JP2006037260A - 繊維の表面処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いと共に吸湿性を付与する繊維の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 ケイ素原子に直結する水酸基を2個有するシリル化ペプチドの1種以上と、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物の1種以上とを水溶液中で縮重合させて得られるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を繊維の表面に結合させる。シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物としては、反応モル比がシリル化ペプチド:シラン化合物=1:10〜1:100の範囲で水溶液中で縮重合させることにより得られ、固形分濃度が70%の時の20℃における粘度が500〜20,000mPa・sの範囲内にあるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が好ましい。
【選択図】 なし


Description

本発明は、繊維の表面処理方法に関し、さらに詳しくは、繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いと共に吸水性も付与する繊維の表面処理方法に関する。
従来より、繊維をシリコーン類や蛋白溶液で繊維を処理することは行われている。特に、シリコーン類は繊維処理剤として多用されているが、それは、シリコーン類が有する優れた撥水作用、なめらかさ、帯電防止作用を繊維に付加させることを目的としている。しかしながら、シリコーン類は疎水性のため、親水性の繊維とは結合しにくい上、シリコーン類で処理した繊維も洗浄によってシリコーン類が容易に脱離するという問題があった。そのため、繊維のタンパク質成分とのイオン結合による吸着力を高めるため、アミノ基を含有したアミノ変性シリコーンが繊維処理剤として使用されることが多くなってきているが(例えば、特許文献2)、セルロース系を主とする繊維には吸着しにくいという問題があった。
また、植物性繊維をコラーゲン、ケラチン、フィブロインなどの蛋白溶液またはその蛋白誘導体溶液で処理して、植物性繊維に動物性繊維の感触を付与する試みもあるが(例えば、特許文献3)、動物性蛋白を繊維糸の植物性蛋白に吸着させたものであるため、蛋白−蛋白の吸着は弱く、感触の向上も充分でない上に、洗濯によって付与された性質は容易に消失してしまうという問題があった。
そのため、本発明者らは、アミノ酸側鎖のアミノ基を含むペプチドのアミノ基にケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドでセルロース系繊維の表面を処理することで、シリル化ペプチドの水酸基とセルロース系繊維の水酸基を脱水縮合させることによって、動物性タンパクの感触をセルロース系繊維の表面に付与する方法を提案した(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、セロース系繊維に耐洗濯性に優れた、ウール様やシルク様の感触を付与することはできるものの、シリル化ペプチドに付加するシリル基が小さいため、なめらかさの付与という面ではシリコーン類で処理した繊維にやや劣るという問題があった。
特開平9−158047号公報 特開2003−2278号公報 特開昭62−62989号公報
従って、本発明は、上記の課題を解決し、繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いと共に吸水性も付与することができる繊維の表面処理方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ケイ素原子に直結する水酸基を2個有するシリル化ペプチドの1種以上と、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物の1種以上とを水溶液中で縮重合させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物で繊維を処理すると、繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いと共に吸水性も付与することができ、特にセルロース系の繊維に対してはこれらの効果が強く発揮されることを見出し、本発明を完成するにいたった。
すなわち、本発明によれば、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物に結合した水酸基と繊維を構成するセルロース糖鎖や蛋白質上の水酸基とが結合反応することによって、シリル基を介してシリコーン鎖やペプチド部分が繊維表面に結合し、シリコーン鎖が繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いを付与すると共に、ペプチド部分の有する造膜作用によって繊維に光沢、滑らかさ、吸水性を付与することができる。しかも、このシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物と繊維の結合は、ケイ素原子と酸素原子の共有結合によるものであるので、洗濯などの洗浄作用では脱離しにくく、従って、付与された性質は容易に消失しない。
上記のように、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物に結合した水酸基による繊維との結合は、繊維上の水酸基との脱水縮合のため、本発明の繊維の表面処理は、特にセルロース系の植物性繊維に対しては、セルロース糖鎖上の水酸基が多いためシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物がより多くかつ強く結合するので、より効果的である。
上記ケイ素原子に直結する水酸基を2個有するシリル化ペプチドの1種以上と、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物の1種以上とを水溶液中で縮重合させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物としては、例えば、下記の一般式(I)
Figure 2006037260
〔式中、R は水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはR以外のアミノ酸側鎖を示し、Aは結合手で−CH−、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−、−(CHS−、−(CHNH−および−(CHOCOCHCH−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、xは0〜50、yは1〜100、x+yは1〜100である(ただし、xおよびyはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表されるシリル化ペプチドの一種以上と下記の一般式(II)
mSi(OH)pY(4−p−m) (II)
〔式中、mは0から2の整数で、pは2から4の整数、m+p≦4で、Rは炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、m個のRは同じでもよく、異なっていてもよい。(4−p−m)個のYはアルコキシ基または水素原子である〕
で表されるシラン化合物の一種以上とを、反応モル比がシリル化ペプチド:シラン化合物=1:10〜1:100の範囲で水溶液中で縮重合させることにより得られ、固形分濃度が70%の時の20℃における粘度が500〜20,000mPa・sの範囲内にあるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が代表的なものとして挙げられる。なお、上記一般式(I)におけるx、y、一般式(II)におけるm、(4−p−m)は下付け文字である。
本発明の繊維の表面処理方法では、繊維の表面に耐久性の高い撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いと共に吸水性も付与することができ、特にセルロース系の植物性繊維に対しては、より効果的である。
本発明の繊維の表面処理方法に使用するシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物は、例えば、特開2001−48732号公報、特開2001−48775号公報などに開示の方法で合成できる。すなわち、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の一方の成分である上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドは、特開平8−59424号公報および特開平8−67608号公報に開示の方法で水溶液中で容易に合成できる。
上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドにおいて、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であるが、上記のような側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒドロキシリシンなどが挙げられる。また、RはR以外のアミノ酸側鎖を示すが、そのようなアミノ酸としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリンなどが挙げられる。
上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドにおいて、xは0〜50、好ましくは0より大きく20以下であり、yは1〜100、好ましくは1〜50、x+yは1〜100、好ましくは2〜50である。すなわち、xが上記範囲より大きくなると、側鎖のアミノ基に結合するシリル官能基が増え、ペプチド部分の有する造膜作用、吸水性の発現が減少し、yが上記範囲より大きくなるとペプチド部分に対するシリル官能基部分の割合が少なくなり、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物にしたときにシリル官能基が有する特性を発揮できなくなる恐れがある。また、x+yが上記の範囲より大きくなると、ペプチド部分が作用が強くなって、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物で処理した繊維がゴワゴワした感触を与えるようになる恐れがある。上記のx、yやx+yは、理論的には整数であるが、ペプチド部分が加水分解ペプチドである場合は、該加水分解ペプチドが分子量の異なるものの混合物として得られるため、測定値は平均値になる。
上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドのペプチド部分としては、天然ペプチド、合成ペプチド、タンパク質(蛋白質)を酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用で部分加水分解して得られる加水分解ペプチドなどが挙げられるが、タンパクの入手の容易さやペプチド部分の数平均分子量のコントロールしやすさから、加水分解ペプチドを用いるのが好ましい。
加水分解ペプチドとしては、例えば、前記のようなコラ−ゲン(その変性物であるゼラチンも含む)、ケラチン、絹フィブロイン(シルク)、セリシン、カゼイン、コンキオリン、エラスチン、鶏、あひるなどの卵の卵黄タンパク、卵白タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、トウモロコシタンパク、米(米糠)タンパク、ジャガイモタンパクなどの動植物由来のタンパク、あるいは、サッカロミセス属、カンディダ属、エンドミコプシス属の酵母菌や、いわゆるビール酵母、清酒酵母といわれる酵母菌より分離した酵母タンパク、キノコ類(担子菌)より抽出したタンパク、クロレラより分離したタンパクなどの微生物由来のタンパクを酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用で部分的に加水分解して得られるペプチドが挙げられる。
本発明の繊維の表面処理に用いるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を構成するもう一方の成分であるシラン化合物は、上記一般式(II)に示すものであるが、この化合物は、下記一般式(III)
nSiX(4−n) (III)
〔式中、nは0から2の整数で、Rは炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、n個のRは同じでもよく、異なっていてもよい。(4−n)個のXは水酸基、アルコキシ基およびハロゲン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表されるシラン化合物を水溶液中で加水分解することにより得られる なお、上記一般式(III)において、n、(4−n)は下付け文字である。
一般式(III)で表されるシラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジメチルオクタデシル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、3−(トリメトキシシリル)プロピルポリオキシエチレン(10)エーテル、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジクロロシランなどが挙げられる。
上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドと一般式(II)で表されるシリル化合物との反応は、例えば、まず、上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドの水溶液を塩酸や硫酸で酸性側に調整するか、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液で塩基性側に調整し、その中に一般式(IV)で表されるシラン化合物を滴下することにより、上記一般式(IV)で表されるシラン化合物のアルコキシ基やハロゲン基などが加水分解してケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有する一般式(II)で表されるシラン化合物になり、その後、中和することによって、一般式(I)で表される親水基を有する有機シラン化合物の水酸基と一般式(II)で表されるシラン化合物の水酸基との縮重合が進み、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が得られる。
加水分解反応は、一般的にはpH1〜3で良好に進行するが、一般式(I)で表されるシリル化ペプチドによっては酸性側で不溶物が生じやすいものがあり、その際にはpH10〜11で行うのが好ましい。一般式(III)で表されるシラン化合物としてアルコキシシラン化合物を用いるときはpH調整はアルコキシシラン化合物の滴下前のみでよいが、一般式(III)で表されるシラン化合物としてハロゲン化シラン化合物やカルボキシシラン化合物を用いて塩基性側で反応する場合は反応中にpHが下がるので、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などを添加してpHを10〜11に保つ必要がある。また、一般式(III)で表されるシラン化合物としてアミノシラン化合物を用いて酸性側で反応する場合は反応中にpHが上がるので、希塩酸や希硫酸などを添加してpHを1〜3に保つ必要がある。
反応温度は低すぎると反応が進行しにくく、高すぎると上記一般式(III)で表されるシラン化合物のアルコキシ基やハロゲン基が急激に加水分解するので、30〜60℃が好ましい。また、反応時間は、反応量によっても異なるが、上記一般式(IV)で表されるシラン化合物を3〜6時間かけて滴下し、その後の攪拌に5〜20時間攪拌を続けるのが好ましい。
加水分解反応の終了時点では、反応溶液が酸性または塩基性のため、反応溶液が酸性側の場合は水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加し、反応溶液が塩基性側の場合は希塩酸や希硫酸などの酸水溶液を添加し攪拌して溶液を中和する。この中和によって縮重合がさらに進みシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が得られるが、中和後の攪拌は1〜10時間程度が好ましい。
シリル化ペプチドとシラン化合物の反応は、上記一般式(I)で表されるシリル化ペプチドの1種以上と上記一般式(II)で表されるシラン化合物の1種以上を、反応モル比が1:10〜1:100の範囲、好ましくは1:10〜1:85の範囲で縮重合させる。これは、一般式(I)で表されるシリル化ペプチドと一般式(II)で表されるシラン化合物の反応モル比が上記範囲以下では、繊維の表面に充分な滑らかさや撥水性を付与することができず、また、一般式(I)で表されるシリル化ペプチドと一般式(II)で表されるシラン化合物の反応モル比が上記範囲以上では、得られるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が高粘度となって取り扱いが難しくなるからである。
シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の構造は、三次元的結合も生じるため一般式で表すのは難しいが、模式的に表すと下式(IV)
Figure 2006037260
〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基で、Aは結合手で−CH−、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−、−(CHS−、−(CHNH−および−(CHOCOCHCH−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、Rは水酸基または炭素原子が珪素原子に直結する有機基であり、組成物中のaの合計モル数とbの合計モル数の比は1:10〜1:100である(ただし、aおよびbは配列の順序を示すものではない)〕
のように、シリコーン鎖に加水分解ペプチド鎖が櫛状に結合しているような構造を有しているものと考えられるが、RやRの水酸基が他の共重合体鎖の水酸基と脱水縮合して三次元的結合を生じる可能性もある。
繊維の表面処理は、上記のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の水溶液あるいは水分散液に繊維を浸漬し、その後、加熱乾燥することによって行われるが、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物は水に難溶性のため、界面活性剤を併用するのが好ましい。界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン界面活性剤のいずれも用いることができる。界面活性剤の濃度は、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を水に溶解あるいは水に均一に分散させる量で充分であり、界面活性剤の種類によっても異なるが、概ね1〜50質量%程度である。
繊維の表面処理に際して、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物は0.5〜20質量%程度の水溶液あるいは水分散液にするのが好ましく、繊維に対する浴比は、1:10〜1:200程度が好ましい。すなわち、繊維の処理液中のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の濃度が上記範囲より高くなったり、繊維に対する浴比が上記範囲より大きくなると、繊維に結合するシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が多くなりすぎて処理後の繊維にごわつき感が生じ、一方、繊維の処理液中のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の濃度が上記範囲より低くなったり、繊維に対する浴比が上記範囲より小さくなると、繊維に撥水性、なめらかさ、ソフトな風合いや吸水性を付与することができなくなる恐れがある。
処理液への繊維の浸漬時間は、繊維の種類や浴比、処理液の濃度や温度によって異なるが、10分〜30時間程度であり、処理液の温度は30〜60℃にするのが反応の進行が速くなるため好ましい。浸漬後、繊維を60〜100℃で加熱乾燥して反応を完結させ、水洗して未反応のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を除去し、再度乾燥することによって、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が結合した繊維が得られる。
処理できる繊維としては、例えば、綿、麻などの植物性繊維、シルク、羊毛、カシミアなどの動物性繊維などが挙げられるが、上記のように、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の繊維への結合は水酸基の脱水縮合によるもののため、セルロース系繊維が好ましい。また、処理する際の繊維の形態としては、例えば、糸、織物、不識布などのいずれであってもよい。
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例に先立ち、実施例で使用するシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の製造例を示す。また、以下の実施例などにおいて溶液の濃度を示す%は質量%を表す。
製造例1
N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解シルク−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物〔1:10:10(モル比)〕の製造
内径12cm、容量2リットルの丸底円筒形ガラス製反応容器に、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解シルク(加水分解シルクの分子量は数平均分子量で約600)の10%水溶液429.2gと18%塩酸16.8gを加えてpHを1.5にし、60℃に加温した。つぎに400rpmで攪拌しながら、ジメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製KBE−22)74.2gとオクチルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製A−137)138.3gの混液を5時間半かけて滴下した。滴下終了後、60℃で更に15時間攪拌を続けた。つぎに、攪拌しながら5%水酸化ナトリウム水溶液56.9gを徐々に滴下してpHを6に調整し、さらに、60℃で1時間攪拌した。反応液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮して固形分濃度を70%に調整し、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解シルク−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物を221g得た。
このようにして得られたN−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解シルク−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物の70%水溶液の20℃での粘度を、B型粘度計、ロータ3、回転数6回転で測定したところ、粘度は15,153mPa・sであった。
製造例2
N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解コラーゲン−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物〔1:25:25(モル比)〕の製造
内径12cm、容量2リットルの丸底円筒形ガラス製反応容器に、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解コラーゲン(加水分解コラーゲンの分子量は数平均分子量で約500)の10%水溶液150gと18%塩酸7.6gを加えてpHを1.5にし、60℃に加温した。つぎに400rpmで攪拌しながら、ジメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製KBE−22)79.7gとオクチルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製A−137)148.6gの混液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で更に15時間攪拌を続けた。つぎに、攪拌しながら5%水酸化ナトリウム水溶液22.9gを徐々に滴下してpHを6に調整し、さらに60℃で1時間攪拌した。この反応液を60℃、400rpmで攪拌しながらトリメチルクロロシラン(信越シリコーン社製KA−31)9.3gを加えた後、60℃で1時間攪拌した。次いで5%水酸化ナトリウム水溶液68.5gを滴下し、pHを6に調整した後、60℃で1時間攪拌し、さらに反応液の温度を80℃に上げ1時間攪拌した。その後、反応液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮して固形分濃度を70%に調整し、N−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解コラーゲン−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物を211.9g得た。
このようにして得られたN−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解コラーゲン−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物の70%水溶液の20℃での粘度を、製造例1と同じ条件で測定したところ、粘度は5116mPa・sであった。
実施例1では、製造例1で製造したN−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解シルク−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物(以下、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物と記す)を、5%のポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液に1%の濃度になるように均一に分散させた溶液600gを調製し40℃に保った。この中に15cm平方の木綿晒布(6.8g)を20時間浸漬し、水分を軽く除去した後、100℃の熱風乾燥機中で2時間乾燥した。乾燥後、木綿布を流水中で1分間洗浄し、その後80℃の恒温槽で30分間乾燥した。この流水洗浄−乾燥の操作を10回繰り返し、それぞれ1回目、3回目、5回目および10回目の洗浄−乾燥が終わった段階で処理布の一部を切り取り、含有するケイ素量を測定した。
また、上記実施例1に対する比較例1としては、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物に代えて、粘度が約10,000のメチルポリシロキサン〔信越化学工業(株)製のSH200−10000cs(商品名)〕の1%分散液を用いたほかは、実施例1と同様に木綿布を処理し、洗浄−乾燥後の木綿布のケイ素量を測定した。
それらの結果を表1に示すが、ケイ素量の測定は、試料を20%NaOH溶液で分解した後、希釈し、セイコー電子(株)製のICP発光分析装置SPS−1700HVR(商品名)による分析で行った。なお、分析に用いた試薬類はすべて精密分析用試薬であり、ケイ素量は処理した木綿布量に対する質量%である。
Figure 2006037260
表1に示すように、実施例1のシリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物で処理した木綿布は、洗浄3回目以降はケイ素量の減少はほとんど見られなかった。ケイ素は水道水中に含まれているため、木綿布を水道水で洗浄することによって未処理の木綿布中にすでに検出されているが、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物で処理した木綿布は3回洗浄した場合でも未処理の木綿布の約30倍量のケイ素量が検出され、そのケイ素量はその後の洗浄でもほとんど減少しなかった。これに対し、比較例1のメチルポリシロキサンで処理した木綿布は、洗浄回数が増えるに従ってケイ素量が減少し、洗浄10回では木綿布に吸着したメチルポリシロキサンはほとんど洗い流されていた。
次に、10回洗浄後の実施例1および比較例1の木綿布並びに未処理の木綿布のなめらかさを10人のパネラーに比較評価させた。評価値は、最もなめらかと感じるものを2点とし、次になめらかなものを1点、なめらかさが最も少ないものを0点とした。その結果を表2に10人の評価値の平均値で示す。
Figure 2006037260
表2に示すように、パネラー全員が実施例1の木綿布が最もなめらかと評価していて、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物で処理することによって、木綿布になめらかさを付与できることが明らかであった。これに対して、メチルポリシロキサンで処理した比較例1の評価値は未処理布の評価値と大差はなく、メチルポリシロキサンは洗浄ではほとんど洗い流されて、木綿布への吸着性は低いと考えられた。
以上の結果から、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物が木綿布によく結合し、それが洗浄によっては容易には脱離せず、木綿布になめらかさを付与するのが明らかであった。
実施例2では、製造例2で製造したN−〔2−ヒドロキシ−3−(3’−メチルジヒドロキシシリル)プロポキシ〕プロピル加水分解コラーゲン−ジメチルジエトキシシラン−オクチルトリエトキシシラン共重合組成物(以下、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物と記す)を、5%のポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液に1%の濃度になるように均一に分散させた溶液600gを調製し40℃に保ち、この中に、実施例1と同様に15cm平方の木綿晒布を20時間浸漬し、水分を軽く除去した後、100℃の熱風乾燥機中で2時間乾燥した。乾燥後、木綿布を流水中で1分間洗浄し、その後80℃の恒温槽で30分間乾燥した。この流水洗浄−乾燥の操作を10回繰り返し、それぞれ1回目、3回目、5回目および10回目の洗浄−乾燥が終わった段階で処理布の一部を切り取り、含有するケイ素量を実施例1と同様にICP発光分析装置で測定した。
また、実施例2に対する比較例2として、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物に代えて、粘度が約6,000のメチルポリシロキサン〔信越化学工業(株)製のSH200−6000cs(商品名)〕の1%分散液を用いたほかは、実施例2と同様に木綿布を処理し、洗浄−乾燥後のケイ素量を測定した。それらの結果を表3に示す。
Figure 2006037260
表3に示す結果から明らかなように、実施例2のシリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物で処理した木綿布は、洗浄3回目以降はケイ素量の減少がほとんどみられなかった。これに対し、比較例2のシリコーンで処理した木綿布は、洗浄回数が増えるに従ってケイ素量が減少していた。これらの結果から、シリル化加水分解ケラチンペプチドが木綿布に結合し、それが洗浄によっては容易には脱離しないことが明らかであった。
次に、10回洗浄後の実施例2と比較例2の木綿布のなめらかさを10人のパネラーに比較評価させた。その結果を表4に、実施例2の木綿布がなめらかと答えた人数、比較例2の木綿布がなめらかと答えた人数、どちらとも言えないと答えた人数で示す。
Figure 2006037260
表4に示すように、パネラー全員が実施例2の木綿布がなめらかと答えていて、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物で処理することによって、木綿布になめらかさを付与できることが明らかであった。
実施例3では、製造例1で製造したシリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物を、20%の塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液に1%の濃度になるように均一に分散させた溶液600gを調製し40℃に保ち、この中に15cm平方の染色堅牢度試験用ウール布(JIS L0803、3.1g)を20時間浸漬し、水分を軽く除去した後、80℃の熱風乾燥機中で2時間乾燥した。乾燥後、ウール布を流水中で1分間洗浄し、その後60℃の恒温槽で30分間乾燥した。この流水洗浄−乾燥の操作を10回繰り返し、それぞれ1回目、3回目、5回目および10回目の洗浄−乾燥が終わった段階で処理布の一部を切り取り、含有するケイ素量を実施例1と同様にICP発光分析装置で測定した。
また、実施例3に対する比較例3として、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物に代えて、粘度が約10,000のメチルポリシロキサン〔信越化学工業(株)製のSH200−10000cs(商品名)〕の1%分散液を用いたほかは、実施例3と同様にウール布を処理し、洗浄−乾燥後のケイ素量を測定した。それらの結果を表5に示す。
Figure 2006037260
表5に示すように、実施例3のシリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物で処理したウール布は、洗浄3回目以降はケイ素量の減少はほとんど見られなかった。シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物で処理したウール布は5回洗浄した場合でもメチルポリシロキサンで処理した比較例3のウール布の約14倍量のケイ素量が検出され、そのケイ素量はその後の洗浄でもほとんど減少しなかった。これに対し、比較例3のメチルポリシロキサンで処理したウール布では、洗浄回数が増えるに従ってケイ素量が減少し、洗浄10回ではウール布に吸着したメチルポリシロキサンはほとんど洗い流されていた。
次に、10回洗浄後の実施例3および比較例3のウール布並びに未処理のウール布のなめらか感を10人のパネラーに実施例1と同様の評価方法でさせた。その結果を表6に10人の評価値の平均値で示す。
Figure 2006037260
表6に示すように、パネラーの大多数が実施例3のウール布が最もなめらかと評価していて、シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物で処理することによって、ウール布になめらかさを付与でき、そのなめらかさの付与効果はメチルポリシロキサン処理に比べて非常に大きいことが明らかであった。

Claims (3)

  1. ケイ素原子に直結する水酸基を2個有するシリル化ペプチドの1種以上と、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物の1種以上とを水溶液中で縮重合させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物で繊維を処理することを特徴とする繊維の表面処理方法。
  2. シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が、下記一般式(I)
    Figure 2006037260
    〔式中、Rは水酸基または炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、RはR以外のアミノ酸側鎖を示し、Aは結合手で−CH−、−(CH−、−(CHOCHCH(OH)CH−、−(CHS−、−(CHNH−および−(CHOCOCHCH−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、xは0〜50、yは1〜100、x+yは1〜100である(ただし、xおよびyはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
    で表されるシリル化ペプチドの一種以上と下記一般式(II)
    mSi(OH)pY(4−p−m) (II)
    〔式中、mは0から2の整数で、pは2から4の整数、m+p≦4で、Rは炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、m個のRは同じでもよく、異なっていてもよい。(4−p−m)個のYはアルコキシ基または水素原子である〕
    で表されるシラン化合物の一種以上とを、反応モル比がシリル化ペプチド:シラン化合物=1:10〜1:100の範囲で水溶液中で縮重合させることにより得られ、固形分濃度が70%の時の20℃における粘度が500〜20,000mPa・sの範囲内にあるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物である、請求項1記載の繊維の表面処理方法。
  3. 繊維が、セルロース系繊維である請求項1または2に記載の繊維の表面処理方法。
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