JP2005239860A - 温度応答性ハイドロゲル - Google Patents

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英一 北薗
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Abstract

【課題】生体吸収性及び生体親和性に優れた温度応答性ハイドロゲルを提供する。
【解決手段】130〜550の繰り返し単位を有するアルギン酸と特定構造および特定の分子量を有するポリアルキレンオキシド誘導体からなる化合物であって、アルギン酸のカルボキシル基100当量に対してポリアルキレンオキシド誘導体の含有量が5〜100当量である化合物及び該化合物からなるハイドロゲル。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルギン酸及びポリアルキレンオキシドからなる化合物に関する。更に詳しくは、応答温度領域を任意に制御可能であるアルギン酸及びポリアルキレンオキシドからなる温度応答性ハイドロゲルに関する。
近年、大きく損傷したりまたは失われた生体組織と臓器の治療法の1つとして、細胞の分化、増殖能を利用し元の生体組織及び臓器に再構築する技術である再生医療の研究が活発になってきている。軟骨再生もそのひとつであり、下記の様に積極的な検討が行われている。
(1)コラーゲンを用いた基材を足場とした軟骨再生(非特許文献1)
(2)不溶性ベンジルエステル化ヒアルロン酸を用いた細胞培養基材(特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)
(3)架橋ヒアルロン酸体を用いた軟骨細胞培養基材(非特許文献5)
(4)ポリ乳酸、ポリグリコール酸を用いた組織再生基材(特許文献2)
しかし前述の例は、細胞採取する際及び体内にインプラントする際に2度の切開手術が必要であり患者の負担が非常に大きい。この課題を解決するために、今後内視鏡手術が増えると考えられ、内視鏡手術に適した人工材料の開発が非常に重要となってくる。求められる人工材料の特性として、1)形状を自在にコントロールできる(患部に直接注入できる)、2)細胞、成長因子を容易に埋包できるなどが考えられ、温度応答性ハイドロゲルはこの条件に非常に適した材料であるので、再生医療において用いた場合はメリットが大きいと考えられる。
温度応答性ハイドロゲルとは、水環境下において、ある温度以下では水和し、ある温度以上では脱水和することにより体積変化を引き起こすLower Critical Solution Temperature(LCST)タイプと、逆にある温度以上で水和することにより体積変化を引き起こすUpper Critical Solution Temperature(UCST)タイプに分類することが出来る。これら2つのタイプのうちでは、応答の速さ等の面に優れるLCSTの性質を有するタイプのハイドロゲルの方がドラッグデリバリーシステムにおいて、好ましく使用されている。LCSTの性質を有するタイプのハイドロゲルは、例えば、ある温度以下では高分子と水との相互作用が優先するために水溶液中に均一に溶解しているが、ある温度以上になると水和よりも高分子の凝集の方が優勢になるために脱水和して、水溶液が白濁、ついには沈殿するポリマーである。即ち水−高分子系においてLCSTの性質を有するポリマーを主成分とし、該ポリマーを何らかの方法で3次元架橋することによって温度応答性ハイドロゲルを得ることが出来る。
水−高分子系においてLCSTの性質を有するポリマーとしては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等のN−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリ(N−アクリロイルピロリジン)、ポリ(N−アクリロイルピペリジン)等の含窒素環状ポリマー、ポリ(N−アクリロイル−L−プロリン)等のビニル基含有アミノ酸とそのエステル類、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(プロピレングリコール)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリエチレンオキシド共重合体が知られている。これらのポリマーの中で、転移がシャープであり、相転移温度が生体系への応用に適するポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)共重合体が代表的であり、共重合成分による相転移温度の制御、相転移温度の改善、相転移メカニズムの解明の各観点から盛んに研究が展開されている。
しかし、現状においては生体内にインプラント可能な生体吸収性を示す温度応答性ハイドロゲルは殆ど無く、既存のものとしてポリ(エチレングリコール)/ポリ(プロピレングリコール)(非特許文献6)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリエチレンオキシド共重合体(非特許文献7)しかない。しかしこれらポリマーは合成高分子であるため、天然系ポリマーと比較すると生体親和性が低い等の問題が考えられる。そこで、天然系ポリマーに温度応答性を付与できれば、生体吸収性及び生体親和性に優れた理想的な温度応答性ハイドロゲルが得られると予想される。
天然系ポリマーに温度応答性を付与する試みとして、キトサン(特許文献3)、ヒアルロン酸(特許文献4)の例が挙げられるが、相転移温度が高く生体内での利用が困難であると考えられるものや、追試において相転移現象を確認できない等問題がある。
米国特許第5939323号明細書 特表平10−513386号公報 国際公開WO01/36000号明細書 国際公開WO99/24070号明細書 Biomaterials.17,155−162(1996) J.Biomed.Mater.Res.42:2,172−81(1998) J.Biomed.Mater.Res.46:3,337−346(1999) J.Ortho.Res.18:5.773−380(2000) J.Ortho.Res.17,205−213(1999) TISSUE ENGINEERING Vol 8,No 4,709(2002) Journal of Controlled Release. , 72,203(2001)
本発明の主な目的は、生体親和性に優れた温度応答性ハイドロゲルを提供することにある。更に詳しくは、多様な応答温度領域に対応できる温度応答性ハイドロゲルを提供する。
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式で表されるアルギン酸及びポリアルキレンオキシド誘導体からなる化合物であって、
Figure 2005239860
・・・・・(1)
(RはOH、ONaまたはポリアルキレンオキシド誘導体残基であって、RはNH,O、RはH,CH、RはC,CHCH(CH)、RはH,CH,C,C、のいずれかである。またlは130〜550、mは3〜140までの整数である。)
アルギン酸のカルボキシル基100当量ポリアルキレンオキシド誘導体残基の含有量が5〜100当量であるハイドロゲル。
本発明は、アルギン酸及びポリアルキレンオキシド誘導体からなる、生体吸収性及び生体親和性に優れた温度応答性ハイドロゲルを提供できる。この温度応答性ハイドロゲルは、内視鏡手術をターゲットとした再生医療における人工材料として有用である。
以下、本発明について詳述する。なお、これらの実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
本発明で使用されているアルギン酸は、海藻中からアルカリ抽出し、他の海藻成分と分別した後、酸またはCaで沈殿させて回収したものを利用する。またアルギン酸の分子量は、約5×10〜2×10のものが好ましい。なお本発明でいうアルギン酸は、そのアルカリ金属塩、例えばナトリウム、カリウム、リチウムの塩をも包含する。
本発明で使用されているポリアルキレンオキシドは、1)ポリプロピレングリコール、あるいは2)ポリ(プロピレングリコール)およびポリ(エチレングリコール)の混合物が好ましい。アルギン酸にアミド結合により導入する場合には、1−アミノポリプロピレングリコールメトキシド、1−アミノポリプロピレングリコールエトキシド、1−アミノポリプロピレングリコールプロポキシド、1−アミノポリプロピレングリコールブトキシド、1−アミノポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)メトキシド、1−アミノポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)エトキシド、1−アミノポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)プロポキシド、1−アミノポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)ブトキシドなど末端にアミノ基を有する化合物が挙げられる。また、アルギン酸にエステル結合により導入する場合には、1―クロロポリプロピレングリコールメトキシド、1―クロロポリプロピレングリコールエトキシド、1―クロロポリプロピレングリコールプロポキシド、1―クロロポリプロピレングリコールブトキシド、1−クロロポリ(ポピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)メトキシド、1−クロロポリ(ポピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)エトキシド、1−クロロポリ(ポピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)プロポキシド、1−クロロポリ(ポピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)ブトキシド、1−ブロモポリプロピレングリコールメトキシド、1−ブロモポリプロピレングリコールエトキシド、1−ブロモポリプロピレングリコールプロポキシド、1−ブロモポリプロピレングリコールブトキシド、1−ブロモポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)メトキシド、1−ブロモポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)エトキシド、1−ブロモポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)プロポキシド、1−ブロモポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)ブトキシド、1−ヨードポリプロピレングリコールメトキシド、1−ヨードポリプロピレングリコールエトキシド、1−ヨードポリプロピレングリコールプロポキシド、1−ヨードポリプロピレングリコールブトキシド、1−ヨードポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)メトキシド、1−ヨードポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)エトキシド、1−ヨードポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)プロポキシド、1−ヨードポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)ブトキシドなど末端にハロゲン基を有する化合物が挙げられる。
上記のポリアルキレンオキシド誘導体の分子量は、200〜6,000のものが好ましい。200以下であるとアルギン酸との反応生成物が温度応答性を示さない。また、6,000以上であると沈殿物が生じハイドロゲルを形成しない。
ポリ(プロピレングリコール)およびポリ(エチレングリコール)の混合物を用いる場合は、ポリ(プロピレングリコール)/ポリ(エチレングリコール)モル比は10/1〜1/10のものが好ましい。この範囲外であるとアルギン酸との反応生成物は温度応答性を示さない。
ポリアルキレンオキシド誘導体の含有量は、アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し5〜100当量が好ましい。5当量以下であるとアルギン酸との反応生成物は温度応答性を示さない。
アルギン酸とポリアルキレンオキシド誘導体の典型的な反応方法は、以下の2通りが挙げられる。
(I)アミド結合
アルギン酸ナトリウムをテトラヒドロフラン/水 混合溶媒に溶解し、1−アミノポリアルキレンオキシドを加える。0.1M HCl/0.1M NaOHを添加しpH 6.8に調整した後、1−Ethyl−3−[3−(dimethylamino)propyl]−carbodi−imide(EDC)、1−hydroxybenzotriazole(HOBt)を添加する。終夜攪拌後、透析により精製、凍結乾燥を行い、目的物を得る。
(II)エステル結合
アルギン酸−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩をN−メチルピロリドンに溶解し、1−ブロモポリアルキレンオキシドを加える。37℃で60時間攪拌した後、塩化ナトリムを加え30分間放置する。その後アセトンで再沈殿を行い、目的物を得る。
以下の実施例により、本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例に使用したアルギン酸ナトリウム、テトラヒドロフラン、0.1M HCl、0.1M NaOH、1−Ethyl−3−[3−(dimethylamino)propyl]−carbodi−imide(EDC)、1−Hydroxybenzotriazole(HOBt)は和光純薬工業(株)製、ジェファーミン(登録商標)XTJ−507(ポリプロピレングリコールアミンでありm=33に相当する分子量を有する)はハンツマン・コーポレーション製を使用した。
[実施例1]
アルギン酸ナトリウム 100mgをテトラヒドロフラン/水=1/2(v/v)40mlに溶解した。この溶液に、ジェファーミン(登録商標)XTJ−507 360mg(0.00018mol)(アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し60当量)を加え、更に0.1M HCl/0.1M NaOHを添加し、pH6.8に調整した。1−Ethyl−3−[3−(dimethylamino)propyl]−carbodiimide(EDC)36mg(0.000198mol)、1−hydroxybenzotriazole(HOBt)30mg(0.000198mol)をテトラヒドロフラン/水=1/2 10mlに溶解し、反応系に添加し、終夜攪拌を行った。攪拌後、透析精製を行い、凍結乾燥し目的の化合物を得た。確認は1HNMR(日本電子 JNM−alpha400)により行い、目的物の生成を確認した。
凍結乾燥品50mgをイオン交換水950mgに溶解し、濃度5wt%のハイドロゲルを調整した。このハイドロゲルの相転移挙動を調べるために、Rheometer RFIII(TA Instrument)を使用し、10〜50℃の温度領域で複素弾性率、粘度の測定を行った。その結果を図1に示す(G:複素弾性率、Eta:粘度を表す)。20℃より、複素弾性率、粘度の上昇が確認され50℃で飽和に達した(すなわちゾルからゲルへの転移を表す)。つまり、20〜50℃で温度相転移が起こったことが明らかとなった。
[実施例2]
ジェファーミン(登録商標)XTJ−507 600 mg(0.0003mol)(アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し100当量)、1−Ethyl−3−[3−(dimethyl−amino)propyl]−carbodiimide(EDC) 60mg(0.00033mol)、1−hydroxybenzotriazole(HOBt)50mg(0.00033mol)とした以外は、実施例1と同様。その結果を図2に示す(G:複素弾性率、Eta:粘度を表す)。17℃より、複素弾性率、粘度の上昇が確認され30℃で飽和に達した(すなわちゾルからゲルへの転移を表す)。つまり、17〜30℃で温度相転移が起こったことが明らかとなった。
相転移の温度制御については、実施例1,2に対応する図1,2の曲線が立ち上がる温度、つまり相転移開始温度を比較するとアルギン酸に含有されるポリプロピレンオキシドアミンの量が多いほど、低温側にシフトしていることが分かる。つまりポリプロピレンオキシドの量をコントロールすることで、所望の相転移温度を有するアルギン酸ハイドロゲルを調製することが可能となる。
その他、使用するポリプロピレンオキシドの分子量、アルギン酸の分子量によっても相転移温度は変えられるものと考えられる。
再生医療領域においては、このようなハイドロゲルをInjectable gelとして内視鏡手術に応用するという期待がある。Injectable gelは、体温より低温の領域では液状で細胞や液性因子を簡単に混入でき、体内に注入すると体温によりゲルになることで取扱い性にすぐれたScaffoldとして期待されている。そのため体温付近で相転移を起こすゲルでないとInjectable gelとしては使用できない。
然しながら、本発明のハイドロゲルは、体温に近い温度で相転移を起こすのでInjectable gelとして使用可能である。
[比較例1]
アルギン酸ナトリウム50mgをイオン交換水950mgに溶解し、濃度5wt%のハイドロゲルを調整した。結果を図3に示す。
この温度応答性ハイドロゲルは、内視鏡手術をターゲットとした再生医療における人工材料として有用である。
ジェファーミン(登録商標)XTJ−507をアルギン酸のカルボキシル基100当量に対し60当量導入した化合物の相転移挙動図。 ジェファーミン(登録商標)XTJ−507をアルギン酸のカルボキシル基100当量に対し100当量導入した化合物の相転移挙動図。 アルギン酸ナトリウムの相転移挙動図。

Claims (2)

  1. 下記一般式(1)で表されるアルギン酸及びポリアルキレンオキシド誘導体からなる化合物であって、
    Figure 2005239860
    ・・・・・・(1)
    (RはOH、ONaまたはポリアルキレンオキシド誘導体残基であって、RはNH,O、RはH,CH、RはC,CHCH(CH)、RはH,CH,C,C、のいずれかである。またlは130〜550、mは3〜140までの整数である。)
    アルギン酸のカルボキシル基100当量に対し、Rの内のポリアルキレンオキシド誘導体残基を5〜100当量含有する化合物。
  2. 請求項1記載の化合物からなるハイドロゲル。
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