JP3800330B2 - 大入熱エレクトロスラグ溶接方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接において、靭性に優れた溶接金属が得られる溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地震による建築物等の鋼構造物の脆性破壊を防止する観点から、溶接部の高靭性化の要求が高まっている。鉄骨構造に用いられる溶接法としては、ガスシールドアーク溶接,サブマージアーク溶接,エレクトロスラグ溶接等がある。これらの溶接法のうち、エレクトロスラグ溶接は、一般に鉄骨ダイアフラムや仕口部の立向き溶接に用いられ、他の溶接法に比べて大きい入熱で高能率の溶接が可能である。
【0003】
たとえばダイアフラムの板厚が60mm程度になると、1パスでエレクトロスラグ溶接を行なった場合、溶接入熱は1000kJ/cm程度と非常に大きくなる。このような大入熱の溶接では、溶接時の溶接金属の冷却速度が小さくなり、溶接金属の焼入れ性が低下する。その結果、ミクロ組織が粗大となり、溶接金属の靭性が低下するという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、たとえば特開昭59-179289 号公報には、C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,Vの含有量を規定し、かつそれらの含有量からTSE=41C+5Si+8Mn+28Cu+5Ni+2Cr+7Mo+32Vで算出されるTSE値が28以上となるように成分を調整した極厚低合金高張力鋼板用エレクトロスラグ溶接ワイヤが開示されている。この技術では、極厚鋼板のエレクトロスラグ溶接で53kg/mm2 (すなわち519MPa)以上の引張強さと−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが3 kgf・m(すなわち29.4J)以上を有するエレクトロスラグ溶接金属が得られるとしている。
【0005】
また特開平9-136710号公報には、エレクトロスラグ溶接において、母材(すなわち鋼材)と溶接用ワイヤと当金との溶融で形成される溶接金属の珪素含有量が0.16〜0.20重量%の範囲内となるように、珪素含有量の少ない材質の溶接用ワイヤを使用するとともに、当金の珪素含有量を母材と溶接用ワイヤの珪素含有量とに対応させて調整するエレクトロスラグ溶接金属の珪素調整方法が提案されている。
【0006】
また特許第2892575 号公報には、C,Si,Mn,P,S,Tiを適正範囲内で含み、かつMn≧3(C+Si+Mo+Ti)を満足する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。
しかし特開昭59-179289 号公報,特開平9-136710号公報,特許第2892575 号公報に記載された技術で得られる溶接金属は、シャルピー吸収エネルギーが試験温度0℃ないし−20℃で30J程度であるので、十分な靭性を有しているとは言い難い。
【0007】
このような問題に対して、たとえば特開2002-79396号公報には、C,Si,Mn,Mo,Ni,Bを適正範囲内で含有し、 N,O含有量を低減した大入熱エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。この技術では、溶接金属のオーステナイト粒径を制御し、Bのオーステナイト粒界への偏析作用を利用することにより、優れた溶接金属靭性が得られるとしている。
【0008】
しかしながら大入熱エレクトロスラグ溶接では、母材希釈率が高く、また種々の組成の鋼材が使用されるため、特開2002-79396号公報に記載された溶接用ワイヤを利用しても溶接金属の組織微細化が不十分になる場合があり、高靭性の溶接金属を安定して得ることは困難であると推察される。
エレクトロスラグ溶接と同様に、大入熱溶接として用いられるサブマージアーク溶接においては、溶接金属を微細なアシキュラーフェライト組織とすることで高靭性化を達成する技術が良く知られている。溶接金属のアシキュラーフェライト化については、数多くの検討がなされ、溶接金属中にTiを含む酸化物系介在物を数多く分散させることによって、酸化物系介在物ないしその周辺からアシキュラーフェライトが生成するという知見が得られている。
【0009】
しかしながら、エレクトロスラグ溶接は立向きで極めて溶接速度が遅く、溶融メタル中の脱酸反応が促進されることに加え、溶融メタル中の酸化物が浮上して大部分がスラグとして排出され、溶融メタル中の酸素量が低くなり、 酸化物系介在物の多量分散が困難となる。そのためサブマージアーク溶接のように、アシキュラーフェライト主体の組織にすることで高い靭性を得ることはできないというのが一般的認識であった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59-179289 号公報
【特許文献2】
特開平9-136710号公報
【特許文献3】
特許第2892575 号公報
【特許文献4】
特開2002-79396号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題を解消し、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接した際に、優れた靭性の溶接金属を得ることが可能な溶接方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶接入熱 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属の靭性向上について鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得るに至った。
大入熱エレクトロスラグ溶接においては、極めて低速の立向き溶接となるため、高靭性が得られる微細なアシキュラーフェライト組織とするために必須とされるTiを含む酸化物系介在物を溶接金属中に分散させることが困難である。Tiは、エレクトロスラグ溶接においては、溶接用ワイヤから添加されるが、Tiが酸化物系介在物として溶接金属に分散されるには、溶接中に生じるスラグと溶融メタルとの反応(いわゆるスラグ・メタル反応)においてTiが酸素と結合し、溶融メタル内に導入される状況が必要である。
【0013】
溶融メタル中に効果的にTi系酸化物を導入するためには、Ti系酸化物が溶融メタル中を浮上してスラグに排出(いわゆるスラグアウト)されても十分な量の酸化物が溶融メタル中に残存するように、溶接中に多量のTiおよびOを溶融メタル中に供給できるようにすれば良い。このために本発明者らは、溶接用ワイヤからのTi添加に加えて、スラグ・メタル反応による溶融メタル中の酸素量を制御する方法を見出した。
【0014】
サブマージアーク溶接においては、溶接用フラックスの塩基度と溶融メタル中の酸素量との関係は従来から知られている。本発明者らは、エレクトロスラグ溶接においても、溶接用ワイヤからTi等の脱酸元素を添加した場合に、溶接用フラックスの塩基度と溶融メタル中の酸素量との間に強い相関があることを知見した。
【0015】
すなわち、溶接用ワイヤから多量のTiを添加するとともに、低塩基度の溶接用フラックスを使用することにより、溶融メタル中に多量のTi酸化物が生成され、スラグ・メタル反応によってスラグ中に排出されても十分な量の酸化物系介在物が溶融メタル中に残存させることができる。この方法によって、アシキュラーフェライト生成の核となるTiを含む酸化物を溶融メタル中に十分な量を分散させることが可能となり、アシキュラーフェライト組織主体の高靭性溶接金属が得られるようになる。
【0016】
また大入熱エレクトロスラグ溶接においては、溶接金属の冷却速度が非常に遅いので、旧オーステナイト粒界に粗大な初析フェライト組織が成長して、靭性が劣化する。したがって溶接金属の靭性劣化を防止するためには、溶接金属の焼入れ性を調整するか、あるいは旧オーステナイト粒界に偏析し粒界フェライトを抑制するBの添加を適正に行なうことも必要である。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであって、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接方法において、C:0.02〜0.30質量%,Si:0.05〜1.80質量%,Mn: 0.5〜3.5 質量%,Al: 0.005〜0.08質量%,Ni: 3.0質量%以下,Mo:0.05〜2.5 質量%,Ti:0.05〜0.40質量%,N: 0.012質量%以下,O: 0.001〜0.015 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶接用ワイヤと、CaO,CaF2 ,SiO2 ,TiO2 , Al23 ,MnO,MgO,FeOを含有し、そのモル分率を用いて下記の (1)式で表わされる塩基度BLKが−2.0 〜0.5 の範囲内を満足する溶接用フラックスとを用いてエレクトロスラグ溶接を行なうことを特徴とする大入熱エレクトロスラグ溶接方法である。
【0018】
Figure 0003800330
また本発明は、溶接用ワイヤが前記組成に加えて、B: 0.008〜0.025 質量%を含有することが好ましい。
【0019】
また溶接用ワイヤが前記組成に加えて、Cr:0.05〜2.5 質量%、V: 0.005〜0.5 質量%およびNb: 0.005〜0.5 質量%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明を適用する溶接用ワイヤの成分を規定した理由について説明する。
C:0.02〜0.30質量%
Cは、溶接金属の強度を増加し、かつ焼入れ性を向上させる元素であるが、C含有量が0.02質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。 一方、 0.30質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化や島状マルテンサイトの生成により溶接金属の靭性が劣化する。 このため、Cは0.02〜0.30質量%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.15質量%である。
【0021】
Si:0.05〜1.80質量%
Siは、脱酸作用を有するとともに溶接金属の強度を向上させ、さらに溶融メタルの湯流れ性を向上させる元素である。このような効果はSi含有量が0.05質量%以上で認められる。一方、 1.80質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.80質量%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.15〜1.50質量%である。
【0022】
Mn: 0.5〜3.5 質量%
Mnは、溶接金属の強度を確保し、かつ溶接金属の焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が 0.5質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、 3.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Mnは 0.5〜3.5 質量%の範囲に限定した。なお、好ましくは 1.2〜2.5 質量%である。
【0023】
Al: 0.005〜0.08質量%
Alは、脱酸元素であり、溶融メタル中での脱酸作用を促進させるために溶接用ワイヤに含有させる。溶融メタルの脱酸反応が不十分であると、溶接金属中の酸素が増加し、固溶状態で含有されるべき元素であるSi,Mn,B等が酸化物となり、溶接金属の焼入れ性低下,靭性劣化が生じる。このため、Alは 0.005質量%以上含有させる。しかし、0.08質量%を超えて含有すると、溶接金属中に Al23 が多量に形成され、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物の生成を阻害する。このため、Alは 0.005〜0.08質量%の範囲に限定した。
【0024】
Ni: 3.0質量%以下
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素として、0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 3.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する危険性が増大するばかりでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Niは 3.0質量%以下に限定した。なお、好ましくは0.05〜2.5 質量%である。
【0025】
Mo:0.05〜2.5 質量%
Moは、溶接金属の強度を向上させ、かつ溶接金属の焼入れ性を増加し、変態時にアシキュラーフェライトの生成を促進し、溶接金属の組織を微細化させる元素である。このような効果を得るためには、 0.05質量%以上の含有を必要とする。一方、 2.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化が生じて溶接金属の靭性が劣化する。このため、Moは0.05〜2.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0026】
Ti:0.05〜0.40質量%
Tiは、溶融メタル中で酸化物を形成し、その酸化物を核として微細なアシキュラーフェライトが生成し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。エレクトロスラグ溶接では、Ti酸化物が溶融メタルからスラグとして排出されやすいので、Ti含有量が0.05質量%未満では、酸化物が十分に生成せず、溶接金属の靭性向上の効果が得られない。一方、0.40質量%を超えて含有すると、Tiが溶接金属中で固溶元素として働くので、溶接金属が硬化して靭性の劣化を招く。このため、Tiは0.05〜0.40質量%の範囲に限定した。
【0027】
N: 0.012質量%以下
Nは、溶接金属中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させる元素である。したがつてNは、できるだけ低減することが好ましい。本発明では、溶接用ワイヤにBを添加した場合、溶接金属中のNをBNとして固定でき、固溶Nによる靭性劣化をある程度抑制することが可能である。しかし、 0.012質量%を超えて含有すると、溶接金属中のフリーBが十分に確保できなくなり、Bの初析フェライト抑制効果が得られず、 溶接金属の靭性が劣化する。このため、Nは 0.012質量%以下とする。
【0028】
O: 0.001〜0.015 質量%
Oは、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物を形成するために、 0.001質量%以上含有する必要がある。しかし、 0.015質量%を超えて含有すると、溶接金属中のOが過剰となり、溶接金属の焼入れ性を低下させ、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Oは 0.001〜0.015 質量%の範囲に限定した。
【0029】
B: 0.008〜0.025 質量%
Bは、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属の靭性を向上させる元素である。またBは、溶接金属中のNをBNとして固定し、固溶Nによる溶接金属の靭性劣化を防止する効果がある。しかもBは、旧オーステナイト粒界に偏析し、粗大な初析フェライトの成長を抑制する作用を有し、溶接金属の靭性を一層向上させる効果も有するので、必要に応じて含有できる。このようなBの効果を得るためには、溶接金属中で酸化物あるいは窒化物として固定されないフリーBを適正量確保する必要があるので、エレクトロスラグ溶接においては溶接用ワイヤから多量にBを添加するのが有効である。そのため、Bは 0.008質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.025質量%を超えて含有すると、溶接金属の焼入れ性が過剰に高くなり、高温割れが発生しやすくなるばかりでなく、マルテンサイト相が生成して溶接金属の靭性が劣化する。このため、Bは 0.008〜0.025 質量%の範囲に限定した。
【0030】
上記した成分に加えて、本発明では、さらにCr:0.05〜2.5 質量%,V: 0.005〜0.5 質量%およびNb: 0.005〜0.5 質量%のうちから1種または2種以上を選択して含有することができる。Cr,V,Nbは、いずれも大入熱溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0031】
Cr:0.05〜2.5 質量%
Crは、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させるために、0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 2.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベーナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、 溶接金属の靭性が劣化する。このため、Crは0.05〜2.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
V: 0.005〜0.5 質量%
Vは、Crと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.005質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.5質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Vは 0.005〜0.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0033】
Nb: 0.005〜0.5 質量%
Nbは、Cr,Vと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.005質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.5質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Nbは 0.005〜0.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0034】
なお、溶接用ワイヤ中のこれらの元素の含有量は、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤのいずれにも適用できる。つまり、ソリッドワイヤを用いて大入熱エレクトロスラグ溶接を行なう場合は、ソリッドワイヤ中の元素の含有量が上記した範囲内を満足すれば良い。またフラックス入りワイヤを用いて大入熱エレクトロスラグ溶接を行なう場合は、外皮およびフラックスに含有される元素の含有量の合計が、それぞれ上記した範囲内を満足すれば良い。
【0035】
次に本発明を適用する溶接用フラックスの塩基度について説明する。
溶接用フラックスの塩基度BLK:−2.0 〜0.5
溶接用フラックスは、主として酸化物と弗化物で構成されており、スラグの粘性,融点,流動性,電気抵抗等の特性を考慮して、その組成が決定される。本発明では、溶接金属にアシキュラーフェライト組織を生成させるために必要なTiを含有する酸化物系介在物を分散させるために、溶接金属中の酸素量を決定する塩基度BLKを指標として溶接用フラックスの成分を規定する。なお塩基度BLKとして (1)式で算出される値を用いる。
【0036】
すなわち、塩基度BLKが 0.5を超えると、溶融メタルへの酸素供給が不十分となり、溶接用ワイヤから多量のTiを添加しても、Ti酸化物の生成が不十分となり、溶融メタル中に酸化物系介在物を効果的に分散させることができない。 一方、塩基度BLKが−2.0 未満では、溶融メタルへの酸素供給が過剰となり、溶接金属の焼入れ性が低下して、靭性が劣化する。またBが酸化物となるので、粒界フェライトの生成を抑制するフリーB量を低減し、靭性を劣化させる。このため、塩基度BLKは−2.0 〜0.5 の範囲を満足する必要がある。
【0037】
なお、大入熱エレクトロスラグ溶接に用いる溶接用フラックスは、一般的に溶融フラックスである。したがって、本発明で規定する塩基度BLKは、溶融・粉砕・篩い後の成分によって規定されるものである。
【0038】
【実施例】
表1に示す成分の厚鋼板(厚さ60mm)をスキンプレート1およびダイアフラム2として用い、JIS規格SN490 相当のフラットバーを側板3として用いて、図1に示すように組み立てて溶接継手を作製した。溶接は表2に示す条件でエレクトロスラグ溶接を行ない、 溶接用ワイヤ(線径1.6mm のソリッドワイヤ)と溶接用フラックスは表3,表4に示すものを使用した。なお表3,表4中の溶接用フラックスの記号は、 表5に示した成分の各溶接用フラックスに対応する。
【0039】
【表1】
Figure 0003800330
【0040】
【表2】
Figure 0003800330
【0041】
【表3】
Figure 0003800330
【0042】
【表4】
Figure 0003800330
【0043】
【表5】
Figure 0003800330
【0044】
溶接用フラックスの添加量は、溶接開始時に 140gとし、溶接の進行に合せて適宜少量の追加添加を行なった。
溶接の終了後、図2に示すように溶接継手の溶接金属4からシャルピー衝撃試験片5(JIS規格Z2202 に準拠した2mmVノッチ試験片)を採取した。なお、シャルピー衝撃試験片5のノッチ位置は、スキンプレート1の板厚方向で溶接金属4の幅が最大となる部位の溶接金属4中心部とした。
【0045】
このようにして採取したシャルピー衝撃試験片5を使用し、JIS規格Z2242 に準拠して衝撃試験を行なった。試験温度は0℃とし、シャルピー吸収エネルギー VO (J)を測定した。発明例1〜15および比較例1〜21について、それぞれ3本のシャルピー衝撃試験片5を用いて VO (J)を測定し、その平均値を表3,表4に示す。
【0046】
発明例1〜15は、いずれも VO が70J以上であり、良好な靭性を有する溶接金属4が得られた。
一方、 本発明の範囲を外れる成分の溶接用ワイヤや溶接用フラックスを用いた比較例1〜21は、 VO が70J未満であり、溶接金属4の靭性が劣化した。
このように本発明を適用して大入熱エレクトロスラグ溶接を行なうと、良好な靭性を有する溶接金属が得られることが確認できた。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手において、良好な靭性を有する溶接金属が安定して得られ、 溶接構造物の安全性、さらには溶接施工効率が顕著に向上し、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手を作製する際にスキンプレート,ダイアフラム,側板を組み立てた状態を模式的に示す平面図である。
【図2】シャルピー衝撃試験片の採取位置を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 側板
4 溶接金属
5 シャルピー衝撃試験片

Claims (3)

  1. 溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接方法において、C:0.02〜0.30質量%、Si:0.05〜1.80質量%、Mn: 0.5〜3.5 質量%、Al: 0.005〜0.08質量%、Ni: 3.0質量%以下、 Mo:0.05〜2.5 質量%、Ti:0.05〜0.40質量%、N: 0.012質量%以下、 O: 0.001〜0.015 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶接用ワイヤと、CaO、CaF2 、SiO2 、TiO2 、 Al23 、MnO、MgO、FeOを含有し、それらのモル分率を用いて下記の (1)式で表わされる塩基度BLKが−2.0 〜0.5 の範囲内を満足する溶接用フラックスとを用いてエレクトロスラグ溶接を行なうことを特徴とする大入熱エレクトロスラグ溶接方法。
    Figure 0003800330
  2. 前記溶接用ワイヤが前記組成に加えて、B: 0.008〜0.025 質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の大入熱エレクトロスラグ溶接方法。
  3. 前記溶接用ワイヤが前記組成に加えて、Cr:0.05〜2.5 質量%、V: 0.005〜0.5 質量%およびNb: 0.005〜0.5 質量%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の大入熱エレクトロスラグ溶接方法。
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