,16t,17tの半径方向の外端部は、縦シール16l,17lの第一リップ16n,17nと第二リップ16o,17oとの間の空隙D2(図18参照)に連通する。
尚、各横シール16d,17d,16h,17hと各縦シール16l,17lとの長手方向の長さについては、挿着後、作動初期の低温状態においても各端面と相手面との間の油密を保つことができるようにするために、自由状態から挿着するとき若干量の弾性圧縮がなされるように自由長さを定めている。
以下、上記した構成における作用を説明する。
ローター2をハウジング1に組み付けるときは、先ず、下部左右横シール16h,17hの周方向において相対向する一対の堤部16v,17vの先端部を互いに接近する方向へ押し縮めて、下部左右横シール16h,17hをそれぞれベーン2dの下部左右横スリット16b,17b内に挿着する。
そして、ローター2をハウジング1内に挿着した後、左右縦シール16l、17lの第一リップ16n,17nの先端部P1と第二リップ16o,17oの先端部P2とを半径方向において互いに接近する方向へそれぞれ押し縮めながら、左右縦シール16l、17lをベーン2dの左右縦スリット16c,17cの頂部開口から挿入する。この状態においては、第一リップ16n,17nの先端部P1はハウジング1の内周面と適当な接触面圧をもって接触し、また、第二リップ16o,17oの先端部P2は左右縦スリット16c,17cの底面と適当な接触面圧をもって接触する。
最後に、上部左右横シール16d,17dの周方向において対向する一対の堤部16u,17uの先端部を互いに接近する方向へ押し縮めるとともに、上部左右横シール16d,17dの長手方向にも僅かな弾性圧縮を与えて、上部左右横シール16d,17dを上部左右横スリット16a,17a内に挿着する。
この状態においては、左右縦シール16l,17lの装着前の自由長さが装着後の長さより若干長い分だけ、上部左右横シール16d,17dの半径方向の外端部が盛り上がっている。この盛り上がりは、トップカバー3をハウジング1に組み付けることにより圧縮され、これによって、左右縦シール16l、17lの上下両端面と上部および下部左右横シール16d,17d,16h,17hとのそれぞれの連接面に適当な初期接触面圧が発生し、これら連接面における油密が確保される。
この状態で、例えば右縦シール17l側に面した作動油室5a(又は5c)が高圧状態になったとすれば、作動油室5a内の圧油は、隙間D1を通って、右縦シール17lの第一リップ17nと第二リップ17oとの間の空隙D2に侵入する。この時の空隙D2に作用する油圧によって、第一リップ17nがハウジング1の内周面に押し付けられるとともに、第二リップ17oが右縦スリット17cの底面に押し付けられ、作動油室5a(又は5c)内の高圧作動油が右縦シール17lおよび右縦スリット17cの底面を伝って隣接する低圧状態の作動油室5d(又は5b)に漏洩することが防がれる。
また、上記右縦シール17lの空隙D2に侵入した高圧作動油は、同時に、空隙D2から上部および下部右横シール17d,17hのそれぞれの凹窩17s,17tにも侵入するため、上部および下部右横シール17d,17hの各シール面17e,17iを相手面であるトップカバー3の裏面およびハウジング1の内底面にそれぞれ押し付けるとともに、堤部17u,17vを上部および下部右横スリット17a,17bのそれぞれの各側面に押し付けて、この部分からの高圧作動油の低圧側への漏洩を防ぐ。
逆に、左縦シール16l側の作動油室5d(又は5b)が高圧状態になった場合、先に述べた作動油室5a(又は5c)内の高圧作動油が右縦シール17lと上部および下部右横シール17d,17hとに作用した場合と同じ作用により、作動油室5d(又は5b)内の高圧作動油が左縦シール16lと上部および下部左横シール16d,16hとに作用し、作動油の高圧側から低圧側への漏洩を防ぐ。
上記した構成と作用においては、左右縦シール16l,17lの背面に高圧の作動油室5a〜5dからの圧油を別の油路を通して導入する必要はなくなり、また、ローターベーン2dを横断して圧力バルブを設ける必要もない。
さらに、作動油室5a,5cが高圧状態になった場合、高圧作動油は、右側の各シール17d,17h,17lに作用し、左側の各シール16d,16h,16lには作用せず、また、作動油室5d,5bが高圧状態になった場合、高圧作動油は、左側の各シール16d,16h,16lに作用し、右側の各シール17d,17h,17lには作用しない。したがって、各シール16d,16h,16l,17d,17h,17lに対して、高圧作動油の作用のもとに作動する時間が半減するので、上記各シール16d,16h,16l,17d,17h,17lの寿命が理論的に2倍になるという効果がある。
また、左右縦シール16l,17lの上端面と上部左右横シール16d,17dとは平坦な面同士で連接し、左右縦シール16l,17lの下端面と下部左右横シール16h,17hとは平坦な面同士で連接しているため、先の第5の実施の形態のものと同様に、縦シール16l,17lと横シール16d,17d,16h,17hとに初期弾性圧縮を与えて装着する際、特に、目視できない状態での作業となる下部左右横シール16h,17hと左右縦シール16l,17lとの連接において、この連接部の異常な変形や接触面圧への不適正な影響を防止することができ、従って、作動油の漏洩やシールの異常な磨耗が避けられる。
なお、先の第5の実施の形態において図15で説明したものと同様に、上部および下部左右横シール16d,17d,16h,17hについて、その堤部16u,17u,16v,17vの半径方向の両端部に、凹窩16s,17s,16t,17tの底面まで達する切れ目を設けてもよい。
これによると、圧油が凹窩16s,17s,16t,17tに作用すると、堤部16u,17u,16v,17vの各横スリット16a,17a,16b,17bの側面への押し付けがより均一化し、この部分における圧油の低圧側への漏洩をより確実に防止することができる。
尚、上記した構成と作用においては、ベーン2dの各シールの背面に圧油を別に導く必要はなくなるから、先の各実施の形態において、図1〜図10に基づいて説明したような、作動油室5a〜5dから、あるいは制御油圧ポンプ9gの制御油圧ライン9iから、あるいは規定油圧ライン9jからベーン2dの各シールの背面に至る圧油供給系統は不要となる。
また、セグメント1bの縦シールが、例えば特開2003−161371「ロータリーベーン式舵取機のシール構造」の請求項6に示されるような構成であれば、同じくシールの背面に至る圧油供給系統は不要となる。しかし、上部および下部リングシール3b,1fに対しては、依然としてその背面3e,1nに圧油を導く必要性が残るので、この場合は、次の構成によりそれを実施する。
すなわち、図19に示すように、トップカバー3に、上面から上部リングシール3bの背面3eに連通する油路3kを穿孔し、また、ハウジング1に、下面から下部リングシール1fの背面1nに連通する油路1rを穿孔する。
また、図20に示すように、防衝弁ブロック13については、先の実施の形態において図4〜図6で示した圧油抽出口10kとブロック側給油通路10jとを廃止し、防衝弁ブロック13の他側面に圧油抽出口10lを形成し、連通油路10iの他端を延長して圧油抽出口10lに連通させる。図19に示すように、上記圧油抽出口10lと両油路3k,1rとは連通油管Lで連通されている。
これにより、作動油室5a,5c又は作動油室5b,5dのいずれか高い方の油圧が、逆止弁10g,10hのいずれかを開いて連通油路10iを通り、圧油抽出口10lから連通油管Lを経て両油路3k,1rを通って、上部および下部リングシール3b,1fのそれぞれの背面3e、1nに常に作用する。これにより、上部および下部リングシール3b,1fのシーリング作用を確保することができる。
さらに、図21に示すように、防衝弁ブロック13に、先の実施の形態において図7〜図9で示したパイロット油流入口13aとパイロット油逆止弁13bとパイロット油路13cとパイロット油連通油路13dとを設けてよい。
これによると、作動油室5a,5c又は作動油室5b,5dのいずれか高い方の油圧がシーリングに必要な十分な油圧に達している場合、作動油室5a,5c又は作動油室5b,5dのいずれか高い方の油圧が上部および下部リングシール3b,1fのそれぞれの背面3e、1nに作用する。
また、各作動油室5a〜5dにシーリングに必要な十分な油圧が発生していない場合、図10の左半分に示すように制御油圧ポンプ9gの制御油圧ライン9iの油圧又は図10の右半分に示すように規定油圧ライン9jの油圧のいずれかが、パイロット油流入口13aからパイロット油路13cを通り、パイロット油逆止弁13bを開いてパイロット油連通油路13dから連通油路10iに供給される。これにより、制御油圧ポンプ9gの制御油圧ライン9iの油圧が最低限の圧力として、或いは、規定油圧ライン9jの油圧が最低限の圧力として、上部および下部リングシール3b,1fのそれぞれの背面3e、1nに作用する。これにより、各作動油室5a〜5dの油圧が不足していても、上部および下部リングシール3b,1fのシーリング作用を確保することができる。
次に、本発明における第7の実施の形態を図22〜図25に基づいて説明する。尚、先に図13,図14において説明したものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付して説明を省略する。
図22に示すように、ベーン18は、その先端面18bの下隅部が円弧状に湾曲した曲成部18cとして形成されている。従って、ハウジング18dの内周面も、その下隅部がベーン18の曲成部18cに対向する円弧状の曲成部18eとして形成されている。
ベーン18の上端面には上部横スリット2eが形成され、この上部横スリット2e内には、トップカバー3の裏面に摺接する上部横シール15aが挿入されている。また、ベーン18の先端面18bから曲成部18cを経てローター2の下端の半径方向端面(ローター2の下端外周面)に至る曲成スリット18fがベーン18に形成されている。この曲成スリット18fは、底面S1と、ローター2の周方向において相対向する一対の側面S2,S3とで構成されている。曲成スリット18f内には、ハウジング18dの内周面と内底面とに摺接する曲成シール18gが挿入されている。尚、上記各シール15a,18gは弾性材料より形成されている。
上部横シール15aは、先の実施の形態において説明したものと同じ構成である。また、曲成シール18gの上端面18hと上部横シール15aの半径方向外端側の底面15eとはそれぞれ平坦に形成されており、平坦な面同士の当接によって、上記上端面18hと底面15eとが連接されている。また、曲成シール18gの下部終端面18iの下縁が下部リングシール1fの外周縁部1iと接触している。
曲成シール18gの横断面形状は図14に示した縦シール15cと同様であり、基部18jとスカート部18kとで構成され、長手方向の全長にわたって一様な断面形状をなしている。
図24,図25に示すように、ベーン18はベーン本体18aとシール抑え18nとに分割されている。上記ベーン本体18aには、上部横スリット2eと、曲成スリット18fの縦部分の底面S1と一側面S2と、曲成スリット18fの下端横部分とが形成されている。また、シール抑え18nの半径方向の先端部には、上記曲成スリット18fの一側面S2に対向する他側面S3が形成され、シール抑え18nの上部には、上部横スリット2eの他側面の半径方向の先端部が形成されている。
上記シール抑え18nは、複数のボルト18oによってベーン本体18aの他側部に着脱自在に取付けられている。尚、図25の実線で示すように、シール抑え18nをベーン本体18aから取り外した状態では、曲成スリット18fの縦部分と曲成部分との他側方が開放され、ベーン本体18aの他側方から、曲成スリット18fの底面S1と一側面S2とが作動油室5a〜5dに完全に露出した状態となる。また、図25の仮想線で示すように、シール抑え18nをベーン本体18aに取付けた状態では、ベーン18に、相対向する一対の側面S2,S3と底面S1とから成る曲成スリット18fが形成される。
以下、上記した構成における作用を説明する。
ローター2をハウジング1に組付けるときには、図25の実線で示すように、シール抑え18nをベーン本体18aから取り外した状態で、ローター2をハウジング1に内装する。シール抑え18nをベーン本体18aから取り外した状態では、曲成スリット18fの縦部分と曲成部分との他側方が開放され、曲成スリット18fの縦部分と曲成部分との底面S1と一側面S2とが作動油室5a〜5dに露出する。このため、作動油室5a〜5dの空間を利用して、先ず、曲成シール18gの下端部を、周方向に撓ませつつ、曲成スリット18fの曲成部分の露出部位から、曲成スリット18fの下端横部分内に挿入し、然る後に、曲成シール18gの曲成部分と縦部分とを開放された他側方から曲成スリット18f内に挿入する。
然る後に、図24および図25の仮想線で示すように、シール抑え18nをベーン本体18aにボルト18oで装着する。このとき、曲成シール18gは、そのスカート部18kがシール抑え18nによって弾性圧縮されて、正規の挿着状態となる。然る後に、上部横スリット2e内に上部横シール15aを上方から挿着する。
また、ベーン18の作動状態においては、作動油室5a〜5dあるいは油圧系統からの圧油が、ローターシーリング油孔11bを通って、曲成シール18gの両スカート部18k間の空間に導かれ、曲成シール18gの背面側から基部18jを押して、シール面を相手面であるハウジング18dの内周面と内底面とに押し付けて、作動油室5a〜5dの油密を確保するとともに、両スカート部18kを曲成スリット18fの両側面S2,S3に押し付けて、この部分からの高圧作動油の低圧側への漏洩を防ぐ。
また、上記油圧は、曲成シール18gの背面側から上部横シール15aの凹窩15kに供給され、先の実施の形態において説明したものと全く同じ作用を行う。
これにより、シールの装着および開放点検作業時、目視で確認しながら曲成シール18gを容易かつ正確にベーン18に装着することができる。したがって、従来の縦シール2jと下部横シール2hとの連接が無くなるので、それに伴う上記した従来の諸問題が解決される。さらに、従来において縦シール2jと下部横シール2hとの連接部を目視で確認できないために生じる諸問題も解決され、また、ローター2を舵軸との結合を外して吊り上げなくてもベーン18のシールの開放点検ができる。
次に、本発明における第8の実施の形態を図26に基づいて説明する。
シール19aは、基部19bと、基部19bの両側部から背面側へ突出した一対のスカート部19cとを有し、スリット19d内に挿入される。尚、上記シール19aとして、先に説明した実施の形態における縦シール(2j,15c)および曲成シール(18g)が適用され、上記上記スリット19dとして、先に説明した実施の形態における縦スリット(2i)および曲成スリット(18f)が適用される。
基部19bのシール面19eは、相手側の摺接面19fに対し、ローター2の回転方向へ移動しながら摺接する。尚、上記摺接面19fとして、先に説明した実施の形態におけるハウジング1の内周面又は内底面或いはトップカバー3の裏面が適用される。
両スカート部19cの先端は、シール19aをスリット19dから脱抜した自由状態において、基部19bの両側面よりも外側へ僅かに突出している。基部19bのシール面19eの周方向(ローター2の回転方向)あるいは半径方向における中央部には、油溝19gが長手方向にわたって形成されている。この油溝19gの底部と両スカート部19c間の空間とに連通する微細油孔19hが基部19bに形成されている。スリット19dの底部には、作動油室5a〜5dあるいは油圧回路に連通するシーリング油孔19iが設けられている。
以下、上記した構成における作用を説明する。
作動油室5a〜5dあるいは油圧回路から導かれた作動油は、シーリング油孔19iからスリット19d内の底部に入り、シール19aの背面を油圧で押して、シール面19eを相手側の摺接面19fに押し付け、この部分におけるシーリング作用を発揮させる。それとともに、上記油圧は、両スカート部19cをスリット19dの両側面に押し付け、この部分を通って高圧作動油が低圧側に漏洩するのを防ぐ。また、微量の作動油が両スカート部19c間の空間から微細油孔19hを通って常に油溝19gに供給されている。
例えば、ローター2が左回転して、基部19bのシール面19eが相手側の摺接面19fに対して左方向Fに摺動する場合、シール面19eの左側端縁辺イが油に対してスクレーパーの作用を行って、シール面19eと相手側の摺接面19fとの間の作動油による潤滑を破壊するが、油溝19gに作動油が満たされているため、後続のシール面19eの油溝19gよりも右側の部分ロが潤滑のない状態で摺動することは避けられ、シール面19eの油溝19gよりも右側の部分ロの潤滑が確保される。また、ローター2が右回転して、基部19bのシール面19eが相手側の摺接面19fに対して右方向に摺動する場合も同様に、シール面19eの油溝19gよりも左側の部分が潤滑のない状態で摺動することは避けられる。従って、従来において問題であった、スクレーパー作用による潤滑のない状態での摺動およびそれによる磨耗の促進を防ぐことができる。
上記第8の実施の形態では、シール19aを、先に説明した実施の形態における縦シール2j,15cおよび曲成シール18gに適用したが、各上部および下部横シール2f,2h,15a,15b,16d,17d,16h,17hにも適用することができ、同様な効果を発揮する。この場合、油溝19gがシール面の周方向における中央部に長手方向にわたり設けられ、この油溝19gの底部と背面側の凹窩15k,15k',16s,17s,16t,17tとに連通する微細油孔19hが基部に設けられる。また、上記摺接面19fとして、先に説明した実施の形態におけるハウジング1の内底面又はトップカバー3の裏面が適用される。
さらに、上記各上部および下部横シール2f,2h,15a,15b,16d,17d,16h,17hには、基部の上記微細油孔19hと連通するシール面の長手方向の油溝19gに加えて、上記各上部および下部横シール2f,2h,15a,15b,16d,17d,16h,17hのハウジング1の内周面と摺接する半径方向外周側端面に、上記油溝19gに連通する厚さ方向(上下方向)の外端部油溝を形成してもよい。
この場合、上記各横シール2f,2h,15a,15b,16d,17d,16h,17hの半径方向外周側端面についても同様に、スクレーパー作用による潤滑のない状態での摺動およびそれによる磨耗の促進を防ぐことができる。