この発明は、例えば、記録密度や保護層の厚みが異なる複数種類の光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置といった波長が各々異なる複数種類の光を使用する装置に搭載される対物レンズ等の光学素子の設計方法に関する。
光ディスクには、従来、CDやDVDといった記録密度や保護層の厚みが異なる複数の規格が存在する。また近年、情報記録のさらなる高容量化を実現すべく、DVDよりも一層記録密度の高い新規格の光ディスクが実用化されつつある。該新規格の光ディスクとしては、例えばHD DVDやBD(Blu-ray Disc)等がある。このような新規格の光ディスクは、DVDの保護層厚と同等もしくはそれ以下の保護層厚を有する。このように規格の異なる複数の光ディスクが存在するためユーザの利便性に鑑み、近年、光情報記録再生装置、より厳密には装置内に設けられる対物光学系は、上記のうち少なくとも二種類の光ディスクに対して互換性を持つことが要求される。なお、本文において、光情報記録再生装置と記した場合には、情報の記録専用装置、情報の再生専用装置、情報の記録および再生兼用装置、の全てを含むものとする。また、互換性を持つとは、使用する光ディスクを切り替えたとしても部品を交換したりすることなく情報の記録または再生が保証されることをいう。
装置が規格の異なる複数の光ディスクに対して互換性を持つためには、まず、規格が異なる光ディスクの切り替え時に、保護層の厚みによって変化してしまう球面収差を補正しつつ、情報の記録または再生に使用する光の開口数(NA)を変化させて記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるように対物光学系を構成する必要がある。一般にスポット径は波長が短いほど小さい。そこで従来、記録密度の高低に応じて、光情報記録再生装置では、複数の波長のレーザー光が使用される。例えば、DVD使用時には、CD使用時に用いられる約780nmより短い約660nmの波長のレーザー光が用いられる。また、該新規格の光ディスク使用時には、その記録密度の高さからDVDに対する情報の記録または再生時に用いられる波長よりもさらに短波長な光(例えば405nmあたりのいわゆる青色レーザー光)が用いられる。
次いで、異なる波長の光が各々対応する光ディスクの記録面において、球面収差を発生させることなく良好に収束するように対物光学系を構成する必要がある。そこで、従来、対物光学系を構成する1または複数の光学素子(例えば対物レンズ)における任意の一面に輪帯状の微細な段差を有する回折構造を設け、該回折構造の作用によって、異なる波長の光を各々対応する光ディスクの記録面において良好に収束させる技術が実用化されている。
ここで、上記光学素子は、光源の個体差や温度変化等の環境変化によって、使用するレーザー光の波長が設計波長からずれることにより起こる球面収差の変化も補正できるような作用を持つことが好ましい。なお設計波長とは、各光ディスクに対する情報の記録または再生に最適とされる各レーザー光の波長を意味する。
しかし、回折構造には設計自由度の限界がある。そのため、二種類の光ディスクに対する互換性を持つように回折構造を設計した場合、二種類の光ディスクに対応する各光の波長ずれに起因する球面収差の変化の補正作用を付加することは不可能とされていた。
また、上記のように、近年新規格の光ディスクの実用化に伴い、既存の光ディスクのみならず該新規格の光ディスクに対しても互換性を持つ、つまり規格の異なる三種類の光ディスクに対する互換性を持つ光情報記録再生装置の対物光学系の実現が要望されている。しかし、上記の通り、該回折構造には設計自由度の限界がある。従って、一つの回折構造には、せいぜい特定の二種類の波長の光が入射した場合に、各光をそれぞれ対応する光ディスクの記録面に良好に収束するような作用しか付与することができない。つまり、従来、回折構造を光学素子の一面に設けただけでは、対物光学系に二種類の光ディスクに対する互換性しか持たせることはできないとされていた。
上記の諸事情に対して、一つの提案が以下の非特許文献1でなされている。
Yoshiaki Komma、他2名、「Compatible Objective Lens for Blu-ray Disc and DVD using Diffractive Optical Element and Phase-step Element which Corrects both Chromatic and Spherical Aberration (ISOM2003予稿(We−F−20))」、Matsushita Electric Industrial Co., Ltd
上記非特許文献1では、対物光学系において二つのレンズ面にそれぞれ作用の異なる回折構造を設けている。これにより、DVDとBDのいずれを使用した場合にも対応するレーザー光を良好に各光ディスクの記録面に収束させると同時に、波長ずれに起因する球面収差の変化も補正することができる。
しかし、上記提案のように回折構造を二つのレンズ面に形成すると、ディセンター等の製造誤差による性能の劣化が起こりやすくなる。また、構成部材の点数削減およびコストダウンを目的として対物光学系を単一のレンズで構成した場合、回折構造は該単一のレンズの両面に形成されることになる。つまり、一方の回折構造がディスクトレイを介して外部に露出することになる。そのため、レンズクリーナー使用時などに該回折構造が破壊されうる機会が非常に高くなってしまう。よって、非特許文献1の提案はレンズ等の光学素子に複数の回折作用を持たせることはできても、実装時における他の部材との関係において現実的ではない。
また、回折構造の自由度を高める観点から以下の特許文献2のような提案もなされている。
特許文献2では、複数の光学的機能をもつ単一の回折面を設計する方法について開示している。しかし、特許文献2に記載の設計方法は、特定の波長の光を最適に使用できるように複数の光学的機能を単一の回折面に持たせる方法である。波長の異なる複数種類の光それぞれに対して良好な作用を与えて、各光それぞれが効果的に利用できる、換言すれば配設される光学系や装置に各光に対する互換性を付与するような光学素子の設計に対しては言及していない。
そこで本発明は上記の事情に鑑み、設計波長が各々異なる複数種類の光を使用する光情報記録再生装置に用いられる、複数の回折作用をもつ単一の回折構造を備える光学素子の設計方法および該設計方法によって設計された光学素子を搭載する光情報記録再生装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の光学素子の設計方法は、設計波長の異なる複数種類の光束に対して用いられる光学素子の設計方法であって、該光学素子に入射する各光束に対して、回折効率が最大となる回折次数の比率が異なる少なくとも第一の光路差関数と第二の光路差関数を算出し、算出されたすべての光路差関数を重ね合わせることにより得られる形状を求め、光学素子の少なくとも一つの面に適用することを特徴とする。
請求項1に記載の設計方法によれば、複数の光路差関数を算出することにより、回折構造の設計自由度を上げることができる。また、回折効率が最大となる回折次数の比率が異なるように複数の光路差関数を算出するため、複数波長に関する複数の回折作用を回折構造に付与することができる。
請求項2に記載の発明によれば、上記一つの面を、光軸の周囲に位置する内側領域と該内側領域の外側に位置する外側領域とに分けることができる。この場合、内側領域と外側領域では、互いに異なる回折作用を持つ回折構造が形成される。
請求項3に記載の発明によれば、上記回折構造を光軸に対して回転対称となるように形成することができる。
本発明に係る光学素子の設計方法により設計された光学素子は、それぞれ規格の異なる少なくとも第一と第二の光ディスクに対して互換性を持つ光情報記録再生装置であって、より詳しくは第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時には第一の設計波長の光束を、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時には第二の設計波長の光束をそれぞれ使い分けることにより、各光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生装置に好適に搭載される(請求項4)。
請求項5に記載の発明によれば、第一の光路差関数は、回折構造に、第一の光ディスク使用時に発生する球面収差、および第二の光ディスク使用時に発生する球面収差をそれぞれ所望の値に調整する回折作用を主として付与し、第二の光路差関数は、該回折構造に、光ディスクのうち少なくとも一つを使用する時に、光学素子に入射する光束の波長が設計波長から微小に変化することにより変化する球面収差を所望の値に調整する回折作用を主として付与する。
請求項5に記載の光学素子の設計方法により光学素子を設計する場合、該光学素子の一つの面に形成される回折構造は、第一の光ディスク使用時に発生する球面収差および第二の光ディスク使用時に発生する球面収差がともに0となるような回折作用と、第一の光ディスク使用時に光学素子に入射する光束の波長が第一の設計波長から微少に変化することにより生じる球面収差の変化することにより生じる球面収差の変化をそれぞれ打ち消すような回折作用とを併せ持つように設計することができる(請求項6)。
請求項7に記載の発明によれば、上記の球面収差は、第一の設計波長の光束および第二の設計波長の光束がいずれも平行光束として光学素子に入射した場合の値である。
また、本発明によれば、第一および第二の波長と異なる第三の波長の光束を用いて第一および第二の光ディスクと規格の異なる第三の光ディスクに対する情報の記録または再生も行う光情報記録再生装置に対しても好適な光学素子を設計することができる(請求項8)。
請求項9に記載の発明によれば、第一から第三の光ディスクに対する情報の記録または再生が可能な光情報記録再生装置に適用可能な光学素子を設計する場合、各光路差関数は、上記回折構造が、第一から第三の各光ディスク使用時に発生する球面収差をそれぞれ所望の値に調整する回折作用を有するように各々別個に算出される。
上記の各光情報記録再生装置は、第一の光ディスクは第一から第三の設計波長のうち最も短い第一の設計波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われ、第二の光ディスクは第一の設計波長よりも長い第二の設計波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われ、第三の光ディスクは第一から第三の設計波長のうち最も長い第三の設計波長の光束を用いて情報の記録または再生が行われ、第一の光ディスクの保護層厚をt1、第二の光ディスクの保護層厚をt2、第三の光ディスクの保護層厚をt3、とすると、
t1≦t2<t3
であり、第一の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA1、第二の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA2、第三の光ディスクに対する情報の記録または再生時に必要な開口数をNA3、とすると、
NA1>NA3かつNA2>NA3
となるように構成することができる(請求項10)。
請求項10に記載のような光情報記録再生装置に好適な光学素子を設計するためには、第一の光路差関数における回折効率が最大となる回折次数の比率を、第一の設計波長、第二の設計波長、第三の設計波長の順に2:1:1と設定し、第二の光路差関数における回折効率が最大となる回折次数の比率を、第一の設計波長、第二の設計波長、第三の設計波長の順に3:2:2と設定することが望ましい(請求項11)。
さらに、請求項12に記載の発明によれば、上記の回折構造に、第一から第三の光ディスクのうち少なくとも一つを使用する時に、光学素子に入射する光束の波長が設計波長から微小に変化することにより生じる球面収差の変化の度合いを調整する回折作用を、主として付与する第三の光路差関数を算出することができる。
また、請求項11に記載のように第一の光路差関数と第二の光路差関数を設定した場合、第三の光路差関数における回折効率が最大となる回折次数の比率を、第一の設計波長、第二の設計波長、第三の設計波長の順に10:6:5となるように設定するとよい(請求項13)。
また、本発明によれば、上記請求項1から請求項7のいずれかに記載の光学素子の設計方法により設計された光学素子を搭載することを特徴とする光情報記録再生装置が提供される(請求項14)。該光情報記録再生装置では、第一および第二の光ディスクのいずれとも規格の異なる第三光ディスクに対する情報の記録または再生を行う時に使用される第三の設計波長の光束を発散光として入射させることにより、第三の光ディスクに対する情報の記録または再生を行うことができる(請求項15)。
また、本発明によれば、上記請求項8から請求項13のいずれかに記載の光学素子の設計方法により設計された光学素子を搭載することを特徴とする光情報記録再生装置が提供される(請求項16)。
以上のように、本発明によれば、回折効率が最大となる回折次数の比率が異なる複数の光路差関数に基づいて、回折構造の形状を求めることにより、複数種類の光束を使用する場合に、複数の回折作用をもつ単一の回折構造を備える光学素子が設計される。
従って、本発明によれば、例えば、既存の光ディスクおよび新規格の光ディスクのうち、少なくとも二種類の光ディスクに対する情報の記録または再生時に各光ディスクの記録面上において球面収差を抑えて良好なスポットを形成可能な対物レンズを設計することができる。
さらに、本発明に係る設計方法により上記のような複数の光ディスクに互換性を有する対物レンズを設計した場合には、さらに使用するレーザー光の波長が設計波長から微少にずれた場合に起こる球面収差の変化も補正することもできる。
以下、この発明に係る光学素子の設計方法および該設計方法によって設計された対物レンズの実施形態を説明する。なお、本発明に係る設計方法によって設計される光学素子は必ずしも対物レンズに限定されるものではなく、例えば、光情報記録再生装置において、光源と対物レンズの間に配設される平行平面板であってもよい。また、以下の各実施形態で説明する対物レンズは、いずれも単体で対物光学系をなすような設計がなされているが、本発明に係る設計方法は、複数のレンズから構成される対物光学系のいずれかのレンズの設計にも好適に使用される。
なお、光学素子の設計方法により設計される対物レンズは、光情報記録再生装置に搭載され、保護層厚、記録密度等といった規格がそれぞれ異なる三種類の光ディスクのうち、少なくとも二種類について互換性を有している。なお、本文において、光情報記録再生装置と記した場合には、情報の記録専用装置、情報の再生専用装置、情報の記録および再生兼用装置、の全てを含むものとする。
以下では説明の便宜上、上記三種類の光ディスクのうち、記録密度が最も高い光ディスク(例えばHD DVDやBD等の新規格の光ディスク)を第一の光ディスクD1、第一の光ディスクD1に比べて相対的に記録密度が低い(例えばDVDやDVD−R等)を第二の光ディスクD2、記録密度が最も低い光ディスク(例えばCDやCD−R等)を第三の光ディスクD3、と記す。
各光ディスクD1〜D3の保護層厚をそれぞれt1〜t3とすると、各保護層厚には、以下のような関係がある。
t1≦t2<t3
また、各光ディスクD1〜D3のそれぞれに対して情報の記録または再生を行う場合、記録密度の違いに対応したビームスポットが得られるように、必要とされるNAの値を変化させる必要がある。ここで、各光ディスクD1〜D3に対する情報の記録または再生時に必要とされる最適な設計開口数を、それぞれNA1、NA2、NA3とすると、各NAには以下のような関係がある。
NA1>NA3かつNA2>NA3
つまり、最も記録密度の高い第一の光ディスクD1に対する情報の記録または再生時には、より小径なスポットの形成が要求されるため、必要なNAが高くなる。これに対し、最も記録密度の低い第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時には、必要とされるNAが小さくてすむ。なお、どの光ディスクも、情報の記録または再生時には、図示しないターンテーブル上に載置され回転駆動される。
上記のように記録密度が異なる各光ディスクD1〜D3を使用する場合、各記録密度に対応したビームスポットの径が得られるように、光情報記録再生装置内において、それぞれ異なる波長のレーザー光が用いられる。具体的には、第一の光ディスクD1に対して情報の記録または再生を行う際には、最も小径のビームスポットを第一の光ディスクD1の記録面上において形成するために、最も短波長(第一の波長)であるレーザー光(以下、第一のレーザー光という)を光源から照射する。また、第三の光ディスクD3に対して情報の記録または再生を行う際には、最も大きな径のビームスポットを第三の光ディスクD3の記録面上において形成するために、最も長波長(第三の波長)であるレーザー光(以下、第三のレーザー光という)を光源から照射する。そして第二の光ディスクD2に対して情報の記録または再生を行う際には、第二の光ディスクD2の記録面上において比較的小径のスポットを形成するために、第一のレーザー光よりは長波長であってかつ第三のレーザー光よりは短波長(第二の波長)であるレーザー光(以下、第二のレーザー光という)を光源から照射する。
なお、上記各光ディスクD1〜D3に対する情報の記録または再生に最適とされる各レーザー光の波長(第一の波長、第二の波長、第三の波長)をそれぞれ、設計波長という。
まず第一実施形態の光学素子の設計方法、および該設計方法によって設計された対物レンズ10Aについて説明する。対物レンズ10Aは、規格の異なる二種類の光ディスクに対して互換性を有している。なお、本説明では上記二種類の光ディスクとして光ディスクD2、D3の組み合わせを想定しているが、第一実施形態の対物レンズ10Aは、該組み合わせ以外の二種類の光ディスクに対して互換性を有することも可能である。
図1は、対物レンズ10Aを有する光情報記録再生装置100の概略構成を表す模式図である。光情報記録再生装置100は、第二のレーザ光を照射する光源2A、第三のレーザ光を照射する光源3A、カップリングレンズ2B、3B、ビームスプリッタ41、ハーフミラー43、受光部44を有する。なお、光情報記録再生装置100では、第三の光ディスクD3に対する情報の記録または再生時に必要とされるNAが第二の光ディスクD2使用時に比べて小さいことに対応する必要がある。そのため、光情報記録再生装置100では、図示しないが、光源3A〜対物レンズ10A間に第三のレーザー光の光束の径を絞る開口制限素子が配設されていてもよい。
図1に示すように、各光源2A、3Aから照射された第二、第三の各レーザー光束は、各カップリングレンズ2B、3Bにより平行光束に変換される。つまり本実施形態では、各カップリングレンズ2B、3Bは、コリメートレンズとして機能する。各カップリングレンズ2B、3Bを透過した第二、第三の各レーザー光束は、ビームスプリッタ41によって共通の光路に導かれ、対物レンズ10Aに入射する。対物レンズ10Aを透過した各光束は、情報の記録または再生の対象となる第二の光ディスクD2または第三の光ディスクD3の記録面近傍に収束する。記録面で反射した各レーザー光は、ハーフミラー43で偏向され、受光部により検出される。なお、上記の通り、対物レンズ10Aに入射する各レーザー光を平行光束にすることにより、対物レンズ10Aをトラッキングシフトした場合においてコマ収差等の軸外収差の発生を有効に防止することができる。
図2(A)、(B)は、図1に示す光情報記録再生装置100における対物レンズ10Aおよび各光ディスクD2、D3の状態を、各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示した図である。図2(A)、(B)において、光情報記録再生装置100の基準軸AXは、図中一点鎖線で表示されている。図2(A)、(B)に示す状態では、対物レンズの光軸は光学系の基準軸AXと一致しているが、トラッキング動作などにより対物レンズの光軸が光学系の基準軸AXから外れる状態もある。
対物レンズ10Aは、光源側から順に第一面11と第二面12を有する。対物レンズ10Aは、図2(A)、(B)に示すように各面11、12とも非球面である両凸のプラスチック製単レンズである。非球面の形状は光軸からの高さがhとなる非球面上の座標点の該非球面の光軸上での接平面からの距離(サグ量)をX(h)、非球面の光軸上での曲率(1/r)をC、円錐係数をK、四次、六次、八次、十次、十二次…の非球面係数をA
2i(但し、iは1以上の整数)として、以下の式で表される。
また各光ディスクD2、D3は、それぞれ保護層21、記録面22を有する。なお、実際の光ディスクD2、D3において記録面22は、保護層21と、図示しないレーベル層によって挟持されている。該構成は、後述する光ディスクD1についても同様である。
ここで、各光ディスク使用時には異なる設計波長のレーザー光を用いるため、各光ディスク使用時によって、対物レンズの屈折率の変化や、各光ディスクD2、D3の保護層21の厚さの違いに起因して、記録面での球面収差(使用波長の違いによる球面収差)が変化する。
また、例えば第二の光ディスクD2使用時に用いられるレーザー光が、光源の個体差や経時変化等によって、該光ディスクD2に関する設計波長である第二の波長から微少に変化することが想定される。第三の光ディスクD3使用時においても同様である。このように、使用するレーザー光の波長が設計波長からずれると球面収差(波長ずれによる球面収差)も変化してしまう。
従って、二種類の光ディスクD2、D3をそれぞれ使用する時に発生する球面収差を補正して各光ディスクに対する互換性を持たせるために、第一実施形態の対物レンズ10Aには、二種類の光束に影響を与える回折作用を持つ回折構造が第一面11に設けられている。第一実施形態の回折構造は、第二のレーザー光と第三のレーザー光で使用波長の違いによる球面収差をそれぞれ略0に調整する回折作用と、温度変化や個体差に起因して各光ディスク使用時に用いられる光束の波長が設計波長から微少にずれることによる球面収差を打ち消す回折作用を併せ持つ。より詳しくは、前者は、対物レンズ10Aを透過した各レーザー光が、対応する光ディスクの記録面22上において、球面収差が良好に抑えられ、情報の記録再生に好適なスポットを形成できるような回折作用、つまり二波長互換作用である。後者は、対物レンズ10Aに入射する各レーザー光の波長が設計波長からずれた場合であっても、該波長ずれの影響を受けることなく、対応する光ディスクの記録面22上において情報の記録または再生に好適なスポットが形成されるような回折作用、つまり波長ずれ補償作用である。
該回折構造を持つ対物レンズ10Aを設計する方法を以下に詳述する。第一実施形態の設計方法では、各光束における回折効率が最大となる回折次数の比率が互いに異なる第一と第二の二種類の光路差関数を算出し、両関数を重ね合わせることにより、上記回折構造の形状を求める。なお、ここで、比率が異なる、とは、使用する光束のうち少なくとも一つの光束における回折効率が最大となる回折次数が異なっていれば足りる。従って、例えば、使用する光束が三種類ある場合に、第一の光路差関数における比率が3:2:2(ただし、第一、第二、第三のレーザー光の順とする、以下に示す全ての比率においても同様とする。)、第二の光路差関数における比率が3:2:1であれば比率が異なるといえる。また、各光路差関数における次数の組み合わせは異なるものの回折次数の比率が同一であるケース、例えば第一の光路差関数における比率が2:1:1、第二の光路差関数における比率が4:2:2である場合、各光路差関数により付与される回折作用は同一である。従って、本発明においては、次数の組み合わせが異なること、ではなく、回折次数の比率が異なることを各光路差関数における要件としている。
なお上記の他にも、比率の異なる回折次数の組み合わせとしては、第一の光路差関数における比率、第二の光路差関数における比率の順に、
2:1:1、5:3:2
2:1:1、5:3:3
2:1:1、7:4:3
2:1:1、8:5:4
3:2:2、8:5:4
3:2:2、10:6:5
5:3:2、8:5:4
5:3:2、10:6:5
5:3:3、8:5:4
5:3:3、10:6:5
7:4:3、8:5:4
7:4:3、10:6:5
8:5:4、10:6:5
などが例示される。
なお、上記組み合わせにおいて、第一のレーザー光における回折効率が最大となる回折次数が偶数の比率の光路差関数を採用することにより、第一のレーザー光および第三のレーザー光に関して高い光利用効率が得られるという特徴がある。
該回折構造は、主として第一の光路差関数により二波長互換作用が付与され、主として第二の光路差関数により波長ずれ補償作用が付与される。なお、ここで、主として、と記載したのは、各光路差関数が特定の回折作用の回折構造への付与にのみ寄与するわけではなく、他の回折作用の付与にも多少の寄与があることを明確化するためである。例えば、第一の光路差関数は、二波長互換作用の付与に大きく寄与するものの、波長ずれ補償作用の付与にも寄与する。以下に、主として、と記載した場合にも同様である。
第一実施形態の設計方法においては、まず、最終的に対物レンズ10Aの第一面11に形成されることになる回折構造に対する二波長互換作用の付与に主として寄与する第一の光路差関数を算出する。なお、光路差関数は、対物レンズ10Aの回折レンズとしての機能を光軸からの高さhにおける光路長付加量の形で表現される。光路差関数をφ(h)とすると、該φ(h)は、以下の式によって表される。
光路差関数φ(h)において、P2i(但し、iは1以上の整数)はそれぞれ二次、四次、六次、…の係数である。mは使用するレーザー光の回折効率が最大となる回折次数を、λは使用するレーザー光の設計波長(本実施形態であれば第二の波長と第三の波長)を、それぞれ表す。
回折構造に主として二波長互換作用を付与する第一の光路差関数を図3(A)に示す。光路差関数を形状に反映させる際には、各使用波長の回折効率を考慮した上で光路長付加量を定める。図3(A)に示す光路差関数は、使用される波長のうち最も短い波長における回折効率が最大となるように光路長付加量を定めている。後に図示する光路差関数についても同様である。第一実施形態では、第二の波長が最も短波長である。従って、図3(A)に示す第一の光路差関数では、第二のレーザー光における回折効率が最大となる回折次数(ここでは一次)に対応した光路長付加量が表れている。
第一の光路差関数が算出されると、次いで、上記回折構造に対する波長ずれ補償作用の付与に主として寄与する第二の光路差関数を算出する。図3(B)に第二の光路差関数を示す。図3(B)に示す第二の光路差関数では、第二のレーザー光における回折効率が最大となる回折次数(ここでは六次)に対応した光路長付加量が表れている。
第一、第二の光路差関数が算出されると、各光路差関数を足し合わせることにより規定される回折構造を対物レンズ10Aの第一面11に形成する。第一および第二の光路差関数を足し合わせたことにより規定される回折構造は、二波長互換作用と波長ずれ補償作用を併せ持つ。第一面11に実際に形成された回折構造を直接規定する光路差関数(以下、参考光路差関数という)を図示すると、図3(C)のようになる。図3(C)に示すように、参考光路差関数は、図3(A)に示す第一の光路差関数と図3(B)に示す第二の光路差関数が重ね合わさった軌跡を描く。なお、回折構造が形成される面を光ディスクと対向しない第一面11にすることにより、レンズクリーナーによって回折面が破壊されるおそれがなくなり、性能劣化を有効に回避することができる。
第一面11に回折構造が形成された対物レンズ10Aは、第二の光ディスクD2と第三の光ディスクD3に対して互換性を持つと同時に、第二のレーザー光が設計波長からずれた場合であっても球面収差の変化を有効に補正することができる。
次に第二実施形態の光学素子の設計方法、および該設計方法によって設計された対物レンズ10Bについて説明する。対物レンズ10Bは、規格の異なる三種類の光ディスクD1〜D3に対して互換性を有している。図4は、対物レンズ10Bを有する光情報記録再生装置200の概略構成を表す模式図である。光情報記録再生装置200は、上述した光情報記録再生装置100の構成に加え、第一のレーザー光を照射する光源1A、カップリングレンズ1B、ビームスプリッタ42を有する。なお、光情報記録再生装置200では、第三の光ディスクに対する情報の記録再生時に必要とされるNAが他の光ディスク使用時に比べて小さいことに対応する必要がある。そのため、光情報記録再生装置200では、光源3A〜対物レンズ10B間に第三のレーザー光の光束の径を絞る開口制限素子を配設してもよい。
図5(A)〜図5(C)は、対物レンズ10Bおよび各光ディスクD1〜D3を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示した図である。図5(A)〜図5(C)において、装置200の基準軸AXは上記第一実施形態の説明と同一に説明されるためここでの説明は省略する。また、対物レンズ10Bおよび該レンズの第一面11と第二面12についても上記第一実施形態で説明した構成と同一であるため、ここでの説明は省略する。
第一の光ディスクD1使用時に光源1Aから照射される第一のレーザー光は、カップリングレンズ1Bを介して平行光束に変換された後、対物レンズ10Bに入射する。つまり、カップリングレンズ1Bはコリメートレンズとして機能する。対物レンズ10Bから射出されたレーザー光は、ターンテーブル上に載置された第一の光ディスクD1において、保護層21を介して記録面22上に収束する。記録面22からの反射光は、ハーフミラー43を介して受光部44に受光される。他の光ディスクD2、D3使用時の動作は、上記光情報記録再生装置100と同一である。
ここで、上記の通り、各光ディスク使用時には異なる設計波長のレーザー光を用いる。そのため、各光ディスク使用時によって対物レンズの屈折率が変化し、結果として第一実施形態と同様に、使用波長の違いによる球面収差が変化する。また、光ディスクD1〜D3毎に保護層21の厚さが異なるため、保護層21の厚さの違いによる球面収差の変化も生じる。
そこで、三種類の光ディスクD1〜D3に対する互換性を持たせるために、第二実施形態の対物レンズ10Bには、三種類の光束に影響を与える回折作用を持つ回折構造が第一面11に設けられている。第一実施形態の回折構造は、第一から第三の各レーザー光で使用波長の違いによる球面収差をそれぞれ略0に調整する回折作用を持つ。該回折作用は、対物レンズ10Aを透過した各レーザー光が、対応する光ディスクの記録面22上において、球面収差が良好に抑えられ、情報の記録再生に好適なスポットを形成できるような回折作用、つまり三波長互換作用である。
該回折構造を持つ対物レンズ10Bを設計する方法を以下に詳述する。第二実施形態の設計方法でも、第一実施形態と同様に、三種類の光束における回折効率が最大となる回折次数の比率が互いに異なる第一と第二の二種類の光路差関数を算出し、両関数を足し合わせることにより、上記回折構造を形成する。
第二実施形態の設計方法においては、最終的に対物レンズ10Bの第一面11に形成されることになる回折構造に三波長互換作用が付与されるように第一および第二の光路差関数を算出する。算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ、図6(A)、(B)に示す。なお、第二実施形態では、第一の波長が最も短波長であるため、図6(A)、(B)に示す各関数では、第一のレーザー光における回折効率が最大となる回折次数(図6(A)では二次、図6(B)では三次)に対応した光路長付加量が表れている。
第一、第二の光路差関数が算出されると、各光路差関数を足し合わせることにより規定される回折構造を対物レンズ10Bの第一面11に形成する。第二実施形態において、第一および第二の光路差関数を足し合わせたことにより規定される回折構造は、三波長互換作用を持つ。第一面11に実際に形成された回折構造を直接規定する参考光路差関数を図示すると、図6(C)のようになる。図6(C)に示すように、参考光路差関数は、図6(A)に示す第一の光路差関数と図6(B)に示す第二の光路差関数を重ね合わせた軌跡を描く。
一般に、回折構造の設計自由度には限界があるため、一つの回折構造で三種類の波長の違いによる球面収差を、各々適切な値にすることはできないとされていた。しかし、上記のように設計された回折構造は、二種類の異なる光路差関数を足し合わせて形成されているため、設計自由度を高めることができ、結果として三波長互換作用が付与されている。つまり、対物レンズ10Bは、各光ディスクD1〜D3に対応する設計波長の平行光束が入射すると、各光ディスクD1〜D3の記録面22上において球面収差を抑えて情報の記録または再生に好適なビームスポットを形成することができる。
次いで、第三実施形態の光学素子の設計方法、および該設計方法によって設計された対物レンズ10Cについて説明する。対物レンズ10Cは、規格の異なる三種類の光ディスクD1〜D3に対して互換性を有すると同時に各光ディスク使用時に起こる波長ずれに起因する球面収差の変化も打ち消すことができる。つまり、第三の実施形態の設計方法により、対物レンズ10Cに形成される回折構造は、三波長互換作用と波長ずれ補償作用を有する。なお、対物レンズ10Cを有する光情報記録再生装置の概略構成は、第二実施形態で図示した光情報記録再生装置200と同一であるため、図4や図5を参照し、ここでの説明は省略する。
第三実施形態の設計方法では、各光束における回折効率が最大となる回折次数の比率が互いに異なる第一から第三の三種類の光路差関数を算出する。そして、各関数をすべて足し合わせることにより、三波長互換作用と波長ずれ補償作用が付与された回折構造を規定し、該回折構造を対物レンズ10Cの第一面11に形成する。
なお、三種類の光路差関数を用いて回折構造を規定する場合、比率の異なる回折次数の組み合わせとしては、第一の光路差関数における比率、第二の光路差関数における比率、第三の光路差関数における比率の順に、
2:1:1、3:2:2、8:5:4
2:1:1、5:3:2、8:5:4
2:1:1、5:3:2、10:6:5
2:1:1、5:3:3、8:5:4
2:1:1、5:3:3、10:6:5
2:1:1、7:4:3、8:5:4
2:1:1、7:4:3、10:6:5
3:2:2、8:5:4、10:6:5
5:3:2、8:5:4、10:6:5
5:3:3、8:5:4、10:6:5
7:4:3、8:5:4、10:6:5
などが例示される。
回折構造における回折作用のうち、三波長互換作用の付与に主として寄与する第一と第二の光路差関数をそれぞれ、図7(A)、(B)に示す。また、回折構造における回折作用のうち、波長ずれ補償作用の付与に主として寄与する第三の光路差関数を図7(C)に示す。第三実施形態では、第一の波長が最も短波長であるため、図7(A)〜(C)に示す各関数では、第一のレーザー光における回折効率が最大となる回折次数(図7(A)では二次、図7(B)では三次、図7(C)では十次)に対応した光路長付加量が表れている。なお、
さらに、各光路差関数に基づいて、実際に第一面11に形成された回折構造を直接規定する参考光路差関数を図7(D)に示す。図7(D)に示すように、参考光路差関数は、図7(A)〜(D)に示す第一から第三の各光路差関数を重ね合わせた軌跡を描く。
以上のように、本発明に係る設計方法では、該光学素子を介して使用される波長の異なる複数の光束における回折効率が最大となる回折次数の比率が互いに異なる三種類以上の光路差関数を算出し、算出されたすべての光路差関数を足し合わせることにより規定される回折構造を該光学素子の少なくとも一面に形成する。これにより、設計対象となる光学素子に付与すべき回折作用の種類や性質に応じて、単一の回折構造における設計自由度を自在に増やすことができる。
なお上記の通り、三種類の光ディスクD1〜D3は、それぞれに対する情報の記録または再生時に必要とされるNAが異なる。そこで、各光ディスク使用時に最適なNAが確保されるように、対物レンズ10Cの第一面11を、光軸の周囲に位置する内側領域と該内側領域の外側に位置する外側領域に分け、各領域に異なる回折構造を形成することも可能である。
以上説明した第一実施形態の設計方法により設計された対物レンズ10Aを対物光学系として用いた光情報記録再生装置100の具体的な実施例を4例(実施例1〜4)示す。そして、第二実施形態の設計方法により設計された対物レンズ10Bを対物光学系として用いた光情報記録再生装置200の具体的な実施例を1例(実施例5)示す。そして、第三実施形態の設計方法により設計された対物レンズ10Cを対物光学系として用いた光情報記録再生装置200の具体的な実施例を1例(実施例6)示す。そして、各実施形態の設計方法を組み合わせて設計された対物レンズ10Dを対物光学系として用いた光情報記録再生装置200の具体的な実施例を4例(実施例7〜10)示す。
各実施例のうち、三種類の光ディスクに対する互換性を有する光情報記録再生装置の実施例において使用される光ディスクは、保護層厚0.6mmの最も記録密度の高い第一の光ディスクD1、保護層厚0.6mmであり第一の光ディスクD1よりは記録密度の低い第二の光ディスクD2、保護層厚1.2mmの最も記録密度の低い第三の光ディスクD3を想定する。二種類の光ディスクに対する互換性を有する光情報記録再生装置の実施例において使用される光ディスクは、上記三種類の光ディスクのうち、第二と第三の光ディスクを想定する。
実施例1の対物レンズ10Aを搭載する光情報記録再生装置100は、図1、および図2(A)、(B)に示される。図2(A)、(B)に示すように、実施例1の対物レンズ10Aは、光ディスクD2と光ディスクD3に対して互換性を持つ。なお、第三の光ディスクD3使用時は、情報の記録または再生に好適な開口数を得るために図示しない開口制限素子を用いて光束径を絞っている。そのため、図2(A)、(B)に示すように、第三の光ディスクD3使用時は、第二の光ディスクD2使用時に比べて有効光束径が小さくなる。実施例1の対物レンズ10Aの具体的な仕様は、表1に示されている。
表1中、倍率の値が示すように、実施例1では、いずれの光ディスクD2、D3使用時であっても、レーザー光は平行光束として対物レンズ10に入射する。表1に示す対物レンズ10Aを備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD2、D3使用時における具体的数値構成は、表2に示される。但し、表2では、説明の便宜上、光源と対物レンズの間に配設される部材に関する数値構成を省略している。以下に示す各実施例においても同様である。
表2中、面番号1は光源、面番号2は対物レンズ10Aの第一面11、面番号3は対物レンズ10Aの第二面12、面番号3と4はそれぞれ各光ディスクD2、D3における保護層21と記録面22、をそれぞれ表す。rはレンズ各面の曲率半径(単位:mm)、dは情報の記録または再生時におけるレンズ厚またはレンズ間隔(単位:mm)、n(Xnm)は波長Xnmでの屈折率である。後述する実施例2以降における各表においても同様である。
対物レンズ10Aの両面11、12は、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表3に示される。なお各表における表記Eは、10を基数、Eの右の数字を指数とする累乗を表している。
また実施例1の対物レンズ10Aは、上記第一実施形態の設計方法により、第一面11に回折構造が設けられている。対物レンズ10Aの第一面11に形成されることになる回折構造を規定するための第一の光路差関数および第二の光路差関数における係数P2iは表4に、回折次数mは表5に、それぞれ示される。実施例1において最も短波長である第二の波長を用いて算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ図3(A)、図3(B)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図3(C)に示す。
図8(A)、(B)は、実施例1の光情報記録再生装置100において、第二のレーザー光および第三のレーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図8(A)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図8(B)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。各収差図において、各レーザー光が設計波長であるときの球面収差を実線で示す。また各収差図では、各レーザー光の波長が該設計波長から−10nmずれたときの球面収差を点線で、−5nmずれた時の球面収差を一点鎖線で、+5nmずれたときの球面収差を二点鎖線で、+10nmずれたときの球面収差を破線で、それぞれで示している。以下の各実施例で示す収差図においても同様である。
図8(A)、(B)に示すように、実施例1の対物レンズ10Aを使用すると、光ディスクD2、D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに、該レーザー光が設計波長からずれたことによる球面収差の変化も小さく抑えていることが分かる。なお、該レーザー光が設計波長からずれたことによる収束位置の軸方向のずれは図示しないアクチュエータ等を用いて対物レンズ10Aを光軸AX方向に駆動することにより補正可能である。このアクチュエータ等を用いた補正は以下の各実施例においても同様に適用される。
実施例2の対物レンズ10Aを搭載する光情報記録再生装置100は、実施例1と同様に、図1および図2(A)、(B)に示される。よって、実施例2の対物レンズ10Aも、第二の光ディスクD2と第三の光ディスクD3に対して互換性を持つ。実施例2の対物レンズ10Aの具体的な仕様は、表6に示されている。なお、実施例2でも、第二の光ディスクD2使用時は、情報の記録または再生に好適な開口数を得るために図示しない開口制限素子を用いて光束径を絞っている。また表6中倍率の値が示すように、実施例2も、いずれの光ディスクD2、D3使用時であっても、レーザー光は平行光束として対物レンズ10に入射する。
表6に示す対物レンズ10Aを備える光情報記録再生装置100の各光ディスクD2、D3使用時における具体的数値構成は、表7に示される。
対物レンズ10Aの両面11、12は、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表8に示される。また実施例2の対物レンズ10Aは、上記第一実施形態の設計方法により、第一面11に回折構造が設けられている。実施例2の対物レンズ10Aの第一面11に形成されることになる回折構造を規定するための第一の光路差関数および第二の光路差関数における係数P2iは表9に、回折次数mは表10に、それぞれ示される。実施例2において最も短波長である第二の波長を用いて算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ図9(A)、図9(B)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図9(C)に示す。
図10(A)、(B)は、実施例2の光情報記録再生装置100において、第二のレーザー光および第三のレーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図10(A)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図10(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図10(A)、(B)に示すように、実施例2の対物レンズ10Aを使用すると、光ディスクD1、D2のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに、該レーザー光が設計波長からずれた場合におこる球面収差も良好に補正していることが分かる。
以上の実施例1、実施例2は、二種類の光ディスクD2、D3に対して互換性を持つ対物レンズ10Aについて説明した。ここで、各実施例1、2の対物レンズ10Aと同一構成の対物レンズを用いるとともに、特定の光ディスクに対する情報の記録または再生時に用いられるレーザー光の発散度合いを変更することによって、三種類の光ディスクD1、D2、D3に対して互換性を持つ光情報記録再生装置を提供することもできる。このような光情報記録再生装置を実施例3および実施例4で説明する。
実施例3の対物レンズ10A’を搭載する光情報記録再生装置150は、図11および図12(A)〜(C)に示される。実施例3の対物レンズ10A’の具体的な仕様は、表11に示されている。
表11中、倍率の値が示すように、実施例3では、第一の光ディスクD1と第二の光ディスクD2のいずれかを使用している時、レーザー光は平行光束として対物レンズ10に入射する。つまり、実施例3の対物レンズ10A’は、第一の光ディスクD1と第二の光ディスクD2に対して互換性を持つ。そして、図12(C)および表11に示すように、第三の光ディスクD3使用時には対物レンズ10A’に発散光を入射させる。これにより、光情報記録再生装置150は、三種類の光ディスクD1〜D3に対する互換性を備える。表11に示す対物レンズ10A’を備える光情報記録再生装置150の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表12に示される。
対物レンズ10A’の両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表13に示される。また実施例3の対物レンズ10A’は、上記第一実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例3の対物レンズ10A’の第一面11に形成されることになる回折構造を規定するための第一の光路差関数および第二の光路差関数における係数P2iは表14に、回折次数mは表15に、それぞれ示される。実施例3において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ図13(A)、図13(B)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図13(C)に示す。
図14(A)〜(C)は、実施例3の光情報記録再生装置150において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図14(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図14(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図14(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図14(A)〜(C)に示すように、実施例3の対物レンズ10A’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに対物レンズ10A’は、波長ずれに起因して変化する球面収差については、最も記録密度の高い(つまり、最も収差に対する許容度が低い)第一の光ディスク使用時に最も良好に補正される(打ち消される)ような作用を持つ。そのため、第一の光ディスク使用時に用いられる第一のレーザ光が設計波長(第一の波長)から外れた場合であっても、図14(A)に示すように、球面収差は良好に補正されている。さらに、図14(B)、(C)に示すように、第一の光ディスクD1使用時における波長ずれに起因する球面収差の変化の補償を行うことにより、他の光ディスクD2、D3使用時に波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化も小さく抑えられている。
実施例4の対物レンズ10A’を搭載する光情報記録再生装置150も、図11および図12(A)〜(C)に示される。実施例4の対物レンズ10A’の具体的な仕様は、表16に示されている。
実施例4の対物レンズ10A’も、実施例3と同様に、第一の光ディスクD1と第二の光ディスクD2に対して互換性を持つ。そして、表16中倍率の値に示すように、第三の光ディスクD3使用時には対物レンズ10A’に発散光を入射させる。これにより、実施例4の光情報記録再生装置150は、三種類の光ディスクD1〜D3に対する互換性を備える。表16に示す対物レンズ10A’を備える光情報記録再生装置150の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表17に示される。
対物レンズ10A’の両面11、12も、実施例3の対物レンズ10A’と同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表18に示される。また実施例3と同様に、実施例4の対物レンズ10A’は、上記第一実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例4の対物レンズ10A’の第一面11に形成されることになる回折構造を規定するための第一の光路差関数および第二の光路差関数における係数P2iは表19に、回折次数mは表20に、それぞれ示される。実施例4において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ図15(A)、図15(B)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図15(C)に示す。
図16(A)〜(C)は、実施例4の光情報記録再生装置150において、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。図16(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図16(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図16(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図16(A)〜(C)に示すように、実施例4の対物レンズ10A’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに対物レンズ10A’は、波長ずれに起因して変化する球面収差については、最も記録密度の高い(つまり、最も収差に対する許容度が低い)第一の光ディスク使用時に最も良好に補正される(打ち消される)ような作用を持つ。よって、実施例3と同様に、第一の光ディスクD1使用時はもちろんのこと、他の光ディスクD2、D3使用時に波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化も小さく抑えられている。
以上の実施例1〜4は、第一実施形態の設計方法により設計された、二種類の光ディスクD1、D2に対して互換性を持つ対物レンズ10A(10A’)に関するものである。次に第二実施形態の設計方法により設計された対物レンズ10B、つまり三種類の光ディスクD1〜D3に対する互換性を実現するために必要な三波長互換作用を備える一つの回折構造を持つ対物レンズ10Bの具体的実施例について説明する。
実施例5の対物レンズ10Bを搭載する光情報記録再生装置200は、図4および図5(A)〜(C)に示される。実施例5の対物レンズ10Bの具体的な仕様は、表21に示されている。
表21中、倍率の値が示すように、実施例5では、後述する回折構造が持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3に対する情報の記録または再生時に用いられるレーザー光を平行光束として対物レンズ10Bに入射可能にしている。表21に示す対物レンズ10Bを備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表22に示される。
対物レンズ10Bの両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表23に示される。また実施例5の対物レンズ10Bは、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例5の対物レンズ10Bの第一面11に形成されることになる回折構造を規定するための第一の光路差関数および第二の光路差関数における係数P2iは表24に、回折次数mは表25に、それぞれ示される。実施例5において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一の光路差関数および第二の光路差関数をそれぞれ図6(A)、図6(B)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図6(C)に示す。
図17(A)〜(C)は、実施例5の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10Bを透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図17(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図17(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図17(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図17(A)〜(C)に示すように、実施例5の対物レンズ10Bを使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。
実施例5に記載の設計方法では、二つの光路差関数によって回折構造に三波長互換作用を与えている。そのため、図17(A)〜(C)に示すように各光ディスクD1〜D3に対する情報の記録または再生時に用いる光束の波長が設計波長からずれることによる球面収差の変化を抑える効果は小さい。そこで、三種類の光ディスクD1、D2、D3に対して互換性を持つと同時に、波長ずれに起因する球面収差の変化を小さく抑える対物レンズ10C(10C’)および該対物レンズ10C(10C’)を備える光情報記録再生装置200について、実施例6〜10で説明する。なお、実施例6から実施例10の対物レンズ10C(10C’)を搭載する光情報記録再生装置200は、図4および図5(A)〜(C)に示される。
実施例6の対物レンズは、第一と第二の光路差関数により主として三波長互換作用が、第三の光路差関数により主として波長ずれ補償作用が、それぞれ付与された回折構造を第一面11に有している。つまり、実施例6の対物レンズは、上記第三実施形態の設計方法により設計されている。実施例6の対物レンズ10Cの具体的な仕様は、表26に示されている。
表26中、倍率の値が示すように、実施例6も実施例5と同様に、対物レンズ10Cの回折構造が持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3使用時であっても、レーザー光を平行光束として使用することができる。表26に示す対物レンズ10Cを備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表27に示される。
対物レンズ10Cの両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表28に示される。また実施例6の対物レンズ10Cは、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例6の対物レンズ10Cの第一面11に形成された回折構造を規定するための第一から第三の各光路差関数における係数P2iは表29に、回折次数mは表30に、それぞれ示される。実施例6において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一から第三の各光路差関数を順に図7(A)〜(C)に示す。また、第一面11に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図7(D)に示す。
図18(A)〜(C)は、実施例6の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10Cを透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図18(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図18(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図18(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図18(A)〜(C)に示すように、実施例6の対物レンズ10Cを使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。
さらに実施例6では、第三の光路差関数により主として付与される波長ずれ補償作用は、各光ディスク、特に収差に対する許容度の小さい第一の光ディスクD1使用時に起こる波長ずれに起因する球面収差の変化を抑制する。そのため、図18(A)に示すように、第一の光ディスクD1使用時は波長ずれに起因する球面収差の変化が極めて小さく抑えられている。加えて図18(B)、(C)に示すように、他の光ディスクD2、D3使用時に波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化も小さく抑えられている。
実施例7の対物レンズ10C’は、回折構造が施される第一面11が光軸の周囲に位置する内側領域と該内側領域の外側に位置する外側領域に分けられ、領域毎に異なる回折作用を持つ回折構造が形成されている。具体的には、第一面11の内側領域には、第一と第二の光路差関数により三波長互換作用が付与された回折構造が形成されている。該回折構造は上記第二実施形態の設計方法により設計される。また、第一面11の外側領域には、第三の光路差関数による二波長互換作用(第一の波長と第二の波長に対する互換作用)および第四の光路差関数による波長ずれ補償作用が付与された回折構造が形成されている。該回折構造は、上記第一実施形態の設計方法により設計される。実施例7の対物レンズ10C’の具体的な仕様は、表31に示されている。
表31中、倍率の値が示すように、実施例7も実施例5や実施例6と同様に、回折構造の持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3使用時であっても、レーザー光を平行光束として使用することができる。表31に示す対物レンズ10C’を備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表32に示される。
表32に示す内側領域は光軸からの高さが0以上1.17未満(単位mm)の範囲、外側領域は光軸からの高さが1.17以上1.5以下(単位mm)の範囲に設定される。以下の実施例8〜10における内側領域と外側領域も同様である。対物レンズ10C’の両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表33に示される。
また実施例7の対物レンズ10C’は、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例7の対物レンズ10C’の第一面11に形成された回折構造を規定するための第一から第四の各光路差関数における係数P2iは表34に、回折次数mは表35に、それぞれ示される。
実施例7において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一、第二の各光路差関数を図19(A)、(B)に、第三、第四の各光路差関数を図19(D)、(E)に、それぞれ示す。また、第一面11の内側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図19(C)に、第一面11の外側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図19(F)に、それぞれ示す。図19(G)は内側領域に施された回折構造と外側領域に施された回折構造を第一面11に施された単一の回折構造として捉えた場合に、該単一の回折構造を直接規定する参考光路差関数を示す。図19(G)に示す参考光路差関数において、光軸からの高さが0以上1.17未満(単位mm)の範囲(内側領域)は、図19(C)に示す参考光路差関数が適用され、光軸からの高さが1.17以上1.5以下(単位mm)の範囲(外側領域)は図19(F)に示す参考光路差関数が適用される。
図20(A)〜(C)は、実施例7の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10C’を透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図20(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図20(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図20(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図20(A)〜(C)に示すように、実施例7の対物レンズ10C’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに実施例7では、波長ずれ補償作用を持つ回折構造は外側領域に形成されている。つまり波長ずれ補償作用は、収差に対する許容度の小さい光ディスク使用時、特に第一の光ディスクD1使用時に起こる波長ずれに起因する球面収差の変化の抑制に重点を置いている。そのため、図20(A)、(B)に示すように、第一の光ディスクD1や第二の光ディスクD2使用時に起こる波長ずれに起因した球面収差の変化が小さく抑えられている。
実施例8の対物レンズ10C’は、回折構造が施される第一面11が内側領域と外側領域に分けられ、領域毎に異なる回折作用を持つ回折構造が形成されている。具体的には、実施例7と同様に、第一面11の内側領域には、第一と第二の光路差関数により三波長互換作用が付与された回折構造が形成されている。また、第一面11の外側領域には、第三の光路差関数による二波長互換作用(第一の波長と第二の波長に対する互換作用)および第四の光路差関数による波長ずれ補償作用が付与された回折構造が形成されている。該回折構造は、上記第一実施形態の設計方法により設計される。実施例8の対物レンズ10C’の具体的な仕様は、表36に示されている。
表36中、倍率の値が示すように、実施例8も上記各実施例5〜7と同様に、回折構造の持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3使用時であっても、レーザー光を平行光束として使用することができる。表36に示す対物レンズ10C’を備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表37に示される。
対物レンズ10C’の両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表38に示される。また実施例8の対物レンズ10C’は、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例8の対物レンズ10C’の第一面11に形成された回折構造を規定するための第一から第四の各光路差関数における係数P2iは表39に、回折次数mは表40に、それぞれ示される。
実施例8において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一、第二の各光路差関数を図21(A)、(B)に、第三、第四の各光路差関数を図21(D)、(E)に、それぞれ示す。また、第一面11の内側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図21(C)に、第一面11の外側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図21(F)に、示す。図21(G)は内側領域に施された回折構造と外側領域に施された回折構造を第一面11に施された単一の回折構造として捉えた場合に、該単一の回折構造を直接規定する参考光路差関数を示す。図21(G)に示す参考光路差関数において、光軸からの高さが0以上1.17未満(単位mm)の範囲(内側領域)は、図21(C)に示す参考光路差関数が適用され、光軸からの高さが1.17以上1.5以下(単位mm)の範囲(外側領域)は図21(F)に示す参考光路差関数が適用される。
図22(A)〜(C)は、実施例8の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10C’を透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図22(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図22(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図22(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図22(A)〜(C)に示すように、実施例8の対物レンズ10C’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに実施例8でも実施例7と同様に、波長ずれ補償作用を持つ回折構造は外側領域に形成されている。従って、図22(A)、(B)に示すように、各光ディスクD1、D2使用時に波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化が小さく抑えられている。
表35と表40に示すように、実施例7と実施例8では、回折次数の比率が異なる第三の光路差関数を用いて設計された対物レンズ10C’を使用している。このように、実施例7と実施例8で、回折効率が最大になる回折次数の比率が異なっているものの、いずれも良好な性能を有している。
実施例9の対物レンズ10C’も、第一面11が各々異なる回折構造を持つ内側領域と外側領域に分けられている。具体的には、第一面11の内側領域には、第一と第二の光路差関数により主として三波長互換作用が、第三の光路差関数により主として波長ずれ補償作用が、それぞれ付与された回折構造が形成されている。該回折構造は上記第三実施形態の設計方法により設計される。また、第一面11の外側領域には、第四の光路差関数による二波長互換作用(第一の波長と第二の波長に対する互換作用)および第五の光路差関数による波長ずれ補償作用が付与された回折構造が形成されている。該回折構造は、上記第一実施形態の設計方法により設計される。実施例9の対物レンズ10C’の具体的な仕様は、表41に示されている。
表41中、倍率の値が示すように、実施例9も上記各実施例5〜8と同様に、回折構造の持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3使用時であっても、レーザー光を平行光束として使用することができる。表41に示す対物レンズ10C’を備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表42に示される。
対物レンズ10C’の両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表43に示される。また実施例9の対物レンズ10C’は、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例9の対物レンズ10C’の第一面11に形成された回折構造を規定するための第一から第五の各光路差関数における係数P2iは表44に、回折次数mは表45に、それぞれ示される。
実施例9において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一から第三の各光路差関数を図23(A)〜(C)に、第四、第五の各光路差関数を図23(E)、(F)に、それぞれ示す。また、第一面11の内側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図23(D)に、第一面11の外側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図23(G)に、示す。図23(H)は内側領域に施された回折構造と外側領域に施された回折構造を第一面11に施された単一の回折構造として捉えた場合に、該単一の回折構造を直接規定する参考光路差関数を示す。図23(H)に示す参考光路差関数において、光軸からの高さが0以上1.17未満(単位mm)の範囲(内側領域)は、図23(D)に示す参考光路差関数が適用され、光軸からの高さが1.17以上1.5以下(単位mm)の範囲(外側領域)は図23(G)に示す参考光路差関数が適用される。
図24(A)〜(C)は、実施例9の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10C’を透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図24(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図24(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図24(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図24(A)〜(C)に示すように、実施例9の対物レンズ10C’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに実施例9では、内側領域と外側領域に形成された回折構造がいずれも波長ずれ補償作用を持つ。従って、図24(A)〜(C)に示すように、各光ディスクD1〜D3のいずれを使用した時においても、波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化が小さく抑えられている。
実施例10の対物レンズ10C’も、第一面11が各々異なる回折構造を持つ内側領域と外側領域に分けられている。具体的には、第一面11の内側領域には、第一と第二の光路差関数により主として三波長互換作用が、第三の光路差関数により主として波長ずれ補償作用が、それぞれ付与された回折構造が形成されている。該回折構造は上記第三実施形態の設計方法により設計される。また、第一面11の外側領域には、第四の光路差関数による二波長互換作用(第一の波長と第二の波長に対する互換作用)および第五の光路差関数による波長ずれ補償作用が付与された回折構造が形成されている。該回折構造は、上記第一実施形態の設計方法により設計される。実施例10の対物レンズ10C’の具体的な仕様は、表46に示されている。
表46中、倍率の値が示すように、実施例10も上記各実施例5〜9と同様に、回折構造の持つ三波長互換作用によって、いずれの光ディスクD1〜D3使用時であっても、レーザー光を平行光束として使用することができる。表46に示す対物レンズ10C’を備える光情報記録再生装置200の各光ディスクD1〜D3使用時における具体的数値構成は、表47に示される。
対物レンズ10C’の両面11、12は、上記の他の実施例の対物レンズと同様、非球面である。各面11、12の各非球面の形状を規定する円錐係数と非球面係数は、表48に示される。また実施例10の対物レンズ10C’は、上記第二実施形態の設計方法によって第一面11に回折構造が設けられている。実施例10の対物レンズ10C’の第一面11に形成された回折構造を規定するための第一から第五の各光路差関数における係数P2iは表49に、回折次数mは表50に、それぞれ示される。
実施例10において最も短波長である第一の波長を用いて算出された第一から第三の各光路差関数を図25(A)〜(C)に、第四、第五の各光路差関数を図25(E)、(F)に、それぞれ示す。また、第一面11の内側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図25(D)に、第一面11の外側領域に実際に形成されている回折構造を直接規定する参考光路差関数を図25(G)に、示す。図25(H)は内側領域と外側領域の二つの回折構造を第一面11に施された単一の回折構造として捉えた場合に、該単一の回折構造を直接規定する参考光路差関数を示す。図25(H)に示す参考光路差関数において、光軸からの高さが0以上1.17未満(単位mm)の範囲(内側領域)は、図25(D)に示す参考光路差関数が適用され、光軸からの高さが1.17以上1.5以下(単位mm)の範囲(外側領域)は図25(G)に示す参考光路差関数が適用される。
図26(A)〜(C)は、実施例10の光情報記録再生装置200において、第一から第三の各レーザー光が対物レンズ10C’を透過することにより発生する球面収差を表す収差図である。図26(A)が第一のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図26(B)が第二のレーザー光使用時に発生する球面収差を、図26(C)が第三のレーザー光使用時に発生する球面収差を、それぞれ表す。図26(A)〜(C)に示すように、実施例10の対物レンズ10C’を使用すると、各光ディスクD1〜D3のいずれに対する情報の記録または再生時であっても、対応する設計波長のレーザー光が球面収差を生じることなく各光ディスクの記録面22上に良好に収束することがわかる。さらに実施例10では、内側領域と外側領域に形成された回折構造がいずれも波長ずれ補償作用を持つ。従って、図26(A)〜(C)に示すように、各光ディスクD1〜D3のいずれを使用した時においても、波長ずれが起こることに起因した球面収差の変化が小さく抑えられている。
表45と表50に示すように、実施例9と実施例10では、回折次数の比率が異なる第四の光路差関数を用いて設計された対物レンズ10C’を使用している。このように、実施例9と実施例10で、回折効率が最大になる回折次数の比率が異なっているものの、いずれも良好な性能を有している。
なお、上述した実施例7から実施例10の対物レンズ10C’は、第一面11を、互いに回折作用が異なる回折構造が形成される内側領域と外側領域に分けている。そして特に外側領域には第一または第二の光ディスクD1、D2使用時の互換性を確保する二波長互換作用を持つ回折構造が形成されている。これにより、外側領域に入射した第三のレーザ光は収束に寄与しない。つまり対物レンズ10C’は、情報の記録または再生時に比較的低いNAしか要求されない第三の光ディスクD3使用時における開口制限機能も有している。但し、開口制限機能を持つ対物レンズ10C’を使用したとしても、さらに図4に示す光情報記録再生装置200において説明した開口制限素子を設けてもよい。
以上が本発明に係る設計方法により設計された対物レンズの具体的実施例である。なお、上記の各実施例はあくまでも本発明に係る対物レンズの一例である。つまり本発明に係る対物レンズは、各実施例の具体的数値構成に限定されるものではない。例えば、光情報記録再生装置の対物光学系を構成するレンズ等の光学素子の数は複数であっても良い。対物光学系が複数の光学素子から構成される場合、本発明に係る設計方法により設計される光学素子は、片側一面のみならず両面に回折構造を設けることができる。
また、二波長(三波長)互換作用で調整される球面収差の値は、0でなくてもよく、設計者が任意に設定することが可能である。同様に波長ずれ補償作用でも波長ずれに起因して変化する球面収差を必ずしも打ち消す作用を与える必要はなく、球面収差の変化の度合いは設計者が任意に設定可能である。
本発明の第一実施形態の光情報記録再生装置の概略構成を表す模式図である。
本発明の第一実施形態の光情報記録再生装置を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示す図である。
第一の実施形態の設計方法により第二の波長を用いて算出された第一および第二の光路差関数と参考光路差関数を示す。
本発明の第二実施形態の光情報記録再生装置の概略構成を表す模式図である。
本発明の第二実施形態の光情報記録再生装置を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示す図である。
第二の実施形態の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一および第二の光路差関数と参考光路差関数を示す。
第二の実施形態の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第三の光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例1の光情報記録再生装置の、第一のレーザー光および第二のレーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例2の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一および第二の光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例2の光情報記録再生装置の、第一のレーザー光および第二のレーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
本発明の実施例3の光情報記録再生装置の概略構成を表す模式図である。
本発明の実施例3の光情報記録再生装置を各光ディスク使用時における光路ごとに分けて示す図である。
実施例3の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一および第二の光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例3の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例4の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第三の各光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例4の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例5の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例6の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例7の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第四の各光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例7の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例8の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第四の各光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例8の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例9の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第五の各光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例9の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
実施例10の設計方法により第一の波長を用いて算出された第一から第五の各光路差関数と参考光路差関数を示す。
実施例10の光情報記録再生装置の、第一から第三の各レーザー光を使用した時に発生する球面収差を表す収差図である。
符号の説明
1A、2A、3A 光源
10A、10A’、10B、10C、10C’ 対物レンズ
D1〜D3 光ディスク
100、150、200 光情報記録再生装置