JP2006160662A - 海洋細菌が生産する新規紫外線吸収物質およびその製造法 - Google Patents

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Yoshihide Matsuo
嘉英 松尾
Kyoko Adachi
恭子 足立
Kaneo Kano
周雄 加納
Hiroo Kasai
宏朗 笠井
Matsuko Katsuta
麻津子 勝田
Yoshiichi Shizuri
芳一 志津里
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Abstract

【課題】 新規な紫外線吸収物質及びその製造法の提供。
【解決手段】 式(I)で表される化合物又はその塩、及び微生物を用いる該化合物の製造方法。
Figure 2006160662

【選択図】 なし

Description

本発明は、紫外線吸収物質として有用な新規化合物、および微生物を用いたその製造法に関する。
従来、化粧品などには紫外線吸収剤としてベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、パラメトキシ桂皮酸誘導体、サリチル酸誘導体など化学合成品が主に使用されてきた。しかし化学合成品に対する世論の拒否反応もあり、天然物の中から安全性が高く広い紫外線領域を強く吸収する物質を探索し、それを利用しようとする研究が行われている。代表的なものとして、海藻、海底動物、微細藻、カビなどが生産するマイコスポリン様アミノ酸類が知られている(非特許文献1,2,3,4)。またその化学合成による生産法は国際公開パンフレット(特許文献1,2)で報告されている。しかしながらこれらの物質は水溶性であるためその応用範囲が限られることから、天然の新規な脂溶性紫外線吸収物質の開発が望まれている。
国際公開第88/02251号パンフレット 国際公開第86/02350号パンフレット ボータニカマリーナ(Bot. Mar.)16,23,(1974) マリンバイオロジー(Mar. Biol.)108,157(1991) ジャーナルオブプランクトンリサーチ(J. Plankton Res.)12,909(1990) プラントディジーズレポーター(Plant Dis. Reptr.)57,760(1973)
上記事情に鑑み、本発明は、新規な脂溶性紫外線吸収物質を天然界から検索し、その新規物質およびその製造法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、サーモアクチノマイセス属に属する微生物の培養液から得られた化合物が、新規脂溶性紫外線吸収物質であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)式(I):
Figure 2006160662
で表される化合物又はその塩。
(2)(1)記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該化合物を採取することを特徴とする(1)記載の化合物の製造法。
なお式(I)で表される化合物は、従来の方法に従って塩(特に酸付加塩)を形成することができる。
式(I)の化合物の酸付加塩としては有機酸又は無機酸との塩が挙げられ、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、シクロヘキシルスルフアミン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。
式(I)で表される化合物又はその塩は溶媒和物としても提供され得る。
本発明は、新規な紫外線吸収物質及び該物質の微生物を用いた製造法を提供する。本発明の化合物は、化粧品あるいはヒト又は非ヒト動物用の医薬品の成分として有用である。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の化合物は、海洋性細菌(サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3-251株)から単離・精製された化合物であり、紫外線吸収能を有するものである。本発明の化合物の性質及びその製造方法について以下に詳述する。
1.本発明の化合物の性質
本発明の化合物は、式(I)により表される化合物である。
Figure 2006160662
上記式(I)で表される化合物の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
(1)物質の色 :無色
(2)分子量 :728
(3)分子式 :C35H36N8O10
(4)質量分析 :高分解能FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)、実測値 729.2612(M + H)、計算値 729.2633(C35H37N8O10
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中) λmax(logε) 261nm (4.62)
(6)[α]D 56.3°(c = 0.056、DMSO)
(7)H NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、750MHz)
δppm 0.90(3H, d, J=6.8Hz), 0.93(3H, t, J=7.5Hz), 0.94(3H, d, J=6.8Hz), 0.96(3H, d, J=6.8Hz), 1.18(1H, m), 1.48(1H, m), 1.96(1H, m), 2.13(1H, m), 3.96(3H, s), 4.48(1H, dd, J=8.1, 7.1Hz), 4.75(1H, dd, J=9.1, 5.3 Hz), 5.71(1H, s), 5.94(1H, s), 7.51(4H, m), 7.63(1H, s), 7.99(1H, d, J=9.2Hz), 8.25(1H, d, J=7.5Hz), 8.53(1H, d, J=8.4Hz), 8.65(1H, s), 8.85(1H, s), 9.28(1H, s), 9.81(1H, s)
(8)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中で測定、125MHz)
δppm 11.46(q), 14.29(q), 18.00(q), 19.18(q), 25.99(t), 32.32(d), 37.90(d), 53.24(q), 55.53(d), 58.12(d), 108.22(t), 126.16(s), 127.76(d), 128.30(d), 128.79(s), 129.70(s), 129.83(s), 130.07(d), 130.16(s), 137.12 (s), 140.70(d), 141.95 (d), 143.62 (d), 151.11(s), 151.25(s), 152.39(s), 153.79(s), 154.86(s), 158.86(s), 159.67(s), 161.22(s), 170.76(s), 170.89(s)
(9)溶解性 :クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶。メタノールに難溶。
2.本発明の化合物の製造
2.1.式(I)の化合物の製造
本発明の式(I)の化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。
(1)微生物
本発明の製造方法において用いることのできる微生物としては、サーモアクチノマイセス(Thermoactinomyces)属に属し、かつ上記式(I)で表される化合物を生産することが可能な微生物であれば特に限定されない。そのような微生物としては、例えば、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3-251株、及び該菌株に由来する変異株、あるいは該菌株の類似菌株を挙げることができる。なおサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3-251株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、平成16年5月19日に、受託番号NITE P-2として寄託されている。
ここでいう「変異株」は任意の適当な変異原を用いた変異誘発処理により得られたものであり、「変異原」なる語は、その広義において、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
ここでいう「類似菌株」としては、サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3-251株の16S r DNA遺伝子の塩基配列(配列番号1に示す)と95%以上相同な塩基配列で表される16S r DNA遺伝子を持つ菌株を挙げることができる。16S r DNA遺伝子の相同性は95%以上であればよいが、97%以上であることが好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、100%相同であることが最も好ましい。
サーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3-251株の細菌学的性質については以下の通りである。
a. 形態的および培養的性質
1) 細胞の形および大きさ :菌糸を形成する。
2) 胞子の有無 :有り。
3) マリンアガー平板培養 :良好に生育,コロニーは円形,台状,菌糸状,乳白色。
4) マリンブロス培養 :良好に生育。
5) リトマスミルク :変化なし
b. 生理学的性質
1) 硝酸塩の還元 :還元しない。
2) インドールの生成 :生成しない。
3) 硫化水素の生成 :生成しない。
4) デンプンの加水分解 :分解しない。
5) カゼインの分解 :分解する。
6) エスクリンの分解 :分解しない。
7) DNAの分解 :分解しない。
8) キチンの分解 :分解しない。
9) チロシンの分解 :分解しない。
10) クエン酸の利用 :Simmons 培地:利用しない。
11) 色素の生成 :なし。
12) ウレアーゼ活性 :陰性
13) オキシダーゼ活性 :陽性
14) カタラーゼ活性 :陽性
15) アルカリホスファターゼ活性 :陽性
16) エステラーゼ(C4)活性 :陽性
17) エステラーゼリパーゼ(C8)活性 :陽性
18) エステラーゼ(C4)活性 :陰性
19) ロイシン アリルアミダーゼ活性:陰性
20) バリン アリルアミダーゼ活性 :陰性
21) シスチン アリルアミダーゼ活性:陰性
22) トリプシン活性 :陽性
23) キモトリプシン活性 :陰性
24) 酸性フォスファターゼ活性 :陽性
25) ナフトール-AS-BI-ホスホハイドロラーゼ活性:陽性
26) α-ガラクトシダーゼ活性 :陰性
27) β-ガラクトシターゼ活性 :陰性
28) β-グルクロニダーゼ活性 :陰性
29) α-グルコシダーゼ活性 :陰性
30) β-グルコシダーゼ活性 :陰性
31) α-マンノシダーゼ活性 :陰性
32) α-フコシダーゼ活性 :陰性
33) 生育の範囲(pH) :pH6〜9
34) 耐塩性 :有り (生育塩濃度範囲:0〜7%)
35) Mg2+の要求性 :有り
36) 炭素源の資化性 (BiOLOG社 GP2マイクロプレート使用)
L-アラビノース −
D-キシロース −
D-グルコース −
D-マンノース −
D-フラクトース −
D-ガラクトース −
マルトース −
シュークロース −
ラクトース −
トレハロース +
D-ソルビトール −
D-マンニトール +
イノシトール −
グリセロール −
グリコーゲン +
イヌリン −
メロビオース +
ラフィノース +
酢酸 +
ピルビン酸 +
37) GC含量 :47(モル%)
38) イソプレノイドキノン :MK-9(73%), MK-8 (21.7%), MK-10 (2.9%), MK-7 (2.5%)
(2)微生物の培養
本発明における微生物の培養は、通常の微生物の培養方法が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物及び必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、シュークロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜などを単独又は組み合わせて用いられる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファンなど)なども用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、綿実かす、カザミノ酸などが単独又は組み合わせて用いられる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加える。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、そのような成分は当業者であれば適当なものを選択することができる。
培養法としては、液体培養が適しているが、これに限定されるものではない。培養温度は、25〜37℃が適当であり、培養中の培地のpHは7〜9に維持することが望ましく、震盪速度が30〜120rpmで回転又は往復震盪培養することが望ましい。液体培養で通常5〜14日間培養を行うと、目的化合物が培養液中ならびに菌体中に生成蓄積される。培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。
(3)化合物の単離・精製
培養物から本発明の化合物を単離・精製するには、微生物代謝生産物をその培養物から単離・精製するために常用される方法に従って行われる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。例えば培養物を濾過や遠心分離により培養瀘液と菌体に分け、菌体をクロロホルム/メタノール(9:1)混合溶媒などで抽出する。また培養濾液は酢酸エチル、クロロホルムなどで抽出する。ついで、菌体抽出液と培養瀘液若しくは培養瀘液の抽出物とを合わせて濃縮し、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどにより精製を行い、本発明の化合物を得る。得られた化合物は、NMR解析などの通常の化学的手法により、上記「1.本発明の化合物の性質」に記載した性質を示すか否かを調べることにより、本発明の化合物であることを確認することができる。
なお、培養、精製操作中の本発明の化合物の動向は、フォトダイオードアレイ検出器付き高速液体クロマトグラフィーにより、紫外線吸収を指標として追跡することができる。
3.本発明の化合物の用途
本発明の化合物は、紫外線吸収能が強いので、化粧品あるいはヒト又は非ヒト動物用の医薬品などの紫外線吸収成分として利用することができる。
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
式(I)の化合物の製造
式(I)の化合物の生産菌としてサーモアクチノマイセス・スピーシーズYM3−251株を用いた。該菌株を、500mLのマリンブロス培地(Difco)を入れた1Lバッフル付き三角フラスコ中で、30℃にて5日間回転振盪(100rpm)培養し、次に行う大量培養の種菌とした。この種菌培養物を500mLのマリンブロスの入った1Lバッフル付きフラスコ80本(計40L)に5mLずつ植菌し、30℃、5日間、回転震盪(100rpm)培養した。培養中、培地のpHは特に制御しなかった。
このようにして得られた培養液40Lを遠心分離(6000xg、20分間)し、菌体と上清に分離した。上清は等量の酢酸エチルで二回抽出した。菌体は、クロロホルム/メタノール(9:1)で抽出した。紫外線吸収物質のほとんどは菌体抽出に認められたので、次に、得られた菌体抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。ワコーゲルC200(和光純薬)を担体として用い、移動層として、まず、クロロホルムにて溶出、次に、2%メタノール含有クロロホルムにて溶出、ついで3%メタノール含有クロロホルムと1%刻みで6%含有メタノールまで溶出した。3%メタノール含有クロロホルムと4%メタノール含有クロロホルムにて溶出した画分に紫外線吸収物質が認められた。
次に、それら画分を高速液体クロマトグラフィー(カラム:TSKgel ODS−80Ts(直径4.6mm長さ150mm)、移動相A:水、移動相B:アセトニトリル、グラジエント:0分〜2分 60%アセトニトリル、2分〜18分 60%アセトニトリルから70%アセトニトリルまでリニアグラジエント、流速1mL/min)にて精製した。このような大量培養とその培養物からの精製をくり返し行い、培養物計200Lから本発明の式(I)の化合物を3mg得た。
紫外線吸収スペクトルの測定
上記化合物の紫外線吸収能を次のようにして測定した。上記化合物を約0.4mg精秤し、メタノールに溶かし、5mlのメスフラスコを用いて全体の容量を5mlにした。この溶液を更にメタノールで3倍に希釈したものを用いてベックマン社製UV−600型UVスペクトロメーターで紫外線吸収スペクトル(以下、UVスペクトルという)を測定した。得られたUVスペクトルから極大吸収波長、およびその波長におけるモル吸光係数(ε)を求めた。λmax(logε)=261nm(4.62)であった。

Claims (2)

  1. 式(I):
    Figure 2006160662
    で表される化合物又はその塩。
  2. 請求項1記載の化合物を生産する能力を有するサーモアクチノマイセス属に属する微生物を培地に培養し、培養物中に該化合物を生成蓄積させ、該化合物を採取することを特徴とする請求項1記載の化合物の製造法。
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