JP2006054108A - アーク放電用陰極及びイオン源 - Google Patents

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Abstract

【課題】陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させる該アーク放電用陰極であって、従来のこの種のアーク放電用陰極と比べると長期にわたり安定して求めるイオンを提供するプラズマを発生させることができるアーク放電用陰極を提供する。さらにこれを採用したイオン源を提供する。
【解決手段】中心導体部1と、これに外嵌された筒形導体部2と、これら両者の先端部を接続する接続導体部3とを含み、中心導体部1と筒形導体部2とで加熱電流が逆方向に流されるアーク放電用陰極10、及びかかる陰極10を採用したイオン源A。
【選択図】 図1

Description

本発明はアーク放電用陰極及び該陰極を備えたイオン源に関する。
アーク放電は様々の分野で利用されてきた。今日ではイオン工学技術の分野において広く利用されている。例えば、イオン注入、イオンドーピング、イオン注入とPVD法、CVD法による薄膜形成技術とを組み合わせたイオンビームミキシング技術等で用いられるイオン源において目的とするイオンを得るためのプラズマを生成することに利用されている。
アーク放電を利用してプラズマを発生させるイオン源では、放電を維持するために必要となる電子を陰極から安定的に放出させるためや、陰極に放電不良、ひいてはプラズマ生成効率を低下させる堆積物がプラズマ照射の下で陰極等に発生することを抑制するために、陰極を高温に加熱、保持することが行われている。
堆積物生成によるプラズマ生成率低下について例を挙げると、イオン源から引き出すイオン種が半導体不純物ドーピングやイオン注入などに利用されるものである場合、イオン源に供給されるガス或いは蒸発原からの蒸気(以下、これらを「ガス」と総称することがある。)の反応に伴って陰極等の表面に堆積物が生成することがある。かかる堆積物は陰極等と他の部材との間にまたがって両者間の絶縁を破り、ひいてはプラズマ生成を妨げることもある。
かかるアーク放電を利用してプラズマを発生させるイオン源として、例えば特開2003−249177号公報に記載されているものを挙げることができる。同公報に開示されたタイプのイオン源では、プラズマ生成領域を囲う容器内に設置された、太さの均一なタングステンなどの高融点金属の線材(以下、「フィラメント」と呼ぶことがある。)を、これに直接電流を流し、抵抗加熱を行うことによって熱電子放出が活発となる温度にまで加熱し、さらに、該フィラメントに容器に対して負電位となるように電圧を印加することによって放電を生成、維持する。
アーク放電の開始時には、フィラメントから放出される熱電子は、フィラメント加熱用電流に基づいてフィラメント周囲に発生する磁場とフィラメントと容器間の電界によって決定される、一般的にごく小さい曲率半径を持つラーマー旋回を行いながら、目的とするイオンを得るため容器内に導入された中性ガスと衝突して電離反応を起こしプラズマを生成する。プラズマが生成された後には、高温となったフィラメントから放出される熱電子はフィラメントを加熱するための磁界によって軌道を曲げられつつ、プラズマとフィラメント間に生成される厚みの小さいシースと呼ばれる領域中で静電的に加速され、プラズマ中に放出される。プラズマ中の電子及びイオンは拡散によって消失していくが、フィラメントから新たな熱電子が放出されてくることで、該新たな熱電子と中性ガスとが衝突して新たな電子/イオンが生成され、拡散によって消失する電子及びイオンが補われる。かくしてプラズマが維持される。
このようにして生成されるプラズマはフィラメントを中心として等方的に発生するので、通常、プラズマの形状を確定し、プラズマの拡散を抑えてイオン密度を向上せしめ、イオン源のイオン生成効率を高めるために、イオン引出し方向に対し垂直方向の直線磁界が外部から加えられる。なお、この磁界は一般的には上記形状、印加方向に限定されない。
イオン源の他の例として特開平10−199430号公報記載のものを挙げることができる。このイオン源では、熱電子放出部分はプラズマに曝される領域に配置される一方、これを加熱する加熱部分がプラズマに曝されない領域に配置される。
特開2003−249177号公報 特開平10−199430号公報
しかしながら、フィラメントに直接電流を流して該フィラメントを加熱し、熱電子を放出させる場合、フィラメント表面の温度分布は均一にならない。
フィラメントにはフィラメントから放出される熱電子電流に相当するアーク電流が重畳されるためにフィラメントを流れる電流は陰極で大きく、このためフィラメントに流される加熱電流に基づいてフィラメント周囲に磁場が形成され、この磁場のためにフィラメントから放出される熱電子はごく小さな曲率半径のラーマー旋回を行うためフィラメントのごく近傍に存在することになる。そのためガスとの衝突による電離確率は、電位差の大きくなるフィラメントの負極側が高くなり、プラズマは負極側に集中的に生成されやすくなる。その結果フィラメントの加熱電流に熱電子放出に伴ってプラズマからフィラメントに流入する放電電流が陰極部にフィラメント負極側に向かって積分される効果が拡大されるのみならず、イオン衝撃の結果としてより負極側が加熱され、プラズマに曝露したフィラメント領域の負極側端部付近に集中して高くなる。
このように、フィラメントのプラズマに曝露した負極側端部は他の部分より高温に加熱されやすく、その部分より集中的に熱電子が放出され、このため、フィラメント負極側端部に対応する領域に集中的に高密度のプラズマが形成される。
また通常の場合、フィラメントは熱電子放出の効率を高めるために融点近傍まで昇温され、スパッタリングによってフィラメント表面から材料が放出されることにより損耗する。この損耗率が前記の加熱率の集中に伴う温度不均一により、フィラメント負極側で大きくなり、結局この部分で破損にいたることになる。
前記のように直線磁場がある場合にはさらに深刻な問題が発生する。既述のとおり、フィラメント負極側が局部的に加熱されると、その部分から他の部分よりも多い熱電子放出が生じることになる。この集中的な加熱により局所化した熱電子放出は、磁力線に沿った領域でのみ電離を促進し、その結果細くて電子密度の高い領域をプラズマ中に生成する。この局所高密度プラズマはもとのフィラメントを、接触部において局所的にさらに加熱するという正帰還を発生させる。
最終的には赤外線放射による冷却率で決まる値でフィラメント高温部分の温度が決定されて定常状態となるが、ほぼ全ての熱電子がフィラメント上の一部分から集中して放出され、昇華率も大きなものとなってフィラメント寿命は大幅に短くなる。
また、この局所的な加熱はフィラメント上の、選択的にプラズマ照射を受ける部分に生じるが、この加熱部分は外部から加えられた磁場とフィラメント自身が加熱電流によって周囲に作る磁場との結合、及びフィラメントを通しての熱伝導によって決定されるので、プラズマの空間分布や安定性の面においても影響を与える。
以上の現象は、陰極に対応する所定空間全体にできるだけ均一なプラズマを生成する必要がある場合において特に重大であり、プラズマ機器の寿命と効率を両立させることを困難にする。
前記特開平10−199430号公報に開示されたイオン源では、熱電子放出源を加熱部分とプラズマ曝露部分に分離し、高温で温度不均一を生じやすい加熱部分をプラズマに直接曝さないようにしているので、保守間隔の延長化が可能である。しかし、熱電子を放出させるための電子放出部分を直接的に加熱しないので、加熱効率が悪い。また、熱入力がプラズマに曝露された電子放出部分で拡散するため、該電子放出部分におけるプラズマへの熱電子放出の面積が広くなりすぎ、その結果、所定空間領域に集中するプラズマの生成が困難になり、イオン引出しにおいて好ましいイオン種密度が所定空間領域に集中するようなプラズマ生成の効率を低下せしめる。
そこで本発明は、アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させる該アーク放電用陰極であって、従来のこの種のアーク放電用陰極と比べると長期にわたり安定して求めるイオンを提供しうるプラズマを発生させることができるアーク放電用陰極を提供することを課題とする。
また本発明は、アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させ、該プラズマから該イオンを引き出すイオン源であって、従来のこの種のイオン源と比べると長期にわたり安定して求められるイオン放出が可能なイオン源を提供することを課題とする。
本発明は前記課題を解決するため、次のアーク放電用陰極及びイオン源を提供する。
(1)アーク放電用陰極
アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させる該アーク放電用陰極であり、筒形導体部と該筒形導体部の内部に配置された1本又は複数本の導体からなる中心導体部と、該筒形導体部及び中心導体部の先端部を電気的に接続する接続導体部とを含み、該筒形導体部と中心導体部とで陰極加熱電流が逆方向に流されるアーク放電用陰極。
(2)イオン源
アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに、該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させ、該プラズマから該イオンを引き出すイオン源であり、該アーク放電用陰極は筒形導体部と該筒形導体部の内部に配置された1本又は複数本の導体からなる中心導体部と、該筒形導体部及び中心導体部の先端部を電気的に接続する接続導体部とを含み、該筒形導体部と中心導体部とで陰極加熱電流が逆方向に流される陰極であるイオン源(要するに上記(1)記載のアーク放電用陰極を採用したイオン源)。
本発明に係るアーク放電用陰極、本発明に係るイオン源におけるアーク放電用陰極は、それを構成する筒形導体部とその内部に配置される中心導体部とで陰極加熱電流が逆方向に流されるから、中心導体部に流れる電流に基づいて形成される磁場と筒形導体部に逆向きに流される電流に基づいて形成される磁場とが生じ、且つ、これらの磁場が相殺しあい、陰極全体としてみれば、陰極加熱電流に基づく陰極周囲の磁場の形成が十分抑制される。
このように陰極周囲の磁場形成が抑制される結果、外側の筒形導体部全体から熱電子が放出されやすくなり、プラズマ生成領域に外部から磁場が与えられない場合には筒形導体部に対応する領域全体にわたってプラズマが形成され、このためプラズマから陰極への電流の流入が陰極全体に対して実現され、これらにより陰極の局部的過熱がそれだけ抑制され、従って、陰極寿命がそれだけ長くなり、長期にわたり安定して求められるイオンを得るためのプラズマを生成できるようになる。
また、外部から該陰極の長さ方向に沿って直線磁場が与えられる場合には、放出された熱電子は該直線磁場に束縛され、該陰極の長さ方向に運動する。そのため、接続導体部とそれに続く中心導体部及び筒形導体部の先端部を含む部分(以下、「陰極先端部」ということがある。)に集中してプラズマが生成される。このためプラズマから陰極への電流の流入は該陰極先端部に集中し、該陰極先端部の局部的加熱が生じるが該接続導体部の厚みを筒形導体部厚みに対して十分厚くすることによって陰極寿命を所望の時間まで長くすることができる。
また、本発明によると、アーク放電用陰極の中心導体部の加熱率と筒形導体部の加熱率を調整すること等により、目的とするイオンを得るために必要な条件を有するプラズマを生成するための様々な運転状態に対応して陰極の加熱効率、アーク放電の放電効率などの調整(例えばかかる効率を高めるための調整)が可能である。
より具体的には、目的とするイオンを得るための所望のプラズマ状態に応じて、陰極使用時の前記筒形導体部の加熱表面温度分布調整(代表的には均一な温度分布調整)のために該筒形導体部各部の電気抵抗、前記中心導体部各部の電気抵抗及び前記接続導体部の電気抵抗のうち少なくとも一つを調整することができる。
かかる電気抵抗調整の目的で、例えば、該筒形導体部各部の肉厚、前記中心導体部各部の太さ及び前記接続導体部の体積のうち少なくとも一つを調整することができる。また、このような筒形導体部各部の肉厚等の調整とともに、或いはこのような調整に代えて、筒形導体部の形状(断面形状等)、中心導体部の形状(断面形状等)及び接続導体部の形状(断面形状等)のうち少なくとも一つを調整することもできる。
さらに具体例を挙げれば、本発明に係るアーク放電用陰極、本発明に係るイオン源におけるアーク放電用陰極によると、陰極加熱電流を筒形導体部の根元部より先端部へ、さらに、接続導体部を介して中心導体部の先端部から根元部へ向け流し、プラズマに露出する陰極先端部が最も負電位になるように用いて、プラズマの照射による陰極加熱率を陰極先端部に集中させることができる。
この場合、陰極加熱電流を各導体部に一様に流しても、陰極先端部と筒形導体部の根元部分の表面温度がほぼ同一になるような電気抵抗を該陰極先端部に与えるように該陰極先端部分を形成してもよい。例えば、陰極先端部を筒形導体部や中心導体部の他の部分より厚く形成する等してそれを実現することが可能である。こうすることで、陰極表面(筒形導体部表面)の温度分布を一層均一化し、陰極寿命をそれだけで長くすることができる。
また、定格の放電電流が定められている場合には、外側の筒形導体部の肉厚分布と中心導体部の太さ分布を適切に選ぶこと等により、放電電流に陰極加熱電力の一部を担わせ、陰極寿命を犠牲にすることなく、陰極の加熱効率を向上させることも可能である。
広い放電電流の範囲において本発明に係るアーク放電用陰極を使用したい場合、換言すれば、プラズマ密度を広い範囲から選択したい場合には、例えば、前記陰極加熱電流による陰極加熱の割合がプラズマから陰極に流入する放電電流による陰極加熱の割合より大きくなるように設定し、換言すれば、放電電流にあまり影響されることなく陰極加熱電力の調整により陰極からの熱電子放出割合を容易に制御できるようにすれば、外側の筒形導体部各部の厚さは実質上一定にしておいても筒形導体部各部の表面温度分布の均一化を維持しつつ所望密度、大きさのプラズマを形成できる。このように、前記筒形導体部は各部の肉厚が一定に形成されていてもよい。
また、前記中心導体部、筒形導体部及び接続導体部は同一の材料で形成することもできるし、熱電子放出効率を向上させるために筒形導体部を中心導体部より高抵抗材料で形成することもできる。
いずれにしても、前記中心導体部、筒形導体部及び接続導体部は、それぞれ高融点材料から形成することが望ましいが、かかる高融点材料として次のものを例示できる。
すなわち、モリブデン、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウムから選ばれた単体金属材料、又はこれら金属のうち少なくとも二つを含む合金からなる金属材料、又はかかる金属材料を母材として該母材をアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属の炭化物、アルカリ土類金属の炭化物のうち1種で被覆した材料である。
前記中心導体部、筒形導体部及び接続導体部の形状については、代表例として、中心導体部は円形断面を有する棒状導体部、筒形導体部は円筒形導体部である場合を挙げることができる。棒状の中心導体部は単数の棒状導体からなるものであっても、複数本の棒状導体を束ねた形態のものでもよい。また、中心導体部は棒状導体でなくコイル状導体であっても構わない。
また、前記接続導体部として、中心導体部に外嵌するとともに筒形導体部に内嵌するリング形の導体部を例示できる。かかるリング形の接続導体部は、導体部の材料の機械加工により形成することができる他、シート状の導体材料を中心導体部に巻きつけこれに筒形導体部を外嵌めしたり、或いはさらに、その状態で、電子ビーム溶接やレーザー溶接等により中心導体部及び筒形導体部と一体化して形成できる。
なお、中心導体部、筒形導体部及び接続導体部の形状は上記したものに限定されることはなく、支障のない範囲で各種形状を採用できる。例えば、中心導体部や筒形導体部は断面輪郭が円形である必要はなく、例えば、支障のない範囲で多角形を呈するものでもよい。また、接続導体部にしても円形リング形状のものに限定されることはなく、中心導体部や筒形導体部の断面形状等に応じた適当な形状のものとすることができる。
以上説明したように本発明によると、アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させる該アーク放電用陰極であって、従来のこの種のアーク放電用陰極と比べると長期にわたり安定して求められるイオンを提供し得るプラズマを発生させることができるアーク放電用陰極を提供することが可能である。
また本発明によると、アーク放電用の陽極と陰極間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させ、該プラズマから該イオンを引き出すイオン源であって、従来のこの種のイオン源と比べると長期にわたり安定して求められるイオン放出を行えるイオン源を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るアーク放電用陰極の1 例を採用したイオン源の1 例(イオン源A)を示している。図2は該陰極の断面構造等を示している。
イオン源Aはプラズマ生成領域を囲む容器C内にアーク放電用陰極10を設置し、容器Cの開口部に対向させてイオン引出し電極Eを設置し、容器C外に永久磁石或いは電磁石によって構成される磁石Mを設けたものであるが、図示例のイオン源Aの容器Cはさらに真空容器CH内に配置されており、該真空容器CH内が図示省略の排気装置により減圧されることで、容器C内も減圧されるようになっている。また、磁石Mは真空容器CHを介して容器Cの外周に対し設置されている。真空容器CHは例えばイオン注入装置においてイオン注入されるべき基板等をイオン源に対向させて収容する容器である。
また、イオン源Aの容器Cには、ガス或いは蒸気の導入口部Gが設けられており、ここから容器C内に目的とするイオンを得るためのガス或いは蒸気を導入できるようになっている。
磁石Mは容器C内に形成されるプラズマを閉じ込めるために、イオン引出し電極系Eによるイオン引出し方向Xに垂直且つアーク放電用陰極10に沿う方向Yの直線磁場を容器
C内に形成する。
陰極10はその詳細については後述するが、容器C内にイオン引出し電極系Eに対向して該電極系Eと平行姿勢で設置されており、陰極加熱用の電源PW1に接続されている。 容器Cはアーク放電用陰極10に対する陽極を兼ねており、容器Cと陰極10とにアーク放電用の電源PW2が接続されている。
イオン引出し電極系Eと容器C間にはイオン引出しのための電位を与えるための電源PW3が接続されている。
図2に示すように、アーク放電用陰極10は、断面円形の棒状の中心導体部1、これに空間をおいて外嵌された筒形導体部2、及び中心導体部1の先端部と筒形導体部2の先端部を接続するリング形の接続導体部3を含んでいる。
円筒形導体部2は容器Cの壁に設けた電気絶縁体ISを貫通して容器外まで引き出されており、絶縁体ISに嵌着された円筒形の保持導体部21が該筒形導体部2の根元部分に外嵌接続されている。円筒形導体部2は保持導体部21を介して陰極加熱用電源PW1のプラス極に接続されている。
電気絶縁体ISのうち少なくとも容器C内に位置してプラズマに曝される部分は、アルミナセラミックや窒化ホウ素等で形成されている。これによって、高融点金属によって形成されているとは限らない保持導体部21をプラズマの直接的な照射から保護している。
中心導体部1の根元部分は保持導体部11に保持されており、保持導体部11は電源PW1のマイナス極に接続されている。なお、保持導体部11は図示省略の部材を介して容器C壁又は真空容器CHに絶縁されつつ支持されている。
陰極10についてさらに詳述すると、中心導体部1、筒形導体部2及び接続導体部3はここでは同じ高融点金属材料であるタンタルから形成されている。
筒形導体部2は全体にわたり0.1mm〜1mm程度の範囲の均一な厚さを有し、外径3mm〜7mm程度、長さ5mm〜30mm程度の範囲で形成されている。
中心導体部1は外径0.5mm〜3mm程度の範囲の棒状或いは細線を束ねた形態に形成されており、長さは筒形導体部2より長くしている。
陰極10における接続導体部3は中心導体部1及び筒形導体部2に接触抵抗少なく十分密着する状態で嵌着されているだけでもよいが、電子ビーム溶接やレーザー溶接等により中心導体部1及び筒形導体部2と一体化しておくことが望ましい。本例では電子ビーム溶接にて一体化している。
そしてここでは、接続導体部3を中心導体部1の外径、筒形導体部2の肉厚より十分厚く形成することで陰極先端部eに集中するプラズマによるスパッタリングによっても長寿命となるようにしてある。
陰極材料として一般的なタングステンを本発明に採用する場合、接続導体部3を機械加工で形成する場合には、タングステン材料を展性一延性転移温度である300℃以上の温度に加熱して加工する必要があるが、これを避けるために、シート状タングステン材料を中心導体部1の先端部に巻き付け、これに筒形導体部2の先端部を嵌めて仮組み立てし、その後にこれらを電子ビーム溶接やレーザー溶接等により一体化してもよい。
なお、陰極材料としてタンタル、レニウム等を採用する場合には、これら材料の機械加工が可能であるので、旋盤などを用いて精密な形状の接続導体部3を形成し、特に電子ビーム溶接やレーザー溶接を採用しなくても、これを単純な嵌め合い加工で中心導体部1及び筒形導体部2に嵌めて陰極10を組み立てることができる。
中心導体部1とその保持導体部11との接続及び筒形導体部2とその保持導体部21との接続には、熱膨張の影響を十分考慮することが要求される。通常の運転では中心導体部1の方が外側の筒形導体部2よりも高温になるのでこれを考慮し、さらに導体間の膨張差を考慮して接続部の設計を行えばよい。
中心導体部1について、中心導体部1とその保持導体部11との相互接続を密着嵌め合いで行った場合と、中心導体部1を保持導体部11に余裕を持たせて摺動可能に嵌め込んだ場合の2種類の様態について通電テストを行ってみたが、いずれも支障無く機能した。 また、中心導体部1と接続導体部3についても、電子ビーム溶接によって接続したものと、嵌め合い構造としたものとでも通電テストを行ってみたが、いずれも支障無く機能した。
陰極の組み立て時その組み立てにおける溶接時等に発生している可能性のある残留応力を除去するため、ここでは、陰極10を最初に電子放出温度まで昇温する際には、1秒間あたり1℃未満程度の温度勾配でゆっくりと昇温させた。そうすることで、その後は比較的短時間で昇温させても、陰極への残留応力による悪影響が十分抑制される状態とした。
以上説明したイオン源Aによると、真空容器CH内を図示省略の排気装置により排気することでイオン源Aの容器C内から排気してプラズマ生成ガス圧を例えば10Pa程度以下に維持しつつ、目的イオンを得るためのガス或いは蒸気を図示省略のガス供給装置或いは蒸気生成器からガス或いは蒸気の導入口部Gを介して容器C内へ所定量導入するとともに、陰極10には電源PW1にて加熱電流を流して筒形導体部2から熱電子を放出させつつ陰極10と容器C間に電源PW2から放電電圧を印加することで、容器C内にプラズマを生成させ、該プラズマからイオン引出し電極系Eにてイオンビームを引出すことができる。
このときアーク放電用陰極10では、それを構成する中心導体部1とこれに外嵌する筒形導体部2とで、陰極加熱電流が逆方向に流されるから、中心導体部1に流れる電流に基づいて形成される磁場と筒形導体部2に逆向きに流される電流に基づく磁場とが生じ、且つ、これらの磁場が相殺しあい、陰極10全体としてみれば、陰極加熱電流に基づく陰極周囲の磁場の形成が十分抑制される。
このように陰極周囲の磁場形成が抑制される結果、外側の筒形導体部2の全体から熱電子が放出されやすくなり、容器Cの外側に設置された磁石Mによって形成される直線磁場に沿って運動し、該陰極10表面でもっとも電位の低い接続導体部3近傍にプラズマが集中して生成される。また、このため、プラズマから陰極10への電流の流入は筒形導体部2よりも厚みのある接続導体部3に集中し、陰極10の寿命が筒形導体部2がプラズマに曝されるときよりも長くなる。また接続導体部3の厚みは一般的に用いられる円形断面を持つ棒状陰極に比して厚くできるので、陰極寿命は一般的な陰極よりも長くなる。従って、該陰極10を用いることにより、長期にわたり安定して求めるイオンを得るためのプラズマを生成し、該イオン放出を行える。
また、本例では、図示のとおり、電源PW1による陰極加熱電流を筒形導体部2の根元部より先端部へ、さらに、接続導体部3を介して中心導体部1の先端部から根元部へ向け流しており、これにより接続導体部3を含む陰極先端部eがもっとも負電位になり、プラズマの照射による陰極加熱が陰極先端部eに集中するが、ここでは、前記のとおり、接続導体部3を中心導体部1の外径、筒形導体部2の肉厚より十分厚く形成することで陰極先端部eの電気抵抗を低くし、陰極先端部も筒形導体部2の根元部分と同程度の表面温度となるように加熱されるようにしてあるから、前記の磁場形成の抑制と相まって陰極表面温度を一層均一化できる。
また、ここでは、電源PW1による陰極加熱電流による陰極加熱の割合がプラズマから陰極10に流入する放電電流による陰極加熱の割合より大きくなるように設定してあり、放電電流にあまり影響されることなく陰極加熱電力の調整により陰極からの熱電子放出割合を容易に制御でき、これにより広い範囲で放電電流を制御して、所望密度のプラズマを形成できる。
次に、陰極10の放電特性を調べた実験について説明する。
実験では、中心導体部1の外径1.0mm、筒形導体部2は肉厚が一様に0.1mmで外径は3.2mm、中心導体部1の長さ32mm、筒形導体部2の長さ25mm、接続導体部3の厚さが1.5mmである陰極を採用した。残留応力は予め十分除去した。
容器C内における磁石Mによる磁場を80ガウス程度とし、ガス圧を0.15Paに維持しつつ容器C内にアルゴンガスを導入し、該陰極に電源PW1にて種々の加熱電流を流す一方、電源PW2による放電電圧Vd〔V〕の印加に伴って陰極から放出される電子電流Id〔A〕を測定したところ、図3に示す結果を得た。
図3に示すように、放電電圧がアルゴンの電離電圧である13.5V付近で急峻な放電開始を示した。これは陰極表面に陰極加熱電流により大きな磁場が形成される従来の線材フィラメントを用いた場合の放電電流特性と大きく異なっており、陰極表面に局所的な磁場がない場合に見られる典型的な特性である。従って、非常に低い放電電圧、放電電流でも安定したプラズマの維持が可能であることを示している。生成されたプラズマの形状を観測したところ、ほぼ陰極の大きさに一致したサイズで形成されていることが確認された。
また赤外線カメラにより陰極の赤外線放射強度分布を調査したところ、陰極各部からほぼ均一な赤外線放射が生じており、それに対応したほぼ均一な温度分布が実現されていることが分かった。
本発明は、各種イオン機器において、長期にわたり安定して所望イオンを生成することに利用できる。
本発明に係るアーク放電用陰極の1例を採用したイオン源の1例の構成の概略を示す図である。 . 図1に示すアーク放電用陰極の断面構造等を示す図である。 実験結果を示す図である。
符号の説明
A イオン源
10 アーク放電用陰極
1 中心導体部
11 保持導体部
2 筒形導体部
21 保持導体部
3 接続導体部
e 陰極先端部
C イオン源容器
E イオン引出し電極系
M 磁石
G ガス或いは蒸気の導入口部
IS 電気絶縁体
PW1 陰極加熱用電源
PW2 放電用電源
PW3 イオン引出し用電源
CH 真空容器

Claims (13)

  1. アーク放電用の陽極と陰極の間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させる該アーク放電用陰極であり、中心導体部と該中心導体部に電気的に絶縁された状態で外嵌された筒形導体部と、該中心導体部及び筒形導体部の先端部を電気的に接続する接続導体部とを含み、該中心導体部と筒形導体部とで前記加熱電流が逆向きに流されることを特徴とするアーク放電用陰極。
  2. 陰極使用時の前記筒形導体部の加熱表面温度分布調整のために該筒形導体部各部の電気抵抗、前記中心導体部各部の電気抵抗及び前記接続導体部の電気抵抗のうち少なくとも一つが調整されている請求項1記載のアーク放電用陰極。
  3. 陰極使用時の前記筒形導体部の加熱表面温度分布調整のために該筒形導体部各部の肉厚、前記中心導体部各部の太さ及び前記接続導体部の体積のうち少なくとも一つが調整されている請求項1記載のアーク放電用陰極。
  4. 前記筒形導体部は各部の肉厚が一定に形成されている請求項1記載のアーク放電用陰極。
  5. 前記中心導体部、筒形導体部及び接続導体部が同一の材料で形成されている請求項1から4のいずれかに記載のアーク放電用陰極。
  6. 前記筒形導体部が前記中心導体部より高抵抗材料で形成されている請求項1から4のいずれかに記載のアーク放電用陰極。
  7. 前記中心導体部、筒形導体部及び接続導体部は、それぞれ高融点材料から形成されており、該高融点材料は、モリブデン、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、これら金属のうち少なくとも二つを含む合金のうちから選ばれた金属材料、又は該選ばれた金属材料を母材として該母材をアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属の炭化物、アルカリ土類金属の炭化物のうち1種で被覆した材料である請求項1から6のいずれかに記載のアーク放電用電源。
  8. 前記中心導体部が円形断面を有する棒状導体部であり、前記筒形導体部が円筒形導体部である請求項1から7のいずれかに記載のアーク放電用陰極。
  9. 前記中心導体部が棒状導体の束であり、前記筒形導体部が円筒形導体部である請求項1から7のいずれかに記載のアーク放電用陰極。
  10. 前記接続導体部が前記中心導体部に外嵌するとともに前記筒形導体部に内嵌するリング形の導体部である請求項1から9のいずれかに記載のアーク放電用陰極。
  11. アーク放電用の陽極と陰極の間に放電電圧を印加するとともに該陰極に加熱電流を流して該陰極から熱電子を放出させつつアーク放電を発生させ、該アーク放電のもとで目的とするイオンを得るためのプラズマを生成させ、該プラズマから該イオンを引き出すイオン源であり、該アーク放電用陰極として請求項1から10のいずれかに記載のアーク放電用陰極が採用されていることを特徴とするイオン源。
  12. 前記陰極加熱電流が、前記筒形導体部の根元部より先端部へ、さらに、前記接続導体部を介して前記中心導体部の先端部から根元部へ向け流される請求項11記載のイオン源。
  13. 前記プラズマから前記陰極に流れ込む放電電流に前記筒形導体部加熱電力の一部を担わせる請求項11記載のイオン源。
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