以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
[希土類磁石]
図1は、本発明の好適な実施形態に係る希土類磁石を示す図である。また、図2は、図1に示す希土類磁石のII−II線に沿う断面構成を模式的に示す図である。図示されるように、希土類磁石1は、磁石素体2と、その表面上に形成された保護層4とから構成されるものである。
(磁石素体)
磁石素体2は、希土類元素を含有する永久磁石である。この場合、希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素のことをいう。なお、ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が含まれる。
磁石素体2の構成材料としては、上記希土類元素と、希土類元素以外の遷移元素とを組み合わせて含有させたものが例示できる。この場合、希土類元素としては、Nd、Sm、Dy、Pr、Ho及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、これらの元素にLa、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有したものであるとより好適である。
また、希土類元素以外の遷移元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素が好ましく、Fe及び/又はCoがより好ましい。
磁石素体2の構成材料としては、特に、R−Fe−B系の構成材料が好ましい。磁石素体2がR−Fe−B系のものであると、優れた磁石特性が得られるほか、保護層4の形成による耐食性向上効果がより良好に得られるようになる。
R−Fe−B系の磁石素体2は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有し、この主相の粒界部分に希土類元素の配合割合が高い希土類リッチ相、及びホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有する構造となっている。これらの希土類リッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相である。このような非磁性相は通常、磁石構成材料中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、通常1〜100μm程度である。
このようなR−Fe−B系の構成材料においては、希土類元素の含有量が8〜40原子%であると好ましい。希土類元素の含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保磁力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えると希土類リッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
また、Feの含有量は42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であると残留磁束密度が小さくなり、また、90原子%を超えると保磁力が小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成されやすく、これにより保磁力が小さくなる傾向にある。また、28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これにより残留磁束密度が小さくなる傾向にある。
上述した構成材料においては、R−Fe−B系におけるFeの一部が、Coで置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体2の磁気特性が低下する傾向にある。
また上記構成材料におけるBの一部は、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)又は銅(Cu)等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子の総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
さらに、保磁力の向上や製造コストの低減等を図る観点から、磁石素体2は、上記元素に加え、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)等を更に含有していてもよい。なかでも、磁石素体2は、Al及び/又はCuを更に含むと好適である。これらの含有量も磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、構成原子総量に対して10原子%以下とすることが好ましい。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、カルシウム(Ca)等が考えられ、これらは構成原子総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
(保護層)
保護層4は、磁石素体2の表面上に形成された磁石素体2を保護するための層である。ここでは、保護層4の2つの好適な形態について説明することとする。
(保護層:第1の形態)
まず、保護層4の第1の形態について説明する。第1の形態に係る保護層4は、無機粒子、並びに、磁石素体に含まれる金属元素及び酸素を含む金属化合物を含有する層である。図3は、第1の形態の保護層の表面付近の断面構成を拡大して示す模式図である。
図3に示されるように、保護層4は、主に無機粒子14が凝集されてなり、この無機粒子14の間に粒子間相24が形成された構造を有している。無機粒子14としては、金属を含む金属化合物から構成されるものが挙げられる。この金属としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)又はスズ(Sn)が好ましい。なかでも、Si、Al又はTiがより好ましく、Siが特に好ましい。なお、本明細書においては、Siは金属に含まれることとする。
無機粒子14としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物から構成されるものが好ましく、金属酸化物又は金属水酸化物から構成されるものがより好ましく、金属酸化物から構成されるものが更に好ましい。金属酸化物からなる無機粒子14としては、シリカ、アルミナ(ベーマイト等を含む)、チタニア、ジルコニア等の粒子が挙げられ、シリカ粒子が特に好ましい。
保護層4に含まれる無機粒子14は、その平均粒径が200nm以下であると好ましく、5〜100nmであるとより好ましい。ここで、平均粒径としては、BET法、X線小角散乱法、動的光散乱法、透過型電子顕微鏡による観察等の方法によって測定された値を採用できる。無機粒子14の平均粒径が200nmを超えると、無機粒子14間の隙間が大きくなりすぎ、この隙間が粒子間相24によって十分に満たされなくなる場合がある。なお、無機粒子14の平均粒径が5nm未満であると、保護層4の形成時に収縮応力が大きくなり、当該層にクラックが生じ易くなる場合がある。
粒子間相24は、磁石素体2に含まれる金属元素のうちの少なくとも一種と同じ金属元素の化合物(金属化合物)によって主に構成される。このような金属化合物としては、金属元素及び酸素を含む化合物が好適であり、具体的には金属酸化物又は金属水酸化物が挙げられる。好適な磁石素体2は、上述の如く、希土類元素及びこれ以外の遷移元素といった複数種類の金属元素を含むが、この場合、粒子間相24は、磁石素体2中の1種類の金属元素の化合物から構成されてもよく、複数種類の金属元素の化合物から構成されてもよい。
粒子間相24に含まれる金属化合物としては、例えば、磁石素体2がFeを含む場合、Fe化合物が好ましい。このように粒子間相24がFe化合物を含むことで、保護層4における無機粒子14同士が更に良好に結合され、希土類磁石1の耐食性が更に向上する。また、Feは、嫌気性接着剤の硬化触媒としても機能し得ることから、保護層4(粒子間相24)がFe化合物を含むことで、希土類磁石1を他の部材に嫌気性接着剤を用いて接着する場合等に優れた接着性が得られる傾向にある。
さらに、磁石素体2がAl及び/又はCuを含む場合、粒子間相24は同様にAl及び/又はCuを含むことが好ましい。保護層4がAlを含有すると、Alの無機粒子14等に対する親和性の高さによって、更に優れた耐食性が得られるようになる。また、Cuは、Feと同様に嫌気性接着剤の硬化触媒として機能し得ることから、Cuを更に含む保護層4を備える希土類磁石1は、他の部材等に嫌気性接着剤を用いて接着する場合に、優れた接着性を発揮し得るようになる。
さらにまた、磁石素体2が上記の金属元素以外の金属元素を更に含有する場合は、粒子間相24は、これらの金属元素の化合物を更に含有していてもよい。
この保護層4においては、当該保護層4の単位表面積に対する無機粒子14の質量(以下、「無機粒子の単位質量」という)が、90〜10000μg/cm2を満たしている。この値は、保護層4の所定の表面積に対する、当該表面積の部分を構成している保護層4中に含まれる無機粒子14の質量を示す値である。したがって、かかる値は、同じ密度で無機粒子14が含まれる場合、保護層4の膜厚が厚いほど大きくなる。
このような無機粒子14の単位質量は、例えば、保護層4に含まれている無機粒子の構成元素(特に金属元素)の量を蛍光X線分析法により測定した後、この測定結果を無機粒子14の質量に換算することによって算出することができる。
保護層4において、無機粒子14の単位質量が90μg/cm2未満であると、無機粒子14同士が離れ過ぎるか、又は、保護層4が薄すぎることとなり、十分な耐食性及び絶縁性が得られ難くなる。一方、10000μg/cm2を超えると、保護層4中の粒子間相24が十分に形成されないか、又は、保護層4が厚すぎることとなり、保護層4の剥離が生じ易くなるほか、保護層4の膜厚のばらつきが大きくなり、良好な寸法精度を得難くなる。また、保護層4が厚すぎると、相対的に磁石素体2のサイズが小さくなることから、十分な磁気特性が得られ難くなるという問題も生じ易くなる。
これらの不都合をより効果的に低減する観点からは、保護層4における無機粒子14の単位質量は、250μg/cm2以上であると好ましい。また、3000μg/cm2以下であると好ましく、1000μg/cm2以下であるとより好ましい。
保護層4においては、粒子間相24に含まれる金属元素(金属化合物の金属元素)は、磁石素体2との界面部分から、当該保護層4の厚さ方向の中央よりも表面側まで少なくとも含まれていると好ましく、保護層4の表面まで含まれているとより好ましい。この場合、保護層4においては、金属元素の濃度が、表面側から磁石素体2側に向かって大きくなっているとより好ましい。保護層4がかかる構成を有していると、保護層4と磁石素体2との密着性が更に良好となる。また、保護層4に応力が発生し難くなり、クラックの発生が少なくなる。その結果、希土類磁石1の耐食性が更に向上する。なお、保護層4中の金属元素の濃度は、例えば、オージェ電子分光法によって測定することができる。この場合の濃度とは、かかる測定法によって測定された金属元素の総量に対する、該当金属元素の割合をいう。
さらに、保護層4は、磁石素体2に含まれるもの以外の金属元素を含有していてもよい。このような金属元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)又はマンガン(Mn)が挙げられる。これらは、無機粒子14及び粒子間相24のいずれに含まれていてもよいが、粒子間相24に含まれていると好ましい。保護層4がこれらの元素を含むと、希土類磁石1の耐食性が一層向上する傾向にある。
(保護層:第2の形態)
次に、保護層4の第2の形態について説明する。第2の形態に係る保護層4は、ケイ素(Si)、酸素(O)及び磁石素体2に含まれる金属元素のうちの少なくとも一種と同種の金属元素を含む組成を有する層である。このような保護層4においては、ケイ素及び酸素を含む化合物が、上記第1の形態のように無機粒子を構成していてもよい。
第2の形態の保護層4は、例えば、以下のような構造を有している。すなわち、保護層4は、一般式MOx・nSiO2(Mは、磁石素体2と同種の金属元素)で表されるケイ酸塩を含むものである。これらのケイ酸塩は、SiO4の正四面体が規則的に連鎖して配列し、その隙間に上記Mで表される金属のイオンが入った構造のイオン結晶であると考えられる。なお、保護層4は、これらのケイ酸塩のほかに、二酸化ケイ素や、磁石素体2中の金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を更に含有していてもよい。
保護層4においては、磁石素体2と同種の金属元素のうちの少なくとも一種は、この保護層4の表面側(磁石素体2と反対の表面側)から磁石素体2側に向かって濃度が大きくなっている。このような構成の保護層4は、全ての金属元素が略均一に含まれている場合に比して、磁石素体2との界面近傍で磁石素体2との組成が近くなるため、磁石素体2に対する密着性が極めて良好である。また、このようにして金属元素を含む保護層4は、応力が発生し難いためクラック等を生じ難い。したがって、かかる保護層4を備える希土類磁石1は、保護層4にクラック等が生じることによる劣化も少ないものとなる。なお、保護層4中の金属元素の濃度は、上記第1の形態の保護層4における粒子間相24に含まれる金属元素の濃度と同様にして測定可能である。
また、保護層4は、磁石素体2と同種の金属元素の濃度が、磁石素体2中の当該金属元素の濃度よりも高い部分を含んでいると好ましい。これにより、保護層4の緻密性や磁石素体2に対する密着性が更に良好となり、希土類磁石1の耐食性が一層向上する。このような金属元素は、保護層4中において、上述したような磁石素体に近づくにつれて濃度が大きくなるものであると更に好ましい。さらに、保護層4に含まれる磁石素体2と同種の金属元素は、磁石素体2との界面部分から当該保護層4の厚さ方向の中央よりも表面側までの領域に少なくとも含まれていると好ましく、保護層4の表面部分まで含まれているとより好ましい。
保護層4においては、当該保護層4の単位表面積に対するケイ素の質量(以下、「ケイ素の単位質量」という)が、SiO2に換算して90〜10000μg/cm2となるように含まれている。この値は、保護層4の所定の表面積に対する、当該表面積の部分を構成している保護層4中に含まれるケイ素のSiO2に換算した質量を示す値である。このようなケイ素の単位質量は、例えば、保護層4に含まれているケイ素の量を蛍光X線分析法により測定した後、この測定結果をSiO2に換算することによって算出することができる。保護層4中のケイ素がこのような条件を満たすと、かかる保護層4は優れた絶縁性を有するようになる。このような効果をより良好に得る観点からは、保護層4におけるケイ素の単位質量は、250μg/cm2以上であると好ましい。また、3000μg/cm2以下であると好ましく、1000μg/cm2以下であるとより好ましい。
また、第2の形態の保護層4は、磁石素体2と同種の金属元素として、上述した第1の形態の保護層4と同様に、Fe及びAlのうちの一種以上の金属元素を、金属酸化物や金属水酸化物といった金属化合物として含むことが好ましい。また、これらに加えてCuを金属単体や金属化合物として含むとより好ましい。これらの金属元素を含むことで、第1の形態における場合と同様の効果が得られるようになる。さらに、保護層4は、磁石素体2がFe、Al、Cu以外の金属元素を更に含有する場合は、かかる金属元素を含んでいてもよく、磁石素体2に含まれない金属元素を更に含有していてもよい。
[希土類磁石の製造方法]
次に、上記構成を有する希土類磁石1の好適な製造方法について説明する。
まず、磁石素体2は、粉末冶金法により製造することができる。この方法においては、まず、鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕する。その後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるようにする。こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cm2の圧力で成形する。
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空下中、1000〜1200℃で0.5〜10時間焼結させた後に急冷する。さらに、この焼結体に、不活性ガス雰囲気又は真空中、500〜900℃で1〜5時間の熱処理を施し、必要に応じて焼結体を所望の形状(実用形状)に加工することにより、磁石素体2が得られる。
このようにして磁石素体2を得た後、後述の保護層4を形成する工程を実施する前に、磁石素体2に対して酸洗浄を施すことが好ましい。酸洗浄で使用する酸としては、硝酸が好ましい。通常、鋼材等にメッキ処理を施す場合、塩酸、硫酸等の酸化性を有しない非酸化性の酸が用いられることが多い。しかし、本実施形態での磁石素体2のように希土類元素を含む場合には、これらの酸を用いて処理を行うと、酸により発生する水素が磁石素体2の表面に吸蔵され易く、吸蔵部位が脆化して多量の粉状未溶解物が発生する場合がある。この粉状未溶解物は、表面処理後の面粗れ、欠陥および密着不良を引き起こすおそれがある。このため、上述したような非酸化性の酸は、本実施形態においては酸洗浄処理液に含有させないことが好ましい。したがって、酸洗浄においては、水素の発生が少ない酸化性を有する酸、例えば硝酸を用いることが好ましい。
このような酸洗浄による磁石素体2の表面の溶解量は、表面から平均厚みで5μm以上、好ましくは10〜15μmとするのが好適である。こうすれば、磁石素体2の表面の加工による変質層や酸化層をほぼ完全に除去することができ、後述する保護層4を良好に形成することができる。
酸洗浄に用いられる硝酸の濃度は、好ましくは1規定以下、特に好ましくは0.5規定以下である。硝酸濃度が高すぎると、磁石素体2の溶解速度が極めて速く、溶解量の制御が困難となり、特にバレル処理のような大量処理でばらつきが大きくなって、製品の寸法精度の維持が困難となる傾向がある。また、硝酸濃度が低すぎると、溶解量が不足する傾向がある。このため、硝酸濃度は1規定以下とすることが好ましく、特に0.5〜0.05規定とすることが好ましい。また、処理終了時のFeの溶解量は、1〜10g/L程度とする。
酸洗浄後、磁石素体2の表面に付着した未溶解物や残留酸成分を除去するため、磁石素体2に対して更に洗浄、好ましくは超音波を使用した洗浄を行うことが好ましい。この超音波洗浄は、磁石素体2の表面に錆を発生させる塩素イオンが極めて少ない純水中で行うのが好ましい。さらに、かかる洗浄の前後及び上記処理液による処理の各過程において、必要に応じて水洗を行ってもよい。
その後、磁石素体2の表面に、例えば第1の保護層4を形成する場合は、無機粒子を含み酸性を有する水溶液(処理液)を接触させ、かかる表面上に無機粒子、及び、磁石素体に含まれる金属元素のうちの少なくとも一種と同一の金属元素の化合物を含む保護層を形成する。
処理液は、上述したような金属化合物等から構成される無機粒子が均一に分散した水性ゾルであると好ましい。このような水性ゾルとしては、スノーテックス(日産化学工業株式会社製)、クォートロン(扶桑化学工業株式会社製)、アルミナゾル(日産化学工業株式会社製)、チタニアゾルSTS(石原産業株式会社製)等が例示できる。
また、例えば第2の保護層4を形成する場合は、磁石素体2の表面に、ケイ酸イオンを含み且つ酸性を有する水溶液(処理液)を接触させ、かかる表面上に第2の形態の保護層4を析出させる。ケイ酸イオンを含む処理液は、例えば、処理液中にケイ酸塩が溶解することで得られるものである。このケイ酸塩としては、nA2O・mSiO2(Aはアルカリ金属元素)で表されるアルカリ金属塩や、ケイ酸アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。なかでも、ケイ酸アルカリ金属塩は、容易に保護層を形成し得ることから好ましい。ケイ酸アルカリ金属塩としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸セシウム等が挙げられる。処理液中のケイ酸イオンの濃度は、SiO2に換算して0.01〜4mol/Lであると好ましい。
処理液は、上述の如く、いずれも酸性を有している。処理液のpHは、具体的には、0〜6であると好ましく、1〜5であるとより好ましい。処理液のpHが低すぎると、磁石素体2が過度に溶解されて所望の形状の希土類磁石が得られ難くなるおそれがある。一方、pHが5を超えると、磁石素体2に接触する時の処理液の安定性が低い状態となり、均一な厚さの保護層4が形成され難くなる傾向にある。
処理液の酸性は、上述した水性ゾル等の無機粒子又はケイ酸イオンを含む水溶液に酸を含有させることで調整することができる。酸としては、特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や、リンゴ酸、マロン酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸を適用することができる。この酸の濃度を調整することによって、処理液のpHを上述したような好適範囲に調整することができる。
処理液は、酸として酸化性を有する酸を含むことがより好ましい。酸化性を有する酸としては、上述したような酸に加え、酸化剤を更に含有するものが挙げられる。酸化剤としては、硝酸又は硝酸塩、亜硝酸又は亜硝酸塩、過酸化水素、過マンガン酸塩等が例示できる。処理液が酸化性を有する酸を含むことで、磁石素体2の主相が良好に溶解され、均一な厚さを有する保護層4が形成されるようになる。また、酸性の処理液による処理中には、上記の酸洗浄時と同様に水素による磁石素体2の脆化の問題が生じる場合があるが、酸化性を有する酸を含むことによって、このような問題を低減することが可能となる。
特に、処理液は、酸化性を有する酸として、硝酸、過塩素酸又はクロム酸を含むことが好ましい。これらは、単独で酸及び酸化剤の両方として機能し得る。そのため、これらを含むことによって、処理液は酸化剤を含まなくとも良好な酸性及び酸化性を有するものとなる。なかでも、酸化性を有する酸としては、硝酸が、酸及び酸化剤の両方の特性を良好に具備することから特に好ましい。なお、処理液は、このような単独で酸及び酸化剤として機能する酸を含む場合であっても、更に酸化剤を含んでいてもよい。
また、処理液中には、保護層4中に、上述したような磁石素体2に含まれるもの以外の金属元素を含有させるため、これらの金属元素、具体的には、Ti、Zr、V、Mo、W又はMnの化合物、例えばこれらの金属の塩を更に添加することができる。かかる金属塩としては、例えば、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、バナジン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム、硫酸マンガン、硝酸マンガン、ぎ酸マンガン、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。これらの金属塩の配合量は、処理液中、0.01mol/L〜0.5mol/Lであると好ましい。
磁石素体2に処理液を接触させる方法としては、磁石素体2を処理液中に浸漬する浸漬法や、磁石素体2に処理液を噴霧するスプレー法が挙げられる。なかでも、磁石素体2の全面に処理液を簡便に付着させ得る浸漬法が好適である。処理中の処理液の温度は、0〜90℃であると好ましく、10〜60℃であるとより好ましい。また、浸漬法による場合、磁石素体2を処理液に浸漬する時間は10秒〜30分が好ましい。なお、これらの条件は、所望とする保護層4の厚さ等に応じて適宜変更できる。
このように処理液の接触により保護層4が形成される具体的なメカニズムについては必ずしも明らかではないが、例えば、第1の形態に係る保護層4を形成する場合は、下記の(1)及び(2)が推測される。すなわち、酸性を有する水溶液(処理液)が磁石素体に接触すると、まず、その部分の磁石素体が溶解する。(1)このように磁石素体の溶解が生じると、かかる反応によってその部分における処理液の酸性が弱まる(pHが上昇する)。こうなると、処理液中の酸性が弱まった部分で無機粒子の分散性が低下し、これにより磁石素体の表面に無機粒子が付着する。この際、磁石素体から溶出した金属元素は、処理液中の成分と反応等して上述したような金属化合物を形成し、無機粒子間の隙間を充填するように磁石素体の表面上に析出する。
また、(2)処理液の接触により磁石素体が溶解すると、磁石素体近傍の処理液中に磁石素体を構成する金属元素に由来する金属イオン等が分散する。この金属イオン等は、処理液中において無機粒子の表面に吸着等されて付着する。金属イオンが付着した無機粒子は、その表面のゼータ電位が変化するため凝集し易くなる。したがって、磁石素体表面の近傍においては無機粒子が凝集し、この凝集した無機粒子が磁石素体の表面に付着する。この際、無機粒子に付着した金属イオン等は、処理液中の成分と反応等して上記金属化合物を形成し、無機粒子間の隙間を充填するように磁石素体の表面上に析出する。ただし、保護層の形成メカニズムは必ずしもこれらに限定されない。
保護層4の形成後には、この保護層4の表面に付着した処理液やその反応後の副生物、磁石素体2から溶解した成分等を除去するために、保護層4の表面を水洗することが好ましい。これにより、余分な処理液が除去され、処理液の流動等に起因する保護層4の厚さのむらが低減される。また、処理液は酸性を有しており希土類磁石1を腐食させる要因となり易いため、水洗によって、残存した処理液に起因する希土類磁石1の腐食を確実に防止することができる。保護層4の水洗後には、温風乾燥や自然乾燥により保護層4を乾燥させる処理を行うと更に好ましい。
また、保護層4には、更に熱処理を施してもよい。熱処理によって、例えば、粒子間相24を構成する金属化合物の縮合が進行し、これによって希土類磁石1の耐食性を更に向上させ得る場合がある。熱処理は、保護層4形成後の希土類磁石1を加熱することで行うことができる。この場合の加熱温度は、例えば、50〜450℃とすることができる。このようにして、磁石素体2の表面上に保護層4を備える希土類磁石1が得られる。
以上、本発明の希土類磁石及びその製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は、必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、まず、希土類磁石1における第1の形態の保護層4においては、必ずしも上述したように無機粒子14の隙間を粒子間相24が完全に満たしている必要はなく、例えば、無機粒子14の表面に粒子間相24と同様の金属化合物が付着したような形態であってもよい。また、保護層4において無機粒子14と金属化合物とは分離している必要はなく、金属化合物が無機粒子14中に含まれていてもよい。
また、希土類磁石1は、保護層4の表面上に、希土類磁石1を保護するための層を更に備えるものであってもよい。このような層としては、通常希土類磁石の表面を保護する層として形成されるものを特に制限なく適用でき、樹脂層、無機化合物層、金属層等が挙げられる。これにより、希土類磁石1の耐食性等を更に向上させることが可能となる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[希土類磁石の製造]
(製造例1〜6)
まず、粉末冶金法により、組成が27.6Nd−4.9Dy−0.5Co−0.4Al−0.07Cu−1.0B−残部Fe(数字は重量百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を20mm×10mm×2mmの寸法に切り出し加工し、磁石素体を得た。次に、得られた磁石素体に対し、2%HNO3水溶液中に2分間浸漬する酸洗浄を行った後、超音波洗浄を行った。
その後、磁石素体を、無機粒子を含み酸性を有する処理液中に5分間浸漬させることにより、磁石素体の表面上に保護層を形成して希土類磁石を得た。この希土類磁石を処理液から引き上げた後、処理液が乾燥する前に十分に水洗し、更に、180℃で20分間の熱処理を施した。これにより、磁石素体の表面に保護層を備える製造例1〜6の希土類磁石をそれぞれ完成させた。
製造例1〜6においては、処理液として、表1に示すpHを有する無機粒子分散水溶液(水性ゾル)をそれぞれ用いて、各種の希土類磁石を製造した。これらの処理液のpHは、酸として硝酸を添加することによって調整した。表1中、各製造例で形成された保護層の膜厚も併せて記した。
表1中、スノーテックスC(日産化学社製)は、BET法による平均粒径が10〜20nmのシリカ微粒子を含み、微粒子表面がAlにより安定化処理されたゾルであり、スノーテックスO(日産化学社製)は、BET法による平均粒径が10〜20nmのシリカ微粒子を含むゾルであり、アルミナゾル520は、TEM観察による平均粒径が10〜20nmのベーマイト微粒子を含むゾルであり、STS−01は、X線により測定された平均粒径が7nmの酸化チタン(アナターゼ)微粒子を含むゾルである。
また、製造例1〜6で得られた希土類磁石の表面組成を、蛍光X線分析(ZSX−100e;リガク社製)により分析した。その結果、製造例1〜4の希土類磁石の表面には、Si、Al及びCuが析出していることが確認され、製造例5の希土類磁石の表面にAl及びCuが析出していることが確認され、製造例6の希土類磁石の表面にTi、Al及びCuが析出していることが確認された。
さらに、製造例1〜6で得られた希土類磁石について、オージェ電子分光法(アルバック・ファイ社製SAM680)により保護層に含まれる元素の深さ方向のプロファイルを分析した。その結果、保護層にはFe及びOが更に含まれていることが確認された。
一例として、製造例2の希土類磁石のオージェ電子分光法による分析結果を図4に示す。図4中、横軸は、Arイオンによる希土類磁石のスパッタ時間であり、表面からの深さに比例している。また、縦軸は、該当するスパッタ時間において測定された各元素の強度を示している。かかる分析においては、スパッタ時間0〜11分では保護層を、スパッタ時間20分以上では磁石素体を分析していると考えられる。また、これらの間の時間は、表面粗さの影響により、場所によって保護層又は磁石素体のいずれかを測定していると考えられる。
図4中、L11はFe、L12はO、L13はSi、L14はAlの強度をそれぞれ示している。図4より、保護層の表面から磁石素体との界面に向かって、Fe及びAlの濃度が徐々に大きくなっていることが確認された。また、保護層中のAl濃度は、磁石素体内部のAl濃度よりも大きく、特に磁石素体との界面近傍部分で大きくなっていることが確認された。
(比較製造例1)
製造例1〜6と同様にして得られた磁石素体をそのまま希土類磁石とした。
(比較製造例2)
まず、製造例1〜6と同様にして磁石素体の作製、酸洗浄及び超音波洗浄を行った。得られた磁石素体に対し、スノーテックスC(無機粒子含有量:20重量%)にメタノールを10重量%加えた処理液をスプレーコーティングした。その後、180℃、20分の熱処理を施して、磁石素体の表面にコロイダルシリカ被膜を備える希土類磁石を得た。
[特性評価]
(高温高湿試験)
製造例1〜6及び比較製造例1〜2の希土類磁石に対し、85℃、85%RH、250時間の高温高湿試験を行い、各希土類磁石の外観を観察した。その結果、製造例1〜6の希土類磁石では錆の発生が見られなかったのに対し、比較製造例1の希土類磁石では試験開始24時間後に錆が発生し、比較製造例2の希土類磁石では試験開始250時間後に錆が発生した。この結果から、無機粒子、又は、ケイ素及び酸素、並びに、磁石素体に含まれるのと同じ金属元素を含む保護層を有する希土類磁石(製造例1〜6)は、このような保護層を有しないもの(比較製造例1〜2)に比して、錆を生じ難いことが確認された。
[希土類磁石の製造]
(実施例1〜3、比較例1〜3)
まず、粉末冶金法により、組成が27.6Nd−4.9Dy−0.5Co−0.4Al−0.07Cu−1.0B−残部Fe(数字は重量百分率を表す。)である鋳塊を作製し、これを粗粉砕した。その後、不活性ガスによるジェットミル粉砕を行って、平均粒径約3.5μmの微粉末を得た。得られた微粉末を金型内に充填し、磁場中で成形した。次いで、真空中で焼結後、熱処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を20mm×10mm×2mmの寸法に切り出し加工し、磁石素体を得た。次に、得られた磁石素体に対し、2%HNO3水溶液中に2分間浸漬する酸洗浄を行った後、超音波洗浄を行った。
その後、磁石素体を、無機粒子を含み酸性を有する処理液中に所定の時間浸漬させることにより、磁石素体の表面上に保護層を形成して希土類磁石を得た。この希土類磁石を処理液から引き上げた後、処理液が乾燥する前に十分に水洗し、更に、180℃で20分間の熱処理を施した。これにより、磁石素体の表面に保護層を備える実施例1〜3、比較例1〜3の希土類磁石をそれぞれ完成させた。
実施例1〜3、比較例1〜3においては、処理液として、表2に示すpHを有する無機粒子分散水溶液(水性ゾル)をそれぞれ用いるとともに、浸漬時間を表2に示すように変化させて、各種の希土類磁石を製造した。これらの処理液のpHは、酸として硝酸を添加することによって調整した。
そして、得られた実施例1〜3、比較例1〜3の希土類磁石について、それぞれ保護層に含まれるSiの量を蛍光X線分析法(ZSX−100e;(株)リガク製)により測定し、得られた結果から、保護層における無機粒子(シリカ粒子;SiO
2)の単位質量を算出した。各希土類磁石における保護層中の無機粒子の単位質量を、表2に併せて示す。
表2中、スノーテックスC(日産化学工業(株)製)は、BET法による平均粒径が10〜20nmのシリカ微粒子を含み、微粒子表面がAlにより安定化処理されたゾルである。
なお、実施例1〜3、比較例1〜3で得られた希土類磁石の蛍光X線分析による表面組成の分析の結果、これらの希土類磁石の表面には、Si、Al及びCuが析出していることが確認された。
また、実施例1〜3、比較例1〜3で得られた希土類磁石について、オージェ電子分光法(アルバック・ファイ(株)製SAM680)により保護層に含まれる元素の深さ方向のプロファイルを分析した。その結果、保護層にはFe及びOが更に含まれていることが確認された。
(比較例4)
実施例1〜3、比較例1〜3と同様にして得られた磁石素体をそのまま希土類磁石とした。
[特性評価]
(絶縁性試験)
実施例1〜3、比較例1〜4の希土類磁石の絶縁性を、以下に示す方法で測定した。すなわち、希土類磁石の対向する2つの面に導電テープ(住友スリーエム社製、2245)を密着させ、この2面間の抵抗値を測定した。この抵抗値が大きいほど、各希土類磁石の保護層の絶縁性が大きいことを意味している。なお、抵抗の測定には、絶縁抵抗計(横河ヒューレットパッカード社製4329A)及び簡易テスターの両方を用いた。
各希土類磁石で得られた抵抗値を、2つ測定器を用いた場合のそれぞれについて表3に示した。また、実施例1〜3及び比較例1〜3の希土類磁石の保護層中の無機粒子の単位質量に対する、これらの希土類磁石で得られた抵抗値をプロットしたグラフを図5に示す。図中、黒丸が実施例1〜3、×が比較例1〜3で得られた結果に該当する。
表3及び図5より、保護層中の無機粒子の単位質量が90μg/cm2以上であった実施例1〜3の希土類磁石によれば、無機粒子の単位質量がこれよりも小さかった(82μg/cm2以下)比較例1〜3の希土類磁石、及び、保護層を有しない比較例4の希土類磁石に比して、極めて優れた電気絶縁性が得られることが確認された。