以下、本発明に係る好適な実施形態における映像表示機、映像パネルの駆動回路並びに映像表示機の制御方法の特徴について説明をする。
実施形態に係る映像表示機は、複数個数の電子放出部の一部個数から映像信号に応じた強度の電子ビームを放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像表示機において、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外の電子放出部からは、この強度とは異なる低強度の電子ビームを放出するものである。
すなわち、この映像表示機は、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出するので蛍光体層に映像を表示することができる。しかも、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外の電子放出部からは、この強度とは異なる低強度の電子ビームを放出するので、焼きつきを防止できる。そして、焼きつきの無い高画質の画像が表示可能となる。ここで、低強度とは、画像の表示に顕著な悪影響を与えない程度の強度を言い、望ましくは、映像信号に応じた強度の電子ビームよりも低強度の電子ビーム、より望ましくは、黒レベルの発光輝度を画素に生じさせる強度よりも低強度の電子ビームである。
また、低強度の電子ビームを放出する電子放出部は、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部から所定範囲内としてもよいものである。
この所定範囲は、画素ピッチをPe、電子放出部と蛍光体層との電子走行距離をGp、定数αを6〜8の範囲として、
所定範囲=Gp/Pe×α
とするものであってもよいものである。ここで所定範囲は所定範囲に含まれる行数、または列数を表すものとなる。すなわち、所定範囲内に含まれる画素の行数または画素の列数を整数Nとすれば、所定範囲内から発生する低強度の電子ビームの総量と、全画面範囲から発生する低強度の電子ビームの総量との比とは、整数Nと走査線の数(行または列の数)との比となる。そのために全画面範囲から低強度の電子ビームを放出する場合と比べて、整数Nが少なくなるにつれて黒浮きの発生が抑えられる。
また、整数Nの数が少ない場合には、低強度の電子ビームのレベルを増加させて、例えば、黒レベル以上として焼きつきをより確かに防止しつつ、黒浮きも実害の生じない範囲とすることが可能となる。
また、映像信号に応じた強度の電子ビームが、列若しくは行から一度に放出される線順次駆動をおこなう場合に、隣接する電子放出部の列方向離間距離がPe1、行方向離間距離がPe2、電子放出部と蛍光体層との電子走行距離がGp、定数αが6〜8の範囲とすると、列方向の所定範囲をGp/Pe1×α、行方向の所定範囲をGp/Pe2×αとすることができる。このように所定範囲を限ることによって焼きつきを有効に防止でき、さらに、黒浮きの原因となる電子放出が抑えられるので、黒浮きも防止できる。
なお、焼きつきとは、画面全体または一部に発光輝度の差を有する静止画または時間的な変化の少ない静止画像に近い画像を長時間表示した後に、同じ領域に発光輝度差のない映像を表示した場合にその前に静止画または時間的な変化の少ない静止画像に近い画像が表示された境界部付近に発光輝度の差ができて線として見えてしまう現象である。また、黒浮きとは、映像の表示に寄与しない電子ビームによって画面の発光輝度が広範囲に渡り上昇し、いわゆる、黒レベルが維持できない現象である。
また、所定範囲内に電子放出部と蛍光体層との離間距離を保持する保持材を備える場合には、焼きつきは、この保持材よりも外側の領域には及ばない。その場合には、低強度の電子ビームを放出する所定範囲を、この保持材の配置される内側に限ったとしても焼きつき防止策としては十分な効果を生じる。そして、電子ビームの放出範囲をより狭くできるので、黒浮きを効果的に防止することができる。この場合には、映像表示機に設けられた後述する演算回路が、予め保持材の配置された位置を記憶しており、この記憶情報を基にこのような低強度電子ビームを放出する電子放出部の範囲を割りだして、低強度の電子ビームを放出する所定範囲をこの保持材の範囲内に限ることができる。
また、所定範囲を少なくとも2つの範囲に分けて、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部に近い範囲では、低強度の電子ビームを所定範囲内で放射し、所定範囲外では、この低強度よりもさらに強度の低い電子ビームを放出させる構成としてもよく、このような構成を採れば、焼きつきの影響が顕著に発生する領域では、低強度の電子ビームによって効果的に焼きつきを防止し、焼きつきの影響が少ない領域では、この低強度よりもさらに強度の低い電子ビームによって焼きつきの防止をすることに加え、発生する電子ビームの総量を抑え黒浮きの発生を効果的に防止することができる。上述の、所定範囲外における、低強度よりもさらに強度の低い電子ビームには電子ビームが放出されない強度も含むものである。
また、上述した低強度は、映像信号の大きさに応じたものとしてもよいものである。すなわち、映像信号が大きい場合には焼きつきの発生も顕著であるので、この低強度のレベルを大きくし、映像信号が小さい場合には焼きつきの発生も少ないので、この低強度を小さくし、電子ビームの強度を抑え黒浮きの発生を効果的に防止することができる。
また、電子放出部は、熱電子放出原理に基づく熱電子放出部であっても、冷陰極電子放出原理に基づく冷陰極電子放出部であってもよいものであるが、冷陰極電子放出部である場合には、電子放出部を半導体プロセス技術によって微細加工することができるので、電子放出部と蛍光体層との離間距離(電子走行距離)を小さくして映像パネルの薄型化が図れる。このように冷陰極電子放出部を用いる場合においては、反面、電子走行距離が小さいことを理由として、蛍光体層から発生する、後述するESDガスの影響を電子放出部は大きく受けるので、冷陰極電子放出部である場合に、焼きつき防止の対策は特に有効に作用するものとなる。
また、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外のすべての電子放出部から、低強度の電子ビームを放出するようにしても、一部の電子放出部から、低強度の電子ビームを放出するようにしてもよいものである。すべての電子放出部から電子ビームを放出する場合には、焼きつきの防止がより効果的になされる。一方、一部の電子放出部から、低強度の電子ビームを放出する場合には、映像パネルおよび駆動回路の簡略化が図れる。
また、別の実施形態に係る映像表示機は、複数個数の電子放出部の一部個数から映像信号に応じた強度の電子ビームを冷陰極電子放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像表示機において、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部は、行または列ごとに選択電圧を印加されて選択され、選択電圧が印加されていない行または列は少なくとも2以上の領域に分割され、この2以上の領域の各々に異なる電圧値の非選択電圧が印加されることを特徴とするものである。
選択電圧を行または列に印加することによって映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する行また列を選択するとともに、2以上の非選択電圧を印加することによって2つ以上の領域で異なる強度の低強度の電子ビームを放出することができる。
さらに、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部からより遠方にこの領域が位置する程、電子ビームの強度がより低強度となるように非選択電圧が印加されるようにしてもよいものである。このような構成を採用すれば、映像パネルおよび駆動回路の簡略化を図り、焼きつきと、黒浮きとの両方に有効なものとなる。
選択電圧とは、上述のように映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部を行または列毎に特定するために印加される電圧であり、また、非選択電圧とは、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外を行または列毎に特定するために印加される電圧である。また、電子ビームについて低強度とは、画像の表示に顕著な悪影響を与えない程度の強度を言い、望ましくは、映像信号に応じた強度の電子ビームよりも低強度の電子ビーム、より望ましくは、黒レベルの発光輝度を画素に生じさせる強度よりも低強度の電子ビームである。
ここで、非選択電圧をどのように選択するかについては、上述の低強度の電子ビームをどの程度の大きさにするかによって種々の態様があり、例えば、白レベルに対応する映像信号が、非選択行または非選択列と交差する列または行に印加された場合に、いかなる非選択行または非選択列からも画素が黒レベルとなる以上の電子ビームの放出をおこなわない電圧に選択してもよく、また、実際に印加される映像信号から最も白レベルに近い信号を検出して、この最も白レベルに近い信号が印加された場合においても、いかなる非選択行または非選択列からも画素が黒レベルとなる以上の電子ビームの放出をおこなわない電圧に選択してもよく、さらに、非選択電圧が印加される行または列の範囲を限って、画素が黒レベルとなる以上の電子ビームの放出をおこなうようにしてもよいものである。
また、別の実施形態に係る映像表示機は、複数個数の電子放出部とこの複数個数の電子放出部の各々にアクティブ素子を介して接続されたコンデンサとを備え、このコンデンサに蓄積される電荷量に応じた強度の電子ビームを冷陰極電子放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像表示機において、コンデンサのいずれにも電子ビームを放出させる大きさの電荷量を蓄えることを特徴とするものである。
コンデンサのいずれにも電子ビームを放出させる大きさの電荷が蓄えられているので、すべての電子放出部から電子ビームの放出がおこなわれ続け、焼きつきが生じることがない。
実施形態に係る映像パネルの駆動回路は、複数個数の電子放出部の一部個数から映像信号に応じた強度の電子ビームを放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像パネルの駆動回路において、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外の電子放出部からは、この強度とは異なる低強度の電子ビームを放出させる駆動信号を生成する演算回路を備えたものである。
すなわち、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する映像駆動信号を印加するとともに、映像駆動信号が印加されない電子放出部には低強度の電子ビームを放出する駆動信号を付与するので、焼きつきを防止することができる。ここで、低強度とは、画像の表示に顕著な悪影響を与えない程度の強度を言い、望ましくは、映像信号に応じた強度の電子ビームよりも低強度の電子ビーム、より望ましくは、黒レベルの発光輝度を画素に生じさせる強度よりも低強度の電子ビームである。
また、駆動回路は、映像駆動信号に基づき映像駆動信号が印加されない電子放出部に印加する電圧を演算する演算回路を備えることもでき、この演算回路の作用によって焼きつきを防止するための過剰な強度の電子ビームの発生を抑制することができる。なお、演算回路はDSP、オペアンプ等の如何なる演算回路をも用いることができる。
また、駆動回路は、低強度の電子ビームを放出する駆動信号が供給される電子放出部を特定する演算回路を備えるものであってもよく、このように演算回路によって低強度の電子ビームの供給を制限することによって黒浮きも防止することができる。
またさらに、映像パネルは、電子放出部から低強度の電子ビームを生じさせるとともに、電子ビームの強度を調整するアクティブ素子を備えるようにしてもよく、例えば、低強度の電子ビームを生じさせる所定電流をこの電子放出部の各々に対して設定する電流値設定素子(例えば抵抗素子)とを有するようにしてもよいものであり、アクティブ素子としてMOSFETを用い、また、演算回路は、アクティブ素子を制御することを特徴とするものでれば、DSPやオペアンプ等を用いたものであってもよい。
このようなアクティブ素子を用いれば、複数個数の電子放出部の各々から引き出し線を引き出すことなく電子放出部から放出させる電子ビームの強度を行と列方向からマトリックス方式で駆動して個別に設定できるので、映像パネルと駆動回路との接続が簡便となることに加えて駆動回路を簡略化できる。
実施形態の映像表示機の制御方法は、複数個数の電子放出部の一部個数から映像信号に応じた強度の電子ビームを放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像表示機の制御方法において、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部以外の電子放出部からは、この強度とは異なる低強度の電子ビームを放出するものである。ここで、低強度とは、画像の表示に顕著な悪影響を与えない程度の強度を言い、望ましくは、映像信号に応じた強度の電子ビームよりも低強度の電子ビーム、より望ましくは、黒レベルの発光輝度を画素に生じさせる強度よりも低強度の電子ビームである。
すなわち、このような制御方法を採用すれば、低強度の電子ビームを放出することによって焼きつきを防止することができる。
また、別の実施形態の映像表示機の制御方法は、複数個数の電子放出部の一部個数から映像信号に応じた強度の電子ビームを放出し、この電子ビームを蛍光体層に照射して映像を表示する映像表示機の制御方法において、第1所定時間、電子放出がされない電子放出部からは第2所定時間、電子ビームを放出するものである。
すなわち、このような制御方法を採用すれば、焼きつきの発生が顕著となるおそれが発生した場合にのみ低強度の電子ビームを放出することによって焼きつきを防止するとともに、黒浮きも防止することができる。
以下、実施の形態を図面に沿ってさらに具体的に説明する。
[第1実施形態]
(映像パネルおよび駆動回路の構成)
図1に映像パネル10および回路部84からなる映像表示機の概念図を示す。図1(A)は映像パネル10の断面方向から見た概念図であり、図1(B)は映像パネル10の平面方向から見た透視概念図である。
(映像パネルの構成)
図1(A)に沿ってまず、映像パネル10の説明をする。映像パネル10は、直線の帯状に形成された複数本のカソード電極12と、このカソード電極12と絶縁層13の厚みの距離を有して交差して直線の帯状に形成された複数本のゲート電極14と、カソード電極12およびゲート電極14を支持する絶縁材料で形成された平面に広がる第1支持体11と、この第1支持体11と平行して平面に広がる光透過性材料で形成された第2支持体21と、この第2支持体21の裏面(ゲート電極14に相対する面)に設けられる蛍光体層22と、この蛍光体層22の表面に形成されたアノード電極24と、第1支持体11と第2支持体21との間隔を所定の距離に保持する保持材80と、保持材保持部材81と、さらに、ブラックストライプ23と、隔壁82と備えている。
各々のカソード電極12は、絶縁材料で形成された平面に広がる第1支持体11によって保持されるとともに相互に他のカソード電極12から絶縁されて複数の他のカソード電極12と平行に配されている。そして、各々のカソード電極12には複数の電子放出部16が形成されている。電子放出部16は、略円錐体に形成されたモリブデンよりなり、カソード電極12とは電気的な導通を保つようになされている。
電子放出部16の先端部は、ゲート電極14に形成されている開口部15の略中心に位置し、この先端部とゲート電極14とは略等しい高さに配置されている。
ゲート電極14は、相互に他のゲート電極14から絶縁層13によって電気的に絶縁分離されて複数のゲート電極14が平行に配されている。
図2にゲート電極14とカソード電極12との関係を透視図によって拡大して示す。図2に示す映像パネル10の拡大された透視図においては、列画素ピッチPe1と行画素ピッチPe2との矩形で囲まれる1画素に相対して、9個の電子放出部16(図2に符号16は図示せず)およびゲート電極14に設けられた9個の開口部15(図2に符号15は図示せず)が設けられている。カソード駆動回路25はカソード電極12を駆動するための回路部であり、カソード電極12は、直接には、カソード電極駆動回路28と接続されており、ゲート駆動回路26はゲート電極12を駆動するための回路部であり、直接には、ゲート電極駆動回路29と接続されている。また、演算回路として、DSP(Digital Signal Processor)27が設けられている。
なお、各々の画素は発光することのないブラックストライプ23を介在して順に、1画素ごとに、R(赤)、G(緑)、B(青)の順番で繰り返して配列されている。なお、第1実施形態の映像パネル10には、1画素に対して9個の電子放出部16および開口部15が設けられているが、電子放出部16および開口部15の数は9個に限られず、1以上の他の個数を選択しても本実施形態と略同様の作用効果を生じるものである。
図1(A)に示すように電子放出部16に相対する蛍光体層22の表面と電子放出部16の先端部とは電子走行距離Gpだけ離間するように第1支持体11と第2支持体21との距離が保持されており、映像パネル10においては、電子走行距離Gpの値は1000〜5000μm(マイクロ・メータ)である。また、図2に示すように列画素ピッチPe1ごとにゲート電極14が離間して配列されており、列画素ピッチPe1の値は200〜800μm(マイクロ・メータ)である。さらに、行画素ピッチPe2ごとにカソード電極12が離間して配列されており、行画素ピッチPe2の値は200〜800μm(マイクロ・メータ)ある。なお、アノード電極24の厚みは例えば、500nm(ナノ・メータ)であって、電子ビームが透過して蛍光体層22に到達可能となされている。
なお、第2支持体21として、ガラスに替えて、またはガラスとともに透明電極(例えばインジウムティンオキサイド:ITO)を用い、このITO(図示せず)を電子放出部16に対して正電位として、アノード電極24を用いないで、電圧をITOに印加して電子の加速を可能とする構成としてもよい。
(映像パネルの駆動回路の構成)
図1(A)に示すように、カソード電極駆動回路28、ゲート電極駆動回路29、アノード電極駆動回路83およびDSP27を含む回路部84によって映像パネル10は駆動される。図2に示す拡大図においては、カソード電極駆動回路28はDSP27とともにカソード駆動回路25に含まれ、ゲート駆動回路26には、ゲート電極駆動回路29とその他の回路(図示せず)が含まれるとしたが、回路部の構成はこれに限られるものではない。各々のカソード電極12は、カソード電極駆動回路28と接続され駆動電力が各々のカソード電極12に印加されるようになされ、各々のゲート電極14は、ゲート電極駆動回路29と接続されており、駆動電力が各々のゲート電極14に印加されるようになされている。また、アノード電極24には、電子放出部16に対して正電位となるようにアノード電極駆動回路83からの電圧が印加されている。
また、映像信号入力端子30に入力される映像信号をDSP27において演算処理をして、カソード電極駆動回路28とゲート電極駆動回路29に演算結果が出力されるようになされている。
このようにカソード駆動回路25(直接には、カソード電極駆動回路28)、ゲート駆動回路26(直接には、ゲート電極駆動回路29)およびアノード電極駆動回路83が接続された映像パネル10おいて、発明者は駆動条件を種々に変化させて映像パネル10における映像の表示がどのように変化するかを調べ以下の知見を得た。
(1行の画素を発光させる場合の動作)
映像パネル10とカソード駆動回路25とゲート駆動回路26との組み合わせにおいて、カソード駆動回路25が発生する電圧Vrnのみを可変として、その他のカソード電極12およびゲート電極14に印加される電圧を0Vとして、そのときの発光輝度の値を測定する。
図3(A)は、枡外の縦方向に各々のカソード電極12に印加される電圧を表示し、枡外の横方向に各々のゲート電極14に印加される電圧を表示し、枡目で表す1画素に対応する9個の電子放出部16と9個の開口部15との間に印加される電圧差を枡目の中に表示したものである。なお、カソード電極12の電圧を表す枡外の値は負値であるが、−の符号は省略されている。
図3(A)に示すように、1のカソード電極12にのみ電圧Vrnを印加し、すべてのゲート電極14に電圧0Vを印加すると、電圧Vrnが印加された1行分の画素の枡目に
対応するすべての電子放出部16とすべての開口部15との間の電圧、すなわち、カソード・ゲート間電圧Vtgの値は電圧Vrnとなり、その他の画素の枡目に対応するすべての電子放出部16とすべての開口部15との間のカソード・ゲート間電圧Vtgの値は0Vとなる。ここで、カソード電極12はゲート電極14より負電圧となる場合にカソード電極12から電子が放出される。
図3(B)は、電圧Vrn、すなわちカソード・ゲート間電圧Vtgを横軸にして、対応する1画素のエミッション電流(電子放出を原因として流れる電流)Idを縦軸にしたときの実測結果を示すグラフである。カソード・ゲート間電圧Vtgとエミッション電流Idとの関係は単調増加関係となっている。
ここで、エミッション電流Ibの値は、ある電子放出部16からこのエミッション電流Ibを流した場合に、その電子放出部16に対応する画素が発光していることが視認できる限界の明るさにとなるエミッション電流Idの値であって、これ以下のエミッション電流Idの値では、画素が発光していないと認識される限界の値である。以下、このときの画素の輝度を黒レベルと称する。また、エミッション電流Iwの値は、ある電子放出部16からこのエミッション電流Iwを流した場合に、対応する画素が明るく発光し、これ以上の輝度で発光することがないように回路的に電流制限がなされるエミッション電流Idの値である。このエミッション電流Iwの値に対応する画素の輝度を以下、白レベルと称する。
なお、電圧Vthは、冷陰極電子放射を開始する、すなわち、エミッション電流Idの値が零ではなくなる、カソード・ゲート間電圧Vtgの値であり、電圧Vtgbは、エミッション電流Ibを流すのに必要なカソード・ゲート間電圧Vtgの値であり、電圧Vtgwは、エミッション電流Iwを流すのに必要なカソード・ゲート間電圧Vtgの値であ
る。本実施の形態の例では、電圧Vthは、11Vであり、電圧Vtgbは、20Vであり、電圧Vtgwは、35Vであった。このカソード・ゲート間電圧Vtgとエミッション
電流Idとの関係を以下、エミッション特性と称し、エミッション特性が良好(活性化)とは、小さいカソード・ゲート間電圧Vtgに対して大きなエミッション電流Idが流れることを言い、エミッション特性が悪い(または劣化)とは、大きなカソード・ゲート間電圧Vtgに対して小さなエミッション電流Idしか流れないことを言う。
また、駆動回路は、カソード・ゲート間電圧Vtgを変化させる電圧駆動と、エミッション電流Idの値を変化させる電流駆動の両方の駆動方式が考えられるが、そのいずれであっても、同様の作用を奏するものである。実施形態の具体的な説明は、電圧駆動についておこなうものとするが、電流駆動については図3(B)に示す関係からカソード・ゲート間電圧Vtgをエミッション電流Idに変換して同様に説明をおこなうことができる。
なお、1行分の画像の表示に替えて1列分の画像の表示をおこなう線順次駆動、すなわち、1列分の画像を表示する画素に対応した同一のゲート電極14に設けられたすべての開口部15とその開口部15によって囲まれるすべての電子放出部16との間にのみカソード・ゲート間電圧Vtgを印加し、他の電子放出部16とそれらを囲む開口部15との間にはカソード・ゲート間電圧Vtgとして0Vを印加する場合においても、図3(B)
のグラフに示すものと略同様な結果が得られる。
(背景技術に示す線順次駆動によって画像を表示する場合の動作)
背景技術に示す線順次駆動をおこなう場合に画像の発光輝度がどのようになるかを説明する。
ここで、映像パネル10における線順次駆動は、1行分の画像を表示する画素に対応した同一のカソード電極12の上に配列されるすべての電子放出部16とそれらを囲む開口部15のみの間にカソード・ゲート間電圧Vtgとして電圧Vtgbないし電圧Vtgwの範囲の電圧を印加し、他の電子放出部16とそれらを囲む開口部15との間にはカソード・ゲート間電圧Vtgとして電子を放出しない電圧を印加し、1行の画素ごとに、映像パネル10の全面に渡って走査して画像の表示をするものである。
エミッション電流Ibからエミッション電流Iwの間の任意のエミッション電流Idとなるように電子の放出をするためには、カソード・ゲート間電圧Vtgの値を変化させればよい。すなわち、図3(B)に示す関係に基づいて、常にカソード・ゲート間電圧Vt
gの値に応じたエミッション電流Idが流れ、これに対応した発光輝度で蛍光体層22は発光する筈である。
しかしながら、発明者が実験をおこなうにつれて、映像パネル10の全面に渡って1行の画素ごとに走査して画像の表示をする線順次駆動をおこなう場合に、それ以前に表示された画像がいかなるものであったかによって現在表示される画像が影響を受けることが分った。
具体例な例として、図4(A)に示すように、6行のカソード電極にのみ−35Vを印加して、6行の画面のみを白レベルの発光輝度で発光させ、対応する電子放出部16から電子を放射しないようにして残りの画面を発光させない状態とする。そして、その後、画面全体が一定の輝度で発光するようにすべての画素に対応する電子放出部16の各々からエミッション電流Ibからエミッション電流Iwの間の電流値となるようなある値のカソード・ゲート間電圧Vtg(この電圧の値をVtggと、以下称する)、例えば25Vを与えると、それ以前の白レベルで発光した部分と発光しなかった部分との境界付近に発光輝度の差ができて、この発光輝度の差が線として見えてしまう焼きつき現象が確認された。
すなわち、このような場合に生じる焼きつき現象においては、発光輝度は行方向に変化する。このときの行方向の距離に応じて変化するエミッション電流Idの値をエミッション電流Ig2とし、また、エミッション電流Ig1は、焼きつき現象が発生する前にカソード・ゲート間電圧Vtgとして25Vを与えた場合のエミッション電流Idの値とすると、図4(B)に示す図を得ることができる。図4(B)では、エミッション電流Ig1、エミッション電流Ig2の大きさを縦軸とし、行方向の距離を横軸としたものである。ここで太い実線はエミッション電流Ig2を示し、細い破線はエミッション電流Ig1を示す。
なお、エミッション電流Ibからエミッション電流Iwの間ではエミッション電流Idの値と発光輝度とは略比例関係となる。
発明者は、実験を重ねた結果、焼きつきの影響の大きさは映像パネル10の駆動条件、すなわち、カソード・ゲート間電圧Vtgをカソード駆動回路25およびゲート駆動回路26によってどのように設定するかにより大きく異なることを発見し、さらに、焼きつきを防止するために有効な駆動条件も見出すことができた。
焼きつきを防止するための有効な駆動条件を説明する前に、発明者が認識する焼きつき現象発生のメカニズムを以下に説明する。
(焼きつき現象の発生過程に対する発明者の推論)
発明者は、種々の駆動条件下における画像表示の再現実験をおこなう中において、冷陰極電子放射をおこなう電子放出部16の周辺部における雰囲気ガスによって、電子放出部16からの電子の放出量が影響を受けて、焼きつきで代表される画像の表示特性が経時変化する現象が発生するのではないかとの確信を持つに至った。
ここで、電子放出部16の周辺部に発生する雰囲気ガスを大別すると、次の2種類があると考えられる。1つは、電子放出部16から放出された電子が蛍光体層22に衝突することにより蛍光体層22からたたき出されたガス(以下、ESDガスと称する)であり、
他の1つはゲッターに吸着されずパネル内に残留したガスである。
残留ガスは映像パネル10内に一様に分布しており、その量も微量であると考えられる。一方、ESDガスは、電子が衝突することにより蛍光体層22からコサイン則に従い射出される。
ESDガスの発生量は電子放出部16から放出され蛍光体層22に衝突する電子の量に依存しており、そして、ESDガスの発生量も残留ガスに比べて多いことから、発明者はESDガスが焼きつきの主原因ではないかと考えるに至った。なお、ESDガスのガス種は主にH2、CH4、CO、CO2であり電荷的には中性である。
このESDガスが電子放出部16に作用する過程2通りあると発明者は考えている。1つは、ESDガスが中性のまま作用する場合である。この中性のESDガス(以下、中性ガスと称する)が、電子放出部16に付着する場合には電子放出部16からの電子放出の特性(エミッション特性)を活性化して放出される電子ビームの強度は増加する。つまり、ESDガスが発生しない場合におけると同一のカソード・ゲート間電圧Vtgを与えた場合において、エミッション電流Idの値はESDガスが発生しない場合よりも増加をする。そして、画素における発光輝度もより明るくなる。
他の1つは電子放出部16からの放出される電子によってESDガスがイオン化されて発生するイオン性のESDガス(以下、イオン性ガスと称する)が作用する過程である。このイオン性ガスが、電子放出部16に付着する場合にはエミッション特性を劣化させ電子放出部16から放出される電子ビームの強度は低下する。つまり、ESDガスが発生しない場合におけると同一のカソード・ゲート間電圧Vtgを与えた場合において、エミッション電流Idの値はESDガスが発生しない場合よりも減少をする。そして、画素における発光輝度もより暗くなる。
図5に模式図を示し、中性ガスおよびイオン性ガスが電子放出にどのように作用するかを示す。点順次駆動、行および列の線順次駆動いずれの場合についても同様に説明できるが、以下、行ごとの線順次駆動の場合について説明をする。
図5においては、説明の簡単のために、映像パネル10における9個の電子放出部16を1個の電子放出部16で代表し、9個の開口部15を1個の開口部15で代表して表し、アノード電極24を省略している。
あるn番目の行に注目し、n番目の行の電子放出部16にESDガスがどのように飛来するかを説明する。
a)(n−1)番目の行から電子放出が行われているときについて説明する。このときは、図5(A)の模式図に示すように、n番目の行の電子放出部16には(n−1)番目の行からの中性ガスのみが降り注いでいる。
b)次に、n番目の行が選択されているときについて説明する。このときは、図5(B
)の模式図に示すように、直上の蛍光体層22から飛んできた中性ガスと自身の電子線でイオン化されたイオン性ガスの両方がn番目の行の電子放出部16に降り注いでいる。
c)次に、(n+1)番目の行から電子放出が行われているときについて説明する。このときは、図5(C)の模式図に示すように、n番目の行の電子放出部16には(n+1)
番目の行からの中性ガスのみが降り注いでいる。
(n−2)番目の行、(n−3)番目の行、(n+2)番目の行、(n+3)番目の行、さらに、それ以上離れた行からの影響もあり、それらの行からn番目の行へは中性ガスのみが降り注ぐが、(n−1)番目および(n+1)番目の行からの影響に比べると相対的
に小さい。
最終的にn番目の行のカソードにある電子放出部16の特性の経時変化は、おおまかには、上述のa)、b)、c)に示す過程で説明される中性ガスおよびイオン化ガスの作用が総合されたものとなる。a)の過程およびc)の過程における中性ガスの発生はエミッション特性を活性化する方向に作用し、b)の過程における中性ガスの発生はエミッション特性を活性化させ、イオン性ガスの発生はエミッション特性を劣化させるように作用する。
上述したa)、b)、c)の過程における中性ガスおよびイオン性ガスの和が、映像パネル10におけるすべての電子放出部16の近傍で一様であれば、焼きつき等の経時変化は生じることは無い。すなわち、映像パネル10の全面で均一な分布の中性ガスおよびイオン性ガスが発生した場合には、中性ガスおよびイオン性ガスが発生していない場合に比べて、画面全体が明るくなるか暗くなるかである。
しかしながら、発明者の推測によれば、図4(A)に示すような駆動条件で、白レベルと発光しないレベル(電子放出が行われなかった電子放出部16に対応した画素の発光輝度の大きさを以下、発光しないレベルと称する)とを長時間固定的に表示した後には、図6(A)の模式図で示すように、中性ガスおよびイオン性ガスの発生が行方向に不均一となる現象が発生する。
つまり、図6(A)で示すように、白レベル部と発光しないレベル部との境界の発光しないレベル側では、白レベル部から中性ガスは飛んでくるが、自分の行は電子放出しないのでイオン性ガスは発生せず、中性ガスの密度が高いと推測される。
一方、発光しないレベル部と白レベル部との境界の白レベル側では、発光しないレベル部から中性ガスは飛んで来ないが、自分の行は電子放出するのでイオン性ガスが発生して、イオン性ガスの密度が高いと推測される。
したがって、中性ガスおよびイオン性ガスが発生する前のエミッション特性は、行方向への変化がなく平坦であったものが、中性ガスおよびイオン性ガスが発生した後のエミッション特性は、白レベル部と発光しないレベル部の境界付近で大きく変化する図6(B)の模式図で示すようなものとなると推察される。
エミッション特性の不均一は、上述したように固定の画像パターンを長時間表示すると発光しないレベル部と白レベル部との境界部分において発生する。しかしながら、第1支持体11と第2支持体21との間に大気の圧力から映像パネル10における電子放出部16と蛍光体層22との離間距離を一定の範囲に保持する保持材80(図1(A)、図5(D)を参照)を設けた場合においては焼きつきの発生は保持材を越えて発生しない。ここで、保持材80は板状の形状をしており、例えば、カソード電極12またはゲート電極14と平行して配置されている。
すなわち、その保持材80は、隣接する蛍光体層22から発生するESDガスはこの保持材80により拡散が妨げられるので、この保持材80の外側では、ESDガスの発生を原因として、焼きつきが発生することはない。すなわち、ESDガスが保持材80を境として拡散することを防止でき、保持材80には焼きつきを防止する効果があると発明者は推測している。なお、保持材80に限らずESDガスの飛来を妨げる障害物が存在すれば、同様な効果を奏するものである。
(焼きつきを軽減する実験)
焼きつきの発生過程に対する上述の推論を基に、発明者は、さらに以下の実験を重ねて電子放出部16からわずかに電子ビーム放出することにより電子放出部16の先端部に中性ガスの付着することを抑制し、若しくは中性ガスの脱離促進をして先端部の汚染を自浄する効果があることに気がついた。
図7(B)で示す実験データは、図7(A)に示すように、6行のみに白レベルの発光輝度となるようにエミッション電流Iwを発生させるカソード・ゲート間電圧Vtgである電圧Vtgw、すなわち35Vを印加して、その他のすべての行のカソード・ゲート間に所定電圧値(以下、電圧Voffと称する)を印加した場合の焼きつきの程度を示すものである。
図7(B)で縦軸に採った焼きつきの程度は、この値が0に近い程、焼きつきが少なくなることを表すものである。焼きつきの程度は以下のようにして求められる。
1)映像パネル10の全面を所定の灰レベルの発光輝度となるようなカソード・ゲート間電圧Vtgである電圧Vtgg、例えば25Vを印加する。このときに映像パネル10の全面が均一の発光輝度で発光することを確認しておき、このときのエミッション電流Idの値を記録して、この値をエミッション電流Ig1とする。
2)次に、カソード・ゲート間電圧Vtgとして35Vを選択行に印加し、6行の画面のみを白レベルの発光輝度で発光させ、他の行については、カソード・ゲート間電圧Vt
gである電圧Voffを0Vとする。
3)次に、その直後に、再び、カソード・ゲート間電圧Vtgの値を電圧Vtgg、すなわち25Vとして映像パネル10の全面を灰レベルで発光させる。このとき、エミッション電流Ig2の値は行方向に変化する。
4)そして、焼きつき程度を求める。焼きつき程度は、[数1]で示す式で求められる。[数1]において、エミッション電流Ig2(B)は、白レベルであった点に接する黒レベルであった行におけるエミッション電流Ig2の値である。
5)電圧Voffの値を0Vから順次増加させて、上述の1)ないし4)までを繰り返し行う。
この実験結果から、焼きつき程度の値と電圧Voffの関係を表す図7(B)に示すグラフを得た。焼きつき程度の値が0に近づくにつれて焼きつきの大きさは小さくなり、電圧Voffが約10Vで焼きつきがなくなることが分かった。なお、上述の実験結果は行
方向への線順次駆動について得られたものであるが、列方向への線順次駆動、点順次駆動についても同様な結果が得られる。
(第1実施形態の駆動回路および駆動方法)
以上の知見に基づき、焼きつき等の画像の経時変化を防止する第1実施形態の映像表示機における駆動回路および駆動方法を説明する。
第1実施形態の映像表示機は、上述のように、図1(A)、図1(B)に示す映像パネル10を図2に示すようなカソード駆動回路25およびゲート駆動回路26を具備する駆動回路によって線順次駆動をおこなうものである。
図2では行方向にカソード電極12を配置し、列方向にゲート電極14を配置しているが、一般的に言うと、単純マトリックスによる線順次駆動は、行方向にカソード電極12を配置(すなわち、列方向にゲート電極14を配置)するものであるか、列方向にカソード電極12を配置(すなわち、行方向にゲート電極14を配置)するものであるかにより2種類に分類され、さらに、選択電圧を行方向に印加(すなわち、映像信号を列方向に印加)するものであるか、選択電圧を列方向に印加(すなわち、映像信号を行向に印加)するものであるかにより2種類に分類される。
そのために、駆動の方式としては、上述のすべての組み合わせである4種類の組み合わせが可能となる。しかしながら、カソード電極12に接続される電子放出部16から電子を放出させるためには、いずれの組み合わせにおいても、ゲート電極14に設けられた開口部15の電圧が、その開口部15の中に配置される電子放出部16に対して正の電圧が印加されるようになされなければならない。
すなわち、行方向の線順次駆動において、原理的な基本式は以下に示すものである。なお、線順次駆動と点順次駆動とは列方向の電圧がどのようものであるかによって区別されるに過ぎないので、基本式は点順次駆動においても適用されるものであるが、以下、選択行(または、選択列、以下の説明は選択行で代表するものとする)には選択電圧が印加され、非選択行(または、非選択列、以下の説明は選択行で代表するものとする)には非選択電圧が印加される行方向の線順次駆動の場合を主として説明する。
まず、電子放出部16と開口部15との関係で定まる映像パネルの電子放出の条件について[数2]および[数3]を用いて説明する。
すべての非選択行から、黒レベル以下の強度で電子を放出する条件は、列方向に印加される映像信号が、黒レベルから白レベルまでの振幅の範囲の信号である場合には、[数2]で示す式が成立する必要があることを発明者は見出した。
ここで、背景技術に示すように、ゲート電極14をカソード電極12よりも正に保ちつつ、すべての非選択行から電子を放出させない条件は、さらに[数3]で示す条件も必要となることも発明者は見出した。
なお、ゲート電極14をカソード電極12より負にすることを許す場合には、[数3]の制約は無くなる。この場合に、完全に電子放出を防止するため、ゲート電極14からカソード電極12に対して電子が放出する程の電圧を印加して、さらに、ゲート電極14にダイオードを備えてゲート電極14からカソード電極12に対して電流が流れることを防止する構成とすることもできる。
上述の電子放出素子に対する発明者の知見を前提として、以下に述べる駆動条件の下に駆動すれば、焼きつきの防止を図ることができる。ここで、選択電圧を電圧Vonと表し、非選択電圧をVoffと表す。
[数4a]、[数4b]は、非選択行から黒レベル以上の発光輝度に該当する強度の電子ビームの放出が生じない条件式である。[数4a]はカソード電極12を選択行に選択した場合の式であり、[数4b]はゲート電極14を選択行に選択した場合の式である。以下、[数5a]、[数5b]のように同様に数式番号を用いて、カソード電極12を選択行に選択した場合の式とゲート電極14を選択行に選択した場合の式とを区別する。なお、電圧Von、電圧Voffのいずれも正、負いずれの値も採りうるものである。
すなわち、[数4a]および[数4b]は、白レベルの発光輝度に対応する映像信号が、非選択電圧を印加された行においては、黒レベル以下の発光輝度となるようにするための条件である。
また、非選択行からの電子放出が停止しないための条件は、[数5a]、[数5b]を満たす必要がある。
すなわち、[数5a]および[数5b]は、非選択行において、黒レベルの映像信号がなお電子放出を生じさせるようにする条件である。
発明者は、非選択行から常に電子放出が行われる非選択行においては、[数4a]または[数4b]が成立しながら、[数5a]または[数5b]が同時に成立する範囲、すなわち、[数6a]または[数6b]の範囲に電圧Voffを設定すれば、常に電子放出が行われ、しかも黒レベル以下の強度に対応した電子放出が行われるので、焼きつき防止の観点から、最も望ましい条件であることを見出した。
ここで、[数6a]、[数6b]の関係式が成立するためには、選択電圧Vonの値、非選択電圧Voffの値をどのように選択しようとも、上述の[数2]が成立しなければならないことは明らかである。
[数6a]、[数6b]の式を満たすように駆動条件を設定すれば最も望ましいが、[数2]で表される映像パネルの電子放出条件が成立することを前提としているために、単純マトリックス構造において常に[数6a]、[数6b]の式を満たすような駆動条件を実現できるという訳ではない。
次に[数2]を満たさない場合の望ましい駆動条件について次に説明する。
[数2]を満たさない場合には、[数4a]または[数4b]に示す関係、すなわち、電圧Voffについては、[数4a]または[数4b]を変形して、[数7a]または[数7b]が成立する駆動条件が、焼きつき防止の観点からは望ましいものである。
すなわち、[数7a]または[数7b]が示す駆動条件によれば、白レベルの映像信号が入力されると黒レベルの発光輝度を生じる電子放出が生じ、黒レベルに近い映像信号が入力されると電子放出が停止するように動作をしている。しかしながら、選択行の中でも、映像信号が白レベルに近い列に対応する蛍光体層22からESDガスが多量に発生して焼きつきが生じ易くなっているのに対して、その列の付近の隣接する行からは、黒レベル以下の発光輝度に対応する電子放出が行われるので、焼きつきを防止することができるものである。一方、映像信号が黒レベルに近い列に対応する蛍光体層22からESDガスの発生は少量であるので、その列の付近の行からの電子放出がなくても焼きつきの発生の可能性は少ないものとなる。
以下、第1実施形態について、具体的に実施例を挙げて説明をする。なお、各々の実施例においては、数式はカソード電極12を選択行に選んだ場合の例を挙げたが、ゲート電極14を選択行に選んだ場合にも同様に[数6b]等の関係式で表すことができ、同様な作用と効果を奏するものである。
「第1実施例」
選択された行方向の電極(例えば、特定の1のカソード電極12)に印加される電圧を選択電圧Vonとして、選択されなかった行方向の電極(例えば、特定の1のカソード電極12以外のカソード電極12)に印加される電圧を非選択電圧Voffとして、列方向の電極(例えばゲート電極14)には0Vを印加する。
このときに、映像を表示する画素に対応する電子放出部16と開口部15との間の電圧であるカソード・ゲート間電圧Vtgは、ゲート電極14の電圧からカソード電極12の電圧を引いた電圧値となる。ここで、列方向に与えられる映像信号は、0Vを白レベルに対応するものとすると、黒レベルは負電圧となり、カソード電極12には、負電圧の選択電圧Vonと負電圧の非選択電圧Voffが印加されることとなる。図8(A)の枡外の縦方向には、選択電圧Von、非選択電圧Voffを示し、枡外の横方向には映像信号に対応する電圧(ゲート電極14の電圧)として0Vを与えた場合における各々の画像の枡目に対応するカソード・ゲート間電圧Vtgの値を桝内に示す。なお、枡外の縦方向に示すカソード電極12の電圧は負値であるが−の符号は省略した。
第1の実施例に具体的な数値を代入して説明する。まず、[数2]の条件が成立する場合には、勿論、[数6a]にしたがって電圧Voffの値を定めることとなる。しかしながら、[数2]において、上述の値である、電圧Vthの値11V、電圧Vtgbの値20V、電圧Vtgwの値35Vを代入すると、9V≧15Vとなって、最も好ましい駆動方式を採用することは困難であることが分る。
この場合には、[数7a]にしたがって電圧Voffを定める。まず、電圧Vonを定めることとするが、列方向の白レベルの電圧を0Vとしたので、電圧Vonの値は−35Vとするのが適切である。このときには、電圧Voffの値は、[数7a]より−20V以上であることが望ましい。すなわち、電圧Voffとして−20V以上の電圧が印加される非選択行に接続される電子放出部16と開口部15との間の電圧であるカソード・ゲート間電圧Vtgは、映像信号が白レベル(0V)のときは、黒レベルに対応する電圧である20Vとなる。そして、映像信号が黒レベル(−15V)のときは、カソード・ゲート間電圧Vtgは、5Vとなり、非選択行からの電子ビームの放出は停止する。すなわち、映像信号が白レベル(0V)から−9Vとなる範囲でのみ電子ビームの放出が生じている。このように、選択電圧Vonと非選択電圧Voffとを選んだ場合には、選択行に隣接する行においては、映像信号が白レベルに近い列(電子ビームの強度が強い列)と同じ列の非選択行から電子ビームの放出が行われる。
このことは、映像信号に応じた電子ビームの放出が活発な電子放出部16の付近からは、低強度の電子ビームが放出されることを意味するので、効果的に焼きつきの防止を図ることができる。
「第2実施例」
上述した電圧Voffの与え方は、映像信号が必ず、白レベル(0V)を含むことを前提とするものであった。しかしながら、実際の映像信号においては、1行の中に必ずしも白レベルを含むとは限らない。このような場合にはその行における映像信号のうち、一番白レベルに近い信号の値を電圧Vtgwとして、[数2]に代入演算する。そして、[数2]の関係式が成立する場合には、[数6a]に基づいた演算をおこなうことができる。
たとえば、映像を表示する選択行のなかで、最も発行輝度が高い画素に対応する列の映像信号の値が、−6Vであったとする。この場合には、電圧Vtgwの値を35Vから29V(0V−6V)に置き換えて、[数2]が成立することとなる。
すなわち、この場合には電圧Voffの値を−26V(−20V−6V)に置き換えても非選択行からの黒レベル以上の電子ビームの放出はおこなわれない。そして、[数6a]に実施例の値を代入した[数8]が成り立ち、最も望ましい駆動方法とできる。この場合には、列方向に印加される映像信号の最大値である−6Vにおいて非選択行の電圧Vtgbの値が20Vとなって、黒レベルの上述の低強度の電子ビームが放出される。また、映像信号の黒レベルにおいて、非選択行の電圧Vtgbの値が11Vとなって、電子ビームが放出される限界の値となる。
線順次駆動においては、選択行に接続される電子放出部16と、非選択行(選択されない行)に接続される電子放出部16とが周期ごとに刻々と変化するので、前の行から次の行に選択行が移動する時間内に[数2]に示す演算をおこない、その結果によって、[数6a]または[数7a]の演算をおこない電圧Voffを求めることとなる。あるいは、前の行について選択電圧Vonと1の非選択電圧Voffを出力している時間内に、次の行についての他の非選択電圧Voffの値を計算してもよいものである。
このような演算は、例えば、DSP27を用いれば、短時間で与えられた電圧Vonから最も好ましい電圧Voffを簡単に求めることができる。具体的には、予め、電圧Von、電圧Vtgw、電圧Vtgb、電圧Vthの値をDSPのRAM領域に記憶し、その行の最も白レベルに近い信号をDSP27が演算によって検出するごとに、上述の[数2]、[数6a]または[数7a]に示す演算を行って、1行ごとに電圧Voffを求め、その値の電圧Voffを非選択行に印加することができる。
また、DSP27での演算に替えて、OPアンプを用いた加減算とピークホールド回路を用い、行ごとに最も白レベルに近い映像信号の値をホールドして、この値から電圧Vtgbの値である20Vを減ずれば、瞬時に、第2実施例に用いうるに適切な電圧Voffの値を簡単に求めることができ、このピークホールド値を当該行が選択された瞬間に更新すれば、次々に適切な非選択電圧Voffの値を求めて、非選択行に供給することができる。
「第3実施例」 第3実施例は、発明者が実験を重ね、ESDガスの影響が及ぶ範囲を求めた知見に基づくものである。発明者はESDガスの影響が及ぶ範囲が、[数9]で表されることを発見した。ここで、離間行数N2は選択行からの離間距離を示すもので単位はカソード電極12の数である。Gpは電子走行距離Gpの値、Pe2は行画素ピッチPe2の値であり、αは定数である。なお、αの値は6〜8の範囲である。
すなわち、離間行数Nの範囲においてESDガスの影響は顕著である。この結果を用いて、第4実施例は上述の第1実施例ないし第3実施例よりも効率的に焼きつきおよび黒浮きの発生を防止するものである。
第3実施例は、以下のように非選択行に電圧Voffを与えるものである。
1)電圧Vonが印加されている選択行からの離間行数N2の範囲にある非選択行には[数a10]で示す電圧Voff1を与える。なお、[数9]の値は整数であるので、右辺の数を四捨五入して離間行数N2として用いるものとする。
2)それ以外の非選択行には[数11]で示す電圧Voff2を与える。なお、[数11]の右辺は[数7a]と同じである。なお、1列の全部を駆動する線順次駆動においては、[数9]において、行画素ピッチPe2に替えて列画素ピッチPe1を代入して列方向の所定範囲N1を求めることができる。なお、[数10a]は[数5a]の左辺を移項したものであり、ゲート電極14を選択行(または選択列)とする場合には[数10b]を用いることとなる。
このような、電圧Voff1(実施例では−26V)および電圧Voff2(実施例では−20V)を印加すれば、焼きつきに対しても黒浮きに対しても有効に対処することが可能となる。すなわち、選択行の近傍の離間行数N2の範囲では焼きつきが発生しないように、すべての電子放出部16から電子ビームを放出するとともに、選択行から離間行数N2以上に配置された電子放出部16においては、黒浮きを防止する目的から黒レベルに対応する強度以下の電子ビームを放出するものである。図8(B)の枡外の縦方向には、選択電圧Von、非選択電圧Voff1および非選択電圧Voff2を示し、枡外の横方向には映像信号に対応する電圧(ゲート電極14の電圧)として0Vを与えた場合における各々の画像の枡目に対応するカソード・ゲート間電圧Vtgの値を桝内に示す。なお、枡外の縦方向に示すカソード電極12の電圧は負値であるが−の符号は省略した。
「第4実施例」
また、第3実施例における駆動回路において、離間行数Nの範囲を越える非選択行には[数11]で示す電圧Voff2よりも、さらに高い電圧(例えば−10V)を与えても、焼きつきと黒浮きとを両立させるという目的を十分に達することができる。さらに、離間行数Nの範囲内における非選択電圧を[数10a]で示す電圧Voff1の値よりもさらに高い値(例えば、−20V)に置き換え、離間行数Nの範囲外における非選択電圧を[数11]で示す電圧Voff2よりも、さらに高い電圧(例えば、−10V)に置き換えれば、さらに、黒浮きに対して有効なものとなる。
「第1実施形態に係るその他の実施例」
その他、例えば、離間行数Nの範囲に限ることなく、選択行の上側、下側の任意の範囲内において、低強度の電子放出がおこなわれる非選択電圧Voffを印加して、その他の非選択行には、その行に属する電子放出部16から電子放出がおこなわれることが無いような高い電圧(例えば、−10V)を印加してもよく、または、非選択電圧Voff1(1行離間した行の選択電圧)より非選択電圧Voff2(2行離間した行の選択電圧)を電圧が高く、非選択電圧Voff2(2行離間した行の選択電圧)より非選択電圧Voff3(3行離間した行の選択電圧)を電圧が高く、と順に、選択行から離れるにしたがって、1行ごと、または複数の行ごとに段階的に電圧の値を大きくしてもよく、または、選択行から離れるにしたがって、段々と非選択電圧Voffを段階的に大きくしながらも、所定の電圧に非選択電圧Voffが達した場合にその時点で電圧Voffの変化を停止するようにしてもよい。さらに、上述のすべての実施例のいずれか2つ以上を組み合わせたいかなる実施例としてもよいものである。
[第2実施形態]
第1実施形態においては、単純マトリックス構成における駆動が前提となっていたので、駆動回路は行の数と列の数の和の数の信号を発生させればよく、簡単なものであった。しかしながら、映像の表示に関係しない画素を黒レベル以下の発光輝度に維持しながら、かつ、すべての画素に対応する電子放出部16から低強度の電子ビームを放出させることは困難であった。第2実施形態では、すべての電子放出部16から電子を放出させることを可能とするものである。
(第2実施形態の映像パネルおよび駆動回路の構成)
図9(A)は第2実施形態に係る映像パネル71のゲート電極14側から見たカソード電極31とゲート電極32との関係を表す透視図である。カソード電極31は、1画素ごとに各々独立して形成されたカソード電極31(符号は図9では1のカソード電極にのみ付して他は省略している)とは絶縁されている。各々のカソード電極31はカソード電極駆動回路28に接続され、各々のカソード電極31に対して独立して任意の電圧を印加することが可能とされている。
ゲート電極32は、アース電位、すなわち、0Vの電位に保持されている。各々のカソード電極31は、この0Vのゲート電極32に対して負の電圧がカソード・ゲート間電圧Vtgとして印加されるようになされている。図9(A)の構成の映像パネル71においては、各々のカソード電極31からの引き出し線をカソード電極駆動回路28に接続するために第1支持体11の上にこれらの引き出し線がパターン化されている。
図9(B)は第2実施形態に係る他の映像パネル72の透視図である。図9(A)の実施形態においては、カソード電極31がアース電位に対して負方向に任意の値を採るので、アノード電極24(図1(A)を参照、図9(A)には図示せず)に対してカソード電極31の電圧が区々となるものである。しかし、図9(B)の実施形態では、カソード電極33の電位を一定として、ゲート電極34の電位が可変とされるためにアノード電極24に対してカソード電極31の電位は常に一定となるものである。
すなわち、映像パネル72では、カソード電極34は、アース電位、すなわち、0Vに保持されている。そして、ゲート電極駆動回路29を介して、各々のゲート電極33にはカソード電極34に対して正となる電圧がカソード・ゲート間電圧Vtgとして印加されるよ
うになされている。
(第2実施形態の駆動方法)
第1実施形態の駆動方法は、カソード電極12とゲート電極14とが交差してマトリックス状に配置されており、列の数と行の数の和の数の電圧を駆動回路は発生すればよかったので、駆動回路および駆動方法は簡略化できるものであった。
しかしながら、選択行に対応する画素(映像の表示に寄与する画素)の発光輝度を各々独立に制御するとともに非選択行に対応する画素(発光することを選択されなかった画素)の各々に対する電子放出部16と開口部15との間の電圧を1個ごとに所定の範囲に設定することは困難であった。第2実施形態はこのような問題を解決し、焼きつきと黒浮きとに対するさらに細かな制御を可能とするものである。
「第5実施例」
まず、線順次駆動について説明する。
映像パネル71または映像パネル72を用いる場合には、第1実施形態における第1実施例ないし第4実施例に示す駆動のアルゴリズムを画素ごと、すなわち、電子放出部16と開口部15の組み合わせの各々に適用することができる。この場合には、各々のカソード・ゲート間電圧Vtgの値は、画素ごとに最適値となる。図10に各々の枡目の中に、カソード・ゲート間電圧Vtgの値を示す。ここで、先頭の列をaとし、λ目の列の電圧VonをVonλ表すと、電圧Voffλは[数12]ないし[数15]のいずれかによって求められる。
ここで、λ=a,b,c,d,・・・、N2は離間行数、Nallは行方向の走査線総数である。
すなわち、線順次駆動の場合において、[数12]ないし[数15]は、映像を表示する各々の列λと同じ列の電圧Voffを電圧Voffλとして表記するものである。[数12]においては、電圧Voffλは、電圧Vth以上であって、電圧Vtgb以下である。そして、当該列の電圧Vonの値が電圧Vtgwである場合には、電圧Voffλの値は電圧Vtgbとなり、電圧Vonの値が電圧Vtgbである場合には電圧Voffλの値は電圧Vthに変換される。
[数12]に示す電圧Voffλを用いる場合には、映像を表示する同じ列の電圧Vonの大きさに応じた強度となる低強度の電子ビームの放出が、同じ列に属する電子放出部16からおこなわれるので、黒浮きを防止しつつ、焼きつきの防止も効果的におこなわれる。
[数13]に示す電圧Voffλを用いる場合には、同じ列の電圧Vonの大きさに応じた低強度の電子ビームの放出が、同じ列に属する電子放出部16からおこなわれる。しかも、電子放出は必ずおこなわれておりながら、映像を表示する行から離れるにつれて電子放出の強度が低くなる。このような駆動方法を採用すれば、さらに黒浮きを防止しつつ、焼きつきの防止も効果的におこなわれる。
[数14]に示す電圧Voffλを用いる場合には、同じ列の電圧Vonの大きさに応じた低強度の電子ビームの放出が、同じ列に属する電子放出部16からおこなわれるが、選択行から離れるにつれて放出される電子ビームの強度が低くなり、やがて電子放出も停止する。このような駆動方法を採用すれば、さらに黒浮きの対策として効果的である。
[数15]に示す電圧Voffλを用いる場合には、映像表示に関係しないすべての電子放出部16から、予め定めた所定の低強度の電子ビームの放出がおこなわれる。このような駆動方法は演算を簡単にして回路の簡略化に有効である。
また、[数13]、[数14]においては、離間行数に比例して電子放出される電子ビームの強度を低減したが、比例関係のみならず、2次関数、あるいはそれ以上の高次関数に基づいて電子ビームの強度が減衰するようにしてもよく、この場合には離間行数が小さい場合にはあまり電子ビームの強度の低下はないが、離間行数が大きくなると急激に電子ビームの強度が激減するものとなる。
「第6実施例」
点順次駆動においても、上述のすべての実施例を応用することも可能である。しかしながら、点順次駆動においては、1画素ごとに駆動をおこなうので、列方向にも焼きつきと黒浮き対策を採ると、さらに画質の向上が図れる。図11(A)、図11(B)に、点順次駆動における各々の画素の枡目に対応するカソード・ゲート間電圧Vtgの値を示す。この場合に列方向に関する離間列数N1は[数16]より求められる。
ここで、離間列数N1と離間行数N2とのオーバーラップ部分は、予め、電圧値の大きい方の値を採用するか、電圧値の小さい方の値を採用するか、あるいは平均値を採用するかを定めておきDSP27で演算することができる。図11に電圧値の小さい方の値を採用した場合を示す。
なお、平均値を採用する場合には、離間列数N1と離間行数N2とが異なる場合には電圧Voff1を印加する範囲は、現在点順次駆動を行っている画素を質量中心とする楕円形の内部となり、離間列数N1と離間行数N2とが等しい場合には電圧Voff1を印加する範囲は、現在点順次駆動を行っている画素を中心とする円形(半径は、離間列数N1と列画素ピッチPe1の積の平方根で与えられる)の内部となる。
「第2実施形態のその他の実施例」
上述した、第1実施形態の第1実施例ないし第4実施例および第2実施形態の第5実施例および第6実施例のいかなる組み合わせも可能である。例えば、領域を2以上に分けて異なる駆動方式を採用することが可能である。
[第3実施形態]
第2実施形態においては、各々の画素に対応した電子放出部16のすべてから引き出し線を引き出さなければならず、図9に示す映像パネル71および映像パネル72のいずれもその製造に困難が伴った。また、カソード駆動回路25またはゲート駆動回路26は、各々のカソード電極12またはゲート電極14を駆動する信号を供給しなければならず、信号処理も複雑となった。
第3実施形態は、上述した第2実施形態における問題点を解決するために、アクティブ素子を映像パネルの構成に含ませるアクティブ・マトリックス方式を採用するものである。
「第7実施例」
(第3実施形態の映像パネルおよび駆動回路の構成)
図12(A)は、第3の実施形態に係る薄型の映像パネルをX−X’面で切断した横方向断面図である。また、図12(B)は、映像パネルをY−Y’面で切断した縦方向断面図である。なお、紙面と映像パネルの画像表示面とは一致している。図12(A)、図12(B)のいずれの断面図においても電子放出部46の周辺を中心に描かれておりアノード電極の周辺部は省略されている。なお、アノード電極周辺部は第1実施形態に係るものと同様である。
また、図12(C)は、第3実施形態に係る映像パネルのゲート電極側から見た透視図である。
また、図12(D)は、第3実施形態に係るアクティブ・マトリックス駆動回路の概念図である。
図12(A)において、電子放出の機能に係る部分は、第1支持体41の上に配置され、接地電極42は、直線の帯状に形成され、複数本の接地電極42が相互に平行してX−X’方向に伸びている。接地電極42に接してP型半導体層48が設けられ、P型半導体層48の中にN型半導体により形成された電子放出部46およびソース部50が配されている。
電子放出部46は略円錐形に形成され、その先端部は電子放出を容易にするために尖っている。電子放出部46の底面部はP型半導体層48に接し、電子放出部46の一部から抵抗層49が接地電極42に伸びている。各々のソース部50は、ソース電極引出し部51(図12(C)を参照)に接続され、ソース電極引出し部51はソース電極47と接続され、ソース電極47は、接地電極42に平行して伸び、その端部は駆動回路60(図12(D)を参照)と接続可能とされている。
絶縁層45がP型半導体層48およびソース電極47を覆い、絶縁層45の上にN型半導体、またはアルミ材料で形成されたゲート電極52が設けられている。ゲート電極52の上には絶縁層43が配され、絶縁層43の上全面に、導体、例えば、アルミ材料で形成された加電界電極44が設けられている。加電界電極44には、電子放出部46を囲む開口部が設けられ、電子放出部46の先端部は、加電界電極44の表面と略同一の平面上に位置する。
ゲート電極52は、ソース電極47および接地電極42と直列して設けられ、その端部は駆動回路60と接続可能とされている。
図12(D)は、図12(A)ないし図12(C)に示す構成を等価回路で示したものである。図12(D)の等価回路に沿って作用を説明する。
電子放出部46、P型半導体層48、ソース部50およびゲート電極52は、各々、ドレイン(D)、チャンネル、ソース(S)、ゲート(G)として機能するMOSFET(57)として作用するアクティブ素子である。図12(D)では、MOSFETとしてこれらの構成部分は記されている。
抵抗層49は電流値設定素子の1例として機能する抵抗値Rsを有する抵抗として作用する。加電界電極44には、電子放出部46の先端部から電子放出をするに十分な電圧Vggが印加されている。
加電界電極44に電圧Vggが印加され、接地電極42が接地されると、抵抗層49を介して、すべての電子放出部46には電流が流れる、すなわち電子放出部46から冷陰極電子放出が生じる。このときの電圧関係式は[数17]で表される。
電流Irの値カソード・ゲート間電圧Vtgとは図3(B)で示すように所定の関係式で関係づけられるので、抵抗値Rs、電圧Vggのいずれかを調整することによって画素の発光輝度を任意に調整することができる。例えば、電流Irの値を発光輝度が黒レベル以下となるように設定(カソード・ゲート間電圧Vtgの値をカソード・ゲート間電圧Vth以上でのカソード・ゲート間電圧Vtb以下の電圧とする)して、焼きつきを防止することができる。なお、カソード・ゲート間電圧Vtgの値は[数18]で表され、カソード・ゲート間に流れる電流Irの値は[数19]で表される。
このように、抵抗層49を各々の電子放出部46に備えて焼きつきを防止しておいて、以下のようにして選択行と非選択行との選択をおこなうことができる。すなわち、駆動回路60からソース電極47に選択電圧として0Vを与えると、MOSFETのソース(ソース部50)の電圧は0Vとなり、その行は選択行となり、ソース電極47に選択電圧として電圧Vggを与えると、加電界電極44との間に電位差がなくなるので、その行は非選択行となる。
一方、列方向には、駆動回路60から各々の列に対応するゲート電極52に電圧Von、例えば、電圧Vona、電圧Vonb、電圧Vonc等のように映像駆動信号が印加され、MOSFETのゲート(ゲート電極52)の下部のP型半導体層48に、この映像駆動信号の大きさに応じた反転層が形成されて、各々のMOSFETのドレイン(電子放出部46)とソース(ソース部50)間が導通して線順次駆動が可能となる。なお、MOSFETのドレインからソースへ電流が流れる場合には、該当する電子放出部46と加電界電極44との間の関係式である[数17]ないし[数19]の関係は適用できないものとなり、新たにゲート電極52に与える電圧よってエミッション電流Idの値が定められることとなる。
図12(D)に示す駆動回路60は、原理図を示すものであり、駆動回路60はさらに詳細には、カソード駆動回路(図示せず)、ゲート駆動回路(図示せず)、DSP(図示せず)とからなるものとすれば、映像信号に応じて、動画やカラー画像を映像パネルの表面に表示することができる。
「第8実施例」
例えば、特許文献2に示すアクティブ・マトリックス方式(図示せず)と同様な構成を採用して、電子ビームの放出量を制御するためのすべてのコンデンサに電子ビームを放出に十分な電荷を蓄積することによって、すべての電子放出部から電子ビームを放出することができる。
図13に示すようなアクティブ・マトリックス方式の等価回路部における回路動作を説明する。ゲート64に設けられた開口部65の略中央部に電子放出部66が配されており、ゲート64にはグランドに対して正の電圧Vgaが印加されている。MOSFET67のドレインは電子放出部66に、MOSFET67のゲートはコンデンサ68およびMOSFET69のソースに接続され、MOSFET67のソースはグランドに接続されている。
MOSFET69のドレインは、行方向に配置された他のMOSFET69のドレインと相互に接続されており、行選択回路71において選択電圧または非選択電圧が印加されるようになされている。一方、MOSFET69のゲートは、列方向に配置された他のMOSFET69のゲートと相互に接続されており、映像信号付与回路70において各々の列方向に配置されたMOSFET69のゲートに、対応する映像信号、電圧Vva、電圧Vvb等が印加されている。
以上の電子放出部66、MOSFET67、コンデンサ68およびMOSFET69からなる構成は1画素に対応したものであり、画素数に応じた数の同様な構成が設けられている。
次に図13で表すアクティブ・マトリックス方式の等価回路部の作用説明をする。行選択回路71が作用して、選択電圧Vscが1の行にのみ印加され、他の行には非選択電圧として0V(グランド電圧)が印加される。この間に、映像信号付与回路70が作用して、順次、映像信号に応じた電圧Vva、電圧Vvbと時系列で印加する。電圧Vva,電圧Vvb等はPWM(Pulse Width Modulation)信号であってもよい。そして、列方向にすべての電圧を与え終わると、行選択回路71が作用して、選択電圧Vscが他の行にのみ印加され、上述したように列方向に順次映像信号に応じた電圧を与える動作をすべての行について繰り返す。
このようにすると、各々のコンデンサには、映像信号に応じた電荷が蓄積され、その電荷に応じた電圧がMOSFET67のゲートとソース間に発生してMOSFET67のドレインに電流を流す。このようにして、次の周期にコンデンサに別の大きさの電荷が蓄えられるまでは、この電荷量で定まる一定のドレイン電流、すなわちエミッション電流Idを電子放出部67に流し続ける。このようにして、映像表示機の全画面が常時発光することとなる。
このときに、コンデンサに蓄積する電荷の量を、常にMOSFET67のドレインに電流を流すように電圧Vva、電圧Vvb等を選択すれば、すべての電子放出部66から電子ビームが常時放出されるので、焼きつきが発生することはない。
[第4実施形態]
上述した実施形態においては、映像信号に応じた強度の電子ビームを放出する電子放出部を基準として、低強度の電子ビームを出力する範囲、低強度の電子ビームのレベルを設定した。焼きつきが発生する場合の典型例であるTVの映画用ワイドモードで画面上下または左右を黒く表示する場合において、映画用ワイドモード表示直後、通常モードに戻すと動画部と黒く表示した部分との境界に発光輝度の差ができて線として見えてしまうような、焼きつきの現象に対しては、別の対応も可能である。
すなわち、図14、図15において、背景技術に示すような従来の映像パネル100を従来のカソード電極駆動回路125およびゲート電極駆動回路126で駆動する駆動方法を採用する場合において、電子ビームの放出が従来においては行われなかった画面上下部分または画面左右部分については、本実施形態では低強度の電子ビームの放出を常時おこなうこととするものである。このような駆動方法を採用すれば焼きつきを防止することができる。
「第9実施例」
具体的には以下のようにする。まず、電子放射をしない上下または左右の黒い部分に該当するか否かの検出をおこなう。電子放出部116と開口部115とのカソード・ゲート間電圧Vtgがカソード・ゲート間電圧Vth以下の電圧であることが、所定の数、例えば10行または10列以上、連続して検出された場合には、この領域における非選択電圧Voffの値を調整して、即時にカソード・ゲート間電圧Vth以上であってカソード・ゲート間電圧Vtb以下の電圧に置換えるものである。このようにすれば、焼きつきの発生を簡便に防止できる。なお、TVの映画用ワイドモードで画面上下または左右を黒く表示する場合においては、この黒く表示する所定の数の行または列のカソード・ゲート間電圧Vtgの値はすべて略等しい値である。
さらに、第1所定時間(例えば、1秒以上)、電子放出部16と開口部15とのカソード・ゲート間電圧Vtgがカソード・ゲート間電圧Vth以下の電圧であることが、所定の数、例えば10行または10列以上、連続して検出された場合には、この領域における非選択電圧Voffを調整して、上述したように、この電圧を、カソード・ゲート間電圧Vth以上でのカソード・ゲート間電圧Vtb以下の電圧に置換えて、この置き換えの時間を第2所定時間(例えば、1秒〜300秒)として、低強度の電子ビームの放出をおこなうようにしてもよい。このようにすれば、黒浮きの発生を防止しつつ、焼きつきの発生を簡便に防止できる。