JP2006001881A - フッ素化有機化合物の製造法 - Google Patents
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Abstract
【課題】直接フッ素化法の問題点、特に使用できる不活性溶媒が限定されるために生ずる問題点を解決し、フッ素化反応、とりわけ全フッ素化反応を効率よく行える方法を提供する。
【解決手段】反応基質をフッ素化するに当たり、反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機反応溶媒及びフッ素ガスを流路(チャンネル)(R)中において接触させ、該流路中でフローでフッ素化反応させるフッ素化有機化合物の製造方法。
【選択図】図1
【解決手段】反応基質をフッ素化するに当たり、反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機反応溶媒及びフッ素ガスを流路(チャンネル)(R)中において接触させ、該流路中でフローでフッ素化反応させるフッ素化有機化合物の製造方法。
【選択図】図1
Description
本発明は新しいフッ素化有機化合物の製造方法に関する。詳しくは等価直径5mm以下の流路(チャンネル)中で、反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを接触させるフッ素化有機化合物の製造方法に関する。
フッ素ガスを用いた有機化合物のフッ素化反応を一般的に「直接フッ素化反応」と呼ばれる。直接フッ素化反応における問題は、フッ素ガスと有機化合物が反応する時発熱が激しく、しばしば反応熱をコントロールできないほど爆発的に反応することである。そこで、分子内の水素原子を全てフッ素原子に置き換えるような全フッ素化反応(パーフルオロ化反応)には一般に電解フッ素化法が用いられていた。電解フッ素化法とは、有機化合物をフッ化水素に溶かし、電気分解を行いながらC−H結合をC−F結合に変換するフッ素化方法である。しかしながら、電解フッ素化反応はC−C結合の切断やその再結合が顕著に起こるため副生成物が多く、必ずしも満足できる全フッ素化反応ではなかった。
近年、光ファイバーや反射防止膜用等のポリマーとして、フッ素原子を含有するポリマーに対するニーズが高まっている。その理由は、フッ素原子を分子内に導入すると伝送損失が低下すること、および屈折率が低下することなど上記材料に要求される機能性が得られるためである。そのポリマーを設計する上で、分子内にフッ素原子を出来るだけ多く導入する方法が重要になってくるが、その方法としてフッ素ガスを用いる直接フッ素化方法に対する期待が高まってきている。
前記の直接フッ素化反応の問題を克服する方法として、これまで幾つかの方法が開示されている。
例えば、不活性媒体を用いて熱拡散をしやすくする方法である。部分的にフッ素化された出発物質を、不活性液状媒質(例えば、パーフルオロヘキサン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンなどのパーフルオロ化合物)中に溶解して希釈し、熱拡散をし易くしてフッ素ガスと反応させ、かつ紫外線を照射する方法である(特許文献1および2参照)。この方法より相対的に収率は改善されるが、パーフルオロ媒体に溶解性を増すためと思われるが部分的フッ素化した出発物質の使用が必要で、かつ紫外線照射が必要な点が難点である。
例えば、不活性媒体を用いて熱拡散をしやすくする方法である。部分的にフッ素化された出発物質を、不活性液状媒質(例えば、パーフルオロヘキサン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンなどのパーフルオロ化合物)中に溶解して希釈し、熱拡散をし易くしてフッ素ガスと反応させ、かつ紫外線を照射する方法である(特許文献1および2参照)。この方法より相対的に収率は改善されるが、パーフルオロ媒体に溶解性を増すためと思われるが部分的フッ素化した出発物質の使用が必要で、かつ紫外線照射が必要な点が難点である。
また、不活性ガス(窒素等)で希釈したフッ素ガスを用いる方法も提案されている(特許文献3参照)。この方法によって、エーテル化合物をパーフルオロポリエーテル化合物とフッ化水素スカベンジャーとしてのアルカリ金属フッ化物の存在下にフッ素化を行うと高い収率が達成できるが、アルカリ金属フッ化物の使用を必要とする点が難点である。
アルカリ金属フッ化物を使用しない方法として、反応装置を温度制御して発生するフッ化水素(沸点19.54℃)を反応後直ちに反応系外に除去する方法が提案されている(特許文献4および5参照)。この方法では、反応装置の温度制御だけでなく、不活性ガス(窒素ガス)で希釈したフッ素ガスを用いることも重要で、不活性ガスはフッ化水素を反応系外に除去しやすくする働きもある。さらに不活性溶媒(パーフルオロ溶剤など)で希釈された反応基質と不活性ガスで希釈されたフッ素ガスの両者を、大量の不活性媒体に同時滴下するという高希釈条件下で行うことも重要である。反応基質を事前に不活性媒体に溶解しておくことは収率に大きく影響する。しかし、部分フッ素化されていない化合物はパーフルオロ系溶媒には溶解し難いという問題がある。パーフルオロ系溶媒のうちメタン、エタンなどの炭化水素にフッ素及び塩素が結合した化合物であるフロンは比較的溶解性があるが、そのほとんどはオゾン層を破壊する力が強いため特定フロン(フロン11、12、113、114、115)に指定され、1987年国連環境計画の大使会議においてオゾン層保護条約議定書の合意がなされ、特定フロンは製造禁止になった。そのため、この方法で高収率を達成するためには安全なパーフルオロ系溶媒に反応基質の溶解性を高めるために部分フッ素化率を高めるか、極めて高希釈条件下で行うなどの制約が生ずる。そのため反応基質をフッ素含有基を導入するという煩雑な工程を経由するためにコストが高くなったり、生産性が極めて低く大量生産が困難などの問題が生じている。
一方、最近、マイクロ化学プロセス技術(マイクロリアクター技術)を用いた直接フッ素化反応が提案されている(特許文献6、及び非特許文献1,2参照)。「マイクロ化学プロセス技術」とは、マイクロ加工技術などにより固体基板上に作成された幅数μm〜数百μmのマイクロ流路内で発現する化学・物理現象を利用した物質生産・化学分析技術である。マイクロ空間ではレイノルズ数が小さいので層流支配であり、比表面積が非常に大きくまた、フローで反応を行うことができる。これにより高速混合・拡散が可能となり、また、流路壁の利用、流速コントロールなども容易である。従って、高速−高選択的化学反応、精密温度制御、精密反応時間制御が行えるので、この技術を用いると化学反応を効率的に行なえる可能性が高い。しかしながら、この方法を直接フッ素化反応に適用した開示例の研究の主眼は、反応が激しくコントロールし難い直接フッ素化反応を用いて部分フッ素化しようというものであり、全フッ素化反応を如何に効率的に行うかという観点は弱い。一部全フッ素化反応に用いた例も報告されているが、反応中または反応後にかなり高温に加熱するなど、マイクロ化学プロセス技術の特徴を必ずしも生かした方法とは言いがたいレベルである。
本発明は、従来の直接フッ素化法の問題点、特に使用できる不活性溶媒が限定されるために生ずる問題点を解決し、フッ素化反応、とりわけ全フッ素化反応を効率よく行える方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、あるサイズ以下の等価直径の流路中で、ある種の溶媒を用いてフローでフッ素化反応を行うと、フラスコ中でのバッチ方式で行った方法に比べて溶媒の制約を余り受けることなく収率よく進行することを見出した。本発明はこれらの新しい知見に基づきなされたものである。
すなわち、本発明は
(1)フッ素ガスを用いてフッ素化する反応において、フッ素化反応を受ける反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを、反応を開始するための流路中にて接触させることを特徴とするフッ素化有機化合物の製造方法、
(2)反応を開始するための流路の等価直径が5mm以下であることを特徴とする(1)記載の製造方法、
(3)反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを別々の導入口から注入し、流路中ではじめて接触することを特徴とする(1)または(2)記載の製造方法、
(4)反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を反応流路に到達する前に接触混合し、反応を開始するための流路中でフッ素ガスと接触することを特徴とする(1)〜(3)記載の製造方法、
(5)フッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を反応流路に到達する前に接触混合し、反応を開始するための流路中で反応基質と接触することを特徴とする(1)〜(4)記載の製造方法、
(6)フッ素ガスを用いてフッ素化する反応が、反応基質のC−H結合の全てをフッ素化する全フッ素化反応であることを特徴とする(1)〜(5)記載の製造方法、
(7)実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が、ほぼ分子内の全てのC−H結合がC−F結合に置き換えられたパーフルオロ有機溶媒であることを特徴とする(1)〜(6)記載の製造方法、
(8)反応基質がフッ素原子を含有する場合、フッ素原子が分子量に占める比率が40質量%未満であることを特徴とする(1)〜(7)記載の製造方法、
(9)用いられるフッ素ガスが、窒素ガスで希釈されていることを特徴とする請求項(1)〜(8)記載の製造方法、
(10)反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒の混合比が、体積比で0.03:1〜0.5:1であることを特徴とする(4)記載の製造方法、
(11)反応基質を実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に加熱して溶解させた均一混合液を、均一性を維持したままフッ素ガスと接触させることを特徴とする(4)記載の製造方法、
(12)実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が触媒量の芳香族炭化水素を含有することを特徴とする(1)〜(11)記載の製造方法、
により達成された。
(1)フッ素ガスを用いてフッ素化する反応において、フッ素化反応を受ける反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを、反応を開始するための流路中にて接触させることを特徴とするフッ素化有機化合物の製造方法、
(2)反応を開始するための流路の等価直径が5mm以下であることを特徴とする(1)記載の製造方法、
(3)反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを別々の導入口から注入し、流路中ではじめて接触することを特徴とする(1)または(2)記載の製造方法、
(4)反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を反応流路に到達する前に接触混合し、反応を開始するための流路中でフッ素ガスと接触することを特徴とする(1)〜(3)記載の製造方法、
(5)フッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を反応流路に到達する前に接触混合し、反応を開始するための流路中で反応基質と接触することを特徴とする(1)〜(4)記載の製造方法、
(6)フッ素ガスを用いてフッ素化する反応が、反応基質のC−H結合の全てをフッ素化する全フッ素化反応であることを特徴とする(1)〜(5)記載の製造方法、
(7)実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が、ほぼ分子内の全てのC−H結合がC−F結合に置き換えられたパーフルオロ有機溶媒であることを特徴とする(1)〜(6)記載の製造方法、
(8)反応基質がフッ素原子を含有する場合、フッ素原子が分子量に占める比率が40質量%未満であることを特徴とする(1)〜(7)記載の製造方法、
(9)用いられるフッ素ガスが、窒素ガスで希釈されていることを特徴とする請求項(1)〜(8)記載の製造方法、
(10)反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒の混合比が、体積比で0.03:1〜0.5:1であることを特徴とする(4)記載の製造方法、
(11)反応基質を実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に加熱して溶解させた均一混合液を、均一性を維持したままフッ素ガスと接触させることを特徴とする(4)記載の製造方法、
(12)実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が触媒量の芳香族炭化水素を含有することを特徴とする(1)〜(11)記載の製造方法、
により達成された。
本発明によれば、5mm以下の反応流路、とりわけ1mm以下の反応流路中で特定フロンではない安全なパーフルオロ有機溶媒を使用して直接フッ素化反応を行っても、従来のフラスコ等で行う方法に比べ収率良く全フッ素化化合物を製造することができる。
すなわち、流路を用いるフロー反応で反応時間を制御し、さらに狭い空間での反応温度制御の精密さを利用し、好ましくない副反応を抑えたフッ素化反応をことができる。この方法における量生産製造プロセスは従来のスケールアップとは異なり個々の精密な反応装置(流路)のナンバーリングアップ(装置の並列化)によることから製造化にかかる検討時間を激減できる。
また、フッ素ガスによる全フッ素化反応が容易になることにより、新たな機能をもつフッ素化ポリマーの設計も容易になることが当然理解できる。
すなわち、流路を用いるフロー反応で反応時間を制御し、さらに狭い空間での反応温度制御の精密さを利用し、好ましくない副反応を抑えたフッ素化反応をことができる。この方法における量生産製造プロセスは従来のスケールアップとは異なり個々の精密な反応装置(流路)のナンバーリングアップ(装置の並列化)によることから製造化にかかる検討時間を激減できる。
また、フッ素ガスによる全フッ素化反応が容易になることにより、新たな機能をもつフッ素化ポリマーの設計も容易になることが当然理解できる。
以下に本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
本発明に用いられる装置は、等価直径5mm以下の反応を開始するための流路(チャンネル)を有する装置であり、好ましくは等価直径1mm以下の反応流路を有する装置である。まず、等価直径について以下に説明する。
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し断面積が等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管では
本発明に用いられる装置は、等価直径5mm以下の反応を開始するための流路(チャンネル)を有する装置であり、好ましくは等価直径1mm以下の反応流路を有する装置である。まず、等価直径について以下に説明する。
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し断面積が等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管では
、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路が本発明の好ましいサイズであるマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq 2/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
本発明の好ましいサイズであるマイクロスケールの流路(チャンネル)を有する反応装置は、一般に「マイクロリアクター」と総称され、最近大きな発展を遂げている(例えば、W. Ehrfeld, V. Hessel, H. Loewe, “ Microreactor ”, 1Ed.(2000), WILEY−VCH 参照)。
マイクロリアクターには、その断面を円形に換算した場合の等価直径が数μm〜数百μm程度の複数本のマイクロ流路、及びこれらのマイクロ流路と繋がる混合空間が設けられており、このマイクロリアクターでは、複数本のマイクロ流路を通して複数の溶液をそれぞれ混合空間へ導入することで、複数の溶液を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。
次に、上記のようなマイクロリアクターによる反応がタンク等を用いたバッチ方式と異なる点を説明する。すなわち、液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって反応が起こるので、微小空間(マイクロ流路)内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また前記のように分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、スケールを小さくするに従って、反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味している。また、微小空間においては、スケールが小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となって流れている状態でそれぞれの溶液中の成分の交換、拡散により反応が進行する。層流状態を反応流路中で維持するか、部分的又は全面的に混合するかは、流路・条件の設計により制御できる。
上記のような特徴を有するマイクロリアクーを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまうことから、生成物が不均一になったり、混合容器内で凝集や析出が生じてしまうおそれがある。これに対して、マイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通する(フローする)ので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止できる。こうして、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での凝集や析出も生じ難くなる。
また、実験的な製造設備により製造された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造(スケールアップ)する際には、従来、実験的な製造設備に対し、バッチ方式による大規模の製造設備での再現性を得るために多大の労力及び時間を要していた。しかし、本発明方法では必要となる製造量に応じて、マイクロリアクーを組み込んだ製造ラインを任意の数だけ並列配設することにより、このような再現性を実現するための労力及び時間を大幅に減少できる可能性がある。
本発明に用いられる流路は、例えば固体基板上に微細加工技術を用いて作成される場合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でも良い。例えば、金属鋼(例えば、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、モネル(銅合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、ポリマー樹脂(PMMA、PEEK、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂など)またはセラミックスなどであるが、フッ素ガスや反応して生成するフッ化水素に耐えうる材料が好ましく、ハステロイ、モネルもしくはニッケルなどの金属鋼、テフロンなどのフッ素系樹脂またはサファイアガラスが特に好ましい。
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
マイクロ流路を作成する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
本発明に用いられる装置における流路の等価直径は、5mm以下であり、好ましくは1mm以下である。更に好ましくは10μm〜1mmであり、特に好ましくは20〜500μmである。また流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、更に好ましくは5mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。
本発明においてフッ素ガスを用いる直接フッ素化反応は、流路の中を流れながら、すなわち連続フロー法で行われる。
本発明に用いられる流路の数量は、適宜反応装置にそなえられるものであり、勿論、1つでも構わないが、必要に応じて流路を何本も並列化し(ナンバーリングアップ)、その処理量を増大させることが出来る。
本発明の流路は、固体基板上に微細加工技術を用いて作成されたものに限らず、例えば、入手可能な数μm〜数百μmの内径を有するチューブでも良い。高速液体クロマトグラフ用、ガスクロマトグラフ用部品として市販されている数μm〜数百μmの内径を有するSUS316、ニッケルもしくはチタンなどの金属チューブ、またはフッ素樹脂(例えばテフロン)チューブが使用可能である。
これまでにマイクロリアクターに関しては、反応の効率向上などを目指したデバイスに関する報告がなされている。例えば、特開2003−210960号、特開2003−210963号、特開2003−210959号はマイクロミキサーに関するものであり、本発明はこれらのマイクロデバイスを利用することもできる。
本発明で用いる流路は目的に応じて表面処理してもよい。金属材料、石英ガラスまたは通常プラスチック材料の表面処理を行いフッ素ガスやフッ化水素に侵食され難くすることは安い材料でシステムを組み立てるときに有効である。例えば、金属材料、石英ガラスまたは通常のプラスチック材料で作製したチューブの中にフッ素ガスを流通し、金属の表面に金属フッ化物の不動薄膜、ガラスの表面にフッ化シリコン薄膜、またはプラスチックの表面にフッ素樹脂薄膜を作製することは有効である。
流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するためには、流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。本発明において、流路中でフローで反応させるための流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
これらの方式を以下に詳しく説明する。流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのマイクロバルブ構造などを、リアクターシステム内部に設ける。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用して流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ない。この場合、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現できることが知られている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
本発明における流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
本発明の流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
本発明におけるフッ素化反応の条件は個々の反応基質の種類によって決まり一義的に限定することはできないが、反応が開始する流路の温度は室温以上であり、好ましくは20〜300℃であり、特に好ましくは50℃〜100℃である。反応開始後の反応混合物は流路を通ってテフロン容器などに貯められるが、この間の温度は10℃〜50℃であり、好ましくは20℃〜40℃である。反応時間、すなわちチャンネル中の滞留時間は5秒以上、好ましくは10秒間〜120分間である。反応時の圧力は好ましくは0.1MPa以上、好ましくは0.1〜1.0MPaである。
本発明において、フッ素化反応を受ける反応基質はフッ素化、特に全フッ素化(パーフッ素化)可能なら特に限定されないが、具体的にはアルカン(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン)、アルケン(例えば、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1,5−シクロオクタジエン)、アルキン(例えば、2−ヘキシン、1−オクチン、1−デシン、アルコール(例えば、1−ヘキサノール、3−ペンタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、トリプロピレングリコールブチルエーテル、1−オクタノール、1−ドデカノール)、エーテル(例えば、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、エトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキエタン、1,2−ジメトキシプロパン、ビス(2−ブトキシエトキシ)メタン、3,3−ジエトキシ−1−プロパノール、3,3−ジエトキシ−1−プロピン)、エステル(例えば、酢酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、ヘキサン酸エチル、アジピン酸ジエチル、コハク酸ジブチル、フタル酸ジブチル、安息香酸ブチル、ケイ皮酸エチル、ラウリン酸メチル)、アミド(例えば、ヘキサンアミド、N,N−ジメチルブタンアミド、ベンズアミド、ドデカンアミド)、カルボン酸(例えば、酪酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリル酸、オレイン酸)、スルホン酸(例えば、1−オクタンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、)、酸ハライド(例えば、イソ酪酸クロリド、ヘキサノイルクロリド、オクタノイルクロリド、ドデカノイルクロリド、ベンゾイルクロリド)またはアミン系化合物(例えば、2−エチルヘキシルアミン、1−ヘキシルアミン、アニリン、メタトルイジン、)である。好ましくは炭素および水素原子以外の分子構成元素が、酸素もしくはハロゲン(特にフッ素、塩素)である50℃で液状化合物であり、特に好ましくはこれらが構成元素である炭素数5〜20のアルカン、飽和の脂肪族エーテル、飽和の脂肪族カルボン酸エステル、飽和の脂肪族酸ハライド系の液状化合物である。
フッ素化反応を受ける反応基質を実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に溶解しやすくするために、分子構造の一部に既にフッ素化されている試薬を用いて部分フッ素化構造を導入する方法が多用され、この目的のためには一般には分子中のフッ素原子の含有量が50〜60質量%以上が好ましいと言われるが、本発明でこの手法を用いる場合、40質量%未満で十分である。
本発明において、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とは、分子内のほぼ全てのC−H結合がC−F結合に置き換えられたパーフルオロ有機溶媒であり、具体的には残留する炭素結合した水素の含量が一般に0.4mg/g以下である液状有機化合物である。好ましくは0.1mg/g以下であり、特に好ましくは0.01〜0.05mg/gである液状有機化合物である。
更に詳しくは、全フッ素化されたペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、もしくはデカリンなどのパーフルオロアルカン類、フロリナート(FluorinertR、3M社商標)FC−75(商品名、住友スリーエム社製)、クライトックス(KrytoxR、DuPont社商標)(デュポン社製)、フォブリン(FomblinR、AUSIMONT社商標)(ソルベイソレクシス社製)もしくはガルデン(GaldenR、AUSIMONT社商標)(ソルベイソレクシス社製)などのパーフルオロエーテル類、フロリナート(FluorinertR、3M社商標)FC−40(商品名住友スリーエム社製)などのパーフルオロトリアルキルアミン類、フレオン(FreonR、DuPont社商標)113(1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン)もしくはフレオン(FreonR、DuPont社商標)(いずれも三井・デュポンフロロケミカル社製)11(フルオロトリクロロメタノン)などのクロロフルオロカーボン類、2,5,5−トリクロロパーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロビス(クロロエチル)エーテルもしくはパーフルオロポリエピクロロヒドロンなどのクロロフルオロエーテル類、パーフルオロ−1,4−ブタンジスルホニルフルオライドもしくはパーフルオロブタンスルホニルフルオライドなどのパーフルオロアルカンスルホニルフルオライド類である。これらを2種類以上混合して使用してもよい。
好ましい実質的にC−H結合を有しない有機溶媒は、パーフルオロアルカン類、パーフルオロエーテル類である。特に好ましくはパーフルオロエーテル類である。
反応に使用される有機溶媒の量は反応基質に対して、体積比で2〜50倍であり、好ましくは5〜20倍である。
実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に触媒量の芳香族炭化水素を含有させることにより、反応が促進されることがある。触媒量とは有機溶媒に対して10体積%以下であり、好ましくは5体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である。芳香族炭化水素としては、好ましくはベンゼン、トルエンもしくはナフタレンである。
本発明に用いられるフッ素ガスは、希釈しない100%のものでも良いし、不活性ガス(主に窒素)で希釈されたものを用いても良い。希釈される場合、10%〜50%のものが多用される。好ましくは窒素ガスで希釈されたフッ素ガスであり、特に好ましくは10%〜20%希釈のガスである。本明細書において、フッ素ガスの濃度に関する記載は体積%で表示している。
反応に使用されるフッ素ガスの量は、反応基質を全フッ素化するのに必要な当量数に対して一般に過剰に用いられるが、好ましくは1.2当量以上であり、特に好ましくは1.5〜5当量である。
直接フッ素化反応方法として、1)反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを別々の導入口から注入し、流路中ではじめて接触させる方法、2)反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中でフッ素ガスと接触させる方法、3)フッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中で反応基質と接触させる方法、4)前記2)と前記3)を組み合わせて、反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、さらにフッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、これらを反応流路中で接触させる方法がある。これらのどの方法を用いるかは、結果として得られる反応収率に一番有効な方法を選ぶが、一般的には反応基質の用いる実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に対する溶解度により決める。反応基質が実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に余り溶解しない場合(体積比5%未満)は、1)と3)の方法が多く用いられ、反応基質が実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に比較的溶解する場合(体積比5%以上)は2)又は4)の方法が多く用いられる。
1)の反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを別々の導入口から注入し、流路中ではじめて接触させる方法を行う時は、例えば図1に示すような導入口を3つ有する反応装置を用い、導入口Aから反応基質、導入口Bから有機溶剤、導入口Cからフッ素ガスを注入し、それらを反応ゾーンで混合することにより反応を開始させる。反応後は反応に適した温度にコントロールされた流路を通り、余分なガスを容器外に除けるような出口を持ったテフロン製の容器に集められる。その容器にたまった反応液は撹拌されることが好ましい。
2)の反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中でフッ素ガスと接触させる方法を行う時は、図2のような装置を用い行われる。導入口Dから反応基質を溶解した実質的にC−H結合を有しない有機溶媒溶液を注入し、導入口Eからフッ素ガスを注入する。反応基質を実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に溶解する方法として、ドイツのIMM社製やアメリカのASI社製のマイクロミキサーを用いてインラインで溶解する方法が有効である。もし加熱して反応基質を溶解した場合は反応開始ゾーンの流路まではその温度を保持するように恒温層を用いる。反応開始ゾーン以降は温度コントロールゾーンであり、反応収率向上に好ましい温度にコントロールされる。
3)のフッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中で反応基質と接触させる方法を行う時は、フッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒を溶解するのに、IMM社製やASI社製のマイクロミキサーを用いるのが好ましい。反応装置は図2ような装置であり、導入口Dから反応基質を注入し、導入口Eからフッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒の混合物が注入し、反応ゾーンで接触させる。
その後温度コントロールゾーンで反応収率向上に好ましい温度にコントロールされる。
その後温度コントロールゾーンで反応収率向上に好ましい温度にコントロールされる。
反応基質の流路への導入速度(ml/min)は、一般にフッ素ガス導入速度のコントロールの方が難しい場合が多いのでその導入速度優先で決められる。フッ素ガス導入速度は一般に1〜100ml/minの速度であり、好ましくは1〜10ml/minである。反応基質の導入速度はフッ素ガスを反応基質に対して何当量用いるかにより決められる。1)の方法を用いる場合の実質的にC−H結合を有しない有機溶媒の導入速度は、一般に反応基質の導入速度の0.5〜100倍であり、好ましくは1〜20倍である。
反応の進行はテフロン容器に貯められた反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析するのが一般的である。生成物の構造確認はマススペクトルとF−NMR(フッ素核磁気共鳴スペクトル)により行われる。反応生成物の精製は、有機溶媒を減圧除去後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製するか、精密蒸留することにより行われるが、好ましくは精密蒸留で行われる。
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ニッケル金属で作成した図1に示した反応装置10を用いてパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを製造した。図1の(a)は長手方向に沿う断面図、図1の(b)は図1(a)のIa−Ia線断面図である。図示のように導入口A,B及びCを設け、導入口Aからの流路直径(内径)aを100μm、導入口Bからの流路内径bを380μm、流路直径cを660μmとした。導入管P、Qの壁厚は40μmである。流路Rの流路長nは20mmであり排出口Fに接して下流側に、図示しないが、内径700μm、長さ1mのコイル状ニッケル管を接合しその部分を50℃恒温槽に入れた。ニッケル管の先にはテフロン製異径コネクターで外径1.6mm、内径500μm、長さ50cmのテフロンチューブを接合し、それを20℃の恒温槽にいれた。その出口には反応液を溜めるための蓋付のテフロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
ニッケル金属で作成した図1に示した反応装置10を用いてパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを製造した。図1の(a)は長手方向に沿う断面図、図1の(b)は図1(a)のIa−Ia線断面図である。図示のように導入口A,B及びCを設け、導入口Aからの流路直径(内径)aを100μm、導入口Bからの流路内径bを380μm、流路直径cを660μmとした。導入管P、Qの壁厚は40μmである。流路Rの流路長nは20mmであり排出口Fに接して下流側に、図示しないが、内径700μm、長さ1mのコイル状ニッケル管を接合しその部分を50℃恒温槽に入れた。ニッケル管の先にはテフロン製異径コネクターで外径1.6mm、内径500μm、長さ50cmのテフロンチューブを接合し、それを20℃の恒温槽にいれた。その出口には反応液を溜めるための蓋付のテフロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
導入口Aよりビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを3.09ml/hrの速度で注入し、導入口Bからは2%(体積)のトルエンを含有するフルオリナートFC−72(パーフルオロアルカンの一種、住友スリーエム社製)を100ml/hrの速度で注入し、更に導入口Cからは窒素で20%に希釈したフッ素ガスを43ml/min(約2当量)の速度注入した。注入速度はシリンジポンプまたはマスフローセンサーで調整した。反応を開始する流路Rは特に温度コントロールしなかったが、30℃となった。約1時間各流体を注入した後各流体の注入を停止し、テフロン製容器に溜まった反応液を約1時間攪拌した。その後ガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応転化率は90%でパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンの生成率は95%であった。テフロン製容器に溜まった反応液に窒素ガスをバブリングして十分にフッ化水素を除きながら反応液を更に約1時間攪拌した。その後ミクロ蒸留装置で分離精製すると目的のパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを収率75%で得ることができた。
同様な反応をバッチ法で行った特開平4−502319号の実施例2と比較すると、本発明の反応収率は58%から75%に向上し、本発明の優位性が示された。
(実施例2)
ニッケル金属で作製した図2に示した装置20を用いてパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを製造した。図2の(a)は長手方向に沿う断面図、図2の(b)は図1の(a)のIIa−IIa線断面図である。図示のように導入口D及びEを設け、導入口Dの流路直径(内径)dを100μm、導入口Eからの流路T内径eを380μmとした。導入管Sの壁厚は40μmである。流路長mは20mmであり、図示しないが排出口Gには下流側に内径400μm、長さの1mのコイル状ニッケル管を接合しその部分を70℃の恒温槽に入れた。ニッケル管の先にはテフロン製異径コネクターで外径1.6mm、内径500μm、長さ50cmのテフロンチューブを接合し、それを20℃の恒温槽にいれた。その出口には反応液を溜めるための蓋付のテフロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
ニッケル金属で作製した図2に示した装置20を用いてパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを製造した。図2の(a)は長手方向に沿う断面図、図2の(b)は図1の(a)のIIa−IIa線断面図である。図示のように導入口D及びEを設け、導入口Dの流路直径(内径)dを100μm、導入口Eからの流路T内径eを380μmとした。導入管Sの壁厚は40μmである。流路長mは20mmであり、図示しないが排出口Gには下流側に内径400μm、長さの1mのコイル状ニッケル管を接合しその部分を70℃の恒温槽に入れた。ニッケル管の先にはテフロン製異径コネクターで外径1.6mm、内径500μm、長さ50cmのテフロンチューブを接合し、それを20℃の恒温槽にいれた。その出口には反応液を溜めるための蓋付のテフロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
導入口Dよりビス(2−ブトキシエトキシ)メタン57.7gをベンゼン1%(体積)含有の250mlフレオン(フロン)113(三井・デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、12ml/hrの速度で注入し、導入口Bからは窒素で50%に希釈したフッ素ガスを17ml/min(約2当量)の速度で注入した。注入速度はシリンジポンプまたはマスフローセンサーで調整した。反応を開始する流路Tは50℃に温度コントロールした。フレオン113溶液の注入が終わった後、フッ素ガスの注入を停止し、テフロン製容器に溜まった反応液を1時間攪拌した。その後窒素ガスをバブリングして十分にフッ化水素を除きながら反応液を約1時間攪拌した。その後ミクロ蒸留装置で分離精製すると目的のパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを収率80%(ガスクロ純度95%)で得ることができた。
同様な反応をバッチ法で行った特開平4−502319号の実施例1と比較すると、本発明は使用したフッ素ガスの量が少ないにも関わらずGC(ガスクロマトグラフィー)純度が86.7%から95%に向上し、かつ収量も向上しており本発明の優位性が示された。
(実施例3)
実施例2で使用した図2の装置20の排出口Gの下流側に、図示しないが、長さ1mのテフロン管を接合しその部分を50℃恒温槽に入れた。テフロン管の先は反応液を溜めるための蓋付のテプロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
実施例2で使用した図2の装置20の排出口Gの下流側に、図示しないが、長さ1mのテフロン管を接合しその部分を50℃恒温槽に入れた。テフロン管の先は反応液を溜めるための蓋付のテプロン製容器に繋ぎ、ガスは容器の外でアルカリ性の溶液でクエンチできるようにした。
導入口Dよりビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを57.7gを12ml/hrの速度で注入し、導入口Eからは100%フッ素ガスと1%(体積)のトルエンを含むパーフルオロ系溶媒であるガルデンHT−70(パーフルオロポリエーテル系溶剤、ソルベイソレクシス社製)とを混合した流体を注入した。100%フッ素ガスと1%(体積)のトルエンを含むガルデンHT−70との混合はドイツIMM社のニッケル製シングルミキサー(流路幅25μm)で行った。シングルミキサーの出口を導入口Eにテフロンチューブで結合し、シングルミキサーの2つの導入口の一方には、フッ素ガスを27ml/minの速度で注入し、もう一方には1%(体積)のトルエンを含むガルテンHT−70を6ml/minの速度で注入した。注入速度はシリンジポンプまたはマスフローセンサーで調整した。反応を開始する流路Tは20℃に温度コントロールした。ビス(2−ブトキシエトキシ)メタンの注入が終了したらフッ素ガスと1%(体積)のトルエンを含むガルデンHT−70の注入を停止した。そしてテフロン製容器に溜まった反応液を1時間攪拌し、次に窒素ガスをバブリングして十分にフッ化水素を除きながら反応液を更に約1時間攪拌した。その後ミクロ蒸留装置で分離精製すると目的のパーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンを収率70%(ガスクロ純度90%)で得ることができた。
比較のために、特開平4−502319号の実施例2の溶媒であるFC−72をガルデンHT−70に変える以外は全く同様にしてと反応したところ、パーフルオロビス(2−ブトキシエトキシ)メタンの収率は50%であった。本発明の方法はフッ素ガスの量が少ないにも関わらず収量が向上した。
以上の実施例が示すように、本発明の製造方法はフレオン(フロン)113のような反応基質溶解性の高い溶媒は勿論、反応基質を余り溶解しないFC−72やガルテンHT−70を用いた場合でも、収率的に優位な結果を与えた。
10、20 ・・・ 反応装置
A、B、C、D、E ・・・ 導入口
R、T ・・・ 流路
A、B、C、D、E ・・・ 導入口
R、T ・・・ 流路
Claims (12)
- 反応基質をフッ素化するに当たり、反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒及びフッ素ガスを流路(チャンネル)中において接触させ、該流路中でフローでフッ素化反応させることを特徴とするフッ素化有機化合物の製造方法。
- 前記反応をさせるときの流路の等価直径が5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 反応基質、実質的にC−H結合を有しない有機溶媒、およびフッ素ガスを別々の導入口から注入し、流路中ではじめて接触することを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
- 反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中でフッ素ガスと接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- フッ素ガスと実質的にC−H結合を有しない有機溶媒とを、反応を開始するための流路に到達する前に接触混合し、反応流路中で反応基質と接触することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
- フッ素ガスを用いてフッ素化する反応が、反応基質のC−H結合の全てをフッ素化する全フッ素化反応であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が、ほぼ分子内の全てのC−H結合がC−F結合に置き換えられたパーフルオロ有機溶媒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
- 反応基質がフッ素原子を含有する場合、フッ素原子が分子量に占める比率が40質量%未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
- 用いられるフッ素ガスが、窒素ガスで希釈されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
- 反応基質と実質的にC−H結合を有しない有機溶媒の混合比が、体積比で0.03:1〜0.5:1であることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
- 反応基質を実質的にC−H結合を有しない有機溶媒に加熱して溶解させた均一混合液を、均一性を維持したままフッ素ガスと接触させることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
- 実質的にC−H結合を有しない有機溶媒が触媒量の芳香族炭化水素を含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
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