JP2005294005A - 熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯 - Google Patents

熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯 Download PDF

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Abstract

【課題】低温動作においてもn型ダイヤモンドから安定して熱電子放出を行うことが可能な、長寿命かつ低消費電力の熱陰極およびその製造方法を得る。
【解決手段】基体の表面上に電子放出物質としてn型ダイヤモンド層を備え、該n型ダイヤモンド層がその表層部に遷移金属元素を含有する層を有することを特徴とする。また、基体の表面上にn型ダイヤモンド層を形成する工程と、前記n型ダイヤモンド層の表層部に、該n型ダイヤモンド層の表層側から遷移金属元素を含有させる工程と、を含むこと。
【選択図】 図1

Description

本発明は、熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯に関するものであり、特に電子放出部にn型ダイヤモンドを用いた熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯に関する。
従来、物質を高温にした際に放出される熱電子を用いる熱陰極はX線管、高周波電子管のような真空中で動作する真空管の電子源として、また蛍光灯のようにガス中で動作する放電管の電子源として広く用いられている。熱陰極における熱電子の電流密度は、陰極表面の仕事関数および動作温度によって決まる。温度が一定の場合は、熱陰極材料の仕事関数が小さくなると、より大きな電流密度が得られる。また、電流密度が一定の場合は、熱陰極材料の仕事関数が小さくなると、より低い温度で動作させることができる。
このような熱陰極を真空中で動作させる場合には、熱陰極の寿命は陰極材料の蒸発度合いによって決まる。このため、動作温度を低くすれば陰極材料の蒸発を抑制して熱陰極の長寿命化を図ることができる。さらに、動作温度を低くすることで、熱陰極の加熱に要する電力を低減することもできる。低い温度で動作する熱陰極としては、BaOのような酸化物陰極が良く知られているが、より低い温度で動作する熱陰極材料が求められている。
ダイヤモンドはこのような要求を満足しうる優れた熱陰極材料候補である。ダイヤモンドは優れた冷陰極材料候補でもあり、冷陰極材料としてダイヤモンドを用いた冷陰極において長寿命化の技術も提案されている(たとえば、特許文献1参照)。一方、熱陰極においてもダイヤモンドを用いた技術の研究が進められており、プラズマCVD法によって作製した多結晶のNドープダイヤモンド膜は、表面が水素で終端されている場合、725℃で熱電子放出電流が得られるが、高温により表面から水素が離脱するため時間とともに減少することや、水素に代わり表面を0.3nmの薄いTiで被覆した場合、安定した熱電子放出電流が得られ、950℃でも熱電子放出が観測されることがわかってきている(たとえば、非特許文献1参照)。
以下では、ダイヤモンド膜の熱電子放出特性を図16に示すNドープダイヤモンドのバンド図を用いて説明する。図16において、Ec、Evはそれぞれ伝導帯下端、価電子帯上端のエネルギーを示しており、ダイヤモンドのバンドギャップはEg=5.5eVである。また、Nドープしたダイヤモンドはn型半導体であって、そのドナー準位EdはEcより1.4eV下にある。真空準位EvacとEcの差は、いわゆる電子親和力χ=Evac−Ecであり、ダイヤモンドにおいては表面がクリーンな状態ではχが正(PEA:Positive Electron Affinity)に、表面が水素で終端された状態ではχが負(NEA:Negative Electron Affinity)になることが知られている。
図16において、χ1は上記のPEAの状態に対応し、χ2は上記のNEAの状態に対応する。図16に示すEfはフェルミ準位であり、EcとEdの間にある。熱電子放出で問題となる仕事関数φは、真空準位Evacとフェルミ準位Efとの差であり、図中φ1はPEAの状態に対応し、φ2はNEAの状態に対応する。しかしながら、NEAの状態においては電子は伝導帯から放出されるので、実際には図中のφ2ではなく、伝導帯下端のエネルギーEcとフェルミ準位Efの差φ2’が実効的な仕事関数となる。そして、図16から、水素終端でNEA状態の場合に仕事関数が小さく、温度が上がって水素終端が失われるとPEA状態になって仕事関数が大きくなることがわかる。以上により、水素終端のダイヤモンド膜で熱電子放出電流が小さくなること説明できる。また、薄いTiの被膜は水素終端と同様の効果を有しており、高温下でも安定しているものと考えられる。
特開2002−298777号公報 F.A.M.Kock他 Diamond and Related Materials vol.11,p774,2002年
しかしながら、前述のn型ダイヤモンドを用いる半導体熱陰極は、以下に述べるような大きな問題を有している。n型ダイヤモンドが低温で熱電子放出を行うのは、表面が水素終端された状態か、Tiで薄く表面を被覆した状態された状態である。ところが、前述のように高温下ではn型ダイヤモンドの表面の水素終端が失われてしまうという問題がある。薄いTiによる被覆は水素終端よりは安定しているが、熱電子放出が生じるような温度では長時間のうちにTiが蒸発してしまうので、やはり同様の問題がある。
以上はn型ダイヤモンドを用いる熱陰極を真空管のような真空中で使用する場合の問題であるが、n型ダイヤモンドを用いる熱陰極を放電管に用いる場合は問題はさらに深刻であり、放電に伴うイオンスパッタ等により水素終端や薄いTiの被膜はさらに容易に失われることになる。このため、長時間安定した熱電子放出を行うn型ダイヤモンドを用いた半導体熱陰極の実現が困難であるという問題が生じていた。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低温動作においてもn型ダイヤモンドから安定して熱電子放出を行うことが可能な、長寿命かつ低消費電力の熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯を得ることを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる熱陰極は、基体の表面上に電子放出物質としてn型ダイヤモンド層を備え、該n型ダイヤモンド層がその表層部に遷移金属元素を含有する層を有することを特徴とする。
また、本発明にかかる熱陰極の製造方法は、基体の表面上にn型ダイヤモンド層を形成する工程と、n型ダイヤモンド層の表層部に、該n型ダイヤモンド層の表層側から遷移金属元素を含有させる工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明にかかる放電灯は、光透過部を有し放電ガスが封止された外囲器と、外囲器内に配置された一対の電極と、外囲器の内面に設けられた蛍光体と、を備え、電極は、基体の表面上に電子放出物質としてn型ダイヤモンド層を備え、該n型ダイヤモンド層がその表層部に遷移金属元素を含有する層を有してなること、を特徴とする。
この発明によれば、電極表面のn型ダイヤモンド層は、その表層部に遷移金属元素を含有するため、n型ダイヤモンド層が加熱された際に、該n型ダイヤモンド層からは低温でも安定して熱電子が放出される。また、たとえば遷移金属元素をn型ダイヤモンド層の表面に配置した場合には、n型ダイヤモンド層の加熱または経時変化により遷移金属元素は蒸発してしまうため、長時間にわたりn型ダイヤモンド層の表面にとどまることができない。しかしながら、本発明においては遷移金属元素がn型ダイヤモンド層の表層部に含有されるため、該遷移金属元素の蒸発が抑制され、該遷移金属元素がn型ダイヤモンド層の表層部にとどまることとなる。
また、n型ダイヤモンド層の表面において遷移金属元素の蒸発が多少生じても、n型ダイヤモンド層の深さ方向に遷移金属元素が含有されているため、大部分の遷移金属元素がn型ダイヤモンド層の表層部にとどまることとなる。したがって、本発明においては、n型ダイヤモンド層がその表層部の深さ方向において遷移金属元素を含有することにより、加熱または経時変化により遷移金属元素が蒸発して無くなることが防止されており、遷移金属元素がn型ダイヤモンド層の表層に長期間にわたって保持される。
n型ダイヤモンド層としては、窒素、燐または硫黄がドーピングされた一般的なn型ダイヤモンド層を用いることができる。また、遷移金属元素としては、Tiが好適である。そして、n型ダイヤモンド層の表層部に、該n型ダイヤモンド層の表層側から遷移金属元素を含有させる場合には、イオン注入を用いることにより遷移金属元素の含有される深さと濃度を容易に制御することができる。
この発明によれば、電極表面のn型ダイヤモンド層の表層部に遷移金属元素を含有させることにより、低温加熱においても安定してn型ダイヤモンド層から熱電子放出を行うことが可能な、長寿命かつ低消費電力の熱陰極およびその製造方法、ならびに放電灯を得ることができる。
以下に、本発明にかかる熱陰極およびその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下において示す図では、説明の便宜上、各部材により縮尺を異ならせて記載してある場合がある。
(第1の実施の形態)
まず、本発明にかかる熱陰極およびその製造方法の第1の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明を適用した熱陰極を備えた熱陰極放電灯の一構成例を示す概略図である。図1に示す熱陰極放電灯1は、本発明を適用した熱陰極を備えた熱陰極型蛍光ランプである。
図1に示されるように本実施の形態に係る熱陰極放電灯1は、内面に蛍光体12を塗布した光透過部を有する外囲器であるガラス管10と、ガラス管10の両端に取り付けられた一対の電極(熱陰極)11a、11bと、導入線11c及び11dと、一対のステム14a、14bとを備えて構成されている。導入線11c及び11dは電極11a、11bをそれぞれ保持して通電を行うためのものであり、一対のステム14a、14bによりそれぞれ保持される。電極(熱陰極)11a及び11bは、基板上にエミッタと呼ばれる電子放出物質層が形成されて構成されている。ガラス管10内には放電を容易にするために封止ガス13としてアルゴン又は混合希ガスと、微量の水銀が2〜4hPa程度の圧力で封止されている。
放電の際は、電極(熱陰極)11a、11bに電流を流して予熱すると、エミッタから電子が放出される。放出された電子は対極電極(陽極)に移動し、放電が開始する。ここで、一般的には放電を生じさせるために交流電圧を電極11a、11bに印加する構成となっており、電極11a、11bの片方がエミッタとして作用するときは他方は対極電極(陽極)として作用する。この放電により電子はガラス管10内に封止した水銀原子と衝突する。水銀原子は衝突によりエネルギーを受け紫外線を放出する。この紫外線により蛍光体12が励起され可視光線を発生する。発光色は蛍光体の種類によって異なり、白色、昼光色、青色など数々の色種の光がランプから放射される。
図2は、電極(熱陰極)11a、11bの構成を拡大して示す断面図であり、本発明にかかる熱陰極の特徴的な構成を示す図である。図2に示されるように電極(熱陰極)11a、11bにおいては、基体であるシリコン(Si)基板21の表面上にn型ダイヤモンド層24が形成されている。そして、該n型ダイヤモンド層24は、遷移金属元素であるチタン(Ti)を含有するTi含有層23をその表層部に有し、その下層にチタンを含有しないn型ダイヤモンド層22を有した構成とされている。ここで、n型ダイヤモンドとしては、窒素、燐または硫黄がドーピングされた一般的なn型ダイヤモンド層を用いることができる。
n型ダイヤモンドは低温で安定な熱電子放出が可能であり、さらに熱伝導率が大きいため表面温度が均一となり、結果として均一な熱電子放出が得られるという特徴を有している。これにより、この電極(熱陰極)11a、11bでは、低消費電力で安定した熱電子放出が得られる。また、この電極(熱陰極)11a、11bでは、熱陰極を通常のフィラメント構造ではなくプレーナー構造として、電子放出面積を大きくしてある。これにより大電流の熱陰極放電灯を実現することができる。
また、上述したTi含有層23の厚みは、5nm以上とされており、n型ダイヤモンド層24の表層から5nm以上の深さまでTiが含有されている。これにより、この電極(熱陰極)11a、11bでは、真空中において使用する場合、高温により、または経時変化によりn型ダイヤモンド層24の表面に露出したTiが蒸発しても、n型ダイヤモンド層24の最表面の深さ方向におけるごく近傍にTiが存在する。
そして、このTiは、n型ダイヤモンド層24、より詳細にはTi含有層23内にとらわれているので蒸発しにくい。また、仮にTiが多少蒸発したとしても、Ti含有層23内での熱拡散により他の領域からTiがn型ダイヤモンド層24、より詳細にはTi含有層23の表面に移動するため、n型ダイヤモンド層24の最表面の深さ方向におけるごく近傍には常にTiが存在することになる。また、Ti含有層23の厚みが5nm未満である場合には、n型ダイヤモンド層24の表層からの深さが少なく、Tiが蒸発しやすくなる虞がある。したがって、Tiをより長期間にわたってn型ダイヤモンド層24の最表面の深さ方向におけるごく近傍に保持するためには、Ti含有層23の厚みを5nm以上とすることが好ましい。
以上の理由により、この電極(熱陰極)11a、11bでは、長期間にわたって安定して熱電子放出を行うことが可能である。すなわち、この電極(熱陰極)11a、11bでは、効果的に長寿命化が図られている。
また、この電極(熱陰極)11a、11bは、ガス中の放電に用いる場合においても、イオンスパッタリング等によりn型ダイヤモンド層24(Ti含有層23)が消耗しても、Ti含有層23が残存する限りは低温動作で安定した熱電子放出が得られ、また、長寿命化かつ低消費電力化の効果が得られる。なお、このn型ダイヤモンド層24の加熱はSi基板21またはn型ダイヤモンド層24への通電により行うことができる。
したがって、本実施の形態にかかるn型ダイヤモンドを用いた熱陰極11a、11bでは、n型ダイヤモンド層24を低温加熱して低温動作させた場合でも安定した熱電子放出が得られ、さらに長寿命化かつ低消費電力化が図られた熱陰極が実現されている。
つぎに、上述した電極(熱陰極)11a、11bの製造方法について説明する。まず、図3に示すように熱陰極の基体としてSi基板21を準備する。そして、該Si基板21を洗浄した後、図4に示すようにこのSi基板21にマイクロ波プラズマCVD法によりn型ダイヤモンド層として5μm程度の厚みのn型多結晶ダイヤモンド層24を形成する。ここで、ダイヤモンド層の厚みは上記の値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、n型多結晶ダイヤモンド層24の形成方法も、これに限定されず他の手法を用いることも可能である。
n型多結晶ダイヤモンド層24の成長条件は、たとえばマイクロ波パワーを1.5kW、水素流量を200sccm、メタンガス流量を4sccmとし、原料ガスのメタン濃度は2%とすることができる。そして原料ガスの圧力は80Torrとし、基板は850℃に加熱する。n型のドーパントにはPを用い、ダイヤモンド膜成長時にPH3ガスを同時に供給する。このような条件でマイクロ波プラズマCVD法を行うことにより、5μm程度の厚みのn型多結晶ダイヤモンド層24を形成することができる。
つぎに、図5に示すように室温でn型ダイヤモンド層24に該n型ダイヤモンド層24の表層側から遷移金属元素としてチタン(Ti)イオンを注入し、図6に示すようにn型ダイヤモンド層24の表層部に、Tiイオンを含有したTi含有層26を形成する。Ti含有層26は、n型ダイヤモンド層24の最表層部に位置するTi濃度の低いTi含有層25と、その下層に位置するTi濃度の高い層Ti含有層23とで構成される。Ti含有層26の深さと濃度はイオンの加速電圧とドーズ量により制御が可能であり、たとえば加速電圧25keV、ドーズ量1x1015/cm2とすることができる。なお、Ti元素をn型ダイヤモンド層24の表層部に含有させる方法は、Ti元素をn型ダイヤモンド層24の表層部に含有させる方法としては上記のイオン注入に限定されるものではなく、熱拡散など他の手法を使用することも可能である。ただし、イオン注入法によればTi含有層23の深さと濃度の制御が容易であり、且つ精度良く制御できるため好ましい。
つぎに、たとえば酸素を用いたRIE(Reactive Ion Etching)によりn型ダイヤモンド層24の表面層をエッチングしてTiイオン濃度の低いTi含有層25を除去し、図7に示すようにTiイオン濃度の高い層Ti含有層23をダイヤモンド層の表面に露出させる。これはイオン注入においては深さ方向に濃度が分布を持ち、Tiイオンが注入されたn型ダイヤモンド層24の最表面近傍ではTiイオン濃度が低いため、Tiイオン濃度の低い表面層を取り除き、Tiイオン濃度の高い層をダイヤモンド層の表面に露出させるために行う。以上により上述した本実施の形態にかかる熱陰極11a、11bを作製することができる。
(第2の実施の形態)
次に本発明にかかる熱陰極およびその製造方法の第2の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図8は、本発明を適用した熱陰極を備えた熱陰極放電灯の一構成例を示す概略図である。図8に示す熱陰極放電灯31は、本発明を適用した熱陰極を備えた熱陰極型蛍光ランプである。なお、図8中、図1と同じ部材については図1との同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図8に示されるように本実施の形態に係る熱陰極放電灯31は、内面に蛍光体12を塗布した外囲器であるガラス管10と、ガラス管10の両端に取り付けられた一対の電極(熱陰極)41a、41bと、導入線11c及び11dと、一対のステム14a、14bとを備えて構成されている。導入線11c及び11dは、電極41a、41bをそれぞれ保持して通電を行うためのものであり、一対のステム14a、14bによりそれぞれ保持される。電極(熱陰極)41a及び41bは、基板上にエミッタと呼ばれる電子放出物質層が形成されて構成されている。ガラス管10内には放電を容易にするために封止ガス13としてアルゴン又は混合希ガスと、微量の水銀が2〜4hPa程度の圧力で封止されている。
図9は、電極(熱陰極)41a、41bの構成を拡大して示す断面図である。また、図10は、図9中の線分A−A′における断面図であり、本実施の形態にかかる熱陰極の特徴的な構成を示す図である。図9に示されるように電極(熱陰極)41a、41bにおいては、石英基板51の表面上に線状のタングステン(W)層52が形成されている。そして、石英基板51および線状のタングステン層52上にノンドープの多結晶ダイヤモンド層53が形成され、さらにその上にリン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層56が形成されている。そして、該n型多結晶ダイヤモンド層56は、遷移金属元素であるチタン(Ti)を含有するTi含有層55をその表層部に有し、その下層にチタンを含有しないn型多結晶ダイヤモンド層54を有した構成とされている。ここで、n型ダイヤモンドとしては、窒素、燐または硫黄がドーピングされた一般的なn型ダイヤモンド層を用いることができる。
本実施の形態にかかる電極(熱陰極)41a、41bは、加熱する部分と熱電子放出部分とが分離された、いわゆる傍熱型の熱陰極であり、線状のタングステン層52に通電することにより加熱を行うものである。ノンドープの多結晶ダイヤモンド層53は線状のタングステン線52とリン(P)をドープした多結晶ダイヤモンド層56とを電気的に分離するために用いている。
上述したようにn型ダイヤモンドは低温で安定な熱電子放出が可能であり、さらに熱伝導率が大きいため表面温度が均一となり、結果として均一な熱電子放出が得られるという特徴を有している。これにより、この電極(熱陰極)41a、41bでは、低消費電力で安定した熱電子放出が得られる。また、この電極(熱陰極)11a、11bでは、熱陰極を通常のフィラメント構造ではなくプレーナー構造として、電子放出面積を大きくしてある。これにより大電流の熱陰極放電灯を実現することができる。
また、上述したTi含有層55の厚みは、5nm以上とされており、n型多結晶ダイヤモンド層56の表層から5nm以上の深さまでTiが含有されている。これにより、この電極(熱陰極)41a、41bでは、第1の実施の形態の電極(熱陰極)11a、11bと同様に、真空中において使用する場合、高温により、または経時変化によりn型多結晶ダイヤモンド層56の表面に露出したTiが蒸発しても、n型多結晶ダイヤモンド層56の最表面の深さ方向におけるごく近傍にTiが存在する。
そして、このTiは、n型多結晶ダイヤモンド層56、より詳細にはTi含有層55内にとらわれているので蒸発しにくい。また、仮にTiが多少蒸発したとしても、Ti含有層55内での熱拡散により他の領域からTiがn型多結晶ダイヤモンド層56、より詳細にはTi含有層55の表面に移動するため、n型多結晶ダイヤモンド層56の最表面の深さ方向におけるごく近傍には常にTiが存在することになる。また、Ti含有層55の厚みが5nm未満である場合には、n型多結晶ダイヤモンド層56の表層からの深さが少なく、Tiが蒸発しやすくなる虞がある。したがって、Tiをより長期間にわたってn型多結晶ダイヤモンド層56の最表面の深さ方向におけるごく近傍に保持するためには、Ti含有層55の厚みを5nm以上とすることが好ましい。
以上の理由により、この電極(熱陰極)41a、41bでは、長期間にわたって安定して熱電子放出を行うことが可能である。すなわち、この電極(熱陰極)41a、41bでは、第1の実施の形態の電極(熱陰極)11a、11bと同様に、効果的に長寿命化が図られている。
また、この電極(熱陰極)41a、41bは、ガス中の放電に用いる場合においても、イオンスパッタリング等によりn型多結晶ダイヤモンド層56(Ti含有層55)が消耗しても、Ti含有層55が残存する限りは低温動作で安定した熱電子放出が得られ、また、長寿命化かつ低消費電力化の効果が得られる。
したがって、本実施の形態にかかるn型多結晶ダイヤモンドを用いた熱陰極41a、41bにおいても、第1の実施の形態の電極(熱陰極)11a、11bと同様に、n型ダイヤモンド層24を低温加熱して低温動作させた場合でも安定した熱電子放出が得られ、さらに長寿命化かつ低消費電力化が図られた熱陰極が実現されている。
つぎに、上述した電極(熱陰極)41a、41bの製造方法について説明する。まず、図11に示すように熱陰極の基体として石英基板51を準備する。そして、該石英基板51を洗浄した後、石英基板51上にタングステン層をスパッタリング法により形成し、該タングステン層をフォトリソグラフィーにより加工して、図12に示すようにたとえば幅30μmの線状のタングステン層52を形成する。
つぎに、上述した第1の実施の形態と同様にしてマイクロ波プラズマCVD法により、図13に示すようにノンドープの多結晶ダイヤモンド層53、およびリン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層56を順次形成する。ノンドープの多結晶ダイヤモンド層53、およびリン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層56の厚みは、たとえばそれぞれ5μm程度とする。なお、ノンドープの多結晶ダイヤモンド層53、およびリン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層56の厚みは、上記の値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、ノンドープの多結晶ダイヤモンド層53、およびリン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層56の形成方法も、これに限定されず他の手法を用いることも可能である。
つぎに、図14に示すように第1の実施例と同様にしてリン(P)をドープした多結晶ダイヤモンド層56の表面にTiをイオン注入し、その後、リン(P)をドープした多結晶ダイヤモンド層56の表面を、酸素を用いたRIEにてエッチングして図15に示すようにTiイオン濃度の高いTi含有層55を表面に露出させる。以上により上述した本実施の形態にかかる熱陰極41a、41bを作製することができる。
なお、以上の説明は本発明の一例に過ぎず、例えば本発明の熱陰極は放電灯ではなく、真空管に用いることもできる。またダイヤモンドを成膜する基体の材料は上述したシリコン(Si)やタングステン(W)に限定されず、その形状も板状に限定されない。その他本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施可能である。
以上のように、本発明にかかる熱陰極は低温動作の熱陰極に有用であり、特に、長寿命かつ低消費電力が要求される用途に適している。
第1の実施の形態にかかる熱陰極を備えた熱陰極放電灯の一構成例を示す概略図である。 第1の実施の形態にかかる電極(熱陰極)の構成を拡大して示す断面図である。 第1の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第1の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第1の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第1の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第1の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極を備えた熱陰極放電灯の一構成例を示す概略図である。 第2の実施の形態にかかる電極(熱陰極)の構成を拡大して示す平面図である。 第2の実施の形態にかかる電極(熱陰極)の構成を拡大して示す断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 第2の実施の形態にかかる熱陰極の製造方法を説明する断面図である。 n型ダイヤモンド膜を用いた半導体熱陰極の特性を説明する特性図である。
符号の説明
1 熱陰極放電灯
10 ガラス管
11a、11b 電極(熱陰極)
11c、11d 導入線
12 蛍光体
13 封止ガス
14a、14b ステム
21 シリコン基板
22 チタンを含有しないn型多結晶ダイヤモンド層
23 Ti含有層
24 n型ダイヤモンド層
31 熱陰極放電灯
41a、41b 電極(熱陰極)
51 石英基板
52 タングステン(W)層
53 ノンドープの多結晶ダイヤモンド層
54 チタンを含有しないn型多結晶ダイヤモンド層
55 Ti含有層
56 リン(P)をドープしたn型多結晶ダイヤモンド層

Claims (6)

  1. 基体の表面上に電子放出物質としてn型ダイヤモンド層を備え、該n型ダイヤモンド層がその表層部に遷移金属元素を含有する層を有すること
    を特徴とする熱陰極。
  2. 前記遷移金属元素を含有する層が、前記n型ダイヤモンド層の表面から5nm以上の厚みを有すること
    を特徴とする請求項1に記載の熱陰極。
  3. 前記遷移金属元素がチタン(Ti)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱陰極。
  4. 基体の表面上にn型ダイヤモンド層を形成する工程と、
    前記n型ダイヤモンド層の表層部に、該n型ダイヤモンド層の表層側から遷移金属元素を含有させる工程と、
    を含むことを特徴とする熱陰極の製造方法。
  5. 前記遷移金属元素をイオン注入により前記n型ダイヤモンド層の表層部に含有させること
    を特徴とする請求項4に記載の熱陰極の製造方法。
  6. 光透過部を有し放電ガスが封止された外囲器と、
    前記外囲器内に配置された一対の電極と、
    前記外囲器の内面に設けられた蛍光体と、
    を備え、
    前記電極は、基体の表面上に電子放出物質としてn型ダイヤモンド層を備え、該n型ダイヤモンド層がその表層部に遷移金属元素を含有する層を有してなること、
    を特徴とする放電灯。
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