JP2005246398A - エレクトロスラグ溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接する際に、靭性に優れた溶接金属を得るための溶接方法を提案する。
【解決手段】 C:0.02〜0.30 mass%、Si:0.05〜1.80 mass%、Mn:0.5〜3.5 mass%、Al:0.005〜0.035 mass%、Ni:1.0〜5.0 mass%、Mo:0.05〜2.5 mass%、Ti:0.05 mass%以下、N:0.010 mass%以下、O:0.010 mass%以下を含有し、必要に応じてB、Cr、V、Nbを含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有する溶接ワイヤと、下記(1)式で表される塩基度BLKが、0.5超の溶接フラックスとを用いて溶接するエレクトロスラグ溶接方法。
LK=6.05[CaO]+6.05[CaF2 ]−6.31[SiO2
−4.97[TiO2 ]−0.2[A123 ]+4.8[MnO
+4[MgO]+3.4[FeO] …(1)
*−溶接フラックス中のそれぞれの化合物のモル分率
【選択図】 図1

Description

本発明は、300 kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接方法に関し、とくに靭性に優れた溶接継手(溶接金属)を得るための方法を提案するものである。
近年、建築物等の鋼構造物については、地震発生時の脆性破壊防止の観点から、溶接部の高靭性化の要求が高まっている。一般に、鉄骨構造に用いられる溶接法としては、ガスシ−ルドアーク溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接等が挙げられる。中でも、エレクトロスラグ溶接は、他の溶接法よりも大きな入熱で高能率の溶接ができることから、鉄骨ダイアフラムや仕口部の立向き溶接法として用いられている。例えば、ダイアフラムの板厚が60 mm程度の鋼材を、1パスでエレクトロスラグ溶接する場合、溶接入熱は1,000 kJ/cm程度と非常に高くなる。ただし、このような大入熱の溶接では、溶接時の溶接金属の冷却速度が小さくなり、溶接金属の焼入れ性が低下してミクロ組織が粗大となり、溶接金属の靭性が低下するという問題がある。
この間題を解決する方法として、従来、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVの各含有量を適正範囲内とし、かつTSE値(=41C+5Si+8Mn+28 Cu+5Ni+2Cr+7Mo+32V)が28以上となるように成分調整した、いわゆる極厚低合金高張力鋼板用エレクトロスラグ溶接用ワイヤが提案されている(特許文献1参照)。そして、この特許文献1に開示の技術では、極厚鋼板のエレクトロスラグ溶接時に、53 kg/mm2(519MPa)以上の引張強さと−20℃での吸収エネルギーが3kgf・m(29.4J)以上を有するエレクトロスラグ溶接金属が得られるとしている。
また、上記の問題を解決する方法としては、エレクトロスラグ溶接時に、母材とワイヤと当金との溶融で形成される溶接金属の珪素含有量が0.16〜0.20 mass%の範囲内となるように、Si含有量の少ない材質のワイヤを使用するとともに、当金のSi含有量を、母材とワイヤのSi含有量とに対応させて調整するエレクトロスラグ溶接金属のSi調整方法についての提案もある(特許文献2参照)。
さらに、その他の方法として、エレクトロスラグ溶接に当たり、C、Si、Mn、O、SおよびTiを適正範囲内で含み、かつMnがMn≧3(C+Si+Mo+Ti)を満足する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接用ワイヤを用いる方法についての提案もある(特許文献3参照)。
しかし、上記各特許文献1、2、3に記載された技術の下で得られる溶接金属は、シャルピー吸収エネルギーが試験温度0℃ないし−20℃で30J程度と、十分な靭性を有しているとは言い難いのが実情である。
このような問題に対する解決手段として、従来、N、O含有量を低減した大入熱エレクトロスラグ溶接用ワイヤが提案されている(特許文献4参照)。この文献に記載された技術は、溶接ワイヤの化学成分を調整することにより、溶接金属のオーステナイト粒径を制御し、Bのオーステナイト粒界への偏析作用を利用して、溶接金属の靭性を向上させようというものである。
しかしながら、大入熱エレクトロスラグ溶接では、母材希釈率が高く、また種々の組成の鋼材を使用するため、鋼材の組合せと溶接条件によっては、上述した溶接ワイヤの化学成分を調整するだけでは、設計どおりの溶接金属特性が得られない場合があり、とくに高靭性の溶接金属を安定して得るまでに至ってはいない。
特開昭59−179289号公報 特開平9−136710号公報 特許第2892575号公報 特開2002−79386号公報
ところで、大入熱エレクトロスラグ溶接において、特に溶接金属の靭性が低下する原因となるのは、溶接金属中の旧オーステナイト粒界に生成する粗大なフェライト組織の存在であると考えられる。即ち、溶接入熱が増加し溶接時の冷却速度が低下すると、溶接金属の焼入れ性が不足し、旧オーステナイト粒界において高温で変態する粗大な粒界フェライト組織が生成する。そして、このような粗大な粒界フェライトは、破壊の起点となり、破壊伝播の経路となるため、溶接金属の靭性が低下するのである。しかも、溶接入熱の増大によって溶接金属中の粒界フェライト量が増加すると、それだけ破壊の起点・伝播が起こりやすい組織が増加することになるため、粒界フェライト組織率の増加に伴って溶接金属の靭性が低下するのである。
溶接金属の靭性低下の他の要因としては、溶接金属中の介在物が挙げられる。溶接金属は、鋼材(母材)に比べて一般的に酸素量が高く、溶接金属中には多くの酸化物系介在物が存在するが、これら介在物はシャルピー衝撃試験等の靭性評価において延性破壊の起点となり、介在物量の増加によって試験時の吸収エネルギーが低下するという問題がある。
この点、上述した従来の大入熱エレクトロスラグ溶接技術(特許文献1〜4)では、上述した問題点があるため、靭性に優れた溶接金属(溶接継手)を得ることは困難であった。
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題が解消でき、溶接入熱が300 kJ/cm以上の非消耗ノズル式大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接した際に、靭性の優れた溶接金属(溶接継手)を得ることができる溶接方法を提案することにある。
発明者らは、溶接入熱300 kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接するときに得られる溶接金属(溶接継手)の靭性向上について鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得るに至った。
一般に、溶接金属中には粒界フェライトが含まれており、この粒界フェライトは、破壊の起点、伝播経路となりやすく、そのため、その粒界フェライトが粗大化して増加し、靭性の低下を招くのである。従って、溶接金属部の靭性を向上させるためには、溶接金属中の粒界フェライト組織の存在比率を低減させることが有効であると考えられる。
そして、上記粒界フェライト組織の低減のためには、適切な合金元素の添加による溶接金属の焼入れ性の調整に加え、溶接金属組織の旧オーステナイト粒径を大きくすることが効果的であると考えられる。その理由は、オーステナイト粒径が大きくなると、溶接金属中のオーステナイト粒界面積が低減し、粒界フェライトが生成しにくくなるとともに、旧オーステナイト粒界でフェライトが生成してもその体積率が粒径を小さくした場合よりも低くなり、粒界フェライトが原因となる溶接金属の靭性低下がある程度抑制されるからである。
発明者らの研究によると、上述した旧オーステナイト粒径を大きくするには、Niの添加が有効である。それは、Niは、鋼のフェライト=オーステナイト変態温度を低下させる働きがあり、溶接時の冷却過程において溶接金属中のオーステナイト変態時間を増加させ、オーステナイト粒の成長を促進して、該オーステナイト粒径を粗大化させる傾向を示すためである。即ち、Niの添加によって、粒界面積低減による粒界フェライト生成率低減の効果が得られ、ひいては大入熱溶接条件における溶接金属の靭性低下を抑制することができるのである。
一方、溶接金属中の介在物の低減には、溶接金属中で酸化物を形成する脱酸元素を低減するとともに、溶接金属中の酸素量を低減することが効果的である。その脱酸元素としては、Si、Mn、AlおよびTi等が挙げられるが、溶接金属中で酸化物を形成する元素としては、脱酸力が強く安定な酸化物を形成しやすいAl、Tiが有効ある。なお、エレクトロスラグ溶接においては、溶接金属中へのAl、Tiの添加は主に溶接ワイヤから行われるため、溶接ワイヤ中のAl、Ti添加量を調整することが重要になる。
また、溶接金属中の酸素量低減については、フラックス組成の適正化が有効である。サブマージアーク溶接においては、溶接フラックスの塩基度と溶接金属中の酸素量との相関が知られているが、発明者らは、エレクトロスラグ溶接においても、溶接ワイヤからAl、Ti等の脱酸元素を添加した場合に、溶接フラックスの塩基度と溶接金属中酸素量との間に強い相関があることをつきとめた。すなわち、溶接ワイヤからのAl、Ti量を制限するとともに、高塩基度のフラックスを使用することにより、溶接金属中の酸素量および酸化物量を低減させることができる。
このような方法によって、吸収エネルギー低下の原因となる溶接金属中の酸化物量を低減させることが可能となり、溶接金属、即ち溶接継手の靭性を向上させることができるようになる。
本発明は、上記の知見に基づいて開発したものであって、鋼板をエレクトロスラグ溶接する方法において、C:0.02〜0.30 mass%、Si:0.05〜1.80 mass%、Mn:0.5〜3.5 mass%、Al:0.005〜0.035 mass%、Ni:1.0〜5.0 mass%、Mo:0.05〜2.5 mass%、Ti:0.05 mass%以下、N:0.010 mass%以下、O:0.010 mass%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有する溶接ワイヤと、下記(1)式で表される塩基度BLKが0.5超である溶接フラックスを用いて溶接することを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法である。
LK=6.05[CaO]+6.05[CaF2 ]−6.31[SiO2
−4.97[TiO2 ]−0.2[A123 ]+4.8[MnO
+4[MgO]+3.4[FeO] …(1)
*−溶接フラックス中のそれぞれの化合物のモル分率
なお、本発明においては、前記溶接ワイヤは、上記の化学成分に加えて、B:0.003〜0.018 mass%を添加したものを用いることができる。
また前記溶接ワイヤはさらに、Cr:0.05〜2.5 mass%、V:0.005〜0.5 mass%、Nb:0.005〜0.5 mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を添加したものを用いることができる。
本発明方法に従い、300 kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接して得られる鋼板の溶接金属部は、靭性が良好で、溶接構造物自体の安全性を高めるだけでなく、溶接施工効率の向上にも効果を奏する。
本発明方法の説明に当たり、まず使用する溶接ワイヤについて、その化学成分を規定した理由を説明する。
C:0.02〜0.30 mass%
Cは、溶接金属の強度を上げ、かつ焼入れ性を向上させる元素であるが、その含有量が0.02 mass%未満では十分な焼入れ性が得られない。一方、0.30 mass%を超えると、溶接金属の高温割れが発生することがあるだけでなく、過剰な硬化や島状マルテンサイトの生成を促して溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Cの含有量は、0.02〜0.30 mass%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.02〜0.15 mass%の範囲である。
Si:0.05〜1.80 mass%
Siは、脱酸作用を有するとともに溶接金属の強度を向上させ、さらには溶接金属の湯流れ性を向上させる元素である。このような作用は、0.05 mass%以上の含有で認められる。一方、1.80 mass%を超えると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があるほか、島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Siの含有量は、0.05〜1.80 mass%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.15〜1.50 mass%の範囲である。
Mn:0.5〜3.5 mass%
Mnは、溶接金属の強度を確保し、溶接金属の焼入れ性を向上させる元素である。このMn含有量が0.5 mass%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、3.5 mass%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するだけでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相を生成して溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Mnの含有量は、0.5〜3.5 mass%の範囲に限定した。なお、好ましくは、1.2〜3.0 mass%の範囲である。
Al:0.005〜0.035 mass%
Alは、強脱酸元素であり、溶接金属中での脱酸作用を促進させるためにワイヤ中に含有させる。それは、溶接金属の脱酸反応が不十分だと、溶接金属中の酸素量が増加し、固溶状態で含有されるべき元素であるSi、Mn、B等が酸化物となり、溶接金属の焼入れ性の低下、靭性の劣化が生じるからである。このため、本発明では、Alを0.005 mass%以上含有させる。しかし、Al含有量が0.035 mass%を超えると、溶接金属中の酸素と結合して多量のA123を形成し、介在物の増加による溶接金属の靭性低下が起こる。そのため、Alの含有量は、0.005〜0.035 mass%の範囲に限定した。
Ni:1.0〜5.0 mass%
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素であり、とくに本発明においては、溶接金属のフェライト=オーステナイト変態温度を低下させ、溶接金属のオーステナイト粒径を大きくすることによって粒界フェライト体積率を低減させるために重要な役割を担う元素である。このような作用効果は、1.0 mass%以上の含有で認められる。一方、このNi含有量が5.0 mass%を超えると、溶接金属の高温割れ感受性の増大が問題となるほか、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Niの含有量は、5.0 mass%以下に限定する。なお、好ましくは1.5〜4.0 mass%の範囲である。
Mo:0.05〜2.5 mass%
Moは、溶接金属の強度を向上させ、かつ溶接金属の焼入れ性を増加させる元素である。このような作用効果を得るためには、0.05 mass%以上の含有を必要とする。一方、このMoの含有量が2.5 mass%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があるほか、過剰な硬化を生じて溶接金属の靭性劣化を招く。このため、Moの含有量は、0.05〜2.5 mass%の範囲内とする。
Ti:0.05 mass%以下
Tiは、Alと同様に溶接金属中で脱酸反応を促進させるが、あまり多量に添加すると介在物の増加による溶接金属の靭性低下を招く。そのため、Tiの含有量は、0.05 mass%以下の範囲に限定する。
N:0.010 mass%以下
Nは、溶接金属中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが好ましい。そのため、Nの含有量は、0.010 mass%以下とする。
O:0.010 mass%以下
Oは、この量が多いと、溶接金属中のOが過剰となり溶接金属の焼入れ性を低下させるほか、溶接金属中の介在物生成を促進し、溶接金属靭性低下の原因となる。そのため、Oの含有量は、0.010 mass%以下の範囲に限定する。
さらに、本発明において、上記溶接ワイヤは、上記した成分に加えて、B:0.003〜0.018 mass%を含有することができる他、さらに、Cr:0.05〜2.5 mass%、V:0.005〜0.5 mass%およびNb:0.005〜0.5 mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含有することができる。Bは、大入熱溶接において、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界フェライトの生成を抑制する効果が高く、靭性のさらなる向上を目的として含有させるものである。また、Cr、VおよびNbはいずれも大入熱溶接において、溶接金属の強度、靭性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させるものである。
B:0.003〜0.018 mass%
Bは、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属の靭性を向上させる元素である。また、Bは、溶接金属中でNをBNとして固定し、固溶Nによる溶接金属の靭性劣化を防止する効果がある。しかもBは、旧オーステナイト粒界に偏析し、粗大な粒界フェライトの生成を抑制する作用を有し、溶接金属の靭性をより一層向上させる効果も有する。このようなBの作用効果を得るには、溶接金属中で酸化物あるいは窒化物として固定されないフリーBを適正量安定して確保する必要があり、溶接ワイヤ中に0.003 mass%以上含有させる。一方、このBの含有量が0.018 mass%を超えると、溶接金属の焼入れ性が過剰になり、高温割れが発生しやすくなるばかりでなく、マルテンサイト相が生成して溶接金属の靭性劣化を招く。このため、Bの含有量は、0.003〜0.018 mass%の範囲に限定する。
Cr:0.05〜2.5 mass%
Crは、大入熱溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させるために0.05 mass%以上含有させることが好ましいが、2.5 mass%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して溶接金属の靭性劣化を招く。このため、Crの含有量は、0.05〜2.5 mass%の範囲に限定することが好ましい。
V:0.005〜0.5 mass%
Vは、Crと同様に、大入熱溶接において溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような作用効果を得るためには、Vは0.005 mass%以上含有することが好ましい。一方、0.5 mass%を超えて含有すると、溶接金属の硬化により靭性が劣化する。このため、Vの含有量は0.005〜0.5 mass%の範囲に限定することが好ましい。
Nb:0.005〜0.5 mass%
Nbは、Cr、Vと同様に、大入熱溶接において溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、0.005 mass%以上含有することが好ましい。一方、0.5 mass%を超えて含有すると、溶接金属の硬化により靭性が劣化する。このため、Nbの含有量は、0.005〜0.5 mass%の範囲に限定することが好ましい。
なお、上述した成分は、溶接ワイヤ(ソリッドワイヤ)中の含有量として規定したが、フラックス入りワイヤを用いてエレクトロスラグ溶接を行う場合には、そのフラックスから添加を行うようしてもよい。
次に、本発明に係る溶接方法において用いるフラックスについて、とくに塩基度を限定した理由を中心として説明する。
フラックス塩基度(BLK):0.5超
本発明において用いるエレクトロスラグ溶接用フラックスは、主としてCaO、SiO2、TiO2、Al23、MnO、MgO、FeOの如き酸化物と、CaF2の如き弗化物で構成されており、スラグの粘性、融点、流動性、電気抵抗などの特性を考慮してその組成が決定される。本発明では、溶接金属中の酸化物系介在物を低減させるため、溶接金属酸素量を決定する塩基度を指標としてフラックス組成を規定するようにしたものである。すなわち、モル分率をもって表される下記式に示す塩基度BLKが0.5以下になると、溶接時の溶融メタル中への酸素供給が多くなり、ワイヤからAl、Ti、Si、Mn等の脱酸元素が酸素と結合しやすくなり、溶接金属中に酸化物系介在物を多く含有することになる。そのため、前記フラックスの成分調整に当っては、その塩基度BLKを0.5超にする必要がある。
LK=6.05[CaO]+6.05[CaF2]−6.31[SiO2
−4.97[TiO2]−0.2[A123]+4.8[MnO]
+4[MgO]+3.4[FeO] …(1)
[CaO]:溶接用フラックス中のCaOモル分率
[CaF2]:溶接用フラックス中のCaF2モル分率
[SiO2]:溶接用フラックス中のSiO2モル分率
[TiO2]:溶接用フラックス中のTiO2モル分率
[A123]:溶接用フラックス中のA123モル分率
[MnO]:溶接用フラックス中のMnOモル分率
[MgO]:溶接用フラックス中のMgOモル分率
[FeO]:溶接用フラックス中のFeOモル分率
なお、エレクトロスラグ溶接に使用されるフラックスは、一般的に溶融型フラックスであり、ここでの塩基度は、溶融・粉砕・ふるい後のフラックス組成によって規定されるものである。
以下に、本発明の効果を実施例に基づいて説明する。
表1に示す化学成分の厚鋼板(板厚:60 mm)をスキンプレート1、ダイアフラム2に用い、図1に示すような溶接長800 mmの溶接継手を仮組みし、表1に示す組成の溶接ワイヤ(線径:1.6 mm)と表2に示す化学成分の溶接フラックスを用い、表3に示す条件でエレクトロスラグ溶接を行った。なお、側板3はJIS−SN490相当のフラットバーを使用し、溶接フラックスの添加量は、溶接開始時に140gとし、溶接途中に適宜少量の追加添加を行った。
Figure 2005246398
Figure 2005246398
Figure 2005246398
溶接終了後、図2に示すように、溶接継手の溶接金属部4から、JIS Z 2202の規定に準拠した2mm−Vノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠して衝撃試験を実施し、溶接金属の靭性評価を行った。なお、衝撃試験片のノッチ位置5は、スキンプレート板厚方向で溶接金属幅が最大となる部位の溶接金属中心部とした。また、溶接金属の靭性評価は、試験温度0℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE0により行い、各々の継手から3本ずつのシャルピー試験片を採取し試験を行った結果の平均値で評価した。また、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE0が70J以上である場合を靭性良好と判定した。得られた結果をワイヤ組成、フラックス組合せとともに表4−1、表4−2に示す。
Figure 2005246398
Figure 2005246398
本発明例(表4−1の実施例、記号1〜16)は、いずれもvE0≧70Jとなる良好な靭性を有する溶接金属が得られた。一方、本発明の範囲を外れる化学成分のワイヤおよびフラックスを使用した比較例(表4−2の比較例、記号1〜20)では、いずれもvE0<70Jとなり、溶接金属は十分な靭性が得られていないことがわかった。
このように、本発明方法に適合する条件の溶接ワイヤおよび溶接フラックスを使用した大入熱エレクトロスラグ溶接継手では、良好な靭性を有する溶接金属が得られることが確認できた。
本発明は、建築、造船、橋梁、海洋構造物、タンクなどの各種溶接鋼構造物を建造する際の大入熱エレクトロスラグ溶接の分野において利用される技術である。
スキンプレート、ダイアフラム、側板を用いて溶接継手を仮組みした状態を示す平面図である。 溶接継手の溶接金属部から、2mm−Vノッチシャルピー衝撃試験片を採取した位置を説明するための平面図である。
符号の説明
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 側板
4 溶接金属部
5 衝撃試験片のノッチ位置

Claims (3)

  1. 鋼板をエレクトロスラグ溶接する方法において、C:0.02〜0.30 mass%、Si:0.05〜1.80 mass%、Mn:0.5〜3.5 mass%、Al:0.005〜0.035 mass%、Ni:1.0〜5.0 mass%、Mo:0.05〜2.5 mass%、Ti:0.05 mass%以下、N:0.010 mass%以下、O:0.010 mass%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有する溶接ワイヤと、下記(1)式で表される塩基度BLKが0.5超である溶接フラックスを用いて溶接することを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
    LK=6.05[CaO]+6.05[CaF2 ]−6.31[SiO2
    −4.97[TiO2 ]−0.2[A123 ]+4.8[MnO
    +4[MgO]+3.4[FeO] …(1)
    *−溶接フラックス中のそれぞれの化合物のモル分率
  2. 前記溶接ワイヤが、上記化学成分に加えて、B:0.003〜0.018 mass%を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
  3. 前記溶接ワイヤが、上記化学成分に加えてさらに、Cr:0.05〜2.5 mass%、V:0.005〜0.5 mass%、Nb:0.005〜0.5 mass%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
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