JP2006117549A - シアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 光学材料用途など工業用原料モノマーとして重要なシアノ基を含有する多環式(メタ)アクリレートを安価にかつ工業的に実施可能な方法で製造する方法を提供する。また、無水(メタ)アクリル酸含有量の少ない上記したシアノ基を含有する多環式(メタ)アクリレートを提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるシアノ基を有する多環式オレフィンに、酸触媒の存在下、(メタ)アクリル酸を付加させて下記一般式(2)で表されるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートを製造する方法において、反応系中における前記多環式オレフィンの有するシアノ基の量に対する(メタ)アクリル酸の量を3.5モル比以上に保持しながら反応を行う。
Figure 2006117549

(式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。)
【選択図】 なし

Description

本発明は、同一分子内にシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートを工業的に実施可能な手法で高収率に製造する方法に関する。
従来、シアノ基を分子内に有する多環式の(メタ)アクリレートの重合体、あるいはその共重合体は、光学的な透明性、耐吸湿性、耐熱性に優れることから光学材料として広く注目されてきた。 この重合体の原料となるシアノ基を分子内に有する多環式(メタ)アクリレート誘導体は、その工業的な重要性から製造法がいくつか提案されている。例えば、アクリロニトリルとシクロペンタジエンもしくはジシクロペンタジエンの分解物とのディールスアルダー反応により得られるシアノ基が置換した多環式オレフィンを原料とし、環内オレフィンにぎ酸または酢酸などの低級有機カルボン酸を酸触媒の存在下に付加させた後加水分解して水酸基とし、この水酸基と(メタ)アクリル酸とをエステル化する事により、シアノ基含有の(メタ)アクリレートとすることが提案されている(特許文献1)。しかしながらこの方法では、オレフィンから(メタ)アクリレートを誘導するために3工程を要し工業的に実施するには経済的負荷が大きい上に、第一工程のオレフィンへぎ酸や酢酸を付加させる工程では、これらのカルボン酸と酸触媒を高温で処理するため基質同士が反応してオリゴマーが副生したり、水酸基を(メタ)アクリレート化する第三工程では、エステル化の際生成する水によりシアノ基が水和されてアミドに変換される副反応が進行したり、原料の(メタ)アクリル酸化合物や、目的物の(メタ)アクリレートが重合してしまうという問題が少なからず存在した。特に、(メタ)アクリル酸やその誘導体が反応中に重合するとその重合物が析出し、攪拌に重大な障害を与えることがしばしば観測され、工業的なスケールでは反応の実施そのものが困難な状況が想定された。また、これらの副反応の進行により目的物中に副生物が混入すると、目的物の収率が低下してしまうとともに、後工程における精製負荷が増大するという問題も存在していた。
一方、上記ディールスアルダー反応生成物のうち、ノルボルナン骨格を有する基質に対して、オレフィンに酢酸を付加させ、アセチル基を(メタ)アクリル酸メチルによりエステル交換反応を行うことが提案されている(特許文献2)。この方法では、ディールスアルダー反応後2工程で目的物へ誘導できるものの、オレフィンへの酢酸付加の工程、および(メタ)アクリル酸メチルによるエステル交換反応工程において酸触媒の存在下に高温で処理するという同様の条件が採用されており上記した問題が同じ様に存在していた。
シアノ基を分子内に有する多環式(メタ)アクリレート誘導体の製造方法として、シアノ基を有する多環式オレフィンに、酸触媒の存在下、直接、(メタ)アクリル酸を付加させてシアノ基を有する多環式(メタ)クリレートを製造する方法も知られている(特許文献2)。この方法では一工程の反応で目的物へ誘導できるために、上述した2法の従来技術に比較して経済的にかなり有利な方法であるが、(メタ)アクリル酸や目的物(メタ)アクリレートの重合により、オリゴマー成分の副生・析出が起こり、目的物の収率が低下してしまうという課題が存在していた。
さらに、重合性官能基を有する(メタ)アクリル酸の使用においては、上記した重合の問題以外にもいくつかの問題点を伴う。具体的には、(メタ)アクリル酸から副生する無水(メタ)アクリル酸が目的の(メタ)アクリレートモノマー中に含まれる場合、該モノマーがゲル化または増粘しやすくなることが報告されており(特許文献3)、こうして得られるモノマーは光学用途に使用する場合に問題となりうる。本発明が対象とするオレフィンに直接(メタ)アクリル酸を付加させる反応においても後述するように無水(メタ)アクリル酸の副生が観察されており、その抑制が必要であった。
特開平1−100145号公報 特開平2−193958号公報 特開2003−137839号公報
本発明の第1の目的は、光学材料用途など工業用原料モノマーとして重要なシアノ基を含有する多環式(メタ)アクリレートを安価にかつ工業的に実施可能な方法で製造する方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、無水(メタ)アクリル酸含有量の少ない上記したシアノ基を含有する多環式(メタ)アクリレートを提供することにある。
本発明者等は上記した課題を解決するために、一般式(1)で表される多環式オレフィンにBF3OEt2のような酸触媒の存在下、直接、(メタ)アクリル酸を付加させてシアノ基を有する多環式(メタ)クリレートを製造する方法について検討した結果、例えば、一般式(1)で表される多環式オレフィンがモノニトリル化合物の場合、反応で副生するオリゴマー成分の主要な生成物が、一般式(5)、(6)に示す構造の化合物であることを確認した。
Figure 2006117549
(式(5)(6)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、nは0から2の整数、mは1から5の整数である。)
これら副生物がどのような機構で生成するのかは未だ解明されておらず詳細は不明であるが、以下のように推定している。すなわち、系中に存在する未反応の(メタ)アクリル酸2分子が脱水して(メタ)アクリル酸無水物が生成すると同時に、生成した水がシアノ基に付加し、さらに水の付加した中間体が基質のオレフィン部に反応する事により結果として基質どうしがアミド結合でカップリングした2量体、3量体などのオリゴマー(5)、(6)が生成するものと考えている。
これらの構造を有するオリゴマーは、目的生成物と同様に重合性オレフィンを有し重合の際にポリマー中に組み込まれてしまうため、ポリマーとして設計した性能が達成されなかったり、またこれら不純物の含有量が振れると重合反応や、ポリマーの性能の再現性が不良となり工業的な生産に於いては致命的な問題となる可能性が懸念される。
そこで上記したようなオリゴマー成分の反応での副生を抑制すべく鋭意検討を行った結果、一般式(1)で表されるシアノ基が置換した多環式オレフィンを酸触媒存在下に直接(メタ)アクリル酸を付加させる反応において、多環式オレフィン原料のシアノ基に対し
て、(メタ)アクリル酸の存在量を3.5モル比以上に保持しながら反応を行うことで、該オリゴマー成分の副生が抑制され、前記一般式(2)に示されるシアノ基を含有する多環式(メタ)アクリレートが収率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、シアノ基を有する多環式オレフィンを先に反応系に存在させ、そこに(メタ)アクリル酸を添加しながら反応を行うと、(メタ)アクリル酸無水物の副生量が減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明の第1の要旨は、一般式(1)で表されるシアノ基を有する多環式オレフィンに、酸触媒の存在下、(メタ)アクリル酸を付加させて下記一般式(2)で表されるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートを製造する方法において、反応系中における前記多環式オレフィンの有するシアノ基の量に対する(メタ)アクリル酸の量を3.5モル比以上に保持しながら反応を行うことを特徴とするシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法、に存する。
Figure 2006117549
(式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。)
本発明の第2の要旨は、 (メタ)アクリル酸無水物の含有量が20モル%以下であることを特徴とする下記一般式(2)で表されるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレート化合物、に存する。
Figure 2006117549
(式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。)
本発明の製造法によれば、光学材料用途など工業用原料モノマーとして重要なシアノ基含有(メタ)アクリレート誘導体を安価に効率よく、且つ工業的に実施可能な方法で製造することが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
<シアノ基を有する多環式オレフィン>
本発明で使用する原料は下記一般式(1)で表される構造を有するシアノ基を有する多
環式オレフィンである。
Figure 2006117549
式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。
この化合物の製造法は例えば、特公昭56−54306号公報に記載の方法、すなわちアクリロニトリル又はフマロニトリルとシクロペンタジエンもしくはジシクロペンタジエンの分解物とのディールスアルダー反応により製造することができる。同反応では、上記一般式(1)においてn=0、1、2のものの混合物となることが記されているが、本発明
に用いる原料としてはこれらの混合物でも、蒸留により分離精製を行ったものでもどちらも採用することができる。
<シアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法>
本発明においては、一般式(1)に示す原料オレフィンに直接(メタ)アクリル酸を付加させて目的物を得る。
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸はアクリル酸および/またはメタクリル酸を、(メタ)アクリレートはアクリレートおよび/またはメタクリレートを意味するものとする。
反応は、酸触媒を用いて行う。 酸触媒としては、一般にオレフィンへのカルボン酸の付加反応の際使用されるものならば制限なく用いることが可能である。その中でもルイス酸を用いるのが好ましい。使用可能なルイス酸としては、金属のハロゲン化物やアルコキシド、トリフルオロメタンスルホン酸塩、などがあげられる。金属のハロゲン化物やアルコキシドの具体例としては、アルミニウム、鉄、タンタル、ジルコニウム、亜鉛、スズ、チタン、ホウ素、アンチモン、ガリウム、ビスマス、モリブデンなどの金属のハロゲン化物やアルコキシドがあげられる。さらに具体的には、三フッ化ホウ素のジエチルエーテル、酢酸、テトラヒドロフランなどの錯体が好ましい。金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩の例としては、周期律表第3〜13族の金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩があげられ、好ましくは周期律表第3、4、11、13族の金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩、より好ましくは、アルミニウム、スカンジウム、イットリビウム、銅、銀、ランタノイド、ジルコニウム、ハフニウムのトリフルオロメタンスルホン酸塩が用いられる。
使用されるルイス酸の量は、原料である多環式オレフィンに対して下限が通常0.0001モル等量以上、好ましくは、0.001モル等量以上、さらに好ましくは0.01モル等量以上であり、上限は特に制限はないが、10モル等量以下、好ましくは1モル等量以下、さらに好ましくは0.5モル等量以下である。
本発明においては、反応試剤である(メタ)アクリル酸の濃度を特定の範囲に維持しながら反応させることにより、目的物の(メタ)アクリレートを高収率で生成させることが可能となるばかりでなく、副生する無水(メタ)アクリル酸やオリゴマーの生成量も削減させることが可能となる。具体的には、上記一般式(1)で表される原料である多環式オレフィンのシアノ基に対して(メタ)アクリル酸の存在量を3.5モル比以上、好ましく
は5モル比以上、さらに好ましくは10モル比以上に保持しながら反応を行うことで、無水(メタ)アクリル酸およびオリゴマーの生成を抑制させ、結果として目的物の(メタ)アクリレートを高収率で生成させることができる。上限は、通常 100モル比以下、好ましくは50モル比以下、より好ましくは30モル比以下である。
上記範囲よりも低いとエステル化活性が低く、原料の多環式オレフィンが未反応のまま残存したり、前記一般式(5)及び(6)で示したオリゴマー成分が目的とする(メタ)アクリレートよりも多く生成したりする傾向がある。また、上記範囲よりも高くなると望ましくない無水(メタ)アクリル酸およびオリゴマーの生成量が減少するものの、過剰の(メタ)アクリル酸の無害化処理にかかる負荷が多大となったり、重合反応の危険性が高くなる。
更に、本発明では、上記した(メタ)アクリル酸の濃度を特定の範囲に維持しながら反応させるうえで、反応試剤の添加の方法を以下のようにすることで、更に目的物の(メタ)アクリレートの収率を高めることができる。即ち、反応試剤の添加の方法として、予め反応系に(メタ)アクリル酸と酸触媒と必要に応じて溶媒を仕込み、その系内へ、適切な反応温度下、一般式(1)で示される多環式オレフィンをニートで又は溶媒で溶解した溶液を連続的にまたは間歇的に添加して反応させる方法が好ましい。勿論、反応の初めの仕込み時にすべての試剤、一般式(1)の化合物、(メタ)アクリル酸、触媒、溶媒を一括して仕込む方法を採用することは特に制限されないが、収率の面からは前者の方が好ましい。
本発明においては溶媒を用いて反応を行ってもよい。使用される溶媒には特に制限はなく、具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族系溶媒、クロロベンセン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒などが好適に用いられる。中でも特にエステル系溶媒が好ましい。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。
溶媒の使用量は、原料の重量に対する溶媒の重量比で、下限が通常0.01倍以上、好ましくは0.1倍以上、さらに好ましくは1倍以上であり、上限は特に制限はないが、通常500倍以下、好ましくは100倍以下である。
反応は、通常の攪拌装置を備えた反応器により行うのが好ましい。
反応温度は、十分な反応速度を得るために加温して実施するのが好ましい。具体的には、下限が通常30℃以上、好ましくは40℃以上、上限が通常200℃以下、好ましくは150℃以下の範囲で実施される。
反応時間に関しては、任意に選択されるが、(メタ)アクリル酸を過剰に使用した場合には経時的に(メタ)アクリル酸の酸無水物が生成し、副生した水によりシアノ基が水和される副反応が進行するので、原料である一般式(1)のオレフィン化合物が完全に転化されたところで反応を終了する事が好ましい。一般的な反応時間は、下限が通常10分以上、好ましくは30分以上、上限は特に限定はされないが通常50時間以下、好ましくは30時間以下である。
<後処理>
反応において(メタ)アクリル酸を過剰に使用した場合は、反応後の後処理で残存した(メタ)アクリル酸の除去を行う。(メタ)アクリル酸の除去は、例えば(メタ)アクリル酸を蒸留により留去する方法、もしくは塩基性水溶液で抽出除去する方法等が用いられる。蒸留により留去する場合には、常圧でも減圧下でも行うことができるが、目的物の熱
的な変化や重合を避ける上で減圧下に行うのが好ましい。また、必要に応じて(メタ)アクリル酸と共沸する溶媒を添加して、共沸生成物として留去する事も可能である。この蒸留操作を行うと、反応で副生した(メタ)アクリル酸無水物も同時に留去できるので好ましい。一方、塩基性水溶液で除去する場合に使用可能な塩基性物質は、水に溶解して塩基性を示すものであれば特に制限なく使用可能であるが、無機の塩基性物質が好適に用いられる。中でも炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や炭酸水素塩、燐酸水素ナトリウムや燐酸二水素ナトリウムなどのアルカリ金属の燐酸塩、燐酸水素塩、燐酸二水素塩等が好適に用いられる。
(メタ)アクリル酸を除去した後、必要に応じて反応で副生した(メタ)アクリル酸無水物の除去を行う。(メタ)アクリル酸無水物の除去は、目的物と塩基性水溶液とを接触させて加水分解する事により行う。この場合、使用可能な塩基性物質は、水に溶解して塩基性を示すものであれば制限なく使用可能であるが、無機塩基が好適に用いられる。中でも炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や炭酸水素塩、燐酸ナトリウムや燐酸二水素ナトリウムなどのアルカリ金属の燐酸塩、燐酸水素塩、燐酸二水素塩等が好適に用いられる。
接触させる際に、目的物を有機溶媒に溶解させておいても良い。その際使用できる有機溶媒は、目的物を溶解させることができる溶媒であれば特に制限はないが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒
、ジクロロメタンやジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒が好適に用いられる。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。
有機溶媒を使用する場合、塩基性水溶液と接触させる際に2相系を形成するので接触効率を高めるために系を激しく攪拌することがより好ましい。
目的物を塩基性水溶液と接触させる際の温度は、目的物が変化しない範囲で任意に選ぶことができるが、好ましくは下限が通常0℃以上、好ましくは20℃以上、上限が通常100℃以下、好ましくは80℃以下の範囲で実施される。
目的物を塩基性水溶液と接触させる際の接触させる一般的な時間は、下限が通常10分以上、好ましくは30分以上、上限は特に限定はされないが通常20時間以下、好ましくは10時間以下である。
こうして得られる一般式(2)に示される化合物の反応収率は、通常60%以上であり、また純度は下記するGPCによる分析で通常60%以上である。
上述したように、本発明方法では、i)エステル化反応に於いては、反応試剤である(メタ)アクリル酸の濃度を特定の範囲に維持しながら反応させることにより、望ましくない無水(メタ)アクリル酸やオリゴマーの生成量を削減させることが可能であり、また、ii)(メタ)アクリル酸無水物に関しては反応後の後処理に於いて適切な有機溶媒を選定して用い、塩基性水溶液と接触させて加水分解する事により削減させることが可能である。
<反応生成物及びその用途>
上記の本発明の製造方法により得られるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートは、下記一般式(2)で表されるものである。
Figure 2006117549
式(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2,R3は水素原子またはシアノ基を表し、R2,R3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。
また、上述した本発明の多環式(メタ)アクリレートの製造方法によって得られた多環式(メタ)アクリレート中の無水(メタ)アクリル酸の含有率は、(メタ)アクリレートに対して20モル%以下であることが好ましく、特に好ましくは10モル%以下であり、更に好ましくは5モル%以下である。
上記シアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートは分子内に脂環式構造を有することから、このものを原料として重合させた場合に得られる樹脂は、透明性が高く且つ耐吸湿性、耐熱性に優れることから光学材料用途に用いられる。
中でも、n=2である下記一般式(3)又は(4)で表されるメタクリレートを原料として得られる重合物は、熱分解温度、ガラス転移温度が高く耐熱性が高い点でより好ましい。
Figure 2006117549
(式(3)、(4)中、R1は水素原子またはメチル基である。)
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
<ガスクロマトグラフィーによる分析>
カラム:GC Siences社製 TC−1 0.25mm、30m、0.25μm
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:FID
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
カラム槽温度:初期温度 100℃(5分保持)
昇温速度 10℃/分
最終温度 280℃
注入量:0.2μL
<GPC分析条件>
カラム:東ソー TSK−GEL G2000HXL
7.8mm(ID)×300mm(L)×2本
移動相:TH1F 1mL/分
検出器:RI
カラム槽温度:40℃
注入量:50μL(0.1%THF溶液)
(実施例1)
<テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボニトリルのメタクリレート化反応,メタクリル酸の多環式オレフィンの有するCN基に対する量:6.0当量>
窒素を流通させた反応器にテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−
4−カルボニトリル(以下、CNCp2と略す)10.0g(54.1mmol)、メタクリル酸27.9g(324.3mmol、CNCp2のCN基に対して6当量)、BF3・Et2O錯体3.16g(22.3mmol、対基質0.4モル等量)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール10mg、ビフェニル(GC分析内部標準)0.21g、溶媒として酢酸エチル33mLを仕込み系内温度が80℃となるよう維持し3時間反応を行った。
3時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、99.2mol%の転化率であり、目的の10−(又は9−)シアノテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]
ドデカン−4−イルメタクリレート(以下、CNCp2MAと略す)の収率は68.0mol%であった。また、反応液中の無水メタクリル酸の副生量はCNCp2MAに対し19.8mol%であった。反応中、ポリマーの析出は観測されず均一な液相が保たれた。反応液を室温に戻した後、水33mLを添加して触媒を失活させた。この中に酢酸エチル47mLを添加し、10%Na2CO3溶液33mLで4回洗浄し、過剰に使用したメタクリル酸を中和、水相に除去した。その後、有機相を水16mLで3回洗浄した後、p−メトキシフェノール10mgを添加してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。
次に副生したメタクリル酸無水物の分解処理を行った。上記のようにして得られた油状物にメチルエチルケトン33mL、10%Na2CO3水溶液44mLを添加し、室温下2相が良く混合するように激しく攪拌した。4時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析で無水メタクリル酸が検出限界以下になったことを確認した後、酢酸エチル47mLを追加して、2相を分離した。有機相を水16mLで3回洗浄した後、p−メトキシフェノール5mgを添加してロータリーエバポレーターで溶媒を十分留去し目的の10−(又は9−)シアノテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカン−4−イルメタクリレート(
以下、CNCp2MAと略す)を含む粗体を得た。この粗体のGPC純度を測定したところ、65.8%が目的のCNCp2MAであり、34.2%のオリゴマー成分が含有されていた。
(実施例2)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:10.1当量>
全反応スケールを1/2とし、メタクリル酸の仕込み量をCNCp2基質CN基に対して10.1当量にした以外は、実施例1と同様に反応、後処理を行った。3時間後の反応液のオレフィン転化率は100.0mol%であり、CNCp2MAの収率は80.7mol%であった。また、反応液中の無水メタクリル酸の副生量はCNCp2MAに対し8
.3mol%であった。反応液中にはポリマーの析出は観測されず均一であった。 後処理後、得られたメタクリレートを含む粗体のGPC分析では、78.0%が目的のCNCp2MAであり、22.0%のオリゴマー成分が含有されていた。
(実施例3)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:14.8当量>
全反応スケールを1/2とし、メタクリル酸の仕込み量をCNCp2基質CN基に対して14.8当量にした以外は、実施例1と同様に反応、後処理を行った。3時間後の反応液のオレフィン転化率は100.0mol%であり、CNCp2MAの収率は84.7mol%であった。また、反応液中の無水メタクリル酸の副生量はCNCp2MAに対し4.7mol%であった。反応液中にはポリマーの析出は観測されず均一であった。
後処理後、得られたメタクリレートを含む粗体のGPC分析では、83.1%が目的のCNCp2MAであり、16.9%のオリゴマー成分が含有されていた。
(比較例1)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:2.9当量>
全反応スケールを1/2とし、メタクリル酸の仕込み量をCNCp2基質CN基に対して2.9当量、また、反応時間を7時間にした以外は、実施例1と同様に反応、後処理を行った。 3時間後の反応液のオレフィン転化率は88.1mol%と低かったため7時間まで反応を延長させた結果、転化率は99.0%であった。CNCp2MAの収率は54.6mol%であった。 また、反応液中の無水メタクリル酸の副生量はCNCp2MAに対し35.8mol%であった。後処理後、得られたメタクリレートを含む粗体のGPC分析では、53.9%が目的のCNCp2MAであり、46.1%のオリゴマー成分が含有されていた。
(比較例2)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:1.0当量>
全反応スケールを1/2とし、メタクリル酸の仕込み量をCNCp2基質CN基に対して1.0当量、また、反応時間を7時間にした以外は、実施例1と同様に反応、後処理を行った。 2.5時間後の反応液のオレフィン転化率は60.1mol%と低かったため7時間まで反応を延長させたが転化率は72.7%と低活性であった。CNCp2MAの収率は35.4mol%であった。 また、反応液中の無水メタクリル酸の副生量はCNCp2MAに対し57.3mol%であった。 後処理後、得られたメタクリレートを含む粗体のGPC分析では、34.3%が目的のCNCp2MAであり、52.8%のオリゴマー成分が含有されていた。
(実施例4)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:6.0当量,CNCp2を滴下する方法>
窒素を流通させた冷却器付き反応器にメタクリル酸56g(0.65mol、CNCp2のCN基に対して6当量)、BF3・Et2O錯体6.13g(43.2mmol、対CNCp2 0.4当量)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール20mg、溶媒とし
て酢酸エチル46mLを仕込み系内温度が85℃となるよう攪拌下維持した。これにCNCp2 20.0g(0.11mol)を酢酸エチル20mLに溶解した液を2時間かけ
て滴下し、更に2時間反応を行った(全反応時間4時間)。 反応後、反応液を室温まで戻した後、実施例1に示した方法と同様の処方で後処理を行なってCNCp2MAを含む粗体を得た。この粗体のGPC純度を測定したところ、74.4%が目的のCNCp2M
Aであり、25.6%のオリゴマー成分を含有していた。仕込みCNCp2に対するCNCp2MAの収率は72.8モル%であった。
(実施例5)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:6.0当量,CNCp2オレフィン一括仕込法>
全反応試剤を予め一括して仕込んで反応させた以外は、実施例4と同様に反応・後処理を行ってCNCp2MAを含む粗体を得た。この粗体のGPC純度を測定したところ、65.2%が目的のCNCp2MAであり、34.8%のオリゴマー成分を含有していた。仕込みCNCp2に対するCNCp2MAの収率は61.8モル%であった。
(実施例6)
<CNCp2のメタクリレート化反応,メタクリル酸のCNCp2の有するCN基に対する量:10.0当量,CNCp2を滴下する方法>
メタクリル酸の仕込み量をCNCp2基質CN基に対して10当量にした以外は、実施例4と同様に反応、後処理を行ってCNCp2MAを含む粗体を得た。この粗体のGPC純度を測定したところ、84.8%が目的のCNCp2MAであり、15.2%のオリゴマー成分を含有していた。 仕込みCNCp2に対するCNCp2MAの収率は80.5モル%であった。
(実施例7)
<テトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボニトリ
ルのメタクリレート化反応,メタクリル酸の多環式オレフィンの有するシアノ基に対する量:6.0当量>
窒素を流通させた反応器にテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−
4,5−ジカルボニトリル(以下、CN2Cp2と略す)10.0g(47.6mmol
)、メタクリル酸49.2g(571.2mmol、CN2Cp2のCN基に対して6当量)、BF3・Et2O錯体5.40g(38.1mmol、対基質0.8モル等量)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール10mg、ビフェニル(GC分析内部標準)0.20g、溶媒として酢酸エチル50mLを仕込み系内温度が80℃となるよう維持し6時間反応を行った。
6時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、99.6mol%の転化率であった。反応中、ポリマーの析出は観測されず均一な液相が保たれた。反応液を室温に戻した後、水40mLを添加して触媒を失活させた。この中に酢酸エチル50mLを添加し、10%Na2CO3溶液50mLで6回洗浄し、過剰に使用したメタクリル酸を中和、水相に除去した。その後、有機相を水30mLで3回洗浄した後、p−メトキシフェノール10mgを添加してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。
次に副生したメタクリル酸無水物の分解処理を行った。上記のようにして得られた油状物にメチルエチルケトン50mL、10%Na2CO3水溶液100mLを添加し、室温下2相が良く混合するように激しく攪拌した。4時間後、ガスクロマトグラフィーによる分析で酸無水物が検出限界以下になったことを確認した後、酢酸エチル50mLを追加して、2相を分離した。有機相を水30mLで3回洗浄した後、p−メトキシフェノール5mgを添加してロータリーエバポレーターで溶媒を十分留去し目的の9,10−ジシアノテトラシクロ[6.2.13,6.02,7]ドデカン−4−イルメタクリレート(以下、CN2Cp
2MAと略す)を含む粗体を得た。この粗体のGPC純度を測定したところ、60.5%が目的のCN2Cp2MAであり、39.5%のオリゴマー成分が含有されていた。

Claims (5)

  1. 一般式(1)で表されるシアノ基を有する多環式オレフィンに、酸触媒の存在下、(メタ)アクリル酸を付加させて下記一般式(2)で表されるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートを製造する方法において、反応系中における前記多環式オレフィンの有するシアノ基の量に対する(メタ)アクリル酸の量を3.5モル比以上に保持しながら反応を行うことを特徴とするシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法。
    Figure 2006117549
    (式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
    子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。)
  2. 酸触媒と(メタ)アクリル酸とを含有する反応系に、一般式(1)で表されるシアノ基を有する多環式オレフィンを添加しながら反応を行う、請求項1に記載のシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法。
  3. 製造する化合物が、下記一般式(3)で表されるものである、請求項1または2に記載のシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレートの製造方法。
    Figure 2006117549
    (式(3)中、R1は、水素原子またはメチル基である。)
  4. 製造する化合物が、下記一般式(4)で表されるものである、請求項1または2に記載の製造方法。
    Figure 2006117549
    (式(4)中、R1は水素原子またはメチル基である。)
  5. (メタ)アクリル酸無水物の含有量が20モル%以下であることを特徴とする下記一般式(2)で表されるシアノ基を有する多環式(メタ)アクリレート化合物。
    Figure 2006117549
    (式(1)、(2)中、R1は水素原子またはメチル基、R2およびR3はそれぞれ水素原
    子またはシアノ基を表し、R2およびR3のうち少なくとも1つはシアノ基であり、nは0〜2の整数である。)
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