JP2006063439A - コンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜 - Google Patents

コンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜 Download PDF

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【課題】 コンクリート構造物中の鉄筋の防食を有効に行うことができ、またコンクリート構造物表面の形状に拘わらず、安価、簡便に形成でき、しかもコンクリート構造物に対して高い付着強度を持つ流電陽極材料を提供すること。
【解決手段】 亜鉛を3.0〜10重量%未満、インジウムを0.015〜0.1重量%含有し、随伴不純物を除いて残部がアルミニウムからなり、コンクリート構造物表面に形成されることを特徴とするコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜。
【選択図】 なし

Description

本発明は、コンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜に関し、詳しくはコンクリート構造物中に配設される鉄筋の電気防食に流電陽極として好適に用いられるアルミニウムを主体としたコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜に関する。
コンクリート構造物中に配設される鉄筋は、コンクリートがアルカリ性であるため、当初は腐食を生じないが、経年において、塩化物イオンの浸透又はコンクリートの中性化により、鉄筋に腐食が生じることが少なくない。鉄筋が腐食すると、鉄が水酸化物等により体積膨張し、周囲のコンクリートにひび割れや浮き等が生じる。さらに、鉄筋の腐食が進行すると、いわゆる爆裂を生じ、コンクリートの落下というような状態を招く。従って、鉄筋の腐食防止がコンクリート構造物の保全においては最も重要な課題である。
コンクリート構造物に配設される鉄筋の腐食防止には、通常、防錆塗料による塗装、シーリング打替、外壁タイルの更新等が行われる。しかし、常に塩分に晒される海洋コンクリート構造物、例えば橋梁、プラットホームや塩分を含む凍結防止剤が散布される環境にあるコンクリート構造物においては、これらの防食手段では鉄筋の腐食を充分に防止することは困難である。
このような常に塩分に晒されるような環境下のコンクリート構造物には、電気防食法が採用されている。この電気防食法は、腐食環境下にある鉄筋の電位を腐食が生じない卑の方向に変化させることによって腐食を防止させるものである。この電気防食法には、外部電源方式と流電陽極方式とがある。
コンクリート構造物中の鉄筋は、比較的表層近くに設置されるため、電気防食用陽極材と結束線等で短絡しやすく、外部電源方式では短絡事故が起き易く、その処理に多大の時間を要する。
流電陽極方式は、例えばコンクリート構造物表面に鉄より自然電位が卑な金属により流電陽極を形成し、この流電陽極と鉄筋とを導線により電気的に接続し、両者を両極とし、コンクリートを電解質とする電池作用によって流電陽極からコンクリート、鉄筋、導線、流電陽極の順に流れる電流によって、電気化学的に鉄筋の防食を行う方法である。この流電陽極方式では外部電源方式のように短絡の問題は生じない。
ここに用いられる流電陽極としては、上記のように鉄よりも自然電位が卑な金属からなり、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムやこれらの合金が用いられている。そして、流電陽極としてはこれらの板状体、例えば鋳造品をコンクリート構造物表面にボルト等で貼り付けて用いるのが一般的である。例えば特許文献1(特許第3183603号公報)及び特許文献2(特許第3183604号公報)では、亜鉛、インジウムを一定量含有するアルミニウム合金、さらにジルコニウムやケイ素等を一定量含有するアルミニウム合金を流電陽極とすることがそれぞれ提案され、実施例では鋳造品で評価されている。
しかし、このような板状体からなる流電陽極をコンクリート構造物表面に貼付する方法は、コンクリート構造物と流電陽極とを一様に電気的な結合を維持しながら固定する必要があるため、ボルト等固定手段が限られるのでコンクリート構造物の外観が美観に劣ったものとなる。また施工に手間がかかり施工費用が比較的高い。しかも例えば曲部のようなコンクリート構造物の形状によっては板状体の固定が困難となる。さらには、特許文献1のようなAl−Zn−In合金は、成形加工が難しく、均一な面状電極の形成が困難である。
特許文献3(特開平11−81502号公報)には、鉄筋コンクリート内の鉄筋の腐食を防止する方法において、鉄筋コンクリートの表面に溶射皮膜を形成し、電気化学的に鉄筋の腐食を防止することが記載されている。この特許文献3には、溶射材料として亜鉛、アルミニウム、チタン及びこれらを主成分とする合金であればよいとされ、実施例では亜鉛及び亜鉛合金が用いられている。
しかし、溶射皮膜の成分によって、流電陽極として用いた時に鉄筋に対する防食性能が異なり、亜鉛又は亜鉛合金を溶射材料として用いた場合には、得られる溶射皮膜は鉄筋に対する充分な防食性能が得られない。
特許文献4(特公昭52−10406号公報)には、亜鉛、インジウム、カドミウムを一定量含有するアルミニウム合金又は亜鉛、インジウム、スズを一定量含有するアルミニウム合金を、鋼材上に溶射し、次いで塗料を塗装し封孔処理する鋼の防食方法が記載されている。しかし、これは鋼材そのものに溶射皮膜を形成して鋼材を防食するもので、コンクリート構造物中の鉄筋の防食を意図するものではない。
特許第3183603号公報 特許第3183604号公報 特開平11−81502号公報 特公昭52−10406号公報
上述したように、コンクリート構造物中の鉄筋を有効に、かつ安価、簡便に防食できる流電陽極材料はいまだ得られてない。
従って、本発明の目的は、コンクリート構造物中の鉄筋の防食を有効に行うことができ、またコンクリート構造物表面の形状に拘わらず、安価、簡便に形成でき、しかもコンクリート構造物に対して高い付着強度を持つ流電陽極材料を提供することにある。
本発明者らは、検討の結果、コンクリート構造物表面の形状に拘わらず、安価、簡便に形成できる流電陽極材料としては溶射皮膜が最も優れていることを知見し、また鉄筋の防食を有効に行うためには溶射材の組成及びその含有割合ではなく、溶射皮膜そのものの成分及びその含有割合が重要であり、亜鉛及びインジウムを特定量含有するアルミニウム溶射皮膜が鉄筋の防食を有効に行えることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、亜鉛を3.0〜10重量%未満、インジウムを0.015〜0.1重量%含有し、随伴不純物を除いて残部がアルミニウムからなり、コンクリート構造物表面に形成されることを特徴とするコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜を提供するものである。
本発明に係る上記コンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜において、上記亜鉛を6〜9重量%、上記インジウムを0.06〜0.09重量%含有することが望ましい。
本発明に係る上記コンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜は、流電陽極として用いられる。
本発明に係るコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜は、流電陽極として鉄筋の防食を有効に行うことができ、かつコンクリート構造物表面に対して高い付着性を有する。しかも溶射皮膜であるのでコンクリート構造物の表面の形状に拘わらず、安価、簡便に形成できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係る溶射皮膜は、亜鉛を3.0〜10重量%未満、好ましくは6〜9重量%含有する。アルミニウムを流電陽極材として使用する際に添加される亜鉛は、耐食材料で孔食上の溶解をするアルミニウムを間口の広い溶解形態に変える働きがある。その働きは3.0重量%以上の亜鉛の含有によって顕著となり、現在のアルミニウム系流電陽極材における主流の添加量となっている。一方、本用途は、アルカリ性を有するコンクリート表面への適用である。アルミニウム、亜鉛とも両性金属でアルカリ環境下での自己腐食量が増加するが、コンクリート表面に相当するpH12前後では、アルミニウムに対してその影響は大きい。後述する試験例1に示すように、亜鉛を添加することによって、自己腐食(有効電気量の低減)を抑制することは可能であるが、10重量%以上の含有では電位の貴化が顕著となり、アルミニウムが持つ低電位特性が失われてしまう。従って、本発明に係る溶射皮膜の亜鉛の含有量は、上記したように3.0〜10重量%未満である。
また、本発明に係る溶射皮膜は、インジウムを0.015〜0.1重量%、好ましくは0.06〜0.09重量%含有する。インジウムを含有させる理由は、不動態化であるアルミニウムの孔食電位を低下させ、低電位で活性溶解させるためである。過剰な含有は発生電気量を低減させるため、最適含有割合は0.015〜0.02重量%とされ、現アルミニウム系流電陽極材の標準含有割合となっている。しかし、コンクリート表面という低水分環境下で使用する場合は、流電陽極としての低電位特性が不安定となる場合があるため、発生電気量を低減させても、低電位特性を安定して維持することが重要である。コンクリート表面を模擬したゲル化水溶液環境での低電位特性の安定性は、後述する試験例2に示すように、0.06重量%以上の含有によって現れ、その影響は0.1重量%まで同程度である。過剰なインジウムの含有は、発生電気量の低下が予想されるのみならず、経済的にも不利である。従って、本発明に係る溶射皮膜のインジウムの含有量は、上記したように0.015〜0.1重量%である。
本発明に係る溶射皮膜は、随伴不純物を除いて残部がアルミニウムである。ここでいう随伴不純物とは、溶射材料の原料に随伴する鉄、銅、ケイ素等の不純物や溶射の際に随伴する酸素、窒素等の不純物である。
本発明に係る溶射皮膜の厚さは、特に制限はないが、コンクリート構造物表面と溶射皮膜とは、機械的結合であるので、溶射皮膜の厚みが1mmを超えると残留応力に起因して歪が生じ溶射皮膜がコンクリート構造物表面から剥離する場合がある。従って、溶射皮膜の厚みは1mm以下が望ましい。
本発明に係る溶射皮膜は、コンクリート構造物表面に形成される。この溶射皮膜の形成方法は、対象となるコンクリート構造物表面をサンドブラスト処理等のブラスト処理した後、溶射を行って上記のようにコンクリート構造物表面に溶射皮膜を形成する。
本発明において、対象となるコンクリート構造物は特に制限されず、橋梁、プラットホーム、建築物等が挙げられ、特に常に塩分に晒される海洋コンクリート構造物に好適に用いられる。また、新設又は既存のいずれのコンクリート構造物でもよい。しかし、過度に鉄筋の腐食が進んだコンクリート構造物表面に溶射皮膜を形成しても効果が少ないので、既存のコンクリート構造物の場合には、未だ腐食の進んでいないコンクリート構造物を対象とするのが望ましい。
溶射方法は、上記組成の溶射皮膜が得られるのであれば、特に限定されないが、溶射ガンを用いて電気アーク、ガス炎、プラズマジェット等を熱源としてワイヤー、棒状、粉末状の溶射材料を溶融物粒子として飛散させ、これをコンクリート構造物表面に吹き付け、堆積させることによって溶射皮膜を付着させる。上記熱源の相違によって、アーク溶射、フレーム溶射、プラズマ溶射等がある。
上記組成の溶射皮膜が得られる溶射条件の一例を示すと次の通りである。すなわち、溶射材料として所定量の亜鉛とインジウムとアルミニウムの合金粉末をコアとし、これをアルミニウムで被覆したコアードワイヤーを用い、電圧25〜35V、電流200〜400A、空気圧3〜5kg/cm、距離100〜500mmの条件でアーク溶射を行い、上記組成の溶射皮膜を得る。
このようにして得られた溶射皮膜は、適度にポーラスであるため、適度に湿分を吸収し、流電陽極性能を維持でき、しかもコンクリート表面部と溶射皮膜の界面に生じる反応生成物も外部へ排出できる。また、適切なブラスト処理及び溶射によって、コンクリート構造物に対して1N/mm以上の付着強度が得られる。
以下、本発明を試験例、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。
(試験例1)
アルカリ環境下におけるアルミニウム合金の流電陽極特性に及ぼす亜鉛の含有効果を評価した。試験の方法は、(社)腐食防食協会規格JSCE S−9301「流電陽極試験法」に準拠した。すなわち、8種のAl―x重量%Zn―0.02重量%In合金(x=1.2、2.2、3.0、5.1、6.1、7.1、9.9、12.2)を試験溶液に浸漬し、電流密度1mA/cmで7日間通電した後の最終陽極電位と有効電気量を表1に示す。試験溶液は、5%食塩水に水酸化カルシウムを十分に飽和させて用い、また、最終陽極電位は、銀−塩化銀電極を参照電極として測定した。
Figure 2006063439
表1に示されるように、有効電気量は、亜鉛含有量の増加に伴い増加し、亜鉛含有量が3.0重量%以上で2100A・h/kgを超えたものとなる。しかし、亜鉛含有量が10重量%以上となると、最終陽極電位が低下する。
(試験例2)
アルカリ環境下におけるアルミニウム合金の流電陽極特性に及ぼすインジウムの含有効果を評価した。試験は、試験例1と同様な方法で実施した。すなわち、7種のAl―7重量%Zn―y重量%In合金(y=0.01、0.015、0.063、0.093、0.098、0.102、0.15)を試験溶液に浸漬し、電流密度0.1mA/cmで7日間通電した後の最終陽極電位と有効電気量を表2に示す。試験溶液は、5%食塩水に吸水性高分子を少量加えて水酸化カルシウムを十分に飽和させて用い、また、最終陽極電位は、銀−塩化銀電極を参照電極として測定した。
Figure 2006063439
表2に示されるように、有効電気量は、インジウム含有量が0.015重量%で最大値を示し、インジウム含有量0.1重量%近傍から急激に低下する。
内部にφ9mm×150mmの鉄筋を格子状に配置した200×200×200mmのコンクリート試験体(10kg/mの塩化物を含有)の上端面をサンドブラスト処理した後、下記の溶射材料及び溶射条件でアーク溶射を行った。
(溶射材料)
亜鉛14.32重量%、インジウム0.18重量%、残部アルミニウムのコアードワイヤー
(1)コア(粉末):亜鉛67重量%、インジウム0.7重量%、残部アルミニウム、但し、随伴不純物として鉄、カルシウムを少量含む。
(2)被覆材(シース):アルミニウム100重量%、但し、随伴不純物を少量含む。
(溶射条件)
電圧25V、電流200A、空気圧3kg/cm、距離100mm
得られた溶射皮膜は、亜鉛を8.00重量%、インジウムを0.080重量%含有し、残部は随伴不純物を除いてアルミニウムであった。また、付着強度を建研式引張試験に準拠して測定したところ1.64N/mmであった。さらに、溶射皮膜の一部を切り取り、断面観察により膜厚を測定したところ、平均200μmであった。
上記試験体を湿度95%以上のプラスチック容器に入れ、溶射皮膜と鉄筋をゼロ抵抗電流計を介して短絡し、室温条件下での溶射皮膜電流密度の経時変化を測定した。結果を図1に示す。スパイク状の電流増加は、高湿度環境下であるため、容器表面に結露した水滴が溶射皮膜表面に滴下した時に生じた現象で、溶射皮膜が良好なアノード特性を示すことを証明するものである。また、本環境下では最大の防食電流と考えられる20mA/m程度の通電も可能であることから、コンクリート中鉄筋の電気防食用流電陽極材として適当であることが分かった。
溶射条件を下記の通りとした以外は、実施例1と同様の方法で溶射皮膜付コンクリート試験体を製作した。
(溶射条件)
電圧35V、電流400A、空気圧5kg/cm、距離500mm
得られた溶射皮膜は、亜鉛を8.91重量%、インジウムを0.086重量%含有し、残部は随伴不純物を除いてアルミニウムであった。また、付着強度を実施例1に準拠して測定したところ2.88N/mmであった。また、膜厚は300〜500μmであった。
実施例1と同様な方法で、溶射皮膜とコンクリート内部の鉄筋との短絡試験を行い、図2の結果を得た。実施例1と同様に安定したアノード電流が計測され、流電陽極材として十分に機能することが確認できた。
比較例
溶射材料を下記の通りとした以外は、実施例1と同様の方法で溶射皮膜付コンクリート試験体を製作した。
(溶射材料)
亜鉛6.0重量%、インジウム0.015重量%、残部アルミニウムのアルミニウム合金ワイヤー
得られた溶射皮膜は、亜鉛を2.8重量%、インジウムを0.01重量%含有し、残部は随伴不純物を除いてアルミニウムであった。また、付着強度を実施例1に準拠して測定したところ1.05N/mmであった。また、膜厚は200〜250μmであった。
実施例1と同様な方法で、溶射皮膜とコンクリート内部の鉄筋との短絡試験を行い、図3の結果を得た。本組成の溶射皮膜は、アノード電流は流れているものの、その値は約1mA/mと小さい。また、結露水の滴下に伴うスパイク状の電流の増加も観測されず、表面は不活性化しているものと考えられ、流電陽極材としては不適当な組成と判断できる。
本発明に係る溶射皮膜は、適度にポーラスであるため、適度に湿分を吸収し、流電陽極性能を維持できるため、鉄筋の防食が有効に行われ、しかもコンクリート構造物表面への付着強度も高い。さらには、溶射皮膜であるのでコンクリート構造物の表面の形状に拘わらず、安価、簡便に形成できる。
図1は、実施例1の電流密度の経日変化を示すグラフである。 図2は、実施例2の電流密度の経日変化を示すグラフである。 図3は、比較例の電流密度の経日変化を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 亜鉛を3.0〜10重量%未満、インジウムを0.015〜0.1重量%含有し、随伴不純物を除いて残部がアルミニウムからなり、コンクリート構造物表面に形成されることを特徴とするコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜。
  2. 上記亜鉛を6〜9重量%、上記インジウムを0.06〜0.09重量%含有する請求項1記載のコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜。
  3. 流電陽極として用いられる請求項1又は2記載のコンクリート構造物中の鉄筋防食用溶射皮膜。
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