JP2005287305A - 造血幹細胞の培養システム - Google Patents
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Abstract
【課題】
従来ではなしえなかった細胞培養容器を用いた造血幹細胞のより効率的な体外培養方法の開発が求められている。
【解決手段】
本発明は、内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器において、造血幹細胞を懸濁した培地を播種し、該造血幹細胞を培養することを特徴とする造血幹細胞の培養方法であり、特に細胞数の少ない臍帯血造血幹細胞の培養においてその効果を発揮する。
従来ではなしえなかった細胞培養容器を用いた造血幹細胞のより効率的な体外培養方法の開発が求められている。
【解決手段】
本発明は、内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器において、造血幹細胞を懸濁した培地を播種し、該造血幹細胞を培養することを特徴とする造血幹細胞の培養方法であり、特に細胞数の少ない臍帯血造血幹細胞の培養においてその効果を発揮する。
Description
本発明は、造血幹細胞の培養方法関する。具体的には、容器の内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器を用いた臍帯血造血幹細胞の培養方法に関する。
臍帯血は難治性の造血器疾患への骨髄再生を目的とした移植治療に利用されている。近年は、臍帯血バンクネットワークの設立により、我が国での非血縁者間での臍帯血移植は1000例を超えた。しかし、臍帯血は患者への負担はほぼ皆無であるが、その細胞数は限られており、成人への適用には慎重な作業が必要とされている。
そこで、臍帯血中に含まれる造血幹細胞を体外増殖する試みがなされている。例えば、サイトカインとして幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)または可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)を添加することにより、臍帯血造血幹細胞が増殖することが報告されている。(非特許文献1)
しかしながら、これらの細胞培養はポリスチレン製のシャーレの中で行われてきたため、ガス透過性が低く、細胞増殖に必要な酸素や二酸化炭素の交換を十分行うために、培養液の液厚を約3mm程度とし、容器中に空気層を設けなくては、十分な細胞増殖が得られなかった。従って、細胞を大量に培養するときには、無駄な空間があるため、多くのスペースを必要としていた。またガス交換のために、インキュベーター内の空気がシャーレ内を自由に行き来するため、微生物などのコンタミネーションの危険に常にさられている。
かかる問題を解決すべく、アイオノマーで形成された細胞培養容器(特許文献1)、ポリエチレンフィルムで形成された細胞培養容器(特許文献2〜4)、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂とポリ−4−メチルペンテン−1樹脂以外のポリオレフィン樹脂で形成された細胞培養容器(特許文献5)などが報告されている。これらの細胞培養容器は、ガス透過性が高く、容器一杯に培養液を充填し、培養することが可能である。従ってポリスチレン製のシャーレで培養するよりも培養スペースを小さくできるため、大量培養に適している。またガス交換がフィルムを通して行なわれるため、微生物のコンタミネーションの危険性が非常に少ない。
しかしながら、これらの細胞培養容器を用いて造血幹細胞を培養しても、思うように細胞は増殖しなかった。
従来ではなしえなかった細胞培養容器を用いた造血幹細胞のより効率的な体外培養方法の開発が求められている。
本発明は、
(1) 内面にフッ素系樹脂層を有するポリマーフィルムで成型された細胞培養容器中の培地で造血幹細胞を培養することを特徴とする造血幹細胞の培養方法、
(2) 造血幹細胞が、臍帯血由来のCD34陽性細胞である(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(3) さらに、サイトカインを培地に添加することを特徴とする(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(4) サイトカインが、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)、可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)である(4)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(5) ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ系ポリマーまたはポリオレフィンである(1)に記載の造血幹細胞の細胞培養方法、
(6) フッ素系樹脂層が、ポリマーフィルムで成型された細胞培養容器の内表面において、ポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子に置換されたことで形成される請求項1に記載の細胞培養容器、
(7) フッ素系樹脂層が、フッ素系共重合体フィルムである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(8) フッ素系共重合体が、テトラフルオロエチレンと、塩化ビニル系、スチレン系、エステル系、シリカ系またはオレフィン系モノマーとの共重合体である(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(9) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の酸素透過係数が、約100〜5000cm3/m2・24hr・atmである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(10) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の二酸化炭素透過係数が、約1000〜20000cm3/m2・24hr・atmである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(11) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器において、以下の工程よりなる造血幹細胞の培養方法:
(a)臍帯血よりCD34陽性細胞を精製する。
(b)細胞濃度が約1×103〜5×104cell/mlの細胞懸濁液を調製する。
(c)内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器に、(b)で調製した細胞懸濁液を播種する。
(d)さらに、サイトカインとして幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)または可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)を添加した後、約7〜14日間培養することに関する。
(1) 内面にフッ素系樹脂層を有するポリマーフィルムで成型された細胞培養容器中の培地で造血幹細胞を培養することを特徴とする造血幹細胞の培養方法、
(2) 造血幹細胞が、臍帯血由来のCD34陽性細胞である(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(3) さらに、サイトカインを培地に添加することを特徴とする(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(4) サイトカインが、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)、可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)である(4)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(5) ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ系ポリマーまたはポリオレフィンである(1)に記載の造血幹細胞の細胞培養方法、
(6) フッ素系樹脂層が、ポリマーフィルムで成型された細胞培養容器の内表面において、ポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子に置換されたことで形成される請求項1に記載の細胞培養容器、
(7) フッ素系樹脂層が、フッ素系共重合体フィルムである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(8) フッ素系共重合体が、テトラフルオロエチレンと、塩化ビニル系、スチレン系、エステル系、シリカ系またはオレフィン系モノマーとの共重合体である(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(9) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の酸素透過係数が、約100〜5000cm3/m2・24hr・atmである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(10) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の二酸化炭素透過係数が、約1000〜20000cm3/m2・24hr・atmである(1)に記載の造血幹細胞の培養方法、
(11) 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器において、以下の工程よりなる造血幹細胞の培養方法:
(a)臍帯血よりCD34陽性細胞を精製する。
(b)細胞濃度が約1×103〜5×104cell/mlの細胞懸濁液を調製する。
(c)内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器に、(b)で調製した細胞懸濁液を播種する。
(d)さらに、サイトカインとして幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)または可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)を添加した後、約7〜14日間培養することに関する。
本発明の細胞培養方法は、従来の細胞培養容器よりも培地への異物の混入を抑制し、細胞増殖能に優れ、大量培養を可能とする。特に細胞数に限りがある臍帯血造血幹細胞の増殖にその効果を発揮する。
本発明の培養方法は、内面にフッ素樹脂層を有する細胞培養容器において、造血幹細胞を懸濁した培地を播種し、該造血幹細胞を培養することを特徴としている。培養方法における条件は、常法に従って実施でき、用いる培地は市販されているα−MEM、イーグルMEM培地、DMEM培地、RPMI1640、HamF10培地もしくはHamF12培地などの基礎培地または無血清培地が挙げられる。
本発明の培養方法に使用する造血幹細胞は、哺乳動物の臍帯血、末梢血または骨髄から精製されるものであり、精製の方法は常法に従う。例えば、臍帯血から多能性幹細胞(CD34陽性細胞)を精製する場合は、臍帯血をα−MEM培地などで希釈後、約20〜30分静置することで赤血球を沈降させる。上清を採取後、α−MEM培地などで約2〜3倍に希釈後、約5〜15℃、約300〜500Gの条件で約5〜15分遠心分離を行う。上清を取り除いたものを、アルブミン含有のリン酸緩衝液などで懸濁する。その後、ブロッキング試薬およびマイクロビーズを添加して、約2〜8℃、約20〜50分インキュベートする。リン酸緩衝液を添加し、約2〜8℃、約200〜400Gの条件で約5〜15分遠心分離し、上清を取り除いた後、再度リン酸緩衝液などで懸濁し、磁気細胞分離装置などで高純度のCD34陽性細胞を得ることができる。
精製された造血幹細胞は、培地に懸濁する。この際の細胞密度は約1×103〜5×104cell/ml、好ましくは約1×104〜2×104cell/mlである。このようにして調製された細胞懸濁液は、内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器内に播種、培養することができる。培養する日数は約7〜14日、好ましくは8〜12日である。
本発明の細胞培養方法は、さらにサイトカインを添加することが好ましい。サイトカインの例としては、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)または可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)などが挙げられる。これらのサイトカインの添加は、細胞懸濁液の調製時または播種後のどちらでもよい。
本発明の細胞培養容器の形状は、特に限定されるものではなく、バッグ、ボトルなどが挙げられるが、量産が容易であり、軽量である可撓性のフィルムで形成されたバッグ状が好ましい。さらに、細胞懸濁液を導入、導出するポートをそれぞれ設けることが、取り扱いの上で好ましい。
さらに細胞培養容器は、内面にフッ素系樹脂層を有することを特徴としている。フッ素系樹脂層は、容器の内面の材料であるポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子に置換(以下、フッ素置換ともいう)による方法、または容器の材料としてフッ素系樹脂をラミネートしたポリマーを使用する方法などによって作成することができる。
上記フッ素置換とは、高分子物質を構成する炭素原子に結合する水素原子が一部フッ素原子に置き換わることを意味し、一部とはフッ素原子の置換前のポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の数の割合を100%とした場合、フッ素原子に置換した数が約0.1〜99.9%、好ましくは約0.5〜50%、さらに好ましくは約1〜10%である。
フッ素置換によって容器の内面にフッ素系樹脂層を形成する場合、容器を形成するポリマーは、該ポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子に置換されうるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ系ポリマーまたはポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂が挙げられ、中でもポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの具体例としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびポリ4−メチルペンテンなどが挙げられるが、中でもポリエチレンが好ましい。
フッ素置換は、ポリマーフィルムで成型された容器と、フッ素含有ガスとを、不活性ガス存在下で反応させることで達成されるが、同様の効果が得られる方法であれば、これに限定されるものではない。不活性ガスは、窒素、アルゴンなどフッ素置換の際反応を阻害しないものであればよく、不活性ガスに対するフッ素ガスの含有量は約0.1〜20.0容量%、好ましくは約0.1〜10容量%である。温度条件は約−20〜150℃である。温度が高いほどフッ素置換の反応速度が増すが、火災などの災害に注意すべきである。また、圧力条件は、約0.01〜10.0atm、好ましくは約0.01〜2.0atmである。反応時間は、例えば圧力条件が常圧付近であれば約1〜200分である。
細胞培養容器は、成型したポリマー容器に直接フッ素置換を施す方法、またはあらかじめフッ素置換したポリマーを容器に成型する方法で製造することができる。ここで、ポリマー容器の製造はプラスチックフィルムを用いて常法により実施できる。例えば、ポリマー容器がバッグ状である場合、インフレーション法、Tダイ法などで可撓性フィルムを作成し、ヒートシール法によって成型することができる。
成型したポリマー容器に直接フッ素置換を施す方法としては、ポリマーをインフレーション法により作成したフィルムを、細胞懸濁液の流入ポートおよび流出ポートを設けてバッグ状に成型し、該流入ポートおよび流出ポートからバッグ内部に、フッ素を含有した不活性ガスを流すことで、本発明の細胞培養容器を作成することができる。インフレーション法は、ポリマーの種類によって異なり、例えば、ポリエチレンを使用する場合、溶融温度は約160〜180℃、引取速度は約10〜30m/minで作成することができる。フッ素置換の条件は、内部にフッ素ガスを約0.1〜20.0容量%、好ましくは約0.1〜10容量%含有した不活性ガスを使用し、約25℃、大気圧下で約1〜200分行うことで作成することができる。
あらかじめフッ素置換したポリマーを容器に成型する方法しては、片面のみがフッ素置換されたポリマーを作成し、該フィルムにポートを設けた状態でバッグに成型する方法が挙げられる。具体的には、特開昭60−140821号公報に記載された方法、またはこれに準じた方法により作成することができ、ポリマーをインフレーション法によりフィルム状に成型する際に、内部にフッ素ガスを約0.1〜20.0容量%、好ましくは約0.1〜10容量%含有した不活性ガスを流すことでフッ素置換を行う。インフレーション法における条件は、ポリマーの種類によって異なり、例えば、ポリエチレンを使用する場合、溶融温度は約160〜180℃、引取速度は約10〜30m/minで作成することができる。このようにして得たフィルムを、温度条件約170〜190℃におけるヒートシール法によりバッグ状に成型することにより作成することができる。
さらに、上記フッ素置換反応は、プラズマ処理、コロナ放電処理などの処理と併用することにより、より効果的に行うことができる。例えば、コロナ放電の場合、電圧約10〜30kV、好ましくは約15〜25kVであり、周波数は約10〜30kHz、約15〜25kHzである。加えて、材料の融点より約20〜130℃低い温度で加熱するとさらに好ましい。加熱方法は、赤外線照射、熱風吹きつけなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
一方、容器の内面にフッ素系樹脂でラミネートする場合、容器を形成するポリマーは、成型加工が容易なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ系ポリマーまたはポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂が挙げられ、中でもポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの具体例としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンまたはポリ4−メチルペンテンなどが挙げられるが、中でもポリエチレンが好ましい。
ラミネートするフッ素系共重合体は、特に限定されるものはないが、テトラフルオロエチレンと、塩化ビニル系、スチレン系、エステル系、シリカ系またはオレフィン系モノマーとの共重合体が好ましい。テトラフルオロエチレンモノマーと共重合するモノマーは、容器に使用している材料との相溶性を考慮して選択すればよい。例えば、容器の材料がポリエチレンであるならば、テトラフルオロエチレンモノマーと共重合するモノマーは、エチレンを選択することが好ましい。
上記細胞培養容器の作成方法は、例えばバッグ形状の細胞培養容器を作成する場合、容器の材料のポリマーのフィルムと、フッ素系樹脂層のフィルムをそれぞれ作成する。フィルムの作成方法は、常法に従いTダイ法、インフレーション法などで作成される。これらの2枚のフィルムを積層させ、熱ラミネートにより2層フィルムを作成後、特定の寸法にカットし、フッ素系樹脂層が向かい合うように重ね合わせてヒートシール法により成型する。熱ラミネート、ヒートシールの条件は、選択するポリマーおよびフッ素系樹脂の融点を考慮し適時選択される。
上記フッ素系樹脂層の厚さは、約100nm〜50μm、好ましくは約1〜15μmである。
内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器は、細胞を培養するにあたり十分な通気性を有していることが好ましい。具体的には、酸素透過係数が約100〜5000cm3/m2・24hr・atm、好ましくは約1100〜3000cm3/m2・24hr・atm、さらに好ましくは約1250〜2750cm3/m2・24hr・atmであり、二酸化炭素透過係数が約1000〜20000cm3/m2・24hr・atm、好ましくは約3000〜11500cm3/m2・24hr・atmであり、さらに好ましくは約5000〜9000cm3/m2・24hr・atmである。
以下に本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(i) 血液バッグに採取されて24時間以内の臍帯血を、α−MEM培地(Invitrogen社製)を加えて希釈した。その総量の三分の一容量の血液沈降剤(ヒドロキシエチルデンプン)を加え、混合したのち50ml遠沈管に移し、室温で30分静置する。赤血球が沈降したのち、上清を新しい50ml遠沈管に移し、α−MEM培地で2〜3倍に希釈、10℃、400Gで10分遠心した。上清を除いたものを、300μlの0.5%ヒトアルブミンのMACS Buffer溶液(2mM EDTA含有リン酸緩衝液)に懸濁した。その三分の一量のFcブロッキング試薬(Miltenyi Biotec社製)を加え、5分後にそれと同量のCD34マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)を加え、4℃にて30分間インキュベートし、CD34陽性細胞をマイクロビーズで標識した。MACS Buffer10mlを加えて4℃、300Gで10分間遠心分離を行い、上清を除去した後に数mlのMACS Bufferに再び懸濁する。その懸濁液を、磁気細胞分離装置(Miltenyi Biotec社製)のPOSSELD2プログラムで分離し、高純度のCD34陽性細胞を得た。
(ii) 直鎖状低密度ポリエチレン(三井化学社製)をインフレーション法によりフィルムを作成した。インフレーション法における条件は、溶融温度170℃、引っ張り速度25m/minとした。このフィルムを縦約40mm、横約70mmにカットし、2枚のポリエチレンフィルムの間に細胞懸濁液の流入、流出ポートを設けた状態で重ね、縁部を2mm幅のヒートシール法によりバッグ状に成型することでポリエチレンバッグの細胞培養容器を作成した。この細胞培養容器の流入、流出ポートからバッグ内部に、大気圧下、約25℃でフッ素ガス10容量%を含有した窒素ガスを約1分間流すことにより、細胞培養容器を作成した。
(iii) (ii)で作成した細胞培養容器に、(i)で精製したCD34陽性細胞を1.0×104cells/mlで懸濁した、SCF(PEPROTECH社製)100ng/ml、TPO(PEPROTECH社製)10ng/ml、Flk2/Flt3リガンド(TECHNE社)100ng/ml、IL−6(PEPROTECH社製)100ng/ml、sIL−6R(PEPROTECH社製)100ng/mlを含むQBSF−60培地(Quality Biological社製)5mlを播種し、12日間培養を行った。培養条件は、5%CO2、5%O2、湿度95%とした。培養開始時のCD34陽性細胞の割合は、フローサイトメーター(Becton Dickinson社)を用いて測定したところ、86.1%であった。7日後に細胞培養液を上記培地で8倍に希釈し、参考例2で作製した細胞培養容器8個に戻して培養を継続した。培養開始から12日後に細胞を回収し、血球計算盤およびフローサイトメーターを用いてCD34陽性細胞の細胞増殖率を求めた。その結果、CD34陽性細胞は約54倍に増加したことが明らかとなった。
それに対し、ポリエチレンバッグを用いて同条件でCD34陽性細胞を培養した。ポリエチレンバッグは、(ii)おいてフッ素処理を行わなかったものを用いた。その結果、CD34陽性細胞の細胞増殖率は約38倍であった。これにより、フッ素樹脂層を形成したポリエチレンバッグを用いて培養することで、総細胞数及びCD34陽性細胞数の培養増幅が大幅に改善されることが示された。
本発明の細胞培養方法は、従来の細胞培養容器よりも培地への異物の混入を抑制し、細胞増殖能に優れ、大量培養を可能とする。特に細胞数に限りがある臍帯血造血幹細胞の増殖にその効果を発揮するため、臍帯血バンクネットワークにおける新たな展開が期待できる。
Claims (11)
- 内面にフッ素系樹脂層を有するポリマーフィルムで成型された細胞培養容器中の培地で造血幹細胞を培養することを特徴とする造血幹細胞の培養方法。
- 造血幹細胞が、臍帯血由来のCD34陽性細胞である請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- さらに、サイトカインを培地に添加することを特徴とする請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- サイトカインが、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)、可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)またはIL−6である請求項4に記載の造血幹細胞の培養方法。
- ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、シリカ系ポリマーまたはポリオレフィンである請求項1に記載の造血幹細胞の細胞培養方法。
- フッ素系樹脂層が、ポリマーフィルムで成型された細胞培養容器の内表面において、ポリマーを構成する炭素原子に結合する水素原子の一部がフッ素原子に置換されたことで形成される請求項1に記載の細胞培養容器。
- フッ素系樹脂層が、フッ素系共重合体フィルムである請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- フッ素系共重合体が、テトラフルオロエチレンと、塩化ビニル系、スチレン系、エステル系、シリカ系またはオレフィン系モノマーとの共重合体である請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の酸素透過係数が、約100〜5000cm3/m2・24hr・atmである請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器の二酸化炭素透過係数が、約1000〜20000cm3/m2・24hr・atmである請求項1に記載の造血幹細胞の培養方法。
- 内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器において、以下の工程よりなる造血幹細胞の培養方法:
(a)臍帯血よりCD34陽性細胞を精製する。
(b)細胞濃度が約1×103〜5×104cell/mlの細胞懸濁液を調製する。
(c)内面にフッ素系樹脂層を有する細胞培養容器に、(b)で調製した細胞懸濁液を播種する。
(d)さらに、サイトカインとして幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flk2/Flt3リガンド(FL)、インターロイキン−6(IL−6)または可溶性インターロイキン−6レセプター(sIL−6R)を添加した後、約7〜14日間培養する。
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