図1は、本実施形態に係る摩擦点接合装置1の概略側面図である。この摩擦点接合装置1は、例えば自動車のボディ等に採用されるアルミ部材同士の接合、又はアルミ部材と鋼部材との接合に用いられるもので、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を手首に備えるロボット40とを含んでいる。ロボット40としては、汎用される6軸垂直多関節型ロボットが好ましく使用可能である。
図2及び図3に拡大して示すように、接合ガン10は、ロボット40への取付ボックス11と、該取付ボックス11の下面から下方に延びるL字状のアーム12と、該アーム12の上方で上記取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、加圧用モータ14と、回転用モータ15とを有し、本体ケース13の下端部に接合用工具18の一方である回転ツール16が具備されている。一方、上記回転ツール16の直下で該回転ツール16と対向して上記アーム12の先端に接合用工具18の他方である受け具17が具備されている。
図4にさらに拡大して示すように、本体ケース13の内部には、上下に平行に延びるネジ軸(昇降軸)24とスプライン軸(回転軸)25とがそれぞれ回転自在に備えられている。両軸24,25の上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで従動プーリ26,27が組み付けられている。一方、図5に示すように、上蓋部材21は、本体ケース13の上部から本体ケース13の側方に張り出しており(図3参照)、この張出部に加圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。その場合に、両モータ14,15の出力軸14a,15aの上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで駆動プーリ14b,15bが組み付けられている。そして、各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間にそれぞれ動力伝達用のベルト28,29が巻き掛けられて、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa,b方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動される。
図4に戻り、ネジ軸24の螺子部24aに昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aに回転筒体35がスプライン結合されている。回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体に結合された昇降筒体33の内部に回転自在に備えられている。本体ケース13の下面には円筒状の下方突出部13aが形成されており、該下方突出部13aの下端部には下部カバー23が備えられて、昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は上記下部カバー23を超えて下方に突出している。その場合に、内側の回転筒体35のほうが外側の昇降筒体33よりも長く下方に突出し、該回転筒体35の先端部に取付部材36が固着されて、該取付部材36に回転ツール16が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。なお、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間に、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が備えられている。
以上により、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa方向に回転駆動されたときは、昇降体30(昇降ブロック31と結合部材32と昇降筒体33の一体物をいう)が螺子部24aとの螺合によって下降し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に下降する。逆に、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のb方向に回転駆動されたときは、昇降体30が螺子部24aとの螺合によって上昇し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に上昇する。また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動されたときは、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によって同方向cに回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も一緒に同方向cに回転する。図1〜図3には、そのときの回転ツール16の回転軸心を符号Xで示してある。
ここで、加圧用モータ(特許請求の範囲の「移動手段」)14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく使用可能であり、回転用モータ(特許請求の範囲の「回転手段」)15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータあるいは回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましく使用可能である。
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16は、特に、異種の金属部材(例えばアルミと鋼等)の接合に好適なように設計されており、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)が、金属部材と当接して該金属部材を加圧するショルダ部16bとされている。その場合に、ショルダ部16bは、平坦ではなく、所定角度(θ)傾斜して、回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状(特許請求の範囲の「回転軸心を中心とする環状の窪みが形成された」形状の1例:この他、回転軸心X側に向かって深くなるように傾斜した曲面形状等でもよい)とされている。そして、該ショルダ部16bの中心に円柱状のピン部16cが立設され、該ピン部16cはショルダ部16bの下端部つまりショルダ部16bの周縁部よりも所定長さ(h)だけ下方に突出している。ここで、回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、後述するように(図14及び図15参照)、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ショルダ部16bの傾斜角(θ)が5°〜7°、ピン部16cの突出長さ(h)が0.35mm又は0.3mm等とされる。
図1に示したように、ロボット40はハーネス51を介して制御盤50と接続されている。また、接合ガン10はハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50と接続されている。そして、加圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動が制御盤50に内蔵された制御ユニット50a(図12参照)によって開始、制御又は停止される。
図7に例示するように、本実施形態においては、融点の相対的に低い第1金属部材W1(例えばアルミ板材)を上板とし、融点の相対的に高い第2金属部材W2(例えば鋼板材)を下板として重ね合せたワークを図示しない適宜手段によって把持して固定する。次に、このワークに向かって接合ガン10がロボット40によって近接されて、回転ツール16がワークの上方に、受け具17がワークの下方に位置して接合ガン10が停止する。そして、まず、接合ガン10全体が上動することにより、受け具が第2金属部材W2の下面に当接する。そして、この状態でワークに向かって上方から、つまり第1金属部材W1の側から、回転ツール16を回転させながら下降させて押し込み、この回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱で第1金属部材W1を軟化させ、そののち塑性流動させて、両金属部材W1,W2を固相接合する。
このとき、1つの接合部Pでの接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10全体を下動させ、かつ所定距離だけ水平移動させた後、再び接合ガン10全体を上動させ、かつ回転ツール16を下降させて接合を行い、これを繰り返すことにより、第1・第2金属部材W1,W2を複数の接合部P…Pで摩擦点接合することができる。
さらに詳しく説明すると、図8に示すように、摩擦点接合動作の初期、つまり回転ツール16が下降してピン部16cの先端が第1金属部材W1に接触したときは、その接触部位で摩擦熱Hが発生し、周囲に拡散していく。第1金属部材W1、及び第2金属部材W2の酸化防止のために第2金属部材W2の表面に施されている亜鉛メッキ層Zは、上記摩擦熱Hによって接合部Pにおいて軟化し始める。
次に、図9に示すように、摩擦点接合動作の中期、つまり回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bの先端が第1金属部材W1に突入したときは、ピン部16cの回転及び加圧に加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1は十分に軟化して塑性流動し始める(符号A)。しかも、このとき、回転ツール16のショルダ部16bが、回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状、すなわち回転軸心Xを中心とする環状の窪みが形成された形状とされているから、塑性流動する第1金属部材W1は、回転ツール16の直下から外方へ流出するのが抑制され、その結果、回転ツール16による加圧力が回転ツール16の直下に集中して、第1金属部材W1の塑性流動が促進される。
また、回転ツール16による加圧及び第1金属部材W1の塑性流動によって、軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第2金属部材W2の上面)において第2金属部材W2の新生面が露出すると共に、図示しないが、空気中の酸素により第1金属部材W1の表面に生成している酸化皮膜が接合部Pにおいて破壊され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第1金属部材W2の下面)において第1金属部材W1の新生面が露出する。
そして、図10に示すように、摩擦点接合動作の後期、つまり回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bが第1金属部材W1に深く突入したときは、回転ツール16で押し出された金属材料がバリBとなってワークの表面に隆起すると共に、亜鉛メッキ層Zがより一層接合部Pから押し出され、また酸化皮膜がより一層破壊されて、両金属部材W1,W2の新生面の露出範囲が拡大する(図中×で表示した範囲)。その結果、両金属部材W1,W2の摩擦点接合(固相接合)の接合強度の向上が図られる。
なお、亜鉛メッキ層Zの1部に(符号Y)、第1金属部材Wから由来した金属と、亜鉛メッキ層Zから由来した金属との金属混合物が生成する。
以上により、図11に示すように、接合終了後に回転ツール16を上昇させた後の接合部Pにおいては、ワークの表面に、バリBで囲まれた状態で、ショルダ部16bの痕とピン部16cの痕とが残る。ただし、その場合に、ピン部16cの先端が上板である第1金属部材W1を突き抜けて下板である第2金属部材W2に突き当たらないように、回転ツール16の寸法や板組みW1,W2に応じて、接合条件が調整されている(図14及び図15参照)。さもないと、第1金属部材W1にピン部16cで孔が開いてしまい、接合強度不足あるいは電気腐食等の不具合が生じてしまうからである。
なお、上記例では、第2金属部材W2に酸化防止用の亜鉛メッキ層Zを形成したものを用いたが、これに代えて、亜鉛メッキ層を形成することなく、第2金属部材W2に生成した酸化皮膜を予め研摩・研削等により除去した後に、第1金属部材W1と第2金属部材W2とを固相接合するようにしてもよい。
次に、本発明の特徴部分を説明する。図12は、本実施形態に係る摩擦点接合装置1の制御システム図である。制御盤50に制御ユニット50aが内蔵されており、この制御ユニット50aは、加圧用モータ14から昇降軸24の回転角(ω)信号を入力し、加圧用モータ14へ加圧制御信号を出力する。また、回転用モータ15から負荷電流(I)信号、つまり回転軸25の回転駆動トルク(A)信号を入力し、回転用モータ15へ回転制御信号を出力する。加えて、制御ユニット50aは、例えば制御盤50に具備された入力装置50bから次に説明する各種設定値を入力する。
ここで、加圧用モータ14の回転角(ω)を制御することにより回転ツール16の加圧力を変更することができ、回転用モータ15の回転速度を制御することにより回転ツール16の回転数を変更することができることはいうまでもない。
図13は、上記制御ユニット(特許請求の範囲の「トルク検出手段」、「せん断トルク算出手段」及び「トルク制御手段」)50aが行う摩擦点接合動作の第1例を示すフローチャートである。すなわち、制御ユニット50aは、ステップS1で、各種設定値を初期入力する。ここで、初期入力する設定値としては、回転ツール16の型番(回転ツール16の寸法、形状、材質等)、アルミ板材W1の種類(アルミ板材W1の材質、厚さ、表面状態、メッキの有無等)、及び接合条件(回転ツール16の加圧力、回転数、接合時間等)に加えて、接合部Pのアルミ残厚Tが含まれる。ここで、接合部Pのアルミ残厚Tは、図11に示したように、接合終了時の接合部Pにおいて、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されていたアルミ板材W1の部分の残厚であり(この接合終了時の残厚は接合中のいかなる残厚よりも小さな値となる)、その値は予め実験により求めておくことができる。
そして、この場合、各種設定値の初期入力は、摩擦点接合を開始する前に、作業者が上記入力装置50bを用いて手動で入力してもよいし、あるいは予め各種設定値を制御ユニット50aの記録装置(メモリ等:図示せず)に登録しておいて、摩擦点接合の開始時に設定値を指定して上記記録装置から呼び出すようにしてもよい。
次いで、ステップS2で、上記各種設定値に基いて、アルミ板材W1のせん断トルクFを算出する(「せん断トルク算出手段」としての動作)。ここで、アルミ板材W1のせん断トルクFは、図11に示したように、接合終了時の接合部Pにおいて、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されていたアルミ板材W1の部分のせん断トルクであり(この接合終了時のせん断トルクは接合中のいかなるせん断トルクよりも小さな値となる)、その値はショルダ部16bの直径や上記接合部Pのアルミ残厚T等から求められる。
次いで、ステップS3で、上記せん断トルクF及び所定の安全率に基いて、回転軸25トルクAの閾値B、つまり回転ツール16の回転駆動トルクの閾値Bを算出する。ここで、安全率は、閾値Bの値をせん断トルクFの値よりも小さくするように働く係数である。
次いで、ステップS4で、接合動作を開始する。つまり、回転ツール16を回転させながら下降を開始する。
次いで、ステップS5で、回転ツール16のショルダ部16bがアルミ板材W1に突入したか否かを判定する。つまり、前述の図9のように、小径のピン部16cに加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1が十分に軟化して塑性流動が可能な状態になったか否かを判定する。その結果、YESと判定されるまでこのステップS5の判定を繰り返し行い、YESと判定された時点で、ステップS6に進む。
なお、このステップS5の判定を行うには、ワークの高さ位置(z軸座標)と、回転ツール16の高さ位置(z軸座標)とを知る必要があるが、前者は、第1金属部材W1の厚みと第2金属部材W2の厚みとから既知であり、また後者は、z軸座標の基準点に対する加圧用モータ14の回転角(ω)と回転ツール16の寸法とから検出できる。
次いで、ステップS6で、回転ツール16のショルダ部16bがアルミ板材W1に突入した後、所定時間tが経過したか否かを判定する。つまり、前述の図9のように、小径のピン部16cに加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1が十分に軟化して塑性流動が開始したか否かを判定する。その結果、YESと判定されるまでこのステップS6の判定を繰り返し行い、YESと判定された時点で、ステップS7に進む。
次いで、ステップS7で、回転用モータ15の負荷電流Iに基いて、回転軸25トルクA、つまり回転ツール16の回転駆動トルクを算出する(「トルク検出手段」としての動作)。
次いで、ステップS8で、回転軸25トルクAが、回転軸25トルクAの閾値Bよりも小さいか否かを判定する。その結果、YESと判定されたときは、そのままステップS9に進み、NOと判定されたときは、ステップS10を経由してステップS9に進む。
回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいと判定されたステップS9では、接合終了か否かを判定する。つまり、接合条件のうちの接合時間(図14及び図15参照)が経過したか否かを判定する。その結果、YESと判定されたときは、エンドとなり、NOと判定されたときは、ステップS7に戻る。
一方、回転軸25トルクAが閾値Bよりも大きいと判定されたステップS10では、加圧用モータ14を制御して回転ツール16の加圧力を所定量Δだけ減少する(「トルク制御手段」としての動作)。つまり、移動手段である加圧用モータ14を制御することで(この場合は図5におけるb方向に回転させることで)、回転ツール16の加圧力を制御し(この場合は減少させ)、その結果、回転軸25トルクA、つまり回転ツール16の回転駆動トルクを制御する(この場合は減少させる)のである。
図14及び図15は、上記図13の摩擦点接合動作第1例に従って行ったテスト1及びテスト2における具体的な各種設定値をまとめたものである。まず、板組みについてみると、図14のテスト1及び図15のテスト2共に、第1金属部材である上板W1を6000系のアルミニウム合金板とし、第2金属部材である下板W2を亜鉛メッキ鋼鈑とした。ただし、上板W1の厚みについては、テスト1では1.4mm、テスト2では0.7mmと異ならせた。また、下板W2の厚みについても、テスト1では1.0mm、テスト2では1.2mmと異ならせた。
次に、回転ツール16の寸法についてみると、回転ツール16を押し込む側のアルミ板材W1が相対的に厚い(1.4mm)テスト1では、ピン部16cの突出長さ(h)が0.35mmと相対的に長い回転ツール16を用い、アルミ板材W1が相対的に薄い(0.7mm)テスト2では、ピン部16cの突出長さ(h)が0.3mmと相対的に短い回転ツール16を用いた。その他の仕様は同じである。
そして、接合条件として2段加圧を採用した。つまり、接合動作中、常に同じ加圧力及び同じ回転数で回転ツール16を操作するのではなく、第1段(ピン部16cがワークに接触してからショルダ部16bがワークに接触するまでの期間)は、相対的に低い加圧力(図例では1.47kN)かつ高い回転数(同3,500rpm)で回転ツール16をワークに押し込み(テスト1では接合時間は1.0秒、テスト2では1.5秒)、そして第2段(ショルダ部16bがワークに接触してからショルダ部16bが所定の深さまでワークに突入するまでの期間)は、相対的に高い加圧力(テスト1では3.92kN、テスト2では2.45kN)かつ低い回転数(テスト1では2,500rpm、テスト2では2,800rpm)で回転ツール16をワークに押し込む(テスト1では接合時間は1.54秒、テスト2では3.24秒)ようにしたのである。
図16及び図17は、上記摩擦点接合テスト1及びテスト2における回転軸25トルクAの変化を示すタイムチャートである。時間軸の「0」が第1段の開始時刻、つまりピン部16cの先端がワークに初めて接触した時刻である。
テスト1では第1段の接合時間が1.0秒であるから、時間軸の「1」が、またテスト2では第1段の接合時間が1.5秒であるから、時間軸の「1.5」が、それぞれ、第1段の終了時刻かつ第2段の開始時刻、つまりショルダ部16bの先端(より詳しくは、ショルダ部16bの周縁部の先端)がワークに初めて接触した時刻となる(図13のステップS5でYESと判定される時刻)。
そして、上記時刻から所定時間tが経過した以降は、回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいか否かの図13のステップS8の判定を行うのであるが、テスト1及びテスト2共に、上記所定時間tは0.5秒とした。つまり、ショルダ部16bがワークへ突入してから0.5秒が経過するまでには第1金属部材W1が十分に軟化して塑性流動が開始するとの前提である。
そして、テスト1では第2段の接合時間が1.54秒であるから、時間軸の「2.54」が、またテスト2では第2段の接合時間が3.24秒であるから、時間軸の「4.74」が、それぞれ、第2段の終了時刻、つまり接合終了時刻となる(図13のステップS9でYESと判定される時刻)。そして、この接合終了時刻まで継続して図13のステップS7の回転軸25トルクAの算出、ステップS8の回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいか否かの判定、及びステップS10の加圧用モータ14の制御が繰り返し行われることとなる。
そして、テスト1及びテスト2共に、第2段の開始初期には回転軸25トルクAが上昇している。これは、まだ軟化が不十分で硬い状態の第1金属部材W1に回転ツール16のショルダ部16bを第2段の高い加圧力で押し込んで突入させたからである。しかしながら、時間の経過に伴い、第1金属部材W1は軟化が進み、柔らかくなって、ついには塑性流動し始める。図中「接合良好」と表示した実線で、所定時間tが経過するまでに、回転軸25トルクAが急減して、閾値Bよりも小さくなっているのは、そのためである(この場合、図13のステップS8でNOと判定されることは1度もない)。つまり、ショルダ部16bがワークへ突入してから0.5秒が経過するまでには第1金属部材W1が十分に軟化して塑性流動が開始するという前述の前提通りに図13の摩擦点接合が推移したのである。この場合、第1金属部材(アルミ板材)W1は、接合部Pにおいて回転ツール16(特にショルダ部16bの鋭角な周縁部)で引きちぎられることがなく、したがって、接合部Pにおいて第1金属部材W1の欠損が発生して摩擦点接合の接合強度が低下するというような問題は生じない。
これに対し、図16及び図17で「接合不良」と表示した破線のように、所定時間tが経過した後も、回転軸25トルクAが下がりきらず、長時間に亘って閾値Bよりも大きい状態に維持される場合がある。これは、何等かの理由で、ショルダ部16bの突入後も、第1金属部材W1の軟化が進まず、第1金属部材W1が硬く塑性流動性に欠けたままになったからである。このような場合は、上記「接合良好」の場合とは逆に、第1金属部材(アルミ板材)W1は、接合部Pにおいて回転ツール16(特にショルダ部16bの鋭角な周縁部)で引きちぎられ、したがって、接合部Pにおいて第1金属部材W1の欠損が発生して摩擦点接合の接合強度が低下するという問題が生じる。
そこで、テスト1及びテスト2共に、判定開始時刻から接合終了時刻まで、継続して、図13のステップS7の算出、ステップS8の判定、及びステップS10の制御を繰り返し行うことにより、図16及び図17で「トルク制御」と表示した鎖線のように、判定開始時刻(所定時間tが経過した時刻)においてもまだ大きい値に留まっていた回転軸25トルクAを、判定開始後に、速やかに、閾値Bよりも小さい状態に低下させることができたのである。もちろん、この場合の回転軸25トルクAの低下速度はステップS10の減少所定量Δに依存する。
このように、図13のステップS2で、接合終了時の接合部Pにおいて、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されていた第1金属部材W1の部分をせん断するのに必要なトルクFを算出しておき、さらに、ステップS3で、上記せん断トルクFと安全率とから、回転軸25トルクAの閾値B、つまり回転ツール16の回転駆動トルクの閾値Bを算出しておき、そして、回転ツール16による接合中に、ステップS8及びステップS10で、回転軸25トルクA、つまり回転ツール16の回転駆動トルクが上記算出した閾値Bよりも小さくなるように、加圧用モータ14を制御して回転ツール16の加圧力を所定量Δだけ減少するようにしたから、接合中に、回転ツール16の回転駆動トルクが、第1金属部材W1の残厚T(図11参照)が最も薄くなる接合終了時のせん断トルク(この接合終了時のせん断トルクは他の条件が同じとして接合中のせん断トルクよりも小さな値となる)を超えることがなく、したがって、接合中に回転ツール16で第1金属部材W1を引きちぎってしまうという現象が確実に防止されて、接合部Pにおける第1金属部材W1欠損の問題、及び摩擦点接合の接合強度低下の問題が解消される。
しかも、その場合に、図13のステップS10で、回転ツール16を回転軸心X方向に進退移動させる移動手段(加圧用モータ14)を制御することによって回転ツール16の加圧力を制御し、その結果、回転ツール16の回転駆動トルクを制御するようにしたから、応答性よくかつ簡便に回転ツール16の回転駆動トルクを制御することが可能となる。
なお、図16及び図17において、閾値Bが時間軸の「0」(第1段の開始時刻)よりも前から発生しているのは、図13のステップS4の接合動作開始の前に、ステップS1〜S3で、閾値Bがすでに算出されていることを表している(ステップS4の接合動作開始の時刻でさえ時間軸の「0」より前にある)。
次に、図18は、上記制御ユニット50aが行う摩擦点接合動作の第2例を示すフローチャートである。この接合動作第2例と先の図13の第1例との違いは、第1例では、接合終了時の接合部Pにおいて回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されていた第1金属部材W1の部分をせん断するのに要するトルクF及び閾値Bを、接合動作開始(ステップS4)の前に予め算出しておいた(ステップS1〜S3)のに対し、この第2例では、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されている第1金属部材W1の部分をせん断するのに必要なトルクF及び閾値Bを、接合動作中に毎回算出する(ステップS26〜S28)点である。
すなわち、制御ユニット50aは、ステップS21で、各種設定値を初期入力する。ここで、初期入力する設定値としては、回転ツール16の型番(回転ツール16の寸法、形状、材質等)、アルミ板材W1の種類(アルミ板材W1の材質、厚さ、表面状態、メッキの有無等)、及び接合条件(回転ツール16の加圧力、回転数、接合時間等)が含まれる。図13の第1例と異なり、接合部Pのアルミ残厚Tは含まれない。
次いで、ステップS22で、接合動作を開始する。
次いで、ステップS23で、回転ツール16のショルダ部16bがアルミ板材W1に突入したか否かを判定する。その結果、YESと判定されるまでこのステップS23の判定を繰り返し行い、YESと判定された時点で、ステップS24に進む。
次いで、ステップS24で、回転ツール16のショルダ部16bがアルミ板材W1に突入した後、所定時間tが経過したか否かを判定する。その結果、YESと判定されるまでこのステップS24の判定を繰り返し行い、YESと判定された時点で、ステップS25に進む。
次いで、ステップS25で、回転用モータ15の負荷電流Iに基いて、回転軸25トルクA、つまり回転ツール16の回転駆動トルクを算出する(「トルク検出手段」としての動作)。
次いで、ステップS26で、回転ツール16の沈み込み深さに基いて、接合部Pのアルミ残厚Tを検出する。つまり、ワークの高さ位置(z軸座標)と回転ツール16の高さ位置(z軸座標)とから、接合中において、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部でいま現に加圧されている第1金属部材W1の部分の残厚Tを算出するのである(この接合中の残厚は接合終了時の残厚よりも大きな値となる)。
なお、このステップS26の検出を行うには、ワークの高さ位置(z軸座標)と、回転ツール16の高さ位置(z軸座標)とを知る必要があるが、前者は、第1金属部材W1の厚みと第2金属部材W2の厚みとから既知であり、また後者は、z軸座標の基準点に対する加圧用モータ14の回転角(ω)と回転ツール16の寸法とから検出できる。
次いで、ステップS27で、上記各種設定値(ステップS21で初期入力されたもの)及びアルミ残厚T(ステップS26で検出されたもの)に基いて、アルミ板材W1のせん断トルクFを算出する(「せん断トルク算出手段」としての動作)。ここで、アルミ板材W1のせん断トルクFは、接合中の接合部Pにおいて、回転ツール16のショルダ部16bの周縁部でいま現に加圧されているアルミ板材W1の部分のせん断トルクであり(この接合中のせん断トルクは接合終了時のせん断トルクよりも大きな値となる)、その値はショルダ部16bの直径や上記接合部Pのアルミ残厚T等から求められる。
次いで、ステップS28で、上記せん断トルクF及び所定の安全率に基いて、回転軸25トルクAの閾値B、つまり回転ツール16の回転駆動トルクの閾値Bを算出する。
次いで、ステップS29で、回転軸25トルクAが、回転軸25トルクAの閾値Bよりも小さいか否かを判定する。その結果、YESと判定されたときは、そのままステップS30に進み、NOと判定されたときは、ステップS31を経由してステップS30に進む。
回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいと判定されたステップS30では、接合終了か否かを判定する。その結果、YESと判定されたときは、エンドとなり、NOと判定されたときは、ステップS25に戻る。
一方、回転軸25トルクAが閾値Bよりも大きいと判定されたステップS31では、加圧用モータ14を制御して回転ツール16の加圧力を所定量Δだけ減少する(「トルク制御手段」としての動作)。つまり、移動手段である加圧用モータ14を制御することで(この場合は図5におけるb方向に回転させることで)、回転ツール16の加圧力を制御し(この場合は減少させ)、その結果、回転軸25トルクA、つまり回転ツール16の回転駆動トルクを制御する(この場合は減少させる)のである。
図19は、上記摩擦点接合動作の第2例における回転軸25トルクAの変化を示すタイムチャートである。先の第1例と同様、時間軸の「0」が第1段の開始時刻で、第2段の開始時刻から所定時間tが経過したときに、回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいか否かの図18のステップS29の判定が開始される。そして、上記閾値Bは、上記判定開始時刻(所定時間tが経過した時刻)より以降で発生する。ここで、上記閾値Bが時間の経過に伴い減少していくのは、回転ツール16の第2段の高い加圧力によってアルミ残厚Tが次第に薄くなっていくからである。
このように、判定開始時刻から接合終了時刻まで、継続して、図18のステップS25の回転軸25トルクAの算出、ステップS26のアルミ残厚Tの検出、ステップS27のせん断トルクFの算出、ステップS28の閾値Bの算出、ステップS29の回転軸25トルクAが閾値Bよりも小さいか否かの判定、及びステップ31の加圧用モータ14の制御を繰り返し行うことにより、図19で「トルク制御」と表示した鎖線のように、判定開始時刻においてもまだ大きい値に留まっていた回転軸25トルクAを、判定開始後に、速やかに、閾値Bよりも小さい状態に低下させることができた。ただし、図例では、前述したように閾値Bが時間の経過に伴い減少することに起因して、接合終了時刻までに、途中で、回転軸25トルクAをもう1度低下させている。
すなわち、この摩擦点接合動作第2例では、回転ツール16による接合中に(ステップS22以降に)、該回転ツール16のショルダ部16bの周縁部で加圧されている第1金属部材W1の部分をせん断するのに必要なトルクF及び閾値Bを算出し(ステップS27〜S28)、そして、同じく回転ツール16による接合中に(ステップS22以降に)、該回転ツール16の回転駆動トルクが上記算出したせん断トルクFないし閾値Bよりも小さくなるように該回転ツール16の回転駆動トルクを制御するようにしたから(ステップS29,S31)、先の第1例と同様、接合中に、回転ツール16の回転駆動トルクが、その時点で算出されたせん断トルクFないし閾値B(ここで前述したように閾値Bは安全率によってせん断トルクFより小さい値に算出されている)を超えることがなく、したがって、接合中に回転ツール16で第1金属部材W1を引きちぎってしまうという現象が確実に防止されて、接合部Pにおける第1金属部材W1欠損の問題、及び摩擦点接合の接合強度低下の問題が解消される。
加えて、この第2例では、接合中に回転ツール16で第1金属部材W1を引きちぎってしまわない範囲内でできるだけ大きなトルクで回転ツール16を回転駆動できるから、第1金属部材W1の軟化及び塑性流動の促進の効果が徒に大きく損なわれることもない。つまり、図19の「トルク制御」の鎖線の変化において、閾値Bが時間の経過に伴い減少することに起因して接合終了時刻までに途中で回転軸25トルクAをもう1度低下させていると前述したのは、この表れであって、判定開始初期においては回転ツール16の回転駆動トルクの下げ幅が第1例に比べて少なくて済んでいるのである。
換言すれば、この第2例では、閾値Bは、判定開始初期においては比較的大きい値に算出されるので(アルミ残厚Tが比較的大きいから)、回転ツール16の回転駆動トルクも比較的大きくできるのである。これに対し、第1例では、閾値Bは、判定開始初期から比較的小さい値に算出されるので(アルミ残厚Tが接合終了時のアルミ残厚であって小さいから)、回転ツール16の回転駆動トルクも比較的小さくしなければならないのである。
なお、上記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、なお種々の修正・変更が可能であることはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、摩擦点接合装置1は、接合ガン10をロボット40の手首に備える構成であったが、これに代えて、例えば接合ガン10をフレームで下垂状態に支持し、かつ接合ガン10をレールに沿って水平移動自在として、この接合ガン10の動きで複数の接合部P…Pでの摩擦点接合が可能な構成としてもよい。