JP2006169445A - ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物及びそれを用いた立毛調皮革様シート状物 - Google Patents

ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物及びそれを用いた立毛調皮革様シート状物 Download PDF

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Abstract

【課題】 風合及び耐久性に優れた立毛調皮革様シート状物が得られるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物及びこれを用いた立毛調皮革様シート状物を提供する。
【解決手段】 数平均分子量(Mn)が10,000〜20,000であるオルガノポリシロキサンとポリアルキレンカーボネートジオールとを、これらの合計量100重量部に対して前記オルガノポリシロキサン0.1〜5重量部の割合で用いて、分子側鎖にオルガノポリシロキシル基を有し、かつ下記式(1)で表されるカーボネート構造を分子鎖中に含むポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を得て、これからなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物をバインダー成分として用いて立毛調皮革様シート状物を得る。
【化1】

Description

本発明は、立毛調皮革様シート状物のバインダーに適した耐久性及び表面滑性に優れたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物およびそれを用いた立毛調皮革様シート状物に関する。特に、耐久性を要する衣料、家具、車両用立毛調皮革様シート状物に好適に用いられるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物に関する。
繊維からなる基材にポリウレタン樹脂を含浸したシート状物の表面をサンドペーパーなどを用いて立毛させることによって、スエードやヌバックライクの立毛調皮革様シート状物を得ることは広く知られている。目的とする皮革様シート状物の特性は、繊維からなる基材とポリウレタン樹脂の組み合わせにより任意に幅広く設計ができる。
例えば、特開昭59−192779号公報には、ポリテトラメチレングリコール、有機ジイソシアネート、グリコール鎖伸長剤を用いたポリウレタン樹脂が開示されており、該ポリウレタン樹脂を用いることによって、極めて柔軟な風合を有する人工皮革状物を得ることが可能となったと記載されている。立毛調皮革様シートは、天然皮革に酷似した外観や表面を有し、かつ天然皮革にはない均一性や染色堅牢性などの長所が認められ、近年ソファーなどの家具の表皮や自動車のシート表皮などの5年〜10年といった長期にわたって使用される用途に広がりを見せている。
ところが、特開昭59−192779号公報に記載のようなポリテトラメチレングリコールを用いたポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、紫外線や熱によって容易に劣化するために、使用の過程で繊維のモモケや脱落、または毛玉が生じてしまい、長期の使用に耐え得ないという問題があった。また、ポリエステル系のポリウレタン樹脂も皮革様シート状物に良く用いられるポリウレタン樹脂ではあるが、紫外線などによる耐光性は良好であるもののエステル結合が加水分解によって劣化するために、長期の使用において繊維のモモケや毛玉が発生するといった同様の問題があった。
一方、特開平3−244619号公報に、ポリカーボネートポリオールと脂環式ポリイソシアネートと芳香族イソシアネートとを反応させて得られるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、家具用、車両用シートなど高度の耐久性を有する用途に有用なポリウレタン樹脂であることが開示され、特開2002−30579号及び特開2002−61081号公報には、ポリカーボネートジオールを含むポリオールからなるポリウレタン樹脂を用いた立毛調皮革様シート状物が、耐光性や加水分解性などの耐久性に優れることが開示されている。
しかしながら、ポリオールがポリカーボネートジオールのみから得られるポリウレタン樹脂や少なくともポリカーボネートジオールを70重量%以上含むポリオールから得られるポリウレタン樹脂を用いた立毛調皮革様シート状物は、耐久性に非常に優れるもののポリウレタン樹脂が硬すぎるために、サンドペーパーなどによるバフィング性が悪く、表面の立毛が短い粗悪な表面となってしまい、優美な立毛を有する良好な品位を得ることが極めて困難であった。
これに対し、立毛性を向上させ、風合を柔軟とするための技術として、特開昭64−33283号公報には、ポリウレタン樹脂を繊維基材の含浸液として用いるに際し、アルコール変性シリコーン油を添加することが開示されている。しかしながら、該発明では、ポリウレタン樹脂の凝固工程においてアルコール変性シリコーン油がある程度溶出するために、溶剤の回収工程に悪影響を及ぼしたり、凝固槽に残存したシリコーン油が、他の含浸樹脂などを用いて加工する他製品に混入し影響を及ぼすという問題や、また染色工程でのシリコーン油溶出による染色不良が生じるなどの製造工程上の問題があるばかりか、得られたシート状物からシリコーン油がブリードアウトしてくるといった問題があった。
また、従来よりシリコーンセグメントを有したポリオールにより変性されたポリウレタン樹脂やこれらの樹脂を皮革様シートに用いることは良く知られている。例えば、特開昭62−206085号公報には、シリコーン化合物と有機ポリイソシアネートとよりなる少なくとも1個のイソシアネート基を有する変性剤で変性された樹脂層を基材シートの少なくとも一方の面に設けた擬革に関する技術が開示されている。また、特開昭63−314249号公報には前記と同様の目的で、シリコーンセグメントを有するポリウレタン樹脂の多孔層を基材の上に設けてなる多孔性シート材料、特開平3−167212号公報には、分子側鎖にオルガノポリシロキシル基を有するポリウレタン樹脂組成物及びその樹脂組成物を用いてなる合成皮革に関する技術が開示されている。
しかしながら、これらの発明は、基材上に設けられたポリウレタン樹脂層の耐磨耗性や表面物性の改質を目的にしたもので、本発明のごとき極細繊維不織布を基材に含浸樹脂としてポリウレタン樹脂を用いた場合のバフィング性の向上、それによって発現する好ましい極細繊維の立毛長、立毛による優美な外観やしなやかな表面タッチの効果を得ることを示唆するものではない。
また、特開平3−152256号公報には、不織布とポリジメチルシロキサン骨格を有したシリコーンによって変性された架橋型水エマルジョンよりなるタッチ、風合の良好な繊維質シート状物に関する技術が開示されている。しかしながら、該発明では架橋型水エマルジョンを用いているため、得られたシート状物は天然皮革のごとき充実感の有る風合という点で不充分なものであった。
また、特開平4−202860号公報には、柔軟な繊維質シート及びその製造に適したポリウレタン系多成分繊維に関する技術が開示されている。該発明においてポリウレタンは主鎖及び/または側鎖にシリコーンセグメントを有する熱可塑性ポリウレタンを用いているが、該ポリウレタンは極細繊維束内部に含まれているために、ポリウレタンが極細繊維の単繊維それぞれと接合して存在しており、バフィングによるポリウレタン樹脂研削の際の繊維切断が著しく、立毛による優美な外観を得るには不充分であると同時に、シートの柔軟性、風合においても満足のいくものではなかった。
また、特開平7−150478号公報には、極細繊維の束状不織布の内部に、極細繊維束の束内部に実質的に存在しない状態で、ポリマージオール成分の5〜30重量%のジメチルシロキサン構造単位を有するシリコーンポリオールで変性されたポリウレタン樹脂が存在するシート状物とその製造方法が開示されている。該発明においては、シリコーンポリオールで変性されたポリウレタン樹脂が、極細繊維束の束内部に実質的に存在しないために風合や立毛性に優れたものとなっている。しかしながら、シリコーンポリオールに関する記述は、両末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサン構造の記載例しかなく、このようなシリコーンポリオールを用いて得られるポリウレタン樹脂は、ポリウレタンの主鎖にジメチルポリシロキサン鎖を導入したブロックコポリマーとなるため、ポリカーボネートジオールを主成分として得られたシリコーン変性ポリウレタン樹脂を立毛調皮革様シート状物に適用した場合、通常のバフィングによって好ましい立毛を得るためにはシリコーンポリオールの含有量はポリカーボネートジオールを主成分とするポリマージオールに対し少なくとも10重量%以上必要となるが、逆に10重量%以上を越えてシリコーンポリオールを含有させると紫外線により耐光性が悪化して、繊維のモモケや毛玉が発生し易くなって耐久性において満足のいくものは得られなかった。
以上のように従来の技術では、風合、立毛品位、耐久性のいずれにも優れた立毛調皮革様シート状物を得るポリウレタン樹脂組成物の開発は極めて困難であった。
特開平3−167212号公報 特開平4−202860号公報 特開平7−150478号公報
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、天然皮革の風合と、長期の使用においても繊維の脱落やモモケ、毛玉の発生が少ない高耐久性とを兼ね備えた立毛調皮革様シート状物が得られる、樹脂バインダーに適したポリウレタン樹脂組成物、及びその立毛調皮革様シート状物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の問題を改良するために鋭意研究を重ねた結果、片末端ジオールのオルガノポリシロキサンと特定のカーボネート構造を有するポリアルキレンカーボネートジオールとMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)と有機ジオールの鎖長剤とを反応させて得られる、分子側鎖にオルガノシロキシル基を有するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、従来の直鎖状ポリシロキサンジカルビノールを用いて得たポリウレタン樹脂に比べて、耐久性と表面滑性に極めて優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、数平均分子量(Mn)が10,000〜20,000であるオルガノポリシロキサンとポリアルキレンカーボネートジオールとを、これらの合計量100重量部に対して前記オルガノポリシロキサン0.1〜5重量部の割合で用いて得られ、分子側鎖にオルガノポリシロキシル基を有し、かつ下記式(1)で表されるカーボネート構造を分子鎖中に含むポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるものとする(請求項1)。
Figure 2006169445
上記においてオルガノポリシロキシル基は、一つの末端がイソシアネート基と非反応性の官能基で封止された下記式(2)で表される構造を有することが好ましい(請求項2)。
Figure 2006169445
式(2)中、R〜Rはアルキル基又はアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは正の整数である。
上記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)と、上記式(1)で示されるカーボネート構造を30重量%以上80重量%以下の割合で含有するポリアルキレンカーボネートジオール(B)と、ジフェニルメタンジイソシアネート(C)と、鎖長剤としての有機ジオール(D)とを反応せしめて得ることができる(請求項3)。
また、湿式凝固膜を形成した際の脱溶剤及び乾燥後の厚み保持率が80%以上であることが好ましい(請求項4)。
本発明の立毛調皮革様シート状物は、繊維束が絡合してなる不織布とその内部空間に存在する樹脂バインダーとからなる立毛調皮革様シート状物であり、樹脂バインダーとして本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を、予めポリビニルアルコール水溶液で含浸処理された前記不織布に含浸湿式付与して得られる、樹脂バインダーが前記繊維束内部には実質的には存在しないものとする(請求項5)。
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物によれば、これを樹脂バインダーとして用いることにより、天然皮革の風合、長期の使用においても繊維の脱落やモモケ、毛玉の発生が少ない高耐久性とを兼ね備えた立毛調皮革様シート状物が得られる。
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を構成するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、上記の通り分子側鎖にオルガノポリシロキシル基を有するものであり、分子側鎖とは、ポリウレタン樹脂の最も炭素原子数の多い鎖である主鎖に結合し、それから枝分かれしている部分をいう。
また、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、単なるウレタン結合のみからなるポリウレタン樹脂とウレタン結合と尿素結合とからなるポリウレタン・ポリ尿素樹脂とを併せていうものとする。
オルガノポリシロキシル基は、好ましくは末端がイソシアネート基と非反応性の官能基で封止された上記式(2)で表されるものであり、具体例としては、例えばトリアルキルシリル基又はトリアリールシリル基で封止されたオルガノポリシロキシル基が挙げられる。
上記式(2)におけるオルガノポリシロキシル基の繰り返し単位nは、180〜400が好ましく、190〜210がより好ましい。
本発明に係るポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の製法は限定されるものではないが、例えば、一つの末端がイソシアネート基と非反応性の官能基で、他の末端に二つの水酸基を有する片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)と、上記式(1)で表されるカーボネート構造を分子鎖中に含むポリアルキレンカーボネートジオール(B)と、ジフェニルメタンジイソシアネート(C)と、有機ジオールの鎖長剤(D)とを反応せしめることにより得ることができ、これにより、耐久性に優れ、立毛調皮革様シート状物の製造に適したポリウレタン樹脂組成物が得られる。
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を製造する際の片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)の使用量は、該(A)成分と式(1)で示されるカーボネート構造を含有するポリアルキレンカーボネートジオール(B)との合計量100重量部に対して好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは1.0〜5重量部である。オルガノポリシロキサン(A)の使用量が少なすぎると本発明で目的とする効果が得られず、一方、使用量を多くする程、得られるポリウレタン樹脂組成物の摩擦係数が小さくなる(滑性が優れる)傾向があるが、多すぎると耐光性が劣る等の問題が生じるようになる。ジフェニルメタンジイソシアネート(C)の使用量は、通常上記(A)、(B)成分の活性水素を1当量とした際に、2.0〜6.0当量となる重量が好ましい。また、有機ジオールの鎖長剤(D)の使用量は1.0〜5.0当量となる量が好ましい。
上記(A)、(B)、(D)成分と(C)成分との反応は、従来公知の方法でDMF(ジメチルフォルムアミド)溶媒中30〜80℃の反応温度で、反応時間4〜10時間の反応条件で行うのが好適である。
上記(A)、(B)、(D)成分は、より詳細には以下の通りである。
オルガノポリシロキサン(A)としては、下記一般式(3)で示されるものが用いられる。
Figure 2006169445
式(3)中、R〜Rはアルキル基又はアリール基であり、同一であっても異なっていてもよい。nは正の整数、Xは水酸基を2個有する基である。
上記一般式(3)のR〜Rのアルキル基又はアリール基は炭素原子数1〜6が好ましい。また、一般式(3)のXは、2個の水酸基を有する基であれば特に限定されるものではないが、例としてはポリオルガノシロキシル基と2個の水酸基が、エーテル結合、カルボニル結合、アミド結合、エステル結合を介していてもよいアルキレン基で結合したものが挙げられる。
上記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンの具体例としては、以下のものが挙げられる。
Figure 2006169445
Figure 2006169445
Figure 2006169445
Figure 2006169445
Figure 2006169445
Figure 2006169445
上記式(4)〜(9)中、Phはフェニル基を示し、nは正の整数である。
上記オルガノポリシロキサンは数平均分子量(Mn)が10,000〜20,000であることが好ましい。
次に、本発明で用いるアルキレンカーボネートジオール(B)とは、カーボネート結合を介して連結される高分子鎖を形成するものであり、当該高分子鎖の両末端にそれぞれ1個の水酸基を有するものである。ポリアルキレンカーボネートジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。アルキレングリコールの例としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールやネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコールなどが挙げられる。エステル交換反応に用いられる炭酸エステルの例としては、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリアルキレンカーボネートジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリアルキレンカーボネートジオールでも良く、また、それぞれのポリアルキレンカーボネートジオールの単独使用でも2種類以上を混合して使用しても良いが、より好ましくは共重合ポリアルキレンカーボネートジオールが、皮革様シート状物としたときの柔軟性と良好な立毛品位が得られる傾向に有り、好ましい。
さらに風合、耐久性、強度の観点から、2−メチル−1,8−オクタンジオールを30重量%以上80重量%以下含有し、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールからなる群から選ばれた少なくとも2種類以上のアルキレングリコールを共重合してなる、上記式(1)で表されるカーボネート構造を30重量%以上80重量%以下の割合で含有するポリアルキレンカーボネートジオールが好ましい。(1)で表されるカーボネート構造を30重量%以上80重量%以下含有したものとすることで、湿式凝固膜の脱溶剤及び乾燥後の厚み保持率が80%以上となり、皮革様シート状物としたときの柔軟性と良好な立毛品位が得られ易くなり、好ましい。
ポリアルキレンカーボネートジオール(B)の数平均分子量(Mn)としては、500〜3,000が好ましく、より好ましくは1,000〜2,500である。数平均分子量を500以上とすることで、風合が硬くなるのを防ぎ、3,000以下とすることで、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
次に、本発明で用いる鎖長剤(鎖伸長剤)としての有機ジオール(D)とは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール(1,3−ブチレングリコール)、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコールなどの芳香族ジオールなどを挙げることができる。それぞれ単独で使用しても良いが、2種類以上の有機ジオールを混合使用しても良い。好ましくは、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオールなどの分岐された有機ジオールの群より選ばれた少なくとも1種を全量として、あるいは一部に用いることにより、皮革様シート状物としたときの柔軟性と良好な立毛品位が得られ易い傾向に有り、好ましい。
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、上記の通りDMF(ジメチルフォルムアミド)を溶媒とする溶液反応により得られるが、その不揮発分は20〜40重量%が好ましく、使用時に溶剤で適宜濃度を変えることができる。
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、100,000〜300,000が好ましく、150,000〜250,000の範囲が特に好ましい。また、粘度は、5,000〜100,000mPa・s/30℃(不揮発分25%、DMF溶液)が好ましく、より好ましくは2,000〜50,000mPa・s/30℃である。重量平均分子量(Mw)を100,000以上とすることにより、得られるシート状物の強度を保持することができる。また、300,000以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて不織布への樹脂含浸を行い易くすることができる。
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、その他の樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤等を添加することができる。
上記した本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物をバインダー成分として用いた立毛調皮革様シート状物は、その少なくとも片面に極細繊維を立毛させたものである。
その製法は限定されないが、例えば極細繊維からなり、予めケン化度80%以上のポリビニルアルコール水溶液で含浸処理後乾燥された不織布の少なくとも片面に、塗布又は含浸により上記ポリウレタン樹脂組成物の溶液を付与し、湿式で凝固せしめてシート状物を得た後、立毛処理を施すことにより得られる。
立毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いてバフィングなどすることにより施すことができる。また、シート状物は、立毛処理を行う前に、シート厚み方向に半裁ないしは数枚に分割されて得られるものでもよい。
上記により、バインダーが、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布内部の空間に存在するが、極細繊維の繊維束内部には実質的には存在せず、極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維と部分的に接合した状態の立毛調皮革様シート状物が得られる。予めポリビニルアルコールで不織布を含浸処理することで繊維束の外周の大半を保護し、ポリウレタン樹脂組成物の溶液が繊維束内部へ侵入するのを防ぎ、部分的に保護のない箇所にはポリウレタン樹脂が接着したものが得られる。
シート状物におけるバインダーの比率は10〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜35重量%である。10重量%以上とすることでシート強度が得られ、50重量%以下とすることで、風合が硬くなるのを防ぎ、目的とする良好な立毛を得ることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、文中の「部」「%」は全て重量基準による。
[実施例1]
(ポリウレタンの製造)
片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)としてKSi−15000を2.5重量部と、ポリアルキレンカーボネートジオール(B)としてPHCを48.75重量部とPOMPCを48.75重量部さらに有機ジイソシアネート(C)としてMDIを(A)、(B)成分の活性水素1当量に対し3.15当量となるようにDMFを溶媒として冷却管付き四つ口コルベンに仕込み、窒素雰囲気下で40〜60℃にて攪拌反応させ、さらに鎖伸長剤としてEGをDMFにて希釈した状態で攪拌下投入し、反応させた。約10時間反応後に固形分25%のPU溶液を得た。
(立毛調皮革様シート状物の製造)
ポリエチレンテレフタレートの平均単繊維繊度0.1dtexの極細繊維からなる不織布を、ケン化度87%の10%ポリビニルアルコール水溶液で含浸し、100℃で熱風乾燥した後、前記ポリウレタン樹脂をDMFにて固形分10%に調整した浴に浸漬し、絞りロールにてPU溶液の付着量を調整した後、25℃のDMF濃度30%の水溶液中でPUを凝固せしめた。その後、90℃の熱水にてDMF及びポリビニルアルコールを除去し、乾燥して、PUの含有量が32%のシート状物を得た。
該シート状物の片面を150メッシュ、ついで240メッシュのサンドペーパーを用いてバフィングし、分散染料にて染色を施して立毛調皮革様シート状物を得た。
該皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ポリウレタン樹脂は極細繊維束の内部には実質的に存在してないことが確認できた。
得られた立毛調皮革様シート状物は、繊維の立毛長、分散性が良好で、優美な外観を有したものであった。また、適度な反発性と充実感を有する良好な風合を有していた。また、耐久性評価である耐加水分解性、耐光性の評価結果は共に4.5級であり、優れた耐久性を有するものであった。
[実施例2〜3、比較例1〜5]
ポリウレタンの製造において、片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)、ジオール(B)、鎖長剤(C)の組成及び重量比をそれぞれ表1又は表2に示すものに変更した。それ以外は実施例1と同様にして立毛調皮革様シート状物を作成した。
上記各実施例・比較例における立毛調皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ポリウレタン樹脂は極細繊維束の内部には実質的に存在していなかった。
上記各実施例・比較例で用いた化学物質は一部略号で表わされているが、その略号の意味は下記の通りである。
PU:ポリウレタン(表1におけるPU No.1〜3が実施例1〜3に対応し、表2におけるPU No.4〜8が比較例1〜5に対応する。)
PHC:数平均分子量2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール
POMPC:数平均分子量2,000の2−メチル−オクタメチレンカーボネートジオール
KSi−5000:下記一般式(10)で示される数平均分子量5,000の片末端に2個の水酸基を有するオルガノポリシロキサン
KSi−15000:下記一般式(10)で示される数平均分子量15,000の片末端に2個の水酸基を有するオルガノポリシロキサン
Figure 2006169445
式(10)中、nは正の整数である。
BSi−1800:下記一般式(11)で示される数平均分子量1,800の両末端に2個の水酸基を有するオルガノポリシロキサン
Figure 2006169445
式(11)中、nは正の整数である。
MDI:4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート
EG:エチレングリコール
DMF:ジメチルホルムアミド
[評価方法]
本実施例・比較例で用いた評価方法は以下の通りである。
(1)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)
ポリウレタン樹脂の乾燥皮膜を作成し、その皮膜をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、GPC((株)島津製作所製、LC−10AD−VP)を用いて測定した。
(2)外観品位
得られた立毛調皮革様シート状物の表面品位は目視による官能評価にて下記のように評価した。
◎ :立毛長・繊維の分散状態共に非常に良好である
○ :立毛長・繊維の分散状態共に良好である
× :立毛長が短く、繊維の分散が不良である
××:立毛がほとんど無く、著しく不良である
(3)耐久性(耐加水分解性)
得られた立毛調皮革様シート状物に対し、70℃、相対湿度95%の雰囲気中に10週間放置する強制劣化処理を施した後、マーチンデール磨耗試験機としてJames H.Heai & Co.製のModel 406を、標準磨耗布として同社製のABRAS TIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、磨耗回数20,000回の条件で磨耗させた後の試料の外観を目視にて観察し、評価した。評価基準は、試料の外観が磨耗前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。また、本発明における合格レベルは3級とした。
(4)耐久性(耐光性)
得られた立毛調皮革様シート状物に対し、キセノン耐光性試験機にて144時間光照射する強制劣化処理を施した後、マーチンデール磨耗試験機としてJames H.Heai & Co.製のModel 406を、標準磨耗布として同社製のABRAS TIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、磨耗回数20,000回の条件で磨耗させた後の試料の外観を目視にて観察し、評価した。評価基準は、試料の外観が磨耗前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。また、本発明における合格レベルは3級とした。
(5)湿式凝固膜の脱溶剤・乾燥後の厚み保持率
PETフィルム上にDMFにて固形分(NV)15%に調整した樹脂溶液を1.0mm厚みに塗布し、30℃・20%DMF水溶液中で凝固後、60℃にて湯洗・脱溶剤し、120℃で熱風乾燥した。乾燥前後の厚みから、次式により厚み保持率(%)を求めた。
厚み保持率(%)=乾燥後の厚み/乾燥前の厚み×100
(6)柔軟性
3年以上繊維加工製品開発の経験があるテスター5人に、5を最上とし4以上を合格とする5段階で評価させ、その平均値で評価した。
各実施例・比較例において得られたシート状物の外観品位、耐久性、厚み保持率、柔軟性を表3に示す。
Figure 2006169445
Figure 2006169445
Figure 2006169445
本発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物及びこれにより得られる立毛調皮革様シート状物は、衣料、家具、車両用等に用いられ、耐久性を要する用途に特に好適に用いられる。

Claims (5)

  1. 数平均分子量(Mn)が10,000〜20,000であるオルガノポリシロキサンとポリアルキレンカーボネートジオールとを、これらの合計量100重量部に対して前記オルガノポリシロキサン0.1〜5重量部の割合で用いて得られ、分子側鎖にオルガノポリシロキシル基を有し、かつ下記式(1)で表されるカーボネート構造を分子鎖中に含むポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
    Figure 2006169445
  2. 前記オルガノポリシロキシル基が、一つの末端がイソシアネート基と非反応性の官能基で封止された下記式(2)で表される構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
    Figure 2006169445
    式(2)中、R〜Rはアルキル基又はアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは正の整数である。
  3. 前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、片末端ジオールのオルガノポリシロキサン(A)と、前記式(1)で表されるカーボネート構造を30重量%以上80重量%以下の割合で含有するポリアルキレンカーボネートジオール(B)と、ジフェニルメタンジイソシアネート(C)と、鎖長剤としての有機ジオール(D)とを反応せしめて得られたものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
  4. 湿式凝固膜を形成した際の脱溶剤及び乾燥後の厚み保持率が80%以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
  5. 繊維束が絡合してなる不織布とその内部空間に存在する樹脂バインダーとからなる立毛調皮革様シート状物であり、樹脂バインダーとして請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を、予めポリビニルアルコール水溶液で含浸処理された前記不織布に含浸湿式付与して得られる、樹脂バインダーが前記繊維束内部には実質的には存在しない立毛調皮革様シート状物。
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