本発明は、含フッ素エステル化合物、この化合物を用いた磁気記録媒体等に好適な潤滑剤、及び記録媒体に関するものである。
磁気記録の分野、特にハードディスクのバックアップ用のデータカートリッジやデジタルビデオレコーダー等においては、一層の高容量記録化に伴う長時間記録化が要求されている。
上記のデータカートリッジにおいては、一般にヘリカルスキャン方式による記録再生が適用されている。ところが、ヘリカルスキャン方式では、磁性層表面と磁気ヘッドが高速で摺動するために、磁気テープ走行時に磁気ヘッド表面は高温となり、磁気ヘッドの表面に焼き付き物が生成しやすくなる傾向がある。そして、長時間記録化に伴い、摺動時間を長く、或いはスキャンスピードを速くすると、より磁気ヘッドの表面上に焼き付き物を生成しやすくなる。
特に、高温低湿のような環境下では磁気テープの研磨力が減少するため、トライボロジカルに(摩擦によって)生成した金属酸化物等が焼き付きを起こしたとき、この焼き付き物等が研磨されずに磁気ヘッド表面に蓄積されてしまう。そして、この蓄積された焼き付き物等によって磁気テープと磁気ヘッド間に隙間(スペーシング)が生じ、所定の信号出力が得られなくなるという問題が発生する。
現在、電磁変換特性を向上させ、スペーシングロスを減少させるために、テープ表面性を向上させる手法が用いられており、磁気テープと磁気ヘッドとの摩擦は一層高くなる傾向にある。しかし、この傾向は、上述した磁気ヘッド表面への焼き付き物の生成を促進するものである。
そこで、磁気ヘッドへの焼き付き物を発生させないために、磁気テープに保持させる潤滑剤の量を多くして摩擦を低減させる試みがなされたり、アスコルビン酸誘導体のような還元剤を酸化防止剤として磁気テープに添加させる試みがなされたりしてきた。
また、金属磁性薄膜からなる磁性層上に、上述のような化合物を防錆剤として塗布し、ヘッドの焼き付きを防止する試みが提案されている。しかしながら、磁気テープに酸化防止剤や潤滑剤を保持させても、一度生成された焼き付き物を除去することはできない。
一方、一度生成した焼き付き物を除去するため、物理的に磁気ヘッドを研磨するクリーニングテープを用いたり、磁気ヘッドを逐次研磨するクリーニングロールメカニズムをシステム内に取り付ける方法も検討されてきた。例えば、ポリエステルベースフィルム等の基体上に、モース硬度が8以上のα−Al2O3粉末やCr2O3粉末等の研磨粒子を結合剤樹脂によって結着させたクリーニングテープが提案されている(例えば、後記の特許文献1参照。)。しかしながら、このような物理的方法で用いられる研磨粒子は、硬度が極めて高いため研磨性には優れるものの、磁気ヘッドから焼き付き物を除去する際に、磁気ヘッド自体も摩耗、損傷させてしまう。
これに対して、研磨粒子の粒子径を制御することで磁気ヘッドの摩耗を抑えることが提案されている(例えば、後記の特許文献2参照。)。しかしながら、研磨粒子の粒子径をいくら制御しても、硬度の高いα−Al2O3粉末やCr2O3粉末を用いる以上、磁気ヘッドの摩耗、損傷は避けられない。
さらに、オキシム誘導体を含有する焼き付き防止剤を媒体に含有させることで、磁気ヘッドの焼き付き物を取り除く方法が提案されている(例えば、後記の特許文献3参照。)。しかしながら、焼き付き防止剤そのものには潤滑性能がないため、大量に用いると、テープの潤滑性が損なわれ、却って焼き付き物の発生を促進してしまう恐れがあった。
特開昭57−208626号公報(第3欄20行目〜第5欄5行目)
特公平8−001695号公報(第2頁3欄16行目〜第3頁5欄4行目)
特開2001−291228号広報(第5頁7欄16行目〜第6頁9欄9行目)
上述したように、磁気ヘッドに付着した焼き付き物に対しては、媒体側又はクリーニングテープ側から様々な対策が講じられているものの、いずれも十分に満足のいくものとは言えず、更なる検討が望まれている。
そこで本発明は、かかる従来の実情に鑑みてなされたものであり、長時間記録化を図るために、摺動時間を長く、或いはスキャンスピードを速くしても、磁気ヘッドに焼き付き物を蓄積させず、スペーシングロスを抑え、エラーレートの上昇を防止できる磁気記録媒体を提供することにある。
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される、含フッ素エステル化合物に係るものである。
また、本発明の含フッ素エステル化合物からなる、潤滑剤に係るものである。
さらに、記録層上又は/及び記録層内に、本発明の含フッ素エステル化合物からなる潤滑剤が保有される、記録媒体に係るものである。
本発明の含フッ素エステル化合物は、分子中の窒素原子と炭素原子との結合部位を有するので、この結合部位で前記記録層やその保護膜(例えばカーボン膜)に強く結合することができると共に、金属原子との間で錯体形成反応が生じて錯体を形成する。
また、一方の末端に前記R1を有しかつ他方の末端に前記Rfを有するので、表面エネルギーを低減して良好な潤滑特性を発現することができる。さらに、2つのエステル部位を有するので、前記記録層やその保護膜(例えばカーボン膜)により強く結合することができる。
これにより、前記含フッ素エステル化合物からなる前記潤滑剤が前記記録層やその保護膜に保有されると、前記含フッ素エステル化合物分子は、窒素原子と炭素原子との結合部位で強力に前記記録層又は記録材料やその保護膜に結合すると共に、金属酸化物との間で錯体形成反応を生じ、錯体を形成する。また、前記R1及び前記Rfが、高い潤滑作用を発現する疎水性基層を表面側に形成する。従って、前記潤滑剤は、前記記録層又は記録材料やその保護膜に強固に保持され、特に低温・低湿のような過酷な環境下でも、上述したような金属酸化物からなる焼き付き物を磁気ヘッド表面から容易に離脱して取り除くことができ、十分な潤滑効果を長期間保持することができる。
本発明の含フッ素エステル化合物は新規物質であり、この物質からなる潤滑剤を記録媒体用の潤滑剤、例えば磁気記録媒体用の潤滑剤として用いると、各種使用条件下において優れた潤滑性が保たれると共に、長時間にわたり潤滑効果が持続され、優れた走行性、耐摩耗性、耐久性等を有し、かつ磁気ヘッドに焼き付き物が蓄積することがなくなるため、スペーシングロスによる出力低下が防止され、エラーレートを低く抑えることが可能な記録媒体を提供することができる。
前記一般式(1)において、前記R1で表される脂肪族アルキル基又は脂肪族アルケニル基の炭素数が6〜30であることが好ましく、10〜21であることがより好ましい。これにより、溶媒への溶解性がより良好となり、摩擦係数の低下効果、摩耗特性及び耐久性の向上効果がより確実に現れる。炭素数が6未満の場合、アルキル基又はアルケニル基長が短すぎて、摩擦係数の低下、摩耗特性及び耐久性の向上という効果が現れない場合がある。一方、炭素数が30を越える場合、溶媒への溶解性が小さくなり、均一な層、例えば潤滑剤層の形成が困難となる場合がある。
前記Rfは、水素、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、及びこれらで置換された飽和若しくは不飽和のフッ化炭素基又は部分フッ化炭化水素基である。
また、前記Rfがフルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基であり、その炭素数が4〜30であることが好ましく、4〜21であることがより好ましい。これにより、溶媒への溶解性がより良好となり、摩擦係数の低下効果、摩耗特性及び耐久性の向上効果がより確実に現れる。炭素数が4未満の場合、フルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基長が短すぎて、摩擦特性の低下、摩耗特性及び耐久性の向上という効果が現れない場合がある。一方、炭素数が30を越える場合、溶媒への溶解性が小さくなり、均一な層、例えば潤滑剤層の形成が困難となる場合がある。
また、前記Rfがフルオロポリエーテル基であってもよく、この場合、その平均分子量は特に限定されないが、実用的には500〜3000であることが好ましく、500〜2000がより好ましい。フルオロポリエーテル基の分子量が大きくなりすぎると、末端の窒素原子と炭素原子との結合部位が前記記録層やその保護膜(例えばカーボン膜)に吸着する効果が小さくなることがある。また、フロン以外の溶媒、例えばエタノールなどの汎用溶媒に溶解し難くなる。逆に、フルオロポリエーテル基の分子量が小さすぎると、フルオロポリエーテル鎖による潤滑効果が低下することがある。
また、前記R2及びR3がアルキル基、アリール基又は複素芳香族基であり、その炭素数が合わせて14以下であることが好ましく、より好ましくは12以下である。炭素数が15以上になると、その大きさのために立体障害を発生して潤滑剤の前記記録層やその保護膜(例えばカーボン膜)への吸着を妨げ、性能を発揮できない恐れがある。
前記一般式(1)で表される本発明の含フッ素エステル化合物は、いかなる方法で合成されたものであってもよい。例えば次のようにして合成できる。
即ち、前記一般式(1)で表される化合物は、前記Rfを含む酸クロライド化合物とオキシム化合物とを混合した後、下記の縮合反応によって合成する。
なお、上記の反応式において、a、R1、Rf、R2及びR3はそれぞれ、上述したと同様である。
前述したように、前記一般式(1)で表される含フッ素エステル化合物からなる潤滑剤は記録媒体用潤滑剤であるのがよく、とりわけ、前記記録媒体が磁性層を有する磁気記録媒体であり、前記潤滑剤が前記磁性層上又は/及び内に保有されているのがよい。
特に、前記磁性層上に保護層として配されたカーボン膜層上に前記含フッ素エステル化合物を潤滑剤として塗布すると、前記カーボン膜層上に潤滑剤分子の窒素原子と炭素原子との結合部位が吸着され、耐久性の良好な潤滑剤層を形成することができる。また、前記結合部位が金属酸化物と錯体形成反応を生じ、磁気ヘッド表面から容易に離脱することができる錯体を形成する。これにより、磁気ヘッドから金属酸化物を取り除くことができ、特に低温・低湿のような過酷な環境下でも、磁気ヘッド上に焼き付き物が蓄積するのを効果的に防止することができる。従って、スペーシングロスによる出力低下が効果的に防止され、エラーレートを低く抑えることが可能となる。
また、前記含フッ素エステル化合物分子の一方の末端に結合した前記R1及び他方の末端の前記Rfによって、良好な潤滑特性を長時間維持することができる。
また、本発明の記録媒体は、前記潤滑剤を含む層を何らかの形で備えるものである。例えば、前記記録媒体が磁気記録媒体である場合、強磁性金属材料を蒸着等により非磁性支持体上に被着し、これを磁性層とした、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体や、若しくは非常に微細な磁性粒子と樹脂結合剤とを含む磁性塗料を非磁性支持体上に塗布し、これを磁性層とした、いわゆる塗布型の磁気記録媒体等である。これらにおいて、前記潤滑剤を含む層は、前記磁気記録媒体の表面をコーティングする層であってもよいし、前記磁性層に内添されていてもよい。
なお、前記潤滑剤には必要に応じて各種添加剤、例えば防錆剤を配合することもできる。前記防錆剤としては、従来の磁気記録媒体に使用されているものを用いることができ、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
前記防錆剤を用いる場合、前記潤滑剤と複合して用いてもよいが、カーボン膜層上に前記防錆剤を塗布した後、前記潤滑剤を塗布して2層以上設けるようにすれば、防錆効果が高まり好ましい。
この際、前記非磁性支持体は、特に制限されるものではなく、公知のものを採用することができる。例えば、プラスチックフィルムのようなフレキシブル基板であっても、ガラス等の剛体基板であってもよい。非磁性支持体としてアルミニウム合金板やガラス板等の剛性を有する基板を使用した場合には、基板表面にアルマイト処理等の酸化皮膜やニッケル−リン皮膜等を形成してその表面を硬くするようにしてもよい。また、必要に応じて非磁性支持体と磁性層との間に下地層を形成してもよい。
本発明の含フッ素エステル化合物は、上記のように前記記録媒体、なかでも前記磁気記録媒体用の前記潤滑剤として用いるのが好ましい。しかし前記潤滑剤は前記磁気記録媒体に限らず、光記録媒体にも適用でき、またその支持体もテープに限らず、磁気ディスクや光ディスクのようなディスク媒体等の記録媒体にも用いることができる。
以下、前記潤滑剤を磁気記録媒体用の潤滑剤として使用する場合を例にとり、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下により具体的に詳細に説明する。
図1は、金属薄膜型磁気記録媒体5の概略断面図である。この磁気記録媒体5では、非磁性支持体2の上に、少なくとも、蒸着等の手法により形成された金属磁性薄膜からなる磁性層3、カーボン膜層4及び前記含フッ素エステル化合物を含む潤滑剤層1が、順次形成されている。また、必要に応じて非磁性支持体と磁性層との間に下地層を形成してもよい。
非磁性支持体2は、特に制限されるものではなく、公知のものを採用することができ、例えば、プラスチックフィルムのようなフレキシブル基板であっても、ガラス等の剛体基板であってもよく、表面の硬化処理等がなされていてもよい。
磁性層3を構成する金属磁性薄膜も特に制限されるものではなく、公知のものを採用することができる。例えば、メッキや、スパッタリングや、真空蒸着等の手法により連続膜として形成されるもので、例えばFe、Co、Ni等の金属やCo−Ni系合金、Co−Pt系合金、Co−Pt−Ni系合金、Fe−Co系合金、Fe−Ni系合金、Fe−Co−Ni系合金、Fe−Ni−B系合金、Fe−Co−B系合金、Fe−Co−Ni−B系合金等からなる面内磁化記録金属磁性薄膜や、Co−Cr系合金磁性薄膜等が挙げられる。
特に、面内磁化記録金属磁性薄膜を採用する場合、予め非磁性支持体2上にBi、Sb、Pb、Sn、Ga、In、Ge、Si、Tl等の低融点非磁性材料の下地層を形成しておき、その上に前記金属類を下地層に対し垂直方向から蒸着或いはスパッタリングし、金属磁性薄膜中にこれら低融点非磁性材料を拡散し、配向性を解消して面内等方性を確保すると共に抗磁性を向上するようにしてもよい。
強磁性金属材料を蒸着等の手法により非磁性支持体2上に被着した磁性層3は、磁性材料の堆積によって形成されており、また、その磁性層3中に結合剤を使用していないため、その摺動動作に対して脆弱であり、これを補うためにカーボン膜等の保護膜層4が設けられている。
保護膜層4として、カーボン膜以外に、例えば、酸化シリコン(SiO2)膜やジルコニア(ZrO2)膜等を用いてもよい。また、潤滑剤層1は、カーボン膜層4の上に塗布することが望ましいが、金属磁性薄膜からなる磁性層3の上に直接的或いは間接的に塗布してもよい。
カーボン膜層4の形成方法としては、スパッタリングが一般的であるが特に制限するものではなく、公知のいずれの方法、例えば炭化水素ガスを用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法等も採用可能である。カーボン膜層4の膜厚は、2〜100nmが好ましく、さらに好ましくは5〜30nmである。なお、カーボン膜は、硬質炭素膜或いはダイヤモンドライクカーボンと称される、ダイヤモンド構造やグラファイト構造が混在しているアモルファスな炭素膜であってよい。
潤滑剤層1は、カーボン膜層4の上に本発明の含フッ素エステル化合物を含む潤滑剤を常法によりトップコートすることにより形成可能である。
なお、金属蒸着型の磁気記録媒体(例えばテープ、ハードディスクなど)の表面に、上記の潤滑剤を塗布する場合、その塗布量としては、磁性層1m2あたり0.1mg〜5g以下が望ましい。塗布量が上述の範囲よりも少ないと、磁気ヘッドの焼き付きを抑える効果が不十分となり易く、上述の範囲より多いと、摺動部材に移着した潤滑剤と潤滑剤層1との間での凝着や、摺動部材と磁性層3との間での貼り付きが起こり、却って走行性が悪くなることがある。また、潤滑剤塗料の塗布量が多すぎる場合、潤滑剤が媒体表面に析出したり、潤滑剤がヘッドに付着してヘッドが汚染され、磁気記録媒体の走行性が低下したりすることがある。
本発明に基づく潤滑剤は、このように保護膜層4上に極めて薄く塗布することが可能であり、かつ、この場合にも十分な潤滑特性が発揮され、また、長期間の使用に耐え得る潤滑効果を持続することができる。
図2は、塗布型の磁気記録媒体15の概略断面図である。この磁気記録媒体15では、非磁性支持体12の上に、微細な磁性粒子と樹脂結合剤とを含む磁性塗料を塗布し、これを磁性層13としている。
塗布型の場合、前記潤滑剤を磁性粉末と結合剤とからなる磁性層13の中に所定量含有させる内添型にしてもよい。また、磁性層13の表面上に、保護膜を介して、若しくは介さずに、薄膜型と同様、前記潤滑剤をコーティングした潤滑剤層11(図2中、仮想線である点線で示した。)を形成してもよい。塗布型の磁気記録媒体15の磁性層13に前記潤滑剤を含有させる場合、その含有量は、磁性粉末100重量部に対し、0.5〜10重量部が望ましい。
前記磁性粒子は、強磁性粉末であることが好ましく、例えば、γ−Fe2O3、Co含有のγ−Fe2O3、Co被着γ−Fe2O3、CrO2、マグネタイトに代表されるフェライト類などの酸化物磁性粉末、また例えば、Fe−Al系、Fe−Al−Ni系、Fe−Al−Ca系、Fe−Al−Co系、Fe−Al−Zn系、Fe−Ni系、Fe−Ni−Si−Al−Mn系、Fe−Ni−Si−Al−Zn系、Fe−Mn−Zn系、Ni−Co系の合金粉末のように、Fe、Co、Niなどを主成分とする金属磁性粉末等が使用できる。
また、前記結合剤は、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系共重合体等の塩化ビニル系樹脂などが代表的である。また、これらの結合剤樹脂に対する磁性粉末の分散性を向上させる目的から、これら樹脂は、−SO3M、−OSO3M、−COOM、−PO(OM’)2(但し、Mは、Na、K、Li等のアルカリ金属であり、M’は、水素原子又はアルカリ金属、アルキル基である。)及びスルホペタイン基から選ばれる少なくとも1種の極性基を繰り返し単位として含有していることが望ましい。
また、結合剤と磁性粉末とからなる磁性層13には、例えば、研磨剤、潤滑剤、硬化剤、帯電防止剤等の公知の添加剤が含有されていてもよい。
また、上述した金属磁性薄膜型の磁気記録媒体及び塗布型の磁気記録媒体に用いる非磁性支持体2、12は、公知の材料を適宜使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロース誘導体類、ポリアラミド等のアラミド樹脂、ポリカーボネート等のプラスチック類などが挙げられる。
これらの非磁性支持体は単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。また、コロナ放電処理等が施されていてもよい。さらに、フィルム状、シート状、ディスク状、カード状など任意の形状に形成できる。
また、非磁性支持体12の磁性層13が設けられていない側の面にバックコート層14を設けてもよい。このバックコート層14は通常の方法に準じて成膜することができる。
図3は、ディスク形状のフレキシブルな非磁性支持体22の両面に、強磁性金属薄膜からなる磁性層23、カーボン膜等からなる保護膜24、そして潤滑剤層21を順次形成した磁気記録媒体25である。この場合も、磁性層23を塗布で形成し、潤滑剤を磁性層23に内添することもできる。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記例に何ら限定されるものではない。
まず、下記表1に示す化合物1−1〜1−5を下記のようにして合成した。
化合物1−1の合成
10.9gの2−ブタノン−オキシムCH3C(=NOH)CH2CH3と、104gのフッ化酸クロライドH(CH2)8CH((CH2)9H)CH(COOCl)CH2COO−(CH2)2(CF2)8Fをテトラヒドロフラン500mLで混合し、3時間、還流して反応させた。
反応終了後、テトラヒドロフランを除去し、トルエン500mlに反応物を溶解させ、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル20%+トルエン80%)を用いて目的物を分取した。最後に溶媒を除去して72gの回収物を得た。収率は約30%であった。生成物を赤外吸収スペクトル(IR)法で分析したところ、図4に示す結果を得、原料由来のピーク(1700cm-1)の消失を確認した。なお、図4において、1300cm-1付近のピークはC−F結合に由来し、1620cm-1付近のピークはアルジミンに由来し、1700〜1800cm-1付近のピークはC=O結合に由来し、2800〜2900cm-1付近のピークはC−H結合に由来している。また、LCMS分析(liquid chromatography mass spectrometry:液体クロマトフラフィー質量分析)を行ったところ、図5に示す結果を得た。これらの結果から、生成物が構造式H(CH2)8CH((CH2)9H)CH(COONC(CH3)(CH2)2H)CH2COO−(CH2)2(CF2)8Fで表される化合物であることが判明した。これを化合物1−1とする。
なお、上記の例と同様の手法によって、上記表1の化合物1−2〜1−5の本発明に基づく含フッ素エステル化合物を合成することができた。なお、前記一般式(1)における前記Rfが分子量分布を持つものについては、その平均分子量で計算した。
また、前記一般式(1)で表される含フッ素エステル化合物以外の潤滑剤として、化合物2−1、2−2、2−3、2−4、2−5を合成した。さらに、前記一般式(1)で表される化合物であるが、前記R1に相当する脂肪族アルキル基の炭素数が40であり、30を超える化合物を合成し、化合物2−6とした。また、前記一般式(1)で表される化合物であるが、前記R1に相当する脂肪族アルキル基の炭素数が4であり、6より小さい化合物を合成し、化合物2−7とした。また、前記一般式(1)で表される化合物であるが、前記Rfに相当するフルオロアルキル基の炭素数が2であり、4よりも小さい化合物を合成し、化合物2−8とした。また、前記一般式(1)で表される化合物であるが、前記R2、前記R3に相当する基の炭素数が合わせて15であり、14よりも大きい化合物を合成し、化合物2−9とした。下記表2に化合物2−1〜2−9の構造を併せて示す。
サンプルテープの作製
6.3μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、コバルト(Co)を蒸着し、膜厚60nmの金属磁性薄膜からなる磁性層を形成した。次いでCVD装置を用いて、磁性層上に約10nmの厚さのカーボン膜層を形成した。
次に、ポリエチレンテレフタレートフィルムの磁性層が形成された面と反対側の面に、カーボン及びポリウレタン樹脂からなる厚さ0.5μm厚のバックコート層を形成した。
続いて、上記表1又は上記表2で表される化合物をイソプロピルアルコールに溶解し、カーボン膜層の表面に化合物の塗布量が1mg/m2となるように塗布し、更にバックコート層の表面に塗布量が3mg/m2となるように塗布した。得られた磁気記録媒体を8mm幅に裁断してサンプルテープとした。
<耐久性及び走行性の評価>
上記のようにして作製された各サンプルテープを用い、温度40℃、相対湿度80%の条件下で摩擦係数と、温度−5℃、又は温度40℃、相対湿度20%の条件下でのシャトル耐久性とをそれぞれ下記のようにして測定した。評価結果を下記表3に併せて示す。なお、本実施例のこれらの条件は、最も厳しい使用条件と考えられる。
(1)摩擦係数測定方法
摩擦係数の測定は、恒温槽内の雰囲気を温度40℃、相対湿度80%に制御して、この恒温槽内でサンプルテープを摩擦係数測定器に1000回走行させて測定した。摩擦係数のランク付けは、0.24%以下を◎、0.24%より大きく0.29%以下を○、0.29%より大きく0.35%以下を△、0.35%より大きいものを×とした。
(2)シャトル耐久性測定方法
シャトル耐久性は、恒温槽内の雰囲気を温度40℃、又は温度−5℃、相対湿度20%に制御して、この恒温槽内で長さ230mのサンプルテープをPlayモードで100回走行させ、100回走行後にその再生出力が初期出力から何dB落ちるかを測定した。シャトル耐久性のランク付けは、1dB未満の減少を◎、1dB以上2dB未満の減少を○、2dB以上3dB未満の減少を△、3dB以上の減少を×とした。なお、この測定には、市販のAIT2デッキ(ソニー株式会社製;商品名SDX−S500C)を使用した。
上記表3より明らかなように、化合物1−1〜1−5のような本発明に基づく含フッ素エステル化合物を磁気記録媒体用の潤滑剤として用いることにより、高温多湿、高温低湿或いは低温等の様々な使用条件下においても、摩擦係数及びシャトル耐久性の劣化が極めて少なという非常に良好な結果が得られることが分かる。
即ち、前記一般式(1)で表される本発明に基づく含フッ素エステル化合物を潤滑剤として用いれば、含フッ素エステル分子の窒素原子と炭素原子との結合部位が前記磁性層及び前記保護層に強く結合し、耐久性の良好な潤滑剤層を形成することができた。また、前記結合部位が金属酸化物と錯体形成反応を生じ、磁気ヘッド表面から容易に離脱することができる錯体を形成する。これにより、磁気ヘッドから金属酸化物を取り除くことができ、特に低温・低湿のような過酷な環境下でも、磁気ヘッド上に焼き付き物が蓄積するのを効果的に防止することができた。従って、スペーシングロスによる出力低下が効果的に防止され、エラーレートを低く抑えることが可能となった。
一方、前記一般式(1)で表される構造を持たない化合物を潤滑剤を使用した例6〜10や、前記一般式(1)で表される構造を持つものの、その炭素数が上述した好ましいとする範囲から外れていた場合(例11〜14)では、良好な結果を得ることができなかった。
詳述すれば、例6では化合物2−1が、前記一般式(1)で表される化合物と異なって、分子中にフッ素原子を含有しないため、特にシャトル耐久性が悪かった。例7では化合物2−2が、前記一般式(1)における前記R1に相当するアルキル基を含有しないため、特に摩擦係数が高く、またシャトル耐久性も悪かった。例8では化合物2−3が、前記一般式(1)で表される化合物と異なって窒素原子と炭素原子との結合部位を有しないため、特に低温雰囲気下におけるシャトル耐久性が悪かった。
例9及び例10では、前記一般式(1)で示される化合物とは全く異なる構造を有する化合物を用いて潤滑剤層を形成したために、摩擦係数が極めて高く、磁気テープがガイドに貼り付いて、100回のシャトル走行が不可能であった。
さらに、例11では、化合物2−6が、前記一般式(1)における前記R1に相当するアルキル鎖が長かったため、潤滑剤が溶媒に溶け難くなり、サンプルテープの作製が困難な場合があった。例12では、化合物2−7が、前記一般式(1)における前記R1に相当するアルキル鎖が短かったため、摩擦係数が高くなり易く、優れた走行性を得られ難かった。例13では、化合物2−8が、前記一般式(1)における前記Rfに相当するフルオロアルキル基の炭素数が小さかったため、優れた走行性を得られない場合があった。例14では、化合物2−9が、前記一般式(1)における前記R2及び前記R3に相当するアルキル基の炭素数の合計が大きかったため、化合物が適切に保護膜に吸着し難く、シャトル耐久性が悪くなる場合があった。
以上、本発明を実施の形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
本発明の含フッ素エステル化合物は、特に磁気記録媒体用の潤滑剤として有用である。また、記録媒体の潤滑剤として本発明の含フッ素エステル化合物を用いれば、分子中の窒素原子と炭素原子の結合部位が金属酸化物と錯体形成反応を生じ、磁気ヘッド表面から容易に離脱することができる錯体を形成するので、磁気ヘッドから金属酸化物を取り除くことができ、特に低温・低湿のような過酷な環境下でも、磁気ヘッド上に焼き付き物が蓄積するのを効果的に防止することができる。また、各種使用条件下において優れた潤滑性が保たれ、長時間にわたり潤滑効果が持続され、優れた走行性、耐摩耗性、耐久性、保存性等を提供することのできる記録媒体が得られる。
本発明の実施の形態による、金属薄膜型の磁気記録媒体の概略断面図である。
同、塗布型の磁気記録媒体の概略断面図である。
同、ディスク状の磁気記録媒体の概略断面図である。
本発明の実施例による、含フッ素エステル化合物(化合物1−1)の赤外光吸収スペクトルを示すグラフである。
同、含フッ素エステル化合物(化合物1−1)のLCMS分析結果を示すグラフである。
符号の説明
1、11、21…潤滑剤層、2、12、22…非磁性支持体、
3、13、23…磁性層、4…カーボン膜層、5、15、25…磁気記録媒体、
14…バックコート層、24…保護膜