つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図2は、この発明を適用した車両Veのパワートレーンを示すスケルトン図である。この車両Veは、FF車(フロントエンジン・フロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動車)であり、車両Veの駆動力源としてエンジン1が用いられている。このエンジン1は、燃料の燃焼により動力を出力する動力装置であり、この実施例では、エンジン1としてガソリンエンジンを用いた場合を説明する。また前記エンジン1の出力側には、トランスアクスル3が設けられている。このトランスアクスル3は内部中空のケーシング4を有し、ケーシング4の内部には、トルクコンバータ5と前後進切り換え機構6とベルト式無段変速機(CVT)7と最終減速機8とが設けられている。まず、トルクコンバータ5の構成について説明する。ケーシング4の内部には、クランクシャフト2と同一の軸線(図示せず)を中心として回転可能なインプットシャフト9が設けられており、インプットシャフト9におけるエンジン1側の端部にはタービンランナ10が取り付けられている。
一方、クランクシャフト2の後端にはドライブプレート11を介してフロントカバー12が連結されており、フロントカバー12にはポンプインペラ13が接続されている。このタービンランナ10とポンプインペラ13とは対向して配置され、タービンランナ10およびポンプインペラ13の内側にはステータ14が設けられている。また、インプットシャフト9におけるフロントカバー12側の端部には、ダンパ機構16を介してロックアップクラッチ15が設けられている。上記のように構成されたフロントカバー12およびポンプインペラ13などにより形成されたケーシング(図示せず)内に、作動流体としてのオイルが供給されている。
上記構成により、エンジン1の動力がクランクシャフト2からフロントカバー12に伝達される。この時、ロックアップクラッチ15が解放されている場合は、ポンプインペラ13の動力が、流体の運動エネルギによりタービンランナ10に伝達され、ついでインプットシャフト9に伝達される。なお、ポンプインペラ13からタービンランナ10に伝達されるトルクを、ステータ14により増幅することもできる。一方、ロックアップクラッチ15が係合されている場合は、フロントカバー12の動力が、ロックアップクラッチ15の摩擦力によりインプットシャフト9に伝達される。前記ケーシング4の内部におけるトルクコンバータ5と前後進切り換え機構6との間には、オイルポンプ17が設けられている。このオイルポンプ17のロータ(図示せず)と、ポンプインペラ13とが円筒形状のハブ19により接続されている。また、オイルポンプ17のボデー(図示せず)はケーシング4側に固定されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラ13を介してオイルポンプ17のロータに伝達され、オイルポンプ17を駆動することができる。
前記前後進切り換え機構6は、インプットシャフト9とベルト式無段変速機7との間の動力伝達経路に設けられている。前後進切り換え機構6はダブルピニオン形式の遊星歯車機構32を有している。この遊星歯車機構32は、インプットシャフト9に設けられたサンギヤ33と、このサンギヤ33の外周に、サンギヤ33と同心状に配置されたリングギヤ34と、サンギヤ33に噛み合わされたピニオンギヤ35と、このピニオンギヤ35およびリングギヤ34に噛み合わされたピニオンギヤ36と、ピニオンギヤ35およびピニオンギヤ36を、サンギヤ33の周囲を一体的に公転可能な状態で保持したキャリヤ37とを有している。そして、このキャリヤ37とプライマリシャフト21とが連結されている。また、クラッチCRが設けられている。このクラッチCRは、キャリヤ37とインプットシャフト9との間の動力伝達経路を接続または遮断するものである。さらに、リングギヤ34の回転および固定を制御するブレーキBRが設けられている。
前記ベルト式無段変速機7は、インプットシャフト9と同心状に配置されたプライマリシャフト21と、プライマリシャフト21と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト22とを有している。前記プライマリシャフト21にはプライマリプーリ23が設けられており、セカンダリシャフト22にはセカンダリプーリ24が設けられている。プライマリプーリ23は、プライマリシャフト21に固定された固定シーブ25と、プライマリシャフト21の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ26とを有している。そして、固定シーブ25と可動シーブ26との対向面には、保持面54,55が形成されている。この保持面54,55同士の間に、V字形状の溝M1が形成される。また、この可動シーブ26をプライマリシャフト21の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ26と固定シーブ25とを接近・離隔させる油圧サーボ機構27が設けられている。この油圧サーボ機構27は、油圧室(図示せず)と、油圧室の油圧に応じてプライマリシャフト21の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ26に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ24は、セカンダリシャフト22に固定された固定シーブ28と、セカンダリシャフト22の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ29とを有している。そして、固定シーブ28と可動シーブ29との対向面には、保持面56,57が形成されている。この保持面56,57同士の間に、V字形状の溝M2が形成される。また、この可動シーブ29をセカンダリシャフト22の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ29と固定シーブ28とを接近・離隔させる油圧サーボ機構30が設けられている。この油圧サーボ機構30は、油圧室(図示せず)と、油圧室の油圧によりセカンダリシャフト22の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ29に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。上記構成のプライマリプーリ23の溝M1およびセカンダリプーリ24の溝M2に対して、ベルト31が巻き掛けられている。
前記ベルト式無段変速機7と最終減速機8との間の動力伝達経路には、セカンダリシャフト22と相互に平行なインターミディエイトシャフト39が設けられている。インターミディエイトシャフト39にはカウンタドリブンギヤ40とファイナルドライブギヤ41とが形成されている。前記セカンダリシャフト22にはカウンタドライブギヤ42が形成され、カウンタドライブギヤ42とカウンタドリブンギヤ40とが噛み合わされている。一方、前記最終減速機8はリングギヤ43を有し、ファイナルドライブギヤ41とリングギヤ43とが噛み合わされている。また、リングギヤ43はデフケース(図示せず)の外周に形成され、このデフケースの内部には複数のピニオンギヤ(図示せず)が取り付けられている。このピニオンギヤには2つのサイドギヤ(図示せず)が噛み合わされている。2つのサイドギヤには別個にフロントドライブシャフト44が接続され、各フロントドライブシャフト44には、車輪(前輪)45が接続されている。
図3は、図2に示す車両Veの制御系統を示すブロック図である。車両Veの全体を制御する電子制御装置104が設けられており、この電子制御装置104は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置104に対しては、イグニッションスイッチ105Aの信号、エンジン回転数センサ105の信号、アクセル開度センサ106の信号、スロットル開度センサ107の信号、ブレーキペダルの操作状態を検知するブレーキスイッチ108の信号、シフトレバー114の操作状態を検出するシフトポジションセンサ109の信号、プライマリプーリ23の回転数を検出する入力回転数センサ110の信号、セカンダリプーリ24の回転数を検出する出力回転数センサ111の信号が入力される。
また、電子制御装置104には、加速度センサ62の信号、インプットシャフト9の回転数を検出するタービン回転数センサ63の信号、エアコンスイッチ63Aの信号、ケーシング4の内部および油圧回路64の油圧回路を流れるオイルの温度を検知する油温センサ80の信号、車輪回転速度センサ81の信号、ステアリングホイールの操舵状態を検知する操舵角センサ82の信号、エンジン1の冷却水温を検知する冷却水温センサ83の信号、車両Veが位置している道路の勾配を検知する勾配検知センサ84の信号、油圧センサ85の信号などが入力される。
前記ブレーキスイッチ108の信号に基づいて、ブレーキペダルが踏み込まれているか否か、ブレーキペダルの踏み込み量、ブレーキペダルの踏み込み速度、などが検知される。前記シフトポジションセンサ109の信号に基づいて、シフトレバー114の操作により、駆動ポジションまたは非駆動ポジションのいずれが選択されているかが検知される。ここで、駆動ポジションとは、エンジン1から車輪45に至るドライブトレーンの状態、具体的には、インプットシャフト9とプライマリシャフト21との間の状態を、動力伝達をおこなうことの可能な状態に制御するポジションを意味している。これに対して、非駆動ポジションとは、インプットシャフト9とプライマリシャフト21との間の状態を、動力伝達をおこなうことの不可能な状態に制御するポジションを意味している。この実施例では、駆動ポジションとして、D(ドライブ)ポジション、B(ブレーキ)ポジション、R(リバース)ポジションを選択することができる。
この実施例では、非駆動ポジションとして、N(ニュートラル)ポジション、P(パーキング)ポジションを選択することができる。駆動ポジションのうち、DポジションおよびBポジションが前進ポジションであり、Rポジションが後進ポジションである。前進ポジションとは、エンジン1の動力を車輪45に伝達した場合に、車両Veを前進させる方向の駆動力が発生するポジションを意味している。後進ポジションとは、エンジン1の動力を車輪45に伝達した場合に、車両Veを後進させる方向の駆動力が発生するポジションを意味している。
また、入力回転数センサ110の信号、出力回転数センサ111の信号に基づいて、ベルト式無段変速機7の変速比を演算することができ、出力回転数センサ111の信号に基づいて車速を演算することができる。さらに、制動装置116は、ブレーキペダル(図示せず)と、マスターシリンダ(図示せず)と、全ての車輪に設けられたホイールシリンダ(図示せず)と、各ホイールシリンダの油圧を制御する電磁弁(図示せず)と、電磁弁を制御する電子制御装置(図示せず)とを備えている。
また電子制御装置104からは、電子制御装置104に入力される各種の信号や、電子制御装置104に記憶されているデータに基づいて、燃料噴射制御装置112を制御する信号、点火時期制御装置113を制御する信号、油圧回路64を制御する信号、電子スロットルバルブ115を制御する信号、制動装置116を制御する信号が出力される。この燃料噴射量制御、点火時期制御、吸入空気量の制御の少なくとも1つをおこなうことにより、エンジン出力が制御される。また、制動装置116においては、ブレーキペダルの操作状態、およびブレーキペダルの操作状態以外の条件に基づいて、各ホイールシリンダの油圧を制御することにより、各車輪のスリップ率を制御することができる。このように、各車輪のスリップ率を制御するシステムを、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)と呼ぶ。
つぎに、油圧回路64について詳細に説明する。この油圧回路64は、ロックアップクラッチ12の係合・解放・スリップの各制御、およびベルト式無段変速機7の各プーリの挟圧力の制御、前後進切り換え機構6の制御、油圧回路64を流れるオイルを、冷却系統を経由させて冷却装置(図示せず)へ送って冷却する制御、油圧回路64内のオイルを、潤滑系統を経由させてケーシング4内の発熱部に送り、その発熱部を冷却および潤滑する潤滑制御、などをおこなう機能を有している。
油圧回路64の一部を、図4に基づいて説明する。この実施例においては、図2に示すオイルポンプ17が、図4に示すように、第1のオイルポンプ70および第2のオイルポンプ71により構成されている。まず、第1のオイルポンプ70は、吸込口72および吐出口73を有している。また、第2のオイルポンプ71は、吸込口74および吐出口75を有している。そして、オイル貯溜部としてのオイルパン76が設けられており、オイルパン76に接続する油路77が2股に分岐して、油路77に対して、吸込口72,77が相互に並列に接続されている。
また、高油圧必要要素(高油圧系統)78が設けられており、高油圧必要要素78と第1のオイルポンプ70の吐出口73とが、油路79,90,91により接続されている。具体的には、油路90と油路91との間には、高圧レギュレータ弁92が配置されている。高圧レギュレータ弁92は、入力ポート93および出力ポート94,95を有している。そして、出力ポート95と高油圧必要要素78とが油路91により接続されている。また、油路90の一端が入力ポート93に接続されている。さらに、第1のオイルポンプ70の吐出口73と、油路90とが油路79により接続されている。さらに、第2のオイルポンプ71と、高圧レギュレータ弁92との間の油路を、選択的に切り替える切替弁96が設けられている。切替弁96は、油路97,98を有している。第2のオイルポンプ71の吐出口75には油路99が接続されており、切替弁96の油路97または油路98と、油路99が選択的に接続される。切替弁96の油路97または油路98と、油路99との選択的な接続を制御する電磁弁120が設けられている。
一方、高油圧必要要素78の他に低油圧必要要素(低油圧系統)121が設けられており、低油圧必要要素121の油圧を制御する低圧レギュレータ弁122が設けられている。低圧レギュレータ弁122は、入力ポート123と出力ポート124とを有している。出力ポート124と低油圧必要要素121とが油路125により接続されている。そして、高圧レギュレータ弁92の出力ポート94と、低圧レギュレータ弁122の入力ポート123とが、油路126により接続されている。さらに、切替弁96の油路98と油路126とが、油路127により接続されている。つまり、油路127は、高圧レギュレータ弁92をバイパスして、低圧レギュレータ弁122に接続されている。上記の電磁弁120に通電される電力、高圧レギュレータ弁92の調圧レベル、低圧レギュレータ弁122の調圧レベルなどが、電子制御装置104により制御される。上記の高油圧必要要素78の対象としては、油圧サーボ機構27の油圧室、油圧サーボ機構30の油圧室がある。また、低油圧必要要素121の対象としては、トルクコンバータ5用の油路、潤滑系統の油路、冷却系統の油路、クラッチCR用の油圧室、ブレーキBR用の油圧室などがある。
そして、電子制御装置104には、各種の信号に基づいて、エンジン1、ロックアップクラッチ15、前後進切り換え機構6、ベルト式無段変速機7、制動装置116などを制御するために、各種のデータが予め記憶されている。例えば、シフトポジションセンサ109の信号に基づいて前後進切り換え機構6が制御される。まず、前記DポジションまたはBポジションが選択された場合は、クラッチCRが係合され、かつ、ブレーキBRが解放されて、インプットシャフト9とプライマリシャフト21とが直結状態になる。この状態においては、エンジン1のトルクが、トルクコンバータ5を経由してインプットシャフト9に伝達されると、インプットシャフト9およびキャリヤ37ならびにプライマリシャフト21が一体回転する。プライマリシャフト21のトルクは、プライマリプーリ23およびベルト31ならびにセカンダリプーリ24を介してセカンダリシャフト22に伝達されるとともに、このトルクはインターミディエイトシャフト39を介して最終減速機8に伝達された後、さらにこのトルクが車輪45に伝達されて、車両Veを前進させるための駆動力が発生する。
一方、Rポジションが選択された場合は、クラッチCRが解放され、かつ、ブレーキBRが係合されて、リングギヤ34が固定される。すると、インプットシャフト9の回転にともなってピニオンギヤ35,36が共に自転しつつ公転し、キャリヤ37がインプットシャフト9の回転方向とは逆の方向に回転する。その結果、プライマリシャフト21およびセカンダリシャフト22ならびにインターミディエイトシャフト39が、DポジションまたはBポジションの場合とは逆方向に回転し、車両Veを後退させるための駆動力が発生する。ところで、NポジションまたはPポジションが選択された場合におけるクラッチCRの係合圧は、DポジジョンまたはBポジションが選択された場合におけるクラッチCRの係合圧よりも低く制御される。このように、NポジションまたはPポジションが選択された場合は、インプットシャフト9とプライマリシャフト21との間で動力の伝達をおこなうことが不可能な状態、いわゆるニュートラル状態となる。
さらに、この実施例においては、Dポジションが選択されている場合においても、インプットシャフト9とプライマリシャフト21との間で動力の伝達をおこなうことが不可能な状態に制御する、いわゆる「ニュートラル制御」をおこなうことができる。このニュートラル制御は、ニュートラル制御をおこなう前提条件が成立した場合に実行される。この前提条件は、例えば、Dポジションが選択されていること、アクセルペダルが踏み込まれていないこと、ブレーキペダルが踏み込まれていること、車速が零であること、の全ての事項が検知された場合に成立する。この前提条件が成立した場合におけるクラッチCRの係合圧は、DポジジョンまたはBポジションが選択され、かつ、前提条件が成立していない場合におけるクラッチCRの係合圧よりも低く制御される。
このように、NポジジョンまたはPポジションが選択された場合、または、「ニュートラル制御」をおこなう場合に、クラッチCRの制御としては、2種類の態様が挙げられる。具体的には、クラッチCRを完全に解放する制御態様と、動力伝達をおこなうことができない程度の係合圧で、クラッチCRを係合させる制御態様とが挙げられる。また、車速およびアクセル開度などの条件から判断される車両Veの加速要求、および電子制御装置104に記憶されているデータなどに基づいて、エンジン1の運転状態が最適状態になるように、ベルト式無段変速機7の変速比が制御される。ベルト式無段変速機7の変速比は、プライマリプーリ23におけるベルト31の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ24におけるベルト31の巻き掛け半径との比に基づいて変化する。
プライマリプーリ23におけるベルト31の巻き掛け半径は、溝幅M1の変更により調整され、セカンダリプーリ24におけるベルト31の巻き掛け半径は、溝幅M2の変更により調整される。溝幅M1とは、プライマリシャフト21の軸線方向における保持面54と保持面55との距離を意味している。溝幅M2とは、セカンダリシャフト22の軸線方向における保持面56と保持面57との距離を意味している。また、電子制御装置104には、アクセル開度および車速をパラメータとするロックアップクラッチ制御マップが記憶されており、このロックアップクラッチ制御マップに基づいてロックアップクラッチ15が係合・解放・スリップの各状態に制御される。
つぎに、高油圧必要要素78および低油圧必要要素121に対するオイルの供給について説明する。まず、オイルパン76のオイルは、第1のオイルポンプ70および第2のオイルポンプ71により汲み上げられる。このうち、第1のオイルポンプ70から吐出されるオイルは、油路79を経由して高圧レギュレータ弁92に至り、高圧レギュレータ弁92により調圧されて高油圧必要要素78に供給される。一方、第2のオイルポンプ71から吐出されるオイルは、切替弁96の制御により、その供給対象が切り替えられる。まず、電磁弁120の制御により、油路99と油路97とが接続された場合は、第2のオイルポンプ71から吐出されたオイルは、油路90および高圧レギュレータ弁92を経由して高油圧必要要素78に供給される。つまり、第2のオイルポンプ71から吐出されたオイルは、直接、低油圧必要要素121には供給されない。高圧レギュレータ弁92の調圧時の余剰オイルが出力ポート94から排出され、そのオイルが油路126経由して低圧レギュレータ弁122に至る。このオイルの油圧は、低圧レギュレータ弁122により調圧されて、低油圧必要要素121に供給される。このように、電磁弁120を制御して、油路99と油路97とを接続する切替弁96の状態を、便宜上、“第1の制御状態”と呼ぶ。
これに対して、電磁弁120を制御して、油路99と油路98とを接続する切替弁96の状態を、便宜上、“第2の制御状態”と呼ぶ。この第2の制御状態が選択された場合は、第2のオイルポンプ71から吐出されたオイルは、油路127を経由して油路126に至る。油路126に送られたオイルは、低圧レギュレータ弁122により調圧されて低油圧必要要素121に供給される。また、高圧レギュレータ弁92の調圧時の余剰油が、低油圧必要要素121に供給される。上記作用において、第1の状態または第2の状態のいずれが選択された場合でも、高油圧必要要素78の油圧の方が、低油圧必要要素121の油圧よりも高く調圧される。したがって、第2のオイルポンプ71の吐出圧は、第1の制御状態が選択された場合の方が、第2の制御状態が選択された場合よりも高くなる。
つぎに、第1の制御状態および第2の制御状態の具体的な選択例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、“油温センサ80の信号から求められる実際の油温が、所定値以上であるか否か”が判断される(ステップS1)。すなわち、オイルは温度変化に応じて、その粘度が変化する特性を有している。具体的には、オイルの温度が高まるほど粘度が低下する。その結果、油圧回路64を形成するバルブボデー、または第1のオイルポンプ17などの部品の隙間からオイルが漏れる量が増加する。その結果、第1のオイルポンプ70から、高油圧必要要素78に実際に供給されるオイルの量の方が、高油圧必要要素78で必要とする目標オイル量よりも少なくなる。そこで、ステップS1で肯定的に判断された場合は、切替弁96の状態として、第1の制御状態を選択し(ステップS2)、この制御ルーチンを終了する。
つぎに、ステップS1で否定的に判断された場合について説明する。ベルト式無段変速機7の変速比は、プライマリプーリ23に対するベルト31の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ24に対するベルト31の巻き掛け半径とにより制御される。特に、油圧サーボ機構27の油圧室の油圧が低いと、変速制御が遅延する可能性がある。そこで、ステップS1で否定的に判断された場合は、“高油圧必要要素78の実際の制御油圧が、目標の設定油圧以下であるか否か”が判断される(ステップS3)。ここで、目標の設定油圧は、セカンダリプーリ24の制御油圧であり、プライマリシャフト21に入力されるトルクや変速比などに応じて設定される。なお、目標の設定油圧は、クラッチCRやブレーキBRの油圧を目標油圧としてもよい。
これに対して、ステップS3で否定的に判断された場合は、“車両Veを急減速させる要求があるか否か”が判断される(ステップS4)。このステップS4を具体的に説明する。このステップS4では、アンチ・ロック・ブレーキ・システムの状態、車両Veの減速度、スロットル開度およびその変化速度、制動装置116の状態、シフトポジションなどの情報が用いられる。すなわち、アンチ・ロック・ブレーキシステムが動作していること、または、車両Veの減速度が所定値以上であること、スロットル開度が所定値以下であり、かつ、スロットル開度の減少速度が所定値以上であること、ブレーキペダルの操作ストロークの増加速度が所定値以上であること、ブレーキペダルが踏み込まれている状態の継続時間が所定時間以上であること、の各情報のうち、少なくとも1つの情報が検知された場合に、ステップS4で肯定的に判断される。
そして、ステップS4で肯定的に判断されるということは、車両Veの状態が、「車速が一旦低下、または車速が「零」となり、その後に、再度加速する可能性のある車両状態にある。」という場合が挙げられる。このような場合は、車両Veが再度加速する前に、ベルト式無段変速機7の変速比を、加速前の変速比よりも大きな変速比に変更する制御を、迅速におこなうとともに、ベルト31の張力を、再加速時の変速比に基づいて伝達されるトルクに応じた張力に変更する制御を、迅速におこなうことが望ましい。そこで、ステップS2に進む。その結果、車両Veが一旦減速、または停止し、かつ、ベルト式無段変速機7の変速比を最大減速比に設定した状態で、車両Veが再加速、または再発進する場合に、ベルト31のトルク容量を迅速に高めることができる。したがって、ベルト式無段変速機7の変速応答性が向上して、車両Veの加速性能または、停止後の再発進性能の低下を抑制でき、ドライバビリティが向上する。
前記ステップS4で否定的に判断された場合は、“ベルト式無段変速機7の変速比を変更するにあたり、実際の変速速度の絶対値と目標の変速速度の絶対値との差が、“零”よりも大きいか否か”が判断される(ステップS5)。ここで、「変速速度」とは、変速比の変化程度、言い換えれば変速比の変化割合を意味している。そして、目標変速速度は、例えば、車速、アクセル開度の変化状態、プライマリシャフト21に伝達されるトルク、などの条件に基づいて求めることができる。
前記ステップS5で肯定的に判断された場合は、「第1のオイルポンプ70から高油圧必要要素78に供給されるオイル量を調整する際に、電磁弁120の制御に用いるしきい値を変更する制御」をおこない(ステップS6)、かつ、ステップS2に進む。つまり、ステップS2の後に、「目標の変速速度を決定するための条件が、ステップS5の判断時点における条件と同じとなった場合に、ステップS6で変更されたしきい値を用いて、電磁弁120を制御することにより、第2のオイルポンプ71から高油圧必要要素78に供給するオイル量を調整する」という学習制御をおこなうことになる。
一方、ステップS5で否定的に判断された場合について述べる。図2の例では、第1のオイルポンプ70は、エンジン1の動力により駆動されるように構成されている。このため、エンジン回転数が低下した場合は、第1のオイルポンプ70の実際の吐出量が、目標吐出量未満になる可能性がある。つまり高油圧必要要素78のオイル量が不足することになる。そこで、ステップS5で否定的に判断された場合は、“実際のエンジン回転数が、所定のエンジン回転数以下であるか否か”が判断される(ステップS7)。このステップS7で肯定的に判断された場合は、ステップS2に進む。
さらに、ステップS7で否定的に判断された場合は、Nポジションが選択されていること、またはニュートラル制御が実行されていることのいずれか一方が検知されているか否かが判断される(ステップS8)。このステップS8で否定的に判断された場合は、ベルト式無段変速機7によりトルク伝達をおこなう必要があるため、ステップS2に進む。これに対して、ステップS8で肯定的に判断された場合は、ベルト式無段変速機7によりトルク伝達をおこなう必要がないため、ステップS9に進み、この制御ルーチンを終了する。
つぎに、前記ステップS4の他の内容を説明する。この他の内容の場合は、図4の油圧回路64において、高油圧必要要素78の対象は、油圧サーボ機構27,30の油圧室に加え、ブレーキBRの油圧室またはクラッチCRの油圧室とする。また、低油圧必要要素121の対象は、トルクコンバータ5の内部油路、潤滑系統、冷却系統とする。そして、ステップS4においては、運転者がシフトレバー14を操作して、ベルト式無段変速機7の変速比を変更する操作(マニュアル変速操作)をおこなったか否か、が判断される。
例えば、NポジションからDポジションに変更されたこと、NポジションからRポジションに変更されたこと、DポジションからBポジションに変更されたこと、BポジションからDポジションに変更されたこと、の各情報のうち、少なくとも1つの情報が検知された場合に、ステップS4で肯定的に判断されて、ステップS2に進む。ステップS4で否定的に判断された場合はステップS5に進む。つまり、シフトポジションがNポジションにある場合は、クラッチCRの係合圧およびブレーキBRの係合圧が、所定値以下に制御されている。そして、NポジションからDポジションに切り換えられた場合は、クラッチCRの係合圧を、Nポジションが選択されている場合よりも高い係合圧に変更する必要がある。また、NポジションからRポジションに切り換えられた場合は、ブレーキBRに対応するピストンがストロークするために、そのストローク分だけオイルの流量を多くする必要がある。
そこで、ステップS2に進み、高油圧必要要素78に供給されるオイル量を多くすることにより、クラッチCRの油圧室、またはブレーキBRの油圧室の油圧を高めることができる。このような制御をおこなうことにより、クラッチCRまたはブレーキBRの係合圧を、シフトポジションに応じた係合圧に変更する制御を迅速におこなうことができる。したがって、シフトポジションの切り換えにともなう出力トルクの発生・解除タイミングを悪化させることなく、燃費を向上させることができる。
つぎに、DポジションからBポジションに変更された場合について説明する。DポジションおよびBポジションは共に駆動ポジションであり、かつ、共に前進ポジションである点で共通しているが、Dポジションで選択される変速マップと、Bポジションで選択される変速マップとが異なる。この変速マップは、車速およびアクセル開度をパラメータとして、ベルト式無段変速機7の変速比を設定するためのマップである。具体的には、車速およびアクセル開度が同じ条件であるとすれば、Dポジション用の変速マップに基づいて設定される変速比よりも、Bポジション用の変速マップに基づいて設定される変速比の方が大きな変速比が選択されやすい点で、2つの変速マップは異なる。
そして、DポジションからBポジションに切り換えられた場合、またはBポジションからDポジションに切り換えられた場合のいずれにおいても、ステップS2に進み、高油圧必要要素78に供給されるオイル量を多くすることにより、変速応答性が向上するという効果を得られる。なお、図1の制御例に示されたステップS2、ステップS9以外のステップを全て実行しない制御ルーチンを採用することもできる。つまり、ステップS1、またはステップS3、またはステップS4、またはステップS5およびステップS6、またはステップS7、またはステップS8のうち、いずれかのステップの少なくとも一つを、選択的に実行する制御ルーチンとすることである。さらに、ステップS1、またはステップS3、またはステップS4、またはステップS5およびステップS6、またはステップS7、またはステップS8のうち、少なくとも2つのステップを実行する場合、その実行順序は問わない。
つぎに、図2に示す油圧回路64の他の構成例を、図5に基づいて説明する。図5に示す切替弁96は、油路97,98の他に油路130,131を有している。この油路130には、油路135を介してマニュアルバルブ132が接続され、油路131には、油路136を介してオイルパン76が接続されている。また、ブレーキBRに対応する油圧室139が設けられており、油圧室139に接続する油路138が設けられている。したがって、図5の例においては、低油圧必要要素121は、トルクコンバータ5用の油路、潤滑系統、冷却系統などとなる。そして、切替弁96の切り替え動作により、油路138と、油路130または油路131とが選択的に接続されるように構成されている。なお、図5の構成において、図4の構成と同じものについては、図4と同じ符号を付してその説明を省略する。
図5の油圧回路64においても、図1の制御例を実行できる。つぎに、図5で実行することのできる他の制御例を図6に基づいて説明する。まず、「Rポジションが選択されたか否か」が判断される(ステップS51)。ステップS51で否定的に判断された場合は、この制御ルーチンを終了する。ステップS51で肯定的に判断された場合は、“実際の車速Vが所定車速Vrを越えているか否か”が判断される(ステップS52)。このステップS52で否定的に判断された場合は、ベルト式無段変速機7からRポジションに応じて所定値以上のトルクが出力されるように、ブレーキBRの油圧室139に供給されるオイル量が多くなり(ステップS54)、この制御ルーチンを終了する。つまり、切替弁96が第1の状態に制御されて、油路11と油路13とが接続されるとともに、油路130と油路138とが接続されて、マニュアルバルブ132から出力されるオイルが、油路135、油路130、油路138を経由して油圧室139に供給される。
これに対して、ステップS52で肯定的に判断された場合は、ベルト式無段変速機7の出力トルクが所定値以上になることを防止するために、ブレーキBRに対応する油圧室139に供給するオイル量を少量に制御し(ステップS52)、この制御ルーチンを終了する。つまり、切替弁96が第2の状態に制御されて、油路11と油路13とが接続されるとともに、油路131と油路138とが接続されて、油圧室139のオイルが油路131、油路136を経由してオイルパン76に排出される。このように、図6の制御例によれば、車両Veの走行中にRポジションが選択された場合には、ブレーキBRの係合圧が所定値以上に高められることが回避される。その結果、インプットシャフト9とプライマリシャフト21との間でトルク伝達をおこなうことができない状態、つまり、ニュートラル状態となる。
図4および図5において、電磁弁120は、リニアソレノイドバルブ、またはオン・オフ式のソレノイドバルブのいずれでもよい。オン・オフ式のソレノイドバルブは、2方弁または3方弁のいずれでもよい。また、切替弁96の動作を、電磁弁120以外の構成により、切り替えるように構成してもよい。例えば、油圧回路内の適当な条件により、変化する油圧に基づいて、電磁弁の動作を切り替えられるように構成することができる。
また、前記エンジン1としては、ガソリンエンジン以外の内燃機関、例えば、LPGエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、水素エンジンなどを用いることができる。また、図2のエンジン1に加えて、他の駆動力源、例えば、電動機を有する車両に対しても、図1、図5の制御例を用いることができる。さらに、エンジン1に代えて、電動機を駆動力源として搭載した車両に対しても、図1、図5の制御例を用いることができる。すなわち、第1のオイルポンプ70および第2のオイルポンプ71は、エンジンまたは電動機のいずれで駆動してもよい。なお、第1のオイルポンプ70および第2のオイルポンプ71を電動機のトルクにより駆動する場合は、図1のステップS7の説明で述べた“エンジン回転数”を、“電動機の回転数”と読み替える。さらに、各オイルポンプを、駆動力源以外の回転装置(例えば、電動機)のトルクにより駆動する構成を採用することもできる。
さらにまた、オイルポンプは2個以上(複数)であればよく、オイルポンプを3個にしてもよい。この場合、第1のオイルポンプの数と、第2のオイルポンプの数との対応関係は、任意に設定できる。また、複数のオイルポンプ(第2のオイルポンプ)の吐出圧を、1個の切替弁で制御してもよい。また、電磁弁を複数用い、かつ、切替弁を複数用いてもよい。さらに、第2の吐出弁の吐出圧を、図1、図5の制御例のように、高低2種類に切り替えるのではなく、3種類以上の異なる吐出圧に切り替える構成でもよい。
さらに、変速機としては、無段変速機または有段変速機のいずれを用いてもよい。この無段変速機は、前記のベルト式無段変速機に代えて、トロイダル式無段変速機を用いてもよい。有段変速機としては、例えば遊星歯車機構を有するものが挙げられる。その場合、高油圧必要要素は、変速制御用のクラッチまたはブレーキの油圧室、トルクコンバータの油路とし、低油圧必要要素は、潤滑系統の油路、冷却系統の油路とする。なお、この実施例は、第1のオイル必要部における必要油圧と、第2のオイル必要部における必要油圧とが、同じであるシステム、または一方が高いシステムのいずれに対しても適用可能である。
以上のように、この実施例によれば、高油圧必要要素に供給する目標オイル量を、第1のオイルポンプの吐出オイルで達成することが困難と判断された場合は、目標オイル量が、第1のオイルポンプと、第2のオイルポンプとにより分担される。したがって、高油圧必要要素におけるオイルの必要量が多い場合に、そのオイル量を確保できる。これに対して、高油圧必要要素におけるオイルの必要流量が少ない場合において、第1のオイルポンプを駆動させるために必要なトルクの増加が抑制され、第1のオイルポンプを駆動するエネルギの消費の増加を抑制できる。すなわち、エンジンのトルクにより第1のオイルポンプを駆動する構成であれば、燃費を向上できる。また、電動機のトルクにより第1のオイルポンプを駆動する構成であれば、電力を節約できる。
また、第2のオイルポンプから、高油圧必要要素にオイルを供給しない場合のオイル吐出圧は、第2のオイルポンプから、高油圧必要要素にオイルを供給する場合のオイル吐出圧よりも低圧となる。したがって、第2のオイルポンプを駆動するために必要なトルクの増加が抑制される。すなわち、エンジンのトルクにより第2のオイルポンプを駆動する構成であれば、燃費を向上できる。これに対して、電動機のトルクにより第2のオイルポンプを駆動する構成であれば、電力を節約できる。
ここで、図1に示された機能的手段とこの発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1、ステップS3、ステップS4、ステップS5、ステップS7、ステップS8が、この発明のオイル必要量判断手段に相当し、ステップS2、ステップS9が、この発明のオイル供給状態制御手段に相当する。また、図2、図3、図4、図5に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、高油圧必要要素78が、この発明の第1のオイル必要部に相当し、低油圧必要要素121が、この発明の第2のオイル必要部に相当し、電子制御装置104が、この発明のオイル必要量判断器に相当し、電子制御装置104、電磁弁120、切替弁96が、この発明のオイル供給状態制御器に相当し、エンジン、電動機が、この発明の駆動力源に相当し、ベルト式無段変速機7、トロイダル式無段変速機、無段変速機、有段変速機が、この発明の変速機に相当し、プライマリシャフト21が、この発明の入力部材に相当し、セカンダリシャフト22が、この発明の出力部材に相当する。さらに、第1のオイルポンプ70が、この発明の高圧用オイルポンプに相当し、高油圧必要要素78が、この発明の高油圧必要部に相当し、第2のオイルポンプ72が、この発明の低圧用オイルポンプに相当し、低油圧必要要素121が、この発明の低油圧必要部に相当し、油路9がこの発明の“低圧用オイルポンプから吐出されるオイルの油路”に相当する。
上記の具体例に基づいて開示されたこの発明の特徴的な構成を記載すれば、以下のとおりである。すなわち、第1のオイルポンプから吐出されるオイルを第1のオイル必要部に供給するとともに、第2のオイルポンプから吐出されるオイルを第2のオイル必要部に供給する油圧制御装置において、前記第1のオイル必要部におけるオイル必要量を判断するオイル必要量判断手段と、前記第2のオイルポンプから前記第1のオイル必要部にオイルを供給可能とし、かつ、前記第2のオイルポンプから前記第1のオイルポンプに供給されるオイル量を、前記オイル必要量の判断結果に基づいて判断するオイル供給状態制御手段とを備えていることを特徴とする油圧制御装置である。
1…エンジン、 7…ベルト式無段変速機、 21…プライマリシャフト、 22…セカンダリシャフト、 45…車輪、 70…第1のオイルポンプ、 71…第2のオイルポンプ、 78…高油圧必要要素、 96…切替弁、 104…電子制御装置、 121…低油圧必要要素。