JP2006196658A - 半導体発光素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】電力変換効率が高く、且つ光出射面からの光取り出し効率を向上させた半導体発光素子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体発光素子は、活性層を含み、スラブ構造を有する多層膜10と、多層膜10の第1の主面上に設けられた2次元フォトニック結晶11と、多層膜10の第2の主面上に設けられた高反射率p電極2と、2次元フォトニック結晶11の主面上に設けられたn電極9とを備え、多層膜10は、水平面内において複数の領域に分離されている。
【選択図】 図1
【解決手段】半導体発光素子は、活性層を含み、スラブ構造を有する多層膜10と、多層膜10の第1の主面上に設けられた2次元フォトニック結晶11と、多層膜10の第2の主面上に設けられた高反射率p電極2と、2次元フォトニック結晶11の主面上に設けられたn電極9とを備え、多層膜10は、水平面内において複数の領域に分離されている。
【選択図】 図1
Description
本発明は、半導体を用いて形成された発光素子、及びその製造方法に関するものである。
AlInGaN(アルミニウム・インジウム・ガリウムナイトライド)に代表される窒化物系化合物半導体を用いることにより、これまで実現が困難であった紫外域から青色、緑色までの波長帯において高い強度で発光する発光ダイオード(LED)や半導体レーザなどの発光素子が盛んに開発されている。特にLEDは半導体レーザに比べ製造が容易でかつ制御が容易である上、蛍光灯に比べて長寿命であるため、窒化物系化合物半導体LEDは照明用光源として期待されている。
図18は、第1の従来例に係る窒化物系化合物半導体LEDを示す斜視図である。同図に示すように、第1の従来例に係るLEDは、サファイアからなる基板1001と、基板1001上に形成されたn型GaNからなるn型コンタクト層1002と、n型コンタクト層1002上に形成されたAlInGaNからなる活性層1003と、活性層1003上に形成されたp型GaNからなるp型コンタクト層1004とを備えている。n型コンタクト層1002、活性層1003、p型コンタクト層1004は、基板1001上に順次結晶成長された層である。
また、サファイアは絶縁体であるため基板1001の裏面からn電極用のコンタクトを取ることができないので、活性層1003およびp型コンタクト層1004の一部がエッチングにより除去されて、n型コンタクト層1002の一部が露出される。このn型コンタクト層1002の露出部分の上にn電極1006が形成されている。また、p型コンタクト層1004の上には透明電極1005とp電極1007とが積層されている。
このLEDは以下のように動作する。
まず、p電極1007を通じてLED内に注入された正孔は、透明電極1005で横方向に拡がった後、p型コンタクト層1004層を経て活性層1003に注入される。一方、n電極1006を通じてLED内に注入された電子はn型コンタクト層1002を経て活性層1003に注入される。そして、活性層1003中で正孔と電子が再結合することで発光する。この光は透明電極1005を通してLEDの外部に放出される。
しかし、このような従来の構造では、光取り出し効率が低いという不具合があった。光取り出し効率とはLEDなどの発光素子において、活性層で発生した光のうち発光素子から空気中に放出される割合のことである。従来のLEDにおいて光取り出し効率が低くなるのは、半導体の屈折率が空気よりも大きいので、半導体と空気との界面での全反射により活性層1003からの光がLED内部に閉じ込められるためである。例えば波長460nmの光に対するGaNの屈折率は約2.45であるので、全反射が生じる臨界角θc(GaNの屈折率は約2.45であるのでθc=sin-1(1/2.5)=約23度)が小さい。つまり、半導体と空気との界面の法線からみて、この臨界角よりも大きい角度で活性層1003から放射された光は、半導体と空気との界面で全反射される。
ここで、活性層1003から放射される光は360度のあらゆる方向に放射されるので、1つの面からの光取り出し効率ηは入射角ごとの反射率Τ(θ)に立体角の効果を考慮して、入射角で積分する必要がある。具体的には、ηは下式から導くことができる。
η = ∫2πΤ(θ)・sinθ・dθ
η = ∫2πΤ(θ)・sinθ・dθ
従って、臨界角以下で生じるフレネル反射(反射率10%程度)を無視しても、結局、活性層から放出される光の約4%しかLEDの1表面からLED外部へ取り出せない。よって、LEDの6つの面のすべてから光が取り出せたとしても、合計24%の全光取り出し効率しか実現できない。実際には、LEDの上面と裏面とで全反射により多重反射されつつLED内を横方向に伝搬する光は、多重反射中に電極や活性層により吸収されるため、4つのLED側面からの光取り出し効率は低い。そのため、実際の全光取り出し効率は20%以下に留まる。このように、従来のLEDでは、外部量子効率(LEDに投入した電流のうち、LEDから取り出せる光の効率)が低く、その結果、蛍光灯と比べて電力変換効率(投入した電力のうち、取り出せる光出力の効率)が低くなるという不具合があった。
この不具合に対する解決策として、非特許文献1や非特許文献2に開示されているように、LEDにフォトニック結晶を導入する技術が提案されている。この種のフォトニック結晶をここでは、スラブフォトニック結晶と呼ぶこととする。なお、「スラブフォトニック結晶」とは、少なくとも発光波長以下の厚さの板状に形成されているフォトニック結晶を意味する。
図19は、第2の従来例に係るLEDにおける半導体層を示す斜視図である。同図に示すLEDにおいて、活性層1101を含む半導体層1102には、2次元周期で配置された孔1103が、活性層1101を貫いて形成されている。この孔1103の2次元配列がスラブフォトニック結晶1104を形成する。この従来例において、半導体層1102の膜厚は、光の半導体中での波長の1/2と非常に薄い。そのため、半導体層1102はスラブ導波路として機能する。すなわち、活性層1101で発生した光の大半は半導体層1102内を伝播する導波モードと結合する。活性層から発生する光のうち残りは、活性層から臨界屈折角内に出射される漏れモードの光であり、スラブ導波路より空気中に放射される。導波モードはスラブフォトニック結晶1104による回折を受けることにより、半導体層1102から空気中に放射される。この構造においては、光励起によって80%の光取り出し効率が実現されている。
また、フォトニック結晶として2次元周期構造をLED表面に浅く形成する方法も、特許文献1に提案されている。この種のフォトニック結晶をここでは、「表面フォトニック結晶」と呼ぶ。この技術を用いたLEDの具体的な構造を説明する。
図20は、表面フォトニック結晶を備えた第3の従来例に係るLEDを示す斜視図である。第3の従来例に係るLEDでは、p型コンタクト層1204の表面部を2次元周期構造にパターニングすることにより、表面フォトニック結晶1208を形成している。表面フォトニック結晶1208の全面上には、透明電極1205が設けられている。表面フォトニック結晶1208は、活性層1203からLED上面に達した光を回折する。第3の従来例に係るLEDにおいては、全反射のためにLED外部に取り出すことができなかった角度の光が回折され、その光の伝搬方向が変化するため、光をLED外部に伝搬させることができる。この構成により、表面フォトニック結晶を形成したLED上面からの光取り出し効率を、図18に示す第1の従来例に係るLEDに比べて約3倍に向上させられることが報告されている。
S.ファン(S. Fan), 他3名, Physics Review Letters, vol. 78, pp.3294, 1997 H-Y.リュウ(H-Y. Ryu), 他3名, IEEE Journal on Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 8, pp.23, 2002 特開2000−196152号公報
S.ファン(S. Fan), 他3名, Physics Review Letters, vol. 78, pp.3294, 1997 H-Y.リュウ(H-Y. Ryu), 他3名, IEEE Journal on Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 8, pp.23, 2002
しかしながら、上述の従来の技術では以下のような課題があるため電流注入時、すなわち通常のLED動作時において高い光取り出し効率が実現できていない。
スラブフォトニック結晶1104のように活性層1101を貫いて孔1103を形成すると、表面再結合やエッチング形成時のダメージにより、活性層1101での内部量子効率(活性層中で再結合する電子・正孔対のうち、光子に変換される割合)が低下する。従って、スラブフォトニック結晶を備えた従来のLEDは、電流注入により発光しない場合や、発光しても電力変換効率が低下してしまう場合があった。
また、半導体層1102上に電極を形成する場合、半導体層1102が発光波長の1/2と薄く、導波路の断面積が小さくなるため、LEDの直列抵抗が大幅に増加する。そのため、半導体層1102内を流れる電流を横方向に十分拡散させることができず、活性層1101への電流注入が困難になる。その結果、電圧効率(印加した電圧のうち、活性層での光の発生に寄与する効率)が低下し、結局、電力変換効率が低くなってしまう。
加えて、プロセスの観点からも、光の半導体層中での波長の1/2という薄い半導体層1102を形成することは非常に困難である。例えば、真空中の波長460nmの青色光の場合、半導体層の必要な膜厚は約90nmと非常に薄く、実際上は作製が不可能である。
特許文献1に開示されているLEDにおいては表面フォトニック結晶1208がLED上面のみに形成され、且つ表面フォトニック結晶1208が活性層1203から離れているため、活性層1203で発生する光は表面フォトニック結晶1208の存在とは無関係に、360度の全角度に放射される。そのため、表面フォトニック結晶1208の回折作用を受けない角度の光が存在し、この光は全反射によってLED外部に取り出すことができない。また、表面フォトニック結晶1208を形成した面に達した光も、回折効率が100%ではないため、全ての光がLED外部に取り出されることはない。従って、表面フォトニック結晶1208を形成したLED上面からの光取り出し効率を実際に3倍以上に向上させることは困難であり、360度の全角度を考慮した全光取り出し効率は28%に止まることになる。
本発明の目的は、電力変換効率が高く、且つ光出射面からの光取り出し効率を向上させた半導体発光素子、およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、光を放射する活性層を含み、スラブ構造を有する半導体多層膜と、前記半導体多層膜の上面上に設けられた2次元フォトニック結晶とを備えている。
この構成により、活性層から2次元フォトニック結晶に入射した光が回折によって効率的に空気中に取り出されるようになる。そのため、半導体発光素子の光取り出し効率を従来よりも格段に向上させることができる。
また、前記2次元フォトニック結晶は導電性であることによって、2次元フォトニック結晶を介してキャリアを活性層に注入することが容易になる。
前記活性層に第1導電型のキャリアを注入するための第1の電極が前記半導体多層膜の下面上に設けられ、前記活性層に第2導電型のキャリアを注入するための第2の電極が前記2次元フォトニック結晶のいずれかの主面上に設けられていることにより、2次元フォトニック結晶内で第2の電極から注入されたキャリアを水平方向に拡散させてから活性層に注入することができるので、発光素子内での直列抵抗を低減し、スラブフォトニック結晶を用いた従来の発光素子よりも発光効率を向上させることができる。
特に、前記第2の電極が、前記2次元フォトニック結晶の主面のうち、前記半導体多層膜が設けられた面に対向する面上に設けられている場合には、キャリアを効果的に水平方向に拡散させることができる。
また、前記第2の電極が、前記2次元フォトニック結晶の主面のうち、前記半導体多層膜が設けられた面と同じ面上に設けられている場合には、第2の電極による光の吸収がなく、第2の電極に光が遮蔽されることもないので、2次元フォトニック結晶からの光取り出し効率を向上させることができる。
前記第1の電極の下面上に、金属膜が設けられている場合には、金属膜で光を反射させることができる。特に、スラブ導波路として機能する半導体多層膜が複数の領域に分断されている場合には、半導体多層膜の不連続部分から放射された光を金属膜で反射することでフォトニック結晶からの光取り出し効率をさらに高めることができる。
前記半導体多層膜は、水平面内において複数の領域に分離されていることにより、半導体多層膜が分離・分割されていない場合にはスラブ構造(半導体多層膜)内に閉じこめられる光を半導体多層膜の断絶部界面から放射させ、2次元フォトニック結晶に伝搬させることができる。このため、2次元フォトニック結晶からの光取り出し効率をさらに向上させることができる。
複数の領域に分離された前記半導体多層膜の平面形状は、円形、楕円形、多角形のうちのいずれかであってもよい。特に、楕円形もしくは多角形であれば回転対称性が円形の場合よりも低下するため、スラブ構造の断絶部界面を反射しながら周回し閉じこもるモードの発生を防ぐことができる。その結果、スラブ構造中を伝搬する光を効果的にスラブ構造から取り出すことができ、光取り出し効率がさらに向上する。
複数の領域に分離された前記半導体多層膜の平面形状は四辺形であり、前記四辺形の一辺の長さは1μm以上であることが好ましい。四辺形の一辺の長さが1μm未満であると、素子面積に占める発光領域の面積の割合が低下するため、光取り出し効率の向上効果を十分に得られなくなるおそれがあるからである。
複数の領域に分離された前記半導体多層膜の分離間隔は1μm以上であることが好ましい。分離間隔が1μm未満であればスラブ構造の断絶部界面から放射された光が効率よく2次元フォトニック結晶に伝搬されずに隣接する別のスラブ構造に伝搬されるので、スラブ構造に閉じこめられた光を取り出しにくくなる。このため、分離間隔を1μm以上とすることで光取り出し効率を向上させることができる。
前記半導体多層膜の下面上に分布ブラッグ反射多層膜が設けられていることにより、活性層から放射された光を反射するので、フォトニック結晶での光取り出し効率を向上させることができる。
前記活性層に第1導電型のキャリアを注入するための第1の電極が前記分布ブラッグ反射多層膜の下面上に設けられ、前記活性層に第2導電型のキャリアを注入するための第2の電極が前記2次元フォトニック結晶のいずれかの主面上に設けられていることが好ましい。
前記第1の電極は、Au、Pt、Cu、Ag、RdおよびAlのうちから選ばれた1つの金属、あるいは2つ以上からなる合金、またはAu膜、Pt膜、Cu膜、Ag膜、Rd膜およびAl膜のうちから選ばれた膜の積層体により構成されていれば、効率よく活性層から放射された光を反射することができるので、反射光をフォトニック結晶に伝搬させることができる。その結果、フォトニック結晶からの光取り出し効率を向上させることができる。
前記分布ブラッグ反射多層膜を形成する材料が半導体であれば、金属膜を用いる場合に比べて光吸収を起こしにくくすることができるので、光取り出し効率を向上させることができる。
前記フォトニック結晶に周期的に配置された孔が形成されていることにより、2次元周期構造での電流拡散が容易となり、直列抵抗を低減することができる。また、ウエットエッチングなどにより形成できるので、結晶の損傷が少ない2次元フォトニック結晶を実現できる。
前記孔の平面形状は、円形、楕円形、多角形のうちのいずれかであってもよく、また、前記孔は、正方格子状または三角格子状に配置されていてもよい。本発明の半導体発光素子においては、周期構造さえあれば光の回折が生じるため、光取り出し効率は孔の平面形状に敏感ではない。
前記孔の配列周期は方向によって異なっていてもよい。
前記半導体多層膜の膜厚が、前記活性層から放射される光の前記半導体多層膜中でのピーク波長の10倍以下であれば、活性層から臨界屈折角より大きな角度で放射される光を半導体多層膜に閉じこめて水平方向に伝搬させることができる。
前記2次元フォトニック結晶の周期が前記活性層から放射される光の前記半導体多層膜中でのピーク波長の0.5倍以上10倍以下であれば、2次元フォトニック結晶と空気との界面での回折によって高い光取り出し効率を得ることができる。
前記2次元フォトニック結晶の厚みは0.1μm以上で且つ2μm以下であることが好ましい。2次元フォトニック結晶の厚みが0.1μm以上であれば電流を2次元フォトニック結晶内で水平方向に拡散することができるので、発光素子内での直列抵抗を低減し、電力変換効率を高めることができる。また、2次元フォトニック結晶の厚みが2μm以下であることにより、2次元フォトニック結晶の光射出面からの光取り出し効率を高めることができる。
前記2次元フォトニック結晶を構成する材料が半導体であることにより、活性層から放射される光を吸収させずに、電流を拡散させることが容易になる。その結果、光取り出し効率向上の効果を最大限にしつつ、電圧効率の低減を回避することができる。また、2次元フォトニック結晶とスラブ構造とを結晶成長により一括して形成することができる。
本発明の半導体発光素子の製造方法は、半導体層の第1の主面上に、光を放射するための活性層を含む半導体多層膜を形成する工程(a)と、前記半導体層に2次元周期構造を形成して前記半導体層を2次元フォトニック結晶とし、前記半導体多層膜をスラブ構造とする工程(b)とを備えている。
この方法により、スラブ構造と2次元フォトニック結晶とを備え、光取り出し効率を向上させた半導体発光素子を製造することができる。
前記工程(a)において、前記半導体層は基板上に設けられており、前記工程(a)の後で前記工程(b)の前に、前記基板を除去する工程(c)をさらに備えていてもよい。
本発明の半導体発光素子の製造方法において、前記工程(b)は、前記半導体層の第2の主面上にマスクを形成する工程と、前記半導体層をエッチング液に浸漬させた状態で前記第2の主面に紫外線を照射する工程とを含む光化学エッチングによって行なわれることが好ましい。光化学エッチングはドライエッチングなどに比べて低エネルギーのプロセスであるため、活性層近傍までエッチングして2次元周期構造を形成してもエッチングによるダメージが活性層に生じず、内部量子効率の低下を防ぐことができる。また、光化学エッチングによれば、垂直方向に深いエッチングを行うことが可能となるので、2次元フォトニック結晶を容易に形成することができる。
あるいは、前記工程(b)は、前記半導体層の第2の主面上にマスクを形成する工程と、前記半導体層および前記半導体多層膜をエッチング液に浸漬した状態で前記半導体層および前記半導体多層膜に電流を流す工程とを含む陽極酸化エッチングにより行われることが好ましい。陽極酸化エッチングも光化学エッチングと同様に低エネルギーのプロセスであるため、活性層にダメージを与えるおそれがなく、内部量子効率の低下を防ぐことができる。加えて、素子に印加する電流をモニターすることでエッチングを終了すべき時間を正確に知ることができるので、活性層へのダメージをより確実に防ぐことができる。また、陽極酸化エッチングによっても垂直方向に深いエッチングを行うことができ、2次元フォトニック結晶を容易に形成することができる。
以上のように、本発明の半導体発光素子はスラブ構造を有し、活性層を含む半導体多層膜と二次元フォトニック結晶とを備えているので、従来の半導体発光素子に比べて光取り出し効率が大幅に向上している。また、2次元フォトニック結晶中で電流を水平方向に拡散することができるので、発光素子内での直列抵抗を低減し、スラブフォトニック結晶を用いた従来の発光素子よりも電力変換効率を向上させることができる。
以下、本発明の実施形態について図を用いて具体的に説明する。
(本発明の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る半導体発光素子を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る半導体発光素子の縦断面と、各層における屈折率とを示す図である。
図1は、本発明の実施形態に係る半導体発光素子を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る半導体発光素子の縦断面と、各層における屈折率とを示す図である。
図1および図2に示す半導体発光素子は、サブマウント1と、サブマウント1上に設けられ、膜厚が500nmのAuからなる高反射率金属層2と、高反射率金属層2上に設けられ、合計膜厚が300nmのAl/Ti/Auからなる高反射率p電極3と、高反射率p電極3上に設けられ、膜厚が100nmのp型GaNからなるp型コンタクト層4と、p型コンタクト層4上に設けられ、ノンドープAlInGaN井戸層とノンドープAlInGaN障壁層とが交互に積層されてなる多重量子井戸を有する膜厚が70nmの活性層5と、活性層5上に設けられ、膜厚が60nmのn型AlGaNからなるエッチングストップ層6と、エッチングストップ層6上に設けられた膜厚が0.5μmのn型GaNからなるn型コンタクト層7と、n型コンタクト層7の上に設けられた膜厚が1μmのTi/Auからなるn電極9とを備えているLEDである。活性層5のPLピーク波長は例えば405nmである。また、「ノンドープ」とは、該当する層に対しドーピングを意図的に行っていないことを示す。
また、図1および図2に示すように、孔8が2次元周期で形成されているため、n型コンタクト層7はフォトニック結晶(2次元フォトニック結晶)11として機能する。フォトニック結晶11の周期、すなわち2次元の面内で隣り合う孔8の中心間隔は0.3μmである。孔8はn型コンタクト層7の上面からn型コンタクト層7とエッチングストップ層6との界面まで形成されており、その深さは0.5μmである。一方、p型コンタクト層4、活性層5およびエッチングストップ層6で構成される多層膜(半導体多層膜)10は、複数の領域に分割されたスラブ構造を有している。すなわち、高反射率p電極3および多層膜10は、上方から見て一辺が例えば10μmの正方形である柱状体が水平方向に15μmの周期で配置された構造となっている。なお、本明細書中で「スラブ構造」とは、層内を伝搬する光のピーク波長の10倍以下の厚さの薄い板状体が低屈折率の層で挟まれた構造を意味し、板状体である多層膜10が水平方向に複数の領域に分離・分割された場合も含むものとする。なお、板状体を挟む低屈折率層の厚さは当該低屈折率層中の光の波長以上であることが好ましい。
図2の左図から分かるように、本実施形態の半導体発光素子において、n型コンタクト層7は孔8が形成されているため、n型コンタクト層7の屈折率は、孔8が形成されない場合に比べて低下している。そして、p型コンタクト層4、活性層5およびエッチングストップ層6を含む多層膜10は屈折率が低下したn型コンタクト層7と屈折率が低い高反射率p電極3とに挟まれているため、多層膜10とn型コンタクト層7との界面、および多層膜10と高反射率p電極3との界面とで光が反射される。その結果、多層膜10は光を上下方向に閉じ込め、水平方向に伝搬するスラブ導波路として機能する。
図3(a)、(b)は、それぞれ図18に示す型の従来のLED、および図20に示す表面フォトニック結晶を備えた従来のLEDにおいて、活性層から放射される光の伝搬を数値計算によりシミュレーションした結果を示す図である。また、図4(a)、(b)は、それぞれフォトニック結晶を有し、水平方向に連続しているスラブ構造を備えたLED(図16参照)、およびフォトニック結晶を有し、水平方向に不連続なスラブ構造を備えた本実施形態のLEDにおいて、活性層から放射される光の伝搬を数値計算によりシミュレーションした結果を示す図である。なお、図3および図4の発光点は活性層であり、図中に示す素子の向きは図1、図18および図20と同じであるとする。
図3(a)から分かるように、第1の従来例に係るLEDにおいては、活性層から放射された光の大部分が外部に放出されることなくLED内部に閉じ込められていることが分かる。また、図3(b)に示す結果から、第3の従来例に係るLEDにおいても表面フォトニック結晶1208によりLED外部へ取り出せる光が第1の従来例に係るLEDに比べて増加しているが、依然として大部分の光がLED内部に留まっている。
これに対し、図4(a)に示すように、フォトニック結晶11(図1参照)と水平方向(サブマウント1の主面に対して水平な方向)に分断されていない多層構造とを有するスラブ構造を設けたLEDの場合、n型コンタクト層7の屈折率が低下しているため、多層膜10からn型コンタクト層7への光取り出し効率が向上する。そして、n型コンタクト層7内を伝搬する光は、フォトニック結晶11の回折によってLED外部に取り出される。その結果、垂直方向(LED上面から見た上方方向)の光の取り出しが第1および第3の従来例に係るLEDよりも多くなる。しかし、残りの光は多層膜10内を伝搬する光となりLED内部に閉じ込められてしまう。
一方、本実施形態のLEDにおいては、図4(b)に示すようにスラブ構造である多層膜10を水平方向に不連続にすることで、多層膜10内を伝搬した光が多層膜10の不連続部分からn型コンタクト層7へと伝搬していることが分かる。
これは、多層膜10の不連続部分から放射された光が、高反射率金属層2により反射されるためである。また、n型コンタクト層7中を伝搬する光は、図4(a)の場合と同様にフォトニック結晶11の回折によりLED外部へ放射されていることが分かる。
以上のように、本実施形態のLEDにおいては、表面だけでなくn型コンタクト層7全体がフォトニック結晶として機能することで光の取り出し効率が従来のLEDに比べて向上している。さらに、多層膜10が複数領域ごとに分断して形成された上で高反射率金属層2が設けられていることにより、従来のLEDではスラブ導波路内に閉じこめられていた光をn型コンタクト層7から取り出すことができる。そのため、本実施形態のLEDにおける光取り出し効率は、従来のLEDにおける光取り出し効率に比べ著しく高くなっている。なお、図1ではn型コンタクト層7の1対の側面が平坦になっている例を示しているが、n型コンタクト層7の側面にも孔8による周期的な凹凸構造が設けられている方が光取り出し効率を向上させることができるのでより好ましい。
次に、本実施形態のLEDにおいて、n型コンタクト層7の2次元周期構造の周期、多層構造(スラブ構造)厚さ、およびn型コンタクト層7(フォトニック結晶)の厚さがそれぞれ光取り出し効率に与える影響を検討する。
図5(a)は、本実施形態のLEDにおいて、n型コンタクト層7に形成された2次元周期構造の周期を変化させた場合の光取り出し効率の計算結果を示す図であり、(b)は、多層膜10の厚さ(スラブ厚)を変化させた場合の光取り出し効率の計算結果を示す図である。また、図5(c)は、本実施形態のLEDにおいて、n型コンタクト層7の厚みを変化させた場合の光取り出し効率の計算結果を示す図である。光取り出し効率は、n型コンタクト層7上面と空気との界面からLED外部に取り出される光の割合を計算した。これはLEDの計6つの面のうち1面からの光取り出し効率であり、第1の従来例に係るLEDにおいては4%、表面フォトニック結晶を備えた第3の従来例に係るLEDにおいては10%であった(図示せず)。
図5(a)に示す結果から、本実施形態のLEDにおける光取り出し効率に2次元構造の周期に対する依存性があることが分かる。すなわち、n型コンタクト層7における2次元構造の周期が0.3μm以上0.5μm以下の場合、周期が短いほど光取り出し効率が向上していることが分かる。これは、周期が短いほど、光がフォトニック結晶11を水平方向に伝搬する場合に通過する周期数が多くなるためである。従って、n型コンタクト層7に形成される2次元構造の周期は、半導体中の光のピーク波長(PLピーク波長)の10倍程度またはそれ以下にすることが望ましい。一方、周期が半導体中の波長に比べて短すぎる場合、光に対しては周期構造ではなく数周期分を平均した屈折率が一様に分布した構造と同等になるため、回折による光取り出し効率向上の効果がなくなる。このように回折効果がなくなるのは周期が半導体中の光の波長の0.5倍未満である場合である。従って、n型コンタクト層7における2次元構造の周期は、半導体中の光のピーク波長(PLピーク波長)の0.5倍以上10倍以下であることが好ましい。
また、図5(a)に示す結果から、本実施形態のLEDにおいてはn型コンタクト層7に形成された2次元構造の周期が0.3μmの場合、300nmから500nmまでのどの波長の光に対しても60%程度の光取り出し効率を得られる可能性があることが分かる。これは、第1の従来例に係るLEDに比べて15倍もの高効率である。このように、特定の波長ではなく広い波長範囲に渡り高効率化が実現することは、放射する光の波長が数10nmに渡り分布しているLED場合にも、フォトニック結晶と領域ごとに分断されたスラブ構造とを備える本発明の半導体発光素子が有効であることを示している。なお、本実施形態の半導体発光素子において、広範囲の波長の光に対して光取り出し効率が向上する機構については、後述する。
次に、図5(b)に示す結果から、スラブ構造を有する多層膜10の膜厚に光取り出し効率はほとんど依存しないことが分かる。具体的には、少なくともスラブ厚が79nm以上318nm以下の範囲で光取り出し効率は大きく変化しない。これは、積層方向の共振を利用して光取り出し効率を向上させる共振器LED(Resonant-cavity LED)のように光取り出し効率がスラブ膜厚に敏感に依存する技術とは、本発明の技術が異なることを意味する。本実施形態のLEDはスラブ膜厚を精密に制御する必要がないため、共振器LEDに比べてプロセスの許容度が高く、安定な歩留まりを実現することができる。なお、スラブ膜厚はPLピーク光の波長の10倍以下であることが好ましい。
次に、図5(c)に示す結果から、n型コンタクト層7の厚さが増加するほど、光取り出し効率が低下することが分かる。従って、光取り出し効率の観点からは、フォトニック結晶11を設けるn型コンタクト層7の厚さは薄いほうが好ましい。しかし、本実施形態のLEDでは、n型コンタクト層7内で横方向に電流拡散をすることによって広い範囲の活性層に電流注入する必要があるため、電流拡散の観点からはn型コンタクト層7の厚さが厚いほうが好ましい。以上の観点から、n型コンタクト層7の厚さは少なくとも0.1μm以上で且つ2μm以下であることが望ましい。
以上の数値計算の結果より、本実施形態のLEDによれば、従来のLEDに比べて光取り出し効率を大幅に向上させることができることが分かる。
次に、本発明の半導体発光素子において広範囲の波長の光に対して光取り出し効率が向上する機構について、図を用いて説明する。
図6(a)は、上面が平坦である第1の従来例に係るLEDを模式的に示す斜視図であり、(b)は、第1の従来例に係るLEDの光射出面における光の挙動を説明するための図であり、(c)は、水平方向の波数k//とフォトン周波数ωの関係を示す図である。
図6(b)に示すように、第1の従来例に係るLEDにおいて、活性層で発生する光が全反射臨界角より小さい角度でLED上面に達する場合、全反射されずにLED上面を透過、すなわちLED外部の空気中へ放射される。しかし、全反射臨界角より大きい角度で光出射面に入射した光はLED上面で全反射され、LED内部に閉じ込められる。この現象はスネルの法則により説明されるが、ここでは後述するフォトニック結晶に関しても記述できるように、フォトン周波数ωと波数k(ただし、k=2π/λ。λは光の波長)の関係、すなわちω−k分散を用いて説明する。波数ベクトルは光の伝搬方向を示す。対象とする系は、図6(b)のように水平方向に関して並進対称性を有するため、水平方向の波数k//が保存される。すなわち、LEDの内部からLEDの外部に光が伝搬する場合、LED内部におけるk//とLED外部におけるk//とは一致しなくてはならない。このようにk//は特別な物理量となるため、系の光を指定する指標としてk//を用いると光の伝搬の解析が便利である。
ここで、LED内部の屈折率をNとすると、LED内部で発生した光は屈折率の定義であるω=k・c/Nの関係を満たす必要がある(cは光の速度)。LED内部における垂直方向の波数をkverとすると波数の定義より、k2=kver 2+k// 2である。伝搬する光はkverもしくはk//が実数である必要がある。kverもしくはk//が虚数であると、減衰する光を意味し、光が伝搬しないことを意味するからである。従って、とり得るk//の範囲は|k//|≦Nω/cである。しかし、LEDの外部に伝搬する光のとり得るk//の範囲は|k//|≦ω/cでありN>1であるので、ω/c≦|k//|≦Nω/cの範囲の光はLED上面からLED外部へと透過することができない。なぜなら、LEDの外部へ透過しようとすると、kverが虚数となり減衰してしまうからである。これが全反射現象である。
LED表面への入射角度θはθ=tan-1(kver/k//)であるため、|k//|が大きい光というのは、入射角度が大きいことを意味する。全反射が生じ始める角度である全反射臨界角θcにおいては、kver=0である。このとき、|k//|=Nω/cであるので、θc=tan-1(0/Nω/c)=sin-1((ω/c)/(Nω/c))=sin-1(1/N)となる。θc以上の入射角の光は、LED表面で全反射される。
次に、図20に示すような表面フォトニック結晶を有する第3の従来例に係るLEDについて考察する。
図7(a)は、上面近傍にのみフォトニック結晶が設けられた第3の従来例に係るLEDを模式的に示す斜視図であり、(b)は、第3の従来例に係るLEDの光射出面における光の挙動を説明するための図であり、(c)は、第3の従来例に係るLEDにおいて水平方向の波数k//とフォトン周波数ωの関係を示す図である。ここでは単純に1次元方向に周期aの構造が形成されているとして考察する。
第3の従来例に係るLEDの場合、図7(b)に示すように活性層からLED上面に伝搬して光は周期構造による回折を受け、伝搬方向を変える。回折を回折ベクトルGphc(ここで、Gphc=2π/a)による散乱として、図7(c)に示すω−k分散形式で記述する。LED表面(上面)に周期構造が設けられている場合、水平方向を伝搬する光は平坦な表面の連続的な並進対称性(平行移動であればどの距離の平行移動においても、系は移動前と変わらない)ではなく、離散的な並進対称性(周期の整数倍の距離の平行移動のときに、系は移動前と変わらない)を示す。この場合のk//の保存則は、k//aft=k//bef+ mGphc となる(m=0、±1、±2、±3・・・の整数)。ここで、k//aftは散乱後の水平方向の波数を意味し、k//befは散乱前の水平方向の波数を意味する。上式から、周期構造の回折により、k//を変化させることができることが分かる。これは回折により光が伝搬する方向を変えることを意味する。表面フォトニック結晶においては、ω/c≦|k//|≦Nω/cの平坦な平面では全反射していた光もGphcによって|k//|≦ω/cと変化させることができ、LED外部に光を取り出すことができる。しかし、回折効率を100%とすることは不可能なため、回折を受けなかった光は全反射によりLED内部に閉じ込められる。
次に、図1に示す本実施形態のLEDについて考察する。
図8(a)は、本実施形態のLEDのうち2次元フォトニック結晶として機能するn型コンタクト層を斜視図であり、(b)は、本実施形態のLEDにおいて水平方向の波数k//とフォトン周波数ωの関係を示す図である。以下、本実施形態のLEDにおける光の伝搬をω−k分散形式を用いて説明する。
本実施形態のLEDの場合、2次元フォトニック結晶中を伝搬する光についてのk//の範囲は、ブロッホの定理により|k//|≦π/aに制限される。その結果、a≧λとすれば、2次元フォトニック結晶中においては|k//|≦π/λ=ω/cとなるため、光がLED外部に透過する条件を満たす。すなわち、a≧λの2次元フォトニック結晶中を伝搬する光は、全てLED外部の空気中へ取り出される。従って、本実施形態のように、内部量子効率の低下を避けるために2次元フォトニック結晶の孔が活性層を貫通しない構造の場合、活性層から2次元フォトニック結晶へ高効率に光を伝搬することができれば、非常に高い光取り出し効率を実現することができる。この高効率の伝搬を実現するために、本実施形態のLEDでは前述のスラブ構造を採用している。
次に、本実施形態のLEDの製造方法を説明する。図9(a)〜(f)は、本実施形態のLEDの製造方法を示す斜視図である。図面の都合上、LEDの1素子分を図示しているが、実際の製造は複数の素子が設けられるウェハ単位で行われ、LEDが形成された後でチップごとに分割される。
まず、図9(a)に示すように、基板12上にn型GaNからなるn型コンタクト層7、n型AlGaNからなるエッチングストップ層6、AlInGaN多重量子井戸からなる活性層5、p型GaNからなるp型コンタクト層4をこの順に形成する。基板12としてはサファイア基板やSiC基板、AlN基板、Si基板などが用いられるが、本実施形態の例ではサファイア基板が用いられている。本工程において、窒化物系化合物半導体の結晶成長方法としては、MOCVD(有機金属化学気相成長:Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、MBE(分子線エピタキシャル成長:Molecular Beam Epitaxy)法などが用いられる。本実施形態の例では、AlGaN層の形成にMOCVD法が用いられている。
次に、図9(b)に示すように、Al/Ti/Auからなる高反射率p電極3を堆積した後に、周期的な形状にパターニングする。本実施形態の例では高反射率の材料であるAlを高反射率p電極3の一部に利用しているが、その他の高反射率の金属として、Au、Pt、Cu、Ag、Rdなどやそれらの合金を用いてもよい。金属の堆積には、蒸着法やスパッタ法などが用いられるが、本実施形態の例では電子ビーム蒸着法が用いられている。また、周期的な形状のパターニングにはリフトオフやエッチングなどが用いられるが、本実施形態の例ではリフトオフが用いられている。この高反射率p電極3の周期は例えば15μmで、上から見た場合の各正方形の一辺は8μmである。高反射率p電極3の平面面積は図1に示すように多層膜10の平面面積と等しくてもよいが、多層膜10の平面面積よりも小さい方が側面でのリークを低減できるのでより好ましい。
その後、図9(c)に示すように、水平方向に不連続なスラブ構造を形成するために、エッチングストップ層6、活性層5、p型コンタクト層4を含む多層膜をエッチングにより周期的に分離する。ここで、分離の周期は15μm、分離された多層膜を上から見た場合の正方形の一辺は10μmである。この分離構造の形成には、例えば、エッチングマスク用のレジストのパターニングにはフォトリソグラフィが利用され、窒化物系化合物半導体のエッチングにはRIE(反応性イオンエッチング:Reactive Ion Etching)法やイオンミリング(Ion Milling)法などのドライエッチング技術や、紫外線を照射しながらの光化学エッチングや加熱した酸またはアルカリ液によるエッチングなどのウェットエッチング技術を用いることができる。ここでは、RIE法によりエッチングが行われる。
次に、図9(d)に示すように、Auからなる高反射率金属層2を上面上に有し、Siからなるサブマウント1を準備し、先の工程で形成した素子を、高反射率p電極3を下にして高反射率金属層2と貼り合せる。サブマウント1の材料としてはSiの他、SiC、AlN、Cuなどが用いられる。この後、基板12の裏面からKrFエキシマレーザ(波長248nm)を、ウエハ面内をスキャンする形で照射して基板12を除去する。照射されたレーザ光はサファイアからなる基板で吸収されずGaNでのみ吸収される波長であるので、レーザ光の吸収による局所的な発熱により基板12とn型コンタクト層7の界面付近においてGaNの結合が分解する。これにより、基板12を素子から分離し、窒化物系半導体からなるデバイス構造を得ることができる。ここで用いられるレーザ光は、GaNに吸収され、且つサファイアに対して透明な波長であればよいので、YAGレーザの第三高調波(波長355nm)、あるいは水銀灯輝線(波長365nm)なども用いられる。また、この例では基板12としてサファイア基板を用いたが、AlN基板を用いる場合でも、本実施形態と同様にして基板を除去することができる。また、基板12としてSiC基板が用いられる場合には、SiCとGaNとの選択的ドライエッチングによってSiC基板を除去することができる。また、基板12としてSi基板が用いられる場合、ウェットエッチングにより容易に基板を除去することができる。
次に、図9(e)に示すように、n型コンタクト層7の上面(エッチングストップ層6などが設けられた面に対向する面)上に電子ビーム蒸着法によってTi/Auを堆積した後リフトオフによってパターニングを行う。これにより、n型コンタクト層7の上面の中心領域にTi/Auからなるn電極9を形成する。
次いで、図9(f)に示すように、n型コンタクト層7を貫通する孔8を周期的に形成して2次元周期構造を有するフォトニック結晶11を形成する。このフォトニック結晶11を形成する際に、エッチングマスクとなるレジストのパターニングには例えば電子ビーム露光やステッパー、ナノプリントなどが利用されるが、本実施形態の例では電子ビーム露光が用いられている。この孔8のエッチングでは活性層5を貫通することを避けるために、深さ方向を精密に行う必要がある。そのために、本実施形態のLEDではn型コンタクト層7と異なる組成の半導体であるエッチングストップ層6を設けている。本実施形態のLEDでは、GaNからなるn型コンタクト層7に対してエッチング耐性を高めるためにAlを含むAlGaNをエッチングストップ層6に用いている。ドライエッチングにおいてAlGaNのエッチング速度がGaNのエッチング速度よりも遅いために、AlGaNをエッチングストップ層6として用いることができる。本工程では、活性層5をドライエッチングしてしまわないようドライエッチングの条件を適切に設定する必要がある。また、AlGaNとGaNとのエッチング選択比はあまり高くないので、深さ方向を制御するためにもエッチング条件を適切に設定する必要がある。なお、フォトニック結晶11の周期は、例えば、0.3μm、孔の直径は0.1μmである。
なお、ドライエッチング以外の方法でフォトニック結晶11を形成することもできる。
図10は、本実施形態の半導体発光素子の製造方法の第1の変形例を示す図であり、図11は、本実施形態の半導体発光素子の製造方法の第2の変形例を示す図である。
図9(f)に示す工程において、図10に示すように紫外線を照射しながら光化学エッチングを用いてフォトニック結晶11を形成することもできる。すなわち、n型コンタクト層7の上面上にマスクとなるレジスト20を周期的なパターンで形成した後、素子をKOHなどを含むアルカリ性液体や燐酸などを含む酸性の液体であるエッチング液19中に浸し、AlGaNには透明でGaNでは吸収される波長360nmの紫外線を照射する。これにより、孔8が周期的に形成される。GaNは化学的に安定であり、アルカリや酸に浸してもそのままではエッチングされない。しかし、正孔が形成される、すなわち化学結合を形成している電子が不足すると、化学結合が弱くなるためアルカリや酸にエッチングされる。しかし、エッチングがAlGaNからなるエッチングストップ層6まで達すると、紫外線はAlGaNに吸収されないのでAlGaN表面に正孔が形成されない。従って、AlGaNからなるエッチングストップ層6はエッチングされず、エッチングが停止する。このようにエッチングが所定の深さで自動的に停止するため、製造しやすく高い歩留まりが実現する。また、ドライエッチングに比べてフォトニック結晶11の表面を傷めることなく孔8を形成できる上、活性層5にダメージを与えるおそれがなくなる。
また、図11に示すように、フォトニック結晶11は、バイアスを印加しながらの陽極酸化エッチングなどのウェットエッチング技術を用いても形成される。すなわち、パターニングされたレジストをn型コンタクト層7上に形成した後、素子をKOHを含むアルカリ性の液体や燐酸を含む酸性の液体であるエッチング液19中に浸す。この状態で、サブマウント1とn型コンタクト層7との間にバイアスを印加して電流を流すことによって、電気的にn型コンタクト層7に孔8を形成する。バイアスを印加するためのPt電極にはコンピュータにより制御されたエレクトロメータ17が接続される。エッチングは素子に電流を流すことによって進むため、エッチングの進行は素子を流れる電流を通してモニタでき、エッチングがエッチングストップ層6の表面に達した時の電流の変化を捉えた時に、バイアス印加を解除すればエッチングをエッチングストップ層6の直上で停止することができる。このように、本変形例に係る方法によれば、エッチングの進行を電気的にモニタすることが可能なため、コンピュータによりエッチングを自動的に制御でき、高い歩留まりを実現することができる。
図12(a)、(b)は、以上のようにして作製された本実施形態のLEDについて、電流−電圧特性と電流−光出力特性とをそれぞれ示す図である。各グラフ中には、比較のために、基板12が除去されているがフォトニック結晶11が形成されていない従来の構造のLEDの特性も示している。
図12(a)に示す結果から、本実施形態のLEDと従来のLEDの電流−電圧特性は、立ち上り電圧を含めてほぼ等しい曲線を描くことが分かる。このことから、本実施形態の製造方法によれば、2次元周期構造を形成することによる活性層5への加工ダメージによるリークがなく、n型コンタクト層7に2次元周期構造の孔8が形成されていても電流が従来のLEDと同様に拡散するLEDを作製できることが分かる。すなわち、本実施形態のLEDにおいては、フォトニック結晶11が形成されない従来のLEDと比べて電流−電圧特性に悪影響を与えることなくフォトニック結晶11が形成されている。
一方、図12(b)に示す結果から、本実施形態のLEDは、従来のLEDに比べて電流値に対する光出力(LED全面からの合計の光出力)が大幅に増加していることが分かる。例えば、20mA以下の電流領域において、本実施形態のLEDの光出力は、同一電流を流した場合の従来のLEDの約15倍に増加している。すなわち、本実施形態のLEDでは、図5に示す理論計算結果と同様に光取り出し効率が60%近くに向上していることが分かる。そして、理論計算と同じ結果が得られていることから、フォトニック結晶11の孔8が活性層5まで貫通せず、内部量子の低下が生じていないことが確認できる。
以上のように、本実施形態のLEDにより、電圧効率や内部量子効率を低下させることがなく、光取り出し効率を向上することができることが示された。
なお、図13(a)〜(f)は、それぞれ本実施形態のLEDにおいて、フォトニック結晶11に形成された孔8の形状および配置のバリエーションを示す平面図である。
図13(a)に示すように、2次元周期配列を構成する孔8は正方格子状に配置されていてもよいし、図13(b)に示すように、三角格子状に配置されていてもよい。また、図13(c)、(d)に示すように、孔8は、方向によって周期が異なるように配置されていてもよい。図13(e)、(f)に示すように、孔の形は円形に限らず、楕円形や正方形、六角形などの多角形でもよい。これは、上述の理論計算に示されたように周期構造があれば回折が生じ、光取り出し効率を向上させる効果が孔の配置や形状に敏感でないためである。このように、本発明の半導体発光素子の構成は、孔の配置や形状に対する許容度が高くなっている。
また、図4(a)の理論計算で示したように、スラブ構造を形成する多層膜10が水平方向に分離されていない場合でも、従来のLEDに比べて光取り出し効率を向上させることができる。従って、図14(a)、(b)に示すように、多層膜10が複数の領域に分離されない構造であってもよい。
図15(a)〜(d)は、本実施形態のLEDにおいて、水平面内で分割された多層膜10および高反射率p電極3の形状のバリエーションを示す斜視図である。これらの図に示すように、多層膜10および高反射率p電極3の平面形状は特に限定されず、正方形や五角形、六角形などの多角形状であってもよいし、図15(a)に示すように、円形あるいは楕円形であってもよい。分割された多層膜10の平面形状が楕円形もしくは多角形であれば回転対称性が円形の場合よりも低下するため、スラブ構造(多層膜10)の分割面を反射しながら周回し閉じこもるモードの発生を防ぐことができる。その結果、スラブ構造中を伝搬する光を効果的にスラブ構造から取り出すことができ、光取り出し効率をさらに向上させることができる。
また、水平方向に互いに分離された多層膜10の配列は図15(c)、(d)に示すように三角格子状であっても正方格子状であってもよい。これは周期があれば回折が生じ、上述の理論計算に示されたように光取り出し効率向上が構造に敏感でないという構造の許容度が本発明において高いためである。なお、多層膜10は必ずしも周期構造である必要はない。
また、分割された多層膜10同士の間隔は1μm以上とし、分割された多層膜10の平面形状が四辺形の場合の一辺の長さは1μm以上であることが好ましい。これは、多層膜10の幅が小さく、且つ多層膜10の間隔が大きすぎると素子面積に対する発光領域の面積が小さくなるため、光取り出し効率の向上効果が低減してしまうためである。また、多層膜10の間隔が大きすぎると多層膜10の断絶部分の界面から放射された光が次元フォトニック結晶に伝搬されずに隣接する別のスラブ構造に伝搬されるので、スラブ構造に閉じ込められた光を取り出すことができず、光取り出し効率向上という本発明の効果が低減してしまう可能性がある。
また、図16は、本実施形態のLEDにおいて、高反射率金属層2の代わりに分布ブラッグ反射(DBR: Distributed Bragg Reflection)ミラー14を用いた例を示す斜視図である。同図に示すように、スラブ構造に光を閉じ込めるための層として高反射率金属層2に代えて、GaNからなる低屈折率層32とAlGaNからなる高屈折率半導体薄膜13とが交互に積層された多層膜であるDBRミラー14を用いてもよい。DBRミラー14を用いる場合、金属からなる高反射率金属層2を設ける場合よりも斜め方向の反射率が低下するが、垂直方向の光に対する反射率を90%以上にもすることができる。さらに、DBRミラー14を用いる場合、ミラーの構成材料による光吸収を低減できるため、金属からなる高反射率金属層2と同等の光閉じ込め機能を実現することができる。その結果、高反射率金属層2を設ける場合と同様に60%以上の高い光取り出し効率を実現することができる。
また、図17(a)は、本実施形態のLEDの一変形例を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す本実施形態のLEDの一変形例を上下逆さにして示した斜視図である。同図に示すように、本実施形態のLEDにおいて、n電極9はn型コンタクト層7の主面のうち活性層5が設けられた主面に対向する面に必ずしも設けられる必要はない。すなわち、図17(a)に示すように、n電極9がn型コンタクト層7の主面のうち活性層5と同じ主面に設けられていてもよい。このような構成にすると、図17(b)に示すように、光が取り出される面において、図1に示す構成に比べてn電極9による光の吸収および遮蔽がないので光取り出し効率をさらに向上させることができる。ただし、図1に示す構成は、n電極9から注入された電流が水平方向に拡散しやすいという利点があるので、素子の設計に応じてn電極9をn型コンタクト層7のいずれの主面上に設けるかを適宜選択すればよい。
なお、上記の実施形態では発光波長が青色や紫色の短波長となるAlGaInN層を活性層として用いた例を特に説明したが、半導体発光素子の発光波長が青色や紫色以外であってもよい。例えば、AlGaAs(屈折率3.6)やAlGaInP(屈折率3.5)を用いた赤外光や赤色光を発光する半導体発光素子に対しても本発明の設計は適用可能である。
また、図1に示す本実施形態の半導体発光素子において、高反射率金属層2を設けず、代わりに高反射率p電極3をサブマウント1の全面上に設ける構成であっても多層膜10をスラブ構造とすることができる。
本発明の半導体発光素子は、高発光効率の光源として有用であり、例えば表示装置用のバックライトや照明器具等に利用可能である。
1 サブマウント
2 高反射率金属層
3 高反射率p電極
4 p型コンタクト層
5 活性層
6 エッチングストップ層
7 n型コンタクト層
8 孔
9 n電極
10 多層膜
11 フォトニック結晶
12 基板
13 高屈折率半導体薄膜
14 DBRミラー
17 エレクトロメータ
19 エッチング液
20 レジスト
32 低屈折率層
2 高反射率金属層
3 高反射率p電極
4 p型コンタクト層
5 活性層
6 エッチングストップ層
7 n型コンタクト層
8 孔
9 n電極
10 多層膜
11 フォトニック結晶
12 基板
13 高屈折率半導体薄膜
14 DBRミラー
17 エレクトロメータ
19 エッチング液
20 レジスト
32 低屈折率層
Claims (26)
- 光を放射する活性層を含み、スラブ構造を有する半導体多層膜と、
前記半導体多層膜の上面上に設けられた2次元フォトニック結晶とを備えていることを特徴とする半導体発光素子。 - 前記2次元フォトニック結晶は導電性であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記活性層に第1導電型のキャリアを注入するための第1の電極が前記半導体多層膜の下面上に設けられ、
前記活性層に第2導電型のキャリアを注入するための第2の電極が前記2次元フォトニック結晶のいずれかの主面上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。 - 前記第2の電極は、前記2次元フォトニック結晶の主面のうち、前記半導体多層膜が設けられた面に対向する面上に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
- 前記第2の電極は、前記2次元フォトニック結晶の主面のうち、前記半導体多層膜が設けられた面と同じ面上に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
- 前記第1の電極の下面上には、金属膜が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
- 前記半導体多層膜は、水平面内において複数の領域に分離されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 複数の領域に分離された前記半導体多層膜の平面形状は、円形、楕円形、多角形のうちのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。
- 複数の領域に分離された前記半導体多層膜の平面形状は四辺形であり、
前記四辺形の一辺の長さは1μm以上であることを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。 - 複数の領域に分離された前記半導体多層膜の分離間隔は1μm以上であることを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。
- 前記半導体多層膜の下面上に分布ブラッグ反射多層膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記活性層に第1導電型のキャリアを注入するための第1の電極が前記分布ブラッグ反射多層膜の下面上に設けられ、
前記活性層に第2導電型のキャリアを注入するための第2の電極が前記2次元フォトニック結晶のいずれかの主面上に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の半導体発光素子。 - 前記第1の電極は、Au、Pt、Cu、Ag、RdおよびAlのうちから選ばれた1つの金属、あるいは2つ以上からなる合金、またはAu膜、Pt膜、Cu膜、Ag膜、Rd膜およびAl膜のうちから選ばれた膜の積層体により構成されていることを特徴とする請求項3または12に記載の半導体発光素子。
- 前記分布ブラッグ反射多層膜を形成する材料は半導体であることを特徴とする請求項11に記載の半導体発光素子。
- 前記2次元フォトニック結晶には、周期的に配置された孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記孔の平面形状は、円形、楕円形、多角形のうちのいずれかであることを特徴とする請求項15に記載の半導体発光素子。
- 前記孔は、正方格子状または三角格子状に配置されていることを特徴とする請求項15に記載の半導体発光素子。
- 前記孔の配列周期は方向によって異なっていることを特徴とする請求項15に記載の半導体発光素子。
- 前記半導体多層膜の膜厚が、前記活性層から放射される光の前記半導体多層膜中でのピーク波長の10倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記2次元フォトニック結晶の周期が前記活性層から放射される光の前記半導体多層膜中でのピーク波長の0.5倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記2次元フォトニック結晶の厚みは0.1μm以上で且つ2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 前記2次元フォトニック結晶を構成する材料が半導体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
- 半導体層の第1の主面上に、光を放射するための活性層を含む半導体多層膜を形成する工程(a)と、
前記半導体層に2次元周期構造を形成して前記半導体層を2次元フォトニック結晶とし、前記半導体多層膜をスラブ構造とする工程(b)とを備えていることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。 - 前記工程(a)において、前記半導体層は基板上に設けられており、
前記工程(a)の後で前記工程(b)の前に、前記基板を除去する工程(c)をさらに備えていることを特徴とする請求項23に記載の半導体発光素子の製造方法。 - 前記工程(b)は、前記半導体層の第2の主面上にマスクを形成する工程と、前記半導体層をエッチング液に浸漬させた状態で前記第2の主面に紫外線を照射する工程とを含む光化学エッチングによって行われることを特徴とする請求項23に記載の半導体発光素子の製造方法。
- 前記工程(b)は、前記半導体層の第2の主面上にマスクを形成する工程と、前記半導体層および前記半導体多層膜をエッチング液に浸漬した状態で前記半導体層および前記半導体多層膜に電流を流す工程とを含む陽極酸化エッチングにより行われることを特徴とする請求項23に記載の半導体発光素子の製造方法。
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