JP2005240069A - Bh性と成形性とに優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Abstract
【課題】 BH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを再現性良く兼備させたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【解決手段】 質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金板において、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲とし、BH性と、曲げ性、成形性を再現性良く兼備させることとする。
【選択図】 図1
【解決手段】 質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金板において、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲とし、BH性と、曲げ性、成形性を再現性良く兼備させることとする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、焼付け塗装硬化性などのBH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを再現性良く兼備させたアルミニウム合金板(以下、アルミニウムを単にAlとも言う)に関するものである。
従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、成形性や焼付硬化性に優れたAl合金板が使用されている。
特に、自動車などの輸送機の車体分野では、近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、自動車の車体に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、より軽量なAl合金板適用が増加しつつある。
この内、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、薄肉でかつ高強度Al合金板として、Al-Mg-Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に6000系と言う) のAl合金板の使用が検討されている。
6000系Al合金板は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効( 硬化) 処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できるBH性 (ベークハード性、人工時効硬化能、塗装焼付硬化性) がある。
また、6000系Al合金板は、Mg量などの合金量が多い、他の5000系のAl合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系Al合金板のスクラップを、Al合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系Al合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
一方、前記自動車パネル構造体の用途分野では、Al合金板を張出や絞りあるいはトリム等のプレス成形してパネル化する。近年、Al合金板の自動車パネルへの採用に伴い、形状がより複雑な、成形が難しいパネルへの適用も多くなってきている。例えば、張出成形されるパネル形状は、張出高さや張出面積などが大型化し、しかも形状が伸びフランジ変形を伴うような湾曲部位を有するなど複雑化する傾向にある。このため、成形時の割れ、肌荒れなどの成形不良がより生じ易くなり、このような用途には、Al合金板に、特に伸びフランジ性が良いことが要求される。
そして、前記自動車パネルの内、外板 (アウタパネル) では、上記プレス成形の後に、内板 (インナパネル) と接合してパネル構造体とするために、加工条件の厳しいフラットヘム加工と呼ばれる180 °曲げ加工等の厳しい曲げ成形が複合して施される。このフラットヘム加工は、アウタパネルの縁を折り曲げて (180 度折り返して) インナパネルの縁との接合を行うヘム( ヘミングの別称) 加工と呼ばれる厳しい曲げ加工である。
ただ、Al合金アウタパネルのフラットヘム加工においては、従来の鋼板パネルのフラットヘム加工に比して、形成されるフラットヘムの縁曲部 (ヘム部、折り曲げ部) には、肌荒れ、微小な割れ、比較的大きな割れ等の不良が生じ易くなる。そして、これらの不良が生じた場合、アウタパネルとしての適用ができなくなる。
このため、これら自動車などのアウタパネル用途向けの、6000系Al合金板には、プレス成形とともに曲げ成形性 (曲げ加工性) が要求される。また、自動車アウタパネルなどでは、軽量化のために、より薄肉化される傾向にあり、薄肉化した上で、耐デント性に優れるような、高強度化が求められる。
したがって、この種パネル構造体用途向けの、6000系Al合金板には、プレス成形性やヘム加工性に対する高成形性、高BH性 (高強度性) などを兼備することが、高耐食性や高溶接性などとともに、要求される。
このような用途向けの、6000系Al合金板には、従来から、BH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを向上させるために、Cuを0.3 〜2.0%程度含有させることが汎用されている (この目的でCuを含有させた特許文献は多数あり、例えて挙げれば、特許文献1、2、3 参照)。Cuは、比較的低温短時間の時効処理条件で、Al合金板組織へのMg/Si クラスターとβ" 相析出を促進させる塗装焼付硬化性を向上効果や、時効処理状態で固溶し、プレス成形性を向上させる効果もある。
特開2001-152302 号公報 (請求項)
特開2002-356730 号公報 (請求項)
特開2002-146462 号公報 (請求項)
しかし、これらCuを含有させた6000系Al合金板において、Cuを同量程度含有させても、必ずしも、BH性と、曲げ成形性、プレス成形性を同時に向上させることができるとは限らなかった。これは、板の製造工程における実際の条件の違いや振れなどに起因して、6000系Al合金板組織中におけるCuのミクロ的な (局所的な) 存在形態や構造が異なっているものと推考される。したがって、このCuのミクロ的な存在形態や構造と、上記Al合金板の諸特性との関係が分かれば、再現性良く、上記Al合金板の諸特性を向上させることができる。
しかし、通常の組織解析に利用されるSEM やTEM などの顕微鏡解析では、倍率を大きくしても、Cuのミクロ的な存在形態や構造である、Cuの原子構造レベルでの詳細な把握は難しい。また、X線回折試験などでも、Cuの原子構造レベルでの、結晶化する前のクラスター(原子の集団)等の情報を得ることはできない。
これに対して、XAFS解析法は、測定対象物のX線の吸収スペクトルを解析することにより、原子構造に関する情報が得られる。このXAFS解析法を用いて、鋼材表面の耐候性に関連の深いさび層の原子の並び(鉄原子の周りの動径分布)を求めた例が報告されている (特許文献4) 。また、液晶表示板配線材料用Al-Nd 合金薄膜のNd周りのAl-Nd の構造解析を求めた例が報告されている (非特許文献1) 。
特開2002−256463号公報([0012] 〜[0023])
検査技術 2000.1.「第6 回電子材料の局所的構造の解析技術」(36 〜39 頁)
しかし、このXAFS解析法を用いて、Cuを含有する6000系Al合金板組織中におけるCuの原子構造レベルでの存在形態や構造を、上記Al合金板の諸特性との関係で明確に解析したものは、これまでない。
したがって、Cuを含有させた6000系Al合金板において、組織中におけるCuの原子構造レベルでの存在形態や構造を解析して、BH性と、曲げ成形性、プレス成形性を同時に、しかも再現性良く製造可能とした例は、これまで無かったのが実情である。
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、焼付け塗装硬化性などのBH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを再現性良く兼備させたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
この目的を達成するために、本発明のBH性と成形性とに優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金板において、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲であることとする。
なお、本発明で言うAl合金板とは、冷間圧延後に調質処理を施したAl合金板であって、プレス成形や曲げ加工に供される前のAl合金板を言う。
本発明では、Al合金板組織中における、Cuのミクロ的な (局所的な) 存在形態や構造を、Cuの原子構造レベルで把握する手法として、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure、X線吸収微細構造)解析法を用いた。
これは、Cuを含有するAl合金板組織中におけるCuの原子構造レベルでの存在形態や構造が、Al合金板の特性(BH 性、曲げ性、伸びフランジ性) と相関していると推考したからである。そして、前記した通り、通常の組織解析に利用されるSEM やTEM などの顕微鏡解析、あるいは、X線回折試験などでも、Cuの原子構造レベルでの詳細な把握は難しいからである。
XAFS解析法による結果、Cuを含有する例えば6000系などのAl合金板において、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲にある場合に、Al合金板の特性(BH 性、曲げ性、伸びフランジ性) が向上する。
したがって、上記XAFS解析法によって規定されるように、Cuを含有するAl合金板を作り込めば、焼付け塗装硬化性などのBH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを再現性良く兼備させたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を得ることができる。
以下に、本発明Al合金板の実施態様につき具体的に説明する。
(XAFS 解析法)
先ず、XAFS解析法による材料の構造解析の原理を以下に説明する。X線の光子エネルギーを増加させながら、材料の吸収率を測定すると、X線の光子エネルギーの増加に対応して減少する。しかし、材料に特定なあるX線の光子エネルギー(X線吸収端)においてその吸収率が急激に増加するX線の光子エネルギーが存在する。この際、X線の吸収によって発生した光電子の一部が、複数の原子による散乱と干渉によって、X線の吸収量に対して構造情報として反映される。したがって、材料のX線の吸収量をモニタすれば、材料の原子構造に関する情報が得られる。
(XAFS 解析法)
先ず、XAFS解析法による材料の構造解析の原理を以下に説明する。X線の光子エネルギーを増加させながら、材料の吸収率を測定すると、X線の光子エネルギーの増加に対応して減少する。しかし、材料に特定なあるX線の光子エネルギー(X線吸収端)においてその吸収率が急激に増加するX線の光子エネルギーが存在する。この際、X線の吸収によって発生した光電子の一部が、複数の原子による散乱と干渉によって、X線の吸収量に対して構造情報として反映される。したがって、材料のX線の吸収量をモニタすれば、材料の原子構造に関する情報が得られる。
更に具体的には、蛍光X線のビームライン上に物質をおいた場合、物質に照射されたX線強度(入射X線強度:I0)と物質を通過してきたX線強度(蛍光X線強度:I t )とから、その物質によるX線の吸収量(X線吸収係数μ)が、μt=In(I0/I t ) より算出される (但し、t:試料厚さ) 。
ここで、上記物質であるCuを含有するAl合金板に入射するX線光子エネルギー(波長)を変化させ、X線吸収係数μの増減をモニタ (スキャン) しながら、着目原子であるCuのX線吸収スペクトルを測定する。すると、特定なX線の光子エネルギーにおいて、X線吸収係数が最大となる、急激な立ち上がり(Cu原子の吸収端:Cu のK 吸収端)が観測される。これは、入射X線の光子エネルギーが着目原子であるCuの内殻電子の結合エネルギーに匹敵する強さになると、入射X線の励起エネルギーとCuの内殻電子の結合エネルギーとの差に相当する運動エネルギーを持った光電子が放出されるためである。
この吸収端のエネルギー位置は、例えばCuなど、各元素に固有である。このため、この吸収端付近のエネルギー領域で構造情報を抽出できれば、それは元素固有の情報であることを意味する。
(Cu のXANES)
このような吸収端の光子エネルギーで現れる微細構造を、XAFSの中でも、X線吸収端近傍微細構造(XANES:X-ray Absorption Near Edge Structure )と言い、この微細構造のX線吸収スペクトルをXANES スペクトルと言う。そして、蛍光X線収量法によるXAFS測定では、このようなCu原子の吸収端のXANES スペクトルを選択的に測定することができる。
このような吸収端の光子エネルギーで現れる微細構造を、XAFSの中でも、X線吸収端近傍微細構造(XANES:X-ray Absorption Near Edge Structure )と言い、この微細構造のX線吸収スペクトルをXANES スペクトルと言う。そして、蛍光X線収量法によるXAFS測定では、このようなCu原子の吸収端のXANES スペクトルを選択的に測定することができる。
図1 に、本発明の後述する実施例 (表1、2の発明例5 、比較例15) の各Al合金板におけるCuのX線吸収スペクトルA の測定結果を示す。図1 において、縦軸が上記X線吸収係数μ[ μt=In(I0/I t )]であり、横軸がX 線の光子エネルギー(keV) である。そして、図1 において、CuのX線吸収係数が最大となる急激な立ち上がりが、 Bで示すCuのK 吸収端XANES スペクトルである。図1 において、発明例5 の場合は、CuのX線吸収係数が最大となる立ち上がりが、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲にある。その一方で、比較例15の場合はCuのX線吸収係数が最大となる立ち上がりが、この範囲から外れていることが分かる。
(Al 合金板特性とCuのXANES との関係)
Cuを含有するAl合金板において、前記光電子の放出は、着目原子であるCu原子自体の安定度や、Cu原子の周りに存在するAl、Mg、Siなどの原子などとの結合状態によって、大きく干渉を受ける。即ち、Cu原子自体の安定度や、Cu原子の周りに存在するAl、Mg、Siなどの原子などとの結合状態によって、Cu原子の原子価が変化しているからである。このCu原子の原子価が変化すると、前記したX線吸収係数が最大となる急激な立ち上がりである、Cu原子の吸収端位置が、X線の光子エネルギーによって、大きく変化する。
Cuを含有するAl合金板において、前記光電子の放出は、着目原子であるCu原子自体の安定度や、Cu原子の周りに存在するAl、Mg、Siなどの原子などとの結合状態によって、大きく干渉を受ける。即ち、Cu原子自体の安定度や、Cu原子の周りに存在するAl、Mg、Siなどの原子などとの結合状態によって、Cu原子の原子価が変化しているからである。このCu原子の原子価が変化すると、前記したX線吸収係数が最大となる急激な立ち上がりである、Cu原子の吸収端位置が、X線の光子エネルギーによって、大きく変化する。
一方、前記した通り、Cuのミクロ的な存在形態や構造である、Cuの原子構造レベルはCu原子自体の安定度や、Cu原子の周りに存在するAl、Mg、Siなどの原子などとの結合状態であり、このCu原子の原子価の変化となって現れる。
したがって、X線吸収係数が最大となるCuのK 吸収端のX線吸収スペクトル(XANESスペクトル) における、X線の光子エネルギーの大きさ(keV) は、Al合金板の特性(BH 性、曲げ性、伸びフランジ性) と相関する。
このため、Cuを含有する、例えば6000系などのAl合金板において、上記X線の光子エネルギーの大きさが分かれば、Al合金板の特性(BH 性、曲げ性、伸びフランジ性) の評価ができる。そして、Al合金板の特性が良くなるような、上記X線の光子エネルギーの大きさとなるように、Al合金板を作り込むことによって、BH性と成形性とに優れたAl合金板を得ることができる。
(Al 合金板特性とCuのXANES との関係)
本発明では、BH性と成形性とに優れたAl合金板を得るために、Cuを含有するAl合金板の、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギーを9.000keV以上、9.010keV以下の範囲とする。
本発明では、BH性と成形性とに優れたAl合金板を得るために、Cuを含有するAl合金板の、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギーを9.000keV以上、9.010keV以下の範囲とする。
規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーが9.000keV未満の場合には、Cu原子の原子価が少な過ぎる。即ち、塗装焼付硬化などの、人工時効処理前に (プレス成形や曲げ成形成形前に) 、Al合金板組織へのAl-Cu 系などのクラスターの形成が不足していることを意味していると推考される。したがって、BH性、曲げ性、伸びフランジ性などが共に低下する。
一方、規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーが9.010keVを超えた場合は、Cu原子の原子価が多過ぎる。即ち、塗装焼付硬化などの、人工時効処理前に (プレス成形や曲げ成形成形前に) 、既に、Al合金板組織へのAl-Cu 系などが過剰に析出していると推考される。したがって、この場合も、BH性、曲げ性、伸びフランジ性などが共に低下する。
ここで、規格化吸収量とは、測定条件の差異等の外乱を最小限に押さえるために、X 線吸収スペクトル中の、CuのK 吸収端より低エネルギー側を、バックグラウンド領域として、多項式関数により除去し、その後CuのK 吸収端より高エネルギー側に対して、理想的な吸収曲線を見積もり、CuのK 吸収端高さの規格化を行なったものを言う。規格化の方法としては、移動平均方法、多項式フィッティング法、区分キュービックスブライン法、スプラインスムージング法が汎用される。その後、1 原子当たりのEXAFS 振動を出すために吸収曲線をエッジジャンプで割り、CuのK 吸収端高さの規格化を行なう。
(規格化吸収量とX 線の相対強度)
なお、Cuを含有するAl合金板の特性、特にBH性を向上させるために、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、前記規格化吸収量の最大値は、Al合金板に照射されるX 線の相対強度の1.2 倍以下であることが好ましい。前記規格化吸収量は、Cu原子の単位格子当たりの配位数によって変化する。この配位数が多いほど、X 線の吸収量も多くなるため、前記規格化吸収量の最大値も大きくなる。
なお、Cuを含有するAl合金板の特性、特にBH性を向上させるために、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、前記規格化吸収量の最大値は、Al合金板に照射されるX 線の相対強度の1.2 倍以下であることが好ましい。前記規格化吸収量は、Cu原子の単位格子当たりの配位数によって変化する。この配位数が多いほど、X 線の吸収量も多くなるため、前記規格化吸収量の最大値も大きくなる。
一方で、前記BH性向上に寄与するAl-Cu 系、Mg、Siを含む場合にはMg-Si 系、などの化合物の析出核を増加させるためには、このCu原子の単位格子当たりの配位数を低下させることが有効である。したがって、より優れたBH性を得るためには、前記規格化吸収量の最大値を、好ましくは、X 線の相対強度の1.2 倍以下、より好ましくは、X 線の相対強度の1.15倍以下、とする。
(XAFS 測定方法)
以上述べた、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトル (規格化吸収量が最大値を示す際のX 線の光子エネルギー) の測定には、(財)高輝度光科学研究センターなどの大型放射光実験施設SPring−8における、BL16B2などが好適に用いられる。また、市販のXAFS測定装置を用いても良い。
以上述べた、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトル (規格化吸収量が最大値を示す際のX 線の光子エネルギー) の測定には、(財)高輝度光科学研究センターなどの大型放射光実験施設SPring−8における、BL16B2などが好適に用いられる。また、市販のXAFS測定装置を用いても良い。
図2 に、XAFS測定装置の光学系のみの概略を示す。図2 において、ベンディングマグネット1 から取り出されたX線の放射光を、放射光光路SR中の、分光結晶2[例えば、Si(111) 2 結晶単色器(チャンネルカットモノクロメーター)] 、筒状の集光ミラー3 、4象限スリット4 などを経由して、散乱X線等の無用の光をカットする。そして、発散角の小さい細径ビーム入射X線として、実験ハッチ5 内に収容された、Cuを含有するAl合金板6 に導く。この測定対象となるAl合金板6 からの蛍光X線(Kα線)の検出には、100%Ar雰囲気下のライトル検出器7 を用いる。
そして、Cuを含有するAl合金板の常温でのCuのK 吸収端XANES スペクトルを測定する。この際、Cuを含有するAl合金板に入射するX線光子エネルギー(波長)を変化させ、X線吸収係数μの増減をモニタ (スキャン) しながら、CuのK 吸収端XANES スペクトルを測定し、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギー(keV) を算出する。
(化学成分組成)
次に、本発明Al合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。
本発明Al合金板の基本組成は、上記CuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定にするために、質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金とする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
次に、本発明Al合金板の化学成分組成の実施形態につき、以下に説明する。
本発明Al合金板の基本組成は、上記CuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定にするために、質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金とする。なお、本発明での化学成分組成の% 表示は、請求項の% 表示も含めて、全て質量% の意味である。
本発明ではCuを含有するAl合金を対象とするため、Cuを実質量含む必要がある。Cuの含有量が0.01% 未満では、上記CuのK 吸収端XANES スペクトルにより規定した組織となり得ない。また、CuのK 吸収端XANES スペクトル自体も測定できない。
また、Cuとともに、焼付け塗装硬化性などのBH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを基本的に兼備させるために、更に、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有させる。
(6000系Al合金)
この中でも、また、自動車のアウタパネルなどのパネル材としては、これらパネル材に必要な、成形性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を確保するために、6000系Al合金とすることが好ましい。即ち、本発明Al合金板の基本組成を、質量% で、Mg:0.2〜2.5%、Si:0.3〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%を含み、その他の元素を、AA乃至JIS 規格などに沿った各不純物レベルの含有量とした、残部がAlおよび不純物からなるAl合金組成とすることが好ましい。
この中でも、また、自動車のアウタパネルなどのパネル材としては、これらパネル材に必要な、成形性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を確保するために、6000系Al合金とすることが好ましい。即ち、本発明Al合金板の基本組成を、質量% で、Mg:0.2〜2.5%、Si:0.3〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%を含み、その他の元素を、AA乃至JIS 規格などに沿った各不純物レベルの含有量とした、残部がAlおよび不純物からなるAl合金組成とすることが好ましい。
ただ、本発明では、上記6000系Al合金の基本組成に対し、前記した用途に必要な諸特性を向上させるために、更に他の合金元素を含んだ、Mg:0.2〜2.5%、Si:0.3〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%を含むAl-Mg-Si系Al合金としても良い。
他の合金元素とは、具体的には、Fe:1.0% 以下、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、の内の1 種または2 種以上を選択的に含んでも良い。また、これらに加えて、あるいは、これらの代わりに、更に、Ag:0.2% 以下、Zn:1.0% 以下、の内の1 種または2 種以上を選択的に含んでも良い。
上記合金元素以外のその他の合金元素やガス成分は不純物である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら不純物元素が含有されることを許容する。
上記6000系Al合金における、各元素の好ましい含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
Si:0.3〜2.0%。
Siは、固溶強化と、成形後の塗装焼き付け処理などの、比較的低温短時間での人工時効処理時に、Mgとともに化合物相 (β")を形成して、時効硬化能を発揮し、板としての必要強度を得るための必須の元素である。したがって、プレス成形性など、パネルとしての必要諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Si:0.3〜2.0%。
Siは、固溶強化と、成形後の塗装焼き付け処理などの、比較的低温短時間での人工時効処理時に、Mgとともに化合物相 (β")を形成して、時効硬化能を発揮し、板としての必要強度を得るための必須の元素である。したがって、プレス成形性など、パネルとしての必要諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Si量が0.3%未満では、前記時効硬化能、更には、各用途に要求される、プレス成形性などの諸特性を兼備することができない。一方、Siが2.0%を越えて含有されると、プレス成形性や曲げ加工性が著しく阻害される。更に、溶接性を著しく阻害する。したがって、Siは0.3 〜2.0%の範囲とする。
Mg:0.2〜2.5%。
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、前記パネルとしての必要強度を得るための必須の元素である。
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、前記パネルとしての必要強度を得るための必須の元素である。
Mgの0.2%未満の含有では、絶対量が不足するため、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、時効硬化能を発揮できない。このため、板として必要な前記必要強度が得られない。一方、Mgが2.5%を越えて含有されると、プレス成形性や曲げ加工性等の成形性が著しく阻害される。したがって、Mgの含有量は、0.2 〜2.5%の範囲とする。
Cu:0.01%以上。
Cu は、6000系Al合金において、時効硬化速度を向上させるのに有用である。即ち、塗装焼き付け工程などの人工時効 (硬化) 処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、人工時効処理状態で固溶したCuなどは成形性を向上させる効果もある。Cuの含有量が0.01% 未満では、これらの効果が不足する。
Cu は、6000系Al合金において、時効硬化速度を向上させるのに有用である。即ち、塗装焼き付け工程などの人工時効 (硬化) 処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、人工時効処理状態で固溶したCuなどは成形性を向上させる効果もある。Cuの含有量が0.01% 未満では、これらの効果が不足する。
但し、Cu含有量が2.0%を超えて大きすぎると、粗大な化合物を形成して成形性が劣化する可能性が高い。また、自動車アウタパネルとして必要な、耐糸錆性などの耐食性も劣化する可能性が高い。したがって、Cu含有量の上限は2.0%以下とすることが好ましい。
Fe:1.0% 以下、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下、の内の1 種または2 種以上。
これらの元素は、結晶粒の微細化に有用であり、成形性を向上できる。例えば、Mn、Cr、Zr、V などは、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果がある。また、Fe、Tiなどは晶出物を生成して、再結晶粒の核となり、結晶粒の粗大化を阻止する役割を果たす。ため、微細な結晶粒を得ることができる。但し、各々含有量が大きすぎると、粗大な化合物を形成し、破壊の起点となり、成形性が却って劣化する。したがって、前記各元素を選択的に含有させる場合は、その含有量は、概ね0.1%以上の通常の6000系における各元素の不純物量以上の含有量とし、上限は各々以下の通りとする。Fe:1.0% 以下、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下。
これらの元素は、結晶粒の微細化に有用であり、成形性を向上できる。例えば、Mn、Cr、Zr、V などは、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果がある。また、Fe、Tiなどは晶出物を生成して、再結晶粒の核となり、結晶粒の粗大化を阻止する役割を果たす。ため、微細な結晶粒を得ることができる。但し、各々含有量が大きすぎると、粗大な化合物を形成し、破壊の起点となり、成形性が却って劣化する。したがって、前記各元素を選択的に含有させる場合は、その含有量は、概ね0.1%以上の通常の6000系における各元素の不純物量以上の含有量とし、上限は各々以下の通りとする。Fe:1.0% 以下、Mn:1.0% 以下、Cr:0.3% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.1% 以下。
Ag:0.2% 以下、Zn:1.0% 以下、の内の1 種または2 種。
これらの元素は、時効硬化速度を向上させるのに有用である。即ち、比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、時効処理状態で固溶したCuなどは成形性を向上させる効果もある。但し、各々含有量が大きすぎると、粗大な化合物を形成して成形性が劣化する。またCu含有量が大きすぎると耐食性も劣化する。したがって、前記各元素を選択的に含有させる場合は、その含有量は、概ね0.1%以上の通常の6000系における各元素の不純物量以上の含有量とし、上限は各々以下の通りとする。Ag:0.2% 以下、Zn:1.0% 以下。
これらの元素は、時効硬化速度を向上させるのに有用である。即ち、比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、Al合金材組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。また、時効処理状態で固溶したCuなどは成形性を向上させる効果もある。但し、各々含有量が大きすぎると、粗大な化合物を形成して成形性が劣化する。またCu含有量が大きすぎると耐食性も劣化する。したがって、前記各元素を選択的に含有させる場合は、その含有量は、概ね0.1%以上の通常の6000系における各元素の不純物量以上の含有量とし、上限は各々以下の通りとする。Ag:0.2% 以下、Zn:1.0% 以下。
(平均結晶粒径)
なお、これら組織の規定に際して、Al合金板の平均結晶粒径を50μm 以下の微細化させることが好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、曲げ加工性やプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が50μm を越えて粗大化した場合、曲げ加工性や張出などのプレス成形性が著しく低下し、成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易い。
なお、これら組織の規定に際して、Al合金板の平均結晶粒径を50μm 以下の微細化させることが好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、曲げ加工性やプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が50μm を越えて粗大化した場合、曲げ加工性や張出などのプレス成形性が著しく低下し、成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易い。
なお、ここで言う結晶粒径とは板の長手(L) 方向の結晶粒の最大径である。この結晶粒径は、Al合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。
(製造方法)
本発明Al合金板の製造方法について、以下に説明する。6000系などのAl合金板組織中におけるCuのミクロ的な (局所的な) 存在形態や構造を、上記した、CuのK 吸収端XANES スペクトルによる本発明組織規定とするためには、後述する調質処理条件を制御する。言い換えると、本発明Al合金板は、後述する調質処理条件以外は常法により製造でき、工程を大幅に変えずに製造できる点が、本発明の利点でもある。
本発明Al合金板の製造方法について、以下に説明する。6000系などのAl合金板組織中におけるCuのミクロ的な (局所的な) 存在形態や構造を、上記した、CuのK 吸収端XANES スペクトルによる本発明組織規定とするためには、後述する調質処理条件を制御する。言い換えると、本発明Al合金板は、後述する調質処理条件以外は常法により製造でき、工程を大幅に変えずに製造できる点が、本発明の利点でもある。
先ず、Al合金の溶解、鋳造工程では、本発明成分規格範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
次いで、常法により、このAl合金鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延されて、コイル状、板状などの製品熱延板とするか、更に、必要に応じて中間焼鈍を行なって冷間圧延を行い、コイル状、板状などの製品冷延板に加工する。
これら加工後の、熱延板あるいは冷延板などのAl合金板は、調質処理として、必須に溶体化および焼入れ処理で調質されて製品板とされる。用途や必要特性に応じて、更に高温での時効処理や安定化処理などの調質処理を付加して行うことも勿論可能である。
(溶体化および焼入れ処理)
本発明のCuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定とするためには、冷延板や熱延板の、溶体化処理を2 段で行なうことが好ましい。即ち、1 段目の溶体化処理後の焼入れ処理 (冷却) の途中で、Al合金板を、150 〜250 ℃の温度範囲で、10秒以上、3 分以内の時間保持する 2段目の処理を行い、2 段型の溶体化処理を行うことが好ましい。この2 段目の処理を行なわない場合、本発明のCuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定とならない可能性が高い。
本発明のCuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定とするためには、冷延板や熱延板の、溶体化処理を2 段で行なうことが好ましい。即ち、1 段目の溶体化処理後の焼入れ処理 (冷却) の途中で、Al合金板を、150 〜250 ℃の温度範囲で、10秒以上、3 分以内の時間保持する 2段目の処理を行い、2 段型の溶体化処理を行うことが好ましい。この2 段目の処理を行なわない場合、本発明のCuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定とならない可能性が高い。
1 段目の溶体化処理の条件は、後の塗装焼き付け硬化処理などの人工時効処理によりMg/Si クラスターとβ" 相を十分粒内に析出させるために、好ましくは500 ℃以上、560 ℃までの温度範囲で行う。
この1 段目の溶体化処理後に、焼入れ処理を行なうが、この際冷却速度が遅いと、粒界上にSi、MgSiなどが析出しやすくなり、プレス成形や曲げ加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いることが好ましい。
また、焼入れ処理途中の、前記2 段目の保持温度や時間が上記範囲から外れた場合も、本発明のCuのK 吸収端XANES スペクトルによる組織規定とならない可能性が高い。即ち、Al合金板組織へのAl-Cu 系などのクラスターの形成が不足したり、逆に、Al合金板組織へのAl-Cu 系などが過剰に析出することとなる可能性が高い。例えば、2 段目の温度が150 ℃未満でも、また、10秒未満の短時間過ぎても、この2 段目の処理効果が出ない可能性が高い。即ち、Cuの原子価が極めて少なく、また配位数も多い状態となる。一方、250 ℃を越える温度では、また、保持時間が3 分を超えて長過ぎると、Cu原子周りに関係なく、BH性向上に寄与するMg-Si 系、Al-Cu 系などの化合物が粗大に析出して、BH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性が低下する。したがって、2 段目の処理は、150 〜250 ℃の温度範囲、好ましくは、170 〜230 ℃の温度範囲で行う。
この2 段目の処理後に、Al合金板は再び焼入れ処理されて、室温まで冷却される。なお、これら一連の焼入れ処理後に、BH性をより高めるため、クラスターの生成を抑制し、GPゾーンの析出を促進するために、予備時効処理をしても良い。この予備時効処理は、50〜100 ℃、好ましくは60〜90℃の温度範囲に、1 〜24時間の必要時間保持することが好ましい。連続的な溶体化および焼入れ処理の場合には、前記予備時効処理の温度範囲で焼入れ処理を終了し、そのままの高温でコイルに巻き取るなどして行っても良い。また、常温までの焼入れ処理の後に、前記温度範囲に再加熱して高温でコイルに巻き取るなどしてもよい。
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示す化学成分組成の各Al合金板について、Al合金板組織中におけるCuのミクロ的な (局所的な) 存在形態や構造を、CuのK 吸収端XANES スペクトルによる本発明組織規定とするために、表2 に示すように、調質処理 (溶体化処理) 条件を種々変えて製造し、BH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性を評価した。これらの結果も表2 に示す。なお、表1 の番号(例)は、各々表2 の同じ番号(例)対応する。
Al合金板の製造は、調質処理条件以外は共通して、表1 に示す各組成の400mm 厚の鋳塊を、DC鋳造法により溶製後、550 ℃で均質化熱処理を施し、終了温度300 ℃で厚さ5mmtまで熱間圧延した。この熱間圧延板を400 ℃×4hr の中間焼鈍を施した後に、80% の冷延率で冷間圧延し、厚さ1.0mm の板を得た。
これら冷延板を表2 に示す温度で2 段階の溶体化処理を行った。なお、溶体化処理の保持時間は各例ともに共通して、1 段目、2 段目ともに約1 分間とした。そして、焼入れ終了温度 (焼入れ温度) は室温とし、この焼入れ後に70℃×2hの予備時効処理 (再加熱処理) を行った。
これら調質処理後のAl合金板から所定の大きさの試験片を各々複数枚切り出し、以下に記載する種々の測定および評価を行なった。
(規格化吸収量)
Al合金板のCuのK 吸収端XANES スペクトルは、(財)高輝度光科学研究センターの大型放射光実験施設SPring−8におけるBL16B2にて、試験片に入射するX線光子エネルギー(波長)を変化させ、X線吸収係数μの増減をモニタ (スキャン) しながら、CuのK 吸収端XANES スペクトルを測定し、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギー(keV) を算出した。スペクトル解析ソフトにはWinXAS 2.3を使用した。
Al合金板のCuのK 吸収端XANES スペクトルは、(財)高輝度光科学研究センターの大型放射光実験施設SPring−8におけるBL16B2にて、試験片に入射するX線光子エネルギー(波長)を変化させ、X線吸収係数μの増減をモニタ (スキャン) しながら、CuのK 吸収端XANES スペクトルを測定し、規格化吸収量が最大値を示す際の、X 線の光子エネルギー(keV) を算出した。スペクトル解析ソフトにはWinXAS 2.3を使用した。
また、試験片のCuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、上記規格化吸収量の最大値と、Al合金板に照射されるX 線の相対強度との比 (規格化吸収量の最大値/X線の相対強度) を求めた。
(As耐力)
上記調質処理直後の供試板の元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を、As耐力(MPa) として測定した。なお、引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
上記調質処理直後の供試板の元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を、As耐力(MPa) として測定した。なお、引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行った。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
(BH後耐力)
また、BH性 (人工時効処理能) を調査するため、これらAl合金板がパネルとしてプレス成形されることを模擬して、前記JIS 5 号試験片に、2%の歪みをあらかじめ与えた後、170 ℃×20分の人工時効硬化処理を施し、処理後の各供試板の (元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を、上記引張試験条件にて、BH後耐力 (MPa ) として測定した。
また、BH性 (人工時効処理能) を調査するため、これらAl合金板がパネルとしてプレス成形されることを模擬して、前記JIS 5 号試験片に、2%の歪みをあらかじめ与えた後、170 ℃×20分の人工時効硬化処理を施し、処理後の各供試板の (元のAl合金板の圧延方向に平行な(L方向の) 耐力 (σ0.2)を、上記引張試験条件にて、BH後耐力 (MPa ) として測定した。
なお、発明例と比較例ともに、前記室温時効後のAl合金板の前記測定方法による結晶粒径は全て50μm 以下であった。これらの結果を表2 に示す。
また、これらAl合金板が自動車用アウタパネルとして使用され、プレス成形された後に、フラットヘム加工されることを模擬して、伸びフランジ性と、張出成形後を模擬したフラットヘム性を評価した。これらの結果も表2 に示す。
(伸びフランジ性)
試験片の伸びフランジ特性評価はバーリング試験にて行った。試験条件は、先ず、1辺が100mmの正方形の試験片に直径10mmの穴を打ち抜いた。次いで、直径25mmの60°円錐ポンチを用いて、バリを上面(ダイス面)側として潤滑油として防錆油を用いて、しわ押さえ力4.0トン、ポンチ速度10m/minで、前記打抜き穴に対するバーリングを行った。
試験片の伸びフランジ特性評価はバーリング試験にて行った。試験条件は、先ず、1辺が100mmの正方形の試験片に直径10mmの穴を打ち抜いた。次いで、直径25mmの60°円錐ポンチを用いて、バリを上面(ダイス面)側として潤滑油として防錆油を用いて、しわ押さえ力4.0トン、ポンチ速度10m/minで、前記打抜き穴に対するバーリングを行った。
そして、前記打抜き穴の縁に破断が発生した段階でポンチを止め、破断後の穴内径(ds )と成形試験前の初期穴径(d0 )から、下記式によってバーリング率(λ:%)を求めた。
λ=〔(ds −d0 )/d0 〕×100(%)
なお、破断後の穴内径については、圧延方向と、圧延方向に垂直な方向でそれぞれ測定し、バーリング率を各々求めた後に平均を取って、各サンプルのバーリング率とした。さらに、各サンプルについて3回のバーリング試験を行い、その平均値を最終的にバーリング率(%)とした。この結果を表2に示す。
λ=〔(ds −d0 )/d0 〕×100(%)
なお、破断後の穴内径については、圧延方向と、圧延方向に垂直な方向でそれぞれ測定し、バーリング率を各々求めた後に平均を取って、各サンプルのバーリング率とした。さらに、各サンプルについて3回のバーリング試験を行い、その平均値を最終的にバーリング率(%)とした。この結果を表2に示す。
(曲げ加工性)
曲げ加工性評価としてのフラットヘム加工試験の条件は、長さ180mm ×幅30mmの試験片に、10% の歪みを予め加えた後、角度180 °の密着曲げ(内側曲げ半径R=約0.25mm)を行った。この密着曲げは、試験片端部を内側に180 度折り曲げ、試験片板面に密着させるものである。フラットヘム加工性は、この曲げ縁曲部表面の割れ発生程度を目視で確認し、下記基準に基づいて評価した。
曲げ加工性評価としてのフラットヘム加工試験の条件は、長さ180mm ×幅30mmの試験片に、10% の歪みを予め加えた後、角度180 °の密着曲げ(内側曲げ半径R=約0.25mm)を行った。この密着曲げは、試験片端部を内側に180 度折り曲げ、試験片板面に密着させるものである。フラットヘム加工性は、この曲げ縁曲部表面の割れ発生程度を目視で確認し、下記基準に基づいて評価した。
0:肌荒れ、及び微小な割れがない1:肌荒れが僅かに発生している、2:肌荒れが発生しているものの微小なものを含めた割れはない、3:微小な割れが発生、4:大きな割れが発生、5:大きな割れが複数或いは多数発生。この評価において、ヘム加工性が良好あるいはヘム加工条件を変えるなどしてヘム加工に使用可= 合格と判断されるのは0〜2段階までで、3〜5段階はヘム加工条件を変えてもヘム加工に使用できない不合格である。この結果を表2に示す。
表1 、2 に示す通り、発明例1 〜12は、本発明Al合金組成範囲内であって、前記した好ましい範囲の溶体化処理条件内で製造されている。この結果、表2 から明らかな通り、また、発明例5 の例を前記図1 で示した通り、発明例1 〜12は、XAFS解析法によるCuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲内である。
この結果、As耐力が130MPa以下の低耐力であって成形性を確保している上で、BH後耐力が低いものでも220MPa以上、高いものでは250MPa以上の高耐力であり、BH後耐力とAs耐力との差も大きく、焼付け塗装硬化特性 (BH性) にも優れている。上記成形性の確保は、伸びフランジ性を評価するバーリング率が低いものでも50% 以上、高いものでは70% 以上に現れている。また、更に、フラットヘム加工性評価も、低いものでも2 、高いものは0 のレベルであり、曲げ加工性にも優れている。
なお、Al合金組成が同じ、発明例3 と、発明例6 、7 、8 との比較において、発明例3 は、好ましい条件である、前記規格化吸収量の最大値/ 照射されるX 線の相対強度が1.2 倍を超えている。このため、発明例3 は、BH後耐力が231MPaと、前記規格化吸収量の最大値/ 照射されるX 線の相対強度が1.2 倍以下である発明例6 、7 、8 の238 〜243MPaに比して、比較的低い。したがって、この好ましい条件の意味が裏付けられる。
一方、比較例13〜17は、比較例15の例を前記図1 で示した通り、前記CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーが、下限9.000keVを下回るか、上限9.010keVを超えている。このため、発明例に比して、BH後耐力が220MPa未満であり、低く、BH性に劣っている。また、バーリング率も50% 未満であり、伸びフランジ性に劣っている。更に、フラットヘム加工性評価も3 〜5 のレベルであり、曲げ加工性にも劣っている。
比較例13、14は、各々Mg、Siが上限値を超えている。比較例15は1 段目の溶体化処理温度が低過ぎる。比較例16は2 段目の再加熱温度が低過ぎる。比較例17は2 段目の再加熱温度が高過ぎる。
そして、特にCuなど成分と製造条件とが、調質条件を除いて、同じである、発明例3 、6 〜8 と、比較例15〜17同士の比較において、規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーが大きく異なる。しかも、BH性、伸びフランジ性、フラットヘム加工性の特性も大きく異なる。これらの結果は、同じ合金であっても、調質条件によって、規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーが大きく異なることを示す。
また、前記規格化吸収量が最大値を示すX 線の光子エネルギーや、好ましくは前記規格化吸収量の最大値/ 照射されるX 線の相対強度によって、Al合金板が、高BH性、高伸びフランジ性、高フラットヘム加工性の諸特性を兼備することを再現性良く保障できることを示している。
本発明によれば、BH性と、曲げ性、伸びフランジ性などの成形性とを再現性良く兼備させたAl-Mg-Si系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、また、特に、自動車などの輸送機の車体パネルに、Al合金板の適用を拡大できる。
Claims (3)
- 質量% で、Cu:0.01%以上、Mg:0.01 〜6.0%、Si:0.01 〜2.0%を含有するアルミニウム合金板において、XAFS解析法による、CuのK 吸収端XANES スペクトルにおいて、規格化吸収量が最大値を示す、X 線の光子エネルギーが9.000keV以上、9.010keV以下の範囲であることを特徴とするBH性と成形性とに優れたアルミニウム合金板。
- 前記規格化吸収量の最大値が、Al合金板に照射されるX 線の相対強度の1.2 倍以下である請求項1に記載のBH性と成形性とに優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、質量% で、Mg:0.2〜2.5%、Si:0.3〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%を含むAl-Mg-Si系アルミニウム合金からなる請求項1または2に記載のBH性と成形性とに優れたアルミニウム合金板。
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