しかしながら、上記特許文献1のように折り畳み式の後部座席を設けて車椅子の搭載を可能とする場合に、特許文献2のような車椅子利用者用の手すりを設けると、後部座席を車椅子搭載スペースで展開している通常時に、該後部座席の両側方に手すりの把持部が位置することとなるため、手すりの把持部が、後部座席へ乗員が乗り降りする際に邪魔になるとともに、後部座席に着座した乗員に対して閉塞感を与えることとなって、後部座席の快適性が悪化してしまう。
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、座席配設部から後部座席を移動させて車椅子を搭載する車両に車椅子利用者用の手すりを設ける場合に、手すりの構造を工夫することで、後部座席の快適性を確保することにある。
上記目的を達成するために、本発明では、車椅子を搭載する場合と搭載しない場合とで手すりの把持部の位置を変えることができるようにした。
具体的には、室の運転席後方の後部座席を移動させて車椅子搭載スペースを形成し、この車椅子搭載スペースに車椅子を搭載して運搬する車椅子搭載車両を対象とする。
そして、上記車椅子搭載スペースには、搭載した車椅子の利用者が把持する把持部を有する手すりを設け、該手すりを、上記車椅子搭載スペースに車椅子を搭載する際に把持部が車椅子の搭載を阻害しない箇所に位置する第1の状態と、上記車椅子搭載スペースに後部座席を配置した際に把持部が後部座席の側方から退避した箇所に位置する第2の状態とに切り替え可能に構成する構成とする。
この構成によれば、車椅子を搭載する場合には、後部座席を車椅子搭載スペースの外部へ移動させるとともに、手すりを第1の状態とすることにより、該手すりの把持部が車椅子の搭載を阻害しない箇所に位置付けられて、車椅子の搭載が容易に行えるようになる。そして、搭載した車椅子の利用者は手すりを使用することが可能となる。
一方、車椅子を搭載しない場合には、後部座席を車椅子搭載スペースに配置することにより、後部座席に乗員が着座できて乗車人数が多く確保される。このとき、手すりを第1の状態から第2の状態に切り替えることで、手すりの把持部が後部座席の側方から退避した箇所に位置する。これにより、後部座席への乗員の乗り降りが容易になるとともに、後部座席に着座した乗員の側方に手すりの把持部がないので、該乗員が閉塞感を感じることはない。
請求項2の発明では、請求項1の発明において、後部座席を運転席側に折り畳み格納可能に構成し、この格納動作により車椅子搭載スペースを形成するようになっている構成とする。
この構成によれば、後部座席を車両から取り外すことなく車椅子搭載スペースを形成することが可能となる。
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、手すりは、車椅子搭載スペースの車体側に固定されて上方へ延びる固定パイプ部材と、該固定パイプ部材の上端部に該固定パイプ部材の中心線を回動軸として回動可能に連結された可動パイプ部材とを備え、該可動パイプ部材は、略水平に延びて当該略水平部分により把持部を構成し、上記可動パイプ部材を回動させて上記手すりを第1の状態と第2の状態とに切り替える構成とする。
この構成によれば、可動パイプ部材を回動軸周りに回動させるという簡単な動作で手すりが第1の状態と第2の状態とに切り替えられる。
請求項4の発明では、請求項3の発明において、固定パイプ部材及び可動パイプ部材のうち一方のパイプ部材の内面には、径方向に延びる嵌入部を設け、他方のパイプ部材には、上記一方のパイプ部材に挿入される継手手段を設け、該継手手段における一方のパイプ部材への挿入側には、手すりが第1の状態となるまで可動パイプ部材が回動されたときに上記嵌入部が嵌入する第1の溝と、上記手すりが第2の状態となるまで可動パイプ部材が回動されたときに上記嵌入部が嵌入する第2の溝とを設ける構成とする。
この構成によれば、可動パイプ部材の把持部を車椅子の搭載を阻害しない箇所に位置付けて嵌入部を第1の溝に嵌入させることで、手すりが第1の状態で保持される。また、この第1の状態にある手すりの嵌入部を第1の溝から離脱させた後、可動パイプ部材を回動させて把持部を後部座席の側方から退避した箇所に位置付けて嵌入部を第2の溝に嵌入させることで、手すりが第2の状態となって保持される。つまり、一方のパイプ部材に嵌入部を設け、継手手段に第1の溝及び第2の溝を設けるという簡素な構造でありながら、手すりを第1の状態及び第2の状態に容易に切り替えかつ各状態で確実に保持することが可能となる。
請求項5の発明では、請求項4の発明において、嵌入部をピン形状に形成し、第1の溝及び第2の溝の底部側の幅を上記嵌入部の外径よりも狭く設定する構成とする。
この構成によれば、各溝に嵌入部を嵌入させた状態で、該嵌入部が溝の内部で遊ぶことはなく、可動パイプ部材が固定パイプ部材に対してぐらつくのが防止される。
請求項6の発明では、請求項3〜5のいずれか1つの発明において、固定パイプ部材の上端部の外周面には雄ネジ部を設け、可動パイプ部材における固定パイプ部材側の端部には、径方向外側へ突出する突出部を設け、上記可動パイプ部材の外側には、上記固定パイプ部材の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部及び上記突出部に係合する係合部を有する筒状部材を挿通させ、上記可動パイプ部材の突出部を上記筒状部材の係合部に係合させて該筒状部材の雌ネジ部を固定パイプ部材の雄ネジ部に螺合させることにより、上記可動パイプ部材と固定パイプ部材とを連結する構成とする。
この構成によれば、筒状部材を操作して該筒状部材を雄ネジ部から外すことで、可動パイプ部材を固定パイプ部材から分離させて手すりの状態を切り替えることが可能となり、また、筒状部材の雌ネジ部を雄ネジ部に螺合させることで手すりが各状態で保持される。
請求項7の発明では、請求項1〜6のいずれか1つの発明において、後部座席を車椅子搭載スペースの車体側にブラケットを介して取り付け、固定パイプ部材の下端部を、上記車椅子搭載スペースの車体側におけるブラケットの取付箇所に取り付ける構成とする。
この構成によれば、一般に、車両における後部座席のブラケット取付箇所近傍は剛性が高く確保されており、このブラケットの取付箇所に固定パイプ部材を取り付けることで、手すりが車両に強固に固定される。
請求項1の発明によれば、車椅子利用者用の把持部を備えた手すりを設け、この手すりを、把持部が車椅子の搭載を阻害しない箇所に位置する第1の状態と、後部座席の側方から退避した箇所に位置する第2の状態とに切り替え可能に構成したので、車椅子を搭載する場合には車椅子を容易に搭載することができ、一方、車椅子を搭載しない場合には、後部座席への乗員の乗り降りが容易になるとともに、乗員が閉塞感を感じることがなくなって、後部座席の快適性を確保することができる。
請求項2の発明によれば、後部座席を折り畳み格納することで、後部座席を車両から取り外すことなく車椅子搭載スペースを簡単に形成することができる。
請求項3の発明によれば、手すりが、固定パイプ部材と、該固定パイプ部材に回動可能に連結された可動パイプ部材とを備え、可動パイプ部材の略水平な部分で把持部を構成したので、可動パイプ部材を回動させるという簡単な動作により、手すりの状態を第1の状態と第2の状態とに切り替えることができる。
請求項4の発明によれば、一方のパイプ部材の内面に嵌入部を設け、他方のパイプ部材に継手部を設け、該継手部に、手すりが第1の状態にあるときに上記嵌入部が嵌入する第1の溝と、手すりが第2の状態にあるときに上記嵌入部が嵌入する第2の溝とを設けたので、手すりの構造を複雑化することなく、手すりを第1の状態と第2の状態とに切り替えることができ、かつ各状態で確実に保持することができて、手すりを設けることによるコストアップを抑制することができる。
請求項5の発明によれば、嵌入部をピン形状にし、第1の溝及び第2の溝の底部側の幅を嵌入部の外径よりも狭く設定したので、可動パイプ部材を固定パイプ部材に対してぐらつくことなくしっかりと連結させることができる。
請求項6の発明によれば、可動パイプ部材の外側に筒状部材を挿通させ、該筒状部材の係合部と可動パイプ部材の突出部とを係合させるとともに、筒状部材の雌ネジ部を固定パイプ部材の雄ネジ部に螺合させることにより、可動パイプ部材と固定パイプ部材とを連結したので、筒状部材を操作するだけで、可動パイプ部材を固定パイプ部材から分離させることができるとともに、手すりを各状態で保持することができる。これにより、手すりの状態を切り替える際の操作を簡単にすることができる。
請求項7の発明によれば、車椅子搭載スペースの車体側における後部座席用ブラケットの取付箇所に固定パイプ部材を取り付けたので、車両に補強を別途施すことなく、手すりを車体側に強固に固定することができる。これにより、手すりを設けることによるコストアップをより一層抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施形態の説明では、説明の便宜を図るために、「前」とは車両の前側を、また「後」とは車両の後側を、また「左」とは車両の左側を、さらに「右」とは車両の右側をそれぞれ表すこととしている。
図13は、本発明の実施形態に係る車椅子搭載車両1の後半部を示す。この車両1の車室Rは、フロアパネル2、左側の側部パネル3、右側の側部パネル4及びルーフパネル5を組み合わせて構成されている。車室Rには、該車室Rの前部に配設された運転席及び助手席(共に図示せず)の後方に折り畳み式の後部座席10が配設され、さらに、該後部座席10の後方には荷室Nが設けられており、詳細は後述するが、この車室Rの後側に後方から車椅子Aが搭載されるようになっている。また、この車両1側部の後側には、上記後部座席10へ乗員が乗り降りするための後部ドア6が設けられている。
上記車両1のルーフパネル5後縁には、バックドア11が一対のガスステー(図示せず)により上下方向に回動可能に取り付けられ、一方、フロアパネル2の後縁には、折り畳み式のスロープ14を有するテールゲート15が上下方向に回動可能に取り付けられている。
この車両1では車椅子Aを低い位置に搭載するために低床化が図られており、図2に示すように、フロアパネル2は、後縁から前方へ向かって上方へ緩やかに傾斜して延びている。また、フロアパネル2及び両側部パネル3、4の後半部には、図3及び図4に示すように、車両1のタイヤハウス及びサスペンション装置(共に図示せず)の形状に対応して車室R内側へ膨出する膨出部20がそれぞれ形成されている。各膨出部20は、図2に示すように、後半部が前半部よりも上方へ大きく膨出しており、膨出部20の上面の後部側は、略水平に延びる後側面部20aとされ、右側の後側面部20a上には車両1のスペアタイヤSが載置固定されている。膨出部20上面の後側面部20aよりも前側の部分は、前方へ向かって下降傾斜した中間面部20bと、該中間面部20bよりも緩く下降傾斜した前側面部20cとで構成されている。また、膨出部20の車室R内側面は、略鉛直に延びている。これら両膨出部20の間におけるフロアパネル2が車椅子Aを搭載する際の通路となる。
左右の両膨出部20の前側面部20cには、後部座席10を車両1に固定するためのブラケット23がそれぞれ取り付けられている。各膨出部20の前側面部20c近傍には、図示しない補強パネル等の部材が取り付けられていて、後部座席10の取付剛性が高められている。上記各ブラケット23は、側面視で前後方向に長い大略矩形の箱状に形成されたもので、前側面部20cの前端近傍から中間面部20bの前端近傍に亘って延びている。図3及び図4に示すように、ブラケット23の幅は、膨出部20の上面の幅よりも狭く設定され、ブラケット23の下端部における前端側及び後端側には、膨出部20の前側面部20c及び中間面部20bにそれぞれ締結固定される取付板部23a、23bが一体に設けられている。図2に示すように、ブラケット23の上面は略水平に形成され、この上面には後部座席10を前後方向にスライド可能に支持する周知構造のスライドレール24がそれぞれ取り付けられている。
上記後部座席10は、座面を構成するシートクッション27と、背もたれ部を構成するシートバック28と、該シートバック28の下端部を上記シートクッション27の後端部に支持する支持部材29とを備えている。支持部材29は、シートバック28をシートクッション27側へ折り畳み可能に構成されている。
上記各スライドレール24の内部には、左右方向に延びる一対の棒状部材30が前後方向に間隔をあけて配設されている。一方、後部座席10のシートクッション27下面には、上記スライドレール24の棒状部材30に係合するラッチ機構31が棒状部材30に対応して4つ配設されている。そして、上記シートバック28をシートクッション27側へ折り畳んだ状態で、後側2つのラッチ機構31の棒状部材30への係合状態を解除することで、図1に示すように、シートクッション27が前側の棒状部材30を回動軸として上方へ回動して跳ね上げられるようになっている。このことで、後部座席10が運転席及び助手席の直後方に移動して格納された状態となる。尚、格納状態にある後部座席10は、後方へ倒れないように、例えばストラップ(図示せず)等により運転席に固定されている。また、後部座席10を格納した状態では、前側2つのラッチ機構31の棒状部材30との係合状態を解除することにより、図5に示すように、後部座席10が車両1から取り外される。
上記後部座席10を格納した状態では、図6及び図7にも示すように、車室Rの後半部に車椅子Aを搭載するための車椅子搭載スペースTが形成される。この車椅子搭載スペースTは、上記荷室Nと、車室Rにおける左側ブラケット23近傍から右側ブラケット23近傍に亘りかつ両ブラケット23よりも上方の部分とで構成されている。また、この車椅子搭載スペースTの車体側は、上記フロアパネル2及び左右の側部パネル3、4で構成されている。
車室Rにおける車椅子搭載スペースTの左右両側方には、車椅子利用者Bのための手すり40がそれぞれ設けられている。各手すり40は、車体側に固定されて上方へ延びる固定パイプ部材41と、該固定パイプ部材41の上端部に回動可能に連結され車椅子利用者Bの把持部42aを有する可動パイプ部材42とを備えている。
固定パイプ部材41の下端側は前方へ湾曲形成され、板材からなる取付部材44を介して膨出部20の中間面部20bに取り付けられている。図8及び図9に示すように、取付部材44は、中間面部20b及び前側面部20cに沿って延びる第1板部44aと該第1板部44aの車室内端から膨出部20の側面に沿って延びる第2板部44bとで構成されている。第1板部44aの上面には、固定パイプ部材41の下端部が溶接されており、この第1板部44aは上記ブラケット23の後側の取付板部23bの上面に重ね合わされて共通の締結部材(図示せず)を用いて膨出部20の中間面部20bに締結固定されている。また、第2板部44bは膨出部20の側面に締結固定されている。尚、図8の符号44c及び図9の符号44dはは締結部材の挿通孔をそれぞれ示している。
固定パイプ部材41と取付部材44とには板材からなる補強部材45が固定されている。この補強部材45は、側面視で略三角形に形成され、下縁部が取付部材44の第2板部44bに溶接される一方、上縁部が固定パイプ部材41の屈曲部分に溶接されている。この補強部材45の前縁部には、固定パイプ部材41の屈曲部分前側と取付部材44の第1板部44aとを連結する連結部45aが一体に形成され、この連結部45aは固定パイプ部材41及び第2板部44bに溶接されている。
固定パイプ部材41の上端部には、図10にも示すように、外周面に雄ネジ部48aが形成された筒状のネジ部材48が取り付けられており、このネジ部材48は固定パイプ部材41の一部を構成している。ネジ部材48の内周面は固定パイプ部材41の外周面に略密着するように形成されていて、このネジ部材48は固定パイプ部材41の上端部に外嵌され、ネジ部材48の下端部が固定パイプ部材41の外周面に溶接されている。また、固定パイプ部材41の上端側内部には、本発明の嵌入部としてのピン部材49が左右方向に延びるように配置され、該ピン部材49の長手方向両端が固定パイプ部材41の内面にそれぞれ固定されている。
上記可動パイプ部材42の下端側は、略鉛直に延びて上記固定パイプ部材41の上端側と同心上に位置付けられている。可動パイプ部材42の上端側は、下端側の中心線の径方向外側に折り曲げられ略水平に延びて水平部分を形成している。この水平部分の先端には、略鉛直下方へ延びる鉛直部分が連なっており、この鉛直部分の下端側は、可動パイプ部材42の下端部に近接する側に折り曲げられている。この可動パイプ部材42の水平部分が、車椅子利用者Bが把持する把持部42aとされている。
可動パイプ部材42の下端部には、固定パイプ部材41との継手手段を構成する中実円柱状の柱状部材50が設けられており、該柱状部材50は可動パイプ部材42の一部を構成している。柱状部材50の上半部は、可動パイプ部材42の内面に略密着するように形成され、この柱状部材50の上半部外面は、可動パイプ部材42の周壁部に形成された貫通孔42bの周縁部分に溶接されて柱状部材50及び可動パイプ部材42は一体化している。柱状部材50の上下方向中間部には、図12にも示すように、径方向外側へ突出して周方向に延びる突出部50aが一体成形されている。この突出部50aは、柱状部材50を可動パイプ部材42に所定位置まで挿入した状態で該可動パイプ部材50の下端部に当接するようになっており、この突出部50aにより柱状部材50の可動パイプ部材42への挿入方向の位置決めがなされるようになっている。また、この突出部50aの上面には面取りが施されている。
上記柱状部材50の下半部の外径は、固定パイプ部材41の内径よりも若干小さめに形成され、柱状部材50は固定パイプ部材41の内部で中心線の周方向に回動可能となっている。この柱状部材50の下端面には、径方向に延びる第1の溝51及び第2の溝52が、互いに柱状部材50の中心部で交差するように形成されている。このように第1の溝51及び第2の溝52を互いに所定角度で交差させて形成したのは、詳細は後述するが、手すり40の状態を、車椅子Aを搭載する場合と搭載しない場合とで切り替えることができるようにするためである。この実施形態では、柱状部材50を可動パイプ部材42と一体化した状態で、第1の溝51が柱状部材50の径方向において把持部42aの水平部分が延びる方向と略直交するように設定され、また、この第1の溝51と第2の溝52との交差角度は約110゜に設定されいる。
上記第1の溝51及び第2の溝52は互いに同形状に形成され、各々が平坦な底面部51a、52aを有している。各溝51、52の開口側の幅は、図10に示すように、上記ピン部材49の外径よりも広く設定されている一方、溝51、52の底面部51a、52a側の幅はピン部材49の外径よりも狭く設定されている。従って、各溝51、52の対向する両側面は底面部51a、52a側へ行くほど互いに接近するように傾斜している。尚、これら溝51、52の形状は略V字状や略U字状に形成してもよい。
また、手すり40は、固定パイプ部材41と可動パイプ部材52とを連結状態で保持するための筒状部材55を備えている。筒状部材55は外形が八角形とされ、内周面に上記固定パイプ部材41の雄ネジ部48aに螺合する雌ネジ部55aが形成され、さらにこの内周面の上端部には、径方向内側へ突出して周方向に延びる環状部55bが形成されている。そして、筒状部材55を可動パイプ部材42にその把持部42a側から挿通させると、環状部55bが上記柱状部材50の突出部50aに係合するようになっており、この環状部55bが本発明の係合部を構成している。
上記構成の手すり40の組み立て要領について図10に基づいて説明すると、まず、柱状部材50を可動パイプ部材42に固定するとともに、筒状部材55を可動パイプ部材42に挿通させる。そして、可動パイプ部材42を同図(a)の矢印イの方向に移動させて、同図(b)に示すように、柱状部材50を固定パイプ部材41に挿入する。この図10(b)では、第1の溝51にピン部材49を嵌入させた場合を示しているが、ピン部材49は第2の溝52に嵌入させておいてもよい。
その後、同図(c)に示すように、筒状部材55の雌ネジ部55aを固定パイプ部材41の雄ネジ部48aに螺合させる。これにより、筒状部材55の環状部55bが突出部50a上面に圧接して柱状部材50が固定パイプ部材41の挿入方向に押し付けられ、固定パイプ部材41と可動パイプ部材42とが連結されて一体化する。
次に、上記のように構成された車両1に車椅子Aを搭載する場合について説明する。まず、図1に示すように、後部座席10のシートバック28をシートクッション29側へ折り畳み、後側2つのラッチ機構31の棒状部材30との係合状態をそれぞれ解除して後部座席10を格納状態として、車椅子搭載スペースTを形成する。その後、手すり40の把持部42aが車椅子Aを搭載する際の通路上にはみ出している状態であれば、手すり40の筒状部材55の雌ネジ部55aを雄ネジ部48aから外し、可動パイプ部材42を上方へ持ち上げ、図6及び図7にも示すように、把持部42aを車椅子搭載スペースTの側方で前後方向に延びる状態とする。つまり、手すり40の把持部42bが車椅子Aの搭載を阻害しない箇所に位置するまで可動パイプ部材42を回動させて、手すり40の状態を第1の状態とする。
また、手すり40が第1の状態とされたときには、柱状部材50の第1の溝51の直下方にピン部材49が位置することとなり、可動パイプ部材42をそのまま押し下げると第1の溝51にピン部材49が嵌入して可動パイプ部材42の回動方向及び下方への変位が規制される。つまり、第1の溝51は、手すり40が第1の状態となったときにのみピン部材49が嵌入可能な箇所に形成されている。そして、筒状部材55の雌ネジ部55aを固定パイプ部材41の雄ネジ部48aに螺合させて固定パイプ部材41と可動パイプ部材42とを連結する。
その後、図13に示すように、車両1のバックドア11を開放するとともにテールゲート15を開放した後、スロープ14を展開して地面に接地させ、この状態で、利用者Bが着座した車椅子Aを介護者(図示せず)がスロープ14上を押して車椅子搭載スペースTに搭載する。このとき、車椅子Aの搭載が手すり40の把持部42aにより阻害されることはない。また、把持部42aは、車椅子Aの上下方向中央部近傍に位置しているので、車椅子Aの利用者Bが把持部42aを把持することが可能となる。尚、搭載された車椅子Aは、図示しない車椅子固定装置によりフロアパネル2に固定されるようになっている。
この車椅子Aを搭載する場合には、図5に示すように、シートクッション27の前側2つのラッチ機構31の棒状部材30と係合状態をそれぞれ解除して、後部座席10を取り外してもよい。これにより、車椅子利用者Bの足元空間が拡大する。
一方、車両1に車椅子Aを搭載しない場合には、図2〜図4に示すように、まず、手すり40の状態を切り替える。すなわち、手すり40の筒状部材55を雄ネジ部48aから外し、可動パイプ部材42を上方へ持ち上げて、ピン部材49を第1の溝51から離脱させる。そして、可動パイプ部材42の把持部42aが展開状態の後部座席10のシートバック28の後方に対応する箇所に位置するようになるまで、可動パイプ部材42を回動させる。これにより、手すり40の把持部42aが後部座席10の側方から退避した箇所に位置付けられて手すり40が第2の状態に切り替えられる。この手すり40が第2の状態とされたときには、柱状部材50の第2の溝52の直下方にピン部材49が位置しており、可動パイプ部材42をそのまま押し下げると第2の溝52にピン部材49が嵌入して可動パイプ部材42の回動方向及び下方への変位が規制される。つまり、柱状部材50の第2の溝52は、手すり40が第2の状態となったときにのみピン部材49が嵌入可能な箇所に形成されており、手すり40を第1の状態から第2の状態にするときの可動パイプ部材42の回動角度は、上記第1の溝51と第2の溝52との交差角度に対応していて約110゜である。
その後、折り畳み格納されている後部座席10を車椅子搭載スペースTへ移動させて展開する。すなわち、後部座席10を後方へ回動させて後側2つのラッチ機構31をスライドレール24の棒状部材30にそれぞれ係合させてから、シートバック28を起立させる。このシートバック28を起立させたときには、手すり40の可動パイプ部材42がシートバック28の後方に位置しているため、シートバック28が手すり40に強く当接することはない。
以上説明したように、この実施形態に係る車椅子搭載車両1によれば、後部座席10を折り畳み格納することで車椅子搭載スペースTを形成して車椅子Aを搭載することができ、一方、車椅子Aを搭載しない場合には、後部座席10を車椅子搭載スペースTに展開することで車両1への乗車人数を多く確保することができる。これにより、車両1の利便性を向上させることができる。
そして、車椅子Aを搭載する場合には、車椅子利用者B用の手すり40を第1の状態として把持部42aを車椅子Aの搭載を阻害しない箇所に位置付けることができるので、車椅子Aを容易に搭載することができる。一方、車椅子Aを搭載しない場合には、手すり40の把持部42aを、車椅子搭載スペースTで展開した後部座席10の側方から退避させることができるので、手すり40の把持部42aが展開状態の後部座席10の側方に位置せず、よって、該後部座席10への乗り降りが容易になるとともに、後部座席10の乗員が閉塞感を感じることがなくなって、後部座席10の快適性を確保することができる。
また、後部座席10を折り畳み格納可能に構成しているので、後部座席10を車両1から取り外すことなく車椅子搭載スペースTを簡単に作り出すことができる。
また、手すり40をフロアパネル2に固定された固定パイプ部材41と、該固定パイプ部材41に回動可能に連結された可動パイプ部材42とで構成したので、可動パイプ部材42を回動させるという簡単な動作により、手すり40の状態を、車椅子Aを搭載する場合と搭載しない場合とにそれぞれ対応する状態に容易に切り替えることができる。
また、固定パイプ部材41の内面にピン部材49を設け、可動パイプ部材42の柱状部材50に、手すり40が第1の状態及び第2の状態となったときにそれぞれ上記ピン部材49が嵌入する第1の溝51及び第2の溝52を形成したので、手すり40の構造の複雑化を招くことなく、手すり40を2つの状態で確実に保持することができて、手すり40を設けることによるコストアップを抑制することができる。このピン部材49を各溝51、52に嵌入させる際には、該各溝51、52の開口側の幅をピン部材49の外径よりも広く設定したので、ピン部材49の中心と各溝51、52の中心とが多少ずれていてもそのずれ量を吸収することができて、ピン部材49を各溝51、52に容易に嵌入することができる。さらに、各溝51、52の底面部51a、52a側の幅をピン部材49の外径よりも狭く設定したので、ピン部材49が溝51、52に嵌入した際に両者間に遊びが形成されず、可動パイプ部材42を固定パイプ部材41に対してぐらつくことなくしっかりと連結させることができる。
また、筒状部材55の雌ネジ部55aを固定パイプ部材41の雄ネジ部48aに螺合させることで、可動パイプ部材42を固定パイプ部材41に連結するようにしたので、筒状部材55を操作するだけで、可動パイプ部材42を固定パイプ部材41から分離させることができるとともに、手すり40を各状態で保持することができる。これにより、手すり40の状態を切り替える際の操作を簡単にすることができる。
また、手すり40の固定パイプ部材41を、フロアパネル2における後部座席10のブラケット23の取付箇所に固定しているので、フロアパネル2の補強を別途施すことなく手すり40を車両1に強固に固定することができる。これにより、手すり40を設けることによる車両1側の改造箇所を少なくすることができて、コストアップをより一層抑制することができる。
尚、この実施形態では、座席配設部Tから後部座席10を移動させる場合に該後部座席10を折り畳み格納するようにしているが、後部座席10を車両1から取り外すようにしてもよい。
また、手すり40の状態を切り替える際には、可動パイプ部材42を固定パイプ部材41から一旦取り外すようにしてもよい。
さらに、車椅子Aを搭載する際にスロープ14を用いることなく、例えば昇降リフトを用いるようにしてもよい。