JP2008221227A - 摩擦点接合構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】摩擦点接合構造におけるAl−Fe系化合物やZnAl化合物が接合強度に及ぼす影響を解明し、Al−Fe系化合物層やZnAl化合物を含む組織の構成を接合強度との関連で特定した摩擦点接合構造を提供する。
【解決手段】接合部側に亜鉛メッキ層を形成した鋼板とアルミ合金板とを重ね合せ、回転ツールを回転させながらアルミ合金板に押し込み、摩擦熱でアルミ合金板を軟化させ、塑性流動を生じさせてアルミ合金板と鋼板とを固相状態で接合した摩擦点接合構造において、回転ツールを回転させながらアルミ合金板に押し込み、軟化した亜鉛メッキ層の大部分を接合部から排出し、アルミ合金板と鋼板との接合部に、鋼板側からAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物とAl,Zn酸化物を含む組織層を層状に形成した。
【選択図】 図22

Description

本発明は、摩擦点接合構造に関し、特に亜鉛メッキ層を形成した鋼板とアルミ合金部材との摩擦接合部にAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層を層状に形成したものに関する。
近年、自動車の車体の軽量化の為に、車体の構造部材としてアルミニウム合金板を使用するケースが増加し、アルミニウム合金板と鋼板とを摩擦点接合した摩擦点接合構造が採用されつつある。摩擦点接合を行う装置としては、多関節ロボットのアームの先端のハンドに装備した回転ツールと、これに対向する受け具とを有する摩擦点接合装置が採用される。アルミニウム合金板と鋼板とを摩擦点接合する際には、アルミニウム合金板を鋼板上に重ね合せ、鋼板の下面側を受け具で受け止めた状態で、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金板に加圧しつつ所定深さまで押し込むことで接合する。このとき、その接合部において、アルミニウム合金板が摩擦熱で塑性流動し、アルミニウム合金板と鋼板とが固相接合にて接合される。
ところで、特許文献1には、亜鉛メッキ層が形成された鋼板にアルミニウム合金板を摩擦点接合装置により上記のようにして摩擦点接合し、その接合部において亜鉛メッキ層をアルミ合金板と鋼板の両方に拡散させ、アルミニウム合金板と鋼板の接合部にAl−Zn−Fe合金層を形成する摩擦接合技術が開示されている。
特開2002−66759号公報
上記のように亜鉛メッキ鋼板にアルミニウム合金板を接合するケースが多く、摩擦点接合の際に亜鉛の大部分は回転ツールによる加圧力により接合部よりも外周側へ排除される。しかし、亜鉛の一部は接合部に残存してZnAl化合物(β相)が形成され、このZnAl化合物の生成量や結晶粒子の大きさが接合部の強度に影響を及ぼすものと推定される。そして、このZnAl化合物の生成量や結晶粒子の大きさ等は、塑性流動状態のアルミニウム合金の再結晶の進行程度の影響を受けるものと予想されるが、これらについては未だ解明されていない。
特許文献1の技術では、摩擦点接合構造に脆弱なAl−Fe系化合物層が生成されるのを抑制し、脆弱でないAl−Zn−Fe合金層を形成することで接合強度を確保しようとするものの、Al−Fe系化合物層やAl−Zn−Fe合金層の実体や、Al−Zn−Fe合金層の厚みが接合強度に及ぼす影響については十分に解明されていない。
本発明の目的は、摩擦点接合構造の強度を高め得るようにAl−Fe系化合物層やZnAl化合物を含む組織の構成を特定した摩擦点接合構造を提供することである。
請求項1の摩擦点接合構造は、接合部側に亜鉛メッキ層を形成した鋼部材とアルミニウム合金部材とを重ね合せ、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、摩擦熱でアルミニウム合金部材を軟化させ、塑性流動を生じさせてアルミニウム合金部材と鋼部材とを固相状態で接合した摩擦点接合構造において、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、軟化した亜鉛メッキ層の大部分を接合部から排出し、アルミニウム合金部材と鋼部材との接合部に、鋼部材側からAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層を層状に形成したことを特徴とするものである。
請求項2の摩擦点接合構造は、請求項1の発明において、前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層は、ZnAl化合物粒子が微細に分散した組織層であることを特徴とするものである。尚、ZnAl化合物粒子は20nm以下の大きさであることが望ましい。
請求項3の摩擦点接合構造は、請求項1又は2の発明において、前記Al−Fe系化合物層の厚みが0.2μm以下、前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層の厚みは10μm以下であることを特徴とするものである。
請求項1の摩擦点接合構造によれば、アルミニウム合金部材と鋼部材との接合部には、鋼部材側からAl−Fe系化合物層とZnが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層とが生成されるが、このAl−Fe系化合物層とZnAl化合物を含む組織層を層状に形成するため、アルミニウム合金部材と鋼部材との接合部の接合強度を高めることができる。
請求項2の摩擦点接合構造によれば、前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層は、ZnAl化合物粒子が微細に分散した組織層であるため、ZnAl化合物粒子の粒界に沿ってクラックが発生しにくくなるから、接合部の接合強度を高めることができる。
請求項3の摩擦点接合構造によれば、前記Al−Fe系化合物層の厚みが0.2μm以下、前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層の厚みは10μm以下であるため、脆弱なAl−Fe系化合物層による強度低下を抑制しつつ、ZnAl化合物を含む組織層による強度低下を抑制することができる。
以下、本発明の摩擦点接合構造は、接合部側に亜鉛メッキ層を形成した鋼部材とアルミニウム合金部材とを重ね合せ、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、摩擦熱でアルミニウム合金部材を軟化させ、塑性流動を生じさせてアルミニウム合金部材と鋼部材とを固相状態で接合した摩擦点接合構造において、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、軟化した亜鉛メッキ層の大部分を接合部から排出し、アルミニウム合金部材と鋼部材との接合部に、鋼部材側からAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層を層状に形成したことを特徴とするものである。
以下、本発明の実施例について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、摩擦点接合装置1は、例えば自動車のボディ等に採用されるアルミ部材同士の接合、アルミ部材と鋼部材との接合に用いられるもので、主な構成要素として、接合ガン10と、この接合ガン10をハンドに装備したロボット40とを含む。ロボット40としては、例えば汎用型の6軸垂直多関節ロボットが使用可能である。尚、上記のアルミ部材とは、アルミニウム部材又はアルミ合金部材を意味する。
図2、図3に示すように、接合ガン10は、ロボット40への取付ボックス11と、この取付ボックス11の下面から下方へ延びるL字状のアーム12と、このアーム12の上方で取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、加圧用モータ14と、回転用モータ15とを備え、これらモータ14,15の出力軸の上端部は、上蓋部材21を貫通して上部カバー22内へ延びている。本体ケース13内に鉛直姿勢に配設された駆動軸(図示略)の下端部は本体ケース13の下端部の下方まで延び、この駆動軸の下端部材に固着された取付部材36に、接合用工具18の一方である回転ツール16が設けられている。尚、取付部材36の下端部の露出部は蛇腹部材34で覆われている。
この回転ツール16の直下で回転ツール16に対向してアーム12の先端に接合用工具18の他方である受け具17が設けられている。本体ケース13の内部の機構を介して、加圧用モータ14の回転駆動力により回転ツール16が昇降駆動されると共に、回転モータ15の回転駆動力で回転ツール16が回転駆動される。加圧用モータ14としては回転角の制御と検知が容易なサーボモータを適用するのが望ましく、回転モータ15としては回転角の制御と検知が容易なサーボモータ又は回転速度の制御が容易なインダクションモータを適用するのが望ましい。
図3は回転ツール16の先端部を拡大図示したものである。この回転ツール16は、特に異種の金属部材(例えば、アルミ部材と鋼部材)の接合に好適なように設計されており、円柱状の胴体部16aの下端部(その輪郭は円形である)に、金属部材と当接してその金属部材を加圧するショルダ部16bが形成されている。このショルダ部16bは、平坦ではなく、所定の角度θ傾斜して、回転軸心Xを中心として円錐形状に窪んだ形状に形成されている。
上記のショルダ部16bの中心に円柱状ピン部16cが形成され、このピン部16cはショルダ部16bの下端部(つまり、ショルダ部16bの周縁部)より所定長さhだけ下方へ突出している。ここで、回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ショルダ部16bの傾斜角θが7度、ピン部16cの突き出し長さhが0.35mmである。
図1に示すように、ロボット40はハーネス51を介して制御盤50に接続され、接合ガン10は、ハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50に接続されている。加圧用モータ14と回転用モータ15の回転駆動が、制御盤50に内蔵された図示外の制御ユニットにより開始、制御、停止される。
図4に示すように、相対的に融点の低いアルミ合金板W1を上板とし、相対的に融点の高い鋼板W2(表面に亜鉛メッキが施されている)を下板として重ね合せたワークを、図示外の適宜手段により把持して固定する。次に、このワークに向かって接合ガン10がロボット40により近接されて、回転ツール16がワークの上方に、受け具17がワークの下方に位置して接合ガン10が停止する。次に、接合ガン10全体が上動することにより、受け具17が鋼板W2の下面に当接する。
次に、この状態で、ワークに向かって上方(つまり、アルミ合金板W1側)から回転ツール16を回転させながら下降させて押し込み、この回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱でアルミ合金板W1を軟化させ、そののち塑性流動させてアルミ合金板W1と鋼板W2を固相接合する。この接合の際、回転ツール16の加圧力と加圧時間を3段階に切換えて接合する。
この摩擦点接合においては、回転ツール16の回転動作と加圧動作によって発生する摩擦熱でアルミ合金板W1を軟化させ、そののち塑性流動させて、相対的に融点の低いアルミ合金板W1と相対的に融点の高い鋼板W2とを接合するようにしたから、相対的に融点の低いアルミ合金板W1に塑性流動を生じさせ、アルミ合金板W1と鋼板W2を接合する為に必要なエネルギーを少なくし、接合に要する時間を短縮することができる。
このとき、1つの接合部Pで接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10全体を下動させ、且つ所定距離だけ水平移動させた後、再び接合ガン10全体を上動させ、且つ回転ツール16を下降させて接合を行うことにより、アルミ合金板W1と鋼板W2を複数の接合部Pで摩擦点接合することができる。
さらに詳細に説明すると、図5に示すように、回転ツール16が下降してピン部16cの先端のみがアルミ合金板W1に接触する第1段目の加圧のときは、その接触部位で摩擦熱Hが発生し、周囲に拡散していく。アルミ合金板W1と鋼板W2の表面の亜鉛メッキ層Zは、上記の摩擦熱Hによって接合部において軟化し始める。このとき、相対的に低い加圧力で回転ツール16をアルミ合金板W1に押し込むため、ピン部16cの先端部の位置ズレの発生を防止することができる。
次に、図6に示すように、回転ツール16が更に下降してショルダ部16bの先端がアルミ合金板W1に突入する2段目の加圧のときは、ピン部16cの回転及び加圧に加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、アルミ合金板W1が十分に軟化して塑性流動し始める(符号A)。しかも、回転ツール16のショルダ部16bが回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状になっているため、塑性流動するアルミ合金板W1は、回転ツール16の直下から外方へ流出するのが抑制され、その結果、回転ツール16による加圧力が回転ツール16の直下に集中して、アルミ合金板W1の塑性流動が促進されることになる。
このとき、1段目の加圧力よりも強い加圧力で回転ツール16をアルミ合金板W1に押し込む。1段目の加圧力で加圧し、発生した摩擦熱でアルミ合金板W1をある程度軟化させた上で、さらに高い加圧力(2段目の加圧力)で加圧するため、アルミ合金板W1を回転ツール16の回転動作と加圧動作により確実に塑性流動させることが可能となる。
そして、回転ツール16による加圧とアルミ合金板W1の塑性流動によって、軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出され、アルミ合金板W1と鋼板W2の接合境界面(鋼板W2の上面)において鋼板W2の新生面が露出すると共に、アルミ合金板W1の表面に酸化被膜が接合部Pにおいて破壊され、上記の接合境界面においてアルミ合金板W1の新生面が露出する。
次に、回転ツール16が更に下降してショルダ部16bがアルミ合金板W1に深く突入する3段目の加圧のとき、回転ツール16で押し出されたアルミ合金材料が回転ツール16の外周付近にバリ(図示略)となって表面に隆起し、亜鉛メッキ層Zの大部分が接合部Pから押し出され、上記の酸化被膜が一層破壊されて接合境界面におけるアルミ合金板W1と鋼板W2の新生面の露出範囲が拡大する。こうして、アルミ合金板W1と鋼板W2の摩擦点接合(固相接合)の接合強度の向上が図られる。
このとき、2段目の加圧の加圧時間が長すぎると、回転ツール16のアルミ合金板W1への突入深さが過大になるので、それを防止するため、3段目の加圧では、2段目の加圧力よりも低い加圧力で加圧を行って回転ツール16のアルミ合金板W1への突入を抑制すしながら、回転ツール16の回転により塑性流動を促進する。
以下、アルミ合金板W1(6000系アルミニウム合金板、板厚1.4mm)と、亜鉛メッキ鋼板W2(板厚1.0mm、亜鉛メッキ:Zn−11%Al−3%Mgメッキ、メッキ目付け量90g/m2 )の試験片を用いて、異なる2通りの第1,第2接合条件で摩擦点接合した摩擦点接合構造を製作し、その摩擦点接合構造について接合強度試験を行なうと共に、接合部の金属組織についての分析を行った評価試験について説明する。各摩擦点接合(1つの接合部Pの接合)は、回転ツールの回転数を一定とし、加圧力と加圧時間を3段階に異ならせて行う3段加圧方式で行った。上記の第1,第2接合条件は、次のとおりである。
第1接合条件:
1段目:2.45kN×2500rpm×0.2s
2段目:4.41kN×2500rpm×1.5s
3段目:0.98kN×2500rpm×2.5s
第2接合条件(比較例):
1段目:2.45kN×2500rpm×0.2s
2段目:3.43kN×2500rpm×1.5s
3段目:0.98kN×2500rpm×2.5s
摩擦点接合構造の接合強度を試験する接合強度試験には、図7に示す引っ張り剪断試験を採用した。アルミ合金板W1と鋼板W2との一端部同士を所定の重ね代で重ね合せてクランプした状態で、アルミ合金板W1の上側から接合部Pの位置に摩擦点接合を行った後、アルミ合金板W1を矢印N1の方へ引っ張ると共に鋼板W2を矢印N2の方へ引っ張って接合部Pに剪断剥離を発生させた。
図8は、アルミ合金板W1と鋼板W2とを摩擦点接合した接合部Pの拡大断面図であり、アルミ合金板W1には、回転ツール16のピン部16cにより形成される凹部30と、ショルダ部16bにより形成される凹部31と、バリ32とが形成されている。図8−1は第1接合条件(接合強度大の接合条件)で接合した引っ張り剪断試験片の破断部を示す拡大断面図であり、図8−2は第2接合条件(接合強度小の接合条件)で接合した引っ張り剪断試験片の破断部を示す断面である。尚、第1接合条件で接合した図8−1の接合部Pの破断荷重は5.16kNであり、第2接合条件で接合した図8−2の接合部Pの破断荷重は3.90kNであった。
図8−1の接合強度大の接合部Pの接合境界部の各部IX,X,XIの金属組織の電子後方散乱回折像は、夫々図9,図10,図11に示されている。図8−2の接合強度小の接合部P(比較例)の接合境界部の各部XII,XIIIの金属組織の電子後方散乱回折像が、夫々図12,図13に示されている。尚、電子後方散乱回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)は、金属組織の結晶方位やその分布状態を表す。
図9,図10において、接合境界部の下部に暗い横縞状部分が薄く形成され、この横縞状部分よりも上方の金属組織はアルミ合金であり、横縞状部分よりも下方の金属組織は鋼である。横縞状部分に関して、最下層には薄膜状のAl−Fe系化合物層が形成され、その上方にはZnが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物(β相)とAl,Znの酸化物を含む組織層が形成されている。図11は、回転ツール16のピン部16cによる凹部30が形成される部位の金属組織を示すものであり、中心部にあって塑性流動が少ない部位であるため、暗い横縞状部分が厚く形成されている。この横縞状部分の金属組織も、図9,図10の横縞状部分の金属組織と同様のものであると推定される。
図8−2に示すように、第2接合条件で接合した接合部については、アルミ合金板W1側だけの金属組織の電子後方散乱回折像が、図12、図13に示されている。図12、図13の最下部に示す横縞状部分は図8−2に示すように引っ張り剪断試験により剥離した空間部分である。
次に、破断部分でない各例の接合境界部の金属組織の拡大写真(透過型電子顕微鏡写真)を図14〜図17に示し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した部分をエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて組成分析した元素分析結果を図18〜図21に示す。図14は、第1接合条件による摩擦点接合の接合境界部の金属組織を示し、図15は、図14の写真中の矩形枠の領域を拡大した金属組織を示す。図16は、第2接合条件による摩擦点接合の接合境界部の金属組織を示し、図17は、図16の写真中の矩形枠の領域を拡大した金属組織を示す。
図18は図14の「1」の部位の元素分析結果、図19は図15の「2」の部位の元素分析結果、図20は図16の「3」の部位の元素分析結果、図21は図17の「4」の部位の元素分析結果を夫々示すものである。
図14、図18から分かるように、図14に示す層「1」は、鋼板W2の表面側に薄膜層状に形成されたAl−Fe系化合物層である。このAl−Fe系化合物層よりも上方は、Znが固溶したAlマトリックスであるが、このマトリックスには、微量のAl酸化物やZn酸化物も含む。そして、図15、図19から分かるように、図15に「2」で示す粒子は、25%のZnを含むZnAl化合物(再結晶したβ相)である。
それ故、アルミ合金板W1と亜鉛メッキ鋼板W2を摩擦点接合した接合境界部には、鋼部材側から薄膜層状のAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物とAl,Zn酸化物を含む組織層とが層状に形成されている。図15から分かるように、ZnAl化合物粒子は、Znが固溶したAlマトリックス中に微細に分散している。
ここで、Al−Fe系化合物層の厚さは0.1μm以下になるが、接合条件によっては0.1μm超0.2μm以下になる場合もある。また、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物とAl,Zn酸化物を含む組織層の厚みは10μm以下であり、この厚みが10μm超になると接合強度が低下するため好ましくない。
次に、図16、図17、図20、図21に示す比較例について説明する。
図16、図20から分かるように、鋼板W2の表面側に形成されたAl−Fe系化合物層は、均質な層状ではなく偏平な粒子の集合として図14のAl−Fe系化合物層よりも厚く形成されている。また、図17、図21から分かるように、Znが固溶したAlマトリックスに形成されるZnAl化合物は粗大な粒子状に形成されているため、そのZnAl化合物粒子の粒界からクラックが伝搬しやすく、接合強度の低下要因となる。
以上の分析結果を要約すると、図22に示すようになる。
本実施例の摩擦点接合構造において、アルミ合金板W1と鋼板W2とを摩擦点接合した摩擦点接合構造の接合境界部には、鋼板W2の表面側に脆弱なAl−Fe系化合物層(厚さ0.2μm以下)が層状に形成され、このAl−Fe系化合物層とアルミ合金板W1の間には、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物(β相)とAl,Zn酸化物とが分散した組織層が層状に形成されている。
ここで、第1接合条件と比較して、第2接合条件では2段目の加圧力が低く設定されただけであるが、接合部の接合強度が25%も低下している。その理由について考察すると、図19に示すように、図14、図15のものでは、β相のZnAl化合物中のZnの比率が25%であるのに対して、図16、図17のものでは、β相のZnAl化合物中のZnの比率が40%である。
即ち、2段目の加圧力が低い場合には、接合部の外周側へ押し出すZn量やAl中へ取り込むZn量が少なくなるため、接合境界部に存在するZn量、つまりZnAl化合物の生成量が多くなり、そのZnAl化合物粒子が凝集してZnAl結晶が粗大化し、接合強度が低下する。そして、上記TEM−EDXによる元素分析結果より、第2接合条件で接合した比較例の方が、アルミ合金の再結晶が進行していないことが判明している。再結晶を生じるには、再結晶温度以上に加熱されることが必要であるが、2段目の加圧力が低かったため、摩擦熱の発生が不足気味となり、再結晶が不十分となっただけでなく、塑性流動の拡散量も低下した結果、上記のように接合強度が低くなったものと推定される。
以上説明した摩擦点接合構造の作用、効果について説明する。
図14、図15に示すように、本発明に係るアルミ合金板W1と亜鉛メッキ鋼板W2とを摩擦点接合した接合部には、脆弱なAl−Fe系化合物層が鋼板W2側に0.2μm以下の薄膜の層状に形成されているため、接合強度低下を招くことがない。また、そのAl−Fe系化合物層のアルミ合金板W1側に、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層が10μm以下の厚さの層状に形成され、ZnAl化合物粒子が微細に分散した組織層になっているため、ZnAl化合物粒子の粒界に沿ってクラックが伝搬するおそれがないから、摩擦点接合の接合強度を高めることができる。
この摩擦点接合構造を形成する際には、3段加圧方式にて加圧し、2段目の加圧力を十分に大きくし、加圧時間も十分とっているため、摩擦熱の発生量も多く、再結晶も促進され、軟化したZnの大部分が接合部から排出されるため、ZnAl化合物粒子が粗大化することもなく、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物粒子が微細に分散した組織層になる。
前記実施例における、回転ツールの形状やサイズ、第1接合条件、アルミ合金板W1の板厚などは、一例であるから前記の値に限定されるものではない。また、亜鉛メッキにおいても、亜鉛のみのメッキ、又はZn−5%Alの亜鉛メッキなども利用できる。
そして、当業者ならば、前記実施例に種々の変更を付加した形態で本発明を実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
本発明の実施例に係る摩擦点接合装置の正面図である。 摩擦点接合装置の接合ガンの正面図である。 接合ガンの回転ツールの要部の一部切欠き縦断拡大図である。 摩擦点接合装置の回転ツールとワークの斜視図である。 回転ツールの要部とワークの拡大断面図である。 回転ツールの要部とワークの拡大断面図である。 引っ張り剪断試験の説明図である。 ワークの接合部の拡大断面図である。 第1接合条件で接合した試験片(破断状態)の拡大断面図である。 第2接合条件で接合した試験片(破断状態)の拡大断面図である。 図8−1のIX部の金属組織の電子後方散乱回折像である。 図8−1のX部の金属組織の電子後方散乱回折像である。 図8−1のXI部の金属組織の電子後方散乱回折像である。 図8−2のXII部の金属組織の電子後方散乱回折像である。 図8−2のXIII部の金属組織の電子後方散乱回折像である。 摩擦点接合の接合境界部の金属組織の顕微鏡写真である。 図14に示す矩形枠の部位の金属組織の顕微鏡写真である。 比較例に係る摩擦点接合の接合境界部の金属組織の顕微鏡写真である。 図16の矩形枠の部位の金属組織の顕微鏡写真である。 図14の「1」で図示の部位のTEM−EDX元素分析スペクトル図である。 図15の「2」で図示の部位のTEM−EDX元素分析スペクトル図である。 図16の「3」で図示の部位のTEM−EDX元素分析スペクトル図である。 図17の「4」で図示の部位のTEM−EDX元素分析スペクトル図である。 摩擦点接合構造の金属組織を説明する説明図である。
符号の説明
1 摩擦点接合装置
10 接合ガン
16 回転ツール
W1 アルミ合金板
W2 亜鉛メッキ鋼板
P 接合部

Claims (3)

  1. 接合部側に亜鉛メッキ層を形成した鋼部材とアルミニウム合金部材とを重ね合せ、回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、摩擦熱でアルミニウム合金部材を軟化させ、塑性流動を生じさせてアルミニウム合金部材と鋼部材とを固相状態で接合した摩擦点接合構造において、
    回転ツールを回転させながらアルミニウム合金部材に押し込み、軟化した亜鉛メッキ層の大部分を接合部から排出し、アルミニウム合金部材と鋼部材との接合部に、鋼部材側からAl−Fe系化合物層と、Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層を層状に形成したことを特徴とする摩擦点接合構造。
  2. 前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層は、ZnAl化合物粒子が微細に分散した組織層であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦点接合構造。
  3. 前記Al−Fe系化合物層の厚みが0.2μm以下、前記Znが固溶したAlマトリックスにZnAl化合物を含む組織層の厚みは10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦点接合構造。
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