JP2006124905A - ナノポーラスファイバー - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、従来の多孔繊維とは異なり、粗大細孔をほとんど含まないナノ細孔が均一性に分散したナノポーラスファイバーを提供するものである。
【解決手段】上記目的は、直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であり、細孔が独立孔であるナノポーラスファイバー(ナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在していることを除く)により達成される。
【選択図】なし

Description

本発明は、可視光を乱反射する粗大な細孔をほとんど含まない、微細かつ均一なナノ細孔を多数有するナノポーラスファイバーに関するものである。
ナイロン6(N6)やナイロン66(N66)に代表されるポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表されるポリエステル繊維は力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。また、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等に代表されるポリオレフィン繊維は軽さを活かして産業用途に幅広く利用されている。
しかし、単一のポリマーからなる繊維ではその性能に限界があるため、従来から共重合やポリマーブレンドといったポリマー改質、また複合紡糸や混繊紡糸による機能の複合化が検討されてきた。中でも、ポリマーブレンドは新しくポリマーを設計する必要が無く、しかも単成分紡糸機を用いても製造が可能であることから特に活発な検討が行われてきた。
ところで、繊維に軽量感や吸水性を付与することを目的として、従来から中空繊維や多孔繊維の検討もなされてきた。中空繊維については高中空率を目指して開発が進められたが、仮撚り加工等で中空が潰れてしまう問題があった。このため、最近、水溶性ポリマーとの複合繊維を利用した多島中空繊維も開発されているが、中空径が1μm以上であるため中空部のポリマー/空気界面での可視光の散乱が多くなり、繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
一方、サブμmレベルの細孔を多数有する多孔繊維も検討されているが、この製造法は複合紡糸ではなくポリマーブレンド紡糸法が採用されてきた。例えば、ナイロンに親水基共重合PETをブレンドして繊維化し、これから共重合PETを溶出することで多孔を有するナイロン繊維が得られることが知られている(特許文献1)。これにより、サブμmレベルの表面凹凸や細孔が形成されるためパール様光沢が得られるのであるが、逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。これは、細孔サイズが可視光の波長レベルであり、しかも細孔が多数あるため、多島中空繊維に比べて可視光の散乱が多くなるためである。また、細孔サイズが可視光より小さい細孔を有する繊維の提供(特許文献2)もあるが、実際にはブレンド繊維中にPETの粗大な凝集粒子が存在し、この凝集粒子が溶出した後のサブμm〜1μmレベルの粗大細孔が存在するため、やはり特許文献1同様に発色性低下の問題があった。事実、該文献2ページ左上下から7行目には「ポリアミド中にポリエステル成分が大部分0.01〜0.1μの太さのすじとして存在し、溶出後もほぼその大きさの空洞が存在している。」と記載されており、PET凝集粒子の存在が指摘されている。この他にもナイロン/PETブレンド繊維を利用した多孔性繊維の提案(特許文献3、4)があるが、ナイロン中でのPETの分散サイズのばらつきが大きく、0.1〜1μm程度までの分布を持つものであり、粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。
また、前記従来例のように細孔サイズの分布が大きいと、細孔全体に占める粗大細孔の影響が急激に大きくなり、そのため微細なナノ細孔の寄与が小さく、多孔化による効果を十分発揮できない問題もあった。
このため、粗大な細孔を含まない微多孔を有する繊維が求められていた。
特開平2−175965号公報(1〜5ページ) 特開昭56−107069号公報(1〜3ページ) 特開平8−158251号公報(1〜7ページ) 特開平8−296123号公報(1〜7ページ)
本発明は、従来の多孔繊維とは異なり、粗大細孔をほとんど含まないナノオーダーの微細孔が均一性に分散したナノポーラスファイバーを提供するものである。
上記目的は、直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であり、細孔が独立孔であるナノポーラスファイバー(ナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在していることを除く)により達成される。
本発明の従粗大細孔をほとんど含まないナノ細孔が均一性に分散したナノポーラスファイバーにより、従来の多孔繊維に比べ発色性を大幅に向上でき、また優れた吸湿・吸着特性を活かした高付加価値の繊維製品を得ることができる。
本発明のナノポーラスファイバーを構成するポリマーとしてはポリエステルやポリアミド、またポリオレフィンに代表される熱可塑性ポリマーやフェノール樹脂等のような熱硬化性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルに代表される熱可塑性に乏しいポリマーや生体ポリマー等のことを言うが、熱可塑性ポリマーが成形性の点から好ましい。中でもポリエステルやポリアミドは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、PETは255℃、N6は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていても良い。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良いが、ポリマー本来の耐熱性や力学特性を保持するためには共重合率は5mol%あるいは5重量%以下であることが好ましい。特に衣料、インテリア、車両内装等に用いる場合には、ポリエステルやポリアミドが融点、力学特性、風合いの点から好ましく、共重合率が5mol%または5重量%以下の相対粘度2以上のナイロン6、ナイロン66、極限粘度0.50以上のPET、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、重量平均分子量10万以上のPLAが特に好ましい。また、これらのポリマーはナノポーラスファイバーの80重量%以上を構成することが好ましい。
本発明では、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであることが重要である。ここでナノポーラスファイバーとは直径100nm以下の細孔を繊維横断面において1個/μm以上含むものである。これにより、吸水性を飛躍的に増大させることができるのである。
また、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることが重要である。可視光の波長は400〜800nm程度であるため、直径200nm以上の粗大細孔がほとんど存在しないことにより、ナノポーラスファイバーとした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、細孔の直径や面積はナノポーラスファイバーの超薄切片を切り出し、それを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定することができる。細孔は楕円やその他の歪んだ形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は細孔面積から円換算で求めたものとする。また、繊維横断面全体とは単繊維の繊維横断面の面積であり、ここではポリマー部分と細孔部分とからなる面積である。これらの面積はWINROOF等の画像処理ソフトを用いると簡単に求めることができる。より好ましくは、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
また、細孔の平均直径は0.1〜50nmであることが好ましい。これにより、可視光の散乱がほとんど起こらず可視光には透明であるが、有害な紫外線の波長に近づくためUVカットという新たな機能が発現する。さらに、繊維表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。また、これほどの微細孔が多数あると水以外にも有機溶媒等の種々の液体を吸収する能力が飛躍的に向上するのである。この観点から細孔の平均直径は30nm以下とすることがより好ましい。ただし、細孔径が小さすぎると熱処理などにより潰れやすくなるため、細孔の平均直径は5nm以上とすることがより好ましい。
本発明のナノポーラスファイバーの一例を図1(N6ナノポーラスファイバー横断面のTEM写真)に示すが、金属染色による微細な濃淡が観察される。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。一方、N6ナノポーラスファイバー縦断面を図2に示すが粒が筋のように配列した濃淡パターンを示していることが分かる。また、これらの細孔は、ほとんど連結されていない独立孔である。これらの細孔は後述するように細孔内に様々な分子を取り込むことが可能であるが、これの洗濯耐久性や徐放性を考慮して、本発明では取り込んだ分子をある程度トラップまたはカプセル化できる独立孔となっているものである。
以上のようにナノポーラスファイバーは無数のナノ細孔を有しているが、これにより比表面積が増大し、優れた吸湿・吸着性を示すというメリットがある。ナノポーラスファイバーの吸湿率(ΔMR)は4%以上であることが好ましい。また、このナノポーラスファイバーは水蒸気だけでなく種々の物質の吸着特性にも優れ、消臭繊維としても有用である。さらに、綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。ここで可逆的水膨潤性とは、繊維が吸水すると糸長手方向に伸び、乾燥等により繊維から水が除去されると元の長さに縮むという吸水膨潤/乾燥収縮を可逆的に繰り返す性質を言うものである。本発明のナノポーラスファイバーでは吸水膨潤の時の糸長手方向の膨潤率は6%以上であることが好ましい。このような特殊な性質を有する繊維は、快適衣料等として有用である。例えば、これを用いて編物を作製した場合、繊維が汗の水分を吸収して糸長手方向に伸びると、編クリンプが伸び、結果的に編目が拡がる。このため、編物中で開口部が拡大し、編物の裏から表へ水分や水蒸気が容易に通過するようになる。このため、衣服のムレ感が大幅に減少し、快適と感じられるのである。さらに、このような編物は洗濯による汚れが落ちやすいソイルリリース性に優れたものとなるのである。これは、上述したように吸水することにより繊維が長手方向に膨潤し編目を拡げるため、繊維間に付着した汚れを容易に除去できるのである。
また、ナノ細孔には種々の機能物質を取り込み易いため、従来の繊維に比べ機能加工し易い繊維である。例えば、通常のポリエステル繊維からなる布帛に吸湿性を付与する目的で、分子量1000以上のポリエチレングリコール(PEG)系の吸湿剤を付与してもほとんど吸尽する事はできない。しかし、本発明のPETナノポーラスファイバーからなる布帛に同じ吸湿剤を付与すると多量に吸尽することができるのである。また、最近、保湿によるスキンケア機能を持つ物質として鮫の肝臓から取れる天然油成分であるスクワランが注目されているが、これも通常のポリエステル繊維からなる布帛に付与してもほとんど吸尽するできないにもかかわらず、本発明のナノポーラスファイバーからなる布帛は多量に吸尽するとともに、洗濯耐久性が大幅に向上できるのである。また、吸尽させる機能性薬剤は吸湿剤や保湿剤以外にも、難燃剤、撥水剤、保冷剤、保温剤、平滑剤、微粒子、あるいはポリフェノールやアミノ酸、タンパク質、カプサイシン、ビタミン類等の健康・美容促進のための薬剤や、水虫等の皮膚疾患の薬や消毒剤、抗炎症剤、鎮痛剤等の医薬品、ポリアミンや光触媒ナノ粒子といった有害物質の吸着・分解するための薬剤なども適用ができる。さらに、有機あるいは無機ポリマー形成能を有するモノマーを吸尽させた後、それらを重合させハイブリッド材料を作ることも可能である。また、広い比表面積を活かして細孔壁面を化学加工により活性化させ、選択吸着や触媒能を持たせることももちろん可能である。
本発明のナノポーラスファイバーの強度は1.5cN/dtex以上であれば、繊維製品の引き裂き強力や耐久性を向上できるため好ましい。強度はより好ましくは2cN/dtex以上、さらに好ましくは2.5cN/dtex以上である。また、伸度は20%以上であると繊維製品の耐久性を向上でき好ましい。
また、本発明のナノポーラスファイバーはバフィングやウォーターパンチ等の物理的な毛羽加工により容易にフィブリル化する場合があり、いわゆるフィブリル化繊維あるいはそれからなる繊維製品としても有用である。この時のフィブリル径は前駆体となるポリマーアロイ繊維でのポリマーの組み合わせ、ポリマーアロイ繊維の物性、ナノポーラスファイバー中での細孔の形態、毛羽加工条件等により0.001〜5μmの範囲でコントロール可能である。特に、細孔の形態は重要であり、細孔が小さく多数であるほどフィブリル化し易い傾向がある。これは、前駆体となるポリマーアロイ繊維中での易溶解性ポリマーのブレンドサイズやブレンド比にも大きく影響される。特に、ポリアミドのような耐摩耗性が良好な繊維では、これまでフィブリル化繊維が皆無であり、有用である。
また、本発明のナノポーラスファイバーは、三葉断面、十字断面、中空断面等様々な繊維断面形状を採用することができる。また、繊維横断面の全面にナノポーラスが存在していてもよく、ナノポーラス部が繊維表層側あるいは内層部に偏って存在していても良いが、ナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在しているものは除くものとする。ここで、ナノポーラス部とは直径100nm以下の細孔を1個/μm以上含む領域を言うものである。繊維内層部がナノポーラス部となり、繊維表層部が通常のポリマーの場合は、耐摩耗性や寸法安定性、強度を向上させることができる。また、繊維表層部がナノポーラス部となり、繊維内層部が通常のポリマーの場合は、寸法安定性や強度を向上させることができる。ただし、ナノポーラス部が局在化したナノポーラスファイバーにおいて、ナノ細孔の優れた性能と通常のポリマーの特性を両立させるためには、ナノポーラス部は繊維横断面全体に対し面積比で5〜95%とすることが好ましい。ナノポーラス部の面積比はより好ましくは20〜80%、さらに好ましくは40〜60%である。このようなナノポーラス部が局在化したナノポーラスファイバーは、ポリマーアロイ繊維から易溶解成分を溶出する際、溶解処理を途中で止め易溶解成分を繊維中に残したり、ポリマーアロイと通常ポリマーの複合紡糸した複合繊維から易溶解成分を溶出することにより得ることができる。
また、本発明のナノポーラスファイバーは、単独で用いることもできるが、混繊、混綿、混紡、交織、交編等により通常の合成繊維や化学繊維、あるいは天然繊維などと混用することもできる。寸法安定性や耐久性に優れた合成繊維と混用した場合には布帛の形態安定性や耐久性、また耐薬品性を向上させることが可能である。化学繊維や天然繊維と混用した場合には、吸湿・吸水機能や風合いのさらなる向上を図ることができる。
また、本発明のナノポーラスファイバーは、捲縮の無いフラットヤーンでも捲縮糸でも良いが、捲縮糸とした場合には、得られた布帛に嵩高性やストレッチ性を持たせることができ、その用途も広がるので好ましい。さらに、長繊維、短繊維、織物、編物、不織布、フェルト、人工皮革、熱成形体等のさまざまな繊維製品形態を採ることができる。特に一般的な衣料品やインテリア製品、ワイピングクロスとする場合には織物や編物とすることが好ましい。一方、人工皮革あるいはフィルター、吸着材料、研磨布等の機能製品に用いる場合は不織布とすることが好ましい。
以上のように本発明のナノポーラスファイバーは、従来の多孔性繊維に比べ発色性低下が無く、また吸湿性や吸着性にも優れる高品質の染色布帛を提供することができる。このため、パンスト、タイツ、インナー、シャツ、ブルゾン、パンツ、コートといった快適衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、ワイピングクロス等の生活資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにフィルター、研磨布等の産業資材用途、カーシートや天井材といった車輌内装用途にも好適に用いることができる。さらに、機能性分子の吸着により健康・美容関連品や医薬品基布、燃料電池の電極といった環境、メディカルやIT関係のような最先端材料としても利用することができる。
本発明のナノポーラスファイバーの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維から易溶解ポリマーを除去することによって得ることができる。
例えば難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造ポリマーアロイ繊維を利用する場合には、直径200nm以上の島、すなわち粗大な凝集ポリマー粒子の存在比が島全体に対し面積比で3%以下であることが好ましい。これにより、ナノポーラスファイバー化とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、島はややひずんだ楕円形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は島面積から円換算で求めたものとする。また、島全体に対する面積は、繊維断面中に存在する全ての島を合計した面積であり、繊維断面観察やポリマーブレンド比から見積もることができる。直径200nm以上の島の面積比は好ましくは1%以下である。より好ましくは直径100nm以上の島の面積比は3%以下であり、さらに好ましくは直径100nm以下の島の面積比は1%以下である。
また、島の平均直径が1〜100nmであると、島を除去することにより従来の多孔繊維よりも孔サイズの小さなナノポーラスファイバーが得られるため好ましい。細孔サイズがナノレベルになると、可視光の散乱がほとんど起こらなくなるために発色性が著しく向上するだけでなく、有害な紫外線を大きく散乱するようになり、UVカットという新たな機能が発現する。さらに、表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。このように発色性や吸着性の観点からは島の平均直径は小さい方が有利であるが、過度に小さくなるとポリマー界面が大きくなり過ぎここでの相互作用が過大となり溶融紡糸工程での細化挙動が不安定となり易い。このため、島の平均直径は、より好ましくは10〜50nmである。
また、島は筋状構造を形成していることが好ましい。これにより、紡糸細化挙動を安定化させることができるのである。ここで筋状構造とは、島の繊維軸方向の長さと直径の比が4以上のものをいうものである。
また、海島構造ポリマーアロイではなく以下のような特殊な層構造のアロイ繊維を利用することもできる。ここで特殊な層構造とは、繊維横断面をTEMで観察した時、以下の状態を示すものである。すなわち、ブレンドされた異種ポリマー同士が層を形成し互いに入り組み合って存在している状態である(図8、9繊維横断面TEM写真)。このため、異種ポリマー同士の界面が海島構造(図3、繊維横断面TEM写真)に比べはるかに大きくなっており、相溶性が海島構造の物に比べると向上しているが、PET/PBTのようないわゆる均一構造のものと比べると相溶性が低いという極めて特異な構造である。ただし、層に明確な周期性が認められないため、いわゆるスピノーダル分解による変調構造とは区別されるものである。ここで、TEMのサンプルは金属染色されており、濃い部分が難溶解ポリマーであるN6、淡い部分が易溶解ポリマーである共重合PETである。また、層を形成するという点でいわゆる海海構造とも明確に区別されるものである。海海構造はポリマーブレンドにおいて海/島が逆転する近傍のブレンド比で現れる極めて不安定な構造であり、当然この領域では安定紡糸を行うのは極めて困難である。繊維横断面方向における易溶解成分の層の1層の厚みは1〜100nmであれば、異種ポリマーが十分超微分散しており、少量ブレンドでもブレンドポリマーの性能を十分発揮できる点から好ましい。また、繊維横断面で観察されるこの層は繊維長手方向には筋として伸びているものである(図10、繊維縦断面TEM写真)。
上記のように易溶解性ポリマーが難溶解性ポリマー中に均一に超微分散化することによって、本発明のナノポーラスファイバーを得ることができるが、易溶解性ポリマーに低融点や低軟化点のポリマーを用いても、高温処理が行われる捲縮加工や撚糸等の糸加工や布帛加工の工程通過性を向上し、さらに得られる製品の品位も向上できるという利点もある。
なお、ポリマーアロイ繊維中のポリマー種類は溶解性の異なる2種以上であれば良く、必要に応じて難溶解、易溶解性ポリマーの種類を増やすことができ、また相溶化剤を併用することももちろん可能である。
上記したポリマーアロイ繊維において易溶解性ポリマーはアルカリ易溶解性ポリマーであると、島除去による多孔化工程を通常の繊維の後加工工程であるアルカリ処理工程を利用できるため好ましい。例えば、易溶解性ポリマーとしてポリスチレン等の有機溶媒溶解性ポリマーを用いた場合は防爆設備が必要であることを考えると大きなメリットである。易溶解性ポリマーは熱水可溶性ポリマーであると、繊維の精練工程で島除去できるためさらに好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては例えばポリエステルやポリカーボネート等を挙げることができ、熱水可溶性ポリマーとしては親水基を多量に共重合したポリエステル、またアルキレンオキサイドやポリビニルアルコール、またそれらの変性物等を挙げることができる。
本発明のナノポーラスファイバーの力学特性を保持するためには、難溶解性ポリマーのブレンド比を40〜95重量%とすることが好ましい。難溶解性ポリマーのブレンド比は、より好ましくは70〜85重量%である。
また、上記したポリマーアロイ繊維は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸が公知技術(特許文献1〜4)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明で利用するポリマーアロイ繊維ではU%を0.1〜5%とすると、アパレルやインテリア、車輌内装等の繊維製品にした際、染色斑が小さく品位の高い物が得られ好ましい。U%はより好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。また、特にアパレル用途で杢調を出す場合には、U%が3〜10%の太細糸とすることもできる。
上記ポリマーアロイ繊維の強度は2cN/dtex以上とすることで、撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。強度は好ましくは3cN/dtex以上である。また、伸度は15〜70%であれば、やはり撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。また、延伸仮撚り加工用原糸として用いる際は伸度は70〜200%とすることが仮撚り加工での工程通過性の点から好ましい。延伸用の原糸の場合には伸度は70〜500%程度とすることが延伸での工程通過性の点から好ましい。
上記したポリマーアロイ繊維の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。
すなわち、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーおよび/または易溶解性ポリマーが微分散化した難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸することにより本発明のポリマーアロイ繊維を得ることができる。ここで、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練する事により粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができるのである。公知技術(特許文献1〜4)ではいずれもチップブレンド(ドライブレンド)を用いているため、ブレンド斑が大きく島ポリマーの凝集を防ぐことができなかったのである。
本発明においては、強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機を用い、静止型混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、混練するポリマーの供給方法は、混練するポリマーをそれぞれ別々に計量し、供給することで、ブレンド斑や経時的なブレンド比の変動を抑制でき好ましいものである。このとき、ペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部長さをスクリュー有効長さの20%以上とすることで高混練とすることができ好ましい。また、混練部長さがスクリュー有効長さの40%以下とすることで、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、ポリマーの熱劣化やポリアミド成分のゲル化を抑制することができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることで、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
さらに、ベント式として混練時の分解ガスを吸引したり、ポリマー中の水分を減じることによってポリマーの加水分解を抑制し、ポリアミド中のアミン末端基やポリエステル中のカルボン酸末端基量も抑制することができる。
また、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。特にナイロンと親水基共重合PETのアロイの場合は、親水基共重合PETが再凝集し易いため注意が必要である。
また、島直径の微小化にはポリマーの組み合わせも重要であり、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの親和性を上げることで島となる易溶解性ポリマーを超微分散化し易くなる。例えば、難溶解性ポリマーとしてナイロン、易溶解性ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合には、PETに親水性成分である5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SSIA)を共重合した親水基共重合PETを用いると、ナイロンとの親和性を向上させることができる。特にSSIAの共重合率が4mol%以上の親水化PETを用いることが好ましい。また、両者の溶融粘度比も重要であり、海ポリマー/島ポリマーの粘度比が大きくなるほど島ポリマーに大きな剪断力がかかり島が微分散化し易くなる。ただし、過度に粘度比が大きくなると混練斑や紡糸性悪化を引き起こすため、粘度比は1/10〜2程度とすることが好ましい。
上記したような製造法の特徴により、粗大な凝集ポリマー粒子の生成が抑制されるため、公知技術(特許文献1〜4)に比べ、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく紡糸吐出が安定し、曳糸性や糸斑を著しく向上できるという利点もある。さらに、口金孔径としては通常よりも大きい物を用いると、口金孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し粘弾性バランスを保つことができるため、紡糸安定性が向上する。具体的にはポリマアロイの口金での吐出線速度を15m/分以下にできる口金を用いることが好ましい。加えて、糸条の冷却も重要であり、口金から積極的な冷却開始位置までの距離は1〜15cmとすることで、伸長流動が不安定化しやすいポリマーアロイを迅速に固化させることで紡糸を安定化することができるのである。
また、島ポリマーを微細化する観点からは紡糸ドラフトは100以上とすることが好ましい。さらに未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するためには紡糸速度は2500m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
なお、上記したポリマーアロイ繊維から作製したナノポーラスファイバーの一例を図17に示すが、金属染色による濃淡は前駆体であるポリマーアロイ繊維(図15)よりも微細になっており、繊維および易溶解成分が除去された跡が潰れていることが分かる。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、ポリマーアロイ段階での易溶解性ポリマーの分散サイズよりも細孔サイズを小さくすることができるという利点がある。なお、易溶解性ポリマーの除去に伴い細孔だけでなく繊維径自体も収縮をする場合がある。さらにこのナノポーラスファイバーの繊維縦断面を図18に示すが、ポリマーアロイ繊維では易溶解ポリマーは筋状に伸びていた(図16)が、ナノポーラスファイバーでは筋が所々潰れ、粒状の濃淡パターンを示す場合があることが分かる。
以上のように、従来とは異なる製造方法により得られたポリマーアロイ繊維を利用することにより本発明のナノポーラスファイバーが得られるが、これは細孔サイズが従来のものよりも小さく、また粗大細孔をほとんど含まず、衣料用のみならず様々な分野に応用可能な優れた素材である。
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
B.ナイロンの相対粘度
98%硫酸溶液にナイロンペレットを溶解し0.01mg/mlの濃度に調製した後、25℃で測定した。
C.ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
D.融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
E.力学特性
室温(25℃)で、引っ張り速度=100%/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
F.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
G.熱収縮率
熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtexで測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長。
H.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向または縦断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型。
I.細孔直径または島ポリマー直径
細孔直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて細孔の円換算による直径を求めた。また、微細すぎたり形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。平均直径は、それらの単純な数平均値を求めた。この時、平均に用いる細孔は同一横断面内で無作為抽出した300以上の細孔を用いた。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。また、無機微粒子やこれの周りのボイドは、ここでは細孔に含めなかった。島ポリマー直径は細孔直径解析に準じた。
J.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはナノポーラスファイバーを構成するポリマーを常法により製糸したものを用いた。より具体的には以下の方法を用いた。
ナイロンの場合は、染料にクラリアントジャパン株式会社製“NylosanBlue N−GFL”を用い、この染料を繊維製品の0.8重量%、pHを5に調整した染色液で浴比100倍、90℃×40分処理した。
ポリエステルの場合は、染料にクラリアントジャパン株式会社製“ForonNavy S−2GL”を用い、この染料を繊維製品の0.8重量%、pHを5に調整した染色液で浴比1:100、130℃(ポリ乳酸は110℃)で40分処理した。
目視判定で、比較以上またはほぼ同等の発色性が得られたもの(◎)と比較よりはやや劣るが衣料用として充分なもの(○)を合格とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。
K.吸湿率(ΔMR)
サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・ (1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・ (2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・・ (3)。
L.可逆的水膨潤性および糸長手方向の膨潤率
繊維を60℃で4時間乾燥した後、原長(L0’)を測定する。そしてこの繊維を25℃の水に10分間浸漬した後、水から取り出し素早く処理後長(L1’)を測定する。さらにこの繊維を60℃で4時間乾燥後、乾燥後長(L2’)を測定する。そして、乾燥/水浸漬の3回繰り返し、3回目の糸長手方向の膨潤率が1回目の糸長手方向の膨潤率に対して50%以上であれば可逆的水膨潤性を有しているとした。糸長手方向の膨潤率は以下のようにして計算した。なお、繊維の長さは、繊維の2カ所に色つきの糸を結びその間の距離を測定した。この距離は約100mmとなるようにした。
糸長手方向の膨潤率(%)=((L1’−L0’)/L0’)×100(%)。
M.仮撚加工糸の捲縮特性、CR値
仮撚加工糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L0”を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当の荷重を除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L1”を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L0”−L1”)/L0”]×100(%)。
実施例1
相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のN6(80重量%)と極限粘度0.60、溶融粘度1400poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点250℃の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%共重合した共重合PET(20重量%)を二軸押出混練機で260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。このときの混練条件は以下のとおりであった。
スクリュー型式 同方向完全噛合型 2条ネジ
スクリュー 直径37mm、有効長1670mm、L/D=45.1
混練部長はスクリュー有効長の28%
混練部はスクリュー有効長の1/3より吐出側に位置させた
途中3個所のバックフロー部有り
ポリマー供給 N6と共重合PETを別々に計量し、別々に混練機に供給した
温度 260℃
ベント 2個所
なお、共重合PETは0.05重量%の酸化チタンを含有していた。そして、このポリマーアロイを270℃の溶融部2で溶融し、紡糸温度275℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、溶融紡糸した(図21)。この時、溶融部2から吐出までの滞留時間は10分間であった。口金としては図22に示すように吐出孔上部に直径0.2mmの計量部11を備えた、吐出孔径13が0.5mm、吐出孔長12が1.25mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は2.1g/分とし、ポリマーアロイの口金吐出線速度は10m/分であった。また、口金下面から冷却開始点(チムニー5の上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金4から1.8m下方に設置した給油ガイド7で給油された後、非加熱の第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9を介して3800m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。
そして、これに図25の装置を用い延伸仮撚り加工を施した。この時、延伸倍率は1.3倍、ヒーター23温度は165℃、回転子25としてはウレタンディスクの3軸ツイスターを用い、D/Y比は1.65とした。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度3.5cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR38%の優れた物性を示した(表2)。
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、N6が海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図3)、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.9%であった。ここで、島全体に対する面積比とは島成分の面積の総和に対する比率のことを言い、粗大な凝集ポリマーの目安となるものである。また、繊維縦断面TEM観察(図4)から島は筋状構造を形成していることが分かった。
このポリマーアロイ捲縮糸S撚り/Z撚り双糸として丸編みを作製し、これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。これによりN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した(図1)ところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。ここで、濃い部分がN6ポリマー、薄い部分が細孔に相当するが、細孔は独立孔であることがわかった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにこれの吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。また、これは可逆的な水膨潤性を示し、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを180℃で1分間セットしたものから抜き出した糸の糸長手方向の膨潤率は7%であった。さらに、これの力学特性を測定したところ、強度2.6cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。N6ナノポーラスファイバーの物性は表1に示した。
実施例2
N6を溶融粘度1260poise(280℃、剪断速度2432sec−1)のN6を用い溶融粘度比を表2記載のように変更して実施例1と同様に溶融紡糸、延伸仮撚りを行った。この時、単孔あたりの吐出量、口金孔数を変更し105dtex、96フィラメント、強度3.8cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR35%のポリマーアロイ捲縮糸を得た(表2)。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
このポリマーアロイ捲縮糸S撚り/Z撚り双糸として実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡の細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。これらの細孔は独立孔であった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例3
実施例1で得たポリマーアロイチップを用い、吐出量と口金孔数を変更し、紡糸速度を900m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行った。この時の溶融部2から吐出までの滞留時間は12分間であった。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。
そして、これを第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図23)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率を3.2倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は70dtex、34フィラメント、強度3.7cN/dtex、伸度47%、U%=1.2%、熱収縮率11%の優れた特性を示した。
また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、N6が海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図15)、島の平均直径は38nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。また、直径200nm以上の島は島全体に対して面積比で1.2%であった。なお、溶融混練したポリマーアロイチップの断面TEM写真を図5に示すが、島ポリマーが粒径20〜30nmまで超微分散化しており、繊維横断面での島ポリマー直径(図15)同等以下であった。口金吐出から延伸を通じてポリマーは500倍程度に引き延ばされ、本来、繊維横断面中では島ポリマー直径はポリマーアロイ中に比べ1/22以下にならなければならいにもかかわらず、繊維横断面での島ポリマー直径の方が大きいということは、ポリマーアロイの溶融から口金吐出されるまでに島ポリマーが再凝集したことを示しており、これを抑制しながら島ポリマーを超微分散させるためには本実施例のように紡糸条件を適切に選ぶことが重要であることがわかる。ポリマーアロイ繊維の物性は表2に示した。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。
ここで得られたポリマーアロイ繊維を用いて丸編みを作製し、これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。
このN6ナノポーラスファイバーを光学顕微鏡で繊維側面観察を行ったところ、アルカリ処理前の繊維に比べ繊維径が若干減少しており、島ポリマーを除去することによって繊維半径方向に収縮が起こっていることが分かった。次に、これの繊維側面をSEMにより観察したところ、倍率2000倍程度では繊維表面に凹凸は見られずきれいな表面形態であった。また、このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した(図17)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維(図15)よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はN6高密度部分、淡い部分はN6低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、細孔の平均直径は15nmであり、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であった。また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイでは共重合PETが筋状に伸びていた(図16)のに対し、N6ナノポーラスファイバーでは粒状の淡い部分が観察された(図18)。図17および図18の濃淡パターンから、これらの細孔は独立孔であると判断した。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにこれの吸湿率(ΔMR)を測定したところ、6%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。また、このN6ナノポーラスファイバーの力学特性を測定したところ、強度2.0cN/dtex、伸度70%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。また、これは可逆的な水膨潤性を示し、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを180℃で1分間セットしたものから抜き出した糸の糸長手方向の膨潤率は7%であった。N6ナノポーラスファイバーの物性は表1に示した。
実施例4、5
N6を溶融粘度1260poiseまたは1540poise(280℃、剪断速度2432sec−1)の実施例3で用いたものよりも高粘度のN6を用い、N6と共重合PETの溶融粘度比を表2記載のように変更して実施例3と同様に溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。この時、単孔あたりの吐出量、口金孔数を変更し105dtex、96フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性はいずれも良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維は、いずれも粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径200nm以上の島は島全体に対し面積比で0.1%以下、直径100nm以上の島も面積比で0.1%以下であった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。
これらのポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーを光学顕微鏡、SEMで観察したところ実施例3同様に島ポリマー除去により繊維半径方向に収縮が起こり、倍率2000倍程度では繊維表面に凹凸は見られずきれいな表面形態であった。また、このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になり、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、細孔の平均直径は15nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。また、繊維縦断面を観察したところ、粒状の濃淡がシリンダー状に並んだパターンとなっていた。以上のTEM観察から、これらの細孔は独立孔と判断した。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例6
N6と共重合PETブレンド比を50重量%/50重量%とし、単孔あたりの吐出量、口金孔数を変更して実施例3と同様に溶融紡糸、延伸・熱処理を行い、90dtex、34フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果を図6に示すが、共重合PETは直径10nm程度の島が数珠状に繋がり、短軸10nm以下、長軸50〜80nm程度の層状の島として存在しており、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果を図7に示すが、細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。図7からこれらの細孔は独立孔であることがわかった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例7
実施例3で用いたN6(50重量%)と5−ナトリウムスルホイソフタル酸を12mol%、イソフタル酸を26mol%共重合したPET(50重量%)とを2軸押し出し混練機で245℃で混練し、ポリマーアロイチップを得た。このポリマーアロイを紡糸温度250℃で溶融し、口金孔径0.6mmとし、単孔あたりの吐出量を変更して実施例3と同様に溶融紡糸を行い、紡糸速度800m/分で未延伸糸を巻き取った。これを延伸倍率3.4倍、第1ホットローラー温度90℃、第2ホットローラー温度130℃で延伸熱処理した。これにより、85dtex、36フィラメントのポリマーアロイ糸を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果を図19に示すが、共重合PETは短軸10〜30nm、長軸50〜100nm程度の層状の島として存在しており、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、3重量%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:50)で1時間処理することにより、共重合PETの99%以上を溶解除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。この時、顕著な繊維の半径方向への収縮が観察された(半径収縮率は約22%、横断面積収縮率は約40%)。この溶解除去後のナイロン6糸の繊維側面をSEMで観察(2000倍)したが、共重合PETが抜けた跡であるいわゆる筋状溝やボイドは観察できなかった。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果を図20に示すが、細孔の平均直径は10nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらに、N6ナノポーラスファイバーの水による膨潤性を測定したところ、糸長手方向の膨潤率は11.1%と大きな値を示した。また、3回目の測定でも糸長手方向の膨潤率の低下はほとんど無く、可逆性・耐久性とも充分であった。また、この丸編みを140℃で30分間熱処理後、N6ナノポーラスファイバーの水による膨潤性を測定したところ、糸長手方向の膨潤率は7.3%と熱処理前に比べると膨潤率は低下したが、なお通常N6繊維の3%に比べるとはるかに大きな値であった。このことは熱処理により糸長手方向の膨潤率を制御できることを示しており、布帛設計し易いというメリットとなる。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例8
共重合PETをイソフタル酸を7mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を4mol%共重合したPET(融点225℃、0.05重量%の酸化チタンを含有)として、N6と共重合PETの重量比を50重量%/50重量%、口金孔径を0.7mmとして実施例3と同様にして溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。問題となるほどではないが実施例3に比べると紡糸が不安定化し、24時間の連続紡糸の間の糸切れは2回であった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子はわずかであったが、島の平均直径が143nm、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は5%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。糸物性は表2に示した。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーを光学顕微鏡で観察したところ実施例7同様に島ポリマー除去により繊維半径方向に収縮が見られた。また、このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡が潰れ幅10〜30nm、長さ100nm程度の細孔となっており、直径が50〜100nmの大きな細孔も散見された。しかし、直径200nm以上の粗大細孔の面積比は0.5%であった。これの発色性評価を行ったが、実施例3に比べると発色性に劣るものの衣料用として使用可能なレベルであった。なお、これの細孔は独立孔であった。
実施例9
共重合PETの代わりにポリアルキレンオキサイド誘導体の熱水可溶性ポリマーである第一工業製薬株式会社製“パオゲンPP−15”とし、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更、紡糸速度を4000m/分、延伸倍率を1.2倍として、実施例3と同様に溶融紡糸、延伸・熱処理を行い55dtex、68フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は1.3%であった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理することにより熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は30nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。なお、これの細孔は独立孔であった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例10
共重合PETの代わりに重量平均分子量15万、溶融粘度857poise(240℃、2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)を用い混練温度を220℃として実施例1と同様に溶融混練した。なお、ポリ乳酸の重量平均分子量は以下のようにして求めた。試料のクロロホルム溶液にTHF(テトロヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。なお、実施例1で用いたN6の240℃、2432sec−1)での溶融粘度は570poiseであった。そして、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更、紡糸速度を3500m/分として、実施例1と同様に溶融紡糸を行い105dtex、36フィラメント、強度3.1cN/dtex、伸度107%、U%1.2%の高配向未延伸糸を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。これに延伸倍率を1.4倍として実施例1と同様に延伸仮撚り加工を施し、76dtex、36フィラメント、強度4.0cN/dtex、伸度29%、U%1.3%、CR35%の仮撚り加工糸を得た。この時、ポリL乳酸の融点を考慮し、ヒーター温度を160℃としたため、未解撚がほとんど無い品位にも優れた仮撚り加工糸が得られ、延伸仮撚りでの工程通過性も良好であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、島ポリマーの平均直径は80nmであった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理することによりポリL乳酸の99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
この丸編みからN6ナノポーラスファイバーを引き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径30nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。また、得られたナノポーラスファイバーの強度は実施例1に比べても高いものであった。これは、実施例1で用いた共重合PETに含まれるスルホン酸基が疑似架橋構造を生成し、N6の繊維構造形成を阻害する傾向があるのに対し、PLAはそのような悪影響が少ないためと考えられる。
実施例11
実施例3で用いたN6と共重合PETを図24の装置を用いてそれぞれ270℃、290℃で溶融した後、パック3内に設置した静止混練器20(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)により104万分割して混合した。そして、これを絶対濾過径20μmの金属不織布フィルターで濾過した後、孔径0.35mmの口金孔から吐出した。この時、紡糸温度は280℃、口金4からチムニー5の上端までの距離は7cmとした。これを紡糸速度900m/分で引き取り、第2引き取りローラー9を介して巻き取った。24時間の紡糸を行ったが、紡糸での糸切れは皆無であり、良好な紡糸性を示した。これを図23の装置を用いて延伸・熱処理した。この時、延伸倍率は3.2倍、第1ホットローラー16温度は70℃、第2ホットローラー17温度は130℃とした。延伸・熱処理での糸切れは皆無であり、良好な延伸性を示した。
これにより56dtex、12フィラメントのポリマーアロイ繊維を得たが、U%は1.5%と充分糸斑の小さなものであった。また、これの繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色により濃く染まったN6部分と淡いPET部分が特殊な層構造を形成しており、PET層部分の厚みは概ね20nm程度であった(図8)。また、この繊維は繊維表層から150nm程度までは特殊な層構造が崩れ海島構造となっていたが、特殊な層構造部分の面積を見積もったところ、繊維横断面全体に対して98%であり、繊維断面のほとんどが特殊な層構造を形成していた(図9)。また、このポリマーアロイ繊維の縦断面をTEMで観察したところ層が筋状になっていた(図10)。
このポリマーアロイ繊維を用いて丸編みを作製したが、製編工程でのトラブルは皆無であり、良好な工程通過性を示した。さらにこの丸編みを95℃の3%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、ポリマーアロイ繊維からPETを完全に除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。この丸編みはΔMR=5.7%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。このナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した(図11)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はN6高密度部分、淡い部分はN6低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイではPETが筋状に伸びていた(図10)のに対し、ナノポーラスファイバーでは粒状の淡い部分が観察され(図12)、細孔が潰れていることが示唆された。直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例12
N6/共重合PETブレンド比を50重量%/50重量%として実施例11と同様に溶融紡糸を行った。紡糸性は良好であり、24時間の紡糸で糸切れはゼロであった。これを図23の装置を用いて延伸・熱処理した。この時、延伸倍率は3.2倍、第1ホットローラー16温度は70℃、第2ホットローラー17温度は130℃とした。延伸・熱処理での糸切れは皆無であり、良好な延伸性を示した。
得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果を図13に示すが、共重合PETは直径10〜20nm程度の微細な島が連結した数珠状島として存在しており、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果を図14に示すが、10〜20nm程度の微細な濃淡パターンを示し、直径20nm以下の細孔が多数存在することが示唆された。また、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例13
N6をN66として実施例12と同様に溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。この時、紡糸温度は280℃、N66/共重合PETのブレンド比は80重量%/20重量%とした。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理することにより共重合PETの99%以上を除去し、N66ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN66ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は20nmとなっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
また、このN66ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N66ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
実施例14
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、図26の装置を用いて紡糸直接延伸を行った。この時、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更し、第1ホットローラー28の周速2000m/分、温度40℃、第2ホットローラー29の周速4500m/分、温度150℃として55dtex、12フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度37%、U%1.2%、熱収縮率12%のポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の紡糸で糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維は、いずれも粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径200nm以上の島は島全体に対し面積比で0.1%以下、直径100nm以上の島も面積比で0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
これらのポリマーアロイ繊維を実施例3と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になり、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。TEM観察からこれの細孔は独立孔であると判断した。 また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表1に示すように優れた物性であった。
比較例1
混練方法を二軸押出混練機ではなく単純なチップブレンドとして図21の装置を用い、実施例3と同様に溶融紡糸を行った。紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。しかし、わずかに得た未延伸糸を用いて実施例3同様に延伸・熱処理を行いポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。これを用いて実施例3同様にN6多孔繊維を得たが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が2.0%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
比較例2
実施例4で用いたN6を50重量%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3.5mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを50重量%を単純にチップブレンドした後、290℃で溶融し、孔径0.6mmの丸孔口金から吐出し、図21の装置を用い、紡糸速度1200m/分で溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて120℃の熱プレートを用い延伸倍率2.7倍で延伸した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これの横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。
そして、アルカリ処理により、これから共重合PETの99%以上を溶解除去した。この時に繊維径はほとんど変化しなかった。これの発色性評価を行ったが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が5.0%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
比較例3
実施例4で用いたN6を70重量%、極限粘度0.60の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を4.5mol%、分子量4000のポリエチレングリコールを8.5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを30重量%を単純にチップブレンドして280℃で溶融し、孔径0.6mmの丸孔口金から吐出し、図21の装置を用い、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて延伸倍率3.35倍、第1ホットローラー16温度90℃、第2ホットローラー17温度130℃で延伸・熱処理した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これの横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は8%であった。
そして、アルカリ処理により、これから共重合PETの90%以上を溶解除去した。この時に繊維径はほとんど変化しなかった。これの発色性評価を行ったが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が2.4%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
比較例4
実施例4で用いたN6を77重量%、ホモPETを20重量%、相溶化剤としてブロックポリエーテルポリアミド(ポリエチレングリコール部分45重量%+ポリ−ε−カプロラクタム部分55重量%)を3重量%を単純にチップブレンドして図21の装置を用い、実施例1と同様に溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて実施例1と同様に延伸・熱処理した。これにより、77dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これの横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は14%であった。
そして、アルカリ処理により、PETの99%以上を溶解除去した。この時に、実施例3とは異なり繊維径はほとんど変化しなかった。これの発色性評価を行ったが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が4.6%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
比較例5
N6/共重合PETブレンド比を25重量%/75重量%として比較例3と同様に溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて120℃の熱プレートを用い延伸倍率2.7倍で延伸した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これの横断面をTEMで観察したところ、比較例1とは異なりアルカリ難溶解性のN6が島、アルカリ易溶解性の共重合PETが海を形成していた。また、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。
これを実施例1同様にアルカリ処理を施し、海共重合PETを除去したところ、N6極細繊維が強固に接着した繊維が得られた。しかし、この繊維は強度を測定することも困難であり、実用的な繊維として取り扱うことは困難であった。
次に、ポリマーアロイ繊維をギ酸で処理し島N6を溶解除去したが、同時に共重合PETの脆化も著しく、ぼろぼろと崩れやすい物であり実用的な繊維として取り扱うことは困難であった。このようにこのポリマーアロイ繊維は実質的に多孔繊維を得ることができず、本発明の目的を達成できない物であった。
参考例1
PETにエチレンナフタレートを全酸成分に対し10mol%共重合した共重合PET(極限粘度0.60)とポリエーテルイミド(ゼネラルエレクトリック社製”ウルテム”−1000)を共重合した共重合PETが70重量%になるように30mmφの二軸押し出し混練機を用い、320℃で混練した。ここで得られたポリマーアロイチップを十分乾燥後、口金孔数6ホール、単孔吐出量0.6g/分、紡糸温度315℃、紡糸速度500m/分で溶融紡糸した。海ポリマーである共重合PETの融点に比べ紡糸温度が高すぎたため紡糸が不安定化し、12時間の紡糸で10回の糸切れと紡糸性は不良であった。わずかに得られた未延伸糸を用いて、予熱ローラー温度90℃、ホットプレート温度120℃、延伸倍率3.0倍で延伸を行ったが、糸切れが頻発した。ここで得られた延伸糸の強度は1.3cN/dtexと低いものであった。これは、混練温度、紡糸温度がメジャー成分である共重合PETにとって高すぎたため熱分解によるポリマー劣化が発生したためと考えられる。また、これのU%も16%と極度に悪いものであった。
この共重合PETアロイ繊維を経糸及び緯糸に用いて平織りを作成したが、糸切れや毛羽が頻発し、工程通過性が極端に悪く、また品位の悪い織物しか得られなかった。そして、この織物を90℃の6重量%NaOH水溶液で2時間処理し海綿状の繊維を得た。しかし、これは強度が0.3cN/dtexと極端に低強度であった。これは、元々、共重合PETが熱劣化しているのに加え、高濃度のアルカリで長時間処理したために共重合PETがボロボロに崩れてしまったためと考えられる。
このように、ポリマーに適した混練、紡糸条件を設定しないと高強度で糸斑の小さな糸が得られず、製糸性も悪化してしまう。また、易溶解性ポリマーと難溶解性ポリマーの溶解度差が小さいとやはり低強度化の要因となる。以上のように、混練、紡糸、溶解条件をポリマー毎に最適化して初めて実用に耐えうる繊維が得られるのである。
実施例15
融点255℃、極限粘度0.63、溶融粘度830poise(280℃、2432sec−1)のホモPETを80重量%、実施例9で用いた熱水可溶性ポリマーを20重量%として275℃で実施例1と同様に二軸押出混練機を用いて溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を280℃、紡糸温度を280℃とし、単孔吐出量と口金孔数を変更して実施例3と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、第1ホットローラー温度16を90℃として、実施例3と同様に延伸・熱処理を行い、90dtex、36フラメント、強度3.3cN/dtex、伸度40%、U%1.5%、熱収縮率7%のポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。ここで、濃い部分がPET、薄い部分が熱水可溶性ポリマーである。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例9と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PETナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このPETナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。ここで、濃い部分がPET、薄い部分が細孔であり、細孔は独立孔であった。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
また、このPETナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
実施例16
ホモPETをPEG1000を8重量%、イソフタル酸を7mol%共重合したPET(融点235℃、極限粘度0.65溶融粘度920poise(280℃、2432sec−1))として255℃で実施例15と同様に溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を255℃、紡糸温度を255℃、口金孔形状をY断面として実施例15と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、実施例15と同様に延伸・熱処理を行い三葉断面のポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PETナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このPETナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。TEM観察から、細孔は独立孔であることがわかった。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
また、このPETナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
実施例17、18
共重合PETを融点220℃、溶融粘度1290poise(280℃、2432sec−1)のポリトリメチレンテレフタレート(PTT)または融点220℃、溶融粘度550poise(280℃、2432sec−1)のポリブチレンテレフタレート(PBT)として、実施例16と同様に、溶融混練、溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、ポリエステルナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このポリエステルナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。TEM観察から、細孔は独立孔であることがわかった。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
また、このポリエステルナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
実施例19
PETを融点170℃、溶融粘度1200poise(280℃、2432sec−1)の重量平均分子量16万のPLAとし、溶融温度を220℃として実施例15と同様に溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を220℃、紡糸温度を220℃として実施例15と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、第1ホットローラー温度16を90℃として、実施例3と同様に延伸・熱処理を行った。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PLAナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このPLAナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
また、このPLAナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。特にPLAは染料吸尽率が低いという問題があったが、ナノポーラス化することにより染料吸尽率が向上し、通常のPLA繊維より発色性が向上した。
実施例20、21
PLAをポリプロピレン(PP)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)として実施例17と同様に溶融混練、溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PPまたはPMMAナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
実施例22
PETをポリメチルペンテン(PMP)とし、溶融温度を255℃として実施例15と同様に溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を255℃、紡糸温度を255℃として実施例15と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、第1ホットローラー温度16を90℃として、実施例3と同様に延伸・熱処理を行った。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比は1.2%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PMPナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。
このPMPナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した結果、細孔の平均直径は30nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔の面積は細孔全体に対し0.3%であった。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
実施例23
PETをポリフェニレンサルファイド(PPS)、熱水可溶性ポリマーを実施例2で用いたN6とし、PPSのブレンド比を90重量%として実施例15と同様に305℃で溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を305℃、紡糸温度を305℃とし、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更して実施例15と同様に溶融紡糸を行ったところ、24時間の連続紡糸の間の糸切れは2回であった。そして、第1ホットローラー温度16を90℃として、実施例3と同様に延伸・熱処理を行い、150dtex、48フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は1.5%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表4に示すとおり優れたものであった。
このポリマーアロイ繊維を実施例15と同様に丸編み後、ギ酸で2時間処理しN6の99%以上を除去し、PPSナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。ナノポーラスファイバーの物性は表3に示した。
実施例24
実施例1で作製したN6/共重合PETアロイ仮撚り加工糸を鞘糸として用いて、オペロンテックス社製ポリウレタン繊維糸である“ライクラ”(登録商標)をカバリングした。そして、このカバリング糸を用いてタイツ用の編み地を作製した後、実施例1と同様にアルカリ処理を行いN6ナノポーラスファイバーからなるタイツ用編み地を作製した。このタイツ用編み地の目付は100g/mであり、N6ナノファイバーとポリウレタン繊維糸の重量比率はそれぞれ95%と5%であった。これにシリコーン処理、揉布処理を行った。そして、このタイツ用編み地を縫製し、タイツを作製した。このタイツからN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、TEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。また、細孔は独立孔であった。また、糸強度は2.5cN/dtexであった。このタイツは発色性も良好であり、ΔMRが5.6%と高く、また繊細なタッチと人肌のようなしっとりとしたみずみずしい風合いを示し、非常に着用快適性の高いものであった。また、ポリウレタン繊維を混用することにより、大きなストレッチ性が付与されただけでなく、洗濯時のタイツの形態安定性も向上した。
実施例25
単孔吐出量、孔数を変更し、紡糸速度を3800m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行い、400dtex、96フィラメントのN6/共重合PETポリマーアロイ繊維からなる高配向未延伸糸を得た。このポリマーアロイ高配向未延伸糸の強度は2.5cN/dtex、伸度は100%、U%は1.2%であった。この繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、また島の平均直径は39nmであった。そして、これに図25の装置を用いて実施例1と同様に延伸仮撚りを施し、333dtex、96フィラメントの仮撚り加工糸を得た。得られた仮撚り加工糸は、強度3.0cN/dtex、伸度30%であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、島の平均直径は27nmであった。
この仮撚り加工糸に300ターン/mの甘撚りを施し、S撚り/Z撚り双糸で経糸および緯糸に用いて、2/2のツイル織物を作製した。そして、得られたツイル織物に実施例1と同様にアルカリ処理を施し、N6ナノポーラスファイバーからなる目付150g/mのカーテン用生地を得た。このカーテン用生地からN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、TEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。また、細孔は独立孔であった。また、糸強度は2.5cN/dtexであった。
また、このカーテンは発色性も良好であり、吸湿率(ΔMR)は5.5%と十分な吸湿性を示した。そして、この生地を用いてカーテンを作製し6畳間に吊したところ、高吸湿性により結露を抑制し、さらに悪臭ガスを消臭することにより、爽やかな室内環境とすることができた。このように、本発明のナノポーラスファイバーは、従来にない室内環境を整えることができる環境応答型のインテリア製品に好適であった。また、このカーテンを家庭用洗濯機で洗濯ネットに入れて洗濯・脱水したが形くずれは発生せず、レーヨン製のカーテンとは異なり、高吸湿性、高吸水性ではあっても良好な寸法安定性を示した。
実施例26
単孔吐出量、孔数を変更し、吐出孔をY型として実施例3と同様に溶融紡糸を行った。紡出糸は900m/分で引き取り、次いで、1段目の延伸倍率を1.3倍、トータル倍率を3.5倍の条件で2段延伸を行い、さらにジェットノズルを用いて捲縮を付与してから500dtex、90フィラメントの嵩高加工糸を巻き取った。この嵩高加工糸の強度は5.0cN/dtex、伸度は25%であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。また、島の平均直径は30nmであった。
得られた嵩高加工糸を2本引き揃えて合糸し、下撚り(200T/m)し、それを2本用いて上撚り(200T/m)で撚り合わせ、乾熱170℃で撚り止め処理を施した後、カットパイルカーペットとして公知の方法にてタフトした。このときには、通常のレベルカットにて、1/10ゲージ、目付が1500g/mとなるようにステッチを調節してタフトした。その後、バッキングを実施した。タフトに際し、基布にはアクリル繊維とポリエステル繊維の混紡糸を用いた織り基布を使用した。さらにカットパイル部分のみをアルカリ処理し、カットパイル部分がN6ナノポーラスファイバーとなる構造を発現させた。これをTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は30nmであった。また、細孔は独立孔であった。また、カットパイルを抜き出し強度を測定したところ、2.0cN/dtexであった。このカットパイル部分は発色性も良好であり、ΔMRは5.3%と十分な吸湿性を示し、爽やかな室内環境とすることができ、さらに結露も抑制できるものであった。
実施例27
口金および単孔吐出量を変更して実施例3と同様に紡糸を行い、第1引き取りローラー8にて糸を引き取った後、合糸し、バンカーに受けた。そして、バンカーに受けた糸条をさらに合糸し15万dtexのトウとした。これを、90℃水槽中で3.2倍に延伸した。そして、クリンパーを通した後、給油し、カットした。得られたカットファイバーは、単糸繊度7dtex、捲縮数10個/25mm、繊維長51mmであった。捲縮数はカットファイバー単糸30mmをサンプリングし、捲縮数を数えた。このカットファイバーの強度は3.3cN/dtex、伸度は40%であった。これの繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の島の面積比は0.7%であった。また島の平均直径は33nmであった。
このカットファイバーをカードで解繊した後クロスラップウェーバーでウェッブとした。次にニードルパンチ(1500回/cm)を行い、180g/mの繊維絡合不織布とした。この不織布に実施例3と同様にアルカリ処理を施し、N6ナノポーラスファイバー不織布を得た。この不織布からナノポーラスファイバーをサンプリングしTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は30nmであった。また、細孔は独立孔であった。また、カットファイバーをアルカリ処理し、ナノファイバー化したものの強度を測定したところ、2cN/dtexであった。この不織布は発色性も良好であり、ΔMR=5.8%と充分な吸湿性を示した。
実施例28
実施例27で作製したポリマーアロイからなるカットファイバーを紡績し、ポリマーアロイ紡績糸を得た。これを経糸および緯糸に用いて目付150g/mの平織りを得た。そして、実施例1と同様にアルカリ処理を行いN6ナノポーラスファイバー布帛を得た。この布帛からナノポーラスファイバーをサンプリングしTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は30nmであった。また、細孔は独立孔であった。また、この布帛からナノポーラスファイバー紡績糸を抜き出し強度を特定したところ、2.0cN/dtexであった。この布帛は発色性も良好であり、ΔMR=5.8%と充分な吸湿性を示し、また発色性も良好であった。
実施例29
実施例20と同様に紡糸を行い、エアーサッカーにより糸条を引き取り、開繊させてネットに捕集した後、カレンダーロールを掛けポリマーアロイ繊維からなる目付35g/mの不織布を得た。なお、エアーサッカーで引き取った繊維の単糸繊度は2dtexであり、繊度から求めた紡糸速度は4500m/分相当であった。この不織布からポリマーアロイ繊維を抜き取り繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nmの島の面積比も0.1%以下であった。また島の平均直径は31nmであった。
この不織布に実施例15と同様に熱水処理を施し、PPナノポーラスファイバー不織布を得た。これは、吸水性に優れるものであった。この不織布からナノポーラスファイバーをサンプリングしTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は30nmであった。このように、本発明のナノポーラスファイバーは、従来にない高機能不織布を得るために最適であった。
実施例30
実施例14で作製したポリマーアロイ繊維と70dtex、96フィラメントの通常のN6繊維をインターレースノズルを用いてエア混繊した。これを経糸および緯糸に用いて目付150g/mの平織りを作製し、実施例3と同様にアルカリ処理を施すことによりN6ナノポーラスファイバーと通常N6からなる布帛を得た。このN6ナノポーラスファイバーをTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は20nm、糸強度は3.3cN/dtexであった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は発色性も良好であり、またΔMRも4%と充分な吸湿性を示した。また、これはソフトで繊細なタッチの優れた風合いであった。
実施例31
吐出量と口金孔数を変更し実施例3と同様に溶融紡糸を行い、90dtex、68フィラメント、強度2.7cN/dtex、伸度100%、U%1.3%のポリマーアロイからなる高配向未延伸糸を巻き取った。これと別途準備した70dtex、34フィラメントの通常のN6延伸糸(強度6cN/dtex、伸度45%)を複合仮撚りした。この時、延伸倍率は1.02倍、ヒーター温度は165℃とした。得られたCR37%の複合仮撚り糸を用いて実施例1と同様に丸編みを作製し、アルカリ処理を施した。得られた丸編みからN6ナノポーラスファイバーを抜き出しTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は15nm、糸強度は2.5cN/dtexであった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は発色性も良好であり、またΔMRも4.5%と充分な吸湿性を示した。また、これはソフトで繊細なタッチの優れた風合いであった。
実施例32
実施例4で得たポリマーアロイ繊維を経糸に72dtex、27フィラメントのビスコースレーヨン緯糸に用い、目付が150g/mとなるように2/2ツイル織物を作製した。これを実施例1と同様にアルカリ処理をほどこした。得られた布帛からN6ナノポーラスファイバーを抜き出しTEM観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は15nm、糸強度は2.5cN/dtexであった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は発色性も良好であり、またΔMRも7%と充分な吸湿性を示した。また、これはソフトで繊細なタッチの優れた風合いであった。このように、本発明のナノポーラスファイバーは他の繊維と混用することにより、さらに風合いや吸湿性を向上させることができ、高級衣料用の布帛に最適である。
実施例33
実施例15で得たPETナノポーラスファイバーからなる布帛に吸湿剤である高松油脂(株)製商品名“SR1000”(10%水分散品)を吸尽させた。このときの、加工条件は吸湿剤は固形分として20%owf、浴比1:20、処理温度130℃、処理時間1時間とした。この吸湿剤の通常のポリエステル繊維への吸尽率はほぼ0%であるが、このPETナノポーラスファイバーへの吸尽率は12%以上であり、ΔMR=4%以上と綿同等以上の優れた吸湿性を有するPET布帛を得ることができた。このように、本発明のナノポーラスファイバーは、機能物質を容易に取り込み、あたかもカプセル化するような構造となるため、機能物質の吸尽率を向上することができ、機能加工用原糸として最適である。
比較例6
通常のPET布帛を実施例33と同様に吸湿加工を施したが、吸湿剤の吸尽率はほぼ0%であり、吸湿性も発現しなかった。
実施例34
実施例15で作製したPETナノポーラスファイバーからなる布帛に難燃剤であるトリフェニルリン酸(味の素ファインテクノ(株)“レオフォスTPP”)を20%owf、浴比1:40、処理温度130℃、処理時間1時間で吸尽させた。そして、これを水洗後、炭酸ナトリウム水溶液(80℃)でソーピングした。さらに、家庭洗濯を10回施した。このときの付着量は7重量%であり、燃焼評価を行ったところ良好な自己消火性を示したこのように、本発明のナノポーラスファイバーは、機能物質を容易に取り込み、あたかもカプセル化するような構造となるため、洗濯耐久性を向上することができ、機能加工用原糸として最適である。
比較例7
通常のPET布帛を実施例34と同様に難燃加工を施した。これの洗濯10回後の付着量は1重量%であり、燃焼評価を行ったところ自己消火性を示さなかった。
実施例35
実施例15で得たPETナノポーラスファイバーからなる布帛に鮫の肝臓から抽出した天然油成分であり、保湿によるスキンケア効果のあるスクワランを吸尽させた。この時の処理条件は、スクワラン60%と乳化分散剤40%を混合した物を水に濃度7.5g/リットルで分散させ、浴比1:40、温度130℃、処理時間60分間である。処理後80℃で2時間洗浄を行い、この時のスクワランの付着量は布帛に対して21重量%であった。その後、家庭洗濯を20回施した後のスクワランの付着量は、布帛に対して12重量%であり、充分な洗濯耐久性を示した。
このスクワラン加工されたPETナノポーラスファイバーからなる丸編みを用いて靴下を作製し、かかとの乾燥がひどい被験者10人に1週間の着用試験を行ったところ、乾燥肌が緩和された者が8人いた。これは、細孔にトラップあるいはカプセル化されたスクワランが被験者の汗により徐々に抽出され、肌と接触したためと考えられる。
比較例8
通常のPET布帛に実施例35と同様にスクワランの吸尽加工を施したところ、洗浄後の付着量は布帛に対して21重量%であったが、家庭洗濯10回後の付着量は0重量%であり、まったく洗濯耐久性が無かった。
実施例36
実施例3で作製したN6ナノポーラスファイバー布帛をイオン交換水に浸漬し、その後1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタンを加え、3時間攪拌した。室温で14時間静置後、さらに13時間攪拌し、さらに室温で14時間静置後、さらに7時間攪拌し、シリカを重合した。その後、丸編み地をイオン交換水で洗浄後、風乾した。この操作により、N6ナノファイバーの細孔を鋳型とした、布帛形状のN6/シリカ複合体が得られた。これは、十分な剛性としなやかさを併せ持つ優れた材料であった。また、優れた難燃性を持つハイブリッド材料でもあった。また、この複合体中のシリカの比率は30重量%であった。
このように、本発明のナノポーラスファイバーは、重合性あるいは架橋性のあるモノマーやオリゴマーを吸尽した後、これらを重合あるいは架橋することで容易にハイブリッド材料とすることができる。このため、無機材料の機能(難燃、触媒等)を有する有機材料や柔軟性を有する無機材料等の先端材料を得るための前駆体に最適である。
実施例37
実施例24で作製したN6ナノポーラスファイバーからなるタイツに大鵬薬品社製「新ポリカイン液」を含浸させ、乾燥した。これにより、水虫薬を汗により溶出させることができるタイツを得た。このタイツを水虫患者に着用させ、一日ごとに新品に取り替えた。これを1ヶ月続けたところ、水虫薬が徐放されたため症状の改善が見られた。
このように、本発明のナノポーラスファイバーは、薬効成分の徐放能力があるため、メディカル製品として好適である。
実施例38
実施例1で得たN6ナノポーラスファイバー布帛の消臭試験を以下の手法で行った。すなわちサンプル布帛3.0gを500mlのポリエチレン製容器内に固定した後、悪臭物質を容器内に導入した。そして、密栓後、容器を50℃で1分間保持し、悪臭物質を十分気化させた。そして、30℃で所定時間放置後、容器内の空気をサンプリングし、株式会社ガステック社製のガス検知管で悪臭物質濃度を測定した。悪臭物質としてアンモニアを使用した場合、初期濃度200ppmから10分間で20ppmまで消臭できた。また、硫化水素ガスを用いた場合には初期濃度45ppmから10分間で2ppmまで消臭できた。
比較例9
通常のN6布帛を用いて実施例38と同様に消臭試験を行ったところ、アンモニアでは初期濃度200ppmから10分間で130ppm、また、硫化水素ガスを用いた場合には初期濃度45ppmから10分間で10ppmまでしか消臭できなかった。
実施例39
実施例1で得たN6ナノポーラスファイバー布帛をジエチレントリアミン3%水溶液に50℃で1分間浸漬することにより、N6ナノポーラスファイバーにジエチレントリアミンを担持させた。これのアセトアルデヒド除去能力を評価したところ、10分間で30ppmから1ppmまで濃度が低下し、優れた除去能力を示した。
このように、本発明のナノポーラスファイバーは、吸着剤の坦持能力があるため、ケミカルフィルターやエアフィルター等の産業資材製品として好適である。
実施例40
実施例1で作製したポリマーアロイを芯成分、実施例1で用いたN6を鞘成分としてそれぞれ270℃で溶融した後、紡糸温度275℃で芯鞘複合紡糸を行い、3800m/分で引き取り高配向未延伸糸を得た。これに実施例1と同様に延伸仮撚りを施した。ここでポリマーアロイの複合比は80重量%とした。得られた芯鞘複合捲縮糸は150dtex、76フィラメント、強度4.0cN/dtex、伸度27%、U%1.0%、熱収縮率10%、CR45%であった。芯成分であるポリマーアロイ中で島共重合PETは平均直径26nm程度で微分散し、直径100nm以上の粗大な島は島全体に対し面積比で0.1%以下であった。ここで得られた芯鞘複合捲縮糸を用い実施例1と同様に丸編み、アルカリ処理を行い、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、TEM観察したところ直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は20nmであった。また、ナノポーラス部の面積は繊維横断面に対して77%であった。また、ナノポーラスファイバーの糸強度は3.3cN/dtexであり、実施例1に比べ高強度であり、耐摩耗性にも優れていた。また、細孔は独立孔であった。この布帛は実施例1よりも鮮明発色となり、またΔMRも4.8%と充分な吸湿性を示した。
実施例41
芯成分と鞘成分を入れ替え、ポリマーアロイの複合比を50重量%として実施例40と同様に芯鞘複合紡糸、延伸仮撚りを行い、150dtex、76フィラメント、強度4.1cN/dtex、伸度27%、U%1.0%、熱収縮率10%、CR45%の芯鞘複合捲縮糸を得た。鞘成分であるポリマーアロイ中で島共重合PETは平均直径26nm程度で微分散し、直径100nm以上の粗大な島は島全体に対し面積比で0.1%以下であった。ここで得られた芯鞘複合捲縮糸を用い実施例40と同様に丸編み、アルカリ処理を行い、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、TEM観察したところ直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は20nmであった。また、ナノポーラス部の面積は繊維横断面に対して45%であった。また、ナノポーラスファイバーの糸強度は3.5cN/dtexであり、実施例1に比べ高強度であった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は発色性も良好であり、またΔMRも4%と充分な吸湿性を示した。
実施例42
実施例3で得たポリマーアロイ繊維からなる丸編みを、2%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:40)で20分間処理し、ポリマーアロイ繊維中の共重合PETの50%を分解溶出した(繊維としての重量減量率は10%)。溶出は繊維表層からリング状に進行し、ナノポーラス部は繊維横断面に対し50%であった。この部分をTEM観察した結果、細孔は独立孔であり、これの平均直径は20nmであり、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であった。
この丸編みはΔMR=4.0%であった。着性を示した。また保水率も60%と充分であった。これも可逆的水膨潤性を示したが、膨潤率は4%と低いものであり、実施例3に比べ寸法安定性が向上していた。
実施例43
実施例1で作製したポリマーアロイ捲縮糸を経糸および緯糸に用い、170g/mの高密度平織りを作製した。これに実施例1と同様にアルカリ処理を施し、N6ナノポーラスファイバーからなる平織りを作製した。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、形態および物性を測定したところ、実施例1と同様の値が得られた。これに、バフィング処理を施したところナノポーラスファイバーの表層がフィブリル化し、繊維径0.01〜1μm程度のフィブリルが多数生成し、織物表面を覆った。これにより、ソフトでスパン感のあるタッチが得られただけでなく、ノンコーティングでも撥水性が発現し、スポーツ用の布帛として好適であった。
比較例10
通常のN6仮撚り加工糸(77dtex、34フィラメント)を用い、実施例46と同様に高密度平織りを作製し、バフィングを施したがフィブリル化が不十分であり、フィブリルが織物表面を覆うことはなく、ピル(毛玉)が多くなり、表面外観が汚くなっただけでなく、ソフトでスパン感のあるタッチも得られなかった。また、フィブリル化を進めるためにバフィング処理をきつくすると布帛破れが生じてしまった。
実施例44
実施例1で作製したポリマーアロイ捲縮糸を緯糸に、経糸に通常N6繊維(44dtex、12フィラメント)を用いて180g/mの5枚バックサテンを作製した。これに実施例1と同様にアルカリ処理を施し、N6ナノポーラスファイバーからなるバックサテン織物を作製した。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、形態および物性を測定したところ、実施例1と同様の値が得られた。これに、バフィング処理を施した。これにより、ナノポーラスファイバーの表層がフィブリル化し、繊維径0.01〜1μm程度のフィブリルが多数生成し、織物表面を覆った。この後、さらにウォーターパンチ処理を施し、フィブリルをさらに開繊させた。これは、ワイピングクロス等の生活資材製品用の布帛として好適であった。
実施例45
実施例27で得たN6ナノポーラスファイバーからなる不織布にバフィング処理を施したところ、やはり繊維径0.01〜1μm程度のフィブリルが多数生成し、不織布表面を覆った。これは従来のナイロン不織布にはないソフトな表面タッチであった。
実施例46
実施例29で得たPPナノポーラスファイバーからなる不織布にバフィング処理を施したところ、繊維径0.01〜1μm程度のフィブリルが多数生成し、不織布表面を覆った。これは従来のPPスパンボンド不織布よりも表面積が大きくなったため、粒子の補足効率やエレクトレット加工の効率が高くフィルターに好適な物であった。
実施例1のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 実施例1のナノポーラスファイバー縦断面を示すTEM写真である。 実施例1のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例1のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。 実施例1のポリマーアロイチップ横断面を示すTEM写真である。 実施例6のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例6のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 実施例11のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例11のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例11のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。 実施例11のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 実施例11のナノポーラスファイバー縦断面を示すTEM写真である。 実施例12のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例12のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 実施例3のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例3のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。 実施例3のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 実施例3のナノポーラスファイバー縦断面を示すTEM写真である。 実施例7のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。 実施例7のナノポーラスファイバー横断面を示すTEM写真である。 紡糸装置を示す図である。 口金を示す図である。 延伸装置を示す図である。 紡糸装置を示す図である 延伸仮撚り装置を示す図である。 紡糸直接延伸装置を示す図である。
符号の説明
1:ホッパー
2:溶融部
3:紡糸パック
4:口金
5:チムニー
6:糸条
7:集束給油ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:計量部
12:吐出孔長
13:吐出孔径
14:未延伸糸
15:フィードローラー
16:第1ホットローラー
17:第2ホットローラー
18:デリバリーローラー(室温)
19:延伸糸
20:静止混練器
21:未延伸糸
22:フィードローラー
23:ヒーター
24:冷却板
25:回転子
26:デリバリーローラー
27:仮撚加工糸
28:第1ホットローラー
29:第2ホットローラー

Claims (15)

  1. 直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であり、細孔が独立孔であるナノポーラスファイバー(ナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在していることを除く)。
  2. 細孔の平均直径が0.1〜50nmである請求項1記載のナノポーラスファイバー。
  3. 繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下である請求項1または2記載のナノポーラスファイバー。
  4. 強度が1.5cN/dtex以上である請求項1〜3のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  5. ポリエステルまたはポリアミドを80重量%以上含む請求項1〜4のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  6. 吸湿率(ΔMR)が4%以上である請求項1〜5のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  7. 可逆的水膨潤性を有し、糸長手方向の膨潤率が6%以上である請求項1〜6のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  8. ナノポーラスファイバーの少なくとも一部がフィブリル化されており、フィブリル径が0.001〜5μmである請求項1〜7のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  9. ナノポーラス部の面積が繊維横断面に対し5〜95%である請求項1〜8のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  10. ナノポーラス部が繊維表層部に偏在している請求項9記載のナノポーラスファイバー。
  11. ナノポーラス部が繊維内層部に偏在している請求項9記載のナノポーラスファイバー。
  12. 請求項1〜11のうちのいずれか1項記載のナノポーラスファイバーを少なくとも一部に有する繊維製品。
  13. 繊維製品が長繊維または短繊維または紡績糸である請求項12記載の繊維製品。
  14. 繊維製品が織編物または不織布である請求項12記載の繊維製品。
  15. 繊維製品が衣料または生活資材またはインテリアまたは産業資材または美容・健康基布である請求項12の繊維製品。
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