JP2005333108A - 圧電素子、インクジェットヘッド、角速度センサ及びインクジェット式記録装置 - Google Patents

圧電素子、インクジェットヘッド、角速度センサ及びインクジェット式記録装置 Download PDF

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Satoru Fujii
覚 藤井
Takeshi Kamata
健 鎌田
Atsushi Tomosawa
淳 友澤
Akiyuki Fujii
映志 藤井
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Abstract

【課題】 圧電素子において結晶性及び配向性の良好なペロブスカイト型酸化物からなる圧電体層を形成して、この圧電素子の特性ばらつきを低減するとともに、耐電圧及び信頼性を向上させる。
【解決手段】 第1の電極層14上に、立方晶系又は正方晶系の配向制御層15を設け、この配向制御層15上に、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなりかつ菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有する圧電体層16を形成する。この圧電体層16を形成する際に、該圧電体層16の結晶粒を、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、電気機械変換機能を呈する圧電素子、この圧電素子を用いたインクジェットヘッド、角速度センサ及びこれらの製造方法、並びに上記インクジェットヘッドを印字手段として備えたインクジェット式記録装置に関する技術分野に属する。
一般に、圧電材料は、機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換し、或いは電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する材料である。この圧電材料の代表的なものとしては、ペロブスカイト型結晶構造のチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、PZTという)がある。このPZTにおいて最も大きな圧電変位が得られる方向は、正方晶系の場合には<001>方向(c軸方向)であり、菱面体晶系の場合には<111>方向である。しかし、多くの圧電材料は、結晶粒子の集合体からなる多結晶体であるため、各結晶粒子の結晶軸はでたらめな方向を向いている。したがって、自発分極Psもでたらめに配列している。
ところで、近年の電子機器の小型化に伴って、圧電材料を用いた圧電素子に対しても小型化が強く要求されるようになってきている。そして、この要求を満足させるために、圧電素子を、従来より多く使用されてきた焼結体に比べて体積を著しく小さくできる薄膜の形態で使用しつつあり、このような圧電素子に対する薄膜化の研究開発が盛んになってきている。例えば、正方晶系PZTの場合、自発分極Psはc軸方向を向いているので、薄膜化しても高い圧電特性を実現するためには、PZT薄膜を構成する結晶のc軸を基板表面に対して垂直方向に揃える必要がある。これを実現するために、従来においては、スパッタ法を用いて、結晶方位(100)面が表面に出るように切り出したNaCl型結晶構造の酸化マグネシウム(MgO)からなる単結晶の基板を用い、この基板上に、下部電極として(100)面に配向したPt電極薄膜を形成し、このPt電極上に、その表面に対して垂直方向にc軸配向したPZT薄膜を600〜700℃の温度で形成していた(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。この場合、PZT薄膜を形成する前に、PZT薄膜の下地層としてZrが存在しないPbTiO3や(Pb,La)TiO3からなる膜厚0.1μmの圧電体層を、(100)面に配向したPt電極上に形成しておいて、その上に膜厚2.5μmのPZT薄膜をスパッタ法により形成すると、PZT薄膜形成の初期にZr酸化物からなる結晶性の低い層が形成され難くなり、より高い結晶性のPZT薄膜が得られる。つまり、(001)面配向率(α(001))が略100%のPZT薄膜が得られる。
ここで、α(001)は、
α(001)=I(001)/ΣI(hkl)
で定義している。ΣI(hkl)は、X線回折法において、Cu-Kα線を用いたときの2θが10〜70°でのペロブスカイト型結晶構造のPZTにおける各結晶面からの回折ピーク強度の総和である。尚、(002)面及び(200)面は(001)面及び(100)面と等価な面であるため、ΣI(hkl)には含めない。
ところが、上記方法では、下地基板としてMgO単結晶基板を用いるため、圧電素子が高価になってしまい、この圧電素子を用いたインクジェットヘッドも高価になってしまうという問題がある。また、基板材料もMgO単結晶の一種類に制限されてしまうという欠点がある。
そこで、シリコン等の安価な基板の上にPZT等のペロブスカイト型圧電材料の(001)面又は(100)面結晶配向膜を形成する方法として、種々の工夫がなされている。例えば、特許文献2には、(111)面に配向したPt電極上に、PZT又はランタンを含有したPZTの前駆体溶液を塗布し、この前駆体溶液を結晶化させる前に、先ず450〜550℃で熱分解させ、その後550〜800℃で加熱処理して結晶化させること(ゾル・ゲル法)により、PZT膜の(100)面優先配向膜が生成可能であることが示されている。
また、特許文献3には、イリジウム下部電極上に極薄のチタン層を形成することにより、その上に形成するPZT膜の結晶配向性を制御できることが開示されている。この方法は、シリコン等の基板上に酸化ジルコニウムを主成分とする下地層を形成し、この下地層上にイリジウムを含有する下部電極を形成し、この下部電極上に極薄のチタン層を積層し、このチタン層上に、圧電特性を有する強誘電体を構成する、金属元素及び酸素元素を含む非晶質の圧電体前駆体薄膜を形成し、この非晶質の薄膜を高温で熱処理する方法で結晶化させること(ゾル・ゲル法)により、ペロブスカイト型圧電体薄膜に変化させる製造方法である。この製造方法では、チタン層の膜厚によりPZT等の圧電体薄膜の結晶配向性の制御が可能であり、チタン層膜厚を2〜10nmとすると、(100)面配向膜が得られ、チタン層膜厚を10〜20nmとすると、(111)面配向膜が得られる。
さらに、特許文献4には、ゾル・ゲル法を用いて圧電体薄膜を形成する際、(111)面配向のPt電極上に4〜6nmのチタン層を形成し、このチタン層のチタンが酸化した酸化チタンを核にすることで、(100)面配向のPZT膜が得られることが開示されている。
さらにまた、シリコン基板上に、PZT薄膜よりも高い圧電特性を持つように、PZTに添加物を添加して圧電体薄膜を形成するようにすることが試みられている。例えば特許文献5では、マグネシウムニオブ酸鉛を添加したPZT薄膜を用いた圧電素子が示されているとともに、Pt電極上に、そのマグネシウムニオブ酸鉛を添加したPZT薄膜をゾルゲル法により菱面体晶系の(100)面に優先配向するように形成可能であることが示されている。そして、非特許文献2では、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3を添加したPZT薄膜(0.9PZT−0.1PMN薄膜)の圧電特性が評価されている。このPZT薄膜は正方晶であって、(100)面及び(111)面の2方向に配向しているが、電界強度170kV/cmで190pm/Vという非常に高い圧電定数d31を示すことが報告されている。
特開平10−209517号公報 特許第3021930号公報 特開2001−88294号公報 特開平11−191646号公報 特開平10−81016号公報 特開2000−252544号公報 "ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス (Journal of Applied Physics)",(米国),アメリカ物理学会, 1989年2月15日,第65巻,第4号,p.1666-1670 "ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス (Japanese Journal of Applied Physics)",応用物理学会, 1999年2月,第38巻,第2A号,p.886-889 "ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス (Journal of Applied Physics)",(米国),アメリカ物理学会, 1998年4月1日,第83巻,第7号,p.3835-3841
しかし、上記のいずれの方法においても、高価なMgO単結晶基板を用いない方法としては優れているものの、ゾル・ゲル法により圧電体薄膜を形成するため、MgO単結晶基板上に圧電体薄膜を形成する場合のように、膜形成時において結晶配向した結晶性良好な膜を得ることは困難である。このため、先ず非晶質の圧電体薄膜を形成し、この圧電体薄膜を含む積層膜を基板ごと熱処理することで、結晶軸が相応しい方向に優先配向するようにしている。
また、ゾル・ゲル法では、圧電素子を量産すると、有機物を取り除く脱脂工程において、非晶質の圧電体前駆体薄膜に体積変化によるクラックが生じ易く、さらに、非晶質の圧電体前駆体薄膜を高温加熱して結晶化させる工程においても、結晶変化によりクラックや下部電極との膜剥離が生じ易い。
そこで、ゾル・ゲル法におけるこれらの課題を解決する方法として、特許文献5や特許文献6には、下部電極にチタンや酸化チタンを添加することが有効であることが示されている。特に、特許文献5では、スパッタ法を用いた場合でも、(100)面配向のPZT膜が得られることが示されている。但し、下部電極上に直接ペロブスカイト型PZT膜が得られるのではなくて、最初に200℃以下の低温でアモルファス又はパイロクロア型結晶構造のPZT膜を形成し、その後、酸素雰囲気中における500〜700℃の高温で熱処理することにより結晶化させており、ゾル・ゲル法と同様に、高温加熱して結晶化させる工程での結晶変化によりクラックや下部電極との剥離が生じ易いといった欠点がある。また、上記ゾル・ゲル法やスパッタ法により形成したPZT膜の(001)面配向度又は(100)面配向度は、いずれの方法においても85%以下である。
さらに、ゾル・ゲル法においては、一回の工程(前駆体溶液の塗布及びその後の熱処理)において形成されるPZT膜の膜厚がせいぜい100nm程度であるため、圧電素子に必要な1μm以上の膜厚を得るためには、上記工程を10回以上繰り返し行う必要があり、ともすると歩留まりが低くなってしまうという問題がある。
一方、上記特許文献3によれば、非晶質薄膜を一旦形成し、熱処理等の後処理によって結晶性薄膜に変化させて合成する方法であるゾル・ゲル法(MOD法も含む)以外の方法、つまり熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法、例えばスパッタ法、レーザーアブレーション法、CVD法により、極薄のチタン層を表面に形成したIr下地電極上へのPZT配向制御を試みたが、ゾル・ゲル法以外では配向膜は得られなかったとしている。その理由は、ゾル・ゲル法では、下部電極側から上部電極側にかけて徐々にPZT膜の結晶化が進行するのに対し、CVD法やスパッタ法等では、PZT膜の結晶化がランダムに進行して、結晶化に規則性がないことが配向制御を困難にしているからであるとしている。
また、(111)面配向Pt電極層上に、厚さ12nm以下の酸化チタン層を形成し、直接スパッタ法によりペロブスカイト型結晶構造のチタン酸鉛膜やPZT膜を形成した場合、いずれの膜も(111)面配向性を示し、(100)面又は(001)面配向膜は得られない(非特許文献3参照)。
さらに、たとえ(100)面又は(001)面配向膜が得られたとしても、圧電素子として駆動を続けた場合、クラックが発生するという問題がある。また、(111)面配向膜であっても、(100)面又は(001)面配向膜と同様に、クラックが発生するという問題がある。このクラックの発生は、圧電体薄膜の結晶粒が該圧電体薄膜の厚み方向と垂直な方向(膜面に沿った方向)に成長している結晶構造で多く見られ、柱状構造になっていて圧電体薄膜の厚み方向に適切に成長している結晶構造では殆ど見られなかった。これは、圧電体薄膜を駆動させたときに発生する応力が結晶粒界で緩和されているとともに、薄膜の密着力が高いためと考えられる。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストで、圧電特性に優れていて高信頼性の圧電素子が得られるようにすることにある。
上記の目的を達成するために、この発明では、電極層上に、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなる配向制御層を形成し、この配向制御層上に、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなりかつ菱面体晶系又は正方晶系の圧電体層を形成するとともに、この圧電体層を形成する際に、該圧電体層の結晶粒を、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比(平均断面径/長さ)が1/50以上1/14以下である柱状粒子とするようにした。
具体的には、請求項1の発明では、第1の電極層と、該第1の電極層上に設けられた配向制御層と、該配向制御層上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた第2の電極層とを備えた圧電素子を対象とする。
そして、上記配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされているものとする。
上記の構成により、圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることで、圧電素子を連続駆動した場合であっても、圧電体層の応力が適切に緩和されて、圧電体層にクラックが生じるのを抑制することができ、この結果、信頼性の向上化を図ることができる。また、圧電体層を、Pb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したPZTで構成することにより、優れた圧電特性が得られる。
請求項2の発明では、請求項1の発明において、配向制御層は、(100)面又は(001)面に優先配向しており、圧電体層は、(001)面に優先配向しているものとする。
すなわち、第1の電極層を、チタン等の酸化し易い含有物を含有した貴金属等で構成しておき、その第1の電極層上に配向制御層をスパッタ法等により形成すれば、第1の電極層が(111)面配向であったとしても、配向制御層が(100)面又は(001)面(立方晶系の場合は(100)面と(001)面とは同じである)に配向し易くなる。より詳しく説明すると、第1の電極層の表面部には、上記含有物が島状に点在しており、この含有物であるチタン等は酸化し易くて酸化物の形態で含有していなくても、配向制御層を形成する際等において酸素が存在すれば、その表面部に点在する含有物は酸化物となる。そして、配向制御層は、この島状に点在する含有物(酸化物)を核にしてその上側に結晶成長し、これにより、上記含有物上において(100)面又は(001)面に配向し易くなる。また、上記含有物は、第1の電極層に含有されているため、第1の電極層の表面からは殆ど突出しておらず(突出したとしてもその突出量は2nmよりも小さくなる)、このことからも、配向制御層は、(100)面又は(001)面に配向し易くなる。一方、第1の電極層は、シリコン等の基板上に設ける場合には、通常、(111)面配向となり、このため、配向制御層において第1の電極層の表面部における上記含有物が存在しない部分の上側領域では、(100)面及び(001)面以外の面配向(例えば(111)面配向)になったりアモルファスになったりする。しかし、このような(100)面や(001)面配向になっていない領域は、配向制御層における第1の電極層側の表面近傍部(当該表面からせいぜい20nm程度までの範囲)にしか存在しない。つまり、上記含有物上の(100)面又は(001)面配向の領域がその結晶成長に連れて広がるため、層厚方向と垂直な断面における該領域の面積が、第1の電極層側からその反対側(圧電体層側)に向かって大きくなり、これにより、(100)面や(001)面配向になっていない領域は小さくなって、配向制御層の厚みが20nm程度となった段階では略全体が(100)面又は(001)面配向の領域となる。こうして形成した配向制御層上に圧電体層を形成すれば、該配向制御層により圧電体層は(001)面配向(菱面体晶系の場合には、(100)面と(001)面とは同じあるため、この菱面体晶系の(100)面配向を含む)となる。この結果、圧電体層の(001)面配向度を90%以上にすることができるようになる。尚、配向制御層において(100)面や(001)面に配向していない領域は、第1の電極層の表面近傍部だけでなく、圧電体層側の表面に存在していてもよい。このような場合であっても、配向制御層の層厚が0.01μm以上であれば、圧電体層側の表面の大部分は(100)面又は(001)面配向の領域となり、圧電体層の(001)面配向度を90%以上にすることができる。この結果、圧電体層を、Pb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したPZTで構成することと相俟って、圧電特性を極めて良好に向上させることができる。
したがって、安価なシリコン等の基板上に、ゾル・ゲル法以外の、熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法(スパッタ法やCVD法等)であっても、配向性が良好な圧電体層が得られ、これにより、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる。すなわち、この圧電素子は、その圧電体層の膜表面に対して垂直方向に電界を印加して用いられるため、特に正方晶系の結晶構造においては、(001)面配向により、電界方向が<001>分極軸方向と平行になって大きな圧電特性が得られる。また、電界印加による分極の回転が起きないため、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる。一方、菱面体晶系の結晶構造においては、分極軸が<111>方向であるため、(100)面配向により、電界方向と分極軸方向との間に約54°の角度が生じるものの、(100)面配向性を向上させることにより、電界印加に対して分極は常に一定の角度を保つことができるため、この場合も電界印加による分極の回転が起きず、これにより、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる(例えば、無配向のPZT膜の場合には分極はいろいろな方向を向いているため、電界を印加すると、電界と平行方向に分極軸を向けようとするため、圧電特性が電圧依存性を有してばらつきが大きくなったり、経時変化が生じて信頼性に問題が生じたりする)。
そして、圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることと相俟って、圧電素子の信頼性のより一層の向上化を図ることができる。
また、高価なMgO単結晶基板を用いなくても、良好な配向性を有する圧電体層が容易に得られるので、安価なガラス基板、金属基板、セラミックス基板、Si基板等を用いることにより、製造コストを低減することができる。
さらに、圧電体層の膜厚が1μm以上であっても、ゾル・ゲル法のように同じ工程を何回も繰り返す必要がなく、圧電体層をスパッタ法等により容易に形成することができ、歩留まりの低下を抑制することができる。
請求項3の発明では、請求項1の発明において、配向制御層及び圧電体層は、共に(111)面に優先配向しているものとする。
すなわち、第1の電極層は、シリコン等の基板上に設ける場合には、通常、(111)面配向となり、このため、配向制御層も、(111)面配向となる。但し、上記請求項2の発明のように、第1の電極層にチタンや酸化チタン等の含有物が含有されている場合(基板と第1の電極層との間に密着層を設けなくても、基板と第1の電極層との密着性を高めることができるので、第1の電極層にチタン等を含有する場合がある)には、配向制御層においては、第1の電極層表面部の島状に点在する上記含有物(酸化物)を核にしてその上側に結晶成長し、これにより、配向制御層において第1の電極層の表面部における上記含有物が存在しない部分の上側領域では、(111)面配向となるが、上記含有物が存在する部分の上側領域では、(111)面配向とはならず、上記請求項2の発明のように(100)面又は(001)面配向となる。しかし、このような(111)面配向とならない領域が存在しても、配向制御層の厚みを8nm以下にしておけば問題とはならない。つまり、配向制御層において、結晶成長に連れて(配向制御層の厚みが大きくなるに連れて)、(111)面配向とならない領域は広がる一方、(111)面配向の領域は狭くなるため、配向制御層の厚みを、(111)面配向とならない領域がそれ程大きく広がらないような大きさ(具体的には8nm以下)とすれば、(111)面配向率は50%以上となる。こうして形成した配向制御層上に圧電体層を形成すれば、該配向制御層により圧電体層は(111)面配向となる。このような配向制御層を設けることにより、圧電体層には、圧電特性が良好な圧電材料を使用しつつ、配向制御層には結晶性や配向性をより向上させ得る材料を使用することができ、この結果、圧電体層の(111)面配向率を80%以上にすることができるようになる。
したがって、安価なシリコン等の基板上に、ゾル・ゲル法以外の、熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法(スパッタ法やCVD法等)であっても、配向性が良好な圧電体層が得られ、これにより、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる。すなわち、この圧電素子は、その圧電体層の膜表面に対して垂直方向に電界を印加して用いられるため、特に菱面体晶系の結晶構造においては、(111)面配向により、電界方向が<111>分極軸方向と平行になって大きな圧電特性が得られる。また、電界印加による分極の回転が起きないため、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる。一方、正方晶系の結晶構造においては、分極軸が<001>方向であるため、(111)面配向により、電界方向と分極軸方向との間に約54.7°の角度が生じるものの、(111)面配向性を向上させることにより、電界印加に対して分極は常に一定の角度を保つことができるため、この場合も電界印加による分極の回転が起きず、これにより、圧電特性のばらつきを低く抑えることができるとともに、信頼性を向上させることができる。よって、請求項2の発明と同様と同様の作用効果が得られる。
請求項4の発明では、請求項1の発明において、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mg、Mn、Ni、Co、Zn及びCdの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Nbであり、上記化学式中のaの値は1/3であり、bの値は2/3であるものとする。
請求項5の発明では、請求項1の発明において、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mg、Mn及びNiの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Ta又はSbであり、上記化学式中のaの値は1/3であり、bの値は2/3であるものとする。
請求項6の発明では、請求項1の発明において、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Fe、Cr、In、Y、Sb及びMnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Nbであり、上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であるものとする。
請求項7の発明では、請求項1の発明において、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Fe、Cr及びMnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Taであり、上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であるものとする。
請求項8の発明では、請求項1の発明において、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mn、Ni、Co、Mg及びZnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Te又はWであり、上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であるものとする。
これら請求項4〜8の発明により、圧電素子の圧電特性を良好に向上させ得るPb含有複合ペロブスカイト化合物が容易に得られる。
請求項9の発明では、請求項1の発明において、配向制御層は、ジルコニウムの含有量が0以上20モル%以下でありかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して0を越え30モル%以下過剰であるチタン酸ランタンジルコン酸鉛、又は該チタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したものからなるものとする。
このようなチタン酸ランタンジルコン酸鉛(PLZT;ジルコニウムの含有量が0である場合のチタン酸ランタン鉛(PLT)を含む)を配向制御層に用いれば、配向制御層の配向性、延いては圧電体層の配向性を向上させることができる。しかも、このようにジルコニウムの含有量を20モル%以下とすると、結晶成長初期にZr酸化物からなる結晶性が低い層が形成され難く、また鉛の含有量を化学量論組成と比較して0を越え30モル%以下過剰とすることで、配向制御層の結晶性の低下を確実に抑制することができ、このことで耐電圧を向上させることができる。よって、圧電体層の結晶性や配向性を確実に向上させることができて、圧電素子の圧電特性をより一層向上させることができる。
請求項10の発明では、請求項9の発明において、配向制御層のチタン酸ランタンジルコン酸鉛におけるランタンの含有量が0を越え25モル%以下であるものとする。
請求項11の発明では、請求項9の発明において、配向制御層においてチタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加する場合のトータル添加量は、0を越え10モル%以下であるものとする。
これら請求項10又は11の発明により、配向制御層の結晶性の低下をより有効に抑えることができる。
請求項12の発明では、請求項2の発明において、第1の電極層は、チタン又は酸化チタンを含有する貴金属からなるものとする。
このことで、配向制御層を、容易にかつ確実に(100)面又は(001)面に優先配向させることができ、延いては圧電体層の(001)面配向度を向上させることができる。
請求項13の発明では、請求項12の発明において、第1の電極層の貴金属は、白金、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種であり、上記貴金属に含有されているチタン又は酸化チタンの含有量が0を越え30モル%以下であるものとする。
このことにより、圧電素子の各膜をスパッタ法等に形成する際の温度に十分に耐えられるとともに、電極として適切な材料とすることができる。また、チタン又は酸化チタンの含有量は、30モル%を越えると配向制御層の結晶性及び配向性(延いては圧電体層の結晶性及び配向性)が低下するので、このように30モル%以下とするのがよい。
請求項14の発明では、請求項12の発明において、第1の電極層における配向制御層側の表面部に位置するチタン又は酸化チタンの該表面からの突出量が2nmよりも小さいものとする。
すなわち、チタン又は酸化チタンは第1の電極層に含有したものであり、第1の電極層の上側に積極的に設けたものではないため、第1の電極層における配向制御層側の表面から突出することは殆どなく、突出したとしてもその突出量は2nmよりも小さくなる。これにより、上述の如く、配向制御層が(100)面又は(001)面に配向し易くなる。
請求項15の発明では、請求項2の発明において、第1の電極層は、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、Ca、Sr、Ba及びAl並びにこれらの酸化物の群から選ばれた少なくとも1種を含有する貴金属からなるものとする。
すなわち、貴金属に含有されているMn等の含有物は、チタンや酸化チタンと同様の役割を有し、配向制御層を、容易にかつ確実に(100)面又は(001)面に優先配向させることができるようになる。
請求項16の発明では、請求項15の発明において、第1の電極層の貴金属は、白金、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種であり、上記貴金属に含有されている含有物の含有量が0を越え30モル%以下であるものとする。このことにより、請求項13の発明と同様の作用効果が得られる。
請求項17の発明では、請求項15の発明において、第1の電極層における配向制御層側の表面部に位置する、該第1の電極層の貴金属に含有されている含有物の該表面からの突出量が2nmよりも小さいものとする。このことで、請求項14の発明と同様の作用効果が得られる。
請求項18の発明では、請求項3の発明において、配向制御層の(111)面配向率が50%以上であるものとする。
このことにより、圧電体層の(111)面配向率を、容易にかつ確実に80%以上にすることができ、圧電特性の向上や安定性の点で優れる。一方、上述の如く、配向制御層の厚みを8nm以下とすれば、第1の電極層にチタン等の含有物が含有されていても、(111)面配向率を容易に50%以上にすることができる。
請求項19の発明では、請求項1の発明において、第1の電極層は、基板上に設けられており、上記基板と第1の電極層との間に、該基板と第1の電極層との密着性を高める密着層が設けられているものとする。
このことにより、基板と第1の電極層との密着性を向上させることができ、圧電素子の製造時における膜剥離を確実に防止することができる。
請求項20の発明は、第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されてなる圧電素子と、該圧電素子の第2の電極層側の面に設けられた振動層と、該振動層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させて上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドの発明である。
そして、この発明では、上記圧電素子の配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされているものとする。
この発明により、基板上に、第1の電極層、配向制御層、圧電体層、第2の電極層及び振動層をスパッタ法等により順次形成して、この振動層に圧力室部材を接合した後に上記基板を除去するようにすれば、請求項1の発明と同様の構成の圧電素子を備えたインクジェットヘッドが容易に得られ、このインクジェットヘッドを長時間駆動し続けても、その圧電素子の圧電体層にクラックが生じるのを抑制することができる。よって、インク吐出性能のばらつきが少なくて耐久性に優れたインクジェットヘッドが得られる。
請求項21の発明では、第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されてなる圧電素子と、該圧電素子の第1の電極層側の面に設けられた振動層と、該振動層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させて上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドを対象とする。
そして、上記圧電素子の配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされているものとする。
このことにより、圧力室部材を基板として、その上に、振動層、第1の電極層、配向制御層、圧電体層及び第2の電極層をスパッタ法等により順次形成するようにすれば、請求項20の発明と同様の作用効果を有するインクジェットヘッドが得られる。
請求項22の発明は、固定部と、該固定部から所定の方向に延びる少なくとも一対の振動部とを有する基板を備え、該基板の少なくとも各振動部上に、第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されており、該各振動部上における第2の電極層が、当該振動部を振動部の幅方向に振動させるための少なくとも1つの駆動電極と、当該振動部の厚み方向の変形を検出するための少なくとも1つの検出電極とにパターン化された角速度センサの発明である。
そして、この発明では、上記配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされているものとする。
この発明により、第2の電極層の駆動電極及び第1の電極層間に電圧を印加することで、基板の各振動部を振動部の幅方向に振動させ、この振動時にコリオリ力によって振動部が厚み方向に変形すると、第2の電極層の検出電極及び第1の電極層間に電圧が発生し、この電圧の大きさ(コリオリ力)から角速度を検出することができる。そして、このように角速度を検出する部分(振動部)が、請求項1の発明と同様の構成の圧電素子で構成されていることになるので、従来の水晶を用いた角速度センサよりも圧電定数を40倍程度に大きくすることができ、かなり小型化することができる。また、工業的に量産しても、特性の再現性が良好で、ばらつきが少なく、耐電圧及び信頼性の良好な角速度センサが得られる。
請求項23の発明は、インクジェット式記録装置の発明であり、この発明では、請求項20又は21記載のインクジェットヘッドと、上記インクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる相対移動手段とを備え、上記相対移動手段によりインクジェットヘッドが記録媒体に対して相対移動しているときに、該インクジェットヘッドにおいて圧力室に連通するように設けたノズル孔から該圧力室内のインクを記録媒体に吐出させて記録を行うように構成されているものとする。この発明により、印字性能及び耐久性が極めて良好な記録装置が容易に得られる。
以上説明したように、本発明の圧電素子によると、電極層上に、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなる配向制御層を形成し、この配向制御層上に、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなりかつ菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有する圧電体層を形成するとともに、この圧電体層を形成する際に、該圧電体層の結晶粒を、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とするようにしたことにより、各層の密着性並びに圧電体層の結晶構造び優先配向面を制御することができる。しかも、上記結晶粒により、圧電素子を駆動させたときに圧電体層に発生する応力が結晶粒界で緩和されるとともに、配向制御層や第2の電極層との密着力が増加し、これにより、圧電体層にクラックが発生する割合が低下するため、耐電圧性及び信頼性の向上化を図ることができる。この結果、工業的に量産しても、圧電特性の再現性、ばらつき、耐電圧及び信頼性の良好な圧電素子が得られ、この圧電素子を用いる本発明のインクジェットヘッド及びインクジェット式記録装置においても、インク吐出性能のばらつきが少なくて耐久性に優れたものとすることができる。
また、本発明の角速度センサにおいても、角速度を検出する部分(振動部)が、上記と同様の構成の圧電素子で構成されていることになるので、小型で寸法精度が高く、しかも、工業的に量産しても、特性の再現性が良好で、ばらつきが少なく、耐電圧及び信頼性の良好な角速度センサが得られる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る圧電素子を示し、同図において11は、厚みが0.3mmのφ4インチシリコン(Si)ウエハからなる基板であり、この基板11上には、厚みが0.02μmであってチタン(Ti)からなる密着層12が形成されている。尚、上記基板11は、Siに限るものではなく、ガラス基板や、金属基板、セラミックス基板等であってもよい。
上記密着層12上には、厚みが0.22μmであって2.1モル%のTiを含有した白金(Pt)からなる第1の電極層14が形成されている。この第1の電極層14は(111)面配向となっている。
上記第1の電極層14上には、ランタン(La)の含有量が12モル%でありかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して8モル%過剰である立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型結晶構造を有するPLTからなる配向制御層15が形成されている。この配向制御層15は(100)面又は(001)面に優先配向してなり、その膜厚は0.03μmである。
上記配向制御層15上には、化学式がPb(Aab)O3(0<a<1、0<b<1、a+b=1)で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層16が形成されている。この圧電体層16は、菱面体晶系又は正方晶系の(001)面に優先配向した結晶構造を有している。上記Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量を1モル%以上50モル%以下とすることで、高い圧電定数が得られる。特にその含有量を10モル%以上25モル%以下とすれば、かなり高い圧電定数が得られ、圧電特性が極めて良好となる。
本実施形態では、上記Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素はMgであり、B元素はNbであり、aの値は1/3であり、bの値は2/3である。つまり、圧電体層16は、PZTにPb(Mg1/3Nb2/3)O3(PMN)を添加してなる、0.8PZT−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3で構成されている。また、PZTの組成は、正方晶と菱面体晶との境界(モルフォトロピック相境界)付近の組成(Zr/Ti=55/45)であり、圧電体層16の膜厚は3μmである。
上記Pb含有複合ペロブスカイト化合物はPb(Mg1/3Nb2/3)O3に限らず、その化学式中のA元素及びB元素並びにa及びbの値を、以下のようにしてもよい。すなわち、A元素をMg、Mn、Ni、Co、Zn及びCdの群から選ばれた少なくとも1種とし、B元素をNbとするとともに、a=1/3、b=2/3とする。
或いは、A元素をMg、Mn及びNiの群から選ばれた少なくとも1種とし、B元素をTa又はSbとするとともに、a=1/3、b=2/3とする。
或いは、A元素をFe、Cr、In、Y、Sb及びMnの群から選ばれた少なくとも1種とし、B元素をNbとするとともに、a=1/2、b=1/2とする。
或いは、A元素をFe、Cr及びMnの群から選ばれた少なくとも1種とし、B元素をTaとするとともに、a=1/2、b=1/2とする。
或いは、A元素をMn、Ni、Co、Mg及びZnの群から選ばれた少なくとも1種とし、B元素をTe又はWとするとともに、a=1/2、b=1/2とする。
また、上記PZTの組成は、Zr/Ti=55/45に限らず、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、Pb含有複合ペロブスカイト化合物を添加したPZTに、更にSr、Nb、Al等を添加したものであってもよい。さらに、圧電体層16の膜厚は、0.5〜5.0μmの範囲であればよい。
上記圧電体層16上には、厚みが0.2μmであってPtからなる第2の電極層17が形成されている。尚、第2の電極層17の材料はPtに限らず、導電性材料であればよく、膜厚は0.1〜0.4μmの範囲であればよい。
そして、この圧電素子は、上記基板11上に、密着層12、第1の電極層14、配向制御層15、圧電体層16及び第2の電極層17をスパッタ法により順次成膜して積層したものである。尚、成膜法はスパッタ法に限らず、熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法(例えばCVD法等)であればよい。また、密着層12及び第2の電極層17の成膜法は、ゾル・ゲル法等であってもよい。
上記密着層12は、上記基板11と第1の電極層14との密着性を高めるためのものであって、Tiに限らず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル若しくはクロム又はそれら(Tiを含む)の化合物で構成してもよい。また、膜厚は0.005〜1μmの範囲であればよい。この密着層12は必ずしも必要なものではなく、基板11上に第1の電極層14を直接に形成するようにしても、第1の電極層14にTiが含有されているので、基板11と第1の電極層14との密着性はかなり良好となる。
上記第1の電極層14は、電極としての役割を有するだけでなく、Tiを含有していることにより、上記配向制御層15を(100)面又は(001)面に優先配向させる役割をも担っており、このTiの代わりに酸化チタンを含有していてもよい。このチタン又は酸化チタンの含有量は、0を越え30モル%以下であることが好ましい。また、第1の電極層14の材料は、Pt、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属であればよく、膜厚は0.05〜2μmの範囲であればよい。尚、第1の電極層14における配向制御層15側の表面部に位置するチタン又は酸化チタンは、第1の電極層14に含有したものであり、第1の電極層14の上側に積極的に設けたものではないため、上記配向制御層15側の表面から突出することは殆どなく、突出したとしてもその突出量は2nmよりも小さい。
上記第1の電極層14における含有物としては、上記のようにチタン又は酸化チタンが好ましいが、チタン、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、銅、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びこれらの酸化物の群から選ばれた少なくとも1種であればよく、その含有量は、0を越え30モル%以下であることが好ましい。
上記配向制御層15は、上記圧電体層16の結晶性及び(001)面配向性を向上させるものであって、そのために、Laを含みかつZrを含まず、鉛の含有量が化学量論組成よりも過剰なPLTとしている。尚、圧電体層16の結晶性及び配向性を向上させる観点から、Laの含有量は0を越え25モル%以下であればよく、鉛の含有量は0を越え30モル%以下過剰であればよい。また、配向制御層15を構成する材料は、上記PLTに限らず、このPLTにジルコニウムを含有したPLZTであってもよく、これらPLTやPLZTに、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したものであってもよい。上記ジルコニウムの含有量は20モル%以下であることが好ましく、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加する場合、そのトータル添加量は0を越え10モル%以下(いずれか一方の添加量が0であってもよい)であることが好ましい。また、配向制御層15の膜厚は0.01〜0.2μmの範囲であればよい。
そして、上記配向制御層15における第1の電極層14側の表面近傍部は、図2に示すように、(100)面又は(001)面配向の領域15aが、第1の電極層14における配向制御層15側の表面部に位置するチタン(第1の電極層14に酸化チタンを含有した場合には酸化チタンであるが、チタンを含有した場合でも酸化して酸化チタンになることがある)上に存在していて層厚方向と垂直な断面における上記領域15aの面積が第1の電極層14側から圧電体層16側に向かって大きくなる構造を有している。一方、第1の電極層14が(111)面配向であるため、配向制御層15において第1の電極層14の表面部におけるチタン又は酸化チタンが存在しない部分の上側領域15bでは、(100)面や(001)面には配向しておらず、ここでは、(111)面配向になっている(第1の電極層14の材料によっては(111)面以外の配向になったりアモルファスになったりする)。このような(100)面や(001)面配向になっていない領域15bは、配向制御層15の第1の電極層14側の表面から最大でも20nm程度までの範囲にしか存在せず、配向制御層15の膜厚が0.02μm以上であれば、配向制御層15の圧電体層16側の表面の略全体が(100)面又は(001)面配向の領域15aとなる。
上記圧電体層16は、上記配向制御層15により(001)面に優先配向されたものであり、その(001)面配向度αは90%以上となっている。また、圧電体層16の結晶粒は、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比(平均断面径/長さ)が1/50以上1/14以下である柱状粒子となっている。
尚、配向制御層15の圧電体層16側の表面全てが上記領域15aとなっている必要はなく、膜厚がかなり小さいために、(100)面及び(001)面に配向していない領域15bが部分的に存在していてもよい。このような場合であっても、配向制御層15の層厚が0.01μm以上であれば、圧電体層16側の表面の大部分は(100)面又は(001)面配向の領域となり、圧電体層16の(001)面配向度を90%以上にすることができる。
次に、上記圧電素子の製造方法を説明する。
すなわち、Si基板11上に、密着層12、第1の電極層14、配向制御層15、圧電体層16及び第2の電極層17をスパッタ法により順次成膜する。
上記密着層12は、Tiターゲットを用いて、基板11を400℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得られる。
上記第1の電極層14は、多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びPtターゲットを用い、基板11を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において85W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得られる。この得られた第1の電極層14における密着層12とは反対側の表面部には、チタンが島状に点在している。
尚、上記第1の電極層14をスパッタ法により形成する際に使用するガスは、上記のようにアルゴンガスのみであってもよく、アルゴンと酸素との混合ガスであってもよい。アルゴンガスのみを用いた場合には、第1の電極層14の表面部のチタンは酸化されないが、アルゴンと酸素との混合ガスを用いた場合には、そのチタンが酸化されて酸化チタンとなる。特にアルゴンと酸素との混合ガスを用いる場合には、基板11の温度を650℃以下に設定することが望ましい。これは、基板11の温度が650℃よりも高いと、チタンのみならず貴金属表面も僅かに酸化して、その上側に形成する配向制御層15の結晶性や配向性に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
上記配向制御層15は、ランタンを14モル%含有するPLTに酸化鉛(PbO)を12モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板11の温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で12分間形成することにより得られる。
尚、上記配向制御層15をスパッタ法により形成する際に使用するアルゴンと酸素との混合ガスにおける酸素分圧は、0%を越え10%以下であることが好ましい。これは、酸素が全く存在しない状態では、配向制御層15の結晶性が低下する一方、酸素分圧が10%を越えると、(100)面又は(001)面の配向性が低下するからである。また、真空度は、0.05Pa以上5Pa以下であることが好ましい。これは、真空度が0.05Paよりも小さいと、配向制御層15の結晶性がばらつく一方、5Paを越えると、(100)面又は(001)面の配向性が低下するからである。
また、上記配向制御層15をスパッタ法により形成する際の基板11の温度は、450℃以上750℃以下であることが望ましい。これは、基板11の温度が450℃よりも小さいと、配向制御層15の結晶性が低下するとともに、パイロクロアが生成し易くなる一方、750℃よりも大きいと、成膜時に、膜中に含まれるPbが蒸発することにより不足し、結晶性が低下するからである。
より好ましいのは、上記酸素分圧を0.5%以上10%以下とし、かつ真空度を0.1Pa以上2Pa以下とするとともに、基板11の温度を500℃以上650℃以下にすることである。
上記のように配向制御層15を形成すれば、この配向制御層15は、第1の電極層14における配向制御層15側の表面部に点在するチタンを核にして結晶成長し、これにより、チタン上において(100)面又は(001)面に配向し易くなる。また、このチタンが、上記の如く第1の電極層14の表面からは殆ど突出していない(突出してもその突出量は2nmよりも小さい)ので、配向制御層15は、(100)面又は(001)面により一層配向し易くなる。一方、第1の電極層14は(111)面配向になっているため、配向制御層15において第1の電極層14の表面部におけるチタンが存在しない部分の上側領域では、(100)面や(001)面配向とはならない(ここでは、(111)面配向になる)。この領域は上記結晶成長に連れて小さくなる一方、(100)面又は(001)面配向の領域は拡大する。この結果、配向制御層15における第1の電極層14側の表面近傍部は、上述の如く、第1の電極層14における配向制御層15側の表面部に位置するチタン上に存在する(100)面又は(001)面配向の領域15aと、第1の電極層14の表面部におけるチタンが存在しない部分の上側に存在しかつ(100)面や(001)面配向となっていない領域15bとを有することになり、この(100)面又は(001)面配向の領域15aは第1の電極層14側からその反対側(圧電体層16側)に向かって広くなり、配向制御層15の圧電体層16側の表面では、略全体が(100)面又は(001)面配向の領域15aとなる。そして、ジルコニウムの含有量を20モル%以下とし、ランタンの含有量が0を越え25モル%以下とすれば、配向制御層15の結晶性や配向性が格段に向上する。特にジルコニウムの含有量が少ないほど、結晶成長初期にZr酸化物からなる結晶性が低い層が形成され難くなり、結晶性の低下が確実に抑制される。
上記圧電体層16は、0.8PZT(Zr/Ti=55/45)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板11の温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得られる。
尚、上記圧電体層16をスパッタ法により形成する際に使用するアルゴンと酸素との混合ガスにおける酸素分圧は、0%を越え30%以下であることが好ましい。これは、酸素が全く存在しない状態では、圧電体層16の結晶性が低下する一方、酸素分圧が30%を越えると、(001)面配向度が低下するからである。また、真空度は、0.1Pa以上1Pa以下であることが好ましい。これは、真空度が0.1Paよりも小さいと、圧電体層16の結晶性及び圧電特性がばらつく一方、1Paを越えると、(001)面配向度が低下するからである。
このように酸素分圧を0%を越え30%以下とし、真空度を0.1Pa以上1Pa以下とすれば、圧電体層16の結晶粒を、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とすることが容易となる。これは、酸素が全く存在しない状態では、長さに対する平均断面径の比が1/14よりも大きくなる傾向が見られる一方、酸素分圧が30%を越えると、複数の結晶配向面を持った結晶粒が混在して、各結晶粒が圧電体層16の厚み方向に十分に成長することが困難になるため、長さに対する平均断面径の比が1/50よりも小さくなる傾向が見られるからである。また、真空度が0.1Paよりも小さいと、長さに対する平均断面径の比が1/14よりも大きくなる傾向が見られる一方、1Paを越えると、酸素分圧が30%を越えたときと同様に、長さに対する平均断面径の比が1/50よりも小さくなる傾向が見られるからである。
また、上記圧電体層16をスパッタ法により形成する際の基板11の温度は、450℃以上750℃以下であることが望ましい。これは、基板11の温度が450℃よりも小さいと、圧電体層16の結晶性が低下するとともに、パイロクロアが生成し易くなる一方、750℃よりも大きいと、成膜時に、膜中に含まれるPbが蒸発することにより不足し、結晶性が低下するからである。
より好ましいのは、上記酸素分圧を1%以上10%以下とし、かつ真空度を0.15Pa以上0.8Pa以下とするとともに、基板11の温度を525℃以上625℃以下とすることである。
上記のように圧電体層16を形成すれば、この圧電体層16は、上記配向制御層15の圧電体層16側の表面が(100)面又は(001)面配向となっていることで、(001)面配向となり(ここでは、Zr/Ti=55/45であることから菱面体晶系となり、この菱面体晶系の場合には、(100)面と(001)面とは同じあるため、この菱面体晶系の(100)面配向を含む)、その(001)面配向度(菱面体晶系の(100)面配向度)が90%以上となる。また、配向制御層15の結晶性が良好であるため、この圧電体層16の結晶性も良好となる。さらに、圧電体層16の結晶粒が、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子となり、これにより、圧電素子を連続駆動した場合であっても、圧電体層16の応力が適切に緩和されて、圧電体層16にクラックが生じ難くなる。
上記第2の電極層17は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で10分間形成することにより得られる。
したがって、本実施形態の圧電素子では、高価なMgO単結晶基板を用いなくても、安価なシリコンの基板11上にスパッタ法により成膜することで、結晶性及び配向性が良好な圧電体層16が得られ、製造コストを低減しつつ、圧電素子の圧電特性のばらつきを低く抑えることができる。また、Zr酸化物からなる結晶性が低い層が形成され難いので、圧電素子の耐電圧を向上させることができる。しかも、圧電体層16の結晶粒が、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされているので、圧電素子を連続駆動した場合であっても、圧電体層16の応力が適切に緩和されて、圧電体層16にクラックが生じるのを抑制することができる。
次に、具体的に実施した実施例について説明する。尚、以下の各実施例においては、基板上に、密着層、第1の電極層、配向制御層、圧電体層及び第2の電極層を順に形成した構成は、上記実施形態1と同じである(但し、実施例5では、密着層を形成していない)。
(実施例1)
この実施例1のものは、各膜の材料、膜厚、製造方法等が上記実施形態1で説明したものと同じものとした。この実施例1の圧電素子の各膜には、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べた。すなわち、X線回折法による解析から、圧電体層は(100)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(100)面配向度はα=97%であった。また、圧電体層の組成は、X線マイクロアナライザーによる組成分析を行った結果、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は55/45であり、Mg/Nb比は33/67であった。
さらに、圧電体層の結晶構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した。この結果を図3に示す。尚、この図3(写真)では、密着層及び配向制御層については、厚みがかなり小さいので、識別することはできない。この分析の結果、圧電体層の結晶構造は、非常に発達した柱状構造をしていて、その結晶粒は圧電体層の厚み方向に延びているとともに、該結晶粒の長さが平均断面径に比較してかなり大きい(長さに対する平均断面径の比の値がかなり小さい)柱状粒子であるという特徴が明らかになった。図3に示したSEM断面写真では、結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/30程度であった。
上記圧電体層においてその厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は、圧電素子の信頼性に大きく影響を及ぼすことが、以下の耐久試験より明らかになった。すなわち、圧電体層形成時における成膜条件(主として酸素分圧及び真空度)を変化させることで、上記比の値を1/100〜1/2の範囲で変化させて圧電素子を作製し、この圧電素子を備えたインクジェットヘッド(後述の実施形態3と同様のインクジェットヘッド)の耐久試験(駆動周波数=20kHz,駆動電圧=20V)を行って圧電体層のクラック発生率(全圧力室に対してインク吐出不良が発生した圧力室の数)を調べたところ、表1のような結果となった。
上記耐久試験の結果、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値が1/50以上1/14以下である場合には、圧電体層にクラックは全く発生せず、1/50以上1/14以下の範囲にない場合には、圧電体層にクラックが発生した。これは、上記結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値が1/50以上1/14以下である場合には、圧電素子を駆動させたときに圧電体層に発生する応力が結晶粒界で適切に緩和されるとともに、配向制御層や第2の電極層との密着強度が高くなるためであると考えられる。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べた。すなわち、X線回折法により解析を行った結果、Pt膜は(111)面配向を示していた。また、X線光電子分光(XPS)で表面から5nmの深さでの組成分析を行った結果、Ti量は2.1モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べた。この配向制御層のPLT膜は(100)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面配向になった部分が見られた。この(111)面配向になった部分は、第1の電極層の表面部におけるチタンが存在しない部分の上側に存在すると考えられる。また、X線マイクロアナライザーによる組成分析を行った結果、ランタンが12モル%含有され、Pbが8モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.2μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行った(圧電定数d31の測定方法については、例えば特開2001−21052号公報参照)。この100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−218pC/Nであり、ばらつきはσ=4.0%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.2μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定した。尚、耐電圧値は、電圧印加による電流値が1μAとなる値とした。この結果、耐電圧値の平均は108Vであり、ばらつきはσ=4.2%であった。
次に、0.8PZT(Zr/Ti=55/45)−0.2Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表2のように代えて、(100)面配向度、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表2にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(100)面配向度は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
図4は、上記実施例1の圧電体層におけるPb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量と圧電定数d31との関係を示す。この図4より、PZT(Zr/Ti=55/45)にPb(Mg1/3Nb2/3)O3を添加した圧電材料では、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量が1モル%以上50モル%以下である場合に、圧電定数d31が170pc/N以上となって高い値を示すことが判る。特に、この圧電材料では、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量が10モル%以上25モル%以下の範囲で、圧電定数d31が200pc/N以上となって、非常に優れた圧電特性が得られることが判る。
(実施例2)
この実施例2では、基板を、0.25mm厚のφ4インチステンレス鋼(SUS304)とし、密着層には、膜厚0.01μmのタンタル(Ta)膜を、第1の電極層には、膜厚が0.25μmであって酸化チタンを8モル%含有するPt膜を、配向制御層には、膜厚が0.03μmであって17モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して6モル%過剰であるPLT膜(3モル%のマグネシウムを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が2.7μmである0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.1μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Taターゲットを用いて、基板を500℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びPtターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:1)において120W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、20モル%のランタンを含有するPLTに、3モル%のマグネシウムを添加しかつ酸化鉛(PbO)を10モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で15分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例2の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を、上記実施例1と同様の方法で調べたところ、圧電体層は(001)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(001)面配向度はα=96%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は40/60であり、Mg/Nb比は33/67であった。さらに、SEMによる結晶構造の観察により、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/25程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Pt膜は(111)面配向を示していた。また、酸化チタン量は8モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(001)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面配向になった部分が見られた。この(111)面配向になった部分は、第1の電極層の表面部における酸化チタンが存在しない部分の上側に存在すると考えられる。また、マグネシウムが3モル%、ランタンが17モル%含有され、Pbが6モル%過剰に含まれていた。
次に、上記実施例1と同様に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.1μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−230pC/Nであり、ばらつきはσ=3.6%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.1μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は105Vであり、ばらつきはσ=3.8%であった。
次に、0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表3のように代えて、(001)面配向度、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表3にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(001)面配向度は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例3)
この実施例3では、基板を、0.5mm厚のバリウム硼珪酸ガラス(100mm角サイズ)とし、密着層には、膜厚0.005μmのニッケル(Ni)膜を、第1の電極層には、膜厚が0.15μmであってチタンを18モル%含有するイリジウム(Ir)膜を、配向制御層には、膜厚が0.02μmであって8モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して16モル%過剰であるPLT膜(1モル%のマンガンを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が2.6μmである0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(Ni1/3Nb2/3)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.01μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Niターゲットを用いて、基板を300℃に加熱しながら200Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びIrターゲットを用い、基板を600℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において160W及び200Wの高周波電力で10分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、12モル%のランタンを含有するPLTに、2モル%のマンガンを添加しかつ酸化鉛(PbO)を22モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で15分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(Ni1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力260Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例3の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(001)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(001)面配向度はα=95%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は40/60であり、Ni/Nb比は33/67であった。さらに、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/35程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Ir膜は(111)面配向を示していた。また、Ti量は18モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(100)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側にはアモルファスになった部分が見られた。このアモルファスになった部分は、第1の電極層の表面部におけるチタンが存在しない部分の上側に存在すると考えられる。また、マンガンが1モル%、ランタンが8モル%含有され、Pbが16モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.01μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−202pC/Nであり、ばらつきはσ=3.2%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.01μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は100Vであり、ばらつきはσ=4.2%であった。
次に、0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表4のように代えて、(001)面配向度、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表4にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(001)面配向度は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例4)
この実施例4では、基板を、0.5mm厚のφ4インチシリコンウエハとし、密着層には、膜厚0.01μmのチタン膜を、第1の電極層には、膜厚が0.25μmであって酸化チタンを5モル%含有するIr膜を、配向制御層には、膜厚が0.05μmであって10モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して10モル%過剰であるPLT膜を、圧電体層には、膜厚が3.2μmである0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(Fe1/2Nb1/2)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.01μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Tiターゲットを用いて、基板を500℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びIrターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=10:1)において90W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、10モル%のランタンを含有するPLTに酸化鉛(PbO)を14モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:1)において、真空度0.84Pa、高周波電力300Wの条件で20分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(Fe1/2Nb1/2)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度620℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.4Pa、高周波電力270Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例4の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(100)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(100)面配向度はα=99%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は60/40であり、Ni/Nb比は50/50であった。さらに、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/20程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Ir膜は(111)面配向を示していた。また、酸化チタン量は5モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(100)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側にはアモルファスになった部分が見られた。このアモルファスになった部分は、第1の電極層の表面部における酸化チタンが存在しない部分の上側に存在すると考えられる。また、ランタンが10モル%含有され、Pbが10モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.01μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−185pC/Nであり、ばらつきはσ=3.4%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.01μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は101Vであり、ばらつきはσ=3.6%であった。
次に、0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(A1/21/2)O3のA元素及びB元素を表5のように代えて、(100)面配向度、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表5にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(100)面配向度は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例5)
この実施例5では、基板を、0.3mm厚のφ4インチシリコンウエハとし、密着層をなくして、基板に第1の電極層を直接形成するとともに、この第1の電極層には、膜厚が0.22μmであってコバルトを2.1モル%含有するPt膜を、配向制御層には、膜厚が0.03μmであって12モル%のランタンと15モル%のジルコニウムとを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して18モル%過剰であるPLZT膜(3モル%のマグネシウムを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が3μmである0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(Zn1/2Te1/2)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.2μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Coターゲット及びPtターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において85W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、14モル%のランタンと15モル%のジルコニウムとを含有するPLZTに、3モル%のマグネシウムを添加しかつ酸化鉛(PbO)を24モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で12分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(Zn1/2Te1/2)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例5の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(001)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(001)面配向度はα=90%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は45/55であり、Mg/Nb比は50/50であった。さらに、SEMによる結晶構造の観察により、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/30程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Pt膜は(111)面配向を示していた。また、チタン量は2.1モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(100)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面配向になった部分が見られた。この(111)面配向になった部分は、第1の電極層の表面部におけるチタンが存在しない部分の上側に存在すると考えられる。また、マグネシウムが3モル%、ランタンが12モル%含有され、Pbが18モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.2μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−190pC/Nであり、ばらつきはσ=4.1%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.2μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は100Vであり、ばらつきはσ=4.0%であった。
次に、0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(A1/21/2)O3のA元素及びB元素を表6のように代えて、(001)面配向度、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表6にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(001)面配向度は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(比較例1)
この比較例1のものは、上記実施例1のものに対して配向制御層を設けない点のみが異なるものであり、基板上に、密着層、第1の電極層、圧電体層及び第2の電極層を順に形成した構成である。
この比較例1の圧電素子における圧電体層は(100)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(100)面配向度はα=28%であった。
また、上記実施例1と同様にして圧電定数d31の測定を行ったところ、圧電定数の平均値は−82pC/Nであり、ばらつきはσ=12.5%であった。
さらに、上記実施例1と同様にして耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は65Vであり、ばらつきはσ=15.2%であった。
したがって、上記実施例1のような配向制御層を設けるだけで、圧電体層の結晶性や配向性を向上させることができ、圧電素子の圧電特性や耐電圧を向上できることが判る。
(実施例6)
この実施例6のものは、上記実施例1とは配向制御層の材料のみが異なる(配向制御層のスパッタ条件も実施例1と同じ)。すなわち、この配向制御層は、Laを含有していないチタン酸鉛(PT)からなり、その鉛の含有量は化学量論組成と比較して過剰とはしていない。
この実施例6の圧電素子における圧電体層は(100)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(100)面配向度はα=45%であった。また、圧電定数の平均値は−142pC/Nであり、ばらつきはσ=7.2%であった。さらに、耐電圧値の平均は90Vであり、ばらつきはσ=10.1%であった。
したがって、このような配向制御層であっても、上記比較例1のものに比べると、圧電体層の配向性は向上し、圧電定数や耐電圧を向上できることが判る。
また、上記実施例1と比較して判るように、配向制御層にランタンを含有し、Pb過剰とすれば、圧電体層の配向性を格段に向上させ得ることが判る。
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態に係る他の圧電素子を示し、上記実施形態1の圧電素子に対して、第1の電極層の構成並びに配向制御層及び圧電体層の配向方向が異なるものである。
図5において21は、厚みが0.3mmのφ4インチシリコン(Si)ウエハからなる基板であり、この基板21上には、厚みが0.02μmであってチタン(Ti)からなる密着層22が形成されている。尚、上記基板21は、Siに限るものではなく、ガラス基板や、金属基板、セラミックス基板等であってもよい。
上記密着層22上には、厚みが0.22μmであって2.1モル%のTiを添加した白金(Pt)からなる第1の電極層24が形成されている。この第1の電極層24は(111)面配向となっている。
上記第1の電極層24上には、ランタン(La)の含有量が12モル%でありかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して8モル%過剰である立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型結晶構造を有するPLTからなる配向制御層25が形成されている。この配向制御層25は(111)面に優先配向しており、その膜厚は0.008μmである。
上記配向制御層25上には、化学式がPb(Aab)O3(0<a<1、0<b<1、a+b=1)で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層26が形成されている。この圧電体層26は、菱面体晶系又は正方晶系の(111)面に優先配向した結晶構造を有している。本実施形態においても、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量を1モル%以上50モル%以下とすることで、高い圧電定数が得られる。特にその含有量を10モル%以上25モル%以下とすれば、かなり高い圧電定数が得られ、圧電特性が極めて良好となる。
本実施形態においても、上記Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素はMgであり、B元素はNbであり、aの値は1/3であり、bの値は2/3である。つまり、圧電体層26は、0.8PZT−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3で構成されている。また、PZTの組成は、正方晶と菱面体晶との境界(モルフォトロピック相境界)付近の組成(Zr/Ti=55/45)であり、圧電体層26の膜厚は3μmである。尚、Zr/Ti=55/45であることから、圧電体層26は菱面体晶系の結晶構造を有することになる。
本実施形態においても、上記Pb含有複合ペロブスカイト化合物はPb(Mg1/3Nb2/3)O3に限らず、その化学式中のA元素及びB元素並びにa及びbの値を、上記実施形態1で挙げたものにすることができる。
また、上記PZTの組成は、Zr/Ti=55/45に限らず、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、Pb含有複合ペロブスカイト化合物を添加したPZTに、更にSr、Nb、Al等を添加したものであってもよい。さらに、圧電体層26の膜厚は、0.5〜5.0μmの範囲であればよい。
上記圧電体層26上には、厚みが0.2μmであってPtからなる第2の電極層27が形成されている。尚、第2の電極層27の材料はPtに限らず、導電性材料であればよく、膜厚は0.1〜0.4μmの範囲であればよい。
そして、この圧電素子は、上記基板21上に、密着層22、第1の電極層24、配向制御層25、圧電体層26及び第2の電極層27をスパッタ法により順次成膜して積層したものである。尚、成膜法はスパッタ法に限らず、熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法(例えばCVD法等)であればよい。また、密着層22及び第2の電極層27の成膜法は、ゾル・ゲル法等であってもよい。
上記密着層22は、上記基板21と第1の電極層24との密着性を高めるためのものであって、Tiに限らず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル若しくはクロム又はそれら(Tiを含む)の化合物で構成してもよい。また、膜厚は0.005〜1μmの範囲であればよい。この密着層22は必ずしも必要なものではなく、基板21上に第1の電極層24を直接に形成するようにしても、第1の電極層24にTiが含有されているので、基板21と第1の電極層24との密着性はかなり良好となる。
このように第1の電極層24にTiを含有させることで、基板21と第1の電極層24との密着性を向上させることが可能になる。このTiの代わりに酸化チタンを含有させてもよい。このチタン又は酸化チタンの含有量は、0を越え30モル%以下であることが好ましい。また、第1の電極層24の材料は、Pt、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属であればよく、膜厚は0.05〜2μmの範囲であればよい。尚、第1の電極層24における配向制御層25側の表面部に位置するチタン又は酸化チタンは、第1の電極層24に含有したものであり、第1の電極層24の上側に積極的に設けたものではないため、上記配向制御層25側の表面から突出することは殆どなく、突出したとしてもその突出量は2nmよりも小さい。
上記第1の電極層24における含有物としては、上記のようにチタン又は酸化チタンが好ましいが、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、銅、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びこれらの酸化物の群から選ばれた少なくとも1種であってもよく、この場合、その含有量は、0を越え25モル%以下であることが好ましい。
上記配向制御層25は、上記圧電体層26の結晶性及び(111)面配向性を向上させるものであって、そのために、Laを含みかつZrを含まず、鉛の含有量が化学量論組成よりも過剰なPLTとしている。尚、圧電体層26の結晶性及び配向性を向上させる観点から、Laの含有量は0を越え25モル%以下であればよく、鉛の含有量は0を越え30モル%以下過剰であればよい。また、配向制御層25を構成する材料は、上記PLTに限らず、このPLTにジルコニウムを含有したPLZTであってもよく、これらPLTやPLZTに、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したものであってもよい。上記ジルコニウムの含有量は20モル%以下であることが好ましく、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加する場合、そのトータル添加量は0を越え10モル%以下(いずれか一方の添加量が0であってもよい)であることが好ましい。
ここで、配向制御層25の膜厚について説明する。この配向制御層25の膜厚は、配向制御層25の(111)面配向率と関係する。すなわち、上記実施形態1で説明したように、配向制御層25は、第1の電極層24の表面部に島状に点在する含有物(酸化物)を核にしてその上側に結晶成長し、これにより、配向制御層25において第1の電極層24の表面部における含有物が存在しない部分の上側領域では、(111)面配向となるが、含有物が存在する部分の上側領域では、(111)面以外の配向となる(特に(100)面又は(001)面配向になり易い)。この含有物上の(111)面配向とならない領域は、結晶成長に連れて(配向制御層25の厚みが大きくなるに連れて)広がる一方、(111)面配向の領域は狭くなるため、図6に示すように、配向制御層25の厚みが大きくなるに連れて、配向制御層25の(111)面配向率が小さくなり、この結果、図7に示すように、圧電体層26の(111)面配向率も小さくなる。そこで、配向制御層25の厚みを、(111)面配向とならない領域がそれ程大きく広がらないような大きさ、つまり0.008μm以下にしておけば、配向制御層25の(111)面配向率は50%以上となる(図6参照)とともに、圧電体層26の(111)面配向率は80%以上となる(図7参照)。つまり、配向制御層25の(111)面配向率が50%以上であれば、圧電体層26の(111)面配向率を80%以上にすることができる。上記配向制御層25の膜厚は、該配向制御層25を安定して形成するために0.0005μm以上であることが好ましく、また、0.007μm以下とすれば、配向制御層25の(111)面配向率が70%以上となって、圧電体層26の(111)面配向率を90%以上にすることができるので、より一層好ましい。尚、第1の電極層24においてチタン等の上記含有物を含有しないようにしてもよく、こうすれば、配向制御層25はその厚みとは関係なく(111)面配向率を容易に略100%にすることができる。
次に、上記圧電素子の製造方法を説明する。
すなわち、Si基板21上に、密着層22、第1の電極層24、配向制御層25、圧電体層26及び第2の電極層27をスパッタ法により順次成膜する。
上記密着層22及び第1の電極層24の形成方法は、上記実施形態1の密着層12及び第1の電極層14とそれぞれ同じである。
上記配向制御層25は、ランタンを14モル%含有するPLTに酸化鉛(PbO)を12モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板21の温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で3分間形成することにより得られる。
尚、上記配向制御層25をスパッタ法により形成する際に使用するアルゴンと酸素との混合ガスにおける酸素分圧は、0%を越え20%以下であることが好ましい。これは、酸素が全く存在しない状態では、配向制御層25の結晶性が低下する一方、酸素分圧が20%を越えると、(111)面の配向性が低下するからである。また、真空度は、0.05Pa以上5Pa以下であることが好ましい。これは、真空度が0.05Paよりも小さいと、配向制御層25の結晶性がばらつく一方、5Paを越えると、(111)面の配向性が低下するからである。
また、上記配向制御層25をスパッタ法により形成する際の基板21の温度は、450℃以上750℃以下であることが望ましい。これは、基板21の温度が450℃よりも小さいと、配向制御層25の結晶性が低下するとともに、パイロクロアが生成し易くなる一方、750℃よりも大きいと、成膜時に、膜中に含まれるPbが蒸発することにより不足し、結晶性が低下するからである。
より好ましいのは、上記酸素分圧を0.5%以上10%以下とし、かつ真空度を0.1Pa以上2Pa以下とするとともに、基板21の温度を500℃以上650℃以下にすることである。
上記のように配向制御層25を形成すれば、この配向制御層25は、上記の如く(111)面に優先配向し、その(111)面配向率は50%以上となる(尚、(111)面配向率が50%であっても、(111)面以外の配向率が(111)面配向率よりも極めて小さければ、(111)面に優先配向していると言える)。そして、ジルコニウムの含有量を20モル%以下とし、ランタンの含有量が0を越え25モル%以下とすれば、配向制御層25の結晶性や配向性が格段に向上する。特にジルコニウムの含有量が少ないほど、結晶成長初期にZr酸化物からなる結晶性が低い層が形成され難くなり、結晶性の低下が確実に抑制される。
上記圧電体層26は、0.8PZT(Zr/Ti=55/45)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板21の温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得られる。
尚、上記圧電体層26をスパッタ法により形成する際に使用するアルゴンと酸素との混合ガスにおける酸素分圧は、0%を越え30%以下であることが好ましい。これは、酸素が全く存在しない状態では、圧電体層26の結晶性が低下する一方、酸素分圧が30%を越えると、(111)面配向率が低下するからである。また、真空度は、0.1Pa以上1Pa以下であることが好ましい。これは、真空度が0.1Paよりも小さいと、圧電体層26の結晶性及び圧電特性がばらつく一方、1Paを越えると、(111)面配向率が低下するからである。
このように酸素分圧を0%を越え30%以下とし、真空度を0.1Pa以上1Pa以下とすれば、上記実施形態1で説明したように、圧電体層16の結晶粒を、該圧電体層16の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とすることが容易となる。
また、上記実施形態1で説明したように、上記圧電体層26をスパッタ法により形成する際の基板21の温度は、450℃以上750℃以下であることが望ましい。
より好ましいのは、上記酸素分圧を1%以上10%以下とし、かつ真空度を0.15Pa以上0.9Pa以下とするとともに、基板21の温度を525℃以上625℃以下とすることである。
上記のように圧電体層26を形成すれば、この圧電体層26は、上記配向制御層25の111)面配向率が50%以上であれば、(111)面に優先配向して、その(111)面配向率が80%以上となる。また、配向制御層25の結晶性が良好であるため、この圧電体層26の結晶性も良好となる。さらに、圧電体層26の結晶粒が、該圧電体層26の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子となり、これにより、圧電素子を連続駆動した場合であっても、圧電体層26の応力が適切に緩和されて、圧電体層26にクラックが生じ難くなる。したがって、本実施形態においても、上記実施形態1と同様の作用効果が得られる。
次に、具体的に実施した実施例について説明する。尚、以下の各実施例においては、基板上に、密着層、第1の電極層、配向制御層、圧電体層及び第2の電極層を順に形成した構成は、上記実施形態2と同じである(但し、実施例11では、密着層を形成していない)。
(実施例7)
この実施例7のものは、各膜の材料、膜厚、製造方法等が上記実施形態2で説明したものと同じものとした。この実施例7の圧電素子の各膜には、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、上記実施例1と同様にして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(111)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=96%であった。また、圧電体層の組成は、X線マイクロアナライザーによる組成分析を行った結果、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は55/45であり、Mg/Nb比は33/67であった。
さらに、圧電体層の結晶構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した結果、圧電体層の結晶構造は、非常に発達した柱状構造をしていて、その結晶粒は圧電体層の厚み方向に延びているとともに、該結晶粒の長さが平均断面径に比較してかなり大きい(長さに対する平均断面径の比の値がかなり小さい)柱状粒子であるという特徴が明らかになり、本実施例では、結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/30程度であった。
上記圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値を、1/100〜1/2の範囲で変化させて圧電素子を作製し、この圧電素子を備えたインクジェットヘッド(後述の実施形態3と同様のインクジェットヘッド)の耐久試験(駆動周波数=20kHz,駆動電圧=20V)を行って圧電体層のクラック発生率(全圧力室に対してインク吐出不良が発生した圧力室の数)を調べたところ、表7のような結果となった。
上記耐久試験の結果、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値が1/50以上1/14以下である場合には、圧電体層にクラックは全く発生せず、1/50以上1/14以下の範囲にない場合には、圧電体層にクラックが発生した。これは、上記結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値が1/50以上1/14以下である場合には、圧電素子を駆動させたときに圧電体層に発生する応力が結晶粒界で適切に緩和されるとともに、配向制御層や第2の電極層との密着強度が高くなるためであると考えられる。
続いて、上記実施例1と同様にして、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Pt膜は(111)面配向を示していた。また、X線光電子分光(XPS)で表面から5nmの深さでの組成分析を行った結果、Ti量は2.1モル%であった。
次いで、上記実施例1と同様にして、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、この配向制御層のPLT膜は(111)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示し、その(111)面配向率は70%であった。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面以外の配向部分が見られた。この(111)面以外の配向部分は、第1の電極層の表面部におけるチタンが存在する部分の上側に存在すると考えられる。また、X線マイクロアナライザーによる組成分析を行った結果、ランタンが12モル%含有され、Pbが8モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.2μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行った。この100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−220pC/Nであり、ばらつきはσ=3.8%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.2μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定した。尚、耐電圧値は、電圧印加による電流値が1μAとなる値とした。この結果、耐電圧値の平均は121Vであり、ばらつきはσ=4.0%であった。
次に、0.8PZT(Zr/Ti=55/45)−0.2Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表8のように代えて、圧電体層の(111)面配向率、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表8にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(111)面配向率は80%以上(殆どの場合90%以上)であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例8)
この実施例8では、基板を、0.25mm厚のφ4インチステンレス鋼(SUS304)とし、密着層には、膜厚0.01μmのタンタル(Ta)膜を、第1の電極層には、膜厚が0.25μmのPt膜(含有物なし)を、配向制御層には、膜厚が0.007μmであって17モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して6モル%過剰であるPLT膜(3モル%のマグネシウムを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が2.7μmである0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.1μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Taターゲットを用いて、基板を500℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、スパッタ装置を使用して、Ptターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=25:1)において200Wの高周波電力で25分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、20モル%のランタンを含有するPLTに、3モル%のマグネシウムを添加しかつ酸化鉛(PbO)を10モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で3分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(Mg1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例8の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を、上記実施例1と同様の方法で調べたところ、圧電体層は(111)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=96%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は40/60であり、Mg/Nb比は33/67であった。さらに、SEMによる結晶構造の観察により、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/25程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Pt膜は(111)面配向を示していた。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(111)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示し、その(111)面配向率は75%であった。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面以外の配向部分が見られた。また、マグネシウムが3モル%、ランタンが17モル%含有され、Pbが6モル%過剰に含まれていた。
次に、上記実施例1と同様に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.1μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−208pC/Nであり、ばらつきはσ=3.6%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.1μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は105Vであり、ばらつきはσ=3.8%であった。
次に、0.8PZT(Zr/Ti=40/60)−0.2Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表9のように代えて、圧電体層の(111)面配向率、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表9にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(111)面配向率は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例9)
この実施例9では、基板を、0.5mm厚のバリウム硼珪酸ガラス(100mm角サイズ)とし、密着層には、膜厚0.005μmのニッケル(Ni)膜を、第1の電極層には、膜厚が0.15μmであるイリジウム(Ir)膜(含有物なし)を、配向制御層には、膜厚が0.006μmであって8モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して16モル%過剰であるPLT膜(1モル%のマンガンを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が2.6μmである0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(Ni1/3Nb2/3)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.01μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Niターゲットを用いて、基板を300℃に加熱しながら200Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、スパッタ装置を使用して、Irターゲットを用い、基板を600℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において200Wの高周波電力で10分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、12モル%のランタンを含有するPLTに、2モル%のマンガンを添加しかつ酸化鉛(PbO)を22モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で3分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(Ni1/3Nb2/3)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力260Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例9の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(111)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=95%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は40/60であり、Ni/Nb比は33/67であった。さらに、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/35程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Ir膜は(111)面配向を示していた。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(111)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面以外の配向部分が見られた。また、マンガンが1モル%、ランタンが8モル%含有され、Pbが16モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.01μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−198pC/Nであり、ばらつきはσ=3.5%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.01μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は96Vであり、ばらつきはσ=4.2%であった。
次に、0.9PZT(Zr/Ti=40/60)−0.1Pb(A1/32/3)O3のA元素及びB元素を表10のように代えて、圧電体層の(111)面配向率、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表10にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(111)面配向率は90%以上であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
図8は、上記実施例9の圧電体層におけるPb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量と圧電定数d31との関係を示す。この図8より、PZT(Zr/Ti=40/60)にPb(Ni1/3Nb2/3)O3を添加した圧電材料では、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量が1モル%以上50モル%以下である場合に、圧電定数d31が170pc/N以上となって高い値を示すことが判る。特に、この圧電材料では、Pb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量が10モル%以上25モル%以下の範囲で、圧電定数d31が200pc/N以上となって、非常に優れた圧電特性が得られることが判る。
(実施例10)
この実施例10では、基板を、0.5mm厚のφ4インチシリコンウエハとし、密着層には、膜厚0.01μmのチタン膜を、第1の電極層には、膜厚が0.25μmであって酸化コバルトを5モル%含有するIr膜を、配向制御層には、膜厚が0.007μmであって10モル%のランタンを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して10モル%過剰であるPLT膜を、圧電体層には、膜厚が3.2μmである0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(Fe1/2Nb1/2)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.01μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記密着層は、Tiターゲットを用いて、基板を500℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得た。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Coターゲット及びIrターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=10:1)において90W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、10モル%のランタンを含有するPLTに酸化鉛(PbO)を14モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:1)において、真空度0.84Pa、高周波電力300Wの条件で3分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(Fe1/2Nb1/2)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度620℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.4Pa、高周波電力270Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例10の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(111)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=96%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は60/40であり、Ni/Nb比は50/50であった。さらに、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/20程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Ir膜は(111)面配向を示していた。また、酸化コバルト量は5モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLT膜は(111)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面以外の配向部分が見られた。この(111)面以外の配向部分は、第1の電極層の表面部における酸化コバルトが存在する部分の上側に存在すると考えられる。また、ランタンが10モル%含有され、Pbが10モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.01μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−180pC/Nであり、ばらつきはσ=3.4%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.01μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は106Vであり、ばらつきはσ=3.7%であった。
次に、0.95PZT(Zr/Ti=60/40)−0.05Pb(A1/21/2)O3のA元素及びB元素を表11のように代えて、圧電体層の(111)面配向率、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表11にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(111)面配向率は80%以上(殆どの場合90%以上)であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(実施例11)
この実施例11では、基板を、0.3mm厚のφ4インチシリコンウエハとし、密着層をなくして、基板に第1の電極層を直接形成するとともに、この第1の電極層には、膜厚が0.22μmであってMnを2.1モル%含有するPt膜を、配向制御層には、膜厚が0.008μmであって12モル%のランタンと15モル%のジルコニウムとを含有しかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して18モル%過剰であるPLZT膜(3モル%のマグネシウムを添加したもの)を、圧電体層には、膜厚が3μmである0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(Zn1/2Te1/2)O3膜を、第2の電極層には、膜厚が0.2μmのPt膜をそれぞれ用いた。
上記第1の電極層は、多元スパッタ装置を使用して、Mnターゲット及びPtターゲットを用い、基板を400℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において85W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
上記配向制御層は、14モル%のランタンと15モル%のジルコニウムとを含有するPLZTに、3モル%のマグネシウムを添加しかつ酸化鉛(PbO)を24モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で3分間形成することにより得た。
上記圧電体層は、0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(Zn1/2Te1/2)O3にPbOを15モル%過剰に添加した焼結体ターゲットを用い、基板温度610℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得た。
上記第2の電極層は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で形成することにより得た。
この実施例11の圧電素子の各膜にも、製造直後にクラックや膜剥離は見られなかった。
そして、第2の電極層を形成する前の圧電体層の結晶配向性や膜組成を調べたところ、圧電体層は(111)面配向正方晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=91%であった。また、圧電体層の組成は、ターゲット組成と同じでZr/Ti比は45/55であり、Mg/Nb比は50/50であった。さらに、SEMによる結晶構造の観察により、圧電体層の厚み方向に延びる結晶粒の長さに対する平均断面径の比の値は1/30程度であった。
続いて、配向制御層を形成する前の第1の電極層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、Pt膜は(111)面配向を示していた。また、Mn量は2.1モル%であった。
次いで、圧電体層を形成する前の配向制御層の結晶配向性及び膜組成を調べたところ、PLZT膜は(111)面配向ペロブスカイト型結晶構造を示していた。尚、配向制御層の第1の電極層側には(111)面以外の配向部分が見られた。この(111)面以外の配向部分は、第1の電極層の表面部におけるマンガンが存在する部分の上側に存在すると考えられる。また、マグネシウムが3モル%、ランタンが12モル%含有され、Pbが18モル%過剰に含まれていた。
次に、第2の電極層を形成する前の状態のものを用いて、ダイシングにより15mm×2mmに切り出したカンチレバーを100個作製し、0.2μm厚の第2の電極層をスパッタ法により形成して、圧電定数d31の測定を行ったところ、100個のカンチレバーの圧電定数の平均値は−185pC/Nであり、ばらつきはσ=4.1%であった。
続いて、上記圧電素子の第2の電極層を、1mm角で0.2μm厚のPt膜としてスパッタ法によりメタルマスクを用いて10mm間隔で65個形成し、それぞれの第2の電極層と第1の電極層との間に電圧を印加して耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は98Vであり、ばらつきはσ=4.1%であった。
次に、0.85PZT(Zr/Ti=45/55)−0.15Pb(A1/21/2)O3のA元素及びB元素を表12のように代えて、圧電体層の(111)面配向率、圧電定数d31及び耐電圧を調べた。この結果を表12にまとめた。
この結果、いずれの場合も、(111)面配向率は80%以上(殆どの場合90%以上)であり、圧電定数d31及び耐電圧は極めて良好であるといえる。
(比較例2)
この比較例2のものは、上記実施例7のものに対して配向制御層を設けない点のみが異なるものであり、基板上に、密着層、第1の電極層、圧電体層及び第2の電極層を順に形成した構成である。
この比較例2の圧電素子における圧電体層は(111)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向率はα=73%であった。
また、上記実施例1と同様にして圧電定数d31の測定を行ったところ、圧電定数の平均値は−138pC/Nであり、ばらつきはσ=7.8%であった。
さらに、上記実施例1と同様にして耐電圧を測定したところ、耐電圧値の平均は80Vであり、ばらつきはσ=8.1%であった。
したがって、上記実施例7のような配向制御層を設けるだけで、圧電体層の結晶性や配向性を向上させることができ、圧電素子の圧電特性や耐電圧を安定的に向上できることが判る。
(実施例12)
この実施例12のものは、上記実施例7とは配向制御層の材料のみが異なる(配向制御層のスパッタ条件も実施例7と同じ)。すなわち、この配向制御層は、Laを含有していないチタン酸鉛(PT)からなり、その鉛の含有量は化学量論組成と比較して過剰とはしていない。
この実施例12の圧電素子における圧電体層は(111)面配向菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造を示し、(111)面配向度はα=80%であった。また、圧電定数の平均値は−149pC/Nであり、ばらつきはσ=5.5%であった。さらに、耐電圧値の平均は90Vであり、ばらつきはσ=7.9%であった。
したがって、このような配向制御層であっても、上記比較例2のものに比べると、圧電体層の配向性は向上し、圧電定数や耐電圧を向上できることが判る。
また、上記実施例7と比較して判るように、配向制御層にランタンを含有し、Pb過剰とすれば、圧電体層の配向性を格段に向上させ得ることが判る。
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの全体構成を示し、図10はその要部の構成を示す。図9及び図10において、Aは、圧力室部材であって、この圧力室部材Aには、その厚み方向(上下方向)に貫通する圧力室開口部101が形成されている。Bは、上記圧力室開口部101の上端開口を覆うように配置されたアクチュエータ部であり、Cは、圧力室開口部101の下端開口を覆うように配置されたインク流路部材である。上記圧力室部材Aの圧力室開口部101は、その上下にそれぞれ位置する上記アクチュエータ部B及びインク流路部材Cにより閉塞されることで圧力室102とされている。
上記アクチュエータ部Bは、上記各圧力室102の略真上に位置する第1の電極層103(個別電極)を有し、これら圧力室102及び第1の電極層103は、図9から判るように、千鳥状に多数配列されている。
上記インク流路部材Cは、インク供給方向に並ぶ圧力室102間で共用する共通液室105と、この共通液室105のインクを上記圧力室102に供給するための供給口106と、圧力室102内のインクを吐出させるためのインク流路107とを有している。
Dは、ノズル板であって、このノズル板Dには、上記インク流路107に連通するノズル孔108が形成されている。また、EはICチップであって、このICチップから上記各個別電極103に対してボンディングワイヤBWを介して電圧をそれぞれ供給するようになっている。
次に、上記アクチュエータ部Bの構成を図11に基づいて説明する。この図11は、図9に示したインク供給方向とは直交する方向の断面図である。同図では、上記直交方向に並ぶ4個の圧力室102を持つ圧力室部材Aが参照的に描かれている。このアクチュエータ部Bは、上記の如く各圧力室102の略真上にそれぞれ位置する第1の電極層103と、この各第1の電極層103上(同図では下側)に設けられた配向制御層104と、この配向制御層104上(同下側)に設けられた圧電体層110と、この圧電体層110上(同下側)に設けられ、全圧電体層110に共通となる第2の電極層112(共通電極)と、この第2の電極層112上(同下側)に設けられ、上記圧電体層110の圧電効果により層厚方向に変位し振動する振動層111と、この振動層111上(同下側)に設けられ、各圧力室102の相互を区画する区画壁102aの上方に位置する中間層113(縦壁)とを有しており、上記第1の電極層103、配向制御層104、圧電体層110及び第2の電極層112は、これらが順に積層されてなる圧電素子を構成することになる。また、振動層111は、この圧電素子の第2の電極層112側の面に設けられていることになる。
尚、図11中、114は圧力室部材Aとアクチュエータ部Bとを接着する接着剤であり、上記各中間層113は、この接着剤114を用いた接着時に、その一部の接着剤114が区画壁102aの外方にはみ出した場合でも、この接着剤114が振動層111に付着しないで振動層111が所期通りの変位及び振動を起こすように、圧力室102の上面と振動層111の下面との距離を拡げる役割を有している。このようにアクチュエータ部Bの振動層111における第2の電極層112とは反対側面に中間層113を介して圧力室部材Aを接合するのが好ましいが、振動層111における第2の電極層112とは反対側面に直接圧力室部材Aを接合するようにしてもよい。
上記第1の電極層103、配向制御層104、圧電体層110及び第2の電極層112の各構成材料は、上記実施形態1で説明した第1の電極層14、配向制御層15、圧電体層16及び第2の電極層17とそれぞれ同様である(構成元素の含有量が異なるものもある)。また、配向制御層104及び圧電体層110の構造も、配向制御層15及び圧電体層16とそれぞれ同様であり、配向制御層104における第1の電極層103側の表面近傍部は、(100)面又は(001)面配向の領域が第1の電極層103における配向制御層104側の表面部に位置するチタン上に存在していて層厚方向と垂直な断面における上記領域の面積が第1の電極層103側から圧電体層110側に向かって大きくなる構造を有し、圧電体層110の結晶粒は、該圧電体層110の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされている。尚、上記第1の電極層103、配向制御層104、圧電体層110及び第2の電極層112を、上記実施形態2で説明した第1の電極層24、配向制御層25、圧電体層26及び第2の電極層27とそれぞれ同様の構成としてもよい。
次に、図9のICチップEを除くインクジェットヘッド、つまり図10に示す上記圧力室部材A、アクチュエータ部B、インク流路部材C及びノズル板Dよりなるインクジェットヘッドの製造方法を図12〜図16に基いて説明する。
図12(a)に示すように、基板120上に、順次、密着層121、第1の電極層103、配向制御層104、圧電体層110、第2の電極層112、振動層111、上記中間層113をスパッタ法により成膜して、積層する。尚、上記密着層121は、上記実施形態1で説明した密着層12と同様であって、基板120と第1の電極層103との密着性を高めるために基板120と第1の電極層103との間に形成する(必ずしも密着層121を形成する必要はない)。この密着層121は、後述の如く、基板120と同様に除去する。また、振動層111の材料にはCrを、中間層113にはTiをそれぞれ使用する。
上記基板120には、18mm角に切断したSi基板を用いる。この基板120は、Siに限るものではなく、ガラス基板や金属基板、セラミックス基板であってもよい。また、基板サイズも18mm角に限るものではなく、Si基板であれば、φ2〜10インチのウエハであってもよい。
上記密着層121は、Tiターゲットを用いて、基板120を400℃に加熱しながら100Wの高周波電力を印加し、1Paのアルゴンガス中で、1分間形成することにより得られる。この密着層121の膜厚は0.02μmとなる。尚、密着層121の材料は、Tiに限らず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル若しくはクロム又はそれら(Tiを含む)の化合物であってもよい。また、膜厚は0.005〜0.2μmの範囲であればよい。
上記第1の電極層103は、多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びPtターゲットを用い、基板120を600℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において85W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得られる。この第1の電極層103の膜厚は0.2μmとなり、(111)面に配向する。また、Tiの含有量は2.5モル%である。この第1の電極層103も、上記実施形態1における第1の電極層14と同様に、Pt、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属に、チタン等の含有物が含有されたもの(含有量は0を越え30モル%以下であることが好ましい)であればよく、膜厚は0.05〜2μmの範囲であればよい。
上記配向制御層104は、ランタンを10モル%含有するPLTに酸化鉛(PbO)を15モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板120の温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で12分間形成することにより得られる。この得られたチタン酸ランタン鉛膜は、ランタンを10モル%含みかつ鉛を化学量論組成よりも10%過剰に含むペロブスカイト型結晶構造であって、第1の電極層103における配向制御層104側の表面部に位置するチタン上において(100)面又は(001)面に配向しており、この(100)面又は(001)面配向の領域は第1の電極層103側からその反対側(圧電体層110側)に向かって拡大する。一方、配向制御層104において第1の電極層103の表面部のチタン又は酸化チタンが存在しない部分の上側領域は、(100)面や(001)面配向とはならないが、この領域は圧電体層110側に向かって小さくなる。そして、ここでは、配向制御層104の膜厚が0.02μmとなるため、圧電体層110側の表面は略全体が(100)面又は(001)面に配向した領域となる。
尚、上記実施形態1における配向制御層15と同様に、上記配向制御層104のLaの含有量は0を越え25モル%以下であればよく、鉛の含有量は0を越え30モル%以下過剰であればよい。また、配向制御層104を構成する材料も、PLTにジルコニウムを含有したPLZT(ジルコニウムの含有量は20モル%以下であることが好ましい)であってもよく、PLTやPLZTに、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したもの(マグネシウム及びマンガンの添加量は0を越え10モル%以下であることが好ましい)であってもよい。また、配向制御層104の膜厚は0.01〜0.2μmの範囲であればよい。
上記圧電体層110は、0.92PZT(Zr/Ti=55/45)−0.08Pb(Mg1/3Nb2/3)O3の焼結体ターゲットを用い、基板120の温度600℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力260Wの条件で3時間形成することにより得られる。この得られたPMN添加PZT膜は、菱面体晶系ペロブスカイト型結晶構造で(100)面配向となる。また、圧電体層110の膜厚は3.1μmとなる。尚、この圧電体層110におけるPZTとPMNとの比率は、PZT/PMN=99/1〜50/50の範囲であればよい。つまり、PZTにPMNを1モル%以上50モル%以下添加したものであればよい。また、PZTのZr/Ti組成は、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、膜厚は、1〜5μmの範囲であればよい。さらに、圧電体層110の構成材料は、PZTに、上記実施形態1で説明したPb含有複合ペロブスカイト化合物を添加したものであってもよく、これに更にSr、Nb、Al等の添加物を含有したものであってもよい。
上記第2の電極層112は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で10分間形成することにより得られる。この第2の電極層112の膜厚は0.2μmとなる。尚、第2の電極層112の材料はPtに限らず、導電性材料であればよく、膜厚は0.1〜0.4μmの範囲であればよい。
上記振動層111は、Crターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で6時間形成することにより得られる。この振動層111の膜厚は3μmとなる。この振動層111の材料は、Crに限らず、ニッケル、アルミニウム、タンタル、タングステン、シリコン又はこれらの酸化物若しくは窒化物(例えば二酸化シリコン、酸化アルミニウム、窒化シリコン)等であってもよい。また、振動層111の膜厚は2〜5μmであればよい。
上記中間層113は、Tiターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で5時間形成することにより得られる。この中間層113の膜厚は5μmとなる。この中間層113の材料は、Tiに限らず、Cr等の導電性金属であればよい。また、中間層113の膜厚は3〜10μmであればよい。
一方、図12(b)に示すように、圧力室部材Aを形成する。この圧力室部材Aは、上記Si基板120よりも大きいサイズ、例えば4インチウエハーのシリコン基板130(図17参照)を使用して形成される。具体的には、先ず、シリコン基板130(圧力室部材用)に対して複数の圧力室用開口部101をパターンニングする。このパターンニングは、同図(b)から判るように、4つの圧力室用開口部101を1組として、各組を区画する区画壁102bは、各組内の圧力室用開口部101を区画する区画壁102aの幅の約2倍の幅の厚幅に設定される。その後、上記パターンニングされたシリコン基板130をケミカルエッチング又はドライエッチング等で加工して、各組で4個の圧力室用開口部101を形成し、圧力室部材Aを得る。
その後は、上記成膜後のシリコン基板120(成膜用)と前記圧力室部材Aとを接着剤を用いて接着する。この接着剤の形成は電着による。すなわち、先ず、同図(c)に示すように、圧力室部材A側の接着面として、圧力室の区画壁102a、102bの上面に接着剤114を電着により付着させる。具体的には、図示しないが、上記区画壁102a、102bの上面に、下地電極膜として、光が透過する程度に薄い数百ÅのNi薄膜をスパッタ法により形成し、その後、上記Ni薄膜上に、パターニングされた接着樹脂剤114を形成する。この際、電着液としては、アクリル樹脂系水分散液に0〜50重量部の純水を加え、良く攪拌混合した溶液を使用する。Ni薄膜の膜厚を光が透過するほど薄く設定するのは、シリコン基板130(圧力室部材用)に接着樹脂が完全に付着したことを容易に視認できるようにするためである。電着条件は、実験によると、液温約25℃、直流電圧30V、通電時間60秒が好適であり、この条件下で約3〜10μmのアクリル樹脂を、シリコン基板130(圧力室部材用)のNi薄膜上に電着樹脂形成する。
そして、図13(a)に示すように、上記積層されたSi基板120(成膜用)と圧力室部材Aとを、上記電着された接着剤114を用いて接着する。この接着は、基板120(成膜用)に成膜された中間層113を基板側接着面として行う。また、Si基板120(成膜用)は18mmのサイズであり、圧力室部材Aを形成するSi基板130は4インチサイズと大きいため、図17に示すように、複数(同図では14個)のSi基板120(成膜用)を1個の圧力室部材A(Si基板130)に貼り付ける。この貼り付けは、図13(a)に示すように、各Si基板120(成膜用)の中心が圧力室部材Aの厚幅の区画壁102bの中心に位置するように位置付けられた状態で行われる。この貼り付け後、圧力室部材AをSi基板120(成膜用)側に押圧、密着させて、両者の接着を液密性高くする。さらに、上記接着したSi基板120(成膜用)及び圧力室部材Aを加熱炉において徐々に昇温して、上記接着剤114を完全に硬化させる。続いて、プラズマ処理を行って、上記接着剤114のうち、はみ出した断片を除去する。
尚、図13(a)では、成膜後のSi基板120(成膜用)と圧力室部材Aとを接着したが、圧力室用開口部101を形成しない段階のSi基板130(圧力室部材用)を上記成膜後のSi基板120(成膜用)と接着してもよい。
その後は、図13(b)に示すように、圧力室部材Aの各区画壁102a、102bをマスクとして中間層113をエッチングして所定形状に仕上げる(上記各区画壁102a、102bに連続する形状(縦壁)とする)。次いで、図14(a)に示すように、Si基板120(成膜用)及び密着層121をエッチングにより除去する。
続いて、図14(b)に示すように、上記圧力室部材A上に位置する第1の電極層103について、フォトリソグラフィー技術を用いてエッチングして、各圧力室102毎に個別化する。そして、図15(a)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いて配向制御層104と圧電体層110とをエッチングして第1の電極層103と同様の形状に個別化する。これらエッチング後の第1の電極層103、配向制御層104及び圧電体層110は、圧力室102の各々の上方に位置し、かつ第1の電極層103、配向制御層104及び圧電体層110の幅方向の中心が、対応する圧力室102の幅方向の中心に対し高精度に一致するように形成される。このように第1の電極層103、配向制御層104及び圧電体層110を各圧力室102毎に個別化した後、図15(b)に示すように、シリコン基板130(圧力室部材用)を各厚幅の区画壁102bの部分で切断して、4つの圧力室102を持つ圧力室部材Aとその上面に固着されたアクチュエータ部Bとが4組完成する。
続いて、図16(a)に示すように、インク流路部材Cに共通液室105、供給口106及びインク流路107を形成するとともに、ノズル板Dにノズル孔108を形成する。次いで、同図(b)に示すように、上記インク流路部材Cとノズル板Dとを接着剤109を用いて接着する。
その後、同図(c)に示すように、圧力室部材Aの下端面又はインク流路部材Cの上端面に接着剤(図示せず)を転写し、圧力室部材Aとインク流路部材Cとのアライメント調整を行って、この両者を上記接着剤により接着する。以上により、同図(d)に示すように、圧力室部材A、アクチュエータ部B、インク流路部材C及びノズル板Dを持つインクジェットヘッドが完成する。
上記のようにして得られたインクジェットヘッドの第1及び第2電極層103,112間に所定電圧を印加すると、圧電体層110の圧電効果により振動層111における各圧力室102に対応する部分が層厚方向に変位して、圧力室102内のインクが該圧力室102に連通するノズル孔108から吐出されることになる。そして、上記電圧印加時の振動層111における各圧力室102に対応する部分の層厚方向の変位量を測定したところ、その変位量のばらつきはσ=2.1%であった。また、周波数が20kHzの20V交流電圧を10日間印加し続けたが、インクの吐出不良は全くなく、吐出性能の低下は見られなかった。
一方、上記本発明のインクジェットヘッドに対して配向制御層104を設けない点のみが異なるインクジェットヘッドを作製し、このインクジェットヘッドの第1及び第2電極層103,112間に所定電圧を印加して、振動層111における各圧力室102に対応する部分の層厚方向の変位量を測定したところ、その変位量のばらつきはσ=7.9%であった。また、周波数が20kHzの20V交流電圧を10日間印加し続けたところ、全圧力室102のうちの約38%の圧力室102に対応する部分でインク吐出不良が発生した。この不良は、インクの詰まり等ではなく、圧電体層110にクラックが生じたことによるものであり、このことから、アクチュエータ部B(圧電素子)の耐久性が低いと考えられる。
したがって、本実施形態のインクジェットヘッドは、インク吐出性能のばらつきが少なくて耐久性及び信頼性に優れていることが判る。
(実施形態4)
図18は、本発明の実施形態に係る他のインクジェットヘッドの主要部を示し、上記実施形態3のインクジェットヘッドのように基板を成膜用と圧力室部材用とに別個に用いないで、成膜用と圧力室部材用とを兼用するようにしたものである。
具体的には、圧力室402がエッチング加工により形成された圧力室基板401(圧力室部材)上に、振動層403、密着層404、第1の電極層406(共通電極)、配向制御層407、圧電体層408及び第2の電極層409(個別電極)が順に積層されている。上記第1の電極層406、配向制御層407、圧電体層408及び第2の電極層409は、これらが順に積層されてなる圧電素子を構成することになる。また、振動層403は、この圧電素子の第1の電極層406側の面に密着層404を介して設けられていることになる。この密着層404は、振動層403と第1の電極層406との密着性を高めるものであり、上記実施形態3における密着層121と同様になくてもよい。上記第1の電極層406、配向制御層407、圧電体層408及び第2の電極層409の各構成材料は、上記実施形態2の実施例9で説明した第1の電極層、配向制御層、圧電体層及び第2の電極層とそれぞれ同様である(構成元素の含有量が異なるものもある)。また、配向制御層407及び圧電体層408の構造も、実施例9の配向制御層及び圧電体層とそれぞれ同様であり、圧電体層408の結晶粒は、該圧電体層408の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされている。尚、上記第1の電極層406、配向制御層407、圧電体層408及び第2の電極層409は、上記実施形態1で説明した第1の電極層14、配向制御層15、圧電体層16及び第2の電極層17とそれぞれ同様の構成としてもよい。
上記圧力室基板401は、φ4インチで厚さ200μmのSi基板を用いる。本実施形態でも、Siに限るものではなく、ガラス基板や金属基板、セラミックス基板であってもよい。
上記振動層403は、本実施形態では、膜厚が2.8μmであって二酸化シリコンからなる。尚、この振動層403の材料は、二酸化シリコンに限らず、上記実施形態2で説明した材料(ニッケルやクロム等の単体又はその酸化物若しくは窒化物)であってもよい。また、振動層111の膜厚は0.5〜10μmであればよい。
次に、上記インクジェットヘッドの製造方法について図19を参照しながら説明する。
すなわち、先ず、図19(a)に示すように、圧力室402が形成されていない圧力室基板401に、振動層403、密着層404、第1の電極層406、配向制御層407、圧電体層408及び第2の電極層409をスパッタ法により順次形成する。
上記振動層403は、二酸化シリコン焼結体のターゲットを用いて、圧力室基板401の加熱は行わないで室温において、300Wの高周波電力を印加して、0.4Paのアルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=5:25)で、8時間形成することにより得られる。尚、この振動層403の成膜法としては、スパッタ法に限らず、熱CVD法、プラズマCVD法、ゾル・ゲル法等であってもよく、圧力室基板401の熱酸化処理で形成する方法であってもよい。
上記密着層404は、Tiターゲットを用いて、圧力室基板401を400℃に加熱しながら、100Wの高周波電力を印加して、1Paのアルゴンガス中で、1分間加熱することにより得られる。この密着層404の膜厚は0.03μmとなる。尚、密着層404の材料は、Tiに限らず、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル若しくはクロム又はそれら(Tiを含む)の化合物であってもよい。また、膜厚は0.005〜0.1μmの範囲であればよい。
上記第1の電極層406は、スパッタ装置を使用して、Irターゲットを用い、圧力室基板401を600℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において200Wの高周波電力で12分間形成することにより得られる。この第1の電極層406の膜厚は0.15μmとなり、(111)面に配向する。この第1の電極層406は、貴金属Irにチタン等は含有されていないが、上記実施形態1における第1の電極層14と同様に、Pt、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属に、チタン等の含有物が含有されたもの(含有量は0を越え30モル%以下であることが好ましい)であってもよく、膜厚は0.05〜2μmの範囲であればよい。
上記配向制御層407は、ランタンを10モル%含有するPLTに酸化鉛(PbO)を15モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、圧力室基板401の温度620℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で12分間形成することにより得られる。この得られたチタン酸ランタン鉛膜は、上記実施例9の配向制御層と同様であり、(111)面に優先配向している。
尚、上記実施形態1における配向制御層15と同様に、上記配向制御層407のLaの含有量は0を越え25モル%以下であればよく、鉛の含有量は0を越え30モル%以下過剰であればよい。また、配向制御層407を構成する材料も、PLTにジルコニウムを含有したPLZT(ジルコニウムの含有量は20モル%以下であることが好ましい)であってもよく、PLTやPLZTに、マグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したもの(マグネシウム及びマンガンの添加量は0を越え10モル%以下であることが好ましい)であってもよい。また、配向制御層407の膜厚は0.01〜0.2μmの範囲であればよい。
上記圧電体層408は、0.9PZT(Zr/Ti=48/52)−0.1Pb(Ni1/3Nb2/3)O3の焼結体ターゲットを用い、圧力室基板401の温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得られる。この得られた圧電体層408の膜厚は、2.6μmである。尚、この圧電体層408におけるPZTとPNNとの比率は、PZT/PNN=99/1〜50/50の範囲であればよい。また、PZTのZr/Ti組成は、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、膜厚は、1〜5μmの範囲であればよい。さらに、圧電体層408の構成材料は、PZTに、上記実施形態1で説明したPb含有複合ペロブスカイト化合物を添加したものであってもよく、これに更にSr、Nb、Al等の添加物を含有したものであってもよい。
上記第2の電極層409は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中200Wの高周波電力で10分間形成することにより得られる。この第2の電極層409の膜厚は0.2μmとなる。尚、第2の電極層409の材料はPtに限らず、導電性材料であればよく、膜厚は0.1〜0.4μmの範囲であればよい。
次いで、上記第2の電極層409上に、レジストをスピンコートにより塗布し、圧力室402が形成されるべき位置に合わせて露光・現像を行ってパターニングする。そして、第2の電極層409、圧電体層408及び配向制御層407をエッチングして個別化する。このエッチングは、アルゴンとフッ素元素を含む有機ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで行う。
続いて、図19(b)に示すように、圧力室基板401に圧力室402を形成する。この圧力室402の形成は、六フッ化硫黄ガス、フッ素元素を含む有機ガス又はこれらの混合ガスを使用した異方性ドライエッチングで行う。つまり、圧力室基板401の上記各膜を形成した面とは反対側の面における側壁413となる部分にエッチングマスクを形成して、異方性ドライエッチングにより圧力室402を形成する。
そして、予めノズル孔410を形成したノズル板412を、接着剤を用いて圧力室基板401の上記各膜を形成した面とは反対側の面に接合することにより、インクジェットヘッドが完成する。上記ノズル孔410は、リゾグラフィ法、レーザー加工法、放電加工法等により、ノズル板412の所定位置に開口する。そして、ノズル板412を圧力室基板401に接合する際には、各ノズル孔410が圧力室402に対応して配置されるように位置合わせを行う。
上記のようにして得られたインクジェットヘッドの第1及び第2電極層406,409間に所定電圧を印加して、振動層403における各圧力室402に対応する部分の層厚方向の変位量を測定したところ、その変位量のばらつきはσ=2.4%であった。また、周波数が20kHzの20V交流電圧を10日間印加し続けたが、インクの吐出不良は全くなく、吐出性能の低下は見られなかった。
一方、上記本発明のインクジェットヘッドに対して配向制御層407を設けない点のみが異なるインクジェットヘッドを作製し、このインクジェットヘッドの第1及び第2電極層406,409間に所定電圧を印加して、振動層403における各圧力室402に対応する部分の層厚方向の変位量を測定したところ、その変位量のばらつきはσ=6.5%であった。また、周波数が20kHzの20V交流電圧を10日間印加し続けたところ、全圧力室402のうちの約35%の圧力室402に対応する部分でインク吐出不良が発生した。この不良は、インクの詰まり等ではなく、圧電体層408にクラックが生じたことによるものであり、このことから、アクチュエータ部(圧電素子)の耐久性が低いと考えられる。
したがって、本実施形態のインクジェットヘッドは、上記実施形態3のインクジェットヘッドと同様に、インク吐出性能のばらつきが少なくて耐久性及び信頼性に優れていることが判る。
(実施形態5)
図20は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置35を示し、このインクジェット式記録装置35は、上記実施形態3又は4で説明したものと同様のインクジェットヘッド28を備えている。このインクジェットヘッド28において圧力室(上記実施形態3における圧力室102や実施形態4における圧力室402)に連通するように設けたノズル孔(上記実施形態3におけるノズル孔108や実施形態4におけるノズル孔410)から該圧力室内のインクを記録媒体29(記録紙等)に吐出させて記録を行うように構成されている。
上記インクジェットヘッド28は、主走査方向Xに延びるキャリッジ軸30に設けられたキャリッジ31に搭載されていて、このキャリッジ31がキャリッジ軸30に沿って往復動するのに応じて主走査方向Xに往復動するように構成されている。このことで、キャリッジ31は、インクジェットヘッド28と記録媒体29とを主走査方向Xに相対移動させる相対移動手段を構成することになる。
また、このインクジェット式記録装置35は、上記記録媒体29をインクジェットヘッド28の主走査方向X(幅方向)と略垂直方向の副走査方向Yに移動させる複数のローラ32を備えている。このことで、複数のローラ32は、インクジェットヘッド28と記録媒体29とを副走査方向Yに相対移動させる相対移動手段を構成することになる。尚、図20中、Zは上下方向である。
そして、インクジェットヘッド28がキャリッジ31により主走査方向Xに移動しているときに、インクジェットヘッド28のノズル孔からインクを記録媒体29に吐出させ、この一走査の記録が終了すると、上記ローラ32により記録媒体29を所定量移動させて次の一走査の記録を行う。
したがって、このインクジェット式記録装置35は、上記実施形態3又は4と同様のインクジェットヘッド28を備えているので、良好な印字性能及び耐久性を有している。
(実施形態6)
図21及び図22は、本発明の実施形態に係る角速度センサを示し、この角速度センサは、音叉型のものであって、車両に搭載されるナビゲーション装置等に好適に用いられるものである。
上記角速度センサは、厚み0.3mmのシリコンウエハからなる基板500を備えている(ガラス基板や金属基板、セラミックス基板であってもよい)。この基板500は、固定部500aと、該固定部500aから所定の方向(検出する角速度の回転中心軸が延びる方向;本実施形態では、図21に示すy方向)に延びる一対の振動部500bとを有している。これら固定部500a及び一対の振動部500bは、基板500の厚み方向(図21に示すz方向)から見て音叉状をなしており、一対の振動部500bは音叉のアーム部に相当していて、振動部500bの幅方向に並んだ状態で互いに平行に延びている。
上記基板500の各振動部500b及び固定部500aの振動部側の部分上には、第1の電極層503と配向制御層504と圧電体層505と第2の電極層506とが順に積層されている。尚、この角速度センサにおいても、上記基板500と第1の電極層503との間に、上記実施形態1における圧電素子と同様に、密着層を設けることが好ましい。
上記第1の電極層503、配向制御層504、圧電体層505及び第2の電極層506は、上記実施形態1で説明した第1の電極層14、配向制御層15、圧電体層16及び第2の電極層17とそれぞれ同様のものである。また、配向制御層504及び圧電体層505の構造も、配向制御層15及び圧電体層16とそれぞれ同様であり、配向制御層504における第1の電極層503側の表面近傍部は、(100)面又は(001)面配向の領域が第1の電極層503における配向制御層504側の表面部に位置するチタン上に存在していて層厚方向と垂直な断面における上記領域の面積が第1の電極層503側から圧電体層505側に向かって大きくなる構造を有し、圧電体層505の結晶粒は、該圧電体層505の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされている。尚、上記第1の電極層503、配向制御層504、圧電体層505及び第2の電極層506を、上記実施形態2で説明した第1の電極層24、配向制御層25、圧電体層26及び第2の電極層27とそれぞれ同様の構成としてもよい。
上記第2の電極層506は、上記各振動部500b上において、当該振動部500bを振動部500bの幅方向(図21に示すx方向)に振動させるための2つの駆動電極507と、当該振動部500bの厚み方向(z方向)の変形(たわみ)を検出するための1つの検出電極508とにパターン化されている。
上記2つの駆動電極507は、当該振動部500bの幅方向(x方向)両端部上において、振動部500bの長さ方向(y方向)全体に亘って設けられ、各駆動電極507の固定部500a側の端部は、固定部500a上に位置して接続端子507aを構成している。尚、各振動部500bの幅方向一端部上に1つの駆動電極507を設けるだけであってもよい。
一方、上記検出電極508は、当該振動部500bの幅方向中央部上において、振動部500bの長さ方向全体に亘って設けられ、上記駆動電極507と同様に、検出電極508の固定部500a側の端部は、固定部500a上に位置して接続端子508aを構成している。尚、各振動部500b上において複数の検出電極508を設けてもよい。
上記第1の電極層503は、固定部500a上における一対の振動部500b間の中央位置において、振動部500bとは反対側に突出する接続端子503aを有している。
上記各振動部500b上における上記第1の電極層503と2つの駆動電極507との間には、当該振動部500bがその幅方向に振動するように、振動部500bの固有振動と共振する周波数の電圧が印加されるようになっている。すなわち、第1の電極層503には、グランド電圧が印加される一方、2つの駆動電極507には、正負が互いに逆の電圧が印加され、このことで、各振動部500bの幅方向一端部側が伸長するときには、他端部側が収縮して、該振動部500bがその他端部側に変形する。一方、各振動部500bの幅方向一端部側が収縮するときには、他端部側が伸長して、振動部500bがその一端部側に変形する。この動作を交互に繰り返すことによって振動部500bがその幅方向に振動する。尚、各振動部500b上における2つの駆動電極507のいずれか一方に電圧を印加するだけでも、当該振動部500bをその幅方向に振動させることは可能である。そして、一対の振動部500bは、各振動部500bの幅方向において互いに反対向きに変形し、一対の振動部500b間の中央にあって該振動部500bの長さ方向に延びる中央線Lに対して対称に振動するようになっている。
上記構成の角速度センサにおいて、一対の振動部500bをその幅方向(x方向)に上記中央線Lに対して対称に振動させているときに、その中央線L回りに角速度ωが加わると、2つ振動部500bは、コリオリ力によって厚み方向(z方向)にたわんで変形し(一対の振動部500bは互いに反対向きに同じ量たわむ)、これにより、圧電体層505にもたわみが発生して、第1の電極層503と検出電極508との間には、コリオリ力の大きさに応じた電圧が発生する。この電圧の大きさ(コリオリ力)から角速度ωを検出することができる。
すなわち、コリオリ力Fcは、各振動部500bの幅方向の速度をv、各振動部500bの質量をmとすると、
Fc=2mvω
となるので、コリオリ力Fcから角速度ωの値が分かることになる。
次に、上記角速度センサの製造方法について図23及び図24に基づいて説明する。
すなわち、図23(a)に示すように、厚み0.3mmのφ4インチシリコンウエハ(平面図は図24参照)からなる基板500を用意し、図23(b)に示すように、この基板500上に、18モル%のTiを添加したイリジウム(Ir)からなる厚み0.22μmの第1の電極層503をスパッタ法により形成する。この第1の電極層503は、基板500を400℃に加熱しながら多元スパッタ装置を使用して、Tiターゲット及びIrターゲットを用い、1Paのアルゴンガス中において85W及び200Wの高周波電力で12分間形成することにより得られる。この第1の電極層503の表面部にはチタンが島状に点在するとともに、そのチタンの該表面からの突出量は2nmよりも小さい。
続いて、図23(c)に示すように、上記第1の電極層503上に、厚み0.03μmの配向制御層504をスパッタ法により形成する。この配向制御層504は、ランタンを14モル%含有するPLTに酸化鉛(PbO)を12モル%過剰に加えて調合した焼結ターゲットを用い、基板500を温度600℃に加熱しながら、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.8Pa、高周波電力300Wの条件で12分間形成することにより得られる。この製造方法よれば、上記実施形態1で説明したように、配向制御層504における第1の電極層503側の表面近傍は、(100)面又は(001)面配向の領域がチタン上に存在しかつ層厚方向と垂直な断面における上記領域の面積が第1の電極層503側から上側に向かって大きくなる。
次いで、図23(d)に示すように、上記配向制御層504上に厚み3.1μmの圧電体層505をスパッタ法により形成する。この圧電体層505は、基板500を610℃に加熱しながら、0.92PZT(Zr/Ti=55/45)−0.08Pb(Mg1/3Nb2/3)O3の焼結体ターゲットを用い、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=19:1)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で3時間形成することにより得られる。この圧電体層505は正方晶系であり、上記実施形態1で説明したように、(001)面配向度が90%以上となる。尚、この圧電体層505におけるPZTとPMNとの比率は、PZT/PMN=99/1〜50/50の範囲であればよい。また、PZTのZr/Ti組成は、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよく、膜厚は、1〜5μmの範囲であればよい。
続いて、図23(e)に示すように、上記圧電体層505上に厚み0.2μmの第2の電極層506をスパッタ法により形成する。この第2の電極層506は、Ptターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中で200Wの高周波電力で10分間形成することにより得られる。
次いで、図23(f)及び図24に示すように、上記第2の電極層506をパタ−ニングして駆動電極507及び検出電極508を形成する。すなわち、第2の電極層506上に感光樹脂を塗布し、この感光樹脂に駆動電極507及び検出電極508のパタ−ンを露光し、その後、露光していない部分の感光樹脂を除去し、この感光樹脂を除去した部分における第2の電極層506をエッチングにより除去し、次いで、駆動電極507及び検出電極508上の感光樹脂を除去する。
上記第2の電極層506のパターンニング後、同様の工程により圧電体層505、配向制御層504及び第1の電極層503をパタ−ニングするとともに、上記基板500をパタ−ニングして固定部500a及び振動部500bを形成する。こうして上記の角速度センサが完成する。
尚、上記各層の成膜法はスパッタ法に限らず、熱処理による結晶化工程なしに直接に結晶性薄膜を形成する成膜法(例えばCVD法等)であればよい。
ここで、図25及び図26を参照しながら従来の角速度センサについて説明する。
この従来の角速度センサは、厚み0.3mmの水晶からなる圧電体600を備え、この圧電体600が、本実施形態に係る角速度センサの基板500と同様に、固定部600aと該固定部600aからその一側方(図25に示すy方向)に互いに平行に延びる一対の振動部600bとを有している。そして、上記各振動部600bの厚み方向(図25に示すz方向)に対向する両面には、当該振動部600bをその幅方向(図25に示すx方向)に振動させるための駆動電極603がそれぞれ1つずつ設けられ、各振動部600bの両側面には、当該振動部600bの厚み方向の変形を検出するための検出電極607がそれぞれ1つずつ設けられている。
そして、上記従来の角速度センサにおいて、各振動部600bにおける2つの駆動電極603間に、当該振動部600bの固有振動と共振する周波数の電圧を印加して、本実施形態に係る角速度センサと同様に、一対の振動部600bをその幅方向(x方向)に該一対の振動部600b間の中央にある中央線Lに対して対称に振動させる。このときに、その中央線L回りに角速度ωが加わると、一対の振動部600bは、コリオリ力によって厚み方向(z方向)にたわんで変形し、各振動部600bにおける2つの検出電極607間にコリオリ力の大きさに応じた電圧が発生し、この電圧の大きさ(コリオリ力)から角速度ωを検出することができる。
上記従来の角速度センサにおいては、水晶からなる圧電体600を用いるので、その圧電定数は−3pC/Nとかなり低く、しかも固定部600a及び振動部600bは機械加工により形成するため、小型化が困難であり、寸法精度が低いという問題がある。
これに対し、本実施形態に係る角速度センサにおいては、角速度を検出する部分(振動部500b)が、上記実施形態1と同様の構成の圧電素子で構成されていることになるので、上記従来の角速度センサに対して圧電定数を40倍程度に大きくすることができ、かなりの小型化を図ることができる。また、薄膜形成技術を用いて微細加工を行うことができ、寸法精度を格段に向上させることができる。さらに、工業的に量産しても、特性の再現性が良好で、ばらつきが少なく、耐電圧及び信頼性に優れる。
尚、本実施形態における角速度センサにおいても、上記実施形態1における圧電素子と同様に、配向制御層504は、ジルコニウムの含有量が0以上20モル%以下でありかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して0を越え30モル%以下過剰であるチタン酸ランタンジルコン酸鉛、又は該チタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したものからなることが好ましい。このチタン酸ランタンジルコン酸鉛におけるランタンの含有量は、0を越え25モル%以下であることが好ましく、チタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加する場合のトータル添加量は、0を越え10モル%以下であることが好ましい。
また、第1の電極層503は、白金、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種の貴金属に、チタン等の含有物が含有されて、その含有量が0を越え30モル%以下であることが望ましい。
さらに、圧電体層505は、上記実施形態1で説明したPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したPZTからなっていればよく、これに更にSr、Nb、Al等を添加してもよい。
さらにまた、本実施形態における角速度センサにおいては、基板500に一対の振動部500bを1組しか設けていないが、複数組設けて、種々の方向に延びる複数軸回りの角速度を検出するようにしてもよい。
また、本実施形態における角速度センサにおいては、基板500の各振動部500b及び固定部500aの振動部側の部分上に、第1の電極層503と配向制御層504と圧電体層505と第2の電極層506とを順に積層したが、これら各層を積層する箇所は、各振動部500b上のみであってもよい。
加えて、上記実施形態では、本発明の圧電素子を、インクジェットヘッド(インクジェット式記録装置)及び角速度センサに適用したが、これら以外にも、薄膜コンデンサー、不揮発性メモリ素子の電荷蓄積キャパシタ、各種アクチュエータ、赤外センサー、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、流量センサー、ショックセンサー、圧電トランス、圧電点火素子、圧電スピーカー、圧電マイクロフォン、圧電フィルタ、圧電ピックアップ、音叉発振子、遅延線等にも適用可能である。特に、ディスク装置(コンピュータの記憶装置等として用いられるもの)における回転駆動されるディスクに対して情報の記録又は再生を行うヘッドが基板上に設けられたヘッド支持機構において、該基板上に設けた薄膜圧電体素子によって、基板を変形させて該ヘッドを変位させるディスク装置用薄膜圧電体アクチュエータ(例えば特開2001−332041号公報参照)に好適である。つまり、上記薄膜圧電体素子は、上記実施形態で説明したものと同様の構成の第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されてなり、この第2の電極層が上記基板に接合されたものである。
本発明は、インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドにおけるインク吐出用アクチュエータ等のような各種アクチュエータや、角速度センサー、赤外センサー、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、流量センサー、ショックセンサー等の各種センサ、薄膜コンデンサー、不揮発性メモリ素子の電荷蓄積キャパシタ、圧電トランス、圧電点火素子、圧電スピーカー、圧電マイクロフォン、圧電フィルタ、圧電ピックアップ、音叉発振子、遅延線等に有用である。
本発明の実施形態に係る圧電素子を示す断面図である。 配向制御層の構造を模式的に示す拡大断面図である。 本発明の実施例1に係る圧電素子の走査型電子顕微鏡による断面写真である。 実施例1の圧電体層におけるPb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量と圧電定数d31との関係を示すグラフである。 本発明の実施形態に係る他の圧電素子を示す断面図である。 配向制御層の膜厚と配向制御層の(111)面配向率との関係を示すグラフである。 配向制御層の膜厚と圧電体層の(111)面配向率との関係を示すグラフである。 実施例9の圧電体層におけるPb含有複合ペロブスカイト化合物の含有量と圧電定数d31との関係を示すグラフである。 本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの全体構成を示す斜視図である。 図9のインクジェットヘッドにおける圧力室部材及びアクチュエータ部の要部を示す分解斜視図である。 図9のインクジェットヘッドにおける圧力室部材及びアクチュエータ部の要部を示す断面図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法における積層工程、圧力室用開口部の形成工程及び接着剤の付着工程を示す図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法における、成膜後の基板と圧力室部材との接着工程及び縦壁の形成工程を示す図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法における、基板(成膜用)及び密着層の除去工程並びに第1の電極層の個別化工程を示す図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法における、配向制御層及び圧電体層の個別化工程並びに基板(圧力室部材用)の切断工程を示す図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法における、インク流路部材及びノズル板の生成工程、インク流路部材とノズル板との接着工程、圧力室部材とインク流路部材との接着工程及び完成したインクジェットヘッドを示す図である。 図9のインクジェットヘッドの製造方法において、成膜されたSi基板と圧力室部材用のSi基板との接着状態を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る他のインクジェットヘッドにおける圧力室部材及びアクチュエータ部の要部を示す断面図である。 図18のインクジェットヘッドの製造方法における積層工程及び圧力室形成工程を示す図である。 本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置を示す概略斜視図である。 本発明の実施形態に係る角速度センサを示す概略斜視図である。 図21のXXII−XXII線断面図である。 図21の角速度センサの製造方法を示す図である。 角速度センサの製造方法において、第2の電極層をパターニングした状態を示す平面図である。 水晶を用いた従来の角速度センサを示す概略斜視図である。 図25のXXVI−XXVI線断面図である。
符号の説明
11 基板
12 密着層
14 第1の電極層
15 配向制御層
16 圧電体層
17 第2の電極層
21 基板
22 密着層
24 第1の電極層
25 配向制御層
26 圧電体層
27 第2の電極層
28 インクジェットヘッド
29 記録媒体
31 キャリッジ(相対移動手段)
35 インクジェット式記録装置
A 圧力室部材
102 圧力室
103 第1の電極層(個別電極)
104 配向制御層
108 ノズル孔
110 圧電体層
111 振動層
112 第2の電極層(共通電極)
120 基板
121 密着層
401 圧力室基板
402 圧力室
403 振動層
404 密着層
406 第1の電極層(共通電極)
407 配向制御層
408 圧電体層
409 第2の電極層(個別電極)
410 ノズル孔
500 基板
500a 固定部
500b 振動部
503 第1の電極層
504 配向制御層
505 圧電体層
506 第2の電極層
507 駆動電極
508 検出電極

Claims (23)

  1. 第1の電極層と、該第1の電極層上に設けられた配向制御層と、該配向制御層上に設けられた圧電体層と、該圧電体層上に設けられた第2の電極層とを備えた圧電素子であって、
    上記配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、
    上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、
    上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることを特徴とする圧電素子。
  2. 請求項1記載の圧電素子において、
    配向制御層は、(100)面又は(001)面に優先配向しており、
    圧電体層は、(001)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子。
  3. 請求項1記載の圧電素子において、
    配向制御層及び圧電体層は、共に(111)面に優先配向していることを特徴とする圧電素子。
  4. 請求項1記載の圧電素子において、
    Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mg、Mn、Ni、Co、Zn及びCdの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Nbであり、
    上記化学式中のaの値は1/3であり、bの値は2/3であることを特徴とする圧電素子。
  5. 請求項1記載の圧電素子において、
    Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mg、Mn及びNiの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Ta又はSbであり、
    上記化学式中のaの値は1/3であり、bの値は2/3であることを特徴とする圧電素子。
  6. 請求項1記載の圧電素子において、
    Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Fe、Cr、In、Y、Sb及びMnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Nbであり、
    上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であることを特徴とする圧電素子。
  7. 請求項1記載の圧電素子において、
    Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Fe、Cr及びMnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Taであり、
    上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であることを特徴とする圧電素子。
  8. 請求項1記載の圧電素子において、
    Pb含有複合ペロブスカイト化合物の化学式中のA元素は、Mn、Ni、Co、Mg及びZnの群から選ばれた少なくとも1種であり、B元素は、Te又はWであり、
    上記化学式中のaの値は1/2であり、bの値は1/2であることを特徴とする圧電素子。
  9. 請求項1記載の圧電素子において、
    配向制御層は、ジルコニウムの含有量が0以上20モル%以下でありかつ鉛の含有量が化学量論組成と比較して0を越え30モル%以下過剰であるチタン酸ランタンジルコン酸鉛、又は該チタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加したものからなることを特徴とする圧電素子。
  10. 請求項9記載の圧電素子において、
    配向制御層のチタン酸ランタンジルコン酸鉛におけるランタンの含有量が0を越え25モル%以下であることを特徴とする圧電素子。
  11. 請求項9記載の圧電素子において、
    配向制御層においてチタン酸ランタンジルコン酸鉛にマグネシウム及びマンガンの少なくとも一方を添加する場合のトータル添加量は、0を越え10モル%以下であることを特徴とする圧電素子。
  12. 請求項2記載の圧電素子において、
    第1の電極層は、チタン又は酸化チタンを含有する貴金属からなることを特徴とする圧電素子。
  13. 請求項12記載の圧電素子において、
    第1の電極層の貴金属は、白金、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種であり、
    上記貴金属に含有されているチタン又は酸化チタンの含有量が0を越え30モル%以下であることを特徴とする圧電素子。
  14. 請求項12記載の圧電素子において、
    第1の電極層における配向制御層側の表面部に位置するチタン又は酸化チタンの該表面からの突出量が2nmよりも小さいことを特徴とする圧電素子。
  15. 請求項2記載の圧電素子において、
    第1の電極層は、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、Ca、Sr、Ba及びAl並びにこれらの酸化物の群から選ばれた少なくとも1種を含有する貴金属からなることを特徴とする圧電素子。
  16. 請求項15記載の圧電素子において、
    第1の電極層の貴金属は、白金、イリジウム、パラジウム及びルテニウムの群から選ばれた少なくとも1種であり、
    上記貴金属に含有されている含有物の含有量が0を越え30モル%以下であることを特徴とする圧電素子。
  17. 請求項15記載の圧電素子において、
    第1の電極層における配向制御層側の表面部に位置する、該第1の電極層の貴金属に含有されている含有物の該表面からの突出量が2nmよりも小さいことを特徴とする圧電素子。
  18. 請求項3記載の圧電素子において、
    配向制御層の(111)面配向率が50%以上であることを特徴とする圧電素子。
  19. 請求項1記載の圧電素子において、
    第1の電極層は、基板上に設けられており、
    上記基板と第1の電極層との間に、該基板と第1の電極層との密着性を高める密着層が設けられていることを特徴とする圧電素子。
  20. 第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されてなる圧電素子と、該圧電素子の第2の電極層側の面に設けられた振動層と、該振動層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させて上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドであって、
    上記圧電素子の配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、
    上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、
    上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることを特徴とするインクジェットヘッド。
  21. 第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されてなる圧電素子と、該圧電素子の第1の電極層側の面に設けられた振動層と、該振動層の圧電素子とは反対側の面に接合され、インクを収容する圧力室を有する圧力室部材とを備え、上記圧電素子の圧電体層の圧電効果により上記振動層を層厚方向に変位させて上記圧力室内のインクを吐出させるように構成されたインクジェットヘッドであって、
    上記圧電素子の配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、
    上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、
    上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることを特徴とするインクジェットヘッド。
  22. 固定部と、該固定部から所定の方向に延びる少なくとも一対の振動部とを有する基板を備え、該基板の少なくとも各振動部上に、第1の電極層と配向制御層と圧電体層と第2の電極層とが順に積層されており、該各振動部上における第2の電極層が、当該振動部を振動部の幅方向に振動させるための少なくとも1つの駆動電極と、当該振動部の厚み方向の変形を検出するための少なくとも1つの検出電極とにパターン化された角速度センサであって、
    上記配向制御層は、立方晶系又は正方晶系のペロブスカイト型酸化物からなり、
    上記圧電体層は、化学式がPb(Aab)O3で表されるPb含有複合ペロブスカイト化合物を1モル%以上50モル%以下添加したチタン酸ジルコン酸鉛からなっていて、菱面体晶系又は正方晶系の結晶構造を有しており、
    上記圧電体層の結晶粒が、該圧電体層の厚み方向に延びかつ長さに対する平均断面径の比が1/50以上1/14以下である柱状粒子とされていることを特徴とする角速度センサ。
  23. 請求項20又は21記載のインクジェットヘッドと、
    上記インクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる相対移動手段とを備え、
    上記相対移動手段によりインクジェットヘッドが記録媒体に対して相対移動しているときに、該インクジェットヘッドにおいて圧力室に連通するように設けたノズル孔から該圧力室内のインクを記録媒体に吐出させて記録を行うように構成されていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
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