JP2005298236A - 高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 臭素酸などの不純物の少ない高純度次亜塩素酸塩溶液を製造すること
【解決手段】 臭素酸を含む次亜塩素酸塩溶液を冷却した際に析出する臭素酸の量が目標値以下となるように、種々の温度に対応する臭素酸の溶解度に基づいて選択された所定の温度に当該次亜塩素酸塩溶液を冷却して次亜塩素酸塩を析出させ、この析出した次亜塩素酸塩を溶液から分離して別に用意した例えば水に溶解させる構成とする。この場合、臭素酸の析出量を例えば数ppmの低濃度範囲で高精度に制御できるので、結果として高純度な次亜塩素酸塩溶液を得ることができる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、例えば臭素酸などの不純物が少ない高純度な次亜塩素酸塩溶液の製造方法に関する。
従来、次亜塩素酸塩例えば次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)は高い酸化力を有しており、例えば水道水の殺菌剤として用いられている。次亜塩素酸ナトリウムは、例えば塩素(Cl2)を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に吸収させることにより、これら塩素と水酸化ナトリウムとが反応し、例えば反応式(1)に示す反応が進行することで次亜塩素酸ナトリウムが生成され、これにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液として製造されている。
Cl2+2NaOH → NaClO+NaCl+H2O…(1)
Cl2+2NaOH → NaClO+NaCl+H2O…(1)
ところで、塩素と水酸化ナトリウムとが反応すると、反応式(1)からも分かるように副生物として食塩(NaCl)が生成するので、製造された次亜塩素酸ナトリウム水溶液には食塩が含まれており、当該水溶液中の食塩濃度が高すぎると食塩が結晶化して析出してしまう場合があり、更に析出した食塩が含まれていると例えば製造設備内の水溶液の移送時において移送路例えば配管内を詰まらせてしまう懸念がある。このため、これまで報告されてきた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造手法の多くは、できるだけ食塩の少ないものを製造することを目的としている。
低食塩の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する手法の一つとして、脱塩法と呼ばれる手法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この手法では、例えば20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを吹き込んで、反応式1の反応を進行させることにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た後、更にこの水溶液に例えば50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えると共に塩素ガスを吹き込んで段階的に次亜塩素酸ナトリウムの濃度を高めていく。このとき水溶液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度が高くなるにつれて食塩の溶解度が低下していくため、飽和濃度を越えた分において食塩が析出する。そして析出した食塩を例えばろ過器を用いて分離することにより低食塩の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る。
更に他の手法として、晶析法と呼ばれる手法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。この手法では、水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを吹き込んで反応式1の反応を進行させることにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た後、この水溶液を所定の温度に冷却して次亜塩素酸ナトリウムを析出させる。次いでこの析出物を水溶液から取り出して、別に用意した水に溶解させることにより、低食塩の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る。
しかしながら上述の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造手法においては以下のような問題がある。即ち、これまで溶液の安定性及び取り扱い容易性を確保するために低食塩化の検討が進められてきた。ところで近年においては、衛生上の見地から水道水に含まれる不純物濃度の管理基準が益々厳しくなる傾向にあり、そのため例えば次亜塩素酸ナトリウムを水道水に注入して殺菌剤として用いる場合には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に含まれる食塩以外の不純物例えば臭素(Br)も少なくして欲しいとの要請が強い。臭素は例えば精製技術の限界により塩素ガス、水酸化ナトリウムなどから持ち込まれることがあり、その濃度は僅かではあるが次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に例えば臭素酸、詳しくは臭素酸イオン(BrO3 −)の状態で含まれている。従って、例えば臭素酸などの不純物の少ない高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造するための、更なる検討が必要である。
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、例えば臭素酸などの不純物の少ない高純度な次亜塩素酸塩溶液の製造方法を提供することにある。
本発明の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法は、臭素酸を含む次亜塩素酸塩溶液を冷却した際に析出する臭素酸の量が目標値以下となるように、種々の温度に対応する臭素酸の溶解度に基づいて選択された所定の温度に当該次亜塩素酸塩溶液を冷却して次亜塩素酸塩を析出させる工程と、
この析出した次亜塩素酸塩を溶液から分離する工程と、
この分離した次亜塩素酸塩を溶解させる工程と、を含むことを特徴とする。
この析出した次亜塩素酸塩を溶液から分離する工程と、
この分離した次亜塩素酸塩を溶解させる工程と、を含むことを特徴とする。
前記高純度次亜塩素酸塩溶液に含まれる臭素酸の濃度を例えば10重量ppm以下にするように前記目標温度を決めてもよい。また前記次亜塩素酸塩溶液の冷却する前の温度は20℃〜30℃であり、前記所定の温度は0℃〜20℃にするようにしてもよい。更に、前記所定の温度としては、前記次亜塩素酸塩溶液を冷却した際に析出する次亜塩素酸塩と、溶液に残る次亜塩素酸塩とが目標とする比率に分配されるように、種々の温度に対応する次亜塩素酸塩の溶解度に基づいて選択した温度であってもよく、この場合、前記目標とする比率は、溶液に残る次亜塩素酸塩の濃度が15重量%〜19重量%になる比率であってもよい。更にまた前記次亜塩素酸塩溶液は食塩を含み、次亜塩素酸塩、食塩及び臭素酸からなる複数の溶解成分により飽和状態にあってもよい。
本発明の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法によれば、不純物例えば臭素酸を含む次亜塩素酸塩溶液を冷却した際に当該臭素酸の析出する量が目標値以下となるように、種々の温度に対応する臭素酸の溶解度に基づいて選択された所定の温度に当該次亜塩素酸塩溶液を冷却して次亜塩素酸塩を析出させる構成とすることにより、この次亜塩素酸塩と共に析出する臭素酸の量を例えば数ppmといった低濃度範囲内で高精度に制御することができるので、析出した当該次亜塩素酸塩を溶解させることにより臭素酸の少ない高純度な次亜塩素酸塩溶液を得ることができる。
本発明の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法にかかる実施の形態について図1を参照しながら説明する。先ず、例えば30〜50重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を所定の温度例えば次亜塩素酸ナトリウムの分解が促進されないように例えば20〜30℃に温調すると共に、当該水酸化ナトリウム水溶液に塩素(Cl2)ガスを吹き込む。これにより、図1のステップS1に示すように、吸収された塩素と水酸化ナトリウムとが反応し、反応式(1)の反応が進行して次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が生成され、例えば35重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る(反応工程)。原料となる塩素ガス及び水酸化ナトリウム水溶液は例えば食塩水を電解槽にて電気分解して得たものを用いることができる。なお、例えば15〜20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを吹き込んで次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た後、この水溶液に例えば固形の水酸化ナトリウムを溶解させるか、あるいは45〜55重量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えると共に塩素ガスを吹き込んで次亜塩素酸ナトリウムの濃度を段階的に高めていくこともある。このとき反応が進行して反応液中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度が高くなると、例えば図2に示すように、その濃度が高くなった分において食塩の溶解度が低下するため、飽和濃度を越えた過剰分(飽和曲線を超えた領域A)が結晶化して反応液中に析出する。
続いて、図1のステップS2に示すように、例えば遠心分離器、ろ過器などの固液分離装置を用いて前記食塩の析出物を反応液から分離する(食塩分離工程)。これにより例えば5重量%の食塩を含む例えば35重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る。この水溶液には、例えば塩素ガス又は水酸化ナトリウム水溶液から持ち込まれた臭素が例えば臭素酸、詳しくは臭素酸イオンの状態で含まれており、その濃度は例えば50〜100重量ppmである。本発明においては、説明の便宜上この水溶液を原料液と呼ぶものとする。更に続いて、図1のステップS3に示すように、前記原料液を例えば常圧において詳しくは後述する手法により選択された析出する臭素酸が目標値以下となる所定の温度例えば0〜20℃となるように冷却することにより、次亜塩素酸ナトリウムの溶解度が低下して結晶となって析出する(晶析工程)。そして更に、このとき原料液中に含まれる臭素酸が例えば臭素酸塩となって析出する。つまり本例においては原料液が次亜塩素酸ナトリウム水溶液であることから、臭素酸は臭素酸ナトリウムとなって析出する。
前記晶析工程で次亜塩素酸ナトリウム、臭素酸などの溶質成分が析出するメカニズムについて図3〜5に示す溶解度曲線を用いて詳しく説明する。なお、図3は種々の温度における水に対する次亜塩素酸ナトリウムの溶解度曲線である。図4は種々の温度における水に対する臭素酸ナトリウムの溶解度曲線であり、カッコ内の数値は臭素酸と臭素酸ナトリウムの分子量の比に基づいて臭素酸ナトリウムの濃度を臭素酸の濃度に換算したものである。図5は種々の温度における水に対する食塩の溶解度曲線である。これらは水に対する単一成分の溶解度曲線を示しているところ、実際には原料液は次亜塩素酸ナトリウム、食塩及び臭素酸などの不純物からなる複数の溶質成分により飽和状態になっているため、これら各々の溶解度曲線から読み取れるある温度に対応する濃度となるまで各成分は溶解しない。しかし原料液の温度をある温度から他の温度に冷却すると、前記したように原料液はこれら複数の溶質成分により既に飽和状態になっているので、その内のいずれかの成分がその溶解度に応じた割合で析出する。そして各溶質成分どの割合で析出するかは前記図3〜5に示す溶解度曲線から把握することができる。
より具体的に説明すると、ある量(Xg)の次亜塩素酸ナトリウムが原料液に含まれているとすると、原料液の温度を例えば25℃(温度T0)から10℃(目標温度T1)まで冷却した場合、図3に示すように、温度T0の飽和濃度は48.5重量%、温度T1の飽和濃度は26.5重量%であることから、Xgの次亜塩素酸ナトリウムのうちの45%(=(1−26.5/48.5)×100)が析出し、残りの55%は液側に溶けたままとなる。上述の例に当てはめてみると、原料液である35重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液1リットルあたりには、約250gの次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることから、112.5gの次亜塩素酸ナトリウムが析出し、137.5gの次亜塩素酸ナトリウムが液側に残って18.6重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液が得られることとなる。
また、ある量(Yg)の臭素酸が原料液に含まれているとすると、原料液の温度が例えば25℃(温度T0)から10℃(目標温度T1)まで冷却した場合には、図4に示すように、温度T0の飽和濃度は28.5重量%、温度T1の飽和濃度は23.5重量%であることから、Ygの臭素酸のうちの18%(=(1−23.5/28.5)×100)は析出するが、残りの82%は溶液中に溶けたままとなる。上述の例に当てはめてみると、臭素酸の濃度を50重量ppmとすると原料液1リットルあたりには、約37mgの臭素酸が含まれていることから、7mg(18%)の臭素酸が臭素酸ナトリウムとなって析出し、30mg(82%)が液側に残ることとなる。従って析出した次亜塩素酸ナトリウムを製品濃度である例えば12〜13重量%となるように溶解させれば当該次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸の濃度は目標濃度である例えば10重量ppm以下、本例の場合には7.5〜8重量ppmとなる。なお、食塩についてみると、図5に示すように、温度が低下しても少なくとも0℃以上において食塩の溶解度は殆ど変らないため、その殆どは析出しないで溶液側に溶けたままとなる。しかしながら実際には僅かな量の食塩が次亜塩素酸ナトリウムと共に共析する。
しかる後、例えば図1のステップS4に示すように、例えば遠心分離器、ろ過器などの固液分離装置を用いて前記次亜塩素酸ナトリウムの析出物を溶液から分離する(固液分離工程)。分離した次亜塩素酸ナトリウムの析出物は、例えば図1のステップS5に示すように、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が製品濃度である例えば12〜13重量%となるように所定量の溶解水例えば水に溶解させ、これにより低臭素かつ低食塩の高純度次亜塩素酸ナトリウムである第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る。前記した例の場合、この水溶液に含まれる臭素酸の濃度は前記したように10重量ppm以下である。また食塩は0.6重量%である。一方、次亜塩素酸ナトリウムの析出物が分離された溶液は、例えば図1のステップS6に示すように、例えば次亜塩素酸ナトリウムの濃度が製品濃度である例えば12〜13重量%となるように所定量の濃度調整水例えば水を加えて濃度調整する。これにより第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る。この水溶液に含まれる臭素酸の濃度は20〜50重量ppmであり、また食塩濃度は4重量%である。
ここで原料液の冷却温度の設定値を決める手法について説明する。詳しくは既述したように原料液を冷却した際に次亜塩素酸ナトリウム、臭素酸及び食塩がどれくらいの割合で析出するかは各成分の溶解度例えば図3〜5に示す溶解度曲線に依拠しているため、先ず原料液の温度と次亜塩素酸ナトリウムの濃度が分かれば、例えば図3に示す溶解度曲線に基づいて種々の温度に冷却した場合の析出量が分かる。本例においては、先ず原料液から次亜塩素酸ナトリウムを積極的に析出させないで晶析後の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(つまり第2の次亜塩素酸ナトリウムに相当する溶液)が製品濃度である例えば12〜13重量%以下にならないように析出する次亜塩素酸ナトリウムと液側に残る次亜塩素酸ナトリウムとが分配される温度の範囲を溶解度曲線から読み取る。但し、実際には温度のみで製品濃度にあわせ込むのは難しいので、目標濃度を製品濃度よりも若干高め例えば15〜19重量%となる温度範囲を選択し、その後に濃度調整水を加えて濃度を調整するようにするのが好ましい。
続いて、原料液の温度と臭素酸の濃度が分かれば、例えば図4に示す溶解度曲線に基づいて種々の温度に冷却した際の析出量が分かる。またその温度に設定したときの次亜塩素酸ナトリウムの析出量も分かっているので、製品濃度である12〜13重量%となる溶解水の量が分かる。従って溶解水の量が分かれば次亜塩素酸ナトリウムを溶解して得た水溶液(第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)中の臭素酸の濃度を求めることができる。即ち、第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸が予定とする目標濃度例えば10重量ppm以下となる臭素酸の析出量を目標値とし、この目標値と同じか又はこれよりも少なくなる温度の範囲を溶解度曲線から読み取った後、当該範囲内であって、かつ前記次亜塩素酸ナトリウムが所定の比率で分配される温度の範囲内から選択した温度例えば0〜20℃を目標温度の設定値とする。即ち、「析出する臭素酸の量が目標値以下」とは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸濃度を10重量ppm以下にすることのできる量を意味している。なお、析出した次亜塩素酸ナトリウムの重量に対する析出した臭素酸ナトリウムの重量が9.8×10−3%以下であれば結果として製品濃度に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸濃度は10重量ppm以下となるので、この場合も析出する臭素酸の量が目標値以下ということになる。
続いて前記晶析工程に用いられる晶析装置の好ましい一例について図6を用いて簡単に説明しておく。図中1は、前記原料液が満たされた反応容器である。この反応容器1の下部側には原料液を供給するための供給路11が接続されており、また上部側にはオーバフローした清澄液を排出する排出路12が接続されている。また反応容器1の底部には析出した次亜塩素酸ナトリウムをスラリー状で抜き出すための排出口13が設けられている。更に反応容器1の側周面を囲むようにして冷媒例えば冷水の貯留部14が設けられており、この貯留部14には冷水の供給路14a及び排出路14bが接続されている。また図中15は反応容器1内にある溶液の温度を検知するための温度検知器であり、この温度検知器15の検知結果が既述の所定の温度となるように図示しない制御部により冷水の供給流量及び温度が調整されるように構成されている。
このような構成において、反応容器1内に供給路11を介して原料液が供給されると、反応容器1内にて所定の温度まで冷却されることにより、次亜塩素酸ナトリウムの結晶100が反応容器1内に析出する。析出した結晶は沈降作用により反応容器1の底部に溜まり、排出口13からスラリー状で排出され、そして次工程である固液分離工程へと送られる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムが析出したことで濃度が低下した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は反応容器1からオーバーフローして排出路12を介して次工程である濃度調整工程へと送られる。
上述の実施の形態によれば、不純物である臭素酸を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液を冷却した際に、例えば臭素酸ナトリウムとなって析出する臭素酸の量が目標とする量以下となるように、種々の温度に対応する臭素酸の溶解度例えば水に対する臭素酸ナトリウムの溶解度曲線に基づいて選択された所定の温度に当該水溶液を冷却して次亜塩素酸ナトリウムを析出させる構成とすることにより、次亜塩素酸ナトリウムと共に析出する臭素酸の量を数ppmといった低濃度範囲で高精度に制御することができるので、析出した次亜塩素酸ナトリウムを例えば純水に溶解させると臭素酸の少ない高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ることができる。なお、反応工程において次亜塩素酸ナトリウムの濃度を高めて食塩を析出させているが、原料液に含まれる臭素酸の量は僅かであるため、この食塩と共に臭素酸が共析することはないかあるいはあってもその量は極めて少なく、そのため反応工程にて低臭素化を実現するのは難しい。
但し、上述の例においては種々の温度に対応する臭素酸、次亜塩素酸ナトリウム及び食塩の溶解度が分かれば必ずしも溶解度曲線を作成しなくともよい。更には溶解度は水に対するものである必要はなく、臭素酸及び食塩については例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する溶解度であってもよい。更には臭素酸、次亜塩素酸ナトリウム及び食塩の三成分系の溶解度曲線を作成するようにしてもよい。
ここで次亜塩素酸ナトリウム水溶液に臭素が混入する経路について確認はしていないが本発明者らは次のように推測している。既述したように、次亜塩素酸ナトリウムの原料には食塩水を電気分解して得た塩素及び水酸化ナトリウムが用いられるが、この食塩水の原料となる食塩は一般的に海水を蒸発乾固して得た工業塩が用いられている。臭素は元々海水に含まれており、蒸発乾固して得た食塩には僅かではあるが臭素が付着している。そのため前記食塩水には臭素が含まれており、電気分解時において陽極反応により生成した塩素ガスに同伴した臭素が持ち込まれていると推測する。但し、臭素が混入経路は塩素ガスからの持ち込みに限られるものではなく、水酸化ナトリウムからの持ち込み、更には大気中に浮遊しているものが溶解する場合もある。
前記したようにして塩素ガスに臭素が同伴していると、反応工程時において水酸化ナトリウムと反応し、例えば反応式2が進行することで次亜臭素酸ナトリウム(NaBrO)と臭化ナトリウム(NaBr)が生成する。ここで塩素や次亜塩素酸ナトリウムは臭素に対し酸化剤として作用するので、次亜臭素酸ナトリウム及び臭化ナトリウムは塩素及び次亜塩素酸ナトリウムにより酸化され、反応式3及び反応式4が進行して臭素酸ナトリウム(NaBrO3)及び臭素となる。更にこの臭素は塩素と反応するので、結果として反応式2が進行して臭素は次亜臭素酸ナトリウムとなる。即ち、臭素は次亜塩素酸ナトリウム水溶液中において臭素酸ナトリウム、厳密には臭素酸イオンの状態で存在する。そして更に、臭素酸ナトリウムは例えば臭素酸カリウムなどの他の臭素酸塩と比較して低温でも水に対して比較的溶解性がある。これらのことに本発明者らは着目し、例えば予め実験を行って例えば臭素酸ナトリウムの溶解度曲線を作成すると共に、この溶解度曲線に基づいて温度の設定値を決める構成としたことにより、後述する実施例の結果からも明らかなように、数ppmオーダの微量な濃度範囲内において高精度な制御を実現することができるのである。
2NaOH+Br2 → NaBrO+NaBr+H2O…(2)
NaBrO+2NaClO → NaBrO3+2NaCl…(3)
2NaBr+Cl2 → Br2+2NaCl…(4)
2NaOH+Br2 → NaBrO+NaBr+H2O…(2)
NaBrO+2NaClO → NaBrO3+2NaCl…(3)
2NaBr+Cl2 → Br2+2NaCl…(4)
更に上述の実施の形態によれば、析出する次亜塩素酸ナトリウムと、液側に残る次亜塩素酸ナトリウムとが所定の比率に分配される温度に原料液を冷却する構成とすることにより、析出後の次亜塩素酸ナトリウム水溶液も濃度調整水を添加するだけで製品とすることができる。即ち、本例によれば高純度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び、この水溶液とは種類(規格)の異なる別の次亜塩素酸ナトリウムを並産することができる。その結果、廃液を少なくできるので、製造コストの低下を図ることができる。なお、上述の例では第1及び第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を同じ濃度に調整しているが、互いに異なる濃度に調整するようにしてもよく、このようにすれば更に規格の異なる種々の濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を並産することができる。なお、冷却温度の設定値が低すぎると臭素酸ナトリウムの析出量が多くなる分において製品の純度が低下する。反対に冷却温度の設定値が高すぎると次亜塩素酸ナトリウムの析出量が少なくなる分において生産効率が低下するので、冷却する温度は原料液の温度から温度差が10〜30℃となるように設定するのが好ましい。
続いて、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸を分析する手法について簡単に述べておくと、例えば厚生労働省が告示する検査法を用いるのが好ましい(厚生労働省告示第261)。この検査法は、イオンクロマトグラフ・ポストカラム法によるものであり、先ず、イオン交換樹脂により不要なイオンを取り除いた後、三臭素イオン法によるポストカラム誘導体化法を用い、紫外268nmで検知し、予め作成しておいた検量線に基づいて臭素酸、厳密には臭素酸イオンの濃度を算出する。更に、臭素酸と臭素酸ナトリウムの分子量の比を用いて換算すれば臭素酸ナトリウムの濃度を求めることができ、例えば図4記載の溶解度曲線に当てはめ易くなる。但し、この検査法は一例であり、これにより本発明が限定されることはない。
本発明においては、原料液の温度と臭素酸の濃度を把握し、溶解度曲線に基づいて冷却温度の設定値を決める構成に限られず、例えば製品である第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に含まれる臭素酸の濃度を実際に分析してみて、その結果に基づいてフィードバックにより冷却温度の設定値を決めるようにしてもよい。具体的には、第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素酸を分析した結果、更にその濃度を低くしたい場合には、温度設定値を高く設定する。反対に臭素酸の濃度が許容範囲内であれば設定温度を低く設定して次亜塩素酸ナトリウムの析出量を多くするようにすることで収率を高めるようにしてもよい。つまり本発明においては、次亜塩素酸ナトリウムが所定の比率で分配されるように温度を決める構成に限られず、臭素酸濃度が許容範囲内であれば設定温度を低くして次亜塩素酸ナトリウムを積極的に析出させるようにしてもよい。このようにすれば高純度次亜塩素酸ナトリウム水溶液の生産効率を高めることができるので有利である。
本発明においては、不純物は臭素酸に限られず、例えば塩素酸であってもよい。塩素酸は例えば次亜塩素酸ナトリウムが分解した際に副生することがあり、その濃度は僅かではあるが次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に塩素酸イオン(ClO3 −)の状態で存在する。この場合、例えば図7に示すように、種々の温度に対応する水に対する塩素酸ナトリウムの溶解度曲線に基づいて冷却温度の設定値を決める構成とする。このような構成であっても上述の場合と同様の効果を得ることができ、更に原料液に臭素酸と塩素酸の両方が含めれている場合には臭素酸ナトリウムと塩素酸ナトリウムの両方の溶解度曲線に基づいて冷却温度を決めるようにすることで臭素酸及び塩素酸の少ない高純度次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ることができる。
また本発明においては、塩素と水酸化ナトリウムとを反応させて得た次亜塩素酸ナトリウム水溶液を原料液とする構成に限られず、例えば市販されている次亜塩素酸ナトリウムを溶解させてなる溶液であれば本発明を適用することができる。
続いて本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
(実施例1)
本例は、所定の組成に調製した原料液を冷却し、析出した次亜塩素酸ナトリウムを水に溶かして12.6重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を得た実施例である。そしてこの水溶液中の臭素酸を既述の分析法を用いて分析した。原料液の組成を以下に記載する。原料液の冷却温度は10℃とした。
・原料液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度;33重量%
・原料液中の臭素酸濃度;56重量ppm
・原料液中の食塩濃度;5重量%
・原料液の温度;30℃
(実施例1)
本例は、所定の組成に調製した原料液を冷却し、析出した次亜塩素酸ナトリウムを水に溶かして12.6重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を得た実施例である。そしてこの水溶液中の臭素酸を既述の分析法を用いて分析した。原料液の組成を以下に記載する。原料液の冷却温度は10℃とした。
・原料液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度;33重量%
・原料液中の臭素酸濃度;56重量ppm
・原料液中の食塩濃度;5重量%
・原料液の温度;30℃
(実施例1の結果と考察)
実施例1により得た次亜塩素酸ナトリウム水溶液(12.6重量%)中の臭素酸濃度は10重量ppmであった。なお、この場合、図3〜5に記載の溶解度曲線によれば次亜塩素酸ナトリウムの析出量は原料液1kgに対し149.7g、臭素酸の析出量は11.9mgである。従って析出物を溶解させると計算の上では臭素酸濃度は8.5重量ppmとなる。つまり実際の分析結果と略同じである。即ち、本発明によれば、溶解度曲線に基づいて決めた所定の温度に原料液を冷却することにより、臭素酸の少ない高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得られることが確認された。また食塩を分析したところ、その濃度は0.6重量%であった。即ち、本発明によれば、低臭素かつ低食塩の高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得られることが確認された。また液側に残留した次亜塩素酸ナトリウムを12.6重量%になるように希釈した水溶液(第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)中の臭素酸濃度は30重量ppmであったが、計算上では31.8ppmとなり、食塩濃度は3.5重量%であった。
実施例1により得た次亜塩素酸ナトリウム水溶液(12.6重量%)中の臭素酸濃度は10重量ppmであった。なお、この場合、図3〜5に記載の溶解度曲線によれば次亜塩素酸ナトリウムの析出量は原料液1kgに対し149.7g、臭素酸の析出量は11.9mgである。従って析出物を溶解させると計算の上では臭素酸濃度は8.5重量ppmとなる。つまり実際の分析結果と略同じである。即ち、本発明によれば、溶解度曲線に基づいて決めた所定の温度に原料液を冷却することにより、臭素酸の少ない高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得られることが確認された。また食塩を分析したところ、その濃度は0.6重量%であった。即ち、本発明によれば、低臭素かつ低食塩の高純度な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得られることが確認された。また液側に残留した次亜塩素酸ナトリウムを12.6重量%になるように希釈した水溶液(第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)中の臭素酸濃度は30重量ppmであったが、計算上では31.8ppmとなり、食塩濃度は3.5重量%であった。
なお、第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液及び第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の各々について塩素酸について分析したところ、第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の塩素酸濃度は50重量ppm以下(検出限界以下)であり、また第2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の塩素酸濃度は220重量ppmであった。即ち、本発明によれば、臭素酸以外の不純物の一つである塩素酸の分離にも適用することができ、その結果として塩素酸濃度の少ない次亜塩素酸ナトリウム水溶液(第1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を得ることができることが確認された。
S1 反応工程
S2 食塩分離工程
S3 晶析工程
S4 固液分離工程
S5 溶解工程
S6 濃度調製工程
S2 食塩分離工程
S3 晶析工程
S4 固液分離工程
S5 溶解工程
S6 濃度調製工程
Claims (6)
- 臭素酸を含む次亜塩素酸塩溶液を冷却した際に析出する臭素酸の量が目標値以下となるように、種々の温度に対応する臭素酸の溶解度に基づいて選択された所定の温度に当該次亜塩素酸塩溶液を冷却して次亜塩素酸塩を析出させる工程と、
この析出した次亜塩素酸塩を溶液から分離する工程と、
この分離した次亜塩素酸塩を溶解させる工程と、を含むことを特徴とする高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。 - 臭素酸の濃度を10重量ppm以下にすることを特徴とする請求項1記載の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。
- 前記次亜塩素酸塩溶液の冷却する前の温度は20℃〜30℃であり、前記所定の温度は0℃〜20℃であることを特徴とする請求項1又は2記載の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。
- 前記所定の温度は、析出する次亜塩素酸塩と、溶液に残る次亜塩素酸塩とが目標とする比率に分配されるように、種々の温度に対応する次亜塩素酸塩の溶解度に基づいて選択した温度であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。
- 前記目標とする比率は、溶液に残る次亜塩素酸塩の濃度が15重量%〜19重量%になる比率であることを特徴とする請求項4記載の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。
- 前記次亜塩素酸塩溶液は食塩を含み、次亜塩素酸塩、食塩及び臭素酸からなる複数の溶解成分により飽和状態にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の高純度次亜塩素酸塩溶液の製造方法。
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