JP2006111979A - セルロースエステル短繊維およびその製造方法 - Google Patents

セルロースエステル短繊維およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 柔軟性かつ熱可塑性に優れ、かつ適切な繊維長を有する、紡績加工や融着加工などの繊維加工を施すことが可能な、セルロースエステル短繊維を得ることにある。
【解決手段】 少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜100mmであるセルロースエステル短繊維。
【選択図】なし

Description

本発明は、セルロースエステル短繊維およびその製造方法に関する。より詳しくは、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物を溶融紡糸して得られる短繊維およびその製造方法に関する。
セルロースエステルとして最も汎用的に用いられるセルロースアセテートは、衣料用フィラメントとして用いられる他、たばこフィルター用途のステープルとしても使用されている。例えば特公昭44−1953号公報においては、セルロースアセテートのステープルを用いたシガレットフィルターが開示されている。本公報には、「捲縮アセテートレイヨンの長さは、3〜10mmであるが、これは3mm以下では紙力が弱くまた10mm以上で分散、抄紙が困難であるからである」と記載されている(特許文献1参照)。ここで開示されている短繊維は、たばこフィルター用途には好適に用いることができるものの、繊維長が短すぎるために紡績糸やクッション材などの用途に用いることはできないものであった。また、セルロースアセテートからなる繊維であるため、熱可塑性はほとんどなく、アセトンなどの溶媒を用いたポリマー溶液から溶液紡糸(乾式紡糸)によって製造せざるを得ないことに加えて、得られた繊維も、融着加工や、熱セット加工が困難であるという問題も有していた。また、セルロースアセテート繊維は剛直なため、例えば紡績加工などの際には容易にフィブリル化してしまい、品位の良好な繊維製品を得ることができないものであった。
また、他の出願人によるたばこ製品用フィルターに関する出願においても、セルロースエステルの中で特にセルロースアセテート短繊維が好ましいこと、セルロースエステル短繊維の長さは、通常0.1mm〜10mmであることが記されている(特許文献2参照)。
また、無捲縮のセルロースエステル短繊維と叩解パルプとで構成されたたばこフィルター素材が別の文献に開示されている。この無捲縮のセルロースエステル短繊維は、平均繊維長が1〜10mmである。セルロースエステルとしてはセルロースアセテートが主として用いられているが、セルロースエステルでもよい記載もみられる(特許文献3参照)。ここで開示されている短繊維は、たばこフィルターとしては好適なものの、繊維長が短すぎるために紡績糸やクッション材などの用途に用いることができないものであった。また、セルロースアセテートやセルロースエステルも、本公報に開示されている組成では熱可塑性がないため、本公報に記載されているような繊度1〜10デニールの繊維を得るためには、溶融紡糸は採用することができず、アセトンなどの溶媒を用いたポリマー溶液から溶液紡糸(乾式紡糸)によって製造せざるを得ないものであるとともに、得られた繊維も、単糸の融着加工や、熱セット加工が困難であるという問題も有していた。また、前記セルロースアセテート繊維は、フィブリルを有するものであり、たばこフィルターではなく繊維製品とするには適さないものであった。
特公昭44−1953(第1頁) 特開平11−243939(第3頁) 特開2003−119613号公報(第3頁)
本発明の課題は、バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分としながら、柔軟性かつ熱可塑性に優れ、かつ適切な繊維長を有しているために、紡績加工や融着加工などの繊維加工を施すことが可能なセルロースエステル短繊維を得ることにある。
上述した本発明の課題は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜150mmであるセルロースエステル短繊維によって解決が可能である。
その際、セルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物が、セルロースエステル70〜95wt%と可塑剤5〜30wt%とを含有するものであることが好適に採用できる。ここで、セルロースエステルの例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等があげられる。また、本発明のセルロースエステル短繊維は、繊維のガラス転移温度が100〜180℃であることが好適に採用できる。また、繊維の強度が0.5〜2.0cN/dtexであることも好適に採用できる。
本願発明の短繊維は次の方法で製造できる。すなわち、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物を、紡糸温度180〜280℃の条件で溶融紡糸し、紡出糸を回転ローラーにて引き取った後、繊維長25〜150mmにカッティングすることを特徴とするセルロースエステル短繊維の製造方法によって製造することができる。
本発明により、繊維高次工程におけるフィブリル発生がなく、工程通過性に優れるとともに、熱可塑性をも有するセルロースエステル短繊維が得られる。このセルロースエステル短繊維は、紡績糸としての利用の他、詰め綿や、熱可塑性を利用したクッション材、衣料用素材、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品などとして好適に用いることができる。
本発明におけるセルロースエステルは、セルロースエステルのアシル基の少なくとも一部が、炭素数3以上のものであることが重要である。炭素数が2であるアセチル基のみによって置換されたセルロースアセテートでは、それ自身の熱可塑性が不十分であるため、融着加工や熱セット加工が困難であり、また、剛直であるために容易にフィブリル化してしまうという問題がある。これに対し、例えば炭素数3のアシル基であるプロピオニル基を有するセルロースエステルを用いた場合には、可塑剤の配合によって組成物が良好な熱流動性を有するために、得られる短繊維は融着加工や熱セット加工が可能であることに加え、溶融紡糸によって繊維化が可能であるという大きな利点を有している。
本発明の少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステルや、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースエステルが挙げられる。
本発明のセルロースエステル短繊維の伸度は、5〜40%である。伸度が5%以上であることによって、短繊維を用いた繊維加工工程における糸切れが少なくなるため好ましい。40%以下であることによって、例えば綿などの伸度の低い他の短繊維と混紡した時における物性ばらつきが小さくなるため、好ましい。伸度は7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、28%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。
本発明のセルロースエステル短繊維の繊維長は、25〜150mmである。ここで繊維長とは短繊維の繊維長の平均値を意味しているが、繊維長が25mmに満たない場合には例えば紡績工程において糸切れが多発するなど繊維高次加工工程における操業性が悪化することになる。また、150mm以下であれば短繊維としてのスパン感が発現するため好ましい。繊維長は30mm以上であることがより好ましく、40mm以上であることが最も好ましい。また、100mm以下であることがより好ましく、80mm以下であることが最も好ましい。
本発明のセルロースエステル短繊維の単糸繊度は、0.5〜100dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex以上であれば、溶融紡糸の工程において製糸性よく繊維を得ることができる。また、100dtex以下であれば、繊維最終製品の曲げ剛性が高くなりすぎることがなく、ソフトさが要求される衣料用布帛などにも適用することができる。単繊維繊度は、1.0dtex以上であることがより好ましく、2.0dtex以上であることが最も好ましい。また、50dtex以下であることがより好ましく、25dtex以下であることが最も好ましい。
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形および中空などの異形断面糸でも良い。異形断面とすることによって光沢付与、吸水性付与などを図ることが出来る。
本発明のセルロースエステル短繊維は、捲縮を付与されてなるものであることができる。その際、捲縮数が3山/25mm〜20山/25mmであることが好ましい。捲縮数が低すぎると、軽量感のある良好な風合いが達成されず、また捲縮数が高すぎると、嵩高性が逆に低下してしまうことがある。捲縮数は5山/25mm以上であることがより好ましく、8山/25mm以上であることが最も好ましい。また、15山/25mm以下であることが好ましい。
本発明のセルロースエステル短繊維は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物よりなるが、この熱可塑性組成物中のセルロースエステルの含有量は、70〜95wt%であることが好ましい。セルロースエステルの含有量を70wt%以上とすることによって、強度を受け持つセルロースエステルの比率が十分高くなり、短繊維の機械的特性が向上する。熱可塑性組成物中のセルロースエステルの含有量は、75wt%以上であることがより好ましく、80wt%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる短繊維の柔軟性を高めるためには、熱可塑性組成物中のセルロースエステルの比率は95wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、90wt%以下であり、最も好ましくは85wt%以下である。
本発明で用いられる熱可塑性組成物は、可塑剤5〜30wt%を少なくとも含有するものであることが好ましい。5wt%以上の可塑剤を含有することで、組成物の熱流動性が良好となり、溶融紡糸によって繊維化することが可能となるとともに、短繊維は、可塑剤を含有しない場合に比べて柔軟性が高くなり、フィブリル発生などの工程トラブルを避けることができる。また、30wt%以下の可塑剤量とすることで、短繊維表面への可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、室温での膠着などのトラブルを回避することができる。熱可塑性組成物の可塑剤含有量は、フィブリル化を抑制する観点から、10wt%以上であることがより好ましく、15wt%以上であることが最も好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点からは、25wt%以下であることがより好ましく、20wt%以下であることが最も好ましい。
本発明において用いられる可塑剤は、本発明のセルロースエステルに混和するものであれば特に制限はなく用いることができる。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
また高分子量の可塑剤として、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類などを挙げることができる。これらの高分子量可塑剤は共重合体であってもよいし、重合体の一部が修飾されているものであってもよい。
さらには水溶性の可塑剤として、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、一般式(1)で示されるポリエーテル類などを挙げることができる。ここで水溶性とは、20〜100℃の温度の水にその10重量%以上が溶解可能であることをいう。
−O−{(CH2)nO}m−R ・・・(1)
(但し、RとRは、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数。)
上記の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は、セルロース混合脂肪酸エステルとの相溶性が優れているため好適に採用することができる。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体などを挙げることができる。
本発明におけるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物は、必要に応じて、着色防止用の安定剤を含有することができる。着色防止剤は、ホスファイト化合物、ヒンダードフェノール化合物などを用いることができる。また、その他、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、抗菌剤、潤滑剤、艶消剤、生分解促進剤等の添加剤についても、これらを単独もしくは併用して含有することができる。可塑剤以外の添加剤の含有量については、セルロースエステル短繊維の特性を損なわないため、組成物全体に対して0.5wt%以下であることが好ましく、0.2wt%以下であることが最も好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物は、240℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜200Pa・secであることが好ましい。溶融紡糸の際には240℃、1000sec−1における溶融粘度が50Pa・sec以上であることで、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性に優れた短繊維が得られるという利点を有している。一方、溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて力学特性の優れた繊維となる。繊維の優れた機械的特性の観点から、240℃、1000sec−1における溶融粘度は60〜180Pa・secであることが好ましく、80〜160Pa・secであることが最も好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステルと可塑剤、あるいは各種添加剤との混合に際しては、エクストルーダー、ニーダー、ロールミルおよびバンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いることができる。
本発明のセルロースエステル短繊維は、繊維のガラス転移温度が100〜180℃であることができる。ガラス転移温度が100℃以上であれば熱水中においてもへたりが生じることがないため好ましい。耐熱軟化性の観点から、本発明のセルロースエステル短繊維のガラス転移温度は110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが最も好ましい。また、180℃以下であれば繊維を過度に加熱することなく、熱接着処理が可能となるため好ましい。優れた成形性の観点から、本発明のセルロースエステル短繊維のガラス転移温度は170℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが最も好ましい。
本発明のセルロースエステル短繊維の強度は、0.5〜2.0cN/dtexであることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、短繊維を用いた繊維加工工程において糸切れによる操業性低下が抑制されるため好ましい。強度は、0.7cN/dtex以上であることがより好ましく、1.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。また、2cN/dtex以下であれば短繊維を用いた繊維構造物のソフト感が良好なものとなるため好ましい。
本発明のセルロースエステル短繊維は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物を、溶融紡糸することにより得ることができる。具体的には、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物を、公知の溶融紡糸機を用いて加熱溶融した後、口金から紡出し、紡出糸を回転ローラーによって引き取ることができる。この際、紡糸温度は180℃〜280℃の範囲が好ましく、より好ましくは220℃〜260℃の範囲であり、最も好ましくは230〜250℃である。紡糸温度を180℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸における曳糸性が向上する。また、紡糸温度を280℃以下にすることにより、組成物の熱劣化が抑制され、繊維の着色が少なくなる。
引き取った紡出糸は、一旦巻きとった後に捲縮付与工程に供給するか、一旦巻き取ることなくトウ状に収束して集缶した後に捲縮工程に供給するか、あるいは、巻き取ることも集缶することもなく連続的に捲縮付与工程に供給することができる。
捲縮工程においては捲縮を付与することができるが、その捲縮を付与する方法については、特に限定されない。例えばスタッファーボックス法、押し込み加熱ギア法、高速エアー噴射押し込み法等を採用することができる。また、必要に応じて、油剤を仕上げ剤として捲縮付与前あるいは捲縮付与後に付与することも好適に行いうる。捲縮を付与された、あるいは付与されない繊維束は、公知のカッターによって繊維長25〜150mmとなるように切断される。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、溶融粘度、強度および伸度、繊維長、捲縮数、絡合性、熱接着性については、下記の方法で測定、評価を行った。
(1)溶融粘度
キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度240℃にて、剪断速度1000sec−1における粘度を求め、溶融粘度とした。
(2)引張強度および引張伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20mm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、試料が切断した時の応力を繊維の引張強度(cN/dtex)とし、試料が切断した時の伸度を繊維の引張伸度(%)とした。
(3)繊維長
JISL1015に記載のある平均繊維長の測定方法(7.4.1(3))によって測定し、繊維長(mm)を求めた。
(4)捲縮数
JIS L1015に記載のある捲縮数の測定方法(7.12.1)によって測定し、捲縮数(山/25mm)を求めた。
(5)絡合性
捲縮を付与した短繊維100gを準備し、大和機工(株)製サンプルローラーカードにて梳綿を行った。均一なウェブが得られるものを○、未開繊など不均一な部分が認められるものを△、ローラーカードによる梳綿が不可能なものを×とした。その際、○および△を合格とした。
(6)熱接着性
ハンドカードを用いて短繊維を分散させて得た繊維集合体を10g作成し、これを加熱プレス機を用いて温度200℃、圧力0.5MPaの条件で10分間熱圧した。冷却後に繊維集合体の様子を観察し、互いの繊維が強固に熱接着したものを○、一部繊維が熱接着して形状を保持可能なものを△、全く熱接着がなく繊維がほぐせるものを×とした。その際、○および△を合格とした。
(7)耐フィブリル性
JISL1015に記載のある結節強さの測定方法(7.8.1)に準じて、結節強度(cN/dtex)を求めた。この結節強度が引張強度の90%以上である場合を○、80%以上で90%に満たない場合を△、80%に満たない場合を×とした。その際、○および△を合格とした。
(合成例1)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ、NDP−S)1.0kgに、酢酸5.0kgとプロピオン酸1.0kgを加え、50℃で30分間攪拌した。混合物を15℃まで冷却した後、無水酢酸0.7kg、無水プロピオン酸4.3kgおよび硫酸を0.05kg加えてエステル化反応を行った。240分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で24時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を5回繰り返して洗浄し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を3回繰り返し行った。
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は0.3、プロピオニル置換度は2.5であった。このセルロースアセテートプロピオネートをCAP1とする。
(合成例2)
セルロース(日本製紙ケミカル(株)製溶解パルプ、NDP−S)1.0kgに、酢酸4.0kgとプロピオン酸2.0kgを加え、50℃で30分混合した。混合物を15℃まで冷却した後、無水酢酸2.0kg、無水プロピオン酸3.0kg、および硫酸を0.05kg加えてエステル化反応を行った。240分間攪拌を行った後、酢酸3.3kgと水1.7kgの混合溶液を60分間かけて添加し、反応を停止させた。続いて40℃で24時間攪拌を継続し、加水分解処理を行った。
その後、ドープに大過剰の水を添加して、セルロースアセテートプロピオネートを析出させた。析出した粉体は濾過した後、水洗、濾過を3回繰り返して洗浄し、さらに0.02%の希硫酸中で50℃、1時間の処理を行い、水洗、濾過を3回繰り返し行った。
得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基置換度は2.0、プロピオニル基置換度は0.7であった。このセルロースアセテートプロピオネートをCAP2とする。
実施例1〜3
合成例1により得られたセルロースアセテートプロピオネート(CAP1)90wt%と、可塑剤のポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)10wt%を、30mmφエクストルーダーを用いて混合し、熱可塑性組成物のペレットを得た。得られたペレットの240℃、1000sec−1における溶融融粘度は、86.7Pa・secであった。
続いてペレットを真空乾燥した後、エクストルーダー式溶融紡糸機で、紡糸温度235℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を72ホール有する口金より紡出した。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、油剤を付与して集束し、1000m/minで回転するゴデットローラーにより引き取り、320dtex−72fil(単糸繊度4.4dtex)の繊維を一旦ドラムに巻き取った。このドラムを10本準備して引き揃えを行い、3200dtex−720filのサブトウとし、さらにこのサブトウ30本を引き揃えて96000dtex−21600filのトウにした。
得られたトウを延伸倍率を1.0としたステープル延伸機を使用し、スタッファーボックスで機械捲縮を付与した後、その後繊維長が表1に記載の長さとなるようにカッティングを行った。捲縮数は9山/25mmと適切なレベルであった。
得られた短繊維の評価結果を表1に示す。短繊維のTgは115℃であり、100℃以下で膠着するなどのトラブルは起こらなかった。引張強度は1.0cN/dtex、引張伸度は25%であり、機械的特性に優れているため紡糸工程における製糸性は良好であった。
前述の方法によりサンプルローラーカードを用いて梳綿したところ、繊維長が38mm〜64mmと適切であったため、短繊維はローラーカードによって均一に分散され高品質のウエブが得られた。いずれの例においても絡合性は非常に優れていた。
前述の方法によりハンドカードを用いて作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、いずれの例においても、短繊維は十分な熱可塑性と低いTgを有していたため、熱接着性に非常に優れており、短繊維同士が融着して強固な構造体となった。
得られた短繊維の引張強度は1.0cN/dtexであったが、結節強度を測定したところ0.9cN/dtexであった。耐フィブリル性の評価尺度である、結節強度の引張強度に対する比率は90%であり、耐フィブリル性に優れていることが分かった。
Figure 2006111979
実施例4〜6
実施例4および5では、セルロースアセテートプロピオネートと可塑剤の重量比率を変更し、使用する口金を口金孔を96ホール有するものに変更することによってトウを96000dtex−28800fil(単糸繊度3.3dtex)とする他は、実施例1と同様にしてセルロースエステル短繊維を得た。
実施例6では、用いる可塑剤をジオクチルアジペート(DOA)としてその添加量を5wt%とし、使用する口金を口金孔を36ホール有するものに変更することによってトウを96000dtex−10800fil(単糸繊度8.9dtex)とする他は、実施例1と同様にしてセルロース短繊維を得た。
これら得られた短繊維の評価結果を表1に示す。実施例5では繊維の強度がやや低いために紡糸時に糸切れの発生が認められたが、製糸そのものは可能であった。実施例6では熱可塑性組成物の溶融粘度がやや高いため、単糸繊度の細い繊維を得ることはできなかったが、単糸繊度8.8dtexであれば繊維化が可能であった。
前述の方法によりサンプルローラーカードを用いて梳綿したところ、実施例4では繊維長が80mmと適切であったため、短繊維はローラーカードによって均一に分散され高品質のウエブが得られた。実施例5では繊維長が28mmとやや短かったためうまく絡合されない部分が残りネップ状のものが観察された。実施例6では繊維長が逆に120mmとやや長かったために、ウエブの均一性がやや劣っていた。但し、いずれも許容範囲内であった。
前述の方法によりハンドカードを用いて作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、いずれの例においても、実施例4および5では、短繊維は十分な熱可塑性と低いTgを有していたため、熱接着性に優れており、短繊維同士が融着して強固な構造体となった。実施例6においてはTgがやや高めで熱可塑性がやや劣っていたため、熱接着は強固ではなかったが、繊維同士の融着は認められ形状保持は可能であった。
実施例4および6では、結節強度の引張強度に対する比率がそれぞれ87.5%、88.9%であり、やや耐フィブリル性に劣るものの許容範囲内であった。実施例5では短繊維の耐フィブリル性は大変優れていた。
実施例7〜10
合成例2で得られたセルロースアセテートプロピオネート(CAP2)と可塑剤とを、表2に示す割合にて、実施例1と同様にしてエクストルーダーを用いて混合し、熱可塑性組成物のペレットを得た。
続いてペレットを真空乾燥した後、エクストルーダー式溶融紡糸機で、紡糸温度250℃とする他は、実施例1と同様にして溶融紡糸し、さらに集束してトウを作成した。得られたトウは、96000dtex−21600fil(単糸4.4dtex)であった。
得られたトウを延伸倍率を1.0としたステープル延伸機を使用し、スタッファーボックスで機械捲縮を付与した後、その後繊維長が表2に記載の長さとなるようにカッティングを行った。
得られた短繊維の評価結果を表2に示す。短繊維のTgは108〜120℃であり、100℃以下で膠着するなどのトラブルは起こらなかった。引張強度は0.8〜1.3cN/dtex、引張伸度は24〜32%であり、機械的特性に優れているため紡糸工程における製糸性は良好であった。
前述の方法によりサンプルローラーカードを用いて梳綿したところ、繊維長が36〜90mmと適切であったため、短繊維はローラーカードによって均一に分散され高品質のウエブが得られた。いずれの例においても絡合性は非常に優れていた。
前述の方法によりハンドカードを用いて作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、いずれの例においても、短繊維は十分な熱可塑性と低いTgを有していたため、熱接着性に非常に優れており、短繊維同士が融着して強固な構造体となった。
実施例7,8および10では、表2に示す通り、結節強度の引張強度に対する比率が90%以上であり、耐フィブリル性に優れていた。実施例9では、やや耐フィブリル性に劣るものの許容範囲内であった。
実施例11〜12
セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製CAB−381−20)を85%、可塑剤として実施例11ではポリエチレングリコール(三洋化成(株)製PEG600)15%、実施例12ではジオクチルアジペート15%を用いて、実施例1と同様に熱可塑性組成物のペレットを得た。
続いてペレットを真空乾燥した後、エクストルーダー式溶融紡糸機で、紡糸温度230℃とし、口金のホール数を48ホールに変更する他は、実施例1と同様にしてトウを作成した。得られたトウは、96000dtex−14400fil(単糸繊度6.7dtex)であった。このトウを延伸倍率を1.0としたステープル延伸機を使用し、スタッファーボックスで機械捲縮を付与した後、その後繊維長が表2に記載の長さとなるようにカッティングを行った。
得られた短繊維の評価結果を表2に示す。短繊維のTgは101〜102℃であり、100℃以下で膠着するなどのトラブルは起こらなかった。引張強度は0.5〜0.6cN/dtex、引張伸度は35〜38%であり、強度が低いため紡糸時に糸切れの発生が認められたが、製糸そのものは可能であった。
前述の方法によりサンプルローラーカードを用いて梳綿したところ、実施例11では繊維長が72mmと適切であったため、短繊維はローラーカードによって均一に分散され高品質のウエブが得られた。実施例12では繊維長が120mmとやや長かったため、ウェブには密度ムラが発生して品位の悪い部分が認められた。
前述の方法によりハンドカードを用いて作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、いずれの例においても、短繊維は十分な熱可塑性と低いTgを有していたため、熱接着性に非常に優れており、短繊維同士が融着して強固な構造体となった。
実施例11および12では、耐フィブリル性を示す尺度である、結節強度の引張強度に対する比率がそれぞれ83.3%、80%であり、耐フィブリル性にはやや劣るものの、許容範囲内であった。
Figure 2006111979
比較例1〜2
アセトンを溶媒として乾式紡糸法により得られた市販のセルロースジアセテート繊維(84dtex−20fil)を30本引き揃えて2520dtex−600filのサブトウとし、さらにこのサブトウ38本を引き揃えて95760dtex−22800dtex(単糸繊度4.2dtex)のトウにした。
得られたトウを延伸倍率を1.0としたステープル延伸機を使用し、スタッファーボックスで機械捲縮を付与した後、その後繊維長が表3に記載の長さとなるようにカッティングを行った。得られた短繊維の評価結果を表3に示す。
比較例1では繊維長が51mmと十分な長さを有していたため、サンプルローラーカードによって梳綿したところ均一なウエブが得られた。しかしながら、ハンドカードを用いて作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、繊維に熱可塑性がないため、繊維同士の熱接着は全く起こらず、手で簡単にほぐせるものであった
比較例2では、繊維長が8mmと極端に短いため、サンプルローラーカードによって梳綿することができず、ウエブを形成すること自体が不可能であった。ハンドカードによって作成した繊維集合体の熱圧成形を行ったところ、繊維に熱可塑性がないため、繊維同士の熱接着は全く起こらず、手で簡単にほぐせるものであった。
また、比較例1においては、得られた短繊維の引張強度は1.0cN/dtexであったが、結節強度を測定したところ0.6cN/dtexであった。耐フィブリル性の評価尺度である、結節強度の引張強度に対する比率は80%未満であり、耐フィブリル性に劣っていることが分かった。
比較例3
繊維長を8mmとする以外は、実施例1と同様にして原綿を得た。繊維長が8mmと極端に短いため、サンプルローラーカードによって梳綿することができず、ウエブを形成すること自体が不可能であった。ハンドカードによって作成した繊維集合体の熱可塑成形を行ったところ、熱接着性については良好な結果が得られた。
比較例4
繊維長を300mmとする以外は、実施例1と同様にして原綿を得た。繊維長が300mmと極端に長いため、サンプルローラーカードによって梳綿した際にうまく分散が進まず、また糸切れが多発して落綿が多かった。得られたウエブは品質が非常に悪いものであった。
ハンドカードによって作成した繊維集合体の熱可塑成形を行ったところ、熱接着性については良好な結果が得られた。また、耐フィブリル性も良好であった。
比較例5
可塑剤量を35%とする以外は、実施例12と同様にして原綿を得た。伸度が42%と高すぎるため、サンプルローラーカードにおける梳綿時に伸長してしまう短繊維が多発し、安定した梳綿が不可能であった。結節強度も低く、耐フィブリル性に劣っていた。
比較例6
ステープル延伸機の延伸倍率を1.2倍とする以外は実施例1と同様にして原綿を作成した。引張強度は2.1cN/dtexと高いものであったが、伸度が3%と非常に低かったため、サンプルローラーカードによって梳綿した際に糸切れが発生し、得られたウエブは品質が非常に悪い物であった。また、結節強度が低くなり、耐フィブリル性に劣っていた。
Figure 2006111979

Claims (6)

  1. 少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜150mmであるセルロースエステル短繊維。
  2. 熱可塑性組成物が、セルロースエステル70〜95wt%と可塑剤5〜30wt%とを含有するものであることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル短繊維。
  3. セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のセルロースエステル短繊維。
  4. 繊維のガラス転移温度が100〜180℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステル短繊維。
  5. 強度が0.5〜2.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステル短繊維。
  6. 少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物を、紡糸温度180〜280℃の条件で溶融紡糸し、紡出糸を回転ローラーにて引き取った後、繊維長25〜150mmにカッティングすることを特徴とするセルロースエステル短繊維の製造方法。
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