本発明は、駆動手段を備える車両の駆動力制御に関するものであり、さらに詳しくは、制動力、駆動力の立ち上がりに優れた車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法に関するものである。
自動車等の車両では、障害物検出手段を備え、その障害物検出信号によって自動的に制動装置を作動させることによって障害物との衝突を回避し、安全性を向上させる技術がある。このような技術として、例えば、特許文献1には、回生制動装置を備える電気自動車において、障害物の存在を検出したときには、駆動用モータの界磁用コイルの電流を最大値まで増加させることにより、制動力を発生させる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、制動力を高めることはできるが、制動力を駆動用モータの回生により発生させるので、回生を開始しても駆動系のガタが詰まるまでは駆動輪に制動力が発生しない。これにより、制動力の立ち上がりが遅くなる。また、制動によって、駆動系のガタは制動側に詰まっているため、駆動側に対する駆動系のガタが存在する。これにより、制動を終了して再加速に移行する際には、駆動力の立ち上がりが遅くなる。さらに、障害物の存在を検出してからモータの回生を開始するので、制動力の立ち上がりが遅くなる。
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、障害物の存在を検知して衝突回避動作を実行できる車両において、速やかに制動力、駆動力を立ち上がらせることのできる車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両の駆動力制御装置は、少なくとも一対の駆動手段により駆動されるとともに、障害物の存在を検知して一定の条件で前記障害物との衝突回避動作を実行できる車両の駆動力を制御するものであり、前記衝突回避動作の準備をしている場合、又は前記衝突回避動作の終了を準備している場合には、前記駆動手段のトルクの大きさと予め規定したプレロードトルクとを比較するトルク判定部と、前記駆動手段のトルクの大きさが前記プレロードトルクに達していない場合、前記駆動手段のトルクが前記プレロードトルクまで達するように、かつ、前記一対の駆動手段のうち、前記一方の駆動手段のトルクを低減させた分だけ他方の駆動手段のトルクを増加させるように前記駆動手段のトルクを決定するトルク要求値決定部と、を含んで構成されることを特徴とする。
この車両の駆動力制御装置は、衝突回避動作の準備中又は前記衝突回避動作の終了準備中に、一方の駆動手段のトルクを低減させた分だけ他方の駆動手段のトルクを増加させ、それぞれの駆動系にプレロードを作用させる。これにより、一方の駆動系のガタを制動側に詰めることができるとともに、他方の駆動系のガタを駆動側に詰めることができる。その結果、衝突回避動作に移行したときには、速やかに制動力を立ち上げることができる。また、衝突回避動作終了後には、速やかに駆動力を立ち上げることができる。なお、それぞれの駆動手段が駆動する駆動輪上におけるトルクが等しくなるように、それぞれの駆動手段のトルクを低減させ、増加させる。
次の本発明に係る車両の駆動力制御装置は、前記車両の駆動力制御装置において、前記車両は、前輪駆動手段で駆動される前輪と、後輪駆動手段で駆動される後輪とを備えるとともに、前記前輪駆動手段と前記後輪駆動手段とで前記一対の駆動手段を構成することを特徴とする。
次の本発明に係る車両の駆動力制御装置は、前記車両の駆動力制御装置において、前輪のトルクを低減させた分だけ、後輪のトルクを増加させることを特徴とする。
このように、前輪のトルクを低減させた分だけ後輪のトルクを増加させるので、車両の駆動力を制御する際には、車両全体としての駆動力をほとんど変化させない。その結果、速やかに制動力、駆動力を立ち上げることができるとともに、車両の駆動力を制御する際に、車両の運転者や乗員が感ずる加減速の違和感を低減することができる。
次の本発明に係る車両の駆動力制御装置は、前記車両の駆動力制御装置において、前記一対の駆動手段は、ともに電動機であることを特徴とする。
次の本発明に係る車両の駆動力制御装置は、前記車両の駆動力制御装置において、前記前輪駆動手段で回生するとともに、前記後輪駆動手段は力行させることを特徴とする。
このように、一対の駆動手段に電動機を用いて、前輪駆動手段で回生した分を後輪駆動手段で力行(駆動)させるので、車両の駆動力を制御する際には、車両全体としての駆動力をほとんど変化させない。その結果、速やかに制動力、駆動力を立ち上げることができるとともに、前輪駆動手段と後輪駆動手段との間で電力収支が成立するので、電源に依存せずに車両の駆動力を制御できる。
次の本発明に係る車両の駆動力制御方法は、少なくとも一対の駆動手段により駆動されるとともに、障害物の存在を検知して一定の条件で前記障害物との衝突回避動作を実行できる車両の駆動力を制御するにあたり、前記衝突回避動作の準備をしている場合、又は前記衝突回避動作の終了を準備している場合には、前記駆動手段のトルクの大きさと予め規定したプレロードトルクとを比較する手順と、前記駆動手段のトルクの大きさが前記プレロードトルクに達していない場合、前記駆動手段のトルクが前記プレロードトルクまで達するように、かつ、前記一対の駆動手段のうち、前記一方の駆動手段のトルクを低減させた分だけ他方の駆動手段のトルクを増加させるように、前記駆動手段のトルクを決定する手順と、を含むことを特徴とする。
この車両の駆動力制御方法は、衝突回避動作の準備中又は前記衝突回避動作の終了準備中に、一方の駆動手段のトルクを低減させた分だけ他方の駆動手段のトルクを増加させ、それぞれの駆動系にプレロードを作用させる。これにより、一方の駆動系のガタを制動側に詰めるようにすることできるとともに、他方の駆動系のガタを駆動側に詰めることができる。その結果、衝突回避動作に移行したときには、速やかに制動力を立ち上げることができ、衝突回避動作終了後には、速やかに駆動力を立ち上げることができる。なお、それぞれの駆動手段が駆動する駆動輪上におけるトルクが等しくなるように、それぞれの駆動手段のトルクを低減させ、増加させる。
次の本発明に係る車両の駆動力制御方法は、前輪と後輪とが電動機により駆動されるとともに、障害物の存在を検知して一定の条件で前記障害物との衝突回避動作を実行できる車両の駆動力を制御するにあたり、前記衝突回避動作の準備をしている場合、又は前記衝突回避動作の終了を準備している場合には、前記電動機のトルクの大きさと予め規定したプレロードトルクとを比較する手順と、前記電動機のトルクの大きさが前記プレロードトルクに達していない場合、前記前輪を駆動する電動機のトルク及び前記後輪を駆動する電動機のトルクが前記プレロードトルクまで達するように、かつ前記前輪を駆動する電動機を回生させた分だけ前記後輪を駆動する電動機を力行させるように、前記電動機のトルクを決定する手順と、を含むことを特徴とする。
この車両の駆動力制御方法は、衝突回避動作の準備中又は前記衝突回避動作の終了準備中に、前輪を駆動する電動機を回生させるとともに、後輪を駆動する電動機を力行させることにより、前輪の駆動系には制動の、後輪の駆動系には駆動のプレロードを作用させる。これにより、一方の駆動系のガタを制動側に詰めることができるとともに、他方の駆動系のガタを駆動側に詰めることができる。その結果、衝突回避動作に移行したときには、速やかに制動力を立ち上げることができ、衝突回避動作終了後には、速やかに駆動力を立ち上げることができる。
この発明に係る車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法によれば、速やかに制動力、駆動力を立ち上がらせることができる。
以下、本発明の実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、本発明は、乗用車、トラックのような自動車の他、電動機により駆動される鉄道車両に対しても適用できる。
実施例1に係る車両の駆動力制御装置は、前輪と後輪とを一対の駆動手段で駆動するとともに、前方監視装置を有し、障害物の接近に対して衝突回避動作を実行する車両であって、衝突回避動作の準備中又は衝突回避動作終了の準備中には、前輪又は後輪の一方を駆動する駆動手段のトルクを低減させることにより前輪又は後輪の駆動系に制動側のプレロードトルクを与えるとともに、他方を駆動する駆動手段のトルクを前記低減分だけ増加させて、他方の駆動系には駆動側のプレロードを与える点に特徴がある。
図1は、実施例1に係る車両を示す平面図である。図1に示すように、実施例1に係る車両100は、前輪用駆動手段である前輪用電動機3lにより駆動される前輪1lと、後輪用駆動手段である後輪用電動機3tにより駆動される後輪1tとを備えている。ここで、前輪用電動機3lと後輪用電動機3tとが、一対の駆動手段を構成する。なお、実施例1において、前輪及び後輪用電動機3l、3tには誘導電動機を使用するが、これに限定されるものではない。前輪用電動機3lのトルクは、前輪用減速機3ltで減速されて前輪1lに伝達され、後輪用電動機3tのトルクは、後輪用減速機3ttで減速されて後輪1tに伝達される。なお、前輪用減速機3lt及び後輪用減速機3ttは、電動機や車両の仕様により、必要に応じて使用する。
車両100は、前輪及び後輪用電動機3l、3tを駆動するための電源5を備える。電源5は、一般的な蓄電池の他、燃料電池を使用することもできる。電源5と前輪及び後輪用電動機3l、3tとは、電動機駆動用ドライバ7を介して電気的に接続されている。実施例1において電源5は直流電源であるが、電動機駆動用ドライバ7は、直流を交流に変換するインバータ機能、及び周波数/電圧可変機能を備えており、電源5から供給される電力を交流に変換して前輪及び後輪用電動機3l、3tへ与える。そして、車両の駆動力制御装置10からの指令により、前輪及び後輪用電動機3l、3tに与える交流電力の周波数及び電圧を可変して、前記電動機のトルクを制御する。
また、車両100の前方(図1中矢印Yで示す方向)には、前方監視装置9が備えられている。この前方監視装置9は、車両100の走行中に先行車両や前方の障害物の存在を監視する。そして、後述する衝突回避動作制御装置2が、走行中の車両100がこれらに衝突すると判断した場合には、衝突回避動作が実行される。ここで衝突回避動作とは、運転者の操作に関係なく車両100の制動装置を作動させたり、駆動手段の出力を低下させたりする動作をいう。また、車両100の前方とは、車両100の操舵輪、アクセル、制動装置等といった車両100の運転装置が取り付けられている方向をいう。
前方監視装置9により先行車等との距離を測定し、車両100と先行車両等との距離が所定の基準値以下になった場合には、前記衝突回避動作を実行する。衝突回避動作を実行するか否かの判断には、車両100の車速や、車両100と先行車両等との相対速度を用いてもよい。前方監視装置9としては、例えばレーザー測長器や超音波測長器を用いる他、GPS(Global Positioning System)を利用することもできる。これらの手段により、車両100と先行車両等との距離を測定することができる。
図2は、衝突回避動作制御のタイミングチャートである。図2を用いて、実施例1に係る衝突回避動作制御について説明する。実施例1に係る衝突回避動作制御では、衝突回避動作を実行するか否かのパラメータを車間距離Lとしている。ここで、衝突回避動作制御とは、上記衝突回避動作の準備、衝突回避動作の実行、衝突回避動作終了の準備、及び衝突回避動作の終了に関する一連の制御をいう。図2に示す衝突回避動作制御のタイミングチャートでは、車間距離がL1になったとき(θ=θ1)に、衝突回避動作の準備を開始する。これは、実際に衝突回避動作へ移行する前の準備であり、例えば、変速機のシフトアップを禁止したり、制動装置の遊びを低減したりして、衝突回避動作へ迅速に移行できるようにするものである。
車間距離がL2になったとき(θ=θ2)には、衝突回避動作を実行する。車間距離がL2以下になると、車両100が先行車両等に衝突する危険性が高くなるからである。また、車間距離がL3以上になった場合(θ=θ3)、衝突回避動作終了の準備を開始する。衝突回避動作終了後、運転者の意思に応じた運転ができるようにするためである。これは、例えば、変速機のシフトダウンを許容したり、駆動手段の出力制御を解除したりする。なお、衝突回避動作(例えば制動)は継続している。車間距離がL4以上になると(θ=θ4)、車両100が先行車両等へ衝突する危険性は回避できるので、衝突回避動作を終了し、通常の運転へ移行する。
図3は、実施例1に係る車両の駆動力制御装置を含む制御ブロック図である。前方監視装置9は、衝突回避動作制御装置2と接続されており、衝突回避動作制御装置2は前方監視装置9から車間距離の情報を取得する。この衝突回避動作制御装置2と前方監視装置9とで、衝突回避手段を構成する。衝突回避動作制御装置2は、取得した車間距離の情報に基づいて、制動装置4に対して衝突回避動作を実行する。また、実施例1に係る車両の駆動力制御装置10は、衝突回避動作制御装置2から、衝突回避動作制御に関する情報を取得するとともに、電動機運転状態監視部6から、前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクや回転数等といった運転情報を取得する。車両の駆動力制御装置10は、取得した前記情報に基づき、実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行し、前輪及び後輪用電動機3l、3tを駆動する電動機駆動用ドライバ7に対して駆動指令を与える。この駆動指令に基づいて、電動機駆動用ドライバ7は前輪及び後輪用電動機3l、3tの運転状態を制御する。
図4は、実施例1に係る車両の駆動力制御装置の構成を示す説明図である。図4を用いて、実施例1に係る車両の駆動力制御装置10の構成を説明する。ここで、実施例1に係る車両の駆動力制御方法は、実施例1に係る車両の駆動力制御装置10によって実現できる。実施例1に係る車両の駆動力制御装置10は、処理部10pと、記憶部10mと、入出力ポート(I/O)19とを含んで構成される。そして、処理部10pは、衝突回避動作制御判定部11と、トルク判定部12と、トルク要求値決定部13とを含んで構成される。ここで、衝突回避動作制御判定部11と、トルク判定部12と、トルク要求値決定部13とが、実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行する部分となる。
記憶部10mと、衝突回避動作制御判定部11と、トルク判定部12と、トルク要求値決定部13とは、車両の駆動力制御装置10の入出力ポート(I/O)19を介して接続される。これにより、記憶部10mと、衝突回避動作制御判定部11と、トルク判定部12と、トルク要求値決定部13とは、それぞれ双方向でデータをやり取りできるように構成される。なお、装置構成上の必要に応じて片方向でデータを送受信するようにしてもよい(以下同様)。
記憶部10mには、実施例1に係る制御方法の処理手順を含むコンピュータプログラム等が格納されている。ここで、記憶部10mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。また、実施例1に係る車両の駆動力制御装置10が備える処理部10pは、メモリ及びCPUにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、車両の駆動力制御装置10へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、実施例1に係る車両の駆動力制御方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この車両の駆動力制御装置10は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、衝突回避動作制御判定部11、トルク判定部12及びトルク要求値決定部13の機能を実現するものであってもよい。次に、この車両の駆動力制御装置10を用いて、実施例1に係る制御方法の処理手順を説明する。なお、この説明にあたっては、適宜図1〜図4を参照されたい。
図5は、実施例1に係る車両の駆動力制御方法の手順を示すフローチャートである。図6は、プレロードの概念図である。図7−1、図7−2は、前輪及び後輪用電動機のトルク変化を示す説明図である。この説明では、衝突回避動作準備中、又は衝突回避動作終了の準備中には、前輪1lを駆動する前輪用電動機3lを回生させて前輪1lの駆動系へ制動側のプレロードを与え、後輪1tを駆動する後輪用電動機3lは力行させて後輪1tの駆動系へ駆動側のプレロードを与える例を説明する。実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行するにあたって、まず、車両の駆動力制御装置が備える衝突回避動作制御判定部11が、衝突回避動作の準備中であるか否か、又は衝突回避動作終了の準備中であるか否かを判定する(ステップS101)。
衝突回避動作の準備中、又は衝突回避動作終了の準備中でない場合(ステップS101;No)、衝突回避動作制御判定部11は、プレロードトルク要求値をリセットするとともに、プレロード制御フラグpcs_rdyをOFFにする(ステップS110)。具体的には前輪用電動機プレロードトルク要求値Tmf_req=0、後輪用電動機プレロードトルク要求値Tmr_req=0とし、プレロード制御フラグpcs_rdy=0とする。そして、一旦制御ルーチンを終了させてから、再びステップS101へ戻って、実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行する。
衝突回避動作の準備中、又は衝突回避動作終了の準備中のいずれか一方である場合(ステップS101;Yes)、衝突回避動作制御判定部11は、プレロード制御フラグpcs_rdyをON(pcs_rdy=1)にする(ステップS102)。次に、衝突回避動作制御判定部11は、衝突回避動作の準備中であるか否かを判定する(ステップS103)。衝突回避動作の準備中である場合(ステップS103;Yes)、トルク判定部12は、プレロード制御フラグpcs_rdyがONであることを前提に、前輪用電動機のトルクTmfが、プレロードトルク−T_BCR以下であるか否かを判定する(ステップS104)。なお、制御の開始時点においては、Tmf=Tmf_ini(前輪用電動機初期トルク値)である。
Tmf≦−T_BCRのときは(ステップS104;Yes)、すでに規定のプレロードが前輪1lの駆動系に作用して、当該駆動系のガタが制動側へ詰められた状態となっているため、駆動力制御が終了する。Tmf>−T_BCRのとき(ステップS104;No)、まだ規定のプレロードが前輪1lの駆動系に作用しておらず、当該駆動系のガタは残存する。このため、このガタを制動側へ詰めるように、前輪用電動機3lを回生させて、前輪1lの駆動系に制動のプレロードを与える。
これを実現するため、トルク要求値決定部13は、式(1)に定めるように、前輪用電動機プレロードトルク要求値Tmf_reqを決定し(ステップS105)、この値になるように前輪用電動機のトルクを制御する。
Tmf_req=Tmf_ini−T_BCRGRD・・・(1)
なお、T_BCRGRDは、トルクレートリミッタである。
ここで、前輪1lの駆動系のガタが制動側へ詰められた状態について説明する。ここでは、図6に示すような、前輪用電動機3lのトルクが、前輪用電動機駆動ギヤ3lgと前輪用駆動ギヤ1lgとを介して前輪1lに伝えられる前輪1lの駆動系を例として説明する。このような駆動系の場合、車両100の走行中、前輪1lは図6のR1に示す方向に回転する。
このとき、前輪用電動機3lを回生させると、前輪1lにより前輪用電動機3lを駆動することになる。その結果、見かけ上前輪用電動機3lには、図6のR2に示す方向にトルクが発生する。これにより、前輪用電動機駆動ギヤ3lgと前輪用駆動ギヤ1lgとのバックラッシュが制動側に詰まり、また、前輪用電動機3lの駆動軸や前輪1lの車軸等が予め制動側へねじられる。これが、前輪1lの駆動系のガタが制動側へ詰められた状態である。この状態で衝突回避動作を実行して前輪用電動機3lに回生させると、速やかに制動力が立ち上がる。
前輪用電動機3lを回生させることにより、前輪用電動機のトルクTmfのみを低減させた場合、前輪1lの駆動系のガタを詰めることはできる。しかし、前輪用電動機3lの回生により、車両100は制動された状態となるので、車両100の運転者は違和感を感ずる場合がある。そこで、実施例1においては、前輪用電動機3lの回生と同時に後輪用電動機3tを力行させることによって、車両100全体としての駆動力は変化させないように制御する。
これを実現するため、トルク要求値決定部13は、式(2)に定めるように、後輪用電動機プレロードトルク要求値Tmr_reqを決定し(ステップS105)、この値になるように前輪用電動機のトルクを制御する。
Tmr_req=Tmi_ini+T_BCRGRD・・・(2)
ここでT_BCRGRDは、トルクレートリミッタであり、前輪用電動機プレロードトルク要求値Tmf_reqの決定に用いたものと同一のものである。これにより、前輪用電動機3lの回生力と、後輪用電動機3tの駆動力とが等しくなるように制御できるので、車両100全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両100の運転者は、実施例1の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることはないので、本制御中の違和感を極めて低減できる。また、前輪用電動機3lは回生(発電)させ、後輪用電動機3tは力行(放電)させるので、両者の間で電力収支が成立する。これにより、電源5の充放電状態には関係なく、実施例1に係る車両の駆動力制御を実現することができる。
ここで、トルクレートリミッタT_BCRGRDについて説明する。図7−1に示すように、前輪用電動機3lを回生させることにより、前輪用電動機のトルクTmfをTmf_iniから−T_BCRに低減させ、後輪用電動機のトルクTmrをTmr_iniからT_BCRに増加させる必要がある。トルクレートリミッタは、この変化のさせ方を決定するものである。すなわち、前輪用電動機のトルクTmf等の変化量が小さい場合には、図7−1に示すT_BCRGRD1のように、一回の指令で前記トルク等を変化させても車両100の運転者に対しては違和感をほとんど与えないが、前記変化量が大きい場合には、T_BCRGRD2のように複数回に分割して変化させた方が、運転者が感知する違和感を低減できる。このため、電動機のトルク変化量に応じてトルクレートリミッタT_BCRGRDを変化させる。
また、前輪用電動機3lのトルクを低減させ、後輪用電動機3tのトルクを増加させる際には、前輪1l上におけるトルクと、後輪1t上におけるトルクとが等しくなるように、両電動機のトルクを変化させる。これは、例えば、前輪1lの減速機と後輪1tの減速機とで減速比が異なっている場合であっても、車両100全体として駆動力を変化させないようにするためである。すなわち、前輪用電動機3l及び後輪用電動機3tのトルクを変化させる際には、前輪1l及び後輪1t上のトルクが等しくなるように両電動機のトルクを換算して変化させる(以下同様)。
トルク要求値決定部13がTmf_req及びTmr_reqを決定したら、これらの要求値を指令値として電動機駆動用ドライバ7に与えて(ステップS106)、一連の処理手順が終了する。電動機駆動用ドライバ7は前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクが前記要求値になるように、前輪及び後輪用電動機3l、3tの運転状態を制御する。そして、再びステップS101に戻って、実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行する。
このとき、前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達していない場合には(ステップS104;No)、トルク要求値決定部13が式(1)、式(2)に基づいて、新たなプレロードトルク要求値を決定する。そして、電動機駆動用ドライバ7は前記要求値になるように、前輪及び後輪用電動機3l、3tの運転状態を制御する。この手順を、前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達するまで繰り返す。
前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達したら、この状態のまま衝突回避準備期間(図2中t1〜t2の期間)を待機する。すでに、前輪用電動機3lを回生させることによって、前輪1lの駆動系のガタが制動側に詰められている。これによって、衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができる。その結果、車両100の制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。一方、後輪用電動機3tを力行させることによって、後輪1tの駆動系のガタは駆動側に詰められているので、衝突回避動作に移行しないで衝突回避制御が終了した場合には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両100の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。
ここで、後輪1tの駆動系のガタが駆動側へ詰められた状態について説明する。ここでは、図6に示すような、後輪用電動機3tのトルクが後輪用電動機駆動ギヤ3tg、後輪用駆動ギヤ1tgを介して後輪1tに伝えられる後輪1tの駆動系を例として説明する。このような駆動系の場合、車両100の走行中、後輪1tは図6のR1に示す方向に回転する。このとき、後輪用電動機3tを力行(駆動)させると、図6のR3に示す方向に後輪用電動機3tのトルクが作用する。これにより、後輪用電動機駆動ギヤ3tgと後輪用駆動ギヤ1tgとのバックラッシュが駆動側に詰まり、また、後輪用電動機3tの駆動軸や後輪1tの車軸等が予め駆動側へねじられる。これが、後輪1tの駆動系のガタが駆動側へ詰められた状態である。この状態で後輪用電動機3tの出力を増加させて加速に移行すると、速やかに後輪1tの駆動力が立ち上がる。
衝突回避動作の準備中でない場合、すなわち、衝突回避動作終了の準備中である場合(ステップS103;Yes)、トルク判定部12は、プレロード制御フラグpcs_rdyがONであることを前提に、後輪用電動機のトルクTmrが、プレロードトルクT_BCR以上であるか否かを判定する(ステップS107)。なお、制御の開始時点においては、Tmr=Tmr_ini(後輪用電動機初期トルク値)である。
Tmr≧T_BCRのときは(ステップS107;Yes)、すでに規定のプレロードが後輪1tの駆動系に作用して、当該駆動系のガタが駆動側へ詰められた状態となっているため、駆動力制御が終了する。Tmf<T_BCRのとき(ステップS107;No)、まだ規定のプレロードが後輪1tの駆動系に作用しておらず、当該駆動系のガタは残存する。このため、このガタを詰めるように、後輪用電動機3tを力行させて、後輪1tの駆動系に駆動側のプレロードを与える。
これを実現するため、トルク要求値決定部13は、上記式(2)に定めるように、後輪用電動機プレロードトルク要求値Tmr_reqを決定し(ステップS108)、後輪用電動機3tのトルクがこの値になるように、制御する(図7−2)。ここで、後輪用電動機3tを力行させることにより、後輪用電動機のトルクTmrのみを増加させた場合、後輪1tの駆動系のガタを駆動側へ詰めることはできる。しかし、後輪用電動機3tの力行により、車両100は加速される状態となるので、車両100の運転者は違和感を感ずる場合がある。そこで、実施例1においては、後輪用電動機3tの力行(放電)と同時に前輪用電動機3lを回生させて前輪用電動機3lのトルクを低減することにより、車両100全体としての駆動力は変化させないように制御する。
このため、トルク要求値決定部13は、上記式(1)に定めるように、前輪用電動機プレロードトルク要求値Tmf_reqを決定し(ステップS108)、この値になるように前輪用電動機のトルクを制御する。上記式(1)及び式(2)で用いるトルクレートリミッタT_BCRGRDは同じ値なので、後輪用電動機3tのトルクと前輪用電動機3lの回生力とが等しくなるように制御できる。これにより、車両100全体としてのトルクに変化はほとんど発生しない。その結果、車両100の運転者は、実施例1の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。
トルク要求値決定部13がTmr_req及びTmf_reqを決定したら、これらの要求値を電動機駆動用ドライバ7に与えて(ステップS109)、一連の処理手順が終了する。電動機駆動用ドライバ7は前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクが前記要求指令値になるように、前輪及び後輪用電動機3l、3tの運転状態を制御する。そして、再びステップS101に戻り、前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクがプレロードトルクT_BCRに達するまで実施例1に係る車両の駆動力制御方法を実行する。
前輪及び後輪用電動機3l、3tのトルクがプレロードトルクT_BCRに達したら、この状態のまま衝突回避終了準備期間(図2中t3〜t4の期間)を待機する。実施例1においては、すでに後輪用電動機3tを力行させることによって、後輪1tの駆動系のガタが駆動側に詰められているので、衝突回避制御が終了した場合には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両100の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。また、前輪用電動機3lを回生させることによって、前輪1lの駆動系のガタが制動側に詰められているので、衝突回避終了準備期間に再び衝突回避動作へ移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができる。これにより、車両100の制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。
なお、上記説明では、前輪用電動機3lを回生することで前輪1lのトルクを低減し、後輪用電動機3tを力行(放電)させることで後輪1tのトルクを増加させている。しかし、後輪用電動機3tを回生することで後輪1tのトルクを低減し、前輪用電動機3lを力行(放電)させることで前輪1lのトルクを増加させてもよい。
以上、実施例1に係る車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法では、衝突回避動作準備中又は衝突回避動作終了準備中に、前輪用電動機を回生させて前輪電動機のトルクを低減させることにより制動のプレロードを作用させて、前輪駆動系のガタを制動側へ詰める。そして、後輪用電動機を力行させて前輪電動機のトルクを増加させることにより駆動のプレロードを作用させて、後輪駆動系のガタを駆動側へ詰める。これにより、衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができるので、車両の制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。一方、後輪の駆動系のガタは駆動側に詰められているので、衝突回避動作に移行しないで衝突回避制御が終了した場合や衝突回避動作終了準備期間が終了した後には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。
また、制動のプレロードによるトルクの低減分と、駆動のプレロードによるトルクの増加分とは等しいので、駆動力制御実行中であっても、車両全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両の運転者は、実施例1の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。さらに、実施例1において、車両の駆動手段に電動機を用いれば、上記駆動力制御を実行した場合に回生によって生まれた電力を駆動のために使用することができる。すなわち、前輪と後輪との間で回生と力行(駆動)との電力収支が成立するので、電源の状態に依存しないで実施例1に係る車両の駆動力制御を実現できる。なお、実施例1で開示した構成は、以下の実施例に対しても適宜適用でき、また、実施例1に開示した構成と同一の構成を備えていれば、実施例1と同様の作用・効果を奏する。
実施例2に係る車両の駆動力制御装置は、実施例1に係る車両の駆動力制御装置と略同様の構成であるが、内燃機関又は電動機のうち一方で前輪を駆動するとともに、他方で後輪を駆動する点が異なる。他の構成は実施例1と同様なのでその説明を省略するとともに、同一の構成には同一の符号を付す。
図8−1、図8−2は、実施例2に係る車両を示す平面図である。図8−1に示すように、実施例2に係る車両101は、前輪駆動手段である内燃機関20によって駆動される前輪1lと、同じく駆動手段である後輪用電動機3tにより駆動される後輪1tとを備える。そして、内燃機関20と、後輪用電動機3tとが、一対の駆動手段を構成する。前輪駆動手段である内燃機関20の駆動力は、変速装置21で減速されて前輪1lに伝達される。一方、後輪駆動手段である後輪用電動機3tの駆動力は、後輪用減速機3ttで減速されて後輪1tに伝達される。なお、図8−2に示す車両101'のように、前輪駆動手段として前輪用電動機3lを用い、後輪駆動手段として内燃機関20を用いてもよい。
車両101は、後輪用電動機3tを駆動するための電源5を備え、電動機駆動用ドライバ7により出力及び回転数が制御される。内燃機関20は、火花点火式、ディーゼル式いずれも使用できる。内燃機関20には、ガソリンや軽油、あるいはLNG(Liquid Natural Gas:液化天然ガス)等が供給されて作動する。
図9は、実施例2に係る車両の駆動力制御装置を含む制御ブロック図である。実施例2においては、車両の駆動力制御装置10にエンジンECU(Electronic Control Unit)8が接続されており、実施例2に係る車両の駆動力制御方法を実行する際には、車両の駆動力制御装置10からの指令に基づいて内燃機関20の出力を制御する。なお、通常運転時において、エンジンECU8は、エアフローセンサ、クランク角センサ、水温センサ、アクセル開度センサその他の各種センサの情報に基づいて内燃機関20の運転を制御する。電動機駆動用ドライバ7は後輪用電動機3tの運転状態を制御する。次に、実施例2に係る車両の駆動力制御方法の処理手順について説明する。なお、次の説明においては、適宜図4、図8、図9を参照されたい。
図10は、実施例2に係る車両の駆動力制御方法の処理手順を示すフローチャートである。この説明では、衝突回避動作制御時において、前輪1lを駆動する内燃機関20の駆動力を減ずることにより制動のプレロードを与え、後輪1tを駆動する電動機3tは力行にしてプレロードを与える例を説明する。実施例2に係る車両の駆動力制御方法を実行するにあたって、まず、車両の駆動力制御装置が備える衝突回避動作制御判定部11が、衝突回避動作の準備中であるか否か、又は衝突回避動作終了の準備中であるか否かを判定する(ステップS201)。
衝突回避動作の準備中、又は衝突回避動作終了の準備中でない場合(ステップS201;No)、衝突回避動作制御判定部11は、プレロードトルク要求値をリセットするとともに、プレロード制御フラグpcs_rdyをOFFにする(ステップS210)。そして、一旦制御ルーチンを終了させてから、再びステップS201へ戻って、実施例2に係る車両の駆動力制御方法を実行する。
衝突回避動作の準備中、又は衝突回避動作終了の準備中のいずれか一方である場合(ステップS201;Yes)、衝突回避動作制御判定部11は、プレロード制御フラグpcs_rdyをON(pcs_rdy=1)にする(ステップS202)。次に、衝突回避動作制御判定部11は、衝突回避動作の準備中であるか否かを判定する(ステップS203)。衝突回避動作の準備中である場合(ステップS203;Yes)、トルク判定部12は、プレロード制御フラグpcs_rdyがONであることを前提に、内燃機関のトルクTefが、プレロードトルク−T_BCR以下であるか否かを判定する(ステップS204)。なお、制御の開始時点においては、Tef=Tef_ini(内燃機関初期トルク値)である。
Tef≦−T_BCRのときは(ステップS204;Yes)、すでに規定のプレロードが前輪1lの駆動系に作用して、当該駆動系のガタが詰められた状態となっているため、駆動力制御が終了する。Tef>−T_BCRのときは(ステップS204;No)、まだ規定のプレロードが前輪1lの駆動系に作用しておらず、当該駆動系のガタが残存する状態である。このため、このガタを制動側へ詰めるように、内燃機関20のトルクを減じて、前輪1lの駆動系に制動のプレロードを与える。
これを実現するため、トルク要求値決定部13は、式(3)に定めるように、内燃機関プレロードトルク要求値Tef_reqを決定し(ステップS205)、この値になるように内燃機関20のトルクを制御する。
Tef_req=Tef_ini−T_BCRGRD・・・(3)
ここで、T_BCRGRDは、トルクレートリミッタである。
同時に、トルク要求値決定部13は、上記式(2)に定めるように、後輪用電動機プレロードトルク要求値Tmr_reqを決定し(ステップS205)、この値になるように前輪用電動機のトルクを制御する。ここで、式(2)のT_BCRGRDは、トルクレートリミッタであり、内燃機関プレロードトルク要求値Tef_reqの決定に用いたものと同一のものである。これにより、低減させる内燃機関20のトルクと、増加させる後輪用電動機3tのトルクとが等しくなるように制御できるので、車両101全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両101の運転者は、実施例2の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。
内燃機関20のトルクを低減させ、後輪用電動機3tのトルクを増加させる際には、前輪1l上におけるトルクと、後輪1t上におけるトルクとが等しくなるように、内燃機関20と後輪用電動機3tのトルクを変化させる。これは、例えば、前輪1lの減速比と後輪1tの減速比とが異なっている場合であっても、車両100全体として駆動力を変化させないようにするためである。すなわち、内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクを変化させる際には、前輪1l及び後輪1t上のトルクが等しくなるように、内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクを換算して変化させる。
トルク要求値決定部13がTef_req及びTmr_reqを決定したら、これらの要求値を指令値として電動機駆動用ドライバ7に与えて(ステップS206)、一連の処理手順が終了する。エンジンECU8及び電動機駆動用ドライバ7は、内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクが前記要求値になるように、内燃機関20及び後輪用電動機3tの運転状態を制御する。そして、再びステップS201に戻って、実施例2に係る車両の駆動力制御方法を実行する。このとき、内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達していない場合には(ステップS204;No)、トルク要求値決定部13が式(3)、式(2)に基づいて、新たなプレロードトルク要求値を決定する。そして、エンジンECU8及び電動機駆動用ドライバ7は、前記要求値になるように内燃機関20及び後輪用電動機3tの運転状態を制御する。この手順を、内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達するまで繰り返す。
内燃機関20及び後輪用電動機3tのトルクがプレロードトルク−T_BCRに達したら、この状態のまま衝突回避準備期間(図2中t1〜t2の期間)を待機する。すでに、内燃機関20のトルクを低減させることによって、前輪1lの駆動系のガタが制動側に詰められているので、衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができる。一方、後輪用電動機3tを力行させることによって、後輪1tの駆動系のガタが駆動側に詰められているので、衝突回避動作に移行しないで衝突回避制御が終了した場合には、速やかに加速に移行できる。
衝突回避動作の準備中でない場合、すなわち、衝突回避動作終了の準備中である場合(ステップS203;Yes)、トルク判定部12は、プレロード制御フラグpcs_rdyがONであることを前提に、後輪用電動機のトルクTmrが、プレロードトルクT_BCR以上であるか否かを判定する(ステップS207)。なお、制御の開始時点においては、Tmr=Tmr_ini(後輪用電動機初期トルク値)である。
Tmr≧T_BCRのときは(ステップS207;Yes)、すでに規定のプレロードが後輪1tの駆動系に作用して、当該駆動系のガタが駆動側へ詰められた状態となっているため、駆動力制御が終了する。Tmf<T_BCRのとき(ステップS207;No)、トルク要求値決定部13は、上記式(2)に定めるように、後輪用電動機プレロードトルク要求値Tmr_reqを決定する(ステップS208)。この値になるように後輪用電動機のトルクを制御する。このとき、後輪用電動機3tの力行(放電)と同時に、内燃機関20のトルクを減ずることによって、車両101全体としての駆動力は変化させないように制御する。
このため、トルク要求値決定部13は、上記式(3)に定めるように、内燃機関プレロードトルク要求値Tef_reqを決定し(ステップS208)、この値になるように内燃機関20のトルクを制御する。ここで、上記式(2)及び式(3)で用いるトルクレートリミッタT_BCRGRDは同じ値なので、後輪用電動機3tのトルクと内燃機関20の減じたトルクとが等しくなるように制御できる。これにより、車両101全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両101の運転者は、実施例2の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。
トルク要求値決定部13がTmr_req及びTef_reqを決定したら、これらの要求値を電動機駆動用ドライバ7及びエンジンECU8に与えて(ステップS209)、一連の処理手順が終了する。電動機駆動用ドライバ7及びエンジンECU8は、後輪用電動機3t及び内燃機関20のトルクが前記要求指令値になるように、後輪用電動機3t及び内燃機関20の運転状態を制御する。そして、再びステップS201に戻り、後輪用電動機3t及び内燃機関20のトルクがプレロードトルクT_BCRに達するまで、実施例2に係る車両の駆動力制御方法を実行する。
後輪用電動機3t及び内燃機関20のトルクがプレロードトルクT_BCRに達したら、この状態のまま衝突回避終了準備期間(図2中t3〜t4の期間)を待機する。実施例2においては、すでに後輪用電動機3tを力行させることによって、後輪1tの駆動系のガタが駆動側に詰められているので、衝突回避制御が終了した場合には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両101の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。また、内燃機関20のトルクを減ずることによって、前輪1lの駆動系のガタが制動側に詰められているので、衝突回避終了準備期間に再び衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができる。これにより、制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。
なお、上記説明では、内燃機関のトルクを低減することで前輪1lのトルクを低減し、後輪用電動機3tを力行させることで後輪1tのトルクを増加させている。しかし、後輪用電動機3tを回生することで後輪1tのトルクを低減し、内燃機関20のトルクを増加させることで前輪1lのトルクを増加させてもよい。
以上、実施例2に係る車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法では、衝突回避動作準備中又は衝突回避動作終了準備中に、前輪駆動手段のトルクを低減させることにより制動のプレロードを作用させて、前輪駆動系のガタを制動側へ詰める。そして、後輪駆動手段のトルクを増加させることにより駆動のプレロードを作用させて、後輪駆動系のガタを駆動側へ詰める。これにより、衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができるので、車両の制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。一方、後輪の駆動系のガタは駆動側に詰められているので、衝突回避動作に移行しないで衝突回避制御が終了した場合や衝突回避動作終了準備期間が終了した後には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。
また、制動のプレロードによるトルクの低減分と、駆動のプレロードによるトルクの増加分とは等しいので、駆動力制御実行中であっても、車両全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両の運転者は、実施例2の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。なお、実施例2で開示した構成は、以下の実施例に対しても適宜適用でき、また、実施例2に開示した構成と同一の構成を備えていれば、実施例2と同様の作用・効果を奏する。
実施例3は、実施例1、2と略同様の構成であるが、実施例3の車両は、駆動手段である内燃機関、及び同じく駆動手段である電動機により同一の出力軸を駆動する、いわゆるHV駆動装置を備える。そして、衝突回避動作制御時には、電動機又は内燃機関の一方のトルクを減じ、減じた分だけ他方のトルクを増加して、衝突回避動作時の制動、及び衝突回避動作終了準備に備える点に特徴がある。他の構成は実施例1、2と同様なので、その説明を省略する。
図11は、実施例3に係る車両を示す平面図である。車両102は、駆動手段である内燃機関20のトルクと、同じく駆動手段である電動機3のトルクとを減速機構24で合成するいわゆるHV車両である。そして、内燃機関20と電動機3とが、一対の駆動手段を構成する。また、この車両102は、いわゆるFFの駆動方式であるが、実施例3が適用できる駆動方式はこれに限られるものではない。車両102が備える内燃機関20と電動機3とは、それぞれ減速機構24に動力を伝達する。そして、両方の動力が合成されて、前輪1lを駆動する。
電動機駆動用ドライバ7には電源5が接続されており、電源5から供給される直流を交流に変換した後、周波数及び電圧を変化させて電動機3へ供給される。また、動力分割機構22にはジェネレータ23が取り付けられており、動力分割機構22によって内燃機関20を取り出すことによって駆動されて電力を発生する。この電力は、電動機駆動用ドライバ7に供給された後、このドライバで周波数及び電圧を変化させられて電動機3へ供給されてこれを駆動する。動力分割機構22は、例えば、遊星歯車とワンウェイクラッチとを組み合わせて構成することができる。
次に、上記車両102の衝突回避動作制御について説明する。衝突回避動作準備中、あるいは衝突回避動作終了準備中には、電動機3を回生することにより電動機3のトルクを減じて制動側のプレロードを出力軸25へ与える。このとき、電動機3で減じた分だけ内燃機関20のトルクを増加させることにより、駆動側のプレロードを出力軸25へ与える。これにより、車両102全体としての駆動力に変化はないので、衝突回避動作準備中等であっても運転者は不自然な減速感を感じることはほとんどない。なお、実施例3においては、出力軸25上におけるトルクが等しくなるように、内燃機関20と電動機3とのトルクを調整する。
一方、電動機3側の駆動系(図11中M側)のガタは制動側に詰められている。これにより、衝突回避動作準備中あるいは衝突回避動作終了準備中に衝突回避動作へ移行した場合には、速やかに制動力を立ち上げることができ、車両102の制動距離を短くすることができる。また、内燃機関20側の駆動系(図11のE側であり、この例では動力分割機構22を含む)のガタは駆動側に詰められている。これにより、衝突回避動作に移行せずに衝突動作回避制御を終了した場合や、衝突回避動作制御を終了した場合には、速やかに加速に移ることができる。その結果、運転者の意図した加速が得られるので、ドライバビリティが向上する。なお、上記制御中、電動機3を回生して得られた電力は、電源5に蓄えることができる。
なお、電動機3の代わりに内燃機関20のトルクを減じて、内燃機関20側の駆動系に制動側のプレロードを与える場合、減じたトルクに等しいトルクを電動機3によって与えても、上記と同様の作用、効果を奏する。
以上、実施例3では、同一車軸を異なる駆動手段のトルクを合成して駆動する場合において、衝突回避動作準備中又は衝突回避動作終了準備中に、一方の駆動手段のトルクを低減させることにより制動のプレロードを作用させて、当該駆動手段側の駆動系のガタを制動側へ詰める。そして、他方の駆動手段のトルクを増加させることにより駆動のプレロードを作用させて、当該駆動系のガタを駆動側へ詰める。これにより、衝突回避動作に移行した場合には、速やかに制動力を立ち上がらせることができるので、車両の制動距離を短縮して、より安全に衝突回避を図ることができる。一方、他方の駆動系のガタは駆動側に詰められているので、衝突回避動作に移行しないで衝突回避制御が終了した場合や衝突回避動作終了準備期間が終了した後には、速やかに加速に移行できる。これにより、車両の運転者の意思に沿った加速ができるので、ドライバビリティが向上する。
また、制動のプレロードによるトルクの低減分と、駆動のプレロードによるトルクの増加分とは等しいので、駆動力制御実行中であっても、車両全体としての駆動力に変化はほとんど発生しない。その結果、車両の運転者は、実施例3の駆動力制御実行中であっても、制動感あるいは加速感をほとんど感じることがなくなるので、本制御中の違和感を極めて低減できる。
以上のように、本発明に係る車両の駆動力制御装置及び車両の駆動力制御方法は、障害物との衝突回避機能を備える車両の駆動力制御に有用であり、特に、障害物との衝突回避動作準備又は衝突回避動作準備終了中において、制動力を速やかに立ち上げることができ、また速やかに加速に移行できる車両の駆動力制御に適している。
実施例1に係る車両を示す平面図である。
衝突回避動作制御のタイミングチャートである。
実施例1に係る車両の駆動力制御装置を含む制御ブロック図である。
実施例1に係る車両の駆動力制御装置の構成を示す説明図である。
実施例1に係る車両の駆動力制御方法の手順を示すフローチャートである。
図6は、プレロードの概念図である。
前輪及び後輪用電動機のトルク変化を示す説明図である。
前輪及び後輪用電動機のトルク変化を示す説明図である。
実施例2に係る車両を示す平面図である。
実施例2に係る車両を示す平面図である。
実施例2に係る車両の駆動力制御装置を含む制御ブロック図である。
実施例2に係る車両の駆動力制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
実施例3に係る車両を示す平面図である。
符号の説明
1l 前輪
1t 後輪
2 衝突回避動作制御装置
3 電動機
3l 前輪用電動機
3lt 前輪用減速機
3t 後輪用電動機
3tt 後輪用減速機
4 制動装置
5 電源
6 電動機運転状態監視部
7 電動機駆動用ドライバ
8 エンジンECU
9 前方監視装置
10 駆動力制御装置
11 衝突回避動作制御判定部
12 トルク判定部
13 トルク要求値決定部
20 内燃機関
21 変速装置
22 動力分割機構
25 出力軸
100、101、102 車両