JP2006189695A - 液晶回折光学素子及び光ヘッド装置及び光ディスクドライブ装置 - Google Patents

液晶回折光学素子及び光ヘッド装置及び光ディスクドライブ装置 Download PDF

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Kazuya Miyagaki
一也 宮垣
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浩之 杉本
Hiroyoshi Funato
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Abstract

【課題】短波長光においても大きな回折角度が得られ、大きな回折効率と優れた偏光選択性を有し、入射角度依存性が小さく発散光及び温度変化に対しても高効率の液晶回折光学素子を実現する。
【解決手段】本発明は、光学的異方性を示す領域4と光学的等方性を示す領域5との周期的な構造からなる回折格子を有する液晶回折光学素子1において、前記光学的異方性を示す領域4が液晶材料からなり、該液晶材料の等方相転移温度をTni、結晶化温度をTsnとする場合、前記回折格子の使用環境温度Tは、Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]の関係にあることを特徴とする。すなわち、等方相転移温度Tniと結晶化温度Tsnを有する液晶材料を用いた液晶回折光学素子において、素子の使用環境温度Tが、上記の関係にあるとき、回折効率の温度依存性が低い素子を実現することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、入射光の偏光方向によって素子を透過または回折させる機能を有する液晶回折光学素子(以下、偏光分離素子と呼ぶ場合もある)に関し、特に光ヘッド装置や表示装置等に用いられる偏光選択性の液晶回折光学素子(特に液晶を用いた偏光選択性回折光学素子あるいは偏光選択性ホログラム素子等)に関するものであり、さらには、その液晶回折光学素子を用いた光ヘッド装置及び、その光ヘッド装置を搭載した光ディスクドライブ装置に関する。
従来、光ヘッド装置(光ピックアップ装置と呼ぶ場合もある)等に用いる偏光選択性の偏光分離素子(偏光選択性回折光学素子、偏光選択性ホログラム素子等)としては、以下のような従来技術がある。
(1)特許文献1(特許第3299384号公報(特開平7−287117号公報))には、光学的異方性基板上に回折格子形状を形成し、この回折格子形状の溝部に屈折率を規定した材料を充填した偏光ビームスプリッターが開示されている。
(2)特許文献2(特許第550905号公報(特開平10−92004号公報))には、等方性基板上に回折格子形状を形成し、この回折格子形状の溝部に光学的異方性の材料を充填した光学的異方性回折素子が開示されている。
(3)特許文献3(特開平10−74333号公報)には、光重合性液晶を、周期的な透明電極パターンを有する透光性基板で狭持した液晶セルを用い、透明電極パターンに電圧を印加することで液晶を周期的に垂直配向させて光重合させるとともに、非電圧印加部は水平配向の状態で光重合させることで、水平配向領域と垂直配向領域の周期構造を形成した光学的異方性回折素子が開示されている。
(4)特許文献4(特開平11−271536号公報)には、上述のような光重合性液晶を用い、水平配向させた状態で干渉露光等の方法で露光を行い、露光部の液晶を周期的に重合固化させた後に未露光部に外場を印加させ垂直配向させた状態で反応固化するホログラム素子が開示されている。
(5)特許文献5(特開2000−221465号公報)には、液晶と高分子を含む光学媒体を液晶のN−I点に対応した特定の温度範囲に制御して二光束干渉露光を行うことで、液晶が微細な周期構造に対し一様な方向に配向する構造を有する回折光学素子が開示されている。
(6)特許文献6(特開2003−270419号公報)には、回折効率が極小値をとる素子温度が25℃〜70℃以下の範囲にあり、素子は屈折率異方性および屈折率の温度依存性がそれぞれ異なる領域が交互に配列された構造を有する回折光学素子が開示されている。
特許第3299384号公報(特開平7−287117号公報) 特許第550905号公報(特開平10−92004号公報) 特開平10−74333号公報 特開平11−271536号公報 特開2000−221465号公報 特開2003−270419号公報 BellSyst. Tech. J.,48, 1969,P2909-2947
近年、光ディスクドライブ装置等に搭載される光ヘッド装置(光ピックアップ装置)の小型化のために、光源であるレーザーダイオード(LD)と光検出器(フォトディテクター)を近接して配置し、偏光分離素子(例えば偏光選択性ホログラム素子)を用いて光源からの出射光は回折せずに効率良くディスク面に集光し、ディスク面で反射された後に偏光面が90度回転して戻ってきた光のみを回折させて効率良く光検出器の受光素子内に導く方式が提案されている。また、光ディスクドライブ装置は高密度化のために光源の短波長化が進展している。上記のホログラム素子を用いた場合、回折角は波長に依存するため、小型のレイアウトを実現するために必要な回折角を得るためには、より短いピッチの回折格子が必要とされている。一方、光源の短波長化に伴い、光検出器の受光素子の感度が低下するため、光学系の高効率化が必要とされている。さらに、書き込みや読み込み速度を向上させるためにも光学系の効率向上が求められており、このような光学系の特性は装置内の温度変化や周囲環境変化によっても高い効率を維持することが重要とされている。すなわち、偏光選択性ホログラム素子としては、短いピッチで高い回折効率と良好な偏光選択性、さらに温度依存性が低いものが求められている。
まず構成に関して、前述の従来技術の(1)や(2)の例のものは、ドライエッチング等の方法で回折格子形状を形成する必要がある。このような構造において、高い回折効率を得るためには溝形状の深さをより深くする必要があり、加工上の困難を伴う。また、深い溝形状に均一に材料を充填することが困難であるという問題もある。従来技術の(3)の例では、格子のピッチは透明電極のピッチで決まるが、電極の微細化の制約とともに、回折効率を高くするために厚膜化すると電極のピッチよりも膜厚が厚くなり、隣接電極の影響によって液晶層に所望の電界がかけられなくなるという問題がある。また、短いピッチでは、垂直配向領域の配向が隣接する水平配向領域に影響を及ぼし、所望の配向分布が得られないと言う問題がある。従来技術の(4)の例では露光のピッチを微細化することは可能であるが、反応活性種の熱拡散のために露光通りの短いピッチを形成することが困難であるという課題がある。従来技術の(5)の例では、ポリマーと液晶の相分離を利用して短いピッチの周期構造を比較的容易に形成できるが、液晶相部分の複屈折性を十分に利用し、良好な偏光選択性、短波長における良好な透過性を得ることは難しい。
次に温度依存性に関して、従来技術の(1)、(3)及び(4)の例では、格子の光学的異方性領域として高分子膜や光硬化型液晶を用いているため、素子の特性としては比較的温度依存性は小さいが、前述したように複屈折性が小さく厚膜化の課題がある。これに対し複屈折性が比較的大きい、従来技術の(2)や(5)の例では、非硬化型の液晶を用いるため温度依存性が大きくなり、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)や投射型表示装置(プロジェクタ等)などの温度変化が大きい装置に組み込んだ場合、使用条件によっては高い回折効率を維持することは難しい。そこで、従来技術の(6)の例のように、温度依存性の異なる材料を用いて、温度依存性の異なる格子領域を形成し、素子の特性として温度依存性を小さくすることが提案されているが、素子の内部における短いピッチの格子領域では、選定した材料単体時の温度依存性とは若干異なる場合があり整合をとることが難しい。また、このような複屈折性と温度依存性を両立させる材料選定は制限が多いため実現することは難しい。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、青色等の短波長光においても大きな回折角度が得られ、大きな回折効率と優れた偏光選択性を有し、入射角度依存性が小さく発散光及び温度変化に対しても高効率の液晶回折光学素子(偏光分離子(偏光選択性回折光学素子、偏光選択性ホログラム素子等))を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、良好な温度特性を示す(温度依存性の低い)液晶回折光学素子を提供すること、偏光選択性のよい液晶回折光学素子を提供すること、回折効率特性の精度がよい液晶回折光学素子を提供すること、作製工程が少なく低コストな液晶回折光学素子を提供すること、低コストで高回折効率特性を有する液晶回折光学素子を提供すること、偏光選択性及び回折効率のよい液晶回折光学素子を提供すること、を目的とする。
また、本発明は、その液晶回折光学素子を用いた光ディスク用または光磁気ディスク用の小型で光利用効率の高い光ヘッド装置(光ピックアップ装置)を提供することを目的とする。さらに本発明は、その光ヘッド装置を搭載した光ディスクドライブ装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では以下のような技術的手段を採っている。
本発明の第1の手段は、光学的異方性(以下、複屈折性と呼ぶ場合もある)を示す領域と光学的等方性を示す領域との周期的な構造からなる回折格子(ホログラムを含む広義な意味での回折格子)を有する液晶回折光学素子において、前記光学的異方性を示す領域が液晶材料からなり、該液晶材料の等方相転移温度をTni、結晶化温度をTsnとする場合、前記回折格子の使用環境温度Tは、
Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]
の関係にあることを特徴とする(請求項1)。
本発明の第2の手段は、第1の手段の液晶回折光学素子において、前記液晶材料の等方相転移温度Tniが80[℃]以上であることを特徴とする(請求項2)。
また、本発明の第3の手段は、第1または第2の手段の液晶回折光学素子において、前記液晶材料は末端にハロゲン基が置換されている2環材料または多環材料を主とした組成からなることを特徴とする(請求項3)。
本発明の第4の手段は、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は光学的等方性媒体により予め山谷状の周期構造が形成されており、前記周期構造の谷状部に光学的異方性媒体として前記液晶材料を封入してなることを特徴とする(請求項4)。
本発明の第5の手段は、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、開口領域と遮光領域が周期的に形成されているマスクを介した露光により、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることを特徴とする(請求項5)。
本発明の第6の手段は、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を干渉露光することにより、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることを特徴とする(請求項6)。
本発明の第7の手段は、第1〜第6のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子への入射光の偏光方向が、前記光学的異方性領域と前記光学的等方性領域の境界に対して平行方向あるいは直交方向であることを特徴とする(請求項7)。
本発明の第8の手段は、光源からの光を記録媒体に集光し、該記録媒体からの反射光を光検出器で検出して情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ヘッド装置において、前記記録媒体から前記光検出器に至る光路中に、前記記録媒体からの反射光を光検出器に向けて偏向する光学素子を備え、該光学素子が請求項1〜7のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子であることを特徴とする(請求項8)。
また、本発明の第9の手段は、第8の手段の光ヘッド装置において、前記光源と前記光検出器を一つのケース内に収納し、該ケースの光出・入射部に前記液晶回折光学素子を一体化したことを特徴とする(請求項9)。
本発明の第10の手段は、記録媒体に対して光ヘッド装置を用いて情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ディスクドライブ装置において、前記光ヘッド装置として、第8または第9の手段の光ヘッド装置を搭載したことを特徴とする(請求項10)。
本発明の第1の手段では、光学的異方性(複屈折性)を示す領域と光学的等方性を示す領域との周期的な構造からなる回折格子を有する液晶回折光学素子において、前記光学的異方性を示す領域が液晶材料からなり、前記液晶材料の等方相転移温度をTni、結晶化温度をTsnとする場合、前記回折格子の使用環境温度Tは、
Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]
の関係にあることにより、回折効率の温度依存性が低い素子を実現することができる。
すなわち、物性値Tni、Tsnを有する液晶材料を用いた液晶回折光学素子において、前記素子の使用環境温度Tが、上記の関係にあるとき、回折効率の温度依存性が低い素子を実現することができる。例えば、室温Trt時の回折効率をη(Trt)、使用最大温度Tmax(=Tni−10[℃])の時の回折効率をη(Tmax)とする場合、室温に対する使用最大温度時の回折効率(η(Tmax)/η(Trt))の低下率は10%以下となる。
本発明の第2の手段では、第1の手段の液晶回折光学素子において、等方相転移温度Tniが80[℃]以上の液晶材料を用いることで、第1の手段の関係から素子の使用最大温度は70[℃]以上と設定することができる。回折光学素子は光照射による熱など温度環境変化に対応する必要があるため、使用最大温度を高く設定することは非常に有効である。例えば、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)等に使用する場合には、一般的に70[℃]以上においても特性が変動しないことが好ましい。
本発明の第3の手段では、第1または第2の手段の液晶回折光学素子において、前記液晶材料は末端にハロゲン基が置換されている2環材料または多環材料を主とした組成からなることにより、良好な偏光選択性を得ることができる。
一般的に光学的異方性を示す領域(液晶材料)の屈折率no及びneと光学的等方性を示す領域の屈折率nはno<n<neの関係にあり、特定の入射偏光方向に対して光学的異方性を示す領域の屈折率がno≒nあるいはne≒nとなる場合、回折光学素子の偏光選択性は良好となる。また、末端にハロゲン基が置換されている2環材料または多環材料を主とした組成の液晶材料を用いることでno≒nの関係が比較的容易に成り立ち、良好な偏光選択性を得ることができる。なお、ここでいう偏光選択性とは、特定の偏光方向と、特定の偏光方向とは垂直な偏光方向に対する回折効率の比である。
本発明の第4の手段では、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は光学的等方性媒体により予め山谷状の周期構造が形成されており、前記周期構造の谷状部に光学的異方性媒体として前記液晶材料を封入してなることにより、非常に精度のよい周期構造を形成することができ、素子特性の精度を向上することができる。
すなわち、回折格子の周期構造は予め光学的等方性媒体により形成されているため、構造の精度は形成プロセスに大きく依存するが、構造形成プロセスとして、エッチング、フォトリソグラフィーなどの半導体プロセスを用いることにより、非常に精度のよい周期構造を形成することができる。また、周期構造の精度は回折効率特性に大きく寄与するため、構造精度向上に伴って素子特性の精度も向上することができる。
本発明の第5の手段では、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、開口領域と遮光領域が周期的に形成されているマスクを介した露光により、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることにより、作製工程が少なく、低コストな液晶回折光学素子を実現することができる。
ここで、相分離構造により形成される回折格子の作製方法としては、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる前記組成物に、開口領域と遮光領域が周期的に形成されているマスクを介して、モノマーあるいはプレポリマーが重合する波長の光を組成物に照射することで、マスクの周期的な開口パターンが転写でき、主にポリマーからなる領域(マスク開口領域)と主に非重合性液晶からなる領域(マスク遮光領域)との周期的な相分離構造により回折格子が形成できる。このように自己組織的な相分離過程により回折格子を形成するため、フォトリソグラフィーのように現像の必要がない。すなわち、作製工程が少なく、低コストな液晶回折光学素子が実現できる。
本発明の第6の手段では、第1〜第3のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を干渉露光することにより、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることにより、作製工程が少なく、低コストな液晶回折光学素子を実現することができる。
ここで、相分離構造により形成される回折格子の作製方法としては、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる前記組成物に、モノマーあるいはプレポリマーが重合する波長光を二光束以上用いて組成物に対して干渉露光することで、二光束から生成される周期的な干渉パターンが組成物に転写でき、主にポリマーからなる領域(干渉縞明部)と主に非重合性液晶からなる領域(干渉縞暗部)との周期的な相分離構造により回折格子が形成できる。このように自己組織的な相分離過程により回折格子を形成するため、フォトリソグラフィーのように現像の必要がない。すなわち、作製工程が少なく、低コストな液晶回折光学素子が実現できる。また、干渉縞の間隔は露光する波長の1/2程度まで狭く設定できるため、マスク露光と比較しても容易に狭ピッチ化でき、高回折効率特性を有する体積ホログラムが作製できる。
本発明の第7の手段では、第1〜第6のいずれか一つの手段の液晶回折光学素子において、前記回折格子への入射光の偏光方向が、前記光学的異方性領域と前記光学的等方性領域の境界に対して平行方向あるいは直交方向であることにより、液晶材料の複屈折を最大限利用することができ、高回折効率で偏光選択性のよい液晶回折光学素子を得ることができる。すなわち、前記素子への入射偏光方向が前記光学的異方性領域と前記光学的等方性領域の境界(格子形状境界)に対して平行あるいは直交しているため、液晶材料の複屈折を最大限利用することができる。そのため、膜厚および屈折率差(または屈折率変調量)を最適化することで、高回折効率で偏光選択性のよい液晶回折光学素子を得ることができる。
本発明の第8の手段では、光源からの光を記録媒体に集光し、該記録媒体からの反射光を光検出器で検出して情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ヘッド装置において、前記記録媒体から前記光検出器に至る光路中に、前記記録媒体からの反射光を光検出器に向けて偏向する光学素子を備え、該光学素子として、第1〜第7のいずれか一つの手段による温度特性が良く、高回折効率で偏光選択性のよい液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いるので、光源から出射した光の往路ではほとんど回折せずに効率よく光を記録媒体に集光でき、記録媒体からの反射光の復路(偏光面は90°回転)では大きな回折効率で情報光を光検出器へと回折させることができる。そのため、小型で光利用効率の高い光ヘッド装置を実現することができる。
また、本発明の第9の手段によれば、前記光源と前記光検出器を一つのケース内に収納し、該ケースの光出・入射部に前記液晶回折光学素子(偏光分離素子)を一体化したことにより、組付けや調整が容易な光ヘッド装置を実現することができる。
本発明の第10の手段では、記録媒体に対して光ヘッド装置を用いて情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ディスクドライブ装置において、前記光ヘッド装置として、第8または第9の手段の小型で光利用効率の高い光ヘッド装置を搭載しているので、光利用効率が高く、コンパクトで低コストな光ディスクドライブ装置を実現することができる。
以下、本発明の構成・動作及び作用について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る液晶回折光学素子(偏光分離素子)の断面構成の概略を示す図である。この液晶回折光学素子(偏光分離素子)1は、一対の透明基板2,3間に保持された光学的異方性(複屈折性)を示す領域4と光学的等方性を示す領域5との周期的な構造からなる回折格子を有している。その機能動作としては、例えば図2(a)に示すように、素子1へ入射する偏光方向がS偏光(ここでは紙面垂直方向である格子稜線方向とする)であり、等方性領域5の屈折率nと複屈折性領域4の一方の屈折率noがn=noのとき、光はそのまま透過する。また、素子1へ入射する偏光方向が図2(b)に示すように、P偏光(ここでは紙面左右方向である格子アレイ方向とする)であり、等方性領域5の屈折率nと複屈折性領域4のもう一方の屈折率neがn≠neのとき、光は回折する。このように入射光の偏光方向により、透過と回折の選択がなされる機能(偏光選択性)を有する。
ここで一般的に回折を利用した回折光学素子にはさまざまなタイプが存在し、例えば振幅変調型、位相変調型の素子がある。回折効率の点では位相変調型の方が優位であり、位相変調型には表面レリーフ型、屈折率変調型がある。また、回折光学素子は厚いものと薄いものに区別され、次式により定義される。
Q=(2πλd)/(nΛ
(但し、λ:波長、d:厚さ、n:記録材料の屈折率、Λ:周期構造のピッチ)
(1)薄い→Q≒0
(2)厚い→Q≫1
ここで、例えば周期が波長に比べて十分大きく、薄いと見なせる回折光学素子の回折効率はフラウンホーファー回折理論及びスカラー回折理論が適用でき、周期が波長程度に小さくなってきた場合には、電磁界解析であるベクトル回折理論が適用できる。例えば厚いと見なせる屈折率変調型素子(厚いホログラム)の回折効率はKogelnikの結合波理論(非特許文献1(BellSyst. Tech. J.,48, 1969,P2909-2947)参照)が適用できる。これは、ある波長の光が周期構造を形成する各領域に入射した場合、各領域で散乱された光はその波長と入射角度および各領域の周期構造ピッチに対応する特定方向に散乱成分が強め合うブラックの回折条件を満たしている。一般的に回折素子の回折効率は格子の周期構造から生成される屈折率差(または屈折率変調量)Δnと周期構造の膜厚dに依存し、これらのパラメータを最適化することで、理想的な回折効率が得られる。すなわち、特定な偏光方向における光学的異方性を示す領域と光学的等方性を示す領域の屈折率差(または屈折率変調量)Δnが一定である場合、回折素子の周期構造の厚みを設定することで高い回折効率を設定することができる。しかし、一般的に複屈折性領域、等方性領域に存在する物質の屈折率には温度依存性があり、常に一定の屈折率差(または屈折率変調量)を保つことは難しい。この温度による屈折率の変化は前述の機能動作の特性に大きな影響を及ぼし、回折効率の変動、偏光選択性の低下に繋がり実用上大きな問題となる。なお、偏光選択性とは、「透過モードにおける偏光の回折効率/回折モードにおける偏光の回折効率」と定義する。
図3に膜厚を一定とした屈折率変調型の回折光学素子の屈折率変調量Δnと回折効率の関係を示す。ここで示している屈折率変調量Δnとは図1に示す偏光分離素子内部の屈折率分布の高低差であるが、説明を簡潔にするため、Δnは周期構造の屈折率差|no−n|または|ne−n|と等価とする。図4は等方性領域nと複屈折性領域no、neの一般的な屈折率の温度依存性を示す図である。図4のように温度が上昇すると屈折率n、no、neの絶対値は変化し、相対的に|no−n|及び|ne−n|も変化する。このように温度上昇による屈折率の変化に伴い、回折光学素子の回折効率も温度により大きく変動する。すなわち最大回折効率を設定した場合、温度上昇によりΔnは小さくなり回折効率は低下する傾向にある(図3の破線矢印)。一般的に入射角特性が良好で高い回折効率を得るためにはΔnがある程度大きくなければならないため、高い回折効率を得る場合はΔnとして|ne−n|を設定することが好ましい。
ここで、本発明では複屈折媒体として液晶材料を用いており、一般的な液晶材料の複屈折率の温度依存性を図5(a)に示す。前述したように高い回折効率を得るためには、屈折率変調量としては|ne−n|を設定することが好ましいため、図5(b)に液晶材料の異常光屈折率neと等方性媒体の屈折率nから算出される|ne−n|の温度依存性(室温で規格化)を示す。図5に示すように、液晶の異常光屈折率ne及び|ne−n|の温度依存性は室温から非常に緩やかに低下していき等方相転移温度に近づくにつれて急激に低下し、等方相転移温度以上では飽和する傾向にある。ここで、Δn(=|ne−n|)が低下した場合、回折効率がどの程度低下するかkogelnikの理論より見積もる。
図6にΔn(=|ne−n|)の低下率(室温で規格化)と回折効率の低下率(室温で規格化)の関係を示す(ここでは理想的な最大回折効率が得られる条件に設定している)。図6からΔnの低下率を20%以内にすることで回折効率の低下率は10%以内に抑えることができる。また、液晶の等方相転移温度Tni−使用温度TとΔnの低下率(室温で規格化)との関係を図7に示す。図7よりΔnの低下率が20%以内となるのはTni−Tが10℃以下のときである。すなわち、図6と図7の関係から、回折光学素子の使用環境温度Tが、
Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]
の関係にあるとき、温度による回折効率の低下は10%以内に抑えることができ、温度依存性の低い回折光学素子が実現できることがわかる。ここで、結晶化温度Tsnについては詳細に説明しないが、図5に示すように室温付近の複屈折はほとんど変化せず、室温から結晶化温度までもほぼ同様の複屈折が得られる。この結晶化温度は材料の組成に大きく依存するが、一般的には−40℃〜−20℃程度であり、実用上問題ない範囲にある。
ここで、実際に作製した回折格子において、kogelnik理論から算出した屈折率変調量と用いた材料(ポリマーと液晶)から求めた屈折率差の温度依存性を図8に示す。回折格子の作製条件にもよるが、回折格子の屈折率変調量と材料から求めた屈折率差が一致することから、比較的理想的な回折格子を作製することで、液晶材料のTniにて回折格子の使用環境温度が設定可能となる。
一般的に光学素子は光照射による熱など、比較的高い温度環境変化に対応する必要があるため、使用最大温度を高く設定することは非常に有効である。例えば、光ピックアップ装置等の用途においては、一般的に70℃以上においても特性が変動しないことが好ましい。そこで、等方相転移温度Tniが80℃以上の液晶材料を用いることで、素子の使用最大温度は70℃以上と設定することができる(後述の実施例のように、Tniが75℃、80℃、95℃の場合を比較した)。
ここで、本発明における液晶回折光学素子の第一の実施形態について説明する。図9は液晶回折光学素子の断面構成の概略を示したものであり、等方性媒体に山谷状の格子形状を形成し、格子溝に複屈折性媒体として液晶材料を封入した構成である。ここで、図8(a)では液晶材料は格子溝方向に配向しているが、図8(b)のように格子配列方向に配向していてもよく、これらに限らず液晶層の配向のオーダーパラメーターがある程度低くても複屈折性を示していればよい。オーダーパラメーターを高くするには配向処理を施すことが有効であり、配向処理としては、ずり応力、配向膜、ラビング処理、光配向処理などの処理方法が使用できる。ただし、前記の処理により格子形状に影響を及ぼさないことが好ましく、格子形状は未処理とし、対向基板のみに前記の何れかの処理を施すことが非常に有効である。
ここで、格子形状の形成はフォトリソグラフィー、エッチングまたは切削加工や成形技術等により形成することができ、非常に精度の高い形状制御が可能である。周期的な格子形状は回折効率特性に大きく寄与するため、形状精度向上に伴って素子特性の精度も向上する。
また、等方性媒体としては、フォトポリマー等の透明樹脂や石英、BK7等の光学硝材が使用できるが、複屈折性を有さなければこれに限るものではない。複屈折媒体としては液晶の他にもニオブ酸リチウム結晶、ニオブ酸タンタル結晶、酸化チタン結晶、高分子複屈折膜(高分子フィルム)等が使用できるが、液晶は複屈折性(屈折率異方性)が大きいため、回折効率を比較的容易に向上させることができるといった利点がある。液晶としては非重合性液晶におけるネマチック、コレステリック、スメクチックなど一般的な液晶タイプを使用することができ、複屈折性を有すれば重合性液晶も使用することができる。作製時には複屈折性を効率よく利用するために、配向膜、ラビング、光配向等の配向処理をすることが好ましい。重合性液晶を用いた場合、複屈折性は小さくなるが、熱安定等の信頼性が向上する。また、素子構成において耐湿熱性、耐久性のためにオーバーコート層(図示せず)を設けることが好ましく、オーバーコート層を形成する材料としては、常光線方向屈折率と異常光線方向屈折率との何れか一方と同じ屈折率を持つ透明樹脂等を使用することが好ましい。
ここで、本発明における液晶回折光学素子の第二の実施形態について説明する。図10に相分離を行う前の液晶回折光学素子の断面構成の概略を示す。複屈折性を大きくするために光学的異方性を示す領域と光学的等方性を示す領域の少なくとも一方の領域において液晶を含むようにし、非重合性液晶6と重合性モノマー(あるいはプレポリマー)7と図示しない光重合開始剤とを均一に混合した組成物8を二枚の透明基板2,3間に挟む。組成物8の厚みは、基板間隔を制御するための図示しないスペーサー部材によって制御することができる。この組成物8は感光性を有するため、素子作製工程において感度を有する波長域の光を遮断した環境下で取り扱うことが好ましい。
非重合性液晶6としては、屈折率異方性を有する液晶ならば一般的なものを使用することができる。液晶材料を選択する時は、あるオーダーパラメーターの配向状態において、重合性モノマー(あるいはプレポリマー)7の硬化層の屈折率とほぼ等しい屈折率となる液晶材料を選択してもよく、また、液晶材料を選択してから、その液晶のあるオーダーパラメーターの配向状態での屈折率とほぼ等しい屈折率になるように重合性モノマー(あるいはプレポリマー)7を選択してもよい。非重合性液晶6の組成としては、ネマチック、コレステリック、スメクチックのいずれのタイプでも良く、従来公知のビフェニル、ターフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビフェニルシクロヘキサン、安息香酸フェニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン、1−フェニル−2−シクロヘキシルエタン、1−フェニル−2−ビフェニルエタン、1−シクロヘキシル−2−ビフェニルエタン、ビフェニルカルボン酸フェニルエステル、4−シクロヘキシル安息香酸フェニルエステルなどを骨格とし、アルキル基、アルコキシ基や誘電異方性を付与するための極性付与基としてのシアノ基、ハロゲン基などを置換基として有する液晶などを用いることができる。特に前記の中で、末端にハロゲン基が置換された2環材料または多環材料を主とした組成が後述する液晶回折光学素子の偏光選択特性に非常に有効である。また、非重合性液晶材料は、重合性モノマーあるいはプレポリマーの合計量100重量部に対して20重量部〜500重量部の割合で使用されることが好ましい。
重合性モノマー(またはそのプレポリマー)7としては、重合による硬化収縮が大きいものを用いることが好ましい。このような重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する光重合可能な化合物であって、1分子中に少なくともエチレン性不飽和二重結合を1個有する光重合、光架橋可能なモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びそれらの混合物であり、モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等が挙げられるが、特に2官能以上の多官能性モノマーは硬化収縮が大きく、好適に使用できる。不飽和カルボン酸のモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、及びそれらのハロゲン置換不飽和カルボン酸、例えば塩素化不飽和カルボン酸、臭素化不飽和カルボン酸、弗素化不飽和カルボン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の塩としては前述の酸のナトリウム塩及びカリウム塩等がある。また、ウレタンアクリレート類、ポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸等の多官能性のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、上記の他に熱重合禁止剤、可塑剤等が添加されても良い。
光重合開始剤としては、公知の材料を用いることができ、例えばビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、α−アミノアルキルフェノン、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセンなどを例示することができる。光重合開始剤の添加量は照射する光の波長に対する各材料の吸光度によっても異なるが、モノマーまたはプレポリマー全量に対して0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、さらに0.5重量%以上3重量%以下であることがより好ましい。光重合開始剤の添加量が少なすぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が起こり難くなり、必要な露光時間が長くなってしまう。逆に、光重合開始剤が多すぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が不十分な状態で硬化してしまうため、ポリマー中に多くの液晶分子が取り込まれ、偏光選択性が小さくなるという問題がある。
スペーサー部材としては、液晶表示装置に用いられるような球形スペーサー、ファイバースペーサー、フィルムなどを用いることができる。また、フォトリソグラフィーとエッチングあるいは成型技術などによって基板表面に突起形状を加工しても良い。スペーサー部材は回折格子(ホログラム)の有効領域外に形成することが好ましい。スペーサー部材の高さは数μmから数十μmの範囲が好ましく、回折光の波長とポリマー部と液晶部の屈折率差に応じて所望のホログラム層厚みとなるように適宜設定される。
透明基板2,3としては、液晶表示装置に用いられるようなガラス、プラスチックなどを用いることができる。
次に相分離による光学的異方性領域と光学的等方性領域の周期構造形成方法について図11を用いて説明する。ここでは図10に示したような一対の基板2,3間に注入された組成物8を二光束干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と、主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成する工程を説明する。図12に二光束干渉露光装置の基本的な構成を示す。この二光束干渉露光装置は、露光用レーザー装置(可干渉性を有する光源)51と、対物レンズ52とアパーチャ53からなるスペイシャルフィルタと、コリメートレンズ54と、ハーフミラー55と、ミラー56a,56bで構成され、57は図10に示すような一対の基板2,3間に注入された組成物8からなる記録材料、58は記録材料を加熱するための温調ステージである。露光用レーザー装置51にはクリプトンイオンレーザー(発振波長407nm)、ヘリウムカドミウムレーザー(発振波長442nm)、アルゴンレーザー(発振波長488nmまたは514nm)等の短波長光源を利用するが、これに限らず可干渉性を有する光源であればよい。露光用レーザー装置51には単一縦モード発振するレーザーを利用するとコヒーレンス長が長くなり、また、ノイズの少ない回折格子を作製できる。対物レンズ52とアパーチャ53からなるスペイシャルフィルタは必ずしも必要ではないが、ハーフミラー55までの光学素子などでレーザービームにノイズが乗ることがあり、このビーム品質を良好にするためには有用である。ハーフミラー55でレーザー光を二分してからミラー56a,56bで所定の角度でビームを重ね合わせ、干渉縞を発生させ、記録材料(被露光サンプル)57をこの干渉縞の発生した位置に配置すると、干渉縞ピッチに対応した回折格子(ホログラム)を作製できる。ここでは、スペイシャルフィルタ(対物レンズ52とアパーチャ53)とコリメートレンズ54はハーフミラー55の手前に配置しているが、ミラー56a,56bの各ミラーの後に配置してもよい。さらに、コリメートレンズ54の後に収束レンズ(図示しない)を配置することで、収束光を用いた干渉露光が可能となる。収束光による干渉露光を用いた場合は、再生した時の収束位置が設定できる。
図11においては、図12に示すような構成の所望の波長のレーザー光源による二光束干渉露光装置を用いて、記録材料である組成物8中に露光を行うと、干渉縞の明部において重合性モノマー(あるいはプレポリマー)7の光重合反応が始まる。この時、硬化収縮が起こって密度差が生じ、隣接する重合性モノマー(あるいはプレポリマー)7が明部に移動し更に重合が進行する。それと同時に明部に存在していた非重合性液晶6が暗部に向かって追い出されることで相分離が起こる。この時、液晶分子が移動して行く際にモノマーやポリマー鎖との相互作用で液晶分子長軸を移動方向に配向させようとする力が働くと考えられる。すなわち、相分離過程において干渉縞の間隔方向に液晶分子を配向させようとする力が働くと考えられる。最終的には図11の下段の図のように干渉縞の明暗のピッチに対応してポリマー層7(光学的等方性領域5)と非重合性液晶層6(光学的異方性(複屈折性)領域4)の周期構造が形成され、液晶層部の配向ベクトルが干渉縞の間隔方向を向いた状態が得られると考えられる。なお、この干渉露光及び相分離過程においては、試料を適当な温度に加熱保持しておくことが好ましい。温度によって相分離の速度が変化し、液晶分子の配向性に影響を及ぼすと考えられる。最適な加熱温度は使用する材料によって異なるが40℃から100℃程度が好ましい。
相分離によるポリマー層と非重合性液晶層の周期構造では、厳密にはポリマーと非重合性液晶が周期的に完全に分離することは困難であり、ここで言うポリマー層とはポリマー成分が多い領域であり液晶分子を含んでいても良い。また、非重合性液晶層とは非重合性液晶成分が多い領域でありポリマー成分を含んでいても良い。実際にはポリマー層と液晶層の界面は理想的な平面では無く凹凸状であると推測されるため、図11に示したように界面での液晶分子長軸方向のバラツキは大きく、液晶層のオーダーパラメーターは比較的小さい状態となる。したがって、液晶層部の複屈折は材料単体の複屈折性よりは比較的小さくなる。
作製する周期構造のピッチは所望の回折角や波長によって異なるが、概ね0.2μmから10μmの範囲である。例えば、405nmの入射光に対して20°の回折角を得るためには、1.1μm程度のピッチ、650nmの入射光に対しては2.3μm程度のピッチが必要となる。ポリマー層と液晶層界面の傾斜角としては0°から±20°程度が好ましい。露光量としては光重合開始剤の添加濃度や露光時の温度によっても異なるが、0.5J/cmから30J/cmが好ましく、1J/cmから15J/cmがより好ましい。
ここでは、より狭ピッチが実現可能である二光束干渉露光系による説明を記しているが、所望のピッチが実現できれば、ステッパー露光、マスク露光等において相分離過程を促がし、液晶回折光学素子を作製してもよい。このような露光による作製方法はフォトリソグラフィーのような現像の必要がなく、格子形状の形成が露光による自己組織的なので、作製工程、作製時間が短縮できるため、低コストな液晶回折光学素子を実現することができる。
ここで、前述したような相分離により生成された液晶回折光学素子(図11)において、回折させたい場合の偏光方向は、ポリマーや液晶により生成された複屈折性を最大限活用するために、見かけ上の液晶の配向方向に対して平行であることが好ましい。前述したように液晶の配向ベクトルは光学的異方性領域4と光学的等方性領域5の周期構造のアレイ方向を向いていると考えられており、すなわち、回折させたい場合の入射光の偏光方向は光学的異方性領域4と光学的等方性領域5の境界に対して直交していることが好ましい。また、等方性媒体の周期構造に液晶を封入した図9(a)の場合は、液晶の配向ベクトルは光学的異方性領域と光学的等方性領域の周期構造の稜線方向を向いており、回折させたい場合の入射光の偏光方向は光学的異方性領域と光学的等方性領域の境界に対して平行となっていることが好ましい。
このように液晶回折光学素子の回折格子に入射する特定の偏光方向を周期構造の境界と直交あるいは平行となるように設定することで、回折光学素子としての偏光分離機能を最大限活用することができる。
ここで、図1、2、9、10、11に示した液晶回折光学素子の光学的異方性領域と光学的等方性領域の周期構造は基板面に対して略垂直の場合を例示しているが、これに限らず、図13(a),(b)に示すように周期構造の領域は基板面に対して傾斜していてもよく、その傾斜角は、境界面が基板面に対して垂直な場合を0°として、0°〜±20°の範囲で設定することができる。
傾斜領域の形成方法としては階調マスク露光や電子ビーム(EB)描画によるフォトリソグラフィーとエッチングまたは切削加工や成形技術、二光束干渉露光等により形成することができる。このように傾斜領域を形成した場合には、周期構造の傾斜方向に応じてプラス方向またはマイナス方向の片側のみにブラック回折による回折光が出射し、一方向に対して高効率化が図れる。また、回折させたい偏光方向に対する光学的異方性領域と光学的等方性領域との屈折率変調量と周期構造の厚みを最適化することで、プラスまたはマイナス一次回折光のみが高効率で出射し、二次以上の高次の回折光はほとんどゼロとなるように設定することができる。
以上の本発明に係る液晶回折光学素子(偏光分離素子)について、例えば二光束干渉露光により作製した偏光分離素子は1μm程度の短いピッチが容易に形成できることから、小型化のために大きい回折角を必要とする光ヘッド装置(光ピックアップ装置)用の偏光分離素子に用いたときに特に効果的である。
図14は本発明の液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いた光ヘッド装置(光ピックアップ装置)の基本的な構成例を示す図である。図14において、符号11は半導体レーザー(レーザーダイオード(LD))、12は図1,2(または図13等)を参照して説明した構成の偏光分離素子、13は1/4波長板、14はコリメーターレンズ、15は対物レンズ、16は記録媒体である光ディスク、17は光検出器(例えば多分割のフォトダイオード)である。
図14において、半導体レーザー11から出た読み出し光である直線偏光は、偏光分離素子12及び1/4波長板(λ/4板)13を透過し、コリメーターレンズ14によって略平行光となって対物レンズ15に導かれ、光ディスク16の記録層に集光される。そして光ディスク16で反射された光は、入出射の共通光路に置かれた1/4波長板13によって偏光面が90°回転される。偏光分離素子12は半導体レーザー近傍の入出射の共通光路中に置かれており、半導体レーザー11からの出射偏光が偏光分離素子12の光学的異方性(複屈折性)を示す領域4と光学的等方性を示す領域5の屈折率変調量Δnが0(理想的に)となるような方向であれば、光はほとんど損失なく透過して光ディスク16の記録層に集光される。しかし光ディスク16からの戻り光は1/4波長板13によって偏光面が90°回転して偏光分離素子12に入射するため、光学的異方性を示す領域4と光学的等方性を示す領域5の屈折率変調量Δnは0ではなく、この屈折率変調量Δnに対して許容回折効率が得られる膜厚を設定しておくことで、高回折効率化が図れる。この際、偏光分離素子12の分離角が15°以上であれば、偏光分離素子12と半導体レーザー11およびフォトダイオード17を近接させることができ、光路長を短く構成することができる。ここで、分離角を20°、波長を405nmとしたとき、所望の回折格子(ホログラム)のピッチはおおよそ1ミクロン前後である。本発明の偏光分離素子12は、前述のように格子間隔をきわめて短く構成することができるため、このような短い格子間隔であっても高い回折効率を得ることができる。
次に図15は本発明の液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いた光ヘッド装置(光ピックアップ装置)の別の構成例を示す図である。
この光ヘッド装置は、光源(半導体レーザー)11と、光検出器(例えば多分割のフォトダイオード)17を一つのケース18内に収納し、このケース18の光出・入射部に偏光分離素子12を接合して一体化したものである。このように光源11と光検出器17及び偏光分離素子12を一体化してユニットを構成することにより、光ヘッド装置の各素子の組み付けや調整が容易となる。
次に上記光ヘッド装置(光ピックアップ装置)を搭載した光ディスクドライブ装置の一例について説明する。
図14に示した光ヘッド装置(光ピックアップ装置)は、偏光分離素子12として本発明の偏光選択性の偏光分離素子(偏光選択性回折素子または偏光選択性ホログラム素子)を用いるので、光利用効率が高く、高速な記録・再生に適した信頼性の高い信号が得られる。また、回折効率が高いと信号検出系の光集積回路(OPIC)のゲインを小さくでき、OPICの高速応答化に貢献できる。また、入射角度により回折効率が変わらなければオフセットの小さい信号が得られる。したがって光ディスクドライブ装置の記録・再生速度の高速化と安定したサーボ制御を達成することができる。
さらに、図15に示した光ヘッド装置は、偏光分離素子12として本発明の偏光選択性の偏光分離素子(偏光選択性回折素子または偏光選択性ホログラム素子)を用い、半導体レーザー11とフォトダイオード17を収納したケース18と一体化した構成であるので、上記の効果に加え、光ヘッド装置の小型化、薄型化が可能であり、例えばノート型パーソナルコンピュータや、ディスプレイ一体型ドライブ装置等に搭載される光ディスクドライブ装置の光ヘッド装置(光ピックアップ装置)として好適に用いることができる。
次に光ディスクドライブ装置の一構成例を図16に示す。図16は光ディスクドライブ装置の概略構成の一例を示すブロック図である。この光ディスクドライブ装置20は、記録媒体としての光ディスク16を回転駆動するためのスピンドルモータ22、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23、レーザーコントロール回路24、エンコーダ25、モータドライバ27、再生信号処理回路28、サーボコントローラ33、バッファRAM34、バッファマネージャ37、インターフェース38、リード・オンリー・メモリ(ROM)39、中央演算処理装置(CPU)40、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)41などを備えている。尚、図16における矢印は、代表的な信号や情報の流れを示すものであり、各ブロックの接続関係の全てを表わすものではない。また、図16の構成は一例であり、これに限定されるものではない。
記録媒体である光ディスク16としては、CD(コンパクト・ディスク)系の光ディスク(CD,CD−R,CD−RW)や、DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)系の光ディスク(DVD,DVD−R,DVD+R,DVD−RW,DVD+RW,DVD−RAM等)、青色半導体レーザーを光源とした高密度光ディスク等があるが、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23内に波長の異なる光源を複数備えた構成とし、光ディスク16の種類に応じて光源を選択的に駆動するようにすれば、複数種類の光ディスクに対して記録や再生を行うことができる光ディスクドライブ装置を構成することができる。
図16において、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23は、光ディスク16のスパイラル状または同心円状のトラックが形成された記録面にレーザー光を照射すると共に、記録面からの反射光を受光し、情報の記録または再生を行うための装置であり、例えば図14または図15に示したような構成となっている。
再生信号処理回路28は、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23の出力信号である電流信号を電圧信号に変換し、該電圧信号に基づいてウォブル信号、再生情報を含むRF信号及びサーボ信号(フォーカス信号、トラッキング信号)などを検出する。そして、再生信号処理回路28では、ウォブル信号からアドレス情報及び同期信号等を抽出する。ここで抽出されたアドレス情報はCPU40に出力され、同期信号はエンコーダ25に出力される。さらに、再生信号処理回路28では、RF信号に対して誤り訂正処理等を行なった後、バッファマネージャ37を介してバッファRAM34に格納する。また、サーボ信号は再生信号処理回路28からサーボコントローラ33に出力される。サーボコントローラ33では、サーボ信号に基づいて光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23を制御する制御信号を生成しモータドライバ27に出力する。
前記バッファマネージャ37では、バッファRAM34へのデータの入出力を管理し、蓄積されたデータ量が所定の値になると、CPU40に通知する。前記モータドライバ27では、サーボコントローラ33からの制御信号及びCPU40の指示に基づいて、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23及びスピンドルモータ22を制御する。前記エンコーダ25では、CPU40の指示に基づいて、バッファRAM34に蓄積されているデータをバッファマネージャ37を介して取り出し、エラー訂正コードの付加などを行い、光ディスク16への書き込みデータを作成するとともに、再生信号処理回路28からの同期信号に同期して、書き込みデータをレーザーコントロール回路24に出力する。前記レーザーコントロール回路24では、エンコーダ25からの書き込みデータに基づいて、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23からのレーザー光出力を制御する。
前記インターフェース38は、ホスト(例えばパーソナルコンピュータ)との双方向の通信インターフェースであり、ATAPI(AT Attachment Packet Interface)及びSCSI(Small Computer System Interface)等の標準インターフェースに準拠している。
前記ROM39には、CPU40にて解読可能なコードで記述された制御用のプログラム等が格納されている。CPU40は、ROM39に格納されている前記プログラムに従って上記各部の動作を制御するとともに、制御に必要なデータ等を一時的にRAM41に保持する。
以上、光ディスクドライブ装置の一構成例を説明したが、本発明では光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23として、回折効率が高い偏光分離素子(偏光選択性回折素子または偏光選択性ホログラム素子)12を用いた光ヘッド装置(光ピックアップ装置)を搭載しているので、光利用効率が高く且つ偏光選択性が良いので、信頼性の高い信号が得られ、かつ記録・再生速度の高速化を達成することができる。また、青色半導体レーザーを光源とした高密度光ディスクドライブ装置を実現することができる。
さらに本発明では、光ヘッド装置(光ピックアップ装置)23内に波長の異なる複数の光源を備えることにより、CD系やDVD系の光ディスク、青色半導体レーザーを光源とした高密度光ディスクなどの使用する波長の異なる複数規格の光ディスクを記録または再生することができる光ディスクドライブ装置を実現することができる。
次に本発明に係る液晶回折光学素子(偏光分離素子)の構成及び作製方法のより具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
まず、厚み0.7mmのガラス基板の片面に青色光に対する反射防止膜を形成し、およそ4μm径のビーズスペーサーを混入した接着剤により二枚のガラス基板を貼り合わせてセルを形成した。接着剤の塗布は反射防止膜形成面とは反対の面で、基板の縁の2箇所に塗布した。
次に以下の(1)〜(5)の材料の混合物からなる組成物を約Tni[℃]に加熱しながら毛管法によりセル中(基板間)に注入した。なお、この組成物は緑色より短波長の光に反応性を示すため、赤色光を用いた暗室下で取り扱った。また、以下の(1)の液晶はTniの異なる3種類の材料A,B,Cについて検討した(下記の表1参照)。
(1) ネマチック液晶A又はB又はC(メルク製TLシリーズ):30重量部
(2) フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学製AH600):75重量部
(3) ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学製DCP−A):10重量部
(4) 2−ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学製HO):5重量部
(5) ビスアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバガイギー製イルガキュア819):1重量部
Figure 2006189695
次に波長442nm、出力80mWのHe−Cdレーザーを光源とした露光用レーザー装置51を用い、図9に示すような二光束干渉露光装置を作成した。レーザー光をコリメートレンズ54で拡大し、ハーフミラー55で分割して1つの光束が約10mW/cm程度の平行光とし、ミラー56a,56bにより反射して、二光束の交差角度を26度に設定した。この波長と交差角度では二光束の交差領域に約1μm周期の干渉縞が生成される。
セル基板(記録材料57)を温調用の加熱装置58に取り付け、約Tni−10[℃]に加熱した状態で、約1分間の二光束干渉露光を行い、液晶回折光学素子(偏光分離素子)を作製した。このとき、基板面の垂直方向に対して+26度と0度の方向から二光束が入射するように設定しており、素子内部に形成される格子の傾きは基板面に対しておよそ81.7度となる。
作製した素子の基板面に対して垂直方向から波長442nmの直線偏光のレーザー光を照射して、入射光強度に対する+1次回折光強度を測定した。入射光強度は5mW程度になるようにNDフィルターを用いて調整し、入射光路中に直線偏光板と半波長板を配置し、半波長板の光軸を45度回転させることで、素子に入射する偏光方向(P偏光、S偏光)を切り換え可能に構成し、+1次回折効率の偏光選択性を測定した。また、温度特性を測定する際は干渉露光時に使用した加熱装置を用いて測定した。このときのP偏光は干渉露光時の干渉縞と直交方向とし、S偏光は干渉縞の方向とした。以下に作製した素子の特性を示す。
各液晶材料A、B、Cを用いた回折光学素子におけるP偏光の+1次回折効率はそれぞれ82%、81%、81%であり、S偏光の回折効率は全ての液晶において0%であった。すなわち、+1次回折光の偏光選択性(S偏光の回折効率/P偏光の回折効率)は全ての液晶において0%であり、高回折効率で良好な偏光選択性が得られた。
また、図17に各液晶材料A、B、Cを用いた回折光学素子の、室温の回折効率で規格化した回折効率(回折効率比)の低下率の温度特性を示す。各液晶材料A、B、Cを用いた回折光学素子においては、温度が上昇するに伴って回折効率は緩やかに低下し、Tni付近で急激に低下し、ほぼTniで飽和する傾向にあった。ここで、各液晶材料A、B、Cを用いた回折光学素子の、Tni−使用温度Tと回折効率変化率(対室温)の関係を図18に示す。図18から各液晶材料A、B、Cを用いた回折光学素子において、この関係はほぼ一致し、室温における回折効率の低下が10%以下となる温度Tは下記の表2のようになる。
Figure 2006189695
即ち、Tni−使用温度Tが10℃以下のとき、回折効率の低下率が10%以下になり、素子の使用環境温度Tは、
Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]
の関係にあることで温度特性のよい素子が実現できた。また、材料Aと材料B,Cとの比較からTniが80℃以上のときに、使用温度が70℃以上となることが分かる。
(実施例2)
液晶材料をD(メルク製BLシリーズ)とした以外は実施例1とほぼ同様にして液晶回折光学素子を作製し、特性を評価した。P偏光の+1次回折効率は91%であり、S偏光の回折効率は11%であった。すなわち、+1次回折光の偏光選択性(S偏光の回折効率/P偏光の回折効率)は12%であり、高回折効率は得られたが、良好な偏光選択性は得られなかった。
ここで、液晶材料の組成について比較したところ、液晶材料Dは末端がシアノ基である材料が主であるのに対し、良好な偏光選択性が得られた液晶材料A、B、Cは末端がハロゲン基で置換された材料が主であった。すなわち、本発明の組成物及び作製条件としては、末端がハロゲン基の組成材料を主とした液晶材料が偏光選択性に有効であることがわかる。
(実施例3)
図9(a)に示す液晶回折光学素子について、等方性媒体として厚み0.5mmのガラス基板(BK7)に、Crマスク(大日本印刷製)(開口部/遮光部:1μm/1μm)を用いてフォトレジスト、ドライエッチングにより2mm×2mmの領域に凹凸形状を加工した。加工した凹凸形状はピッチ1μm、深さ1.5μmとし、フォトレジストの露光は整合、露光量の条件を最適化して露光した。現像後に走査型電子顕微鏡(SEM)にて形状を観察したところ、ほぼ所望の形状が得られた。また、複屈折媒体として液晶層を用いた。凹凸形状への液晶(メルク製ZLI−2293)の封入方法は、基板をおよそ80℃程度に加熱し、格子外に液晶を滴下して毛管現象で格子へ流れ込ませた。その後、気泡が混入しないように、対向基板を張合わせて封止した。液晶の配向は対向基板にのみ配向膜塗布/ラビング処理を施し、その方向は凹凸形状の稜線方向とした。また、基板間の間隔はフィルムにより調整した。作製した素子を光学顕微鏡で観察したところ、格子領域において液晶は均一に配向していることを確認した。
ここで、波長633nmにおける液晶の屈折率はno=1.497、ne=1.628であり、ガラス基板の屈折率はn=1.515である。作製した素子の凹凸領域にビーム径1mm程度のHe−Neレーザー(波長633nm)光を入射した。このときの入射した光の偏光方向は素子における凹凸形状の稜線方向から90°回転した方向(ここではP偏光)とした。このときのP偏光及びS偏光(P偏光と直交方向)における透過光の光利用効率と回折光の回折効率をそれぞれ測定したところ、P偏光の+1次光回折効率は12%、S偏光の+1次光回折効率は1%であった。理論値はそれぞれ12.2%(P偏光の+1次光)と0.3%(S偏光の+1次光)であり、ほぼ理論値と一致した。このことは形成した凹凸形状が特性にきちんと反映されていることがわかる。
(実施例4)
組成物の液晶をBとし、実施例1と同様にして未露光のセルを作製した。作製したセルに実施例3で使用したCrマスク(開口部/遮光部:1μm/1μm)を用いて、実施例1に用いた二光束干渉露光系の一光束を遮光し、一光束のみでマスクとセルを密着させた状態で露光し,回折光学素子を作製した。この素子の諸特性を以下に示す。
P偏光の+1次光回折効率は23%、S偏光の+1次光回折効率は0%であった。理論値はそれぞれ32.6%(P偏光の+1次光)と0%(S偏光の+1次光)であり、P偏光の回折効率は理論値に比べて低いが、これは相分離構造により液晶部のオーダーパラメーターが低くなっているためと考えられる。このようなマスク露光方法においては、実施例3にて行なった現像工程が必要なく、実施例3に比べて非常に容易に素子を作製することができた。
(実施例5)
実施例3や実施例4における回折効率の特性評価は周期構造の配列方向に対して、平行あるいは直交方向の偏光方向の入射光にて評価した。ここで、入射光の偏光方向を実施例3や実施例4とは異なる方向にて特性を評価したところ、偏光選択性が劣化した。すなわち、素子への入射光の偏光方向は周期構造の配列方向に対して、平行あるいは直交方向である場合、良好な偏光選択性が得られる。
(実施例6)
実施例1で作製した液晶回折光学素子(液晶材料:B)を図14(または図15)に示すような構成の光ヘッド装置(光ピックアップ装置)の偏光分離素子12として使用する場合、偏光分離素子12の基板面を光源(半導体レーザー)11から光ディスク16の記録面までの光軸に対して垂直に配置することができる。また、図14(または図15)に示す半導体レーザー11とフォトダイオード17間の距離が一定である場合、回折角度が26度と非常大きいために、半導体レーザー11とフォトダイオード17の形成面と、偏光分離素子12の間隔を短縮することができた。したがって光ヘッド装置全体の薄型化が実現できた。
以上説明したように、本発明によれば、青色等の短波長光においても大きな回折角度が得られ、高回折効率と優れた偏光選択性を有し、回折効率の温度特性が良く、入射角度依存性が小さく、発散光および温度変化に対しても高効率な液晶回折光学素子(偏光分離素子)を実現することができる。そして、この液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いることにより、高密度光ディスク対応の小型な光ヘッド装置(光ピックアップ装置)を容易に実現することができ、さらには、その光ヘッド装置を搭載した、小型でコンパクトな光ディスクドライブ装置を実現することができる。そして、このような小型でコンパクトな光ディスクドライブ装置は、デスクトップ型やノート型のパーソナルコンピュータに搭載する光ディスクドライブ装置として好適に利用できる他、ポータブルなディスプレー一体型光ディスクドライブ装置等にも好適に利用することができる。
さらに本発明の液晶回折光学素子は、光ディスク用の他、光磁気ディスクなどの記録、再生に用いる光ヘッド装置を小型化するための偏光分離素子として好適に利用することができる。
また、本発明の液晶回折光学素子は、投射型表示装置などに用いる照明光学系において、照明光の光利用効率を向上させるための偏光分離素子としても利用することができる。
さらにまた、本発明の液晶回折光学素子は、偏光面に応じて光路を切り換える光スイッチなどにも応用することができる。
本発明に係る液晶回折光学素子(偏光分離素子)の断面構成の概略を示す図である。 図1に示す構成の液晶回折光学素子(偏光分離素子)の動作の説明図である。 屈折率変調型の回折光学素子(偏光分離素子)の屈折率変調量Δnと回折効率の関係を示す図である。 等方性領域nと複屈折性領域no、neの一般的な屈折率の温度依存性を示す図である。 一般的な液晶材料の複屈折率の温度依存性を示す図であり、(a)は複屈折媒体と等方性媒体の屈折率と温度の関係を示す図、(b)は室温で規格化した屈折率差と温度の関係を示す図である。 Δn(=|ne−n|)の低下率(室温で規格化)と回折効率の低下率(室温で規格化)の関係を示す図である。 液晶の等方相転移温度Tni−使用温度TとΔnの低下率(室温で規格化)との関係を示す図である。 実際に作製した回折格子において、kogelnik理論から算出した屈折率変調量と用いた材料(ポリマーと液晶)から求めた屈折率差の温度依存性を示す図である。 液晶回折光学素子の一実施形態を示す図であって、等方性媒体に山谷状の格子形状を形成し、格子溝に複屈折性媒体として液晶材料を封入した構成の液晶回折光学素子の断面構成例を示す図である。 液晶回折光学素子の別の実施形態を示す図であって、相分離を行う前の液晶回折光学素子(セル)の断面構成の概略を示す図である。 図10に示す液晶回折光学素子の相分離による周期的構造の形成過程を示す図である。 二光束干渉露光装置の基本的な構成例を示す図である。 液晶回折光学素子の別の実施形態を示す図であって、周期構造の境界面が基板面に対して傾斜している構成の液晶回折光学素子(偏光分離素子)の動作の説明図である。 本発明の液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いた光ヘッド装置の基本的な構成例を示す図である。 本発明の液晶回折光学素子(偏光分離素子)を用いた光ヘッド装置の別の構成例を示す図である。 本発明の光ヘッド装置を搭載した光ディスクドライブ装置の概略構成の一例を示すブロック図である 液晶材料A,B,Cを用いた液晶回折光学素子の回折効率比(対室温)と、温度との関係を示す図である。 液晶材料A,B,Cを用いた液晶回折光学素子の回折効率変化率(対室温)と、Tni−使用温度Tとの関係を示す図である。
符号の説明
1:液晶回折光学素子(偏光分離素子)
2,3:透明基板
4:光学的異方性(複屈折性)領域
5:光学的等方性領域
6:非重合性液晶
7:重合性モノマー(あるいはプレポリマー)
8:組成物
11:半導体レーザー
12:偏光分離素子
13:1/4波長板
14:コリメーターレンズ
15:対物レンズ
16:光ディスク(記録媒体)
17:光検出器(フォトダイオード)
18:ケース
23:光ヘッド装置(光ピックアップ装置)

Claims (10)

  1. 光学的異方性を示す領域と光学的等方性を示す領域との周期的な構造からなる回折格子を有する液晶回折光学素子において、
    前記光学的異方性を示す領域が液晶材料からなり、該液晶材料の等方相転移温度をTni、結晶化温度をTsnとする場合、前記回折格子の使用環境温度Tは、
    Tsn[℃]≦T≦Tni−10[℃]
    の関係にあることを特徴とする液晶回折光学素子。
  2. 請求項1に記載の液晶回折光学素子において、
    前記液晶材料の等方相転移温度Tniが80[℃]以上であることを特徴とする液晶回折光学素子。
  3. 請求項1または2に記載の液晶回折光学素子において、
    前記液晶材料は末端にハロゲン基が置換されている2環材料または多環材料を主とした組成からなることを特徴とする液晶回折光学素子。
  4. 請求項1〜3のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子において、
    前記回折格子は光学的等方性媒体により予め山谷状の周期構造が形成されており、前記周期構造の谷状部に光学的異方性媒体として前記液晶材料を封入してなることを特徴とする液晶回折光学素子。
  5. 請求項1〜3のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子において、
    前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、開口領域と遮光領域が周期的に形成されているマスクを介した露光により、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることを特徴とする液晶回折光学素子。
  6. 請求項1〜3のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子において、
    前記回折格子は、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を干渉露光することにより、主にポリマーからなる領域と主に非重合性液晶からなる領域との周期的な相分離構造より形成されていることを特徴とする液晶回折光学素子。
  7. 請求項1〜6のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子において、
    前記回折格子への入射光の偏光方向が、前記光学的異方性領域と前記光学的等方性領域の境界に対して平行方向あるいは直交方向であることを特徴とする液晶回折光学素子。
  8. 光源からの光を記録媒体に集光し、該記録媒体からの反射光を光検出器で検出して情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ヘッド装置において、
    前記記録媒体から前記光検出器に至る光路中に、前記記録媒体からの反射光を光検出器に向けて偏向する光学素子を備え、該光学素子が請求項1〜7のいずれか一つに記載の液晶回折光学素子であることを特徴とする光ヘッド装置。
  9. 請求項8記載の光ヘッド装置において、
    前記光源と前記光検出器を一つのケース内に収納し、該ケースの光出・入射部に前記液晶回折光学素子を一体化したことを特徴とする光ヘッド装置。
  10. 記録媒体に対して光ヘッド装置を用いて情報の記録または再生、あるいは記録及び再生を行なう光ディスクドライブ装置において、
    前記光ヘッド装置として、請求項8または9記載の光ヘッド装置を搭載したことを特徴とする光ディスクドライブ装置。
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