JP2005289684A - 酸化物超電導バルク体の製造方法 - Google Patents

酸化物超電導バルク体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は、従来方法では100時間を超える徐冷処理による結晶成長が必要であったものを数時間で結晶成長可能とした酸化物超電導バルク体の製造技術の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、前駆体1上に設置されている種結晶2を基に半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法であって、トップシード溶融凝固法を実施するにあたり、結晶成長のための処理を複数段にステップさせながら徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理とすることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、トップシード溶融凝固法に基づいて酸化物超電導体を製造する方法とそれにより製造された酸化物超電導体に関し、大型の酸化物超電導バルク体を容易に得ることができるようにした技術に関する。
大型の酸化物超電導バルク体を製造する方法の一例として溶融法が知られている。
この溶融法とは、REBaCu7−X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導バルク体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで加熱した後、REBaCu7−X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより結晶成長させ、核生成と結晶方位の制御を行い、酸化物超電導バルク体を得る製造方法である。
また、1つの種結晶を使用し、結晶成長開始温度が異なる材料を順次組み合わせて核生成、結晶方位および結晶成長方向を制御して酸化物超電導バルク体を製造するトップシード溶融凝固法(Top Seeding Melt Growth)が知られている。(特許文献1参照)
この特許文献1に記載されたトップシード溶融凝固法では、酸化物超電導バルク体を構成する元素の化合物粉末を混合してなる原料粉末を圧密して前駆体を得た後、この前駆体を利用してREBaCu7−X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで前駆体を加熱して半溶融状態とした後、半溶融状態の前駆体上に種結晶を設置し、REBaCu7−X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより半溶融状態の前駆体の内部で種結晶に沿わせて徐々に結晶成長を行い、前駆体全体を酸化物超電導バルク体とする方法の一例として記載されている。
更に、先のトップシード溶融凝固法を用いて希土類酸化物超電導バルク体を製造する方法において他の文献も知られている。(特許文献2参照)
この特許文献2に記載されたトップシード溶融凝固法は、REBaCu7−x系超電導体(ここでREはYを含む希土類元素の1種類又はその組み合わせ)の原料成形体を溶融加熱処理し、これを冷却してREBaCu7−x相中にREBaCuO相又はREBaCu10相が分散した酸化物超電導体を製造する方法において、前記原料成形体上に種結晶を載置してから溶融加熱処理を行う方法が開示されている。
この特許文献2の実施例1においては、原料粉末から形成した円盤状成形体を1150℃に加熱した後に、1080℃において種結晶を設置し、1060℃まで30分で降温し、更にここから1040℃まで120時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。次にこの特許文献2の実施例2においては、970℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例3では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例4では1045℃まで120時間かけて徐冷したと記載され、実施例5では970℃まで110時間かけて徐冷し結晶成長を行ったと記載され、実施例6では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例7では970℃まで110時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。
特開平5−170598号公報 特開2001−233696号公報
先に記載した特許文献に記載されたトップシード溶融凝固法においては、いずれも、目的の酸化物超電導体の組成に応じて望ましい温度に加熱した成形体の温度を一端、包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から100時間を超える長い時間をかけてわずかな温度勾配をかけて徐冷する温度勾配冷却を行い、酸化物超電導バルク体を製造していた。従ってこの種の酸化物超電導バルク体を製造するために極めて長い時間、例えば100時間以上の加熱処理が必要であり、製造効率が悪いという問題を有していた。
また、この種のトップシード溶融凝固法を用いて酸化物超電導バルク体を製造する場合、結晶を成長させる温度は組成に応じて一義的に決まるものではなく、経験的な温度決めが必要不可欠であった。例えば、目的の組成比通りに前駆体を製造し、事前に熱分析により溶融温度を測定しておいたとしても、実際に製造に用いる加熱炉の温度分布や成形体のサイズ、成形体を製造する場合の製造条件のわずかなばらつき、あるいは、加熱条件などの微妙な差異により、溶融時に組成ずれが必ず起こり、先の熱分析値による指標温度も経験的な温度決めの補助的要素にしかならないケースが多いものであった。
また、加熱温度が1000℃を超える温度範囲となった場合、成形体試料の温度自体を精密に制御したり、計測すること自体が難しく、単に加熱炉に投入して加熱炉の設定温度を制御したのみでは、精密な温度制御は難しいものであるとともに、1000℃を超える成形体の温度状態を精密にモニターし、成形体の中心部と外周部で精密に温度制御すること自体困難なものであった。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、従来方法では100時間を超える徐冷処理による結晶成長が必要であったものを本発明では数時間〜10数時間程度の短い時間で結晶成長可能とした酸化物超電導バルク体の製造技術の提供を目的とする。
また、長期の時間と多大な経費、精密な温度制御を長時間行って製造するという作業を簡略化し、本発明では安価かつ容易に酸化物超電導バルク体を製造することができるようになる技術の提供を目的とする。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によって酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、前記トップシード溶融凝固法を実施するにあたり、結晶成長のための処理を複数段にステップさせながら徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては温度保持する段階降温等温処理とすることを特徴とする。
本発明において、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とする際、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却するものでも良い。
本発明において、前記結晶成長のための保持温度の段階的ステップ数を3〜6の範囲、各ステップの温度差を2℃とすることができる。
本発明において、得ようとする酸化物超電導バルク体としてREBaCu7−x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAgまたはPtを含む組成系の酸化物超電導体からなるものとすることができる。
本発発明で用いる前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、この仮焼物を圧密した圧密成形体を用いることを特徴とする。
本発明で用いる前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、圧密した圧密成形体を複数段積みしたものを用い、最上段の前駆体にのみ種結晶を載置して結晶成長させることを特徴とするものでも良い。
前記圧密成形体を複数段積みする際、種結晶を載置する最上段の圧密成形体よりも下段側の圧密成形体を大きなものとし、最上段の圧密成形体の結晶成長を下段側の圧密成形体にも伝搬させて下段側の圧密成形体を結晶化することもできる。
本発明で用いる酸化物超電導バルク体としてREBaCu7−x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAgまたはPtを含む組成系の酸化物超電導体からなるものとすることができる。
本発明において、前記前駆体を製造するに際し、原料粉末を混合し、仮焼きして得られる仮焼き粉末を成形して前駆体とするものとし、前記仮焼きする前の原料粉末として、850μmよりも大きな粒径のものを選択して用いることもできる。
本発明において、複数段のステップで等温保持させながら徐々にステップ毎に温度を下げつつ加熱処理することで、単に緩い温度勾配で徐冷して結晶成長させるよりも遙かに早く結晶成長させることができる効果がある。例えば、従来技術では緩い温度勾配で100時間を超える徐冷処理が必要であったのに比較して数時間〜10時間程度の段階降温等温処理で結晶成長ができるようになる。従って従来技術よりも数倍〜数10倍の速度で結晶成長させることができるようになる。即ちこの結晶成長方法により、種結晶を元として前駆体を結晶化する場合、結晶成長が完全に進行した目安となるファセットが、種結晶の設置部分から前駆体の外周部まで完全に到達し、完全結晶成長した酸化物超電導バルク体を従来よりも数倍〜数10倍の速度で確実に製造できるようになる。
種結晶を元に前駆体を結晶成長させる場合、前駆体の原料の配合組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心として、それよりも高い温度域から段階的降温等温処理を行い、理論的結晶成長温度よりも低い温度まで段階的降温等温処理を行うことで、前駆体の製造過程での原料の混合不均一性や原料自体の組成ずれ、原料混合比のずれ、その他の前駆体の製造過程での種々の製造要因などに起因して、組成比に応じた理論的結晶開始温度からわずかにずれた温度で結晶成長を開始する場合の温度ずれを吸収して結晶成長させることができる。従ってこの方法の採用により、前駆体の製造条件のばらつきを吸収して確実な結晶成長を促すことができる。
また、より具体的には、3〜6ステップであって各ステップの温度差を2℃とした段階降温等温処理とすることで、完全結晶成長させた酸化物超電導バルク体を確実に得ることができる。
先の前駆体として、原料を混合して圧密した圧密成形体を用いることができる。この圧密成形体は複数段積み重ねて用いることができ、その場合に最上段の圧密成形体に生じさせた結晶成長を下段側の圧密成形体に伝搬させて下段側の圧密成形体も結晶化できる。また、下段側の圧密成形体を最上段の圧密成形体よりも大きくしておくことで大型の酸化物超電導バルク体を得ることができる。
図1と図2は本発明に係る製造方法を実施する状態を説明するための側面図であり、図1は円盤状をなす酸化物超電導体の前駆体1の上部中央に種結晶2を設置した状態を示し、図2は図1に示す前駆体1に対して以下に説明する方法を実施することにより得られた酸化物超電導バルク体3を示している。
本発明で用いる酸化物超電導バルク体製造用の前駆体1とは、目的とする酸化物超電導体の組成と同じ組成、あるいは、近似する組成の原料混合体の圧密体であり、本発明を適用できる酸化物超電導体として例えば、RE-Ba-Cu-O系(REはYを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示す。)のものを例示することができる。
ここで目的の酸化物超電導体がRE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体である場合、前駆体1として例えば、REの化合物粉末とBaの化合物粉末とCuの化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3、またはそれに近似する組成で混合した原料混合粉末を圧密したものなどを用いることができる。
先の化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3に近似する組成で混合する場合、REBaCu7−X相成分(R123相成分)に対するREBaCu相成分(R211相成分)の比で1.1以上、1.8以下の範囲、モル比では5モル%以上、40モル%以下の範囲とする混合比を例示することができる。なお、得られる酸化物超電導バルク体の臨界電流密度の値は1.4近傍で飽和する傾向にある。また、R123相に対するR211相の比を1.1未満にすると、溶融凝固時に正常な結晶化の反応が進行し難くなるが、これらの範囲に本発明が制限されるものではなく、組成比に応じて望ましい範囲を選択すれば良い。
前記モル比の具体的な数値として例えば、R123相成分とR211相成分の比を1.1(5モル%R211相成分)、1.2(10モル%R211相成分)、1.4(20モル%R211相成分)、1.8(40モル%R211相成分)に設定することができる。ここで例えば、比が1.8とは、Sm123のSmモル数が10モルに対してSm211のSmモル数が8モルになるようにすることを意味する。
即ち、10(RE1Ba2Cu3O7−X)+4(RE2Ba1Cu1O5)=100(RE1Ba2Cu3O7−X)+40(RE2Ba1Cu1O5)の関係となるような百分率と考える。従って本明細書で用いる比で1.1とは5モル%R211相成分を意味し、比で1.2とは10モル%R211相成分を意味し、比で1.4とは20モル%R211相成分を意味し、比で1.8とは40モル%R211相成分を意味する。
この形態において前駆体1は先の組成の原料混合粉末をプレス装置、あるいは、CIP装置(静水圧装置)などの加圧装置により円盤状に成形したものを用いる。勿論、CIP装置が高価であるならば、プレス装置で前駆体1を製造する方が製造コストは安くなる。また、前駆体1の大きさは任意で良く、用いるプレス装置やCIP装置で製造可能な大きさの前駆体とすれば良い。
また、前駆体1を製造する場合、原料混合粉末を得た後、800〜1000℃程度で仮焼きしてから粉砕装置で粉砕した仮焼原料を再度混合するという仮焼き粉砕操作を必要回数行ったものを成形しても良い。粉末混合粉砕と仮焼き温度の条件として、めのう乳鉢あるいはアトライタやボールミル等の粉砕混合装置を用いて1時間程度混合した後に900℃程度で15時間程度仮焼きする条件等を例示することができる。
以上のような行程を経て前駆体1を製造する場合、仮焼き後の粉砕が容易なように原料粉の粒径をできるだけ大きくしておくことが望ましい。例えば、原料粉の粒径が850μmを下回る小粒のものがほとんどないように粒径850μm以上の範囲の平均粒径になるように篩を用いて分級する方法などを例示できるが、本発明ではこの範囲に必ずしも粒径を揃える絶対性があるものではない。原料粉の粒径についてはある程度大きくして仮焼き時に焼結しないようにしておき、粉砕し易くしておくことが好ましい。先の仮焼き時に仮に焼結してしまうことがあると、後で粉砕することが難しくなる。なお、原料粉の組成にも依存するが、先の組成の酸化物超電導体を構成する原料を混合したものは粒径が小さいと吸湿して粘度が高くなり、固まって扱い難くなる傾向にあり、例えば混合している間にうどん粉のようになって互いに粘着し篩を通らなくなるおそれがあるので、先の篩い分けにより粒径の大きなものを選択して使用することが好ましい。
また、繰り返し複数回仮焼きして最終粉砕して混合する際、後に行う半溶融凝固法の際の溶融温度を下げるためと機械的強度を向上させる目的でAgOを添加すること、あるいは、R211相の微細化触媒としてのPtを添加物質として混合して成形体としたものを前駆体1としても良い。なお、他の元素としてAuを添加物質として混合することもあり得る。
これらの添加物質は最終的に得られる酸化物超電導体の超電導特性を向上させるもの、あるいは超電導特性を阻害しないものであれば良い。例えば添加物質がAgであれば、酸化物超電導体に5〜20wt%程度の範囲で添加できることが知られているので、AgあるいはAgOを先の範囲で添加しても良い。
図1に示すように前駆体1の上に種結晶2を設置し、これらを加熱炉に装入し、トップシード溶融凝固法に基づいて熱処理する。
ここで行うトップシード溶融凝固法とは、予め酸化物超電導体の前駆体に種結晶を載せておき、この前駆体を融点以上の温度で液相と固相が共存する温度に加熱溶融させて半溶融状態とした後、冷却工程を行ない、種結晶を利用し、種結晶を起点として前駆体内に目的の酸化物超電導体の単結晶を成長させることにより、結晶構造の良好な超電導特性の優れた酸化物超電導体を得ようとする製造方法として知られている方法である。また、結晶成長を行う場合に本実施例では後述するように規定の結晶化開始温度において等温保持させてから段階的に徐冷しながら結晶化する方法を採用する。更に、本実施形態では前駆体に種結晶を載せてから加熱してゆくコールドシーディング(cold seeding)法を元に説明するが、前駆体を半溶融状態にしてから種結晶を設置するホットシーディング法を利用しても差し支えないのは勿論である。
この実施形態で用いる種結晶2とは、目的とする希土類酸化物超電導体とは異なる希土類を用いた種類の酸化物超電導体の単結晶体か薄膜を用いる。
例えば、目的の酸化物超電導体がSm系のものである場合、Sm系よりも包晶温度の高いNd系の酸化物超電導体の単結晶体あるいは単結晶薄膜を用いることができる。即ち、種結晶2は前駆体の半溶融温度において結晶状態を維持している必要があるので、用いる前駆体よりも包晶温度の高いものを用いることが好ましい。
種結晶2として酸化物超電導薄膜を用いる場合に、MgOなどの耐熱性基板の上に成膜法により形成したNd系の酸化物超電導体の単結晶状のフィルムを有するものなどを適用できる。勿論、この他に、希土類として、Gd系、Dy系、Ho系、Y系など、半溶融凝固法に適用できる種々の系の単結晶体あるいは超電導薄膜を種結晶として適用することができる。
なお、図1では略しているが、前駆体1の下には、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の膜あるいは板(厚さ0.1〜0.2mmのシート)を敷き、更にそれらを支持する板状、ボート状、坩堝状などの耐熱材料製の基台を設置しておき、加熱時にこれらの基台とともに加熱炉に装入すれば良い。
先のYSZの膜あるいは板は前駆体1への不純物の侵入を阻止するもので、この膜あるいは板を下に敷いておかないと下側の前駆体1が他の物質に接触した部分から結晶化が起こり、最終的に得られる結晶が多結晶体になるか配向性の悪い結晶体になってしまうおそれがある。
また、耐熱性の基台と前駆体1との反応を抑制するなどの目的で、基台の上に更に別途耐熱層や耐熱材料製の中間層、下地材などを適宜敷設しても良い。
加熱炉では、まず、前駆体1の融点よりも若干高い最高到達温度(Tmax)に全体を加熱して前駆体1を半溶融状態とする。また、加熱雰囲気としては、大気中でも良いし、不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気でも良い。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd系の酸化物超電導体であるならば1000〜1200℃の範囲、他の系の酸化物超電導体でも概ね950〜1200℃の範囲である。また、昇温する際に急激に前駆体1を加熱するとクラック等の欠陥部分を導入する危険性があるので、徐々に温度を上げることが好ましい。また、前駆体1を加熱して半溶融状態にするまでの間の温度勾配は、どのような温度勾配でも差し支えないが、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにしないと加熱炉の温度調整機能に依存して最高到達温度を遥かに飛び越した温度条件になってしまう可能性があるので、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにすることが好ましい。
前駆体1を最高到達温度の半溶融状態としたならば、前駆体1の温度を先の温度から数10℃、例えば20〜40℃程度下げた後、その温度で所定の時間(例えば数時間程度)保持する予備加熱を行う。なお、ここで行う予備加熱は結晶化温度よりも高い温度で先の最高到達温度よりも低い任意の温度で行うことができるが、本発明では必ずしも行う必要はなく、予備加熱を略しても良い。
次に前記最高到達温度から直接、前駆体1の組成比に応じた状態図から推定される理論的結晶化開始温度と目される温度、あるいは先の前駆体1の熱分析から推定される溶融温度から計算される結晶化開始温度(本発明ではこの温度も理論的結晶化開始温度の概念に含めるものとする)に降温し、その温度から段階降温等温処理を開始する。あるいは本発明では、先の結晶化開始温度よりも若干(2℃〜10℃程度)高い温度まで降温し、その温度から段階降温等温処理を開始しても良い。
この段階降温等温処理は、複数の等温保持ステップ毎に徐々に降温させる処理、換言すると、所定の温度に必要時間保持し、次に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持し、続いて更に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持するという段階的ステップの温度処理を施すものとする。
ここで先の温度よりも若干低い温度とは、最初の結晶化開始温度から例えば1℃〜数℃ずつ下がる温度ステップを意味し、保持時間は数10分〜数時間程度の範囲で選択することができる。例えば2〜3℃ステップで徐々に段階的に降温し、3〜6段階に温度を下げるステップとして、各温度ステップの保持時間を数10分〜数時間程度とする段階的ステップを例示することができる。
また、段階降温等温処理を終了させる場合の温度は、理論的結晶化開始温度よりも若干低い温度(数℃から10℃程度低い温度)まで行うものとすることが好ましい。これは、作成した前駆体1の状態により、実際に結晶化開始する温度が微妙に異なり、状態図を基に組成比から推定される結晶化開始温度、あるいは、前駆体1の熱分析などにより予想される結晶化開始温度で、いずれの前駆体も結晶化開始するとは限らないので、実際に用いた前駆体の結晶化開始温度が低温側にずれている場合でも目的とする結晶化を進行させるためである。なお、先のような事情から実際の前駆体の結晶化開始温度が高温側にわずかにずれることも考えられるので、段階降温等温処理の開始温度は先に述べたとおり、理論的結晶化開始温度よりも若干高い温度(数℃から10℃程度高い温度)から行うものとすることが好ましい。
例えばSm系の酸化物超電導バルク体を一般的にトップシード溶融凝固法により結晶成長させようとする場合の結晶成長温度は銀添加なしで1060℃〜1050℃であるので、本発明ではこの温度を挟むように段階降温等温処理を施すものとした。
また、他に、結晶成長温度は、Y系1000℃、Eu系1050℃、Gd系1030℃、Dy系1010℃、Ho系990℃、Er系980℃、Tm系960℃、Yb系900℃、Lu系880℃とそれぞれ考えられるので、これらの組成系に応じて結晶化開始温度を挟むように段階降温等温処理を施すならば、本発明方法を種々の組成系に適用することができる。勿論、これらの理論的結晶成長開始温度は1つの目安であり、実際に製造した組成系の前駆体を熱分析してからその前駆体の結晶成長開始温度を推定し、その温度を挟むように段階降温等温処理を行うこともできる。なお、これらの系に銀を添加すると結晶成長温度を低下できるので、銀を添加した系については更に上記の温度から低い適切な温度で成長させればよい。
このような段階的ステップの段階降温等温処理により、図2に示すような酸化物超電導バルク体3を得ることができる。
より具体的には、酸化銀10wt%含有Sm系の酸化物超電導体を製造する場合、室温
から900℃まで1時間程度かけて昇温し、そこから半溶融温度1080±20℃まで1時間かけて徐々に昇温し、半溶融温度で40分程度保持し、5分程度かけて1050℃まで降温し、次いで5分程度かけて目的の結晶化温度を挟んだステップの段階的等温保持処理を行う。ここで例えば6ステップの一例として、結晶化開始温度を1022℃とした場合、一例として、室温から1026℃まで1時間程度かけて昇温し、その温度で1時間保持し、以下1分で1024℃として1時間保持、1分で1022℃として1時間保持、1分で1020℃として1時間保持、1分で1018℃として1時間保持、1分で1016℃として1時間保持する6ステップの段階的等温保持処理を行う処理を例示できる。
全てのステップの段階降温等温処理が終了したならば、その後に1時間程度かけて900℃まで降温し、その後に室温まで炉冷するという熱処理条件を例示できる。なお、先の1080±20℃まで一気に昇温しても差し支えないが、昇温時の温度勾配が高過ぎると半溶融温度の上限に定めた1100℃を飛び越えて加熱してしまい、前駆体を部分的に溶解させてしまうおそれがあるので、昇温の際の温度勾配は定めた1080±20℃を越えないように設定する必要がある。勿論、加熱装置が前駆体1を規定の温度に精密に制御できるものであるならば前述の昇温条件に拘束されるものではなく、また、組成に応じて定めた目的の半溶融温度の範囲に合わせて適宜の割合で昇温しても良いのは勿論である。
半溶融状態の前駆体1に対して種結晶2を設置し、結晶化温度で段階降温等温処理しておくことで、前駆体1の内部ではREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がR211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてREBaCu7−X(R123相)なる組成比の酸化物超電導体の結晶を成長させることができ、その結果として最終的に前駆体1を結晶化させてREBaCu7−X相(R123相)の酸化物超電導バルク体とすることができる。ここで従来の温度勾配を有する徐冷処理とは異なり、本発明では等温保持するので、この等温保持の間に結晶が成長し、円滑な結晶成長がなされる結果として従来方法よりも格段に早く結晶成長させることができる。
次に、上述の如く得られた酸化物超電導バルク体3の上面の一形状例を図2に示す。
本発明で用いる段階降温等温処理によるトップシード溶融凝固法によれば、上面中央部に設置した種結晶2(図2では種結晶を略している)を基にして放射状に単結晶領域が成長し、矩形状の単結晶領域の角部が円盤の周縁部まで到達して図2に示すような十字状のファセットラインを有する単結晶領域5が生成し、その領域の外側には平面視弓形の多結晶領域6が生成する。この図2に示す単結晶領域は一例であって、単結晶領域が円盤状の前駆体1の全域に完全に広がって生成する場合、単結晶領域が円盤状の前駆体1の周縁部の手前で停止して図2に示す単結晶領域5よりも小さな矩形状の単結晶領域となる場合等、いずれの場合もあり得る。
図2に示す形状の酸化物超電導バルク体3を製造する場合、従来の技術によれば結晶成長のために結晶化温度から100時間程度かけて降温していたものが、先に説明したとおり本実施の形態では複数ステップの各ステップ毎に1時間程度、合計すると3〜6ステップであれば3〜6時間程度の範囲の加熱処理で結晶成長させることができるので、処理時間を大幅に短縮できる。
例えば、2℃ずつ降温して1時間保持する3ステップ処理であれば、2℃降温するために5分程度要するとしても3〜6時間程度で結晶成長させることができ、従来の結晶成長時間100時間に対して1/16〜1/33程度に短縮できる。また、2℃ずつ降温して1時間保持する3ステップ処理を施した後、2℃ずつ3時間保持する3ステップの処理を更に施した場合、各ステップの温度に調整するために1分程度要したとしても、12時間程度で結晶成長させることができ、従来の1/9程度に短縮できる。
以上説明した如く本発明によれば、複数ステップに基づく段階降温等温処理により結晶成長を行うので、種結晶2を半溶融状態の前駆体1(原料成形体)に接触させて結晶成長させる場合に従来よりも遙かに短時間で結晶成長を行わせることができる効果がある。また、得られた酸化物超電導バルク体2はファセットを有する単結晶領域が充分に発達した実用性の高いものが得られる。
図3と図4は本発明に係る酸化物超電導バルク体の製造方法の他の例を説明するためのもので、この例では先の前駆体1に加えてそれよりも大径の円盤状の前駆体7を前駆体1の下段側に配置して両者を積み重ねた形態で本発明を実施する場合について説明する。
これらの前駆体1、7を積み重ねる場合、単にそれらの中心を同軸位置に合わせてそれらの上面と下面を合わせて積み重ねるものとし、前駆体1を前駆体7の上に自重により載置した状態とする。勿論、上下の前駆体1、7の中心をずらして積み重ねても良い。この状態において前駆体1、7の重ねた面どうしの間は図3に示すように目視状態では密着しているが、密着部分を拡大してみると前駆体1、7の面どうしが完全な平面にはなり得ないことから、必然的に若干の隙間を有している。勿論、前駆体1、7を成形する際に上面と下面の形成精度を厳格に形成して面どうしの密着性を向上させても良いが、目視しても若干の隙間を確認できるような程度の面精度で形成した成形体からなる前駆体1、7を積み重ねた場合でも本発明で使用するには十分である。
図3に示す積み重ね状態としたならば上段側の前駆体1の上に種結晶2を設置し、これらを加熱炉に装入し、先に説明したトップシード溶融凝固法に基づいて熱処理する。ここで熱処理する条件は先の例で説明した複数段ステップの段階降温等温処理と同等の条件で良い。
次に、REBaCu7−Xなる組成比の酸化物超電導体の結晶が成長する過程において前駆体1の底部まで結晶成長が伝達すると、この結晶成長が前駆体7側に伝わり、前駆体7においてもその上部側から下部側に向かって結晶成長が進み、最終的に前駆体7においても全体がREBaCu7−Xなる組成比の酸化物超電導バルク体8となる。ここでの結晶成長は前駆体7の上に前駆体1を単に載置しておくだけで進行する。前駆体1、7を予めプレス装置やCIP装置などを用いた加圧法で一体化しておく必要はない。
次に、上述の如く得られた酸化物超電導体3、7の上面の一形状例を図4に示す。
本発明で用いるトップシード溶融凝固法によれば、前駆体1の上面中央部に設置した種結晶2を基にして放射状に単結晶領域が成長し、矩形状の単結晶領域の角部が円盤の周縁部まで到達して図4に示すような十字状のファセットラインL1を有する単結晶領域5が生成し、その領域の外側には平面視弓形の多結晶領域6が生成した上段側の酸化物超電導バルク体3が生成する。また、下段側の前駆体7においては、上段側の前駆体1に最終的に形成されたファセットラインL1をそのまま下段側の前駆体7に延長させたようなファセットラインL2が生成され、前駆体7を結晶化した酸化物超電導バルク体8を得ることができる。以上の処理により、2段積みして下段側の前駆体7を上段側の前駆体1よりも大型のものにしておけば、大型の酸化物超電導バルク体8を得ることができる。
なお、図4に示す単結晶領域は一例であって、単結晶領域が円盤状の前駆体1、7の全域に完全に広がって生成する場合、単結晶領域が円盤状の前駆体1、7の周縁部の手前で停止して図4に示す単結晶領域よりも小さな矩形状の単結晶領域となる場合等、いずれの場合もあり得る。
また、例えば、単に前駆体1を初めから大型のものを用いてその上に種結晶を配置し、結晶成長させようとしても、大型の前駆体1を用いるには大きさ上の制約や限界があり、例えば現在20mmφ程度の直径の前駆体1を用いて酸化物超電導バルク体を製造することはできるが、30mmφ程度の前駆体1を用いて結晶成長させようとしても、容易には結晶成長しないという問題がある。これは、用いる原料粉末の配合精度や仮焼き粉末を用いて圧密する場合の圧密度合い、原料粉末の不均一性、前駆体の大きさや形状が関連する加熱炉内での温度分布の不均一性、加熱炉での温度制御条件の正確性等を詳細に制御できないなどの要因が複雑にからみあって、現状の技術レベルにおいてトップシード溶融凝固法により比較的確実に製造できる酸化物超電導バルク体の大きさが20mmφ程度が限界であることに起因する。これに対してこの形態の方法のように、上段側は確実に結晶成長できる大きさの、例えば20mmφの前駆体1として、下段側に現状の技術レベルで容易には製造できない大きさの、例えば30mmφの前駆体を用いて2段積みして製造することで、最終的には30mmφの大きさの完全結晶化させた(ファセットラインが外周部まで完全に到達した)酸化物超電導バルク体8を得ることができる効果がある。
「実施例1」
SmBaCu7−X系の酸化物超電導バルク体を製造する目的で、酸化サマリウム(Sm)粉末と炭酸バリウム(BaCO)粉末と酸化銅(CuO)粉末をR123相成分(SmBaCu7−X相成分)とR211相成分(SmBaCu相成分)の比を1.8(40モル%R211相成分)になるように個別に秤量し、個別にめのう乳鉢を用いて混合し、試験用の原料混合粉末を作製した。
その後、各原料混合粉末を900℃で15時間仮焼きし、更に粉砕し、次いで900℃で15時間仮焼きを行って原料混合粉末を得た。また、先の仮焼き粉に白金粉末を0.5wt%添加し、更に1時間混合して原料混合粉を得た。これらの各原料混合粉を一軸加圧プレスにより直径30mm、厚さ17mmの複数のペレットに成型し、複数の前駆体とした。
これらのペレット状の前駆体に種結晶としてNdBaCu7−Xの組成の薄膜を設置し、大気中において以下の加熱パターンに応じて加熱処理した。この薄膜はMgOの基板上に先の組成比の10×10mmの厚さ700nmの酸化物超電導薄膜を成膜し、これを1mm角程度の大きさに割って使用したものである。
加熱処理においては、先の原料混合粉末から得られた前駆体試料の1つについて以下の条件で行った。まず、大気中において各試験体に対して室温から895℃まで1時間かけて加熱し、895℃から1098℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、次に5分かけて1064℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1064℃で1時間保持し、その後に1分かけて1062℃まで降温し、1062℃で1時間保持し、その後に1分かけて1060℃まで降温し、1060℃で1時間保持し、その後に1分かけて1058℃まで降温し、1058℃で1時間保持し、その後に1分かけて1057℃まで降温し、1057℃で1時間保持し、その後に1分かけて1055℃まで降温し、1055℃で1時間保持し、その後に5分かけて1021℃まで降温し、1021℃で1時間保持し、その後常温まで炉冷し、第1の酸化物超電導バルク体を得た。以上の温度測定結果と処理時間の関係について図5に示す。
この熱処理では略記すると、第1ステップ1064℃1時間、第2ステップ1062℃1時間、第3ステップ1060℃1時間、第4ステップ1058℃1時間、第5ステップ1057℃1時間、第6ステップ1055℃1時間となる、6ステップの段階降温等温処理とした。
次に先の原料混合粉末から得られた前駆体試料の他の1つについて以下の条件で加熱処理を行った。加熱条件として1098℃まで加熱する条件は先の例と同等とし、その後、5分かけて1060℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1060℃で1時間保持し、その後、1058℃、1056℃、1054℃、1053℃、1051℃の6ステップとして処理し、その後に1021℃まで降温し、常温まで炉冷する条件は同等として第2の酸化物超電導バルク体を得た。以上の温度フローにおいて段階降温等温処理の際の温度測定結果を図6に示した。
なお、これらの温度測定結果において等温保持した間に上方あるいは下方側にひげのように伸びている状態の微小ピークが発現した領域では発熱反応あるいは吸熱反応が盛んに起きていることを意味し、結晶成長が進んでいることを示している。
最初の例で得られた各円盤状の第1の酸化物超電導バルク体においては、平面視正方形で対角線が10mmよりも若干大きなファセットが明瞭に形成され、単結晶が成長したことを確認できた。次に、2番目の例で得られた第2の酸化物超電導バルク体においては、外周縁までファセットが成長したことを確認することができた。
従ってこれらの結果から、酸化物超電導バルク体の原料混合粉末を圧密してなる成形体の前駆体に対し、半溶融凝固法に基づいて結晶成長させる場合、段階的な等温保持処理を施しながら種結晶に基づく結晶成長ができることを確認できた。
次に、先の例の製造工程と同様にSm1.7原料混合粉末の仮焼き粉に白金粉末0.5wt%に加えて酸化銀(AgO)粉末を10wt%添加し、更に1時間混合してAg入りの原料混合粉を得た。このAg入りの原料混合粉を一軸加圧プレスにより先の例のペレットと同じ大きさのペレットに成型し、複数の前駆体とした。
これらの前駆体に先の例と同等の種結晶を設置し、以下の条件で加熱処理を行った。
加熱条件として大気中において各試験体に対して室温から904℃まで1時間かけて加熱し、904℃から1099℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、5分かけて1050℃まで降温し、1050℃で1時間保持し、5分かけて1025℃まで降温し、1025℃で1時間保持し、その後、段階降温等温処理を、1025℃、1023℃、1021℃、1019℃、1017℃、1015℃の6ステップとして処理し、その後に904℃まで降温し、常温まで炉冷する条件は同等としてAg入りの第3の酸化物超電導バルク体を得た。以上の温度フローにおいて段階降温等温処理の際の温度測定結果を図7に示した。
このようにして得られた第3の酸化物超電導バルク体は1本のファセットの対角線が約7mmの伸びのものができた。
次に先のAg入りの原料混合粉末と同様に作成した前駆体に対して加熱条件として、大気中において室温から904℃まで1時間かけて加熱し、904℃から1099℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、5分かけて1050℃まで降温し、1050℃で1時間保持し、5分かけて1025℃まで降温し、1025℃で1時間保持し、その後の段階的等温処理を、1025℃、1023℃、1021℃、1019℃、1017℃、1015℃として合計6ステップとした。ただし1021℃は3時間保持した。その後に904℃まで降温し、常温まで炉冷する条件は同等としてAg入りの第4の酸化物超電導バルク体を得た。以上の温度フローにおいて段階的等温保持の際の温度測定結果を図8に示した。
このようにして得られた第4の酸化物超電導バルク体は4本中2本のファセットが外周部まで到達していることを確認できた。
先の第1の酸化物超電導バルク体の写真を図9に示し、第2の酸化物超電導バルク体の写真を図10に示し、第3の酸化物超電導バルク体の写真を図11に示し、第4の酸化物超電導バルク体の写真を図12に示す。いずれの試料のバルク体においても各々ファセットが生成されていることを容易に確認することができ結晶成長できたことがわかる。
なお、これらの試料のサイズから、結晶成長速度は5mm/時間であると推定することができる。
「実施例2」
先の実施例1と同様の工程でSm1.7原料混合粉末でAgを含まないものから、円盤状の外径30mmの第1の前駆体を得るのと同じ方法で円盤状の外径20mmの第2の前駆体を作成し、第2の前駆体を第1の前駆体の中心部分上に載置し、更に第2の前駆体の上面中心部分に先の実施例1で用いたものと同じ種結晶を配置した。
これらの2段積みの前駆体を加熱炉に収容し、以下の条件で加熱処理した。
加熱条件として大気中において試験体に対して室温から1099℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、5分かけて1060℃まで降温し、その後、段階降温等温処理を、1060℃、1058℃、1056℃で各1時間、1054℃、1052℃、1050℃で各3時間施す、合計6ステップとして処理し、その後に1021℃まで降温して1時間保持し、その後、常温まで炉冷する条件として第5の酸化物超電導バルク体を得た。なおここで、後半のステップの等温保持の時間を3時間としたのは、先の実施例1で製造した各試料の結晶成長速度が5mm/時間と推定できたので、半径15mmの円盤状として、3時間で結晶成長するものと推定し、後半のステップを各3時間保持する条件とした。
このようにして得られた第5の酸化物超電導バルク体の写真を図13に示すが、上段側の外径の小さな前駆体の上面周縁部までファセットの対角線が伸びて前駆体の全体が酸化物超電導バルク体となっているとともに、下段側の外径の大きな前駆体にそのまま上段側の前駆体のファセットが転写されたように延出形成され、下段側の前駆体の周縁部分までファセットが伸びた形状の酸化物超電導バルク体が得られた。
従って先に説明した従来方法では作成の難しかった外径30mmでファセットが周縁部まで延出された形態の完全結晶を本発明方法の実施により得ることができた。
また、上述の方法では最初の3ステップの温度保持時間を各1時間として合計3時間、後半の3ステップの温度保持時間を各3時間として合計9時間、全体合計では10時間程度の時間で外径16mm、高さ4mmの前駆体の結晶化と外径24.5mm、高さ13mmの前駆体の結晶化を同時に行うことができたので、1度の熱処理で2個の前駆体を結晶化できたと同時に、従来では完全結晶化が難しかった外径30mmの前駆体の結晶化にも成功した。
従って本発明方法を実施することにより、結晶化に100時間以上もの長い時間を要していた従来方法に比べて格段に早く、しかも、径の大きな前駆体を完全結晶化することができ、目的の酸化物超電導バルク体を確実に製造できることが判明した。
図1は本発明方法を実施する場合に用いる前駆体と種結晶の状態を示す説明図である。 図2は本発明方法により得られる酸化物超電導バルク体の一例を示す平面図である。 図1は本発明方法を実施する場合に用いる前駆体と種結晶の他の状態を示す説明図である。 図4は本発明方法により得られる積み重ね型の酸化物超電導バルク体の一例を示す平面図である。 図5は実施例において製造した第1の酸化物超電導バルク体を熱処理する際の段階降温等温処理における温度フローを示す図である。 図6は実施例において製造した第2の酸化物超電導バルク体を熱処理する際の段階降温等温処理における温度フローを示す図である。 図7は実施例において製造した第3の酸化物超電導バルク体を熱処理する際の段階降温等温処理における温度フローを示す図である。 図8は実施例において製造した第4の酸化物超電導バルク体を熱処理する際の段階降温等温処理における温度フローを示す図である。 図9は実施例で製造した本発明に係る第1の酸化物超電導バルク体の上面を示す写真である。 図10は実施例で製造した本発明に係る第2の酸化物超電導バルク体の上面を示す写真である。 図11は実施例で製造した本発明に係る第3の酸化物超電導バルク体の上面を示す写真である。 図12は実施例で製造した本発明に係る第4の酸化物超電導バルク体の上面を示す写真である。 図13は実施例で製造した本発明に係る第5の酸化物超電導バルク体の上面を示す写真である。
符号の説明
1、7…前駆体、2…種結晶、3、8…酸化物超電導バルク体、5、9…ファセット、6…多結晶領域。

Claims (8)

  1. 酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によって酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、前記トップシード溶融凝固法を実施するにあたり、結晶成長のための処理を複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理を施すことを特徴とする酸化物超電導バルク体の製造方法。
  2. 前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とする際、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
  3. 前記結晶成長のための保持温度の段階的ステップ数を3〜6の範囲、各ステップの温度差を2℃とすることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
  4. 前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、この仮焼物を圧密した圧密成形体を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
  5. 前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、圧密した圧密成形体を複数段積みしたものを用い、最上段の圧密成形体のみに種結晶を載置して結晶成長させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
  6. 前記圧密成形体を複数段積みする際、種結晶を載置する最上段の圧密成形体よりも下段側の圧密成形体を大きなものとし、最上段の圧密成形体の結晶成長を下段側の圧密成形体にも伝搬させて下段側の圧密成形体を結晶化することを特徴とする酸化物超電導バルク体の製造方法。
  7. 得ようとする酸化物超電導バルク体としてREBaCu7−x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAgまたはPtを含む組成系の酸化物超電導体からなるものとすることを特徴とする請求項1〜6に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
  8. 前記前駆体を製造するに際し、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合し、仮焼きして得られる仮焼き粉末を成形して前駆体とするものとし、前記仮焼きする前の原料粉末として、850μmよりも大きな粒径のものを選択して用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。


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