近年のインターネットの普及に伴い、光通信網の高速化、大容量化は目覚ましく進んでいる。光伝送容量を増加させる手段として、波長分割多重(WDM:Wavelength Devision Multiplexing)通信方式の導入が活発に行われた。それに伴い、波長依存性の少ない光スイッチが要求され、光信号を電気信号に変換することなくそのままスイッチングする光アドドロップ(OADM:Optical Add/Drop Multiplexing)や、光クロスコネクト(OXC:Optical Cross Connect)の期待が高まった。
それらの基礎的な製造技術として集積化した光マトリクススイッチを一括加工できるMEMS方式が注目されている。MEMS技術を用いると、半導体の集積回路の加工技術を基にした立体的な微細加工により、小型システムを集積化できる。MEMS型光スイッチの光学特性は、導波路型光スイッチに比べ消光比が高く、波長依存性がないといった特徴がある。
また、MEMS技術を用いると、小型高密度、マトリクス構成による大規模化、非閉塞型の光スイッチが実現でき、ミラー角度を自己保持することによって低電力型のものも実現できるため期待されている。
これらを意図した非閉塞型マトリクス光スイッチが提案されている(特許文献1、2参照)。
以下に、その従来技術の光スイッチを説明する。
図7は、従来技術の光スイッチ60の構成を示した斜視図である。
光スイッチ60は、光スイッチ60の構成部材を配置(アライメント)する基板61と、光スイッチ60に信号光70を伝送する光ファイバ62と、光スイッチ60に外部からの信号光70を入力する光入力ポート63と、光入力ポート63から可動ミラー66に平行光としての信号光70を飛ばすためのマイクロレンズ64と、入力した信号光70を反射する複数の可動ミラー66と、MEMS技術を用いて形成した可動ミラー66を支持するミラーベース65と、可動ミラー66を回動させスイッチングさせるために対向して設けられた永久磁石67、67と、スイッチングされた信号光70を外部に出力する光出力ポート68とを備えて構成される。
光入力ポート63、光出力ポート68は、互いに対向して設けられ、それぞれ接続された光ファイバ62及びマイクロレンズ64を固定するためのファイバアレイ69を有している。マイクロレンズ64は、光ファイバ62から入出力された信号光70の経路に設けられ、ファイバアレイ69に接着されている。永久磁石67、67は、可動ミラー66に対して、磁場がかかるように対向して配置されている。
光スイッチ60では、光ファイバ62から入力された信号光70が光入力ポート63に伝送される。光入力ポート63では、光入力ポート63にあるマイクロレンズ64から可動ミラー66に向けて信号光70が空間に出力される。空間に出力された信号光70は、可動ミラー66で反射されて他の可動ミラー66に伝送される。可動ミラー66からの反射光を受けた他の可動ミラー66は、信号光70を反射する。
可動ミラー66と他の可動ミラー66は各々の可動ミラー66がほぼ平行に位置するように、各々を支持しているミラーベース65がほぼ平行して設けられている。永久磁石67、67からの磁場を受けた可動ミラー66は、可動ミラー66周囲に設けられた図示しない微細コイルに流れる電流と永久磁石67、67から受けた磁場との相互作用により発生するローレンツ力により回動し、可動ミラー66の向きが変わる。
光スイッチ60がONに設定されている場合には、他の可動ミラー66で反射された信号光70は、設定された可動ミラー66の向きにより光出力ポート68に出力される。光出力ポート68に出力された光は、光ファイバ62により、光スイッチ60外部に伝送される。
光スイッチ60がOFFに設定されている場合には、他の可動ミラー66で反射された信号光70は、設定された可動ミラー66の向きにより光出力ポート68には向かわず、光出力ポート68には出力されない。
図8は、図7に示した光スイッチ60の可動ミラー66の構造図である。
可動ミラー66は、光を反射するミラー73と、可動ミラー66をX軸の回りに回転させるポリイミド製のトーションバー75と、可動ミラー66をトーションバー75に対して直交するY軸の回りに回転させるポリイミド製のトーションバー72と、図7に示す永久磁石67、67からの磁場を受けるための銅メッキされた微細コイル71と、永久磁石67、67からの磁場を受けるための銅メッキされた他の微細コイル76と、ミラー73をY軸に対して無電力状態で特定の角度に保持するラッチ機構74と、ミラー73をX軸に対して特定の状態に保持する他のラッチ機構77とを備えて構成される。ラッチ機構74、77は、ミラー73を保持する。
可動ミラー66は、2本のポリイミド製のトーションバー75と、トーションバー75とは直交した2本の他のトーションバー72とで図7に示す光スイッチ60のミラーベース65に支持され、トーションバー72、75を軸として回動するジンバル構造を成している。ミラー73は表面がAuの薄膜で覆われており、図7において信号光70を反射するものである。
可動ミラー66の内側に位置するY軸の回りの可動部分は、図7に示す永久磁石67、67による磁場をミラー73の回りを囲むように銅メッキされた微細コイル71によって受け、微細コイル71の受ける磁場の強さや向きに応じて、電流の流れている微細コイル71はローレンツ力を受ける。ローレンツ力を受けた微細コイル71を有する可動ミラー66は、受けたローレンツ力の大きさに応じてトーションバー72(即ち、Y軸)を軸として回動する。
回動した可動ミラー66は、ラッチ機構74により、一定角度に保持される。
可動ミラー66の外側に位置するX軸の回りの可動部分は、図7に示す永久磁石67、67による磁場をミラー73の回りを囲むように銅メッキされた微細コイル76によって受ける。微細コイル76の受ける磁場の大きさや向きに応じて、電流の流れている微細コイル76はローレンツ力を受ける。ローレンツ力を受けた微細コイル76を有する可動ミラー66は、受けたローレンツ力の大きさに応じてトーションバー75(即ち、X軸)を軸として回動する。X軸の回りを回動した可動ミラー66は、ミラーベースに設けられているラッチ機構77により、一定角度に保持される。
可動ミラー66は、ラッチ機構74、77により、光スイッチ60のON、OFF状態が次に変化するまで保持される。
図9は、図7に示した光スイッチ60において図8の可動ミラー66が回動する動作原理を示す説明図である。
図9に示した各部材は、図7、図8で説明したもののうち、動作原理説明に必要なものだけを示してある。永久磁石67、67は、例として極性N、Sを付けて示した。これら永久磁石67、67により、平行な磁場Bが形成されている。
対向した永久磁石67、67の間に発生する磁場Bにおいて、ミラー73の周囲に在る微細コイル71、76に各々電流iを流す。このとき各々の微細コイル71、76に生じるローレンツ力Fは、F=B×iとなる。このローレンツ力Fとトーションバー72、75にローレンツ力Fがかかることによるトーションバー72、75に生じる反力との釣り合いで、ミラー73の回動する角度が決定される。
特開2002−031767号公報
特願2002−140360号
以下、本発明の好適実施の形態を添付図面に従って説明する。
図1は、本発明の好適実施の形態を示す光スイッチ1の構成図であるが、ミラー回動の動作説明に不要な部分は省略して描いている。
光スイッチ1は、外部から入力した信号光をミラー3に照射する図示しない光入力ポートと、入力した信号光を反射するミラー3と、ミラー3を開口部内で回動自在となるよう梁で支持するミラー形成基板8と、ミラー形成基板8を支持し変形することによりミラー形成基板8を回動させる一組の梁2と、ミラー形成基板8を支持し変形することによりミラー形成基板8を回動させる他の一組の梁4と、梁2、4に電流を供給する電源7と、梁2、4に電源7から電流を給電する給電路5と、ミラー3で反射光路を変化させた信号光を受光して外部に出力する図示しない光出力ポートとを備えている。
ミラー形成基板8には、金の薄膜が蒸着され、例えば一辺約500μm角の矩形のミラー3が形成されている。
ミラー形成基板8を支持する梁2、4は、ミラー回動軸29から離して設けられ、ミラー回動軸を29を中心に対になり設けられることにより、梁2、4からのモーメントによりミラー形成基板8がミラー回動軸29の回りを容易に回動することができる。なお、ミラー回動軸29は、ミラー形成基板8の回動中心を示す仮想的なものである。
バイモルフの梁2、4は、熱アクチュエータである。バイモルフ構造の梁2、4は、薄膜形成技術を用いて、poly−Siの層20と、TEOS−CVD(Tetra Ethoxysilane Si(OC2H5OH)4 Chemical Vapor Deposition)によって形成される膜SiO2の層21と、他のpoly−Siの層20との三層構造で構成される。
図中斜線塗りで示した部分の層20は、熱アクチュエータのヒーターの機能を有する。図中網線塗りで示した部分の層21は、図中斜線塗りで示した部分の層20と図中白塗りで示した他の層20との電気的な絶縁を行うと共に、他の層20(図中白塗りで示した部分)との断熱効果をも有している。
図示した光スイッチ1は、ミラー回動軸29に対して平行な2組の梁2、4を有し、各梁2、4がミラー形成基板8を支持し、各梁2、4に給電路5を介して給電した例である。
本実施の形態において図中ミラー回動軸29の手前にミラー回動軸29に平行して設けられた1組の梁4は、図中斜線塗りで示した部分の層20に給電され、発熱する。図中ミラー回動軸29より奥にミラー回動軸29に平行して設けられた対になった1組の梁2は、図中斜線塗りで示した部分の層20に給電され、発熱する。発熱したそれぞれの層20は、発熱により熱膨張を起こす。
poly−Siの熱膨張率は、2.5×10-6/℃であり、SiO2の熱膨張率は、0.35×10-6/℃であることから分かるように、poly−Siの層20と、SiO2の層21とは積層構造材の熱膨張率が大きく異なるために梁2、4は変形する。給電された層20が、層21と比べて著しく熱膨張するため、給電された層20が梁2、4の長手方向に伸びて反ると共に、給電されない層20及び層21を中心とし給電された層20が梁2、4の長手方向に弧を描くように反り、梁2、4の両端は給電されない層20に向かって変形する。
即ち、図示した梁2、4の図中斜線塗りで示した部分の層20に給電した場合には、梁2、4は層20の部分では長手方向に熱膨張する。層20の長手方向の熱膨張により、梁2、4は長手方向の両端が給電されない層20に向かって層法線方向に変形し、梁2、4の長手方向中央部分は給電された層20に向かって層法線方向に変形する。
各々の梁2、4の変形により、梁2、4に支持されたミラー形成基板8は、図中ミラー回動軸29の手前にミラー回動軸29に平行して設けられた対になった1組の梁4の側ではミラー形成基板8の法線方向(図中矢印36で示した方向、すなわちミラー3の法線方向)に向かって力が加わる。
各々の梁2、4の変形により、梁2、4に支持されたミラー形成基板8は、図中ミラー回動軸29より奥にミラー回動軸29に平行して設けられた1組の梁2の側ではミラー形成基板8の法線方向(図中矢印35で示した方向、すなわちミラー3の法線方向)に向かって力が加わる。梁2、4の各々の変形は、ミラー回動軸29を挟んでミラー形成基板8の法線の互いに相対する方向にはたらく。梁2、4の各々の変形は、ミラー形成基板8の法線方向の力としてミラー形成基板8を図示した矢印35、36方向にミラー回動軸29を中心に回動させるモーメントとして働く。
以上、光スイッチ1において、複数本の梁2、4がミラー形成基板8を支持し、各梁2、4が梁の熱膨張係数の差によりミラー3法線方向に変形することによって、ミラー形成基板8がミラー回動軸29の回りを回動することができる。互いに法線の反対方向に変形する2組の各梁2、4が、ミラー回動軸29を挟んで設けられるため、ミラー回動軸29の回りを回動するモーメントが有効にはたらく。
図2は、本発明の他の実施の形態を示す光スイッチ51の構成図であるが、ミラー回動の動作説明に不要な部分は省略して描いている。
例として図示したユニモルフ構造の梁9、18は、薄膜形成技術を用いて、2種類の積層構造材poly−Siの層20と、SiO2の層21との二層構造で構成される。
図示した光スイッチ51は、ミラー回動軸29に対して2組の平行な梁9、18を有し、各梁9、18がユニモルフ構造であり、対になった一組の梁9に給電路5を介して電源7から給電した例である。
図中ミラー回動軸29の手前にミラー回動軸29に平行して設けられた対になった1組の梁18は、給電されずミラー形成基板8を支持するのみに用いられる。図中ミラー回動軸29の奥にミラー回動軸29に平行して設けられた1組の梁9は、図中斜線塗りで示した部分の層20に給電され、発熱する。発熱した層20は、発熱により熱膨張を起こす。即ち、梁9の斜線塗りで示した部分の層20は、熱アクチュエータのためのヒーターとなっている。
poly−Siの熱膨張率は、2.5×10-6/℃であり、SiO2の熱膨張率は、0.35×10-6/℃であることから分かるように、poly−Siの層20と、SiO2の層21とは積層構造材の熱膨張率が大きく異なるために梁9は変形する。給電された層20が、層21と比べて著しく熱膨張するため、給電された層20が梁9の長手方向に伸びて反ると共に、層21を中心とし梁9が長手方向に弧を描くように反り、梁9の長手方向両端は層21に向かって層法線方向に変形し、梁9の長手方向中央部分は給電された層20に向かって層法線方向に変形する。
即ち、図示した梁9の図中斜線塗りで示した部分の層20に給電した場合には、梁9は層20の部分では長手方向に熱膨張する。層20の長手方向の熱膨張により、梁9は長手方向の両端が層21に向かって層法線方向に変形し、梁9の長手方向中央部分は給電された層20に向かって層法線方向に変形する。
各梁9の変形により、梁9、18に支持されたミラー形成基板8は、図中ミラー回動軸29の奥にミラー回動軸29に平行して設けられた1組の梁9の側ではミラー形成基板8の法線方向(図中矢印35で示した方向、すなわちミラー3の法線方向)に向かって力が加わる。
対になった梁9の各々の変形は、ミラー形成基板8の法線方向の力(図中矢印35で示す)としてはたらき、梁18のミラー形成基板8の支持の効果を伴って、梁18若しくはミラー回動軸29を中心に回動させるモーメントとして働く。
梁9のたわみ変形が、後述する梁22、23の低剛性構造部分24、25のねじり変形となり、ミラー形成基板8を矢印35、36方向に回動させることができる。
以上、光スイッチ51においても、光スイッチ1と同じように梁9の変形による回動の効果が得られる。
したがって、光スイッチ1、51において、精度の良いミラー角度を簡単な構造で得ることができる。また、磁気回路等を必要としないので、光スイッチ1、51の形状を小型化でき、コストも低減できるという効果がある。
図3(a)は、梁22の平面図である。
図3(a)に示した梁22は、梁22の一部分に他の部分と比べて変形し易い部分を設けたもの、即ち梁22の一端に剛性を低減させた低剛性構造部分24を設けたものである。低剛性構造部分24は、鉤型に屈曲した2本のアームからなる菱形の中空骨格構造により断面積を小さくし、ねじり変形しやすいように形成されている。梁22は、低剛性構造部分24がミラー形成基板8(ミラー3を含む)に接続され、他端が図示しないミラーベースに取り付けられている。
図3(b)は、梁23の平面図である。
図3(b)に示した梁23は、梁23の一部分に他の部分と比べて変形し易い部分を設けたもの、即ち梁23の一端に低剛性構造部分25を設けたものである。低剛性構造部分25は、細く断面積を小さくし、ねじり変形しやすいように形成されている。梁23は、低剛性構造部分25がミラー形成基板8に接続され、他端が図示しないミラーベースに取り付けられている。
このような構造を形成することは容易であり、低剛性構造部分24、25の材質を他の部分に比べて柔らかい異種材質にするよりも製造プロセスが簡単になる。
低剛性構造部分24、25が他の剛性構造部分に比べて変形しやすいので、梁22、23は容易に変形しねじることができる構造となっている。
図3(a)、(b)の梁22、23においては、ミラー形成基板8に近い端(すなわち、ミラー3(及びミラー形成基板8)と梁22、23を接続する部分)で低剛性構造部分24、25が形成される例を示したが、該低剛性構造部分24、25は梁22、23長手方向のいずれの部分に設けてもよい。
また、この構造は梁22、23が単層、多層を問わず形成可能であるので、上記バイモルフ構造、ユニモルフ構造の梁2、4、9、18のいずれの場合にも適用可能である。
梁の一部分に他の部分と比べて変形し易い部分を設けたこのような梁22、23の形状は、形状の例を示したもので、図示した形状に限定されるものではなく、ねじり変形を起こし易い構造の低剛性構造部分24、25を有する形状であればよい。
また、図3(a)及び図3(b)は、梁22、23長手方向の一部形状を変えることにより梁22、23をねじり易くしたものであるが、形状を変える代わりに梁22、23の長手方向いずれかの部分の材質を他の部分に比べて変形容易な柔軟な材質を用いることにより、低剛性構造部分24、25を実現することも可能である。
低剛性構造部分24、25は、熱アクチュエータに適用した例で説明したが、この構造の適用は熱アクチュエータに限定されるものではない。
また梁2、4、9は、外部から電気エネルギーを供給され、その電気エネルギーの供給に応じて物理的に変形する機能を有する部材であればよく、熱アクチュエータに限られない。例えば、積層構造の圧電部材を用いたアクチュエータでも適用可能である。
図4は、図1、図2に示した光スイッチ1、51のミラー3の回動角度を特定角度で止めるストッパ機構を示す説明図である。
図4の機構は、回動させるミラーの角度位置を決定するために、梁により支持されたミラー形成基板8のミラーを形成した面に対して対向する側に所定のミラーの角度でミラー形成基板が接するように段差部32a、32bを形成し、その段差部32a、32bにミラー形成基板8を押し当ててとめることで角度を決定する構造となっている。
図示した構成は、ミラーが形成されたミラー形成基板8と、ミラー形成基板8が回動するためのミラー回動軸29と、ミラー形成基板8を特定の回動角度で止めるストッパの機能を有する段差部32a、32bと、段差部32a、32bを形成した下部基板31とを備えている。なお、ミラー回動軸29は、図1、図2で説明したように、仮想的なものであってもよい。
図中の一点鎖線で示したミラー形成基板8は、ミラー形成基板8の回動する前の状態にあり、図中の実線で示したミラー形成基板8は、ミラー形成基板8が回動した後に特定角度でストッパとしての段差部32bに当たり止まった状態にある。
図1、図2に示した光スイッチ1、51において、ミラー形成基板8が梁2、4、9の変形に応じて回動したと想定する。即ち、図4に示したミラー形成基板8が、ミラー回動軸29を中心に時計方向(図示した矢印37の方向)に回動する。回動したミラー形成基板8は、下部基板31に設けられた段差部32bに当たることでミラー形成基板8の回動角度が決まる。回動の動作精度に関わりなく、ミラー形成基板8に角度決めのための段差部32bに当たるのに充分な回動が与えられればよく、これはモーメント力が図1、図2に示した梁2、4、9の変形により充分に与えられることである。
段差部32bに当たったミラー形成基板8は、段差部32bに当たった回動角度で静止する。このミラー形成基板8が静止した状態は、光スイッチ1、51のON、OFFいずれかに対応する。ここでは、仮にミラー形成基板8が段差部32bに当たって静止した実線状態が光スイッチ1、51のON状態であるとすると、ミラー形成基板8が段差部32bに当たっていることにより光スイッチ1、51のON状態が保持されようとする。
梁の変形が元に戻ると、ミラー形成基板8は一点鎖線で示した回動前の角度に戻り段差部32aに当たり、光スイッチ1、51の状態がOFF状態に戻ることになる。
以上のように、ミラー形成基板8が回動し、下部基板31に設けられた段差部32a、32bによりミラー形成基板8が静止することにより、ミラー形成基板8の角度を精度良く決定できるという効果を発揮する。
図5(a)は、以上述べた光スイッチ1、51の実施の形態を示す斜視図である。
光スイッチ1、51は、ミラーが形成されたミラーベース30と、ミラーベース30を支持する下部基板31とを備えて構成される。
図5(b)は、図5(a)に示した光スイッチ1、51のミラーベース30と、ミラーベース30を支持する下部基板31とを分離した斜視図である。
ミラーベース30は、入力された信号光を反射するミラー13と、ミラー13の形成基板である内側可動部14と、内側可動部14を支持する梁2、4と、回動したミラー13を所定の回動角度に無電力状態でも保持する内側可動部14のためのラッチ機構16と、内側可動部14とは直交する方向に回動する外側可動部17と、外側可動部17を支持する梁11、12と、回動したミラー13を所定の回動角度に無電力状態でも保持する外側可動部17のためのラッチ機構19とを備えて構成される。
ミラー13は、互いに直交する2軸回りに回動するように、梁2、4、11、12により支持されている。内側可動部14は、外側可動部17に2対のモルフ構造の梁2、4により支持されている。外側可動部17は、ミラーベース30に設けられた2対のモルフ構造の梁11、12により支持されている。
下部基板31は、ミラーベース30を支持する支柱33と、ミラー13を特定角度で止めるストッパの役割を有する内側可動部14のための段差部32a、32bと、ミラー13を特定角度で止めるストッパの役割を有する外側可動部17のための段差部34a、34bとを備えて構成される。内側可動部14のための段差部32a、32bは、梁2、4の長手方向に平行して2箇所に、外側可動部17のための段差部34a、34bは梁11、12の長手方向に平行して2箇所の計4箇所に設けられている。図示したように段差部32a、32b、34a、34bは、各ミラー回動軸(図示せず)に平行に設けられている。
光スイッチ1、51は、梁2、4が変形することにより内側可動部14が回動し、梁11、12が変形することにより外側可動部17が回動する。この回動により、内側可動部14及び外側可動部17が、それぞれ下部基板31に設けられた段差部32a、32b、34a、34bに当たるので、目的の回動角度に調整され、静止する。静止した内側可動部14は、内側可動部14のための2対のラッチ機構16により挟み込まれラッチされる。外側可動部17は、外側可動部17のための2対のラッチ機構19により挟み込まれラッチされる。
ここで、内側可動部14及び外側可動部17をラッチする仕組みを詳細に記す。
図6(a)に、ミラーベース30のミラー13周辺部の部分拡大図を示す。
図6(b)に、ミラー13がラッチされた状態を示す部分拡大図を示す。
図6(a)、図6(b)では、図5(b)に示した外側可動部17のためのラッチ機構19等は、説明の簡単のため図示していない。
ラッチ機構16a、16bのミラー13側は、ミラー13から離れた側と比べて、細くなっている。略片仮名のコの字形状の溝孔26の支持枠としての機能も有する外側可動部17側には収縮性樹脂としてポリイミド27が充填されている。
図6(b)に示すように光スイッチ1、51の製造中にポリイミド27は乾燥固化するが、乾燥のときのポリイミド27に含まれている揮発性物質の揮発により、ポリイミド27が矢印59方向に収縮する。このポリイミド27の収縮により一対のラッチ機構16a、16bがミラー13側に図示した矢印83、84(図6(a)参照)方向に歪む。このラッチ機構16a、16bの歪により、ラッチ機構16a、16bは、内側可動部14を挟む。このラッチ機構16a、16bの歪が、光スイッチ1の無電力状態である場合の所定の形状即ちラッチ機構16a、16bの初期位置となり、内側可動部14をラッチした状態となっている。即ち、無電力状態で内側可動部14を固定、保持することができる。
内側可動部14を挟んで固定、保持した状態の無電力状態の光スイッチ1、51に給電すると、ラッチ機構16a、16bの先端が細くなっているため太い部分に比べて抵抗値が高くなっている。抵抗値が高い先端部分は、他の部分に比べて同じ電流が流れた場合も発熱量が多く、ラッチ機構16a、16bの細くなった先端部の温度が上昇する。この温度が上昇したラッチ機構16a、16bの先端部と他の太い部分との温度差により、ラッチ機構16a、16bの細くなった先端部が他の太い部分よりも熱膨張する。このラッチ機構16a、16bの細くなった先端部の熱膨張に依り、ラッチ機構16a、16bの先端部は他の太い方へ、即ちミラー13から離れる方向(図示した矢印88、89)に変位する。このラッチ機構16a、16bの先端部の変位の結果、ラッチ機構16a、16bに挟まれていた内側可動部14の固定、保持状態が解除される。即ちラッチされる前の状態である、図6(a)で示される状態となる。
尚、説明したラッチ機構16a、16bは、ラッチ機構16a、16bに給電されない無電力状態において、ミラー13をラッチする。光スイッチ1、51の状態がONからOFFに遷移する場合や、光スイッチ1、51の状態がOFFからONに遷移する場合には、遷移の前に一旦ミラー13のラッチを解除し、光スイッチ1、51の状態遷移が終了したら再びミラー13をラッチするための制御を行うことが必要である。このラッチ解除、再ラッチのための制御は、梁2、4、9に電流を流すタイミングと合わせて行うことで容易に実施可能である。