ところで、上記特許文献1に開示されているように、予めプレス成形された金属部材を接合対象物とする場合、プレス成形時には金属部材が洗浄油で洗浄されるため、プレス成形後の金属部材の表面には油分が付着したまま残っており、このように油分が金属部材の表面に付着した状態で摩擦接合を行うと、回転ツールの押し込みによって発生する摩擦熱の1部が油分の気化のほうに奪われてしまい、その結果、金属部材の軟化及び塑性流動の度合いが減損されて、摩擦接合の接合強度が低下してしまうという不具合が見出された。
もっとも、接合時間を長くとることができれば、油分が気化したのち、油分のない状態で、摩擦接合を良好に行うことができるが、現実には、生産性向上のため、接合時間は数秒以内と短く、このため油分付着の影響が大きく現れるのである。しかも、油分の付着量はその都度バラつくので、摩擦接合に与える影響もバラつき、その結果、接合強度も、例えば検査合格となる場合から不合格となる場合まで予測不可能に様々にバラついてしまうという問題も随伴する。
そして、このような問題は、洗浄油のみならず、一般機械油が金属部材の表面に付着した場合や、あるいは、金属部材の表面に水分が結露して付着したような場合にも生じ得る。
本発明は、金属部材同士を重ね合せて回転ツールによる摩擦熱で塑性流動させて接合する摩擦接合方法及びその装置において、油分及び水分等の液状物質の付着により金属部材が軟化及び塑性流動する時間が不足しあるいはバラつきが生じる問題を防止し、もって摩擦接合の接合強度の不足及びバラつきの問題が発生しない摩擦接合方法及びその装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、複数の金属部材を重ね合せたワークに一方の外表面の金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で金属部材を軟化及び塑性流動させて複数の金属部材を摩擦接合する方法であって、上記ワークにおける所定の接合部に付着している液状物質の付着量低減処理を行った後、上記接合部において上記摩擦接合を行うことを特徴とする。
そして、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、液状物質の付着量低減処理は、回転ツールを押し込む側の外表面の金属部材の外側の面の接合部に付着している油分の付着量低減処理であることを特徴とする。
また、本願の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、摩擦接合は、摩擦点接合であることを特徴とする。
次に、本願の請求項4に記載の発明は、複数の金属部材を重ね合せたワークに一方の外表面の金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で金属部材を軟化及び塑性流動させて複数の金属部材を摩擦接合する装置であって、上記ワークにおける所定の接合部に付着している液状物質の付着量低減処理を行う付着量低減手段と、該付着量低減手段で液状物質の付着量低減処理を行った上記接合部において回転ツールを回転させながらワークに押し込む回転ツール作動手段とを備えていることを特徴とする。
そして、本願の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、付着量低減手段は、ワークの外表面にエアを噴き付けることにより、回転ツールを押し込む側の外表面の金属部材の外側の面の接合部に付着している液状物質の付着量を低減するものであることを特徴とする。
さらに、本願の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、回転ツール作動手段は、回転ツールと、該回転ツールとの間でワークを挟持可能に配置された受け具と、上記回転ツールを回転させる回転手段と、上記回転ツールを上記受け具との間でワークを挟持又は解放するように上記受け具に対して進退移動させる移動手段とを有する接合ガンで構成されており、この接合ガンは、ロボットに備えられて、該ロボットによりワークの接合部に移動され、該接合部において摩擦接合を行うように構成されており、付着量低減手段は、上記接合ガンに具備されていることを特徴とする。
以上の様に構成したことにより、まず、請求項1に記載の発明によれば、金属部材同士を重ね合せて摩擦接合するに当たり、接合前に、ワークの接合部に付着している液状物質の付着量低減処理を行った後、上記接合部において上記摩擦接合を行うようにしたから、回転ツールによる摩擦熱の1部が液状物質の気化のほうに奪われて金属部材が十分軟化及び塑性流動している時間が不足し、かつバラつくことを抑制し、摩擦接合における接合強度の不足及びバラつきの発生を防止することが可能となる。
そして、請求項2に記載の発明によれば、液状物質の付着量低減処理は、回転ツールを押し込む側の外表面の金属部材の外側の面の接合部に付着している油分の付着量低減処理であることから、例えば、上記外表面の金属部材に隣接する金属部材に付着している油分の付着量低減処理を行う場合と比較して、回転ツールと直接接触し摩擦接合の接合強度に大きく影響を与える金属部材の外側の面の接合部に付着している油分を低減することとなり、摩擦接合における接合強度の不足及びバラつきの発生を一層効率良く防止することが可能となる。
次に、請求項3に記載の発明によれば、摩擦接合をスポット的に行う摩擦点接合としたから、例えば、予め3次元形状にプレス成形された金属部材同士の接合において、接合強度の不足及びバラつきの発生を防止することが可能となる。
そして、請求項4に記載の発明によれば、金属部材同士を重ね合せて摩擦接合する装置において、接合前に、ワークの接合部に付着している液状物質の付着量低減処理を行なう付着量低減手段と、該付着量低減手段で液状物質の付着量低減処理を行った後、上記接合部において摩擦接合を行う回転ツール作動手段とを備えたから、請求項1に記載の発明と同様に、回転ツールによる摩擦熱の1部が液状物質の気化のほうに奪われて金属部材が十分軟化及び塑性流動している時間が不足し、かつバラつくことが抑制され、摩擦接合における接合強度の不足及びバラつきの発生を防止することが可能となる。
また、請求項5に記載の発明によれば、付着量低減手段が、ワークの表面にエアを噴き付けることにより、回転ツールを押し込む側の外表面の金属部材の外側の面の接合部に付着している液状物質の付着量低減処理を行うものとしたから、他の手段、例えば油分を拭き取る場合と比較して、短時間に、簡便かつ確実に、油分を低減することが可能となる。
そして、請求項6に記載の発明によれば、回転ツール作動手段を、回転ツール、受け具、回転手段及び移動手段を有する接合ガンで構成し、その接合ガンをロボットに備えた上で、付着量低減手段を上記接合ガンに具備したから、ロボットの制御による摩擦接合を行う際に、接合のための手段と、付着量低減処理を行うための手段とが単一の接合ガンに配置されることとなって、ワークの接合部の油分を、近距離から、確実、容易に、効率的に低減することが可能となる。
以下、本発明の実施形態について図面に基いて説明する。
図1は、本実施形態に係る摩擦接合装置1の概略側面図である。この摩擦接合装置1は、例えば自動車のボディ等に採用されるアルミ部材同士の接合、又はアルミ部材と鋼部材との接合、特にスポット的に接合する点接合に用いられるもので、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を手首に備えるロボット40とを含んでいる。ロボット40としては、汎用される6軸垂直多関節型ロボットが好ましく使用可能である。
図2及び図3に拡大して示すように、接合ガン10は、ロボット40への取付ボックス11と、該取付ボックス11の下面から下方に延びるL字状のアーム12と、該アーム12の上方で上記取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、加圧用モータ14と、回転用モータ15とを有し、本体ケース13の下端部に接合用工具18の一方である回転ツール16が具備されている。一方、上記回転ツール16の直下で該回転ツール16と対向して上記アーム12の先端に接合用工具18の他方である受け具17が具備されている。
図4にさらに拡大して示すように、本体ケース13の内部には、上下に平行に延びるネジ軸(昇降軸)24とスプライン軸(回転軸)25とがそれぞれ回転自在に備えられている。両軸24,25の上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで従動プーリ26,27が組み付けられている。一方、図5に示すように、上蓋部材21は、本体ケース13の上部から本体ケース13の側方に張り出しており(図3参照)、この張出部に加圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。その場合に、両モータ14,15の出力軸14a,15aの上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで駆動プーリ14b,15bが組み付けられている。そして、各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間にそれぞれ動力伝達用のベルト28,29が巻き掛けられて、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa,b方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動される。
図4に戻り、ネジ軸24の螺子部24aに昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aに回転筒体35がスプライン結合されている。回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体に結合された昇降筒体33の内部に回転自在に備えられている。本体ケース13の下面には円筒状の下方突出部13aが形成されており、該下方突出部13aの下端部には下部カバー23が備えられて、昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は上記下部カバー23を超えて下方に突出している。その場合に、内側の回転筒体35のほうが外側の昇降筒体33よりも長く下方に突出し、該回転筒体35の先端部に取付部材36が固着されて、該取付部材36に回転ツール16が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。なお、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間に、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が備えられている。
以上により、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa方向に回転駆動されたときは、昇降体30(昇降ブロック31と結合部材32と昇降筒体33の一体物をいう)が螺子部24aとの螺合によって下降し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に下降する。逆に、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のb方向に回転駆動されたときは、昇降体30が螺子部24aとの螺合によって上昇し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に上昇する。また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動されたときは、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によって同方向cに回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も一緒に同方向cに回転する。図1〜図3には、そのときの回転ツール16の回転軸心を符号Xで示してある。
ここで、加圧用モータ14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく使用可能であり、回転用モータ15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータあるいは回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましく使用可能である。
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16は、特に、同種の金属部材(例えばアルミとアルミ等)の接合に好適なように設計されており、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)が、金属部材と当接して該金属部材を加圧するショルダ部16bとされている。そして、該ショルダ部16bの中心に円柱状のピン部16cが立設され、該ピン部16cはショルダ部16bよりも所定長さ(h)だけ下方に突出している。ここで、回転ツール16の具体的寸法としては、ショルダ部16bの直径が8mm、ピン部16cの直径が3mm、ピン部16cの突出長さ(h)が1.2mm等とされる。
そして、図1に示したように、ロボット40はハーネス51を介して制御盤50と接続されている。また、接合ガン10はハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50と接続されている。そして、加圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動が制御盤50によって開始、制御又は停止される。
そして、接合前にワークに付着している油、すなわち液状物質の付着量低減処理を行うための圧縮エアを発生させる装置として、コンプレッサ60が空気管62を介してロボット40に接続されており、該コンプレッサ60とロボット40との間には、エアの圧力を調節するレギュレータバルブ61が設けられている。さらに、開度を制御することで上記コンプレッサ60から圧送されてくるエアの噴き付け時期と噴き付け量とを制御するソレノイドバルブ64が接合ガン10に備えられて、ハーネス68と上記中継器53とハーネス52とを介して制御盤50に接続されている。そして、該ソレノイドバルブ64は空気管62,63を介して上記コンプレッサ60と接続されており、空気管66を介して上記コンプレッサ60から送られてくるエアを直接ワークに向けて噴き付ける噴射ノズル65と接続されている。また、該噴射ノズル65は、ブラケット67によりノズルの先端部がワークに向いた姿勢で接合ガン10に固定されている(図2、図3参照)。
次に、図7に例示するように、本実施形態においては、第1金属部材W1(例えばアルミ板材)を上板とし、第2金属部材W2(例えば同じくアルミ板材)を下板として重ね合せたワークを図示しない適宜手段によって把持して固定する。次に、このワークに向かって接合ガン10がロボット40によって近接されて、回転ツール16がワークの上方に、受け具17がワークの下方に位置して接合ガン10が停止する。そして、まず、接合ガン10全体が上動することにより、受け具が第2金属部材W2の下面に当接する。そして、この状態でワークに向かって上方から、つまり第1金属部材W1の側から、回転ツール16を回転させながら下降させて押し込み、この回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱で第1金属部材W1及び第2金属部材W2を軟化させ、そののち塑性流動させて、両金属部材W1,W2を固相接合する。
このとき、1つの接合部Pで接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10全体を下動させ、かつ所定距離だけ水平移動させた後、再び接合ガン10全体を上動させ、かつ回転ツール16を下降させて接合を行うことにより、第1・第2金属部材W1,W2を複数の接合部P…Pで摩擦点接合することができる。
ここで、接合対象物である第1金属部材W1及び第2金属部材W2が、例えば予め3次元形状にプレス成形された金属部材である場合は、該金属部材W1,W2は、プレス成形時に洗浄油で洗浄されているから、両金属部材W1,W2の表面には油分が付着して残った状態である。そして、この油分が付着したままの状態で接合を行うと、回転ツール16による摩擦熱が金属部材W1,W2の軟化だけでなく油分の気化のほうにも奪われてしまい、その結果、金属部材W1,W2の軟化及び塑性流動の度合いが減損されて、接合強度が低下してしまう。また、接合は短時間で行うから、油が付着している量に依存して、金属部材W1,W2が摩擦熱により十分軟化及び塑性流動できる時間にバラつきが生じてしまい、各接合部P…P毎に接合強度にバラつきが生じる。
そこで、本実施形態では、両金属部材W1,W2の表面に付着した油分、特に、回転ツール16を押し込む側の第1金属部材W1の上面に付着した油分が最も摩擦熱を奪って気化する度合いが大きく接合強度に影響を与えるため、接合前に、上記噴射ノズル65から噴射されるエアを第1金属部材W1の上面に噴き付けることで、該第1金属部材W1の上面に付着した油分のうち回転ツール16との接触領域、つまり接合部Pに付着した油分の除去(付着量低減処理)を行う。
油分の除去は、上記噴射ノズル65からエアを噴射させて第1金属部材W1の上面における接合部Pに噴き付けることで、ワークの接合部Pに付着している油分を除去して低減するため、例えば、布による油の拭き取り等の他の除去手段と比較して、短時間に、簡便かつ確実に、油分の付着量を低減して油分を除去することが可能となる。
また、噴射ノズル65は、接合ガン10に具備されており、ロボット40の制御による接合を行う際に、接合のための手段14〜17と、油の付着量低減処理を行うための手段64,65とが単一の接合ガン10に配置されることとなって、ワークの接合部Pの油分を、近距離から、確実、容易に、効率的に低減することが可能となる。
次に、摩擦点接合の手順について詳しく説明すると、まず、図8に示すように、接合動作の開始前、つまり回転ツール16が下降してピン部16cの先端が第1金属部材W1に接触する前に、ソレノイド64を所定時間開弁して、噴射ノズル65から噴出されるエアを第1金属部材W1に対して噴き付ける。
そして、図9に示すように、エアの噴き付けが終了した時点では、第1金属部材W1の上面に付着した油分Oのうち回転ツール16との接触部(接合部P)に付着している油分の付着量が低減されて除去されている。
次に、図10に示すように、回転ツール16が下降してピン部16cの先端が第1金属部材W1に接触したときは、その接触部位で摩擦熱Hが発生し、周囲に拡散していく。第1金属部材W1及び第2金属部材W2が、上記摩擦熱Hによって接合部Pにおいて軟化し始める。
そして、図11に示すように、回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bの先端が第1金属部材W1に突入したときは、ピン部16cの回転及び加圧に加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1及び第2金属部材W2は十分に軟化して塑性流動し始める(符号A)。
そして、図12に示すように、回転ツール16がさらに下降して、ピン部16cが第1、第2金属部材W1,W2の接合境界面より下方に潜り、ショルダ部16bが第1金属部材W1に深く突入したときは、回転ツール16で押し出された金属材料がバリBとなってワークの表面に隆起すると共に、両金属部材W1,W2の摩擦点接合(固相接合)の接合強度が向上する。
以上により、図13及び図14に示すように、接合終了後に回転ツール16を上昇させた後の接合部Pにおいては、ワークの表面に、バリBで囲まれた状態で、ショルダ部16bの痕16b′とピン部16cの痕16c′とが残る。ここで図13は、押圧力を3.42kN、回転数を2500rpm、接合時間を0.4sとして接合した場合の接合部Pの一例を示し、図14は、押圧力を3.42kN、回転数を2500rpm、接合時間を0.7sとして接合した場合の接合部Pの一例を示している。
図13及び図14のいずれの場合でも、回転ツール16のピン部16cで押圧された接合部Pにおける第1金属部材W1は、薄くなっているものの切断したり、穴があいたりせずに繋がっている。そして、回転ツール16を回転させながら押し込むことによって、第1、第2金属部材W1,W2の接合境界面において、また、ピン部16cの痕16c′の周囲において、下板W2に隆起部分R1,R2が生じている。この隆起部分R1,R2によって、上下の金属部材W1,W2間に機械的な噛み込みが生じ、この噛み込みが両金属部材W1,W2の接合強度の向上に寄与している。
その場合に、接合時間が長い図14の隆起部分R2の方が図13の隆起部分R1よりも盛り上がりが大きく、形状も複雑化しているため、図14に示した接合部Pの方が図13の接合部Pよりも噛み込みの強度ひいては接合強度もより大きくなっている。
次に、図15に示すように、異種金属部材である第1金属部材W1と第2金属部材W2とを摩擦接合した場合における接合強度の試験を、2種類の供試材について、それぞれ上板である第1金属部材W1の上面に油分が付着している場合と油分が付着していない場合とにおいて接合強度を調べた。この接合強度試験は、第1金属部材W1に6000系アルミ合金、第2金属部材W2に亜鉛メッキ鋼板を用いて接合を行ったときの接合強度を調べるテスト1と、第1金属部材W1に銅を添加した6000系アルミ合金、第2金属部材W2に亜鉛メッキ鋼板を用いて接合を行ったときの接合強度を調べるテスト2との2つの試験を行った。
なお、摩擦接合を行う際の接合条件は、回転ツール16による加圧を3段階に変化させる3段階方式とした。また、この接合強度試験において、上板である第1金属部材W1の上面に付着させる油は、低粘性の金属部材洗浄用の油とした。
そして、図16に示すように、この接合強度試験の試験方法は、十字引っ張り試験を採用した。すなわち、第1、第2金属部材W1,W2を十字形状に重ね合せてクランプした状態で、第1金属部材W1の上側から十字の中央部の接合部Pの位置に摩擦接合を行った後、第1金属部材W1を上方向矢印Y1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を下方向矢印Y2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2が剥離したときの引っ張り力(剥離強度)を調べた。結果を図17に示す。なお、この図17に示した剥離強度の結果は、テスト1及びテスト2において上記十字引っ張り試験を3回行ったときの剥離強度の値の平均値を示している。
上記テスト1及びテスト2における剥離強度の測定結果では、図17に示すように、テスト1及びテスト2のいずれにおいても、油分の付着がない場合の方が、油分の付着がある場合よりも剥離強度が大きかった。また、図中の縦線グラフで表される剥離強度の標準偏差σは、テスト1及びテスト2のいずれにおいても、上板である第1金属部材W1に油分が付着していない場合の方が付着している場合よりも小さい値を示していた。つまり、上板W1に油分が付着していない場合の方が、上板W1に油分が付着している場合と比較して、剥離強度、すなわち接合強度のバラつきが小さく、品質が一定していることが確認できた。
これは、上板W1に油分付着があると、回転ツール16の押し込みによって発生する摩擦熱の1部が油分の気化のほうに奪われて、その結果、金属部材W1の軟化及び塑性流動の度合いが減損されて、摩擦接合の接合強度が低下してしまうためである。加えて、この剥離強度試験においては、接合時間は数秒以内と短くしているため、油分付着の影響が大きく現れたのである。しかも、油分の付着量のバラつきに伴って、摩擦接合に与える影響もバラつき、その結果、接合強度も、大きくバラついてしまうため、標準偏差σの値が大きくなったのである。
以上の結果から、上板である第1金属部材W1の上面に付着している油分の付着量低減処理を行った後、両金属部材W1,W2の接合を行うようにすることで、例えばプレス成形時に用いる洗浄油が付着したまま摩擦接合を行った場合に、回転ツール16による摩擦熱の1部が油分の気化のほうに奪われて第1金属部材W1が十分軟化及び塑性流動している時間が不足し、かつバラつくという不具合を抑制し、もって摩擦接合における接合強度の不足及びバラつきの発生を防止することが可能となる。
次に、図18に示すように、同種の金属部材である第1金属部材(アルミ合金板)W1と第2金属部材(アルミ合金板)W2とを摩擦接合した場合における接合強度の試験を、2種類の油を用いて、それぞれ上板である第1金属部材W1の上面のみに油分が付着している場合と、下板である第2金属部材W2の上面(すなわち、第1、第2金属部材W1,W2の接合境界面)のみに油分が付着している場合と、第1金属部材W1の上面及び第2金属部材W2の上面に油分が付着している場合とにおいて行った。なお、この接合強度試験では、低粘性洗浄用油Aと高粘性機械油Bの2種類の油を用いた。
図19に示すように、この接合強度試験の試験方法は、引っ張りせん断試験を採用した。すなわち、第1金属部材W1と第2金属部材W2との一端部同士を所定の重ね代で重ね合わせてクランプした状態で、第1金属部材W1の上側から6つの接合部P1〜P6の位置に順番に摩擦接合を行った後、各接合部P1〜P6について、図19に示すような切断線Vに沿って各接合部P1〜P6を切断したのち、各接合部毎に第1金属部材W1を矢印Z1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を矢印Z2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2がせん断剥離をしたときの引っ張り力を調べた。結果を図20のテーブル及び図21〜図23のグラフに示す。なお、図21〜図23における縦線グラフは標準偏差σを表している。
これらの結果から明らかなように、油A及び油Bのいずれにおいても、また、油A,Bの付着部位に関らず、油A,Bが付着していない場合(テスト1)は、油A,Bが付着している場合(テスト2〜7)よりも引っ張りせん断荷重が大きいことがわかる。
また、油A,Bいずれにおいても上板W1に油A,Bが付着している場合(テスト2,5又はテスト4,7)は、下板W2に油A,Bが付着している場合(テスト3,6)よりも引っ張りせん断荷重が小さいことがわかる。これは、第1金属部材W1の上面に付着している油A,Bが、第2金属部材W2の上面に付着している油A,B等と比較して、摩擦接合の際に回転ツール16と直接接触するので、該回転ツール16により発生する摩擦熱の1部を油A,Bの気化に奪う程度がより大きいためである。
この測定結果から、第1金属部材W1と第2金属部材W2との接合において、両金属部材W1,W2の接合強度の低下及びバラつきに大きい影響を与えている原因の一つは、回転ツール16を押し込む側である第1金属部材W1の上面に付着している油分(より詳しくは接合部Pに付着している油分)であることがわかる。したがって、第1金属部材W1と第2金属部材W2との接合を行う前に、第1金属部材W1の上面の接合部Pに付着している油分の付着量低減処理を行うことで、回転ツール16による摩擦熱の1部が油分の気化のほうに奪われて金属部材W1,W2が十分軟化及び塑性流動している時間が不足し、かつバラつくことが抑制され、摩擦接合における接合強度の不足及びバラつきの発生を防止することが可能となる。
なお、以上説明した実施形態においては、1つの接合部Pで接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10全体を下動させ、かつ所定距離だけ水平移動させた後、再び接合ガン10全体を上動させ、かつ回転ツール16を下降させて接合を行うことにより、金属部材W1,W2を複数の接合部P…Pでスポット的に接合する摩擦点接合で金属部材W1,W2の接合を行ったが、これに代えて、回転ツール16を回転させながら押し込んだ状態で、上記ロボット40の制御により該回転ツール16を所定の接合部に沿って移動させることで、金属部材W1,W2を連続的に接合する摩擦連続接合を行っても構わない。