本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの情報記録装置における記録媒体となる磁気ディスクに使用される磁気ディスク用基板の製造において使用する研磨ブラシ、磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置に関し、特に磁気ディスク用基板等の内周端面を好適に研磨できる研磨ブラシ、磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置に関する。また、本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの情報記録装置における記録媒体となる磁気ディスクの製造方法に関する。
近年、情報化社会の高度化に伴って種々の情報処理装置が提案されており、また、これら情報処理装置において使用される情報記録装置としてハードディスクドライブ(HDD)が提案されている。そして、このハードディスクドライブにおいては、情報処理装置の小型化、高性能化のために、情報記録容量の大量化、記録密度の高密度化が求められている。
ハードディスクドライブにおいて、情報記録密度を高密度化するためには、いわゆるスペーシングロスを低減させる必要があり、記録媒体となる磁気ディスクに対して記録再生を行なう磁気ヘッドの浮上量(グライド・ハイト)を少なくする必要がある。
そして、記録再生時には、磁気ディスクが高速回転するため、磁気ヘッドの浮上量を少なくすると、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面に接触し、破壊(クラッシュ)されてしまう虞れが大きくなる。このような磁気ヘッドの破壊を防止するためには、磁気ディスク表面を、極めて平滑な面として仕上げておく必要がある。
このような磁気ディスク表面の平滑性を実現するため、ディスク基板としては、従来広く用いられていたアルミニウム基板に代えて、「2.5インチディスク」に代表されるように、ガラス基板が用いられるようになっている。ガラス基板は、アルミニウム基板に比較して、表面の平坦性及び基板強度において優れているからである。このようなガラス基板としては、化学強化により強度を向上させたガラス基板や、結晶化によって基板強度を向上させた結晶化ガラス基板などが挙げられる。
ところで、ディスク基板の表面の平滑性が確保されても、さらに、ディスク基板の表面を異物の無い高清浄化された面としておく必要がある。ディスク基板の表面に異物が付着していると、ガラス基板表面上に形成される磁性薄膜の膜欠陥の原因となったり、磁性薄膜表面に凸部が生ずる原因となって、磁気ヘッドの適正な浮上量が得られなくなるという問題が招来されるからである。
また、磁気ヘッドとしては、記録再生時の信号強度を向上させるために、従来広く用いられていた薄膜ヘッドに代わって、磁気抵抗効果型素子(MR素子)を用いた磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)が広く用いられるようになってきている。
このような磁気抵抗効果型素子を用いた磁気抵抗型ヘッドにおいては、磁気ディスクの表面に微小な凹凸があると、サーマルアスペリティ(Thermal Asperity)障害を生じ、再生に誤動作を生じたり、再生が不可能になる虞れがある。このサーマルアスペリティ障害の原因は、ガラス基板上の異物によって磁気ディスクの表面に形成された凸部が磁気ディスクの高速回転により磁気抵抗型ヘッドの近傍の空気の断熱圧縮及び断熱膨張を発生させ、磁気抵抗型ヘッドが発熱して磁気抵抗効果型素子の抵抗値が変動し、電磁変換が悪影響を受けることにある。すなわち、このようなサーマルアスペリティ障害は、磁気ヘッドが磁気ディスクに接触しない場合においても発生し得る。
このようなサーマルアスペリティ障害を防止するためにも、磁気ディスクの表面は、極めて平滑で、かつ、異物の無い高清浄化された面に仕上げておく必要がある。
ところで、ガラス基板表面に異物が付着する原因としては、ガラス基板の表面形状のみならず、ディスク基板の端面の表面形状との関係が考えられている。すなわち、ディスク基板の端面の表面形状が平滑でないと、この端面が樹脂製ケースの壁面などを擦過し、この擦過によって樹脂やガラスの塵挨(パーティクル)が発生する。そして、このような塵挨や雰囲気中の塵挨は、ディスク基板の端面に捕捉され蓄積されてしまう。ディスク基板の端面に蓄積された塵挨は、後工程において、あるいは、ハードディスクドライブに搭載した後において、発塵源となり、ディスク基板の表面に異物が付着する原因となっているものと推定されている。特に、ガラス基板の内周側の端面は、外周側の端面に比較して表面形状が粗いので、塵挨を補足しやすく、ガラス基板の表面の高清浄化の障害になっているものと考えられる。
本件出願人は、先に、このようなディスク基板の端面の表面形状に起因する障害を抑制する目的を以て、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、ディスク基板の端面に回転させた研磨ブラシ、または、研磨パッドを接触させて、ディスク基板の端面を研磨する方法を提案している。
そして、近年においては、ハードディスクドライブの磁気ディスクにおいては、1平方インチ当たり40ギガビット(40Gbit/inch2)以上の情報記録面密度が実現できるようになってきている。
なお、特許文献3に記載されているように、ガラスからなるディスク基板の端面に発生するクラックを化学的エッチングにより除去することによって、基板強度の向上を図る技術が提案されている。この技術においては、クラックに起因するガラス基板の強度劣化を防止することができるが、クラックがエッチングによって広げられて窪みが形成され、却って塵挨を捕捉し易くなるので、ディスク基板の表面の高清浄化を達成することはできない。
特開平10−376603号公報
特開2000−185927号公報
特開平7−230621号公報
ところで、前述のような高い情報記録面密度が実現可能となったガラス基板を用いたハードディスクドライブは、いわゆる据置型のコンピュータ装置などに搭載されるもののみならず、いわゆる「カーナビゲーションシステム(Car Navigation System)」や「PDA(Personal Digital Assistance)」などのように、車載、あるいは、携帯といった使用環境において使用されるものに用途が広がっている。このような「モバイル用途」での使用環境を考えた場合には、磁気ディスクには、従来の磁気ディスクを超えた耐衝撃性が要求されるに至っている。
さらに、このようなハードディスクドライブは、ガラス基板を用いた磁気ディスクにおいて情報記録密度の高密度化が可能であることを利用して、より小型の携帯電話機などの携帯情報端末へと用途の広がりを見せている。携帯電話機などにおいては、従来の「PDA」などよりも、より外径の小さな磁気ディスクを用いる必要がある。
このように磁気ディスクの小径化を図った場合には、磁気ディスクの中心部の円孔の内径も縮径する必要がある。これは、磁気ディスクの小径化に伴って減少してしまう記録再生用領域の面積の減少を幾分かでも緩和して記録再生用領域の面積を確保し、磁気ディスクの小径化による情報記録容量の減少を少なくするためである。さらに、記録再生用領域の面積を可能な限り確保しようとする場合には、磁気ディスクの外径がハードディスクドライブの筐体の縮小率に応じて設定されるのに対し、中心部の円孔の内径の縮径率については、外径の縮径率よりもさらに縮径させる必要がある場合もある。
例えば、外径が48mm以下、内径が12mm以下の「1.8インチディスク」を始めとして、外径が27.4mm以下、内径が7mm以下の「1インチディスク」、もしくは、外径が22mm以下、内径が6mm以下の「0.85インチディスク」等、従来のディスク寸法よりもさらに小径の磁気ディスクが提案されている。
そして、このような磁気ディスクの小径化に伴って、磁気ディスクの板厚も薄型化されることになる。例えば、従来は0.635mmであった磁気ディスクの板厚は、小径化を図った場合には、0.581mm、0.381mm、もしくは、それ以下とすることが求められている。
このように薄型化された磁気ディスクのガラス基板においては、従来の化学強化では、十分な強化層を形成することができなくなっている。すなわち、化学強化においては、イオン交換によって基板表面層に圧縮応カ層を形成することにより基板内部に引っ張り応カ層を形成しているが、ガラス基板の板厚が薄くなると、表面層における圧縮応カ層のみが形成され、充分な厚さの引っ張り応カ層が形成されなくなってしまうと考えられる。
このように十分な基板強度が得られていない状態では、磁気ディスクを保持している磁気ディスクの内径端面と内径スピンドルとの接触箇所において、ディスク端面からのクラック発生の確率が大きくなり、ディスク基板の衝撃破壊に繋がることが予想される。
また、このような基板状態においては、磁気ディスクの内径端面において発生したクラックにより、発塵することが予想される。このような発塵によりコンタミが生ずると、高い清浄度が要求されるディスク基板の表面上に凸状の異物となって存在することとなり、磁気ヘッドの適正な浮上特性が得られなくなり、また、磁気抵抗型ヘッドや大型磁気抵抗型ヘッドを用いた場合においては、前述のようなサーマルアスペリティ障害が発生する虞れがある。
したがって、磁気ディスクの小径化を図り、磁気ディスクの板厚を薄型化した場合には、従来の磁気ディスクに比較して、内径端面の平滑度をより高めることにより、クラックの発生確率を抑制して、基板強度を確保するとともに、発塵を抑える必要がある。
しかしながら、磁気ディスクの小径化を図った場合には、前述したように、中心部の円孔の内径も縮径されているため、内径端面の平滑度を高めることが困難となる。すなわち、前述の特許文献1及び特許文献2に記載された従来の研磨ブラシ、または、研磨パッドを用いてディスク基板の端面を研磨する技術においては、中心部の円孔の内径が12mm以下である場合には、十分な耐衝撃性が得られる程度に内径端面について高度な平滑度を実現することは困難である。
図7は、従来の研磨ブラシの構成を示す斜視図である。
従来の研磨ブラシの構造は、図7に示すように、丸棒状(円柱状)の軸心101に、チャンネルブラシ102を巻付けて溶接した構造のものである。チャンネルブラシ102は、複数の毛材103を並列させた状態で、各毛材103の中央部分を折り畳み、この折り畳み部分を長尺状の金属部材104によって挟持して構成されている。すなわち、このチャンネルブラシ102を軸心101に巻付けるときには、毛材103を挟持している金属部材104を軸心101の表面部に倣わせて屈曲させることとなる。そのため、このような研磨ブラシは、製造が困難である。
また、このような研磨ブラシにおいては、軸心101には、チャンネルブラシ102の巻付けが可能である程度の剛性が必要であるので、この軸心101を細くすることができない。また、チャンネルブラシ102は、毛材103を挟持している金属部材104を屈曲させつつ軸心101に巻付けることとなるこめ、このチャンネルブラシ102がなす螺旋の進み角を大きくすることは困難である。このチャンネルブラシ102がなす螺旋の進み角は、30°未満となり、30°以上とすることは困難である。
したがって、このような従来の研磨ブラシにおいては、ディスク基板の内径が縮径されると、研磨ブラシの軸心の径がディスク基板の内径に対して大きすぎることとなり、研磨ブラシ毛先の長さが不十分となる。研磨ブラシ毛先の長さが不十分となると、この研磨ブラシ毛先がディスク基板の端面形状に倣う弾力性が不足することとなり、この端面を十分に平滑化、鏡面化することが困難となるのである。また、このような研磨ブラシにおいては、ディスク基板の内径に対して工具の占有体積が大きくなることから、研磨剤の供給が不安定になり、加工品質が不安定になる虞れもある。
また、この場合には、研磨ブラシ、または、研磨パッドをより小さく精密化する必要があるため、工具コストの上昇が招来され、一方、研磨ブラシ等の精密化を行わなかった場合には、加工量が制限されることで、量産性が阻害されてしまう虞れがある。これらは、いずれも製造コストを上昇させる要因となる。
特に、携帯電話機用などの小型化されたハードディスクドライブについては、コストダウン及び大量生産の要望が強く、ディスク基板及び磁気ディスクを廉価に大量に供給する必要がある。しかし、前述の製造方法及び製造装置によるものでは、ディスク基板の端面の研磨が困難であり、大量のディスク基板について端面の品質を保証し耐衝撃性を満足させることが困難となり、品質のばらつきのない大量の磁気ディスクを安定して供給することが困難となる。
なお、前述の特許文献3に記載された化学エッチングによりガラス基板端面に発生するクラックを除去する技術においては、クラックの深さは低減するが、端面の表面精度を高いレベルでコントロールすることは困難である。
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、その第1の目的は、磁気ディスク用基板の小径化に伴い中心部の円孔が小径化されても、円孔の内径端面を良好に鏡面状に研磨できる研磨ブラシを提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、前記研磨ブラシを用いて、磁気ディスク用基板の小径化に伴う薄型化がなされた場合においても化学強化を補完して十分な耐衝撃性が確保された磁気ディスク用基板を品質のばらつきなく安定して廉価に大量供給することができる磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置を提供することにある。
そして、本発明の第3の目的は、前記研磨ブラシを用いて、磁気ディスク用基板の小径化に伴い中心部の円孔が小径化されても、円孔の内径端面を良好に鏡面状に研磨できる磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置を提供することによって、この磁気ディスク用基板を用いた磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害やヘッドクラッシュが防止されるようにし、情報記録面密度の高密度化が図られた磁気ディスクの供給を可能とすることにある。
本発明者は、前記課題を解決すべく研究を進めた結果、磁気ディスク用基板の製造工程において、磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面を研磨する工程について、研磨ブラシ及びこの研磨ブラシを用いた研磨装置について研究を進めた結果、新たな構造の研磨ブラシ及びこの研磨ブラシを用いた研磨装置を用いることにより、前記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、中心部に円孔を有する磁気ディスク用基板の少なくとも円孔の内周側端面を研磨する工程を有する磁気ディスク用基板の製造方法において用いる研磨ブラシ、磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置に係り、円孔の内周側端面の研磨は、研磨ブラシを円孔内に略々垂直に挿入し、この研磨ブラシの毛材の先端側部分によって研磨砥粒を含む研磨剤を保持させ、この研磨ブラシを円孔の内周側端面に対して移動させることにより、研磨剤を円孔の内周側端面に対して移動させることによって行うものである。
そして、本発明においては、小径の円孔の内周側端面を研磨するため、研磨ブラシの軸心をできるだけ細くする必要がある。そのため、本発明においては、研磨ブラシの軸心を、線径0.8mmから2mmの鉄製ワイヤ、好ましくは、防錆効果のあるSUS(ステンレス)製ワイヤからなる複数の芯線を縒り合わせ互いに巻付けた構造のものとした。この研磨ブラシは、2本、もしくは、4本の芯線の間に毛材を挟み込んだ状態で、これら芯線を捻ることによって構成される。そして、これら芯線からなる軸心の両端側には、クランプを可能とすべく、キャップが取付けられている。
この研磨ブラシは、前述の構成を有することにより、最低限の剛性を確保しつつ、小型化(省スペース)が可能となっている。本発明においては、このような研磨ブラシを用いることにより、磁気ディスク用基板の中心部の円孔が小径化しても、この円孔の内周側端面を良好に研磨することができる。
この研磨ブラシに用いる毛材としては、人毛、獣毛、アラミド系繊維、PBT(ポリブチレンテレフタレート:poly buthylene terephthalete)、PP(ポリプロピレン:polypropylene)などが挙げられるが、チャンファ形状に柔軟に倣う弾力性、研磨剤の水溶液による湿潤下での機械的強度の低下防止、及び、耐久性の観点から、アラミド系繊維が好ましい。
なお、一般に、アラミド系繊維は、「ナイロン繊維」と呼称され、特に、「6ナイロン」、「66ナイロン」、「610ナイロン」、「612ナイロン」が使用されている。本発明における端面研磨加工では、研磨剤の水溶液を供給しながら研磨するので、耐水性に優れた「66ナイロン」や「610ナイロン」が好ましい。
また、小径化した円孔内周端面のチャンファ形状に倣って研磨を行うために、毛材の線径は、0.05mm乃至0.14mmとすることが望ましい。これは、毛材の線径が小さすぎると研磨作用が低くなり、取代除去による鏡面化を得るために要する時間が長くなってしまい、工具寿命の低下を招くからである。また、逆に、毛材の線径が太すぎると、研磨作用が過剰となり、磁気ディスク用基板の内周側端面にキズをつけてしまう原因となる。したがって、毛材の線径は、適切な範囲でコントロールする必要がある。
なお、毛材の線径や材料は、一本の研磨ブラシにおいて全ての毛材が同一の線径、同一の材料からなるものである必要はない。すなわち、線径や材質の異なる複数種類の毛材を複合させて一本の研磨ブラシとして構成するようにしてもよい。
また、研磨剤を研磨ブラシ内部に取り込むため、研磨ブラシの軸心のなす螺旋の進み角は、30°以上60°未満であることが望ましい。これは、小径化された円孔内に効率よく円滑に研磨剤を供給するには、研磨ブラシの回転により研磨剤を引込むようにする必要があるからである。なお、前述の特許文献2における研磨ブラシは、毛材のなす螺旋の進み角は、30°未満となっている。
研磨ブラシの軸心の進み角を30°未満とした場合には、研磨剤の十分な引込みが得られず、端面の鏡面化が得られにくい。一方、研磨ブラシの軸心の進み角を60°以上とした場合には、円孔の内周端面に研磨ブラシが作用する頻度が低下してしまうことにより、内周端面の真円度等の形状精度の劣化、もしくは、研磨ブラシの寿命の低下を招く。したがって、研磨ブラシの軸心のなす螺旋の進み角は、適切な範囲でコントロールされなければならない。
本発明における研磨ブラシの外径寸法は、磁気ディスク用基板の円孔の内径に対して、0.5mm乃至4mmの範囲、好ましくは、1mm乃至2mmの範囲で大きく設定することが望ましい。このように、研磨ブラシの外径寸法を円孔の内径よりも大きくするのは、研磨取代を得るための切込み圧力、すなわち、加工推進力を得るためである。
すなわち、研磨ブラシの外径寸法がこれら設定寸法以下であると、毛材がチャンファ部全体に作用することができなくなり、研磨力が得られないことから、必要な鏡面化が得られない。また、逆に、研磨ブラシの外径寸法がこれら設定寸法よりも大きくなると、毛材が円孔内で過密な状況になり、却って研磨剤の浸透を阻害し、研磨作用が低下するという状況を引き起こす。したがって、研磨ブラシ外径は、適切な範囲でコントロールする必要がある。
従来より採用されてきた研磨ブラシ、すなわち、1本の軸心にチャンネルブラシを巻きつけた構造の研磨ブラシにおいては、チャンネルを加工対象の内径寸法に合わせて製作することが大幅な工具コストの上昇を招き、また、磁気ディスク用基板の円孔を小径化した場合には軸心を細くせざるを得ないことから、所定の剛性が得られなくなるという問題がある。これに対し、本発明においては、複数の芯線を縒り合わせ互いに巻付けられた構造の軸心を有する研磨ブラシを用いていることから、これら工具コストの上昇及び研磨ブラシの剛性不足という問題を解決することができる。
そして、研磨剤に含まれる研磨砥粒としては、磁気ディスク用基板に対して研磨能力を奏する研磨砥粒であって、例えば、酸化セリウム砥粒、コロイダルシリカ砥粒、アルミナ砥粒、ダイヤモンド砥粒を挙げることができる。この研磨砥粒の粒径については、0.5μm乃至3μmとすることにより、磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面を良好に研磨することができる。
また、本発明において用いる磁気ディスク用基板としては、ガラス基板を選択することが好ましい。ガラス基板は、鏡面研磨によって優れた平滑性を実現することができる上、硬度が高く、また、剛性が高いので、耐衝撃性に優れているからである。ガラス基板の材料として好ましいガラスとしては、アルミノシリケートガラスを挙げることができる。アルミノシリケートガラスは、優れた平滑鏡面を実現することができ、優れた平滑鏡面を有する磁気ディスク用基板を製造することができるとともに、例えば、化学強化を行なうことによって、破壊強度を高めることができるからである。
なお、本発明において研磨される磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面は、その表面粗さがRaで0.5μm以下であることが好ましい。このような端面を研磨することにより、平滑性の優れた鏡面状に研磨された端面を得ることができる。そして、研磨によって得られる表面粗さは、Raで0.1μm以下、Rmaxで1μm以下の鏡面とすることが好ましい。なお、Rmax及びRaの表記は、日本工業規格(JISB0601)にしたがっている。このように製造された磁気ディスク用基板を用いた磁気ディスクにおいては、磁気ディスク用基板の表面の高清浄度化が実現され、磁気ディスク用基板の表面の異物による問題、すなわち、ヘッドクラッシュやサーマルアスペリテイ障害が確実に防止される。
そして、円孔の内周側端面の研磨は、複数枚の磁気ディスク用基板を同心状に積層させておき、各磁気ディスク用基板の円孔の内周側端面を同時に研磨することが好ましい。このような製造方法を採用することにより、大量のディスク基板を安定して製造し、供給することができる。
すなわち、本発明においては、加工対象となる磁気ディスク用基板を複数枚重ね、これら磁気ディスク用基板の中心部の円孔内に十分な量の研磨剤を供給する。研磨剤は、これら円孔のなす円柱状の空間内に、一端側からポンプにより圧送され、他端側から排出される。また、研磨剤の供給は、ソレノイドバルブ等により、供給及び排出側を、自動、もしくは、手動により、任意に切り替えるようにしてもよい。
また、本発明においては、研磨加工中に、研磨ブラシの回転方向を、任意に、もしくは、一定間隔において、反転させることが望ましい。研磨ブラシの回転方向を反転させることにより、この研磨ブラシの螺旋の進み角の方向と回転方向とによって決まる研磨剤の供給方向が反転されるので、磁気ディスク用基板の設置位置に依る研磨のバラツキを抑制することが可能となる。また、このとき、研磨剤の供給及び排出の圧送方向を研磨ブラシの回転方向の反転に応じて切替えることにより、研磨のバラツキを抑制する効果を増すことができる。
また、本発明においては、磁気ディスク用基板は、研磨ブラシの回転方向に対向する方向に回転させることが望ましい。
さらに、本発明においては、加工時間内を複数の段階に区分し、この区分ごとに、研磨ブラシの回転速度を変化させることが望ましい。
すなわち、磁気ディスク用基板の内周側端面の研磨取代は、専ら研磨ブラシの弾性反発力と研磨ブラシの回転速度とに依存する。そのため、研磨ブラシの回転速度を段階的にコントロールすることにより、研磨の進行に伴う面取り部の形状崩れ(端面ダレ)を最小限に抑えながら、必要な研磨取代を確保し、鏡面加工を効率よく実現することができる。
例えば、研磨加工時間内を2等分するとすれば、初期の期間においては、研磨ブラシを低速回転(3000r.p.m乃至4500r.p.m)させ、中期以降の期間においては、研磨ブラシを高速回転(6000r.p.m乃至9000r.p.m)させることが望ましい。
すなわち、本発明は以下の構成のいずれかを備える。
〔構成1〕
中心部に円孔を有する磁気ディスク用基板の少なくとも円孔の内周側端面を研磨する工程を有する磁気ディスク用基板の製造において、円孔の内周側端面の研磨に用いる研磨ブラシであって、螺旋状となされて互いに巻付けられた複数の芯線間に多数の毛材を挟んで構成され、これら毛材が複数の芯線からなる軸心に対して略々直交する方向に突設されていることを特徴とするものである。
〔構成2〕
構成1を有する研磨ブラシであって、直線状の複数本の芯線間に毛材を挟み込み、これら芯線を互いに捻ることによって互いに螺旋状に巻付けることによって構成されたものであることを特徴とするものである。
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する研磨ブラシであって、軸心のなす螺旋の進み角が30°以上60°未満となっていることを特徴とするものである。
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する研磨ブラシであって、毛材の先端部のなす外径が磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内径に対して、1mm乃至2mm大きいことを特徴とするものである。
〔構成5〕
中心部に円孔を有する磁気ディスク用基板の少なくとも円孔の内周側端面を研磨する工程を有する磁気ディスク用基板の製造方法であって、円孔の内周側端面の研磨は、構成1乃至構成4のいずれか一を有する研磨ブラシを用いて、この研磨ブラシを円孔内に略々垂直に挿入し、この研磨ブラシの毛材の先端側部分によって研磨砥粒を含む研磨剤を保持させ、この研磨ブラシを円孔の内周側端面に対して移動させることにより、研磨剤を円孔の内周側端面に対して移動させることによって行うことを特徴とするものである。
〔構成6〕
磁気ディスク用基板の製造装置であって、中心部に円孔を有する磁気ディスク用基板を保持する保持手段と、磁気ディスク用基板の少なくとも円孔内に挿入される構成1乃至構成4のいずれか一を有する研磨ブラシと、この研磨ブラシを円孔の内周側端面に対して回転させる回転手段とを備え、研磨ブラシの毛材の先端側部分によって研磨砥粒を含む研磨剤を保持させ、この研磨ブラシを円孔内において回転させることにより、研磨剤を円孔の内周側端面に対して移動させることによって研磨を行うことを特徴とするものである。
〔構成7〕
磁気ディスクの製造方法であって、構成5を有する磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面部上に対し、少なくとも磁性層を形成することを特徴とするものである。
構成1を有する本発明に係る研磨ブラシは、螺旋状となされて互いに巻付けられた複数の芯線間に多数の毛材を挟んで構成されこれら毛材が複数の芯線からなる軸心に対して略々直交する方向に突設されているので、磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面を研磨するにあたって、この円孔が小径化され、この小径化に応じて軸心を細くしても、剛性を十分に確保することができる。
構成2を有する本発明に係る研磨ブラシは、直線状の複数本の芯線間に毛材を挟み込み、これら芯線を互いに捻ることによって互いに螺旋状に巻付けることによって構成されたものであるので、容易に作製することができる。
構成3を有する本発明に係る研磨ブラシは、軸心のなす螺旋の進み角が30°以上60°未満となっているので、磁気ディスク用基板の円孔内に研磨剤を十分に引込むことができ、また、円孔の内周端面に毛材を十分に作用させることができ、内周端面の真円度等の形状精度を維持しつつ、この端面の鏡面化を実現することができる。
構成4を有する本発明に係る研磨ブラシは、毛材の先端部のなす外径が磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内径に対して、1mm乃至2mm大きいので、磁気ディスク用基板の円孔の内周端面に対する研磨取代を得るための適切な切込み圧力、すなわち、加工推進力を得ることができる。
構成5を有する本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法においては、構成1乃至構成4のいずれか一を有する研磨ブラシを用いて、磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面を研磨するので、この円孔が小径化され、この小径化に応じて研磨ブラシの軸心を細くしても、この研磨ブラシの剛性を十分に確保することができる。
構成6を有する本発明に係る磁気ディスク用基板の製造装置においては、構成1乃至構成4のいずれか一を有する研磨ブラシの毛材の先端側部分によって研磨砥粒を含む研磨剤を保持させ、この研磨ブラシを磁気ディスク用基板の少なくとも円孔内において回転させることにより、研磨剤を円孔の内周側端面に対して移動させることによって研磨を行うので、磁気ディスク用基板の中心部の円孔が小径化され、この小径化に応じて研磨ブラシの軸心を細くしても、この研磨ブラシの剛性を十分に確保することができる。
そして、構成7を有する本発明に係る磁気ディスクの製造方法においては、構成5を有する磁気ディスク用基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用基板の主表面部上に対し、少なくとも磁性層を形成するので、主表面部が極めて平滑で、かつ、異物の無い高清浄化された面に仕上げられた磁気ディスクを得ることができる。
すなわち、本発明は、磁気ディスクにおけるサーマルアスペリティ障害やヘッドクラッシュが防止されるようにし、情報記録面密度の高密度化が図られた磁気ディスクの供給を可能とする。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法により製造される磁気ディスク用基板は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)等に搭載される磁気ディスクのディスク基板として使用される。この磁気ディスクは、例えば、垂直磁気記録方式によって高密度の情報信号記録及び再生を行うことができる記録媒体である。
この磁気ディスク用基板は、外径15mm乃至48mm、内径5mm乃至12mm、板厚0.35mm乃至0.5mmであり、例えば、「0.8インチ(inch)型磁気ディスク」(内径6mm、外径21.6mm、板厚0.381mm)、「1.0インチ型磁気ディスク」(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、「1.8インチ型磁気ディスク」(内径12mm、外径48mm、板厚0.581mm)などの所定の直径を有する磁気ディスクとして作製される。また、「2.5インチ型磁気ディスク」、「3.5インチ型磁気ディスク」など磁気ディスクとして作製されるものとしてもよい。なお、ここで、「内径」とは、ディスク基板の中心部の円孔の内径である。
なお、「1.0インチ型磁気ディスク」用の磁気ディスク用基板は、後述する円孔の内周側端面を研磨する工程を実施するときには、外径が30mm以下、中心部の円孔の内径が7mm以下、厚さが0.65mm以下となっている。
また、「1.8インチ型磁気ディスク」用の磁気ディスク用基板は、円孔の内周側端面を研磨する工程を実施するときには、外径が50mm以下、中心部の円孔の内径が12mm以下、厚さが0.85mm以下となっている。
図1Aは、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法により製造される磁気ディスク用基板の構成を示す斜視図である。
本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法は、図1Aに示すように、中心部に円孔1を有する磁気ディスク用基板2の少なくとも円孔1の内周側端面を研磨する工程を有する磁気ディスク用基板の製造方法である。そして、この磁気ディスク用基板の製造方法においては、円孔1の内周側端面の研磨は、図1A中矢印Aで示すように、本発明に係る研磨ブラシを円孔1内に略々垂直に挿入し、この研磨ブラシの毛材の先端側部分によって研磨砥粒を含む研磨剤を保持させ、この研磨ブラシを円孔1の内周側端面に対して移動させることにより、研磨剤を円孔1の内周側端面に対して移動させることによって行う。
図1Bは、前記磁気ディスク用基板2の円孔1の内周側端面の形状を示す断面図である。
なお、磁気ディスク用基板2の円孔1の内周側端面は、図1Bに示すように、この内周側端面から両側の主平面に向けて、面取り部(C面)1b,1bが形成された状態となっている。これら面取り部1b,1bの間の部分は、磁気ディスク用基板2の主平面に対して垂直面からなる円筒面(T面)1aとなっている。前述の円孔1の内径とは、この円筒面1aの内径のことである。
図2Aは、本発明において用いる研磨ブラシの構成を示す側面図である。
本発明においては、図2Aに示すように、特に、小径化された円孔1の内周側端面を研磨するため、研磨ブラシ3の軸心をできるだけ細くしている。そのため、本発明においては、研磨ブラシの軸心4は、線径0.8mmから2mmの鉄製ワイヤ、好ましくは、防錆効果のあるSUS(ステンレス)製ワイヤからなる複数の芯線5,5を縒り合わせ互いに巻付けた構造のものとなっている。
図2Bは、本発明において用いる研磨ブラシの製造方法を示す断面図である。
この研磨ブラシは、図2B中の(a)に示すように、2本の芯線5,5、もしくは、図2B中の(b)に示すように、4本の芯線5,5,5,5の間に、毛材6を挟み込んだ状態で、これら芯線5,5を、図2B中矢印Bで示すように、互いに捻ることによって構成される。この研磨ブラシ3においては、螺旋状となされて互いに巻付けられた複数の芯線5,5間には、多数の毛材6が挟まれており、これら毛材6は、複数の芯線5,5からなる軸心4に対して略々直交する方向に突設されている。これら図2B中の(a)及び(b)に示す研磨ブラシは、毛材6のなす螺旋が一重螺旋となるので、「シングルスパイラルブラシ」といわれる。また、この研磨ブラシは、図2B中の(c)に示すように、いわゆる「ダブルスパイラルブラシ」として構成することもできる。この「ダブルスパイラルブラシ」は、4本の芯線5,5,5,5における異なる2箇所の芯線間に毛材6,6を挟み込み、これら芯線5,5を互いに捻ることによって構成される。この「ダブルスパイラルブラシ」においては、毛材6,6のなす螺旋が二重螺旋となる。
図2Cは、本発明において用いる研磨ブラシの製造方法の他の例を示す断面図である。
毛材6の線径や材料は、一本の研磨ブラシにおいて全ての毛材6が同一の線径、同一の材料からなるものである必要はない。すなわち、図2Cに示すように、研磨ブラシの毛材6は、線径や材質の異なる複数種類の毛材が複合されて一本の研磨ブラシを構成するものとしてもよい。
すなわち、図2C中の(a)及び(b)に示す「シングルスパイラルブラシ」においては、線径や材質の異なる複数種類の毛材6a,6bを混在させて、2本、または、4本の芯線5,5,5,5の間に挟み込み、これら芯線5,5を互いに捻ることによって構成することができる。また、図2C中の(c)に示す「ダブルスパイラルブラシ」においては、線径や材質の異なる複数種類の毛材6a,6bを4本の芯線5,5,5,5における異なる2箇所の芯線間に挟み込み、これら芯線5,5,5,5を互いに捻ることによって構成することができる。
なお、これら芯線5,5からなる軸心4の両端側には、クランプを可能とすべく、キャップ7,7が取付けられている。なお、この研磨ブラシ3を、いわゆる「片持ち」の研磨ブラシとして構成する場合には、キャップ7は、軸心4の一端側のみに取付けられる。
図2Dは、本発明において用いる研磨ブラシの製造方法のさらに他の例を示す断面図である。
研磨ブラシの軸心4をなす芯線5,5は、断面形状が円形のもののみならず、図2Dに示すように、断面形状が楕円形のもの(図2D中の(a))、断面形状が長方形のもの(図2D中の(b))、断面形状が正方形のもの(図2D中の(c))、断面形状が三角形のもの(図2D中の(d))を用いてもよい。また、芯線5,5は、2本、または、4本のみならず、さらに本数を増やしてもよい。
さらに、芯線5,5の線径や断面形状は、一本の研磨ブラシにおいて全ての芯線5,5が同一の線径、同一の断面形状を有するものである必要はない。すなわち、研磨ブラシの芯線5,5は、図2D中の(e)に示すように、線径や断面形状異なる複数種類の芯線5,5が複合されて一本の研磨ブラシを構成するものとしてもよい。
図2Eは、本発明において用いる研磨ブラシの構成の他の例を示す断面図である。
また、この研磨ブラシは、図2Eに示すように、第1の外径D1となされた部分と、この第1の外径D1よりも小径の外径D2となされた部分とが、交互に配列された状態に形成してもよい。
この研磨ブラシにおいては、第1の外径D1となされた部分の長さがL1となされており、第2の外径D2となされた部分の長さがL2となされており、これら各部分が交互に配列された状態となっている。
このように2つの外径部分が交互に配列された研磨ブラシは、磁気ディスク用基板2の円孔1の内周側端面について、面取り部1b,1b及び円筒面1aのいずれに対しても、良好な研磨をおこなうことができる。すなわち、この研磨ブラシにおいては、第1の外径D1となされた部分が、面取り部1b,1bについて良好な研磨作用を発揮し、第2の外径D2となされた部分が、円筒面1aについて良好な研磨作用を発揮する。
このような研磨ブラシを用いる場合には、後述する端面鏡面研磨工程研磨工程において、この研磨ブラシを、軸方向に往復運動させつつ、軸回りに回転させて、研磨を行う。
なお、このような研磨ブラシにおいて、磁気ディスク用基板2の円孔1の内径が7mmである場合には、第1の外径D1は、9mm程度が好ましく、第2の外径D2は、7mm程度が好ましい。また、これら各部分の長さL1,L2は、それぞれ3mm程度が好ましい。
このような研磨ブラシ3を用いる本発明は、中心部の円孔の内径が12mm以下である磁気ディスク用基板の製造において、特に優れた有用性を発揮する。すなわち、中心部の円孔の内径が12mm以下である場合においては、従来の研磨ブラシや研磨パッドを用いた研磨方法によっては、円孔の内周側端面を研磨することが困難となるからである。
この観点から、本発明は、「1.8インチ型磁気ディスク」を含みこれより小径の磁気ディスク用基板の端面研磨として特に好ましい。このような小径の磁気ディスク用基板としては、例えば、「0.8インチ型磁気ディスク」乃至「1.8インチ型磁気ディスク」用基板を挙げることができる。
この研磨ブラシ3における毛材6としては、人毛、獣毛、アラミド系繊維、PBT(ポリブチレンテレフタレート:poly buthylene terephthalete)、PP(ポリプロピレン:polypropylene)などが挙げられるが、弾力性、湿潤下での機械的強度の低下防止、及び、耐久性の観点から、アラミド系繊維が好ましい。このアラミド系繊維のなかでも、耐水性に優れた「66ナイロン」や「610ナイロン」が好ましい。また、毛材の線径は、0.05mm乃至0.14mmとすることが望ましい。さらに、この毛材6としては、アラミド系繊維に研磨剤が混入された「研磨剤入りアラミド系繊維」を用いてもよい。
そして、図2A中θで示す研磨ブラシ3の軸心4のなす螺旋の進み角は、30°以上60°未満であることが望ましい。研磨ブラシ3の軸心4のなす螺旋の進み角を30°以上60°未満とすることにより、磁気ディスク用基板2の円孔1内に研磨剤を十分に引込むことができ、また、円孔1の内周端面に研磨ブラシ3を十分に作用させることができ、内周端面の真円度等の形状精度を維持しつつ、この端面の鏡面化を実現することができる。
研磨ブラシ3の外径寸法は、磁気ディスク用基板2の円孔1の内径に対して、0.5mm乃至4mmの範囲、好ましくは、1mm乃至2mmの範囲で大きく設定されている。研磨ブラシ3の外径寸法が円孔1の内径よりも大きいことにより、取代を得るための切込み圧力、すなわち、加工推進力が得られる。
本発明において、研磨剤に含まれる研磨砥粒としては、磁気ディスク用基板に対して研磨能力を奏する研磨砥粒であれば、特に制限なく使用することができる。例えば、酸化セリウム(CeO2)砥粒、コロイダルシリカ砥粒、アルミナ砥粒、ダイヤモンド砥粒などを挙げることができる。なお、磁気ディスク用基板としてガラス基板を使用する場合においては、研磨剤に含まれる研磨砥粒としては、酸化セリウム研磨砥粒が好ましい。
研磨砥粒の粒径については、適宜選択することができるが、例えば、0.5μm乃至3μm程度とすることが好ましい。
また、研磨剤は、研磨砥粒を含む研磨剤に、水(純水)などの液体を加え、この研磨剤をスラリーとして用いることが好ましい。
そして、磁気ディスク用基板としては、ガラス基板を選択することが好ましい。ガラス基板は、鏡面研磨によって優れた平滑性を実現することができ、硬度が高く、また、剛性が高いので、耐衝撃性に優れているからである。特に、携帯(持運び)用、あるいは、車載用の情報器機に搭載されるハードディスクドライブに使用される磁気ディスクには、高い耐衝撃性が要求されるので、このような磁気ディスクにおいてガラス基板を用いることには有用性が高い。
ガラスは脆性材料であるが、化学強化や風冷強化などの強化処理、あるいは、結晶化の手段により、破壊強度を向上させることができる。このようなガラス基板の材料として好ましいガラスとしては、アルミノシリケートガラスを挙げることができる。アルミノシリケートガラスは、優れた平滑鏡面を実現することができるとともに、例えば、化学強化を行なうことによって、破壊強度を高めることができるからである。
アルミノシリケートガラスとしては、SiO2:62乃至75重量%、Al2O3:5乃至15重量%、Li2O:4乃至10重量%、Na2O:4乃至12重量%、ZrO2:5.5乃至15重量%を主成分として含有するとともに、Na2OとZrO2との重量比が0.5乃至2.0、Al2O3とZrO2との重量比が0.4乃至2.5である化学強化用ガラスが好ましい。
また、このようなガラス基板において、ZrO2の未溶解物が原因で生じるガラス基板表面の突起をなくすためには、SiO2を57乃至74mol%、ZrO2を0乃至2.8mol%、Al2O3を3乃至15mol%、LiO2を7乃至16mol%、Na2Oを4乃至14mol%含有する化学強化用ガラスを使用することが好ましい。このような組成のアルミノシリケートガラスは、化学強化することによって、抗折強度が増加し、圧縮応力層の深さも深く、ヌープ硬度にも優れている。
また、本発明において、磁気ディスク用基板は、端面の両側の稜部が面取りされたものであることが好ましい。磁気ディスク用基板は、端面の稜部が面取りされていることにより、破壊強度が高まるとともに、良好に研磨されることができるからである。
端面の稜部が面取りされた磁気ディスク用基板においては、主表面部と側面部との間に、これら主表面部と側面部とに接して、円錐面状の面取り面が形成されている。本発明についての説明においては、側面部と面取り面とを合わせて、端面と言うこととする。
そして、本発明においては、研磨を行なう磁気ディスク用基板の端面は、表面粗さが、Raで0.5μm以下であることが好ましい。このような表面を研磨することにより、端面を平滑性の優れた鏡面に研磨することができる。本発明における研磨は、端面の表面粗さを、Raで0.1μm以下、Rmaxで1μm以下の鏡面とするものであることが好ましい。なお、Rmax及びRaの表記は、日本工業規格(JISB0601)にしたがっている。このような鏡面が得られるように研磨することにより、この磁気ディスク用基板を用いて構成された磁気ディスクにおいて、ヘッドクラッシュやサーマルアスペリテイ障害の確実な防止を図ることができる。
次に、本発明において、磁気ディスク用基板の中心部の円孔の内周側端面を研磨する手順について説明する。
図3は、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法において複数の磁気ディスク用基板について円孔の内周側端面を研磨する工程を示す断面図である。
まず、図3に示すように、数十枚乃至300枚程度の複数の磁気ディスク用基板2を同心状として積層させ、保持する。すなわち、本発明においては、円孔1の内周側端面の研磨は、複数枚の磁気ディスク用基板2を同心状に積層させておき、各磁気ディスク用基板2の円孔の内周側端面を同時に研磨する。
なお、各磁気ディスク用基板2は、前工程において、すでに、内外周の面取り加工等をなされている。
そして、積層された各磁気ディスク用基板2の中心部の円孔1内に十分な量の研磨剤を供給する。研磨剤は、これら円孔1のなす円柱状の空間内に、一端側からポンプにより圧送され、他端側から排出される。
また、積層された各磁気ディスク用基板2の中心部の円孔1内には、研磨ブラシ3が略々垂直に挿入され、この研磨ブラシ3の毛材6の先端側部分によって、研磨砥粒を含む研磨剤が保持される。そして、この研磨ブラシ3を円孔内で回転させ、また、各磁気ディスク用基板2を研磨ブラシ3の回転方向の反対方向に回転させることにより、研磨剤が円孔1の内周側端面に対して移動され、この端面の研磨が行われる。
なお、各磁気ディスク用基板間には、研磨ブラシの毛先のチャンファ部への入り込みを助けるために、スペーサ8を設置してもよい。このスペーサ8は、厚みが0.1mm乃至0.3mm、外径は、研磨加工する磁気ディスク用基板2と同等、もしくは、2mm乃至4mm程度小径、内径は、研磨加工する磁気ディスク用基板2と同等、もしくは、2mm乃至4mm程度大径となっている。
そして、本発明においては、研磨加工中に、研磨ブラシ3の回転方向が、任意に、もしくは、一定間隔において、反転される。また、研磨剤の供給及び排出の圧送方向は、研磨ブラシの回転方向の反転に応じて、切替えられる。
さらに、本発明においては、加工時間内を複数の段階に区分し、この区分ごとに、研磨ブラシの回転速度を変化させる。例えば、研磨加工時間内を2等分し、初期の期間においては、研磨ブラシを低速回転(3000r.p.m乃至4500r.p.m)させ、中期以降の期間においては、研磨ブラシを高速回転(6000r.p.m乃至9000r.p.m)させる。
このような研磨により、各磁気ディスク用基板の円孔の内周側端面の表面粗さは、Raで0.1μm以下、Rmaxで1μm以下の鏡面とされる。
図4は、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法において複数の磁気ディスク用基板について円孔の内周側端面を研磨する工程の他の例を示す断面図である。
なお、本発明においては、研磨ブラシとして、図4に示すように、軸心4をなす芯線5,5の螺旋方向が、中央部において反転されているものを用いてもよい。この場合には、図4中矢印Cで示すように、研磨剤は、積層された各磁気ディスク用基板2の両端側より供給され、中央部より排出され、または、積層された各磁気ディスク用基板2の中央部より供給され、両端側に排出される。すなわち、この場合には、積層された各磁気ディスク用基板の中央部には、研磨剤が供給、または、排出されるための空隙9が形成される。
また、本発明において使用するガラスディスクをなす材料は、前述したものに限定されるわけではない。すなわち、ガラスディスクの材質としては、前述したアルミノシリケートガラスの他に、例えば、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、または、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどを挙げることができる。
このようにして円孔の内周側端面を研磨された磁気ディスク用基板を用いて、この磁気ディスク用基板の主表面部上に少なくとも磁性層を形成することにより、ヘッドクラッシュやサーマルアスペリティー障害の防止が図られた磁気ディスクを構成することができる。
磁性層としては、高い異方性磁場(Hk)を備えるCo−Pt系合金磁性層が好ましい。また、磁気ディスク用基板と磁性層との間には、磁性層の結晶配向性やグレインの均一化、微細化を図る観点から、適宜下地層を形成するようにしてもよい。これら下地層及び磁性層の成膜方法としては、例えば、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
また、磁性層上には、磁性層を保護するための保護層を設けることが好ましい。保護層の材料としては、炭素系保護層を挙げることができる。炭素系保護層としては水素化炭素、窒素化炭素を用いることができる。この保護層の形成には、プラズマCVD法、または、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
さらに、保護層上には、磁気ヘッドからの衝撃を緩和するための潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑層を挙げることができる。特に、保護層との親和性に優れる水酸基を具備するアルコール変性パーフルオロポリエーテル潤滑層が好ましい。この潤滑層は、ディップ法を用いて形成することができる。
次に、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造装置について説明する。
図5は、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造装置の構成を示す側面図である。
この製造装置は、図5に示すように、研磨対象である複数の磁気ディスク用基板2を同心状とし積層した状態で収納し保持する円筒状の保持冶具10を備えている。なお、図5では、装置を横置きとしているが、縦置きとしてもよい。
保持冶具10は、例えば、一度に50枚程度、100枚程度、あるいは、200枚程度の磁気ディスク用基板2を同軸状として収納することができる。この保持冶具10は、軸方向から押しコック(プッシャ)11を締め込むことで、収納した各磁気ディスク用基板2同士の主表面部間の摩擦により、各磁気ディスク用基板2を保持するように構成されている。
この保持冶具10は、図5に示すように、回転保持台12上において、ハウジング13,13を介して、軸回りに回動自在に保持されている。そして、この保持冶具10は、図示しない駆動用モータによって、50rpm程度の所定の回転速度にて軸回りに回転操作される。また、ハウジング13,13は、直動ガイドによって支持されており、図5中矢印Dで示すように、保持冶具10の軸方向に往復移動することが可能となっている。そして、このハウジング10は、駆動用モータ14及びカム機構によって、保持冶具10の軸方向に一定周期で往復移動操作される。
そして、この製造装置は、保持冶具10によって保持した複数の磁気ディスク用基板2の中央部の各円孔1内に、研磨ブラシ3を挿入させた状態において、この研磨ブラシ3を保持し、図示しない駆動用モータによって、回転操作できるようになっている。この製造装置において、研磨ブラシ3の回転方向は、いずれの方向とすることもでき、また、この研磨ブラシ3の回転速度は、低速(4200r.p.m程度)より高速(7000r.p.m以上)まで可変することができる。
なお、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置によって製造された磁気ディスク用基板は、ガラス基板端面から発生する微細なパーティクルを嫌う光磁気ディスク用のガラス基板や、光ディスクなどの電子光学用ディスク基板としても利用することができる。また、本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法及び装置は、ガラス状カーボン、結晶材料(単結晶材料を含む)、セラミック材料などの脆性材料や、金属材料等を研磨する工程においても利用することができる。
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
〔実施例1〕
この実施例1においては、以下の工程を経て磁気ディスク用基板を製造した。
(1)形状加工工程、ラッピング工程
溶融させたアルミノシリケートガラスをプレス加工によりディスク状に成型し、ガラスディスクを得た。
なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO2を57乃至74mol%、ZrO2を0乃至2.8mol%、Al2O3を3乃至15mol%、LiO2を7乃至16mol%、Na2Oを4乃至14mol%を主成分として含有する化学強化用ガラスを使用した。
次に、得られたガラスディスクの主表面をラッピング加工した。ラッピング加工では両面ラッピング装置とアルミナ砥粒を用いて加工を行い、ガラス基板の寸法精度と形状精度を所定とする。次いで、砥石を用いて研削することによりガラスディスクの中心部に円孔を形成するとともに、外周側端面及ぴ内周側端面に所定の面取り加工を施した。
得られたガラスディスクの内径は7mm、外径は27.4mm、板厚は0.6mmであり、主表面部の研磨加工後に、「1.0インチ型」磁気ディスク用基板の所定寸法となるガラスディスクであることを確認した。
ガラスディスクの表面の面形状を観察したところ、主表面の表面粗さはRmaxで2μm、Raで0.3μm程度であった。端面の表面粗さを観察したところ、Rmaxで14μm、Raで0.5μmであった。
(2)端面鏡面研磨工程
まず、ガラスディスクの外周側端面については、従来用いられていた研磨ブラシ研磨方法により鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。次に内周側端面については、本発明による研磨により鏡面研磨を行った。
次に、本発明に係る製造装置において、ガラスディスクを積層させて保持冶具の上に並べた後、円孔の中心部に、芯取り用のシャフトを貫通させる。このシャフトの径は、ガラスディスクの円孔の内径に対して、−10μm乃至−80μmの公差範囲内となされている。なお、このシャフトの径は、好ましくは、ガラスディスクの円孔の内径に対して、−30μm乃至−50μmの公差範囲内とすることが望ましい。
シャフトを全てのガラスディスクの円孔に貫通させた後、一端側のガラスディスクの主表面を保持冶具の押付面に当接させ、他端側より、エアー等を駆動力とする押しコック(プッシャ)により、ガラスディスクの主表面を押付けることにより、各ガラスディスクは、保持冶具に対して固定される。このときの押付け圧力は、0.3MPa乃至3MPa程度である。
このとき、保持冶具の押付面とガラスディスクとは、両者間に生じる摩擦により固定されており、研磨加工時の回転抵抗によっても移動されない程度の押付圧となっている。また、このとき、芯取り用のシャフトは、研磨装置に対して、ネジ止めによって固定されている。このようにしてガラスディスクが固定された後、芯取り用のシャフトを、各ガラスディスクの円孔よりゆっくりと抜き去る。
そして、研磨装置において、芯取り用のシャフトに代えて、研磨ブラシを取付ける。まず、この研磨ブラシを、保持冶具により固定された各ガラスディスクの各円孔内にゆっくりと挿入する。このようにして円孔内に挿入された研磨ブラシの軸心の片端を、ネジ、もしくは、コレチャックにより、研磨装置において固定する。この研磨ブラシは、先端での回転振れの発生が極力抑えられる構造となっている。
その後、各ガラスディスクの円孔内に、ポンプにより、研磨剤を0.5MPa乃至3MPa程度の圧力で圧送する。この研磨剤としては、前述したように、酸化セリウムが望ましいが、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、および酸化マグネシウム、ダイヤモンドスラリーであってもよい。研磨剤の粒径としては、0.5μm乃至5μmが使用できるが、鏡面性という点では、1μm乃至2μm程度のものが望ましい。
図6は、本発明の実施例における磁気ディスク用基板の製造方法における研磨ブラシの回転方向及び回転速度の変化を示すグラフである。
次に、研磨ブラシを回転させるとともに、各ガラスディスクを回転させる。このとき、研磨ブラシの回転は、図6に示すように、研磨剤の圧送方向に研磨剤が引込まれる方向(正回転)に、第1の工程(ステップ1)として、第1の速度である低速(4200r.p.m)で3分間回転させる。また、積層されたガラスディスクは、研磨ブラシの回転方向とは逆方向に、例えば、50r.p.m程度の回転速度にて回転させる。また、このとき、積層されたガラスディスクを、その積層方向(軸方向)に往復運動させる。この往復運動は、10mmのストローク幅で、0.1Hzの揺動周期とした。
そして、3分間の研磨の後、研磨剤の圧送方向を切替え、研磨ブラシの回転方向を逆回転して、さらに3分間、ステップ1の研磨加工を行った。このとき、ガラスディスクの回転方向も、同様に反転させた。すなわち、このステップ1は、研磨ブラシを3分間正転させ、3分間逆転させる計6分の工程である。
次に、第2の工程(ステップ2)として、研磨ブラシを回転させるとともに、各ガラスディスクを回転させる。このとき、研磨ブラシの回転は、研磨剤の圧送方向に研磨剤が引込まれる方向(正回転)に、第2の速度である高速(6600r.p.m乃至7200r.p.m)で3分間回転させる。また、積層されたガラスディスクは、研磨ブラシの回転方向とは逆方向に、例えば、50r.p.m程度の回転速度にて回転させる。また、このとき、積層されたガラスディスクを、その積層方向(軸方向)に往復運動させる。この往復運動は、10mmのストローク幅で、0.1Hzの揺動周期とした。
そして、3分間の研磨の後、研磨剤の圧送方向を切替え、研磨ブラシの回転方向を逆回転して、さらに3分間、ステップ2の研磨加工を行った。このとき、ガラスディスクの回転方向も、同様に反転させた。
さらに、このステップ2として、研磨ブラシを3分間正転させ、3分間逆転させる。すなわち、このステップ2は、研磨ブラシを3分間正転させ、3分間逆転させ、さらに、3分間正転させ、3分間逆転させる計12分の工程である。
このようにして、ステップ1及びステップ2からなる計18分間の研磨加工を行った。研磨加工の所定時間が満了したならば、研磨ブラシの回転、ガラスディスクの回転及び往復運動を停止させ、また、研磨剤の圧送を停止させた後、研磨ブラシを各ガラスディスクの円孔内より引抜いた。
そして、各ガラスディスクに対する保持冶具への押付けを開放し、各ガラスディスクを保持冶具の上に並べた。
なお、この端面研磨工程は、ガラス基板を重ね合わせて端面研磨する際にガラス基板の主表面にキズ等が付くことを避けるため、後述する第一研磨工程の前、あるいは、第二研磨工程の前後に行うことが好ましい。
そして、この端面研磨工程を終えたガラス基板を水洗浄した。
その後、ガラスディスクの内径端面部分の寸法測定を行ったところ、研磨取代は、20μm乃至23μmであった。また、端面部の鏡面状態を確認したところ、端面部の表面粗さは、Raで0.01μm乃至0.02μm、Rmaxで0.3μm乃至0.4μmであることが確認された。
(第1研磨工程)
次に、主表面研磨工程として、第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程で主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする。両面研磨装置と硬質樹脂ポリッシャとを用い、遊星歯車機構を用いて主表面研磨を行った。研磨剤としては酸化セリウム砥粒を用いた。
第一研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
(第2研磨工程)
次に、主表面の鏡面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。両面研磨装置と軟質発泡樹脂ポリッシャを用い、遊星歯車機構を用いて主表面の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒に比ぺて微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
第二研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
(6)化学強化工程
次に、前述の研削及び研磨工程を終えたガラスディスクに化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を400°Cに加熱し、300°Cに予熱された洗浄済みのガラスディスクを約3時間浸漬して行った。この浸漬の際に、ガラスディスクの表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラスディスクが端面で保持されるようにホルダーに収納した状態で行った。
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラスディスク表層のリチウムイオン、ナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラスディスクが強化される。
ガラスディスクの表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100乃至200μmであった。
化学強化を終えたガラスディスクを、20°Cの水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。
急冷を終えたガラスディスクを、約40°Cに加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラスディスクを、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
前述の工程を経て得られた磁気ディスク用基板の円孔の内周側端面の表面粗さは、面取り部Rmaxで0.4μm、Raで0.04μm、側壁部Rmaxで0.4μm、Raで0.05μmであった。外周端面における表面粗さRaは、面取部で0.04μm、側壁部で、0.07μmであった。このように、内周側端面は、外周側端面と同様に、鏡面状に仕上がっていることを確認した。
また、ガラス基板の主表面部の表面粗さRaは、0.3nm乃至0.7nm(AFMで測定)であった。電子顕微鏡(4000倍)で端面表面を観察したところ、鏡面状態であった。また、円孔の内周側端面に異物やクラックは認められず、ガラス基板の表面についても、異物やサーマルアスペリティの原因となるパーティクルは認められなかった。
さらに、抗折強度試験機(島津製作所製「AG−1」)を用いて抗折強度を測定したところ、下記の表1に示すように、4.30〔kgf〕乃至14.80〔kgf〕であった。すなわち、前述のような端面研磨加工により、化学強化後の製品の抗折強度は、後述する比較例における磁気ディスク用基板の抗折強度よりも、十分に高いという結果が得られた。
〔比較例〕
前述の特許文献2に記載された従来の研磨方法により、前述の実施例1と同様の、外径27.4mm、内径7mm、板圧0.6mmのガラスディスクを用いて、円孔内の端面研磨加工を行った。
すなわち、この比較例においては、研磨ブラシとして、軸心にチャンネルブラシを巻きつけた構造のものを使用した。この研磨ブラシは、外径9mmであり、毛材は、線径0.1mmの「ナイロン」製である。
保持冶具に、100枚乃至200枚のガラスディスクを積層して固定させた後、研磨剤として酸化セリウムスラリーを供給しながら、前述と同様に、ステップ1及びステップ2からなる12分間の研磨加工を行った。
この研磨工程の後、ガラスディスクを取り出し、研磨取代を確認したところ、研磨取代は、10μm乃至18μmであり、そのバラツキも大きいことが分かった。
また、内周端面部の鏡面化が達成されておらず、スクラッチや取代残りなどがある面となっていた。
内周端面部の表面粗さを測定すると、Raで0.03μm乃至0.07μm、Rmax0.5μm乃至0.8μmであり、比較的粗い研磨面となっていた。
これは、ガラスディスクの円孔の内径に対して、研磨ブラシの毛材の長さが十分ではないなどの不適合からくる円孔内への研磨剤の供給量の不足が、円滑な研磨を阻害していること、また、研磨ブラシの軸心が細いことにより研磨ブラシの剛性が不足し安定性が欠如したことなどが原因と考えられる。
そして、この比較例における磁気ディスク用基板の抗折強度は、前述の表1に示すように、前述の実施例1における磁気ディスク用基板に比ぺて低くなっていることが分かる。これは、内周端面部に前工程における加工クラックが残存しているか、もしくは、研磨ブラシの毛材によって内周端面部にキズをつけてしまったことが原因と考えられる。
〔実施例2〕
この実施例2では、前述の実施例1において作製された磁気ディスク用基板を用いて、以下の工程により、磁気ディスクを製造した。
前述の磁気ディスク用基板の両主表面に、静止対向型のDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、Al−Ru合金第1下地層、Cr−Mo合金第2下地層、Co−Cr−Pt−B合金磁性層、水素化炭素保護層を順次成膜した。次に、アルコール変性パーフロロポリエーテル潤滑層をディップ法で成膜した。このようにして磁気ディスクを得た。
得られた磁気ディスクについて、異物により磁性層等の膜に欠陥が発生していないことを確認した。また、グライドテストを実施したところ、ヒット(ヘッドが磁気ディスク表面の突起にかすること)やクラッシュ(ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突すること)は認められなかった。さらに、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったところ、サーマルアスペリティ障害による再生の誤動作は認められなかった。
なお、以上の試験は1平方インチ当たりの情報記録密度が40ギガビット相当の磁気ディスク用の試験方法として行った。具体的には磁気ヘッドの浮上量は10nmとし、記録再生試験では情報線記録密度を700fciとした。
すなわち、本発明による磁気ディスクにおいては、ガラス基板表面の異物による問題が回避できており、磁気抵抗型ヘッドにとって良好な磁気ディスクとして作製されていることがわかった。
本発明に係る磁気ディスク用基板の製造方法及び製造装置によって製造される磁気ディスク用基板の構成を示す斜視図である。
前記磁気ディスク用基板の円孔の内周側端面の形状を示す断面図である。
本発明に係る研磨ブラシの構成を示す側面図である。
本発明に係る研磨ブラシの製造方法を示す断面図である。
本発明に係る研磨ブラシの製造方法の他の例を示す断面図である。
本発明に係る研磨ブラシの製造方法のさらに他の例を示す断面図である。
本発明に係る研磨ブラシの構成の他の例を示す断面図である。
前記磁気ディスク用基板の製造方法において複数の磁気ディスク用基板について円孔の内周側端面を研磨する工程を示す断面図である。
前記磁気ディスク用基板の製造方法において複数の磁気ディスク用基板について円孔の内周側端面を研磨する工程の他の例を示す断面図である。
本発明に係る磁気ディスク用基板の製造装置の構成を示す側面図である。
本発明の実施例における磁気ディスク用基板の製造方法における研磨ブラシの回転方向及び回転速度の変化を示すグラフである。
従来の研磨ブラシの構成を示す斜視図である。
符号の説明
1 円孔
2 磁気ディスク用基板
3 研磨ブラシ
4 軸心
5 芯線
6 毛材