JP2005290457A - 電解液およびそれを用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法 - Google Patents

電解液およびそれを用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 電着効率の向上、電極の延命、および安全性の向上にあり、もってコンクリ−ト構造物のひび割れ補修期間を短縮すること。
【解決手段】 コンクリ−ト構造物のひび割れ補修を電着工法により行う際に用いる電解液であって、該電解液(pHは、7を超える)アルカリ土類金属イオン、酸根(濃度が0.01〜1.0モル/リットル)および粒子状アルカリ土類金属化合物を含むこと。

Description

本発明は、コンクリ−ト構造物のひび割れ補修を電着工法により行う際に用いる電解液およびそれを用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法に関し、特に、特定のイオンおよび粒子状物を含む電解液を用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法に関する。
従来から、コンクリ−ト構造物、コンクリ−ト製品などは、長期間使用していると、ひび割れが発生することがある。コンクリ−ト構造物にひび割れが生じると、雨水、地下水などが侵入し、コンクリ−トに要求される機能が発揮されないだけでなく、さらに、ひび割れを通じて二酸化炭素、酸素、塩分などが侵入して鉄筋を腐食させ、コンクリ−ト構造物の力学的性能を低下させることは、よく知られている。
そのため、ひび割れを補修し、外部から浸透する水を阻止する方法の研究開発が多方面で行われており、その一つとして電着工法が挙げられる。
該電着工法の利用は、専ら海水中または海面上のコンクリ−ト構造物が主であったが、近時、陸上の一般コンクリ−ト構造物への適用も考えられ、その工法関連発明が2、3散見される。
その一つは、可溶性の無機化合物(注1)の水溶液をコンクリ−トのひび割れに供給し、その中に不溶性無機化合物(例;水酸化物)を析出・付着させる電気泳動法が開示されている(特許文献1参照)。
(注1)塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸リチウムなど。
もう一つは、ひび割れを有するコンクリ−ト構造体の表面に、難溶性の帯電性粒子(注1)または帯電性粒子及びイオン(注2)を含む補修液を当て、電気泳動法を利用して、ひび割れ内部に水酸化マグネシウムなどを析出付着させ閉塞する、という工法である。
該帯電性粒子の含有量は飽和水溶液となる量を超える量(溶解度を超える量)が好ましいとあり、電極はコンクリ−ト構造体の鉄筋を陰極とし、補修液を囲うように配置したチタンメッシュを陽極とする旨が記載されている(特許文献2参照)。
(注1)アルカリ土類金属(例;マグネシウム)の水酸化物であり、溶解してアルカリ 性を呈する。電解反応による酸の発生によって、溶解しプラスイオンが生じる。 (注2)例;マグネシウムイオン(Mg2+
特開平8−2982号公報 特開2003−73891号公報
前記従来技術を実施したとき、前者の方法では、可溶性の無機化合物を供給した場合、水溶液のpHが下がる結果、電着効率が低下し、水素ガスが発生し(危険性)、鉄筋が水素脆化により脆弱になり、さらに電極が消耗する、という好ましくない現象が生じる。
後者の方法では、帯電性粒子はイオンと比較して径が大きいため、微細なひび割れに浸透することは困難であること、およびコンクリ−ト表層に電解質保持用に不織布を用いた場合、粒子の移動が制限され、ひび割れを十分に閉塞できないという欠点がある。またアルカリ土類金属の水酸化物(帯電性粒子)は溶解度が低いため、電解液中のアルカリ土類金属イオン濃度が低くなりひび割れ内での析出・付着に時間を要する、という問題点を有していた。
本発明は、上記従来技術の問題点・欠点を考慮しなされたものであって、その目的は、電着効率の向上、電極の延命および安全性の向上にあり、もってコンクリ−ト構造物のひび割れ補修期間を短縮できる電解液およびそれを用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法を提供することにある。
本発明は、コンクリ−ト構造物のひび割れを経由して生じる
・漏水、および
・鉄筋の腐食、コンクリ−トの劣化などを誘発する劣化因子の浸透
の防止・抑制を行うため、電着工法を採用し、特定の電解液を用いることを特徴とするコンクリ−ト構造物のひび割れの補修方法である。
すなわち、本発明(電解液)は、
「コンクリ−ト構造物のひび割れ補修を電着工法により行う際に用いる電解液であって、・アルカリ土類金属イオン、酸根および粒子状アルカリ土類金属化合物を含むこと」(請求項1)
を要旨とする。
また、本発明(電解液)は、
・電解液のpHは、7を超えるものであること(請求項2)、および
・電解液の酸根濃度が0.01〜1.0モル/リットルであること(請求項3)
を特徴とする。
さらに、本発明(電解液を用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法)は、
「請求項1〜請求項3に記載の電解液を用いた電着工法によるコンクリ−ト構造物のひび 割れ補修方法であって、
コンクリ−ト構造物のひび割れ発生個所側のコンクリ−トの外面に前記電解液を当て 、さらに該電解液に外接して陽極を配設し、該陽極と該コンクリ−トの内部に配設され ている陰極との間に直流電流を流すことによって、該電解液中のアルカリ土類金属イオ ンを該ひび割れ発生個所で不溶性物として析出させ、ひび割れを閉塞させること」(請 求項4)
も要旨とする。
本発明は、コンクリ−ト構造物に生じた微細なひび割れに対して、特定の電解液を用いた電着工法を利用して補修を行う方法なので、電極付近に水素ガスを発生することなく、ひび割れ内に効率的に不溶性化合物を電着させ充填することができる、という効果を奏する。
これにより、ひび割れを経由して該構造物内部への雨水など劣化因子の侵入を抑制することが可能となり、鉄筋の発錆、コンクリ−ト自体の劣化などを防止でき、あわせて電極および電解液の劣化を防止できる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の電着工法におけるコンクリ−ト構造物のひび割れの補修の方法は、基本的に従来技術法を踏襲する。
大まかに言えば、コンクリ−ト構造物中に陰極を配置し、該構造物のひび割れを有する側面に電解液を配し、その外側に陽極を配置して、両極間に直流電流を流し、ひび割れ内にアルカリ土類金属化合物(水酸化物など)を析出させ付着させ、ひび割れを閉塞し補修を終了する。
本発明の特徴である電解液の構成について説明する。
電解液は、アルカリ土類金属イオン、酸根、粒子状アルカリ土類金属化合物および水を含むものである。 電解液は、アルカリ土類金属イオンおよび酸根が電着(補修)作業の終了まで高濃度を保持すること、およびアルカリ性を維持することが重要である。
アルカリ土類金属イオンは、アルカリ土類金属を含む化合物を水に溶解し電離させて生じたものである。
具体的に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのイオンが挙げられ、好ましいイオンは、マグネシウムおよびカルシウムである。
なお、上記イオンが電解液に複数含まれることは差し支えない。
酸根は、それを含む化合物が水に溶解し電離して生じたものであり、無機系のものと有機系のものとがある。
無機系酸根には、硝酸イオン、亜硝酸イオン、塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、燐酸イオン、亜燐酸イオン、ヨウ素イオン、スルファミン酸イオンなどが挙げられる。
そして、それら酸根を含む化合物には、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、塩化カリウム、燐酸ナトリウムなどの無機塩が例示される。
有機系酸根には、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、乳酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン、シュウ酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオンなどが挙げられる。
有機化合物として上記酸根を含む有機塩が利用できる。
前記アルカリ土類金属イオンおよび酸根は、それらイオンを個別に含む化合物を用いて電解液を調製することもできるが、好ましいのは両者を含む化合物を用いる方法であり、品質管理や調製作業が単純化し好ましい。
例えば、該当する無機化合物としては、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、臭化マグネシウムなどが挙げられ、特に好ましいのは、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウムである。
また、有機化合物としては、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酒石酸マグネシウム、乳酸マグネシウムなどが挙げられ、より好ましくは酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウムなどである。
そのほか、後述する粒子状アルカリ土類金属化合物に酸を作用させて、アルカリ土類金属と酸根を得ることも可能である。
電解液中におけるアルカリ土類金属イオンおよび酸根の各イオン濃度は、いずれも0.01〜1.0モル/リットルであることが好ましい。
アルカリ土類金属イオン濃度は、用いる酸根の種類、濃度、温度等によって決まるが、0.01モル/リットル未満の場合、ひび割れ内部におけるアルカリ土類金属化合物の析出・付着速度が低下し、また、1.0モル/リットルを超える場合、セメント水和物と反応してコンクリ−ト表面を溶解させ脆弱化させ易くなる。
一方、酸根濃度が0.01モル/リットル未満の場合、後述する粒子状アルカリ土類金属化合物の溶解速度が低下して、通電期間中、電解液のアルカリ土類金属イオン濃度が低くなり電着効率を低下させるだけでなく、pHを7を超えるように保つことも困難になる。逆に、1.0モル/リットルを超える場合、電解液の粘度が上昇して取り扱いにくくなり、ひび割れ内のみならずコンクリ−ト表面にも析出が多くなり、補修後、該コンクリ−ト表面のケレン作業の負担が大きくなるので好ましくない。
次に、粒子状アルカリ土類金属化合物について説明する。
粒子状アルカリ土類金属化合物を電解液に含ませるのは、次の理由による。
すなわち、電着工法では、両極間に電流が流れ電着が始まると、電解液中のは前記アルカリ土類金属イオンが消耗し、水素イオンなどの陽イオンの生成に伴ってpHが低下するなどにより、電着効率が急速に低下し補修が不完全になる。
そこで、電着効率を向上させ補修をスム−スに完結させるために、電解液にアルカリ土類金属イオンを供給し、かつ、高pHを保持できるように、予め粒子状アルカリ土類金属化合物を含ませ、常時、溶解・電離するようにしておくのが本発明の特徴である。
粒子状アルカリ土類金属化合物は、水に一部が溶解するものであって、常温での溶解度が50mg/dm3程度より低い難溶性化合物を用いることが肝要である。
溶解度が50mg/dm3を超える化合物を用いると、電解液のアルカリ土類金属イオ
ン濃度が高くなり過ぎ、また、長期間pHを高く維持することが困難になり、目的が達成できない場合もあるので好ましくない。
該アルカリ土類金属化合物には、水酸化物、炭酸塩などが、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
なお、この化合物に含まれるアルカリ土類金属元素は、前述したアルカリ土類金属イオンの元素と一致していなくても良い。
また、上記アルカリ土類金属化合物は、粒子状のものを電解液に含ませる。
粒子は、一次粒子であっても、凝集・造粒された粒子(二次粒子)であっても差し支えないが、その粒子径は、特に限定するものではないが、0.5〜1000μmのものが好ましい。
粒子状アルカリ土類金属化合物は、上記アルカリ土類金属電解液に混合し懸濁液として用いることができるが、後述する図1に示すように、網またはマットなどの毛製成形体に係止させたものに、アルカリ土類金属および酸根を含む電解液を流動させるようにしても同じ効果を生じる。
本発明でいう電解液とは、上記のように構成材料が一液になっていないものも含む。
粒子状アルカリ土類金属化合物の濃度は、電解液に対して0.01〜10質量%使用することが好ましく、通電による電解液への溶解速度、粒子状アルカリ土類金属化合物の電解液中への分散性、電解液保持用材料(例;不織布)の取り扱い、電着によるアルカリ土類金属イオンの消費量の点から電解液に対して0.02〜1質量%がより好ましい。
なお、該化合物を含ませたことにより、電解液の粘度が高くなり、流動性が低下する場合は、ポリスチレンスルホン酸、ポリナフタレンスルホン酸、ポリオキシカルボン酸などの分散剤を場に応じて適宜含ませることができる。それら分散剤は、電着作用への影響がほとんどない。
以上のように、電解液には、アルカリ土類金属イオン、酸根および粒子状アルカリ土類金属化合物を含ませるが、そのほかの成分としてナトリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオン、あるいは亜鉛イオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、マンガンイオン、銅イオンなどの金属イオンを含ませることもできる。
アルカリ金属イオンの存在は、中性化が進行したコンクリ−トの再アルカリ化を行うので好ましい。特に、リチウムイオンの場合は、アルカリ骨材反応を抑制し耐久性を改良するという効果も発揮する。
なお、アルカリ金属イオンを電解液に含ませる場合は、前述した塩化物は併用しないのが好ましい。
次いで、電着工法について説明する。
電着を行う場合、コンクリ−ト構造物側から外に向かって[陰極]−[コンクリ−ト(ひび割れ補修面を陽極側に配置する)]−[電解液]−[陽極]のように配列する。
陰極は、ひび割れ発生部位を予測しコンクリ−トを打設する折りに、予め埋め込んでおいてもよく、また、鉄筋コンクリ−トの場合には、その配筋を利用しても良い。陰極の材質、形状、設置方法などは、特に限定するものではない。
なお、無筋コンクリ−ト(例:コンクリ−ト製品)、連続繊維補強コンクリ−トなどの補修の場合は、ひび割れ補修面の反対面に陰極を別途設けねばならない。
ひび割れ補修の対象となるコンクリ−ト構造物は、特に限定しない。上述したように、鉄筋・無筋コンクリ−トの区別はもとより、緻密質、多孔質であるとを問わない。
電解液は、電着中、コンクリ−トのひび割れ発生箇所側のコンクリ−トの外面(ひび割れ面)に保持する必要がある。 そのために、例えば、ひび割れ面に当接した織布、不織布など慣用の網、毛製マットなどに電解液を、随時補給し含ませるようにする。
図1は、本発明の1実施態様であって、垂直な鉄筋コンクリ−ト(鉄筋;陰極)のひび割れ面にマットを当接し、その外側にメタルメッシュ(陽極)およびマット下端に電解液溜を設け、ポンプを用いて該電解液溜に流下した電解液をマット上端に循環させることを示した断面概略図である。
図1は、鉄筋コンクリ−ト1のひび割れ面3に当接された毛製マット4、さらにその外側に陽極となるメタルメッシュ5が配設されている。電解液溜6に注入された電解液はポンプ7によってマット4上端に移送放出され、マット4中を連続して流下する。その状態で陰極である鉄筋2と陽極であるメタルメッシュ5との間に直流電流を流して水酸化物、炭酸化物などを析出させて補修を行う本発明の電着工法の1例である。
なお、この場合、電解液中の固形分である粒子状アルカリ土類金属化合物の大部分はマットに止まる。
陽極には、メタルメッシュ(材質例:チタン、白金被服チタン、カ−ボンファイバ−、フェライト)が一般に使用され、本発明においても慣用にしたがう。また、その形状も、特に限定しない。
電着条件(泳動条件)について説明する。
電着する場合の電流密度は、陰陽極の電極の表面積、ひび割れ最深部と陰極との距離などが影響して、一概に決められないが、コンクリ−ト1m2当り0.0 5〜10Aが好ましい。より好ましくは、0.1〜2Aである。
電流密度が0.05A未満では、電着に要する時間がかかり過ぎ、10Aを超えると、陰極が発熱し膨張してコンクリ−トに悪影響を及ぼすうえに、水素ガスを発生し危険性が増大するので好ましくない。
電解液のpHは、長期間に亘り7を超えるように前述したアルカリ土類金属イオン、酸根および粒子状アルカリ土類金属化合物を調整しなければならない。
pH7以下になった場合、ひび割れ内に水酸化物、炭酸化物として析出し付着した化合物が再び溶解するので好ましくない。
好ましいpHは8以上、より好ましくは10以上である。
本発明の電着工法における原理を次のように推測している。
コンクリ−トの鉄筋を陰極、メタルメッシュを陽極とし両極間に電解液を介して直流を通電すると、電解液に含まれているアルカリ土類金属イオンは陰極に、酸根は陽極に向かって移動する。
アルカリ土類金属イオンがひび割れ内に入り込み高濃度になると、アルカリ土類金属イオンは、イオンとして溶解した状態で存在できなくなり、水酸化物などとして析出する。それに伴って、水酸化イオンが消費されるため、水素イオンが残留し、ひび割れ内部の電解液のpHは酸性に傾く。
ここで、本発明の電解液には酸根が含まれているため、ひび割れの外にある電解液中には、酸根と結びつく形で安定して高い濃度のアルカリ土類金属イオンが存在する。アルカリ土類金属は、2価のイオンであり、ひび割れ内部において水素イオンと容易に置換し、アルカリ土類金属濃度は高く保持される。 したがって、電着効率は低下せず、また、置換した水素イオンは、酸根と結びつく形で移動するので、陰極における水素の発生も抑制できる、と推察される。
一方で、陽極付近では、酸根は、その濃度が上昇し、粒子状アルカリ土類金属化合物を溶解させ、アルカリ土類金属イオンおよび水酸イオンの生成を促すので、陰極で消費された電解液中のアルカリ土類金属イオンを補充する。したがって、電解液中のアルカリ土類金属イオン濃度は、常に高く保持することが可能となり、電着効率を低下させない。
また、陽極における電気分解による水素イオンの発生、およびアルカリ土類金属イオンの析出で生成した水素イオンの拡散によって、陽極付近においても電解液のpHは低下の方向に傾く。 しかし、酸根の作用によって生成した水酸化イオンは、pHの低下を抑止するだけでなく、陽極で発生する水素イオンを円滑に水として消費させるため、陽極のメタルメッシュが電食により腐食したり、消耗したりすることもない、と推察される。
このように、本発明の特徴である酸根が課題解決に対して大きく寄与しているもの、と考えられる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
多数のひび割れが生じ、地下水がにじみ出ている地下1階の擁壁(鉄筋コンクリ−ト構造物)を本発明の電着工法でひび割れを補修し、電着効率、pH、施工後の電極の状態の確認、漏水の観察などを行った。
まず、コンクリ−ト構造物のひび割れが生じている高さ70cm、幅200cmの表面(以下、補修面という)の汚れを洗い流したのち、上端の一部をはつり、鉄筋にリ−ド線を接続して陰極とした。
電解液は、次のようにして調製した。
使用した材料は、
・アルカリ土類金属イオンおよび酸根を生成する前駆物質:硝酸マグネシウム
・粒子状アルカリ土類金属化合物:天然水酸化マグネシウムの粉砕物(純度;65質量%、平均粒子径;4μm)
を用いた。
最初に、前駆物質0.3モル/リットルとなるよう水に溶解・電離させて、マグネシウムイオンおよび硝酸根を含む電解液70リットルを調製した。
ポリエステル製不織布(日本バイリ−ン社製)の片面に粒子状アルカリ土類金属化合物50g/m2を散布し、もう1枚の不織布を重ねてサンドウィッチ状のマットを作製した。
次いで、図1に示すように、該マットを前記補修面に当接し、その外側にリ−ド線を接続したチタンメッシュ(注)を陽極として密着状態に取り付け、マット直下には電解液を入れた電解液溜を、電解液循環用のポンプをそれぞれセットした。
(注)線径;1.5mm、メッシュピッチ;50mm
各リ−ド線を直流電源に接続し、ポンプを作動させ電解液をマット上端に万遍に流し、マット下端から電解液が流出するのを確認したのち、電着操作に入った。
電着操作は、コンクリ−ト1m2当りの電流密度;0.5A、7日間、通電して行なっ
た。
通電中、流下する電解液をポンプで循環させ、常にマット上端に電解液を満遍無く流し続けた。
電着終了後、マットを除去し、コンクリ−ト表面をワイヤ−ブラシでブラッシングを行った後、ひび割れ孔を観測した結果、孔口まで完全に閉塞されていた。また電極を目視観察した結果、消耗は認められなかった。
通電期間中および終了後に、下記の特性について測定を行なった。
1)電解液のpH:電解液溜に流下した電解液のpHを測定した結果、通電開始時;9.7、3日目;9.2、5日目;9.0および通電終了時(7日目);8.9であった。
2)水素の発生の有無:陽極上端のガスを採取し、水素ガス検知管(ガステック社製)を用いて、分析を行なったところ、水素の発生は観測されなかった。
3)比較的大きなひび割れの孔口およびその付近の付着物は、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどであり、緻密に付着していた。
4)電着終了1月後および6月後に、地下水による漏水の有無について観測した結果、漏水が全く認められなかった。
前記実施例1において「アルカリ土類金属イオンおよび酸根を生成する前駆物質」として使用した硝酸マグネシウムに替えて“酢酸マグネシウム”を用いて電解液を調製した点以外は、実施例1に示す要領にしたがって鉄筋コンクリ−トの補修を行った。
その結果、ひび割れの孔口まで析出物が十分に付着していること、および電極が消耗していないことが認められた。また、電解液のpHは、通電開始時;10.1、3日目;9.5、5日目;9.4および通電終了時(7日目);9.3であり、水素の発生もなく、付着は水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどで緻密であった。さらに補修箇所は、実施例1と同様、1月後および6月後においても地下水による漏水は認められなかった。
比較例1
前記実施例1において、粒子状アルカリ土類金属化合物を含まない電解液を調製した以外は、実施例1に示す要領にしたがって鉄筋コンクリ−トの補修を行った。
その結果、電解液のpHは、通電開始時;6.7、3日目;4.2、5日目;3.1、および通電終了時(7日目);2.3となり、大きく低下した。 電極の一部が消耗しており、通電終了時には、水素ガスが検知された。ひび割れの孔口の一部に析出物が認められたが、その量は実施例1に対して少なく完全には閉塞されていなかった。
なお、補修した1月後には、漏水も観察された。
比較例2
電解液が水および粒子状アルカリ土類金属化合物からなる点、および電流密度がコンクリ−ト1m2当り0.1Aとした点以外は、実施例1に示す要領にしたがった。電流密度
を実施例1より低く設定したのは、電流を増大させると電圧が50Vを超え、感電の危険性が高くなるからである。
その結果、電解液のpHは、通電開始時;10.6、3日目;10.2および通電終了時(7日目);10.1であり、通電期間中pHの低下が認められないこと、電極が消耗しないこと、および水素の発生が検知されないことなど良好な面も確認されたが、反面、ひび割れ内部への析出量が少ないうえポ−ラスな状態であり、漏水も生じた。
前記実施例1、2から、本発明の電解液を用いた電着工法による鉄筋コンクリ−トのひび割れ補修は、7日後には、付着物がひび割れ孔口をほぼ完全に閉塞していることが認められ、かつ、補修6月経過後においても漏水がなかったことから、電着が効率よく行われたことが判明した。
また、水素ガスの発生がないことも確認され、安全な工法であること及び電極の消耗がないことが同時に明らかになった。
これに対して、比較例1、2は、7日間の電着では析出・付着が不十分であったり、ポ−ラスであったりして、ひび割れの閉塞が不十分であり、電着効率も低いことに加え漏水も観察され、好ましい電着工法ではないことが明らかにあった。
なお、比較例1の場合は、水素ガスが発生し安全性に欠け、しかも電極も消耗することが判明した。
本発明の1実施態様であって、垂直な鉄筋コンクリ−ト(鉄筋;陰極)のひび割れ面にマットを当接し、その外側にメタルメッシュ(陽極)およびマット下端に電解液溜を設け、ポンプを用いて該電解液溜に流下した電解液をマット上端に循環させることを示した断面概略図である。
符号の説明
1 鉄筋コンクリ−ト 5 メタルメッシュ(陽極)
2 鉄筋(陰極) 6 電解液溜
3 ひび割れ 7 ポンプ
4 マット(サンドウィッチ状)

Claims (4)

  1. コンクリ−ト構造物のひび割れ補修を電着工法により行う際に用いる電解液であって、アルカリ土類金属イオン、酸根および粒子状アルカリ土類金属化合物を含むことを特徴とする電解液。
  2. 上記電解液のpHは、7を超えるものであることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
  3. 上記電解液の酸根濃度が0.01〜1.0モル/リットルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解液。
  4. 請求項1〜請求項3に記載の電解液を用いた電着工法によるコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法であって、
    コンクリ−ト構造物のひび割れ発生個所側のコンクリ−トの外面に前記電解液を当て、さらに該電解液に外接して陽極を配設し、該陽極と該コンクリ−トの内部に配設されている陰極との間に直流電流を流すことによって、該電解液中のアルカリ土類金属イオンを該ひび割れ発生個所で不溶性物として析出させ、ひび割れを閉塞させることを特徴とするコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法。

JP2004105542A 2004-03-31 2004-03-31 電解液およびそれを用いたコンクリ−ト構造物のひび割れ補修方法 Pending JP2005290457A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR101081991B1 (ko) * 2009-02-16 2011-11-09 연세대학교 산학협력단 전기화학적 전착기법을 이용한 콘크리트 균열의 인공균열치유방법
KR101214410B1 (ko) * 2010-05-03 2012-12-21 한국전기연구원 양전하 콜로이드의 전기영동을 이용한 구조물의 표면 코팅방법
CN111410558A (zh) * 2020-03-27 2020-07-14 河海大学 一种混凝土结构裂缝修复用电沉积液及其使用方法
CN114292128A (zh) * 2021-12-22 2022-04-08 同济大学 一种用于电化学修复混凝土裂缝的溶液及其制备方法

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