上記特許文献1に開示されたワイヤ状またはナイフエッジ状の電極を用いた静電密着法では、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度を25m/min以上に高速化すると、移動冷却体の表面に生じる随伴流によって形成された空気膜の存在により、上記移動冷却体に対する溶融シート状体の密着性が不充分となって、移動冷却体による溶融シート状体の冷却作用が損なわれることになる。この結果、溶融シート状体が充分に冷却される前に、その結晶化が進んで透明性が低下するとともに、シートの表面に気泡状または筋状の欠点が発生し易く、かつ溶融シート状体が均等に冷却されないことに起因してシートの厚みが不均一になり易いという問題があった。
また、上記特許文献1に示されるようにワイヤ電極またはナイフエッジ状の電極を用いて暗流またはグローコロナ放電を行うことによる静電密着方式では、電極から溶融シート状体に流れる電流値が微少であるために、電極に対する印加電圧を制御する電圧制御または電極から溶融シート状体への通電電流を制御する電流制御の何れを実行してもシートの成形具合に大差はなかった。これに対して、上記特許文献2に示されているようにストリーマコロナ放電を行う場合には、電極から溶融シート状体に大電流が流れるため、上記電極に対する印加電圧の制御を実行すると、電圧をわずかに変化させた場合においても上記通電電流が極端に変化する傾向があり、上記電圧制御方式によれば、移動冷却体に対する溶融シート状体の密着力が顕著に変動してシートの厚み変化が大きくなるとともに、これに対応してシート幅が変化し易いという問題がある。
一方、上記ストリーマコロナ放電を行う場合において、電極から溶融シート状体への通電電流を制御する電流制御を実行すると、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が一定となった定常生産時には、溶融シート状体の密着力を安定させて均一な厚みを有するシートを製造することが可能である。しかし、押出機からの溶融シート状体の押出速度が顕著に変化して移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化するシートの生産開始時等に、電極から溶融シート状体への通電電流を一定値に制御する定電流制御を実行すると、上記引取速度の変化に応じて放電状態が極めて不安定になるという欠点がある。
すなわち、上記移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化すると、これに対応して移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点が移動するとともに、上記電極と溶融シート状体との間の距離が変化し、この状態で上記電極から溶融シート状体への通電電流を一定値に制御する定電流制御を実行すると、電極に対する印加電圧が極度に上昇して火花放電が発生する可能性があり、溶融シート状体が破断し、あるいは移動冷却体が損傷する等の弊害が生じるという問題があった。
また、上記引取速度および印加電圧が変化すると、溶融シート状体が移動冷却体に接触する前に空中で振動し易く、これによって上記放電状態がさらに不安定になるという弊害がある。このような弊害を防止するように、溶融シート状体の引取速度が顕著に変化するシートの生産開始時等に、上記引取速度の変化に対応して通電電流を頻繁に調整することも考えられるが、この通電電流を適正に調整することは極めて困難であるという問題がある。
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、移動冷却体上に押し出された溶融シート状体の全幅に亘って適正量の電荷を付与し、移動冷却体に溶融シート状体に密着させて適正に冷却することにより、均一な厚みを有するシートを高速で適正に製造することができるシートの製造装置および製造方法を提供するものである。
また、上記特許文献2に開示されたストリーマコロナ放電方式の静電密着法において、溶融シート状体を移動冷却体に密着させて効率よく冷却させることができるのは、溶融比抵抗値が6.0×106(Ω・cm)以下のポリアミド系樹脂等に限られ、例えば0.4×108(Ω・cm)程度の溶融比抵抗値を有するポリエチレンテレフタレート等については、安定したストリーマコロナ放電を行うことができないとされていた。すなわち、上記ストリーマコロナ放電は、その条件を適度に選択すると安定した状態で放電が行われ、グローコロナ放電により溶融シート状体を移動冷却体に静電密着させるようにした従来装置に比べて大電流が溶融シート状体に流されることにより、溶融シート状体を移動冷却体に対して強固に静電密着させることができる。その反面、原材料の溶融比抵抗値が高い場合には、上記ストリーマコロナ放電を行う際に過剰な電流が流れて火花放電が発生し易く、安定したストリーマコロナ放電を行うことが困難であるという問題があった。
特に、溶融シート状体の幅寸法が大きく、例えば500mm以上の幅寸法を有する場合には、溶融シート状体の左右両側辺部(シート耳部)にストリーマコロナ放電を発生させることが困難であり、移動冷却体に対するシート耳部の密着力が弱くなって気泡状や筋状の欠点が生じ易いという問題があった。その理由を鋭意調査した結果、溶融シート状体の幅寸法が大きいと、溶融シート状体が移動冷却体に接触する際にその中央部から外方側に向けて多量の空気が押し出されることにより、溶融シート状体の耳部が浮き上がるようにカールするためであることが判明した。
上記のように溶融シート状体の耳部が上方にカールすることにより、移動冷却体に対する接触点が中央部に比べてシート搬送方向の下流側に変位すると、溶融シート状体の中央部が移動冷却体に接触する位置に合わせて電極を配設した場合に、上記シート耳部の接触点においてストリーマコロナ放電を適正に発生させることができないため、移動冷却体に対する上記耳部の静電密着力が低下し、溶融シート状体と移動冷却体との間に空気が巻き込まれて冷却作用が損なわれることになる。
なお、上記シート耳部の密着性を向上させるために、溶融シート状体の耳部と移動冷却体との接触点の近傍において、電極を溶融シート状体に近付けて両者の間隙を小さくすることにより、溶融シート状体に付与される電荷量を増大させることも考えられるが、このように構成した場合には、電極と移動冷却体とが接近しすぎることに起因して両者の間で放電現象が発生し易くなり、溶融シート状体の耳部に付与される電荷量が低減されてシート耳部の密着力がより低下するという問題がある。
さらに、上記特許文献3に示されるように、溶融シート状体の幅方向に沿って金属箔テープからなる電極を、連続的または断続的に走行させるように構成した場合には、電極の走行駆動機構を溶融シート状体の側端部よりも外方側に配設する必要があるため、電極の設置長さが溶融シート状体の幅寸法よりも大きくなり、移動冷却体の側辺部に対する放電現象が特に発生し易いという問題がある。
なお、上記のように溶融シート状体の側端部よりも外方側に配設された走行駆動機構により電極を溶融シート状体の幅方向に沿って走行駆動するように構成されたシートの製造装置において、電極の耳部から移動冷却体に対して直接放電されるのを防止するために、電極の耳部と移動冷却体の側方部周面との間に絶縁部材を配設することも考えられる。しかし、この場合には、溶融シート状体の中央部から外方側に向けて押し出される空気に応じて浮き上がるようにカールする溶融シート状体の耳部近傍に配設された絶縁部材をシート耳部から離間させて両者の接触を防止する必要がある。しかも、上記電極の走行時に絶縁部材と電極とが接触するのを防止するように、絶縁部材から所定距離だけ離間した位置において電極を走行させるように構成しなければならないため、溶融シート状体の中央部と電極との距離がかなり大きくなることが避けられず、溶融シート状体の全幅に亘って適量の電荷を付与することが困難であるという問題がある。
さらに、上記特許文献4に示されるように、シートの原材料である熱可塑性樹脂中にアルカリ金属等の添加物を混入して溶融シート状体の溶融比抵抗値を低下させることにより、溶融シート状体および移動冷却体の移動速度を高速化しつつ、溶融シート状体と移動冷却体との密着力を確保することにより溶融シート状体を移動冷却体に密着させて効率よく冷却するように構成した場合には、上記溶融シート状体の溶融比抵抗値を低下させるためにその原材料が本来有する無異物性、色調または耐熱性等をある程度犠牲にしなければならないという問題があった。
また、上記特許文献2,4に開示されているように、シートの原材料として溶融比抵抗値が低い熱可塑性樹脂を使用した場合には、電極から移動冷却体に流れる電流が大きくなり過ぎて火花放電を生じ易い傾向があるため、上記移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点よりも上流側に電極を設置する等により、上記火花放電の発生を防止する必要がある。このように移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点よりも上流側に電極を設置した場合には、溶融シート状体が振動することにより電極に接触して傷付けられ易く、これを防止するためには、溶融シート状体と電極とをある程度離間させる必要がある。このように電極が溶融シート状体から離間した状態となると、両者の間に印加される電圧を高く設定しなければ、上記ストリーマコロナ放電を安定して発生させることができなくなるという問題がある。
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、移動冷却体上に押し出された溶融シート状体の全幅に亘って適正量の電荷を付与し、移動冷却体に溶融シート状体に密着させて適正に冷却することにより、均一な厚みを有するシートを高速で適正に製造することができるシートの製造装置および製造方法を提供するものである。
請求項1に係る発明は、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を溶融状態としてシート状に押し出す押出機と、この押出機から押し出された溶融シート状体を冷却する移動冷却体とを備え、5μm〜200μmの厚みを有するとともに、先端部に0.1mm以上の突出量を有する複数の突部が設けられたテープ状電極を、移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って配設し、上記テープ状電極から溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体に溶融シート状体を静電密着させるように構成されたシートの製造装置であって、上記溶融シート状体の中央部側に位置するテープ状電極の中央部を溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に伸ばした状態で支持する中央部支持部材と、上記溶融シート状体の両側辺部側に位置するテープ状電極の耳部を電極中央部よりも溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で支持する耳部支持部材と、上記シート搬送方向の下流側への電極耳部の変位量を調節する一対の変位量調節機構と、移動冷却体の一側端部側に設けられた繰出部から繰り出されたテープ状電極を、移動冷却体の他側端部側に設けられた巻取部において巻き取ることにより、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させるように駆動する走行駆動機構とを設けたものである。
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載のシートの製造装置において、テープ状電極と溶融シート状体との間隙を0.5mm〜10mmの範囲内に設定したものである。
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載のシートの製造装置において、相隣接する突部の設置間隔を上記テープ状電極と溶融シート状体との間隙の5倍未満に設定したものである。
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3の何れかの1項に記載のシートの製造装置において、溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に設置された電極中央部の長さを、溶融シート状体の幅寸法に対応させて変化させるように構成したものである。
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4の何れかの1項に記載のシートの製造装置において、テープ状電極の耳部から移動冷却体への放電を阻止する絶縁体を電極耳部と移動冷却体との間に配設したものである。
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5の何れかの1項に記載のシートの製造装置において、走行駆動手段からテープ状電極に付与される張力を、その切断強度の5%〜95%の範囲内に設定した状態で、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させるように構成したものである。
請求項7に係る発明は、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を押出機から溶融状態としてシート状に押し出す押出工程と、押出機から押し出された溶融シート状体を移動冷却体に密着させて冷却する冷却工程と、冷却後のシート状体を延伸する延伸工程とを備え、上記移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って配設されるとともに、先端部に0.1mm以上の突出量を有する複数の突部が設けられた5μm〜200μmの厚みを有するテープ状電極から、上記冷却工程で溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体に溶融シート状体を静電密着させるシートの製造方法であって、上記溶融シート状体の中央部に位置するテープ状電極の中央部を溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に伸ばすとともに、上記溶融シート状体の両側辺部側に位置するテープ状電極の耳部を電極中央部よりも溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態でした支持し、かつ移動冷却体の一側端部側に設けられた繰出部から繰り出されたテープ状電極を、移動冷却体の他側端部側に設けられた巻取部において巻き取ることにより、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させつつ、上記ストリーマコロナ放電を行うようにしたものである。
請求項8に係る発明は、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を溶融状態としてシート状に押し出す押出機と、この押出機から押し出された溶融シート状体を冷却する移動冷却体と、この移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って配設された電極とを有し、この電極から溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体に溶融シート状体を静電密着させるように構成されたシートの製造装置であって、上記押出機から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量、上記電極から溶融シート状体に通電される電流、電極に印加される電圧、電極と移動冷却体との間隙または電極の設置位置等からなる制御対象の少なくとも一つを、上記移動冷却体による溶融シート状体の引取速度に応じて制御する静電密着制御手段を備えたものである。
請求項9に係る発明は、上記請求項8に記載のシートの製造装置において、予め行った実験に基づいて作成された溶融シート状体の引取速度と制御対象の最適値との対応テーブルを備え、この対応テーブルから現時点における溶融シート状体の引取速度に対応した制御対象の最適値を読み出して静電密着制御手段による制御を実行するものである。
請求項10に係る発明は、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を溶融状態としてシート状に押し出す押出機と、この押出機から押し出された溶融シート状体を冷却する移動冷却体と、移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って配設された電極とを有し、この電極から溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体に溶融シート状体を静電密着させるように構成されたシートの製造装置であって、この電極に対する印加電圧を制御する電圧制御手段と、上記電極から溶融シート状体への通電電流を制御する電流制御手段と、上記移動冷却体による溶融シート状体の引取速度に応じて上記電圧制御手段による電圧制御状態と電流制御手段による電流制御状態とを切り換える切換制御手段とを備えたものである。
請求項11に係る発明は、上記請求項1に記載のシートの製造装置において、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化している場合には、電圧制御手段による印加電圧の制御状態とし、上記溶融シート状体が一定速度で引き取られている場合には、電流制御手段による電流制御状態とするように構成したものである。
請求項12に係る発明は、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を押出機から溶融状態としてシート状に押し出す押出工程と、押出機から押し出された溶融シート状体を移動冷却体に密着させて冷却する冷却工程と、冷却後のシート状体を延伸する延伸工程とを備え、上記移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って配設され電極から、上記冷却工程で溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体に溶融シート状体を静電密着させるシートの製造方法であって、シートの生産開始時に上記電極に対する印加電圧を制御する電圧制御を実行した後、シートの定常生産状態に移行した時点で上記電極から溶融シート状体への通電電流を制御する電流制御を実行するものである。
請求項1に係る発明によれば、テープ状電極の中央部を溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に設置するとともに、テープ状電極の耳部を上記中央部よりも溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で設置し、この搬送方向の下流側への電極耳部の変位量を溶融シート状体の移動速度および幅寸法等に対応させて調節することにより、上記テープ状電極の耳部を移動冷却体と溶融シート状体との接触点に正確に対向させることができる。したがって、上記テープ状電極に設けられた各突部から溶融シート状体に大電流を流すストリーマコロナ放電を、シートの幅方向の全域に亘って適正に行うことにより、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に多くの電荷を安定して連続的に付与することができ、上記溶融シート状体および移動冷却体の移動速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造することができる。しかも、テープ状電極の耳部を溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させるようにしたため、溶融シート状体にテープ状電極が接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、常に新たなテープ状電極を溶融シート状体の幅方向に沿って位置させることにより、昇華物等の不純物が電極に付着すること等に起因した密着不良の発生を防止できるという利点がある。
請求項2に係る発明によれば、テープ状電極と溶融シート状体との間隙が一定の範囲内に設定された状態でストリーマコロナ放電が行われるため、テープ状電極と移動冷却体との間に印加される電圧を過度に高い値に設定することなく、テープ状電極に設けられた複数の突部から溶融シート状体に対してストリーマコロナ放電を均一に発生させることができる。
請求項3に係る発明によれば、上記テープ状電極に設けられた相隣接する突部の設置間隔を上記テープ状電極と溶融シート状体との間隙の5倍未満に設定することにより、テープ状電極の各突部から溶融シート状体にストリーマコロナ放電が行われる際における相隣接する放電部の間隔が極端に大きくなるのを効果的に防止し、より均一なストリーマコロナ放電を発生させることができる。
請求項4に係る発明によれば、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が増減する等によりその幅寸法が変化した場合に、この幅寸法の変化に対応させて電極中央部の長さを変化させることにより、テープ状電極の中央部および耳部の両方を、移動冷却体と溶融シート状体との接触点に正確に対向させることができ、溶融シート状体の全域にストリーマコロナ放電を適正に行わせることができる。
請求項5に係る発明によれば、テープ状電極の耳部と移動冷却体との間に絶縁体を配設することにより、この電極耳部から移動冷却体に対して直接放電されるという事態の発生を阻止するようにしたため、溶融シート状体の耳部に付与される電荷量が不足するのを効果的に防止できるとともに、テープ状電極の耳部を溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させることにより、上記電極耳部と移動冷却体との間に配設された絶縁体にテープ状電極が接触するのを防止しつつ、移動冷却体と溶融シート状体との接触点に上記テープ状電極を近接させることができる。
請求項6に係る発明によれば、テープ状電極に適度の張力を付与した状態で溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させるように構成したため、テープ状電極が切断されるという事態の発生を防止しつつ、上記テープ状電極を安定して走行させることができるという利点がある。
請求項7に係る発明によれば、テープ状電極の中央部を溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に設置するとともに、テープ状電極の耳部を上記中央部よりも溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で設置し、かつ上記テープ状電極の耳部を移動冷却体と溶融シート状体との接触点に正確に対向させるとともに、テープ状電極の耳部を溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させることにより、溶融シート状体にテープ状電極が接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、常に新たなテープ状電極を溶融シート状体の幅方向に沿って位置させることにより、上記テープ状電極に設けられた各突部から溶融シート状体に大電流を流すストリーマコロナ放電を、溶融シート状体の全域に亘って適正に行うことができる。このため、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に多くの電荷を安定して連続的に付与することができ、上記溶融シート状体および移動冷却体の移動速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造できるという利点がある。
請求項8に係る発明によれば、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に電極からストリーマコロナ放電を行うことにより、上記移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて冷却する際に、上記静電密着制御手段により、押出機から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量、上記電極から溶融シート状体に通電される電流、電極に印加される電圧、電極と移動冷却体との間隙または電極の設置位置等からなる制御対象の少なくとも一つを制御するようにしたため、上記電極から大電流を流すストリーマコロナ放電を、移動冷却体に対する溶融シート状体の接触点に沿って容易かつ適正に行うことができる。したがって、上記の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に多くの電荷を安定して連続的に付与することができ、上記溶融シート状体および移動冷却体の移動速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造することができる。
請求項9に係る発明によれば、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に電極からストリーマコロナ放電を行うことにより、上記移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて冷却する際に、溶融シート状体の引取速度と制御対象の最適値との対応テーブルから現時点における溶融シート状体の引取速度に対応した制御対象の最適値を読み出し、この制御対象を最適値に一致させる制御を実行することにより、移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて均等に冷却することができるため、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造できるという利点がある。
請求項10に係る発明によれば、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に電極からストリーマコロナ放電を行うことにより、上記移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて冷却する際に、上記電圧制御手段による電圧制御状態と電流制御手段による電流制御状態とを上記移動冷却体による溶融シート状体の引取速度に応じて切り換えるように構成したため、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化し易い低速引取時等に、上記電極に対する印加電圧を制御することにより、上記引取速度の変化に応じて放電状態が極めて不安定になるのを効果的に防止し、安定したストリーマコロナ放電を行うことができる。しかも、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が比較的に安定した高速引取時等には、上記電極から溶融シート状体に対する通電電流を制御する電量制御状態に切り換えることにより、移動冷却体に対する溶融シート状体の密着力が顕著に変動するのを抑制してシートの厚みを均一化できるとともに、シート幅の変化を効果的に防止できるという利点がある。
請求項11に係る発明によれば、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化し易い傾向があるシートの生産開始時等に、上記電極に対する印加電圧を制御することにより、引取速度の変化に応じて放電状態が極めて不安定になるのを効果的に防止し、安定したストリーマコロナ放電を行うことができるとともに、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が比較的に安定した状態となる定常生産時等に、上記電極から溶融シート状体に対する通電電流を制御することにより、移動冷却体に対する溶融シート状体の密着力が顕著に変動するのを抑制してシートの厚みを均一化することができるとともに、シート幅の変化を効果的に防止することができる。
請求項12に係る発明によれば、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が変化し易い傾向があるシートの生産開始時には、上記電極に対する印加電圧の制御を実行し、移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が比較的に安定したと状態なる定常生産時には、上記電極から溶融シート状体に対する通電電流の制御を実行することにより、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体に多くの電荷を安定して連続的に付与することができ、上記溶融シート状体および移動冷却体の移動速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体に溶融シート状体を適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造できるという利点がある。
図1は、本発明に係るシートの製造装置の実施形態を示している。この製造装置は、ホッパー1から投入された熱可塑性樹脂材を加熱混練することにより溶融状態としてTダイ等からなる口金2からシート状に押し出す押出機3と、この押出機3から押し出された溶融シート状体4aを冷却する冷却ローラ等からなる移動冷却体5と、上記溶融シート状体4aにストリーマコロナ放電を行うことにより溶融シート状体4aを移動冷却体5に密着させるストリーマコロナ放電部6と、上記移動冷却体5により冷却されたシート状体4bを長手方向または幅方向に延伸させる第1延伸部7と、上記シート状体4bを幅方向または長手方向に延伸させる第2延伸部8と、延伸後のシート4cを巻き取る巻取ロール9とを有している。
上記ストリーマコロナ放電部6には、図2−1,2−2〜図3に示すように、移動冷却体5の周面に対する溶融シート状体4aの接触点の近傍に沿ってテープ状電極10が設置されている。このテープ状電極10は、鉄またはステンレス鋼等の金属材からなり、その先端部、つまり上記溶融シート状体4aの表面に対向する側の端部には、矩形の切欠きが一定間隔で形成される等により、所定の突出量Jを有する複数の突部10aが溶融シート状体4aの搬送方向と直交する方向に所定間隔(配列ピッチ)Wで設けられている。また、上記テープ状電極10の突部10aは、移動冷却体5上に位置する溶融シート状体4aと所定の間隙Hを隔てて相対向するように設置されている。
移動冷却体5の周面に対する溶融シート状体4aの接触点Zと移動冷却体5の回転中心軸を結ぶ直線上にテープ状電極の長辺が重なるように移動させたときの電極の突部と接触点の距離を間隔Hとする。
上記の構成を有するテープ状電極10と移動冷却体5との間に直流高圧電源11から所定電圧が印加され、移動冷却体5上の溶融シート状体4aに対して上記テープ状電極10からストリーマコロナ放電が行われることにより、多くの電荷が連続的に付与されて上記溶融シート状体4aが移動冷却体5に静電密着するようになっている。
上記ストリーマコロナ放電とは、例えば正電圧が印加されるテープ状電極10と、アース体である溶融シート状体4aとが橋絡して安定したコロナ放電が行われる状態をいう。すなわち、上記テープ状電極10と移動冷却体5との間に印加される電圧を上昇させると、最初に暗流状態(持続性のない放電現象)が生じた後、グローコロナ放電状態となり、次いで上記テープ状電極10からの放電により空気がイオン化されて安定した電流が持続的に流れるストリーマコロナ放電状態となる。この状態から、さらに電圧を上昇させると火花放電状態となる。
上記各放電現象を電圧と電流との関係で見ると、暗流領域では、オームの法則が成立する微少電流領域、つまり電圧に比例して電流が流れる領域と、電圧を上げても電流が増加しない領域とがあり、この領域からさらに電圧を上昇させると急激に電流が増加する状態となり、この領域がグローコロナ放電領域であって電極の表面を覆う紫色の発光が認められる。このグローコロナ放電領域からさらに電圧を上げると、ストリーマコロナ放電状態となり、この時には、電極とアース体とを橋絡する発光が見られる。電極に印加される電圧V(kV)と、アース体であるシート状体の幅寸法に対応した電流値I(mA/cm)との関係を具体的に見ると、I<0.025×V−0.12となる領域が暗流領域またはグローコロナ放電領域であって、I≧0.025×V−0.12となる領域がストリーマコロナ放電領域である。
上記のように押出機3から移動冷却体5上に押し出された溶融シート状体4aに対し、上記コロナ放電部6のテープ状電極10からストリーマコロナ放電が行われて多量の電荷が上記溶融シート状体4aに付与されることにより、この溶融シート状体4aが移動冷却体5に静電密着した状態となり、この移動冷却体5に供給される冷却水等の冷却媒体との間で熱交換が行われて上記溶融シート状体4aが冷却されるようになっている。
上記テープ状電極10の厚みは5μm〜200μmの範囲内に設定され、その好適範囲は10μm〜100μmである。上記テープ状電極10の厚みが5μm以下になると、その強度が低下して破断し易くなり、上記テープ状電極10の厚みが200μm以上になると、電場の集中度が低下してストリーマコロナ放電を適正に発生させることが困難となるからである。上記テープ状電極10の先端部における電場の集中度を高めて効率よくストリーマコロナ放電を発生させるためには、上記突部10aの突出量Jを0.1mm以上に設定する必要がある。この突出量Jは、0.5mm以上に設定することが好ましく、1mm以上に設定することがさらに好ましい。なお、上記突出量Jの最大値については特に限定されるものではないが、20mmを超えても電場の集中度を高めるという機能的なメリットをそれ程向上させることができず、かつ上記テープ状電極10の幅寸法を必要以上に大きくしなければならないため、経済性の面からは上記突出量を20mm以下とすることが好ましい。
上記移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの密着力F[Pa]をクローン力として考察すると、下記式のように表される。下記式において、qはシート上の電荷[C]、Eはシートの電場[V/m]、Sは単位時間(1s)当たりに移動するシートの長さと幅寸法により定義されるシートの面積[cm2]、iは静電密着電極を流れる電流[A]、Vは電極に印加される電圧[V]、vは移動体冷却5の移動速度[m/s]、wは静電密着により冷却されるシートの幅[m]、kは式k=E/Vで定義される電場集中度[1/m]であり、簡単な形状の場合には解析計算により求められ、複雑な形状の場合には有限要素法を用いた数値計算により求められる。
F[Pa]=q[C]×E[V/m]/S[cm2]
=i・V・k/(v・w)[Pa]
上記式から、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの静電密着力は、電極に対する印加電圧Vと電流iと電場集中度kとに応じて定まり、この電場集中度kを高めることにより静電密着力Fを増大させ得ることがわかる。
また、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hが一定値未満になると、テープ状電極10の先端部が溶融シート状体4aに接触して溶融シート状体4aが傷付けられる可能性があり、上記間隙Hが一定値以上となると、ストリーマコロナ放電を適正に発生させるための印加電圧をかなり高くする必要が生じて、火花放電が発生し易くなることが避けられない。このため、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hは、0.5mm〜10mmの範囲内に設定されている。
上記溶融シート状体4aの搬送方向と直交する方向に配列された上記突部10aの設置間隔Wが一定値以上になると、テープ状電極10の各突部10aから溶融シート状体4aへの放電間隔が広くなり過ぎてその間に筋状の密着不良部分が発生し易くなる傾向がある
。このような弊害を防止するためには、上記設置間隔Wを、テープ状電極10と溶融シー
ト状体4aとの間隙Hの5倍未満に設定する必要がある。また、上記テープ状電極10に設けられた相隣接する突部10aの設置間隔Wを小さくすると、突部10aの成形が困難になるとともに、全ての突部10aから有効なコロナ放電を発生させることが困難となるため、上記設置間隔Wの好適範囲は、テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hの0.1倍〜3倍の範囲内であり、さらに好適な範囲は上記間隙Hの0.2倍〜2倍の範囲内である。
また、上記テープ状電極10は、図4および図5に示すように、中央部(以下、電極中央部という)12が溶融シート状体4aの幅方向(矢印α方向)に沿って直線状に設置されるとともに、その外方側に位置するテープ状電極10の外方部(以下、電極外方部という)13が、溶融シート状体4aの搬送方向(矢印β方向)の下流側に位置するように配置されている。さらに、テープ状電極10は、下記制動モータ16および巻取モータ19を有する走行駆動機構により一定の張力が付与された状態で、溶融シート状体4aの幅方向αに沿って走行駆動されるように構成されている。
すなわち、上記移動冷却体5の一側端部側には、制動モータ16および繰出ローラ17を有する繰出部18が配設されるとともに、移動冷却体5の他側端部側には、巻取モータ19および巻取ローラ20を有する巻取部21が配設されている。そして、上記制動モータ16および巻取モータ19が作動状態となって、繰出部18の繰出ローラ17からテープ状電極10が繰り出されるとともに、巻取部21の巻取ローラ20において上記テープ状電極10が巻き取られることにより、溶融シート状体4aの幅方向(矢印α方向)に沿ってテープ状電極10が走行する。また、上記巻取モータ19の駆動トルクが制動モータ16の駆動トルクよりも大きな値に設定されることにより、テープ状電極10の走行駆動時に一定の張力がテープ状電極10に付与されるようになっている。
上記繰出部18および巻取部21が収容された両駆動ユニット22には、それぞれ取付け板23が突設されるとともに、この取付け板23にガイドローラからなる中央部支持部材24が回転自在に設置され、この中央部支持部材24にテープ状電極10が支持されることにより、溶融シート状体4aの中央部側に位置する電極中央部12が溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に設置されている。また、上記中央部支持部材24の外方側には、溶融シート状体4aの搬送方向βの下流側において回転自在に支持されたガイドローラからなる外方部支持部材25が配設され、この外方部支持部材25に、上記電極1外方部13が支持されることにより、左右一対の電極外方部13が溶融シート状体4aの搬送方向βの斜め下流側に伸びるように設置されている。
上記中央部支持部材24と外方部支持部材25との間には、ガイドローラからなる耳部調整ガイド26が回転自在に支持されている。この耳部調整ガイド26は、溶融シート状体4aの搬送方向βに沿ってスライド可能に支持されるとともに、図外のアクチュエータからなる変位量調節機構によりシート搬送方向βの上流側または下流側にスライド駆動されるようになっている。そして、上記耳部調整ガイド26のスライド変位に応じ、溶融シート状体4aの搬送方向βにおける上記電極中央部12と、後述する電極耳部13aとの間の距離Xが調節されるように構成されている。
また、上記繰出部18および巻取部21が収容された両駆動ユニット22は、それぞれ図外のガイド部材により溶融シート状体4aの幅方向αに沿ってスライド可能に支持されるとともに、図外のアクチュエータによりシート幅方向αにスライド駆動されるように構成されている。そして、上記繰出部18側の中央支持部材24と、巻取部21側の中央支持部材24とを接近させ、あるいは離間させる方向に、上記両駆動ユニット22をスライド駆動することにより、溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状態に設置された上記電極中央部12の長さδが変化するようになっている。
また、上記繰出部18および巻取部21が収容された両駆動ユニット22は、図外のアクチュエータによって昇降駆動されることにより、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hが調節される。この間隙Hが一定値未満になると、テープ状電極10の先端部が溶融シート状体4aに接触して溶融シート状体4aが傷付けられる可能性があり、上記間隙Hが一定値以上となると、ストリーマコロナ放電を適正に発生させるための印加電圧をかなり高くする必要が生じて、火花放電が発生し易くなることが避けられない。このため、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hは、上記両駆動ユニット22の昇降駆動により0.5mm〜10mmの範囲内に調節されるように構成されていることが好ましい。
上記溶融シート状体4aの搬送方向と直交する方向に配列された上記突部10aの設置間隔Wが一定値以上になると、テープ状電極10の各突部10aから溶融シート状体4aへの放電間隔が広くなり過ぎてその間に筋状の密着不良部分が発生し易くなる傾向がある。このような弊害を防止するためには、上記設置間隔Wを、テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hの5倍未満に設定する必要がある。また、上記テープ状電極10に設けられた相隣接する突部10aの設置間隔Wを小さくすると、突部10aの成形が困難になるとともに、全ての突部10aから有効なコロナ放電を発生させることが困難となるため、上記設置間隔Wの好適範囲は、テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hの0.1倍〜3倍の範囲内であり、さらに好適な範囲は上記間隙Hの0.2倍〜2倍の範囲内である。
上記駆動ユニット22の下方には、電極外方部13から移動冷却体5に直接放電される
のを阻止するために、絶縁性を有するプレート材からなる絶縁体27が配設されることに
より、テープ状電極10として作用する放電範囲γが溶融シート状体4aの幅寸法に対応
した範囲となるように規定されている。すなわち、上記放電範囲γに含まれる電極外方部13を電極耳部13aと定義すると、その外側端部位置が上記絶縁体27の内側端部位置により規定されることになる。
また、中央部支持部材24および耳部調整ガイド26等を構成するガイドローラの材質は、特に限定されるものではないが、耐熱性および精密性を確保するためには、フッ素系樹脂、ポリイミドまたはセラミック等の絶縁性材料や金属性材料により上記各ガイドローラを構成することが好ましい。ただし、金属性材料を使用する場合、溶融シート状体4aに対するストリーマコロナ放電が乱されるのを防止するために、上記テープ状電極10と接する面を絶縁性材料で覆うことが好ましい。なお、上記ガイドローラとテープ状電極10との位置関係により上記ストリーマコロナ放電が乱される虞がなければ、金属製材料からなるガイドローラを上記絶縁性材料で覆う必要はない。
上記中央部支持部材24を構成するガイドローラと、これにより支持されるテープ状電極10との上下方向における位置関係は、テープ状電極10の下端部が上記中央部支持部材24の底面よりも所定距離Mだけ下方に突出するように設定されている(図5参照)。この距離Mからなるテープ状電極10突出量は、0.3mm〜5mmの範囲内が好適であり、0.5mm〜3mmの範囲内がさらに好適である。上記距離Mが0.3mm未満になると、テープ状電極10の走行駆動時に、その下端部が上記中央部支持部材24の底面から下方に突出し得ない状態となって、溶融シート状体4aに対するストリーマコロナ放電が阻害される可能性があるからである。一方、突出量(距離M)が5mmよりも大きくなると、上記テープ状電極10の走行駆動時に作用する張力に応じて上記中央部支持部材24からテープ状電極10が脱落し易くなるからである。
また、上記テープ状電極10の幅寸法が小さいと、中央部支持部材24および耳部調整ガイド26等を構成するガイドローラに沿ってテープ状電極10を走行させる際に、その走行安定性を維持することが困難となるとともに、テープ状電極10に作用する張力に応じてテープ状電極10が破断し易くなることが避けられない。逆にテープ状電極10の幅寸法を必要以上に大きくしても機能的なメリットが無く、装置が大形化するというデメリットが生じる。このため、上記テープ状電極10の幅寸法を、5mm〜30mmの範囲内に設定することが好ましく、10mm〜20mmの範囲内とすることがさらに好ましい。
また、上記テープ状電極10の放電範囲γの左右両側端部と、溶融シート状体4aの側端部との距離Y1で表される電極耳部13aの側端位置は、3mm以上であることが好ましく、10mm〜20mmの範囲内とすることがさらに好ましい。上記距離Y1が短いと、移動冷却体5によるシート引取速度が速くなるのに応じて上記印加電圧を上昇させた場合に、テープ状電極10から移動冷却体5に対して直接放電が行われる可能性が高くなるからである。一方、上記距離Y1が20mmよりも大きくなると、上記溶融シート状体4aの側辺部(シート耳部)に付与される電荷量が不足してシート耳部に筋状の欠点が形成されるとともに、シート耳部の冷却が不充分となって結晶白化が生じ易く、延伸工程でシートが破断し易くなるためである。
さらに、溶融シート状体4aの側端部と、電極中央部12との距離により表される電極中央部12の側端位置Y2の好適範囲は、30mm〜120mmであり、さらに好適な範囲は40mm〜100mmである。上記電極中央部側端位置Y2が30mm未満になると、上記耳部調整ガイド26をスライド変位させても、溶融シート状体4aの搬送方向βにおける上記電極中央部12と電極耳部13aの間の距離X、つまりシート搬送方向の下流側への電極耳部13aの変位量を充分に調節することができないからである。一方、上記中央電極端位置Y2が120mmよりも大きくなると、上記耳部調整ガイド26をスライド変位させるのに応じて、溶融シート状体4aの搬送方向βにおける上記電極中央部12と電極耳部13aの間の距離Xが極端に変化し、これを正確に調節することが困難となるからである。このため、上記駆動ユニット22をシート幅方向αにスライド変位させることにより、電極耳部13aの側端位置が上記の範囲内で調節される。
また、上記外方部支持部材25および耳部調整ガイド26を構成するガイドローラは、図6に示すように、上下にフランジ部25fが設けられた溝付ローラからなり、上記テープ状電極10の走行駆動時に、その上下動を両フランジ部25fによって規制するように構成されている。また、上記繰出部18および巻取部21に設けられた繰出ローラ17および巻取ローラ20も、上記ガイドローラと同様に、上下にフランジ部が設けられた溝付ローラからなっている。
上記シートの製造装置には、図11に示すように、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を制御する速度制御手段28と、この速度制御手段28により制御される溶融シート状体4aの引取速度に応じて溶融シート状体4aの静電密着状態を適正状態とするように、上記ストリーマコロナ放電の実行時におけるテープ状電極10から溶融シート状体4aへの通電電流またはテープ状電極10の設置位置等からなる制御対象を制御する静電密着制御手段29とが設けられていることが好ましい。
複数の押出機3からそれぞれ溶融状態で押し出された熱可塑性樹脂を重合してシートを製造する製造装置では、例えば表1に示すように、各押出機3からの熱可塑性樹脂の押出量Q1〜Qm(kg/h)、予め設定された基準座標点に対するテープ状電極10のシート幅方向位置Y、予め設定された基準座標点に対するテープ状電極10のシート搬送方向位置L、シート搬送方向βへの電極耳部13aの変位量X、テープ状電極10と溶融シート状体4aの間隙Hおよびテープ状電極10から溶融シート状体4aへの通電電流A等が制御対象として考えられる。そして、上記溶融シート状体4aの引取速度に対応した上記各制御対象の最適値を求めるために予め実験を行い、この実験データに基づいて下記表1に示すように溶融シート状体4aの引取速度Kからなる制御因子と、各制御対象の最適値との対応テーブルを作成し、この対応テーブルから現時点における溶融シート状体4aの引取速度Kに対応した上記各制御対象の最適値を読み出すことにより、上記静電密着制御手段29による制御が実行されるようになっている。
例えば、現時点の引取速度がK1であることが速度制御手段28の出力信号に応じて確認された場合には、上記熱可塑性樹脂の押出量としてQ11〜Q1m(kg/h)が表1に示す対応テーブルから読み出され、これらの値に対応した制御信号が各押出機3に出力される等により、各押出機3の押出量をQ11〜Q1m(kg/h)とする制御が静電密着制御手段29において実行される。また、上記引取速度K1に基づき、基準座標点に対するテープ状電極10のシート幅方向位置およびシート搬送方向位置としてY1,L1が上記対応テーブルからそれぞれ読み出され、これらの値に対応した制御信号が上記駆動ユニット22の左右駆動アクチュエータ22aおよび前後駆動アクチュエータ22bに出力されて駆動ユニット22がシート幅方向αおよびシート搬送方向βに沿ってスライド駆動されることにより、上記基準座標点に対するテープ状電極10のシート幅方向位置およびシート搬送方向位置を、それぞれL1,Y1とする制御が実行される。
さらに、上記引取速度K1に基づき、シート搬送方向への電極耳部13aの変位量としてX1が上記対応テーブルから読み出され、上記耳部調整ガイド26をシート幅方向αにスライド駆動する耳部駆動アクチュエータ26aに、上記変位量X1に対応した制御信号が出力されて耳部調整ガイド26がシート搬送方向にスライド駆動されることにより、シート搬送方向への電極耳部13aの変位量をX1とする制御が実行されるとともに、テープ状電極10と溶融シート状体4aの間隙としてH1が上記対応テーブルから読み出され、その値に対応した制御信号が駆動ユニット22の昇降駆動アクチュエータ22cに出力されて上記テープ状電極10が昇降駆動されることにより、テープ状電極10と移動冷却体5の間隙をH1とする制御が実行される。
また、上記引取速度K1に基づき、テープ状電極10から溶融シート状体4aへの通電電流としてA1が上記対応テーブルから読み出され、この値に対応した制御信号が直流高圧電源11に出力されることにより、ストリーマコロナ放電の実行時に、直流高圧電源11から上記テープ状電極10を介して溶融シート状体4aに通電される電流をA1とする制御が実行されるようになっている。
具体的には、上記押出機3から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量が定常生産時の半分以下に調節されたシートの生産開始時に、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を20m/min程度の低速に設定するとともに、上記移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点Zとテープ状電極10との間隙Hを例えば5mm程度とするように、テープ状電極10の先端部を上記接触点Zに近付けた状態で、上記直流高圧電源11からテープ状電極10を介して溶融シート状体4aに通電される電流を4.5mA程度に設定してストリーマコロナ放電を行う。この状態では、均一なストリーマコロナ放電を行うことができず、溶融シート状体4aに気泡状の欠点や筋状の欠点が認められる状態となる。
そして、上記の状態から溶融シート状体4aの引取速度を所定時間毎に順次上昇させる制御を上記速度制御手段28において実行するとともに、この引取速度に基づき、上記押出機3から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに通電される電流、このテープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hおよびテープ状電極10の設置位置等からなる制御対象を自動的に最適値とする制御を、静電密着制御手段29において実行する。例えば、表2に示すように、上記引取速度を30m/minから90m/minまで、10m/min単位で所定時間(変化時間)をかけて順次上昇させるとともに、これに対応して通電電流からなる制御対象を10mAから58mAまで順次上昇させる制御を実行する。なお、一定速度(10m/min)毎に所定時間をかけて引取速度を上昇させるようにした上記表2に示す実施形態に代え、一定時間毎に引取速度を所定速度ずつ上昇させるようにしてもよい。
上記のようにして均一なストリーマコロナ放電が行われて移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの密着力が増大し、上記気泡状の欠点や筋状の欠点が消失するとともに、上記溶融シート状体4aが移動冷却体5に静電密着して効果的に冷却されることになる。
上記テープ状電極10に直流高圧電源11の正電極が接続されるとともに、移動冷却体5に直流高圧電源11の負電極が接続されている。また、上記シートの製造装置には、図12に示すように、直流高圧電源11からテープ状電極10に印加される印加電圧を制御する電圧制御手段13と、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに通電される通電電流を制御する電流制御手段14と、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度に応じて行われる作業者の操作により上記電圧制御手段13による電圧制御状態と電流制御手段14による電流制御状態とを切り換える切換制御手段15とを有する制御ユニット16が設けられていることが好ましい。
具体的には、上記押出機3から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量が定常生産時の半分以下に調節されたシートの生産開始時に、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を10m/min以下の低速に設定するとともに、上記移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点Zと、テープ状電極10との間隙Hが、10mm以下の適正値(例えば5mm程度)となるように、テープ状電極10の先端部を上記接触点Zに近付けた状態で、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を10m/min以下の低速に設定して溶融シート状体4aの巻取を開始する。
そして、上記引取速度を徐々に上昇させるとともに、上記直流高圧電源11からテープ状電極10に印加される印加電圧の目標値を4kV〜6kVに設定して印加電圧を徐々に上昇させる電圧制御を実行しつつ、ストリーマコロナ放電を行う。この状態では、均一なストリーマコロナ放電を行うことができず、溶融シート状体4aに気泡状の欠点や筋状の欠点が認められる状態となる。次いで、上記溶融シート状体4aの引取速度が例えば60m/min程度の定常生産速度に上昇した時点で、この引取速度を維持しつつ、印加電圧を7kV〜10kVに上昇させるようにする。
上記印加電圧の上昇に応じて均一なストリーマコロナ放電が行われるため、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの密着力が増大することにより、上記気泡状の欠点や筋状の欠点が消失する。この時点で、上記電圧制御手段13による電圧制御状態から電流制御手段14による電流制御状態に切り換え、上記欠点の消失時点における電流値を維持するようにする。このようにして上記テープ状電極10から移動冷却体5上の溶融シート状体4aにストリーマコロナ放電が行われて多くの電荷が連続的に付与されることにより、上記溶融シート状体4aが移動冷却体5に静電密着することになる。
このように0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を溶融状態としてシート状に押し出す押出機3と、この押出機3から押し出された溶融シート状体4aを冷却する移動冷却体5と、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点Zに沿って配設されたテープ状電極10とを有するシートの製造装置において、上記テープ状電極10に対する印加電圧を制御する電圧制御手段13と、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aへの通電電流を制御する電流制御手段14とを設け、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体5に溶融シート状体4aを静電密着させる際に、上記電圧制御手段13による電圧制御状態と電流制御手段14による電流制御状態とを上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度に応じて切り換えるように構成したため、上記移動冷却体5によるシート引取速度を高速に設定しつつ、溶融シート状体4aを移動冷却体5に適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく製造できるという利点がある。
例えば、押出機3から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量が定常生産時より少ない状態にあるシートの生産開始時には、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を低速に設定した状態から徐々に上昇させる速度制御が実行されるのに対応して、上記電圧制御手段13による印加電圧の制御を実行することにより、上記引取速度が変化することに起因して放電状態が不安定になるという事態を生じることなく、安定したストリーマコロナ放電を行うことができる。
すなわち、上記シートの生産開始時に、テープ状電極10に対する印加電圧を予め設定された目標値に維持する制御を実行するように構成した場合には、溶融シート状体4aの引取速度が上昇して上記接触点Zに供給される単位時間当たりにおける熱可塑性樹脂材の量が増大するため、これによって上記溶融シート状体4aに通電される電流が増大することになる。このため、上記溶融シート状体4aの引取速度が上昇して移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点位置が変化するのに応じ、テープ状電極10に対する印加電圧を変化させて上記通電電流を一定値に維持する定電流制御を実行した場合のように上記印加電圧が極度に上昇して火花放電が発生するという事態を生じることがなく、上記ストリーマコロナ放電を適正に行わせることができる。また、上記引取速度および印加電圧が変化するのに応じ、溶融シート状体4aが移動冷却体5に接触する前に空中で振動した場合においても、上記放電状態が不安定になるのを効果的に防止することができる。しかも、上記引取速度の変化に対応して通電電流を頻繁に調整する必要がないため、上記電圧制御を容易に実行できるという利点がある。
そして、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度が一定となった定常引取時等には、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに対する通電電流を制御する電流制御状態に切り換えるようにしたため、上記テープ状電極10に対する印加電圧を制御する電圧制御を実行した場合のように、印加電圧のわずかな調整に応じて溶融シート状体4aに対する通電電流が顕著に変化するという事態が生じることはなく、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの密着力を一定に維持してシートの厚みを均一化できるとともに、シート幅の変化を効果的に防止できるという利点がある。
なお、上記実施形態では、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を低速から徐々に上昇させる必要があるシートの生産開始時に、上記電圧制御手段13による印加電圧の制御を実行するように構成した例について説明したが、定常生産時においてシートの幅または厚み等を変化させるために、上記移動冷却体による溶融シート状体の引取速度が一時的に変化した場合に、上記電流制御手段14による通電電流の制御から上記電圧制御手段13による印加電圧の制御状態に切り換えるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点Zの近傍に沿って5μm〜200μmの厚みを備えたテープ状電極10を配設するとともに、このテープ状電極10の先端部に0.1mm以上の突出量Jを有する複数の突部10aを設けたため、この突部10aに電場を集中させることにより、低電圧で溶融シート状体4aに対するストリーマコロナ放電を適正に行わせて上記溶融シート状体4aを移動冷却体5に静電密着させることができる。したがって、シートの表面が粗面化されて不透明になったり、上記溶融シート状体4aと移動冷却体5との間に空気が部分的に捕捉されてシートの表面に泡状または筋状の欠陥が形成されたりする等の弊害を生じることなく、溶融シート状体4aを効果的に冷却できるという利点がある。
しかも、上記移動冷却体5に溶融シート状体4aが密着して振動しにくい状態にある溶融シート状体4aの接触点Zの近傍にテープ状電極10を配設することにより、溶融シート状体4aの振動に起因してテープ状電極10に溶融シート状体4aが接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに対してストリーマコロナ放電を適正に行うことができる。また、上記火花放電が生じることにより溶融シート状体4aが破断して移動冷却体5に巻付いたり、テープ状電極10が損傷し、あるいはシートの表面欠陥が形成されたりする等の弊害を生じることなく、溶融シート状体4aに多くの電荷を安定して連続的に付与することができるため、上記移動冷却体5によるシート引取速度を高速に設定した場合においても、移動冷却体5に溶融シート状体4aを適正に密着させて均等に冷却し、優れた特性を有するシートを効率よく製造できるという利点がある。
また、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hが一定値未満になると、テープ状電極10の先端部が溶融シート状体4aに接触して溶融シート状体4aが傷付けられる可能性があり、上記間隙Hが一定値以上となると、ストリーマコロナ放電を適正に発生させるための印加電圧をかなり高くする必要が生じて、火花放電が発生し易くなることが避けられない。このため、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hは、0.5mm〜10mmの範囲内に設定されている。
上記押出機3により加熱混練されて押し出される熱可塑性樹脂としては、その溶融比抵抗値Rが0.3×108(Ω・cm)以上のものであれば特に限定されないが、以下のような樹脂が想定される。なお、上記溶融比抵抗値Rは、熱可塑性樹脂を真空乾燥した後に、50mmの直径を有する試験管に入れ、窒素雰囲気下で溶融した後、285℃の窒素雰囲気下で上記熱可塑性樹脂中に一対の銅製電極を挿入し、この両電極に直流高圧発生装置から電圧を印加した状態で計測された電流値、電圧値、電極面積および電極間距離に応じ、式R=(V・S/I・L)に基づいて求められる。なお、この式において、Vは電圧値、Sは電極面積、Iは電流値、Lは電極間距離である。
上記溶融比抵抗値の高い熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートもしくはこれらの樹脂を構成するポリマー成分を主成分とした共重合体からなるポリエステル系樹脂が好適に用いられる。
上記の共重合体を用いる場合、そのジカルボン酸成分としてはアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p′−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;およびこれらのエステル形成誘導体(2,5−ジメチルテレフタル酸等)等が挙げられる。なお、トリメリット酸およびピロメリット酸等の多官能カルボン酸等を用いてもよい。
また、上記共重合体のグリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、p−キシレングリコール等や平均分子量が150〜2000のポリエチレングリコール等が用いられる。
なお、上記ポリエステル系樹脂の組成物には、例えば帯電防止剤、UV吸収剤または安定剤等からなる各種公知の添加剤を含有させてもよい。
また、溶融比抵抗値の高い上記ポリエステル系樹脂に代え、溶融比抵抗値の低い素材と、各種の添加物(例えば溶融比抵抗値の高い樹脂)とを混合することにより、その溶融比抵抗値を0.3×108(Ω・cm)以上に調整したものを用いてもよい。
上記押出機3により加熱混練される熱可塑性樹脂として、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有するポリエチレンテレフタレートを使用するとともに、上記構成の製造装置を用いてシートを製造するシートの製造方法について以下に説明する。まず、易滑性の付与を目的とした粒子を必要に応じて配合したポリエチレンテレフタレートのペレットを充分に真空乾燥した後、これを押出機3に供給して加熱混練する。そして、上記押出機3の口金2から例えば約280℃の温度を有する溶融シート状体4aを押し出して移動冷却体5の周面に接触させる。
上記のようにして移動冷却体5上に押し出された溶融シート状体4aと移動冷却体5との接触点の近傍に沿って、5μm〜200μmの厚みを有するとともに、先端部に0.1mm以上の突出量Jを有する複数の突部10aが設けられたテープ状電極10を配設するとともに、このテープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隔Hが10mm以下となるように、上記接触点にテープ状電極10を近付ける。そして、電極中央部12を上記中央部支持部材24に支持させることにより溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に設置するとともに、電極耳部13aを上記耳部調整ガイド26からなる耳部支持部材に支持させることにより上記溶融シート状体4aの搬送方向βの下流側に変位させた状態で設置する。
また、必要に応じて上記耳部調整ガイド26をシート搬送方向βに沿ってスライド変位させることにより、上記シート搬送方向βの下流側への上記電極耳部13aの変位量Xを調節するとともに、上記溶融シート状体4aの幅方向αに沿ってテープ状電極10を連続的または間欠的に走行させつつ、上記溶融シート状体4aの冷却工程で、テープ状電極10と移動冷却体5との間に直流の高電圧を印加する。この結果、テープ状電極10の突部10aから溶融シート状体4aにストリーマコロナ放電が行われることにより、多量の電荷が溶融シート状体4aに付与されてこの溶融シート状体4aが帯電し、上記移動冷却体5の周面に溶融シート状体4aが静電密着した状態となって効果的に冷却されることになる。
上記溶融シート状体4aを移動冷却体5に密着させて冷却することにより得られたシート状体4bを第1延伸部7に供給し、このシート状体4bを、その長手方向に延伸させた後、第2延伸部8に供給してシート状体4bの幅方向に延伸させることにより、所定の幅寸法および厚みを有するシート4cを製造し、これを巻取ロール9において巻き取る。
このように0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を溶融状態としてシート状に押し出す押出機3と、この押出機3から押し出された溶融シート状体4aを冷却する移動冷却体5と、5μm〜200μmの厚みを有するとともに、先端部に0.1mm以上の突出量Jを有する複数の突部10aが設けられたテープ状電極10を移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点に沿って配設し、電極中央部12を溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に設置するとともに、電極耳部13aを溶融シート状体4aの搬送方向の下流側に変位させた状態で、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体5に溶融シート状体4aを静電密着させるように構成したため、上記移動冷却体5によるシート引取速度を高速に設定しつつ、溶融シート状体4aを移動冷却体5に適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく製造することができる。
また、上記押出機3から押し出される熱可塑性樹脂材の押出量、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに通電される電流、このテープ状電極10に印加される電圧、テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hおよびテープ状電極10の設置位置等からなる制御対象を、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度に応じて制御するように構成したため、上記移動冷却体5によるシート引取速度を高速に設定しつつ、溶融シート状体4aを移動冷却体5に適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく製造することができる。
すなわち、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を原材料として使用するとともに、この熱可塑性樹脂材からなる溶融シート状体4aを移動冷却体5により高速で引き取るようにシートの生産性を向上させるように構成した場合には、シートの生産開始後に上記溶融シート状体4aの引取速度を低速域から高速行きまで徐々に上昇させる際に、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点が移動する等により、上記ストリーマコロナ放電を適正に行うための条件が顕著に変化する傾向がある。このため、上記接触点に対するテープ状電極10の設置位置および上記溶融シート状体4aに対する通電電流等の条件設定を誤ると、火花放電が発生して溶融シート状体4aが破断し、あるいは移動冷却体5が損傷する等の弊害があるが、上記のように移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度に応じて上記テープ状電極10の設置位置および通電電流等の制御対象を、予め設定された最適値とする制御を実行することにより、火花放電を発生させることなく、上記ストリーマコロナ放電を適正に行わせて溶融シート状体4aを移動冷却体5に適正に密着させることができる。
すなわち、上記移動冷却体5の移動距離を60m/min以上の高速に設定すると、溶融シート状体4aが移動冷却体5の周面に接触する際に、その中央部から外方側に向けて多量の空気が急激に押し出され、その風圧により溶融シート状体4aの左右両側辺部(耳部)が浮き上がるようにカールし、特に溶融シート状体4aの幅寸法が500mm以上の場合に顕著なカールが発生する。この結果、図2−1に示すように、溶融シート状体4aの耳部と移動冷却体5との接触点Z1が、溶融シート状体4aの中央部と移動冷却体5との接触点Z2よりもシート搬送方向の下流側に位置した状態となるとともに、これに対応して上記接触点Z1,Z2の上下方向位置が変化することになる。
しかし、上記接触点Z2に沿って電極中央部12を直線状に設置するとともに、電極耳部13aをシート搬送方向の下流側に配置することにより、上記テープ状電極10をその長手方向全長に亘り移動冷却体5と溶融シート状体4aとの接触点に正確に対向させるようにしたため、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに大電流を流すストリーマコロナ放電を、シート幅方向の全域に亘って適正に発生させることができる。したがって、500mm以上の幅寸法を有する溶融シート状体4aの引取速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体5に溶融シート状体4aを適正に密着させて均等に冷却し、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造することができる。
そして、上記中央規制ガイド26をシート搬送方向βに沿ってスライド変位させる変位量調節機構を設けることにより、上記電極中央部12と電極耳部13aとの間の距離X、つまりシート搬送方向βの下流側への上記電極耳部13aの変位量を調節し得るように構成したため、あるいは上記引取速度の変化に対応させて自動的に調節するように構成したため、上記移動冷却体5により引き取られる溶融シート状体4aの引取速度や厚みが変化するのに応じ、この溶融シート状体4aの耳部と上記移動冷却体5との接触点Z1が変化した場合においても、上記テープ状電極10を、その長手方向全長に亘り移動冷却体5と溶融シート状体4aとの接触点に正確に対向させることができる。したがって、上記のように0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を原材料としてシートを製造する場合でも、上記印加電圧を過度に高くする等の手段を講じることなく、ストリーマコロナ放電を適正に発生させることができ、上記テープ状電極10から移動冷却体5に流れる電流が大きくなり過ぎることに起因した火花放電の発生を効果的に防止することができる。
また、上記移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点の近傍に沿って5μm〜200μmの厚みを備えたテープ状電極10を配設するとともに、このテープ状電極10の先端部に0.1mm以上の突出量Jを有する複数の突部10aを設けたため、この突部10aに電場を集中させることにより、低電圧で溶融シート状体4aに対するストリーマコロナ放電を適正に行わせて上記溶融シート状体4aを移動冷却体5に静電密着させることができる。したがって、シートの表面が粗面化されて不透明になったり、上記溶融シート状体4aと移動冷却体5との間に空気が部分的に捕捉されてシートの表面に泡状または筋状の欠陥が形成されたりする等の弊害を生じることなく、溶融シート状体4aを効果的に冷却できるという利点がある。
しかも、上記移動冷却体5に溶融シート状体4aが密着して振動しにくい状態にある溶融シート状体4aの接触点の近傍にテープ状電極10を配設することにより、溶融シート状体4aの振動に起因してテープ状電極10に溶融シート状体4aが接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、上記テープ状電極10から溶融シート状体4aに対してストリーマコロナ放電を適正に行うことができる。また、上記火花放電が生じることにより溶融シート状体4aが破断して移動冷却体5に巻付いたり、テープ状電極10等が損傷したり、あるいはシートの表面欠陥が形成されたりする等の弊害を生じることなく、溶融シート状体4aに多くの電荷を安定して連続的に付与することにより、上記移動冷却体5によるシート引取速度を高速に設定した場合においても、移動冷却体5に溶融シート状体4aを適正に密着させて均等に冷却し、優れた特性を有するシートを効率よく製造できるという利点がある。
また、上記テープ状電極10の耳部13aを溶融シート状体4aの搬送方向βの下流側に変位させた状態で、移動冷却体5の一側端部側に設けられた繰出部18から繰り出されたテープ状電極10を、移動冷却体5の他側端部側に設けられた巻取部21において巻き取るように駆動する走行駆動機構により、溶融シート状体4aの幅方向αに沿ってテープ状電極10を走行させつつ、テープ状電極10から溶融シート状体4aにストリーマコロナ放電を行うように構成したため、溶融シート状体4aにテープ状電極10が接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、常に新たなテープ状電極10を溶融シート状体4aの幅方向αに沿って位置させることにより、昇華物等の不純物がテープ状電極に付着すること等に起因した密着不良の発生を防止できるという利点がある。
また、上記実施形態に示すようにテープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hを0.5mm〜10mmの範囲内に設定した場合には、印加電圧を過度に高くすることなく、上記突部10aに電場を集中させて溶融シート状体4aに大電流を流すストリーマコロナ放電を発生させることができ、これにより多量の電荷を溶融シート状体4aに付与してこの溶融シート状体4aを上記移動冷却体5の周面に静電密着させることができる。このため、上記移動冷却体5によるシート引取速度を、例えば60m/min以上の高速に設定した場合においても、移動冷却体5に溶融シート状体4aを適正に密着させて均等に冷却することができ、シートの表面が粗面化されて透明性が低下する等の弊害を生じることなく、シートの生産性を向上させることができる。
上記実施形態では、テープ状電極10に設けられた相隣接する突部10aの設置間隔Wを上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hの5倍未満に設定したため、テープ状電極10の各突部10aから溶融シート状体4aにストリーマコロナ放電が行われる際における相隣接する放電部の間隔が大きくなるのを防止して、均一なストリーマコロナ放電を発生させることができる。したがって、上記移動冷却体5に対する密着性が高い部分と低い部分とが交互に発生する現象、つまり筋状の密着不良部分が発生するのを効果的に防止し、溶融シート状体4aの全体を均一に冷却できるという利点がある。
また、上記実施形態では、繰出部18および巻取部21が収容された両駆動ユニット22を溶融シート状体4aの幅方向αにスライドさせることにより、溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に設置された電極中央部12の長さを、溶融シート状体4aの幅寸法に対応させて変化させるように構成したため、溶融シート状体4aの移動速度が増減する等によりその幅寸法が変化した場合においても、この幅寸法の変化に対応させて電極中央部12の長さを変化させることにより、電極中央部12および電極耳部13aの両方を、移動冷却体5と溶融シート状体4aとの接触点に正確に対向させることができ、これによって溶融シート状体4aの全域にストリーマコロナ放電を適正に行わせることができるという利点がある。
さらに、上記実施形態では、電極耳部13aから移動冷却体5への放電を阻止する絶縁体18を電極耳部13aと移動冷却体5との間に配設することにより、上記電極耳部13aから移動冷却体5に対して直接放電されるという事態の発生を阻止するようにしたため、溶融シート状体4aの耳部に付与される電荷量が不足するのを効果的に防止できるという利点がある。しかも、上記のように電極耳部13aを溶融シート状体4aの搬送方向の下流側に変位させた状態で、上記電極耳部13と移動冷却体5との間に絶縁体27を配設するように構成したため、この絶縁体27にテープ状電極10が接触するのを防止しつつ、移動冷却体5と溶融シート状体4aとの接触点に上記テープ状電極10を近接させることができる。
さらに、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度に対応してテープ状電極10から溶融シート状体4aへの通電電流を制御するようにした上記実施形態に代え、テープ状電極10に対する印加電圧を制御するようにしてもよく、あるいは溶融シート状体4aの引取速度が予め設定された定常速度になるまでの間、テープ状電極10に対する印加電圧を溶融シート状体4aの引取速度に対応した最適値とする制御を実行するとともに、上記定常速度となった後に溶融シート状体4aへの通電電流の制御状態に移行するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、予め設定された基準座標点に対するテープ状電極10のシート幅方向位置Y、予め設定された基準座標点に対するテープ状電極10のシート搬送方向位置Lおよびシート搬送方向への電極耳部13aの変位量Xを左右対称に設定するとともに、テープ状電極10と溶融シート状体4aの間隙Hをその長さ方向に全長に亘って一定寸法とするため、左右の駆動ユニット、つまり繰出部18側および巻取側21の駆動ユニット22の左右、前後および上下方向の移動距離をそれぞれ等しく設定するとともに、左右の耳部調整ガイド26の前後移動距離を等しく設定しているが、繰出部18側と巻取側21とで上記各移動距離をそれぞれ異ならせるようにしてもよい。なお、必ずしも上記各制御対象の全ての制御を実行する必要はなく、そのうちの一つもしくは二以上を制御するようにしてもよい。
また、上記のように繰出部18および巻取部21を有する走行駆動手段からテープ状電極10に付与される張力を、その切断強度の5%〜95%の範囲内に設定した状態で、溶融シート状体の幅方向αに沿ってテープ状電極を走行させるように構成した場合には、テープ状電極10に過度の張力が付与されることに起因してテープ状電極10が切断されるという事態の発生を防止しつつ、上記テープ状電極10に適度の張力を付与することにより安定して走行させることができるという利点がある。
上記のように0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂を押出機3から溶融状態としてシート状に押し出す押出工程と、押出機3から押し出された溶融シート状体4aを移動冷却体5に密着させて冷却する冷却工程と、冷却後のシート状体4bを延伸する延伸工程とを備え、上記移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点に沿って配設されるとともに、先端部に0.1mm以上の突出量Jを有する複数の突部10aが設けられた5μm〜200μmの厚みを有するテープ状電極10から、上記冷却工程で溶融シート状体4aに対してストリーマコロナ放電を行うことにより移動冷却体5に溶融シート状体4aを静電密着させるシートの製造方法において、上記溶融シート状体4aの中央部に位置する電極中央部12を溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に伸ばすとともに、上記溶融シート状体4aの両側辺部側に位置する電極耳部13aを電極中央部12よりも溶融シート状体4aの搬送方向βの下流側に変位させた状態でした支持し、かつ移動冷却体5の一側端部側に設けられた繰出部18から繰り出されたテープ状電極10を、移動冷却体5の他側端部側に設けられた巻取部21において巻き取ることにより、溶融シート状体4aの幅方向αに沿ってテープ状電極10を走行させつつ、上記冷却工程でストリーマコロナ放電を行うようにしたため、溶融シート状体4aにテープ状電極10が接触するという事態の発生を効果的に防止しつつ、常に新たなテープ状電極10を溶融シート状体4aの幅方向αに沿って位置させることにより、上記テープ状電極10に設けられた各突部10aから溶融シート状体4aに大電流を流すストリーマコロナ放電を、溶融シート状体の全域に亘って適正に行うことができる。したがって、0.3×108(Ω・cm)以上の溶融比抵抗値を有する熱可塑性樹脂からなる溶融シート状体4aに多くの電荷を安定して連続的に付与することができ、上記移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を高速に設定した場合においても、火花放電の発生を効果的に抑制しつつ、移動冷却体5に溶融シート状体4aを適正に密着させて均等に冷却することにより、均一な厚みを有するとともに表面欠点のないシートを高速で効率よく適正に製造できるという利点がある。
なお、上記実施形態では、冷却後にシート状体4bを第1延伸部7および第2延伸部8によりシートの長手方向および幅方向の二方向に延伸するシートの製造装置について説明したが、上記両方向の何れか一方にのみ延伸させるようにしてもよい。一方向延伸の場合は、その力学的剛性から10μm以上の厚みを有するシートが好適に用いられ、二方向延伸の場合には、2μm以上のシートが好適に用いられる。また、上記第1,第2延伸部の7,8の下流部に、シート状体4bをさらに長手方向および幅方向に延伸させる延伸部を設けた構造としてもよい。
また、上記のように矩形の切欠きを一定間隔で形成することにより、矩形に形成された複数の突部10aを先端部に設けた上記実施形態に係るA型のテープ状電極10に代え、図7に示すように、先拡がりの切欠きを一定間隔で形成することにより、先窄まりの台形状に形成された複数の突部10bを先端部に設けたB型のテープ状電極10B、あるいは図8に示すように、V字状の切欠きを一定間隔で形成することにより、先窄まりの三角形状に形成された複数の突部10cを先端部に設けたC型のテープ状電極10C、または図9に示すように、アーチ状の切欠きを一定間隔で形成することにより、富士山型に形成された複数の突部10dを先端部に設けたD型のテープ状電極10Dを使用してもよい。
さらに、上記上記実施形態では、移動冷却体5の一側端部側に配設された制動モータ16および繰出ローラ17を有する繰出部18と、移動冷却体5の他側端部側に配設された巻取モータ19および巻取ローラ20を有する巻取部21とにより上記巻取駆動機構を構成した例について説明したが、この巻取駆動機構の具体的構成は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば図10に示すように、テープ状電極10の基端部(上辺部)に位置決め穴10fを設けるとともに、この位置決め穴10fに対応した突起を繰出ローラ17および巻取ローラ20の周面に設け、この突起を上記位置決め穴10fに係合することにより、上記テープ状電極10を位置決めした状態で走行駆動するように構成してもよい。
また、上記中央部支持部材22と外方部支持部材25との間に配設された複数個のガイドローラをシート搬送方向βにスライド変位させることにより、上記シート搬送方向βの下流側への電極耳部13aの変位量を調節するように構成してもよく、あるいは湾曲面を有するガイド板を上記中央部支持部材22と外方部支持部材25との間に配設し、上記ガイド板の湾曲度合を変化させる等により、上記シート搬送方向βの下流側への電極耳部13aの変位量を調節するように構成してもよい。
本発明の実施例1−1〜1−3では、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂にCaCO3を含有させた樹脂ペレットと、CaCO3を含有させない樹脂ペレットとを混合して全体で溶融比抵抗値が1.2×108(Ω・cm)に設定された原材料を構成し、これを135℃の温度で約6時間に亘り減圧乾燥(1.3hPa)した後、押出機3に供給して280℃の温度で加熱混練し、1486mmの幅寸法を有する押出機3の口金2から溶融状態のシート状体4aとして移動冷却体5上に押し出すようにした。
そして、表面温度Tを30℃に保った金属ロールからなる移動冷却体5の周面に対向するように、10mmの幅寸法と50μmの厚みとを有するステンレス鋼(東洋製箔株式会社製のオーステナイト系SUS316)からなるテープ状電極を設置した状態で、このテープ状電極と上記移動冷却体5との間に7.8kV〜10.2kVの電圧を印加して45.5mA〜61.8mAの電流を流し、上記移動冷却体5によるシート引取速度を80m/minに設定しつつ、1300mmの幅寸法と50μmの厚みとを有する溶融シート状体4aを成形するとともに、この溶融シート状体4aの移動冷却体5に対する密着状態を観測することにより下記表2に示すようなデータが得られた。
上記実施例1−1〜1−3におけるテープ状電極として、図9に示すように、その先端部に先拡がり切欠きが一定間隔で形成されることにより、2mmの突出量Jを有するとともに、富士山型に形成された複数の突出部10dが設けられたD型の電極10Dを使用し、相隣接する突出部10dの設置間隔Wを1.2mmに設定するとともに、上記テープ状電極10と溶融シート状体4aとの間隙Hを5mmに設定した。そして、上記テープ状電極10Bに付与される張力を破断強度の10%、50%、90%に設定し、テープ状電極10Bを溶融シート状体4aの幅方向αに走行駆動しつつ、ストリーマコロナ放電を行った。
また、上記実施例1−1〜1−3における溶融シート状体4aの側端部と、テープ状電極10Bの側端部との距離により表される電極耳部13aの側端位置Y1をそれぞれ15mmに設定するとともに、溶融シート状体4aの側端部と、電極中央部12との距離により表される電極中央部12の側端位置Y2を60mm〜63mmの範囲内に設定した。さらに、溶融シート状体4aの搬送方向における電極中央部12と左右両端部13との距離により表される電極変位量Xを、実施例1−1では4mmに設定し、実施例1−2では6mmに設定し、実施例1−3では8mmに設定した。そして、上記移動冷却体5の頂点から、溶融シート状体4aの中央部の接触点Z2までの距離により表される電極中央部12の接触点位置L2(図3参照)は、45mm程度であり、移動冷却体5の頂点から溶融シート状体4aの左右両側辺部の接触点Z1までの距離により表される電極耳部13aの接触点位置L1は52mm〜60mmとなった。
一方、比較例2−1,2−2は、テープ状電極10Bを溶融シート状体4aの幅方向αに走行駆動することなく停止状態とした点を除き、上記実施例1−1,1−2と略同様に構成し、比較例2−3は、テープ状電極10Bを溶融シート状体4aの幅方向αに走行駆動することなく停止状態とするとともに、溶融シート状体4aの側端部と、テープ状電極10Bの側端部との距離により表される電極耳部13aの側端位置Y1を25mmに設定した点を除き、上記実施例1−3と略同様に構成した。
また、比較例3−1は、上記電極変位量Xを0mmに設定するとともに、溶融シート状体4aの引取速度を70m/minとした点を除き、上記実施例1−2と略同様に構成し、比較例3−2は、上記電極変位量Xを0mmに設定するとともに、上記溶融シート状体4aの側端部と、テープ状電極10Bの側端部との距離により表される電極耳部13aの側端位置Y1を25mmに設定した点を除き、上記比較例3−1と略同様に構成した。
さらに、比較例4−1は、上記テープ状電極10Bに付与される張力を破断強度の3%に設定するとともに、溶融シート状体4aの引取速度を60m/minとした点を除き、上記実施例1−1と略同様に構成し、比較例4−2は、上記テープ状電極10Bに付与される張力を破断強度の98%に設定した点を除き、上記比較例4−1と略同様に構成した。
上記データから、上記電極10の中央部12を溶融シート状体4aの幅方向αに沿って直線状に設置するとともに、電極10の両側方部13を所定距離(4mm〜8mm)だけ溶融シート状体4aの搬送方向の下流側に配置した状態で、上記テープ状電極10Bに付与される張力を破断強度の10%、50%、90%に設定し、かつテープ状電極10Bを溶融シート状体4aの幅方向αに走行駆動しつつ、ストリーマコロナ放電を行うようにした本発明の実施例1−1〜1−3では、移動冷却体5に溶融シート状体4aが適正状態で密着していることが確認された。
なお、表2において、SCはストリーマコロナ放電現象が見られたことを示し、○印は、72時間以上に亘り安定したストリーマコロナ放電が維持されて密着異常が見られない状態を示している。また、表2において、△印は、20時間〜72時間の範囲内で安定したストリーマコロナ放電が維持されて密着異常が見られない状態を示し、×印は、静電密着を開始して数時間以内に移動冷却体5へのシートの巻付が発生し、適正にシートが製造できなかった状態を示している。
一方、テープ状電極10Bを溶融シート状体4aの幅方向αに走行駆動することなく停止状態とした上記比較例2−1〜2−3では,20時間〜72時間の範囲内で安定したストリーマコロナ放電が維持されたが、それ以上の時間では巻取異常が見られた。また、上記電極変位量Xを0mmに設定した上記比較例3−1,3−2および上記テープ状電極10Bに付与される張力を破断強度の3%,98%に設定した比較例4−1,4−2は、静電密着を開始して数時間以内に移動冷却体5へのシートの巻付が発生し、適正にシートが製造できなかった。
本発明の実施例2−1,2−2では、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂にCaCO3を含有させた樹脂ペレットと、CaCO3を含有させない樹脂ペレットとを混合して全体で溶融比抵抗値が1.2×108(Ω・cm)に設定された原材料を構成し、これを135℃の温度で約6時間に亘り減圧乾燥(1.3hPa)した後、押出機3に供給して280℃の温度で加熱混練し、1486mmの幅寸法を有する押出機3の口金2から溶融状態のシート状体4aとして移動冷却体5上に押し出すようにした。
そして、表面温度Tを30℃に保った状態で、この移動冷却体5による上記溶融シート状体4aの引取速度を20m/minに設定しつつ、その周面に対向するように、10mmの幅寸法と50μmの厚みとを有するステンレス鋼(東洋製箔株式会社製のオーステナイト系SUS316)からなるテープ状電極10Dを設置し、このテープ状電極10Dと上記移動冷却体5との間隙が5mm程度となるように、移動冷却体5にテープ状電極10Dを近付けた状態で、このテープ状電極10Dから溶融シート状体4aへの通電電流が4.5kVとなるように電流制御を実行することにより、ストリーマコロナ放電を発生させた。なお、上記テープ状電極10Dとして、先端部に2mmの突出量Jを有する富士山型の突出部10dが設けられるとともに、相隣接する突出部10dの設置間隔Wが1.2mmに設定されたものを使用した。
上記の状態から、下記表3に示すように、300secの時間をかけて溶融シート状体4aの引取速度を30m/minに上昇させる速度制御を実行するとともに、これに対応して通電電流を10mAまで自動的に増大させる電流制御(ACR)を実行した後、240secの時間をかけて溶融シート状体4aの引取速度を40m/minまで自動的に上昇させる速度制御を実行するとともに、通電電流を13mAまで自動的に増大させる電流制御を実行した。さらに、所定時間をかけて溶融シート状体4aの引取速度を40m/minから90m/minまで順次自動的に上昇させる速度制御を実行するとともに、通電電流を13mAから58mAまで自動的に増大させる電流制御を実行した。
また、実施例2−1では、定常運転状態に移行後も電流制御(ACR)を実行し、実施例2−2では、定常運転状態に移行してシートに形成される気泡状の欠点等が消失した時点で、その印加電圧を維持する電圧制御(AVR)の制御を実行するように制御状態を切り換えた。そして、上記シートの生産を開始して定常生産状態となるまで作業を100回
繰り返し、その間におけるトラブルの発生回数を計測するとともに、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間とを観測することにより下記表4に示すようなデータが得られた。なお、表4において、SCはストリーマコロナ放電現象が見られたことを示している。また、○は上記作業を100回繰り返す間にトラブルが発生しなかったことを示し、△は上記作業を100回繰り返す間に1回〜2回のトラブルが発生したことを示し、×は上記作業を100回繰り返す間に5回以上のトラブルが発生したことを示している。
一方、比較例5−1は、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度および低速引取時における溶融シート状体4aへの通電電流を手動で変化させた点を除き、上記実施例2−1と略同様に構成し、比較例5−2では、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を30minに設定し点を除き、上記比較例5−1と同様に構成した。
また、比較例6−1〜6−3は、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度および低速引取時におけるテープ状電極10の印加電圧を手動で変化させるとともに、定常運転状態への移行後における電流制御(ACR)を手動で行った点を除き、上記実施例2−2と略同様に構成し、比較例6−1では、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を20minに設定し、比較例6−2では、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を30minに設定し、比較例6−3では、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を40minに設定した。
上記データから、テープ状電極10Dから溶融シート状体4aへの通電電流からなる制御対象を自動的に制御した実施例2−1,2−2では、上記作業を100回繰り返す間にトラブルが発生せず、しかもシート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を20min程度に抑え得ることが確認された。
これに対してテープ状電極10Dから溶融シート状体4aへの通電電流からなる制御対象を手動で調節した比較例5−1,5−2では、上記作業を100回繰り返す間に5回以上のトラブルが発生し、適正にシートを製造することができなかった。
また、テープ状電極10Dに対する印加電圧等からなる制御対象を手動で調節するとともに、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を20minに設定した比較例6−1では、上記作業を100回繰り返す間に5回以上のトラブルが発生し、テープ状電極10Dに対する印加電圧等からなる制御対象を手動で調節するとともに、シート生産開始時点から定常生産状態に移行するまでの時間を30min,40minに設定した比較例6−2,6−3では、上記作業を100回繰り返す間に1回〜2回のトラブルが発生した。
本発明の実施例3−1,3−2では、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂にCaCO3を含有させた樹脂ペレットと、CaCO3を含有させない樹脂ペレットとを混合して全体で溶融比抵抗値が1.2×108(Ω・cm)に設定された原材料を構成し、これを135℃の温度で約6時間に亘り減圧乾燥(1.3hPa)した後、押出機3に供給して280℃の温度で加熱混練し、500mmの幅寸法を有する押出機3の口金2から溶融状態のシート状体4aとして金属ロールからなる移動冷却体5上に押し出すようにした。
そして、移動冷却体5の表面温度Tを30℃に保った状態で、この移動冷却体5による上記溶融シート状体4aの引取速度を5m/minの低速に設定しつつ、その周面に対向するように、10mmの幅寸法と50μmの厚みとを有するステンレス鋼(東洋製箔株式会社製のオーステナイト系SUS316)からなるテープ状電極10を設置し、このテープ状電極10と上記移動冷却体5との間隙が5mm程度となるように、移動冷却体5にテープ状電極10を近付けた状態で、このテープ状電極10に対する印加電圧が5kVの目標値となるように印加電圧を徐々に上昇させる電圧制御を実行することにより、ストリーマコロナ放電を発生させた。
なお、上記テープ状電極10として、実施例3−1では、図3に示すように、その先端部に矩形の切欠きが一定間隔で形成されることにより、2mmの突出量Jを有する矩形の突出部10aが設けられるとともに、相隣接する突出部10aの設置間隔Wが1.2mmに設定されたA型の電極を使用し、実施例3−2では、上記実施例3−1の電極と同様の寸法を有し、かつ図7に示すように、先拡がりの切欠きを一定間隔で形成することにより、先窄まりの台形状に形成された複数の突部10bが先端部に設けられたB型の電極を使用した。
上記の状態から徐々に上記押出機3による溶融シート状体4aの押出量を増大させるとともに、移動冷却体5による溶融シート状体4aの引取速度を、90m/minに設定された定常生産速度まで徐々に上昇させつつ、移動冷却体5に対する溶融シート状体4aの接触点Zに上記テープ状電極10を近接させるように、このテープ状態電極10の設置位置を調節した。そして、テープ状電極10と移動冷却体5との間隙Hが5mm程度となるように調節した状態で、テープ状電極10の印加電圧を上昇させる電圧制御を実行し、シートに形成される気泡状の欠点等が消失した時点で、その通電電流を維持する電流制御状態に切り換えた。
このようにして上記移動冷却体5によるシート引取速度を90m/minの速度で設定しつつ、390mmの幅寸法と140μmの厚みとを有する溶融シート状体4aを成形し、低速引取時における電圧の調節回数を計測するとともに、シートの厚み変動率を観測することにより下記表5に示すようなデータが得られた。
なお、上記表5において、SCはストリーマコロナ放電現象が見られたことを示し、AVRは電圧制御状態であることを示し、ACRは電量制御状態であることを示している。また、上記厚みの変動率は、安立電気社製の連続接触式厚み計により、シート長20m当たりの長さ方向における最大厚みと最小厚みと平均厚みとを測定し、下記式に基づいて求めた。
厚み変動率(%)=100×(最大厚み−最小厚み)/平均厚み
一方、比較例7−1は、上記テープ状電極10に代えて30μmの直径を有するタングステンワイヤからなる電極を、移動冷却体5の周面に対する溶融シート状体4aの接触点Zの近傍に設置するとともに、この電極と溶融シート状体4aとの間隙Hを5mmに設定した。そして、上記移動冷却体5の移動速度を30m/minに設定しつつ、上記電極に正電圧を印加するとともに、その電圧と電流とを低い値から徐々に上昇させて放電状態を観測するとともに、シートの厚み変動率を観測した。
また、比較例8−1,8−2は、シートの製造開始時点から全てテープ状電極10から溶融シート状体4aに通電される電流を制御する電流制御(ACR)を実行した点を除き、上記実施例3−1,3−2と略同様に構成した。さらに、比較例9−1,9−2は、シートの製造開始時点から全てテープ状電極10に印加される電圧を制御する電圧制御(AVR)を実行した点を除き、上記実施例3−1,3−2と略同様に構成した。
上記A型の電極を使用した本発明の実施例3−1では、印加電圧が8.5kVの正電圧を電極に印加して13.3mAの電流を流した時点で、適正なストリーマコロナ放電が行われてシートに形成される気泡状の欠点等が消失した静電密着状態となり、低速引取時における電圧の調節回数は0であるとともに、上記厚み変動率は5.2%であった。また、B型の電極を使用した実施例3−2では、印加電圧が8.9kVの正電圧を電極に印加して14.3mAの電流を流した時点で、適正なストリーマコロナ放電が行われてシートに形成される気泡状の欠点等が消失した静電密着状態となり、低速引取時に1回の電圧調節が必要であったが、上記厚み変動率は4.9%であった。
これに対してタングステンワイヤからなる電極を使用した比較例7−1では、ストリーマコロナ放電は見られず、溶融シート状体4aを移動冷却体5に対して適正に静電密着させるために、移動冷却体5の移動速度を極めて低い値(30m/min)に設定する必要があるとともに、上記移動速度を速くするのに応じて溶融シート状体4aが移動冷却体5に安定して静電密着させることができる電流範囲が狭くなる傾向があり、生産性が悪いことが確認された。
また、シートの製造開始時点から全てテープ状電極10に通電される電流を制御する電流制御(ACR)を実行するように構成した比較例8−1,8−2では、上記厚み変動率が4.9%となって比較的良好であったが、低速引取時にそれぞれ13回、11回の電圧調節が必要であり、この調節作業が煩雑であることが確認された。
さらに、シートの製造開始時点から全てテープ状電極10に印加される電圧を制御する電圧制御(AVR)を実行するように構成した比較例9−1,9−2では、低速引取時に電圧調節はほとんど不要であったが、上記厚み変動率がそれぞれ7.7%、8.1%となり、この変動率が本発明の実施例3−1,3−2に比べて大きいことが確認された。