JP2005217306A - 希土類磁石及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 十分に優れた保護特性を有する保護層を表面に備えており、これにより十分に高い耐食性を発揮する希土類磁石を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決する本発明の希土類磁石100は、希土類元素を含有する磁石素体10と、該磁石素体10の表面上に形成され、且つ、ペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する保護層20とを備えるものである。この本発明の希土類磁石100は、ペルオキソチタン酸水溶液を磁石素体10上に塗布・乾燥することにより得られるものであり、乾燥の際に応力緩和が可能となるため、保護層20にクラックを生じ難い。その結果、耐食性に十分優れたものとなる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、希土類磁石及びその製造方法、特に、表面に保護層を有する希土類磁石及びその製造方法に関する。
従来、高性能を有する永久磁石として希土類磁石が知られている。この希土類磁石は、空調機、冷蔵庫のような家庭用電化製品のみならず、産業機械、ロボット、燃料電池車やハイブリッドカー等の駆動用モータへの応用が検討されており、これらの小型化、省エネルギー化を実現し得るものとして期待されている。かかる希土類磁石のなかでも、R−Fe−B(Rは希土類元素)系の磁石は、特に高い磁気特性を有することから注目を集めている。このようなR−Fe−B系の希土類磁石としては、例えば、下記特許文献1や下記特許文献2に記載されたものが知られている。
R−Fe−B系の希土類磁石は、通常25MGOeを超えるような高いエネルギー積を示す高性能磁石である。しかしながら、このような希土類磁石は、磁石の主成分として希土類元素及び鉄を含有していることから極めて酸化されやすく、また、耐熱性が低いという性質を有している。このため、かかる希土類磁石は耐食性に劣る傾向にあり、長期使用による経時的な磁気特性の劣化を避けることが困難であった。
近年では、このようなR−Fe−B系の希土類磁石の耐食性を向上させることを目的として、磁石素体の表面に保護層を形成することが試みられている。その保護層の形成方法のうち比較的簡便で実用性の高いものの一つとして、Tiなどの金属原子を含有する塗布液を使用するいわゆる湿式成膜法が提案されている(特許文献3〜5参照)。例えば、特許文献3には、磁石の耐酸化性を改善することを意図して、磁石素体に、Si、Ti若しくはAlを有する特定の有機金属化合物で表面処理することにより、磁石素体の表面に耐酸化性被膜を形成する希土類磁石の製造方法が記載されている。
また、特許文献4には、酸化しにくい永久磁石を提供することを意図して、磁石素体の表面に、有機チタンを付着させ、しかる後、不活性雰囲気中で熱処理する希土類磁石の製造方法について記載されている。さらに、磁石素体の表面に、Nd、上記化合物の具体例として、FeTiO、FeTiO、FeTiO、FeTi、NdTi、TiB、TiO、Ti、TiO等が挙げられている。
さらに、特許文献5には、磁石の耐食性若しくは耐アルカリ性の向上を意図して、磁石素体の表面にゾル−ゲル法により金属酸化物からなる被膜を形成した希土類磁石が記載されている。
特開昭59−46008号公報 特開昭60−9852号公報 特開昭63−192216号公報 特開昭63−168009号公報 特開2001−76914号公報
上記特許文献3〜5を始めとする従来の保護層を備えた希土類磁石は、磁石素体を単独で用いた場合に比べて高い耐食性を有するものとなる。しかしながら、本発明者らがこれらの従来の希土類磁石について詳細に検討したところ、これらの希土類磁石は、保護層としての機能が不十分であることに起因して耐食性が十分でなく、例えば高温条件等の厳しい条件が課される用途に対しては、まだ実用性に乏しいものであることが明らかになった。
例えば、特許文献3に記載された希土類磁石の製造方法は、特定の有機化合物若しくはその溶液からなる塗布液を磁石表面に塗布等した後に乾燥する必要があるが、それにより溶媒の揮発、重縮合反応、熱分解反応等が進行する。そのため、塗布液を乾燥させて保護層を得る間に体積収縮が生じ、得られる保護層内部に応力が発生し、その応力に起因してクラックが生じやすくなる。保護層にクラックが生じると、そのクラックから腐食要因物質(酸素、水分、塩水、硫化物など)が侵入しやすくなり、例えば、希土類磁石を80℃、90%RH(相対湿度)の環境下に所定時間晒してその腐食の程度を調べる耐食性加速試験により、磁石素体に腐食が生じる等、磁石全体の耐食性が顕著に低下してしまう。
また、特許文献4に記載の希土類磁石の製造方法により得られる保護層は、不活性雰囲気中における熱処理により、保護層内部に特許文献3の場合と同様の原因である体積収縮による応力が発生し、結果的に磁石全体の耐食性が顕著に低下してしまう。さらに、熱処理が700℃以上の温度で行われているために、得られる保護層は結晶性の高いものとなり、結晶間の粒界から外部雰囲気に存在する水分や硫化物などの腐食要因物質が侵入しやすくなる。かかる観点からも、磁石全体の耐食性が顕著に低下してしまう。
またさらに、特許文献5に記載の希土類磁石においては、保護層の形成時に膜形成用のゾル液を加熱し、これにより溶媒蒸発、重合又は熱分解反応を生じさせているが、これらの工程を経ることにより、塗布されたゾル液が大きな体積収縮を生じる傾向にある。したがって、そのことに起因して保護層にクラックが生じやすくなり、やはり磁石全体の耐食性が顕著に低下してしまう。
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、十分に優れた保護特性を有する保護層を表面に備えており、これにより十分に高い耐食性を発揮する希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、該磁石素体の表面上に形成され、且つ、ペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する保護層とを備えることを特徴とする。
また、本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を上記磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程、及び上記塗布液を所定の温度条件下で乾燥する乾燥工程、を経ることにより磁石素体の表面上に形成された保護層とを備えることを特徴とする。この希土類磁石に備えられる保護層は、磁石素体の表面上に塗布した塗布液を乾燥して、その液体成分を揮発除去することにより、磁石素体の表面上に形成されるものであり、その構成成分としてペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する。
ここで「ペルオキソチタン酸水溶液」は、チタン塩水溶液から調製したチタン酸懸濁液又はペルオキソチタン水和物の懸濁液に過酸化水素(H)を添加することにより調製されるものである。「ペルオキソチタン水和物」とは、通常Ti(OH)の化学式で表される常温で非晶質の固体化合物である。また、「所定の温度条件」とは、上記塗布液中の液体成分を揮発除去でき、しかも、ペルオキソチタン水和物の分解により酸化チタンが生じても、その酸化チタンのうちの、少なくとも塗布液中の磁石素体に接して存在するものが結晶化を起こさないような温度条件をいう。
従来の湿式成膜法であるゾル−ゲル法においては、磁石素体表面上の塗布液を乾燥して保護層を形成する際に、塗布液から溶媒が蒸発するとともに急激に重縮合反応が進行する。その結果、得られる保護層は柔軟性に劣り、収縮応力を緩和できないために、クラックが生じやすくなってしまう。一方、本発明の希土類磁石の製造方法においては、磁石素体表面上の保護層を乾燥して溶媒を蒸発させても、その時点では柔軟な構造を保持しているので、保護層内に応力が発生しても容易に緩和することができる。
また、乾燥工程において生成するペルオキソチタン水和物は、さらに酸化物へと徐々に変化していく。この場合、ペルオキソチタン水和物からチタン酸化物への体積収縮率が小さいため、本来、体積収縮に伴って発生する収縮応力が従来の場合と比較して、非常に小さいものとなる。
これらの結果、本発明の希土類磁石の使用に際し保護層にクラックが生じ難くなるため、その希土類磁石の耐食性が十分に優れたものとなる。特に、一度に塗布する塗布液の膜厚がより厚くなり、あるいは塗布液が形成される磁石素体の表面がより凹凸に富んだものであるような場合に、クラック発生の抑制効果がより大きなものとなるので、従来の希土類磁石と比較した耐食性の効果がより顕著に現れる。
また、本発明の希土類磁石は、十分に高い緻密性を有し且つ磁石素体との密着性にも優れた保護層を備えるので、そのような観点からも、耐食性が十分に高い希土類磁石となる。
本発明に係る保護層に含有されるペルオキソ基を有するチタン化合物は下記式(1)で表される化学構造を有するペルオキソチタン水和物から誘導されるものであり、水酸基を含んでいてもよい。すなわち、本発明の上記チタン化合物は、チタン酸化物などのチタン原子及び酸素原子からなる化合物、並びに/又は、チタン水酸化物などのチタン原子、酸素原子及び水素原子からなる化合物であってもよい。かかるペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する保護層は柔軟性に十分優れたものとなると推測される。
Figure 2005217306
また、ペルオキソチタン水和物は、上記式(1)で表されるように、その両端に2個の水酸基を有する。これらの水酸基が、磁石素体表面に存在する酸素若しくは水酸基と水素結合することにより、又は磁石素体表面の水酸基と縮重合して共有結合することにより、磁石素体と保護層との密着性が十分に高いものになると考えられる。
さらに、例えば特許文献5に開示されているようなゾル−ゲル法によって保護層を形成しようとすると、金属アルコキシドの加水分解反応に用いる酸触媒を含有した塗布液を、磁石素体の表面上に塗布する必要がある。しかしながら、本発明に係る希土類元素を含有する磁石素体は、特に耐酸性に劣る傾向にあるため、保護層の形成に上述のゾル−ゲル法を採用すると、磁石素体が上記塗布液による酸腐食を受けてしまう。一方、本発明の希土類磁石の保護層を形成する際に用いられるペルオキソチタン酸水溶液は、ほぼ中性ないし弱塩基性を示すものである。したがって、保護層形成時に磁石素体が上述のような酸腐食を受けることはなく、得られる希土類磁石は、所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度など)を有することができる。
また、ゾル−ゲル法に用いられる金属アルコキシドは、比較的容易に加水分解若しくは重合反応を起こすため、ゾル−ゲル法による保護層の形成に用いる塗布液の化学的安定性は低く、取り扱い難い傾向にある。一方、本発明にかかるペルオキソチタン酸水溶液は、安定性及び安全性が非常に高いため、その取り扱いが容易であると共に、保護層を形成する際の手間も比較的少なくてすむ。したがって、本発明の希土類磁石は、その量産性及び製造コストの観点からも非常に優れている傾向にある。
さらには、特許文献4に記載されているような方法により保護層を形成しようとすると、700℃以上(特許文献4)若しくは400℃以上での加熱を行う必要がある。しかしながら、このような加熱を行うと、磁石素体の各種磁気特性が、保護層を形成する前と比較して大幅に低下する傾向にあるため好ましくない。一方、本発明の希土類磁石は、その保護層を形成する際に、高くても200℃程度に加熱乾燥すれば、得られる保護層は非常に緻密性に優れたものとなる。したがって、本発明の希土類磁石は、十分に優れた耐食性を有すると同時に、備えられる磁石素体が十分に高い磁気特性を維持するものである。
本発明の希土類磁石は、希土類元素を含有する磁石素体と、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を上記磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程、及び上記塗布液を所定の温度条件下で乾燥すると同時に上記塗布液に紫外光線を照射する乾燥紫外照射工程、を経ることにより磁石素体の表面上に形成された保護層とを備えることを特徴とする。この希土類磁石に備えられる保護層は、磁石素体の表面上に塗布した塗布液を乾燥して、その液体成分を揮発除去すると共に、塗布液に紫外光線を照射することにより磁石素体の表面上に形成されるものである。その構成成分としては、ペルオキソチタン水和物が部分的に縮重合したものであって、非晶質の酸化チタン(TiOなど)が含有されている場合もあり、その酸化チタンが含有されていない場合もある。
この本発明の希土類磁石は、塗布液中若しくは乾燥の際に生成する乾燥膜中のペルオキソ基が、紫外光線により分解されることに起因して、保護層がより緻密化する。その結果、乾燥紫外照射工程を経て得られる保護層は、その保護特性が一層向上するので、希土類磁石の耐食性が一段と向上する傾向にある。さらに、乾燥紫外照射工程を経ることにより、保護層中に非晶質の酸化チタンが生成すると考えられる。この非晶質の酸化チタンを含有することにより、保護層はより硬質のものとなる傾向にある。しかも、保護層は上述のペルオキソ基を有するチタン酸化物をも含有しており、高い柔軟性と硬度とを併せ持つものとなる。
このような観点から、本発明の希土類磁石は、上述の乾燥工程において塗布液を乾燥して得られた乾燥膜に紫外光線を照射する紫外照射工程を経ることにより形成された保護層を備えてもよい。
また、本発明の希土類磁石は、アナターゼ等の結晶性の酸化チタンなど、ペルオキソ基を有していないチタン酸化物を更に含有する保護層を備えてもよいが、その場合、保護層に含有される酸化チタンのうち少なくとも磁石素体に接して存在するものが非晶質であると好ましい。これにより、結晶性の酸化チタンの光触媒作用により磁石素体が酸化されることを十分有効に抑制可能となる。磁石素体の酸化を十分に抑制することにより、得られる希土類酸化物は保護層を設けたことによる耐食性の改善とあいまって、十分に高い磁気特性を長期にわたって維持することができる。
本発明の希土類磁石が備える保護層は、0.2〜3μmの膜厚を有すると好ましい。上述したものを始めとする従来の保護層を備える希土類磁石は、保護層の緻密性及び/又は磁石素体と保護層との密着性が十分ではない。そのため、保護層をこのような膜厚に設定すると、保護層にピンホールが生成し、あるいは、保護層と磁石素体との間に隙間が発生する傾向にある。かかるピンホール若しくは隙間が生じると、そこから、希土類磁石の周囲雰囲気に存在する腐食要因物質が侵入するため、希土類磁石は十分に優れた耐食性を発揮することができない傾向にある。また、保護層の膜厚を厚くすると、上述の緻密性の不足を補うことはできても、既に説明したような保護層のクラックが発生しやすい傾向にあるため、結局、希土類磁石の耐食性を十分なものとすることは困難な傾向にある。
一方、本発明の希土類磁石は、保護層の緻密性及び磁石素体との密着性が十分であるため、保護層がかかる膜厚の範囲であっても、腐食に対する耐性を十分に有するものである。さらに、本発明の希土類磁石は、保護層の膜厚を上記範囲内にすることにより、一層クラックの発生が抑制される。したがって、かかる希土類磁石は、より長期にわたって十分に優れた耐食性を維持できる傾向にある。
本発明の希土類磁石の製造方法は、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程と、上記塗布液を所定の温度条件下で乾燥する乾燥工程とを経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成することを特徴とする。
また、本発明の希土類磁石の製造方法は、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を所定の温度条件下で乾燥して得られた乾燥膜を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に備えてなる第2基体を準備する第2基体準備工程と、乾燥膜に紫外光線を照射する紫外光照射工程とを経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成することを特徴とする。
さらに、本発明の希土類磁石の製造方法は、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程と、上記塗布液を所定の温度条件下で乾燥すると同時に、その塗布液に紫外光線を照射する乾燥紫外照射工程とを経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成するを特徴とする。
これらの製造方法を用いることにより、上述したような耐食性に十分優れた希土類磁石を得ることができる。その場合、上記保護層がチタン原子及び酸素原子からなる化合物、並びに/又は、チタン原子、酸素原子及び水素原子からなる化合物を構成材料とするものであると好ましい。特に、そのチタン化合物が非晶質であると、耐食性が更に向上するので、より好ましい。
本発明によれば、十分に優れた保護特性を有する保護層を表面に備えており、これにより十分に高い耐食性を発揮する希土類磁石及びその製造方法を提供することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
まず、本発明の好適な実施形態の希土類磁石の製造方法により得られる希土類磁石について説明する。
図1は、本実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図2は図1の希土類磁石をI−I線により切断した際に現れる断面を模式的に表した図である。図1、2から明らかなとおり、この実施形態の希土類磁石100は、磁石素体10の表面の全体を被覆して形成される保護層20とから構成されるものである。
磁石素体10は、R、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含有するものである。Rは1種以上の希土類元素を示すものであり、具体的には、長周期型周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。ここで、ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)を指す。
上述した元素の磁石素体10中の組成は、該磁石素体10を焼結法により製造する場合、以下に説明するようなものであると好ましい。
Rとしては、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho、Tbのうち1種以上の元素を含むと好ましく、さらに、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Yのうち1種以上の元素を含んでも好ましい。
磁石素体10中のRの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、8〜40原子%であると好ましい。Rの含有割合が8原子%未満では、結晶構造がα−鉄と同一構造の立方晶組織となるため、高い保磁力(iHc)を有する希土類磁石100が得られない傾向にある。また、Rの含有割合が30原子%を超えると、Rリッチな非磁性相が多くなり、希土類磁石100の残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。
磁石素体10中のFeの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、42〜90原子%であると好ましい。Feの含有割合が42原子%未満であると希土類磁石100のBrが低下する傾向にあり、90原子%を超えると希土類磁石100のiHcが低下する傾向にある。
磁石素体10中のBの含有割合は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して、2〜28原子%であると好ましい。Bの含有割合が2原子%未満であると結晶構造が菱面体組織となるため、希土類磁石100のiHcが不十分となる傾向にあり、28原子%を超えるとBリッチな非磁性相が多くなるため、希土類磁石100のBrが低下する傾向にある。
また、Feの一部をコバルト(Co)で置換して磁石素体10を構成してもよい。このような構成にすることにより、希土類磁石100の磁気特性を損なうことなく温度特性を改善できる傾向にある。この場合、置換後のFeとCoの含有割合は、原子基準でCo/(Fe+Co)が0.5以下であると好ましい。これよりもCoの置換量が多いと希土類磁石100の磁気特性が低下してしまう傾向にある。
さらに、Bの一部を炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換して磁石素体10を構成してもよい。かかる構成にすることにより、希土類磁石100の生産性が向上し、その生産コストを削減できる傾向にある。この場合、これらC、P、S及び/若しくはCuの含有量は、磁石素体10を構成する全原子の量に対して4原子%以下であると好ましい。C、P、S及び/若しくはCuの含有量が4原子%よりも多いと、希土類磁石100の磁気特性が劣化する傾向にある。
また、希土類磁石100の保磁力の向上、生産性の向上及び低コスト化の観点から、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)及び/又はハフニウム(Hf)等のうちの1種以上の元素を添加して、磁石素体10を構成してもよい。この場合、上記元素の添加量は磁石素体10を構成する全原子の量に対して10原子%以下とすると好ましい。これらの元素の添加量が10原子%を超えると希土類磁石100の磁気特性が低下する傾向にある。
磁石素体10中には、不可避的不純物として、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はカルシウム(Ca)等が、磁石素体10を構成する全原子の量に対して3原子%以下の範囲内で含有されていてもよい。
磁石素体10は、図3に示すように、実質的に正方晶系の結晶構造を有する主相50と、希土類元素を比較的多く含む希土類リッチ相60と、ホウ素を比較的多く含むホウ素リッチ相70とを含有して形成されている。磁性相である主相50の粒径は1〜100μm程度であると好ましい。希土類リッチ相60及びホウ素リッチ相70は非磁性相であり、主に主相50の粒界に存在している。これら非磁性相60、70は、磁石素体10中に通常、0.5体積%〜50体積%程度含有されている。
磁石素体10は、例えば以下に述べるような焼結法により製造されることによって準備される。まず、上述した元素を含有する所望の組成物を鋳造し、インゴットを得る。続いて、得られたインゴットを、スタンプミル等を用いて粒径10〜100μm程度に粗粉砕し、次いで、ボールミル等を用いて0.5〜5μm程度の粒径に微粉砕して粉末を得る。
次に、得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形して成形体を得る。この場合、磁場中の磁場強度は10kOe以上であると好ましく、成形圧力は1〜5トン/cm程度であると好ましい。
続いて得られた成形体を、1000〜1200℃で0.5〜5時間程度焼結し、急冷する。なお、焼結雰囲気は、Arガス等の不活性ガス雰囲気であると好ましい。そして、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500〜900℃にて1〜5時間熱処理(時効処理)を行うことにより上述したような磁石素体10が得られる。
また、磁石素体10は、上述した以外にも、例えば公知の超急冷法、温間脆性加工法、鋳造法、メカニカルアロイング法によっても用意され得る。さらに、磁石素体10は、市販のものを用意してもよい。
保護層20は、ペルオキソ基を有するチタン化合物を含有するものであり、以下に説明する希土類磁石の製造方法により得られるものである。
本発明の好適な第1実施形態に係る希土類磁石100の製造方法は、図4に示すように、第1基体準備工程S10と、乾燥工程S3とを有するものである。さらに、第1基体準備工程S10は、ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液の調製工程(ペルオキソチタン酸水溶液調製工程)S1と、得られた塗布液を上述のようにして用意された磁石素体10の表面上に塗布する塗布工程S2とを有するものである。
ペルオキソチタン酸水溶液調製工程S1において、ペルオキソチタン酸水溶液は、Ichinose, M.Terasaki and H.Katsuki, J. Ceram. Soc. Japan, 104, 715 (1996)、H.Ichinose, A.Kawahara and H.Katsuki, J. Ceram. Soc. Japan, 104, 914 (1996)、H.Ichinose and H.Katsuki, J. Ceram. Soc. Japan, 106, 344 (1998)、一ノ瀬弘道, セラミックス, 36, 586 (2001)、若しくはH.Ichinose, M.Terasaki and H.Katsuki, J. Sol-Gel Sci. Tech., 22, 33 (2001)に記載された方法又はそれに準じた方法によって調製できる。以下に、好適なペルオキソチタン酸水溶液の調製方法を説明する。
本実施形態に係るペルオキソチタン酸水溶液は、金属チタン、チタン酸化物若しくはチタン水和物からなる固体状チタン化合物に、チタンのモル量に対して過剰の水酸基を有する塩基性物質を加え、更に過酸化水素水を作用させて溶解した後に生成した水溶液中のチタンイオン、チタン含有イオン及び水素イオン以外の陽イオン、の除去処理と、その溶液中に存在する過剰の過酸化水素の分解処理とを、水溶液のpHを3〜10に保持した状態で複数回行うことにより得られる。このようにして得られる本実施形態のペルオキソチタン酸水溶液は、例えば、その水溶液中のチタンイオン、チタン含有イオン、及び水素イオン以外の陽イオン濃度がチタン濃度の1/2以下となっており、ペルオキソ基が安定的に存在した状態となっている。
従来、チタン、チタン酸化物、チタン水和物等のチタン化合物に塩基性物質と過酸化水素水を加えて溶解することにより得られる水溶液は、概して、溶液を調製後、数分から数日間は透明な溶液の状態を保持していた。しかしながら、その溶解に使用した塩基性物質の種類や添加量、あるいは過酸化水素水の添加量によってその度合いは異なるが、時間の経過とともに、水溶液の白濁化、又はゲル化などが起こり不安定なものになる傾向にあった。また、この水溶液は冷却によって保存可能であるが、長期保存には適していない傾向にあった。
このようなチタン含有水溶液の不安定性は、その水溶液中に残留した塩基性物質と過酸化水素に起因するので、本実施形態のペルオキソチタン酸水溶液の調製の際には、その水溶液中の塩基性物質を所定の濃度以下にするよう、塩基性物質を該水溶液から除去するとともに、過酸化水素の分解を行うことによって、最終的に安定な保護層20を得るものである。
本実施形態に係るペルオキソチタン酸水溶液の調製方法において、その水溶液のpHを3以上に保持することにより、該水溶液中にチタン成分を十分に残存させつつ、しかも水溶液中のチタンイオン、チタン含有イオン及び水素イオン以外の陽イオンを除去することが可能となる。すなわち、チタンに対して過剰の水酸基を有する塩基性物質と過酸化水素とを加えることによって調製したチタン含有溶液中に溶解したチタンは、ヒドロキシル基が結合した錯体からなる陰イオンの形態で存在していると考えられる。したがって、溶液中に陽イオン交換樹脂、ゼオライト等の陽イオンを交換あるいは捕捉する物質を添加した後にこれらの物質を取り除くことにより、溶解したチタンには影響を与えずに溶液中に存在している塩基性物質に由来する陽イオンを除去できる。
しかしながら、塩基性物質に由来する陽イオンを陽イオン交換樹脂等によって除去すると、塩基性物質に由来の陽イオンと水素イオンとのイオン交換に伴い、水溶液のpHが変化する。そして、pHが一定の値よりも小さくなると、その水溶液中のペルオキソチタン酸イオン等のチタン含有イオンがチタンイオン等の陽イオンとなり、陽イオン交換樹脂等に捕捉されて水溶液中からチタンが除去されてしまうこととなる。したがって、溶液中の塩基性物質に由来する陽イオンの除去は、その水溶液のpHを3以上に調製して行うことが必要であり、pHが4以上であるとより好ましい。
また、溶液中に過剰に加えた過酸化水素の分解処理において、過酸化水素を急激に分解するとpHの上昇や、溶解しているチタン化合物が析出する傾向にある。そのため、その水溶液のpHは、10以上に上昇させないように調整する必要であり、より好ましくは9以上に上昇させないように調整すると好ましい。
以上のようなpHの調整を可能にするために、本実施形態においては、塩基性物質の除去処理および過酸化水素の分解処理における水溶液のpHを所定の範囲内に保持するよう、塩基性物質由来の陽イオンの除去と過酸化水素の分解を複数回に分けて行うと好ましい。
本実施形態のペルオキソチタン酸水溶液の調製方法のより詳細な一具体例を以下に例示する。
まず、金属チタン、又はチタンと水素若しくは酸素とを含有するチタン化合物に、塩基性物質と過酸化水素水とを添加することにより溶液化したチタン含有水溶液に、陽イオン交換樹脂を加えて、pHを3〜6程度の弱酸ないしは中性域の範囲内に保持した状態で、塩基性物質由来の陽イオンを除去する(陽イオン除去処理)。
次いで、得られたチタン含有水溶液を、そのpHを7〜10に保持できる範囲で、そのまま放置、撹拌、超音波照射若しくは加熱処理することにより、過酸化水素を分解する(過酸化水素分解処理)。
以降、上述した陽イオン除去処理と過酸化水素分解処理を適当の回数繰り返すことにより、所望のペルオキソチタン酸水溶液が得られる。
塩基性物質由来の陽イオンの最初の除去処理では、チタン含有水溶液中のpHを3〜6程度の範囲内に調整すると好ましく、4〜6の範囲に調整するとより好ましい。これにより、溶液中に大量に存在する過酸化水素の影響による陽イオン除去の阻害を抑制できる傾向にある。
また、過酸化水素の最初の分解処理において、チタン含有水溶液中のpHを7〜9程度に調整すると好ましい。これにより、大量の過酸化水素を分解した際におけるペルオキソチタン水和物の重合物の析出を抑制できるので、より均一な膜厚及び/又は膜質を有する保護層20が得られる傾向にある。この傾向は、最終的に得られる希土類磁石100の耐食性をより向上することに繋がる。
上述と同様に繰り返し行われる陽イオン除去処理及び過酸化水素の分解処理は、チタン含有水溶液中のチタンが失われたり、ペルオキソチタン水和物が重合物を形成して沈殿等を生じたりすることがないようにすると、上記と同様の理由から好ましい。そのような観点から、得られる該水溶液中の塩基性物質由来の陽イオン濃度は、チタン濃度に対して少なくすると好ましく、2分の1以下の濃度とするとより好ましい。
本実施形態において用いられる金属チタン若しくはチタン化合物としては、チタン鉱物等から得られた金属チタン、または二酸化チタンなどの水素若しくは酸素を含有するチタン化合物が挙げられる。また、四塩化チタン等の可溶性チタン化合物の水溶液に過酸化水素水を添加した後にアンモニア水等の塩基性物質を添加して得られたチタン水和物若しくはチタン酸化物等から、塩化物イオン等の陰イオンを除去することによって得られたものを用いてもよい。
本実施形態において、金属チタン若しくはチタン化合物の溶解に用いられる塩基性物質としては、アンモニア水、アルカリ金属水酸化物水溶液及びテトラアルキルアンモニウム水溶液などが挙げられる。これらのなかで、得られるペルオキソチタン酸水溶液を磁石素体10の表面上に塗布して保護層を形成する際に、揮発若しくは分解によって比較的容易に除去できるので、アンモニア水若しくはテトラアルキルアンモニウム等の金属元素を含有しないものを用いると好ましく、アンモニア水を用いると特に好ましい。
金属チタン若しくはチタン化合物の溶解に用いられる塩基性物質の量は、チタン含有水溶液中のチタンのモル量に対して2倍以上であると好ましく、4倍以上であるとより好ましい。また、水酸基を含まないチタン化合物を用いる場合は、その塩基性物質の量が、チタン化合物の4倍以上の量であると好ましく、6倍以上であるとより好ましい。また、陽イオン除去処理及び過酸化水素除去処理は、常温行ってもよく、加熱して行ってもよい。
本実施形態において、塩基性物質由来の陽イオンの除去処理は、H置換型などの陽イオン交換樹脂若しくはゼオライト等を用いる以外に、イオン交換膜を用いた電気透析、透析若しくは逆浸透等の方法を採用してもよい。
なお、本実施形態において、水溶液中の陽イオンの濃度は、その水溶液中において解離したものの濃度を意味するのではなく、解離していないもの、配位したもの等であっても、分析において測定されるものの全濃度を指すものとする。同様にチタン濃度についても、溶液中の存在形態を問わず、溶液中に存在しているチタンの全濃度を指すものとする。
水溶液中の陽イオン濃度の測定方法は、公知の方法であれば特に限定されず、例えば陽イオンの濃度によって色の濃さが変化する呈色性化合物と吸光分光法とを組み合わせた方法などが挙げられる。また、水溶液中のチタン濃度の測定方法は、従来公知の方法であれば特に限定されず、例えばICP発光分析法などを用いることができる。
塗布工程S2においては、上述のペルオキソチタン酸水溶液を磁石素体10の表面上に塗布する。塗布方法としては、従来公知の方法であれば特に限定されることなく採用することができる。具体的には、例えば、ディップコーティング法、スプレーコート法、スピンコート法等が挙げられる。
このとき、塗布液の塗布は、得られる保護層20の膜厚が所望の値となるように、後述の乾燥工程等における溶媒揮発又は体積収縮等を考慮して調整することが好ましい。例えばディップコーティング法により塗布を実施する場合には、磁石素体10を塗布液に浸漬し、引き上げる速度及び時間を適宜設定することによって、塗布される塗布液の厚さを調整することができる。
なお、このような塗布を簡便に行い、また形成される保護層20の密着性を良好にする観点から、塗布工程を実施する前に磁石素体10の表面に所定の処理を施しておくことが望ましい。この所定の処理としては、例えば、磁石素体10の表面をバレル研磨等により平滑にした後、素体表面の脱脂処理を行い、さらに酸溶液による洗浄や水洗を実施すること等により清浄な表面を有する磁石素体10が得られるようになる。
こうして、磁石素体10の表面上に塗布液を塗布してなる第1基体が得られる。
乾燥工程S3においては、塗布工程S2において磁石素体10の表面上に塗布された塗布液が、所定の温度条件下で乾燥される。乾燥方法としては、公知の方法であれば特に限定されることなく採用することができる。具体的には、例えば、第1基体をヒータを内蔵した加熱台に設置して加熱乾燥する方法、あるいは磁石素体10に塗布された塗布液の上方(磁石素体10とは反対側)から、輻射熱を塗布液に照射して加熱乾燥する方法などが挙げられる。
乾燥工程S3における上記所定の温度(乾燥温度)は、塗布液中の液体成分を揮発除去でき、しかも、ペルオキソチタン水和物の分解により酸化チタンが生じても、その酸化チタンのうちの少なくとも塗布液中の磁石素体に接して存在するものが結晶化を起こさないような温度であれば特に限定されないが、30〜300℃であると好ましい。乾燥温度がこの下限値を下回ると、乾燥時間が長くなりすぎる傾向にあるため、量産性若しくは製造コストなどの観点から好ましくない。また、乾燥温度がこの上限値を上回ると、酸化チタンが生じて、酸化チタンの結晶化が促進される傾向にあり、得られる希土類磁石100の耐食性が低下する傾向にある。さらに、乾燥温度は100〜250℃であると、得られる保護層20がより緻密化するとともに酸化チタン等の結晶化を一層抑制できる傾向にある。なお、乾燥膜(保護層)中に固体結晶が存在しているか否かの確認は、X線回折法(XRD)などにより行うことができる。
また、乾燥工程S3において、乾燥温度を上記温度範囲内の所望の一定温度に維持してもよく、上記温度範囲内で乾燥温度を適宜変化させてもよい。例えば、乾燥工程S3において、まず乾燥温度を30℃程度にして、ある程度の液体成分を揮発除去した後、乾燥温度を150℃程度に設定し、更に乾燥させることもできる。この更なる乾燥により、乾燥膜中に存在するペルオキソ基が分解され、得られる保護層20が緻密性を向上するとともに、硬質化する傾向にある。
こうして、磁石素体10の表面上にペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する乾燥膜すなわち保護層20が形成され、本発明の第1実施形態にかかる希土類磁石100が得られる。なお、保護層20中のペルオキソ基を有するチタン化合物は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)により得られるスペクトルの890cm−1付近にピークを有することなどによって、その存在を確認することができる。
保護層20の膜厚は0.2〜3μmであると好ましく、0.5〜2μmであるとより好ましい。保護層20の膜厚がこの下限値を下回ると、磁石表面を十分に被覆することが極めて困難となる傾向にある。その結果、得られる希土類磁石100の耐食性が低下する傾向にある。一方、この膜厚が上記上限値を超えると、保護層20にクラックや剥離が生じやすくなり、保護層20としての信頼性が低下する傾向にある。なお、この場合の保護層20の膜厚とは、磁石素体10の表面上に形成されている保護層10の平均の膜厚をいうものとする。
また、本発明の好適な第2実施形態に係る希土類磁石100の製造方法は、図5に示すように、第2基体準備工程S20と、紫外照射工程S4とを有するものである。さらに、第2基体準備工程S20は、第1実施形態と同様のペルオキソチタン酸水溶液調製工程S1と、第1実施形態と同様の塗布工程S2とを有するものである。ここで、第2基体は、乾燥工程S3を経て得られるものであり、磁石素体10の表面上に乾燥膜を備えてなるものである。
紫外照射工程S4においては、上記乾燥膜に紫外光線を照射する。この工程S4を経て得られる保護層20は、乾燥膜中の一部のペルオキソ基が分解されて非晶質の酸化チタンが生じるので、より硬質でより緻密性に富んだものとなる傾向にある。したがって、得られる希土類磁石100は、保護層20を通じて外部の腐食要因物質が磁石素体10まで侵入し難くなるので、一層耐食性が向上する傾向にある。
紫外光線の照射方法としては、公知の方法であれば特に限定されず、例えばエキシマランプ、水銀ランプなどが挙げられる。
さらに、本発明の好適な第3実施形態に係る希土類磁石100の製造方法は、図6に示すように、第1実施形態と同様の第1基体準備工程S10と、乾燥紫外照射工程S5とを有するものである。乾燥紫外照射工程S5においては、磁石素体10の表面上に塗布された塗布液を、上述の乾燥工程S2におけるものと同様の所定の温度条件下で乾燥すると同時に、上記紫外照射工程S4と同様の照射方法により、その塗布液に紫外光線を照射する。この製造方法を用いると、第2実施形態に係る希土類磁石100の製造方法と同様に、得られる希土類磁石100は、一層耐食性が向上する傾向にある。
以上説明してきた本発明の好適な実施形態の希土類磁石100においては、磁石素体10の表面上の保護層20を乾燥して溶媒を蒸発させても、その時点では柔軟な構造を保持しているので、保護層20内に応力が発生しても容易に緩和することができる。また、乾燥工程において生成するペルオキソチタン水和物は、さらに酸化物へと徐々に変化していく。この場合、ペルオキソチタン水和物からチタン酸化物への体積収縮率が小さいため、本来、体積収縮に伴って発生する収縮応力が従来の場合と比較して、非常に小さいものとなる。さらには、上記所定の温度条件で塗布液を乾燥することにより保護層を得るので、そこに含有されるペルオキソ基を有するチタン化合物は酸化チタンと比較して高い柔軟性を有している。したがって、保護層20内に応力が発生しても、その応力を高い柔軟性により緩和することができる。これらの結果、保護層20にクラックが生じ難くなるため、本実施形態の希土類磁石100の耐食性が十分に優れたものとなる。
特に、一度に塗布する塗布液の膜厚がより厚くなり、あるいは塗布液が形成される磁石素体10の表面がより凹凸に富んだものであるような場合に、クラック発生の抑制効果がより大きなものとなるので、従来の希土類磁石と比較した耐食性の効果がより顕著に現れる。
さらに、本実施形態の希土類磁石100は、十分に高い緻密性を有し且つ磁石素体10との密着性にも優れた保護層20を備えるので、そのような観点からも、耐食性が十分に高いものとなる。
また、上述のペルオキソチタン酸水溶液は、安定性及び安全性が非常に高いため、その取り扱いが容易であると共に、保護層20を形成する際の手間も比較的少なくてすむ。したがって、そのようなペルオキソチタン酸水溶液を用いて得られる希土類磁石100は、その量産性及び製造コストの観点からも非常に優れている傾向にある。
さらに本実施形態の希土類磁石100は、その保護層20を形成する際に、高くても200℃程度に加熱乾燥すれば、得られる保護層20は非常に緻密性に優れたものとなる。したがって、希土類磁石100は、十分に優れた耐食性を有すると同時に、比較的高温での加熱を要しないので、磁石素体10が十分に高い磁気特性を維持するものである。
希土類磁石の用途は、ラインプリンター、自動車用スターター及びモーター、特殊モーター、サーボモーター、磁気記録装置用ディスク駆動、リニアアクチュエーター、ボイスコイルモーター、装置用モーター、工業用モーター、スピーカー及び核磁気共鳴診断用磁石などである。特に自動車用モーター等のオイルが飛沫するような環境で使用する場合においては、保護層が耐酸化性を有しているのみでは、十分に耐食性に優れた希土類磁石を得ることが困難である。かかる観点においても、本実施形態により得られた希土類磁石100は、酸素、水分、塩水、硫化物などの種々の腐食要因物質に対する耐性を有しているので、十分に優れた耐食性を備えたものである。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上述のペルオキソチタン酸水溶液調製工程S1に代えて、市販のペルオキソチタン酸水溶液を準備してもよい。
また、ペルオキソチタン酸水溶液調整工程において、析出処理を行うことなく、金属チタン若しくはチタン化合物に塩基性物質を加え、さらに過酸化水素水を加えて溶解してペルオキソチタン酸水溶液を得る方法以外に、チタン若しくはチタン化合物を溶解したチタン含有水溶液をそのまま放置あるいは加熱することにより、チタン化合物の沈殿を析出させ、その後、洗浄により、該水溶液中の塩基性物質に由来する陽イオンを所望の濃度以下に減少させた後に、さらに過酸化水素水を作用させることによってペルオキソチタン酸水溶液を得てもよい。
保護層に含有させるその他の物質としては、Al、Mg、Ca、Zn、Si、Mn等の金属微粉末や、SiO、TiO、ZrO、Al等の金属酸化物微粉末、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分、モンモリロナイト等の粘土鉱物が例示できる。
さらに、保護層20は、磁石素体10に直接積層されなくてもよく、磁石素体10を用意した後に、1層以上の機能層をその磁石素体10の表面上に形成して、その後に、保護層20を最も外側にある機能層の表面上に形成してもよい。機能層は、磁石素体10と保護層20との間の密着性を高める機能、磁石素体10と保護層20との間の過剰な反応を防止する機能(例えば、チタン酸化物が結晶化され、磁石素体10が酸化されるのを防止する機能)、磁石素体10の表面粗さを制御する機能などを有するものが好ましい。その構成材料としては、例えば、Al、Cr、Si、Ti及びNi等の金属、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂、又は金属酸化物等が挙げられる。また、その形成方法としては、従来公知の乾式法(蒸着法、スパッタ法等)、若しくは湿式法(塗布法、メッキ法、化成被膜法等)などを採用することができる。
また、保護層20の表面上に更に別の機能を有する膜が形成されてもよい。このことにより、磁石を接着する場合の接着剤の濡れ性調整、又は、磁石素体表面の絶縁性の確保が可能となる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
粉末冶金法によって作製した14Nd−1Dy−7B−78Fe(数字は原子比)の組成を有する焼結体を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で2時間、熱処理した後、56×40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨処理により面取りを行って磁石素体を得た。
次いで、この磁石素体を、アルカリ性脱脂液で洗浄した後、硝酸水溶液により表面の活性化を行い、その後十分に水洗した。
次に、固形分濃度1.7質量%のペルオキソチタン酸水溶液(有限会社鯤製、PTA−170、商品名)を準備し、これをディップコーティング法により磁石素体の表面上全体に塗布し(塗布工程)、第1基体を得た(第1基体準備工程)。
その後、磁石素体の表面上に塗布された塗布液を、電気炉を用いて200℃で20分間加熱乾燥して(乾燥工程)、保護層を形成し、実施例1の希土類磁石を得た。なお、同条件でガラス基板上に形成された保護層について、汎用のFT−IRを用いて、赤外スペクトルを測定したところ、890cm−1付近にピークが認められた。
得られた希土類磁石の保護層について、電子顕微鏡観察によりその膜厚を測定したところ、平均膜厚は1.5μmであった。また、電子顕微鏡を用いてその保護層表面の観察を行ったところ、クラックやピンホールは確認されなかった。
実施例1の希土類磁石について、80℃、90%RHの条件で耐食性加速試験を行ったところ、試験開始から200時間経過しても錆の発生は確認されなかった。
(比較例1)
塗布工程の際に用いた塗布液を、ペルオキソチタン酸水溶液に代えて、チタンテトライソプロポキシドを2−メトキシエタノールに溶解させたものとした以外は、実施例1と同様にして比較例1の希土類磁石を得た。
得られた希土類磁石の保護層について、電子顕微鏡観察によりその膜厚を測定したところ、平均膜厚は1.0μmであった。また、電子顕微鏡を用いてその保護層表面の観察を行ったところ、クラックが確認された。
比較例1の希土類磁石について、80℃、90%RHの条件で耐食性加速試験を行ったところ、試験開始から200時間経過した後に、磁石素体に錆の発生が確認された。
本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法により得られる希土類磁石を示す概略斜視図である。 本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法により得られる希土類磁石を示す概略断面図である。 R−Fe−B系磁石の相構成を示す模式拡大図である。 第1実施形態に係る希土類磁石の製造方法のフローチャートである。 第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法のフローチャートである。 第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法のフローチャートである。
符号の説明
10…磁石素体、20…保護層、100…希土類磁石、S3…乾燥工程、S4…紫外照射工程、S5…乾燥紫外照射工程、S10…第1基体準備工程、S20…第2基体準備工程。

Claims (8)

  1. 希土類元素を含有する磁石素体と、
    該磁石素体の表面上に形成され、且つ、ペルオキソ基を有するチタン化合物を含有する保護層と、
    を備えることを特徴とする希土類磁石。
  2. 前記チタン化合物がチタン原子及び酸素原子からなる化合物、並びに/又は、チタン原子、酸素原子及び水素原子からなる化合物であることを特徴とする請求項1記載の希土類磁石。
  3. 前記保護層が、0.2〜3μmの膜厚を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の希土類磁石。
  4. ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程と、
    前記塗布液を所定の温度条件下で乾燥する乾燥工程と、
    を経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  5. ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を所定の温度条件下で乾燥して得られた乾燥膜を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に備えてなる第2基体を準備する第2基体準備工程と、
    前記乾燥膜に紫外光線を照射する紫外光照射工程と、
    を経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  6. ペルオキソチタン酸水溶液を含有する塗布液を、希土類元素を含有する磁石素体の表面上に塗布してなる第1基体を準備する第1基体準備工程と、
    前記塗布液を所定の温度条件下で乾燥すると同時に、前記塗布液に紫外光線を照射する乾燥紫外照射工程と、
    を経て、前記磁石素体の表面上に保護層を形成することを特徴とする希土類磁石の製造方法。
  7. 前記保護層が、チタン原子及び酸素原子からなる化合物、並びに/又は、チタン原子、酸素原子及び水素原子からなる化合物、を構成材料とすることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
  8. 前記チタン化合物が非晶質であることを特徴とする請求項7記載の希土類磁石の製造方法。
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