JP2004124218A - 靭性に優れた溶接金属を有するエレクトロスラグ溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【課 題】溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、靭性に優れた溶接金属を有する溶接継手を提供する。
【解決手段】C:0.02〜0.20質量%,Si:0.05〜1.20質量%,Mn: 0.5〜2.5 質量%,Al: 0.002〜0.05質量%,Mo:0.05〜1.2 質量%,Ti: 0.005〜0.050 質量%,B:0.0010〜0.010 質量%,N:0.0025〜0.0085質量%,O: 0.010〜0.030 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつBとNの含有量を用いてB/N=[B]/[N]で表わされるB/N値が 0.4〜1.2 の範囲内を満足する溶接金属を有する溶接継手とする。
【選択図】 図1
【解決手段】C:0.02〜0.20質量%,Si:0.05〜1.20質量%,Mn: 0.5〜2.5 質量%,Al: 0.002〜0.05質量%,Mo:0.05〜1.2 質量%,Ti: 0.005〜0.050 質量%,B:0.0010〜0.010 質量%,N:0.0025〜0.0085質量%,O: 0.010〜0.030 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつBとNの含有量を用いてB/N=[B]/[N]で表わされるB/N値が 0.4〜1.2 の範囲内を満足する溶接金属を有する溶接継手とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼板と、その大入熱エレクトロスラグ溶接によって生じた溶融メタルが凝固した溶接金属とからなる溶接継手に関するものであり、詳しくは溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって得られた溶接金属が良好な靭性を有する溶接継手に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地震による建築物等の鋼構造物の脆性破壊を防止する観点から、溶接部の高靭性化の要求が高まっている。鉄骨構造に用いられる溶接法としては、ガスシールドアーク溶接,サブマージアーク溶接,エレクトロスラグ溶接等がある。これらの溶接法のうち、エレクトロスラグ溶接は、一般に鉄骨ダイアフラムや仕口部の立向き溶接に用いられ、他の溶接法に比べて大きい入熱で高能率の溶接が可能である。
【0003】
たとえばダイアフラムの板厚が60mm程度になると、1パスでエレクトロスラグ溶接を行なった場合、溶接入熱は1000kJ/cm程度と非常に大きくなる。このような大入熱の溶接では、溶接時の溶接金属の冷却速度が小さくなり、溶接金属の焼入れ性が低下する。その結果、ミクロ組織が粗大となり、溶接金属の靭性が低下するという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、たとえば特開昭59−179289 号公報には、C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,Vの含有量を規定し、かつそれらの含有量からTSE=41C+5Si+8Mn+28Cu+5Ni+2Cr+7Mo+32Vで算出されるTSE値が28以上となるように成分を調整した極厚低合金高張力鋼板用エレクトロスラグ溶接ワイヤが開示されている。この技術では、極厚鋼板のエレクトロスラグ溶接で53kg/mm2 (すなわち519MPa)以上の引張強さと−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが3 kgf・m(すなわち29.4J)以上を有するエレクトロスラグ溶接金属が得られるとしている。
【0005】
また特開平9−136710号公報には、エレクトロスラグ溶接において、母材(すなわち鋼板)と溶接用ワイヤと当金との溶融で形成される溶接金属の珪素含有量が0.16〜0.20重量%の範囲内となるように、珪素含有量の少ない材質の溶接用ワイヤを使用するとともに、当金の珪素含有量を母材と溶接用ワイヤの珪素含有量とに対応させて調整するエレクトロスラグ溶接金属の珪素調整方法が提案されている。
【0006】
また特許第2892575 号公報には、C,Si,Mn,P,S,Tiを適正範囲内で含み、かつMn≧3(C+Si+Mo+Ti)を満足する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。
しかし特開昭59−179289 号公報,特開平9−136710号公報,特許第2892575 号公報に記載された技術で得られる溶接金属は、シャルピー吸収エネルギーが試験温度0℃ないし−20℃で30J程度と、十分な靭性を有しているとは言い難い。
【0007】
このような問題に対して、たとえば特開2002−79396号公報には、C,Si,Mn,Mo,Ni,Bを適正範囲内で含有し、 N,O含有量を低減した大入熱エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。この技術では、溶接金属のオーステナイト粒径を制御し、Bのオーステナイト粒界への偏析作用を利用することにより、優れた溶接金属靭性が得られるとしている。
【0008】
しかしながら大入熱エレクトロスラグ溶接では、母材希釈率が高く、また種々の組成の鋼板が使用されるため、特開2002−79396号公報に記載された溶接用ワイヤを利用しても溶接金属の組織の微細化が不十分になる場合があり、高靭性の溶接金属を安定して得ることは困難であると推察される。
エレクトロスラグ溶接と同様に、大入熱溶接として用いられるサブマージアーク溶接においては、溶接金属を微細なアシキュラーフェライト組織とすることで高靭性化を達成する技術が良く知られている。溶接金属のアシキュラーフェライト化については、数多くの検討がなされ、溶接金属中にTiを含む酸化物系介在物を数多く分散させることによって、酸化物系介在物ないしその周辺からアシキュラーフェライトが生成するという知見が得られている。
【0009】
しかしながら、エレクトロスラグ溶接は立向きで極めて溶接速度が遅く、溶融メタル中の脱酸反応が促進されることに加え、溶融メタル中の酸化物が浮上して大部分がスラグとして排出され、溶融メタル中の酸素量が低くなり、 酸化物系介在物の多量分散が困難となる。そのためサブマージアーク溶接のように、アシキュラーフェライト主体の組織にして高い靭性を得ることは困難であった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59−179289 号公報
【特許文献2】
特開平9−136710号公報
【特許文献3】
特許第2892575 号公報
【特許文献4】
特開2002−79396号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題を解消し、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、靭性に優れた溶接金属を有する溶接継手を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶接入熱 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して溶接継手を作製し、得られた溶接継手の溶接金属の靭性向上について鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得るに至った。
大入熱エレクトロスラグ溶接においては、極めて低速の立向き溶接となるため、高靭性が得られる微細なアシキュラーフェライト組織とするために必須とされるTiを含む酸化物系介在物を溶接金属中に分散させることが困難である。
【0013】
そこでTi酸化物に代わるフェライト生成核として、BNに着目した。BNはTi酸化物に比較してフェライト生成核としての機能が低いといわれているが、大入熱エレクトロスラグ溶接においては溶融メタルの凝固速度,溶接金属の冷却速度が遅いので、溶接金属中のBとNが結合して容易にBNを形成する。溶接金属中へのBとNの添加は、溶接用ワイヤからの添加および鋼板の希釈を利用して行なうことができる。したがって大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属中にBとNを添加し、BNを析出物として多量に分散させることは、Ti酸化物の分散に比べて容易である。
【0014】
またBについては、旧オーステナイト粒界への偏析を利用して、粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果が知られている。この効果を得るためには、溶接金属中に固溶状態で存在するフリーBを確保することが必要である。そこでBN形成のために添加するB量とN量を調整して、溶接金属中にフリーBを残存させれば、BNによるフェライト生成を促進する効果に加えて、粒界フェライトの生成を抑制する効果が得られる。その結果、溶接金属の組織が微細化され、靭性の向上が達成できる。
【0015】
このように大入熱エレクトロスラグ溶接においては、溶接金属中に各種合金元素を添加し、溶接金属の焼入れ性を調整するとともに、適正量のBとNを添加することによって、BNを形成させて微細フェライトの生成を促進し、かつフリーBの粒界偏析による粗大な粒界フェライトの生成を抑制することができる。この微細フェライトの生成を促進する効果と粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果の相乗作用によって、微細なミクロ組織を有する高靭性の溶接金属が得られる。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであって、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と前記鋼板とからなる溶接継手であって、前記溶接金属が、C:0.02〜0.20質量%,Si:0.05〜1.20質量%,Mn: 0.5〜2.5 質量%,Al: 0.002〜0.05質量%,Mo:0.05〜1.2 質量%,Ti: 0.005〜0.050 質量%,B:0.0010〜0.010 質量%,N:0.0025〜0.0085質量%,O: 0.010〜0.030 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ前記溶接金属に含有されるBとNの含有量を用いて下記の (1)式で表わされるB/N値が 0.4〜1.2 の範囲内を満足することを特徴とする大入熱エレクトロスラグ溶接継手である。
【0017】
B/N=[B]/[N] ・・・ (1)
[B]:B含有量(質量%)
[N]:N含有量(質量%)
また本発明では、溶接金属が、前記組成に加えて、Ni:0.05〜2.0 質量%を含有することが好ましい。
【0018】
また溶接金属が、前記組成に加えて、Cu:0.05〜1.0 質量%を含有することが好ましい。
また溶接金属が、前記組成に加えて、Cr:0.03〜2.0 質量%,V: 0.003〜0.3 質量%およびNb: 0.003〜0.3 質量%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明を適用する溶接金属の成分を規定した理由について説明する。
C:0.02〜0.20質量%
Cは、溶接金属の強度を増加し、かつ焼入れ性を向上させる元素であるが、C含有量が0.02質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。 一方、 0.20質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化や島状マルテンサイトの生成により溶接金属の靭性が劣化する。 このため、Cは0.02〜0.20質量%の範囲に限定した。
【0020】
Si:0.05〜1.20質量%
Siは、脱酸作用を有するとともに溶接金属の強度を向上させ、さらに溶融メタルの湯流れ性を向上させる元素である。このような効果はSi含有量が0.05質量%以上で認められる。一方、 1.20質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.20質量%の範囲に限定した。
【0021】
Mn: 0.5〜2.5 質量%
Mnは、溶接金属の強度を確保し、かつ溶接金属の焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が 0.5質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、 2.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Mnは 0.5〜2.5 質量%の範囲に限定した。
【0022】
Al: 0.002〜0.05質量%
Alは、脱酸元素であり、溶融メタル中での脱酸作用を促進させるために溶接用ワイヤに含有させる。溶融メタルの脱酸反応が不十分であると、溶接金属中の酸素が増加し、固溶状態で含有されるべき元素であるSi,Mn,B等が酸化物となり、溶接金属の焼入れ性低下,靭性劣化が生じる。このため、Alは 0.002質量%以上含有させる。しかし、0.05質量%を超えて含有すると、溶接金属中に Al2O3 が多量に形成され、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物の生成を阻害するのみならず、溶接金属中に破壊発生の起点となる粗大な酸化物系介在物を内在させることになり、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Alは 0.002〜0.05質量%の範囲に限定した。
【0023】
Mo:0.05〜1.2 質量%
Moは、溶接金属の強度を向上させ、かつ溶接金属の焼入れ性を増加し、変態時にアシキュラーフェライトの生成を促進し、溶接金属の組織を微細化させる元素である。このような効果を得るためには、 0.05質量%以上の含有を必要とする。一方、 1.2質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化が生じて溶接金属の靭性が劣化する。このため、Moは0.05〜1.2 質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0024】
Ti: 0.005〜0.050 質量%
Tiは、溶融メタル中で酸化物を形成し、その酸化物を核として微細なアシキュラーフェライトが生成し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。本発明ではBNを核とするアシキュラーフェライト生成を主眼とするが、Ti酸化物の導入を併用することによってその効果は一層高められる。Ti含有量が 0.005質量%未満では、酸化物が十分に生成せず、溶接金属の靭性向上の効果が得られない。一方、 0.050質量%を超えて含有すると、Tiが溶接金属中で固溶元素として働くので、溶接金属が硬化して靭性の劣化を招く。このため、Tiは 0.005〜0.050 質量%の範囲に限定した。
【0025】
B:0.0010〜0.010 質量%
Bは、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属の靭性を向上させる元素である。また、Bは溶接金属中でBNとなってNを固定し、固溶Nによる溶接金属の靭性の劣化を防止するとともに、BNを核とするアシキュラーフェライトの生成を促進して溶接金属の組織を微細化し、靭性を向上させる効果がある。しかも、Bは旧オーステナイト粒界に偏析して粗大な初析フェライトの成長を抑制する作用を有しており、溶接金属の靭性を一層向上させる効果も有する。このようなBの効果を得るためには、溶接金属中にある程度の量のBNを生成させる必要があり、Bは0.0010質量%以上含有する必要がある。一方、 0.010質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生しやすくなる。このため、Bは0.0010〜0.010 質量%の範囲に限定した。
【0026】
N:0.0025〜0.0085質量%
Nは、溶接金属中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させる元素である。本発明ではBと結合して生成されるBNを核としてアシキュラーフェライトの生成を促進するために0.0025質量%以上含有させる。しかし、0.0085質量%を超えて含有すると、溶接金属中のフリーNを抑制するために過剰にBを添加することになり、溶接金属の靭性を劣化させ、かつ高温割れが発生する危険性が増大する。このため、Nは0.0025〜0.0085質量%以下とする。
【0027】
O: 0.010〜0.030 質量%
Oは、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物を形成するために、 0.010質量%以上含有する必要がある。しかし、 0.030質量%を超えて含有すると、溶接金属中のOが過剰となり、溶接金属の焼入れ性を低下させるばかりでなく、溶接金属中で破壊の起点となる粗大な酸化物を多量に内在させることになり、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Oは 0.010〜0.030 質量%の範囲に限定した。
【0028】
B/N: 0.4〜1.2
本発明においては、溶接金属中のアシキユラーフェライト生成の核としてBNを利用するためにBおよびNを添加する。ただし、フリーNによる溶接金属の靭性劣化を防止し、フリーBによる粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果を利用するためには、BとNの各々の含有量のみならず、BとNの含有量のバランスを適正範囲に維持する必要がある。そこで、BとNの含有量のバランスを示す指標として、溶接金属中のB含有量とN含有量とを用いて下記の (1)式から算出されるB/N値を用いる。
【0029】
B/N=[B]/[N] ・・・ (1)
[B]:B含有量(質量%)
[N]:N含有量(質量%)
B/N値が 0.4未満では、溶接金属中のNが過剰となり、粗大な粒界フェライトが生成するばかりでなく、フリーNが存在するために溶接金属の靭性が劣化する。一方、 B/N値が 1.2を超えると、溶接金属中のBが過剰となり、フリーBの増加による焼入れ性の増加や島状マルテンサイトの生成による靭性の劣化が生じる。このため、B/N値は 0.4〜1.2 の範囲に限定した。
【0030】
上記した成分に加えて、本発明では、溶接金属中に、さらにNi:0.05〜2.0 質量%および/またはCu:0.05〜1.0 質量%を含有することができる。
また、Cr:0.03〜2.0 質量%,V: 0.003〜0.3 質量%およびNb: 0.003〜0.3 質量%のうちの1種または2種以上を含有することができる。
これらのNi,Cu,Cr,V,Nbは、いずれも大入熱溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0031】
Ni:0.05〜2.0 質量%
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素として0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 2.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する危険性が増大するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Niを含有する場合は、その含有量は0.05〜2.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
Cu:0.05〜1.0 質量%
Cuは、溶接金属の強度と焼入れ性を向上させる元素であり、鋼板および溶接用ワイヤ(すなわち鋼素線とめっき層)から溶接金属に添加される。溶接金属の強度を確保し、かつ焼入れ性を高めて靭性を向上させるためには0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 1.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する危険性が増大するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Cuを含有する場合は、その含有量は0.05〜1.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0033】
Cr:0.03〜2.0 質量%
Crは、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させるために、0.03質量%以上含有することが好ましい。一方、 2.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベーナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、 溶接金属の靭性が劣化する。このため、Crを含有する場合は、その含有量は0.03〜2.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0034】
V: 0.003〜0.3 質量%
Vは、Crと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.003質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.3質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Vを含有する場合は、その含有量は 0.003〜0.3 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0035】
Nb: 0.003〜0.3 質量%
Nbは、Cr,Vと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.003質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.3質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Nbを含有する場合は、その含有量は 0.003〜0.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0036】
【実施例】
表1に示す成分の厚鋼板(厚さ60mm)をスキンプレート1,ダイアフラム2として用い、JIS規格SN490 相当のフラットバーを側板3として用いて、図1に示すように組み立てて溶接継手を作製した。溶接は線径1.6mm の溶接用ワイヤを用いて、表2に示す条件でエレクトロスラグ溶接を行なった。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
溶接の終了後、図2に示すように溶接継手の溶接金属4からシャルピー衝撃試験片5(JIS規格Z2202 に準拠した2mmVノッチ試験片)を採取した。なお、シャルピー衝撃試験片5のノッチ位置は、スキンプレート1の板厚方向で溶接金属4の幅が最大となる部位の溶接金属4中心部とした。
このシャルピー衝撃試験片5を用いて、JIS規格Z2242 に準拠した衝撃試験を行なった。試験温度は0℃とし、シャルピー吸収エネルギー VEO (J)を測定した。発明例1〜24,比較例1〜23について、それぞれ3本のシャルピー衝撃試験片5を用いて VEO (J)を測定し、その平均値を表3,表4に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
発明例1〜24は、いずれも VEO が70J以上であり、良好な靭性を有する溶接金属4が得られた。
一方、 本発明の範囲を外れる成分の溶接金属となる比較例1〜23は、 VEO が70J未満であり、溶接金属4の靭性が劣化した。
このように本発明を適用して大入熱エレクトロスラグ溶接を行なうと、良好な靭性を有する溶接金属が得られることが確認できた。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手において、良好な靭性を有する溶接金属が安定して得られ、 溶接構造物の安全性、さらには溶接施工効率が顕著に向上し、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手を作製する際にスキンプレート,ダイアフラム,側板を組み立てた状態を模式的に示す平面図である。
【図2】シャルピー衝撃試験片の採取位置を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 側板
4 溶接金属
5 シャルピー衝撃試験片
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼板と、その大入熱エレクトロスラグ溶接によって生じた溶融メタルが凝固した溶接金属とからなる溶接継手に関するものであり、詳しくは溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって得られた溶接金属が良好な靭性を有する溶接継手に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地震による建築物等の鋼構造物の脆性破壊を防止する観点から、溶接部の高靭性化の要求が高まっている。鉄骨構造に用いられる溶接法としては、ガスシールドアーク溶接,サブマージアーク溶接,エレクトロスラグ溶接等がある。これらの溶接法のうち、エレクトロスラグ溶接は、一般に鉄骨ダイアフラムや仕口部の立向き溶接に用いられ、他の溶接法に比べて大きい入熱で高能率の溶接が可能である。
【0003】
たとえばダイアフラムの板厚が60mm程度になると、1パスでエレクトロスラグ溶接を行なった場合、溶接入熱は1000kJ/cm程度と非常に大きくなる。このような大入熱の溶接では、溶接時の溶接金属の冷却速度が小さくなり、溶接金属の焼入れ性が低下する。その結果、ミクロ組織が粗大となり、溶接金属の靭性が低下するという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、たとえば特開昭59−179289 号公報には、C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,Vの含有量を規定し、かつそれらの含有量からTSE=41C+5Si+8Mn+28Cu+5Ni+2Cr+7Mo+32Vで算出されるTSE値が28以上となるように成分を調整した極厚低合金高張力鋼板用エレクトロスラグ溶接ワイヤが開示されている。この技術では、極厚鋼板のエレクトロスラグ溶接で53kg/mm2 (すなわち519MPa)以上の引張強さと−20℃でのシャルピー吸収エネルギーが3 kgf・m(すなわち29.4J)以上を有するエレクトロスラグ溶接金属が得られるとしている。
【0005】
また特開平9−136710号公報には、エレクトロスラグ溶接において、母材(すなわち鋼板)と溶接用ワイヤと当金との溶融で形成される溶接金属の珪素含有量が0.16〜0.20重量%の範囲内となるように、珪素含有量の少ない材質の溶接用ワイヤを使用するとともに、当金の珪素含有量を母材と溶接用ワイヤの珪素含有量とに対応させて調整するエレクトロスラグ溶接金属の珪素調整方法が提案されている。
【0006】
また特許第2892575 号公報には、C,Si,Mn,P,S,Tiを適正範囲内で含み、かつMn≧3(C+Si+Mo+Ti)を満足する非消耗ノズル式エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。
しかし特開昭59−179289 号公報,特開平9−136710号公報,特許第2892575 号公報に記載された技術で得られる溶接金属は、シャルピー吸収エネルギーが試験温度0℃ないし−20℃で30J程度と、十分な靭性を有しているとは言い難い。
【0007】
このような問題に対して、たとえば特開2002−79396号公報には、C,Si,Mn,Mo,Ni,Bを適正範囲内で含有し、 N,O含有量を低減した大入熱エレクトロスラグ溶接ワイヤが提案されている。この技術では、溶接金属のオーステナイト粒径を制御し、Bのオーステナイト粒界への偏析作用を利用することにより、優れた溶接金属靭性が得られるとしている。
【0008】
しかしながら大入熱エレクトロスラグ溶接では、母材希釈率が高く、また種々の組成の鋼板が使用されるため、特開2002−79396号公報に記載された溶接用ワイヤを利用しても溶接金属の組織の微細化が不十分になる場合があり、高靭性の溶接金属を安定して得ることは困難であると推察される。
エレクトロスラグ溶接と同様に、大入熱溶接として用いられるサブマージアーク溶接においては、溶接金属を微細なアシキュラーフェライト組織とすることで高靭性化を達成する技術が良く知られている。溶接金属のアシキュラーフェライト化については、数多くの検討がなされ、溶接金属中にTiを含む酸化物系介在物を数多く分散させることによって、酸化物系介在物ないしその周辺からアシキュラーフェライトが生成するという知見が得られている。
【0009】
しかしながら、エレクトロスラグ溶接は立向きで極めて溶接速度が遅く、溶融メタル中の脱酸反応が促進されることに加え、溶融メタル中の酸化物が浮上して大部分がスラグとして排出され、溶融メタル中の酸素量が低くなり、 酸化物系介在物の多量分散が困難となる。そのためサブマージアーク溶接のように、アシキュラーフェライト主体の組織にして高い靭性を得ることは困難であった。
【0010】
【特許文献1】
特開昭59−179289 号公報
【特許文献2】
特開平9−136710号公報
【特許文献3】
特許第2892575 号公報
【特許文献4】
特開2002−79396号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題を解消し、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手であって、靭性に優れた溶接金属を有する溶接継手を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶接入熱 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して溶接継手を作製し、得られた溶接継手の溶接金属の靭性向上について鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得るに至った。
大入熱エレクトロスラグ溶接においては、極めて低速の立向き溶接となるため、高靭性が得られる微細なアシキュラーフェライト組織とするために必須とされるTiを含む酸化物系介在物を溶接金属中に分散させることが困難である。
【0013】
そこでTi酸化物に代わるフェライト生成核として、BNに着目した。BNはTi酸化物に比較してフェライト生成核としての機能が低いといわれているが、大入熱エレクトロスラグ溶接においては溶融メタルの凝固速度,溶接金属の冷却速度が遅いので、溶接金属中のBとNが結合して容易にBNを形成する。溶接金属中へのBとNの添加は、溶接用ワイヤからの添加および鋼板の希釈を利用して行なうことができる。したがって大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属中にBとNを添加し、BNを析出物として多量に分散させることは、Ti酸化物の分散に比べて容易である。
【0014】
またBについては、旧オーステナイト粒界への偏析を利用して、粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果が知られている。この効果を得るためには、溶接金属中に固溶状態で存在するフリーBを確保することが必要である。そこでBN形成のために添加するB量とN量を調整して、溶接金属中にフリーBを残存させれば、BNによるフェライト生成を促進する効果に加えて、粒界フェライトの生成を抑制する効果が得られる。その結果、溶接金属の組織が微細化され、靭性の向上が達成できる。
【0015】
このように大入熱エレクトロスラグ溶接においては、溶接金属中に各種合金元素を添加し、溶接金属の焼入れ性を調整するとともに、適正量のBとNを添加することによって、BNを形成させて微細フェライトの生成を促進し、かつフリーBの粒界偏析による粗大な粒界フェライトの生成を抑制することができる。この微細フェライトの生成を促進する効果と粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果の相乗作用によって、微細なミクロ組織を有する高靭性の溶接金属が得られる。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであって、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と前記鋼板とからなる溶接継手であって、前記溶接金属が、C:0.02〜0.20質量%,Si:0.05〜1.20質量%,Mn: 0.5〜2.5 質量%,Al: 0.002〜0.05質量%,Mo:0.05〜1.2 質量%,Ti: 0.005〜0.050 質量%,B:0.0010〜0.010 質量%,N:0.0025〜0.0085質量%,O: 0.010〜0.030 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ前記溶接金属に含有されるBとNの含有量を用いて下記の (1)式で表わされるB/N値が 0.4〜1.2 の範囲内を満足することを特徴とする大入熱エレクトロスラグ溶接継手である。
【0017】
B/N=[B]/[N] ・・・ (1)
[B]:B含有量(質量%)
[N]:N含有量(質量%)
また本発明では、溶接金属が、前記組成に加えて、Ni:0.05〜2.0 質量%を含有することが好ましい。
【0018】
また溶接金属が、前記組成に加えて、Cu:0.05〜1.0 質量%を含有することが好ましい。
また溶接金属が、前記組成に加えて、Cr:0.03〜2.0 質量%,V: 0.003〜0.3 質量%およびNb: 0.003〜0.3 質量%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明を適用する溶接金属の成分を規定した理由について説明する。
C:0.02〜0.20質量%
Cは、溶接金属の強度を増加し、かつ焼入れ性を向上させる元素であるが、C含有量が0.02質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。 一方、 0.20質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化や島状マルテンサイトの生成により溶接金属の靭性が劣化する。 このため、Cは0.02〜0.20質量%の範囲に限定した。
【0020】
Si:0.05〜1.20質量%
Siは、脱酸作用を有するとともに溶接金属の強度を向上させ、さらに溶融メタルの湯流れ性を向上させる元素である。このような効果はSi含有量が0.05質量%以上で認められる。一方、 1.20質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Siは0.05〜1.20質量%の範囲に限定した。
【0021】
Mn: 0.5〜2.5 質量%
Mnは、溶接金属の強度を確保し、かつ溶接金属の焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が 0.5質量%未満では、十分な焼入れ性が得られない。一方、 2.5質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベイナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Mnは 0.5〜2.5 質量%の範囲に限定した。
【0022】
Al: 0.002〜0.05質量%
Alは、脱酸元素であり、溶融メタル中での脱酸作用を促進させるために溶接用ワイヤに含有させる。溶融メタルの脱酸反応が不十分であると、溶接金属中の酸素が増加し、固溶状態で含有されるべき元素であるSi,Mn,B等が酸化物となり、溶接金属の焼入れ性低下,靭性劣化が生じる。このため、Alは 0.002質量%以上含有させる。しかし、0.05質量%を超えて含有すると、溶接金属中に Al2O3 が多量に形成され、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物の生成を阻害するのみならず、溶接金属中に破壊発生の起点となる粗大な酸化物系介在物を内在させることになり、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Alは 0.002〜0.05質量%の範囲に限定した。
【0023】
Mo:0.05〜1.2 質量%
Moは、溶接金属の強度を向上させ、かつ溶接金属の焼入れ性を増加し、変態時にアシキュラーフェライトの生成を促進し、溶接金属の組織を微細化させる元素である。このような効果を得るためには、 0.05質量%以上の含有を必要とする。一方、 1.2質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する可能性があり、しかも過剰な硬化が生じて溶接金属の靭性が劣化する。このため、Moは0.05〜1.2 質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0024】
Ti: 0.005〜0.050 質量%
Tiは、溶融メタル中で酸化物を形成し、その酸化物を核として微細なアシキュラーフェライトが生成し、溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。本発明ではBNを核とするアシキュラーフェライト生成を主眼とするが、Ti酸化物の導入を併用することによってその効果は一層高められる。Ti含有量が 0.005質量%未満では、酸化物が十分に生成せず、溶接金属の靭性向上の効果が得られない。一方、 0.050質量%を超えて含有すると、Tiが溶接金属中で固溶元素として働くので、溶接金属が硬化して靭性の劣化を招く。このため、Tiは 0.005〜0.050 質量%の範囲に限定した。
【0025】
B:0.0010〜0.010 質量%
Bは、溶接金属の焼入れ性を向上させ、溶接金属の靭性を向上させる元素である。また、Bは溶接金属中でBNとなってNを固定し、固溶Nによる溶接金属の靭性の劣化を防止するとともに、BNを核とするアシキュラーフェライトの生成を促進して溶接金属の組織を微細化し、靭性を向上させる効果がある。しかも、Bは旧オーステナイト粒界に偏析して粗大な初析フェライトの成長を抑制する作用を有しており、溶接金属の靭性を一層向上させる効果も有する。このようなBの効果を得るためには、溶接金属中にある程度の量のBNを生成させる必要があり、Bは0.0010質量%以上含有する必要がある。一方、 0.010質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生しやすくなる。このため、Bは0.0010〜0.010 質量%の範囲に限定した。
【0026】
N:0.0025〜0.0085質量%
Nは、溶接金属中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させる元素である。本発明ではBと結合して生成されるBNを核としてアシキュラーフェライトの生成を促進するために0.0025質量%以上含有させる。しかし、0.0085質量%を超えて含有すると、溶接金属中のフリーNを抑制するために過剰にBを添加することになり、溶接金属の靭性を劣化させ、かつ高温割れが発生する危険性が増大する。このため、Nは0.0025〜0.0085質量%以下とする。
【0027】
O: 0.010〜0.030 質量%
Oは、アシキュラーフェライト生成の核となるTi酸化物を形成するために、 0.010質量%以上含有する必要がある。しかし、 0.030質量%を超えて含有すると、溶接金属中のOが過剰となり、溶接金属の焼入れ性を低下させるばかりでなく、溶接金属中で破壊の起点となる粗大な酸化物を多量に内在させることになり、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Oは 0.010〜0.030 質量%の範囲に限定した。
【0028】
B/N: 0.4〜1.2
本発明においては、溶接金属中のアシキユラーフェライト生成の核としてBNを利用するためにBおよびNを添加する。ただし、フリーNによる溶接金属の靭性劣化を防止し、フリーBによる粗大な粒界フェライトの生成を抑制する効果を利用するためには、BとNの各々の含有量のみならず、BとNの含有量のバランスを適正範囲に維持する必要がある。そこで、BとNの含有量のバランスを示す指標として、溶接金属中のB含有量とN含有量とを用いて下記の (1)式から算出されるB/N値を用いる。
【0029】
B/N=[B]/[N] ・・・ (1)
[B]:B含有量(質量%)
[N]:N含有量(質量%)
B/N値が 0.4未満では、溶接金属中のNが過剰となり、粗大な粒界フェライトが生成するばかりでなく、フリーNが存在するために溶接金属の靭性が劣化する。一方、 B/N値が 1.2を超えると、溶接金属中のBが過剰となり、フリーBの増加による焼入れ性の増加や島状マルテンサイトの生成による靭性の劣化が生じる。このため、B/N値は 0.4〜1.2 の範囲に限定した。
【0030】
上記した成分に加えて、本発明では、溶接金属中に、さらにNi:0.05〜2.0 質量%および/またはCu:0.05〜1.0 質量%を含有することができる。
また、Cr:0.03〜2.0 質量%,V: 0.003〜0.3 質量%およびNb: 0.003〜0.3 質量%のうちの1種または2種以上を含有することができる。
これらのNi,Cu,Cr,V,Nbは、いずれも大入熱溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0031】
Ni:0.05〜2.0 質量%
Niは、溶接金属の強度と靭性を向上させる元素として0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 2.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する危険性が増大するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Niを含有する場合は、その含有量は0.05〜2.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
Cu:0.05〜1.0 質量%
Cuは、溶接金属の強度と焼入れ性を向上させる元素であり、鋼板および溶接用ワイヤ(すなわち鋼素線とめっき層)から溶接金属に添加される。溶接金属の強度を確保し、かつ焼入れ性を高めて靭性を向上させるためには0.05質量%以上含有することが好ましい。一方、 1.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生する危険性が増大するばかりでなく、上部ベイナイトあるいはマルテンサイト相が生成して、溶接金属の靭性を劣化させる。このため、Cuを含有する場合は、その含有量は0.05〜1.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0033】
Cr:0.03〜2.0 質量%
Crは、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上させるために、0.03質量%以上含有することが好ましい。一方、 2.0質量%を超えて含有すると、溶接金属の高温割れが発生するばかりでなく、上部ベーナイト相あるいはマルテンサイト相が生成して、 溶接金属の靭性が劣化する。このため、Crを含有する場合は、その含有量は0.03〜2.0 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0034】
V: 0.003〜0.3 質量%
Vは、Crと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.003質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.3質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Vを含有する場合は、その含有量は 0.003〜0.3 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0035】
Nb: 0.003〜0.3 質量%
Nbは、Cr,Vと同様に、大入熱エレクトロスラグ溶接において、溶接金属の強度を向上させ、組織を微細化して靭性を向上させる。このような効果を得るためには、 0.003質量%以上含有することが好ましい。一方、 0.3質量%を超えて含有すると、溶接金属が硬化して、靭性が劣化する。このため、Nbを含有する場合は、その含有量は 0.003〜0.5 質量%の範囲に限定することが好ましい。
【0036】
【実施例】
表1に示す成分の厚鋼板(厚さ60mm)をスキンプレート1,ダイアフラム2として用い、JIS規格SN490 相当のフラットバーを側板3として用いて、図1に示すように組み立てて溶接継手を作製した。溶接は線径1.6mm の溶接用ワイヤを用いて、表2に示す条件でエレクトロスラグ溶接を行なった。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
溶接の終了後、図2に示すように溶接継手の溶接金属4からシャルピー衝撃試験片5(JIS規格Z2202 に準拠した2mmVノッチ試験片)を採取した。なお、シャルピー衝撃試験片5のノッチ位置は、スキンプレート1の板厚方向で溶接金属4の幅が最大となる部位の溶接金属4中心部とした。
このシャルピー衝撃試験片5を用いて、JIS規格Z2242 に準拠した衝撃試験を行なった。試験温度は0℃とし、シャルピー吸収エネルギー VEO (J)を測定した。発明例1〜24,比較例1〜23について、それぞれ3本のシャルピー衝撃試験片5を用いて VEO (J)を測定し、その平均値を表3,表4に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
発明例1〜24は、いずれも VEO が70J以上であり、良好な靭性を有する溶接金属4が得られた。
一方、 本発明の範囲を外れる成分の溶接金属となる比較例1〜23は、 VEO が70J未満であり、溶接金属4の靭性が劣化した。
このように本発明を適用して大入熱エレクトロスラグ溶接を行なうと、良好な靭性を有する溶接金属が得られることが確認できた。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接継手において、良好な靭性を有する溶接金属が安定して得られ、 溶接構造物の安全性、さらには溶接施工効率が顕著に向上し、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接継手を作製する際にスキンプレート,ダイアフラム,側板を組み立てた状態を模式的に示す平面図である。
【図2】シャルピー衝撃試験片の採取位置を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
1 スキンプレート
2 ダイアフラム
3 側板
4 溶接金属
5 シャルピー衝撃試験片
Claims (4)
- 溶接入熱が 400kJ/cm以上の大入熱エレクトロスラグ溶接によって鋼板を溶接して得られる溶接金属と前記鋼板とからなる溶接継手であって、前記溶接金属が、C:0.02〜0.20質量%、Si:0.05〜1.20質量%、Mn: 0.5〜2.5 質量%、Al: 0.002〜0.05質量%、Mo:0.05〜1.2 質量%、Ti: 0.005〜0.050 質量%、B:0.0010〜0.010 質量%、N:0.0025〜0.0085質量%、 O: 0.010〜0.030 質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ前記溶接金属に含有されるBとNの含有量を用いて下記の (1)式で表わされるB/N値が 0.4〜1.2 の範囲内を満足することを特徴とする大入熱エレクトロスラグ溶接継手。
B/N=[B]/[N] ・・・ (1)
[B]:B含有量(質量%)
[N]:N含有量(質量%) - 前記溶接金属が、前記組成に加えて、Ni:0.05〜2.0 質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の大入熱エレクトロスラグ溶接継手。
- 前記溶接金属が、前記組成に加えて、Cu:0.05〜1.0 質量%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の大入熱エレクトロスラグ溶接継手。
- 前記溶接金属が、前記組成に加えて、Cr:0.03〜2.0 質量%、V: 0.003〜0.3 質量%およびNb: 0.003〜0.3 質量%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1、2または3に記載の大入熱エレクトロスラグ溶接継手。
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A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20061219 |