JP2006141283A - 3−ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼの発現が低下したノックアウト非ヒト哺乳動物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 脳形成の後期、特に生後発達における中枢神経系の形成と機能の維持におけるPhgdhを介したL-セリン合成の役割を解析することを可能とするようなPhgdh発現低下型非ヒト哺乳動物を提供すること。
【解決手段】 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とするノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
【選択図】 なし

Description

本発明は、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されているノックアウト非ヒト哺乳動物及びその利用に関する。
L-セリンは栄養学的に非必須アミノ酸に分類されるが、細胞機能に必須の各種生体化合物の前駆体として、細胞の代謝にとっては極めて重要なアミノ酸である。そのようなL-セリンに由来する生体化合物にはタンパク質だけでなく、増殖に必須の核酸及びホスファチジルセリンやスフィンゴ脂質などの生体膜構成脂質などが含まれる。
本発明者らは以前に、L-セリンの新しい生理作用として、神経細胞の生存・発達を強力に促進する神経栄養活性を発見した(非特許文献1及び2)。L-セリンは、グリア細胞の一種であるアストロサイトによって活発に合成・放出され、同アミノ酸が海馬アストロサイト条件培養液に含まれる神経細胞の生存・突起伸長促進活性の主成分であることを同定した。
さらに本発明者らは、小脳においてもL-セリンがアストロサイトによって合成・放出され、小脳特異的神経細胞であるプルキンエ細胞の生存及び突起伸長に必須の因子であることを確認した (非特許文献2)。さらにL-セリンは培養プルキンエ細胞の膜電位応答の分化・発達も劇的に促進した。これらの結果はL-セリンが神経細胞の機能発現にも重要な役割を果たしていることを示している。さらに大脳皮質神経細胞もL-セリンによってその生存と発達が促進された。以上の結果からL-セリンはアストロサイトによる神経栄養作用を担う普遍的な因子であると推定された。
このようなグリア細胞由来のL-セリンによる神経栄養支持機構のメカニズムを解析した結果、本発明者らは生体内のL-セリン合成経路のひとつであるリン酸化経路の第1段階反応を触媒する酵素、3-Phosphoglycerate dehydrogenase (以下Phgdh)が神経細胞では発現しておらず、その周囲に存在しているアストロサイトに特異的に発現していることを明らかにした(非特許文献2)。
また、胎児期の脳ではPhgdhは神経上皮幹細胞/放射状グリア系譜に発現しており、生後から成熟期にアストロサイトにその発現が移行することがわかった。また、Phgdhは最終分裂を終え、分化したほぼ全ての神経細胞で全く発現が検出されなかった(非特許文献3)。
以上の培養系及び組織化学的な解析の結果は、中枢神経系において神経細胞がPhgdhを発現していないために、自ら生存及び発達に必要なL-セリンを合成できない可能性を強く示唆する。本発明者らは、このようなグリア細胞特異的なPhgdh発現によって、神経細胞がL-セリンの合成と供給をアストロサイト/放射状グリア細胞に依存している、という仮説を立て、L-セリンを介した新しいニューロングリア間代謝相互作用モデルを提唱している(非特許文献4)。L-セリンの脳血関門の透過性の低さから考えても(非特許文献5)、発達期から成熟期を通じて常に放射状グリア細胞/アストロサイトによるPhgdhを介したde novo L-セリン合成と神経細胞への供給が中枢神経系の形成と機能の維持に極めて重要であると考えられる。
また、1996年に、Jaeken らのグループによってPhgdhの酵素活性が低下したヒトPHGDH欠損症患者が発見された(非特許文献6)。欠損症患者は血清中及び脳脊髄液中のL-セリン濃度が著しく減少しており、小頭症、ミエリン形成不全、難治性てんかん、精神運動発達遅滞などの重度の中枢神経系障害を示している。これらの結果からも、中枢神経系ではPhgdhを介したL-セリン合成が脳の正常な発達に重要であるということが示唆される。
これらのデータはPhgdhによるL-セリン合成の重要性を間接的に示している。しかし、動物個体レベルで脳の発達と機能発現におけるPhgdh依存的なL-セリン合成の生理的意義を明らかにし、分子レベルでの解析を行うためにはPhgdh欠損動物の作製が必須である。またそのような動物はヒトPHGDH欠損症の病態解析にも貢献できることが期待できる。そこで本発明者らはPhgdhを全身レベルで完全に欠損させたマウス、すなわちPhgdhノックアウトマウスを全世界に先駆けて初めて作製し、その表現型を報告した(非特許文献7)。
Phgdhノックアウトマウスは、胎生13.5日目で発生が止まり、胎生致死であった。胎生13.5日胚ではPhgdhの発現は検出できず、それに伴ってL-セリンを前駆体として合成されるホスファチジルセリンや、ガングリオシドの存在量が大幅に減少していた。この結果は細胞内L-セリンの枯渇を間接的に示している(非特許文献8)
胎生13.5日胚は野生型と比較して体全体が小さく、特に脳の形態形成不全が顕著であった。組織学的解析から、胎生13.5日胚の大脳皮質は神経上皮幹細胞/放射状グリア細胞層が薄い小頭症を呈し、さらに嗅球、大脳基底核原基、および小脳が形成されていなかった。増殖細胞特異的核抗原の発現を免疫組織化学的に検討することによって、Phgdhノックアウト胚が示した小頭症は、神経上皮幹細胞/放射状グリア細胞の増殖能の低下に起因するものと考えられた。
以上の結果から、Phgdhを介したL-セリン合成はマウスの胚発生及び脳の正常な発達、特に細胞増殖を伴った形態形成に必須であることがin vivoで初めて明らかになった。しかし全身レベルでのPhgdhを欠損は胎生13.5日前後で致死を引き起こすため、脳形成の後期、特に生後発達における解析にはこのマウスは適さない。
Mitoma J, Furuya S, Hirabayashi Y. A novel metabolic communication between neurons and astrocytes: non-essential amino acid L-serine released from astrocytes is essential for developing hippocampal neurons. Neuroscience Research 30: 195-199,1998 Furuya S, Tabata T, Mitoma J, Yamada K, Yamasaki M, Makino A, Yamamoto T, Watanabe M, Kano M and Hirabayashi Y. L-Serine and glycine serve as major astroglia-derived trophic factors for cerebellar Purkinje neurons. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97: 11528-11533, 2000 Yamasaki M, Yamada K, Furuya S, Mitoma J, Hirabayashi Y and Watanabe M. 3-Phosphoglycerate Dehydrogenase, a key enzyme for L-serine biosynthesis, is preferentially expressed in the radial glia/astrocyte lineage and olfactory ensheathing glia in the mouse brain. J. Neurosci. 21: 7691-7704, 2001 Furuya S and Watanabe M. Novel neuroglial and glioglial relationships mediated by L-serine metabolism. Arch. Histol. Cytol. 66: 109-121, 2003 Lefauconnier JM and Trouve R. Developmental changes in the pattern of amino acid transport at the blood-brain barrier in rats. Brain Res. 282: 175-182, 1983 Jaeken J, Detheux M, Van Maldergen L, Foulon M, Carchon H, Van Schaftingen E. 3-phosphoglycerate dehydrogenase deficiency: an inborn error of serine biosynthesis. Arch. Dis. Child. 74: 542-5, 1996 Yoshida K, Furuya S, Osuka S, Mitoma J, Shinoda Y, Watanabe M, Azuma N, Tanaka H, Hashikawa T, Itohara S, Hirabayashi Y. Targeted disruption of the mouse 3-phosphoglycerate dehydrogenase gene causes severe neurodevelopmental defects and results in embryonic lethality. J. Biol. Chem. 279(5): 3573-3577, 2004 Mitoma J, Kasama T, Furuya S and Hirabayashi Y. Occurrence of an unusual phospholipid, phosphatidyl-L-threonine, in cultured hippocampal neurons. J. Biol. Chem. 273: 19363-19366, 1998
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、脳形成の後期、特に生後発達における中枢神経系の形成と機能の維持におけるPhgdhを介したL-セリン合成の役割を解析することを可能とするようなPhgdh発現低下型非ヒト哺乳動物を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、Phgdhノックアウトマウスを作製する過程で、全身レベルでPhgdhの発現が低下したマウス、すなわちPhgdh発現低下型マウスを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とするノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部が提供される。
好ましくは、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量は野生型動物の5〜40%である。より好ましくは、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量は野生型動物の10〜20%である。
好ましくは、脳における遊離L-セリンの含量は野生型動物の10〜60%である。より好ましくは、脳における遊離L-セリンの含量は野生型動物の20〜40%である。
好ましくは、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物は、以下の所見のうち少なくとも1つ以上を示す。
(1)体全体が小さく、大脳皮質の萎縮が見られる:
(2)分化した新生細胞の脳内移動に異常が見られる:
(3)主要な交連繊維である脳梁、海馬交連及び前交連の形成不全が見られる:
(4)神経細胞の生存率が低下している:
好ましくは、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子に外来遺伝子が挿入されており、他方の対立遺伝子はノックアウトされている。好ましくは、前記外来遺伝子はマーカー遺伝子である。より好ましくは、前記外来遺伝子はネオマイシン耐性遺伝子である。好ましくは、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子のイントロン3に外来遺伝子が挿入されている。
好ましくは、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物はげっ歯類動物であり、特に好ましくはマウスである。
本発明の別の側面によれば、(1)イントロン3に外来遺伝子が挿入され、エキソン4及び5がloxP配列によって挟まれている3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ(Phgdhneo)遺伝子を含むターゲティングベクターが相同組み換えにより染色体に導入されたES細胞を非ヒト哺乳動物の初期胚へインジェクションして、全身でランダムにPhgdhneoアリルを持つキメラ個体(F0)を作製する工程;
(2)上記(1)で作製したキメラ個体(F0)を野生型マウスと交配させて、Phgdhneo遺伝子を有するPhgdh+/neo個体(F1)を作製する工程;
(3)上記(2)で作製したPhgdh+/neo個体(F1)をCreリコンビナーゼ遺伝子を有するEIIaCreトランスジェニック個体と交配させて、Phgdhneoアリル上のloxP配列に挟まれているエキソン4及び5を切り出し、Phgdhneoアリルが部分的に切り出されたアリルPhgdhneo、Phgdhflox、Phgdh-を全身でモザイク状に持つPhgdh+/mosaic Cre/+個体(F2)を作製する工程;
(4)上記(3)で作製したPhgdh+/mosaic Cre/+個体(F2)を野生型個体と交配させて、Phgdh+/-個体(F3)を作製する工程;及び
(5)工程(4)で作製したPhgdh+/-個体(F3)を工程(2)で作製したPhgdh+/neo個体と交配させてPhgdhneoアリルとPhgdh-アリルの両方を持つPhgdhneo/-個体を作製する工程;
を含む、上記した本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物の作製方法が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物をPHGDH欠損症のモデル動物として使用する方法が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物を用いる、PHGDH欠損症の治療・予防薬のスクリーニング方法が提供される。
本発明のPhgdh発現低下型マウスは、好ましくはPhgdhの発現量が全身レベルで野生型の10〜20%程度まで減少しており、脳内の遊離L-セリン含量も野生型の約30%と著しく減少している。本発明のPhgdh発現低下型マウスの新生マウスは小頭症を呈して大脳皮質が萎縮しており、ヒトPHGDH欠損症に酷似した異常を持つ。このマウスを用いることによってL-セリンの生理機能、特にL-セリンレベルの低下に起因する様々な中枢神経系発達・機能障害の分子機構の解明が期待できる。また同時にこのPhgdh発現低下型マウスはヒトPHGDH欠損症の病態解析やその診断・治療法の開発に極めて有用なモデル動物となりうる。ヒトPHGDH欠損症は致死性の疾患でないため、重度の中枢神経系障害にもかかわらず患者は存命であり、その脳の詳細な形態、およびに生化学的異常について解析を行うことは事実上不可能である。現時点で同様のPhgdh発現低下型マウス作製の報告は皆無であり、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物は、L-セリンの生理機能と病態の研究開発に利用できる唯一の実験動物である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(A)本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物の特徴
本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物は、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とし、これにより、好ましくは3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量は野生型動物の5〜40%、より好ましくは10〜20%である。また、好ましくは、脳における遊離L-セリンの含量は野生型動物の10〜60%、より好ましくは20〜40%である。本発明の代表的なノックアウト非ヒト哺乳動物においては、上記した3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量の低下とそれに伴う脳における遊離L-セリンの含量の低下により、以下のような所見が認められる。
(1)体全体が小さく、大脳皮質の萎縮が見られる:
(2)分化した新生細胞の脳内移動に異常が見られる:
(3)主要な交連繊維である脳梁、海馬交連及び前交連の形成不全が見られる:
(4)神経細胞の生存率が低下している:
非ヒト哺乳動物としては、特に限定されるものではなく、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類の他、ニワトリ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル等を使用することができる。これらのうち、実験動物として用いるには、作製、育成及び使用の簡便さなどの観点から見て、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、そのなかでも近交系が多数作出されており、受精卵の培養、体外受精等の技術が整っているマウスが特に好ましい。
本発明において3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現を人為的に抑制するためには、例えば、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子に外来遺伝子を挿入し、他方の対立遺伝子をノックアウトすることができる。他方の対立遺伝子をノックアウトする手法としては、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の全体又は一部を欠損させる方法や、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現制御領域を欠損させる方法などが挙げられる。
(B)本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物の作製
本発明の3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼの発現が低下したノックアウト非ヒト哺乳動物は、公知の遺伝子組み換え法(ジーンターゲッティング法)により作製することができる。ジーンターゲッティング法は、当業者に公知の技術であり、各種実験書に従って行うことができる(例えば、村松正實、山本雅編集、『実験医学別冊 新訂 遺伝子工学ハンドブック 改訂第3版』(1999年、羊土社発行)などを参照)。
先ず、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子のゲノムDNA断片を単離して、制限酵素地図を作製する。そして、その制限酵素地図に基づいて、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の機能を低下させた配列を有するターゲティングベクターを下記の方法により作製することができる。具体的には、非ヒト哺乳動物の3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むDNAを単離し、このDNA断片に適当な外来遺伝子(例えば、マーカー遺伝子など)と、エキソンの一部を切り出せるような位置にloxP配列とを挿入することによって、ターゲッティングベクターを構築することができる。
DNA断片に挿入する外来遺伝子としては、マーカー遺伝子が好ましく、特に、ネオマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が好ましい。抗生物質耐性遺伝子を挿入した場合には、抗生物質を含む培地で培養するだけで相同組み換えを生じた細胞株を選抜することができる。また、より効率的な選抜を行うためにはターゲッティングベクターにチミジンキナーゼ遺伝子などを結合させておくこともできる。これにより、非相同組み換えを起こした細胞株を排除することができる。また、ターゲッティングベクターにジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子などを結合させておくこともできる。これにより、非相同的な組換えを起こした細胞株を排除することができる。
loxP配列は、エキソンの一部を切り出せるような位置に挿入することが好ましい。3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子のエキソン4、5が切り出されれば、Phgdh酵素にアミノ酸フレームシフトが起こり、正常な酵素として発現しないことが予想される。従って、本発明においては、ターゲティングベクター中ではマウスPhgdh遺伝子のエキソン4及び5がloxP配列によって挟まれており、Creリコンビナーゼが作用することによってエキソン4及び5が切り出されるように設計することが特に好ましい。
本発明においては、哺乳動物の細胞にターゲッティングベクターを導入して、染色体上の目的遺伝子と相同組み換えを起こすことにより、目的のPhgdh遺伝子を破壊することができる。細胞にターゲッティングベクターを導入して、動物の個体又は子孫にその遺伝子を発現させる手法としては、(1)DNAを受精卵の前核期胚に注入する、(2)組換えレトロウイルスを初期胚に感染させる、(3)ターゲッティングベクターによる相同組換えを起こさせた胚性幹細胞(ES細胞)を胚盤胞又は8細胞期胚に注入する等の方法によって得られた宿主胚を動物 に移植して産仔を得、これを他の個体と交配する方法が挙げられる。目的とする遺伝子の相同組み換えが起こる頻度は低いことが知られており、目的とする相同組み換え体を得るためには、多数の組み換え体をスクリーニングする必要がある。しかし、受精卵では多数のスクリーニングを行うことが技術的に困難である。よって、受精卵と同様に多分化能を有し、かつin vitroで培養することができる細胞を使用することが好ましく、胚性幹細胞(ES細胞)を用いる上記(3)の方法が好ましい。現在、マウス由来のES細胞株としては複数のものが確立されており、下記の実施例で使用している129/SvJ由来のE14ES細胞もその一つである。しかし、本発明で使用するES細胞はそれに限定されるものではなく、他のマウス由来のES細胞株であるTT2細胞株、AB−1細胞株、J1細胞株、R1細胞株等を使用することもできる。これらのいずれのES細胞株を用いるかは、実験の目的や方法により適宜選択して決定することができる。
本発明では、上記で得られたターゲティングベクター(相同組換え用DNA)を、ES細胞に導入し、ES細胞中の3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子との間で相同組換えを行うことが好ましい。ターゲティングベクターをES細胞に導入する方法としては、公知のエレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法等も利用できるが、導入遺伝子の相同組み換え効率を考えると、エレクトロポレーション法が好ましい。
次いで、得られた組み換えES細胞につき、相同組み換えが起こっているかどうかのスクリーニングを行う。例えば、ネオマイシン等の導入した薬剤耐性因子によりスクリーニングを行うことができる。更にスクリーニングを確実にするためには、サザンハイブリダイゼーション法やPCR法により、スクリーニングを行ってもよい。これらのアッセイにより、染色体上に存在する野生型3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子と、導入した3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子との間で正しく相同遺伝子組み換えが起った細胞を選択することができる。
こうして得た変異遺伝子を持つES細胞を、野生型動物の胚盤胞または8細胞期の胚内に導入する。そして、このES細胞胚を偽妊娠状態の仮親個体の子宮に移植し、出産させることによりキメラ動物を作製することができる。以下、マウスを例に挙げて説明する。
ES細胞を胚盤胞等の初期胚に導入する方法としては、マイクロインジュクション法や凝集法が知られている。本発明では上記のいずれの方法を用いることも可能であり、当業者であれば適宜実施することができる。マウスの場合には、ホルモン剤(例えば、FSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させることが好ましい。その後、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、8細胞期胚を用いる場合には2.5日目に、それぞれ子宮から初期発生胚を回収する。このようにして回収した胚に対して、ターゲティングベクターを用いて相同組み換えを行ったES細胞をin vitroにおいて注入し、キメラ胚を作製することができる。
一方、仮親とするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上記の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠・出産させることによりキメラマウスを作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするため、受精卵を採取する雌マウスと仮親となる偽妊娠マウスとを、同一の性周期にある雌マウス群から作出することが望ましい。
ES細胞移植胚に由来するマウス個体が、このようなキメラマウスの中から得られた場合、このキメラマウスを純系のマウスと交配し、そして次世代個体にES細胞由来の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウス生殖系列へ導入されたことを確認することができる。ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認するには、様々な形質を指標として用いることができるが、確認の容易さを考慮して、被毛色によることが望ましい。マウスにおいては野ネズミ色(アグーチ色)、黒色、黄土色、チョコレート色および白色などの被毛色が知られているが、使用するES細胞の由来系統を考慮して、キメラマウスと交配させるマウス系統を適宜選択することができる。また、体の一部(例えば尾部先端)からDNAを抽出し、サザンブロット解析やPCRアッセイを行うことにより、選抜を行うことも可能である。
このキメラマウスを適当な系統の野生型個体と交配することによりF1ヘテロ型の産仔を得ることができる。キメラマウスの生殖細胞が相同組換え体、すなわち3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子に外来遺伝子が挿入されているES細胞に由来していれば、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子に外来遺伝子が導入されている個体(Phgdh+/neo)を得ることができる。
本発明においては、次に、上記のPhgdh+/neo F1個体をEIIaCreトランスジェニックマウスと交配し、Phgdhneoアリル上のloxP配列に挟まれているエキソン4、5を切り出し、Phgdh-アリルを作製する。その結果、F2世代でPhgdhneoアリルが部分的に切り出されたアリルPhgdhneo、Phgdhflox、Phgdh-を全身でモザイク状に持つマウス(F2)を得ることができる。
上記の通り本発明では、コンディショナルなノックアウトマウスの作製において汎用されているCre/Ioxpシステムを用いることにより、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子の一部を切り出し、これにより当該遺伝子をノックアウトしている。例えば、以下の実施例では、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子のエキソン4及び5の領域を欠失させることを可能とする、ターゲティングベクターを用いている。Cre/Ioxpのシステムにおいては、Ioxp配列で挟まれた配列を予め作製しておくことにより、大腸菌のP1ファージ由来の組み換え酵素であるCre酵素を発現している動物と交配させた時に、Cre酵素はIoxp配列で挟まれた配列を認識して削除するために、その領域を欠損させた動物を作出することが可能となる。また、Cre/Ioxpのシステムを用いた場合には、臓器特異的にCreを発現したマウスを用いることにより、臓器特異的に遺伝子を欠損したマウスを作製することが可能である。しかしながら、本発明のノックアウト哺乳動物を作製する方法は、Cre/Ioxpのシステムを用いた方法に限定されるものではなく、例えば、Cre/Ioxpのシステムを用いずに、エクソン4及び5の領域を薬剤耐性遺伝子等により置換したターゲティングベクターを使用することにより、エクソン4から5の領域を欠損したノックアウト動物を作出することも可能であると考えられる。
さらに、本発明では、上記したF2モザイクマウス雌を野生型雄マウスと交配することにより、F3世代で効率よくPhgdh+/-マウスを得ることができる。このPhgdh+/-マウスを前述のPhgdh+/neoと交配し、PhgdhneoアリルとPhgdh-アリルの両方を持つ本発明のPhgdhneo/-マウスを作製することができる(図2)。
上記方法により作出された本発明のノックアウト哺乳動物は、雄性・雌性の組み合わせとして取得しておけば、それ以降は、必要に応じて適宜繁殖させることにより、容易に同じ遺伝子型のノックアウト動物を必要なだけ取得することができる。
また、上記した本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物の一部としては、非ヒト哺乳動物の細胞、細胞内小器官、組織および臓器のほか、頭部、指、手、足、腹部、尾などが挙げられ、これらも全て本発明の範囲内に属する。また、本発明のノックアウト哺乳動物から得られた細胞(特に、精子、卵細胞、ES細胞、体性幹細胞)は、本発明のノックアウト哺乳動物の作出や、他の遺伝子を破壊したダブルノックアウト動物の作出に有用である。
(C)本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物の利用(有用性)
本発明のノックアウト哺乳動物は、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されているものであり、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の機能解析に利用することができる。また、本発明のノックアウト哺乳動物は、L-セリンの生理機能、特にL-セリンレベルの低下に起因する様々な中枢神経系発達・機能障害の分子機構の解明に有用であり、さらにヒトPHGDH欠損症の病態解析やその診断・治療法の開発に極めて有用なモデル動物となりうる。
さらに、本発明のノックアウト哺乳動物は、PHGDH欠損症の治療・予防薬のスクリーニング、薬理試験、安全性試験などにも有用である。スクリーニング方法としては、ノックアウト哺乳動物を用いた公知の方法、例えば、被験物質を本発明のノックアウト哺乳動物に静注または経口投与等により投与し、その治療効果を個体、器官、組織、細胞の各レベルで観察・確認したり、3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量や脳における遊離L-セリンの含量を測定する方法を挙げることができる。
また、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物に被験物質を投与し、投与後における3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現状態、又は脳などにおけるL-セリン含量を分析することにより、L-セリンの生理機能、特にL-セリンレベルの低下に起因する様々な中枢神経系発達・機能障害に対する治療効果や予防効果を評価することもできる。
すなわち、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物を利用することにより、L-セリンレベルの低下に起因する様々な中枢神経系発達・機能障害の治療効果及び予防効果を評価することが可能であり、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物は、上記障害の病態評価モデル動物として利用することができる。例えば、本発明のノックアウト非ヒト哺乳動物を用いて、これらの病態回復および重篤程度を判定し、この疾患の治療方法の検討を行うことも可能である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
実施例1:ターゲティングベクターの作製
(I)Bacterial artificial chromosomeライブラリーからのPhgdh遺伝子断片の単離
マウスPhgdh遺伝子は12個のエキソンから構成されており、染色体上の位置はクロモソーム3に同定されている(Mitoma J, Furuya S, Shimizu M, Shinoda Y, Yoshida K, Azuma N, Tanaka H, Suzuki Y, Hirabayashi Y. Mouse 3-phosphoglycerate dehydrogenase gene: genomic organization, chromosomal localization, and promoter analysis. Gene (in press))。129/SvJ bacterial artificial chromosomeライブラリーからマウスPhgdh cDNAをプローブにPhgdh遺伝子を含むと推定されるクローンを得た。それらをPCRとSouthern blottingで確認後、陽性クローンから、EcoRIによって切り出される7.5 kb DNAフラグメント(0EcoRI-7513EcoRI)、及びHindIIIによって切り出される13.3 kb DNAフラグメント(0HindIII-13272HindIII)を単離し、それぞれpBluescript KS+ ベクター(Stratagene)に導入した。7.5 kb DNAフラグメントを含むベクターをpKS+3PG68E77、13.3 kb DNAフラグメントを含むベクターをpKS+3PG68H140と呼ぶことにする。
(II)イントロン3へのネオマイシン耐性遺伝子発現カセットの導入
まず、pKS+3PG68E77ベクターをPstIとEcoRVで消化し、3.6 kb DNAフラグメント(3636PstI-7213EcoRV)を単離し、pGEM5ベクター(Promega)に導入した。このベクターをpGEM5/3636PstI-7213EcoRVと呼ぶことにする。次に、pGEM5/3636PstI-7213EcoRVをApaIとSphIで消化し、2.5 kb DNAフラグメント(3984SphI-6486ApaI)を単離し、pGEM7ベクター(Promega)に導入した。このベクターをpGEM7/3984SphI-6486ApaIと呼ぶことにする。次に、pGEM7/3984SphI-6486ApaIベクターをNsiIで消化し、140 bp DNAフラグメント(5618NsiI-5759NsiI)を単離し、pGEM7ベクター(Promega)に導入した。このベクターをpGEM7/5618NsiI-5759NsiIと呼ぶことにする。次に、pGEM7/5618NsiI-5759NsiIベクターをSacI(5677SacI)で消化し切断面を平滑化したものに、線状化及び切断面の平滑化を行った薬剤耐性セレクションマーカーネオマイシン耐性遺伝子発現カセットを含むpZ(loxP-pGKNeowt (大阪大学医学部竹田教授より供与)を導入した。Phgdh遺伝子配列に対してpZ(loxP-pGKNeowtの遺伝子配列が逆向きに導入されたクローンをDNAシークエンシングにより選抜した。このベクターをpGEM7/5618NsiI-loxP-pGKNeowt-loxP-5759NsiIと呼ぶことにする。次に、pGEM7/5618NsiI-loxP-pGKNeowt-loxP-5759NsiIをNsiIで消化し、1.8 kb DNAフラグメント(5618NsiI-loxP-pGKNeowt-loxP-5759NsiI)を単離し、前もってNsiIで消化したpGEM5/3636PstI-7213EcoRVに導入した。このベクターをpGEM5/3636PstI-loxP-pGKNeowt-loxP-7213EcoRVと呼ぶことにする。最終的にpGEM5/3636PstI-loxP-pGKNeowt-loxP-7213EcoRVベクターをSalIとEcoRVで消化し、5.3 kb DNAフラグメントを単離した。このPhgdh遺伝子イントロン3のSacI部位にネオマイシン薬剤耐性セレクションマーカーを導入したDNAフラグメントをSalI-loxP-pGKNeowt-loxP-EcoRVと呼ぶことにする。
(III)イントロン5へのloxP配列の導入
13.3 kb DNAフラグメントを含むベクターpKS+3PG68H140をHindIIIとNsiIで消化し、5.1 kb DNAフラグメント(0HindIII-5170NsiI)を単離し、pGEM9ベクター(Promega)に導入した。このベクターをpGEM9/0HindIII-5170NsiIと呼ぶことにする。次に、イントロン5にloxP配列を導入するためにpGEM9/0HindIII-5170NsiIをSphI(1166SphI)で消化し、loxP配列を含む合成オリゴヌクレオチドを導入した。オリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである。(5'-CTAGCATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATGCA-3'(配列番号1); 5'-CATAACTTCGTATAGCATAGATTATACGAAGTTATGCTAGCATG-3'(配列番号2))。Phgdh遺伝子配列に対してloxP配列が逆向きに導入されたクローンをDNAシークエンシングにより選抜した。このベクターをpGEM9/0HindIII-1166SphI(loxP)-5170NsiIと呼ぶことにする。最終的にpGEM9/0HindIII-1166SphI(loxP)-5170NsiIベクターをEcoRVとNotIで消化し、5.1 kb DNAフラグメントを単離した。このPhgdh遺伝子イントロン5のSphI部位にloxP配列を導入したDNAフラグメントをEcoRV-SphI(loxP)-NotIと呼ぶことにする。
(IV)3パートライゲーションによるターゲティングベクターの作製
SalI-loxP-pGKNeowt-loxP-EcoRV及びEcoRV-SphI(loxP)-NotIフラグメントを前もってSalIとNotIで消化した薬剤セレクションマーカージフテリア毒素発現カセットを含むpBS/MC1DtpAベクター(大阪大学医学部竹田教授より供与)に導入し、合計14.7 kbのベクターを構築した。ターゲティングベクター中ではマウスPhgdh遺伝子のエキソン4及び5がloxP配列によって挟まれており、Creリコンビナーゼが作用することによってエキソン4及び5が切り出されるような設計がなされている。エキソン4、5が切り出されればPhgdh酵素にアミノ酸フレームシフトが起こり、正常な酵素として発現しないことが予想される。また、エキソン4にはPhgdh酵素が触媒する酸化反応に必要な補酵素であるNAD+が結合するドメインが存在しており、この領域がCreリコンビナーゼの発現により削除されればPhgdh酵素が不活化することが予想される。このベクターを大腸菌に導入し、形質転換させ800 mlのLuria-Bertani培地中で培養し、Alkali-SDS法によりプラスミドを回収、塩化セシウム密度勾配法によりベクターを精製した。最終的に30μgのベクターをSalIで消化、線状化し、エタノール沈殿により精製したものをターゲティングベクターとしてジーンターゲティングに使用した。図1に、マウスPhgdh遺伝子のイントロン1からイントロン9までの構造を示す。
実施例2:ジーンターゲティング
ES細胞は129/SvJ由来のE14ES細胞を使用した。エレクトロポレーションにより3×106 個のES細胞にターゲティングベクターを導入した。12時間後、培地中にネオマイシンを添加し(150 μg/ml)薬剤耐性セレクションを約一週間にわたり行った。ネオマイシンに対して薬剤耐性を示す、すなわちターゲティングベクターが相同性組み換えによってES細胞に導入されたと思われるES細胞を1クローンずつ96-well プレートにピックアップし、合計768個のES細胞をピックアップした。これらの候補となるES細胞を24-well、6-wellと順次拡張し、DNAを回収し、サザンブロット法により正しい位置で相同組み換えを起こしているES細胞の選抜を行った。結果、R31, R45, R72, R96 の4つのES細胞が正しい位置で相同性組み換えを起こしているクローンであることが判明した。これらのES細胞の遺伝子型をPhgdh+/neoと呼ぶことにする。これらのES細胞をC57BL/6J由来のマウス初期胚へインジェクションし、全身でランダムにPhgdhneoアリルを持つ129/SvJ、C57BL/6J混合系キメラマウスを樹立した。
実施例3:Phgdh発現低下型マウスの作製
次世代へPhgdhneoアリル伝達することのできるキメラマウスを選抜するために、各ES細胞由来の雄キメラマウスを野生型雌C57BL/6Jマウスと交配させ、生まれてきた子マウスの遺伝子型を調べた。結果、R31に由来するキメラマウスのみが次世代へPhgdhneoアリル伝達することのできるキメラマウスであることがわかった。生まれてきた子マウスの世代をF1とし、変異遺伝子を持つ子マウスの遺伝子型をPhgdh+/neoと呼ぶことにする。次に、報告されている方法に従ってPhgdh+/neo F1マウスをEIIaCreトランスジェニックマウスと交配し、Phgdhneoアリル上のloxP配列に挟まれているエキソン4、5を切り出し、Phgdh-アリルの作製を試みた。結果、F2世代でPhgdhneoアリルが部分的に切り出されたアリルPhgdhneo、Phgdhflox、Phgdh-を全身でモザイク状に持つマウスを得ることができた。このF2モザイクマウス雌を野生型雄マウスと交配することにより、F3世代で効率よくPhgdh+/-マウスを得ることができた。このPhgdh+/-マウスを前述のPhgdh+/neoと交配し、Phgdhneo アリルとPhgdh-アリルの両方を持つPhgdhneo/-マウスを作製した。このマウスのことをPhgdh発現低下型マウスと呼ぶことにする。交配の手順を図2、遺伝子切り出しの戦略を図3にそれぞれ示した。
実施例4:Phgdh発現低下型マウス(Phgdhneo/-)の表現型解析
(I)全身レベル
Phgdh+/-マウスとPhgdh+/neoの交配によって生まれたPhgdhneo/-マウスは、体全体が小さく、脳の発達遅滞が顕著な小頭症を呈して出生した(図4a,b)。症状がひどい個体はチアノーゼによって出生後2日目までに死亡するが、比較的症状が軽い個体はミルクを授乳することによって生き残ることができる(図4b)。Phgdhneo/-マウスの脳はどちらのタイプもPhgdh+/-マウスと比較して明らかに小さく、特に大脳皮質の萎縮が顕著であった(図4c)。これらの表現型はヒトPHGDH欠損症の主要な病態に酷似していた。
(II) 生化学的解析
出生直後(postnatal day 0)のPhgdhneo/-マウスの脳からタンパク質を抽出し、Phgdh蛋白質の発現量を解析した。Phgdh抗体を用いたWestern blot法によりPhgdhneo/-マウス脳ではPhgdh蛋白質発現量が野生型Phgdh+/+マウスの10〜20%にまで減少していることが明らかとなった(図5)。ちなみに、同一腹から生まれてくるPhgdh+/-マウスの脳におけるPhgdh蛋白質発現は、予想通り野生型Phgdh+/+マウスの発現量の50%程度であった。またPhgdh+/neoマウスの脳におけるPhgdh蛋白質の発現量は、Phgdh+/-マウスと同レベルであった。in situ hybridizationによるmRNAの発現解析では、全身でPhgdh mRNAの発現が低下していた。これらの結果からPhgdhneoアリルにおいてはイントロン3のSacI(5677SacI)部位に薬剤耐性セレクションマーカーネオマイシン耐性遺伝子発現カセットが導入されたことによって、Phgdh遺伝子の転写効率が低下し、その結果蛋白質の発現量が大幅に低下していると推測された。
次に、出生直後のマウスの脳からアミノ酸を抽出し、遊離L-セリンの含量をアミノ酸分析によって測定した。その結果、Phgdhneo/-マウス脳ではL-セリンの含量が野生型Phgdh+/+マウスの約30%にまで減少していることがわかった(図6)。Phgdh+/-マウスの脳におけるL-セリン含量は、野生型Phgdh+/+マウスの約85%程度であった。Phgdh+/neoマウスの脳におけるL-セリン含量は、野生型Phgdh+/+マウスと比較して減少しており、Phgdh+/-マウスの脳におけるL-セリン含量と同じく、野生型Phgdh+/+マウスの約85%程度であることがわかった。
(III)組織化学的解析
Phgdh+/-マウスとPhgdh+/neoの交配によって生まれてきた出生直後のマウス脳を固定し、組織切片を作製してPhgdhneo/-マウス脳の形態を解析した。ここではPhgdhneo/-マウスでの小頭症の発症に関わると推定される主要な形態異常を大きく3点に分類して議論する。
1.細胞移動の異常
矢状断面のヘマトキシリンーエオジン染色の結果、Phgdh+/-マウスと比較してPhgdhneo/-マウスでは脳全体が萎縮しており、脳室(lateral ventricle; LV)の拡大が顕著であった(図7a,b)。またPhgdhneo/-マウスで、脳室帯から嗅球に至るまでの領域でヘマトキシリン陽性細胞集団の蓄積が見られ、その細胞タイプはTuJ1陽性の幼弱な神経細胞が主要であった(図7c,d)。また冠状断面の解析によっても大脳基底核原基(Ganglionic eminence; GE)の脳室帯周辺に同様の結果が確認された(図7e,f,g,h)。Phgdh+/-マウスにはこのような細胞の蓄積は認められなかった。脳室帯周囲の細胞は発達期において神経幹細胞として脳の各細胞系譜を産生している。新生神経およびグリア細胞は分化後に脳室帯から脳全域に移動することが知られている。これらの結果から、Phgdhneo/-マウスでは分化した新生細胞の正常な脳内移動が行われていない可能性が強く示唆された。このような異常は予想外であった。
2.神経線維伸長の異常
冠状断面のヘマトキシリンーエオジン染色の結果、Phgdhneo/-マウスでは三つの主要な交連繊維である、脳梁(corpus callosum; CC)、海馬交連(hippocampal commissure; HC)、前交連(anterior commissure; AC)の形成不全が明らかとなった(図7e,f,g,h)。Phgdhneo/-マウスの大脳皮質に投射性の神経細胞は分布していることから、それらの軸策伸長がL-セリンの合成能低下によって抑制されていると推測される。fMRIによってヒトPHGDH欠損症患者においては脳梁の形成が低下していることが報告されている。Phgdhneo/-マウスではこの病態を反映していると考えられる。
3.神経細胞の生存率低下
矢状断面のカルビンジン免疫染色の結果、Phgdhneo/-マウスの小脳ではカルビンジン陽性細胞、すなわち小脳プルキンエ細胞数が1/2程度に減少しており、プルキンエ細胞層の層構造が形成されていないことがわかった(図7i,j)。プルキンエ細胞はグリア細胞から供給されるL-セリンに対する依存性が最も強い神経細胞の一つである(非特許文献2)。Phgdhneo/-マウスでは他の領域においてもL-セリンの供給低下によって神経細胞の生存率低下が起こっていると推定される。
図1は、マウスPhgdh遺伝子のイントロン1からイントロン9までの構造を示す。 図2は、Phgdh発現低下型マウス(Phgdh neo/-)の作製の交配手順を示す。 図3は、Phgdhneo及びPhgdh-アリル作製の戦略を示す。 図4は、Phgdh活性低下型マウス(Phgdh neo/-)の表現型を示す。 図5は、Western blot法を用いたPhgdh発現低下型マウスにおけるPhgdhの発現量の解析を示す。 図6は、アミノ酸分析によるPhgdh発現低下型マウス脳におけるL-セリン濃度の解析を示す。 図7は、組織学的手法を用いたPhgdh活性低下型マウスの表現型の解析を示す。
SEQUENCE LISTING
<110> Riken
<120> Knock-out non-human mammal wherein the expression of 3-Phosphoglycerate dehydrogenase is reduced
<130> A41904A
<160> 2
<210> 1
<211> 42
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 1
ctagcataac ttcgtataat gtatgctata cgaagttatg ca 42
<210> 2
<211> 44
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic DNA
<400> 2
cataacttcg tatagcatag attatacgaa gttatgctag catg 44

Claims (15)

  1. 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とするノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  2. 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量が野生型動物の5〜40%である、請求項1に記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  3. 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の脳における発現量が野生型動物の10〜20%である、請求項1又は2に記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  4. 脳における遊離L-セリンの含量が野生型動物の10〜60%である、請求項1から3の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  5. 脳における遊離L-セリンの含量が野生型動物の20〜40%である、請求項1から4の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  6. 以下の所見のうち少なくとも1つ以上を示す、請求項1から5の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
    (1)体全体が小さく、大脳皮質の萎縮が見られる:
    (2)分化した新生細胞の脳内移動に異常が見られる:
    (3)主要な交連繊維である脳梁、海馬交連及び前交連の形成不全が見られる:
    (4)神経細胞の生存率が低下している:
  7. 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子に外来遺伝子が挿入されており、他方の対立遺伝子はノックアウトされている、請求項1から6の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  8. 前記外来遺伝子がマーカー遺伝子である、請求項7に記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  9. 前記外来遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子である、請求項7又は8に記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  10. 3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ遺伝子の片方の対立遺伝子のイントロン3に外来遺伝子が挿入されている、請求項7から9の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  11. げっ歯類動物である、請求項1から10の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  12. マウスである、請求項1から11の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物またはその一部。
  13. (1)イントロン3に外来遺伝子が挿入され、エキソン4及び5がloxP配列によって挟まれている3-ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ(Phgdhneo)遺伝子を含むターゲティングベクターが相同組み換えにより染色体に導入されたES細胞を非ヒト哺乳動物の初期胚へインジェクションして、全身でランダムにPhgdhneoアリルを持つキメラ個体(F0)を作製する工程;
    (2)上記(1)で作製したキメラ個体(F0)を野生型マウスと交配させて、Phgdhneo遺伝子を有するPhgdh+/neo個体(F1)を作製する工程;
    (3)上記(2)で作製したPhgdh+/neo個体(F1)をCreリコンビナーゼ遺伝子を有するEIIaCreトランスジェニック個体と交配させて、Phgdhneoアリル上のloxP配列に挟まれているエキソン4及び5を切り出し、Phgdhneoアリルが部分的に切り出されたアリルPhgdhneo、Phgdhflox、Phgdh-を全身でモザイク状に持つPhgdh+/mosaic Cre/+個体(F2)を作製する工程;
    (4)上記(3)で作製したPhgdh+/mosaic Cre/+個体(F2)を野生型個体と交配させて、Phgdh+/-個体(F3)を作製する工程;及び
    (5)工程(4)で作製したPhgdh+/-個体(F3)を工程(2)で作製したPhgdh+/neo個体と交配させてPhgdhneoアリルとPhgdh-アリルの両方を持つPhgdhneo/-個体を作製する工程;
    を含む、請求項1から12の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物の作製方法。
  14. 請求項1から12の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物をPHGDH欠損症のモデル動物として使用する方法。
  15. 請求項1から12の何れかに記載のノックアウト非ヒト哺乳動物を用いる、PHGDH欠損症の治療・予防薬のスクリーニング方法。

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