近年、コンピュータの外部記憶装置やビデオレコーダー等に用いられる光ディスク装置として、例えばCD(CD−ROMディスク、CD−Rディスク、CDRWディスク)、DVD(DVD−ROMディスク、DVD−RAMディスク、DVD−Rディスク、DVD−RWディスク)、ブルーレイ・ディスク等のように記録密度・容量および溝仕様・基材厚等、規格が異なる様々な光ディスクが流通している。これら多種類の光ディスクに1台で対応できるマルチディスク用途の装置が増えつつある。
このような装置は、光ディスクへ情報(データ)を書き込み、あるいは光ディスクからデータを読み出すためのインターフェースとして光ピックアップを備えている。この光ピッアップには、波長の異なる複数のレーザ光源や、光ディスクから反射した光を受けて各種信号(RF信号7フォーカス及びトラッキング制御信号)を生成するための光検出器などが搭載されている。マルチディスク用途の装置では、ロードされた光ディスクの種類に応じてレーザ光源および光学系を選択し、その光ディスクに対するデータの書き込み、消去、または読み出しを行う。
このようなマルチディスク用途の装置では、様々に異なる規格の光ディスクに対応しつつ、装置の小型化・低コスト化を図ることが求められている。このためには、種類が異なる光ディスクに対する適応性と光ピックアップの光学系のコンパクト化を両立させることが重要となる。光ピックアップの公知例は例えば特許文献1に記載されている。
種類の異なる光ディスクに対する適応性を得るためには、例えば光ディスクの透明基材が厚く、複屈折がより大きいディスクに対して安定した信号再生性能を確保することが必要である。また、光学系をコンパクト化するためには、光学部品を異なる波長の光に対して共用化し、部品点数を減らすことが必要である。
以下、図14および図15A〜15Cを参照しながら、本願発明者が特願2005−121245号(以下、「先願」と称す)に開示した光ピックアップの構成と動作を説明する。この先願は本願出願日において未公開である。
図14に示される光ピックアップ装置は、複数の光ビームを形成する光源101と、光ビームをコリメートするコリメートレンズ104と、ホログラム素子105および波長板106とからなる偏光素子107と、光ビームを集光し、光ディスクの信号面109、110上に光スポットを形成する対物レンズ108と、光ディスクの信号面109、110で反射された光ビームの強度を検出する光検出器103とを備えている。偏光素子107は、対物レンズ108とともに支持部材135に取り付けられており、アクチュエータ136によって対物レンズ108とともに一体的に駆動される。
光検出器103は、シリコンチップなどの半導体基板102に形成されており、波長λ1および波長λ2の2種類のレーザ光を出射するレーザチップからなる光源101が基板102にマウントされている。波長λ1が約650nmであり、波長λ2が約800nmである。波長λ1のレーザ光はDVD用、波長λ2のレーザ光はCD用に用いられる。光検出器103は、光電効果によって光を電気信号に変換する複数のフォトダイオードから構成されている。なお、信号面109を有する光ディスクはDVD、信号面110を有する光ディスクはCDである。図14では、2つの光ディスクが記載されているが、実際の装置では、いずれか一方が装置にロードされる。
光源101から放射された波長λ1の光は、コリメートレンズ104によって平行化された後、偏光素子107を透過する。偏光素子107は、偏光性のホログラム素子105と波長板106とが一体化された光学素子である。偏光素子107を透過した光(波長λ1)は、対物レンズ108によって光ディスク(DVD)の記録面109上に集光され、反射される。反射光は、再び対物レンズ108を経て、偏光素子107に入射する。偏光素子107が有す偏光依存性により、上記の反射光は、偏光素子107によって回折される。
偏光素子107で回折された光の一部は、コリメートレンズ104を経て光検出器103に入射する。光検出器103は、光量変化に応じた電気信号(フォーカス制御信号、トラッキング制御信号、およびRF信号)を生成する。
DVDに代えてCDがロードされた場合、光源101からは波長λ2の光が放射されることになる。光源101から放射された波長λ2の光も、コリメートレンズ104によって平行化され、偏光素子107を透過する。偏光素子107を透過した光は、対物レンズ108によって、光ディスクの記録面110上に集光され、記録面110で反射される。反射光は、再び対物レンズ108を経て偏光素子107で回折される。回折された光は、コリメートレンズ104を経て光検出器103に入射する。光検出器103は、光量変化に応じた電気信号を生成る。
上記の光ピックアップは、DVD用とCD用の2種類の波長の光を放射する一つの光源101と、光ディスクで反射された波長の異なる光を受ける共通の光検出器103を備えている。
このような構成によれば、異なる規格の光記録媒体に対応した光ピックアップをコンパクトにできる。なぜなら、異なる波長の光を光路の途中で分岐する分岐手段を用いる必要が無く、光源101から光記録媒体に至る光路(往路)と光記録媒体から光検出器103に至る光路(復路)とを異なる波長の光に対して共通化できるからである。このため、光学部品の個数を削減でき、光ピックアップを小型化できる。
図15Aは、図14に示した先願における波長板106の平面図を示し、図15Bは光源側から光ディスク110へ向かう光と光ディスク110からの反射光とが波長板106を往復する様子を示す図である。また、図15Cは偏光変換の一例を示す図である。
図15Aは、波長板106の平面構成を示している。波長板106は、光軸中心を通る線(x軸、y軸)で4つの領域に分割されている。これらの4つの領域は、x軸方向に対してθ1の角度をなす方向に光学軸を有する2つの領域Aと、x軸方向に対してθ2の角度をなす方向に光学軸を有する2つの領域Bから構成されている。この波長板106は、光学軸の方位が相互に異なる複数の複屈折領域を有しており、xy座標の原点に通る光軸に関して180°回転対称な位置に同じ性質の領域が存在している。
光源から放射された光(直線偏光)が波長板106に入射するとき、その光の偏光方向(電場ベクトルの振動方向)はx軸に平行であるとする。角度θ1およびθ2は、それぞれ、x軸方向に対して例えば45°−α、45°+α(0<α≦15°)の角度をなす。このように異なった性質を有している領域が分布している波長板を以降、「分布波長板」と称する。
光源から放射されて波長板106に入射する光線のうち領域Aを通る光線は、レンズ108によって光ディスク110上に集光され、光ディスク110で反射される。反射光は、レンズ108を透過した後、光軸について対称な位置にある領域Aを通ることになる。同様に、領域Bを通る光線は、光ディスク110で反射された後、領域Bを通過する。
波長板106の屈折率異方性をΔn、厚みをd、DVD用レーザ光の波長をλ1としたとき、360°×Δnd/λで表される波長板106のレタデーションは90°に設定される。光学軸の方位を規定するαの値が0であれば、従来の1/4波長板として機能する。x軸方向に平行な電場ベクトルを有する直線偏光(P偏光)が1/4波長板に入射すると、円偏光ら変換され、波長板から出射する。円偏光は、光情報媒体で反射された後、波長板を通過すると、y軸方向に平行な電場ベクトルを有する直線偏光(S偏光成分)に変換される。
図15Aに示す波長板106では、αがゼロではないため、領域Aを往復透過する光と領域Bを往復透過する光との間で異なる偏光変換が行われる。ただし、αが小さい(0<α≦15°)ため、従来の1/4波長板を往復透過する場合比べて偏光状態の差異は少ない。従って、波長λ1の復路光は、光学軸方位がほぼ一様な1/4波長板を透過した場合と同等の偏光状態でホログラム素子105に入射する。
一方、波長λ2のCD用レーザ光に対して、波長板106のレタデーションは、概ね波長に反比例するため、約75°(=90°×650/800≒90°×5/6)程度になる。従って、P偏光が波長板106に入射すると、楕円偏光となり、波長板から出射する。光情報媒体110で反射された光が再び波長板106を通過すると、楕円主軸の方位が変化した楕円偏光に変換される。この楕円主軸は、y軸方向に略平行であり、S偏光成分の割合が高くなる。波長λ2のCD用レーザ光の偏光状態は、領域Aおよび領域Bのいずれを透過するかによって変化し、両者の差異は波長λ1の光に生じる差異に比べて大きい。
図15Cは、波長λ2のCD用レーザ光の偏光状態の変化を示す。前述したように、電場ベクトルがx軸方向に平行な直線偏光Iが波長板106を透過するとき、領域Aおよび領域Bで異なった偏光変換が生じる。直線偏光Iは、波長板106により、楕円偏光IIに変換される。光ディスク110に複屈折性がない場合、光ディスク110で反射されて再び波長板106を通過した光は、図15Cに示す方向の楕円主軸を有する楕円偏光IIIに変換される。
一方、光ディスク110に複屈折性がある場合、例えば図15Cに示すように、領域Aを透過した光は、直線偏光Iと同じ偏光状態の光III’に変換される。光III’は、図14の偏光ホログラム105で回折されず、光源101に戻ってしまう。このため、光検出器103は、光III’を検出することができない。
領域Bを透過する光は、領域Aを透過する光とは異なる偏光変換を受ける。図15Cに示すように、光ディスク110に複屈折性がある場合も、光III’は、S波成分を有する楕円偏光となるため、図14の偏光ホログラム105で回折される。
このように図15Aに示すような波長板106を採用すれば、光ディスク110の複屈折量がどのような大きさであっても、領域Aおよび領域Bの少なくとも一方を透過した光が偏光ホログラムで回折される成分が有するため、光検出器103に入射する回折光が無くなることはない。
光ディスクに複屈折が無くても、波長λ
2の光による信号光量は波長λ
1の光による信号光量よりも少ない。これは、波長λ
2の光が復路で完全回折条件を満足しないからである。CDは、基材が厚く、生産過程で大きな複屈折が生じやすいが、CD用レーザ光は高出力化が容易であるため、反射光を光検出器に効力良く導くことよりも、確実に信号光が得られるように分布型波長板を用いることが好ましい。これに対し、DVDは基材厚が薄く、基材の複屈折が製造過程で生じにくいが、DVD用レーザ光の波長は短く、出力が低いため、反射光を効率良く光検出器に導くことが求められる。
特開2000−132848号公報
実際に製品として市場に提供されているCDなどの基材の厚い光ディスクには、複屈折性に極端なばらつきを持つものも少なくない。最悪の場合、光ディスクの基材が1/2波長板として機能する。このような場合、波長板を経て偏光ホログラムに入射する光が、偏光ホログラムによって回折されない。このように光ディスクの基材が極端に大きな複屈折を有する場合は、図15Aに示すような波長板106を用いたとしても、信号光量低下の問題が充分には解決されない。
図16は、前述の波長板106を用いた場合における光ディスクの複屈折の程度(位相差)と信号特性との関係を示すグラフである。図16(a)はCDに関し、図16(b)はDVDに関している。用いた波長板106のレタデーションは、DVD用レーザ波長に対しては、90°となり、CD用のレーザ光波長に対しては75°となる。領域Aおよび領域Bの光学軸方位はx軸に対してそれぞれ45°±10°である。グラフの横軸は、光ディスクの基材を往復する光が受ける位相差であり、縦軸は再生信号のジッタ値(Jitter)、DCレベル、およびAC振幅である。
図17は、光学軸方位が一様な従来の波長板を用いた場合における光ディスクの複屈折の程度(位相差)と信号特性との関係を示すグラフである。図17(a)はCDに関し、図17(b)はDVDに関している。用いた波長板106のレタデーションは、DVD用レーザ波長に対しては、90°となり、CD用のレーザ光波長に対しては75°となる。波長板の光学軸方位は、x軸に対して45°である。グラフの横軸は、光ディスクの基材を往復する光が受ける位相差であり、縦軸は再生信号(RF信号)のジッタ値(Jitter)、DCレベル、およびAC振幅である。
従来の一様な波長板を用いる場合、図17からわかるように、光ディスクにおける複屈折が90°のとき、再生信号のDCレベルおよびAC振幅は、いずれも0になる。これに対して、分布波長板を用いる場合は、図16からわかるように、再生信号のDCレベルおよびAC振幅は、いずれも0にはならない。しかしながら、その信号レベルは複屈折が0°の場合の大きさに対して1/10以下に低下し、信号対ノイズ比(S/N)が極めて低くなる。AC振幅の低下が顕著である。これは、復路においてホログラムで回折される光線の断面内不均一性に起因して空間的周波数特性が劣化するためであると考えられる。
一様な波長板を用いる場合、複屈折が75°以上になると、図17からわかるように、ジッタ値が無限大になる。分布波長板を使用する場合は、図16からわかるように、複屈折が90°でもジッタ値は無限大にならないが、15%程度の低い値であり、再生信号の劣化は深刻である。
なお、DVD用レーザ光についても、同様のことが成立するが、DVDの基材は薄いため、製造工程で発生する複屈折量は±60°以下である。従って、ジッタの劣化も許容できる範囲である。
このように図15Aに示すような分布波長板を用いても、複屈折量が極端に大きな光ディスクからは品質の劣化した再生信号しか得られない。このように信号光の品質劣化の問題を解決するために、回路で信号を増幅することが考えられるが、光ディスクの複屈折性は1枚の光ディスクの例えば内周部と外周部とでも大きく変化するため、信号増幅のゲイン切り替えを1つの光ディスクに対しても頻繁に行うことが必要となり、実用的ではない。
また、複屈折量が90°のときに検出器に入射する光の量を増加させるためには、分布波長板の各領域における光学軸方位の分離角αを大きくすることが有効であるように思われる。しかし、分離角αを大きくすると、波長板の各領域を透過する光線が相互に干渉して信号品質を劣化させる。
また、光学軸が異なる領域の分割数は、図15Aに示す数よりも大きいことが好ましい。分割数を大きくすると、ジッタ値の低い信号特性が実現する。図16(a)のグラフに示すように、ディスク基材の複屈折が大きいほど、ジッタ値が大きくなる理由は、複屈折が大きいほど、復路光の光束断面における光強度の偏差が大きくなるため、検出面上に集光される光スポットの集光品質が悪くなるためである。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、複数種類の光ディスクからデータを読みだすことのできる光ディスク装置において、光ディスクの基材に大きな復屈折が存在しても、信号品質の劣化を低減する波長板や光ピックアップを提供することにある。
本発明による波長板は、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線が往復通過する光路に配置される波長板であって、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対する前記波長板のレタデーションをΔ1とするとき、240°≦Δ1≦300°の関係が成立する。
本発明による他の波長板は、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線が往復通過する光路に配置される波長板であって、積層された第1および第2の位相シフト層を備え、前記第1の位相シフト層は、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対するレタデーションをΔ1とするとき、150°≦Δ1≦210°の関係が成立し、前記第2の位相シフト層は、光学軸の方位が一様であり、波長λを有する光線に対するレタデーションをΔ2とするとき、{(2n−1)×90°}−30°≦Δ2≦{(2n−1)×90°}+30°(但し、nは整数)の関係を満足する。
本発明による更に他の波長板は、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線が往復通過する光路に配置される波長板であって、積層された第1および第2の位相シフト層を備え、前記第1の位相シフト層は、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対するレタデーションをΔ1とするとき、105°≦Δ1≦165°の関係が成立し、前記第2の位相シフト層は、光学軸の方位が一様であり、波長λを有する光線に対するレタデーションをΔ2とするとき、{(2m−1)×90°}+45°−30°≦Δ2≦{(2m−1)×90°}+45°+30°(但し、mは整数)の関係を満足する。
本発明による更に他の波長板は、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線が往復通過する光路に配置される波長板であって、積層された第1および第2の位相シフト層を備え、前記第1の位相シフト層は、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、前記第2の位相シフト層は、光学軸の方位が一様であり、前記波長λを有する光線に対する前記波長板のレタデーションをΔ1とするとき、240°≦Δ1≦300°の関係が成立する。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域は、前記波長板の表面に垂直な中心軸と前記表面において交差する2直線の各々に関して線対称に配置され、かつ、前記中心軸に関して回転対称に配置されている。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域は、前記第1の領域および第2の領域がチェック模様を形成するように配置されている。
好ましい実施形態において、前記第1の領域における光学軸の方位は、波長λを有する前記光線の偏光方向に対して45°−α(但し、0<α≦15°)であり、前記第2の領域における光学軸の方位は、波長λを有する前記光線の偏光方向に対して45°+α(但し、0<α≦15°)である。
好ましい実施形態において、前記第1の領域における光学軸の方位は、波長λを有する前記光線の偏光方向に対して45°+δ−α(但し、0<α≦15°)であり、前記第2の領域における光学軸の方位は、波長λを有する前記光線の偏光方向に対して45°+δ+α(但し、0<α≦15°)である。
好ましい実施形態において、複数の複屈折領域は、前記第1および第2の領域における光学軸の方位とは異なる方位の光学軸を有する第3の領域を含んでおり、前記第3の領域における光学軸の方位は、波長λを有する前記光線の偏光方向に対して45°である。
本発明の更に他の波長板は、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線が往復通過する光路に配置される波長板であって、レタデーションが相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対する前記第1の領域のレタデーションは、270°+δ1(但し、0°<δ1≦30°)であり、波長λを有する光線に対する前記第2の領域のレタデーションは、270°−δ2(但し、0°<δ2≦30°)である。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域は、光学軸の方位が相互に異なる領域を含む。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域の光学軸の方位は波長λを有する前記光線の偏光方向に対して、45°±α(但し、0<α≦15°)、45°+δ±α(但し、−10°≦δ≦10°、0<α≦15°)、または、45°である。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域は、前記波長板の表面に垂直な中心軸と前記表面において交差する2直線の各々に関して線対称に配置され、かつ、前記中心軸に関して回転対称に配置されている。
好ましい実施形態において、前記複数の複屈折領域は、前記第1の領域および第2の領域がチェック模様を形成するように配置されている。
本発明による光学素子は、上記いずれかの波長板と偏光性フィルタとを備える。
好ましい実施形態において、前記偏光性フィルタは偏光性ホログラムである。
本発明による光ピックアップは、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線を放射する少なくとも1つの光源と、前記光源から放射された光線を光情報媒体に集光する集光手段と、前記光情報媒体から反射された光を受ける光検出器と、前記光源から前記光情報媒体に向かう光線の光路と、前記光情報媒体から前記光検出器に向かう光線の光路とが共通する部分に配置された光学素子とを備えた光ピックアップであって、前記光ピックアップは、波長板と偏光性フィルタとを有し、前記波長板は、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対する前記波長板のレタデーションをΔ1とするとき、240°≦Δ1≦300°の関係が成立する。
好ましい実施形態において、前記光検出器は、前記光情報媒体から反射された前記複数波長の光線を受ける。
本発明の他の光ピックアップは、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線を放射する少なくとも1つの光源、および、光情報媒体から反射された前記複数波長の光線を受ける光検出器が一体化されたユニットと、前記光源から前記光情報媒体に向かう光線の光路と、前記光情報媒体から前記光検出器に向かう光線の光路とが共通する部分に配置された光学素子とを備えた光ピックアップであって、前記光ピックアップは、波長板と偏光性フィルタとを有し、前記波長板は、光学軸の方位が相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対する前記波長板のレタデーションをΔ1とするとき、240°≦Δ1≦300°の関係が成立する。
本発明のよる更に他の光ピックアップは、或る波長λを有する光線を含む複数波長の光線を放射する少なくとも1つの光源と、前記光源から放射された光線を光情報媒体に集光する集光手段と、前記光情報媒体から反射された光を受ける光検出器と、前記光源から前記光情報媒体に向かう光線の光路と、前記光情報媒体から前記光検出器に向かう光線の光路とが共通する部分に配置された光学素子とを備えた光ピックアップであって、前記光ピックアップは、波長板と偏光性フィルタとを有し、前記波長板は、レタデーションが相互に異なる第1及び第2の領域を含む2次元的に配列された複数の複屈折領域を備え、波長λを有する光線に対する前記第1の領域のレタデーションは、270°+δ1(但し、0°<δ1≦30°)であり、波長λを有する光線に対する前記第2の領域のレタデーションは、270°−δ2(但し、0°<δ2≦30°)である。
本発明によれば、異なる波長の光を用いて基材厚や記録密度の異なる光情報媒体に対して記録再生を行う光ピックアップにおいて、一方の波長に対する光量ロスを防ぎながら、他の波長の光については基材の複屈折による影響を極めて小さくすることができる。このため、簡素な構成で効率が高く、性能の優れた光ピックアップを実現できる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
まず、図1および図2A〜2Cを参照しつつ、本発明による波長板および光ピックアップの最初の実施形態を説明する。なお、以下の説明においては、同一の構成要素には同一の参照符号を与える。
図1に示される光ピックアップ装置は、複数の光ビームを形成する光源1と、光ビームをコリメートするコリメートレンズ4と、ホログラム素子5および波長板6とからなる偏光素子7と、光ビームを集光し、光ディスクの信号面9、10上に光スポットを形成する対物レンズ8と、光ディスクの信号面9、10で反射された光ビームの強度を検出する光検出器3とを備えている。偏光素子7は、対物レンズ8とともに支持部材11に取り付けられており、アクチュエータ12によって対物レンズ8とともに一体的に駆動される。
光源1は、図1に示すように単一の発光素子であってもよいが、異なる波長のレーザ光を放射する複数の発光素子のセットであってもよい。偏光素子7は、光源1から対物レンズ8に至るまでの光路(往路)と、光ディスクの信号面9、10で反射されて光検出器3に至るまでの光路(復路)とが共通する部分に配置されている。
光検出器3は、シリコンチップなどの半導体基板2に形成されており、波長λ1および波長λ2の2種類のレーザ光を出射するレーザチップからなる光源1が半導体基板2にマウントされている。波長λ1が約650nmであり、波長λ2が約800nmである。波長λ1のレーザ光はDVD用、波長λ2のレーザ光はCD用に用いられる。
光検出器3は、光電効果によって光を電気信号に変換する複数のフォトダイオードから構成されている。なお、信号面9を有する光ディスクはDVD、信号面10を有する光ディスクはCDである。図1では、2つの光ディスクが記載されているが、実際の装置では、いずれか一方が装置にロードされる。
光源1から放射された波長λ1の光は、コリメートレンズ4によって平行化された後、偏光素子7を透過する。偏光素子7は、偏光性のホログラム素子5と波長板6とが一体化された光学素子である。偏光素子7を透過した光(波長λ1)は、対物レンズ8によって光ディスク(DVD)の記録面9上に集光され、反射される。反射光は、再び対物レンズ8を経て、偏光素子7に入射する。偏光素子7が有する偏光依存性により、上記の反射光は、偏光素子7によって回折される。偏光素子7で回折された光の一部は、コリメートレンズ4を経て光検出器3に入射する。光検出器3は、光量変化に応じた電気信号(フォーカス制御信号、トラッキング制御信号、およびRF信号)を生成する。
DVDに代えてCDがロードされた場合、光源1からは波長λ2の光が放射されることになる。光源1から放射された波長λ2の光も、コリメートレンズ4によって平行化され、偏光素子7を透過する。偏光素子7を透過した光は、対物レンズ8によって、光ディスクの記録面10上に集光され、記録面10で反射される。反射光は、再び対物レンズ8を経て偏光素子7で回折される。回折された光は、コリメートレンズ4を経て光検出器3に入射する。光検出器3は、光量変化に応じた電気信号を生成する。
上記の光ピックアップは、DVD用とCD用の2種類の波長の光を放射する一つの光源1と、光ディスクで反射された波長の異なる光を受ける共通の光検出器3を備えている。本実施形態では、光源1と検出器3とが一体化されているが、これらは独立していても良い。また、波長板6は、偏光ホログラム5と一体化されているが、これらは別々であっても良く、また偏光ホログラム5の代わりにPBS等の偏光性フィルタを用いてもよい。
本実施形態の光ピックアップと、図14の光ピックアップとの間にある主要な差異は、波長板6の構造にある。
以下、図2A〜2Cを参照しつつ、波長板6の構造および機能を説明する。図2Aは、図1に示す波長板6の平面図である。図2Bは、波長板6および偏光ホログラム5の側面図である。図2Cは、偏光状態の変化の一例を示す図である。
図2Aに示すように、波長板6では、光軸中心を通る線(x軸、y軸)および光軸中心Oについてそれぞれ対象な位置に同じ方位の光学軸(optic axis:光学異方軸)をもつ領域がチェックパターン状に配置されている。より具体的には、ドット領域D1は光学軸方位がx軸に対してθ1であり、斜線領域D2は光学軸方位がx軸に対してθ2である。x軸、y軸の方位は光ディスクの半径方向またはトラック接線方向と一致し、x軸とy軸とが交差する中心点は、対物レンズの中心と一致する。波長板6に光源側から入射する直線偏光(P偏光)の偏光方向はx軸と一致している。角度θ1およびθ2はそれぞれx軸方向に対して45°+α、45°−α(0<α≦15°)の角度をなす。
本実施形態における波長板6を透過する常光と異常光との位相差(レタデーション)は、波長λ1の光に対して270°である。この波長板6は、波長λ1の光に対して3/4波長板として機能する。波長分散が小さい場合、波長板のレタデーションは波長に反比例するため、波長λ2の光に対する波長板6のレタデーションは約225°(=270°×650/800)となる。このため、波長板6は、波長λ2の光に対して5/8板として機能する。
図2Bに示すように、光源側から波長板6に入射する光Iは、波長板6を透過することにより、偏光状態が変化した光IIに変換される。光IIは、図2Bにおいて不図示の光情報媒体によって反射された後、再び波長板6透過することにより、光IIIに変換され、偏光性ホログラム5に入射する。本実施形態では、光源から放射されて波長板6に入射する光線のうち領域D1を通る光線は、レンズ8によって光ディスク10上に集光され、光ディスク10で反射される。反射光は、レンズ8を透過した後、光軸について対称な位置にある領域D1を通ることになる。同様に、領D2を通る光線は、光ディスク10で反射された後、領域D2を通過する。
光は波長板6を往復して通過するため、波長板6は波長λ2の光に対しては5/4波長板、すなわち1/4波長板として機能する。光ディスクの基材に複屈折がなければ、領域D1を往復する光および領域D2を往復透過する光は、いずれも、略円偏光に近い状態(図2Cの光III)で偏光ホログラム5に入射する。偏光ホログラム5では、約半分の光(S波成分)が回折し、もう半分の光(P波成分)は回折せずに偏光ホログラム5を透過する。
一方、光ディスクの基材に大きな複屈折があり、往復で1/2波長板に相当する複屈折が生じる場合を考える。この場合、光ディスクでの反射により、1/2波長板を透過したときの同様の偏光変換が生じる。このため、偏光ホログラム5に入射する光は、光ディスクの基材に複屈折が無い場合に比べて、楕円主軸が直交する偏光状態にある(図2Cの光III’)。この場合でも、領域D1を往復する光および領域D2を往復透過する光は、いずれも、主軸方位は異なるものの、ほぼ円偏光である。したがって、偏光ホログラム5により約半分の光(S波成分)が回折し、もう約半分の光(P波成分)は回折せずに偏光ホログラム5を透過する。この場合に偏光ホログラム5によって回折される光の量、すなわち信号光量は、光ディスクの基材に複屈折がない場合における信号光量に比べて大きくは低下していない。
図3は、波長板6を用いた場合における光ディスクの複屈折の程度(位相差)と信号特性との関係を示すグラフである。(a)はCDに関し、(b)はDVDに関している。用いた波長板6のレタデーションは、DVD用レーザ波長に対しては、270°となり、CD用のレーザ光波長に対しては220°となる。領域D1および領域D2の光学軸方位はx軸に対してそれぞれ45°±10°である。グラフの横軸は、光ディスクの基材を往復する光が受ける位相差であり、縦軸は再生信号のジッタ値(Jitter)、DCレベル、およびAC振幅である。
図3(b)のグラフと図16(b)のグラフとを比較するとわかるように、DVD用レーザ光については、レタデーションを270°に増加させたことによる差異は特に生じていない。DVDの基材厚はCDの基材厚の半分であり、複屈折量も小さい(±60°以下)。このため、本実施形態の波長板6を用いる場合、DVDでは、最悪でも光ディスクの基材に複屈折の無いときの信号光量の1/3程度を確保できる。
一方、図3(a)に示すように、CD用のレーザ光に対しては、復路で偏光ホログラムに入射する光が円偏光に近いため、複屈折がない場合でも、信号レベルは約半分程度となる。しかし、光ディスクの基材に強い複屈折があっても、信号レベルの低下は極めて小さい。したがって、光検出器から出力される電気信号に対するゲインを従来の倍程度に設定しておけば、1枚のCD内で複屈折量の変化があっても信号レベルはほぼ一定しており、安定した信号再生性能を得ることができる。
このように、本実施形態では、一方の波長の光に対してレタデーションを270°近傍(270°±30°の範囲であれば同等の効果が得られる)に設定することにより、他方の波長の光に対する複屈折の影響を格段に小さくすることができる。
複屈折が0°と90°との間には、領域D1を往復する光および領域D2を往復する光の一方が、往路の入射偏光と同じ直線偏光になるポイントが存在する。そのポイントでは、偏光ホログラムで回折されないP偏光に変換される。しかし、このような場合であって、領域D1を往復する光および領域D2を往復する光の他方がS偏光成分の大きい楕円偏光に変換されている。このため、図3(a)に示すように、領域D1および領域D2を含む波長板6を透過した光から得られる信号レベルは、ゼロに低下しない。すなわち、均一な波長板のレタデーションを270°近傍に設定しただけでは、本発明の効果を得ることはできず、分布波長板のレタデーションを270°近傍に設定することが重要である。
図3(a)からわかるように、CDが大きな複屈折を有する場合でも、ジッタの劣化が少ない。この理由は、波長板6を透過する光束の断面全域内に光学軸方位が異なる複数の領域が細かく分散している結果、復路光の等価的な開口が確保され、検出器面上での光スポットの集光性を良好に確保できるためである。なお、波長板6の各領域は、光ディスクのラジアル方向やタンジェンシャル方向について対称であるため、光ディスクからの溝回折光やピット回折光が波長板6の2種類の領域に均等に入射する。複屈折により、領域D1と領域D2の差ができても、トラッキングやフォーカスなどの制御信号に対する影響も抑制できる。これらの効果を得るためには、波長板6における領域をできるだけ細かく分割した方が好ましい。各領域のサイズを、例えば、図2Aに破線で示す光束断面の直径の1/10程度以下に設定することが好ましい。
本実施形態では、αを15°以下に設定している。また、本実施形態では、光学軸方位を入射光の偏光方向に対して45°をなす角を基準としてプラス側、マイナス側に均等に振り分けている。光ディスクの基材における複屈折は一方の極性に偏っている傾向があるため、光学軸方位を入射光の偏光方向に対して45°+δ±αに設定しても良い。ここで、δはオフセット角である。直交状態に近い偏光状態を得るためには、δを−10°≦δ≦10°の範囲内に設定することが好ましい。
本実施形態では、DVD用レーザ光およびCD用レーザ光を用いているが、本発明の光ピックアップは、このような場合に限定されない。ブルーレイなどの波長がより短い光源を用いる光ピックアップにも本発明を適用することが可能である。その波長に応じた光学厚みを設定できる。具体的には、波長比例では上記したDVDとCDの波長の関係が成り立たない場合でも、材料の屈折率の分散を最適化することで、例えばDVDとブルーレイについて同様の関係を作り出すことが可能である。
(実施形態2)
次に、図4を参照しながら本発明の第2の実施形態を説明する。
図4Aおよび図4Bは、本実施形態における波長板26の構成を示している。この波長板26は、2種類の波長板(位相シフト層)の組み合わせから構成されている。図4Bには、波長板26とともに使用される偏光ホログラム23も記載されている。
本実施形態における波長板26は、積層された分布波長板24および均一波長板25から構成されている。波長λ1の光(例えばDVD用の波長650nmの光)に対する分布波長板24のレタデーションは180°であり、波長λ1の光に対する均一波長板25のレタデーションは90°である。この結果、波長λ1の光に対する波長板26のレタデーションは、270°(=180°+90°)である。
分布波長板24は、図4Aに示すように、実施形態1における分布波長板6と同様の構成を有している。ドット領域D3の光学軸方位はx軸に対してθ1の角度を形成しており、斜線領域D4の光学軸方位はx軸に対してθ2の角度を形成している。x軸およびy軸の方位は、それぞれ、光ディスクの半径方向またはトラック接線方向と一致している。x軸とy軸とが交差する中心点Oは、対物レンズの中心と一致するように配置されている。なお、光源側から波長板26に入射する直線偏光の偏光方向はx軸と一致しているものとする。本実施形態における角度θ1およびθ2は、それぞれ、45°−αおよび45°+α(0<α≦15°)である。
図4Bに示すように、光源側から分布波長板24に入射する光Iは、分布波長板24を透過することにより、偏光状態が変化した光IIに変換される。光IIは、均一波長板25を透過することにより、光IIIに変換され、図4Bにおいて不図示の光情報媒体に入射する。光情報媒体で反射された光は、再び均一波長板25を透過することにより、光IVに変換される。光IVは、更に分布波長板24で光Vに変換され後、偏光性ホログラム23に入射する。
本実施形態では、光源から放射されて分布波長板26に入射する光線のうち領域D3を通る光線は、光ディスクで反射された後、光軸について対称な位置にある領域D3を通ることになる。同様に、領D4を通る光線は、光ディスクで反射された後、領域D4を通過する。
波長λ1の光に対して、波長板26のレタデーション(270°)は、3/4波長板のレタデーションに等しい。光は波長板26を往復で2回通過するため、波長板26は3/2波長板、すなわち、1/2波長板として機能する、光ディスクの基材に複屈折がなければ、領域D3と領域D4との間で偏光方位は幾分ずれるものの、往路の直線変更と略直交する直線偏光に近い状態の光が偏光ホログラム23に入射することになる。この挙動は、波長板26のレタデーションが90°である場合に等しい。一方、もう一つの波長λ2を有する光(例えば波長800nmCD用レーザ光)に対する波長板26のレタデーションは、約225°であり、5/8波長板のレタデーションに等しい。
図4Cは、波長λ2の光の偏光変換を示す。
波長λ2の光は、往復で2回、波長板26を通過するため、波長板26は、5/4波長板、すなわち1/4波長板として機能することになる。光ディスクの基材に複屈折がなければ、光Vは、ほぼ円偏光に近い状態で偏光ホログラム23に入射する。偏光ホログラム23により、光Vの約半分が回折し、残りの半分は回折せずに偏光ホログラム23を透過する。
光ディスクの基材に大きな複屈折があり、基材が往復で1/2波長板として機能する場合、複屈折の無い場合の偏光に対して進相軸が直交する偏光が形成されるが、これも円偏光に近い楕円偏光である。すなわち、この場合も偏光ホログラム23により約半分の光が回折し、残りの半分の光は回折せずに偏光ホログラム23を透過する。従って、偏光ホログラム23によって回折される光の量、すなわち信号光量はディスク基材に複屈折がない場合とほぼ等しい。
図5は、波長板26を用いた場合における光ディスクの複屈折の程度(位相差)と信号特性との関係を示すグラフである。(a)はCDに関し、(b)はDVDに関している。用いた波長板26のレタデーションは、DVD用レーザ波長に対しては、270°となり、CD用のレーザ光波長に対しては220°となる。領域D3および領域D4の光学軸方位はx軸に対してそれぞれ45°±10°である。グラフの横軸は、光ディスクの基材を往復する光が受ける位相差であり、縦軸は再生信号のジッタ値(Jitter)、DCレベル、およびAC振幅である。
DVDはCDと比較して基材厚が半分なので、一般に複屈折量は小さく、信号レベルが変化しても、その劣化は少ない範囲に収まっている。一方、図5(a)に示すように、CD用のレーザ光では、複屈折が少なくなるほど信号のDCレベルが低下しているが、その変化量は小さい。1枚の光ディスク内で複屈折量の変化があっても、信号レベルは略一定しており、安定した信号再生性能を得ることができる。
また、CD、DVDともに、複屈折に対するジッタ劣化は少ない。これも、光束断面の全域に異なる性質の分割領域を細かく分散させて分布させていることによる効果である。
(実施形態3)
次に、図6を参照しながら本発明の第3の実施形態を説明する。
図6Aおよび図6Bは、本実施形態における波長板36の構成を示している。この波長板36も、2種類の波長板(位相シフト層)の組み合わせから構成されている。図6Bには、波長板36とともに使用される偏光ホログラム33も記載されている。
本実施形態における波長板36は、積層された分布波長板34および均一波長板35かから構成されている。波長λ1の光(例えばDVD用の波長650nmの光)に対する分布波長板34のレタデーションは135°であり、波長λ1の光に対する均一波長板35のレタデーションも135°である。この結果、波長λ1の光に対する波長板36のレタデーションは、270°(=135°+135°)である。
分布波長板34は、図6Aに示すように、実施形態2における分布波長板26と同様の構成を有している。ドット領域D5の光学軸方位はx軸に対してθ1の角度を形成しており、斜線領域D6の光学軸方位はx軸に対してθ2の角度を形成している。x軸およびy軸の方位は、それぞれ、光ディスクの半径方向またはトラック接線方向と一致している。x軸とy軸とが交差する中心点Oは、対物レンズの中心と一致するように配置されている。なお、光源側から波長板26に入射する直線偏光の偏光方向はx軸と一致しているものとする。本実施形態における角度θ1およびθ2は、それぞれ、45°−αおよび45°+α(0<α≦15°)である。
図6Bに示すように、光源側から分布波長板34に入射する光Iは、分布波長板34を透過することにより、偏光状態が変化した光IIに変換される。光IIは、均一波長板35を透過することにより、光IIIに変換され、図6Bにおいて不図示の光情報媒体に入射する。光情報媒体で反射された光は、再び均一波長板35を透過することにより、光IVに変換される。光IVは、更に分布波長板34で光Vに変換され後、偏光性ホログラム33に入射する。
本実施形態では、光源から放射されて波長板36に入射する光線のうち領域D5を通る光線は、光ディスクで反射された後、光軸について対称な位置にある領域D5を通ることになる。同様に、領D6を通る光線は、光ディスクで反射された後、領域D6を通過する。
波長λ1の光に対して、波長板36のレタデーション(270°=135°+135°)は、3/4波長板のレタデーションに等しい。光は波長板36を往復で2回通過するため、波長板36は3/2波長板、すなわち1/2波長板として機能する、光ディスクの基材に複屈折がなければ、領域D5と領域D6との間で偏光方位は幾分ずれるものの、往路の直線変更と略直交する直線偏光に近い状態の光が偏光ホログラム33に入射することになる。この挙動は、波長板36のレタデーションが90°である場合に等しい。一方、もう一つの波長λ2を有する光(例えば波長800nmCD用レーザ光)に対する波長板36のレタデーションは、約225°であり、5/8波長板のレタデーションに等しい。
従って、実施形態1および2と同様に、ディスク基材に1/2波長板に相当する大きな複屈折があった場合でも、ほぼ円偏光に近い楕円偏光の主軸が回転するだけである。このため、偏光ホログラム33により約半分の光が回折し、もう半分の光は回折せずに偏光ホログラム33を透過する。従って、偏光ホログラム33によって回折される光の量、すなわち信号光量はディスク基材に複屈折がない場合とほぼ等しい。
図7は、波長板36を用いた場合における光ディスクの複屈折の程度(位相差)と信号特性との関係を示すグラフである。(a)はCDに関し、(b)はDVDに関している。用いた波長板36のレタデーションは、DVD用レーザ波長に対しては、270°となり、CD用のレーザ光波長に対しては220°となる。領域D5および領域D6の光学軸方位はx軸に対してそれぞれ45°±10°である。グラフの横軸は、光ディスクの基材を往復する光が受ける位相差であり、縦軸は再生信号のジッタ値(Jitter)、DCレベル、およびAC振幅である。
DVDはCDと比較して基材厚が半分なので、一般に複屈折量は小さく、信号レベルが変化しても、その劣化は少ない範囲に収まっている。一方、図7(a)に示すように、CD用のレーザ光では、複屈折が少なくなるほど、信号のDCレベルが低下しているが、その変化量は小さい。1枚の光ディスク内で複屈折量の変化があっても、信号レベルは略一定しており、安定した信号再生性能を得ることができる。
また、CD、DVDともに、複屈折に対するジッタ劣化は少ない。これも、光束断面の全域に異なる性質の分割領域を細かく分散させて分布させていることによる効果である。
CDの場合、光ディスクの基材に複屈折がない場合、図16を参照して説明した分布波長板に比べて、信号レベルが約1/2程度に低下しているが、基材に大きな複屈折があっても信号レベルの低下が小さい。このため、1枚のディスク内で複屈折量の変化があっても、信号レベルはほぼ一定しており安定した信号再生性能を得ることができる。
以上、分布波長板と均一波長板とを組み合わせた波長板の合計のレタデーションが、DVD用レーザ光に対して270°(±30°以内)であり、かつ、CD用レーザ光に対して225°(±25°以内)であれば、積層する波長板の各々のレタデーションは他の値を有していても良い。また、積層する波長板の数も2枚に限定されない。
(実施形態4)
図8は、波長板の領域分割の仕方が前述の実施形態におけるものから異なっている例を示している。図8に示す波長板46は、周辺領域D9と、光学軸方位の異なる領域D7、D8がチェック模様状に配列された円形領域とから構成されている。領域D7、D8の光学軸方位は、入射偏光方向に対して例えば45°±αに設定される。本実施形態では、領域D9が一様な屈折率異方性を有しており、その光学軸方位は入射偏光方向に対して45°に一致している。円形領域の直径(d1)は、記録密度が相対的に低い光ディスク(例えばCD)に使用する光学系の開口径に相当する。円形領域の外側は、記録密度が相対的に高い光ディスク(DVDなど)に使用する光学系の開口径を含む大きさに設定される。このようにすることで、NAの低いレンズで記録再生が行われるCDのように、基材の複屈折が大きい光ディスクに対しては分布型波長板による効果を得ながら、NAの高いレンズを用いる場合は、空間周波数特性の低下を抑制することが可能になる。
(実施形態5)
次に、図9を参照しながら本発明の第5の実施形態を説明する。
図9Aは、本実施形態における波長板55の構成を示している。波長板55では、面内で性質の異なる2種類の領域が交互に配置されているが、上記実施形態と異なるのは、各領域の光学軸方位は同じであり、レタデーションが異なっている点にある。
波長λ1の光(例えば波長650nmの光)に対する領域D13のレタデーションは、270°+δ1(0<δ1≦30°)、領域D14のレタデーションは270°−δ2(0<δ2≦30°)に設定されている。すなわち、波長λ1の光(例えば波長650nmの光)に対して、波長板55は全体として略3/4波長板として機能する。一方、波長λ2の光(例えば波長800nmのCD用の光)に対して、領域D13のレタデーションは約225°+5δ1/6、領域D14のレタデーションは約225°−5δ2/6である。すなわち、波長λ2の光に対して波長板55は略5λ/8板として機能することになる。
光源側から波長板55に入射する光は、波長板55で偏光変換されて透過する。光情報媒体で反射した光は、再び波長板55で偏光変換を受けながら、透過する。
波長板55では、光軸中心を通る線(x軸、y軸)および光軸中心について、それぞれ対象な位置に同じレタデーションをもつ領域がチェックパターン状に配置されている。x軸、y軸の方位は、光ディスクの半径方向またはトラック接線方向と一致し、x軸とy軸とが交差する中心点は、対物レンズの中心と一致するように配置されている。波長板55に光源側から入射する直線偏光の偏光方向はx軸と一致している。
光学軸方位は、領域D13、D14ともにx軸方向に対して45°の角度をなす。本実施形態の領域分割では、光源からの光のうち領域D13を通る光は、レンズにより集光され、光情報媒体で反射されて、光軸について対称な位置にある領域D13を通る。一方、領域D14の部分を通る光は、同じく光情報媒体で反射され、領域D14を復路で通過する。ここで、波長板のレタデーションが、一方の波長λ1の光(例えば波長650nmのDVD用の光)に対して略270°、すなわち3/4波長板相当であるので、波長λ1の光にすれば、往復で波長板55を2回通過することにより、略3/2波長板、すなわち、略1/2波長板として機能する。このため、ディスク基材の複屈折がなければ、往路と直交する直線偏光に近い状態になって偏光ホログラムに入射する。これは背景技術で説明した波長板のレタデーションが90°の場合に等しい動作である。
一方、もう一つの波長λ2(例えば波長800nmCD用の光)に対しては、そのレタ
デーションは波長比例で略225°、すなわち略5/8波長板である。すなわち波長λ2の光にすれば光が往復で2回波長板55を通過することで略5/4波長板、すなわち、略1/4波長板相当であり、ディスク基材の複屈折がなければほぼ円偏光に近い状態になって光学系の復路で偏光ホログラムに入射する。したがって、偏光ホログラムにより約半分の光が回折し、もう半分の光は回折せずに偏光ホログラムを透過する。
光ディスクの基材に大きな複屈折、例えば往復で1/2波長板に相当する複屈折があった場合でも、偏光ホログラムに復路で入射する光が複屈折の無い状態での円偏光に対して進相軸が直交する偏光となるが、これもほぼ円偏光に近い楕円偏光である。すなわち、この場合も同様に偏光ホログラムにより約半分の光が回折し、もう半分の光は回折せずに偏光ホログラムを透過する。従って、偏光ホログラムによって回折される光の量、すなわち信号光量はディスク基材に複屈折がない場合とほぼ等しい。すなわち、波長板の面内でレタデーションが異なることが、実施形態1から4に示した光学異方性軸が素子面内で異なるのと同様の分布波長板としての効果を有する。また、この構成においても、素子面内で性質の異なる領域が存在する分布波長板であって、初めて効果を持つものである。
図9Bに示す波長板56でも、面内で性質の異なる2種類の領域が交互に配置されているが、図9A上記実施形態と異なるのは、レタデーションの異なる領域の配置の仕方にある。
周辺領域D10と、光学軸方位の異なる領域D11、D12がチェック模様状に配列された円形領域とから構成されている。波長λ1の光(例えば波長650nmの光)に対する領域D11のレタデーションは、270°+δ1(0<δ1≦30°)、領域D12のレタデーションは270°−δ2(0<δ2≦30°)に設定されている。周辺領域D10とのレタデーションは270°であり一様である。この波長板56は、波長λ1の光(例えば波長650nmの光)に対して、波長板56は全体として略3/4波長板として機能する。
円形領域の直径(d1)は、記録密度が相対的に低い光ディスク(例えばCD)に使用する光学系の開口径に相当する。円形領域の外側は、記録密度が相対的に高い光ディスク(DVDなど)に使用する光学系の開口径を含む大きさに設定される。このようにすることで、NAの低いレンズで記録再生が行われるCDのように、基材の複屈折が大きい光ディスクに対しては分布型波長板による効果を得ながら、NAの高いレンズを用いる場合は、空間周波数特性の低下を抑制することが可能になる。
次に、図10を参照しながら、本発明の波長板を製造する方法の実施形態を説明する。ここでは、実施形態1における波長板を製造する方法を例にとり説明する。
本実施形態における分布波長板は、2枚の透明基板の間に液晶層を形成している。
まず、図10に示すように、例えばITOから形成された透明電極膜62a、62bが表面に形成された透明基板61a,61bを用意し、透明導電膜62a、62b上に配向材料を塗布して、配向膜63a、63bを形成する。配向材料としては、直線偏光の紫外線を照射し、露光することにより、その偏光方向に配向性を付与することができる光配向膜材料を用いる。
次に、図11に示すように、方位θ1で規定される向きに光学軸を有する領域を形成するとき、他の領域をマスク64aで覆った状態で、方位θ1の方向に直線偏光した紫外線で照射する。反対に、方位θ2で規定される向きに光学軸を有する領域を形成するときは、他の領域をマスク64bで覆った状態で、方位θ2の方向に直線偏光した紫外線で照射する。
次に、図12に示すように、透明基板61aと透明基板61bとを対向させて周辺部分を接着剤で貼り合わせた後、紫外線硬化樹脂を含有する液晶材料67を開口部66から内部に注入する。液晶材料67が注入されると、液晶分子の長鎖軸は、配向膜63a、63bの配向規制方向に揃うことになる。
液晶層68の配向を更に均一に行うためには、透明電極膜62a、62bに電圧を印加することにより、液晶層68に電界を及ぼすことが好ましい。このような電界の印加を行わない場合は、透明電極膜62a、62bを設ける必要はない。
次に、図13に示すように、液晶層68に無偏光の紫外線を照射し、液晶層68を硬化させる。
液晶層68の配向規制は、一般には、ポリアミド系合成繊維などの微細な織毛が形成された布で一定方向に配向膜の表面を摩擦することによって行われる。しかし、本実施形態では、同一面内で異なる方位に配向させるため、光配向技術を用いている。このような光配向技術によれば、所望の配向分布を得ることができる。なお、透明導電膜62a、62bの少なくとも一方は、分割される領域に合わせてパターニングされていてもよい。透明導電膜62a、62bをパターニングしておくことにより、領域毎に異なる電圧を印加することが可能になり、配向状態を領域毎に調節しやすくなる。